特許第6963971号(P6963971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6963971機械部品、機構モジュール、ムーブメントおよび時計
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963971
(24)【登録日】2021年10月20日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】機械部品、機構モジュール、ムーブメントおよび時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 31/08 20060101AFI20211028BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   G04B31/08 Z
   C09K3/18 102
   C09K3/18 104
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-214949(P2017-214949)
(22)【出願日】2017年11月7日
(65)【公開番号】特開2018-128444(P2018-128444A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2020年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2017-23161(P2017-23161)
(32)【優先日】2017年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】中村 敬彦
(72)【発明者】
【氏名】海老原 夏生
【審査官】 細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−170584(JP,A)
【文献】 特開2014−095437(JP,A)
【文献】 特開2013−113340(JP,A)
【文献】 特開2013−210057(JP,A)
【文献】 特開2011−174905(JP,A)
【文献】 特開2015−081866(JP,A)
【文献】 特開昭48−075264(JP,A)
【文献】 特開2015−183799(JP,A)
【文献】 特公昭46−005904(JP,B1)
【文献】 東ドイツ国経済特許第238812(DD,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 31/08
G04B 15/14,13/02
F16C 33/00−33/82
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面領域を有する第1部品と、
前記第1表面領域が摺動可能となる第2表面領域を有する第2部品と、
前記第1表面領域と前記第2表面領域のうち少なくともいずれか一方に形成され、当該領域より親油性が高い保油膜と、を備え
前記第1部品は、軸回りに回転可能な軸体であり、
前記第2部品は、前記軸体が挿入される貫通孔を有する穴石と、前記軸体の先端面が対向する対向面を有する受石と、を備え、
前記穴石および受石は、前記貫通孔に挿入された前記軸体を回転可能に支持し、
前記第1表面領域は、前記軸体の外周面であり、
前記第2表面領域は、前記貫通孔の内周面であり、
前記保油膜は、前記第1表面領域と、前記第2表面領域と、前記軸体の先端面と、前記対向面のうち前記貫通孔に対面する対面領域と、に形成され、
前記軸体、前記穴石および前記受石の、前記保油膜に隣り合う領域に、当該領域より親油性が低い撥油膜が形成され、
前記受石の、前記保油膜に隣り合う前記撥油膜は、当該保油膜を囲む、
機械部品。
【請求項2】
前記保油膜は、次に示す式(1)で表される化合物を含有する、請求項1に記載の機械部品。
【化1】
(M1はSi、Ti、Zrのうちいずれか1つである。Rは炭化水素基である。Y1、Y2は炭化水素基、水酸基、または、加水分解等により水酸基を生成する官能基である。Z1は、極性基である。)
【請求項3】
前記撥油膜は、次に示す式(2)で表される化合物を含有する、請求項1または2に記載の機械部品。
【化2】
(M2はSi、Ti、Zrのうちいずれか1つである。Rfはフッ素含有基である。Y3、Y4は炭化水素基、水酸基、または、加水分解等により水酸基を生成する官能基である。Z2は、極性基である。)
【請求項4】
前記第1表面領域と前記第2表面領域のうち少なくともいずれか一方に、潤滑油の保持が可能な保持部が形成されている、請求項1〜のうちいずれか1項に記載の機械部品。
【請求項5】
前記保持部は、当該表面領域に形成された凹部である、請求項に記載の機械部品。
【請求項6】
請求項1〜のうちいずれか1項に記載の機械部品を備えた、機構モジュール。
【請求項7】
請求項1〜のうちいずれか1項に記載の機械部品を備えた、ムーブメント。
【請求項8】
請求項に記載のムーブメントを備えた、時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品、機構モジュール、ムーブメントおよび時計に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば時計などに用いられる機械部品においては、回転などの際の摺動による摩擦を軽減するため、摺動箇所に潤滑油を保持させることが求められる。特許文献1には、油等を担持する領域の外に撥油膜を形成することによって、前記領域に潤滑油を保持させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−288452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
時計用の部品などの小型の機械部品では、特定領域にのみ撥油膜を形成するのが難しいため、前述の技術を適用するのは容易でなかった。そこで、部品全体にフッ素系処理剤により表面処理を施し、処理された表面での表面張力により潤滑油を注油箇所に保持させることが行われている。
【0005】
しかし、前記機械部品は、潤滑油を保持する性能が十分とはいえなかった。そのため、潤滑油の不足によって機械部品の摩耗が起きる可能性があった。
【0006】
本発明の一態様は、潤滑油を保持する性能に優れた機械部品、機構モジュール、ムーブメントおよび時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、第1表面領域を有する第1部品と、前記第1表面領域が摺動可能となる第2表面領域を有する第2部品と、前記第1表面領域と前記第2表面領域のうち少なくともいずれか一方に形成され、当該領域より親油性が高い保油膜と、を備えた機械部品を提供する。
この構成によれば、潤滑油が第1部品と第2部品との間から流出しにくくなる。よって、第1部品と第2部品との間に潤滑油がある状態が維持されるため、第1部品および第2部品の摩耗等による劣化を抑制し、長期にわたって安定した動作が可能となる。
【0008】
前記機械部品では、前記第1部品と前記第2部品の少なくともいずれか一方の、前記保油膜に隣り合う領域に、当該領域より親油性が低い撥油膜が形成されていることが好ましい。
この構成によれば、潤滑油が保油膜の表面から流出しにくくなる。よって、保油性能をさらに高めることができる。
【0009】
前記保油膜は、次に示す式(1)で表される化合物を含有することが好ましい。
【化1】
(M1はSi、Ti、Zrのうちいずれか1つである。Rは炭化水素基である。Y1、Y2は炭化水素基、水酸基、または、加水分解等により水酸基を生成する官能基である。Z1は、極性基である。)
この構成によれば、前記保油膜に、高い保油性能を与えることができる。
【0010】
前記撥油膜は、次に示す式(2)で表される化合物を含有することが好ましい。
【化2】
(M2はSi、Ti、Zrのうちいずれか1つである。Rfはフッ素含有基である。Y3、Y4は炭化水素基、水酸基、または、加水分解等により水酸基を生成する官能基である。Z2は、極性基である。)
この構成によれば、前記撥油膜の撥油性能を高めることができる。
【0011】
前記第1部品は、軸回りに回転可能な軸体であり、前記第2部品は、前記軸体を回転可能に支持する軸受であることが好ましい。
この構成によれば、前記保油膜により前記第1部品と前記第2部品との間に潤滑油がある状態を維持しやすくなるため、機械部品の動作をより長期にわたって安定化することができる。
【0012】
前記機械部品は、前記第1表面領域と前記第2表面領域のうち少なくともいずれか一方に、潤滑油の保持が可能な保持部が形成されていてもよい。
この構成によれば、摺動により当該表面領域の保油膜が摩耗した場合でも潤滑油を保持し、長期にわたって安定した動作が可能となる。
【0013】
前記保持部は、当該表面領域に形成された凹部であることが好ましい。
この構成によれば、摺動により当該表面領域の保油膜が摩耗した場合でも、保持部内の保油膜は摩耗しにくい。そのため、前記機械部品は、潤滑油を保持し、長期にわたって安定した動作が可能となる。
【0014】
本発明の一態様は、前記機械部品を備えた機構モジュールを提供する。
この構成によれば、前記機械部品を備えているため、長期にわたって安定した動作が可能となり、信頼性を高めることができる。
【0015】
本発明の一態様は、前記機械部品を備えたムーブメントを提供する。
この構成によれば、前記機械部品を備えているため、長期にわたって安定した動作が可能となり、信頼性を高めることができる。
【0016】
本発明の一態様は、前記ムーブメントを備えた時計を提供する。
この構成によれば、前記機械部品を備えているため、長期にわたって安定した動作が可能となり、信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、潤滑油に対して高い保油性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る第1実施形態の機械部品の一形態を示す断面図である。
図2図1に示す機械部品の一部を拡大した断面図である。
図3図1に示す機械部品の他の形態を示す断面図である。
図4図1に示す機械部品のさらに他の形態を示す断面図である。
図5】本発明に係る第2実施形態の機械部品の一形態を示す断面図である。
図6図5に示す機械部品の他の形態を示す断面図である。
図7図5に示す機械部品のさらに他の形態を示す断面図である。
図8】本発明に係る第3実施形態の機械部品を示す断面図である。
図9】本発明に係る第4実施形態の機械部品を示す断面図である。
図10】本発明に係る第5実施形態の機械部品を示す側面図である。
図11】保油膜および撥油膜を形成する前の状態の機械部品を示す側面図である。
図12】保油膜を形成した機械部品を示す側面図である。
図13】実施形態の機械部品を使用可能なムーブメント表側の平面図である。
図14】本発明に係る第6実施形態の機械部品の第1部品を示す平面図である。
図15】第6実施形態の機械部品の第2部品を示す平面図である。
図16】本発明に係る第7実施形態の機械部品の一部を示す斜視図および断面図である。
図17】本発明に係る第8実施形態の機械部品を用いたムーブメントの一部を示す断面図である。
図18図1に示す機械部品の軸体の第1変形例を示す概略図である。
図19図1に示す機械部品の軸体の第2変形例を示す概略図である。
図20図1に示す機械部品の軸体の第3変形例を示す概略図である。
図21図1に示す機械部品の軸体の第4変形例を示す概略図である。
図22図1に示す機械部品の軸体の第5変形例を示す概略図である。
図23図1に示す機械部品の軸体の第6変形例を示す概略図である。
図24図1に示す機械部品の軸体の第7変形例を示す概略図である。
図25図1に示す機械部品の軸体の第8変形例を示す概略図である。
図26図1に示す機械部品の軸体の第9変形例を示す概略図である。
図27図14に示すがんぎ車の第1変形例を示す構成図である。
図28図14に示すがんぎ車の第2変形例を示す構成図である。
図29】凹部の全体形状の第1の例を示す模式図である。
図30】凹部の全体形状の第2の例を示す模式図である。
図31】凹部の全体形状の第3の例を示す模式図である。
図32】凹部の全体形状の第4の例を示す模式図である。
図33】凹部の全体形状の第5の例を示す模式図である。
図34】凹部の全体形状の第6の例を示す模式図である。
図35図15に示す爪石の第1変形例を示す構成図である。
図36図15に示す爪石の第2変形例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る時計用部品10(機械部品)について、図1図4を参照して説明する。
図1は、時計用部品10の一形態を示す断面図である。図2は、時計用部品10の一部を拡大した断面図である。図2は、図1において円で囲んだ部分の拡大図である。図3は、時計用部品10の他の形態を示す断面図である。図4は、時計用部品10のさらに他の形態を示す断面図である。なお、平面視とは、軸体の中心軸線と平行に見ることをいう。
【0020】
(機械部品)
図1および図2に示すように、時計用部品10は、軸体1(第1部品)と、軸受2(第2部品)と、第1〜第3保油膜11〜13とを備えている。
軸体1は、円柱状に形成されている。軸体1の先端部をホゾ部3という。ホゾ部3のうち、穴石5の貫通孔4に挿入されている部分を挿入部7という。挿入部7の外周面7a(第1表面領域)は、挿入部7の全周にわたる領域である。C1はホゾ部3の中心軸線である。軸体1は、例えば、香箱車、二番車、三番車、四番車、がんぎ車、アンクル、てんぷ、ソロバン玉部、スリップ機構などの回転体の軸部である。
【0021】
軸受2は、貫通孔4を有する穴石5と、受石6とを備えている。軸受2は、例えば耐震軸受である。
穴石5は、例えばルビーなどで形成されている。穴石5は、例えば平面視において円形状とされている。
貫通孔4は、穴石5を厚さ方向に貫通して形成されている。貫通孔4は、例えば平面視において円形状とされている。貫通孔4の内径は、ホゾ部3が挿入可能となるように定められている。貫通孔4の内径は、例えば、ホゾ部3の外径より大きい。貫通孔4の内周面4a(第2表面領域)は、貫通孔4の全周にわたる領域である。貫通孔4の内周面4a(第2表面領域)は、挿入部7の外周面7a(第1表面領域)に対面している。
【0022】
受石6は、例えばルビーなどで形成されている。受石6は、例えば平面視において円形状とされている。受石6の対向面6a(穴石5に対向する面)には、ホゾ部3の先端面3aが対向配置される。対向面6aのうち、貫通孔4の内部空間4bに対面する領域を対面領域6bという。対面領域6bは、例えば平面視において貫通孔4と一致する円形状とされている。対面領域6bは、ホゾ部3の先端面3aが当接可能であってもよい。
軸受2は、軸体1を中心軸線C1周りに回転可能に支持する。
【0023】
(保油膜)
第1保油膜11は、ホゾ部3の先端面3a、および挿入部7の外周面7aに形成されている。第1保油膜11は、被形成面(先端面3aおよび外周面7a)より親油性が高い。 第2保油膜12は、穴石5の貫通孔4の内周面4aに形成されている。第2保油膜12は、被形成面(内周面4a)より親油性が高い。
第3保油膜13は、受石6の対面領域6bに形成されている。第3保油膜13は、被形成面(対面領域6b)より親油性が高い。
【0024】
親油性の指標としては、例えば油に対する接触角がある。接触角は、例えば、被測定物の表面にオレイン酸約2μlを滴下し、滴下から10秒後、被測定物の表面に対する液滴の角度を、接触角計(CA−X200、協和界面科学製)を用いて室温(約25℃)で測定することで評価できる。接触角は、オレイン酸に代えて、注油される潤滑油8(例えば、ポリαオレフィン(PAO)など)を用いて測定してもよい。接触角の測定には、JIS R3257に準拠する方法を適用してもよい。
保油膜11〜13の表面における前記接触角が、被形成面における前記接触角より小さい場合は、保油膜11〜13は、被形成面より親油性が高いといえる。保油膜11〜13は、例えば、被形成面の構成材料よりも表面エネルギーの大きい材料からなる。
【0025】
保油膜11〜13は、例えば、次に示す式(3)で表される化合物を含有する。
【0026】
【化3】
(M1はSi、Ti、Zrのうちいずれか1つである。Rは炭化水素基である。Y1、Y2は炭化水素基、水酸基、または、加水分解等により水酸基を生成する官能基である。Z1は、極性基である。)
【0027】
前記炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などを例示できる。前記炭化水素基としては、アルキル基が好ましい。前記アルキル基は、Cn2n+1(n:自然数)で表される。nは「6≦n≦10」を満たすことが好ましい。nが6以上であることにより、保油性を高めることができる。nが10以下であることにより、立体障害による保油膜の膜質悪化を避けることができる。nが10以下であることにより、重合反応に要する時間を短くできる。
前記「加水分解等により水酸基を生成する官能基」は、例えばアルコキシ基、アミノキシ基、ケトオキシム基、アセトキシ基などであり、これらのうち1または2以上を使用できる。アルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などであり、これらのうち1または2以上を使用できる。
前記極性基は、極性を有する官能基である。前記極性基は、例えば、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、リン酸基、フォスフィノ基、シラノール基、エポキシ基、イソシアネート基、シアノ基、ビニル基、チオール基などであり、これらのうち1または2以上を使用できる。
【0028】
式(3)で示される化合物において、Z1、Y1およびY2で表される官能基は、結合により構成元素の一部が欠けた形態であってもよい。例えば、Z1としての水酸基(−OH)は、脱水縮合により被形成面と結合することにより「−O−」という形態となっていてもよい。Y1およびY2としての水酸基(−OH)は、脱水縮合により他のY1またはY2と結合することにより「−O−」という形態となっていてもよい。同様に、カルボキシ基(−COOH)は、結合により「−COO−」という形態になっていてもよい。
保油膜11〜13中の、式(3)に示す化合物の含有量は、例えば50質量%以上である。
【0029】
式(3)に示す化合物は、例えば、極性基が、脱水縮合、水素結合などにより、被形成面(先端面3a、外周面7a、内周面4aおよび対面領域6b)を構成する材料(例えば金属などの無機物)に結合または吸着する。式(3)に示す化合物は、保油膜11〜13に、高い保油性能を与えることができる。
【0030】
式(3)に示す化合物としては、例えば、次に示す式(4)の化合物を例示できる。
【0031】
【化4】
【0032】
式(3)に示す化合物は、例えば、次に示す式(5)の化合物を加水分解することにより得られる。
【0033】
【化5】
(M1はSi、Ti、Zrのうちいずれか1つである。Rは炭化水素基である。Y1、Y2は炭化水素基、水酸基、または、加水分解等により水酸基を生成する官能基である。X1は、加水分解等により水酸基を生成する官能基である。)
【0034】
前記「加水分解等により水酸基を生成する官能基」は、例えばアルコキシ基、アミノキシ基、ケトオキシム基、アセトキシ基などであり、これらのうち1または2以上を使用できる。アルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などであり、これらのうち1または2以上を使用できる。式(5)に示す化合物としては、例えば、式(6)に示すオクチルトリエトキシシラン(例えばn−オクチルトリエトキシシラン)を挙げることができる。
【0035】
【化6】
【0036】
(保油膜の形成)
保油膜11〜13の形成には、例えば、式(3)の化合物を含む保油剤と溶媒とを含む保油処理剤が用いられる。保油剤には、添加剤(例えばジブチル錫ジウラレートなどの硬化触媒等)を添加してもよい。添加剤の添加量は例えば0.001〜5質量%である。溶媒としては、アルコール、ケトンなどが使用できる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノールなどがある。ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトンなどがある。なお、保油処理剤は、溶媒を含まなくてもよい。
【0037】
保油膜11〜13を形成するには、被形成面(先端面3a、外周面7a、内周面4aおよび対面領域6b)に、前記保油処理剤を塗布して塗膜を形成する。この塗膜を乾燥させて溶媒を除去することによって、保油膜11〜13を得る。
【0038】
(時計用部品の動作)
軸体1と軸受2との間には、潤滑油8が供給される。潤滑油8としては、例えば、ポリαオレフィン(PAO)、ポリブテン等の脂肪族炭化水素油;アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素油;ポリオールエステル、リン酸エステル等のエステル油;ポリフェニルエーテル等のエーテル油;ポリアルキレングリコール油、シリコーン油、フッ素油等が挙げられる。
【0039】
軸体1は、軸受2に対して中心軸線C1周りに回転する。軸体1の外周面の一部(挿入部7の外周面7a)は、軸受2の内周面(貫通孔4の内周面4a)に対して摺動する可能性がある。
【0040】
時計用部品10では、親油性が高い保油膜11〜13を有するため、潤滑油8に対して高い保油性能を発揮する。そのため、時計用部品10に振動が加えられた場合、および図3に示すように貫通孔4内のホゾ部3の位置が変動した場合などにおいても、潤滑油8が摺動箇所(軸体1と軸受2との間)から流出しにくくなる。よって、摺動箇所(軸体1と軸受2との間)に潤滑油8がある状態が維持されるため、軸体1および軸受2の摩耗等による劣化を抑制し、長期にわたって安定した動作が可能となる。
また、図4に示すように、ホゾ部3と、貫通孔4の内周面4aとの間に隙間が生じても、保油膜11〜13の表面には潤滑油8が残る。よって、保油膜11〜13が露出せず、そのため、軸体1が軸受2に対して摺動した場合でも保油膜11〜13の摩耗、剥離等は起こりにくい。したがって、長期にわたって保油性能を維持し、安定した動作が可能となる。
【0041】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る時計用部品20(機械部品)について、図5図7を参照して説明する。
図5は、時計用部品20の一形態を示す断面図である。図6は、時計用部品20の他の形態を示す断面図である。図7は、時計用部品20のさらに他の形態を示す断面図である。以下、既出の実施形態との共通部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0042】
図5に示すように、時計用部品20は、軸体21(第1部品)と、軸受22(第2部品)と、保油膜31,32とを備えている。
軸体21は、円柱状に形成された細径部23と、細径部23に連設された拡径部26とを備えている。細径部23のうち、穴石25の貫通孔24に挿入されている部分を挿入部27という。
【0043】
軸受22は、貫通孔24を有する穴石25を備えている。穴石25は、例えば平面視において円形状とされている。
貫通孔24は、穴石25を厚さ方向に貫通して形成されている。貫通孔24は、例えば平面視において円形状とされている。貫通孔24の内径は、細径部23が挿入可能となるように定められている。貫通孔24の内径は、例えば、細径部23の外径より大きい。貫通孔24の内周面24a(第2表面領域)は、挿入部27の外周面27a(第1表面領域)に対面している。
軸受22は、軸体21を中心軸線C2周りに回転可能に支持する。
【0044】
第1保油膜31は、細径部23の挿入部27の外周面27aに形成されている。第1保油膜31は、被形成面(外周面27a)より親油性が高い。
第2保油膜32は、穴石25の貫通孔24の内周面24aに形成されている。第2保油膜32は、被形成面(内周面24a)より親油性が高い。
保油膜31,32の材料等は、第1実施形態における保油膜11〜13と同様とすることができる。保油膜31,32は、保油膜11〜13と同様にして形成することができる。
【0045】
軸体21と軸受22との間には、潤滑油8が供給される。軸体21は、軸受22に対して中心軸線C2周りに回転する。軸体21の外周面の一部は、軸受22の内周面に対して摺動する可能性がある。
【0046】
時計用部品20では、親油性が高い保油膜31,32を有するため、潤滑油8に対して高い保油性能を発揮する。そのため、時計用部品20に振動が加えられた場合、および図6に示すように貫通孔24内の細径部23の位置が変動した場合などにおいても、潤滑油8が摺動箇所(軸体21と軸受22との間)から流出しにくくなる。よって、摺動箇所(軸体21と軸受22との間)に潤滑油8がある状態が維持されるため、軸体21および軸受22の摩耗等による劣化を抑制し、長期にわたって安定した動作が可能となる。
また、図7に示すように、細径部23と貫通孔24の内周面24aとの間に隙間が生じても、保油膜31,32の表面には潤滑油8が残る。よって、保油膜31,32が露出せず、そのため、軸体21が軸受22に対して摺動した場合でも保油膜31,32の摩耗、剥離等は起こりにくい。したがって、長期にわたって保油性能を維持し、安定した動作が可能となる。
【0047】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る時計用部品30(機械部品)について、図8を参照して説明する。
図8は、時計用部品30を示す断面図である。以下、既出の実施形態との共通部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0048】
図8に示すように、時計用部品30は、撥油膜14〜17が形成されていること以外は第1実施形態の時計用部品10と同じ構成である。
ホゾ部3の外周面3bのうち、保油膜11が形成された外周面7aに隣り合う領域(第1隣合領域3cという)には、撥油膜14が形成されている。撥油膜14は、被形成面(第1隣合領域3c)より親油性が低い。
第1隣合領域3cは、外周面7aにホゾ部3の全周にわたって隣接している。そのため、撥油膜14は、ホゾ部3の全周にわたって保油膜11に隣接している。撥油膜14が形成された領域(第1隣合領域3c)は、ホゾ部3の表面のうち保油膜11が形成されていない領域の全部であってもよいし、一部領域であってもよい。
【0049】
穴石5の表面のうち、受石6に対向する第1面5aには、撥油膜15が形成されている。撥油膜15は、被形成面(第1面5a)より親油性が低い。第1面5aは、保油膜12が形成された内周面4aに隣り合う第2隣合領域の一例である。第1面5aは、穴石5の全周にわたって内周面4aに隣接する領域である。よって、撥油膜15は、穴石5の全周にわたって保油膜12に隣接している。撥油膜15は、第1面5aの全部に形成されていてもよいし、一部領域に形成されていてもよい。
【0050】
穴石5の表面のうち、第1面5aとは反対の面である第2面5bには、撥油膜16が形成されている。撥油膜16は、被形成面(第2面5b)より親油性が低い。第2面5bは、保油膜12が形成された内周面4aに隣り合う第2隣合領域の他の例である。第2面5bは、穴石5の全周にわたって内周面4aに隣接する領域である。よって、撥油膜16は、穴石5の全周にわたって保油膜12に隣接している。撥油膜16は、第2面5bの全部に形成されていてもよいし、一部領域に形成されていてもよい。
【0051】
受石6の対向面6aのうち、対面領域6bに隣り合う領域(外周領域6c)には、撥油膜17が形成されている。撥油膜17は、被形成面(外周領域6c)より親油性が低い。外周領域6cは、対面領域6bを囲み、受石6の全周にわたって対面領域6bに隣接する領域である。よって、撥油膜17は、受石6の全周にわたって保油膜13に隣接している。撥油膜17が形成された外周領域6cは、対向面6aのうち保油膜13が形成されていない領域の全部であってもよいし、一部領域であってもよい。
【0052】
撥油膜14〜17の表面における前記接触角が、被形成面における前記接触角より大きい場合は、撥油膜14〜17は、被形成面より親油性が低いといえる。撥油膜14〜17は、例えば、被形成面の構成材料よりも表面エネルギーの小さい材料からなる。
【0053】
撥油膜14〜17は、例えば、次に示す式(7)で表される化合物を含有する。
【0054】
【化7】
(M2はSi、Ti、Zrのうちいずれか1つである。Rfはフッ素含有基である。Y3、Y4は炭化水素基、水酸基、または、加水分解等により水酸基を生成する官能基である。Z2は、極性基である。)
【0055】
フッ素含有基としては、例えば1または複数のフッ素原子を含むアルキル基を例示できる。1または複数のフッ素原子を含むアルキル基としては、パーフルオロアルキル基、パーフルオロポリエーテル基を例示できる。
前記「加水分解等により水酸基を生成する官能基」は、例えばアルコキシ基、アミノキシ基、ケトオキシム基、アセトキシ基などであり、これらのうち1または2以上を使用できる。アルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などであり、これらのうち1または2以上を使用できる。
前記極性基は、極性を有する官能基である。前記極性基は、例えば、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、リン酸基、フォスフィノ基、シラノール基、エポキシ基、イソシアネート基、シアノ基、ビニル基、チオール基などであり、これらのうち1または2以上を使用できる。
撥油膜14〜17中の、式(7)に示す化合物の含有量は、例えば50質量%以上である。
【0056】
式(7)に示す化合物は、例えば、極性基が、脱水縮合、水素結合などにより、被形成面(第1隣合領域3c、第1面5a、第2面5bおよび外周領域6c)を構成する材料(例えば金属などの無機物)に結合または吸着する。
式(7)で示される化合物において、Z2、Y3およびY4で表される官能基は、結合により構成元素の一部が欠けた形態であってもよい。例えば、Z2としての水酸基(−OH)は、脱水縮合により被形成面と結合することにより「−O−」という形態となっていてもよい。Y3およびY4としての水酸基(−OH)は、脱水縮合により他のY3またはY4と結合することにより「−O−」という形態となっていてもよい。同様に、カルボキシ基(−COOH)は、結合により「−COO−」という形態になっていてもよい。
式(7)に示す化合物は、撥油膜14〜17の撥油性能を高めることができる。
【0057】
式(7)に示す化合物としては、例えば、次に示す式(8)の化合物を例示できる。
【0058】
【化8】
【0059】
式(7)に示す化合物は、例えば、次に示す式(9)の化合物を加水分解することにより得られる。
【0060】
【化9】
(X2は、加水分解等により水酸基を生成する官能基である。)
【0061】
前記「加水分解等により水酸基を生成する官能基」は、例えばアルコキシ基、アミノキシ基、ケトオキシム基、アセトキシ基などであり、これらのうち1または2以上を使用できる。アルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などであり、これらのうち1または2以上を使用できる。
式(9)に示す化合物としては、例えば、トリメトキシ(1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル)シラン、およびトリエトキシ−1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシランを例示できる。トリメトキシ(1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル)シランは、次に示す式(10)の化合物である。
【0062】
【化10】
【0063】
(撥油膜の形成)
撥油膜14〜17の形成には、例えば、式(7)の化合物を含む撥油剤と溶媒とを含む撥油処理剤が用いられる。
撥油剤には、添加剤(例えばジブチル錫ジウラレートなどの硬化触媒等)を添加してもよい。添加剤の添加量は例えば0.001〜5質量%である。
溶媒としては、保油剤に用いる溶媒として例示したものを使用できる。なお、撥油処理剤は、溶媒を含まなくてもよい。
【0064】
撥油膜14〜17を形成するには、被形成面(第1隣合領域3c、第1面5a、第2面5bおよび外周領域6c)に、前記撥油処理剤を塗布して塗膜を形成する。この塗膜を乾燥させて溶媒を除去することによって、撥油膜14〜17を得る。
【0065】
撥油膜14〜17は、保油膜11〜13の形成後に形成することが好ましい。これにより、撥油膜14〜17を保油膜11〜13に隙間なく隣接させて形成することができる。 これにより、潤滑油8が軸体1と軸受2との間から流出するのを確実に防ぐことができる。よって、流出した潤滑油8によって部品どうしが固着する不具合(リンキング)の発生を防止できる。
【0066】
時計用部品30は、保油膜11〜13を有するため、潤滑油8の流出が起こりにくい。そのため、第1実施形態の時計用部品10と同様に、長期にわたって安定した動作が可能となる。
【0067】
時計用部品30は、保油膜11〜13に隣り合う撥油膜14〜17を有するため、潤滑油8が保油膜11〜13の表面から流出しにくくなる。よって、保油膜11〜13における保油性能をさらに高めることができる。したがって、長期にわたって安定した動作が可能となる。
【0068】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る時計用部品40(機械部品)について、図9を参照して説明する。
図9は、時計用部品40を示す断面図である。以下、既出の実施形態との共通部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0069】
図9に示すように、時計用部品40は、撥油膜34〜37が形成されていること以外は第2実施形態の時計用部品20と同じ構成である。
【0070】
細径部23の外周面23bのうち、保油膜31が形成された外周面27aに隣り合う領域(第1隣合領域23cという)には、撥油膜34が形成されている。撥油膜34は、被形成面(第1隣合領域23c)より親油性が低い。
第1隣合領域23cは、外周面27aに細径部23の全周にわたって隣接している。そのため、撥油膜34は、細径部23の全周にわたって保油膜31に隣接している。撥油膜34が形成された領域(第1隣合領域23c)は、細径部23の外周面23bのうち保油膜31が形成されていない領域の全部であってもよいし、一部領域であってもよい。
【0071】
穴石25の表面のうち、第1面25aには、撥油膜35が形成されている。撥油膜35は、被形成面(第1面25a)より親油性が低い。
第1面25aは、保油膜32が形成された内周面24aに隣り合う第2隣合領域の一例である。第1面25aは、穴石25の全周にわたって内周面24aに隣接する領域である。よって、撥油膜35は、穴石25の全周にわたって保油膜32に隣接している。撥油膜35は、第1面25aの全部に形成されていてもよいし、一部領域に形成されていてもよい。
【0072】
穴石25の表面のうち、第1面25aとは反対の面である第2面25bには、撥油膜36が形成されている。撥油膜36は、被形成面(第2面25b)より親油性が低い。
第2面25bは、保油膜32が形成された内周面24aに隣り合う第2隣合領域の他の例である。第2面25bは、穴石2の全周にわたって内周面24aに隣接する領域である。よって、撥油膜36は、穴石25の全周にわたって保油膜32に隣接している。撥油膜36は、第2面25bの全部に形成されていてもよいし、一部領域に形成されていてもよい。
【0073】
拡径部26の対向面26aのうち、細径部23の外周面23bに隣り合う領域(外周領域26c)には、撥油膜37が形成されている。撥油膜37は、被形成面(外周領域26c)より親油性が低い。
【0074】
撥油膜34〜37の材料等は、第3実施形態における撥油膜14〜17と同様成とすることができる。
【0075】
時計用部品40は、保油膜31,32を有するため、潤滑油8の流出が起こりにくい。そのため、第3実施形態の時計用部品30と同様に、長期にわたって安定した動作が可能となる。
【0076】
時計用部品40は、保油膜31,32に隣り合う撥油膜34〜37を有するため、潤滑油8が保油膜31,32の表面から流出しにくくなる。よって、保油膜31,32における保油性能をさらに高めることができる。したがって、長期にわたって安定した動作が可能となる。
【0077】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態に係る時計用部品50(機械部品)について、図10図12を参照して説明する。図10は、本発明に係る第5実施形態の時計用部品50を示す側面図である。図11は、保油膜および撥油膜を形成する前の状態の時計用部品50Aを示す側面図である。図12は、保油膜を形成した時計用部品50Aを示す側面図である。
【0078】
図10に示すように、時計用部品50は、歯車60(第1部品)と、軸受(第2部品)(図示略)とを備えている。
歯車60は、軸部51と、軸部51に固定された歯車部52とを備えている。
軸部51の第1端部53(第1ホゾ部)および第2端部54(第2ホゾ部)は、前記軸受(第2部品)に回転可能に支持される。第1端部53および第2端部54の外周面(第1表面領域)は、前記軸受の内周面(第2表面領域)に対して摺動する可能性がある。軸部51の中間部55(長さ方向の中間部)の外周面(第1表面領域)は、筒かな(図示略)の内周面(第2表面領域)に対して摺動する可能性がある。
【0079】
軸部51の第1端部53、第2端部54および中間部55の外周面には、それぞれ保油膜61,62,63が形成されている。保油膜61〜63の材料等は、第1実施形態における保油膜11〜13と同様とすることができる。
軸部51の外周面のうち、第1端部53と中間部55との間の第1中間領域56(第1隣合領域)、および、中間部55と第2端部54との間の第2中間領域57(第2隣合領域)には、それぞれ撥油膜64,65が形成されている。撥油膜64,65の材料等は、第3実施形態における撥油膜14〜17と同様とすることができる。
第1端部53および第2端部54を支持する軸受(第2部品)としては、例えば図1等に示す軸受2と同様の構成を例示できる。
【0080】
時計用部品50は、例えば、次のようにして作製できる。
図11および図12に示すように、保油膜61〜63および撥油膜64,65を形成していない時計用部品50Aの第1端部53、第2端部54および中間部55の外周面に、それぞれ保油膜61,62,63を形成する。
保油膜61,62は、例えば、第1端部53および第2端部54に保油処理剤をディップ法によって塗布し、乾燥させることで形成することができる。
保油膜63は、例えば、中間部55に保油処理剤を刷毛塗り等によって塗布し、乾燥させることで形成することができる。
次いで、保油膜61〜63を形成した時計用部品50Aの全体を撥油処理剤に浸漬させることにより、撥油処理剤を第1中間領域56および第2中間領域57に塗布する。撥油処理剤を乾燥させることにより、撥油膜64,65を形成する。これにより、図10に示す時計用部品50を得る。
【0081】
時計用部品50では、保油膜61〜63を有するため、潤滑油の流出が起こりにくい。よって、長期にわたって安定した動作が可能となる。
時計用部品50では、保油膜61〜63に隣り合う撥油膜64,65を有するため、潤滑油が保油膜61〜63の表面から流出しにくくなる。よって、保油膜61〜63における保油性能をさらに高めることができる。
【0082】
[第6実施形態]
(機械式時計)
本発明の第6実施形態の時計用部品(機械部品)である脱進機構を用いた機械式時計201について説明する。図13は、ムーブメント表側の平面図である。
図13に示すように、機械式時計201は、ムーブメント210と、このムーブメント210を収納するケーシング(図示略)と、により構成されている。
【0083】
ムーブメント210は、基板を構成する地板211を有している。この地板211の裏側には図示しない文字板が配されている。なお、ムーブメント210の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント210の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。
地板211には、巻真案内穴211aが形成されており、ここに巻真212が回転自在に組み込まれている。この巻真212は、おしどり213、かんぬき214、かんぬきばね215及び裏押さえ216を有する切換装置により、軸方向の位置が決められている。また、巻真212の案内軸部には、きち車217が回転自在に設けられている。
【0084】
巻真212が、回転軸方向に沿ってムーブメント210の内側に一番近い方の第1の巻真位置(0段目)にある状態で巻真212を回転させると、図示しないつづみ車の回転を介してきち車217が回転する。そして、このきち車217が回転することにより、これと噛合う丸穴車220が回転する。そして、この丸穴車220が回転することにより、これと噛合う角穴車221が回転する。さらに、この角穴車221が回転することにより、香箱車222に収容された図示しないぜんまい(動力源)を巻き上げる。
【0085】
ムーブメント210の表輪列は、上述した香箱車222の他に、二番車225、三番車226及び四番車227により構成されており、香箱車222の回転力を伝達する機能を果している。また、ムーブメント210の表側には、表輪列の回転を制御するための脱進機構230及び調速機構231が配置されている。
【0086】
二番車225は、香箱車222に噛合う歯車とされている。三番車226は、二番車225に噛合う歯車とされている。四番車227は、三番車226に噛合う歯車とされている。
調速機構231は、脱進機構230を調速する機構であって、てんぷ240を具備している。
【0087】
(脱進機構)
脱進機構230は、上述した表輪列の回転を制御する機構であって、四番車227と噛み合うがんぎ車235(第1部品)と、このがんぎ車235を脱進させて規則正しく回転させるアンクル236(第2部品)と、を備えている。脱進機構230は、本発明の第6実施形態に係る時計用部品(機械部品)である。
【0088】
図14は、がんぎ車235の平面図である。図15は、アンクル236の平面図である。 図14に示すように、がんぎ車235は、がんぎ歯車部101と、がんぎ歯車部101に同軸で固定された軸部材102と、を備えている。軸部材102の軸線に直交する方向を径方向という。図14では、がんぎ車235の回転方向をCWで示している。
【0089】
がんぎ歯車部101は、環状のリム部111と、リム部111の内側に配置されたハブ部112と、これらリム部111及びハブ部112を連結する複数のスポーク部113と、を有している。ハブ部112は、円板形状であり、その中央部分に軸部材102が圧入等により固定されている。各スポーク部113は、ハブ部112の外周縁からリム部111の内周縁に向かって放射状に延在している。
【0090】
リム部111の外周面には、特殊な鉤型状に形成された複数の歯部114が径方向の外側に向けて突設されている。これら複数の歯部114の先端部に、後述するアンクル36の爪石144a,144b(図15参照)が噛み合うようになっている。
【0091】
歯部114における先端部の側面は、がんぎ車235の回転方向CWにおける奥側に位置して、爪石144a,144bが当接する停止面115aと、回転方向CWにおける手前側に位置する背面115bと、歯部114の先端面である衝撃面115cと、を有している。
停止面115aと衝撃面115cとにより構成される角部は、ロッキングコーナ115dとして機能する。背面115bと衝撃面115cとにより構成される角部は、リービングコーナ115eとして機能する。
歯部114のうち、停止面115aからロッキングコーナ115dを経てリービングコーナ115eに至る範囲は摺動面115(第1表面領域)を構成している。
【0092】
摺動面115には、保油膜116が形成されている。保油膜116の材料等は、第1実施形態における保油膜11〜13と同様とすることができる。
がんぎ車235の表面のうち少なくとも摺動面115に隣り合う領域には、第3実施形態における撥油膜14〜17と同様の撥油膜を形成してもよい。
【0093】
図15に示すように、アンクル236は、3つのアンクルビーム143によってT字状に形成されたアンクル体142dと、アンクル真142fと、を備えている。アンクル体142dは、軸であるアンクル真142fによって回動可能に構成されている。アンクル真142fは、その両端が上述の地板211及び図示しないアンクル受に対してそれぞれ回動可能に支持されている。なお、アンクル236は、図示しないドテピンにより回動範囲が規制されている。
【0094】
3つのアンクルビーム143のうち2つのアンクルビーム143の先端には、爪石(入爪石144a及び出爪石144b)が設けられ、残り1つのアンクルビーム143の先端には、てんぷ240の振り座(不図示)と係脱可能なアンクルハコ145が取り付けられている。爪石(入爪石144a及び出爪石144b)は、角柱状に形成されたルビーからなり、接着剤等によりアンクルビーム143に接着固定されている。
【0095】
出爪石144bの先端部は、がんぎ歯車部101の回転方向CWにおける手前側に位置して歯部114の停止面115aに当接する停止面146aと、回転方向CWの奥側に位置する背面146bと、出爪石144bの先端面である衝撃面146cと、を有している。
停止面146aと衝撃面146cとにより構成される角部は、ロッキングコーナ146dとして機能する。背面146bと衝撃面146cとにより構成される角部は、リービングコーナ146eとして機能する。
出爪石144bのうち、停止面146aからロッキングコーナ146dを経てリービングコーナ146eに至る範囲は摺動面146(第2表面領域)を構成している。
なお、爪石144a,144bのうち入爪石144aの先端部の構成は出爪石144bの先端部の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0096】
摺動面146には、保油膜147が形成されている。保油膜147の材料等は、第1実施形態における保油膜11〜13と同様とすることができる。
爪石144a,144bの表面のうち少なくとも摺動面146に隣り合う領域には、第3実施形態における撥油膜14〜17と同様の撥油膜を形成してもよい。
【0097】
脱進機構230は、保油膜116,147を有するため、潤滑油の流出が起こりにくい。そのため、長期にわたって安定した動作が可能となる。
保油膜116,147に隣り合う撥油膜を形成する場合は、保油膜116,147における保油性能をさらに高めることができる。
【0098】
(機構モジュール)
図13に示すムーブメント210の一部であって、例えば、脱進機構230(図13参照)と、がんぎ車235の軸部材102(図14参照)の軸受(図示略)と、アンクル236のアンクル真142f(図15参照)の軸受(図示略)を備えたユニットは、「機構モジュール」の一例である。
機構モジュールの他の例としては、香箱車222、二番車225、三番車226及び四番車227(図13参照)と、これらの軸受(図示略)とを備えたユニットを挙げることができる。
機構モジュールは、アナログクオーツ式の時計に用いられるギヤボックス等であってもよい。
【0099】
[第7実施形態]
図16は、本発明の第7実施形態に係る時計用部品(機械部品)の軸受(第2部品)を構成する穴石75を示す斜視図および断面図である。
穴石75は、例えば平面視において円形状とされている。穴石75は、貫通孔74を有する。
貫通孔74は、例えば平面視において穴石75の中央に形成されている。貫通孔74は、例えば平面視において円形状とされている。貫通孔74には、例えば、軸体(第1部品)のホゾ部が挿入される。軸体(第1部品)としては、例えば、図1等に示す軸体1と同様の構成を例示できる。
【0100】
穴石75の貫通孔74の内周面74a(第2表面領域)には、保油膜71が形成されている。保油膜71は、第1実施形態における保油膜11〜13と同様の構成とすることができる。
穴石75の第1面75aおよび第2面75bには、それぞれ撥油膜72,73が形成されている。撥油膜72,73は、第3実施形態における撥油膜14〜17と同様の構成とすることができる。
【0101】
前記時計用部品は、穴石75が保油膜71を有するため、潤滑油の流出が起こりにくい。そのため、長期にわたって安定した動作が可能となる。
前記時計用部品は、保油膜71に隣り合う撥油膜72,73を有するため、保油膜71における保油性能をさらに高めることができる。
【0102】
[第8実施形態]
本発明の第8実施形態の時計用部品(機械部品)について説明する。図17は、第8実施形態の時計用部品(機械部品)を用いたムーブメント310の一部を示す断面図である。
ムーブメント310は、二番車343と、二番車343の回転に基づいて回転する図示しない日の裏車(図示略)と、日の裏車の回転に基づいて回転する筒車344と、を備える。
二番車343は、車軸360を有している。車軸360は、中心軸線C3と同軸となるように延びるとともに、中心パイプ325内に回転可能に挿通されている。中心パイプ325は、中心軸線C3と同軸となるように延びるとともに、地板320に保持されている。
車軸360の上端部360aは、第1輪列受328に配設されたほぞ枠363に軸支されている。車軸360の下端部360bは、中心パイプ325よりも下方に突出している。車軸360の下端部360bには、分針313が取り付けられている。
【0103】
筒車344は、二番車343の中心軸線C3と同軸となるように配置され、中心パイプ325に回転可能に外挿されている。筒車344は、日の裏車(不図示)等を介して二番車343に噛み合う筒歯車344aを有する。筒車344の下端部には、時針312が取り付けられている。
【0104】
二番車343と、中心パイプ325と、筒車344とは、本発明の第8実施形態の時計用部品(機械部品)を構成する。
二番車343は、第1部品の第1の例である。中心パイプ325は、第2部品の一例である。二番車343の車軸360は中心パイプ325に対して回転するため、車軸360の外周面(第1表面領域)は中心パイプ325の内周面(第2表面領域)に対して摺動する可能性がある。
二番車343の車軸360の外周面の一部または全部には、第1実施形態における第1保油膜11(図1参照)と同様の構成の保油膜を形成することができる。
中心パイプ325の内周面の一部または全部には、第1実施形態における第2保油膜12(図1参照)と同様の構成の保油膜を形成することができる。
【0105】
筒車344は、第1部品の第2の例である。筒車344は、中心パイプ325に対して回転するため、筒車344の内周面(第1表面領域)は中心パイプ325の外周面(第2表面領域)に対して摺動する可能性がある。
筒車344の内周面の一部または全部には、第1実施形態における第1保油膜11(図1参照)と同様の構成の保油膜を形成することができる。
中心パイプ325の外周面の一部または全部には、第1実施形態における第2保油膜12(図1参照)と同様の構成の保油膜を形成することができる。
【0106】
前記時計用部品では、前記保油膜を有するため、潤滑油の流出が起こりにくい。そのため、長期にわたって安定した動作が可能となる。
【0107】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、図1に示す第1実施形態の時計用部品10等では、軸体1(第1部品)と、軸受2(第2部品)の両方に保油膜が形成されているが、保油膜は、第1部品と第2部品のうち少なくともいずれか一方に形成されていればよい。例えば、図1に示す時計用部品10において、第1保油膜11と第2保油膜12のうちいずれか一方のみを有する構成が可能である。
【0108】
図1に示す時計用部品10では、第1保油膜11は挿入部7の外周面7a(第1表面領域)に形成されているが、保油膜は少なくとも第1表面領域に形成されていればよく、第1部品の表面のうち第1表面領域より広い範囲にわたって形成されていてもよい。また、保油膜は第1表面領域の全域ではなく一部にのみ形成されていてもよい。
同様に、図1に示す時計用部品10では、第2保油膜12は貫通孔4の内周面4a(第2表面領域)に形成されているが、保油膜は少なくとも第2表面領域に形成されていればよく、第2部品の表面のうち第2表面領域より広い範囲にわたって形成されていてもよい。また、保油膜は第2表面領域の全域ではなく一部にのみ形成されていてもよい。
【0109】
図8に示す第3実施形態の時計用部品30等では、撥油膜は保油膜に隣接して形成されているが、撥油膜は、保油膜に隙間をおいて隣り合っていてもよい。
前記機械部品は、第1部品と第2部品とが相対的に摺動可能であればよい。すなわち、第1部品が第2部品に対して摺動してもよいし、第2部品が第1部品に対して摺動してもよい。また、第1部品と第2部品の両方が動作することによってこれらが互いに摺動してもよい。
【0110】
図18は、軸体1(図1参照)の第1変形例を示す概略図である。図18に示すように、軸体1Aのホゾ部3の挿入部7の外周面7aには、凹部9Aが形成されている。凹部9Aは、軸体1Aの軸周り方向に沿う環状の溝である。凹部9Aの断面の形状(軸体1Aの中心軸を通る断面の形状)は矩形状である。第1保油膜は、少なくとも外周面7a、凹部9Aの内面、およびホゾ部3の先端面3aに形成される。
図19は、軸体1の第2変形例を示す概略図である。図19に示す軸体1Bは、凹部9Bの断面の形状(軸体1Bの中心軸を通る断面の形状)が円弧状である点で第1変形例の軸体1A(図18参照)と異なる。第1保油膜は、少なくとも外周面7a、凹部9Bの内面、およびホゾ部3の先端面3aに形成される。この軸体1Bは、凹部9Bが断面円弧状であるため、凹部9Bが形成された箇所において曲げ方向の力が集中しにくい。よって、軸体1Bは折れ破損しにくい。
図20は、軸体1の第3変形例を示す概略図である。図20に示す軸体1Cは、外周面7aに、軸体1Cの軸方向に間隔をおいて、一対の環状凸部18が形成されている。環状凸部18の断面の形状(軸体1Cの中心軸を通る断面の形状)は矩形状である。2つの環状凸部18の間は凹部9Cとなっている。凹部9Cの断面の形状(軸体1Cの中心軸を通る断面の形状)は矩形状である。第1保油膜は、少なくとも外周面7a、環状凸部18の外面、凹部9Cの内面、およびホゾ部3の先端面3aに形成される。
【0111】
図21は、軸体1の第4変形例を示す概略図である。図21に示す軸体1Dは、外周面7aの一部である環状領域19に、中心軸方向に沿う複数の溝状凹部9Dが、軸周り方向に間隔をおいて形成されている。溝状凹部9Dは、環状領域19の中心軸方向の一端から他端にかけて連続して形成されている。
図22は、軸体1の第5変形例を示す概略図である。図22に示す軸体1Eは、複数の溝状凹部9Eを有する。軸体1Eは、溝状凹部9Eが中心軸方向に対して傾斜している点で、図21に示す軸体1Dと異なる。中心軸方向に対する溝状凹部9Eの傾斜角度は0°を越え、90°未満である。
図23は、軸体1の第6変形例を示す概略図である。図23に示す軸体1Fは、複数の溝状凹部9Fを有する。軸体1Fは、溝状凹部9Fが軸周り方向に沿う環状である点で、図21に示す軸体1Dと異なる。
図24は、軸体1の第7変形例を示す概略図である。図24に示す軸体1Gは、環状領域19に、中心軸方向に沿う複数の溝状凹部9Gが形成されている。溝状凹部9Gは、図21に示す溝状凹部9Dに比べて短い。
図25は、軸体1の第8変形例を示す概略図である。図25に示す軸体1Hは、環状領域19に、複数のドット状の凹部9Hが互いに離れて形成されている。
図26は、軸体1の第9変形例を示す概略図である。図26に示す軸体1Iは、環状領域19に、格子状の溝状凹部9Iが形成されている。溝状凹部9Iは、中心軸方向に対して傾斜する複数の溝状凹部9I1と、溝状凹部9I1に交差する複数の溝状凹部9I2とを有する。
図21図26に示す軸体1A〜1Iでは、第1保油膜は、少なくとも外周面7a、溝状凹部9D〜9Iの内面、およびホゾ部3の先端面3aに形成される。
凹部9A〜9Iは、潤滑油の保持が可能な保持部である。
【0112】
図18図26に示す軸体1A〜1Iの凹部は、切削、転写、レーザー加工などによって形成することができる。保油膜は、保油処理剤を塗布することにより形成することができる。保油処理剤は、毛細管現象により凹部に浸透するため、凹部における選択的な保油膜の形成が容易となる。
軸体1A〜1Iは、軸受に対する摺動により外周面7aの保油膜が摩耗した場合でも、凹部9A〜9I内の保油膜は摩耗しにくい。そのため、軸体1A〜1Iは、潤滑油を保持し、長期にわたって安定した動作が可能となる。
なお、図21図24および図26に示す凹部9D〜9G,9Iは、外周面7aに形成された溝状の凹部であるが、凹部は、外周面7aに形成された複数の突条によって形成された凹部であってもよい(図20の凹部9C参照)。突条により形成された凹部にも、図21図24および図26に示す形状を適用できる。
【0113】
凹部の内面の表面積は大きい方が保油性能の点で好ましい。例えば、図18および図19に示す凹部9A,9Bは1段構造の凹部であるが、凹部の形状としては、凹部9A,9Bの底部にさらに1または複数の凹部を有する形状、すなわち多段構造を採用してもよい。多段構造の凹部は内面の表面積が大きいため、潤滑油が保持されやすい。よって、保油性能の点で優れている。
軸体としては、挿入部7の外周面7aに複数のドット状の凸部が形成された構成も例示できる。この例の軸体は、ドット状の凸部の間に確保された空間が、潤滑油の保持が可能な保持部である。
【0114】
図27は、がんぎ車235(図14参照)の第1変形例を示す構成図である。詳しくは、図27は、がんぎ車235Aの歯部114Aの先端部分の側面図である。図27に示すように、歯部114Aの先端面である衝撃面115Acには、凹部109Aが形成されている。凹部109Aの断面の形状(がんぎ車235Aの中心軸と平行、かつ衝撃面115Acに垂直な断面の形状)は、矩形状である。
図28は、がんぎ車235(図14参照)の第2変形例を示す構成図である。詳しくは、図28は、がんぎ車235Bの歯部114Bの先端部分の側面図である。図28に示すように、歯部114Bの先端面である衝撃面115Bcには、凹部109Bが形成されている。凹部109Bの断面の形状(がんぎ車235Bの中心軸と平行、かつ衝撃面115Bcに垂直な断面の形状)は、円弧状である。
【0115】
図29は、凹部109A,109B(図27および図28参照)の全体形状の第1の例を示す模式図である。図29に示すように、がんぎ車235A,235B(図27および図28参照)の歯部の衝撃面には、溝状の凹部109A(または凹部109B)が複数形成されている。凹部109A(または凹部109B)は、がんぎ車235A,235B(図27および図28参照)の軸周り方向に沿う溝状である。凹部109A(または凹部109B)は、歯部の衝撃面に、軸周り方向の一端から他端にかけて形成されている。この構造では、がんぎ車235A,235Bの摺動抵抗を低く抑えることができる。
【0116】
図30は、凹部109A,109B(図27および図28参照)の全体形状の第2の例を示す模式図である。図30に示す複数の凹部109A(または凹部109B)は、がんぎ車235A,235Bの中心軸方向に沿う溝状である。
図31は、凹部109A,109B(図27および図28参照)の全体形状の第3の例を示す模式図である。図31に示す複数の凹部109A(または凹部109B)は、がんぎ車235A,235Bの軸周り方向に沿う溝状であって、図29に示す凹部に比べて短い。
図32は、凹部109A,109B(図27および図28参照)の全体形状の第4の例を示す模式図である。図32に示す複数の凹部109A(または凹部109B)は、ドット状に形成されている。
図33は、凹部109A,109B(図27および図28参照)の全体形状の第5の例を示す模式図である。図33に示す複数の溝状の凹部109A(または凹部109B)は、軸周り方向に対して傾斜する方向に形成されている点で、図29に示す凹部と異なる。軸周り方向に対する溝状の凹部の傾斜角度は0°を越え、90°未満である。
図34は、凹部109A,109B(図27および図28参照)の全体形状の第6の例を示す模式図である。図34に示す溝状の凹部109A(または凹部109B)は、格子状に形成されている。
図29図34に示す凹部は、歯部の衝撃面に限らず、摺動面(停止面からロッキングコーナを経てリービングコーナに至る範囲)の全体に形成されていてもよい。
【0117】
図35は、爪石(図15参照)の第1変形例を示す構成図である。詳しくは、図35は、爪石144A(入爪石および出爪石)の先端部分の側面図である。図35に示すように、爪石144Aの先端面である衝撃面146Acには、凹部149Aが形成されている。凹部149Aの断面の形状(アンクルの中心軸と平行、かつ、衝撃面146Acに垂直な断面の形状)は、矩形状である。
図36は、爪石(図15参照)の第2変形例を示す構成図である。詳しくは、図36は、爪石144B(入爪石および出爪石)の先端部分の側面図である。図36に示すように、爪石144Bの先端面である衝撃面146Bcには、凹部149Bが形成されている。凹部149Bの断面の形状(アンクルの中心軸と平行、かつ、衝撃面146Bcに垂直な断面の形状)は、円弧状である。
凹部149A,149Bの全体形状は、図29図34のうちいずれかに示す形状であってよい。凹部149A,149Bは、爪石144A,144Bの衝撃面に限らず、摺動面(停止面からロッキングコーナを経てリービングコーナに至る範囲)の全体に形成されていてもよい。
凹部は、切削、転写、レーザー加工などによって形成することができる。
【0118】
がんぎ車235A,235Bおよび爪石144A,144Bの摺動面、および凹部の内面には、保油膜が形成される。保油膜は、保油処理剤を塗布することにより形成することができる。保油処理剤は、毛細管現象により凹部に浸透するため、凹部における選択的な保油膜の形成が容易となる。
がんぎ車235A,235Bおよび爪石144A,144Bは、摺動面の保油膜が摩耗した場合でも、凹部内の保油膜は摩耗しにくい。そのため、潤滑油を保持し、長期にわたって安定した動作が可能となる。
【0119】
保油膜は、例えば、日車の歯の側面、ジャンパ類の側面、香箱内壁などに適用してもよい。前記保持部(凹部)は、第1部品の第1表面領域と第2部品の第2表面領域のうち少なくともいずれか一方に形成されていればよい。前記保持部は、潤滑油を保持可能であれば、その形状は凹状に限らない。
【符号の説明】
【0120】
1,1A〜1I,21・軸体(第1部品)、2,22・軸受(第2部品)、3c,23c・第1隣合領域(保油膜に隣り合う領域)、4a,24a,74a・内周面(第2表面領域)、5a,25a・第1面(保油膜に隣り合う領域)、5b,25b・第2面(保油膜に隣り合う領域)、7a,27a・外周面(第1表面領域)、10,20,30,40,50・時計用部品(機械部品)、11・第1保油膜、12・第2保油膜、13・第3保油膜、14〜17、34〜37,64,65・撥油膜、31,32,61〜63,116,147・保油膜、60・歯車(第1部品)、75・穴石(第2部品)、56・第1中間領域(保油膜に隣り合う領域)、57・第2中間領域(保油膜に隣り合う領域)、115・摺動面(第1表面領域)、144a,144b,144A,144B…爪石、146・摺動面(第2表面領域)、210,310・ムーブメント、235,235A,235B・がんぎ車(第1部品)、236・アンクル(第2部品)、230・脱進機構(機械部品)、343・二番車(第1部品)、325・中心パイプ(第2部品)、344・筒車(第1部品)。
図1
図2
図3
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