(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一対の直流端子と、電流をオン・オフするIGBT素子が前記直流端子間に2つ直列に接続されて構成される直交流変換回路と、前記直交流変換回路の2つの前記IGBT素子が互いに接続される箇所に接続される交流端子と、を含んで構成される電力変換装置において、
前記IGBT素子のそれぞれに逆並列に、請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の半導体装置からなるMOS制御ダイオードが接続されている
ことを特徴とする電力変換装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図21は、従来の一般的なインバータ990の回路構成の例を示した図である。インバータ990は、直流電源Vccから供給される電気エネルギーを、パワー半導体の一つであるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)200を用いて、所望の周波数の交流電力に変換する。そして、この周波数の適切な変換により、モータ950の回転速度を可変速に制御し、省エネルギーを実現する。
【0006】
モータ950は3相交流モータで、U相910、V相911、W相912の入力端子を持つ。U相910の入力電力は、上アームのIGBT200のゲート(G)をオンすると、供給される。一方、U相910の入力電力を停止するには、そのゲート(G)をオフすればよい。このように、ゲート(G)のオン、オフを繰り返すことにより、所望の周波数の電力をモータ950に供給することができる。
なお、上アームのIGBT200とは、コレクタがプラス側電源端子900に繋がるIGBT200のことをいう。また、下アームのIGBT200とは、エミッタがマイナス側電源端子901に繋がるIGBT200のことをいう。
【0007】
IGBT200には、IGBT200と逆並列にフライホイールダイオード100が接続されている。フライホイールダイオード100は、例えば上アームのIGBT200がオフした場合、そのIGBT200に流れていた電流を、下アームのIGBT200と逆並列のフライホイールダイオード100に転流させる。これにより、モータ950のコイルに貯まっているエネルギーを開放することができる。
【0008】
再び、上アームのIGBT200をオンすると、下アームのフライホイールダイオード100は非導通状態となり、上アームのIGBT200を通じてモータ950に電力が供給される。このように、フライホイールダイオード100は、IGBT200のオン、オフに応じて非導通と導通を繰り返す。
【0009】
したがって、インバータを高効率化、小型化し、低コストにすることで、その普及を促進するには、フライホイールダイオード100の導通損失を低減する必要がある。そのためには、フライホイールダイオード100に電流が流れたときの、フライホイールダイオード100中の順方向電圧降下を小さくする必要がある。数100V以上の定格電圧をもつパワー半導体では、一般的には、順方向電圧降下を小さくするために、電荷を注入することで伝導度を高めることが可能なシリコンのpnダイオードが使われる。
【0010】
一方、上アームのIGBT200がオン、オフを繰り返すと、下アームのフライホイールダイオード100の順方向時に蓄えられた電荷が吐き出され、逆回復電流となって上アームのIGBT200のターンオン電流に重畳する。この逆回復電流は、直流電源Vcc、プラス側電源端子900、上アームのIGBT200、下アームのフライホイールダイオード100、マイナス側電源端子901の閉回路で流れる。そして、このスイッチング時に、上アームのIGBT200のターンオン損失を増加させ、下アームのフライホイールダイオード100に逆回復損失を発生させる。
【0011】
このように、フライホイールダイオード100としてpnダイオードを用いると、順方向電圧を低減でき、導通損失を小さくできるが、逆回復損失が増える。pnダイオードに対して、電荷の注入が少なく逆回復電流が極めて小さいダイオードとして、ショットキーダイオードがあるが、シリコンでは順方向電圧が極めて大きく、大電流を取り扱うインバータでは損失が増えてしまう。最近、シリコンに代わりシリコンカーバイト(SiC:炭化珪素)を用いたショットキーダイオードが注目されている。しかしながら、SiCは、その結晶の品質が低いため、製造プロセスが難しく、その大口径化は、シリコンに及ばない。そのため、SiCのショットキーダイオードは、インバータやコンバータを低価格化するにはコストが高くなり、その普及はまだ限定的である。
【0012】
図22は、特許文献1に開示された、すべてシリコンで作ることが可能で低損失なフライホイールダイオード101の概念的な回路構成の例を示した図である。このフライホイールダイオード101では、シリコンのpnダイオードとショットキーダイオードをゲート(V
GA)で切り替えて使用する。すなわち、順方向時にはpnダイオードに電流を流し、順方向電圧降下を低減する。一方、逆回復時にはショットキーダイオードに電流を流すように切り替えて、逆回復電流を低減する。したがって、逆回復損失を低減することができる。
【0013】
しかしながら、特許文献1に開示された技術には種々の実施例が示されているが、最近IGBTなどで主流になりつつある、シリコンに溝を掘り、その中にMOSゲートを設けるトレンチゲートを使った好適な構造は示されていない。
【0014】
図23は、特許文献2に開示されたショットキーダイオードを内蔵する縦型のパワーMOSFET500の断面構造の例を示した図である。ここでは、電極221とn層140との間にショットキーダイオード400が形成されている。このショットキーダイオード400は、パワーMOSFET500にp層150とn層140の間に寄生的に存在するpnダイオードに比べ、逆回復電流を低減し、逆回復損失を低減できるという。
【0015】
また、n層140が、n
−層120より不純物濃度が高いため、p層150とn層140との間のpn接合の電界が強くなり耐圧が低下するので、p電界進展防止領域というp層130を形成し、pn接合の界面にかかる電界を軽減している。これにより、逆バイアスに対する耐圧が向上するという。
【0016】
しかしながら、特許文献2には、pnダイオードを積極的に利用し、順方向電圧降下を低減させることは記載されていない。むしろ、pnダイオードの動作をショットキー接合で抑制し、逆回復損失を低減させるようにしている。また、この構造では、トレンチ型のゲート電極230の底部がn
-層120と接触している。そのため、ゲート電極230とドレイン電極210との間で発生するゲートの帰還容量Cが大きくなり、逆回復時の電圧変化率(dv/dt)で生じる変位電流C・dv/dtがゲート電極230に流れ、ゲート電極230の電位が持ち上がるという不具合が懸念される。このゲート電位が持ち上がると、p層150やp層130のゲート電極230の酸化膜
320に対向するに側にn反転層が形成され、ドレイン電極210からソース電極220へ逆回復電流が流れ、逆回復損失が増える恐れがある。
【0017】
本発明は、順方向電圧降下および逆回復電流を低減し、耐圧低下を抑制することが可能な安価なフライホイールダイオード用の半導体装置およびその半導体装置を用いた電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る半導体装置は、一対の表面をもつ半導体基体と、前記半導体基体の一方の表面に露出する第1導電型の第1の半導体層と、前記半導体基体の他方の表面側に設けられ前記第1の半導体層に接し前記第1の半導体層より不純物濃度が低い第1導電型の第2の半導体層と、前記第2の半導体層内に形成され第2の半導体層より不純物濃度が高い第2導電型の第3の半導体層と、前記第3の半導体層内に形成された第1導電型の第4の半導体層と、前記第4の半導体層内に形成された第2導電型の第5の半導体層と、前記半導体基体の前記一方の表面側に設けられ前記第1の半導体層に電気的に低抵抗に接触したカソード電極と、前記半導体基体の前記他方の表面に設けられ前記第5の半導体層と前記第4の半導体層とに接触したアノード電極と、前記半導体基体の他方の表面に設けられたゲート電極と、前記ゲート電極と前記半導体基体の間に形成されたゲート絶縁膜と、を備えて構成される。
そして、前記ゲート電極が前記ゲート絶縁膜を介して前記半導体基体と接する面は、前記第3の半導体層と前記第4の半導体層と前記第5
の半導体層とに囲まれており、前記ゲート電極と前記第3の半導体層と前記第4の半導体層と前記第5
の半導体層とによりMOSFETが形成されること、
前記アノード電極は、前記第5の半導体層の少なくとも一部で電気的に低抵抗に接触し、前記アノード電極の電位に対して前記第3の半導体層が負の電位になる電圧が印加された場合には、前記アノード電極と前記第3の半導体層とをつなぐ経路の中に逆方向の阻止特性となる接合を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、順方向電圧降下および逆回復電流の低減し、耐圧低下を抑制することが可能な安価なフライホイールダイオード用の半導体装置およびその半導体装置を用いた電力変換装置が提供すされる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、これらの図面において、n
-、nという表記は、半導体層がn型であることを表し、かつ
n-、nの順に不純物濃度が相対的に高いことを表す。また、p
-、pという表記は、半導体層がp型であることを表し、かつ、
p-、pの順に不純物濃度
が高いことを表す。また、各図面において、共通する構成要素には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0022】
≪第1の実施形態≫
図1は、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置1の断面構造の例を示した図である。
図1に示すように、半導体装置1の半導体基体は、n
+層11、n
−層12、p層13、n層14、p層15、p
+層16からなる。n
+層11にはカソード電極21が電気的に低抵抗に接触している。一方、アノード電極22側では、p層15内にp
+層が設けられ、p
+層16の少なくとも一部はアノード電極22と低抵抗に接触している。また、アノード電極22とn層14との間には、ショットキー接合が形成されている。
【0023】
トレンチ構造のゲート電極23は、ゲート絶縁膜32と絶縁膜31とを介して半導体基体やアノード電極22と絶縁されている。ゲート絶縁膜32の半導体基体側は、p層13、n層14、p層15に囲まれている。なお、p
+層16は、ゲート絶縁膜32に直接接触してもよいが、p
+層16は、微細なほどよく、アノード電極22と接触する部分に薄く微細に形成することが望ましい。また、このほうがp
+層16、n層14、p層15からなる寄生pnpトランジスタの動作が防止され、p
+層16からp層15への直接のホール注入が抑制される。その結果、p
+層16とゲート絶縁膜32は、ホールの注入効率の低い、つまり不純物濃度の低いp層15を経由して接続されることとなる。
【0024】
ここで、
図1に示した2つずつのゲート電極23の組、および、この2つずつのゲート電極23の組を取り囲むp層13、n層14、p層15、p
+層16およびアノード電極22の構造は、横方向に繰り返し配置される構造となっている。このとき、繰り返し配置される構造単位は、しばしば単位セルまたは基本セルと呼ばれる。
【0025】
このような半導体装置1に、アノード電極22に正の電位、カソード電極21に負の電位を加え、ゲート電極23にアノード電極22の電位に対して負の電位を加えると、p層15、n層14、p層13のゲート絶縁膜32側表面にpチャネルが形成される。すなわち、p層15、n層14、p層13からなるpチャネルのMOSFETが導通し、オン状態になる。この結果、p層13とn
−層12が順バイアスされるので、n
−層に12にはp層13から多量のホールが注入される。この注入されたホールは、n
+層11からの電子の注入を促し、n
−層12は、ホールと電子が多量に蓄積された状態となり、低抵抗に伝導度変調される。これにより、半導体装置1は、順方向電圧が低下し、導通損失が低減される。
【0026】
一方、アノード電極22に負の電位、カソード電極21に正の電位を加え、半導体装置1を阻止状態に逆回復させる場合には、逆回復する直前にゲート電極23の電位をアノード電極22の電位に対して同電位か正の電位とし、pチャネルMOSFETをオフ状態にする。これにより、p層13からのホールの注入が抑制され、n
−層12中のホールや電子の蓄積電荷が激減する。この後、半導体装置1を逆回復させると、逆回復電流が低減し、逆回復損失も低減する。このとき、カソード電極21の電位が高電圧に急激に高くなるので、半導体装置1にはdv/dtが加わる。
【0027】
しかしながら、本実施形態では、ゲート絶縁膜32がほぼアノード電極22の電位に等しいp層13、n層14、p層15で囲われているので、ゲート電極23にはdv/dtによる変位電流が流れ込まず、ゲート電位は安定している。結果、ゲート電位をアノード電極22の電位に対して同電位か正の電位に維持できる。また、
図23で示した従来例のようなn
−層120、p層130、n層140で形成されるnチャネルMOSFETが生じないので、nチャネルMOSFETの動作もなく、逆回復電流が増え、逆回復損失が増える恐れもない。
【0028】
なお、順方向電圧を下げるには、n
−層12の蓄積電荷を増やし伝導度変調を促進する必要がある。本発明の発明者らが検討した結果、ゲート絶縁膜32とp層15の接触点をXとし、アノード電極22が半導体基体と接する領域を持つ隣り合うX点間の距離をAとし、Aとは異なるもう一方の隣り合うX点間の距離をBとした場合、AよりBを大きくすると伝導度変調が促進され、順方向電圧が低減することがわかった。
【0029】
これは、カソード電極21側のn
+層11から注入された電子が、Bの領域ではトレンチゲートの底に沿うように流れるため、p層13の電位が下がり、トレンチゲートに形成されたホールの蓄積層からホールの注入を促進するためである。その結果、ホールの注入量が増え、n
−層12がさらに伝導度変調され、順方向電圧が低減する。
【0030】
また、逆回復時には、n
−層12やp層13に蓄積されたホールが、負の電位にあるアノード電極22に向かって流れる。したがって、n層14は、ホールの流れを阻害する弊害がある。n層14の不純物濃度を高くすると、n層14、p層13、n
−層12からなる寄生npnトランジスタが動作し、n層14から電子が注入し、逆回復電流が増えてしまう。さらに、この寄生npnトランジスタが二次降伏を起こし、耐圧が低下してしまう恐れがある。
【0031】
そこで、本実施形態では、アノード電極22とn層14との間にn型ショットキー接合41が形成されている。そのため、逆回復時には、このn型ショットキー接合41に逆バイアスがかかり、n層14が空乏化し、ホールが流れ易くなる。この場合、n層14が空乏化するには、n層14の不純物濃度をシートキャリア濃度で2E12cm
-2以下にすることが望ましい。とくに、アノード電極22の底とp層13に挟まれ薄くなったn層14の領域はホールが流れ込みやすく、この領域のシートキャリア濃度を2E12cm
-2以下にすることが有効である。また、n層14の不純物濃度を低くすることにより、前記の寄生npnトランジスタが動作しにくくなるので、耐圧の低下も防ぐことができる。
【0032】
図2は、
図1の断面構造を有する半導体装置1の等価回路の例を示した図である。ここで、アノード(A)とカソード(K)の間にn型ショットキーダイオードとpnダイオードが逆方向に直列接続され、それらがpチャネルMOSFETと並列接続され、さらに、それがn
−層12をもつpnダイオードと直列接続されている。このような等価回路を有する半導体装置1は、アノード(A)とカソード(K)との間に流れるアノード電流をゲート(G)に印加する電圧で制御することができるので、しばしば、MOS制御ダイオードと呼ぶこととする。
【0033】
図3は、
図2の等価回路を有するMOS制御ダイオードの回路記号の例を示したものである。この回路記号は、実施形態の説明の便宜上、新たに作成したものである。なお、このMOS制御ダイオードの回路記号は、例えば、
図1に示した断面構造を有する半導体装置1を表記することができるが、第2の実施形態以降で説明する半導体装置2(
図10参照)なども表記できる。
【0034】
図4は、第1の実施形態に係る半導体装置1の順方向特性のゲート電圧依存性を示した図である。
図4に示すように、ゲート電圧(V
GA)を−15Vにすると、伝導度変調が促進され、順方向電圧を200Aで約3Vに低減することができる。一方、ゲート電圧を0Vとすると、pチャネルMOSFETがオフされ、pチャネルMOSFET以外のアノード電極22の底を通って流れる高抵抗な電流が主流となる。そのため、順方向電圧が約27Vと、10倍近く大きくなっていることが分かる。
【0035】
図5は、第1の実施形態に係る半導体装置1内部の蓄積電荷量のゲート電圧依存性の例を示した図である。なお、
図5に示された蓄積電荷量は、ホール濃度であり、順方向電流が200Aとしてシミュレーション計算により得られた値である。この
図5からは、ゲート電圧を−15Vから0Vとすることで、とくにアノード側の蓄積電荷量が約1桁低減されていることが分かる。すなわち、導通状態ではゲート電圧を−15Vにして、順方向電圧を下げれば、導通損失を低減することができる。一方、逆回復時には、その直前にゲート電圧を−15Vから0Vに切替え、蓄積電荷量を低減することで、逆回復電流を小さくし、逆回復損失を下げることができる。
【0036】
図6は、第1の実施形態に係る半導体装置1の逆回復特性のゲート電圧依存性を示した図である。
図6には、
図4と
図5で説明したゲート電圧V
GAを、逆回復時に0Vに切替えた場合と、切替えず−15Vのまま逆回復した場合の、カソード電極21(K)とアノード電極22(A)間の電圧V
KAおよびアノード電流I
Aがそれぞれ太実線とふと破線で示されている。ゲート電圧を0Vとすることで、
図5で示したように蓄積電荷量が減少した結果、逆回復電流が大幅に低下し、逆回復損失が30%に低減されていることが分かる。
【0037】
図7は、第1の実施形態に係る半導体装置1の逆向特性のゲート電圧依存性を示した図である。
図7に示すように、半導体装置1の逆向特性は、ゲート電圧−15Vとしても、また、0Vとしてもほとんど変化がなく安定している。さらに、ゲート電圧を、例えば、+20Vとしても、その逆向特性はほぼ同じであり、定格電圧の6.5kVを十分に阻止していることが分かる。これは、特許文献2に示された
図23の縦型のパワーMOSFETでは実現不可能な特性である。
【0038】
図8は、第1の実施形態に係る半導体装置1を適用した電力変換装置80の回路構成の例を示した図である。なお、ここでは、半導体装置1は、
図3に示された回路記号のMOS制御ダイオードとして表されている。
【0039】
図8に示すように、電力変換装置80は、半導体装置1からなるMOS制御ダイオード82とIGBT81とをそれぞれ上アームと下アームとして直列接続し、チョッパ回路として負荷インダクタンス83に接続したものである。電力変換装置80は、IGBT81のゲートG(t)をオン、オフすることで、負荷インダクタンス83に流れる電流を調整し、電力の出力量を調整する。
【0040】
ここで、IGBT81をオンすると、電源Vccから供給される電流が負荷インダクタンス83を通ってIGBT81に電流I
Cが流れる。そして、この電流I
Cが所望の値になったときにIGBT81をオフする。すると、電流I
Cは、MOS制御ダイオード82へ電流I
Aとなって流れる。この電流I
Aは、MOS制御ダイオード82の損失や回路に存在する寄生抵抗で消耗され、徐々に低下する。そして、電流I
Aが所望の値の下限に達したら、再びIGBT81をオンすることで、負荷インダクタンス83に供給する電流を増やし、その電流量を所望の範囲内に維持する。
【0041】
図9は、
図8の電力変換装置80のMOS制御ダイオード82およびIGBT81それぞれの逆回復時の動作波形の例である。ここで、V
GAは、MOS制御ダイオード82のゲートG(d)に印加する電圧、V
GEは、IGBT81のゲートG(t)に印加する電圧である。また、ここでは、下アームのIGBT81が時刻t
0でターンオンするものとしている。
【0042】
この場合、上アームのMOS制御ダイオード82は、時刻t
0よりも電荷引き抜き期間td_rr1だけ早い時刻t
1に、ゲート電圧V
GAを−15Vから0Vへ切替え、MOS制御ダイオード82内部の蓄積電荷を減らす。そして、そのゲート電圧V
GAが0Vのままの状態で、時刻t
0で下アームのIGBT81をターンオンさせ、上アームのMOS制御ダイオード82を逆回復させる。
【0043】
続いて、時刻t
0を過ぎ、MOS制御ダイオード82に逆バイアスがかかり始めたら、任意の時刻t
2にMOS制御ダイオード82のゲート電圧V
GAを0Vから再び−15Vに切替える。こうして、pチャネルMOSFETを導通させることで、p層13をアノード電極22の電位に固定し、阻止特性をより安定させるとともに、下アームのIGBT81が次にターンオフし、MOS制御ダイオード82に電流が転流する場合に対応できるように待機する。
【0044】
なお、IGBT81がターンオンし、MOS制御ダイオード82が再び−15Vになるまでのリカバー期間td_rr2の最小値は、MOS制御ダイオード82に逆バイアスが加わり始めるまで短くすることができる。この時間を短くすることで、n
−層12やp層13に蓄えられたホールをスムーズにpチャネルMOSFETを経由して吐き出すことができ、逆回復損失を低減することができる。
【0045】
本実施形態に係る半導体装置1からなるMOS制御ダイオード82は、前記したように、ゲート電圧V
GAが0Vでも十分な阻止特性を有し、逆回復電圧の高電圧に耐えることができる。そのため、駆動波形制御の精度上、リカバー期間td_rr2をあまり短くできない場合でも、ゲート電圧V
GAは0Vを維持できればよい。したがって、本実施形態に係るMOS制御ダイオード82は、駆動波形の制御精度に尤度を持たせることができるという特徴的な効果を奏する。
【0046】
また、本発明では、スイッチングモード期間のゲート電圧V
GAを0V以上、例えば+15Vにすることも可能である。なぜならば、
図7で示したように、ゲート電圧V
GAが+20Vでも逆回復時の逆方向電圧を阻止できる能力を本発明は有しているからである。ゲート電圧V
GAを正にすることにより、ゲート
絶縁膜32と接する半導体基体1の表面にn層が形成され、電荷引き抜き期間td_rr1においてn
+層11から注入しn
-層12に蓄積した電子をアノード電極22へ流れ込みやすくできる。結果、n
-層12に蓄積した電荷をスムーズに引き抜けるという特徴をもつ。特に、ゲート絶縁膜32と接するp層13の表面に形成されるn反転層は、電子を収集し、n層14へ導き、n
-層12の蓄積電荷を低減する効果が大きい。
【0047】
≪第2の実施形態≫
図10は、本発明の第2の実施形態に係る半導体装置2の断面構造の例を示した図である。第2の実施形態に係る半導体装置2と第1の実施形態に係る半導体装置1とは、ゲート電極23が半導体基体の一方の側面に接しているか、または両方の側面に接しているかで相違している。すなわち、
図1に示された半導体装置1では、ゲート電極23の両側面は、ゲート絶縁膜32を介して半導体基体(p層13、n層14、p
+層16)に接している。それに対し、本実施形態に係る半導体装置1では、ゲート電極23の一方の側面は、ゲート絶縁膜32を介して半導体基体(p層13、n層14、
p+層16)に接し、他方の側面は、厚い絶縁膜31に接している。なお、このように一方の側面がゲート絶縁膜32を介して半導体基体に接し、他方の側面が絶縁体層に接しているゲート電極23は、しばしば、サイドウォールゲートと呼ばれる。
【0048】
そのため、本実施形態では、ゲート電極23がゲート絶縁膜32を介して半導体基体と接する面積が第1の実施形態に比べ約半分になる。また、さらに大きなdv/dtに対してもゲート電位がより安定するという特徴をもつ。その結果、ゲート電極23のゲート容量が半減されることとなるため、ゲート電極23の駆動が容易になるという効果が得られる。なお、これ以外の効果は、第1の実施形態の場合とほぼ同じである。例えば、距離A<Bとした場合に得られる順方向電圧の低減効果なども、第1の実施形態の場合と同じように得られる。
【0049】
≪第3の実施形態≫
図11は、本発明の第3の実施形態に係る半導体装置3の断面構造の例を示した図である。第3の実施形態に係る半導体装置3は、ゲート電極23が半導体基体の表面に設けられたプレーナ構造である点で、第1の実施形態に係る半導体装置1(
図1参照)と相違している。プレーナ構造の半導体装置3は、半導体基体にトレンチを掘る必要がないので、製造プロセスが容易という効果がある。なお、これ以外の効果は、第1の実施形態の場合とほぼ同じである。
【0050】
≪第4の実施形態≫
図12は、本発明の第4の実施形態に係る半導体装置4の断面構造の例を示した図である。第4の実施形態に係る半導体装置4は、アノード電極22がn層14だけでなくp層13にも接触しており、p層13との間にp型ショットキー接合42が形成されている点で、第1の実施形態に係る半導体装置1とは相違している。本実施形態では、p型ショットキー接合42が形成されたことにより、第1の実施形態で説明した寄生npnトランジスタによる阻止特性の低下や、逆回復時にアノード電極22の底のn層14がホールの流れを阻害する懸念が解消される。
【0051】
一方、順方向特性では、アノード電極22からp層13へ直接に電流が流れやすくなるので、pチャネルMOSFETの蓄積電荷量の制御機能が損なわれるのではないかという懸念も想定される。しかしながら、本実施形態では、アノード電極22とp層13とがp型ショットキー接合42しているため、その懸念はない。すなわち、本実施形態では、順方向の場合、このp型ショットキー接合45が逆バイアスとなるので、アノード電極22からp層13への直接の電流の流れが抑制される。したがって、PチャネルMOSFETの電流制御機能は維持される。
【0052】
なお、本実施形態では、アノード電極22とn層14の側壁との接触は、ショットキー接合でもオーミック接合でもよい。ただし、その効果については、次に説明するように、やや相違がある。
【0053】
図13は、
図12の断面構造を有する半導体装置4の等価回路の例を示した図であり、(a)は、アノード電極22とn層14とがオーミック接合する場合の例、(b)は、アノード電極22とn層14とがショットキー接合する場合の例である。
図13(a)のオーミック接号の場合、n層14がアノード電極22の電位に固定されるので、n層14の電位がフローティングとならず、pチャネルMOSFETのゲート閾値電圧が安定する。一方、逆回復時には、ホールがp層13とp型ショットキー接合42を通ってアノード電極22に流れ込むときに、p層13とn層14が順バイアスされ、n層14、p層13、n−層12からなる寄生のnpnトランジスタが動作し、半導体装置4の誤動作の懸念が残る。
【0054】
図13(b)のショットキー接合の場合、n層14とアノード電極22はn型のショットキー接合となるので、逆回復時には逆バイアスとなり、アノード電極22からn層14への電流の流れが抑制される。したがって、前記の寄生npnトランジスタの動作が抑制され、
図13(a)のオーミック接合の場合に比べ、誤動作を防止できるという効果を期待することができる。また、このショットキー接合によるpチャネルMOSFETのゲート閾値電圧への影響は、n層14の電位がショットキー接合の障壁の高さだけ高くなるフローティング電位になるが、その電位に固定されるので、ゲート閾値電圧への影響は少ない。
【0055】
≪第5の実施形態≫
図14は、本発明の第5の実施形態に係る半導体装置5の断面構造の例を示した図である。第5の実施形態に係る半導体装置5は、ゲート電極23がサイドウォールゲートとなっている点で、
図12の第4の実施形態に係る半導体装置4と相違している。したがって、本実施形態でサイドウォールゲートとした効果は、
図10の第2の実施形態に係る半導体装置2で説明した効果と同様の効果が得られる。また、その他の効果は、第4の実施形態に係る半導体装置4の効果と同様である。
【0056】
≪第6の実施形態≫
図15は、本発明の第6の実施形態に係る半導体装置6の断面構造の例を示した図である。第6の実施形態に係る半導体装置6は、ゲート電極23が半導体基体の表面に設けられたプレーナ構造である点で、
図12の第4の実施形態に係る半導体装置4と相違している。したがって、本実施形態でゲート電極23をプレーナ構造とした効果は、
図11の第3の実施形態に係る半導体装置3で説明した効果と同様の効果が得られる。また、その他の効果は、第4の実施形態に係る半導体装置4の効果と同様である。
【0057】
≪アノード電極22についての補足≫
図1、
図10に示されたアノード電極22の構造と、
図12、
図14に示されたアノード電極22の構造とは、半導体基体内に形成されたトレンチ(溝)の深さが異なっている。すなわち、アノード電極22形成用のトレンチは、前者のケースでは、n層14内で留まっているが、
後者のケースでは、p層13まで到達している。
【0058】
ここで、いずれの構造のアノード電極22であっても同じ製造プロセスで製造し、それぞれの実施形態で前記したそれぞれの効果が得られるようにしておくことが、半導体装置製造のロバスト性を高める上で重要である。そのためには、アノード電極22のn層14およびp層13と接する界面の金属は、共通化できるショットキー金属であることが望ましい。n形にもp形にもショットキー接合を作りやすい、共通するショットキー金属の障壁高さは、n型とp型への障壁高さがほぼ同じになる、半導体基体のバンドギャップの約半分となる。つまり、Si(シリコン)では、バンドギャップは、約1.1eVなので、約0.55eV程度の障壁高さをもつ金属が有効となる。
【0059】
本発明の発明者らが計算により求めた結果、望ましい障壁高さは、0.4eV〜0.7eVであることが分かった。このような障壁高さをもつ金属としては、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Cr(クロム)、または、それらを含有したシリサイドが好適である。とくに、TiやTiシリサイドは、一般的なLSI(大規模集積回路)でも半導体との接合界面に広く用いられており、本発明の実施形態を実現する上でも採用しやすい好適な金属である。
【0060】
この場合、アノード電極22がn層14およびp層13と接する界面部分のみにTiやTiシリサイドを形成し、それ以外のアノード電極22のほとんどの部分を、アルミニウムを主体とする金属で厚く形成するのが好ましい。こうすることにより、大電流を流すことが可能なアノード電極22を得ることができる。また、TiやTiシリサイドのような0.4eV〜0.7eVの障壁高さをもつ金属をアノード電極22の界面に用いることで、アルミニウム(0.72eV)などに比べ障壁の高さが低いので、p
+層16と低抵抗に接触しやすく本発明の効果を実現しやすくなる。
【0061】
また、n層14およびp層13と接するアノード電極22の界面にTiやTiシリサイドを用いる場合、ショットキー接合として機能させるためには、n層14およびp層13の不純物濃度も重要である。n層14およびp層13の不純物濃度が高いと、TiやTiシリサイドがn層14およびp層13とオーミック接合を形成してしまうため、期待される効果が損なわれるためである。本発明の発明者らが検討した結果、n層14およびp層13の界面付近での不純物濃度をそれぞれ5E17cm
−3以下にする必要があることが分かった。一方、p
+層16と低抵抗に接触させるには、p
+層16の界面での不純物濃度を1E18cm
−3以上にする必要があることも分かった。
【0062】
≪第7の実施形態≫
図16は、本発明の第7の実施形態に係る電力変換装置1000の回路構成の例を示した図である。本実施形態に係る電力変換装置1000は、
図21に示した従来の一般的なインバータ990の回路構成において、pnダイオードからなるフライホイールダイオード100をMOS制御ダイオード700に置き換えたものである。ここで、MOS制御ダイオード700は、
図1、
図10、
図11、
図12、
図14、
図15に示された構造を有する半導体装置1,2,3,4,5,6のいずれであってもよい。なお、
図16では、MOS制御ダイオード700は、
図3に示した回路記号で表されている。
【0063】
したがって、電力変換装置1000では、pnダイオードを用いた場合に比べれば、導通損失や逆方向損失が低減されるだけでなく、逆回復電流の低減によるIGBT200のターンオン電流も低減される。その結果、IGBT200のターンオン損失も低減されるので、インバータの低損失化、すなわち、電力変換装置1000の高効率化を実現することができる。
【0064】
≪第8の実施形態≫
図17は、本発明の第8の実施形態に係る電力変換装置1100の回路構成の例を示した図である。本実施形態に係る電力変換装置1100は、図
16に示した第7の実施形態に係る
電力変換装置1000の回路構成において、IGBT200をデュアルゲートIGBT800に置き換えたものである。ここで、デュアルゲートIGBT800とは、時間差駆動が可能な2つのゲートを有するIGBTをいう。
【0065】
図18は、デュアルゲートIGBT800の断面構造の例を示した図である。この断面構造は、PCIM Europe 2017の学会講演予稿集における”Dual side-gate HiGT breaking through limitation of IGBT loss reduction”(三好他著、2017年5月)というタイトルの論文に基づく。
【0066】
図18の断面構造を有するデュアルゲートIGBT800では、単位セルにおけるゲート電極231,232をGcゲートとGsゲートの2つに分け、これらを時間差駆動することにより、ターンオフ損失やターンオン損失を低減することができる。なお、Gcゲート231、Gsゲート232の時間差駆動タイミングなどについては、別途、
図20を用いて説明する。
図18に示したデュアルゲートIGBT800の断面構造、とくにゲート電極231、232の断面構造は、
図10に示した半導体装置2のゲート電極23の構造と似ている。しかしながら、半導体基体部分のn型、p型の領域区分には相違があり、また、半導体基体の表面側(上面側)、裏面側(下面側)に形成される電極の名称も相違している。デュアルゲートIGBT800では、表面側(上面側)には、エミッタ電極52が形成され、裏面側(下面側)には、コレクタ電極51が形成されている。
【0067】
図19は、
図18のデュアルゲートIGBT800を表す回路記号の例を示した図である。この回路記号は、本実施形態の説明の便宜上、新たに作成したものである。なお、
図19の回路記号で示されるデュアルゲートIGBT800の断面構造は、
図18の断面構造に限定されず、他の断面構造を有するものであってもよい。
【0068】
図20は、電力変換装置1100の上下アームにおけるデュアルゲートIGBT800の2つのゲート電極231,232(Gcゲート、Gsゲート)およびMOS制御ダイオード700のゲート電極23(Gdゲート)の駆動波形の例を示した図である。これらの駆動波形は、図示しないマイコンなどの制御回路で生成されるパルス幅AのPWM信号に基づき、デットタイム(DT)などを考慮しながらその制御回路により生成される。なお、
図20には、参考のために、従来の一般的なIGBTにおけるゲー
ト(G)の駆動信号も併せて示されている。
【0069】
図20に示すように、制御回路は、デュアルゲートIGBT800をターンオフするときには、Gcゲート駆動信号を時間td_offだけGsゲート駆動信号に先行してオフにする。これにより、デュアルゲートIGBT800の内部に蓄積されている電荷を低減することができる。次に、制御回路は、時間td_off経過後、Gsゲート駆動信号をオフすることで、高速にデュアルゲートIGBT800の電流を遮断し、デュアルゲートIGBT800のターンオフ損失を低減することができる。
【0070】
一方、デュアルゲートIGBT800をターンオンするときには、制御回路は、Gsゲート駆動信号をGcゲート駆動信号よりも時間td_onだけ先行してオンする。こうすることで、デュアルゲートIGBT800のスイッチングを制御し、dv/dtを調整することが可能となる。次に、制御回路は、Gcゲート駆動信号をオンすることで、デュアルゲートIGBT800の伝導度変調を向上させ、導通損失を低減させることができる。
【0071】
ここで、デュアルゲートIGBT800のGcゲート駆動信号、Gsゲート駆動信号とMOS制御ダイオード700のGdゲート駆動信号との関係は、次のとおりである。ここで、Gdゲート駆動信号を−15Vから0Vに切替え、0Vに維持した後、さらに0Vから−15Vに切替えるまでの期間を、以下、遷移期間という。なお、この遷移期間の0Vは、先に述べたように+15Vと正の電圧にすることも可能である。
【0072】
ここで、制御回路は、自アームのデュアルゲートIGBT800のGsゲート駆動信号がターンオンする前に、直列接続された対アームのMOS制御ダイオード700のGdゲート駆動信号を0Vまたは+15Vとし、このMOS制御ダイオード700に並列接続されたデュアルゲートIGBT800のGcとGsのゲート駆動信号をオフする。これにより、PWM信号のパルス幅Aを再現することができる。すなわち、制御回路は、従来と同様のPWM信号からGdゲート駆動信号、Gsゲート駆動信号、Gcゲート駆動信号を矛盾なく生成することができる。なお、上アームの回路と下アームの回路がそれぞれ3回路になった場合であっても、PWM信号からそれぞれの回路のGdゲート駆動信号、Gsゲート駆動信号、Gcゲート駆動信号を矛盾なく生成できることに変わりはない。
【0073】
以上述べてきたMOS制御ダイオード700は、従来のダイオードと同様、n
−層12の少数キャリアのライフタイムを低減することで、さらに逆回復電流を低減でき、逆回復損失を低減できるのはいうまでもない。さらに、ライフタイムを長くし、順方向電圧を低減した第1のMOS制御ダイオードと、ライフタイムを短くし逆回復電流(逆回復損失)を低減した第2のMOS制御ダイオードと、を並列接続した構成の場合には、加えて導通損失も低減できる効果がある。
【0074】
この構成によれば、順方向時には、第1のMOS制御ダイオードと第2のMOS制御ダイオードのゲート電極23をともにオンし、主に第1のMOS制御ダイオードに電流を流すことで導通損失を低減することができる。また、逆回復時には、その逆回復直前に第1のMOS制御ダイオードのゲート電極23をオフし、主電流の流れを第2のMOS制御ダイオードへ移し、さらに第2のMOS制御ダイオードをオフする。こうすることにより、第2のMOS制御ダイオードの蓄積電荷を減らし、第2のMOS制御ダイオードの短いライフタイムにより逆回復損失を減らすことができる。このような構成と効果を得ることができるのも、MOSゲートでダイオードの電流を制御できる本発明の新たな効果である。
【0075】
したがって、以上のような第1のMOS制御ダイオードと第2のMOS制御ダイオードとを並列接続した構成によれば、第1のMOS制御ダイオードの低導通損失と第2のMOS制御ダイオードの低逆回復損失を同時に活かした複合型のMOS制御ダイオードを実現することができる。
【0076】
また、以上のようなMOS制御ダイオード700とデュアルゲートIGBT800とを1つの半導体チップの中に集積することも可能である。1つの半導体基体の中に集積することにより、MOS制御ダイオード700およびデュアルゲートIGBT800全体としての実装面積を小さくできるので、電力変換
装置1000,
1100を小型化することができる。
【0077】
とくに、
図10や
図14で示した半導体装置2,5(MOS制御ダイオード700)と、
図17で示したデュアルゲートIGBT800は、いずれも同じようなサイドゲートを有しているので、1つの半導体チップとして集積化しやすい。もちろん、従来のシングルゲートのIGBTであっても、本発明のMOS制御ダイオード700を同一の半導体チップに集積することは可能である。
【0078】
以上のようなデュアルゲートIGBT800およびMOS制御ダイオード700は、シリコンを使った半導体製造プロセスで容易に製作することができる。そして、
図20に示した駆動により、安全にかつ低損失にインバータなどの電力変換装置1100を高効率運転できる。その結果、高コストなSiCを使うことなく、半導体装置や、インバータ装置などの電力変換装置における電力消費の高効率化を図ることができる。そのため、電力変換装置を普及促進することができ、低炭素社会に向けた省エネルギーや新エネルギーを推進することができる。
【0079】
なお、本発明は、以上に説明した実施形態や実施例に限定されるものではなく、さらに、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態および実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態や実施例の構成の一部を、他の実施形態や実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態や実施例の構成に他の実施形態や実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態や実施例の構成の一部について、他の実施形態や実施例に含まれる構成を追加・削除・置換することも可能である。