(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも表面が粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が85%以上、100%以下である3C−SiC多結晶からなる炉内基材を備えたSiC単結晶成長炉を、ガスを用いてクリーニングする方法であって、
フッ素ガスと不活性ガスとの混合ガスを、ノンプラズマ状態で前記SiC単結晶成長炉内に流通させて、該SiC単結晶成長炉内に堆積したSiC堆積物を選択的に除去するものであり、
前記SiC堆積物は、粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が85%未満の3C−SiC多結晶であり、
前記混合ガスは1体積%以上、20体積%以下のフッ素ガスと80体積%以上、99体積%以下の不活性ガスとからなり、SiC単結晶成長炉内温度が200℃以上、500℃以下であることを特徴とするSiC単結晶成長炉のクリーニング方法。
前記不活性ガスが、窒素ガス、アルゴンガス、及びヘリウムガスからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1に記載のSiC単結晶成長炉のクリーニング方法。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、重要なセラミックス材料として多方面で使用されている。近年、炭化珪素のエピタキシャル成長技術が注目されており、特にその絶縁破壊電圧の高さや高温作動時における信頼性から、低消費電力のトランジスタなど用途が開発されている。
このような用途に用いられる炭化珪素としては、高純度な単結晶のバルクあるいは膜(薄膜、厚膜いずれも含む)である必要がある。
【0003】
炭化珪素の単結晶膜を成膜する方法としては、化学気相堆積法(Chemical Vapor Deposition法;CVD法)を用いて、C含有ガス(プロパンガスなど)とSi含有ガス(シランガスなど)との化学反応により炭化珪素の単結晶膜を成長させる方法や、モノメチルシランをCVD法の原料として炭化珪素の単結晶膜を成長させる方法が知られている。
【0004】
これらのCVD法を用いて高純度な炭化珪素単結晶膜を作製するには、炭化珪素成膜時に、1500℃以上の高い温度が必要である。そのため、SiC単結晶成長炉(以下、単に「成長炉」ということがある)の内壁やウエハを設置するサセプタなどの成長炉内の部材(以下、成長炉の内壁及び部材を合わせて「炉内基材」ということがある)には、高耐熱性の材料が用いられ、主としてカーボン母材の表面にCVD法によって緻密な多結晶のSiCを被覆したもの(SiCコート)が用いられる。
ここで、SiC単結晶成長炉とは、SiC単結晶膜やSiC単結晶インゴットなどのSiC単結晶を成長させるために用いられる炉(容器、チャンバ)を全て含む。
【0005】
また、CVD法による膜成長の際に、成長炉の内壁やサセプタなどの炉内基材にも炭化珪素が付着し、堆積してしまう。それらの基材に堆積した炭化珪素の堆積物(以下、「SiC堆積物」という)は、剥離、脱落して、炭化珪素薄膜の成長表面に落下付着し、結晶成長を阻害したり、欠陥を生じさせたりする原因となる。そのため、定期的に成長炉の内壁などに堆積したSiC堆積物を取り除かなければならない。その除去方法として、従来、炭化珪素が成長炉の内壁に堆積した場合には、工具を用いて剥離除去するか、容器を定期的に交換する方法が採用されていた。
【0006】
堆積した炭化珪素の削り取りや成長炉の交換には極めて長い作業時間を要し、反応器を長期間にわたり大気開放する必要があることから、歩留まりの悪化など生産性にも影響を与える原因となっていた。そのため、無機物質を効率よく除去するガスを用いて、成長炉の内壁などに付着した炭化珪素を化学的に除去するクリーニング方法が検討されている。
【0007】
特許文献1には、炭化珪素成膜装置の成膜チャンバ内で使用するサセプタの材質をバルクの炭化珪素のみとすることで、サセプタに堆積した炭化珪素の堆積物をプラズマ化させたフッ素と酸素でのエッチングにより除去した後にサセプタを再利用できる方法が開示されている。
【0008】
特許文献2には、予めプラズマ化された三フッ化窒素等のフッ素含有ガスにより炭化珪素よりなる堆積物を除去し、その排ガスを分析することで処理時間を調整する方法が開示されている。
【0009】
炭化珪素の単結晶を種結晶上に成長させて単結晶インゴットを製造する方法としては、昇華再結晶法(改良レリー法)が知られている(例えば、特許文献3参照)。この昇華再結晶法ではSiC単結晶成長炉内で、昇華用原料を2000℃以上に加熱することで、原料を昇華させて昇華ガスを発生させ、その昇華ガスを原料収容部よりも数10〜数100℃低温にした種結晶へ供給することにより、この種結晶上に単結晶を成長させる方法である。
この方法においても、成長炉の内壁などの炉内基材に炭化珪素が付着し、堆積してしまう点は、炭化珪素の単結晶膜を成膜する場合と同様であり、堆積したSiC堆積物を除去したり、部材を交換したりしている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用したSiC単結晶成長炉のクリーニング方法について、図面を用いてその構成を説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
本発明の一実施形態に係るSiC単結晶成長炉のクリーニング方法は、少なくとも表面が粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が85%以上、100%以下である3C−SiC多結晶からなる炉内基材を備えたSiC単結晶成長炉を、ガスを用いてクリーニングする方法であって、フッ素ガスと不活性ガスおよび空気の少なくとも一方との混合ガスを、ノンプラズマ状態でSiC単結晶成長炉内に流通させて、SiC単結晶成長炉内に堆積したSiC堆積物を選択的に除去する。
【0021】
ここで、「SiC単結晶成長炉」としては上述したように、SiC単結晶の成長を行う炉であれば制限なく含み、例えば、SiCエピタキシャル膜を含むSiC単結晶膜の成膜装置やSiC単結晶(インゴット)製造装置などが備える炉(容器、チャンバ)が挙げられる。SiC単結晶膜の成膜装置としては、通常、高周波電源を用いてサセプタを1400〜1600℃程度に誘導加熱させ、そのサセプタ上にSiC基板を設置して原料ガスを導入する方法が用いられる。
また、「炉内基材」は上述のとおり、SiC単結晶成長炉の内壁およびSiC単結晶成長炉内の部材を含む。本発明のクリーニング方法の適用対象となる炉内基材の一例としては、少なくとも一部がカーボン母材からなり、そのカーボン母材の表面を炭化珪素の保護膜で被覆した1500℃以上の高温条件に耐えうる基材が挙げられる。
また、「少なくとも表面が粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が85%以上、100%以下である3C−SiC多結晶からなる炉内基材」とは、粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が85%以上、100%以下である3C−SiC多結晶によって表面が被覆された炉内基材(すなわち、その3C−SiC多結晶とは異なる材料からなる部分を有する炉内基材)、及び、粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が85%〜100%である3C−SiC多結晶からなる炉内基材の両方を含む。前者は3C−SiC多結晶コートを有する炉内基材であり、後者は3C−SiC多結晶バルクでなる炉内基材である。
また、「ノンプラズマ状態」は、プラズマになっていない状態を指す。
また、「SiC単結晶成長炉内に堆積したSiC堆積物」は、SiC単結晶成長炉の内壁やSiC単結晶成長炉内の部材に堆積したSiC堆積物である。従って、「少なくとも表面が粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が85%以上、100%以下である3C−SiC多結晶からなる炉内基材」上に堆積したSiC堆積物だけでなく、それ以外の炉内基材上に堆積したSiC堆積物も含む。
【0022】
「粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が85%以上、100%以下である3C−SiC多結晶」において「他の結晶面」は(111)面以外の結晶面全てであるが、(200)面、(220)面、(311)面が観測されることが多い。
ここで、“3C−”は立方晶系を意味する。
【0023】
炉内基材の表面の3C−SiC多結晶の損傷の抑制の観点で、粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が90%以上である方が本発明の効果が発揮されやすく、95%以上である方がより効果が発揮されやい。
【0024】
本発明によって除去対象となるSiC堆積物はSiCを主成分として含むものであり、具体的には、化学的気相堆積法(CVD法)、有機金属気相成長法(MOCVD法)、スパッタリング法、ゾルゲル法、蒸着法等の方法を用いて薄膜、厚膜、粉体、ウイスカ等を製造する際に、炉内基材の表面に付随的に堆積した不要なSiC堆積物が挙げられる。
本発明のクリーニング方法を適用した際に、SiC堆積物以外の不要な堆積物が除去されても構わない。
【0025】
本発明の適用対象となるSiC堆積物は、粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が85%未満の3C−SiC多結晶であり、一例を挙げると、70%以上〜85%未満である。他の結晶面は(111)面以外の結晶面全てであるが、(200)面、(220)面、(311)面が観測されることが多い。
【0026】
上記粉末XRD分析の評価方法としては特に限定されないが、例えば装置は、PANalytical製のX’pert Pro MPDを用い、条件はX線源としてCuKα、出力 45kV−40mAで、集中光学系、半導体検出器を使用し、走査域としては2θ:20〜100deg、ステップサイズ 0.01deg、走査速度 0.1deg/minで実施することができる。それぞれの結晶面の強度は、ピーク高さで評価する。
【0027】
本発明のSiC単結晶成長炉のクリーニング方法は、不要な堆積物が堆積しやすい製造装置の内壁または半導体ウエハを設置するためのサセプタ、半導体デバイス、コーティング工具などの薄膜を形成する炭化珪素製膜装置やウイスカ、粉末などを製造する炭化珪素製造装置の内壁またはその付属部品に堆積したSiC堆積物の除去に適用できる。また、炭化珪素の薄膜、厚膜等のみではなく六方晶SiCウエハなどの大型バルク結晶成長を行う製造装置の内壁またはその付属部品に付着した不要なSiC堆積物にも適用可能である。これらのうち、成膜装置への適用が好ましく、特に、高温条件での成膜が行われる炭化珪素のエピタキシャル膜成長を行う製膜装置の内壁またはその付属部品に堆積したSiC堆積物への適用がさらに好ましい。これらの中でも、不要な堆積物が堆積しやすい製造装置の内壁及び半導体ウエハを設置するためのサセプタが特に好適である。
【0028】
SiC単結晶成長炉の内壁に付着するSiC堆積物と、内壁を構成するSiC膜(SiCコート膜)はいずれもSiC多結晶であることは知られていたが、その明確な違いは明らかではなく、せいぜい表面粗さRaだけの違いと考えられていた。しかし、その評価方法では、表面粗さが内壁を構成するSiCコート膜と同等なSiC堆積物を見分けられないことからクリーニング方法を正しく評価できず、実際の装置においては期待通りの効果が得られない、すなわち実際の炭化珪素単結晶成長での結晶欠陥の低減が確認できなかった。
そこで、本発明者らは、SiC単結晶成長炉の内壁に付着するSiC堆積物と内壁を構成するSiCコート膜の構造的な違いを明らかにすべく種々の分析、確認を行ったところ、どちらも同じ3C−SiCの多結晶体であるものの、粉末XRD分析により定量的に構造を区別でき、その違いは結晶方位面(111)配向性の割合に強く現れることを見出した。
内壁を構成するSiCコート膜は3C−SiCの多結晶で、その結晶方位面が(111)配向性が強く、粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が通常、85%以上、100%以下である。ここで他の結晶面は(111)面以外のもの全てであるが、(200)面、(220)面、(311)面が観測されることが多い。これは結晶面がそろっていることで、その表面反応性は単結晶に近い物性を示すことを意味する。これにより、構造的、化学的安定性を高く保つことができると考えられる。
一方、余分なSiC堆積物は同じ3C−SiC多結晶であるが、その結晶方位面が無配向に近い。内壁を構成するSiCコート膜における配向性が強い(111)面の強度比は85%未満である。ここで他の結晶面は(111)面以外のもの全てであるが、(200)面、(220)面、(311)面が観測されることが多い。SiC堆積物は内壁を構成するSiCコート膜に対して無配向に近いため、構造的、化学的安定性が劣るものと考えられる。ただし、完全なる無配向ではなく、(111)面に配向性がやや認められるのは内壁を構成するSiCコート膜の配向性の影響を受けているためと考えられる。
【0029】
本発明のSiC単結晶成長炉のクリーニング方法では、炉内基材を構成するSiCコート膜あるいはSiCバルク材と余分なSiC堆積物とを構造的に区別することで、構造的、化学的安定性の劣る、余分なSiC堆積物のみを選択的に除去することができる。
特に所定の濃度範囲に希釈されたフッ素ガスを用い、炉内基材をヒーター等で所定の温度範囲に加熱しながら、炉内基材の表面に堆積したSiCを含有する堆積物を効率的に選択的に除去することができる。炉内基材に堆積した不要な堆積物が除去される機構としては、フッ素の熱分解によって生じたフッ素ラジカルが堆積物中のSiCと反応し、SiF
4、CF
4となることにより除去されると考えられる。
ただし、炉内基材を構成するSiCコート膜あるいはSiCバルク材と、SiC堆積物とは結晶方位面の割合は異なるものの、両者とも3C−SiCである点では同じであるので、100%のF
2ガスを用いた場合には、反応性が強すぎてSiCコート膜、SiCバルク材およびSiC堆積物が区別なく除去されてしまうので、最適な選択比とはならない。
そこで、本発明者らは、F
2ガスを不活性ガスで希釈した混合ガスをエッチングガスとして用いたところ、フッ素濃度が1体積%以上、20体積%以下、好ましくは5体積%以上、15%以下の範囲で、十分な選択比が得られることを確認した。この濃度範囲に希釈したF
2ガスを用いることで、緻密な多結晶のSiC膜あるいはSiCバルク材と、緻密でない多結晶のSiC堆積物との間のエッチングレートに明確な差を設けることができる。すなわち、エッチングレートの差を利用することで、炉内基材を構成するSiCコート膜あるいはSiCバルク材を実質的にエッチングすることなく、その表面に付着したSiC堆積物をエッチング除去することができる。
【0030】
本発明で使用する希釈ガスとしては不活性ガス、空気、または、不活性ガス及び空気を用いることができる。不活性ガスとしては特に限定されるものではないが、窒素ガス(N
2)、アルゴンガス(Ar)、ヘリウムガス(He)が挙げられる。これらの中でも経済性と入手容易性の観点から、N
2、Arが好ましい。不活性ガスは複数種類を用いてもよい。
【0031】
本発明のクリーニングの際の反応温度(SiCを含む堆積物が堆積した炉内基材の温度(SiC単結晶成長炉内温度))は、200℃以上、500℃以下であることが好ましい。この温度範囲であれば、十分なクリーニング性能が得られ、かつ、エッチングレートの差が十分であり、エネルギーの無駄にならず、消費電力などランニングコストも高くならないからである。250℃以上、400℃以下の範囲であることがより好ましく、250℃以上、350℃以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0032】
反応温度は例えば、SiC単結晶成長炉の周囲に設置されたヒーターにより制御できる。ヒーターはSiC単結晶成長炉全体を温める加熱手段を用いてもよいし、加熱ターゲット部材のみを温めてその伝熱により付着物を温めるような加熱手段を用いてもよい。センサーを付着物付近に設置するのが好ましい。センサーを直接ガスに接触させられない場合には、内挿管等を用いてもよい。
【0033】
本発明のクリーニング時の圧力については、特に制限されるものではない。通常は大気圧下で行うが、例えば、−0.10MPaG以上、0.3MPaG以下でも適用可能である。
【0034】
クリーニングガス(混合ガス)の流量は、特に制限されるものではないが、線速度(LV)として、0.1m/min以上、10m/min以下が好ましい。
【0035】
本発明のクリーニング方法は、CVD法により半導体デバイス、コーティング工具などの薄膜を形成する炭化珪素成膜装置やウイスカ、粉末などを製造する炭化珪素製造装置の内壁またはその付属部品に堆積したSiC堆積物の除去に適用できる。また、炭化珪素の薄膜、厚膜等のみではなく六方晶SiCウエハなどの大型バルク結晶成長を行う製造装置の内壁またはその付属部品に付着した不要なSiC堆積物にも適用可能である。これらのうち、成膜装置への適用が好ましく、特に、高温条件での成膜が行われる炭化珪素のエピタキシャル膜成長を行う製膜装置の内壁またはその付属部品に堆積したSiC堆積物の除去への適用が好ましい。
【0036】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の効果を発揮し得る範囲で適宜変更して実施することができる。
【0037】
図1に、クリーニング試験で使用した反応炉の断面模式図を示す。
反応炉としては、円筒形の反応管1(ニッケル製)を備えた外熱式縦型反応炉を使用した。円筒形の反応管1には、クリーニングガスを供給するフッ素ガス供給部2と希釈用ガス供給部3が接続されており、反応管1の下流には、ガスを反応管から排出する排気部4が設けられている。さらに、反応管1の外周部には外部ヒーターとして誘導加熱コイル5が設置され、この誘導コイルによって反応管の内部を加熱することができる構成とした。クリーニング試験は、サンプル7(評価用サンプルと対照サンプル)を反応管内部の裁置台6に設置して行った。
【0038】
(実施例1)
カーボン母材にSiCコートされた炉内基材を有するSiC単結晶成長炉において、堆積物が堆積していない部分を1cm角の大きさに切り出し、対照サンプルとした。この炉においてSiCエピタキシャル成長工程を繰り返し行い、SiC堆積物が堆積した炉内基材を5mm角の大きさに切り出し、評価用サンプルとした。
【0039】
これら2つのサンプルを粉末XRD分析により解析した。対照サンプルの正常なSiCコート膜は3C−SiCの多結晶で、(111)面の強度比は99%であった。これに対して、評価用サンプルの堆積物面も3C−SiCの多結晶であったが(111)面の強度比は76%であった。(111)面以外の結晶方位面としては(200)面、(220)面、(311)面が観測された。
【0040】
粉末XRD分析装置はPANalytical製のX’pert Pro MPDを用い、条件はX線源としてCuKα、出力 45kV−40mAで、集中光学系、半導体検出器を使用し、走査域としては2θ:20〜100deg、ステップサイズ 0.01deg、走査速度 0.1deg/minで実施した。
【0041】
断面をSEM(Scanning Electron Microscope)観察した結果、
図2(A)に示す通り、SiCコート膜の厚みはいずれも70μm、評価用サンプルのSiC堆積物(デポ)の厚みはおよそ250μmであった。
【0042】
これら2つのサンプルを、
図1に示す内挿管を有するニッケル(Ni)製の反応管(φ3/4インチ、長さ30mm)内の中心位置のサンプル裁置台に設置した。内挿管内のサンプル設置場所付近に熱電対T1を設置した。
【0043】
反応管を、電気炉を用いて280℃に加熱し、大気圧条件下、F
2濃度10体積%、N
2濃度90体積%のガスを線速度(LV)1m/minとなるように流量180ml/minで60分間流通させた。その結果、
図2(B)に示す通り、SiC堆積物層は210μmまで減少したが、SiCコート膜は70μmで変わらなかった。つまり、ここでは測定限界が5μmなので、SiCコート膜の減少量は5μm未満となる。
【0044】
エッチングレートは、SiC堆積物層については0.67μm/min、SiCコート膜については<0.08μm/min(5μm未満のエッチング量/60分間)であり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は>8.4であった。
【0045】
(実施例2)
クリーニングガスの流通時間を350分間としたこと以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、
図2(C)に示す通り、SiC堆積物層は消失したが、SiCコート膜の厚みは65μmであった。
【0046】
エッチングレートは、SiC堆積物層については0.71μm/min以上であり、SiCコート膜については0.014μ/minであり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は51以上であった。
【0047】
(実施例3)
炉内基材に使用したSiCコート膜として、結晶方位面強度が異なるもの、すなわち粉末XRD分析による(111)面の強度比が95%のものを使用した。その際のSiC堆積物層の結晶方位面(111)面の強度比は73%であった。
【0048】
ガスの流通時間を200分間とした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。なお、断面をSEM観察した結果、SiCコート膜の厚みはいずれも70μm、評価用サンプルのSiC堆積物(デポ)の厚みはおよそ250μmであり、実施例1と同じであった。
その結果、SiC堆積物層は95μmまで減少したが、SiCコート膜は66μmまでの減少に留まった。
【0049】
エッチングレートは、SiC堆積物層については0.78μm/min、SiCコート膜については0.020μm/minであり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は39であった。
【0050】
(実施例4)
炉内基材に使用したSiCコート膜として、結晶方位面強度が異なるもの、すなわち粉末XRD分析による(111)面の強度比が90%のものを使用した。その際のSiC堆積物層の結晶方位面(111)面の強度比は70%であった。
【0051】
ガスの流通時間を200分間とした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。なお、断面をSEM観察した結果、SiCコート膜の厚みはいずれも70μm、評価用サンプルの堆積物(デポ)の厚みはおよそ250μmであり、実施例1と同じであった。
その結果、SiC堆積物層は80μmまで減少したが、SiCコート膜は65μmまでの減少に留まった。
【0052】
エッチングレートは、SiC堆積物層については0.85μm/min、SiCコート膜については0.025μm/minであり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は34であった。
【0053】
(実施例5)
ガス組成をF
2濃度5体積%、N
2濃度95体積%とした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、SiC堆積物層は220μmまで減少したが、SiCコート膜は70μmを保っていた。つまり、ここでは測定限界が5μmなので、SiCコート膜の減少量は5μm未満となる。
【0054】
エッチングレートは、SiC堆積物層については0.50μm/min、SiCコート膜については<0.08μm/min(5μm未満のエッチング量/60分間)であり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は>6.3であった。
【0055】
(実施例6)
ガス組成をF
2濃度15体積%、N
2濃度85体積%とした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、SiC堆積物層は190μmまで減少したが、SiCコート膜は65μmまでの減少に留まった。
エッチングレートは、SiC堆積物層については1.0μm/min、SiCコート膜については0.083μm/minであり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は12であった。
【0056】
(実施例7)
反応管の温度を400℃にした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、SiC堆積物層は190μmまで減少したが、SiCコート膜は65μmまでの減少に留まった。
【0057】
エッチングレートは、SiC堆積物層については1.0μm/min、SiCコート膜については0.083μm/minであり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は12であった。
【0058】
(実施例8)
ガス組成をF
2濃度1体積%、N
2濃度99体積%とし、クリーニングガスの流通時間を350分間とした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、SiC堆積物層は215μmまで減少したが、SiCコート膜は70μmを保っていた。つまり、ここでは測定限界が5μmなので、SiCコート膜の減少量は5μm未満となる。
エッチングレートは、SiC堆積物層については0.10μm/min、SiCコート膜については<0.014μm/min(5μm未満のエッチング量/350分間)であり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は>9.3であった。
【0059】
(実施例9)
ガス組成をF
2濃度20体積%、N
2濃度80体積%とした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、SiC堆積物層は135μmまで減少したが、SiCコート膜は60μmまでの減少に留まった。
エッチングレートは、SiC堆積物層については1.9μm/min、SiCコート膜については0.17μm/minであり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は11であった。
【0060】
(比較例1)
炉内基材に使用したSiCコート膜として、結晶方位面強度が異なるもの、すなわち粉末XRD分析による(111)面の強度比が80%のものを使用した。その際のSiC堆積物層の結晶方位面(111)面の強度比は52%であった。
【0061】
ガスの流通時間を100分間とした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。なお、断面をSEM観察した結果、SiCコート膜の厚みはいずれも70μm、評価用サンプルの堆積物(デポ)の厚みはおよそ250μmであり、実施例1と同じであった。
その結果、堆積物層は70μmまで減少し、SiCコート膜も10μmまで減少した。
【0062】
エッチングレートは、SiC堆積物層については1.8μm/min、コート層については0.60μm/minであり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は3.0であった。
【0063】
(比較例2)
炉内基材に使用したSiCコート膜として、結晶方位面強度が異なるもの、すなわち粉末XRD分析による(111)面の強度比が70%のものを使用した。その際のSiC堆積物層の結晶方位面(111)面の強度比は38%であった。
【0064】
ガスの流通時間を100分間とした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。なお、断面をSEM観察した結果、SiCコート膜の厚みはいずれも70μm、評価用サンプルの堆積物(デポ)の厚みはおよそ250μmであり、実施例1と同じであった。
その結果、SiC堆積物層は60μmまで減少し、SiCコート膜はわずかに残存が確認できるのみでほぼ消滅した。
エッチングレートは、SiC堆積物層については1.9μm/min、SiCコート膜については0.70μm/minであり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は2.7であった。
【0065】
(比較例3)
反応管の温度を550℃にした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、SiC堆積物層は200μmまで減少し、SiCコート膜も50μmまで減少した。
エッチングレートは、SiC堆積物層については0.83/min、コート層については0.17μm/minであり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は4.9であった。
【0066】
(比較例4)
反応管の温度を150℃にした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、SiC堆積物層は250μmのまま変化せず、SiCコート膜も70μmのまま変化しなかった。
【0067】
(比較例5)
ガス組成をF
2濃度30体積%、N
2濃度70体積%とした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、SiC堆積物層は210μmまで減少し、SiCコート膜も50μmまで減少した。
エッチングレートは、SiC堆積物層については0.67μm/minSiCコート膜については0.17μm/minであり、SiCコート膜に対するSiC堆積物層のエッチングレート比は3.9であった。
【0068】
(比較例6)
ガス組成をF
2濃度体積0.5%、N
2濃度99.5体積%とした以外は実施例1と同じ条件にてクリーニング試験を行った。その結果、SiC堆積物層は250μmのまま変化せず、SiCコート膜も70μmのまま変化しなかった。
【0069】
実施例及び比較例の結果を表1にまとめて示す。
【0071】
実施例1と比較例4とを比較すると、実施例1と同じフッ素ガス濃度および反応時間でも、反応温度が150℃ではSiC堆積物をエッチングすることができないことがわかった。また、実施例1と比較例3とを比較すると、実施例1と同じフッ素ガス濃度および反応時でも、反応温度が550℃ではエッチングレート比は十分に得られないことがわかった。
実施例1と比較例6とを比較すると、実施例1と同じ反応温度および反応時間でも、フッ素ガス濃度が0.5体積%ではSiC堆積物をエッチングすることができないことがわかった。また、実施例1と比較例5とを比較すると、実施例1と同じ反応温度および反応時でも、フッ素ガス濃度が30体積%ではエッチングレート比は十分に得られないことがわかった。
実施例1と比較例1および比較例2とを比較すると、炉内基材の表面を構成する3C−SiC多結晶の粉末XRD分析での他の結晶面に対する(111)面の強度比が85%未満では、十分なエッチングレート比が得られないことがわかった。