特許第6963962号(P6963962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6963962-医療器具の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963962
(24)【登録日】2021年10月20日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】医療器具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/12 20060101AFI20211028BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20211028BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20211028BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20211028BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20211028BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20211028BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   A61L29/12
   A61L29/14
   A61L31/12
   A61L31/14
   A61L29/04
   A61L31/04
   A61M25/00 500
   A61M25/00 612
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-199768(P2017-199768)
(22)【出願日】2017年10月13日
(65)【公開番号】特開2019-72103(P2019-72103A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中山 京子
(72)【発明者】
【氏名】横山 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 聡
【審査官】 吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−255926(JP,A)
【文献】 特開2008−119022(JP,A)
【文献】 特開2008−297393(JP,A)
【文献】 特表2002−529170(JP,A)
【文献】 特開2009−273555(JP,A)
【文献】 特開2001−029452(JP,A)
【文献】 特開昭59−081341(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/131517(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に挿入されるシリコーンを含む樹脂成形部と、前記樹脂成形部の表面に形成された中間層と、前記中間層の表面に形成された親水層と、を備えた医療器具の製造方法であって、
シリコーンとシランカップリング剤が含まれる組成物を原料として前記樹脂成形部を形成する工程と、
前記樹脂成形部の表面にエキシマUV照射する工程と、
前記エキシマUVを照射した前記表面に、イソシアネート基、ビニル基、エポキシ基及びアミド基から選択される1以上の活性基を有する化合物を含む前記中間層を形成し、さらに、前記中間層の表面に前記親水層を形成する工程と、を有する医療器具の製造方法
【請求項2】
前記樹脂成形部の総質量に対する前記シランカップリング剤の含有量が0.1〜30質量%である、請求項1に記載の医療器具の製造方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、イソシアヌレート基を有する、請求項1又は2に記載の医療器具の製造方法
【請求項4】
前記親水層が、1種以上の水溶性高分子を含む、請求項1〜の何れか一項に記載の医療器具の製造方法
【請求項5】
前記エキシマUVの波長が170〜180nmである、請求項1〜の何れか一項に記載の医療器具の製造方法
【請求項6】
前記樹脂成形部は、前記医療器具の少なくとも体内に挿入される部分の表面を覆う樹脂層である、請求項1〜の何れか一項に記載の医療器具の製造方法
【請求項7】
前記樹脂成形部は、前記医療器具の基材である、請求項1〜6の何れか一項に記載の医療器具の製造方法。
【請求項8】
前記医療器具は、チューブまたはカテーテルである、請求項1〜7の何れか一項に記載の医療器具の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カテーテル、内視鏡等の体内に挿入して用いられる医療器具には、人体と接触する表面部分の摩擦が低いことが求められている。この要求に対して、カテーテルや内視鏡の表面に潤滑性を付与する親水性化合物を含むコーティングを形成する方法が知られている。例えば、特許文献1には、ポリビニルピロリドンとポリウレタンとのインターポリマーを表面に形成する方法が開示され、特許文献2には、表面において未反応のイソシアネートに親水性重合体を共有結合させる方法が開示され、特許文献3には、イソシアネート基を有する化合物を介してポリエチレンオキシドのコーティングを表面に形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭54−29343号公報
【特許文献2】特開昭59−81341号公報
【特許文献3】特開昭58−193766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
体内に挿入する医療器具の表面に潤滑性を付与するコーティング層があることにより、その表面の摩擦は低減されるが、その潤滑性は未だ十分とはいえず、さらなる摩擦の低減が求められている。また、カテーテルは体内に設置されてから一定期間経過した後に抜去されることがあり、摩擦の低さが体内で失われずに維持される耐久性も求められている。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた潤滑性を長期間に渡って発揮する医療器具の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 体内に挿入されるシリコーンを含む樹脂成形部と、前記樹脂成形部の表面に形成された中間層と、前記中間層の表面に形成された親水層と、を備えた医療器具であって、前記樹脂成形部の表面にエキシマUVが照射されたことを特徴とする医療器具。
[2] 前記中間層がイソシアネート基、ビニル基、エポキシ基及びアミド基から選択される1以上の活性基を有する化合物を含む、[1]に記載の医療器具。
[3] 前記樹脂成形部にシランカップリング剤が含まれる、[1]又は[2]に記載の医療器具。
[4] 前記シランカップリング剤が、イソシアヌレート基を有する、[3]に記載の医療器具。
[5] 前記親水層が、1種以上の水溶性高分子を含む、[1]〜[4]の何れか一項に記載の医療器具。
[6] 前記エキシマUVの波長が170〜180nmである、[1]〜[5]の何れか一項に記載の医療器具。
[7] 前記樹脂成形部は、前記医療器具の少なくとも体内に挿入される部分の表面を覆う樹脂層である、[1]〜[6]の何れか一項に記載の医療器具。
[8] 前記医療器具は、チューブまたはカテーテルである、[1]〜[7]の何れか一項に記載の医療器具。
【発明の効果】
【0007】
本発明の医療器具は少なくとも体内に挿入される部分にエキシマ処理が施されているので、潤滑性が向上し、表面の摩擦が低減している。さらに、体内に挿入された後にも長期間に渡って優れた潤滑性を維持することができる。この結果、医療器具を体内に挿入するときだけでなく、挿入後に医療器具を体内で動かしたり抜去したりする際にも患者の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一実施形態の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《医療器具》
本発明にかかる医療器具は、少なくとも一部が体内に挿入される医療器具であり、体内に挿入されるシリコーンを含む樹脂成形部と、前記樹脂成形部の表面に形成された中間層と、前記中間層の表面に形成された親水層と、を備え、前記樹脂成形部の表面にエキシマUVが照射された医療器具である。
具体的な医療器具の種類としては、例えば、カテーテル、チューブ(例えば、透析用チューブ、ドレーンチューブ等)、内視鏡に用いられるOリング等が挙げられる。
【0010】
図1に本発明の第一実施形態の部分断面図を示す。図1の医療器具1は、樹脂成形部2と、樹脂成形部2の表面2aに形成された中間層3と、中間層3の表面3aに形成された親水層4とを備えている。
【0011】
樹脂成形部2は、医療器具1の全体を形成する基材であってもよいし、医療器具1の表面部分の少なくとも一部を覆う樹脂層であってもよい。前記樹脂層の厚さは特に限定されず、例えば、10μm〜10mm程度とすることができる。
【0012】
樹脂成形部2は、シリコーンを含む。シリコーンは、シロキサン結合で形成された主鎖を有する公知のポリマーであり、その側鎖は、所望の性状に合わせて適宜選定され、例えば、メチル基、エチル基等の脂肪族アルキル基、フェニル基等のアリール基、ハロゲン基等が挙げられる。カテーテルを構成するシリコーンはシリコーンゴムであることが好ましい。カテーテルが柔軟なシリコーンゴムによって形成されていると、体内への挿入を容易にし、体内に留置した場合の不快感が軽減される。
【0013】
樹脂成形部2に含まれるシリコーンの種類は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。樹脂成形部2の総質量に対するシリコーンの含有量としては、例えば、50質量%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。前記含有量の上限値は特に限定されず、例えば99.9%以下が挙げられる。
【0014】
樹脂成形部2にはシランカップリング剤が含まれていることが好ましい。シランカップリング剤が含まれることにより、樹脂成形部2と中間層3の接着性を向上させ、親水層4の体内における耐久性をより向上させることができる。
【0015】
前記シランカップリング剤は、分子中に2個以上の互いに異なった反応基を有する有機ケイ素化合物である。前記反応基としては、例えば、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基等が挙げられる。なかでも、エキシマUV処理による潤滑性及び耐久性の向上が著しいことから、イソシアヌレート基を有するシランカップリング剤が好ましい。
具体的なシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p‐スチリルトリメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3‐アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N‐2-(アミノエチル)-3‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、3‐トリエトキシシリル‐N‐(1,3‐ジメチル‐ブチリデン)プロピルアミン、N‐フェニル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐(ビニルベンジル)−2−アミノエチル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、トリス‐(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3‐ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3‐メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3‐メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3‐イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのなかでも、イソシアヌレート基を有するトリス‐(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが特に好ましい。
【0016】
樹脂成形部2に含まれるシランカップリング剤の種類は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。樹脂成形部2の総質量に対するシランカップリング剤の含有量は、シランカップリング剤の種類にもよるが、例えば、0.1〜30質量%が好ましい。この好適な範囲であると、上記の潤滑性及び耐久性をより向上させることができる。
【0017】
中間層3は、樹脂成形部2と親水層4を接着する層である。
中間層3の厚さは、例えば0.1μm〜500μm程度とすることができる。
上記範囲であると、樹脂成形部2と親水層4の接着力を向上させ、親水層4の体内における耐久性をより向上させることができる。
【0018】
中間層3には、イソシアネート基、ビニル基、エポキシ基及びアミド基から選択される1以上の活性基を有する化合物が含まれることが好ましい。これらの化合物が含まれることにより、樹脂成形部2と親水層4の接着性を向上させ、親水層4の体内における耐久性をより向上させることができる。中間層3に含まれる上記化合物の活性基の少なくとも一部は樹脂成形部2の表面2a又は親水層4の中間層3に対する接着面に結合している。
【0019】
前記イソシアネート基を有する化合物(イソシアネート化合物)は、分子中にイソシアネート基を1つ以上有する有機化合物である。前記イソシアネート化合物は、上記の接着性及び耐久性をより向上させる観点から、分子中にイソシアネート基を含めて2つ以上の前記活性基を有することが好ましい。
具体的なイソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートが挙げられる。
【0020】
中間層3に含まれるイソシアネート化合物の種類は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。中間層3の総質量に対するイソシアネート化合物の含有量は、イソシアネート化合物の種類にもよるが、例えば、50〜100質量%が好ましい。この好適な範囲であると、上記の接着性及び耐久性をより向上させることができる。
【0021】
前記ビニル基を有する化合物(ビニル化合物)は、分子中にビニル基を1つ以上有する有機化合物である。前記ビニル化合物は、上記の接着性及び耐久性をより向上させる観点から、分子中にビニル基を含めて2つ以上の前記活性基を有することが好ましい。
具体的なビニル化合物としては、例えば、メチルグリシジルメタクリレート、メチルグリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル、アリルフェノールグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有ビニル化合物が挙げられる。
【0022】
中間層3に含まれるビニル化合物の種類は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。中間層3の総質量に対するビニル化合物の含有量は、ビニル化合物の種類にもよるが、例えば、50〜100質量%が好ましい。この好適な範囲であると、上記の接着性及び耐久性をより向上させることができる。
【0023】
前記エポキシ基を有する化合物(エポキシド)は、分子中にエポキシ基を1つ以上有する有機化合物である。前記エポキシドは、上記の接着性及び耐久性をより向上させる観点から、分子中にエポキシ基を含めて2つ以上の前記活性基を有することが好ましい。
具体的なエポキシドとしては、上述のエポキシ基含有ビニル化合物の他、例えば、プロピオン酸グリシジル、アジピン酸ジグリシジル、1,1−ジメチロール−3−シクロヘキサンのジグリシジルエーテル、グリセロールのトリグリシジルエーテル、2,5−ビス(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフランのジグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、レゾルシノールのジグリシジルエーテル、フロログルシノールのトリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0024】
中間層3に含まれるエポキシドの種類は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。中間層3の総質量に対するエポキシドの含有量は、エポキシドの種類にもよるが、例えば、50〜100質量%が好ましい。この好適な範囲であると、上記の接着性及び耐久性をより向上させることができる。
【0025】
前記アミド基を有する化合物(酸アミド)は、分子中にアミド基を1つ以上有する有機化合物である。前記酸アミドは、上記の接着性及び耐久性をより向上させる観点から、分子中にアミド基を含めて2つ以上の前記活性基を有することが好ましい。
具体的な酸アミドとしては、例えば、4,4’‐ジアミノジフェニルエーテル、3,4’‐ジアミノジフェニルエーテル、2,4’‐ジアミノジフェニルエーテル、4,4’‐ジアミノジフェニルメタン、2,4’‐ジアミノジフェニルメタン、3,4’‐ジアミノジフェニルメタン、2,2‐ビス(4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2‐ビス(4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,6‐ヘキサメチレンジアミン、1,8‐オクタメチレンジアミン、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、2,4’‐ジアミノ‐3‐メチル‐ステアリルフェニルエーテル、2,4’‐ジアミノ−1−オクチルオキシベンゼン、2,2‐ビス(4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル)オクタン、ビス(4‐(4-アミノベンゾイルオキシ)安息香酸)オクタン、ジアミノシロキサン、1,3‐ジ(3‐アミノプロピル)−1,1,3,3‐テトラメチルジシロキサンなどのジアミンが挙げられる。
【0026】
中間層3に含まれる酸アミドの種類は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。中間層3の総質量に対する酸アミドの含有量は、酸アミドの種類にもよるが、例えば、50〜100質量%が好ましい。この好適な範囲であると、上記の接着性及び耐久性をより向上させることができる。
【0027】
親水層4は、医療器具1の最表面の潤滑性を付与する親水性のコーティング層である。
親水層4の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μm程度が挙げられ、1μm〜100μmが好ましく、5μm〜50μmがより好ましい。
上記好適な範囲であると、医療器具1の表面の摩擦を低減する効果が高まり、中間層3に対する親水層4の接着性を向上させ、親水層4の体内における耐久性をより向上させることができる。
【0028】
親水層4には、水溶性高分子が含まれていることが好ましい。
前記水溶性高分子としては、例えば、−OH、−CONH、−COOH、−NH、−COO、−SO、−NR(ここでRは任意の有機基)等の親水基を有する直鎖状の高分子化合物が挙げられる。
具体的には、例えば、カルボキシメチル澱粉、ジアルデヒド澱粉等の澱粉系高分子;カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等のセルロース系高分子;タンニン、リグニン等の木質系高分子;アルギン酸、アラビアゴム、グアーガム、トラガントガム、タマリント種等の多糖類系高分子;ゼラチン、カゼイン、膠、コラーゲン等のタンパク質系高分子;ポリビニルアルコール等のPVA系高分子;ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール等のポリエチレンオキサイド系高分子;ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル酸系高分子;メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体等の無水マレイン酸系高分子;ポリヒドロキシエチルフタル酸エステル等のフタル酸系高分子;ポリジメチロールプロピオン酸エステル等の水溶性ポリエステル;メチルイソプロピルケトンホルムアルデヒド等のケトンアルデヒド樹脂;ポリアクリルアミド等のアクリルアミド樹脂;ポリビニルピロリドン(PVP);ポリエチレンイミン等のポリアミン;ポリスチレンスルホネート;水溶性ナイロン;等が挙げられる。
【0029】
親水層4に含まれる水溶性高分子の種類は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。親水層4の総質量に対する水溶性高分子の含有量は、水溶性高分子の種類にもよるが、例えば、70〜100質量%が好ましい。この好適な範囲であると、上記の潤滑性及び耐久性をより向上させることができる。
【0030】
医療器具1において、樹脂成形部2の表面2aの表面は、中間層3および親水層4が形成される前にエキシマUVが照射されたことにより、改質されている。この結果、親水層4の潤滑性及び耐久性が向上している。以下、エキシマUVを表面に照射する処理を「エキシマUV処理」ということがある。
【0031】
《医療器具の製造方法》
本発明にかかる医療器具1の製造方法として、例えば以下の方法が挙げられる。
医療器具1の樹脂成形部2は、前記シリコーンと任意成分の前記シランカップリング剤を含む樹脂組成物を原料として用い、押出成形、射出成形等の公知の樹脂成型方法によって形成された樹脂部材であってもよい。また、ガラス、金属、別の樹脂成形部等からなる基材の表面に、前記樹脂組成物を塗布して硬化させることによって形成された樹脂層であってもよい。
前記樹脂組成物は、必要に応じて、その他の任意成分が含まれていてもよく、例えば、溶剤、シリコーンを架橋させて硬化させる公知の架橋剤、触媒等の硬化剤が含まれてもよい。
【0032】
樹脂成形部2の表面2aにエキシマUVを照射する方法としては、公知のエキシマランプを備えた照射装置を用いて照射する方法が挙げられる。真空チャンバーを備えた装置を用い、エキシマ処理する樹脂成形部2の表面2aとエキシマランプとの間の雰囲気を真空又は任意の反応性ガスで満たしてエキシマUVを照射してもよい。
エキシマランプと樹脂成形部2の表面2aとの間の照射距離は限定されず、例えば、1mm〜100mm程度に設定することができる。エキシマランプの照度(単位:W/cm)としては、例えば、1mW/cm〜100W/cm程度が挙げられ、3〜20mW/cmが好ましい。
【0033】
エキシマUVの波長としては、例えば、108nm(NeF)、126nm(Ar)、146nm(Kr)、154nm(F)、161nm(ArBr)、172nm(Xe)、175nm及び184.9nm(ArCl)、191nm(KrI)、193nm(ArF)、207nm(KrBr)、222nm(KrCl)、248nm(KrF)、253nm及び253.7nm(XeI)、258nm(Cl)、282nm(XeBr)、291nm(Br)308nm(XeCl)、341nm(I)、351nm(XeF)が挙げられる。上記の括弧内はエキシマ分子種である。
樹脂成形部2の表面2aに照射するエキシマUVの波長は、170〜180nmであることが好ましい。この好適な範囲であると、上記の潤滑性及び耐久性をより向上させることができる。
【0034】
樹脂成形部2の表面2aに対するエキシマUVの照射積算光量(単位:J/m)としては、例えば、10〜100,000mJ/cm程度が挙げられ、25〜10,000mJ/cmが好ましく、50〜1000mJ/cmがより好ましい。
この好適な範囲であると、上記の潤滑性及び耐久性をより向上させることができる。
【0035】
《カテーテル》
本発明にかかる医療器具の一例としてカテーテルについて以下に説明する。
カテーテルは、液体や気体を流通可能な管路を構成するチューブ部を有し、体内に挿入され、体液の排出や薬液の注入等に用いられる医療用器具である。
カテーテルの具体的な寸法や形状は、用途に応じて適宜設定される。シリコーン樹脂製のバルーンカテーテルの寸法の一例として、チューブ部の全長が20〜60mm程度、チューブ部の外径が5〜10mm程度、チューブ部の管路の内径が2〜7mm程度、バルーン部の膨張時の長手方向の長さが10〜20mm程度、膨張時の最大部分の外径が15〜30mm程度が挙げられる。
【実施例】
【0036】
[実施例1]
まず、溶剤で粘度調整したシリコーンゴム(信越化学工業社製、型番:KE−1950−30)を原材料として、公知方法によりフィルム状の試験片を成形し、その試験片の表面を下記条件のエキシマ処理によって親水化した。
次に、親水化した試験片の表面にMDI溶液を塗布して乾燥し、中間層を形成した。MDI溶液として、メチルエチルケトンにジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を濃度約1質量%で溶解したものを用いた。
続いて、中間層の表面にPVP溶液を塗布して乾燥し、親水層を形成した。PVP溶液として、メチルエチルケトンにポリビニルピロリドン(PVP)を濃度約1質量%で溶解したものを用いた。
以上の方法で、シリコーンゴム製のフィルム状試験片のエキシマ処理された表面に、MDIを含む中間層とPVPを含む親水層が順にコーティングされた試験片(図1に示す積層構成の試験片)を3つ得た。
【0037】
[実施例2]
実施例1で使用したシリコーンゴム100質量部に対して、添加剤としてシランカップリング剤(信越シリコーン社製、型番:KBM−9659)30質量部を添加した組成物を原材料として、実施例1と同様にフィルム状の試験片を成形し、その試験片の表面を下記条件のエキシマ処理によって親水化した。
次に、実施例1と同様の方法により、フィルム状試験片のエキシマ処理された表面に、MDIを含む中間層とPVPを含む親水層が順にコーティングされた試験片(図1に示す積層構成の試験片)を3つ得た。
【0038】
(エキシマ処理)
エキシマ照射装置として、UV波長172nm、照度20mW/cmのエキシマランプを備えたウシオ電機社製の8インチユニットを用いた。試験片とランプの距離(照射距離)を1mmに設定し、30秒間の照射を行った。
【0039】
[比較例1]
実施例1で使用したシリコーンゴム100質量部に対して、添加剤としてシランカップリング剤(信越シリコーン社製、型番:KBM−9659)30質量部を添加した組成物を原材料として、実施例1と同様にフィルム状の試験片を成形した。その試験片の表面に対してエキシマ処理を行わなかった。
次に、エキシマ処理をしていないフィルム状試験片を使用したこと以外は実施例1と同様の方法により、フィルム状試験片の表面に、MDIを含む中間層とPVPを含む親水層が順にコーティングされた試験片(図1に示す積層構成の試験片)を3つ得た。
【0040】
<親水性の評価試験>
作製した各試験片(検体)を60℃の温水に30秒間浸漬した後、温水から取り出し、新東科学社製のポータブル摩擦計(TYPE:94i−II)を用いて、静摩擦係数を測定した。その結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
以上の結果から、エキシマ処理を施した実施例1,2の試験片は比較例1よりも摩擦係数が低く、潤滑性及び耐久性に優れていた。
シランカップリング剤を含むシリコーン表面をエキシマ処理した実施例2は、シランカップリング剤を含まないシリコーン表面をエキシマ処理した実施例1よりも摩擦係数が低く、潤滑性及び耐久性により優れていた。
なお、実施例1は比較例である。
【符号の説明】
【0043】
1…医療器具、2…樹脂成形部、3…中間層、4…親水層
図1