(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6964518
(24)【登録日】2021年10月21日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】ヤツメウナギ由来の配列への融合による組換えタンパク質の多量体化
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20211028BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20211028BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20211028BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20211028BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20211028BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20211028BHJP
C12N 1/13 20060101ALI20211028BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20211028BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20211028BHJP
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A61K 39/145 20060101ALI20211028BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20211028BHJP
A61K 39/29 20060101ALI20211028BHJP
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A61K 39/13 20060101ALI20211028BHJP
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A61K 39/02 20060101ALI20211028BHJP
A61K 39/08 20060101ALI20211028BHJP
A61K 39/118 20060101ALI20211028BHJP
A61K 39/04 20060101ALI20211028BHJP
A61K 39/112 20060101ALI20211028BHJP
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C07K 14/11 20060101ALN20211028BHJP
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C07K 16/12 20060101ALN20211028BHJP
【FI】
C07K19/00ZNA
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C12N1/21
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C12N15/62 Z
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A61K38/00
A61K39/145
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A61P37/04
!C07K14/005
!C07K14/46
!C07K14/195
!C07K14/11
!C07K14/25
!C07K16/08
!C07K16/12
【請求項の数】28
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2017-529712(P2017-529712)
(86)(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公表番号】特表2018-505135(P2018-505135A)
(43)【公表日】2018年2月22日
(86)【国際出願番号】EP2015080653
(87)【国際公開番号】WO2016097369
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年12月10日
(31)【優先権主張番号】14307096.9
(32)【優先日】2014年12月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】592055820
【氏名又は名称】サノフィ・パスツール
【氏名又は名称原語表記】SANOFI PASTEUR
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】レジス・ソドワイエ
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・ルガステロワ
【審査官】
佐藤 巌
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/127231(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/073692(WO,A1)
【文献】
特表2009−545322(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/128580(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/090493(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0213780(US,A1)
【文献】
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【文献】
MEKHAIEL, D.N.A. et al.,Sci. Rep.,2011年,Vol.1,Article No.124(pp.1-11)
【文献】
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【文献】
橋口周平ら,生化学,2010年,Vol.82, No.8,pp.710-726
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
UniProt/GeneSeq
MEDLINE/CAplus/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ24〜43個のアミノ酸長のサイズを有する第1のアミノ酸配列と、抗原、抗体または足場を構成する第2のアミノ酸配列とを含み、かつ配列番号29で定義されるアミノ酸配列を含まない分子であって、ここで、前記分子中、第1のアミノ酸配列のみがヤツメウナギVLR−B抗体のC末端からStalk領域の部分のアミノ酸配列を含み、かつ前記分子が配列番号1の2位、7位、13位、19位、21位、24位および27位に対応する前記分子内の位置でシステイン残基を含み、かつ多量体タンパク質を形成することができる、分子。
【請求項2】
組換えタンパク質である、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
前記第1のアミノ酸配列が配列番号1に対して少なくとも90%の同一性または100%の同一性を有する、請求項1または2に記載の分子。
【請求項4】
配列番号2で定義されるアミノ酸配列を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分子。
【請求項5】
前記第1のアミノ酸配列と前記第2のアミノ酸配列との間にリンカーが存在し、該リンカーが、3〜15個のアミノ酸長であり、かつ第1および第2のアミノ酸配列が互いに対して自由に動くように、グリシン(G)およびセリン(S)から選択されるフレキシブル残基から構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分子。
【請求項6】
前記抗原が、インフルエンザウイルス、HIV、サイトメガロウイルス、デングウイルス、黄熱病ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、コクサッキーウイルス、単純ヘルペスウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、呼吸器合抱体ウイルス、エボラウイルス、チクングニアウイルス、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、大腸菌(E.coli)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、ヘモフィルス・インフルエンザエ(Haemophilus influenzae)b型、クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、マイコバクテリウム・ジフテリアエ(Mycobacterium diphtheriae)、シゲラ(Shigella)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)およびプラスモジウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)からなる群から選択される供給源に由来する、請求項1から5のいずれか一項に記載の分子。
【請求項7】
前記抗原がインフルエンザウイルス由来であり、かつ赤血球凝集素(HA)、マトリックス2タンパク質(M2)およびHAM2融合タンパク質からなる群から選択される、請求項6に記載の分子。
【請求項8】
前記抗原がインフルエンザ赤血球凝集素である、請求項7に記載の分子。
【請求項9】
前記抗原が、膜貫通領域および細胞質側末端領域を欠失させたインフルエンザ赤血球凝集素である、請求項7に記載の分子。
【請求項10】
前記抗原がシゲラ(Shigella)由来であり、かつIpaDおよびMxiHからなる群から選択される、請求項6に記載の分子。
【請求項11】
前記抗体または足場が、インフルエンザウイルス、HIV、サイトメガロウイルス、デングウイルス、黄熱病ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、コクサッキーウイルス、単純ヘルペスウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、呼吸器合抱体ウイルス、エボラウイルス、チクングニアウイルス、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、大腸菌(E.coli)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、ヘモフィルス・インフルエンザエ(Haemophilus influenzae)b型、クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、マイコバクテリウム・ジフテリアエ(Mycobacterium diphtheriae)、シゲラ(Shigella)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)およびプラスモジウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)からなる群から選択される供給源に由来する抗原に特異的である、請求項1から5のいずれか一項に記載の分子。
【請求項12】
前記抗体が、モノクローナル抗体、単一ドメイン抗体(dAb)、一本鎖可変断片(scFv)、Fab、F(ab’)2および二重特異性抗体(Db)からなる群から選択される、請求項1から5および11のいずれか一項に記載の分子。
【請求項13】
前記第2のアミノ酸配列が、二重特異性抗体、多重特異性抗体、二重特異性足場および多重特異性足場からなる群から選択される抗体または足場を構成する、請求項1から5および11のいずれか一項に記載の分子。
【請求項14】
配列番号3に対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ72〜129個の塩基対長のサイズを有する第1の核酸配列と、抗原、抗体または足場をコードする第2の核酸配列とをインフレームで含み、かつ配列番号29で定義されるアミノ酸配列をコードしない組換え核酸であって、ここで、前記組換え核酸中、第1の核酸配列のみがヤツメウナギVLR−B抗体のC末端からStalk領域の部分をコードする核酸配列を含み、かつ前記第1の核酸配列がアミノ酸配列をコードし、コードされたアミノ酸配列が、配列番号1の2位、7位、13位、19位、21位、24位および27位に対応する前記アミノ酸配列内の位置でシステイン残基を含む、組換え核酸。
【請求項15】
前記第1の核酸配列が配列番号3に対して少なくとも90%の同一性または100%の同一性を有する、請求項14に記載の組換え核酸。
【請求項16】
前記第1の核酸配列が配列番号4の核酸配列を有する、請求項14に記載の組換え核酸。
【請求項17】
請求項14から16のいずれか一項に記載の組換え核酸を含む発現カセットであって、前記組換え核酸がプロモーターに作動可能に連結されている、発現カセット。
【請求項18】
請求項17に記載の発現カセットで形質転換されている宿主細胞。
【請求項19】
原核生物である、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項20】
原核生物が、大腸菌(E.coli)、バチルス(Bacillus)種、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、カウロバクター(Caulobacter)種、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)およびラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)からなる群から選択される、請求項19に記載の宿主細胞。
【請求項21】
真核生物である、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項22】
真核生物が、原生生物、昆虫細胞、酵母、哺乳動物細胞、植物細胞、微細藻類または真菌からなる群から選択される、請求項21に記載の宿主細胞。
【請求項23】
リーシュマニア・タレントラエ(Leishmania tarentolae)、CHOおよび大腸菌(E.coli)からなる群から選択される、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項24】
配列番号1に対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ24〜43個のアミノ酸長のサイズを有し、かつ組換えタンパク質中で唯一のヤツメウナギVLR−B抗体のC末端からStalk領域の部分のアミノ酸配列であるアミノ酸配列を含むタンパク質に融合している、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質を含み、配列番号29で定義されるアミノ酸配列を含まず、かつ配列番号1の2位、7位、13位、19位、21位、24位および27位に対応する前記アミノ酸配列内の位置でシステイン残基を含むホモ多量体組換えタンパク質であって、ここで、前記インフルエンザHAタンパク質の外部ドメインが、膜貫通領域および細胞質末端側領域を欠失させたインフルエンザHAである、ホモ多量体組換えタンパク質。
【請求項25】
請求項1から13のいずれか一項に記載の分子または請求項24に記載の組換えタンパク質と、薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項26】
薬剤として使用するための、請求項1から13のいずれか一項に記載の分子または請求項24に記載の組換えタンパク質。
【請求項27】
対象中での抗原に対する免疫応答の誘発に用いるための、請求項1から10のいずれか一項に記載の分子または請求項24に記載の組換えタンパク質。
【請求項28】
組換えタンパク質を多量体化する方法であって、 a)配列番号3に対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ72〜129個の塩基対長のサイズを有する核酸配列を、前記組換えタンパク質をコードする核酸配列にインフレームで融合させること、および b)前記組換えタンパク質の多量体化をもたらす条件下で、前記核酸配列によりコードされる融合タンパク質を発現させることを含み、ここで、前記配列番号3に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸配列がアミノ酸配列をコードし、ここで、前記アミノ酸配列が、配列番号1の2位、7位、13位、19位、21位、24位および27位に対応する前記アミノ酸配列内の位置でシステイン残基を含み、かつ前記アミノ酸配列が、前記融合タンパク質中で唯一のヤツメウナギVLR−B抗体のC末端からStalk領域の部分のアミノ酸配列であり、ここで、前記組換えタンパク質が、抗原、抗体または足場を構成するアミノ酸配列を含み、かつ配列番号29で定義されるアミノ酸配列を含まない、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、多量体組換えタンパク質の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、(例えば免疫系における)分子認識、シグナル伝達経路(ホルモン)、代謝産物および栄養素の輸送ならびに生化学反応の触媒(酵素)等の細胞機能の大部分に関与している。
【0003】
タンパク質の機能はこのタンパク質の三次元構造に起因しており、即ち、ポリペプチド鎖のアミノ酸が空間中で互いに対してどのように配置されているかに起因している。タンパク質がこのタンパク質の生物学的活性を発揮することができるのは、通常、このタンパク質の折り畳まれた状態(天然状態)のみである。
【0004】
大部分のタンパク質は一次構造(アミノ酸構造)、二次構造(アルファ−ヘリクスおよびベータ−シート)ならびに三次構造(三次元)を有するが、タンパク質オリゴマーは、三次元構造の一部である四次構造と呼ばれる更なるレベルを有する。オリゴマーは、いくつかのポリペプチドの複合体である。このオリゴマーは、サブユニットと称される同一タンパク質のいくつかのコピーを含むことができ、ホモオリゴマーと称されるか、またはこのオリゴマーは複数種のタンパク質サブユニットからなり得、この場合、このオリゴマーはヘテロオリゴマーと称される。血液中の酸素担体であるヘモグロビンは、同一サブユニットを含むタンパク質の一例である。窒素ガスのアンモニアへの還元に関与している微生物酵素であるニトロゲナーゼは、同一ではないサブユニットを含むタンパク質の一例である。
【0005】
興味深い多数の組換えタンパク質、例えば、抗体、多くの膜貫通タンパク質、例えば膜貫通受容体、ポリン、ウイルス表面抗原、熱ショックタンパク質、ウイルスカプシドタンパク質、フェリチン、インスリン、多くの酵素、例えばグルタチオンペルオキシダーゼ、カタラーゼまたはスーパーオキシドジスムターゼ、コラーゲンおよび多くのその他のものは、天然ではオリゴマーである。
【0006】
例えば、インフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)は、ウイルスと宿主細胞受容体との相互作用に関与しているウイルス表面上のホモ三量体糖タンパク質である。HAの三次元構造は(非特許文献1)で詳細に説明されている。インフルエンザウイルスに対するワクチン接種により誘発される防御免疫応答は主にウイルスHAタンパク質を対象とする。従って、組換えHAタンパク質(rHA)は、インフルエンザワクチンの開発にとって興味深い抗原である。
【0007】
興味深い別のオリゴマー抗原はシゲラ(Shigella)の侵入プラスミド抗原(Invasion Plasmid Antigen)D(IpaD)タンパク質であり、このタンパク質は、この細菌の針先で五量体または(IpaBの存在下で)三量体のいずれかを形成することが発見されている(非特許文献2)。
【0008】
興味深い更なるオリゴマー抗原は、シゲラ(Shigella)の針を作るサブユニットのらせん状集合体を形成することが発見されているシゲラ(Shigella)のIpaH(MxiH)タンパク質の膜発現である(非特許文献3)。
【0009】
組換えタンパク質分野での課題の1つは、組換えタンパク質が常に天然タンパク質と同じ三次元立体構造を有するとは限らないことである。更に、タンパク質の機能は、このタンパク質の三次元構造に起因することが多い。
【0010】
同様に、オリゴマーに関して、組換えタンパク質が天然タンパク質の四次構造を維持しない場合、この組換えタンパク質の機能が変更される可能性があるか、または抑制される可能性がある。
【0011】
例えば、William C.Weldonらは、(非特許文献4)において、組換えインフルエンザ赤血球凝集素の不十分な三量体が低い免疫原性の一因となり得ることを示した。
【0012】
従って、天然タンパク質のオリゴマー構造および所望の生物学的機能をより良好に保持する組換えタンパク質を製造する必要がある。
【0013】
Chih−Jen Weiらは、(非特許文献5)において、T4ファージのフォルドン配列(foldon sequence)を使用するインフルエンザrHAの三量体化を説明している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Nature,289,366−373(1981)
【非特許文献2】Cheung et al.,Molecular Microbiology,95(1),31−50(2015)
【非特許文献3】Cordes et al.,The Journal of Biological Chemistry,278(19),17103−17107(2003)
【非特許文献4】Plos One,5(9),e12466(2010)
【非特許文献5】Journal of Virology,82(13),6200−6208(2008)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、驚くべきことに、ヤツメウナギ可変リンパ球受容体B(VLR−B)抗体の配列の断片を異種融合タンパク質の多量体化に使用し得ることを確認した。
【0016】
ヤツメウナギは、ロイシンリッチリピート遺伝子セグメントのコンビナトリアル集合体(combinatorial assembly)により作られた可変リンパ球受容体(VLR)を発現するクローン的に多様なリンパ球で適応免疫系が構成されている無顎脊椎動物である。VLR−Bが分泌され得、有顎脊椎動物中において抗体と同様に機能し得る。
【0017】
驚くべきことに、本発明者らは、目的のタンパク質をコードする核酸配列と、ヤツメウナギVLR−B抗体の最C末端(extreme C−terminus)(即ちC末端からStalk領域)(国際公開第2008/016,854号パンフレットの
図11Cにおいて「C−TERM」と命名されたドメイン)で見出されるペプチドをコードする核酸配列との融合により、種々のオリゴマー化度でオリゴマー化し得る組換えタンパク質がコードされることを発見した。
【0018】
より驚くべきことに、本発明者らは、得られた多量体組換えタンパク質が安定であることを発見した。
【0019】
更により驚くべきことに、本発明者らは、得られた安定な多量体組換えタンパク質が、このタンパク質の天然型の生物学的活性を保持しつつ種々のオリゴマー化度を有することを発見した。
【0020】
一実施形態によれば、配列番号1に対して少なくとも80%の同一性を有する第1のアミノ酸配列と、前記第1の配列に対して異種である第2のアミノ酸配列とを含む分子が得られる。
【0021】
別の実施形態によれば、配列番号1に対して少なくとも80%の同一性を有する第1のアミノ酸配列と、前記第1の配列に対して異種である第2のアミノ酸配列とを含む組換えタンパク質が得られる。
【0022】
別の実施形態によれば、配列番号3に対して少なくとも80%の同一性を有する第1の核酸配列と、前記第1の配列に対して異種である第2の核酸配列とを含む組換え核酸が構築されている。
【0023】
別の態様は、上記で説明した組換え核酸を含む発現カセットであって、この組換え核酸がプロモーターに作動可能に連結されている、発現カセットを対象とする。
【0024】
別の態様は、この発現カセットで形質転換されている宿主細胞を対象とする。
【0025】
本発明はまた、配列番号1に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質に融合している、インフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質を含む安定なホモ多量体組換えタンパク質も対象とする。
【0026】
別の実施形態は、本発明の分子または組換えタンパク質と、薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む医薬組成物を対象とする。
【0027】
別の態様では、本発明は、本発明の分子または組換えタンパク質を含む免疫原性組成物を提供する。
【0028】
別の実施形態では、本発明の分子または組換えタンパク質を薬剤として使用する。
【0029】
本発明の更なる態様では、本発明の分子または組換えタンパク質を、対象中での抗原に対する免疫応答の誘発で使用する。
【0030】
本発明はまた、組換えタンパク質を多量体化する方法であって、
a)配列番号3に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸配列を、前記組換えタンパク質をコードする核酸配列に融合させることであって、但し前記組換えタンパク質がヤツメウナギVLR−B抗体タンパク質ではない、融合させること、
b)前記組換えタンパク質の多量体化をもたらす条件下で、前記核酸配列によりコードされる融合タンパク質を発現させること
を含む方法も対象とする。
【0031】
定義
本発明に関連して、タンパク質「オリゴマー」または「ポリマー」または「多量体」は同じ意味(即ち四次構造を有するタンパク質)を有しており、少なくとも2個のポリペプチドの複合体であり、前記ポリペプチドは同一でもよく、または異なってもよい。従って、本発明に関連して、「多量体化」、「オリゴマー化」および「重合」は、「多量体化される」、「オリゴマー化される」および「重合される」、または「多量体化する」、「オリゴマー化する」および「重合させる」と同じ意味を有する。
【0032】
「組換えタンパク質」とは、組換え核酸によりコードされるタンパク質のことである。この組換えタンパク質は、宿主細胞中で組換え核酸から発現される。本明細書において、「組換え核酸」を、この組換え核酸の起源または操作により、天然では関連しているポリヌクレオチドの全てもしくは一部と関連していないおよび/または天然では連結されているポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドに連結されている核酸分子を説明するために使用する。本発明の組換えタンパク質は、ヤツメウナギのVLR−B抗体由来のタンパク質断片と、このヤツメウナギのVLR−B抗体由来のタンパク質断片に対して異種である目的のタンパク質とを含む。本明細書で説明する場合、本発明の組換えタンパク質は、ヤツメウナギのVLR−B抗体の最C末端由来のタンパク質断片を含む。
【0033】
本発明に関連して、「分子」
には、ヤツメウナギのVLR−B抗体由来のタンパク質断片と、このヤツメウナギのVLR−B抗体由来のタンパク質断片に対して異種である目的のタンパク質との間の任意の手段による接合体
が含まれる。例えば、共有結合によりVLR−Bタンパク質と目的の異種タンパク質とを接合させることにより、本発明の分子を作ることができる。そのような共有結合の例として、ペプチド結合、エステル結合、アミド結合およびジスルフィド結合が挙げられる。本明細書で説明する場合、ヤツメウナギのVLR−B抗体由来のタンパク質断片は、ヤツメウナギのVLR−B抗体の最C末端に由来する。
【0034】
本発明の分子または組換えタンパク質の説明における「第1のアミノ酸配列」および「第2のアミノ酸配列」は、これらの配列の特定の順序が意図されることを意味するものではない。本発明の分子または組換えタンパク質に含まれる2種の配列をより明確に区別することは、実施形態を明瞭にするためにすぎない。
【0035】
本発明の組換え核酸の説明における「第1の核酸配列」および「第2の核酸配列」は、これらの配列の特定の順序が意図されることを意味するものではない。本発明の組換え核酸に含まれる2種の配列をより明確に区別することは、実施形態を明瞭にするためにすぎない。
【0036】
本発明に関連して、第1の配列(アミノ酸配列または核酸配列のいずれか)は、ヤツメウナギのVLR−B抗体のC末端に由来するアミノ酸配列または核酸配列をそれぞれ示す。本発明によれば、第1のポリペプチド配列のサイズは概して24〜43個のアミノ酸長であり、具体的には30〜43個のアミノ酸長で
ある。従って、第1のポリペプチド配列のサイズは、好ましくは約30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個または43個のアミノ酸長であることができる。本発明によれば、第1の核酸配列のサイズは概して72〜129個の塩基対長であり、具体的には90〜129個の塩基対長で
ある。従って、第1の核酸配列のサイズは、好ましくは約90個、91個、92個、93個、94個、95個、96個、97個、98個、99個、100個、101個、102個、103個、104個、105個、106個、107個、108個、109個、110個、111個、112個、113個、114個、115個、116個、117個、118個、119個、120個、121個、122個、123個、124個、125個、126個、127個、128個または129個の塩基対長であることができる。
【0037】
本発明に関連して、第2の配列(アミノ酸配列または核酸配列のいずれか)は、目的のタンパク質のアミノ酸配列もしくはこの断片または目的のタンパク質をコードする核酸配列もしくはこの断片をそれぞれ示す。本発明に関連して、本明細書で言及するタンパク質の「断片」は、この断片が由来する完全長タンパク質の生物学的機能を保持する。そのため、本発明に係る断片は、少なくとも20個、少なくとも50個、少なくとも75個、少なくとも100個または少なくとも150個のアミノ酸長であることができる。
【0038】
単一の組換え分子に含まれる2種の配列は、これらの配列が天然では通常互いに関連していない場合、互いに対して「異種」である。本発明に関連して、第1の配列(アミノ酸配列または核酸配列のいずれか)に対して異種である第2の配列は、この第2の異種配列が、ヤツメウナギのVLR−B抗体由来の配列ではないか、またはこの配列を含まないことを意味する。本発明に関連して、この異種配列は、ポリヒスチジン−タグ(His−タグ)のアミノ酸配列またはHis−タグをコードする核酸配列ではない。更に、本発明に係る異種核酸が少なくとも5個、少なくとも10個または少なくとも15個のアミノ酸長である(またはそのようなアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列である)ことが好ましい。
【0039】
「融合タンパク質」とは、元々は別々のタンパク質をコードする2種以上の遺伝子の連結により作られるタンパク質のことである。これは、概して、第1のタンパク質をコードするDNA配列から終止コドンを除去すること、次いでライゲーションまたは重複伸長PCRにより
インフレームで第2のタンパク質のDNA配列を付加することを含む。3種以上の遺伝子を融合させる場合、その他の遺伝子を同様に
インフレームで付加する。次いで、結果として生じるDNA配列を単一タンパク質として細胞により発現させることができる。本発明の融合タンパク質は、目的のタンパク質のいずれかもしくは全てまたはこの断片をコードする核酸に融合している、ヤツメウナギのVLR−B抗体由来のタンパク質断片をコードする核酸から得られる。本発明に関連して、このタンパク質を、目的のタンパク質の完全配列または目的のタンパク質の一部のみを含むように操作することができる。2種以上の遺伝子の連結を任意の順序で行なうことができ、即ち、目的のタンパク質をコードする配列またはこの断片は、ヤツメウナギVLR−B抗体の断片をコードする配列から3’または5’のいずれかに位置する。好ましくは、目的のタンパク質をコードする配列またはこの断片は、ヤツメウナギVLR−B抗体の断片をコードする配列から5’に位置する。本明細書の別の箇所で説明するように、本発明に関連して、ヤツメウナギのVLR−B抗体由来のタンパク質断片はヤツメウナギVLR−B抗体の最C末端に由来する。
【0040】
本明細書で使用する場合、第2の配列に対して少なくともx%の同一性を有する第1の配列は、第2のアミノ酸配列の完全長に対する、グローバルアラインメントにより両方の配列を最適にアラインさせた場合に第2の配列のアミノ酸とマッチした第1の配列のアミノ酸と同一である第1の配列中のアミノ酸の数をx%が表すことを意味する。両方の配列は、xが最大である場合に最適にアラインされる。グローバルアラインメントアルゴリズムを使用して、例えばポリペプチド配列比較用の下記のパラメータ:比較マトリックス:Henikoff and Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,89,10915−10919(1992)からのBLOSUM62、ギャップペナルティ:8およびギャップ長ペナルティ:2ならびにポリヌクレオチド配列比較用の下記のパラメータ:比較マトリックス:マッチ=+10、ミスマッチ=0、ギャップペナルティ:50およびギャップ長ペナルティ:3による、Needleman and Wunsch,J.Mol Biol.,48,443−453(1970)で説明されているNeedlemanおよびWunschアルゴリズムを使用して、アラインメントおよび同一性の割合の決定を手動でまたは自動で実行することができる。
【0041】
上記パラメータと共に使用することができるプログラムは、Genetics Computer Group、Madison WIから「ギャップ」プログラムとして公的に利用可能である。上述したパラメータは、ペプチド比較(エンドキャップに対するペナルティはない)および核酸比較のそれぞれのためのデフォルトパラメータである。
【0042】
「抗原」は、個体中で免疫応答を誘発することができるあらゆる因子(好ましくは巨大分子)を意味する。この用語を、個々の巨大分子または抗原巨大分子の同種集団もしくは異種集団を意味するために使用することができる。本明細書で使用する場合、好ましくは、1種または複数種のエピトープを含むタンパク質分子またはこの一部を意味するために「抗原」を使用する。エピトープは、抗原中において抗体またはT細胞受容体により認識される部分である。一部のエピトープは、非連続的なコンフォメーションエピトープ(discontinuous conformational epitope)と称される。この非連続的なコンフォメーションエピトープは、このエピトープを含むアミノ酸が、タンパク質の三次元構造中では互いに近位であるが、一次元の直鎖状アミノ酸配列で厳密に見ると互いに遠位に見えることを意味する。従って、免疫系が実際には何を認識するかという観点から、タンパク質の三次元構造が極めて重要であることは明らかである。
【0043】
「外部ドメイン」とは、膜貫通アンカー型タンパク質中において膜を超えて細胞外空間へと伸びる部分のことである。
【0044】
「足場」とは、適切な露出表面残基の選択的ランダム変異誘発、続いて所望の結合活性を有する多様体の選択により、選択されたタンパク質足場のコンビナトリアルライブラリから通常作成される特異的リガンド結合人工構造物のことである。Kaspar Binzらは、Nature Biotechnology,86(10),1257−1268(2005)において、多数の代替タンパク質足場、これら代替タンパク質足場からコンビナトリアルライブラリを設計するための十分に確立された技術、適切な多様体を選択するための十分に確立された技術(ほとんどがファージディスプレイ)ならびに関連する方法を概説している。
【0045】
下記の実施形態の詳細な説明および添付図面を参照して、実施形態の様々な特徴をより詳細に認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】組換えインフルエンザHA外部ドメインタンパク質を製造するために使用する発現カセットを示す。(a)pLexsy−I−bleo2発現カセット。(b)配列1は配列番号7と一致し、インフルエンザA/California/07/2009(H1N1)のHAタンパク質の外部ドメインをコードする核酸配列に融合した核酸配列(第1の試験配列をコードする)である。(c)配列2は配列番号8と一致し、インフルエンザA/California/07/2009(H1N1)のHAタンパク質の外部ドメインをコードする核酸配列に融合した核酸配列(第2の試験配列をコードする)である。(d)配列3は配列番号9と一致し、インフルエンザA/California/07/2009(H1N1)のHAタンパク質の外部ドメインをコードする核酸配列に融合した核酸配列(第3の試験配列をコードする)である。
【
図2】様々な組換えHA外部ドメインタンパク質のSDS PAGEゲルのウェスタンブロットを示す写真である。・レーン1:分子量サイズマーカー・レーン2:陰性コントロール − プロモーターの導入なし、加熱処理あり・レーン3:陰性コントロール − プロモーターの導入なし・レーン4:陰性コントロール − 不適切な抗原(インフルエンザ抗体)、加熱処理あり・レーン5:陽性コントロール − rHA外部ドメイン、重合配列なし、加熱処理あり・レーン6:陽性コントロール − rHA外部ドメイン、重合配列なし・レーン7:一実施形態に係る配列番号1の重合配列に融合したrHA外部ドメイン、加熱処理あり・レーン8:一実施形態に係る配列番号1の重合配列に融合したrHA外部ドメイン・レーン9:一実施形態に係る配列番号2の重合配列に融合したrHA外部ドメイン、加熱処理あり・レーン10:一実施形態に係る配列番号2の重合配列に融合したrHA外部ドメイン・レーン11:配列番号5の重合配列に融合したrHA外部ドメイン、加熱処理あり・レーン12:配列番号5の重合配列に融合したrHA外部ドメイン
【
図3】一実施形態に係る多量体rHAで免疫付与したマウスでの赤血球凝集平均抗体力価の抑制を示すグラフである。
【
図4】CHO細胞中で組換えインフルエンザHA外部ドメインタンパク質を産生するために使用したpEE14.4発現カセットを示す。
【
図5】CHO細胞中で発現した様々な組換えHA外部ドメインタンパク質のSDS PAGEゲルのウェスタンブロットを示す写真である。
【
図6】大腸菌(E.coli)中で組換えシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)IpaDタンパク質を産生するために使用したpM1800発現カセットを示す。
【
図7】様々な組換えシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)IpaDタンパク質のSDS PAGEゲルのウェスタンブロットを示す写真である。
【
図8】His−タグを有する様々な組換えシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)IpaDタンパク質のSDS PAGEゲルのウェスタンブロットを示す写真である。
【
図9】加熱処理した様々な組換えシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)IpaDタンパク質のSDS PAGEゲルのウェスタンブロットを示す写真である。
【
図10】様々な組換えシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)MxiHタンパク質のSDS PAGEゲルのウェスタンブロットを示す写真である。「IS」は不溶性(ペレット試料)を意味し、「S」は可溶性(上清試料)を意味する。
【
図11】His−タグを有する様々な組換えシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)MxiHタンパク質のSDS PAGEゲルのウェスタンブロットを示す写真である。「IS」は不溶性(ペレット試料)を意味し、「S」は可溶性(上清試料)を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
一実施形態によれば、配列番号1に対して少なくとも80%の同一性を有する第1のアミノ酸配列と、前記第1の配列に対して異種である第2のアミノ酸配列とを含む分子が得られる。具体的には、本発明に係る分子は、配列番号1に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有する第1のアミノ酸配列を含む。
【0048】
一実施形態によれば、配列番号2に対して少なくとも80%の同一性を有する第1のアミノ酸配列と、前記第1の配列に対して異種である第2のアミノ酸配列とを含む分子が得られる。具体的には、本発明に係る分子は、配列番号2に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有する第1のアミノ酸配列を含む。
【0049】
好ましい実施形態では、配列番号1の2位、7位、13位、19位、21位、24位および27位に対応する7個のシステインが第1のアミノ酸配列で保存されている。本発明の分子はヤツメウナギVLR−B抗体タンパク質を含まない。
【0050】
好ましい実施形態では、配列番号2の2位、15位、20位、26位、32位、34位、37位および40位に対応する8個のシステインが第1のアミノ酸配列で保存されている。本発明の分子はヤツメウナギVLR−B抗体タンパク質を含まない。
【0051】
一実施形態によれば、配列番号1に対して少なくとも80%の同一性を有する第1のアミノ酸配列と、前記第1の配列に対して異種である第2のアミノ酸配列とを含む組換えタンパク質が得られる。具体的には、本発明に係る組換えタンパク質は、配列番号1に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有する第1のアミノ酸配列を含む。
【0052】
一実施形態によれば、配列番号2に対して少なくとも80%の同一性を有する第1のアミノ酸配列と、前記第1の配列に対して異種である第2のアミノ酸配列とを含む組換えタンパク質が得られる。具体的には、本発明に係る分子は、配列番号2に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有する第1のアミノ酸配列を含む。
【0053】
好ましい実施形態では、配列番号1の2位、7位、13位、19位、21位、24位および27位に対応する7個のシステインが第1のアミノ酸配列で保存されている。本発明の組換えタンパク質はヤツメウナギVLR−B抗体タンパク質を含まない。
【0054】
好ましくは、本発明の分子または組換えタンパク質は、ヤツメウナギVLR−B抗体由来のロイシンリッチリピート(LRR)モジュールを含まない。ヤツメウナギVLR−B抗体由来のLRRモジュールのコンセンサス配列はLXXLXXLXLXXNXLXXXPXGXFDXであり、このコンセンサス配列においてXはあらゆるアミノ酸であることができる(配列番号29)。好ましくは、本発明の分子または組換えタンパク質は、配列番号29で定義される配列の群の範囲に含まれる配列を含まず、即ち本発明の分子または組換えタンパク質は配列番号29を含まない。LRRモジュール(国際公開第2008/016854号パンフレットの
図11Cを参照されたい)の具体例として、N末端キャップLRR(LRRNTと称される)、LRR1、可変LRRモジュール(LRRVと称される)および末端LRRV(end LRRV)(LRRVeとして既知である)およびC末端キャップLRR(LRRCTと称される)が挙げられる。好ましくは、本発明の分子または組換えタンパク質は、ヤツメウナギVLR−B抗体由来のLRRNT、LRR1、LRRVおよびLRRCTモジュールのうちの1種または複数種を含まない。ヤツメウナギVLR−B抗体はまた、LRRモジュールに加えて連結ペプチド(CP)およびStalk領域も含む。好ましくは、本発明の分子または組換えタンパク質は、ヤツメウナギVLR−B抗体由来のCPまたはStalk領域を含まない。好ましくは、本発明の分子または組換えタンパク質は、ヤツメウナギVLR−B抗体由来のLRRモジュール、CPまたはStalk領域を含まない。好ましくは、本発明の分子中においてまたは組換えタンパク質中においてヤツメウナギ由来のアミノ酸配列のみが、ヤツメウナギVLR−B抗体の最C末端(即ちタンパク質のC末端からStalk領域の部分、国際公開第2008/016854号パンフレットの
図11Cを参照されたい)に由来する。好ましくは、本発明の分子中においてまたは組換えタンパク質中においてヤツメウナギ由来のアミノ酸配列のみが、配列番号1または配列番号2に対して少なくとも80%の同一性を有する配列であり、例えば、配列番号1または配列番号2に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有する配列である。
【0055】
別の実施形態は、配列番号3に対して少なくとも80%の同一性を有する第1の核酸配列と、前記第1の配列に対して異種である第2の核酸配列とを含む組換え核酸を対象とする。具体的には、本発明に係る組換え核酸は、配列番号3に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有する第1の核酸配列を含む。
【0056】
別の実施形態は、配列番号4に対して少なくとも80%の同一性を有する第1の核酸配列と、前記第1の配列に対して異種である第2の核酸配列とを含む組換え核酸を対象とする。具体的には、本発明に係る組換え核酸は、配列番号4に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有する第1の核酸配列を含む。
【0057】
好ましい実施形態では、第1の核酸配列は下記のようなアミノ酸配列をコードし、このアミノ酸配列は、配列番号1の2位、7位、13位、19位、21位、24位および27位に対応する前記アミノ酸配列内の位置でシステイン残基を含む。本発明の組換え核酸はヤツメウナギVLR−B抗体をコードしない。好ましい実施形態では、第1の核酸配列は下記のようなアミノ酸配列をコードし、このアミノ酸配列は、配列番号2の2位、15位、20位、26位、32位、34位、37位および40位に対応する前記アミノ酸配列内の位置でシステイン残基を含む。
【0058】
好ましくは、本発明の組換え核酸は、ヤツメウナギVLR−B抗体由来のロイシンリッチリピート(LRR)モジュールをコードしない。具体的には、本明細書で説明する組換え核酸は、配列番号29の配列を有するアミノ酸配列をコードしない。好ましくは、本発明の組換え核酸は、ヤツメウナギVLR−B抗体由来のLRRNTモジュール、LRR1モジュール、LRRVモジュール、LRRCTモジュール、CPおよびStalk領域のうちの1種または複数種をコードしない。好ましくは、本発明の組換え核酸によりコードされるヤツメウナギ由来のアミノ酸配列のみが、ヤツメウナギVLR−B抗体の最C末端(即ちタンパク質のC末端からStalk領域の部分、国際公開第2008/016854号パンフレットの
図11Cを参照されたい)に由来する。好ましくは、本発明の組換え核酸中においてヤツメウナギ由来の核酸配列のみが、配列番号3または配列番号4に対して少なくとも80%の同一性を有する配列であり、例えば、配列番号3または配列番号4に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有する配列である。
【0059】
第1のアミノ酸配列と第2の異種アミノ酸配列との間にリンカーを挿入することができる。リンカーは、タンパク質ドメイン間の短ペプチド配列または別の適切な共有結合的連結であることができる。好ましくは、リンカーは短ペプチド配列である。好ましくは、前記ペプチドリンカーは、グリシン(G)およびセリン(S)のような
フレキシブル残基から構成されており、そのため、隣接するタンパク質ドメインは互いに対して自由に動く。好ましくは、前記リンカーは、少なくとも3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個または少なくとも15個のアミノ酸残基長である。当業者に既知のあらゆる可能なリンカーを本発明の目的に使用することができる。例えば、リンカーは、Plos One,5(9),e12466(2010)でWilliam C.Weldonらにより使用されているG6S9(6個のグリシンに続いて9個のセリンを意味する)、Journal of General Virology,86,2543−2552(2005)でLudmilla Sissoeffらにより使用されているG8、またはG4S3であることができる。
【0060】
第1の核酸配列と第2の異種核酸配列との間に、上記で説明したペプチドリンカーをコードするスペーサー核酸配列を挿入することができる。
【0061】
好ましい実施形態では、目的の異種タンパク質は抗原またはこの断片である。この実施形態では、異種アミノ酸配列は抗原アミノ酸配列由来であるか、または異種核酸配列は抗原核酸配列由来である。本発明では、抗原をあらゆる適切な供給源から得ることができるか、またはこの抗原はあらゆる適切な供給源に由来し得る。好ましくは、抗原の供給源は、インフルエンザウイルス、HIV、サイトメガロウイルス、デングウイルス、黄熱病ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、コクサッキーウイルス、単純ヘルペスウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、呼吸器合抱体ウイルス、エボラウイルス、チクングニアウイルス、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、大腸菌(E.coli)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、ヘモフィルス・インフルエンザエ(Haemophilus influenzae)b型、クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、マイコバクテリウム・ジフテリアエ(Mycobacterium diphtheriae)、シゲラ(Shigella)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)およびプラスモジウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)からなる群から選択される。好ましくは、この抗原は分子量が150kDa未満であるか、125kDa未満であるか、または100kDa未満である。最も好ましくは、この抗原は分子量が100kDa未満である。
【0062】
好ましくは、抗原の供給源は、インフルエンザウイルス、サイトメガロウイルス、デングウイルス、黄熱病ウイルス、肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、単純ヘルペスウイルス、狂犬病ウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、呼吸器合抱体ウイルス、エボラウイルス、チクングニアウイルス、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、大腸菌(E.coli)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、ヘモフィルス・インフルエンザエ(Haemophilus influenzae)b型、マイコバクテリウム・ジフテリアエ(Mycobacterium diphtheriae)、シゲラ(Shigella)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)およびストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)からなる群から選択される。好ましくは、抗原の供給源はインフルエンザウイルスおよびシゲラ(Shigella)から選択される。
【0063】
一部の実施形態では、本発明の分子または組換えタンパク質は、本明細書で説明するヤツメウナギVLR−B配列に対して異種である複数種の抗原を含むことができる。本分子または本組換えタンパク質が数種の抗原を含む場合、これらの抗原は独立して、目的の完全タンパク質または目的のタンパク質の断片であり、同一の生物に由来してもよく、または異なる生物に由来してもよい。この抗原は、同一の生物由来のまたは異なる生物由来の異なるタンパク質の融合抗原またはこの断片であることができる。
【0064】
好ましくは、本発明の分子または組換えタンパク質で使用する抗原は、インフルエンザウイルス由来である。インフルエンザウイルスは、季節性インフルエンザウイルスでもよく、または汎発性インフルエンザウイルスでもよい。インフルエンザウイルスは、A株、B株またはC株のあらゆる亜型であることができる。具体的には、インフルエンザAウイルスは、H1N1ウイルス、H2N2ウイルス、H3N1ウイルス、H3N2ウイルス、H3N8ウイルス、H5N1ウイルス、H7N1ウイルス、H7N7ウイルス、H1N2ウイルス、H9N2ウイルス、H7N2ウイルス、H7N3ウイルスおよびH10N7ウイルスからなる群から選択される。
【0065】
好ましくは、インフルエンザ抗原は、赤血球凝集素(HA)またはこの断片、マトリックス2タンパク質(M2)(Holsinger et al.,Virology,183,32−43(1991))またはこの断片およびHAM2融合タンパク質から選択される。HAM2融合タンパク質では、HAおよびM2は独立して、完全タンパク質またはこのタンパク質の断片である。より好ましい実施形態では、抗原はインフルエンザ赤血球凝集素またはこの断片である。
【0066】
更に、本発明では、改変(例えば、天然配列に対する欠失、付加および置換)を有するタンパク質が十分な免疫原性を維持する限り、抗原はこのタンパク質を含む。この改変は、例えば部位特異的変異誘発による故意であってもよく、または宿主細胞中での抗原の発現中に起こる変異等の偶発的であってもよい。この抗原はまた、コンセンサス配列によりコードされるタンパク質またはこの断片であることもできる。
【0067】
好ましくは、抗原は膜貫通アンカー型タンパク質の外部ドメインである。この外部ドメインは下記のような天然タンパク質に対応しており、この天然タンパク質では、抗原を産生する宿主中でのこの天然タンパク質の分泌およびこの天然タンパク質の容易な下流精製を可能にするために、存在する場合には膜貫通ドメインおよび細胞質側末端が欠失されている。
【0068】
好ましくは、抗原はインフルエンザウイルスHAの外部ドメインである。
【0069】
別の好ましい実施形態では、目的のタンパク質(即ち本発明の抗原または組換えタンパク質で使用する抗原)は、サイトメガロウイルス(CMV)糖タンパク質B(gB)(Scheffczick et al.,FEBS Letters,506,113−116(2001))もしくはこの断片、サイトメガロウイルスUL130タンパク質(Patrone et al.,J.Virol.79(13),8361−8373(2005))もしくはこの断片またはgB−UL130融合タンパク質、およびHIV糖タンパク質41(Gp41)(Pancera et al.,Nature,514(7523),455−461(2014))もしくはこの断片から選択される。このgB−UL130融合タンパク質では、gBおよびUL130は独立して完全タンパク質またはこの断片である。
【0070】
より好ましい実施形態では、抗原はCMV gBタンパク質またはHIV Gp41タンパク質の外部ドメインである。gB−UL130融合タンパク質では、gBは完全タンパク質またはgBタンパク質の外部ドメインである。別の好ましい実施形態では、抗原は、HIV Gp41タンパク質およびサイトメガロウイルスUL130タンパク質からなる群から選択される。
【0071】
別の好ましい実施形態では、抗原は細菌タンパク質であり、例えばシゲラ(Shigella)種由来のタンパク質である。好ましくは、抗原は、シゲラ・ソネイ(Shigella sonnei)またはシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)に由来する。好ましくは、抗原はシゲラ・ソネイ(Shigella sonnei)またはシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)に由来するIpaDまたはMxiHである。特定の実施形態では、抗原は、好ましくはCMV gBタンパク質またはCMV gBタンパク質の外部ドメインではない。
【0072】
別の好ましい実施形態では、目的のタンパク質は抗体または足場である。この実施形態では、異種アミノ酸配列は抗体もしくは足場のアミノ酸配列に由来するか、または異種核酸配列は抗体もしくは足場の核酸配列に由来する。
【0073】
好ましい実施形態では、抗体または足場は抗原に特異的であり、即ち抗原に特異的に結合する。本発明では、抗体または足場が特異的である抗原をあらゆる適切な供給源から得ることができるか、またはこの抗原はあらゆる適切な供給源に由来し得る。好ましくは、抗原の供給源は、インフルエンザウイルス、HIV、サイトメガロウイルス、デングウイルス、黄熱病ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、コクサッキーウイルス、単純ヘルペスウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、呼吸器合抱体ウイルス、エボラウイルス、チクングニアウイルス、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、大腸菌(E.coli)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、ヘモフィルス・インフルエンザエ(Haemophilus influenzae)b型、クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、マイコバクテリウム・ジフテリアエ(Mycobacterium diphtheriae)、シゲラ(Shigella)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)およびプラスモジウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)からなる群から選択される。
【0074】
好ましくは、抗原の供給源は、インフルエンザウイルス、サイトメガロウイルス、デングウイルス、黄熱病ウイルス、肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、単純ヘルペスウイルス、狂犬病ウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、呼吸器合抱体ウイルス、エボラウイルス、チクングニアウイルス、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、大腸菌(E.coli)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、ヘモフィルス・インフルエンザエ(Haemophilus influenzae)b型、マイコバクテリウム・ジフテリアエ(Mycobacterium diphtheriae)、シゲラ(Shigella)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)およびストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)からなる群から選択される。
【0075】
好ましい実施形態では、抗体は、Current Opinion in Molecular Therapeutics,12(2),176−183(2010)でRoland Kontermannにより説明されている代替型のうちの1つである。具外的には、抗体は、モノクローナル抗体、単一ドメイン抗体(dAb)、一本鎖可変断片(scFv)、Fab、F(ab’)2および二重特異性抗体(Db)からなる群から選択される。この実施形態では、異種アミノ酸配列または異種核酸配列は、それぞれモノクローナル抗体、dAb、scFv、Fab、F(ab’)2もしくはDbのアミノ酸配列に由来するか、またはモノクローナル抗体、dAb、scFv、Fab、F(ab’)2もしくはDbの核酸配列に由来する。
【0076】
Roland Kontermannはまた、Current Opinion in Molecular Therapeutics,12(2),176−183(2010)において二重特異性抗体型も説明している。一部の実施形態では、本発明の分子(例えば組換えタンパク質)は二重特異性抗体もしくは二重特異性足場であり、即ち2種の異なる抗原に特異的な抗体もしくは足場であるか、または多重特異性抗体もしくは多重特異性足場であり、即ち3種以上の異なる抗原に特異的な抗体もしくは足場である。この実施形態では、異種アミノ酸配列は、少なくとも2種の異なる抗体、モノクローナル抗体、dAb、scFv、Fab、F(ab’)2、Dbもしくは足場のアミノ酸配列を含むか、または異種核酸配列は、少なくとも2種の異なる抗体、モノクローナル抗体、dAb、scFv、Fab、F(ab’)2、Dbもしくは足場の核酸配列を含む。2種以上の遺伝子は任意の順序で連結され得、即ち、目的の2種以上のタンパク質をコードする配列もしくはこの断片は、本発明に係るヤツメウナギVLR−B抗体の断片をコードする配列の3’もしくは5’のいずれかに位置するか、または目的のタンパク質をコードする配列のうちの1種もしくはこの断片は、本発明に係るヤツメウナギVLR−B抗体の断片をコードする配列の5’に位置し、目的のタンパク質をコードするその他の配列もしくはこの断片は3’に位置する。好ましくは、目的の2種以上のタンパク質をコードする配列またはこれらの断片は、本発明に係るヤツメウナギVLR−B抗体の断片をコードする配列から5’に位置する。
【0077】
本発明の分子または組換えタンパク質を、当業者に公知の任意の方法により合成することができる。そのような方法として、固相中での(R.B.Merrifield,J.Am.Chem.Soc.,85(14),2149−2154(1963))または液相中での従来の化学合成、構成的アミノ酸またはこの誘導体からの酵素合成(K.Morihara,Trends in Biotechnology,5(6),164−170(1987))、無細胞タンパク質合成(Katzen et al.,Trends in Biotechnology,23(3),150−156(2005))、および組換え技術による生物学的産生方法が挙げられる。
【0078】
当業者に既知の任意の方法を、第1のアミノ酸配列と第2のアミノ酸配列との間の化学的コンジュゲーションに使用することができる。そのような方法として、任意選択でペプチドリンカーとのペプチド結合(例えば、組換え核酸からの融合タンパク質としての第1のおよび第2のアミノ酸配列の発現)による従来の化学的コンジュゲーション、または任意の共有結合的連結(例えばペプチド結合、エステル結合、アミド結合もしくはジスルフィド結合)によるコンジュゲーションが挙げられる。好ましくは、第1のおよび第2のアミノ酸配列を融合タンパク質として一緒に発現させる。
【0079】
本発明の分子または組換えタンパク質の化学合成は特に有利であり得、なぜなら、この化学合成により、高純度、望ましくない副生成物の不存在および容易な製造が可能になるからである。
【0080】
次いで、そのような方法により得られた本発明の分子またはタンパク質を、当業者に既知の任意の方法を使用して任意選択で精製することができる。
【0081】
好ましくは、組換え宿主細胞による生物学的製造プロセスを使用して、本発明の組換えタンパク質を得る。そのようなプロセスでは、発現カセット(本発明のタンパク質または融合タンパク質をコードする核酸を含む)を宿主細胞中に導入し、この宿主細胞を、対応するタンパク質または融合タンパク質の発現を可能にする条件下で培養する。次いで、これにより産生されるタンパク質または融合タンパク質を回収して精製することができる。
【0082】
本発明はまた、本発明の組換え核酸を含む発現カセットであって、この組換え核酸がプロモーターに作動可能に連結されている、発現カセットも対象とする。多数の発現カセットが当技術分野で説明されており、これらの発現カセットは、それぞれ、宿主細胞内でDNAまたはDNA断片のmRNAへの転写およびこのmRNAのタンパク質への翻訳を可能にする要素の全てを概して含む。典型的には、宿主細胞中での核酸の発現に必要な要素として、選択された宿主細胞中で機能し、構成的または誘導性であり得るプロモーター;リボソーム結合部位;開始コドン(ATG);分泌される組換えタンパク質に必要なシグナルペプチドをコードする領域;終止コドン;ならびに3’末端領域(翻訳ターミネーターおよび/または転写ターミネーター)が挙げられる。その他の転写制御要素(例えばエンハンサー、オペレーターおよびリプレッサー)もポリヌクレオチドに作動可能に関連付けて、細胞内での転写および/または翻訳を指示することもできる。シグナルペプチドコード領域は、好ましくは、本発明の組換えタンパク質をコードする核酸に隣接しており、適切なリーディングフレーム中に位置している。シグナルペプチドコード領域は、目的のタンパク質または本発明の融合タンパク質をコードするDNA分子に対して相同または非相同であることができ、発現に使用する宿主の分泌装置に特異的であることができる。
【0083】
本発明の組換え核酸により構成されているオープンリーディングフレームは単独でまたはシグナルペプチドと一緒にプロモーターの制御下に置かれており、そのため、転写および翻訳が宿主細胞中で起こる。宿主細胞中での核酸の発現に必要なプロモーターおよびその他の要素が広く知られており、当業者に利用可能である。
【0084】
最後に、本発明のタンパク質および/もしくは融合タンパク質をコードするDNAの転写が増強されるように、ならびに/またはこのタンパク質および/もしくは融合タンパクをコードするmRNAの翻訳が促進されるように、本発明の核酸配列をコドン最適化してもよい。
【0085】
「コドン最適化DNAまたはコドン最適化mRNA配列」は、コドン最適化DNA配列の場合、宿主細胞中へのより良好な発現に最適化されている核酸配列であって、米国特許出願公開第2004/0209241号明細書で説明されているように、1個または複数個のコドンを前記宿主細胞の遺伝子でより頻繁に使用される1個または複数個のコドンで置き換えることにより最適化されている核酸配列を意味しており、コドン最適化mRNA配列の場合、米国特許出願公開第2011/0269950号明細書で説明されているように、使用する宿主細胞に係るmRNA配列のG/C含有量を最大化するように最適化されている核酸配列を意味する。核酸配列のコドン最適化は、宿主細部中で発現されるタンパク質および/または融合タンパク質のアミノ酸配列を変更しないように適切に管理される。
【0086】
別の実施形態では、宿主細胞を本発明の発現カセットで形質転換させる。宿主細胞は、発現カセットが挿入され得るあらゆる細胞(即ち、あらゆる真核細胞または原核細胞)であることができる。本発明によれば、好ましい宿主細胞は真核細胞または原核細胞であり、これらの細胞として、動物細胞(例えば哺乳動物、トリ、昆虫および魚の宿主細胞)、植物細胞(例えば真核藻類細胞)、真菌細胞、酵母細胞、細菌細胞および原生生物細胞が挙げられるがこれらに限定されない。本発明で有用な好ましい原核生物宿主細胞として、大腸菌(Escherichia coli)、バチルス(Bacillus)属の細菌、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、カウロバクター(Caulobacter)属の細菌、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)およびラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)が挙げられる。本発明での使用に特に好ましい原核生物宿主細胞は大腸菌(Escherichia coli)である。本発明で有用な好ましい真核生物宿主細胞として、リーシュマニア・タレントラエ(Leishmania tarentolae)、テトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila)、ウィラーティア・マグナ(Willaertia magna)、ベロ細胞、CHO細胞、293細胞、293T細胞、SF9細胞、S2細胞、EB66アヒル細胞、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、S.セレビシエ(S.cerevisiae)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ニコチアナ・ベンサミアナ(Nicotiana benthamiana)細胞、フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens)細胞、オリザ・サティバ(Oryza sativa)細胞、オリザ・グラベリマ(Oryza glaberrima)細胞、メディカゴ・トランカツラ(Medicago truncatula)細胞、ゼア・マイス(Zea mays)細胞、スキゾキトリウム(Schizochytrium)種、フェオダクチラム・トリコルヌタム(Phaeodactylum tricornutum)およびマイセリオフトラ・サーモフィラ(Myceliophthora thermophila)が挙げられる。本発明での使用に特に好ましい真核生物宿主細胞は、リーシュマニア・タレントラエ(Leishmania tarentolae)またはCHOである。
【0087】
真核生物細胞中でのグリコシル化は原核生物細胞中でのグリコシル化と異なり、かつこのグリコシル化と比べて複雑であることから、真核生物細胞中で天然に発現される目的のタンパク質は、真核生物宿主細胞中において、本発明に係るヤツメウナギVLR−B抗体の断片との融合タンパク質として好ましくは発現される。同様に、原核生物細胞中で天然に発現される目的のタンパク質は、原核生物宿主細胞中において、本発明に係るヤツメウナギVLR−B抗体の断片との融合タンパク質として好ましくは発現される。
【0088】
宿主細胞中へ発現カセットを挿入するための様々な手段およびプロトコルが存在しており、これらの例として、形質転換、遺伝子導入、細胞またはプロトプラストの融合、化学的処理(例えば、プロトプラストのポリエチレングリコール処理、カルシウム処理、Invitrogen(Carlsbad,Calif.)から入手可能なLIPOFECTIN(商標)およびLIPOFECTAMINE(商標)遺伝子導入試薬等の遺伝子導入剤)の使用、様々なタイプのリポソームの使用、機械的デバイス(例えば核酸コーティング微粒子)の使用、電荷(例えばエレクトロポレーション)の使用ならびにこれらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない。本明細書で説明する特定のベクター分子を所望の宿主細胞中へと挿入するために使用する特定のプロトコルおよび/または手段を決定することは、当業者の技能の範囲内である。
【0089】
組換え宿主細胞を、この細胞の要求によって決定される様々な所定の条件下で増殖させることができる。例えば、宿主細胞は、特定の栄養要求または物理的条件(例えば温度)および/もしくは化学的条件(例えば抗生物質)に対する特定の耐性もしくは感受性を有する場合がある。加えて、所望の遺伝子の発現を調節するために特定の培養条件が必要な場合がある(例えば、誘導性プロモーターの使用)。これらの様々な条件およびそのような条件を満たすための要件は、当業者に理解および認識される。
【0090】
タンパク質の精製方法は当業者に公知である。例えば分画、クロマトグラフィー法、特定のモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を使用するイムノアフィニティー法等を単独でまたは組み合わせて使用する方法により、得られた組換えタンパク質または融合タンパク質を、溶解物および細胞抽出物から、培養培地上清から精製することができる。好ましくは、得られた組換えタンパク質または融合タンパク質を培養培地上清から精製する。
【0091】
別の実施形態は、安定な多量体を形成することができる本発明の分子または組換えタンパク質を対象とする。好ましい実施形態では、本発明の安定な多量体は、配列番号1に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質に融合している、インフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質を含む安定なホモ多量体組換えタンパク質である。具体的には、この安定なホモ多量体組換えタンパク質は、配列番号1に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質に融合している、インフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質を含む。好ましくは、このタンパク質はインフルエンザHAタンパク質である。
【0092】
別の好ましい実施形態によれば、本発明の安定な多量体は、配列番号2に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質に融合している、インフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質を含む安定なホモ多量体組換えタンパク質である。具体的には、この安定なホモ多量体組換えタンパク質は、配列番号2に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質に融合している、インフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質を含む。好ましくは、このタンパク質はインフルエンザHAタンパク質である。
【0093】
本発明のこれらの実施形態(即ち安定な多量体)の好ましい態様では、配列番号1の2位、7位、13位、19位、21位、24位および27位に対応する7個のシステイン(または配列番号2の2位、15位、20位、26位、32位、34位、37位および40位に対応する8個のシステイン)は、ヤツメウナギVLR−BのC末端に由来するならびにインフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質に融合したタンパク質のアミノ酸配列で保存されている。一部の実施形態では、インフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質のアミノ酸配列と融合アミノ酸配列との間にリンカーを挿入することができる。
【0094】
好ましくは、本発明の安定な多量体は、ヤツメウナギVLR−B抗体由来のロイシンリッチリピート(LRR)モジュールを含まない。具体的には、本明細書で説明する安定な多量体は、配列番号29の配列を有するアミノ酸配列を含まない。好ましくは、本発明の安定な多量体は、ヤツメウナギVLR−B抗体由来のLRRNTモジュール、LRR1モジュール、LRRVモジュール、LRRCTモジュール、CPおよびStalk領域のうちの1種または複数種を含まない。好ましくは、本発明の安定な多量体中に存在するヤツメウナギ由来のアミノ酸配列のみが、ヤツメウナギVLR−B抗体の最C末端(即ちタンパク質のC末端からStalk領域の部分、国際公開第2008/016854号パンフレットの
図11Cを参照されたい)に由来する。好ましくは、本発明の安定な多量体中に存在するヤツメウナギ由来のアミノ酸配列のみが、配列番号1または配列番号2に対して少なくとも80%の同一性を有する配列であり、例えば、配列番号1または配列番号2に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有する配列である。
【0095】
本発明はまた、配列番号3に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸配列に融合している、インフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードする核酸配列を含む核酸分子から発現系により産生された安定なホモ多量体組換えタンパク質も提供する。具体的には、この安定なホモ多量体組換えタンパク質は、配列番号3に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有する核酸配列に融合している、インフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードする核酸配列を含む核酸分子から発現系により産生される。好ましくは、この核酸配列はインフルエンザHAタンパク質をコードする。
【0096】
一部の実施形態では、この安定なホモ多量体組換えタンパク質は、配列番号4に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸配列に融合している、インフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードする核酸配列を含む核酸分子から発現系により産生される。具体的には、この安定なホモ多量体組換えタンパク質は、配列番号4に対して少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性または100%の同一性を有する核酸配列に融合している、インフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードする核酸配列を含む核酸分子から発現系により産生される。好ましくは、この核酸配列はインフルエンザHAタンパク質をコードする。
【0097】
本発明のこれらの実施形態の好ましい態様では、ヤツメウナギVLR−B抗体のC末端に由来するアミノ酸配列をコードする(ならびにインフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードする核酸配列に融合している)核酸配列は下記のようなアミノ酸配列をコードし、このアミノ酸配列は、配列番号1の2位、7位、13位、19位、21位、24位および27位に対応する前記アミノ酸配列内の位置でシステイン残基を含む(または配列番号2の2位、15位、20位、26位、32位、34位、37位および40位に対応する前記アミノ酸配列内の位置でシステイン残基を含む)。一部の実施形態では、インフルエンザHAタンパク質の外部ドメイン、シゲラ(Shigella)IpaDタンパク質およびシゲラ(Shigella)MxiHタンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードする核酸配列と融合核酸配列との間に、ペプチドリンカーをコードするスペーサー核酸配列を挿入することができる。
【0098】
本発明はまた、本発明の分子または組換えタンパク質と薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む医薬組成物も提供する。好ましい実施形態では、免疫原性組成物は本発明の分子または組換えタンパク質を含む。本発明の分子または組換えタンパク質を薬剤として使用することもできる。好ましい実施形態では、本発明の分子または組換えタンパク質を、対象中での抗原に対する免疫応答の誘発で使用する。別の好ましい実施形態では、本発明に係るインフルエンザ抗原を含む分子または組換えタンパク質を、インフルエンザウイルスに対する免疫応答の誘発で使用する。より好ましい実施形態では、本発明に係る組換えインフルエンザHAタンパク質を、インフルエンザウイルスに対する免疫応答の誘発で使用する。別の好ましい実施形態では、本発明の免疫原性組成物はワクチン組成物である。
【0099】
本発明の医薬組成物および免疫原性組成物は、従来の医薬製剤またはワクチン製剤として製剤化され得る。これは、標準的な医薬製剤またはワクチン製剤の化学および方法を使用して行なうことができ、これらの化学および方法を当業者は入手可能である。特にヒトで二次反応(例えばアレルギー反応)を全く生じない、活性剤の安定性、無菌性、効力または送達性を増強するために医薬品およびワクチンの製剤化で一般に使用されるあらゆる溶媒、分散媒、電荷(charge)、アジュバント等を使用することができる。この添加剤は、選択される医薬形態またはワクチン形態、投与の方法および経路に基づいて選択される。適切な添加剤および医薬製剤に関する要件は、当技術分野での参考文献である“Remington’s Pharmaceutical Sciences”(19th Edition,A.R.Gennaro,Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA(1995))で説明されている。薬学的に許容される添加剤の例は、水、リン酸緩衝生理食塩溶液および0.3%グリシン溶液である。
【0100】
医薬組成物および免疫原性組成物は、従来の無菌技術により無菌化してもよく、または無菌ろ過してもよい。結果として生じる水溶液を包装して液体形態で保存してもよく、または凍結乾燥してもよく、凍結乾燥製剤を投与前に無菌水性担体で再構成する。好ましい実施形態では、医薬組成物および免疫原性組成物を包装し、国際公開第2009109550号パンフレットで説明されている小球化プロセスによりマイクロペレットとして保存する。この製剤のpHは概して3〜11であることができ、例えば5〜9、6〜8または7〜8であることができ、例えば7〜7.5であることができる。
【0101】
製剤化または再構成されると、医薬組成物および免疫原性組成物は、様々な既知の経路および技術を使用してin vivoで対象に送達され得る。例えば、液体製剤を注射可能な溶液、懸濁液または乳濁液として準備し、従来の針およびシリンジを使用するまたは液体ジェット注射システムを使用する非経口注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、静脈内注射により投与することができる。液体製剤を皮膚もしくは粘膜組織に局所的に投与することもでき、または呼吸もしくは経肺投与に適した微細化噴霧として準備することもできる。その他の投与様式として、経口投与、坐薬および能動的なまたは受動的な経皮的送達技術が挙げられる。
【0102】
経口投与の場合、医薬組成物および免疫原性組成物は、例えばカプセル、錠剤、懸濁液または液剤として製剤化することができる。
【0103】
医薬組成物および免疫原性組成物を固体形態(例えば顆粒、マイクロペレット、粉末または坐薬)で調製することもできる。
【0104】
別の実施形態は、患者を処置する方法であって、本発明の医薬組成物を前記患者に投与することを含む方法を対象とする。好ましい実施形態は、患者中で抗原に対する免疫応答を誘発する方法であって、本発明の免疫原性組成物またはワクチン組成物を前記患者に投与することを含む方法を意図する。
【0105】
別の実施形態は、組換えタンパク質を多量体化する方法であって、
a)配列番号3に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸配列を、前記組換えタンパク質をコードする核酸配列に融合させることであって、但し前記組換えタンパク質がヤツメウナギVLR−B抗体タンパク質ではない、融合させること、
b)前記組換えタンパク質の多量体化がもたらされる条件下で、前記核酸配列によりコードされる融合タンパク質を発現させること
を含む方法を対象とする。この条件は当業者に既知であり、極端な条件(例えば、高濃度の溶質、極端なpH、機械的力および化学的変性剤の存在)を避けることから本質的になる。
【0106】
別の実施形態は、組換えタンパク質を多量体化する方法であって、
a)配列番号4に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸配列を、前記組換えタンパク質をコードする核酸配列に融合させることであって、但し前記組換えタンパク質がヤツメウナギVLR−B抗体タンパク質ではない、融合させること、
b)前記組換えタンパク質の多量体化がもたらされる条件下で、前記核酸配列によりコードされる融合タンパク質を発現させること
を含む方法を対象とする。
【0107】
好ましい実施形態では、この方法は、抗原、抗体または足場の多量体化用である。最も好ましい実施形態では、この方法は、組換えインフルエンザHAまたはHA外部ドメインのタンパク質の多量体化用である。
【実施例】
【0108】
実施例1:組換えインフルエンザHA外部ドメインタンパク質の重合
ヤツメウナギのVLR−B抗体のC末端に由来する2種の配列を、HAタンパク質のC末端への融合により評価した。第1の試験配列は配列番号1であり、第2の試験配列は配列番号2であった。配列番号1は配列番号2の短縮バージョンである。配列番号1はヤツメウナギのVLR−B抗体の最C末端での30個のアミノ酸と一致し、配列番号2はヤツメウナギのVLR−B抗体の最C末端での43個のアミノ酸と一致する(国際公開第2008/016,854号パンフレットの
図11Cを参照されたい)。最C末端は、VLR−BのC末端からStalk領域の部分を意味する。
【0109】
試験する第3の配列はT4ファージのフォルドン配列(配列番号5)であった。
【0110】
インフルエンザ株A/California/07/09(H1N1)由来のHA外部ドメイン(独自のシグナル配列を含むが、HAの膜貫通領域および細胞質側末端領域の配列を含まない)をコードする核酸配列を、Geneart(Regensburg,Germany)によりリーシュマニア・タレントラエ(Leishmania tarentolae)中でのコドン使用に最適化した。本明細書では、この配列を配列番号10と称する。
【0111】
試験する3種の多量体化配列(即ち、VLR−B抗体のC末端に由来する2種の配列およびT4ファージフォルドン配列)をコードする核酸配列を個々に、Geneart(Regensburg,Germany)により、配列番号10の核酸配列(インフルエンザ株A/California/07/2009由来のHAタンパク質の外部ドメインをコードする)に融合させた。従って、配列7は、配列番号10の核酸配列に融合した配列番号3の核酸配列(配列番号1のアミノ酸配列(即ち本発明に係るヤツメウナギVLR−B抗体の短縮断片)をコードする核酸配列である)である。配列8は、配列番号10の核酸配列に融合した配列番号4の核酸配列(配列番号2のアミノ酸配列(即ち本発明に係るヤツメウナギVLR−B抗体の「長」(短縮されていない)断片)をコードする核酸配列である)であり、配列9は、配列番号10の核酸配列に融合した配列番号6の核酸配列(配列番号5のアミノ酸配列(即ち、T4ファージのフォルドン配列)をコードする核酸配列である)である。
【0112】
配列番号7、配列番号8および配列番号9をそれぞれ別々に、
図1に示すpLexsy−I−bleo2発現カセットのSalI/NotI制限部位に挿入した。配列番号10を、pLexsy−I−bleo2発現カセットのNcoI/NotI制限部位に挿入した。この発現カセットは、宿主のRNAポリメラーゼIの制御下でバクテリオファージのT7RNAポリメラーゼおよびTETリプレッサーを構成的に発現するリーシュマニア・タレントラエ(Leishmania tarentolae)T7−TR受容株(Kushnir et al.,Protein Expr.Purif.,42(1),37−46(2005))の染色体のオルニチンデカルボキシラーゼ(odc)遺伝子座への目的の遺伝子の組込みを可能にする。目的のタンパク質の発現の誘発を、テトラサイクリン添加により誘発可能なT7プロモーターにより実行する(ユーザーズガイドEGE−1400、Jena Bioscience、Jena,Germany)。
【0113】
次いで、重合配列のうちの1つを有するまたは有しないHA配列を含む発現カセットをSwaIで消化し、Nucleofector II装置(Amaxa Biosystems、Cologne,Germany)を使用するおよびBasic Parasite Nucleofector(商標)Kit 1(Lonza、Bale,Switzerland)の指示に従うヌクレオポレーション(nucleoporation)により、精製した各直鎖状SwaI断片1μgを別々の実験でL.タレントラエ(L.tarentolae)T7−TR宿主株中に遺伝子導入した。遺伝子導入した細胞を、5μg/mlのヘミン、50単位/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン(細菌汚染を避けるためのPen/Strep)、100μg/mlのノウルセオスリシン(nourseothricin)(NTC)および100μg/mlのハイグロマイシン(NTC/ハイグロ:T7−TR宿主中でT7ポリメラーゼ遺伝子およびTETリプレッサー遺伝子をそれぞれ維持するため)を含むBHI(ブレイン−ハートインフュージョン)培地(Jena Bioscience)10ml中に移し、暗所において26℃で一晩インキュベートした。遺伝子導入から24時間後に懸濁液の2mlアリコートを2000gで5分にわたり遠心分離し、ペレットをBHI培地50〜100μlに再懸濁させ、細胞を、抗生物質および組換え寄生生物の選択用の100μg/mlのブレオマイシンを含む新鮮なBHI寒天プレート(選択的増殖培地)上に静かに播種した。播種から約7〜9日後に小さいコロニーを視認し、選択的増殖培地0.2mlに移した。寄生生物の各組換えクローンを、26℃において振とうフラスコ中で選択培地10mlに広げた。
【0114】
HA配列を含む発現カセットのゲノムへの組込みの確認を、Jena Bioscienceの推奨に従う診断PCRにより実施した。
【0115】
確認した組換え寄生生物を、ヘミンおよび抗生物質を上記で説明したように補充したBHI培地100ml中で26℃において培養し、暗所において100rpmで撹拌した。rHAタンパク質の産生を誘発するために、寄生生物の接種時に補充培地に10μg/mlのテトラサイクリンを添加することにより、T7により駆動される転写を誘発した。
【0116】
発酵用に、1リットルのBiostat Qplus 12発酵槽(Sartorius AG、Aubagne,France)を使用した。簡潔に言うと、補充BHI培地700mlに、指数関数的増殖(0.4OD
600)で組換え寄生生物スターター培養物の1/10を接種し、26℃、100rpm、40%pO
2、pH7.4±0.1において暗所で培養した。MFCS/WINソフトウェア(Sartorius AG)を使用して培養パラメータを記録した。10μg/mlのテトラサイクリンを使用する誘発を(振とうフラスコ培養物に関して行なったように)組換え寄生生物の接種と並行して実施した。誘発から43時間後にHCl 1N/NaOH 1NによるpHの調節および1.5ml/時間での100g/Lのグルコース溶液の注入を開始し、P1860抗プロテアーゼカクテル(1/800、Sigma,Saint Quentin Fallavier、France)を同時に添加した。
【0117】
培養物の試料を毎日採取して、この培養物の光学密度(OD
600)(1OD
600は約1.5×10
7個の寄生生物/mlに相当する)を測定し、様々な代謝産物(Gln、Glu、Gluc、Lac、NH
4+)の濃度および細胞移動度を顕微鏡で測定した。
【0118】
48時間後、形質転換リーシュマニア・タレントラエ(Leishmania tarentolae)培養物の上清を回収し、0.2μmフィルタでろ過した。595nmでの光学密度測定により試料中のタンパク質を定量化し、試料を正規化した。
【0119】
各試料20μlをSDS−PAGEゲル(NuPAGE(登録商標)Novex Bis Tris 4〜12%、Life Technologies、Carlsbad,USA)にロードして泳動した。転写誘発体テトラサイクリンの非存在下で48時間を超えて培養した形質転換リーシュマニア・タレントラエ(Leishmania tarentolae)培養物からの上清は、陰性コントロールの役割を果たした。
【0120】
様々な発現プラスミドを使用して得た様々な組換えHAタンパク質の熱安定性を試験するために、3種の試験試料および陰性コントロール試料を2つに分け、各試料の半分を、加熱ブロックを使用して15分にわたり99℃に加熱した後にSDS−PAGEゲル上で泳動し、残り半分を加熱することなくSDA−PAGEゲル上で泳動した。ゲルでの更なるコントロール試料は、別のタンパク質(即ち、インフルエンザに対する抗体)を発現するプラスミドで形質転換したリーシュマニア・タレントラエ(Leishmania tarentolae)の加熱培養上清(99℃の温度で15分)を含んだ。
【0121】
ニトロセルロース膜(BioRad Laboratories、Hercules,USA)を使用してSDS−PAGEゲルのウェスタンブロットを作成し、続いてPBS、Tween20 0.1%および乳5%(DIFCO−BD、Sparks,USA)で処理して非特異的定着部位をブロックした。
【0122】
8000の力価(赤血球凝集の抑制)および32000の力価(血清中和)の、インフルエンザA/California/07/09 HAに対するウサギポリクローナル抗体を使用し、続いて抗ウサギIRDdye800CW抗体(Li−Cor BioSciences、Lincoln,USA)およびOPTI−4CN(商標)(BioRad Laboratories)基質を使用してブロットをプローブした。このウェスタンブロットをODYSSEY(Li−Cor BioSciences)撮像システムで分析した。
【0123】
このウェスタンブロットの結果を
図2に示す。この結果は非常に顕著であった。初めに、T4フォルドン配列(配列番号5、レーン11〜12)に融合したHAタンパク質は三量体型のみであったが、配列番号1のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインに融合したHAタンパク質(レーン7〜8)または配列番号2のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインに融合したHAタンパク質(レーン9〜10)は、三量体としてだけでなく、四量体、五量体およびその他のより高次な重合型としても産生された。加えて、VLR−B抗体C末端配列に融合したHAタンパク質は大部分が培養上清中に分泌されており、細胞内ではHAをほとんどまたは全く検出せず、溶解も観測しなかった(結果を示さない)。培養上清中への組換えタンパク質の分泌は、宿主細胞内に残存する組換えタンパク質の精製と比較した場合、下流精製にとって非常に有利である。更に、試験したヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインのいずれか1つに融合したHAタンパク質から得られたポリマーは加熱処理後に安定であった(レーン7および9)が、T4フォルドン配列に融合したHAタンパク質は加熱処理後にその三量体型を失った(レーン11)ことが分かる。試験したヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインのうちの1つに融合したHAタンパク質から得られたポリマーの熱安定性は重要であり、なぜなら、安定性の増加により、そのような抗原を含む免疫原性組成物の保存可能期間が延びるはずだからである。更に、熱安定性の組換えタンパク質抗原は、患者に注入された場合により長いin vivo安定性を有することも期待される。
【0124】
実施例2:ヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインへの融合により重合した組換えインフルエンザHAタンパク質の免疫原性研究
配列番号2のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインへの融合により重合した組換えHA外部ドメインタンパク質(rHAポリ)を実施例1で説明したように製造した。
【0125】
L.タレントラエ(L.tarentolae)培養培地中でのテトラサイクリンによる誘発の72時間後、振とうフラスコ回収を実施して5,000gで30分にわたり遠心分離した。Sartorius sartocon slice 200カセットによる濃縮および透析ろ過後、上清を1mlのCon A Sepharose 4Bカラム上に置いた。PBS−MM緩衝液中の0.5Mのアルファ−D−メチルマンノシドを使用して、組換えHAを溶出させた。溶出液をPBS/tweenに対して透析し、Ultracell 10Kで濃縮し、0.22μmフィルタでろ過した。組換えHAをマイクロブラッドフォールド(microbradford)技術で滴定した。各試料をPBS+Tween0.005%に再懸濁させた。
【0126】
10匹の雌の8週齢Balb/C ByJマウスからなる2つの群に、配列番号2のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインへの融合により重合したインフルエンザA/California/07/2009 rHA外部ドメインタンパク質(rHAポリ)10μg(実施例1で説明したように製造した)またはrHA外部ドメインのみ(即ち重合配列に融合していないrHA外部ドメイン)(配列番号11)を発現するプラスミドで形質転換させたリーシュマニア・タレントラエ(Leishmania tarentolae)中で産生されたインフルエンザA/California/07/2009 rHA外部ドメインモノマータンパク質(hrHAモノ)10μgのいずれかによる、筋肉内(IM)経路を介した2回の免疫付与(1回は0日目および1回は28日目)を施した。rHAタンパク質10μgを緩衝液(PBS+Tween0.005%)に再懸濁させ、注入体積は2×50μl(合計で100μl)であった。
【0127】
最後に、5匹の雌の8週齢Balb/C ByJマウスに緩衝液100μl(2×50μl)を投与した。
【0128】
このブースター注射の3週間後、全ての動物からD49での麻酔下で血液サンプルを採取した。この麻酔を、腹腔内経路を介して200μlの体積で投与したImalgene(登録商標)(ケタミン1.6mg)およびRompun(キシラジン0.32mg)により実施した。血液1mlを、凝血活性化剤および血清分離剤を含むバイアル(BD Vacutainer SST ref 367783)に回収した。+4℃で一晩または37℃で1時間後、この血液を5分にわたり10,000rpmまたは20分にわたり3,000rpmで遠心分離し、分析するまで血清を−20℃で保存した。
【0129】
インフルエンザA/California/07/09(H1N1)株に対する赤血球凝集抑制抗体の存在を、ニワトリの赤血球(cRBC)を使用して評価した。Kendalらにより、Haemagglutination inhibition,in Concepts and procedures for laboratory−based influenza surveillance,US Department of Health and Human Services and Pan−American Health Organization,Atlanta,GA,1982,pp.B17−B35.9で説明されているように、受容体破壊酵素(RDE)処理した血清サンプルそれぞれにアッセイを実施して、力価を、赤血球凝集を示さない最高希釈度の逆数として表した。
【0130】
赤血球凝集アッセイの抑制の結果を
図3に示す。ポリマーrHA外部ドメインによるマウスへの免疫付与によって得られる赤血球凝集抑制(HAI)力価は、モノマーrHA外部ドメインによるマウスへの免疫付与によって得られるHAI力価と比べて有意に高い。表Iは、配列番号2のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインへのインフルエンザA/California/07/2009rHA外部ドメインタンパク質の融合により得られるポリマーrHA外部ドメインは、インフルエンザA/California/07/2009モノマーrHA外部ドメインと比べて免疫原性が4倍高いことを示す。
【0131】
【表1】
【0132】
実施例3:CHO細胞中で発現された組換えインフルエンザHA外部ドメインタンパク質の重合
ヤツメウナギ配列との融合による組換えインフルエンザHA外部ドメインタンパク質の重合を別の宿主細胞でも試験した。
【0133】
インフルエンザ株A/California/04/09(H1N1)(Genbank受託番号FJ966082)由来のHA外部ドメイン(独自のシグナル配列を含むが、HAの膜貫通領域および細胞質側末端領域の配列を含まない)をコードする核酸配列を、Geneart(Regensburg,Germany)によりCHO中でのコドン使用に最適化した。本明細書では、この配列を配列番号12と称する。
【0134】
CHO中でのコドン使用に最適化した、試験する3種の多量体化配列(即ちVLR−B抗体のC末端に由来する2種の配列およびT4ファージフォルドン配列)をコードする核酸配列を個々に、配列番号12の核酸配列に融合させた。従って、配列番号13は、配列番号12の核酸配列に融合した配列番号3の核酸配列である。配列番号14は、配列番号12の核酸配列に融合した配列番号4の核酸配列であり、配列番号15は、配列番号12の核酸配列に融合した配列番号6の核酸配列である。配列番号26は、配列番号13によりコードされるタンパク質配列である。配列番号27は、配列番号14によりコードされるタンパク質配列である。配列番号28は、配列番号15によりコードされるタンパク質配列である。
【0135】
配列番号12、配列番号13、配列番号14および配列番号15をそれぞれ別々に、
図4に示すpEE14.4発現カセットのHindIII/EcoRI制限部位に挿入した。組換えタンパク質が構成的に発現されることから、この発現カセットでは誘発の必要がない。
【0136】
重合配列のうちの1つを有するまたは有しないHA配列を含む発現カセットを、CHO宿主細胞(CHOK169 ATCC番号CB−CCL−61pUnK)中に遺伝子導入した。各プラスミド10μgを別々に、Nucleofector II装置(Amaxa Biosystems、Cologne,Germany)を使用するヌクレオポレーションにより、10×10
6個のCHO細胞中に導入した。次いで、CHO細胞を、37℃で、4mMのL−グルタミンを含むEX−Cell(登録商標)CHO融合動物成分フリー培地(SAFC Biosciences Sigma−Aldrich)2ml上に播種した。培養を24時間にわたり5%CO
2下で37℃において静的に維持し、次いで48時間にわたり撹拌しつつ(100rpm)維持した。
【0137】
ヌクレオポレーションの72時間後、10,000rpmでの10秒にわたる遠心分離により、形質転換CHO培養物の上清を回収した。
【0138】
NuPAGE(登録商標)LDS Sample Buffer(4x)(Life Technologies)5μlと混合した各試料15μlを、SDS−PAGEゲル(NuPAGE(登録商標)Novex 3〜8%Tris−酢酸塩、Life Technologies、Carlsbad,USA)にロードして泳動した。あらゆる発現カセットの非存在下で電気穿孔したCHO培養物からの上清は、陰性コントロールの役割を果たした。HiMark(商標)Pres染色High molecular Weight Protein Standard(LC5699 Life technlologies)20μlを分子量マーカーとして使用した。
【0139】
試料分離を、40分にわたりTris−酢酸塩緩衝液中で150Vにおいて実施した(Life Technologies)。
【0140】
ニトロセルロース膜(BioRad Laboratories、Hercules,USA)を使用してSDS−PAGEゲルのウェスタンブロットを作成し、続いてPBSおよび乳5%(DIFCO−BD、Sparks,USA)で一晩処理して非特異的定着部位をブロックした。
【0141】
室温で1時間にわたり、インフルエンザA/California HAに対するウサギポリクローナル抗体(PBSで1/1000に希釈した)を使用してブロットをプローブした。次いで、このブロットをPBSおよびTween20 0.05%で3回洗浄した後、PBSで1/5000に希釈した抗ウサギIRDdye800ヒツジ抗体(Rockland、Limerick,USA)と共にインキュベートした。このウェスタンブロットをODYSSEY(Li−Cor BioSciences)撮像システムで分析した。
【0142】
このウェスタンブロットの結果を
図5に示す。この結果も顕著であった。初めに、T4フォルドン配列に融合したHAタンパク質は二量体型または三量体型のみであったが、配列番号1のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメイン(短ヤツメウナギ配列)に融合したHAタンパク質または配列番号2のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメイン(長ヤツメウナギ配列)に融合したHAタンパク質は、二量体または三量体としてだけでなく、四量体、五量体およびその他のより高次の重合型としても産生された。加えて、HAタンパク質は培養上清中に分泌されており、なぜなら、ブロットを培養上清に対して行なったからである。培養上清中への組換えタンパク質の分泌は、宿主細胞内に残存する組換えタンパク質の精製と比較した場合、下流精製にとって非常に有利である。
【0143】
実施例4:大腸菌(E.coli)中で発現された組換えシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)IpaDタンパク質の重合
シゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)血清型2a株301(Q.Jin et al.,Nucleic Acids Research,30(20),4432−4441(2002)、Genbank受託番号AF386526)由来のIpaDタンパク質をコードする核酸配列を、Geneart(Regensburg,Germany)により大腸菌(E.coli)中でのコドン使用に最適化した。本明細書では、この配列を配列番号16と称する。
【0144】
配列番号16を、Geneart(Regensburg,Germany)により大腸菌(E.coli)にコドン最適化した配列番号4の核酸配列に融合させて、配列番号17を生成した。対応するタンパク質配列は配列番号18である。配列番号16および配列番号17を、GGSLEリンカーを介してポリヒスチジン−タグ(6×His)をコードする配列にも融合させ、配列番号19(IpaD−His、IpaD配列とHis−タグとの間にGGSLEリンカー存在する)および配列番号20(IpaD−ヤツメウナギ−His、IpaD−ヤツメウナギ配列とHis−タグとの間にGGSLEリンカーが存在する)をそれぞれ生成した。
【0145】
配列番号16、配列番号17、配列番号19および配列番号20をそれぞれ別々に、
図6に示すpM1800発現カセットのNcoI/XhoI制限部位に挿入した。目的のタンパク質の発現の誘発をIPTGの添加により実行する。
【0146】
重合配列を有するまたは有しない、ならびにリンカー配列およびHis−タグ配列を有するまたは有しないIpaD配列を含むプラスミド5μgを水10μlに懸濁させた。重合配列を有するまたは有しない、ならびにリンカー配列およびHis−タグ配列を有しないIpaD配列に対応する懸濁液0.5μlを、大腸菌(E.coli)BL21 DE3 C6000−03(Life Technologies)または大腸菌(E.coli)Shuffle(B)refC3029H(New England Biolabs、即ちタンパク質内でのジスルフィド結合の形成を促進するように操作されている大腸菌(E.coli))のいずれかの培養物に添加した。重合配列を有するまたは有しないがリンカー配列およびHis−タグ配列を有するIpaD配列に対応する懸濁液0.5μlを、大腸菌(E.coli)Shuffle(B)に添加した。混合後、試料を15分にわたり氷上に置いた。次いで、試料に30秒にわたり42℃で熱ショックを加えた。次いで、試料を2分にわたり氷上に置いた後、室温のS.O.C培地(Thermofisher)500μlで希釈した。次いで、試料を60分にわたり37℃でインキュベートした後、激しく振とうした(250rpm)。
【0147】
各試料100μlを希釈し、カナマイシン(25μg/ml)を含むLB培地プレート上に広げ、37℃で一晩インキュベートした。無菌接種ループを使用して各形質転換プレートからコロニーを採取し、LBブロス/カナマイシン25μg/ml 2mlに添加した。次いで、培養物をLB+カナマイシン(25μg/ml)培地25mlで希釈して、OD
600=0.05の播種を表す光学密度を得た。
【0148】
撹拌しつつ(200rpm)37℃での増殖の2時間後、培養物が0.4〜0.8のOD
600に達した場合にIPTG 1mMにより(即ち1M IPTG 25μlの添加により)組換えタンパク質の産生を誘発した。
【0149】
細菌を、撹拌しつつ約4時間にわたり37℃で維持した。1OD
600単位を各Erlenフラスコから取り出して遠心分離した。上清の除去後、ペレットを−20℃で保存した。
【0150】
このペレットを、TrisEDTA(10mM Tris、1mM EDTA、pH8.0、Novagen)75μl+1/50に希釈したReady lyse 35KU/μl(Epicentre)1μl+ベンゾナーゼ25U/μl(Novagen)1μlに再懸濁させた。次いで、試料を37℃で20分にわたり撹拌した後、NuPAGE(登録商標)LDS Sample Buffer(4X)(Invitrogen)25μlを添加した。各試料20μlをSDS−PAGEゲル(NuPAGE(登録商標)Novex(登録商標)3〜8%Tris−酢酸塩、Life Technologies、Carlsbad,USA)にロードして泳動した。HiMark(商標)Pres染色High molecular Weight Protein Standard(LC5699 Life technlologies)15μlを分子量マーカーとして使用した。
【0151】
IpaD配列を含まないpM1800(IPTGにより誘発された大腸菌(E.coli)中に挿入されている)は陰性コントロールの役割を果たした。試料分離を、1時間にわたりTris−酢酸塩緩衝液中で150Vにおいて実施した(Life Technologies)。
【0152】
ニトロセルロース膜(BioRad Laboratories、Hercules,USA)を使用してSDS−PAGEゲルのウェスタンブロットを作成し、続いてPBSおよび乳5%(DIFCO−BD、Sparks,USA)で1時間にわたり処理した。
【0153】
IpaDに対するマウスモノクローナル抗体を使用し、続いてPBSで1/5000に希釈したAlexa fluor Goat抗マウス抗体(Invitrogen)または抗マウスIRDye800抗体(Rockland)を使用してブロットをプローブした。このウェスタンブロットをODYSSEY(Li−Cor BioSciences)撮像システムで分析した。
【0154】
これらのウェスタンブロットの結果を
図7および8に示す。これらの結果は、上記の実施例1および3においてrHAで観測した結果に類似している。実際には、
図7は、ヤツメウナギ配列を有しないIpaDタンパク質は二量体として発現される(IpaD単量体は予想される分子量が36.6kDaである)が、配列番号2のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインに融合したIpaDタンパク質は、二量体としてだけでなく、三量体、四量体、五量体およびその他のより高次の重合型としても産生された(融合IpaD−ヤツメウナギ単量体は予想される分子量が41.2kDaである)ことを示す。重合したIpaDタンパク質は、Shuffle大腸菌(E.coli)株中において最高量で産生された。
【0155】
図8の結果は、組換えタンパク質の下流精製に有用なHis−タグの添加が、配列番号2のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインによるIpaDタンパク質の重合に悪影響を及ぼさないことを示す。
【0156】
得られた様々な組換えIpaDタンパク質の熱安定性を試験するために、更なるSDS−PAGEおよびウェスタンブロットを、SDS−PAGEゲル上での泳動前に加熱ブロックを使用して試験試料および陰性コントロール試料を10分にわたり95℃に加熱した以外は上記で説明したように行なった。
【0157】
このウェスタンブロットの結果を
図9に示す。配列番号2のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインに融合したIpaDタンパク質から得られたポリマーは、その後の加熱処理で安定であったことが分かる。配列番号2のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインに融合したIpaDタンパク質から得られたポリマーの熱安定性は重要であり、なぜなら、安定性の増加により、そのような抗原を含む免疫原性組成物の保存可能期間が延びるはずだからである。更に、熱安定性の組換えタンパク質抗原は、患者に注入された場合により長いin vivo安定性を有することも期待される。
【0158】
実施例5:大腸菌(E.coli)で発現された組換えシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)MxiHタンパク質の重合
シゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)血清型2a株301由来のMxiHタンパク質をコードする核酸配列を、Geneartにより大腸菌(E.coli)中でのコドン使用に最適化した。本明細書では、この配列を配列番号21と称する。
【0159】
配列番号21を、Geneartにより大腸菌(E.coli)にコドン最適化した配列番号4の核酸配列に融合させて、配列番号22を生成した。対応するタンパク質配列は配列番号23である。配列番号21および配列番号22を、GGSLEリンカーを介してポリヒスチジン−タグ(6×His)をコードする配列にも融合させ、配列番号24(MxiH−His、MxiH配列とHis−タグとの間にGGSLEリンカー存在する)および配列番号25(MxiH−ヤツメウナギ−His、MxiH−ヤツメウナギ配列とHis−タグとの間にGGSLEリンカーが存在する)をそれぞれ生成した。
【0160】
配列番号21、配列番号22、配列番号24および配列番号25をそれぞれ別々に、pM1800発現カセットのNcoI/XhoI制限部位中に挿入した。目的のタンパク質の発現の誘発をIPTGの添加により実行する。
【0161】
重合配列を有するまたは有しない、ならびにリンカー配列およびHis−タグ配列を有するまたは有しないMxiH配列を含むプラスミド5μgを水10μlに懸濁させた。各懸濁液0.5μlを大腸菌(E.coli)BL21 DE3 C6000−03または大腸菌(E.coli)Shuffle(B)refC3029Hのいずれかに添加し、この細菌に実施例4で説明したように熱ショックを加えた。
【0162】
次いで、実施例4で説明したように、試料をLB培地上で培養し、IPTGにより誘発し、遠心分離し、細胞ペレットを−20℃で保存した。
【0163】
このペレットを、TrisEDTA(10mM Tris、1mM EDTA、pH8.0、Novagen)63μl+1/20に希釈したReady lyse 20KU/μl(Epicentre)1μl+ベンゾナーゼ25U/μl(Novagen)1μlに再懸濁させた。次いで、試料を37℃で10分にわたり撹拌した後、10分にわたり13,000rpmで遠心分離した。
【0164】
上清60μlをNuPAGE(登録商標)LDS Sample Buffer(4x)(Invitrogen)20μlと混合し、ペレットをTrisEDTA60μlおよびNuPAGE(登録商標)LDS Sample Buffer(4x)(Invitrogen)20μlに懸濁させた。
【0165】
各試料15μlを、SDS−PAGEゲル(NuPAGE(登録商標)4〜12%Bis−Trisゲル、Life Technologies、Carlsbad,USA)にロードして泳動した。SeeBlue(登録商標)Plus2 Pre−Stained Standard(Life Technlologies)15μlを分子量マーカーとして使用した。
【0166】
IPTGにより誘発された大腸菌(E.coli)に挿入された、MxiH配列を含まないpM1800は、陰性コントロールの役割を果たした。試料分離を、30分にわたりMES緩衝液中において200Vで実施した(Life Technologies)。
【0167】
実施例4で説明したように、SDS−PAGEゲルのウェスタンブロットを作成した。
【0168】
MxiHに対するマウスポリクローナル抗体(PBSで1/1000に希釈した)を使用し、続いてPBSで1/5000に希釈したウサギ抗マウスIRDye800抗体(Rockland)を使用して、ブロットをプローブした。Hisに対するマウスモノクローナル抗体(Sigma)(PBSで1/1000に希釈した)を使用し、続いてPBSで1/5000に希釈したウサギ抗マウスIRDye800抗体(Rockland)を使用して、別のウェスタンブロットをプローブした。これらのブロットをODYSSEY(Li−Cor BioSciences)撮像システムで分析した。
【0169】
これらのウェスタンブロットの結果を
図10および
図11に示す。MxiHに対するマウスポリクローナル抗体でプローブしたブロットを示す
図10の結果は、上記の実施例1および3でのrHAで観測した結果および実施例4でのIpaDで観測した結果と類似する。実際に、
図10は、BL21株中においておよびShuffle大腸菌(E.coli)株中において(Shuffleで最も強い発現)、配列番号2のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインに融合したMxiHタンパク質が、二量体、三量体、四量体、五量体およびその他のより高次の重合型として産生された(融合MxiH−ヤツメウナギ単量体は予想される分子量が13.86kDaである)ことを示す。MxiHをペレット(不溶性画分:
図10および
図11でのIS)中で見出した。Hisに対するマウスモノクローナル抗体でプローブしたブロットを示す
図11の結果は、His−タグの添加が、配列番号2のヤツメウナギVLR−B抗体C末端ドメインによるMxiHタンパク質の重合に有害な影響を及ぼさないことを示す。
図10および
図11ではMxiHが見られない。本発明者らは、ヤツメウナギ配列を有しないMxiHが、ブロット上で抗体により現れるには少なすぎる量で産生されると考える。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]