特許第6964586号(P6964586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6964586
(24)【登録日】2021年10月21日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】冷凍機油
(51)【国際特許分類】
   C10M 137/12 20060101AFI20211028BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20211028BHJP
   C10M 129/18 20060101ALN20211028BHJP
   C10M 105/18 20060101ALN20211028BHJP
   C10M 105/32 20060101ALN20211028BHJP
【FI】
   C10M137/12
   C10M169/04
   !C10M129/18
   !C10M105/18
   !C10M105/32
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-530422(P2018-530422)
(86)(22)【出願日】2017年7月28日
(86)【国際出願番号】JP2017027449
(87)【国際公開番号】WO2018021533
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2020年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2016-148479(P2016-148479)
(32)【優先日】2016年7月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】庄野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】水谷 祐也
(72)【発明者】
【氏名】山口 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】多田 亜喜良
(72)【発明者】
【氏名】尾形 英俊
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−171174(JP,A)
【文献】 特開平09−165593(JP,A)
【文献】 特開平06−145688(JP,A)
【文献】 国際公開第97/010319(WO,A1)
【文献】 特開平05−302093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 137/04
C10M 129/18
C10M 105/18
C10M 105/32
C10M 105/34
C10M 105/36
C10N 30/06
C10N 40/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と、下記式(A−4)で表される化合物と、を含有する冷凍機油。
【化1】

[式中、及びRはそれぞれ独立に炭素数2〜8の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、Xは−COOH基又は−COOR’基(R’は炭素数1〜8の直鎖又は分岐のアルキル基を表す)を表す。
【請求項2】
前記潤滑油基油として、エステル及びエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の含酸素油を含有する、請求項1に記載の冷凍機油。
【請求項3】
エポキシ化合物を更に含有する、請求項1又は2に記載の冷凍機油。
【請求項4】
前記エポキシ化合物として、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、オキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステル、及びエポキシ化植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項3に記載の冷凍機油。
【請求項5】
前記エポキシ化合物として、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、及び脂環式エポキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項3に記載の冷凍機油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機油に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫、カーエアコン、ルームエアコン、自動販売機などの冷凍機は、冷媒を冷凍サイクル内に循環させるための圧縮機を備える。そして、圧縮機には、摺動部材を潤滑させるための冷凍機油が充填される。冷凍機油には、耐摩耗性、安定性などの特性が求められている。
【0003】
冷凍機油は、一般的に、上記のような要求特性に応じて選択される潤滑油基油及び添加剤を含有している。従来、耐摩耗性を向上させるための添加剤(耐摩耗剤)としては、正リン酸エステル、酸性リン酸エステルなどが使用されている(例えば特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−256182号公報
【特許文献2】特開2000−282076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、耐摩耗剤として正リン酸エステル又は酸性リン酸エステルを含有する冷凍機油には、耐摩耗性の点で未だ改善の余地がある。なお、酸性リン酸エステルについては、正リン酸エステルに比べれば高い耐摩耗性を発揮するが、安定性の点で問題が生じる場合がある。
【0006】
このような状況下で、本発明者らは、耐摩耗性の改善に着目し、冷凍機油の開発を行った。すなわち、本発明の目的は、耐摩耗性に優れる冷凍機油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、潤滑油基油と、下記式(A)で表される化合物と、を含有する冷凍機油を提供する。
【化1】
[式中、R及びRはそれぞれ独立に1価の炭化水素基を表し、Rは2価の炭化水素基を表し、Xは極性基を表し、Z及びZはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表す。]
【0008】
冷凍機油は、好ましくは、潤滑油基油として、エステル及びエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の含酸素油を含有する。
【0009】
冷凍機油は、好ましくはエポキシ化合物を更に含有する。
【0010】
冷凍機油は、好ましくは、エポキシ化合物として、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、オキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステル、及びエポキシ化植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0011】
冷凍機油は、好ましくは、エポキシ化合物として、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、及び脂環式エポキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0012】
式(A)においてXで表される極性基は、好ましくは酸素原子を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐摩耗性に優れる冷凍機油を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
一実施形態に係る冷凍機油は、潤滑油基油と、下記式(A)で表される化合物とを含有する。
【化2】
[式中、R及びRはそれぞれ独立に1価の炭化水素基を表し、Rは2価の炭化水素基を表し、Xは極性基を表し、Z及びZはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表す。]
【0016】
潤滑油基油としては、炭化水素油、含酸素油などを用いることができる。炭化水素油としては、鉱油系炭化水素油、合成系炭化水素油が例示される。含酸素油としては、エステル、エーテル、カーボネート、ケトン、シリコーン及びポリシロキサンが例示される。
【0017】
鉱油系炭化水素油は、パラフィン系、ナフテン系などの原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤精製、水素化精製、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、白土処理、硫酸洗浄などの方法で精製することによって得ることができる。これらの精製方法は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
合成系炭化水素油としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリα−オレフィン(PAO)、ポリブテン、エチレン−α−オレフィン共重合体などが挙げられる。
【0019】
アルキルベンゼンとしては、下記アルキルベンゼン(A)及び/又はアルキルベンゼン(B)を用いることができる。
アルキルベンゼン(A):炭素数1〜19のアルキル基を1〜4個有し、かつそのアルキル基の合計炭素数が9〜19であるアルキルベンゼン(好ましくは、炭素数1〜15のアルキル基を1〜4個有し、かつアルキル基の合計炭素数が9〜15であるアルキルベンゼン)
アルキルベンゼン(B):炭素数1〜40のアルキル基を1〜4個有し、かつそのアルキル基の合計炭素数が20〜40であるアルキルベンゼン(好ましくは、炭素数1〜30のアルキル基を1〜4個有し、かつアルキル基の合計炭素数が20〜30であるアルキルベンゼン)
【0020】
アルキルベンゼン(A)が有する炭素数1〜19のアルキル基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(すべての異性体を含む、以下同様)、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基が挙げられる。これらのアルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよく、安定性、粘度特性等の点から、好ましくは分枝状である。アルキル基は、特に入手可能性の点から、より好ましくは、プロピレン、ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基である。
【0021】
アルキルベンゼン(A)中のアルキル基の個数は、1〜4個であり、安定性、入手可能性の点から、好ましくは1個又は2個(すなわちモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、又はこれらの混合物)である。
【0022】
アルキルベンゼン(A)は、単一構造のアルキルベンゼンのみを含有していてもよく、炭素数1〜19のアルキル基を1〜4個有し、かつアルキル基の合計炭素数が9〜19であるという条件を満たすアルキルベンゼンであれば、異なる構造を有するアルキルベンゼンの混合物を含有していてもよい。
【0023】
アルキルベンゼン(B)が有する炭素数1〜40のアルキル基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(すべての異性体を含む、以下同様)、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基、ヘントリアコンチル基、ドトリアコンチル基、トリトリアコンチル基、テトラトリアコンチル基、ペンタトリアコンチル基、ヘキサトリアコンチル基、ヘプタトリアコンチル基、オクタトリアコンチル基、ノナトリアコンチル基、テトラコンチル基が挙げられる。これらのアルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよく、安定性、粘度特性等の点から、好ましくは分枝状である。アルキル基は、特に入手可能性の点から、より好ましくは、プロピレン、ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基である。アルキル基は、引火点がより高い点からは、より好ましくは、直鎖パラフィン、直鎖αオレフィン又はこれらのハロゲン化物などの直鎖状アルキル化剤から誘導される直鎖状または分枝状アルキル基であり、更に好ましくは分枝状アルキル基である。
【0024】
アルキルベンゼン(B)中のアルキル基の個数は、1〜4個であり、安定性、入手可能性の点から、好ましくは1個又は2個(すなわちモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、又はこれらの混合物)である。
【0025】
アルキルベンゼン(B)は、単一構造のアルキルベンゼンのみを含有していてもよく、炭素数1〜40のアルキル基を1〜4個有し、かつアルキル基の合計炭素数が20〜40であるという条件を満たすアルキルベンゼンであれば、異なる構造を有するアルキルベンゼンの混合物を含有していてもよい。
【0026】
ポリα−オレフィン(PAO)は、例えば末端の一方にのみ二重結合を有する炭素数6〜18の直鎖オレフィンの数分子を重合させ、次に水素添加して得られる化合物である。ポリα−オレフィンは、例えば炭素数10のα−デセン又は炭素数12のα−ドデセンの3量体あるいは4量体を中心とする分子量分布を有するイソパラフィンであってよい。
【0027】
エステルとしては、芳香族エステル、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル、炭酸エステル及びこれらの混合物などが例示される。エステルは、好ましくはポリオールエステル又はコンプレックスエステルである。
【0028】
ポリオールエステルは、多価アルコールと脂肪酸とのエステルである。脂肪酸としては、飽和脂肪酸が好ましく用いられる。脂肪酸の炭素数は、好ましくは4〜20、より好ましくは4〜18、更に好ましくは4〜9、特に好ましくは5〜9である。ポリオールエステルは、多価アルコールの水酸基の一部がエステル化されずに水酸基のまま残っている部分エステルであってもよく、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであってもよく、また部分エステルと完全エステルとの混合物であってもよい。ポリオールエステルの水酸基価は、好ましくは10mgKOH/g以下、より好ましくは5mgKOH/g以下、更に好ましくは3mgKOH/g以下である。
【0029】
ポリオールエステルを構成する脂肪酸のうち、炭素数4〜20の脂肪酸の割合は、好ましくは20〜100モル%、より好ましくは50〜100モル%、更に好ましくは70〜100モル%、特に好ましくは90〜100モル%である。
【0030】
炭素数4〜20の脂肪酸としては、具体的には、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸が挙げられる。これらの脂肪酸は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。脂肪酸は、好ましくはα位及び/又はβ位に分岐を有する脂肪酸であり、より好ましくは、2−メチルプロパン酸、2−メチルブタン酸、2−メチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−メチルヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸及び2−エチルヘキサデカン酸から選ばれ、更に好ましくは、2−エチルヘキサン酸及び3,5,5−トリメチルヘキサン酸から選ばれる。
【0031】
脂肪酸は、炭素数4〜20の脂肪酸以外の脂肪酸を含んでいてもよい。炭素数4〜20の脂肪酸以外の脂肪酸は、例えば炭素数21〜24の脂肪酸であってよい。炭素数21〜24の脂肪酸は、ヘンイコ酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸等であってよく、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0032】
ポリオールエステルを構成する多価アルコールとしては、2〜6個の水酸基を有する多価アルコールが好ましく用いられる。多価アルコールの炭素数は、好ましくは4〜12、より好ましくは5〜10である。多価アルコールは、好ましくは、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどのヒンダードアルコールであり、冷媒との相溶性及び加水分解安定性に特に優れることから、より好ましくは、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、又はペンタエリスリトールとジペンタエリスリトールとの混合アルコールである。
【0033】
コンプレックスエステルは、例えば以下の(a)又は(b)の方法で合成されるエステルである。
(a)多価アルコールと多塩基酸とのモル比を調整して、多塩基酸のカルボキシル基の一部がエステル化されずに残存するエステル中間体を合成し、次いでその残存するカルボキシル基を一価アルコールでエステル化する方法
(b)多価アルコールと多塩基酸とのモル比を調整して、多価アルコールの水酸基の一部がエステル化されずに残存するエステル中間体を合成し、次いでその残存する水酸基を一価脂肪酸でエステル化する方法
【0034】
上記(b)の方法により得られるコンプレックスエステルは、冷凍機油としての使用時に加水分解すると比較的強い酸が生成するため、上記(a)の方法により得られるコンプレックスエステルに比べて安定性が若干劣る傾向にある。そのため、コンプレックスエステルは、好ましくは、安定性のより高い上記(a)の方法により得られるコンプレックスエステルである。
【0035】
コンプレックスエステルは、好ましくは、2〜4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールから選ばれる少なくとも1種と、炭素数6〜12の多塩基酸から選ばれる少なくとも1種と、炭素数4〜18の一価アルコール及び炭素数2〜12の一価脂肪酸から選ばれる少なくとも1種とから合成されるエステルである。
【0036】
2〜4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。2〜4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールは、コンプレックスエステルを基油として用いたときに好適な粘度を確保し、良好な低温特性を得られる観点から、好ましくは、ネオペンチルグリコール及びトリメチロールプロパンから選ばれ、幅広く粘度調整のできる観点から、より好ましくはネオペンチルグリコールである。
【0037】
潤滑性に優れる観点から、コンプレックスエステルを構成する多価アルコールは、好ましくは、2〜4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールに加えて、ネオペンチルグリコール以外の炭素数2〜10の二価アルコールを更に含有する。ネオペンチルグリコール以外の炭素数2〜10の二価アルコールとしては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ペンタンジオールなどが挙げられる。当該二価アルコールは、潤滑油基油の特性に優れる観点から、好ましくはブタンジオールである。ブタンジオールとしては、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールなどが挙げられる。ブタンジオールは、良好な特性が得られる観点から、好ましくは1,3−ブタンジオール及び1,4−ブタンジオールから選ばれる。ネオペンチルグリコール以外の炭素数2〜10の二価アルコールの量は、2〜4個のヒドロキシル基を有する多価アルコール1モルに対して、好ましくは1.2モル以下、より好ましくは0.8モル以下、更に好ましくは0.4モル以下である。
【0038】
炭素数6〜12の多塩基酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、トリメリット酸などが挙げられる。当該多塩基酸は、合成されたエステルの特性のバランスに優れ、入手が容易である観点から、好ましくはアジピン酸及びセバシン酸から選ばれ、より好ましくはアジピン酸である。炭素数6〜12の多塩基酸の量は、2〜4個のヒドロキシル基を有する多価アルコール1モルに対して、好ましくは0.4モル〜4モル、より好ましくは0.5モル〜3モル、更に好ましくは0.6モル〜2.5モルである。
【0039】
炭素数4〜18の一価アルコールとしては、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコールが挙げられる。これらの一価アルコールは、直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素数4〜18の一価アルコールは、特性のバランスの点から、好ましくは炭素数6〜10の一価アルコールであり、より好ましくは炭素数8〜10の一価アルコールである。当該一価アルコールは、合成されたコンプレックスエステルの低温特性が良好になる観点から、更に好ましくは2−エチルヘキサノール及び3,5,5−トリメチルヘキサノールから選ばれる。
【0040】
炭素数2〜12の一価脂肪酸としては、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸などが挙げられる。これらの一価脂肪酸は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素数2〜12の一価脂肪酸は、好ましくは炭素数8〜10の一価脂肪酸であり、これらの中でも低温特性の観点から、より好ましくは2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸である。
【0041】
エーテルとしては、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、パーフルオロエーテル及びこれらの混合物などが例示される。エーテルは、好ましくはポリビニルエーテル及びポリアルキレングリコールから選ばれ、より好ましくはポリビニルエーテルである。
【0042】
ポリビニルエーテルは、下記式(1)で表される構造単位を有する。
【化3】
[式(1)中、R、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭化水素基を表し、Rは二価の炭化水素基又は二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基を表し、Rは炭化水素基を表し、mは0以上の整数を表す。mが2以上である場合には、複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0043】
、R及びRで表される炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、また、好ましくは8以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは6以下である。R、R及びRの少なくとも1つが水素原子であることが好ましく、R、R及びRの全てが水素原子であることがより好ましい。
【0044】
で表される二価の炭化水素基及びエーテル結合酸素含有炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、また、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。Rで示される二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基は、例えばエーテル結合を形成する酸素を側鎖に有する炭化水素基であってもよい。
【0045】
は、好ましくは炭素数1〜20の炭化水素基である。この炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、アリール基、アリールアルキル基などが挙げられる。当該炭化水素基は、好ましくはアルキル基、より好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。
【0046】
mは、好ましくは0以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは2以上であり、また、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である。ポリビニルエーテルを構成する全構造単位におけるmの平均値は、好ましくは0〜10である。
【0047】
ポリビニルエーテルは、式(1)で表される構造単位から選ばれる1種で構成される単独重合体であってもよく、式(1)で表される構造単位から選ばれる2種以上で構成される共重合体であってもよく、式(1)で表される構造単位と他の構造単位とで構成される共重合体であってもよい。ポリビニルエーテルが共重合体であることにより、冷凍機油の冷媒との相溶性を満足しつつ、潤滑性、絶縁性、吸湿性等を一層向上させることができる。この際、原料となるモノマーの種類、開始剤の種類、共重合体における構造単位の比率等を適宜選択することにより、上記の冷凍機油の諸特性を所望のものとすることが可能となる。共重合体は、ブロック共重合体又はランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0048】
ポリビニルエーテルが共重合体である場合、当該共重合体は、上記式(1)で表され且つRが炭素数1〜3のアルキル基である構造単位(1−1)と、上記式(1)で表され且つRが炭素数3〜20、好ましくは3〜10、更に好ましくは3〜8のアルキル基である構造単位(1−2)と、を有することが好ましい。構造単位(1−1)におけるRとしてはエチル基が特に好ましく、構造単位(1−2)におけるRとしてはイソブチル基が特に好ましい。ポリビニルエーテルが上記の構造単位(1−1)及び(1−2)を有する共重合体である場合、構造単位(1−1)と構造単位(1−2)とのモル比は、好ましくは5:95〜95:5、より好ましくは20:80〜90:10、更に好ましくは70:30〜90:10である。当該モル比が上記範囲内であると、冷媒との相溶性をより向上させることができ、吸湿性を低くすることができる傾向にある。
【0049】
ポリビニルエーテルは、上記式(1)で表される構造単位のみで構成されるものであってもよいが、下記式(2)で表される構造単位を更に有する共重合体であってもよい。この場合、共重合体はブロック共重合体又はランダム共重合体のいずれであってもよい。
【化4】
[式(2)中、R〜Rは互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。]
【0050】
ポリビニルエーテルは、式(1)で表される構造単位に対応するビニルエーテル系モノマーの重合、又は、式(1)で表される構造単位に対応するビニルエーテル系モノマーと式(2)で表される構造単位に対応するオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとの共重合により製造することができる。式(1)で表される構造単位に対応するビニルエーテル系モノマーとしては、下記式(3)で表されるモノマーが好適である。
【化5】
[式中、R、R、R、R、R及びmは、それぞれ式(1)中のR、R、R、R、R及びmと同一の定義内容を示す。]
【0051】
ポリビニルエーテルは、好ましくは、以下の末端構造(A)又は(B)を有する。
【0052】
(A)一方の末端が、式(4)又は(5)で表され、かつ他方の末端が式(6)又は(7)で表される構造。
【0053】
【化6】
[式(4)中、R11、R21及びR31は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、R41は炭素数1〜10の二価の炭化水素基又は二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基を示し、R51は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、mは式(1)中のmと同一の定義内容を示す。mが2以上の場合には、複数のR41は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0054】
【化7】
[式(5)中、R61、R71、R81及びR91は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示す。]
【0055】
【化8】
[式(6)中、R12,R22及びR32は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、R42は炭素数1〜10の二価の炭化水素基又は二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基を示し、R52は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、mは式(1)中のmと同一の定義内容を示す。mが2以上の場合には、複数のR42は同一でも異なっていてもよい。]
【0056】
【化9】
[式(7)中、R62、R72、R82及びR92は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示す。]
【0057】
(B)一方の末端が上記式(4)又は(5)で表され、かつ他方の末端が下記式(8)で表される構造。
【化10】
[式(8)中、R13、R23及びR33は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示す。]
【0058】
このようなポリビニルエーテルの中でも、以下に挙げる(a),(b),(c),(d)及び(e)のポリビニルエーテルが基油として特に好適である。
(a)一方の末端が式(4)又は(5)で表され、かつ他方の末端が式(6)又は(7)で表される構造を有し、式(1)におけるR、R及びRがいずれも水素原子、mが0〜4の整数、Rが炭素数2〜4の二価の炭化水素基、Rが炭素数1〜20の炭化水素基であるポリビニルエーテル。
(b)式(1)で表される構造単位のみを有するものであって、一方の末端が式(4)で表され、かつ他方の末端が式(6)で表される構造を有し、式(1)におけるR、R及びRがいずれも水素原子、mが0〜4の整数、Rが炭素数2〜4の二価の炭化水素基、Rが炭素数1〜20の炭化水素基であるポリビニルエーテル。
(c)一方の末端が式(4)又は(5)で表され、かつ他方の末端が式(8)で表される構造を有し、式(1)におけるR、R及びRがいずれも水素原子、mが0〜4の整数、Rが炭素数2〜4の二価の炭化水素基、Rが炭素数1〜20の炭化水素基であるポリビニルエーテル。
(d)式(1)で表される構造単位のみを有するものであって、一方の末端が式(5)で表され、かつ他方の末端が式(8)で表される構造を有し、式(1)におけるR、R及びRがいずれも水素原子、mが0〜4の整数、Rが炭素数2〜4の二価の炭化水素基、Rが炭素数1〜20の炭化水素基であるポリビニルエーテル。
(e)上記(a),(b),(c)及び(d)のいずれかであって、式(1)におけるRが炭素数1〜3の炭化水素基である構造単位と該Rが炭素数3〜20の炭化水素基である構造単位とを有するポリビニルエーテル。
【0059】
ポリビニルエーテルの重量平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは600以上であり、また、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1500以下である。ポリビニルエーテルの重量平均分子量が500以上であると、冷媒共存下での潤滑性に優れる。重量平均分子量が3000以下であると、低温条件下で冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が広くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を抑制できる。
【0060】
ポリビニルエーテルの数平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは600以上であり、また、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1500以下である。ポリビニルエーテルの数平均分子量が500以上であると、冷媒共存下での潤滑性に優れる。数平均分子量が3000以下であると、低温条件下で冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が広くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を抑制できる。
【0061】
ポリビニルエーテルの重量平均分子量及び数平均分子量は、それぞれGPC分析により得られる重量平均分子量及び数平均分子量(ポリスチレン(標準試料)換算値)を意味する。重量平均分子量及び数平均分子量は、例えば以下のように測定することができる。
【0062】
溶剤としてクロロホルムを使用し、希釈してポリビニルエーテル濃度を1質量%とした溶液を調製する。その溶液を、GPC装置(Waters Alliance2695)を用いて分析を行う。溶剤の流速は1ml/min、分析可能分子量100から10000のカラムを使用し、屈折率検出器を用いて分析を実施する。なお、分子量が明確なポリスチレン標準を用いてカラム保持時間と分子量との関係を求め、検量線を別途作成した上で、得られた保持時間から試料の分子量を決定する。
【0063】
ポリビニルエーテルの不飽和度は、好ましくは0.04meq/g以下、より好ましくは0.03meq/g以下、更に好ましくは0.02meq/g以下である。ポリビニルエーテルの過酸化物価は、好ましくは10.0meq/kg以下、より好ましくは5.0meq/kg以下、更に好ましくは1.0meq/kg以下である。ポリビニルエーテルのカルボニル価は、好ましくは100重量ppm以下、より好ましくは50重量ppm以下、更に好ましくは20重量ppm以下である。ポリビニルエーテルの水酸基価は、好ましくは10mgKOH/g以下、より好ましくは5mgKOH/g以下、更に好ましくは3mgKOH/g以下である。
【0064】
本発明における不飽和度、過酸化物価及びカルボニル価は、それぞれ日本油化学会制定の基準油脂分析試験法により測定した値をいう。すなわち、本発明における不飽和度は、試料にウィス液(ICl−酢酸溶液)を反応させ、暗所に放置し、その後、過剰のIClをヨウ素に還元し、ヨウ素分をチオ硫酸ナトリウムで滴定してヨウ素価を算出し、このヨウ素価をビニル当量に換算した値(meq/g)をいう。本発明における過酸化物価は、試料にヨウ化カリウムを加え、生じた遊離のヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定し、この遊離のヨウ素を試料1kgに対するミリ当量数に換算した値(meq/kg)をいう。本発明におけるカルボニル価は、試料に2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを作用させ、発色性あるキノイドイオンを生ぜしめ、この試料の480nmにおける吸光度を測定し、予めシンナムアルデヒドを標準物質として求めた検量線を基に、カルボニル量に換算した値(重量ppm)をいう。本発明における水酸基価は、JIS K0070:1992に準拠して測定された水酸基価を意味する。
【0065】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが例示される。ポリアルキレングリコールは、オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシブチレン等を構造単位として有する。これらの構造単位を有するポリアルキレングリコールは、それぞれモノマーであるエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドを原料として、開環重合により得ることができる。
【0066】
ポリアルキレングリコールとしては、例えば下記式(9)で表される化合物が挙げられる。
α−[(ORβ−ORγ (9)
[式(9)中、Rαは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基又は2〜8個の水酸基を有する化合物の残基を表し、Rβは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Rγは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数2〜10のアシル基を表し、fは1〜80の整数を表し、gは1〜8の整数を表す。]
【0067】
α、Rγで表されるアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。当該アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜6である。アルキル基の炭素数が10を超えると、冷媒との相溶性が低下する傾向にある。
【0068】
α、Rγで表されるアシル基のアルキル基部分は直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アシル基の炭素数は、好ましくは2〜10であり、より好ましくは2〜6である。当該アシル基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離を生じる場合がある。
【0069】
α、Rγで表される基が、ともにアルキル基である場合、あるいはともにアシル基である場合、Rα、Rγで表される基は同一でも異なっていてもよい。gが2以上の場合、同一分子中の複数のRα、Rγで表される基は同一でも異なっていてもよい。
【0070】
αで表される基が2〜8個の水酸基を有する化合物の残基である場合、この化合物は鎖状であっても環状であってもよい。
【0071】
α、Rγのうちの少なくとも1つは、相溶性に優れる観点から、好ましくはアルキル基、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、更に好ましくはメチル基である。熱・化学安定性に優れる観点からは、RαとRγとの両方が、好ましくはアルキル基、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、更に好ましくはメチル基である。製造容易性及びコストの観点からは、Rα及びRγのいずれか一方がアルキル基(より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)であり、他方が水素原子であることが好ましく、一方がメチル基であり、他方が水素原子であることがより好ましい。潤滑性及びスラッジ溶解性に優れる観点からは、Rα及びRγの両方が水素原子であることが好ましい。
【0072】
βは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、このようなアルキレン基としては、具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。また、ORβで表される繰り返し単位のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。(ORβで表されるオキシアルキレン基は、1種のオキシアルキレン基で構成されていてもよく、2種以上のオキシアルキレン基で構成されていてもよい。
【0073】
式(9)で表されるポリアルキレングリコールは、冷媒との相溶性及び粘度−温度特性に優れる観点からは、好ましくは、オキシエチレン基(EO)とオキシプロピレン基(PO)とを含む共重合体である。この場合、焼付荷重、粘度−温度特性に優れる観点から、オキシエチレン基とオキシプロピレン基との総和に占めるオキシエチレン基の割合(EO/(PO+EO))は、好ましくは0.1〜0.8、より好ましくは0.3〜0.6である。吸湿性や熱・酸化安定性に優れる観点からは、EO/(PO+EO)は、好ましくは0〜0.5、より好ましくは0〜0.2、更に好ましくは0(すなわちプロピレンオキサイド単独重合体)である。
【0074】
fは、オキシアルキレン基ORβの繰り返し数(重合度)を表し、1〜80の整数である。gは1〜8の整数である。例えばRαがアルキル基またはアシル基である場合、gは1である。Rαが2〜8個の水酸基を有する化合物の残基である場合、gは当該化合物が有する水酸基の数となる。
【0075】
式(9)で表されるポリアルキレングリコールにおいて、fとgとの積(f×g)の平均値は、冷凍機油としての要求性能をバランスよく満たす観点から、好ましくは6〜80である。
【0076】
ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは600以上であり、また、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1500以下である。ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が500以上であると、冷媒共存下での潤滑性に優れる。重量平均分子量が3000以下であると、低温条件下で冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が広くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を抑制できる。
【0077】
ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは600以上であり、また、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1500以下である。ポリアルキレングリコールの数平均分子量が500以上であると、冷媒共存下での潤滑性に優れる。数平均分子量が3000以下であると、低温条件下で冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が広くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を抑制できる。
【0078】
ポリアルキレングリコールの重量平均分子量及び数平均分子量は、それぞれGPC分析により得られる重量平均分子量及び数平均分子量(ポリプロピレングリコール(標準試料)換算値)を意味する。重量平均分子量及び数平均分子量は、例えば以下のように測定することができる。
【0079】
溶剤としてクロロホルムを使用し、希釈してポリアルキレングリコール濃度を1質量%とした溶液を調製する。その溶液を、GPC装置(Waters Alliance2695)を用いて分析を行う。溶剤の流速は1ml/min、分析可能分子量100から10000のカラムを使用し、屈折率検出器を用いて分析を実施する。なお、分子量が明確なポリアルキレングリコール標準を用いてカラム保持時間と分子量との関係を求め、検量線を別途作成した上で、得られた保持時間から試料の分子量を決定する。
【0080】
ポリアルキレングリコールの水酸基価は、好ましくは100mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下、最も好ましくは10mgKOH/g以下である。
【0081】
ポリアルキレングリコールは、公知の方法を用いて合成することができる(「アルキレンオキシド重合体」、柴田満太他、海文堂、平成2年11月20日発行)。例えば、アルコール(RαOH;Rαは式(9)中のRαと同一の定義内容を表す)に所定のアルキレンオキサイドの1種以上を付加重合させ、さらに末端水酸基をエーテル化もしくはエステル化することによって、式(9)で表されるポリアルキレングリコールが得られる。上記の製造工程において2種以上のアルキレンオキサイドを使用する場合、得られるポリアルキレングリコールは、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよいが、酸化安定性及び潤滑性により優れる傾向にある点からは、好ましくはブロック共重合体であり、より低温流動性に優れる傾向にある点からは、好ましくはランダム共重合体である。
【0082】
ポリアルキレングリコールの不飽和度は、好ましくは0.04meq/g以下、より好ましくは0.03meq/g以下、更に好ましくは0.02meq/g以下である。過酸化物価は、好ましくは10.0meq/kg以下、より好ましくは5.0meq/kg以下、更に好ましくは1.0meq/kg以下である。カルボニル価は、好ましくは100重量ppm以下、より好ましくは50重量ppm以下、更に好ましくは20重量ppm以下である。
【0083】
潤滑油基油は、好ましくは含酸素油から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはエステル及びエーテルから選ばれる少なくとも1種である。
【0084】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは3mm/s以上、より好ましくは4mm/s以上、更に好ましくは5mm/s以上であってよい。潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは1000mm/s以下、より好ましくは500mm/s以下、更に好ましくは400mm/s以下であってよい。潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは1mm/s以上、より好ましくは2mm/s以上であってよい。潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは100mm/s以下、より好ましくは50mm/s以下であってよい。本発明における動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された動粘度を意味する。
【0085】
潤滑油基油の含有量は、冷凍機油全量基準で、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってよい。
【0086】
式(A)で表される化合物は、好ましくは、下記式(A−1)〜(A−3)のいずれかで表される化合物である。
【化11】
【化12】
【化13】
式(A−1)〜(A−3)中、R、R、R及びXは、式(A)中のR、R、R及びXとそれぞれ同義である。
【0087】
及びRで表される1価の炭化水素基の炭素数は、2〜18、2〜16、2〜14、2〜12、2〜10又は2〜8であってよい。該1価の炭化水素基は、直鎖又は分岐のアルキル基であってよい。Rで表される2価の炭化水素基の炭素数は、1〜4、1〜3、1〜2又は1であってよい。該2価の炭化水素基は、直鎖又は分岐のアルキレン基であってよい。
【0088】
Xで表される極性基は、酸素原子を有していてよい。該極性基は、例えば、−OH基、−COOH基、−COOR基、−CONHNH基、−CONH基、−NR基、−CN基、−CH(COOH)CHCOOH基、−CH(COOR)CHCOOH基、又は下記式(x−1)〜(x−4)で表される基のいずれかであってよい。
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
Xで表される極性基は、好ましくは、−OH基、−COOH基、−COOR基、−CH(COOH)CHCOOH基、又は−CH(COOR)CHCOOH基である。上記−COOR基、−NR基、−CH(COOR)CHCOOH基中のRは、1価の炭化水素基であってよく、直鎖又は分岐のアルキル基であってよい。該1価の炭化水素基及びアルキル基の炭素数は、1〜12、1〜8又は1〜2であってよい。
【0089】
式(A)で表される化合物は、好ましい一態様として、下記式(A−4)で表される化合物であってよい。
【化18】
式中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数2〜8の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、Xは−OH基、−COOH基又は−COOR’基(R’は炭素数1〜8の直鎖又は分岐のアルキル基を表す)を表す。
【0090】
式(A)で表される化合物の含有量は、冷凍機油全量基準で、0.005質量%以上、0.01質量%以上又は0.02質量%以上であってよく、0.1質量%以下、0.2質量%以下又は1質量%以下であってよい。式(A)で表される化合物の含有量は、冷凍機油全量基準で、0.005〜0.1質量%、0.005〜0.2質量%、0.005〜1質量%、0.01〜0.1質量%、0.01〜0.2質量%、0.01〜1質量%、0.02〜0.1質量%、0.02〜0.2質量%又は0.02〜1質量%であってよい。
【0091】
冷凍機油は、エポキシ化合物を更に含有していてもよい。エポキシ化合物としては、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、オキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステル、エポキシ化植物油などが挙げられる。これらのエポキシ化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0092】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物は、例えば下記式(B−1)で表されるアリールグリシジルエーテル型エポキシ化合物又はアルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物であってよい。
【化19】
式中、Rは炭素数6〜18のアリール基又は炭素数5〜18のアルキル基を表す。
【0093】
式(B−1)で表されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物は、好ましくは、n−ブチルフェニルグリシジルエーテル、i−ブチルフェニルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ペンチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキシルフェニルグリシジルエーテル、ヘプチルフェニルグリシジルエーテル、オクチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、デシルフェニルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ウンデシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル、又は2−エチルヘキシルグリシジルエーテルである。
【0094】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物は、式(B−1)で表されるエポキシ化合物以外の化合物であってもよく、具体的には、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロルプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールモノグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルなどであってもよい。
【0095】
グリシジルエステル型エポキシ化合物は、例えば下記式(B−2)で表される化合物であってよい。
【化20】
式中、Rは炭素数6〜18のアリール基、炭素数5〜18のアルキル基、又は炭素数5〜18のアルケニル基を表す。
【0096】
式(B−2)で表されるグリシジルエステル型エポキシ化合物は、好ましくは、グリシジルベンゾエート、グリシジルネオデカノエート、グリシジル−2,2−ジメチルオクタノエート、グリシジルアクリレート、又はグリシジルメタクリレートである。
【0097】
脂環式エポキシ化合物は、下記式(B−3)で表される、エポキシ基を構成する炭素原子が直接脂環式環を構成している部分構造を有する化合物である。
【化21】
【0098】
脂環式エポキシ化合物は、例えば、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロペンタン、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、エキソ−2,3−エポキシノルボルナン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)−スピロ(1,3−ジオキサン−5,3’−[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、4−(1’−メチルエポキシエチル)−1,2−エポキシ−2−メチルシクロヘキサン、4−エポキシエチル−1,2−エポキシシクロヘキサンであってよい。
【0099】
アリルオキシラン化合物としては、1,2−エポキシスチレン、アルキル−1,2−エポキシスチレンなどが例示できる。
【0100】
アルキルオキシラン化合物としては、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシトリデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシペンタデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシヘプタデカン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシノナデカン、1,2−エポキシイコサンなどが例示できる。
【0101】
エポキシ化脂肪酸モノエステルとしては、エポキシ化された炭素数12〜20の脂肪酸と、炭素数1〜8のアルコール又はフェノールもしくはアルキルフェノールとのエステルなどが例示できる。エポキシ化脂肪酸モノエステルは、好ましくは、エポキシステアリン酸のブチル、ヘキシル、ベンジル、シクロヘキシル、メトキシエチル、オクチル、フェニル又はブチルフェニルエステルである。
【0102】
エポキシ化植物油としては、大豆油、アマニ油、綿実油等の植物油のエポキシ化合物などが例示できる。
【0103】
冷凍機油が式(A)で表される化合物及びエポキシ化合物の両方を含有する場合、当該冷凍機油は、例えば酸性リン酸エステル及びエポキシ化合物を含有する従来の冷凍機油に比べて、耐摩耗性のみならず、安定性にも優れる。エポキシ化合物は、耐摩耗性及び安定性の両立の観点から、好ましくは、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、及び脂環式エポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、グリシジルエーテル型エポキシ化合物及びグリシジルエステル型エポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種である。
【0104】
エポキシ化合物の含有量は、安定性の向上の観点から、冷凍機油全量基準で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上である。エポキシ化合物の含有量は、潤滑性の向上の観点から、冷凍機油全量基準で、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.0質量%以下である。
【0105】
冷凍機油は、その他の添加剤を更に含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば、エポキシ化合物以外の酸捕捉剤、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、式(A)で表される化合物以外の耐摩耗剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤などが挙げられる。これらの添加剤の含有量は、冷凍機油全量基準で、10質量%以下又は5質量%以下であってよい。
【0106】
冷凍機油は、上記のその他の添加剤の中でも、好ましくは、酸化防止剤及び式(A)で表される化合物以外の摩耗防止剤の少なくとも一方を更に含有する。酸化防止剤は、2,6−ジ−tert.−ブチル−p−クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール系酸化防止剤、又は、アルキルフェニルαナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤であってよい。式(A)で表される化合物以外の摩耗防止剤は、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、チオリン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル等のリン系摩耗防止剤であってよい。
【0107】
冷凍機油の40℃における動粘度は、好ましくは3mm/s以上、より好ましくは4mm/s以上、更に好ましくは5mm/s以上であってよい。冷凍機油の40℃における動粘度は、好ましくは500mm/s以下、より好ましくは400mm/s以下、更に好ましくは300mm/s以下であってよい。
【0108】
冷凍機油の100℃における動粘度は、好ましくは1mm/s以上、より好ましくは2mm/s以上であってよい。冷凍機油の100℃における動粘度は、好ましくは100mm/s以下、より好ましくは50mm/s以下であってよい。
【0109】
冷凍機油の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−20℃以下であってよい。本発明における流動点は、JIS K2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0110】
冷凍機油の体積抵抗率は、好ましくは1.0×10Ω・m以上、より好ましくは1.0×1010Ω・m以上、更に好ましくは1.0×1011Ω・m以上であってよい。本発明における体積抵抗率は、JIS C2101:1999に準拠して測定した25℃での体積抵抗率を意味する。
【0111】
冷凍機油の水分含有量は、冷凍機油全量基準で、好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは50ppm以下であってよい。
【0112】
冷凍機油の酸価は、好ましくは1.0mgKOH/g以下、より好ましくは0.1mgKOH/g以下であってよい。本発明における酸価は、JIS K2501:2003に準拠して測定された酸価を意味する。
【0113】
冷凍機油の灰分は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下であってよい。本発明における灰分は、JIS K2272:1998に準拠して測定された灰分を意味する。
【0114】
本実施形態に係る冷凍機油は、冷媒と共に用いられる。冷媒としては、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒、炭化水素冷媒、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド冷媒、3フッ化ヨウ化メタン冷媒、及び、アンモニア、二酸化炭素等の自然系冷媒、並びに、これらの冷媒の1種又は2種以上を含む混合冷媒が例示される。
【0115】
飽和フッ化炭化水素冷媒としては、好ましくは炭素数1〜3、より好ましくは1〜2の飽和フッ化炭化水素が挙げられる。具体的には、ジフルオロメタン(R32)、トリフルオロメタン(R23)、ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(R134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(R143a)、1,1−ジフルオロエタン(R152a)、フルオロエタン(R161)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(R227ea)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(R236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(R236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(R245fa)、および1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(R365mfc)、又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0116】
飽和フッ化炭化水素冷媒としては、上記の中から用途や要求性能に応じて適宜選択されるが、例えばR32単独;R23単独;R134a単独;R125単独;R134a/R32=60〜80質量%/40〜20質量%の混合物;R32/R125=40〜70質量%/60〜30質量%の混合物;R125/R143a=40〜60質量%/60〜40質量%の混合物;R134a/R32/R125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;R134a/R32/R125=40〜70質量%/15〜35質量%/5〜40質量%の混合物;R125/R134a/R143a=35〜55質量%/1〜15質量%/40〜60質量%の混合物などが好ましい例として挙げられる。さらに具体的には、R134a/R32=70/30質量%の混合物;R32/R125=60/40質量%の混合物;R32/R125=50/50質量%の混合物(R410A);R32/R125=45/55質量%の混合物(R410B);R125/R143a=50/50質量%の混合物(R507C);R32/R125/R134a=30/10/60質量%の混合物;R32/R125/R134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);R32/R125/R134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);R125/R134a/R143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)などを用いることができる。
【0117】
不飽和フッ化炭化水素(HFO)冷媒は、好ましくは炭素数2〜3の不飽和フッ化炭化水素、より好ましくはフルオロプロペン、更に好ましくはフッ素数が3〜5のフルオロプロペンである。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、好ましくは、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ye)、及び3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)のいずれか1種又は2種以上の混合物である。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、冷媒物性の観点からは、好ましくは、HFO−1225ye、HFO−1234ze及びHFO−1234yfから選ばれる1種又は2種以上である。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、フルオロエチレンであってもよく、好ましくは1,1,2,3−トリフルオロエチレン(HFO−1123)であってもよい。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd)であってもよく、シス−1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd(Z))、トランス−1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd(E))及びこれらの混合物のいずれであってもよい。
【0118】
炭化水素冷媒は、好ましくは炭素数1〜5の炭化水素、より好ましくは炭素数2〜4の炭化水素である。炭化水素としては、具体的には例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、メチルシクロプロパン、2−メチルブタン、ノルマルペンタン又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、25℃、1気圧で気体の炭化水素冷媒が好ましく用いられ、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2−メチルブタン又はこれらの混合物がより好ましく用いられる。
【0119】
本実施形態に係る冷凍機油と共に用いられる冷媒は、上記の冷媒から選ばれる1種又は2種以上を含む混合冷媒であってよく、例えば、不飽和炭化水素(HFO)冷媒から選ばれる1種又は2種以上の冷媒と、飽和フッ化炭化水素(HFC)冷媒から選ばれる1種又は2種以上の冷媒との混合冷媒、あるいは当該混合冷媒に、炭化水素冷媒及び自然冷媒から選ばれる1種又は2種以上の冷媒を更に混合した混合冷媒であってよい。より具体的には、冷媒は、例えば、HFO−1225ye、HFO−1234ze、HFO−1234yf、HFO−1123、HCFO−1224yd等から選ばれる1種又は2種以上のHFO冷媒と、R32、R134a、R125、R152a、R227ea、R236fa等から選ばれる1種又は2種以上のHFC冷媒との混合冷媒、あるいは当該混合冷媒に、R290、R600a等の炭化水素冷媒又はR744等の自然冷媒を更に混合した混合冷媒であってよい。
【0120】
これら混合冷媒における各冷媒の混合比率(質量比)は、HFO冷媒/HFC冷媒/炭化水素冷媒又は自然冷媒=5〜95/95〜5/0〜20、好ましくは15〜85/85〜15/0〜10であってよい。このような混合冷媒は、より具体的には、R444A、R445A、R446A,R447A、R447B、R448A、R449A、R449C、R452B、R454B、R454C、R455A、R456A、R457A、R458A、R459A、R459B、R460B、R461A、R513A等であってよいが、これらに限定されるものではない。
【0121】
本実施形態に係る冷凍機油は、通常、冷凍機において、冷媒と混合された冷凍機用作動流体組成物の状態で存在している。すなわち、本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物は、上記の冷凍機油と、上記の冷媒とを含有する。冷凍機用作動流体組成物における冷凍機油の含有量は、冷媒100質量部に対して、好ましくは1〜500質量部、より好ましくは2〜400質量部であってよい。
【0122】
本実施形態に係る冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有するエアコン、冷蔵庫、開放型又は密閉型のカーエアコン、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷凍機、遠心式の圧縮機を有する冷凍機等に好適に用いられる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0124】
実施例及び比較例においては、以下に示す基油及び添加剤を用いて表1〜3に記載の組成(冷凍機油全量基準での質量%)を有する冷凍機油を調製した。
(基油)
基油1:ペンタエリスリト−ルと、2−メチルプロパン酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸(質量比:35/65)とのポリオ−ルエステル(40℃における動粘度:67.2mm/s、粘度指数:84)
基油2:ネオペンチルグリコール(1モル)及び1,4−ブタンジオール(0.3モル)にアジピン酸(2.4モル)を反応させたエステル中間体に、2−エチルヘキサノール(2.4モル)を更に反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たコンプレックスエステル(40℃における動粘度:68.2mm/s、粘度指数:144)
基油3:ポリエチルビニルエーテル(数平均分子量:1900、40℃における動粘度:71.0mm/s、100℃における動粘度:8.6mm/s、粘度指数:89)
基油4:ペンタエリスリト−ルと、2−エチルヘキサン酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸(質量比:50/50)とのポリオ−ルエステル(40℃における動粘度:68mm/s)
基油5:ネオペンチルグリコール(1モル)及び1,4−ブタンジオール(0.3モル)にアジピン酸(2.4モル)を反応させたエステル中間体に、3,5,5−トリメチルヘキサノール(2.4モル)を更に反応させ、残存した未反応物を蒸留で除去して得たコンプレックスエステル(40℃における動粘度:150mm/s)
基油6:ジペンタエリスリトールと、2−エチルヘキサン酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸(質量比:50/50)とのポリオ−ルエステル(40℃における動粘度:220mm/s)
基油7:ペンタエリスリトールと、ペンタン酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸の混合脂肪酸(質量比:25/75)とのポリオ−ルエステル(40℃における動粘度:68mm/s)
基油8:ポリプロピレングリコールジメチルエーテル(数平均分子量(Mn):1000、40℃動粘度:46.0mm/s、粘度指数:190)
(添加剤)
A1:下記式(A−1−1)で表される化合物
【化22】
A2:下記式(A−1−2)で表される化合物
【化23】
A3:下記式(A−1−3)で表される化合物
【化24】
a1:トリクレジルホスフェート
a2:ジ(n−オクチル)アシッドフォスフェート
B1:グリシジルネオデカノエート
B2:2−エチルヘキシルグリシジルエーテル
【0125】
実施例及び比較例の各冷凍機油について、以下に示す耐摩耗性試験を実施した。結果を表1〜3に示す。
【0126】
(耐摩耗性試験)
耐摩耗性試験は、高速四球試験により行った。剛球としてSUJ−2を用い、試験油量20mL、試験温度80℃、回転数1200rpm、負荷荷重294N、試験時間30分間の条件で試験を行った。耐摩耗性の評価は、固定球の摩耗痕径(mm)の平均値を用いた。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
また、実施例8において、基油1に代えて下記の各基油を用いた実施例10〜16の冷凍機油を調製した。これらの冷凍機油について、上記と同様に耐摩耗性を評価したところ、実施例1〜9と同等の効果を得た。
(実施例10)基油4
(実施例11)基油1:基油4=60:40(質量比)の混合基油
(実施例12)基油1:基油5=80:20(質量比)の混合基油
(実施例13)基油4:基油5=80:20(質量比)の混合基油
(実施例14)基油4:基油6=80:20(質量比)の混合基油
(実施例15)基油7
(実施例16)基油8
【0131】
また、実施例8及び10〜16の各冷凍機油に、正リン酸エステルであるトリクレジルホスフェート1質量%、及び、酸化防止剤である2,6−ジ−tert.−ブチル−p−クレゾール(DBPC)0.5質量%を更に含有させて、それぞれ実施例17〜24の冷凍機油を調製した。これらの冷凍機油について、上記と同様に耐摩耗性を評価したところ、実施例1〜9と同等の効果を得た。
【0132】
実施例7〜9及び比較例5,6については、以下に示す安定性試験を実施した。結果を表4に示す。
【0133】
(安定性試験)
JIS K2211:2009(オートクレーブテスト)に準拠して、冷媒混合時の安定性を評価した。すなわち、水分含有量を1000ppmに調整した冷凍機油30gをオートクレーブに秤取し、触媒(鉄、銅、アルミの線、いずれも外径1.6mm×長さ50mm)とR32を30gとを封入し、温度175℃で168時間加熱した。試験後の各冷凍機油について、JIS K2501:2003に準拠して酸価(試験後酸価)を測定した。
【0134】
【表4】
【0135】
また、実施例10〜24の冷凍機油についても、上記と同様に安定性を評価したところ、実施例7〜9と同等の効果を得た。加えて、実施例17〜24については、上記の安定性試験において冷媒をR32からHFO−1234yfに変更した場合の安定性も併せて評価したところ、良好な安定性を示した。
【0136】
以上、本発明は、明細書中に開示された実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う冷凍機油等もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。