特許第6964571号(P6964571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6964571
(24)【登録日】2021年10月21日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】関節炎の処置方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20211028BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20211028BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20211028BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20211028BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20211028BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20211028BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20211028BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   A61K9/127
   A61P19/02
   A61K47/24
   A61K47/28
   A61P29/00
   A61K31/405
   A61P29/00 101
   A61K39/395 N
   A61K31/519
   A61K45/00
【請求項の数】21
【外国語出願】
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-229873(P2018-229873)
(22)【出願日】2018年12月7日
(62)【分割の表示】特願2015-520707(P2015-520707)の分割
【原出願日】2013年7月5日
(65)【公開番号】特開2019-69962(P2019-69962A)
(43)【公開日】2019年5月9日
【審査請求日】2019年1月7日
(31)【優先権主張番号】61/668,446
(32)【優先日】2012年7月5日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/791,650
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507317971
【氏名又は名称】タイワン リポソーム カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】514090142
【氏名又は名称】ティーエルシー バイオファーマシューティカルズ、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン, クールン
(72)【発明者】
【氏名】グオ, ルーク エス.エス.
(72)【発明者】
【氏名】ツェン, ユン−ロン
(72)【発明者】
【氏名】シー, シェウ−ファン
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ポ−チュン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ, チー−チャン
(72)【発明者】
【氏名】リン, ホン−フイ
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−505785(JP,A)
【文献】 Rheumatology,2001年,Vol.40,No.4,p375−383
【文献】 International Journal of Pharmaceutics,2007年,Vol.331,No.2,p182−185
【文献】 Molecular Pharmaceutics,2011年,Vol.8,No.4,p1002−1015
【文献】 Rheumatology International,2007年,Vol.27,No.12,p1099−1111
【文献】 Journal of Oral Pathology and Medicine,2012年01月,Vol.41,No.1,p96−105
【文献】 British Journal of Rheumatology,1996年,Vol.35,No.8,p719−724
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/127
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節炎を処置に使用するための徐放性組成物であって、該徐放性組成物は、関節炎の処置が必要な被験体の関節に関節内注射され、(1)第1のリン脂質、(2)第2のリン脂質、(3)コレステロール、および(4)1種以上の治療剤を含むリポソームを含み、
ここで、
第1のリン脂質は1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(DOPC)、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(POPC)、ダイズ由来ホスファチジルコリン(SPC)または卵由来ホスファチジルコリン(EPC)であり;
第2のリン脂質はジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)であり;
第1のリン脂質、第2のリン脂質、及びコレステロールのモルパーセントの比は、リン脂質及びコレステロールの合計モルパーセントを100としたときに、56.25〜72.5:7.5〜18.75:10〜33であり
該1種以上の治療剤はリン脂質と共有結合していない、
徐放性組成物。
【請求項2】
前記徐放性組成物は、前記第1のリン脂質、第2のリン脂質および前記コレステロールを含む凍結乾燥した脂質ケーキを、前記1種以上の治療剤を含む水性溶液で再構成して、前記リポソームを含む水性懸濁物を形成することによって調製される、請求項1に記載の徐放性組成物。
【請求項3】
前記徐放性組成物は、前記1種以上の治療剤と、前記第1のリン脂質、第2のリン脂質および前記コレステロールを含む脂質ケーキとの凍結乾燥した組み合わせ物を、水性溶液で再構成して、前記リポソームを含む水性懸濁物を形成することによって調製される、請求項1に記載の徐放性組成物。
【請求項4】
前記第1のリン脂質はDOPCある、請求項1〜3のいずれか一項に記載の徐放性組成物。
【請求項5】
前記第1のリン脂質はDOPCであり、
DOPC、DOPG、及びコレステロールのモルパーセントの比は、リン脂質及びコレステロールの合計モルパーセントを100としたときに、56.25〜72.5:7.5〜18.75:20〜25である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の徐放性組成物。
【請求項6】
前記1種以上の治療剤は、有効量の水溶性ステロイドもしくはその薬学的に受容可能な塩を含む水溶性ステロイド溶液を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の徐放性組成物。
【請求項7】
前記水溶性ステロイドは、リン酸デキサメタゾンナトリウムである、請求項6に記載の徐放性組成物。
【請求項8】
前記水溶性ステロイド溶液は、2mg用量〜8mg用量のデキサメタゾンに等しい有効性を有する、請求項6または7に記載の徐放性組成物。
【請求項9】
前記1種以上の治療剤は、非ステロイド系抗炎症薬もしくはその薬学的に受容可能な塩を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の徐放性組成物。
【請求項10】
前記非ステロイド系抗炎症薬は、インドメタシンである、請求項9に記載の徐放性組成物。
【請求項11】
前記インドメタシンの薬学的に受容可能な塩は、インドメタシンナトリウムである、請求項10に記載の徐放性組成物。
【請求項12】
前記インドメタシンもしくはその薬学的に受容可能な塩の用量は、4.65〜5mg/mlである、請求項10または11に記載の徐放性組成物。
【請求項13】
前記1種以上の治療剤は、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の徐放性組成物。
【請求項14】
前記DMARDは、TNF−αアンタゴニストを含む、請求項13に記載の徐放性組成物。
【請求項15】
前記TNF−αアンタゴニストは、エタネルセプトである、請求項14に記載の徐放性組成物。
【請求項16】
エタネルセプトの用量は、42.8mg/ml〜50mg/mlである、請求項15に記載の徐放性組成物。
【請求項17】
前記TNF−αアンタゴニストは、アダリムマブである、請求項14に記載の徐放性組成物。
【請求項18】
前記DMARDは、メトトレキサートもしくはその薬学的に受容可能な塩を含む、請求項13に記載の徐放性組成物。
【請求項19】
前記メトトレキサートの薬学的に受容可能な塩は、メトトレキサートナトリウムである、請求項18に記載の徐放性組成物。
【請求項20】
メトトレキサートもしくはその薬学的に受容可能な塩の用量は、2.3〜2.5mg/mlである、請求項18または19に記載の徐放性組成物。
【請求項21】
(1)第1のリン脂質、(2)第2のリン脂質、(3)コレステロール、および(4)1種以上の治療剤を含むリポソームの、関節炎の処置が必要な被験体の関節に関節内注射される関節炎の処置のための医薬の製造における使用:
ここで、
第1のリン脂質は1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(DOPC)1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(POPC)、ダイズ由来ホスファチジルコリン(SPC)または卵由来ホスファチジルコリン(EPC)であり;
第2のリン脂質はジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)であり;
第1のリン脂質、第2のリン脂質、及びコレステロールのモルパーセントの比は、リン脂質及びコレステロールの合計モルパーセントを100としたときに、56.25〜72.5:7.5〜18.75:10〜33であり
該1種以上の治療剤はリン脂質と共有結合していない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2012年7月5日に出願した米国出願第61/668,446号および2013年3月15日に出願した米国出願第61/791,650号の利益を主張する。これらの開示全体は、本明細書に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
変形性関節症(OA)は、関節炎のうちで最も一般的なタイプであり、障害の主要な原因である。これは、関節軟骨の進行性の喪失、軟骨下骨硬化、骨棘形成、滑膜の変化、ならびに粘度が低下し、従って潤滑特性が変化した、増大した体積の滑液によって特徴付けられる、非炎症性の変性関節疾患である。
【0003】
関節リウマチ(RA)は、原因不明の慢性全身性炎症性疾患である。遺伝的要因、環境要因、ホルモン要因、免疫学的要因、および感染性の要因が、顕著な役割を果たし得る。この状態の顕著な特徴は、手足に影響を及ぼす持続性の対称性多発性関節炎であるが、滑膜によって裏打ちされているいかなる関節も関与する可能性がある。これは、滑膜炎として公知の、滑膜裏打ちにおける炎症性細胞の蓄積および増殖に起因する。関節外器官の巻き添え(例えば、皮膚、心臓、肺および眼)は、顕著であり得る。
【0004】
関節内(IA)薬物注射は、関節炎(OAおよびRAを含む)の処置の魅力的な処置アプローチである。市場に出ている種々のステロイドおよびヒアルロン酸製剤が、有効であると考えられるが、頻繁なIA注射を要し、短期間の症状緩和を提供するに過ぎない。他の結晶懸濁物(crystal suspension)製剤は、IA注射のための大口径ニードルを要し、小さな関節を処置するには適しておらず、結晶誘発性滑膜炎を生じ得る。利用可能な全身的処置はまた欠点を有し、最も顕著なことには、副作用がある。
【0005】
上記で概説した欠点に鑑みて、関節炎を処置するための方法であって、よりIA注射の頻度が低く、および/もしくはより長期間の疼痛緩和を伴う方法が必要である。本明細書で開示される方法は、この必要性および他の重要な必要性に対処する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の簡単な要旨)
本明細書で使用される用語「本発明」(「invention」、「the invention」、「this invention」および「the present invention」)は、本特許出願の主題および以下の特許請求の範囲の全てを広くいうことが意図される。これら用語を含む記載は、本明細書に記載される主題も限定せず、以下の特許請求の範囲の意味もしくは範囲も限定しないと理解されるべきである。この要旨は、本発明の種々の局面の高レベルの全体像であり、以下の詳細な説明の節にさらに記載される概念のうちのいくつかを前置きする。この要旨は、特許請求される主題の重要なもしくは本質的な特徴を同定する意図もなく、特許請求される主題の範囲を決定するために別個に使用する意図もない。その主題は、明細書全体、いずれかのもしくは全ての図面および各請求項の適切な部分を参照することによって理解されるべきである。
【0007】
本発明は、関節炎を処置する方法に関し、前記方法は、上記被験体の関節炎症状を低減するために、関節炎の処置が必要な被験体に、徐放性組成物を関節内注射することを含む。本発明は、関節リウマチを処置するために特に有用である。
【0008】
本発明の徐放性組成物は、リポソームを含み、上記リポソームは、(a)リン脂質もしくはリン脂質の混合物、およびコレステロール;ならびに(b)治療剤もしくはその薬学的に受容可能な塩を含み、ここで上記リポソームは、水性懸濁物中にある。上記徐放性組成物は、脂質ケーキと治療剤とを混合することによって調製され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、4群のラットにおける、各群をそれぞれ生理食塩水、遊離リン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)もしくは上記徐放性組成物の単回のIA注射に供した後の体重変化を示す線グラフである。
【0010】
図2図2は、4群のラットにおける、各群をそれぞれ生理食塩水、遊離DSPもしくは上記徐放性組成物の単回のIA注射に供した後の臨床的視覚的関節炎スコアの変化を示す線グラフである。
【0011】
図3図3は、4群のラットにおける、各群をそれぞれ生理食塩水、遊離DSPもしくは上記徐放性組成物の単回のIA注射に供した後の右足関節体積の変化を示す線グラフである。
【0012】
図4図4は、4群のラットにおける、各群をそれぞれ生理食塩水、遊離DSPもしくは上記徐放性組成物の単回のIA注射に供した後の左足関節体積の変化を示す線グラフである。
【0013】
図5図5は、3群のラットにおける、遊離DSPもしくは上記徐放性組成物の4回の毎日のIA注射後の体重変化を示す線グラフである。
【0014】
図6図6は、3群のラットにおける、各群をそれぞれ遊離DSPもしくは上記徐放性組成物の4回の毎日のIA注射に供した後の臨床的視覚的関節炎スコアの変化を示す線グラフである。
【0015】
図7図7は、3群のラットにおける、各群をそれぞれ遊離DSPもしくは上記徐放性組成物の4回の毎日のIA注射に供した後の右足関節体積の変化を示す線グラフである。
【0016】
図8図8は、3群のラットにおける、各群をそれぞれ遊離DSPもしくは上記徐放性組成物の4回の毎日のIA注射に供した後の左足関節体積の変化を示す線グラフである。
【0017】
図9図9は、3群のラットの、遊離インドメタシンもしくはインドメタシン徐放性組成物の5回の毎日のIA注射に供した後の体重変化(パネルa)および臨床的関節炎スコア(パネルb)を示す線グラフである。19日目の第1の矢印は、インドメタシンの最初の毎日のIA投与を示し、23日目の第2の矢印は、インドメタシンの最後の毎日のIA投与を示す。
【0018】
図10図10は、3群のラットの、遊離エタネルセプトもしくはエタネルセプト徐放性組成物の2回のIA注射後の体重変化(パネルa)および臨床的関節炎スコア(パネルb)を示す線グラフである。23日目の第1の矢印は、エタネルセプトの最初のIA投与を示し、26日目の第2の矢印は、エタネルセプトの2回目のIA投与を示す。
【0019】
図11図11は、3群のラットの、遊離メトトレキサートもしくはメトトレキサート徐放性組成物の2回のIA注射の後の体重変化(パネルa)および臨床的関節炎スコア(パネルb)を示す線グラフである。23日目の第1の矢印は、メトトレキサートの第1のIA投与を示し、26日目の第2の矢印は、メトトレキサートの第2のIA投与を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
本明細書で開示されるように、有効量の本明細書で記載される徐放性組成物の被験体へのIA投与は、有利なことには、上記被験体における関節炎の徴候および/もしくは症状を低減し得ることが発見された。本明細書で開示される関節炎処置は、以前の公知の処置より頻度が少ないIA注射を要し得ることもまた発見された。本明細書で開示される関節炎処置が以前に公知の処置より長期の疼痛緩和をもたらすこともまた、発見された。これら発見は、本明細書で記載される関節炎を処置するための方法、組成物および医薬、ならびに関節炎を処置するための組成物の使用において具現化される。
【0021】
(定義)
上記でおよび本開示全体を通して使用されるように、以下の用語は、別段示されなければ、以下の意味を有することが理解されるものとする。
【0022】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上別の意味が明確に示されなければ、複数形への参照を含む。
【0023】
用語「リポソーム」および関連する用語は、本明細書で使用される場合、多胞性リポソーム(multivesicular liposome)(MVL)、マルチラメラ小胞(MLV)または小さなもしくは大きなユニラメラ小胞(ULV)を含む。上記リポソームは、ナノサイズであり、粒子形成成分および薬剤保持成分を含む。上記粒子形成成分は、中性脂質(例えば、トリグリセリド)を実質的に含まない囲われた脂質バリアを形成する。特定の実施形態において、上記粒子形成成分の中には、約0.1%未満の中性脂質がある。他の実施形態において、上記粒子形成成分の中には、中性脂質はない。上記薬剤保持成分は、実質的に水性の媒体を含み、中性脂質(例えば、トリグリセリド)、非水性相(油相)、水−油エマルジョンもしくは非水性相を含む他の混合物のいずれをも実質的に含まない。
【0024】
用語「有効量」とは、本明細書で使用される場合、関節炎の症状および/もしくは徴候(例えば、疼痛および関節硬直)を低減するために十分である徐放性組成物の用量をいう。
【0025】
用語「処置する」、「処置される」、もしくは「処置」(「treating」、「treated」もしくは「treatment」)とは、本明細書で使用される場合、防止的(例えば、予防的)、緩和的、および治癒的な方法、使用もしくは結果を含む。用語「処置」はまた、組成物(例えば、薬学的組成物)もしくは医薬を言及し得る。
【0026】
本願全体を通じて、処置は、関節炎の1以上の影響もしくは症状を低減するかもしくは遅らせるための方法を意味する。処置はまた、上記症状のみだけでなく、根底にある病状を低減する方法を言及し得る。処置は、任意の低減であり得、そして関節炎、関節炎の徴候もしくは症状の完全な除去(ablation)であり得るが、これらに限定されない。処置は、当該分野で公知の技術によって検出されるとおりの関節炎の完全な改善を含み得る。当該分野で認識される方法は、関節炎およびその症状を検出するために利用可能である。これらとしては、いくつか挙げると、放射線検査、関節吸引(joint asp
iration)、血液検査(例えば、リウマチ因子の検出もしくは抗CCP試験)またはMRIが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、開示される方法は、処置前の被験体もしくはコントロール被験体と比較した場合に、被験体における関節炎の1以上の症状において約10%の低減がある場合、処置であると考えられる。従って、上記低減は、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、またはその間の任意の量の低減であり得る。
【0027】
本明細書で使用される場合、防止(prevent、preventing、もしくはprevention)は、関節炎の発症、発生、重篤度、もしくは再発を起こらないようにする(precluding)、遅らせる(delaying)、避ける(averting)、未然に防ぐ(obviating)、妨げる(forestalling)、止める(stopping)、または邪魔する(hindering)方法を意味する。例えば、開示される方法は、本明細書で開示される処置を受けなかった関節炎に罹りやすいコントロール被験体と比較して、関節炎に罹りやすい被験体における関節炎の発症、発生、重篤度もしくは再発または関節炎の1以上の症状(例えば、疼痛、硬直、発熱、関節炎症もしくは関節圧痛)における低減もしくは遅れがある場合に、防止であると考えられる。開示される方法はまた、本明細書で開示される処置を受ける前の被験体の進行と比較して、本明細書で開示される処置を受けた後の関節炎に罹りやすい被験体における関節炎の発症、発生、重篤度、もしくは再発、または関節炎の1以上の症状における低減もしくは遅れがある場合に、防止であると考えられる。従って、関節炎の発症、発生、重篤度、もしくは再発における低減もしくは遅れは、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、またはその間の任意の量の低減であり得る。
【0028】
用語「被験体」とは、関節炎を有する脊椎動物または関節炎処置の必要があるとみなされる脊椎動物をいい得る。被験体としては、温血動物(例えば、霊長類、およびより好ましくは、ヒトのような哺乳動物)を含む。非ヒト霊長類は、同様に被験体である。用語被験体は、飼い慣らされた動物(例えば、ネコ、イヌなど)、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)および実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、アレチネズミ、モルモットなど)を含む。従って、獣医の使用および医学的製剤は、本明細書で企図される。用語「関節炎」とは、1以上の関節の炎症を含む関節の障害もしくは状態をいう。用語「関節炎」とは、本明細書で使用される場合、種々の病因および原因(公知もしくは未知のいずれであろうと)の関節炎の種々のタイプおよびサブタイプ(関節リウマチ、変形性関節症、感染性関節炎、乾癬性関節炎、痛風性関節炎、およびループス関連関節炎(lupus−related arthritis)が挙げられるが、これらに限定されない)を包含する。
【0029】
(脂質ケーキ)
本明細書で記載される関節炎処置で使用される脂質ケーキは、ケーキ、フィルムもしくは粉末の状態にある固体脂質混合物を含む。
【0030】
特定の実施形態において、上記リン脂質およびコレステロール、またはリン脂質とコレステロールとの混合物は、脂質ケーキへとさらに加工処理される前に、リポソームへと予め形成される。
【0031】
特定の実施形態において、上記リン脂質およびコレステロール、またはリン脂質とコレステロールとの混合物は、脂質ケーキへとさらに加工処理される前に、リポソームへと予め形成されない。
【0032】
上記脂質ケーキは、単層構造もしくは二層構造を形成するかまたは組み込まれるかのい
ずれかであり得る種々の脂質から調製され得る。本明細書に提供される脂質ケーキは、トリグリセリドなどの中性脂質を実質的に含まない、1種以上のリン脂質およびコレステロールを含む。リン脂質の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)、卵由来ホスファチジルコリン(EPC)、卵由来ホスファチジルグリセロール(EPG)、卵由来ホスファチジルエタノールアミン(EPE)、卵由来ホスファチジルセリン(EPS)、卵由来ホスファチジン酸(EPA)、卵由来ホスファチジルイノシトール(EPI)、ダイズ由来ホスファチジルコリン(SPC)、ダイズ由来ホスファチジルグリセロール(SPG)、ダイズ由来ホスファチジルエタノールアミン(SPE)、ダイズ由来ホスファチジルセリン(SPS)、ダイズ由来ホスファチジン酸(SPA)、ダイズ由来ホスファチジルイノシトール(SPI)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ヘキサデシルホスホコリン(HEPC)、水素添加ダイズ由来ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)、パルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール(PSPG)、モノオレオイルホスファチジルエタノールアミン(MOPE)、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(POPC)、ポリエチレングリコールジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルセリン(DOPS)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジン酸(DOPA)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルイノシトール(DOPI)、ジミリストイルホスファチジルイノシトール(DMPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)。脂質は、上記脂質のうちの1種以上の混合物、または上記脂質のうちの1種以上と上記に列挙していない他の1種以上の脂質との混合物であり得る。
【0033】
例示的実施形態において、脂質ケーキは、2種のリン脂質(例えば、DOPCもしくはDOPG)の混合物を含む。別の実施形態において、上記脂質ケーキは、DOPC、POPC、SPC、EPC、PEG−DSPEおよびDOPGからなる群より選択されるリン脂質とコレステロールとの混合物を含む。別の実施形態において、上記脂質ケーキは、第1のリン脂質と第2のリン脂質との混合物を含み、上記第1のリン脂質は、DOPC、POPC、SPC、もしくはEPCであり、上記第2のリン脂質は、PEG−DSPEもしくはDOPGである。上記脂質ケーキの種々の例示的組成は、米国出願第12/538,435号(その教示は、全体において本明細書に参考として援用される)に開示される。
【0034】
例示的実施形態において、上記脂質ケーキ混合物は、約29.5%〜90%:3%〜37.5%:10%〜33%のモル比でDOPC、DOPGおよびコレステロールを含む。別の実施形態において、DOPC:DOPG:コレステロールの比は、約56.25〜72.5モル%:7.5〜18.75モル%:20〜25モル%である。例示であって限定ではなく、DOPC:DOPG:コレステロールの比は、約67.5:7.5:25であり得る。別の実施形態において、上記脂質ケーキ混合物は、上記脂質ケーキに対して約1
2モル%〜約30モル%未満のコレステロールを含む。別の実施形態において、上記脂質ケーキ混合物は、上記脂質ケーキに対して約15モル%から約29モル%のコレステロールを含む。さらに別の実施形態において、上記脂質ケーキ混合物は、上記脂質ケーキに対して約17.5モル%〜約28モル%のコレステロールを含む。
【0035】
別の実施形態において、上記粒子形成成分は、脂肪酸もカチオン性脂質(すなわち、生理学的pHにおいて正味の正電荷を有する脂質)も含まない。
【0036】
別の実施形態において、上記粒子形成成分は、リン脂質分子に結合された、非常に水和した可撓性の中性ポリマーの長い鎖を有する親水性ポリマーを含む。いかなる理論にも拘束されないが、上記親水性ポリマーは、上記リポソームを安定化し、インビボでより長い循環時間を生じると考えられる。上記親水性ポリマーの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:約2,000〜約5,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)、メトキシPEG(mPEG)、ガングリオシドGM、ポリシアル酸、ポリ乳酸(ポリラクチドともいわれる)、ポリグリコール酸(ポリグリコリドともいわれる)、ポリ乳酸ポリグリコール酸(apolylacticpolyglycolic acid)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン(polymethoxazoline)、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリアスパルタミド(polyaspartamide)、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、誘導体化セルロース(例えば、ヒドロキシメチルセルロースもしくはヒドロキシエチルセルロース)、および合成ポリマー。
【0037】
上記粒子形成成分は、上記リポソームを標的分子を有する標的細胞に特異的に結合させるために、標的化部分として作用する、抗体もしくはペプチドの脂質結合体をさらに含み得る。上記標的分子の例としては、上皮増殖因子レセプター(EGFR)、血管内皮増殖因子レセプター(VEGF)、癌胎児性抗原(CEA)、およびerbB−2/neu(HER2)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
本明細書に記載の関節炎処置において使用されるリポソームは、小胞を調製するために使用される従来技術によって精製され得る。これら技術としては、以下が挙げられる:エーテル注射法(Deamer et al., Acad. Sci. (1978) 308: 250)、界面活性剤法(Brunner et al., Biochim. Biophys. Acta (1976) 455: 322)、凍結融解法(Pick et al, Arch. Biochim. Biophys. (1981) 212: 186)、逆相エバポレーション法(Szoka et al., Biochim. Biophys. Acta. (1980) 601 : 559 71)、超音波処理法(Huang et al, Biochemistry (1969) 8: 344)、エタノール注射法(Kremer et al., Biochemistry (1977) 16: 3932)、押し出し法(Hope et al., Biochim. Biophys. Acta (1985) 812:55
65)、フレンチプレス法(Barenholz et al., FEBS Lett. (1979) 99: 210)およびSzoka, F., Jr., et al., Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467 (1980)に詳述される方法。上記に示した文献のすべては、リポソーム小胞の形成のためのプロセスおよび従来技術を記載しており、これらプロセスの説明は、本明細書に参考として援用される。
【0039】
例示的実施形態において、上記治療剤は、上記リポソームの薬剤保持成分中に被包され
、ここで上記薬剤保持成分は、実質的に水性媒体を含み、中性脂質(例えば、トリグリセリド)、非水性相(油相)、水−油エマルジョンまたは非水性相を含む他の混合物を実質的に含まない。実質的に水性媒体を含む薬剤保持成分は、関節における上記治療剤のより長期の治療効力および長期放出プロフィールを提供する。対照的に、実質的に非水性の媒体(例えば、ダイズ油媒体)を含む薬剤保持成分に被包される治療剤は、より迅速な放出プロフィールおよびより短期間の治療効力を有する(Bias et al, Sustained−Release Dexamethasone Palmitate − Pharmacokinetics and Efficacy in Patients with Activated Inflammatory Osteoarthritis of the Knee. Clin Drug Invest 2001;
21(6):429−436)。
【0040】
特定の実施形態では、脂質ケーキは、リポソームへと予備形成されない1種以上の脂質を含む。上記脂質ケーキは、適切な有機溶媒(エタノール、メタノール、t−ブチルアルコール、エーテルおよびクロロホルムが挙げられるが、これらに限定されない)中に上記脂質を溶解し、そして加熱、真空エバポレーション、窒素エバポレーション、凍結乾燥、もしくは溶媒除去の他の従来の手段によって乾燥することによって調製され得る。
【0041】
滅菌後、上記脂質溶液は、上記治療剤と混合され、凍結乾燥されて、粉末もしくはケーキを形成する。一般に、少なくとも1種の凍結防止剤および少なくとも1種のバッファーが、上記ステロイド−脂質混合物を有効に凍結乾燥するために添加される。
【0042】
上記凍結防止剤としては、マンニトール、グリセロール、デキストロース、スクロース、および/もしくはトレハロースが挙げられるが、これらに限定されない。1つの例示的な凍結防止剤は、マンニトールである。
【0043】
上記バッファーとしては、リン酸二水素ナトリウム二水和物およびリン酸水素二ナトリウム無水物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
脂質ケーキ調製のいくつかの例は、本発明に関連するので、脂質ケーキ調製のプロセスを例示するために以下に記載される。
【0045】
(治療剤)
治療剤は、ステロイド溶液、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)(例えば、インドメタシン、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)または前述のうちの2以上の組み合わせ)、ならびに前述のうちの1種以上と本明細書で具体的に列挙されていない他の成分もしくは化合物との組み合わせであり得る。DMARDとしては、低分子薬剤(例えば、メトトレキサート、レフルノミド、スルファサラジン、シクロホスファミド、アザチオプリン、シクロスポリンA、d−ペニシラミン、抗マラリア薬(例えば、ヒドロキシクロロキン)が挙げられる。DMARDはまた、生物学的物質、例えば、腫瘍壊死因子α(TNF−α)アンタゴニスト(例えば、エタネルセプト、商品名エンブレル(Wyeth Pharmaceuticals, Inc., Collegeville, USAから市販))、アダリムマブ、商品名ヒュミラ(Abbott Laboratories,
Abbott Park, Illinois, USAから市販)、インターロイキン−1レセプターアンタゴニスト、インターロイキン−6レセプターアンタゴニスト、抗CD20モノクローナル抗体、CTLA−4−Ig、RGDペプチドなどを含む。
【0046】
例示的実施形態において、上記治療剤は、実質的に水溶性のステロイド溶液(例えば、DSP)である。別の例示的実施形態において、上記治療剤は、実質的に水溶性のNSAID(例えば、インドメタシンの薬学的に受容可能な塩)である。さらに別の例示的実施
形態において、上記治療剤は、実質的に水溶性のDMARD(例えば、メトトレキサートの薬学的に受容可能な塩、またはTNF−αアンタゴニスト)である。さらに別の例示的実施形態において、上記治療剤は、リン脂質にも脂肪酸(例えば、パルミテート)にも共有結合されていない。
【0047】
治療剤は、薬学的に受容可能な賦形剤および薬学的製剤(これは、ヒトおよび動物での使用のための製剤、ならびに研究、実験および関連の用途のための製剤を含む)に適した別の成分と合わされ得る。いくつかの実施形態において、クエン酸バッファー、好ましくは、クエン酸ナトリウムが使用される。他の実施形態において、キレート化剤が使用され、好ましくは、EDTAが使用される。
【0048】
水溶性ステロイドとしては、任意の天然に存在するステロイドホルモン、合成ステロイドおよびそれらの誘導体が挙げられる。水溶性ステロイドとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム(DSP)、ヒドロコルチゾン−17−バレレート、フルオロコルチゾン、フルドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、パラメタゾンおよびエプレレノン。1つの例であって、非限定的なものではないが、水溶性ステロイドは、DSPである。例えば、約2〜約100mg/mLのDSP溶液を用いて、上記脂質ケーキを再構成し得る。
【0049】
水溶性ステロイドの薬学的に受容可能な塩としては、非毒性の無機塩基もしくは有機塩基から形成された非毒性の塩が挙げられる。例えば、非毒性の塩は、無機塩基(例えば、アルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類金属水酸化物、例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム、カルシウム、もしくはマグネシウム);またはアミンなどのような有機塩基を用いて形成され得る。
【0050】
水溶性ステロイドの薬学的に受容可能な塩はまた、非毒性の無機酸もしくは有機酸から形成された非毒性の塩を含む。有機酸および無機酸の例は、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、パルミチン酸、コール酸、パモ酸、粘液酸、D−グルタミン酸、グルタル酸、グリコール酸、フタル酸、酒石酸、ラウリン酸、ステアリン酸、サリチル酸、ソルビン酸、安息香酸などである。
【0051】
(徐放性組成物)
本明細書で記載される関節炎処置において使用される徐放性組成物は、結晶懸濁物を実質的に含まない。例示的実施形態において、上記徐放性組成物中の結晶懸濁物は約0.1%未満である。別の実施形態において、上記徐放性組成物中に結晶懸濁物はない。本明細書で示される徐放性組成物は、リポソームを含み、ここで上記リポソームは、リン脂質もしくはリン脂質の混合物、コレステロール、および1種以上の治療剤を含み、そして上記リポソームは、水性懸濁物中にある。上記徐放性組成物は、1種以上のリン脂質およびコレステロールを含む凍結乾燥した脂質ケーキを、1種以上の治療剤を含む水性溶液で再構成して、水性懸濁物を形成することによって調製され得る。上記徐放性組成物はまた、1種以上の治療剤と、1種以上のリン脂質およびコレステロールを含む脂質ケーキとの凍結乾燥した組み合わせ物を、水性溶液で再構成して、水性懸濁物を形成することによって調製され得る。いくつかの例示的実施形態において、上記脂質ケーキは、脂質成分としての1種以上のリン脂質およびコレステロールから本質的になる。再構成するために適切な水性溶液もしくは媒体としては、バッファー、蒸留水、食塩水、糖溶液、例えば、デキストロース溶液などが挙げられるが、これらに限定されない。他の例示的実施形態において、上記脂質ケーキは、ホスファチジルコリン脂質、ホスファチジルグリセロール脂質およびコレステロールから本質的になる。さらに他の例示的実施形態において、上記脂質ケーキは、(上記ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、およびコレステロール
脂質に加えて)保存剤、凍結防止剤もしくはこれらの組み合わせを含み得る。リポソームを含む徐放性組成物が本明細書でさらに提供され、ここで上記リポソームは、リン脂質もしくはリン脂質の混合物、コレステロール、およびTNF−αアンタゴニスト、例えば、エタネルセプトもしくはアダリムマブを含み、そして上記リポソームは、水性懸濁物中にある。この組成物の凍結乾燥した形態もまた、本明細書で企図される。
【0052】
一部の実施形態において、上記徐放性組成物は、上記活性成分のための少なくとも1種の薬学的に受容可能な賦形剤、希釈剤、ビヒクル、キャリア、媒体、保存剤、凍結防止剤もしくはこれらの組み合わせをさらに含む。
【0053】
例示的実施形態において、本発明の徐放性組成物は、上記脂質ケーキを作製し、それを上記治療剤で再構成して、水性懸濁物を形成することによって調製される。
【0054】
別の実施形態において、本発明の徐放性組成物は、上記脂質ケーキを調製する間に、上記治療剤を上記脂質混合物に添加し、続いて、上記脂質混合物と上記治療剤との組み合わせを、1種以上の凍結保護剤とともに凍結乾燥して、粉末を形成することによって調製される。
【0055】
例示的実施形態において、上記徐放性組成物は、約2mg用量〜約8mg用量のデキサメタゾンに等しい有効性を有する水溶性ステロイドを含む。例えば、上記徐放性組成物中の4mg DSPの有効性は、3mg デキサメタゾンの有効性に等しい。上記徐放性組成物中の10mg DSPの有効性は、7.6mg デキサメタゾンの有効性に等しい。同様に、40mg 酢酸メチルプレドニゾロンの有効性は、7.5mg デキサメタゾンの有効性に等しい。
【0056】
本明細書で記載される徐放性組成物は、関節炎(例えば、関節リウマチ)に罹患している患者を処置するために使用され得る。
【0057】
例示的実施形態において、上記徐放性組成物中の治療剤のうちの約50%〜約95%は、非会合形態にある(すなわち、上記治療剤のうちの約5%〜約50%が、会合形態にある)。別の実施形態において、上記徐放性組成物中の治療剤のうちの約60〜90%が、非会合形態にある。用語「非会合形態にある治療剤」とは、上記徐放性組成物のリン脂質/コレステロール画分からのゲル濾過によって分離可能な治療剤分子をいう。
【0058】
別の実施形態において、上記リン脂質とコレステロールとの組み合わせの、上記治療剤に対する重量比は、約5〜80 対 約1である。さらに別の実施形態において、上記リン脂質とコレステロールとの組み合わせの、上記治療剤に対する重量比は、5〜40 対
1である。例えば、上記リン脂質とコレステロールとの組合せの、上記治療剤に対する重量比は、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75もしくは80 対 約1であり得る。
【0059】
(関節炎の処置方法)
本発明は、被験体における関節炎を処置する方法であって、有効量の本明細書で記載されるとおりの徐放性組成物を処置の必要な被験体に投与し、それによって、上記被験体における関節炎の症状および徴候が低減されることを包含する方法に関する。
【0060】
上記徐放性組成物は、IA投与、筋肉内投与、もしくは皮下投与に適しているように製剤化される。関節内注射は、以下の工程を含む:1)処置される予定の関節の適切な注射部位を同定し、印を付ける工程;2)上記注射部位を無菌操作を使用して滅菌し、必要に応じて、局所麻酔剤を提供する工程。3)上記注射部位において関節腔へと針を刺入する
工程。上記針の刺入は、必要に応じて、超音波ガイドの下で行われ得る。少量の滑液を吸引して、上記針の先端が関節腔内にあることを確認する。4)上記医薬を上記関節腔へと注入する工程。
【0061】
本発明の徐放性組成物の投与量は、上記実施形態に従って、当業者によって決定され得る。単位用量もしくは複数用量の形態が企図され、各々、特定の臨床状況において利点を提供する。本発明によれば、投与される上記徐放性組成物の実際の量は、処置される予定の被験体の年齢、体重、状態、ならびに関節のタイプに従って変動し得、医療専門家の裁量に依存する。
【0062】
IA注射のためのDSPの用量は、患者の状態および関節の大きさに依存する。例示的実施形態において、DPSの用量は、約0.2mg〜約6mg/IA注射である。別の例示的実施形態において、DPSの用量は、大関節(例えば、膝関節)に関しては、約2〜約4mg/IA注射である。さらに別の例示的実施形態において、DSPの用量は、小関節(例えば、指節間関節)に関しては、約0.8〜約1mg/IA注射である。
【0063】
例示的実施形態において、IA注射1回あたりのインドメタシンの用量は、約5mg〜約30mgである。別の例示的実施形態において、IA注射1回あたりのインドメタシンの用量は、約10〜約25mgである。さらに別の例示的実施形態において、IA注射1回あたりのインドメタシンの用量は、約15〜約20mgである。
【0064】
例示的実施形態において、IA注射1回あたりのメトトレキサートの用量は、約1mg〜約15mgである。別の例示的実施形態において、IA注射1回あたりのメトトレキサートの用量は、約5mg〜約12.5mgである。さらに別の例示的実施形態において、IA注射1回あたりのメトトレキサートの用量は、約7.5mg〜約10mgである。
【0065】
IA注射の頻度は、毎日から3〜5日ごとに1回、毎週もしくは2〜3週間ごとに1回の範囲に及ぶ。
【0066】
以下の実施例は、本発明をさらに例示するために供されるが、同時にそのいかなる限定をも構成しない。対照的に、種々の実施形態、改変およびその等価物に対して、本明細書中の説明を読んだ後に、本発明の趣旨から逸脱することなく当業者にそれら自体を示唆し得る策がなされ得ることは、明らかに理解されるべきである。以下の実施例に記載される研究の間、別段示されなければ、従来の手順に従った。上記手順のうちのいくつかは、例示目的で以下に記載される。本明細書で引用される刊行物およびそれらが引用されるものは、それら全体において本明細書に具体的に参考として援用される。多くの実施形態が記載された。それにも関わらず、種々の改変が行われ得ることは理解される。よって、他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内にある。
【実施例】
【0067】
(実施例1:脂質ケーキの調製)
脂質ケーキを、溶媒注射法によって調製した。上記脂質(DOPC、DOPGおよびコレステロールを含む)を、モル比 67.5:7.5:25において合わせ、フラスコの中で99.9% エタノール中、約40℃において溶解させた。卓上型超音波処理バスを脂質溶解に使用した。
【0068】
上記溶解した脂質溶液を、蠕動ポンプによって100mL/分で1.0mMリン酸ナトリウム溶液に添加し、上記2種の溶液を混合した。次いで、上記脂質混合物を、孔サイズ
0.2μmを有するポリカーボネート膜に6〜10回通過させた。リポソーム(もしくは大きな単ラメラ小胞)(MLV)を形成したところ、平均小胞直径は、約120〜14
0nmであった(Malvern ZetaSizer Nano ZS−90、Malvern Instruments Ltd, Worcestershire, UKで測定した)。
【0069】
上記リポソーム混合物を透析し、Millipore Pellicon 2 Mini Ultrafiltration Module Biomax−100C(0.1m)(Millipore Corporation, Bill erica, MA, USA)を備えた接線流濾過システムによって濃縮し、次いで0.2μm滅菌フィルタを使用して滅菌した。
【0070】
上記濾過したリポソーム混合物の脂質濃度を、リンアッセイ(phosphorous
assay)によって定量し、上記リポソーム混合物を、凍結防止剤、2% マンニトールとともに製剤化し、次いで、0.2μm滅菌フィルタを使用して再び滅菌した。次いで、上記滅菌したリポソーム混合物を、凍結乾燥用バイアルへと無菌充填した。
【0071】
(実施例2:DSP徐放性組成物の調製)
徐放性組成物を、実施例1で記載されるリポソーム混合物と、DSP(13.2mg/ml)およびクエン酸ナトリウム(4mg/ml)を含むDSP溶液とを混合することによって調製し、続いて、凍結乾燥した。
【0072】
上記凍結乾燥したDSP−リポソームケーキを、300μlの食塩水で再構成した。ここでDSPの濃度は、6.6mg/mlであった。上記凍結乾燥したDSP−リポソームケーキを、通常生理食塩水でさらに希釈して、表1に示されるように上記徐放性組成物を形成した。ここでDSPの濃度は、徐放性組成物1では1mg/mlであり、徐放性組成物2では1.4mg/mlであった。
【表1】
【0073】
(実施例3.関節炎を処置するための徐放性組成物の単回注射)
関節炎に対する上記徐放性組成物の効果のインビボ評価を、Lewisラットを使用して行った。16匹の雌性ラット(8週齢)を、この研究に使用した。上記ラットの平均体重は、約180〜約200グラムであった。
【0074】
関節炎を誘発するために、各ラットを、フロイント不完全アジュバント(Sigma Chemical Co., USAから市販されている)中に乳化した200μgのウシタイプIIコラーゲン(10mM 酢酸中に4mg/mlでストック、Elastin
Products, Owensville, USAから市販されている)で0日目に免疫し、その後、7日目に再度免疫した。16日目が、関節炎症状が認められた初日であり、誘発された関節炎の発症であると規定した。
【0075】
上記実験研究での全てのラットには、この研究の間いつでも、飲料水および飼料に自由に摂取させた。
【0076】
上記ラットを、以下の4つの研究群に無作為化した:
群1:1つの足につき100μlの食塩水を各々受容した4匹のラット(図1〜8において「食塩水コントロール」と表示)。
群2:1つの足につき100μlの遊離DSPを各々受容した4匹のラット(ここでDSPの濃度は、1mg/mlである(図1〜8において「遊離DSP_1mg/ml」と表示))。
群3:1つの足につき100μlの上記徐放性組成物1を各々受容した4匹のラット(ここでDSPの濃度は、1mg/mlである(図1〜4において「TLC399_1mg/mg」および図5〜8において「TLC399_I 4mg/ml」と表示))。
群4:1つの足につき100μlの上記徐放性組成物2を各々受容した4匹のラット(ここでDSPの濃度は、1.4mg/mlである(図1〜4において「TLC399_1.4mg/mg」、および図5〜8において「TLC399_II 1.4mg/ml」と表示)。
【0077】
上記コントロールもしくは上記DSP製剤を、19日目に1回のみのIA注射として、上記ラットの両後ろ足に投与した。各足に投与したDSP用量を、表2にまとめる。
【表2】
【0078】
14日間の研究期間の間に、上記ラットを、以下の結果について1週間に3回検査した:
・体重減少(これは、関節炎の重篤度を評価するためのパラメーターのうちの1つである)。
・臨床的視覚的関節炎スコア(これは、関節炎の重篤度と相関する視覚的スコアである)。各足の関節指数(0〜4の範囲)を使用して等級付けした(0=足底に浮腫も紅斑もなし;1=足底に僅かな浮腫および紅斑;2=足底に軽度の浮腫および紅斑;3=足底全体および足関節に中程度の浮腫および紅斑;4=足関節、足および足趾の重篤な浮腫およ
び関節強直)。各ラットの臨床的視覚的関節炎スコアは、両後ろ足の関節指数の合計であった(最大スコアは8)。
・後ろ足体積および腫脹。後ろ足体積を、UGO Plethysmometer 7149測定系によって測定した。最終体積データを平均体重で正規化し(ml/kg)、浮腫を、0日目に対する測定日の足体積の増大として定義した。
(結果:)
【0079】
図1は、上記4群のラットにおける体重変化を示す。全4群のラットにおいて、16日目に体重減少が認められ、これは、関節炎の発症と同時に起こった。体重減少は、16日目から19日目まで続いた。
【0080】
19日目にIA注射した後、食塩水群および遊離DSP群と比較してより顕著な体重減少が、上記徐放性組成物1群および徐放性組成物2群において認められた。体重減少は、ステロイドの公知の副作用である食欲不振によって引き起こされ得る。上記DSPは、上記徐放性組成物からよりゆっくりとした速度で放出されたので、ステロイドの副作用(食欲不振)がより長く続いた。よって、より顕著な体重減少が、徐放性組成物を受けた群で認められた。
【0081】
図2は、4群のラットにおける臨床的視覚的関節炎スコアの変化を示す。IA注射の前に、平均スコアは、食塩水群については3.75であり、遊離DSP群および上記徐放性組成物2群については4.0であり、ならびに上記徐放性組成物1群については4.25であった。
【0082】
上記IA注射の24時間後、上記スコアは、上記群のうちの食塩水群を除く全ての群について1未満に低下した。
【0083】
上記遊離DSP群については、上記スコアは、上記IA注射の48時間後にゆっくりと増大した。関節炎症状はより重篤になり、上記スコアは26日目に4.5に達した。
【0084】
上記徐放性組成物1群および徐放性組成物2群におけるラットは、引き続く4日間にわたって関節炎症状を示さず、スコアは、23日目および24日目に0であった。26日目に、上記徐放性組成物1における3匹のラットが、軽度の関節炎症状を発生させ、平均スコア1.5であったのに対して、上記徐放性組成物2群におけるラットは、いかなる再発症状をも有さず、そのスコアは0のままであった。26日目の上記遊離DSP群におけるラットは、重篤な関節炎症状およびスコア4.5を有した。30日目に、上記徐放性組成物1群におけるラットは、重篤な関節炎を発生させ、スコアは、4より高かったのに対して、上記徐放性組成物2群におけるラットは、軽度の関節炎を有し、スコア1.5であった。
【0085】
図3および図4を参照すると、19日目のIA注射後に、足の腫脹体積が20日目に4群全てで減少した。食塩水群における足腫脹体積の一時的な減少は、関節において食塩水によって炎症因子が希釈されたことに起因した可能性がある。
【0086】
上記遊離DSP群については、上記IA注射の効果が3日間続いた。23日目に、両足が再び腫脹し、厚さは、約7.5ml/kgであった。
【0087】
上記徐放性組成物1群については、足の腫脹は、次の4日間にわたって有意に減少した。両足が25日目に再び腫脹し、概算される厚さは、約7.5ml/kgであった。
【0088】
上記徐放性組成物2群については、足の腫脹は、次の10日間にわたって有意に減少し
た。両足は、34日目あたりで再び腫脹し、厚さは、右足関節について8ml/kgを超え、左足関節について7.5ml/kgであった。
【0089】
上記の研究は、上記徐放性組成物の単回IA注射が、遊離DSPと比較して、実験動物の関節炎を処置するにあたってより有効であるという結論を裏付けた。
【0090】
(実施例4.関節炎を処置するための徐放性組成物の多数回注射)
この研究の設計は、(a)食塩水コントロール群がなかったこと;および(b)研究薬が1日に1回4日間(26日目〜29日目)にわたってIA注射によって投与されたことを除いて、実施例3に記載される研究のものに実質的に類似である。
【0091】
(結果:)
図5は、3群のラット(遊離DSP群、徐放性組成物1群および徐放性組成物2群)における体重変化を示す。全3群のラットにおいて、24日目に体重減少が認められた。これは、関節炎の発症と同時に起こった。
【0092】
26日目〜29日目までのIA注射の後、上記3群においてより顕著な体重減少が認められた。実施例3で考察されたように、体重減少は、ステロイドの公知の副作用である食欲不振によって引き起こされ得る。
【0093】
図6は、上記3群のラットにおける臨床的視覚的関節炎スコアの変化を示す。IA注射の前に、その平均スコアは、約4.5〜4.7であった。
【0094】
上記遊離DSP群については、スコアは30日目に3へと低下し、この研究において最低のスコアが記録された。関節炎の徴候は直ぐに再発し、33日目に重篤になった。
【0095】
上記徐放性組成物1群および徐放性組成物2群については、関節炎スコアは、29日目に処置が終了した後も低下し続け、37日目までゼロ(0)のままであった。上記徐放性組成物1群では、ラットは、40日目に再発の徴候を初めて示したのに対して、上記徐放性組成物2群では、ラットは、42日目に再発の徴候を初めて示した。
【0096】
図7および図8を参照すると、足の腫脹体積は、4回の毎日のIA注射後に、上記3群にわたって両足で減少した。上記遊離DSP群については、IA注射の効果は、1〜2日間続いた。31日目に、両足は再び腫脹し、40日目にピークに達した。
【0097】
上記徐放性組成物群については、足の腫脹は、次の14日間にわたって有意に減少した。上記徐放性組成物1群では、足の腫脹の最初の徴候は、40日目に示されたのに対して、上記徐放性組成物2群では、足の腫脹の最初の徴候は、42日目に示された。
【0098】
上記の研究は、4回の毎日のIA徐放性DPS注射が、実験動物において関節炎を処置するために有効であるという結論を裏付けた。
【0099】
(実施例5.インドメタシン徐放性組成物)
インドメタシンナトリウム(Hubei Heng Lu Yuan Technology Co., Ltd, Hubei, China)を、食塩水で終濃度5mg/mlへと溶解した。実施例1に記載される凍結乾燥したリポソーム混合物を0.3mlのインドメタシン溶液で再構成したところ、終濃度5mg/ml INN、71mg/ml
DOPC、8mg/ml DOPG、13mg/ml コレステロールおよび50mg/ml マンニトールを有する0.3ml/バイアルの再構成体積のインドメタシン徐放性組成物を生じた。
【0100】
(実施例6.インドメタシン徐放性組成物の実験研究において使用されるコラーゲン誘発性関節炎動物モデル)
関節炎に対する上記インドメタシン徐放性組成物の効果のインビボ評価を、18匹の雌性Lewisラット(BioLASCO Taiwan Co, Ltd., Taiwan)を使用して行った。研究設計およびラットにおける関節炎の誘発は、実施例3の研究のものに実質的に類似であった。
【0101】
関節炎処置を、臨床的視覚的関節炎スコアのピーク時(これは、19日目に起きた)に開始した。18匹のラットを、無作為に3群に分けた(各群で6匹のラット):(1)コントロール群(いかなる処置もなし;図9において「コントロール」と表示);(2)遊離インドメタシン群(1用量あたり2mg/kg インドメタシン;図9において「インドメタシン(2mg/kg)」と表示);および(3)インドメタシン徐放性組成物群(1用量あたり2mg/kg インドメタシン;図9において「インドメタシン−BioSeizer(2mg/kg)」と表示)。各群のラットに、19日目から23日目まで、処置なし(コントロール群)、遊離インドメタシンもしくはインドメタシン徐放性組成物の関節炎の関節周りに毎日の皮下注射を与えた。投与された組成物中のインドメタシンの用量を、表4に列挙する。
【0102】
表4.遊離インドメタシン溶液およびインドメタシン徐放性組成物の用量。
【表4】
【0103】
この研究におけるラットは、研究の初めから体重が増加し、12日目にピークに達した。関節炎の徴候が発達するにつれて、3つのラット群全てで体重は減少した。関節炎スコアは、18日目にその最大に達し、その平均関節炎スコアは、図9bに図示されるように、7.2〜7.4の間であった。
【0104】
19日目から23日目まで、群2および群3において、関節炎症状は低減した。群2(遊離インドメタシン群)では、その平均関節炎スコアが、7.4から5へと低下し、20日目に運動機能が改善し、膝関節柔軟性が増した。インドメタシン処置の終了の2日後である25日目に、関節炎の徴候(例えば、硬直、腫脹および紅斑のある関節)が再発し、関節炎スコアは8に達した。
【0105】
群3(インドメタシン徐放性組成物群)では、その平均関節炎スコアは、20日目に7.6から5.8へと減少した。上記関節炎スコアは、29日目まで7より下のままであり、処置の終了後も長期の処置効力が保持された。群3の関節炎症状は、30日目に重篤になった。
【0106】
まとめると、遊離インドメタシン(群2)もしくはインドメタシン徐放性組成物(群3)の5日間処置の間に、関節炎症状は、両方の群において有意に改善した。関節炎徴候は、群2では遊離インドメタシンを中止して2日後に戻ったのに対して、群3では、関節炎徴候の改善は、処置を終了しても6日間継続した。上記をまとめた研究の結果は、インド
メタシン徐放性組成物が、遊離インドメタシンより長期間にわたって関節中でインドメタシンの効力を維持するという結論を裏付ける。
【0107】
(実施例7.エタネルセプト徐放性組成物)
実施例1に記載される凍結乾燥したリポソーム混合物を、0.3mlのエンブレル(50mg/mlのエタネルセプト;Wyeth Pharmaceuticals, Inc., Collegeville, USAから市販されている)で再構成したところ、0.3ml/バイアルの再構成体積を有するエタネルセプト徐放性組成物を生じた。上記エタネルセプト徐放性組成物中の脂質およびエタネルセプトの終濃度は、以下である:42.8mg/ml エタネルセプト、70.7mg/ml DOPC、8mg/ml DOPG、13mg/ml コレステロールおよび50mg/ml マンニトール。
【0108】
(実施例8.エタネルセプト徐放性組成物の実験研究において使用されるコラーゲン誘発性関節炎動物モデル)
関節炎に対する上記エタネルセプト徐放性組成物の効果のインビボ評価を、18匹の雌性Lewisラット(BioLASCO Taiwan Co, Ltd., Taiwan)を使用して行った。研究設計およびラットにおける関節炎の誘発は、ウシタイプIIコラーゲンを0日目、7日目および17日目に投与したことを除いて、実施例3の研究のものと実質的に類似であった。
【0109】
関節炎処置を、臨床的視覚的関節炎スコアのピーク時(これは、23日目に起きた)に開始した。18匹のラットを3群に無作為に分けた(各群で6匹のラット):(1)コントロール群(いかなる処置もなし;図10において「コントロール」と表示);(2)遊離エタネルセプト群(1用量あたり50mg/kg エタネルセプト;図10において「エンブレル(50mg/kg)」と表示);および(3)エタネルセプト徐放性組成物群(1用量あたり50mg/kg エタネルセプト;図10において「エンブレル−BioSeizer(50mg/kg)」と表示)。各群のラットに、23日目および26日目に、処置なし、または遊離エタネルセプトもしくはエタネルセプト徐放性組成物の関節炎の関節周りに2回の皮下注射を与えた。上記投与した組成物中のエタネルセプトの用量を
、表5に列挙する。
【0110】
表5.遊離エタネルセプト溶液およびエタネルセプト徐放性組成物の用量。
【表5】
【0111】
この研究のラットは、タイプIIコラーゲン免疫後直ぐに関節炎の徴候を発達させ、23日目にピークに達した。その平均関節炎スコアは、図10に図示されるように、3.6〜3.8の間であった。
【0112】
処置期間(23日目〜26日目)の間に、関節炎の徴候は、処置群(群2および群3)で低減した。群2(遊離エタネルセプト群)では、平均関節炎スコアは、26日目に2.4へと低下したが、関節炎は、上記遊離エタネルセプトを終了して3日後に再発した。30日目に、その関節炎スコアは4に達し、ラットは、関節腫脹および硬直に起因して動かなくなった。
【0113】
群3(エタネルセプト徐放性組成物群)では、平均関節炎スコアは、26日目に2.2へと減少し、32日目まで2.5より下のままであった。群3の関節炎症状は、33日目に再び重篤になった。
【0114】
まとめると、遊離エタネルセプト(群2)もしくはエタネルセプト徐放性組成物(群3)の4日間の処置の間に、関節炎症状は、両方の群において有意に改善した。関節炎徴候は、群2において遊離エタネルセプトを中止して3日後に戻ったのに対して、群3では、関節炎徴候の改善は、上記処置を終了しても5日間続いた。上記でまとめた実験研究の結果は、上記エタネルセプト徐放性組成物が、遊離エタネルセプトより長期間にわたって、関節におけるエタネルセプトの効力を維持するという結論を裏付ける。
【0115】
(実施例9.メトトレキサート徐放性組成物)
実施例1に記載される凍結乾燥したリポソーム混合物を、0.3mlのメトトレキサートナトリウム(Pharmachemie BV, Inc.)で再構成したところ、0.3ml/バイアルの再構成体積を有するメトトレキサート徐放性組成物を生じた。上記メトトレキサート徐放性組成物中の脂質およびメトトレキサートの終濃度は、以下である:2.5mg/ml メトトレキサート、70.7mg/ml DOPC、8mg/ml
DOPG、13mg/ml コレステロールおよび50mg/ml マンニトール。
【0116】
(実施例10.メトトレキサート徐放性組成物の実験研究において使用されるコラーゲン誘発性関節炎動物モデル)
関節炎に対する上記メトトレキサート徐放性組成物の効果のインビボ評価を、18匹の雌性Lewisラット(BioLASCO Taiwan Co, Ltd., Taiwan)を使用して行った。研究設計およびラットにおける関節炎の誘発は、ウシタイプIIコラーゲンを0日目、7日目および17日目に投与したことを除いて、実施例3における研究のものに実質的に類似であった。
【0117】
関節炎処置を、臨床的視覚的関節炎スコアのピーク時(これは、23日目に起きた)に開始した。18匹のラットを3群に無作為に分けた(各群で6匹のラット):(1)コントロール群(いかなる処置もなし。図11aにおいて「コントロール」と表示);(2)遊離メトトレキサート群(1用量あたり1mg/kg メトトレキサート。図11aにおいて「メトトレキサート(1mg/kg)」と表示);および(3)メトトレキサート徐放性組成物群(1用量あたり1mg/kg メトトレキサート;図11aにおいて「メトトレキサート−BioSeizer(1mg/kg)」と表示)。各群のラットに、処置なし(コントロール群)または23日目および26日目に、遊離メトトレキサートもしくはメトトレキサート徐放性組成物のいずれかの関節炎の関節周りに2回の皮下注射を与えた。投与した組成物中のメトトレキサートの用量を、表6に列挙する。
【0118】
表6.遊離メトトレキサート溶液およびメトトレキサート徐放性組成物の用量。
【表6】
【0119】
この研究におけるラットは、タイプIIコラーゲン免疫のすぐ後に関節炎の徴候を発達させ、23日目にピークに達し、その平均関節炎スコアは、図11bに示されるように、3.4〜3.8の間であった。
【0120】
23日目から26日目まで、関節炎症状は、群2および群3において減少した。群2(遊離メトトレキサート群)では、その平均関節炎スコアは、26日目に3.7から1.4へと低下した。メトトレキサート処置の終了の4日後である30日目に、上記ラットは機能低下状態になり、その関節炎スコアは、3.5に達した。
【0121】
群3(メトトレキサート徐放性組成物群)では、その平均関節炎スコアは、26日目に3.4から1.6へと減少した。その関節炎スコアは、35日目まで約2のままであり、その後に増大した。
【0122】
まとめると、メトトレキサート処置は、群2および群3において関節炎症状を改善した。関節炎徴候は、群2において遊離メトトレキサートを中止して4日後に戻ったのに対して、群3では、関節炎徴候の改善は、処置を終了しても9日間続いた。上記でまとめた実験研究の結果は、上記メトトレキサート徐放性組成物が、遊離メトトレキサートより長期間にわたって関節におけるメトトレキサートの効力を維持するという結論を裏付ける。
【0123】
本明細書で記載される要素および特徴の種々の取り合わせおよび組み合わせが可能である。同様に、いくつかの特徴および部分的な組み合わせ(subcombination
)は有用であり、他の特徴および部分的な組み合わせに言及せずに使用され得る。例えば、ある方法が開示され、考察され、上記方法に含まれる組成物に対して行われ得る多くの改変が考察される場合、上記方法の各々のおよびあらゆる組み合わせおよび入れ替え(permutation)、ならびに可能な改変は、そうでないと具体的に示されなければ、具体的に企図される。同様に、これらの任意の部分セットもしくは組み合わせもまた、具体的に企図され、開示される。本発明の種々の実施形態が、本発明の種々の目的を達成するにあたって記載されてきた。これら実施形態は、本発明の原理を例示するに過ぎないことは、認識されるべきである。その多くの改変および適合は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者に容易に明らかである。
図1
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