特許第6963967号(P6963967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6963967パターン描画方法、フォトマスクの製造方法、及び表示装置用デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963967
(24)【登録日】2021年10月20日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】パターン描画方法、フォトマスクの製造方法、及び表示装置用デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/70 20120101AFI20211028BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   G03F1/70
   G03F7/20 501
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-208867(P2017-208867)
(22)【出願日】2017年10月30日
(65)【公開番号】特開2019-82520(P2019-82520A)
(43)【公開日】2019年5月30日
【審査請求日】2020年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 三千彦
【審査官】 冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−535710(JP,A)
【文献】 特開平10−284608(JP,A)
【文献】 特開2017−120416(JP,A)
【文献】 特開2015−191088(JP,A)
【文献】 特開2014−170200(JP,A)
【文献】 特開2010−181652(JP,A)
【文献】 特開2011−228489(JP,A)
【文献】 特開2010−266689(JP,A)
【文献】 特開2002−116531(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0362834(US,A1)
【文献】 特表2005−513770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00−1/86
G03F 7/20−7/24
9/00−9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の設計パターンデータにもとづき、フォトマスク基板上に描画を行うことによって、表示装置製造用の転写用パターンを備えたフォトマスクとするための、パターン描画方法であって、
前記フォトマスク基板上で、エネルギービームにより描画を行なう描画装置を用い、
表示装置の製造工程に起因して、露光装置を用いて前記フォトマスクを露光することにより形成された表示パネル基板上のパターンのCDと設計値による目標CDとの差異であるCDエラーが生じるとき、
予め把握した、前記CDエラーの位置とエラー量を含む、前記CDエラーの発生傾向に基き、前記CDエラーを補正するための、ビーム強度補正マップを形成する、ビーム強度補正マップ形成工程と、
前記設計パターンデータとともに、前記ビーム強度補正マップを用いて、前記描画装置によって描画を行なう描画工程と、
を含むことを特徴とする、パターン描画方法。
【請求項2】
前記表示装置の製造工程は、前記フォトマスクを露光装置によって露光する工程を含み、
前記CDエラーは、前記露光装置による露光条件に起因するエラーであることを特徴とする、請求項1に記載のパターン描画方法。
【請求項3】
前記露光装置は、複数のレンズをスキャンすることによってフォトマスクの転写用パターンを表示パネル基板上に転写する、プロジェクション露光方式を適用するものであることを特徴とする、請求項2に記載のパターン描画方法。
【請求項4】
前記露光装置は、プロキシミティ露光方式を適用するものであることを特徴とする、請求項2に記載のパターン描画方法。
【請求項5】
前記転写用パターンは、複数の単位パターンが規則的に配列する繰返しパターンを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のパターン描画方法。
【請求項6】
前記描画工程では、多重描画を行なうことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のパターン描画方法。
【請求項7】
前記露光装置のもつ光学系のNAは、0.08〜0.2である、請求項1〜4のいずれかに記載のパターン描画方法。
【請求項8】
前記露光装置の光源は、i線、h線、g線のいずれかを含む、請求項1〜4のいずれかに記載のパターン描画方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の描画工程を含む、フォトマスクの製造方法。
【請求項10】
請求項に記載の製造方法によるフォトマスクを用意する工程と、
複数のレンズをスキャンすることによってフォトマスクの転写用パターンを表示パネル基板上に転写する、プロジェクション露光方式を適用する露光装置により、前記転写用パターンを表示パネル基板上に転写することを含む、表示装置用デバイスの製造方法。
【請求項11】
請求項に記載の製造方法によるフォトマスクを用意する工程と、
プロキシミティ露光方式を適用する露光装置により、前記転写用パターンを表示パネル基板上に転写することを含む、表示装置用デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスを製造するためのフォトマスクであって、特に表示装置(FPD)用デバイスの製造に好適なフォトマスクの描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(以降、文献1)には、カラーフィルタ用フォトマスクの補正方法が記載されている。この文献によると、カラーフィルタのプロセス特性に起因する設計値に対する変化量を線幅及び座標で表した変化領域マップを取得して、初期設計値に対し変化量を補正する際、短寸法補正領域の変化が大きい領域から小さい領域まで補正を行うフォトマスクの補正方法において、補正対象となる補正領域と隣接領域との境界部近傍で、前記補正領域から隣接領域まで段階的かつランダムに補正値を分散配置して補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5254068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、液晶表示装置や有機ELディスプレイを含む表示装置の業界において、画素の微細化、高集積化の要望が強く、また、より明るく、かつ省電力であるとともに、高速表示、広視野角といった表示性能の向上が望まれている。こうした高精細化の要求に伴ない、表示装置用デバイス(表示装置、又はその部分を構成するデバイスをいう。以下、これらを単に表示装置ともいう)を製造する際に用いるフォトマスクパターンにおいても、パターンの微細化傾向が著しい。例えば、液晶表示装置や有機EL表示装置に使用されるTFT(薄膜トランジスタ)のレイヤ、或いは、カラーフィルタのブラックマトリックス(BM)や、フォトスペーサ(PS)などを形成するためのレイヤにおいても、微細なパターンを、設計どおりの正確なCD(Critical Dimension、以下パターン幅の意味としても用いる)を確保しつつ、転写する方法が求められている。
【0005】
例えば、上記表示装置に用いられる薄膜トランジスタでは、層間絶縁膜に形成されたコンタクトホールの径は、3μm以下(例えば1.5〜3μmなど)、或いは、カラーフィルタのBMは、幅8μm以下(例えば、3〜8μmなど)といった微細なパターンが要望されている。このレベルの微細なホール、ドットパターンや、ライン、スペースパターンの形成が精緻に行なわれることが望まれる。
【0006】
更に、表示装置の製造においては、フォトマスクの転写用パターンを転写する被転写体(表示パネル基板等)には、エッチングマスクとなるレジスト膜が形成されている場合のほか、構造物としてデバイスの一部となる感光性樹脂膜が形成されている場合も少なくない。この場合、設計値からのCDのずれ(CDエラー)は、単にパターン幅の誤差となるのみでなく、立体的な構造物の高さなど、形状の誤差を招くことから、最終製品の動作、性能に影響を及ぼす可能性がある。この点からも、CDの設計値からのずれは、極力低減することが肝要である。
【0007】
ところで、表示装置に比べて、集積度が高く、パターンの微細化が顕著に進んだ半導体装置(LSI)製造用フォトマスクの分野では、高い解像性を得るために、露光装置には高い開口数NA(例えば0.2超)の光学系を適用し、露光光の短波長化がすすめられた経緯がある。その結果、この分野では、KrFやArFのエキシマレーザー(それぞれ、248nm、193nmの単一波長)が多用されるようになった。フォトマスク製造のための描画装置にも、EB(電子ビーム)描画装置が採用されるようになった。
【0008】
その一方、表示装置製造用のリソグラフィ分野では、解像性向上のために、上記のような手法が適用されることは、一般的ではなかった。例えばこの分野で用いられる露光装置がもつ光学系のNA(開口数)は、0.08〜0.2程度である。また、露光光源もi線、h線、又はg線が多用され、主にこれらを含んだブロード波長光源を使用することで、大面積(例えば、主表面の一辺が300〜2000mmの四角形)を照射するための光量を得て、生産効率やコストを重視する傾向が強い。
【0009】
この状況下、昨今は、表示装置の製造においても、上記のようにパターンの微細化要請が高くなっていることから、表示装置用としての、上記露光条件を適用しつつ、大面積であっても設計どおりのパターンを転写する技術が求められている。
【0010】
文献1は、液晶ディスプレイ等の高画質化と輝度向上が望まれるようになり、それに伴う画素数増大と光透過率向上に対応して、ブラックマトリクスの細線化が図られるようになってきたことを背景としている。フォトマスクを用いたリソグラフィプロセスにおいて、パターンの描画装置や、エッチング装置の固有の特性などによって、描画、現像後のパターンが設計データと比較して誤差を生じることがある。そこで、文献1では、カラーフィルタのマスクプロセスにおける局所的な寸法誤差を改善する方法を提案している。
【0011】
但し、本発明者の検討によると、表示装置の製造工程で生じるCDエラーの補正に関し、文献1記載の方法のみでは、不十分な点があることが明らかになった。
【0012】
そこで、本発明者は、上記不都合を回避しつつ、被転写体上に設計どおりのCD精度をもつパターンを転写する方法を鋭意検討し、本発明を達成した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(第1の態様)
所定の設計パターンデータにもとづき、フォトマスク基板上に描画を行うことによって、表示装置製造用の転写用パターンを備えたフォトマスクとするための、パターン描画方法であって、
前記フォトマスク基板上で、エネルギービームにより描画を行なう描画装置を用い、
表示装置の製造工程に起因して、設計値に対するCDエラーが生じるとき、
予め把握した、前記CDエラーの位置とエラー量を含む、前記CDエラーの発生傾向に基き、前記CDエラーを補正するための、ビーム強度補正マップを形成する、ビーム強度補正マップ形成工程と、
前記設計パターンデータとともに、前記ビーム強度補正マップを用いて、前記描画装置によって描画を行なう描画工程と、
を含むことを特徴とする、パターン描画方法である。
(第2の態様)
本発明の第2の態様は、
前記表示装置の製造工程は、前記フォトマスクを露光装置によって露光する工程を含み、
前記CDエラーは、前記露光装置による露光条件に起因するエラーであることを特徴とする、上記第1の態様に記載のパターン描画方法である。
(第3の態様)
本発明の第3の態様は、
前記露光装置は、複数のレンズをスキャンすることによってフォトマスクの転写用パターンを被転写体上に転写する、プロジェクション露光方式を適用するものであることを特徴とする、上記第2の態様に記載のパターン描画方法である。
(第4の態様)
本発明の第4の態様は、
前記露光装置は、プロキシミティ露光方式を適用するものであることを特徴とする、上記第2の態様に記載のパターン描画方法である。
(第5の態様)
本発明の第5の態様は、
前記転写用パターンは、複数の単位パターンが規則的に配列する繰返しパターンを含むことを特徴とする、上記第1〜第4のいずれかの態様に記載のパターン描画方法である。
(第6の態様)
本発明の第6の態様は、
前記描画工程では、多重描画を行なうことを特徴とする、上記第1〜第5のいずれかの態様に記載のパターン描画方法である。
(第7の態様)
本発明の第7の態様は、第1〜第6のいずれかの態様に記載の描画工程を含む、フォトマスクの製造方法である。
(第8の態様)
本発明の第8の態様は、
第7の態様に記載の製造方法によるフォトマスクを用意する工程と、
複数のレンズをスキャンすることによってフォトマスクの転写用パターンを被転写体上に転写する、プロジェクション露光方式を適用する露光装置により、前記転写用パターンを被転写体上に転写することを含む、表示装置用デバイスの製造方法である。
(第9の態様)
本発明の第9の態様は、
第7の態様に記載の製造方法によるフォトマスクを用意する工程と、
プロキシミティ露光方式を適用する露光装置により、前記転写用パターンを被転写体上に転写することを含む、表示装置用デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、表示装置の製造工程で生じる、パターンのCDエラーを、確実にかつ効率的に補正することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(a)は、レンズスキャン方式の表示装置製造用のプロジェクション露光装置の構成を示す概略図である。図1(b)は、レンズ相互の繋ぎ部分に形成される、照射の重なりにより、被転写体が受ける照射光の強度が、他の部分より大きい場合(上)、及び小さい場合(下)を示す概略図である。
図2図2(a)は露光装置によって被転写体上に生じるCDエラーの発生位置を示す概略図(上図は露光装置による光強度の変動、下図はそれにって生じた被転写体上のムラを示す平面概略図)であり、図2(b)は、上記CDエラーの発生を低減するためのビーム強度補正マップの概略図(上図は位置によるビーム強度補正によるCD変化量、下図はビーム強度補正マップによるCD変化量の平面概略図)であり、図2(c)は、補正されたフォトマスクを用いて露光したときにCDエラーによる直線状のムラが消失した様子を示す平面概略図である。
図3図3(a)は設計パターンデータによってCD補正を行う場合に生じる、CDの補正段差、図3(b)はビーム強度補正を行った場合に得られる、ほぼ連続的なCD補正を示す図である。
図4図4(a)は、露光装置のレンズ繋ぎ部分に生じた、照射強度の変動によって、被転写体上に形成されたCD分布マップを示す。図4(b)は、本発明の描画方法によって形成されたフォトマスクのCD分布マップを示す。図4(c)は、図4(b)のCD分布をもつフォトマスクを露光して被転写体上に得られる転写像のCD分布マップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
表示装置を製造するに当たり、CDの小さいパターンであっても設計値どおり安定して形成することが求められる。一方、CD精度に問題のないフォトマスクを用いても、それを露光することによって、被転写体(表示パネル基板など)上に形成される転写像の寸法が、目標どおりにならず変動して、CDエラーを生じる要因がいくつか存在する。
【0017】
例えば、露光前に、被転写体上に形成するレジスト膜の膜厚に面内分布が生じている場合や、現像の過程で現像液の供給に面内ばらつきが生じる場合などには、被転写体上の面内において、均一であるはずのCDにばらつきが生じる場合がある。特に、表示装置用の被転写体は、サイズが大きく(一辺が1000mm〜3400mm程度等)、レジスト塗布装置や現像・エッチング装置の構造やウェット処理の液流などによって、面内の処理条件が不均一になることが、完全には避けられない。
【0018】
更に、フォトマスクを露光する際に使用する露光装置にも、装置構成上の原因によって、面内の光量分布が生じる場合がある。
【0019】
上記のような処理条件、露光条件の面内不均一は、同じ装置を使用する限り、再現性をもって現れることが多く、この傾向を把握し、これを低減するための方策をとることにより、影響を低減することが可能と考えられる。具体的には、これらの面内不均一要因によって生じてしまう、転写像のCD不均一化を、予め、フォトマスクの設計パターンデータに反映させ、これらの不均一によって生じるCD目標値からの増加、減少の傾向を相殺する補正を行なうことが有効であることが推測できる。
【0020】
ところで、フォトマスクの製造においては、まず、得ようとするデバイス(表示装置等)の設計にもとづき、パターンデータを作成する(設計パターンデータ)。そして、このデータを使用して、描画装置によってフォトマスク基板上に描画を行なう。描画装置は、エネルギービームの照射によって描画を行なうが、特に、レーザビームを使用するレーザ描画装置が多用される。
【0021】
フォトマスク基板とは、透明基板上に、フォトマスクパターンとするための光学膜(遮光膜など)及びレジスト膜を形成した、フォトマスクブランクなどが挙げられる。フォトマスク基板に対して描画を行なった後、現像によって形成されたレジストパターンをエッチングマスクとして、光学膜のパターニングを行なうことにより、転写用パターンを備えたフォトマスクが得られる。
【0022】
ところが、このようにして作製されたフォトマスクを、露光装置によって露光し、被転写上に形成されたパターンのCDを測定すると、被転写体上の面内位置によって、CDが変動することがある。つまり、被転写体上に形成されたパターンのCDと、設計値による目標CDとの差異(CDエラー)が発生し、かつ、このCDエラーの量は、被転写体上の面内の位置によって異なることがある。この主な原因は、上記したとおりである。
【0023】
このようなCDエラーの面内ばらつきに対し、予め、その位置とエラー量を含む、エラー発生傾向を把握し、把握した傾向を、フォトマスクの設計パターンデータに反映させてデータ補正し、CDエラーを低減することが考えられる。適切に補正した、補正パターンデータを用いれば、面内全域にわたって、CDエラー量を、許容範囲以下に抑えることができると考えられる。
【0024】
ところで、文献1では、以下のように記載されている。すなわち、初期設計値で製造されたフォトマスクを使用して感光性樹脂のコーティングが施されたガラス基板上にパターンを転写し、現像、エッチングの各プロセスを経て得られるカラーフィルタパターンの短寸法補正領域をマッピングする。その結果、「マスクの下端側のパターン寸法が全体的に設計値よりも小さく形成される」といった短寸法補正領域の広範囲な傾向が見られている。これは、エッチングなどのプロセスに依存して生じたものと考えられる。そこで、マッピングされた各区分に基づいて、これに対応するフォトマスクの設計値を調整する。修正すべき領域に対応するフォトマスクの設計値を初期設定値よりも大きく調整し、プロセス後の寸法が適正範囲となるように設定する。
【0025】
また、文献1は、上述のマッピングに従って一律に修正してしまうと境界部に大きな寸法変化の「段差」が現れることを問題としている。境界部近傍での寸法変化は極力なだらかなものとされることが望まれるため、文献1の方法では、境界部での修正量は隣接領域の補正値のいずれか一方を連続配置するのではなく、ランダムに分散配置する。このようにすると、カラーフィルタの寸法が、ある領域を境に、急激に変化することがなくなり、平均的な短寸法補正領域となるとされている。
【0026】
ところが、本発明者の検討によると、上記方法にも課題がある。すなわち、マッピングされた区分に対し、フォトマスクの設計値を調整する場合、CDエラーの生じる傾向に再現性がある場合であっても、フォトマスクの設計パターンごとに、その設計値の調整が必要となる。具体的には、露光装置の露光機構に起因するCDエラーであれば、該露光装置を使用する限り、同一の補正を施すことが有益であるが、設計パターンの異なる新たなフォトマスクの製造に際して、逐一、その度ごとに設計値の調整を行なう必要が生じることから、非効率である。
【0027】
例えば、表示装置製造用の転写用パターンは、単位パターンが規則的に配列する繰返しパターンを含むものが少なくないが、このような場合の設計パターンデータは、繰返しの最小単位(例えば1画素)のみをパターンとして保有し、これをX方向、Y方向のそれぞれに行数、列数を与え、数百万、数千万といった画素配列を表現する(以下、Array配置ともいう)ことができる。これは、データ容量を抑えられるメリットが大きく、また設計に要する工数も大幅に削減される利点がある。
【0028】
ところが、このArray配置を適用すると、設計パターンデータのうち、所定の区分に対してのみ、フォトマスクの設計値を調整することは、非常に困難になる。
【0029】
更に、文献1では、上記のとおり、修正すべき領域の境界部近傍で、寸法変化を極力なだらかなにするため、境界部での修正量は隣接領域の補正値をランダムに分散配置する手法を採用している。この場合、Array配置の適用は更に困難となる不都合がある。
【0030】
そこで、本発明の描画方法は、
所定の設計パターンデータにもとづき、フォトマスク基板上に描画を行うことによって、表示装置製造用の転写用パターンを備えたフォトマスクとするための、パターン描画方法であって、
前記フォトマスク基板上で、エネルギービームにより描画を行なう描画装置を用い、
表示装置の製造工程に起因して、設計値に対するCDエラーが生じるとき、
予め把握した、前記CDエラーの位置とエラー量を含む、前記CDエラーの発生傾向に基き、前記CDエラーを補正するための、ビーム強度補正マップを形成する、ビーム強度補正マップ形成工程と、
前記設計パターンデータとともに、前記ビーム強度補正マップを用いて、前記描画装置によって描画を行なう描画工程とを含む。
【0031】
ここで、設計パターンデータとは、得ようとするデバイス(ここでは表示装置用デバイス)の設計にもとづいて、特定のレイヤ用にデザインされた、パターンデータである。この設計パターンデータを、レーザ描画装置によって、フォトマスク基板に描画する場合を考える。なお、レーザ描画装置としては、フォトマスク基板上でレーザビームを走査する方式、或いは、レーザビームをミラー等により投射する方式など、その方式は特に制限されない。
【0032】
フォトマスク基板とは、透明基板上に、フォトマスクパターンとするための光学膜が形成され、更にレジスト膜を形成した、フォトマスクブランク、或いは、透明基板上に形成された所定の光学膜に対してパターニングを行なった後、更に同一の基板上で、他の光学膜のパターニングを行なうために、レジスト膜を形成した、フォトマスク中間体であってもよい。レジスト膜は、ポジ型でもネガ型でも良いが、この分野のフォトマスクには一般的にポジ型が用いられる。
【0033】
光学膜としては、遮光膜のほか、所定の光透過率をもつ半透光膜が例示される。半透光膜としては、露光光に含まれる波長のうち、代表波長の光(例えは、i線〜g線の範囲のいずれかの波長)を、略180度シフトする、位相シフト膜であることもでき、又は、位相シフト量が90度以下(好ましくは60度以下)の膜とすることもできる。略180度とは、180±30度をいう。半透光膜の光透過率は、例えば、上記代表波長に対して、5〜60%程度とすることができる。
【0034】
以下、被転写体上に得られるパターンのCD精度の劣化が、フォトマスクの露光に用いる、露光装置によって生じる場合を例として、本発明の実施態様を説明する。露光装置の構造に由来し、フォトマスクの受ける照射光量が面内で不均一を生じ、これによって、被転写体上に形成される転写像の特定位置のCDが、設計による目標値からずれる場合などがこれにあたる。
【0035】
表示装置製造用のプロジェクション露光装置として、先に述べたとおりレンズスキャン方式を採用するものがある。これは、複数の投影レンズを同時移動して、フォトマスクのもつ転写用パターンの全域をスキャンすることで、被転写体上に、該転写用パターンを転写する。複数のレンズの相互の間に隙間が生じないように、隣り合うレンズ同士の繋ぎ部分には若干の照射の重なりをもたせるとともに、該重なり部分においては、照射の強度が他の領域と同一になるように調整されている(図1(a))。
【0036】
ところが繋ぎ部分の照射強度の精緻な調整にもかかわらず、被転写体上には、この繋ぎ部分の位置において、他の部分よりわずかにCDが大きくなり、または小さくなる現象が観察される。このようなCD変動はわずかなものであるが、表示装置となったときに、人の視覚に、直線状のムラとして認識されることがある。この原因としては、上記繋ぎ部分における、光強度のわずかな増大、又は減少があり得るほか、重ね露光に起因する、他の領域との条件の差異が生じることもあり得る。図1(b)には、繋ぎ部分の光強度が他の部分より大きい場合(上)、及び小さい場合の光強度分布(下)を例示する。
【0037】
例えば、被転写体上にネガ型レジスト(感光性樹脂)膜が形成されている場合には、光強度が他の部分より大きいと、現存後のレジストパターンにおいて、その領域内でCDが目標値より大きくなり、光強度が他の部分より小さいと、CDが小さくなる。従って、露光後に現像を行い、形成されたレジストパターンを用いて、加工対象の薄膜をエッチングすると、上記光強度の不均一に起因し、直線状のムラが視認される。図2(a)はこの様子を示す。
【0038】
そこで、このようなCD変動を低減するために、文献1の方法のごとく、フォトマスクの転写用パターンにおける、該当部分のCDを、あらかじめ調整しておくことが考えられる。すなわち、上記露光装置に起因するCD変動は、再現性があるため、その傾向を定量的に把握しておけば、このCD変動を相殺するように、フォトマスクの設計パターンデータを形成しておくことが有用であると考えられる。しかしながら、この方法には、上述のごとく、問題がある。
【0039】
これに対し、本発明では、CDエラーを低減するための補正は、設計パターンデータの調整によって行なうのではなく、予め把握した、前記CDエラーの位置とエラー量を含む、前記CDエラーの発生傾向に基き、前記CDエラーを補正するための、ビーム強度補正マップを形成する。そして、フォトマスクの描画工程において、設計パターンデータとともに、このビーム強度補正マップを用いる。
【0040】
本態様では、描画装置としてレーザ描画装置を用いる。レーザ描画装置は、光源が発するレーザビームの強度(パワー)をユーザが定めた数値として描画を行う。但し、このレーザビームの照射強度を、描画領域内の特定の部分において、他の部分(設計どおりの値とする部分)より高く、又は低く設定し、これをビーム強度マップとして保存しておく。すなわち、予め、上記露光装置が生じる、CDエラーの傾向を、その位置とエラー量について把握し、このCDエラー傾向を反映し、これを相殺するように、座標基準で、描画装置のビーム強度を設定した、ビーム強度補正マップを取得しておけば良い。
【0041】
このとき、ビーム強度補正マップは、特定のフォトマスクの設計パターンデータとは独立のものである。従って、同一の露光装置を用いて表示装置を製造しようとする場合には、使用するフォトマスクが備える転写用パターンの設計が異なる場合にも、共通に、繰返し用いることができるマップである。
【0042】
設計パターンデータに対して変更を与えることは不要であるので、設計パターンデータがArray配置によって形成される事への一切の影響は無い。
【0043】
図2(b)に示すように、露光装置によって生じるCDエラーの発生位置(図2(a))に、これを相殺するようにビーム強度を補正した、ビーム強度補正マップを用意すればよい。
【0044】
図2(a)は露光装置によって被転写体上に生じるCDエラーの発生位置を示す概略図である。図2(a)の上図は露光中に生じる光強度の分布(横軸:位置、縦軸:光強度Int)、下図はこのCDエラーによって観察される、直線状のムラが生じた様子を示す平面概略図である。露光装置の複数のレンズの繋ぎ部分に対応して、ムラが生じている。
【0045】
図2(b)は、露光装置によって生じる上記のCDエラーの発生位置に、これを相殺するようにビーム強度を補正したビーム強度補正マップの概略図である。図2(b)の上図は、ビーム強度の補正量をCDで示した概略図(横軸:位置、縦軸:CD(単位は例えばnm))、下図は、ビーム強度補正マップをCDで示した、平面概略図である。
【0046】
図2(c)は、図2(b)に示すフォトマスクを用いて、露光装置によってパターン転写を行なって得られる、被転写体を示す。上記CDエラーによる直線状のムラは消失する。
【0047】
ビーム強度補正によって、CDエラーを補正する際の更なる利点は、ビーム強度の補正が、設計パターンデータのCD補正とは異なり、実質的に、ほぼ無段階(連続的)に行なえる点である。すなわち、その補正量調整が、上記CDエラーに応じて、非常に細かく設定できる。このため、補正の有る領域と無い領域との境界、又は補正量の異なる領域同士の境界に、光強度の段差が顕在化せず、境界が認識できない程度に滑らかに補正可能である。この様子を、図3に模式的に示す。
【0048】
図4は、本発明によるCD補正の実施例を示す。
【0049】
図4(a)は、露光装置を用い、フォトマスクの転写用パターンを露光したときに、被転写体上に形成されるパターンのCDマップ(バブルチャート)を示す。露光装置のレンズ繋ぎ部分に生じた照射強度の変動によって、特定領域(上下方向の直線状)にCDエラーが生じている。ここでは、被転写体に形成されたパターンのCDを、設計による設計値による目標CDを基準とした大小関係で示している。濃灰色●はCDが目標CDより大きいことを示し、白色〇はCDが目標CDより小さいことを示す。バブルの大きさは目標CDとの差を示す。
【0050】
図4(a)では、レンズスキャン方式の露光装置のレンズ繋ぎ部分の位置と同一の、一定の間隔で、直線状に生じたCDエラーが見られた。レンズ繋ぎ部分にてCDが目標CDより大きかったことがわかる。このようなCDエラー位置や大きさに関するの傾向は、予め所定の転写用パターンを形成したテストマスク等を用いて露光することによって得ることができる。
【0051】
次に、上記で得られたCDエラーの発生傾向に基き、レーザ強度補正マップを求める。これは、上記CDエラーの発生を相殺するように、座標上の各位置における、描画用レーザの照射強度を、基準値より大きく、又は小さく補正すべく形成した二次元のマップである。つまり、描画しようとする面内のレーザパワー分布を、座標基準でマッピングしたものということができる。
【0052】
図4(b)は、図4(a)によって把握された、CDエラーの位置とエラー量の傾向をもとに、これを相殺するように、フォトマスク描画の際に適用するビーム強度補正マップを形成し、これを用いて得られた、本発明のフォトマスクである。すなわち、所望の設計にもとづく設計パターンデータを、上記ビーム強度補正マップとともに用いることにより、レーザビーム強度の補正を反映した描画を行ない、得られたフォトマスクを示す。
【0053】
図4(c)は、図4(b)のフォトマスクを用いて、同じ露光装置を用いて、露光したとき、被転写体上に得られるパターンの、CDマップである。レンズ繋ぎ部分のCDエラーがほぼ消失し、面内のCDばらつきが低減している。
【0054】
本実施形態においては、ビーム強度補正マップとは、特定のフォトマスクの設計パターンデータとは独立のものであり、被転写体上に生じるCDエラーの傾向を反映して、これを相殺するように強度補正を行なったビーム強度のマップである。露光装置が等倍露光である場合のほか、倍率がある場合には、フォトマスクの転写用パターンの形成と同様に、倍率を考慮して形成することができる。
【0055】
本発明のパターン描画方法により、例えば、フォトマスク上のCDに対し、±0.20μm程度の補正を行なうことが容易に行える。生じるCDエラー量に対して、この補正レンジが不足する場合には、フォトマスク基板上に塗布するレジスト特性の変更や、描画時のレーザ照射基準量の変更によって、調整することができる。
【0056】
更に補正レンジを拡大するためには、多重描画を好適に用いることができる。例えば、2回の重ね描画を行なえば、ビーム強度補正可能なレンジが拡大できるため、有用である。多重描画を好適に用いることにより、例えば、±0.70〜±1.5μm程度の補正を行なうことも可能となる。
【0057】
上記態様では、レンズスキャンを適用するプロジェクション露光方式の露光装置を用いた場合に関し、補正対象となるCDエラーについて、露光装置のレンズ繋ぎ部分によって生じるものを例として説明した。但し、本発明はこのCDエラーに限定されない。また、本発明は、他の方式のプロジェクション露光装置を用いる場合にも適用できる。
【0058】
プロジェクション露光装置としては、光学系のNAが0.08〜0.2、σが0.4〜0.9程度のものが好ましく適用でき、また、露光光としては、波長域300〜800nm程度、具体的にはi線、h線、g線のいずれかを含む光源が有用である。i線、h線、g線を全て含むランプを用いても良い。
【0059】
更に、本発明は、プロキシミティ露光方式の露光装置を用いる場合において、面内でCDが不均一となる不都合が生じる場合にも適用できる。プロキシミティ露光では、水平に載置した被転写体の上に、わずかなGapを介してフォトマスクを支持し、フォトマスクのもつ転写用パターンを転写するものである。ところが、フォトマスクが自重によってたわみ、更に、フォトマスクの支持部材から、所定の力を受けることから、Gapの大きさが面内で不均一となり、これに応じて、転写像のCDも不均一になる。こうした露光方式で生じるCDエラーに対しても、本発明は好適に適用できる。
【0060】
すなわち、予めCDエラーの位置とエラー量を含む、エラーの発生傾向を把握し、これに基いて、ビーム強度補正マップを形成し、これを用いてフォトマスクの描画を行なえば良い。
【0061】
プロキシミティ露光においても、適用する露光光の波長域としては、上記と同様である。
【0062】
もちろん、上記以外の場合においても、表示装置の製造工程において、再現性のあるCDエラーが生じる場合には、本発明が適用できることは言うまでも無い。
【0063】
本発明を適用するフォトマスクの転写用パターンには、そのデザインや用途に特に制約は無い。
【0064】
例えば、画素に対応する、単位パターンが規則的に多数繰り返し配列した、繰り返しパターンを含むものとすることができる。この場合、CDエラーが生じると、それが直線状に配列したり、特定の部分に集中するなどの理由により、そのエラー量がわずかであっても、最終的な表示装置において、人の目に視認されやすい。しかしながら、本発明によるCDエラーの補正は、補正を施した部分とその隣接部分の境界が、認識できない程度に精緻の補正が行なえるため、有利である。
【0065】
被転写体上のレジスト(感光性樹脂)は、ポジ型でもネガ型でもよい。
【0066】
本発明によれば、パターンの微細化の動向にも対応することができる。すなわち、パターンCDの微細化に伴なって、許容されるCD変動のレンジも極めて狭くなるが、本発明の適用はこれに対して有利に利用できる。
図1
図2
図3
図4