特許第6964501号(P6964501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6964501
(24)【登録日】2021年10月21日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20211028BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20211028BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20211028BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08J3/22CEQ
   C08K5/20
   C08K3/30
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-234070(P2017-234070)
(22)【出願日】2017年12月6日
(65)【公開番号】特開2019-99729(P2019-99729A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】込谷 祐樹
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−214566(JP,A)
【文献】 特開2017−088796(JP,A)
【文献】 特開2014−095014(JP,A)
【文献】 特開2016−199695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 21/00
C08J 3/22
C08K 5/20
C08K 3/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られたゴムウエットマスターバッチを少なくとも含むゴム組成物の製造方法であって、
前記充填材、前記分散溶媒、および前記ゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水・乾燥することによりゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)、および前記ゴムウエットマスターバッチにゴム配合剤を添加し、乾式混合する工程(iv)を有し、
前記工程(i)中に、下記式(I)に記載の化合物:
【化1】

(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を添加し、
前記式(I)に記載の化合物を添加した後に、硫化モリブデンを添加することを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記硫化モリブデンの配合量が0.1〜5.0質量部である請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記工程(iv)中に、前記硫化モリブデンを添加するものである請求項1または2に記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られたゴムウエットマスターバッチを少なくとも含むゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム業界においては、カーボンブラックなどの充填材を含有するゴム組成物を製造する際の加工性や充填材の分散性を向上させるために、ゴムウエットマスターバッチを用いることが知られている。これは、充填材と分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力で充填材を分散溶媒中に分散させた充填材含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液と、を液相で混合し、その後、酸などの凝固剤を加えて凝固させたものを回収して乾燥するものである。ゴムウエットマスターバッチを用いる場合、充填材とゴムとを乾式混合して得られるゴムドライマスターバッチを用いる場合に比べて、充填材の分散性に優れ、加工性や補強性などのゴム物性に優れる加硫ゴムが得られる。このようなゴム組成物を原料とすることで、例えば転がり抵抗が低減され、屈曲疲労性に優れた空気入りタイヤなどのゴム製品を製造することができる。
【0003】
しかしながら、近年では市場において、例えばタイヤ部材の屈曲疲労性などの向上が強く要求されており、かかる要求を満たすべく、ゴム組成物中の充填材のさらなる分散性向上を図る必要があった。
【0004】
下記特許文献1には、少なくともジエンエラストマー、補強用充填材および架橋系をベースとするゴム組成物に、所定量の板状充填材および金属塩を配合する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−522092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、加硫ゴムの酸素不透過特性の向上を目的としたものであり、充填材のさらなる分散性向上が図れるわけではない。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、充填材の分散性および分散安定性に優れたゴム組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られたゴムウエットマスターバッチを少なくとも含むゴム組成物の製造方法であって、前記充填材、前記分散溶媒、および前記ゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水・乾燥することによりゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)、および前記ゴムウエットマスターバッチにゴム配合剤を添加し、乾式混合する工程(iv)を有し、前記工程(i)中に、下記式(I)に記載の化合物:
【化1】

(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を添加し、前記式(I)に記載の化合物を添加した後に、硫化モリブデンを添加することを特徴とするゴム組成物の製造方法に関する。
【0009】
上記ゴム組成物の製造方法によれば、充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)において、式(I)に記載の化合物を添加する。工程(i)では、充填材とゴムラテックス溶液とは液相状態で存在し、この状態で式(I)に記載の化合物を添加した場合、充填材とゴムラテックスを構成するゴムポリマーとが、式(I)に記載の化合物を介して効率良く結合を形成する。これにより、充填材含有ゴムラテックス溶液中で充填材の分散性が向上する。ただし、充填材の全量がゴムラテックスを構成するゴムポリマーと結合できるわけではなく、未反応状態で遊離した充填材も少なからず存在し、このような充填材は再凝集するため、このままでは充填材の分散性向上効果は高まらないものと推察できる。
【0010】
しかしながら本発明においては、式(I)に記載の化合物を添加した後に、硫化モリブデンを添加することにより、硫化モリブデンが分散しつつ充填材間に入り込み、充填材の再凝集を抑制できる。これにより、本発明に係るゴム組成物の製造方法では、充填材の分散性が向上し、かつ充填材の分散安定性も向上したゴム組成物を製造することができる。
【0011】
上記ゴム組成物の製造方法において、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記硫化モリブデンの配合量が0.1〜5.0質量部であると、ゴム組成物中の充填材の分散性および分散安定性をさらに向上できるため好ましい。
【0012】
上記ゴム組成物の製造方法において、前記工程(iv)中に、前記硫化モリブデンを添加するものであることが好ましい。式(I)に記載の化合物を添加した後に、硫化モリブデンを添加するタイミングは適宜選択可能であるが、工程(iii)後に得られたゴムウエットマスターバッチにゴム配合剤を添加し、乾式混合する工程(iv)において、他のゴム配合剤とともに硫化モリブデンを添加し、乾式混合すると、ゴム組成物中で硫化モリブデンの分散性がさらに高まることに起因して、ゴム組成物中の充填材の分散性および分散安定性を特に向上できるため好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るゴム組成物の製造方法は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として使用する。
【0014】
本発明において、充填材とは、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウムなど、ゴム工業において通常使用される充填材を意味する。上記充填材の中でも、本発明においてはカーボンブラックを特に好適に使用することができる。
【0015】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。ゴム成分の全量を100質量部としたとき、充填材、特にはカーボンブラックの配合量が10〜80質量部であることが好ましく、20〜60質量部であることがより好ましい。
【0016】
分散溶媒としては、特に水を使用することが好ましいが、例えば有機溶媒を含有する水であってもよい。
【0017】
ゴムラテックス溶液としては、天然ゴムラテックス溶液および合成ゴムラテックス溶液を使用することができる。
【0018】
天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。本発明において使用する天然ゴムラテックス中の天然ゴムの数平均分子量は、200万以上であることが好ましく、250万以上であることがより好ましい。天然ゴムラテックス溶液については濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなど区別なく使用できる。合成ゴムラテックス溶液としては、例えばスチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムを乳化重合により製造したものがある。
【0019】
本発明においては、充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)中に、下記式(I)に記載の化合物を添加する。
【化2】

(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)
【0020】
なお、充填材、特にはカーボンブラックへの親和性を高めるためには、式(I)中のRおよびRが水素原子であり、Mがナトリウムイオンである下記式(I’)に記載の化合物:
【化3】

を使用することが特に好ましい。
【0021】
最終的に得られる加硫ゴム中での充填材の分散性を考慮した場合、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、式(I)に記載の化合物の配合量は0.1〜5.0質量部であることが好ましい。
【0022】
さらに本発明においては、式(I)に記載の化合物を添加した後に、硫化モリブデンを添加する。硫化モリブデンはモリブデンの硫化物であり、組成式がMoSと表される黒色の固体である。本発明においては、特に粉末化した硫化モリブデンを使用することが好ましい。ゴム組成物中の充填材の分散性および分散安定性を考慮した場合、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、硫化モリブデンの配合量は0.1〜5.0質量部であることが好ましく、0.3〜3.0質量部であることがより好ましい。
【0023】
以下に、本発明に係るゴム組成物の製造方法について具体的に説明する。かかる製造方法は、充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、充填材含有ゴム凝固物を脱水・乾燥することによりゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)、およびゴムウエットマスターバッチにゴム配合剤を添加し、乾式混合する工程(iv)を有し、工程(i)中に、前記式(I)に記載の化合物を添加し、式(I)に記載の化合物を添加した後に、硫化モリブデンを添加することを特徴とする。
【0024】
(1)工程(i)
工程(i)では、充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する。特に、本発明においては、前記工程(i)が、前記充填材を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液を製造する工程(i−(a))、およびゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i−(b))を含むことが好ましい。以下に、工程(i−(a))および工程(i−(b))について説明する。特に、本実施形態では、充填材としてカーボンブラックを使用した例について説明する。
【0025】
工程(i−(a))
工程(i−(a))では、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する。ゴムラテックス溶液は、あらかじめ分散溶媒と混合した後、カーボンブラックを添加し、分散させても良い。また、分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで所定の添加速度で、ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良く、あるいは分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで何回かに分けて一定量のゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良い。ゴムラテックス溶液が存在する状態で、分散溶媒中にカーボンブラックを分散させることにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造することができる。工程(i−(a))におけるゴムラテックス溶液の添加量としては、使用するゴムラテックス溶液の全量(工程(i−(a))および工程(i−(b))で添加する全量)に対して、0.075〜12質量%が例示される。
【0026】
工程(i−(a))では、添加するゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量が、カーボンブラックとの質量比で0.25〜15%であることが好ましく、0.5〜6%であることが好ましい。また、添加するゴムラテックス溶液中の固形分(ゴム)濃度が、0.2〜5質量%であることが好ましく、0.25〜1.5質量%であることがより好ましい。これらの場合、ゴムラテックス粒子をカーボンブラックに確実に付着させつつ、カーボンブラックの分散度合いを高めたゴム組成物を製造することができる。
【0027】
工程(i−(a))において、ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合する方法としては、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。
【0028】
上記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断作用を生み出すためには、ローターとステーターとのクリアランスを0.8mm以下とし、ローターの周速を5m/s以上とすることが好ましい。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えばSILVERSON社製「ハイシアーミキサー」が挙げられる。
【0029】
本発明においては、ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合し、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する際、カーボンブラックの分散性向上のために界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、ゴム業界において公知の界面活性剤を使用することができ、例えば非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン系界面活性剤などが挙げられる。また、界面活性剤に代えて、あるいは界面活性剤に加えて、エタノールなどのアルコールを使用しても良い。ただし、界面活性剤を使用した場合、最終的な加硫ゴムのゴム物性が低下することが懸念されるため、界面活性剤の配合量は、ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、実質的に界面活性剤を使用しないことが好ましい。
【0030】
工程(i−(b))
工程(i−(b))では、スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する。スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを液相で混合する方法は特に限定されるものではなく、スラリー溶液および残りのゴムラテックス溶液とを高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用して混合する方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
【0031】
残りのゴムラテックス溶液は、次工程(iii)での脱水時間・労力を考慮した場合、工程(i−(a))で添加したゴムラテックス溶液よりも固形分(ゴム)濃度が高いことが好ましく、具体的には固形分(ゴム)濃度が10〜60質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。
【0032】
本発明においては、工程(i)中に式(I)に記載の化合物を添加するが、工程(i)において先にカーボンブラックを分散溶媒中に分散させてスラリー溶液を製造する場合は、該スラリー溶液中に式(I)に記載の化合物を添加してもよく、あるいはスラリー溶液とゴムラテックス溶液とを混合する際に添加してもよい。また、工程(i)が工程(i−(a))と工程(i−(b))とを含む場合、これらのいずれの段階でも式(I)に記載の化合物を添加可能である。
【0033】
(2)工程(ii)
工程(ii)では、カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を凝固して、カーボンブラック含有ゴム凝固物を製造する。凝固方法としては、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液中に凝固剤を含有させる方法が例示可能である。この場合、凝固剤としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩を使用することができる。なお、工程(ii)の後、工程(iii)の前に、必要に応じて、充填材含有ゴム凝固物が含む水分量を適度に低減する目的で、例えば遠心分離工程や加熱工程などの固液分離工程を設けても良い。
【0034】
(3)工程(iii)
工程(iii)では、カーボンブラック含有ゴム凝固物を脱水・乾燥することにより、ゴムウエットマスターバッチを製造する。工程(iii)では例えば、単軸押出機を使用し、100〜250℃に加熱しつつ、カーボンブラック含有ゴム凝固物にせん断力を付与しながら脱水・乾燥することが可能である。また、ゴムウエットマスターバッチをさらに乾燥するために、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
【0035】
(4)工程(iv)
工程(iv)では、ゴムウエットマスターバッチに各種ゴム配合剤を乾式混合することによりゴム組成物を製造する。使用可能なゴム配合剤としては、例えば、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、メチレン受容体およびメチレン供与体、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤が挙げられる。
【0036】
硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。
【0037】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0038】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0039】
本発明においては、式(I)に記載の化合物を添加した後に、硫化モリブデンを添加する。具体的には、工程(i)中において、スラリー溶液中、あるいはスラリー溶液とゴムラテックス溶液との混合溶液中に式(I)に記載の化合物を添加し、分散させた後、引き続き硫化モリブデンを添加し、分散させてもよく、あるいは工程(ii)、工程(iii)中に硫化モリブデンを混合してもよい。ただし、本発明においては、工程(iii)後に得られたゴムウエットマスターバッチに前記の各種ゴム配合剤を添加し、乾式混合する工程(iv)において、他のゴム配合剤とともに硫化モリブデンを添加すると、ゴム組成物中で硫化モリブデンの分散性がさらに高まることに起因して、ゴム組成物中の充填材の分散性および分散安定性を特に向上できるため好ましい。
【0040】
本発明に係る製造方法により製造されたゴム組成物では、充填材、特にはカーボンブラックの分散性および分散安定性に優れている。したがって、かかるゴム組成物を加硫して得られるゴム部材によりタイヤのトレッドなどを構成した場合、低発熱性に優れ、かつ屈曲疲労性などに優れるため好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0042】
(使用原料)
a)ゴムラテックス溶液;Golden Hope社製、「天然ゴムラテックス溶液(NRフィールドラテックス)」(DRC=31.2%)
b)カーボンブラック;東海カーボン社製、「シーストSO」
c)式(I)に記載の化合物((2Z)−4−[(4−アミノフェニル)アミノ]−4−オキソ−2−ブテン酸ナトリウム);住友化学社製、「スミリンク200」
d)酸化亜鉛;三井金属社製、「亜鉛華1号」
e)ステアリン酸;花王社製、「ルナックS−20」
f)ワックス;日本精蝋社製、「OZOACE0355」
g)老化防止剤(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン);モンサント社製、「6PPD」
h)硫化モリブデン(MoS);シグマアルドリッチ社製
i)硫黄;鶴見化学工業社製、「5%油入微粉末硫黄」
j)加硫促進剤;三新化学社製、「サンセラーNS−G」
k)天然ゴム;「RSS#3」
【0043】
実施例1〜5
分散溶媒としての水に表1に記載の量のカーボンブラックを添加し、PRIMIX社製ロボミックスを使用してカーボンブラックを分散させることにより(該ロボミックスの条件:9000rpm、30分)、スラリー溶液を製造した。得られたスラリー溶液に、表1に記載の量の式(I)に記載の化合物および天然ゴムラテックス溶液を添加し、SANYO社製家庭用ミキサーSM−L56型を使用して混合し(ミキサー条件11300rpm、30分)、カーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を製造した(工程(i))。
【0044】
工程(i)で製造されたカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液に、凝固剤としての蟻酸を溶液全体がpH4となるまで添加し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物を製造した(工程(ii))。得られたカーボンブラック含有天然ゴム凝固物に対し、固液分離工程を実施し、次いでスエヒロEPM社製スクリュープレスV−01型に投入し、乾燥することでゴムウエットマスターバッチを製造した(工程(iii))。表1中の配合比率は、天然ゴムラテックス溶液中のゴム成分(固形分)の全量を100質量部としたときの質量部(phr)で示す。
【0045】
得られたゴムウエットマスターバッチに、硫化モリブデンを含む表1に記載の各種ゴム配合剤を添加し、バンバリーミキサーを用いて乾式混合することにより、ゴム組成物を製造した(工程(iv))。なお、表1中の配合比率は、天然ゴムラテックス溶液中のゴム成分(固形分)の全量を100質量部としたときの質量部(phr)で示す。
【0046】
比較例1〜4
比較例1においては、式(I)に記載の化合物および硫化モリブデンのいずれも配合しなかったこと以外は、実施例と同様の方法によりゴム組成物を製造した。また、比較例2においては、式(I)に記載の化合物を配合しなかったこと以外は、実施例と同様の方法によりゴム組成物を製造した。また、比較例3においては、硫化モリブデンを配合しなかったこと以外は、実施例と同様の方法によりゴム組成物を製造した。さらに、比較例4においては、ゴムウエットマスターバッチを製造することに代えて、天然ゴム(RSS#3)とカーボンブラックとを表1に記載の配合比で乾式混合することによりゴムドライマスターバッチを製造し、これに式(I)に記載の化合物および硫化モリブデンを含む各種ゴム配合剤を添加し、乾式混合することによりゴム組成物を製造した。
【0047】
[ペイン効果]
得られたゴム組成物の加硫ゴム中におけるカーボンブラックの分散性を、ペイン効果データに基づき評価した。データ測定には、アルファテクノロジーズ製RPA2000を使用し、150℃×30分加硫の加硫ゴムを試料とし、温度60℃、周波数1.667Hzの条件で測定した、0.25%歪みでの歪せん断弾性率G’と14%歪みでの歪せん断弾性率G’との差をペイン効果データとして算出した。評価は、比較例1の測定結果を100とする指数評価で行い、数値が小さいほどカーボンブラックの分散性に優れることを意味する。結果を表1に示す。
【0048】
[ペイン効果安定性]
各実施例および比較例において、得られたゴム組成物の加硫ゴムの製造直後のペイン効果データ(初期データ)を測定し、次いで室温で3か月放置後に同じ加硫ゴムのペイン効果データ(3か月後データ)を再度測定した。評価は、各々の初期データの測定結果を100とした場合の3か月後データの測定結果を指数評価することにより行った。指数が100に近いほど、カーボンブラックの分散安定性に優れることを意味する。なお、表1中での具体的な評価は、指数が100〜105である場合を◎、105〜110である場合を○、110〜120である場合を△、120を超える場合を×で評価した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の結果から、実施例1〜5で製造されたゴム組成物の加硫ゴムでは、カーボンブラックの分散性に優れ、かつ3か月後の加硫ゴムでもカーボンブラックの優れた分散性が維持されていることがわかる。一方、比較例2では式(I)に記載の化合物が配合されていないため、また比較例3では硫化モリブデンが配合されていないため、いずれもカーボンブラックの分散性および分散安定性が悪化していることがわかる。また、比較例4では、式(I)に記載の化合物がカーボンブラックおよび天然ゴムポリマーと十分に反応できず、結果としてカーボンブラックの分散性および分散安定性のいずれもが悪化することがわかる。