特許第6964638号(P6964638)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6964638
(24)【登録日】2021年10月21日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】電動サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/03 20060101AFI20211028BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20211028BHJP
   H02K 33/16 20060101ALI20211028BHJP
   H02K 41/03 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   F16F15/03 G
   B60G17/015 Z
   H02K33/16 A
   H02K41/03 A
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-182380(P2019-182380)
(22)【出願日】2019年10月2日
(65)【公開番号】特開2021-55821(P2021-55821A)
(43)【公開日】2021年4月8日
【審査請求日】2020年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】柳 貴志
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−215375(JP,A)
【文献】 特表2013−507893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/03
B60G 17/015
H02K 33/16
H02K 41/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体と車輪の間に設けられ、前記車両の振動減衰に係る駆動力を発生させる電磁アクチュエータを備える電動サスペンション装置であって、
前記電磁アクチュエータは、ロッド部材と、当該ロッド部材を囲むように該ロッド部材の軸方向に沿って延びる筐体と、を備え、
前記ロッド部材と前記筐体とは、前記軸方向に沿って進退自在に設けられ、
前記筐体には、前記軸方向に沿って複数の電機子コイルが設けられる一方、
前記ロッド部材には、前記筐体に設けた複数の電機子コイルのうち一部と対向するように、前記軸方向に沿って複数の磁石が設けられ、
前記複数の磁石は、複数の永久磁石を連ねてなる永久磁石群と、電機子コイルを含む電磁石とからなり、
前記複数の磁石のうち前記永久磁石群は、前記軸方向に沿って複数の前記電磁石の間に挟まれるように前記ロッド部材に配設されている
ことを特徴とする電動サスペンション装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動サスペンション装置であって、
停車時の前記車両が空車状態乃至満積載状態にある際の前記筐体に対する前記ロッド部材のストローク範囲に当該ロッド部材が位置しているケースにおいて、前記複数の磁石のうち前記永久磁石群は、前記筐体に設けた電機子コイルに対して常に対向するように前記ロッド部材に配設されている
ことを特徴とする電動サスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体と車輪の間に設けられ、車両の振動減衰に係る駆動力を発生させる電磁アクチュエータを備える電動サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、車両の車体と車輪の間に設けられ、車両の振動減衰に係る駆動力を発生させる電磁アクチュエータを備える電動サスペンション装置を提案している(例えば特許文献1参照)。特許文献1に係る電磁アクチュエータは、電動機の他に、ボールねじ機構を備えて構成される。該電磁アクチュエータは、電動機の回転運動をボールねじ機構の直線運動へと変換することにより、車両の振動減衰に係る駆動力を発生させる。
【0003】
また、電動サスペンション装置に備わる電磁アクチュエータとして、リニアモータを用いたものも知られている(例えば特許文献2参照)。特許文献2に係る電磁アクチュエータは、円柱状の固定子と、この固定子を囲うように軸方向に進退自在に設けられる円筒状の可動子とを備える。固定子には、円柱の外周面にわたり軸方向に沿って電機子コイルが設けられている。一方、可動子には、固定子に設けた電機子コイルと対向するように、円筒の内周面にわたり軸方向に沿って永久磁石が設けられている。
【0004】
特許文献2に係る電動サスペンション装置では、固定子の電機子コイルを励磁した際に、固定子の電機子コイルと可動子の永久磁石との間で生じる吸引力・反発力を用いて、固定子に対する可動子の軸方向への伸縮駆動を行わせる。
【0005】
さらに、特許文献3には、特許文献2に係る電磁アクチュエータを変形して適用した電動サスペンション装置の例が開示されている。すなわち、特許文献3に係る電磁アクチュエータは、円柱状の固定部(ロッド部)と、このロッド部を囲うように軸方向に進退自在に設けられる円筒状の可動部とを備える。ロッド部には、円柱の外周面にわたり軸方向に沿って永久磁石が設けられている。一方、可動部には、ロッド部に設けた永久磁石と対向するように、円筒の内周面にわたり軸方向に沿って電機子コイルが設けられている。
【0006】
特許文献3に係る電動サスペンション装置によれば、円筒状の可動部の電機子コイルを励磁した際に、可動部の電機子コイルとロッド部に設けた永久磁石との間で生じる吸引力・反発力を用いて、ロッド部に対する可動部の軸方向への伸縮駆動を行わせる。
【特許文献1】特許第6417443号公報
【特許文献2】特許第5876764号公報
【特許文献3】特開2018−182988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電磁アクチュエータとしてリニアモータを用いた特許文献2,3に係る電動サスペンション装置では、永久磁石の使用を抑制乃至中止することについて特別の考慮はなされていない。
【0008】
そのため、特許文献2、3に係る電動サスペンション装置では、下記の点で改良の余地があった。すなわち、モータに用いる永久磁石としては、小型化・高出力化(高エネルギー密度化)の要請を受け、残留磁束密度が高く耐熱性を有するネオジム磁石が頻用される。このネオジム磁石は希少かつ高価な希土類の添加を要する。すると、ネオジム磁石のような永久磁石を用いたモータでは、希土類の確保が困難を伴うため大量生産に支障を来すと共に、永久磁石(ネオジム磁石)がコスト高の要因になる。
【0009】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、電磁アクチュエータとしてリニアモータを用いた場合であっても、大量生産に支障を来すことなく、製造コストを可及的に抑制可能な電動サスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、(1)に係る発明は、車両の車体と車輪の間に設けられ、前記車両の振動減衰に係る駆動力を発生させる電磁アクチュエータを備える電動サスペンション装置であって、前記電磁アクチュエータは、ロッド部材と、当該ロッド部材を囲むように該ロッド部材の軸方向に沿って延びる筐体と、を備え、前記ロッド部材と前記筐体とは、前記軸方向に沿って進退自在に設けられ、前記筐体には、前記軸方向に沿って複数の電機子コイルが設けられる一方、前記ロッド部材には、前記筐体に設けた複数の電機子コイルのうち一部と対向するように、前記軸方向に沿って複数の磁石が設けられ、前記複数の磁石は、複数の永久磁石を連ねてなる永久磁石群と、電機子コイルを含む電磁石とからなり、前記複数の磁石のうち前記永久磁石群は、前記軸方向に沿って複数の前記電磁石の間に挟まれるように前記ロッド部材に配設されていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電磁アクチュエータとしてリニアモータを用いた場合であっても、大量生産に支障を来すことなく、製造コストを可及的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の参考例に係る第1電動サスペンション装置の全体構成図である。
図2A】第1電動サスペンション装置の第1電磁アクチュエータに備わるロッド部材に設けられるロッド側電機子コイルの外観斜視図である。
図2B】第1電磁アクチュエータに備わるロッド部材の一部を表す部分縦断面図である。
図3A】本発明の実施形態に係る第2電動サスペンション装置の全体構成図である。
図3B】本発明の実施形態に係る第2電動サスペンション装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の参考例及び実施形態に係る電動サスペンション装置について、適宜図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に示す図面において、共通の機能を有する部材には共通の参照符号を付するものとする。また、部材のサイズ及び形状は、説明の便宜のため、変形又は誇張して模式的に表す場合がある。
【0014】
〔本発明の参考例に係る第1電動サスペンション装置11Aの全体構成〕
はじめに、本発明の参考例に係る第1電動サスペンション装置11Aの全体構成について、図1図2A及び図2Bを参照して説明する。
図1は、本発明の参考例に係る第1電動サスペンション装置11Aの全体構成図である。図2Aは、第1電動サスペンション装置11Aの第1電磁アクチュエータ13Aに備わるロッド部材21に設けられるロッド側電機子コイル27の外観斜視図である。図2Bは、第1電磁アクチュエータ13Aに備わるロッド部材21の一部を表す部分縦断面図である。
【0015】
本発明の参考例に係る第1電動サスペンション装置11Aは、図1に示すように、車両(不図示)の振動減衰に係る駆動力を発生させる第1電磁アクチュエータ13Aと、ひとつの電子制御装置(以下、「ECU」という。)15とを備えて構成されている。第1電磁アクチュエータ13AとECU15との間は、第1電磁アクチュエータ13Aへ駆動制御電力を供給するための制御電力供給線17を介して相互に接続されている。
【0016】
第1電磁アクチュエータ13Aは、車両の前輪(左前輪・右前輪)及び後輪(左後輪・右後輪)を含む各車輪毎に、都合4つ配設されている。各車輪毎に備わる第1電磁アクチュエータ13Aは、ECU15によって各車輪毎の伸縮駆動に併せて相互に独立して駆動制御される。
【0017】
複数の第1電磁アクチュエータ13Aの各々は、本発明の実施形態では、それぞれが共通の構成を備えている。そこで、ひとつの第1電磁アクチュエータ13Aの構成について説明することで、複数の第1電磁アクチュエータ13Aの説明に代えることとする。
【0018】
第1電磁アクチュエータ13Aは、車両の振動減衰に係る駆動力の発生源としてリニアモータ19(詳しくは後記)を採用している。詳しく述べると、第1電磁アクチュエータ13Aは、図1に示すように、円柱状のロッド部材21と、ロッド部材21を囲むようにロッド部材21の軸方向に沿って延びる円筒状の筐体31と、を備えて構成されている。ロッド部材21と筐体31とは、ロッド部材21の軸方向に沿って進退自在に設けられている。
なお、ロッド部材21と筐体31とが、ロッド部材21の軸方向に沿って進退自在に設けられているとは、ロッド部材21が筐体31に対して軸方向に進退駆動する態様、筐体31がロッド部材21に対して軸方向に進退駆動する態様、及び、ロッド部材21及び筐体31が相互に軸方向に進退駆動する態様、をすべて含む。
【0019】
詳しく述べると、ロッド部材21は、リニアモータ19の駆動力によって筐体31に対して軸方向に進退駆動する機能を有する。この機能を実現するために、ロッド部材21は、図1に示すように、円柱状のシャフト23と、シャフト23を囲む円筒状のパイプ部25とを有して構成されている。シャフト23及びパイプ部25のそれぞれは同芯に配設されている。
【0020】
シャフト23及びパイプ部25は、導電性を有する部材よりなる。本発明の実施形態では、シャフト23及びパイプ部25それ自体を、ロッド側電機子コイル27への給電経路24(図2B参照)として用いるためである。ただし、シャフト23及びパイプ部25を、導電性を有しない部材により構成しても構わない。この場合、シャフト23及びパイプ部25には、ロッド側電機子コイル27への給電経路24としての機能を担保するための導電性表面処理が施される。
【0021】
具体的には、例えば、シャフト23・パイプ部25の素材としてステンレスを採用した場合、同素材の露出面に、導電性・耐摩耗性に優れる無電解ニッケルボロンめっき層・DLC (diamond‐like carbon) 被膜等を形成すればよい。
なお、シャフト23の素材としてステンレスを採用した場合、円柱状のシャフト23の外周面に導電性表面処理が施される。また、パイプ部25の素材としてステンレスを採用した場合、円筒状のシャフト23の内周面に(好ましくは外周面にも)導電性表面処理が施される。
【0022】
シャフト23とパイプ部25との間隙26には、図1に示すように、筐体31に設けた複数の筐体側電機子コイル33(詳しくは後記)のうち一部と対向するように、軸方向に沿って複数のロッド側電機子コイル27(図2A図2B参照)が積層状態で設けられている。ロッド側電機子コイル27は、本発明の「ロッド部材」に設けられる「電機子コイル」に相当する。
【0023】
ロッド側電機子コイル27は、図2A図2Bに示すように、糸巻き形状のボビン28に被覆電線29を巻き回すことで構成されている。ボビン28は、特に限定されないが、例えばアルミニウム等の導電性を有する金属素材よりなる。ボビン28には、図2Aに示すように、その径方向中央に、軸方向に沿う円形状の通孔28aが開設されている。被覆電線29は、銅等の金属製の導線に絶縁性樹脂等のシースを被覆してなる。
【0024】
被覆電線29の一端は、ボビン28の通孔28aに電気的に接続されている。一方、被覆電線29の他端は、ボビン28が有する円板状の側端板28bに電気的に接続されている。シャフト23とパイプ部25との間隙26に、複数のロッド側電機子コイル27同士を積層して設けるに際し、隣接するロッド側電機子コイル27の間は絶縁性の接着剤(不図示)を介して接合されている。
その結果、隣接するロッド側電機子コイル27のそれぞれが有するボビン28の側端板28b同士は電気的に絶縁されている。
【0025】
ボビン28の側端板28bには、径方向外方に向かって突き出すように傾斜する舌片28cが周方向にわたり複数設けられている。
ボビン28の通孔28aは、ボビン28の側端板28bに対して電気的に絶縁されている。
【0026】
ボビン28の通孔28aの内径は、シャフト23の外径と比べて僅かに大きく形成されている。また、ボビン28の側端板28bの外径は、パイプ部25の内径と比べて僅かに小さく形成されている。
【0027】
ロッド部材21にロッド側電機子コイル27を装着するに際し、シャフト23に対してボビン28の通孔28aを挿し込みながら、シャフト23とパイプ部25との間隙26に、軸方向に沿ってロッド側電機子コイル27を拘束状態で装着する。
【0028】
要するに、ロッド部材21にロッド側電機子コイル27が装着された状態で、シャフト23の外周面は、ロッド側電機子コイル27におけるボビン28の通孔28aの内周面に密着している。同様に、ロッド側電機子コイル27におけるボビン28の側端板28b(特に、側端板28bの舌片28c)は、パイプ部25の内周面に密着している。
これにより、ロッド部材21が有するシャフト23及びパイプ部25に対するロッド側電機子コイル27の導通性の確保及び振動時の接触不良を抑制している。
【0029】
したがって、ECU15に接続されてロッド側電機子コイル27への制御電力供給線17をシャフト23及びパイプ部25のそれぞれに接続することにより、シャフト23−ボビン28の通孔28a−ロッド側電機子コイル27(被覆電線29の一端−被覆電線29の他端)−ボビン28の側端板28b−パイプ部25に到るロッド側電機子コイル27への給電経路24(図2B参照)が形成されている。
【0030】
前記給電経路24を介してロッド側電機子コイル27への給電が行われると、ロッド側電機子コイル27の被覆電線29への電流の流通方向に応じて、図1に示すように、ロッド側電機子コイル27のうち軸方向に沿う端部のそれぞれにS極/N極が現れる。図1に示す例では、ロッド側電機子コイル27を電磁石として用いた場合、複数のロッド側電機子コイル27のうち軸方向に沿う一端及び他端のそれぞれには、軸方向に沿ってS極/N極が交互に現れている。
【0031】
さて、筐体31の上側端部には、図1に示すように、同上側端部を封鎖する円形状の上側蓋体31aが設けられている。上側蓋体31aには、円形状の貫通孔31bが設けられている。この貫通孔31bを介して、ロッド部材21の両端部のうち一側が筐体31に設けた上側蓋体31aから露出している。筐体31の下側端部には、同下側端部を封鎖する円形状の下側蓋体31cが設けられている。下側蓋体31cには、ボルト挿通孔からなる連結部32が設けられている。
【0032】
第1電磁アクチュエータ13Aにおいて、筐体31の連結部32は、不図示のばね下部材(車輪側のロアアーム、ナックル等)に連結固定される。一方、ロッド部材21の上端部は、不図示のばね上部材(車体側のストラットタワー部等)に連結固定される。要するに、第1電磁アクチュエータ13Aは、車両の車体と車輪の間に備わる不図示のばね部材に並設されている。
【0033】
筐体31の内周面には、図1に示すように、ロッド部材21に積層状態で設けた複数のロッド側電機子コイル27に対向するように、軸方向に沿って複数の筐体側電機子コイル33が設けられている。
ひとつの筐体側電機子コイル33は、図1に示すように、u相・w相・v相の三相コイルとして構成されている。筐体側電機子コイル33は、本発明の「筐体」に設けられる「電機子コイル」に相当する。
【0034】
複数の筐体側電機子コイル33のそれぞれは、制御電力供給線17を介してECU15に接続されている。ECU15は、複数の筐体側電機子コイル33のそれぞれが有するu相・w相・v相の三相コイルを、ECU15に備わるインバータ(不図示)で生成した三相の駆動制御信号に従って順次励磁するように構成されている。
【0035】
また、筐体31の内周面には、図1に示すように、ロッド部材21の進退運動を案内する円筒状の案内部材35が付設されている。
【0036】
第1電磁アクチュエータ13Aにおいて、ロッド部材21に軸方向に沿って設けた複数のロッド側電機子コイル27と、筐体31に軸方向に沿って設けた複数の筐体側電機子コイル33とによって、図1に示すリニアモータ19を構成している。
リニアモータ19は、ロッド側電機子コイル27及び筐体側電機子コイル33をそれぞれ励磁することで両者の間に生じる吸引力及び反発力を用いて、ロッド部材21に対する筐体31の軸方向への伸縮駆動を行わせる。
【0037】
前記のように構成された第1電磁アクチュエータ13Aは次のように動作する。すなわち、例えば、車両の車輪側から筐体31の連結部32に対して突き上げ振動に係る推進力が入力されたケースを考える。このケースでは、突き上げ振動に係る推進力が加わった筐体31に連れてロッド部材21も突き上げるように移動しようとする。この際において、ロッド部材21の突き上げ移動をいなす向きの駆動力をリニアモータ19に生じさせる。
このように、ロッド部材21の突き上げ移動をいなす向きの駆動力をリニアモータ19に生じさせることにより、車輪側から車体側へと伝わろうとする振動を減衰することができる。
【0038】
本発明の参考例に係る第1電動サスペンション装置11Aによれば、既存のリニアモータ19の構成部材として汎用されてきた永久磁石に代えて、ロッド側電機子コイル27を採用したため、電磁アクチュエータとしてリニアモータ19を用いた場合であっても、大量生産に支障を来すことなく、製造コストを可及的に抑制することができる。
【0039】
また、本発明の参考例に係る第1電動サスペンション装置11Aによれば、ロッド部材21が有するシャフト23及びパイプ部25それ自体を、ロッド側電機子コイル27への給電経路24として用いるため、ロッド部材21に設けた複数の電機子コイルへの給電を、ロッド部材21が有するシャフト23及びパイプ部25を通して行わせることができる。
その結果、ロッド部材21に複数のロッド側電機子コイル27を積層状態で設ける際において、給電経路24に係る配線部を簡素化すると共に、配線スペースを省略することができる。
【0040】
〔本発明の実施形態に係る第2電動サスペンション装置11Bの全体構成〕
次に、本発明の実施形態に係る第2電動サスペンション装置11Bの全体構成について、図3A及び図3Bを参照して説明する。
図3A及び図3Bは、本発明の実施形態に係る第2電動サスペンション装置11Bの全体構成図である。このうち、図3Aは停車時の車両の満積載時における第2電磁アクチュエータ13Bの伸縮状態を、図3Bは停車時の車両の空車時における第2電磁アクチュエータ13Bの伸縮状態を、それぞれ示す。
【0041】
前記した第1電動サスペンション装置11Aは、第2電動サスペンション装置11Bと基本的な構成要素が共通している。そこで、両者の相違点に注目して説明することで、第2電動サスペンション装置11Bの説明に代えることとする。
なお、以下の説明において、第1電動サスペンション装置11A、及び第2電動サスペンション装置11Bを総称する場合、単に「電動サスペンション装置11」と呼ぶ。また、第1電磁アクチュエータ13A、及び第2電磁アクチュエータ13Bを総称する場合、単に「電磁アクチュエータ13」と呼ぶ。
【0042】
第1電動サスペンション装置11Aに備わる第1電磁アクチュエータ13Aでは、ロッド部材21には、軸方向に沿って複数のロッド側電機子コイル27が積層状態で設けられている。ロッド部材21には、ロッド側電機子コイル27に代わる構成要素としての永久磁石が設けられていない。
【0043】
これに対し、第2電動サスペンション装置11Bでは、図3A図3Bに示すように、ロッド部材21には、軸方向に沿って複数のロッド側電機子コイル27と共に、複数の永久磁石41が積層状態で設けられている。また、永久磁石41は、軸方向に沿って複数のロッド側電機子コイル27に挟まれるようにロッド部材21に配設されている。
【0044】
本発明において、「ロッド部材には、筐体に設けた複数の電機子コイルのうち一部と対向するように、軸方向に沿って複数の磁石が設けられ、」とは、図3A図3Bに示すように、「第2電動サスペンション装置11Bのロッド部材21には、筐体31に設けた複数の筐体側電機子コイル33のうち一部と対向するように、軸方向に沿ってロッド側電機子コイル27及び永久磁石41が設けられ」ることを意味する。
【0045】
また、本発明において、「前記複数の磁石は、永久磁石と、電機子コイルを含む電磁石とからなる」とは、図3A図3Bに示すように、「ロッド部材21に設けられる複数の磁石は、永久磁石41と、ロッド側電機子コイル27を含む電磁石43とからなる」ことを意味する。
【0046】
さらに、本発明において、「複数の磁石のうち前記永久磁石は、前記軸方向に沿って複数の前記電磁石の間に挟まれるように前記ロッド部材に配設されている」とは、図3A図3Bに示すように、「永久磁石41は、軸方向に沿って複数のロッド側電機子コイル27に挟まれるようにロッド部材21に配設されている」ことを意味する。
【0047】
しかも、第2電動サスペンション装置11Bでは、図3A図3Bに対比して示すように、停車時の車両が空車状態乃至満積載状態にある際の筐体31に対するロッド部材21のストローク範囲に当該ロッド部材21が位置しているケースにおいて、複数の磁石のうち永久磁石41は、筐体31に設けた複数の筐体側電機子コイル33に対して常に対向するようにロッド部材21に配設されている。
【0048】
ここで、「停車時の車両が空車状態乃至満積載状態にある際の筐体31に対するロッド部材21のストローク範囲に当該ロッド部材21が位置している場合」とは、車両の通常走行時において汎用されるストローク範囲にロッド部材21が位置しているケースを想定している。
【0049】
ここで、ロッド部材21の(軸方向)位置は、筐体31との相対的な関係で定義される。本発明では、ロッド部材21が筐体31に対して伸縮駆動することにより、車輪側から車体側へと伝わろうとする振動の減衰を図っている。つまり、振動減衰効果を得るためには、筐体31に対するロッド部材21の(軸方向)位置は、伸び側及び縮み側の両者において充分な伸縮代が求められる。
また、高い振動減衰効果を得るためには、ロッド部材21に設けた永久磁石41は、図3A図3Bに示すように、筐体31に設けた複数の筐体側電機子コイル33に対して常に対向していることが好ましい。
【0050】
「永久磁石41は、筐体31に設けた複数の筐体側電機子コイル33に対して常に対向するようにロッド部材21に配設されている」とは、筐体側電機子コイル33の励磁による磁界との相互作用によってきわめて強力な吸引力及び反発力を作り出すことが可能なように永久磁石41がロッド部材21に配設されていることを意味する。
【0051】
そして、「停車時の車両が空車状態乃至満積載状態にある際の筐体31に対するロッド部材21のストローク範囲に当該ロッド部材21が位置しているケースにおいて、複数の磁石のうち永久磁石41は、筐体31に設けた複数の筐体側電機子コイル33に対して常に対向するようにロッド部材21に配設されている」とは、車両の通常走行時において汎用されるストローク範囲にロッド部材21が位置しているケースでは、きわめて強力な吸引力及び反発力を作り出すことが可能なロッド部材21における位置に永久磁石41が配設されていることを意味する。
【0052】
これにより、車両の通常走行時において汎用されるストローク範囲にロッド部材21(に設けた永久磁石41)が位置しているケースでは、最大級の大きさの駆動力をリニアモータ19に生じさせることができるため、車両の非通常走行時において用いられるストローク範囲にロッド部材21(に設けた永久磁石41)が位置しているケースと比べて、車輪側から車体側へと伝わろうとする振動をより効率的に減衰することができる。
【0053】
〔本発明の実施形態に係る第2電動サスペンション装置11Bの作用効果〕
本発明の実施形態に係る第2電動サスペンション装置11Bの作用効果について、特許文献2(特許第5876764号公報)、特許文献3(特開2018−182988号公報)に係る電動サスペンション装置と対比して説明する。
前記したとおり、特許文献2、3に係る電動サスペンション装置では、永久磁石の使用を抑制乃至中止することについて特別の考慮はなされていない。
そのため、特許文献2、3に係る電動サスペンション装置では、下記の点で改良の余地があった。
【0054】
すなわち、モータに用いる永久磁石としては、小型化・高出力化(高エネルギー密度化)の要請を受け、残留磁束密度が高く耐熱性を有するネオジム磁石が頻用される。ところが、このネオジム磁石は希少かつ高価な希土類の添加を要する。すると、ネオジム磁石のような永久磁石を用いたモータでは、希土類の確保が困難を伴うため大量生産に支障を来すと共に、永久磁石(ネオジム磁石)がコスト高の要因になる。
【0055】
そこで、本発明の第1の観点に基づく電動サスペンション装置11(第2電動サスペンション装置11B)は、車両の車体と車輪の間に設けられ、車両の振動減衰に係る駆動力を発生させる電磁アクチュエータ13(第2電磁アクチュエータ13B)を備える電動サスペンション装置11であって、電磁アクチュエータ13は、ロッド部材21と、当該ロッド部材21を囲むように該ロッド部材21の軸方向に沿って延びる筐体31と、を備え、ロッド部材21と筐体31とは、軸方向に沿って進退自在に設けられ、筐体31には、軸方向に沿って複数の筐体側電機子コイル(電機子コイル)33が設けられる一方、ロッド部材21には、筐体31に設けた複数の筐体側電機子コイル(電機子コイル)33のうち一部と対向するように、軸方向に沿って複数の磁石41、43が設けられ、複数の磁石41、43は、永久磁石41と、ロッド側電機子コイル(電機子コイル)27を含む電磁石43とからなる構成を採用している。
【0056】
第1の観点に基づく電動サスペンション装置11では、ロッド部材21の軸方向に沿って設けられる複数の磁石41、43は、永久磁石41と、ロッド側電機子コイル(電機子コイル)27を含む電磁石43とからなるため、例えばネオジム磁石のような永久磁石の使用を可及的に抑制することができる。
【0057】
第1の観点に基づく電動サスペンション装置11によれば、例えばネオジム磁石のような永久磁石の使用を可及的に抑制することが可能となる結果として、電磁アクチュエータとしてリニアモータ19を用いた場合であっても、大量生産に支障を来すことなく、製造コストを可及的に抑制することができる。
【0058】
また、第2の観点に基づく電動サスペンション装置11は、第1の観点に基づく電動サスペンション装置11(第2電動サスペンション装置11B)であって、停車時の車両が空車状態乃至満積載状態にある際の筐体31に対するロッド部材21のストローク範囲に当該ロッド部材21が位置しているケースにおいて、複数の磁石41、43のうち永久磁石41は、筐体31に設けた筐体側電機子コイル33に対して常に対向するようにロッド部材21に配設されている構成を採用してもよい。
【0059】
第2の観点に基づく電動サスペンション装置11によれば、車両の通常走行時において汎用されるストローク範囲にロッド部材21(に設けた永久磁石41)が位置しているケースでは、最大級の大きさの駆動力をリニアモータ19に生じさせることができるため、車両の非通常走行時において用いられるストローク範囲にロッド部材21が位置しているケースと比べて、車輪側から車体側へと伝わろうとする振動をより効率的に減衰することができる。
【0060】
また、第3の観点に基づく電動サスペンション装置11は、第1又は第2の観点に基づく電動サスペンション装置11(第2電動サスペンション装置11B)であって、複数の磁石41、43のうち永久磁石41は、軸方向に沿って複数の電磁石43の間に挟まれるようにロッド部材21に配設されている構成を採用してもよい。
【0061】
第3の観点に基づく電動サスペンション装置11では、永久磁石41は、軸方向に沿って複数の電磁石43の間に挟まれるようにロッド部材21に配設されているため、ロッド部材21がストローク可能な極大範囲のうち中間のストローク範囲、つまり、汎用されるストローク範囲の内方又は近傍において、永久磁石41の磁界と筐体側電機子コイル33の励磁による磁界との相互作用によってきわめて強力な吸引力及び反発力を作り出すことができる。
【0062】
第3の観点に基づく電動サスペンション装置11によれば、汎用されるストローク範囲の内方又は近傍において、永久磁石41の磁界と筐体側電機子コイル33の励磁による磁界との相互作用によってきわめて強力な吸引力及び反発力を作り出すことができるため、車両の非通常走行時において用いられるストローク範囲にロッド部材21が位置しているケースと比べて、車輪側から車体側へと伝わろうとする振動をより効率的に減衰することができる。
【0063】
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0064】
例えば、本発明の実施形態に係る電動サスペンション装置11に備わる第1電磁アクチュエータ13Aは、円柱状のロッド部材21と、ロッド部材21を囲むようにロッド部材21の軸方向に沿って延びる円筒状の筐体31と、を備えて構成される例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。
例えば、ロッド部材21の横断形状として、例えば楕円形状など、任意の形状を採用しても構わない。この場合において、筐体31の横断形状としては、ロッド部材21の外周壁を僅かな隙間を介して受け容れ可能な内周壁を備える横断形状を採用すればよい。
【0065】
また、本発明の実施形態に係る電動サスペンション装置11に備わる電磁アクチュエータ13において、ロッド部材21に設けられる永久磁石41の数量は、本発明の実施形態で開示した数量に限定されることなく、リニアモータ19としての設計仕様に応じて適宜設定することができる。
【0066】
同様に、ロッド部材21に設けられるロッド側電機子コイル27を含む電磁石43の数量も、本発明の実施形態で開示した数量に限定されることなく、リニアモータ19としての設計仕様に応じて適宜設定することができる。
【0067】
同様に、筐体31に設けられる複数の筐体側電機子コイル33の数量も、本発明の実施形態で開示した数量に限定されることなく、リニアモータ19としての設計仕様に応じて適宜設定することができる。
【0068】
また、本発明の実施形態に係る電動サスペンション装置11に備わる電磁アクチュエータ13において、ロッド部材21に設けられる永久磁石41の磁極の向きは、本発明の実施形態で開示した向きに限定されることなく、リニアモータ19としての設計仕様に応じて適宜設定することができる。
【0069】
同様に、ロッド部材21に設けられるロッド側電機子コイル27を含む電磁石43の磁極の向きも、本発明の実施形態で開示した向きに限定されることなく、リニアモータ19としての設計仕様に応じて適宜設定することができる。
【0070】
同様に、筐体31に設けられる複数の筐体側電機子コイル33の磁極の向きも、本発明の実施形態で開示した向きに限定されることなく、リニアモータ19としての設計仕様に応じて適宜設定することができる。
【0071】
また、本発明の実施形態に係る電動サスペンション装置11の説明において、電磁アクチュエータ13を、前輪(左前輪・右前輪)及び後輪(左後輪・右後輪)の両方で都合4つ配置する例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。電磁アクチュエータ13を、前輪又は後輪のいずれか一方に都合2つ配置する構成を採用しても構わない。
【符号の説明】
【0072】
11 電動サスペンション装置
11A 第1電動サスペンション装置
11B 第2電動サスペンション装置
13 電磁アクチュエータ
13A 第1電磁アクチュエータ
13B 第2電磁アクチュエータ
21 ロッド部材
27 ロッド側電機子コイル(ロッド部材に設けられる電機子コイル)
31 筐体
33 筐体側電機子コイル(筐体に設けられる電機子コイル)
41 永久磁石(磁石)
43 電磁石(磁石)
図1
図2A
図2B
図3A
図3B