(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被測定ガスに含まれる粒子状物質を検出するためのセンサ素子(10)と、上記センサ素子に接続される検出制御部(50)とを備える粒子状物質検出装置(1)であって、
上記センサ素子は、
上記粒子状物質よりも電気抵抗率が高い導電性材料にて構成され、上記粒子状物質が堆積する堆積面(20)を有する検出用導電層(2a)と、上記堆積面に配置される一対の検出用電極(3a、3b)とを有し、上記粒子状物質の堆積量に応じて上記一対の検出用電極の間の電気抵抗(Rs)が変化する粒子状物質検出部(3)と、
上記導電性材料からなり、上記粒子状物質が堆積しない位置に配置された非堆積面(21)を有する温度補償用導電層(2b)と、上記非堆積面に配置される一対の温度補償用電極(4a、4b)とを有する温度補償部(4)と、を有し、
上記一対の検出用電極は、第1出力端子(11)及び共通のグランド端子(13)にそれぞれ接続されており、
上記一対の温度補償用電極は、第2出力端子(12)及び上記共通のグランド端子にそれぞれ接続されており、
上記検出制御部は、
上記第1出力端子に接続されて、上記一対の検出用電極の間の電気抵抗に基づく第1出力信号(Va)を検出すると共に、上記第2出力端子に接続されて、上記一対の温度補償用電極の間の電気抵抗(Rb)に基づく第2出力信号(Vb)を検出する検出回路部(51)と、
上記第1出力信号及び上記第2出力信号との差分出力(V1)に基づいて粒子状物質の堆積量を算出する粒子状物質量算出部(52)と、を有している、粒子状物質検出装置。
上記粒子状物質量算出部は、上記差分出力を、上記堆積面に上記粒子状物質が堆積していない初期状態における上記第1出力信号と上記第2出力信号との差分出力である、初期差分(Vi)を用いて補正する、請求項1記載の粒子状物質検出装置。
上記粒子状物質量算出部は、上記初期差分と温度の関係を規定した初期差分マップ又は初期差分補正式を参照して、初期差分補正値(Vdi)を設定し、上記差分出力から上記初期差分補正値を減じて補正出力を得る、請求項2に記載の粒子状物質検出装置。
上記センサ素子は、通電により発熱するヒータ電極(61)を有し、上記ヒータ電極の発熱により、上記堆積面に堆積した上記粒子状物質を燃焼除去する再生処理のためにヒータ部(6)を、さらに備えており、
上記粒子状物質量算出部は、上記差分出力を、上記ヒータ部による上記再生処理の実施以降における上記第1出力信号と上記第2出力信号との差分出力である、経時差分(Vc)を用いて補正する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
上記粒子状物質量算出部は、上記経時差分と温度の関係を規定した経時差分マップ又は経時差分補正式を参照して、経時差分補正値(Vdc)を設定し、上記差分出力から上記経時差分補正値を減じて補正出力を得る、請求項4に記載の粒子状物質検出装置。
上記粒子状物質量算出部は、上記ヒータ部による上記再生処理の実施後に、上記第1出力信号と上記第2出力信号との経時差分値(Vc1)を検出し、上記経時差分値を用いて、上記経時差分マップ又は上記経時差分補正式を設定する、請求項5に記載の粒子状物質検出装置。
上記ヒータ電極への通電と、上記第1出力信号の検出と、上記第2出力信号の検出とは、異なるタイミングで実施される、請求項4〜7のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
上記粒子状物質量算出部は、上記一対の温度補償用電極の出力から上記センサ素子の温度を推定し、推定された温度と上記粒子状物質の温度特性に基づいて、上記差分出力を補正する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の粒子状物質検出装置。
上記検出用導電層は、上記絶縁性基体と反対側の表面を上記堆積面としており、上記温度補償用導電層は、上記絶縁性基体と反対側の表面を上記非堆積面としている、請求項10に記載の粒子状物質検出装置。
上記温度補償部は、上記温度補償用導電層及び上記一対の温度補償用電極の全体が、ガス透過性絶縁膜によって被覆されている、請求項10又は11に記載の粒子状物質検出装置。
上記ガス透過性絶縁膜は、被測定ガスに含まれるガス成分を通過させる複数の連通孔を有する多孔質体、又は、上記ガス成分をイオン化して透過させる酸化物材料からなる、請求項12に記載の粒子状物質検出装置。
上記検出用導電層と上記温度補償用導電層とは、一体の導電体層(2)を構成しており、上記導電体層は、上記絶縁性基体と反対側の表面を上記堆積面としており、上記絶縁性基体側の表面を上記非堆積面としている、請求項14に記載の粒子状物質検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
粒子状物質検出装置に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
図1〜
図4に示すように、粒子状物質検出装置1は、被測定ガスに含まれる粒子状物質を検出するためのセンサ素子10と、センサ素子10に接続されて粒子状物質の検出を制御する検出制御部50とを備えている。被測定ガスは、例えば、自動車エンジンから排出される燃焼排ガスであり、導電性成分であるSootを主体とする粒子状物質を含む。粒子状物質の排出量や粒子の状態、例えば、粒子径や化学組成は、エンジンの運転状態により変化する。
【0014】
センサ素子10は、電気抵抗型の板状素子であり、粒子状物質検出部(以下、PM検出部と称する)3と、温度補償部4と、第1出力端子11と、第2出力端子12と、共通のグランド端子13と、を有している。また、センサ素子10には、ヒータ部6が内蔵されており、ヒータ制御部60によって制御される。検出制御部50は、ヒータ制御部60と共に、センサ制御部5を構成している。
【0015】
PM検出部3は、粒子状物質よりも電気抵抗率が高い導電性材料にて構成され、粒子状物質が堆積する堆積面31を有する検出用導電層2aと、堆積面31に配置される一対の検出用電極3a、3bとを有する。一対の検出用電極3a、3bは、堆積面31の一部を挟んで互いに対向し、粒子状物質の堆積量に応じて一対の検出用電極3a、3bの間の電気抵抗(以下、適宜、検出用電極間抵抗Rsと称する)が変化する。
【0016】
温度補償部4は、検出用導電層2aと同様の導電性材料からなり、粒子状物質が堆積しない位置に配置された非堆積面41を有する温度補償用導電層2bと、非堆積面41に配置される一対の温度補償用電極4a、4bとを有する。一対の温度補償用電極4a、4bは、非堆積面41の一部を挟んで互いに対向し、PM検出部3による出力を温度補償する。
【0017】
PM検出部3は、一対の検出用電極3a、3bが、第1出力端子11と共通のグランド端子13とにそれぞれ接続される。温度補償部4は、一対の温度補償用電極4a、4bが、第2出力端子12と共通のグランド端子13とにそれぞれ接続される。
検出用導電層2a、温度補償用導電層2bを構成する導電性材料については、詳細を後述する。
【0018】
センサ制御部5は、検出回路部51及び粒子状物質量算出部(以下、PM量算出部と称する)52を有する検出制御部50と、ヒータ制御部60と、を備えている。
検出回路部51は、第1出力端子11に接続されて、検出用電極間抵抗Rsに基づく第1出力信号(以下、PM検出信号Vaと称する)を出力すると共に、第2出力端子12に接続されて、温度補償部4の一対の温度補償用電極4a、4bの間の電気抵抗(以下、適宜、補償用電極間抵抗Rbと称する)に基づく第2出力信号(以下、温度補償信号Vbと称する)を検出する。
PM量算出部52は、検出回路部51にて検出されるPM検出信号Va及び温度補償信号Vbとの差分出力V1に基づいて粒子状物質の堆積量を算出する。
【0019】
ヒータ制御部60は、センサ素子10が内蔵するヒータ部6へ制御信号を出力し、ヒータ電極61へ電力を供給して、センサ素子10を所定の温度に加熱する。例えば、粒子状物質の検出に先立ってヒータ部6を作動させ、PM検出部3の堆積面31に堆積した粒子状物質を燃焼除去する。これにより、センサ素子10を再生することができる。
センサ制御部5を構成する各部の詳細については、後述する。
【0020】
次に、センサ素子10の構成について詳述する。
図1、
図2に示すように、センサ素子10は、PM検出部3と、温度補償部4と、ヒータ部6と、絶縁性基体100とを有する。絶縁性基体100は、矩形板状の絶縁板101〜103からなる。PM検出部3と、温度補償部4と、ヒータ部6とは、それぞれ、絶縁板101〜103に対して同じ側(例えば、
図1の上面側)に配置され、絶縁板101〜103を挟んで、この順に積層される。これにより、PM検出部3と、温度補償部4と、ヒータ部6とが、絶縁性基体100と共に一体化されたセンサ素子10となる。
【0021】
絶縁性基体100となる、絶縁板101〜103は、例えば、アルミナ等の絶縁性セラミックス材料からなる。
以下、絶縁性基体100の長手方向及び幅方向を、センサ素子10の長手方向X及び幅方向Yとし、絶縁性基体100の積層方向を、センサ素子10の積層方向Zとする。
【0022】
絶縁性基体100は、概略同形の2枚の絶縁板102、103と、これら絶縁板102、103より長手方向Xの長さが短い絶縁板101とからなる。絶縁板101〜103は、長手方向Xの基端側(例えば、
図1の右端側)が揃うように配置されている。基端側において、絶縁性基体100の上面となる絶縁板101の表面には、第1出力端子11、第2出力端子12が設けられ、絶縁性基体100の下面となる絶縁板103の表面には、グランド端子13と、ヒータ端子14が設けられる。
【0023】
センサ素子10は、長手方向Xにおいて基端側と反対側を先端側(例えば、
図1の左端側)とし、絶縁板101の先端側に接して、検出用導電層2a、温度補償用導電層2bが設けられる。
【0024】
PM検出部3は、センサ素子10の先端側の最上面となる検出用導電層2aの表面が、被測定ガスに晒される堆積面31となる。堆積面31には、一対の検出用電極3a、3bが、幅方向Yに所定の間隔をおいて互いに対向するように配置される。検出用電極3a、3bは、それぞれ長手方向Xに延びる線状電極であり、長手方向Xに延びる一対のリード部32a、32bを介して、第1出力端子11、グランド端子13にそれぞれ接続される。
【0025】
温度補償部4は、検出用導電層2aと絶縁板102との間に配置される温度補償用導電層2bを有する。温度補償用導電層2bは、絶縁板102側(すなわち、下面側)の表面を、非堆積面41としている。非堆積面41には、一対の温度補償用電極4a、4bが、幅方向Yに所定の間隔をおいて互いに対向するように配置される。温度補償用電極4a、4bは、それぞれ長手方向Xに延びる線状電極であり、長手方向Xに延びる一対のリード部42a、42bを介して、第2出力端子12、グランド端子13にそれぞれ接続される。
【0026】
図3に示すように、検出用導電層2aの上面に形成される一対の検出用電極3a、3bは、検出用導電層2aの先端側から基端縁部へ延びて、絶縁板101の上面に形成される一対のリード部32a、32bに接続される。一方の検出用電極3aに接続されるリード32aは、絶縁板101の先端縁部から基端部に延びて、第1出力端子11に接続している。他方の検出用電極3bに接続されるリード部32bは、絶縁板101の先端縁部から基端側へ延びて、端子取出用の導電部15に接続している。
【0027】
図4に示すように、温度補償用導電層2bは、絶縁板102の先端側の上面に形成される一対の温度補償用電極4a、4bの全体を覆うように配置される。一対の温度補償用電極4a、4bは、温度補償用導電層2bの基端縁部において、一対のリード部42a、42bに接続される。一方の温度補償用電極4aに接続されるリード部42aは、絶縁板102の基端側へ延びて、端子取出用の導電部16に接続している。他方の温度補償用電極4bに接続されるリード部42bは、絶縁板102の基端側に延びて、端子取出用の導電部17に接続している。
【0028】
図1において、ヒータ部6は、絶縁板103の先端側の上面に形成されるヒータ電極61と、ヒータ電極61の両端に接続されて基端側へ延びる一対のリード部62a、62bとからなる。絶縁板103の基端部において、一対のリード部62a、62bは、一方のリード部62aが端子取出用の導電部18に、他方のリード部62bが、端子取出用の導電部19にそれぞれ接続している。導電部18は、絶縁板103の下面に形成されるヒータ端子14に接続され、導電部19は、絶縁板103を貫通してその下面に形成されるグランド端子13に接続される。
【0029】
積層方向Zにおいて、導電部15、17は、絶縁板101、102の同位置を貫通して、リード部62bの途中に設けられる導電部19aと接続される。これにより、PM検出部3の検出用電極3bと、温度補償部4の温度補償用電極4bと、ヒータ部6のヒータ電極61の一端が、導電部19を介して、共通のグランド端子13と電気的に接続される。温度補償部4の温度補償用電極4aは、導電部16を介して、絶縁板101の上面に形成される第2出力端子12に接続される。
【0030】
このとき、検出用電極3a、3bと、温度補償用電極4a、4bとは、概略同一形状に形成され、積層方向Zにおいて重なる位置となるように、検出用導電層2a及び温度補償用導電層2bを挟んで対称配置される。また、検出用電極31のリード部32a、32bは、積層方向Zにおいて、温度補償用電極41のリード部32a、32bと重なる位置にあり、両者の間は絶縁板101によって絶縁されている。
【0031】
図2において、検出用導電層2aと温度補償用導電層2bとは、絶縁性基体100の同じ側に隣接して配置され、一体的に積層されて導電体層2を形成している。導電体層2は、堆積面31側が露出するように絶縁性基体100に積層されており、このとき、堆積面31と、堆積面31に形成される一対の検出用電極3a、3bが被測定ガスに晒される。また、堆積面31と反対側の非堆積面41と、非堆積面41に形成される一対の温度補償用電極4a、4bは、センサ素子10の内部に埋設され、被測定ガスに晒されることはない。
【0032】
検出制御部50の検出回路部51は、スイッチ501と、シャント抵抗502と、電圧測定部503と、直流電源504とを備える。直流電源504の負極端子は、センサ素子10のグランド端子13に接続されており、スイッチ501は、直流電源504の正極端子を、第1出力端子11及び第2出力端子12のいずれか一方に接続するように構成されている。すなわち、スイッチ501を切り替えることにより、直流電源504の電圧(例えば、VB)を、PM検出部3の一対の検出用電極3a、3b、及び、温度補償部4の一対の温度補償用電極4a、4bのうち、いずれか一方に印加することができる。
【0033】
このとき、一対の検出用電極3a、3bの間を、又は、一対の温度補償用電極4a、4bとの間を流れた電流Iは、シャント抵抗502を通過する。このシャント抵抗502による電圧降下を、電圧測定部503によって測定することで、電流Iを測定し、電極間の電気抵抗(=VB/I)を算出することができる。
【0034】
検出制御部50は、検出回路部51のスイッチ501をPM検出部3側に切り替えて、電圧測定部503にて、検出用電極間抵抗Rsに基づく電流Isを測定し、PM検出信号Vaとして出力させる。また、スイッチ501を温度補償部4側に切り替えて、補償用電極間抵抗Rbに基づく電流Ibを測定し、温度補償信号Vbとして出力させる。
検出制御部50のPM量算出部52は、PM検出信号Vaから温度補償信号Vbを減算し、得られる差分出力V1を用いてPM量を算出する。すなわち、PM堆積量に応じて変動するPM検出信号Vaを、温度補償及びノイズ除去のための温度補償信号Vbを用いて補正し、補正後の信号に基づいてPM量を算出することで、検出精度を向上させる。
【0035】
上述したように、検出用導電層2a、温度補償用導電層2bは導電性材料によって構成されている。そのため、
図5に示すように、堆積面31に粒子状物質が全く堆積していない状態でも、検出用導電層2a、温度補償用導電層2bに電流Iを流すことができる。一対の検出用電極3a、3bの間隔Waと、一対の温度補償用電極4a、4bの間隔Wbとは等しく、各電極の長手方向Xにおける長さも互いに等しい。すなわち、非堆積時の検出用電極間抵抗Rsである検出用導電層抵抗Raは、補償用電極間抵抗Rbと概略等しく、一対の検出用電極3a、3b間を流れる電流Iaと、一対の温度補償用電極4a、4b間を流れる電流Ibとは、概略等しい。
【0036】
次に、
図6に示すように、PM検出部3の堆積面31に粒子状物質(すなわち、図中に示すPM)が僅かに堆積した場合、堆積面31のうちPMが堆積していない領域A1では、電流Iは検出用導電層2aを流れ(すなわち、電流Ia)、PMが堆積している領域A2では、電流Iは主に、電気抵抗率が低いPMに流れる(すなわち、PM電流Ip)。そのため、
図7に示すように、堆積面31に付着するPMが僅かであっても電流Iが変化し、PM堆積量に比例して電流Iが増加する。この変化を検出することで、PM堆積量を算出することができる。
【0037】
図6において、検出用電極間抵抗Rsの値は、検出用導電層抵抗Raと、堆積した粒子状物質の電気抵抗(以下、適宜、PM抵抗と称する)Rpと、によって決まる。検出用電極間抵抗Rsは、例えば、下記式1によって近似的に表すことができる。
式1:Rs=RpRa/(Rp+Ra)
また、Ra=Rbであるから、この式は、次の式11のように変形できる。
式11:Rs=RpRb/(Rp+Rb)
この式から、RsとRbを測定することでPM抵抗Rpを算出でき、PM抵抗RpとPM堆積量の関係を用いて、PM堆積量を算出できることがわかる。
【0038】
また、PM堆積量は、例えば、以下のように算出することもできる。
PM検出部3の一対の検出用電極3a、3bの間を流れる電流Isは、検出用導電層2aを流れる電流Iaと、PM電流Ipとを用いて、下記式2のように近似的に表すことができる。
式2:Is=Ia+Ip
また、Ia=Ibであるから、この式は、次の式21のように変形できる。
式21:Is=Ib+Ip
この式から、PM電流Ipは、下記式3のように表されることがわかる。
式3:Ip=Is−Ib
上述したように、検出回路部51を用いて、IsとIbに相当するセンサ出力を得ることができるため、センサ出力の差分を算出することで、算出した差分とPM堆積量との関係を用いて、PM堆積量を算出できることがわかる。
【0039】
この式により算出されるPM電流Ipは、PM検出部3の一対の検出用電極3a、3b間を流れる電流Isから、検出用導電層2aを流れる電流Ia(すなわち、温度補償用導電層2bを流れる電流Ib)を減算した値である。検出用導電層2aと温度補償用導電層2bとは、一体の導電体層2を構成しており、同等の温度環境にある。また、さらに、PM検出部3の検出用電極3bと、温度補償部4の温度補償用電極4bとは、共通のグランド端子13に接続されているので、測定環境によるノイズの影響も同等となる。
したがって、電流Isから電流Iaを減算することで、温度やノイズの影響が排除されたPM電流Ipを算出することができる。
【0040】
ここで、検出用導電層2a及び温度補償用導電層2bを構成する導電性材料について説明する。検出用導電層2a及び温度補償用導電層2bは、粒子状物質よりも電気抵抗率が高い導電性材料からなり、例えば、100〜500℃の温度範囲において、表面電気抵抗率が1.0×10
7〜1.0×10
10Ω・cmの範囲にある導電性材料であることが望ましい。表面電気抵抗率が上記数値範囲を満たす導電性材料としは、例えば、分子式がABO
3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミックスを用いることができる。上記分子式において、Aサイトは、La、Sr、Ca、Mgから選択される少なくとも一種であり、Bサイトは、Ti、Al、Zr、Yから選択される少なくとも一種である。好適には、Aサイトは、主成分がSr、副成分がLaであり、Bサイトは、Tiであるペロブスカイト型セラミックス(すなわち、Sr
1-XLa
XTiO
3)が用いられる。
【0041】
例えば、(Sr
1-XLa
XTiO
3)におけるxを0.016〜0.036の範囲にした場合、表面電気抵抗率ρは、100〜500℃の温度範囲において、1.0×10
7〜1.0×10
10Ω・cmになる。そのため、このようなセラミックス(例えば、Sr
0.984La
0.016TiO
3、Sr
0.98La
0.02TiO
3、Sr
0.964La
0.036TiO
3)は、導電部2を構成するための材料として、好適に用いることができる。
【0042】
なお、「表面電気抵抗率ρ」は、
図8に示すサンプルSを作成し、測定電極201、202間の電気抵抗を測定して、下記式4を用いて算出した値を意味する。
本形態では、以下のようにして、導電性材料の表面電気抵抗率ρを測定している。すなわち、まず、
図8に示すサンプルSを作成する。このサンプルSは、導電性材料からなり厚さTが1.4mmの板状基板200と、該板状基板200の主表面に形成され長さがL、間隔がDである一対の測定電極201、202とを有する。このようなサンプルSを形成し、一対の測定電極201、202間の電気抵抗R(単位:Ω)を測定する。表面電気抵抗率ρは、下記式4によって算出される。
式4:ρ=R×L×T/D
【0043】
本明細書において、単に「電気抵抗率」と記載した場合は、いわゆるバルクの電気抵抗率を意味する。これは、例えば
図9に示すごとく、導電性材料からなる基板部300と、この基板部300の側面に形成した一対の測定電極301、302とを備えるバルク用サンプルS1を作成し、上記一対の測定電極301、302間の電気抵抗を測定することによって算出することができる。
【0044】
また、粒子状物質の電気抵抗率は、以下の紛体抵抗測定法によって測定することができる。すなわち、底面および上面が電極板になっている所定の円筒容器(断面積A)に粉体(PM)を入れた状態で、上面の電極板に上部から圧力を加え、縦軸方向に紛体(PM)を圧縮しながら、電極間の距離Lと電極間の電気抵抗Rを測定する。この測定法によれば、紛体(PM)の電気抵抗率ρはR×(A/L)で算出される。
【0045】
例えば、断面6mmφの円筒容器(断面積2.83×10
-5m
2)を用い、圧力60kgfで加圧した状態で電気抵抗Rを計測した場合には、PMの電気抵抗率の範囲は、具体的には、1.0×10
-3〜1.0×10
2Ω・cmとなった。エンジンの運転条件によって、生成されるPMの電気抵抗率は変化する。例えば、高負荷、高回転の運転条件で排出され、未燃焼の炭化水素成分含有量が少なく、殆どが煤で構成されるPMの場合、電気抵抗率は10
-3Ω・cm程度である。また、低回転、低負荷条件で運転するエンジンから排出され、未燃焼の炭化水素成分を多量に含み、最も抵抗率が高いPMの場合、電気抵抗率は、1.0×10
2Ω・cm程度の値を示す。
したがって、本実施形態における検出用導電層2a、温度補償用導電層2bの電気抵抗率は、少なくとも1.0×10
2Ω・cm以上とすることが好ましい。
【0046】
なお、積層方向Zにおける温度補償用電極4a、4bと検出電極3a、3bとの間隔H、すなわち、導電体層2の層厚は、一対の検出用電極3a、3bが粒子状物質によって覆われている状態において、一対の温度補償用電極4a、4b間を流れる電流Ibと、上記一対の検出用電極3a、3bの間を流れる電流Isとの比Ib/Isが0.02以下となるように定められるのがよい。
【0047】
これは、間隔Hが狭いと、温度補償用電極4a、4bが堆積面31に接近するため、電流Ibが、電気抵抗率が低い粒子状物質を通って、一対の温度補償用電極4a、4bの間を流れてしまうからである。間隔Hが広くなると、温度補償用電極4a、4bが堆積面31から遠ざかるため、電流Ibが粒子状物質に流れにくくなり、Ibの値が小さくなる。この効果を得るためには、Ib/Isが0.02以下となるようにするとよいことが、実験的に確認されており、導電体層2の層厚に製造ばらつきが生じた場合でも、電流Ibを正確に測定でき、補償用電極間抵抗Rbを正確に測定できる。これにより、検出用導電層抵抗Raの、温度による変化を正確に補償できる。
【0048】
図10に示すように、本形態の粒子状物質検出装置1は、例えば、自動車用エンジンEの排ガス浄化システムに適用され、被測定ガスである排ガスGに含まれる粒子状物質の量を検出する。エンジンEに接続される排ガス管E1には、粒子状物質を捕集するためのパティキュレートフィルタ400が配置される。センサ素子10は、パティキュレートフィルタ400の下流に配置され、図示しない素子カバー内に収容される先端側半部が排ガス管E1内に位置するように、排ガス管E1壁に取付固定される。パティキュレートフィルタ400とセンサ素子10の間には、排ガス温度センサ401が設置されて、パティキュレートフィルタ400の下流における排ガス温度を検出するようになっている。
【0049】
センサ素子10は、センサ制御部5を構成するエンジン制御装置(すなわち、Engine Control Unit;以下、ECUと称する)500に接続されている。ECU500は、演算処理を行うCPUと、プログラム、データ等を記憶するROM、RAM、入出力ポートI/O等を備えており、周期的にプログラムを実行して、粒子状物質検出装置1を含むシステム全体を制御する。ROMには、センサ制御部5の検出制御部50、ヒータ制御部60に対応するプログラム504が記憶されており、CPUがプログラム504を読み出して実行することにより、センサ素子10に堆積するPM量が測定される。また、その測定値を用いて、パティキュレートフィルタ400の故障診断を行うことができる。
【0050】
次に、
図11のフローチャートを用いて、センサ制御部5にて実行される粒子状物質検出処理について説明する。
まず、ステップS101において、PM堆積量の検出に先立ち、センサ素子10の再生処理を行うために、ヒータ制御部60を用いて、ヒータ部6への通電を開始する。これによりステップS102において、ヒータ部6が発熱して、センサ素子10を再生する。再生処理は、予めセンサ素子10の堆積面31に付着している粒子状物質を燃焼除去するための処理であり、再生温度は、通常、Sootを燃焼除去可能な600℃以上に設定される。
【0051】
所定の再生処理時間が経過したら、ステップS103において、ヒータ部6への通電が停止され、続くステップS104において、所定時間待機することにより、センサ素子10が冷却される。再生処理が完了したら、ステップS105以降において、検出制御部50を用いて、PM堆積量の検出が開始される。
【0052】
ステップS105では、検出回路部51のスイッチ501が、PM検出部3側に切り替えられて、一対の検出用電極3a、3bの間に所定の電圧が印加される。これにより、PM検出部3に静電場が形成されて、堆積面31への粒子状物質の堆積が促進される。
【0053】
次いで、ステップS106において、検出用電極間抵抗Rsに基づくPM検出信号Vaが検出される。その後、ステップS107において、PM検出部3の一対の検出用電極3a、3bへの通電が終了される。
【0054】
ステップS108では、検出回路部51のスイッチ501が、温度補償部4側に切り替えられて、一対の温度補償用電極4a、4bの間に所定の電圧が印加される。次いで、ステップS109において、補償用電極間抵抗Rbに基づく温度補償信号Vbが検出される。その後、ステップS110において、温度補償部4の一対の温度補償用電極4a、4bへの通電が終了される。
【0055】
ステップS111は、PM量算出部52としての処理であり、PM検出信号Vaと温度補償信号Vbとを用いて、差分出力V1を算出する(すなわち、V1=Va−Vb)。次いで、ステップS112において、差分出力V1が、所定の出力V0に達したか否かを判定する(V1≧V0?)。閾値となる所定の出力V0は、例えば、パティキュレートフィルタ400の故障診断のための検出基準となるもので、検出可能な最少のPM堆積量に対応する出力値とすることができる。
【0056】
ステップS112が否定判定された場合には、ステップS105へ戻って、以降のステップを繰り返す。ステップS112が肯定判定されたら、本処理を終了して、故障診断のための処理へ移行する。例えば、差分出力V1が所定の出力V0に達するまでに要した時間tが、予め定められた上限値よりも短い場合は、パティキュレートフィルタ400は故障していると判断し、時間tが上限値より長い場合は、パティキュレートフィルタ400は故障していないと判断することができる。
【0057】
次に、本形態の作用効果について説明する。
図12は、本形態の粒子状物質検出装置1において、センサ素子10の出力に対する測定環境の影響を示すものであり、検出回路部51から出力されるPM検出信号Vaと、温度補償信号Vbとは、ほぼ同等の時間変化を示した。なお、ここでは、PM検出部3のPM堆積量は一定としている。
【0058】
図12において、PM検出信号Va及び温度補償信号Vbの傾きは、測定環境温度の変化によるもので、PM検出部3の検出用導電層2aと、温度補償部4の温度補償用導電層2bとが、温度によって電気抵抗が変化する特性を有することに起因する。このとき、温度の上昇と共に出力も上昇するが、検出用導電層2aと温度補償用導電層2bの温度特性が同等であるために、出力の傾きも同等となる。
また、測定環境によっては信号線にノイズが侵入して、出力が変動することがあるが、一対の検出用電極3a、3bと、一対の温度補償用電極4a、4bとは、グランド端子13が共通であるので、ノイズによる出力変動のタイミングや大きさも同等となる。
【0059】
その結果、PM検出信号Vaと温度補償信号Vbとは、温度による出力の変化だけでなく、ノイズによる出力の変動についても、そのタイミングや大きさがほぼ同じになるので、これらの差分出力V1は、ほぼ一定となる。なお、本形態では、ヒータ部6のヒータ電極61も共通のグランド端子13に接続されるので、ヒータ部6の動作等によるノイズの影響も排除することができる。また、ヒータ部による再生処理と、PM検出信号Vaの検出と、温度補償信号Vbの検出とを、異なるタイミングで行うことで、各動作に基づくノイズの影響も抑制できる。
したがって、この差分出力V1とPM堆積量との関係を、予め記憶しておくことで、PM堆積量を精度よく検出することができる。
【0060】
これに対して、
図13に示す比較用のセンサ素子20を用いた場合には、
図14に示すように、ノイズの影響が排除されない。
図13において、比較用のセンサ素子20は、PM検出部30と、温度補償部40と、ヒータ部60とを有し、各部の電極とそれぞれ接続される複数のグランド端子13、130、131を有している点のみが、センサ素子10と異なっている。
すなわち、PM検出部30の一対の検出用電極30a、30bは、リード部32a、32bを介して、絶縁板101の上面に形成される第1出力端子11及びグランド端子130に接続される。温度補償部40の一対の温度補償用電極40a、40bは、リード部42a、42b及び導電部16、17を介して、絶縁板101の上面に形成される第2出力端子12及び絶縁板103の下面に形成されるグランド端子131に接続される。絶縁板103には、導電部16をグランド端子131に接続するための導電部16aが形成される。ヒータ部60は、センサ素子10のヒータ部6と同様の構成を有する。
【0061】
このとき、
図14に示すように、比較用のセンサ素子20に基づくPM検出信号Va1と温度補償信号Vb1とは、温度の変化による傾きは同等となるものの、各出力に異なるタイミング、異なる大きさのノイズが乗るために、出力変動にずれが生じる。そのために、これらの差分出力V1を取ることで、出力の傾きは除去されるが、ノイズを完全に除去することはできない。
【0062】
このように、本形態の粒子状物質検出装置1によれば、測定環境の影響を排除して、PM堆積量を精度よく検出することができる。また、共通のグランド端子を用いることで、構成を簡易にし、製造コストを低減できる。
【0063】
(実施形態2)
粒子状物質検出装置1に係る実施形態2について、
図15〜
図18を参照して説明する。
図15において、本形態の粒子状物質検出装置1は、上記実施形態1と同様に、センサ素子10とセンサ制御部5とを有している。センサ制御部5の構成は、上記実施形態1と同様であり、検出回路部51以外の図示を省略している。本形態においては、センサ素子10とPM検出部3と温度補償部4の配置が、上記実施形態1と異なっており、以下、相違点を中心に説明する。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0064】
本形態において、センサ素子10は、絶縁性基体100を挟んで、PM検出部3及び温度補償部4が対向配置された構成となっている。絶縁性基体100にはヒータ電極61が内蔵されてヒータ部6を形成している。絶縁性基体100は、例えば、同一形状の2枚の絶縁板104、105からなり、これら2枚の絶縁板104、105の間にヒータ電極61を挟んで一体化することにより、ヒータ電極61が埋設される。
【0065】
PM検出部3は、積層方向Zにおいて、絶縁性基体100の一方の表面100aに積層される検出用導電層2aと、検出用導電層2aの堆積面31に配置される一対の検出用電極3a、3bとを有する。検出用電極3aは、リード部32aを介して第1出力端子11に接続されており、検出用電極3bは、リード部32bを介して共通のグランド端子13に接続されている。
【0066】
温度補償部4は、積層方向Zにおいて、絶縁性基体100の一方の表面100aと対向する表面100bに積層される温度補償用導電層2bと、温度補償用導電層2bの非堆積面41に配置される一対の温度補償用電極4a、4bとを有する。温度補償用電極4aは、リード部42aを介して第2出力端子12に接続されており、温度補償用電極4bは、リード部42bを介して共通のグランド端子13に接続されている。
【0067】
温度補償部4には、温度補償用導電層2bと一対の温度補償用電極4a、4bの全体を被覆するように、ガス透過性絶縁膜7が設けられる。ガス透過性絶縁膜7は、粒子状物質の通過を抑制し、かつ排ガスに含まれるガス成分を透過させるガス透過性を有する絶縁膜からなる。これにより、非堆積面41へ粒子状物質が到達することを抑制しながら、粒子状物質を除く排ガスを非堆積面41へ到達させて、堆積面31と測定環境を同等とすることができる。
【0068】
本形態の構成では、ヒータ部6を内蔵する絶縁性基体100を挟んで、PM検出部3と温度補償部4とが対称配置される。すなわち、検出用導電層2aと温度補償用導電層2bの両方が、絶縁性基体100に接して配置されると共に、堆積面31と非堆積面41の両方が、絶縁性基体100と反対側に位置して排ガスに晒される配置となるので、検出用導電層2aの抵抗変化の温度特性と、温度補償用導電層2bの抵抗変化の温度特性とが同等となる。
【0069】
排ガスに、例えば、SO
2やNO
2といった酸性ガスが含まれている場合、検出用導電層2aが、酸性ガスに晒されると電気抵抗が変化して、出力に影響する懸念がある。本形態では、温度補償部4にガス透過性絶縁膜7が設けられるので、粒子状物質以外のガス成分は、ガス透過性絶縁膜7を透過する。すなわち、検出用導電層2aが酸性ガスに晒されるときには、温度補償用導電層2bも酸性ガスに晒されるので、酸性ガス等のガス成分による影響で出力が大きく変化することはなく、PM堆積量を精度よく検出できる。
【0070】
ガス透過性絶縁膜7は、例えば、測定しようとする粒子状物質よりも平均粒径が小さい多数の連通孔を有する多孔質セラミックス等の酸化物絶縁材料からなる。あるいは、ガス透過性絶縁膜7として、ガス成分をイオン化して透過させる固体電解質体等の酸化物絶縁材料を用いることもできる。この場合、ガス透過性絶縁膜7は、多孔質体である必要がなく、緻密な膜にすることができる。このようにすると、粒子状物質が温度補償部4の非堆積面41に到達することを確実に防止できる。
【0071】
本形態の構成においても、上記実施形態1と同様にして、センサ制御部5により、差分出力V1を算出し、PM堆積量を算出することができる。
また、検出制御部50において、PM堆積量をより精度よく算出するために、初期状態における出力信号の差分を用いて、差分出力V1を補正することもできる。
図16に示すように、理想的な出力状態では、粒子状物質が堆積していない初期状態のPM検出信号Vaと温度補償信号Vbとは全く同じとなり、その差分Vi0はゼロで変化しない。そのためには、PM検出部3の検出用導電層2aと、温度補償部4の温度補償用導電層2bとが、同じ電気抵抗特性を示し、PM検出部3と温度補償部4の出力が一致する必要がある。
【0072】
ただし、
図17に示すように、初期状態であっても、実際の出力状態では、PM検出信号Vaと温度補償信号Vbとが全く同じにならず、僅かな差が存在することがある。そこで、初期状態における両出力の初期差分Viに基づいて、初期差分補正値Vdiを設定し、これを用いて、差分出力V1を補正する。初期差分補正値Vdiは、例えば、PM検出を行う前に、予め測定して求めた両出力の初期差分Viと温度との関係を規定する温度特性データを用意し、初期差分マップとして記憶しておくことができる。また、両出力の差分の温度特性データから差分補正式を求め、初期差分補正式として記憶しておくことができる。
あるいは、両出力の差分の温度依存性が小さい場合には、例えば、基準温度における差分値や代表的な温度範囲における差分の平均値等を用いて、初期差分補正値Vdiを固定値として設定することもできる。
【0073】
この場合に、センサ制御部5にて実行される粒子状物質検出処理について、説明する。
図18に示すフローチャートは、上記
図11に示したフローチャートの手順の一部を変更したものである。具体的には、ステップS201〜ステップS211までは、上記
図11のステップS101〜ステップS111と同じ処理であるので説明を簡略にし、相違点となるステップS212以降について、主に説明する。
【0074】
まず、ステップS201〜203において、ヒータ部6への通電を開始し、センサ素子10の再生処理を行った後、ヒータ部6への通電を停止する。続くステップS204にて、センサ素子10を冷却した後、ステップS205〜ステップS207において、PM検出部3に通電し、検出用電極間抵抗Rsに基づくPM検出信号Vaを検出する。その後、通電を終了する。
【0075】
ステップS208〜ステップS210では、温度補償部4に通電し、補償用電極間抵抗Rbに基づく温度補償信号Vbを検出した後、通電を終了する。次いで、ステップS211において、PM検出信号Vaから温度補償信号Vbを減算することで、差分出力V1を算出する。
【0076】
次に、ステップS212において、初期差分補正値Vdiを差分出力V1から減算することで、補正出力V2を算出する(すなわち、V2=V1−Vdi)。初期差分補正値Vdiは、上述したように、初期状態における両出力の初期差分Viと温度との関係を予め初期差分マップ又は初期差分補正式として記憶しておくことができる。センサ素子10の温度は、例えば、センサ素子10の上流側に配置される排ガス温度センサ401を用いて検出又は推定することができる。そして、検出又は推定された温度に対応するマップ値を読み出して、初期差分補正値Vdiに設定し、又は、初期差分補正式から差分補正値Vdiを算出することができる。
【0077】
ステップS213では、初期差分補正値Vdiを用いて補正された補正出力V2が、所定の出力V0に達したか否かを判定する(V2≧V0?)。ステップS213が否定判定された場合には、ステップS205へ戻って、以降のステップを繰り返す。ステップS213が肯定判定されたら、本処理を終了して、故障診断のための処理へ移行する。
【0078】
これにより、初期状態での出力に、何らかの影響で差が存在する場合においても、その差分を用いて補正を行うことで、PM堆積量をより精度よく算出することができる。また、上記実施形態1の構成においても、本形態の粒子状物質検出処理を行うことで、同様の効果が得られる。
【0079】
(実施形態3)
粒子状物質検出装置1に係る実施形態3について、
図19〜
図20を参照して説明する。本形態の粒子状物質検出装置1の基本構成は、上記各実施形態と同様であり、センサ制御部5の検出制御部50において、差分出力V1を算出後の補正手法が異なっている。上記実施形態2では、初期状態における初期差分Viに基づく初期差分補正値Vdiを用いたが、本形態では、経時変化後の経時差分Vcを考慮して補正された経時差分補正値Vdcを用いる。
以下、相違点を中心に説明する。
【0080】
図19に示すように、初期状態から時間が経過すると、PM検出部3では、PM検出信号Vaが低下する傾向が見られる(例えば、経時変化前を実線、経時変化後を点線で示す)。これは、粒子状物質の堆積と再生を繰り返すことで、アッシュ成分等が堆積することに起因し、検出用電極間抵抗Rsの変化により出力が変化する経時劣化が起こる。一方、温度補償部4では、粒子状物質が堆積しないために、このような経時劣化は起きにくい。そのために、再生処理の実施以降において両出力の差分も変化し、初期差分Viよりも、経時変化後の経時差分Vcの方が大きくなる。
【0081】
そこで、本形態では、経時差分Vcを求めて、初期差分補正値Viをさらに補正する。具体的には、センサ素子10の再生処理を実施した直後に、PM検出信号Vaと温度補償信号Vbの差分値を検出し、この経時差分値Vc1を基に、初期差分Viのマップ値を補正することができる。また、初期差分補正式の場合も、
図19に示される出力の温度特性の傾きは変化しないものと仮定して、検出した経時差分値Vc1を基に、初期差分補正式の切片を変更することで、簡易的に補正することができる。
そして、これら補正された経時差分マップ又は経時差分補正式を基に、経時変化を考慮した経時差分補正値Vdcを設定して、差分出力V1の補正に用いることができる。
【0082】
この場合に、センサ制御部5にて実行される粒子状物質検出処理について、説明する。
図20に示すフローチャートは、上記
図18に示したフローチャートの手順の一部を変更したものである。具体的には、ステップS301〜ステップS302、ステップS304〜ステップS312は、上記
図18のステップS201〜ステップS211と同じ処理であるので説明を簡略にし、相違点となるステップS303、ステップS313以降について、主に説明する。
【0083】
まず、ステップS301〜302において、ヒータ部6への通電を開始し、センサ素子10の再生処理を行う。続いて、ステップS303において、経時変化後のPM検出信号Vaと温度補償信号Vbとの経時差分値Vc1を算出する。この場合も、検出回路部51のスイッチ501を、PM検出部3側と温度補償部4側とに切り替えて、PM検出信号Vaと温度補償信号Vbを順次検出する手順は、差分出力V1を算出する場合と同様である。
【0084】
このように、再生直後に、ヒータ部6への通電を維持した状態で検出することで、PM検出部3に粒子状物質が堆積していない状態のPM検出信号Vaを、正確に検出することができる。これにより、経時変化後における経時差分Vcに対応する差分値Vc1を正確に算出することができるので、この経時差分値Vc1を用いて、予め記憶されている初期差分マップ又は初期差分補正式を、経時変化に対応させて精度よく補正することができる。
【0085】
次いで、ステップS304〜305において、ヒータ部6への通電を終了し、センサ素子を冷却する。その後、ステップS306〜ステップS308において、PM検出部3に通電し、検出用電極間抵抗Rsに基づくPM検出信号Vaを検出した後、通電を終了する。また、ステップS309〜ステップS311において、温度補償部4に通電し、補償用電極間抵抗Rbに基づく温度補償信号Vbを検出した後、通電を終了する。次いで、ステップS312において、PM検出信号Vaから温度補償信号Vbを減算することで、差分出力V1を算出する。
【0086】
ステップS313では、経時差分補正値Vdcを差分出力V1から減算することで、補正出力V3を算出する(すなわち、V3=V1−Vdc)。経時差分補正値Vdcは、上述したように、初期差分補正値Vdiに対応する初期差分マップ又は初期差分補正式を、経時差分値Vdを用いて補正した経時差分マップ又は経時差分補正式に基づくものとすることができる。センサ素子10の温度は、例えば、センサ素子10の上流側に配置される排ガス温度センサ401を用いて検出又は推定することができる。そして、検出又は推定された温度に対応するマップ値を読み出して差分補正値Vcを設定し、又は経時差分補正式から経時差分補正値Vdcを算出することができる。
【0087】
ステップS314では、差分補正値Vdを用いて補正された補正出力V3が、所定の出力V0に達したか否かを判定する(V3≧V0?)。ステップS314が否定判定された場合には、ステップS306へ戻って、以降のステップを繰り返す。ステップS314が肯定判定されたら、本処理を終了して、故障診断のための処理へ移行する。
これにより、経時変化後においても、その変化を考慮した差分補正値Vcを用いて補正を行うことで、PM堆積量をより精度よく算出することができる。
【0088】
(実施形態4)
粒子状物質検出装置1に係る実施形態4について、
図21〜
図22を参照して説明する。本形態の粒子状物質検出装置1の基本構成は、上記各実施形態と同様であり、センサ制御部5の検出制御部50において、差分出力V1を算出後の補正手法が異なっている。上記実施形態2、3では、初期状態又は経時変化後の出力信号の差分に基づいて、差分出力V1を補正したが、本形態では、粒子状物質の電気抵抗への温度の影響を考慮して補正を行う。
以下、相違点を中心に説明する。
【0089】
上記各実施形態のように、PM検出部3のPM検出信号Vaと温度補償信号Vbとの差分出力V1を用いることで、検出用導電層2aの電気抵抗に対する温度やノイズの影響を排除することができる。ただし、PM検出信号Vaのうち、粒子状物質自身の電気抵抗に基づく信号については、温度補償されていない。そこで、PM堆積量に対応する差分出力V1を、センサ素子10の温度(以下、素子温度と称する)に基づいて補正することで、より精度よいPM検出が可能になる。
【0090】
図21に示すように、素子温度は、例えば、温度補償部4の出力と相関があり、素子温度が高くなるほど出力が大きくなる。したがって、この相関関係を予め求めておくことで、温度補償部4の出力から、素子温度を精度よく推定できる。また、粒子状物質を通過するPM電流Ipも、素子温度と相関があり、温度に比例して増加する特性を有する。すなわち、
図21に示されるのと同様の傾向を有する。そこで、粒子状物質自身についても、出力と温度の関係から温度特性補正式を予め求めておくことで、推定された素子温度を用いて、差分出力V1を温度補正可能になる。
【0091】
この場合に、センサ制御部5にて実行される粒子状物質検出処理について、説明する。
図22に示すフローチャートは、上記
図18に示したフローチャートの手順の一部を変更したものである。具体的には、ステップS401〜ステップS412までは、上記
図18のステップS201〜ステップS212と同じ処理であるので説明を簡略にし、相違点となるステップS413以降について、主に説明する。
【0092】
まず、ステップS401〜403において、ヒータ部6への通電を開始し、センサ素子10の再生処理を行った後、ヒータ部6への通電を停止する。続くステップS404にて、センサ素子10を冷却した後、ステップS405〜ステップS407において、PM検出部3に通電し、検出用電極間抵抗Rsに基づくPM検出信号Vaを検出する。その後、通電を終了する。
【0093】
ステップS408〜ステップS410では、温度補償部4に通電し、補償用電極間抵抗Rbに基づく温度補償信号Vbを検出した後、通電を終了する。次いで、ステップS411において、PM検出信号Vaから温度補償信号Vbを減算することで、差分出力V1を算出する。
【0094】
ステップS412では、差分補正値Vdiを差分出力V1から減算することで、補正出力V2を算出する(すなわち、V2=V1−Vdi)。差分補正値Vdiは、上述したように、初期状態における両出力の差分と温度との関係を予めマップ値又は差分補正式として記憶しておくことができる。
【0095】
次に、ステップS413において、素子温度を測定する。ここでは、上記
図21の相関を用いて、温度補償部4の温度補償信号Vbから、素子温度を推定する。さらに、続くステップS414において、推定された素子温度と、粒子状物質の温度特性補正式に基づいて、補正出力V2に対する温度特性の補正を行い、補正出力V4を算出する。
【0096】
その後、ステップS415において、補正された補正出力V4が、所定の出力V0に達したか否かを判定する(V4≧V0?)。ステップS415が否定判定された場合には、ステップS405へ戻って、以降のステップを繰り返す。ステップS415が肯定判定されたら、本処理を終了して、故障診断のための処理へ移行する。
【0097】
これにより、補正出力V2が、さらに粒子状物質の温度特性に基づいて補正される。すなわち、PM検出部3のPM検出信号Vaのうち、検出用導電層2aに基づく出力のみならず、堆積した粒子状物質に基づく出力に対しても、温度特性の補正を行うことができるので、PM堆積量をより精度よく算出することができる。
【0098】
(実施形態5)
粒子状物質検出装置1に係る実施形態5について、
図23〜
図24を参照して説明する。
図23において、本形態の粒子状物質検出装置1の基本構成は、上記実施形態1と同様であり、センサ素子10の電極形状のみが異なっている。センサ制御部5の構成は、上記実施形態1と同様であり、図示を省略している。以下、相違点を中心に説明する。
【0099】
本形態において、センサ素子10は、絶縁性基体100となる絶縁板101〜103と、絶縁性基体100に支持される、PM検出部3と、温度補償部4と、ヒータ部6とを有する。PM検出部3と、温度補償部4と、ヒータ部6とは、絶縁板101〜103を挟んで、この順に積層される。
【0100】
PM検出部3は、検出用導電層2aと、検出用導電層2aの堆積面31に互いに対向して配置される一対の検出用電極3a、3bを有する。検出用電極3a、3bは、それぞれ櫛歯状に形成されており、幅方向Yに延びる複数の線状電極が、互い違いに所定の間隔で長手方向Xに対向するように、配置されている。検出用電極3a、3bは、一対のリード部32a、32bを介して、絶縁板101の上面に形成される第1出力端子11、共通のグランド端子13にそれぞれ接続される。
【0101】
温度補償部4は、温度補償用導電層2bと、温度補償用導電層2bの非堆積面41に互いに対向して配置される一対の温度補償用電極4a、4bを有する。温度補償用電極4a、4bは、幅方向Yに所定の間隔をおいて互いに対向するように配置される。温度補償用電極4a、4bは、それぞれ櫛歯状に形成されており、幅方向Yに延びる複数の線状電極が、互い違いに所定の間隔で長手方向Xに対向するように、配置されている。温度補償用電極4a、4bは、一対のリード部42a、42bと導電部16、17を介して、絶縁板103の下面に形成される第2出力端子12、絶縁板101の上面に形成される共通のグランド端子13にそれぞれ接続される。
【0102】
ヒータ部6のヒータ電極61は、一対のリード部62a、62bと導電部18、19を介して、絶縁板103の下面に形成される第2出力端子12、グランド端子131にそれぞれ接続される。このように、ヒータ電極61のグランド端子131は、PM検出部3及び温度補償部4と必ずしも共通とする必要はない。
【0103】
このように、PM検出部3及び温度補償部4を、同一形状の櫛歯状電極を有する構造とすることもできる。そして、共通のグランド端子13に接続することで、出力の温度補償を行うと共に、ノイズの影響を排除して、PM堆積量を精度よく検出することができる。この場合も、4端子構造とすることができるので、構成を簡易にし、製造コストを低減できる。
【0104】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
例えば、上記実施形態においては、粒子状物質検出装置を、自動車エンジンの排ガス浄化システムに適用する例について説明したが、エンジン等からの燃焼排ガスに限らず、粒子状物質が含まれる被測定ガスであれば、いずれにも適用することができる。