特許第6964804号(P6964804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6964804
(24)【登録日】2021年10月21日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】ノイズキャンセラ及びデジタル送信機
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/04 20060101AFI20211028BHJP
   H04L 27/00 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   H04B1/04 A
   H04L27/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-559058(P2020-559058)
(86)(22)【出願日】2018年10月4日
(65)【公表番号】特表2021-511757(P2021-511757A)
(43)【公表日】2021年5月6日
(86)【国際出願番号】JP2018038014
(87)【国際公開番号】WO2019187262
(87)【国際公開日】20191003
【審査請求日】2020年7月15日
(31)【優先権主張番号】15/941,054
(32)【優先日】2018年3月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】マ、ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ダ・コスタ・ディニス、ダニエル・アントニオ
【審査官】 鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】 特表2017−529023(JP,A)
【文献】 米国特許第05959562(US,A)
【文献】 特表2017−509224(JP,A)
【文献】 特表2017−517177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/04
H04L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースバンド周波数で同相デジタルベースバンド信号及び直交位相デジタルベースバンド信号を生成するベースバンドインターフェースと、
前記ベースバンド周波数を所定の周波数範囲を有する第1の無線周波数(RF)にアップコンバートするデジタルアップコンバート段と、
ノイズシェーピング及びノイズ量子化プロセスに基づき前記デジタルアップコンバート段でアップコンバートされたアップ段信号を変調するように構成されたNビットMバンドΔΣ変調器であって、ノイズシェーピングを含む信号と量子化ノイズを含むパルス波形とを生成するように構成されている、MバンドΔΣ変調器と、
前記量子化ノイズを含むパルス波形の位相を整列させる遅延レジスタと、
極性が変換されたノイズキャンセル信号を生成する、前記量子化ノイズを含むパルス波形及び前記ノイズシェーピングを含む信号を受信するように構成されたノイズキャンセラと、
量子化ノイズを含む遅延したパルス波形を所定の電力レベルまで増幅するスイッチモード電力増幅器(SMPA)と、
前記ノイズキャンセル信号を所定の電力レベルまで増幅する線形電力増幅器(線形PA)と、
量子化ノイズを含む増幅された遅延したパルス波形と増幅されたノイズキャンセル信号とを結合することにより送信信号を生成するように結合する電力結合器と、
前記送信信号を送信するアンテナと、
を備え、
前記ノイズキャンセラは、
第1の入力ポート及び第2の入力ポートを有する比較器であって、前記第1の入力ポートは前記量子化ノイズを含むパルス波形を受信するように構成され、前記第2の入力ポートは前記ノイズシェーピングを含む信号を受信するように構成され、前記比較器は、前記ノイズシェーピングを含む信号から前記量子化ノイズを含むパルス波形を減算して、前記量子化ノイズを含むパルス波形のノイズ成分を抽出するように構成される、比較器と、
前記ノイズ成分にノイズ伝達関数を適用するノイズ伝達関数(NTF)ブロックと、
NTFノイズ信号をNビットで量子化することにより、Nビット量子化ノイズ信号を生成するように構成された第2の量子化器であって、Nが自然数である、第2の量子化器と、
量子化されたNTFノイズ信号の極性を反対の極性に反転させ、前記反転した量子化されたNTFノイズ信号を前記ノイズキャンセル信号として前記線形電力増幅器に出力するように構成された極性変換器と、
を備える、デジタル送信機。
【請求項2】
前記Nは2以上である、請求項に記載のデジタル送信機。
【請求項3】
前記第2の量子化器は、均一分布レベル及び不均一分布レベルのうちの一方を生成する、請求項に記載のデジタル送信機。
【請求項4】
前記均一分布レベル及び前記不均一分布レベルは、ビットの数を減少させるように選択される、請求項に記載のデジタル送信機。
【請求項5】
前記電力結合器は、前記SMPAに組み込まれている、請求項に記載のデジタル送信機。
【請求項6】
前記電力結合器は、前記アンテナに組み込まれている、請求項に記載のデジタル送信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には、量子化ノイズを低減させるデジタル送信機(TX)に関し、より詳細には、量子化ノイズキャンセラを有するデジタルTXに関する。
【背景技術】
【0002】
この数年間、全デジタル送信機(ADT:All-Digital Transmitters)の概念は、それが、一体化され、再構成可能で迅速なマルチバンド及びマルチスタンダード送信機を高効率かつ柔軟な方法で設計することができるようになったため、研究団体及び業界団体両方からかなりの注目を集めてきた。
【0003】
通常、高信頼性ワイヤレス通信において、到着したデジタル信号を或る特定の振幅まで効率的に増幅するために、スイッチモードPA(SMPA)が使用される。SMPAの入力次第で、電力符号化及びデジタル変調の両方を、デジタル領域において高い柔軟性で実施することができる。一般に、アンテナを介して放出される前に帯域外スペクトル規制を満たすように、スイッチモード電力増幅器(SMPA)の出力信号をデジタル波形からアナログ波形に再構成するために、バンドパスフィルタが必要とされる。しかしながら、電力符号化の基礎をなす量子化プロセスは高度に非線形であり、したがって、著しい量の帯域内歪み及び帯域外歪みが発生するため、送信機フロントエンド全体の設計においてはそれらを考慮しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、量子化ノイズを低減させるために、改善されたデジタルTXを提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
いくつかの実施の形態は、シングルバンドシナリオ及びマルチバンドシナリオ両方に対して好適な、アナログフィルタのない全デジタルRF送信機の設計のための新規の手法を実現することができる、という認識に基づく。場合によっては、デジタルで推定された帯域外量子化ノイズをアナログでキャンセルする全体的な目的で、フィードフォワード技法の実施を目標とすることができる。
【0006】
いくつかの実施の形態によれば、送信信号の量子化ノイズを低減させるノイズキャンセラは、第1の入力ポート及び第2の入力ポートを有する比較器であって、第1の入力ポートは第1の量子化器の入力信号を受信し、第2の入力ポートは第1の量子化器の出力信号を受信し、第1の量子化器の入力信号及び出力信号は、第1の量子化器の入力信号のノイズ成分を抽出するように減算される、比較器と、入力信号のノイズ成分にノイズ伝達関数を適用してノイズ伝達関数(NTF)ノイズ信号を生成するNTFブロックと、NTFノイズ信号の極性を反対の極性に反転させる極性変換器と、反転されたNTFノイズ信号をNビットで量子化することにより、Nビット量子化ノイズ信号を生成する第2の量子化器であって、Nは自然数である、第2の量子化器とを備える。
【0007】
さらに、本開示の一実施の形態は、ベースバンド周波数でデジタルベースバンド信号を生成するベースバンドインターフェースと、ベースバンド周波数を所定の周波数範囲を有する第1の無線周波数(RF)にアップコンバートするデジタルアップコンバートと、ノイズシェーピング及びノイズ量子化プロセスに基づきアップコンバートされた信号を変調するMバンド(シングルバンド又はマルチバンド)ΔΣ変調器と、変調されたアップコンバートされた信号の位相を整列させる遅延レジスタと、極性が変換されたノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセラと、位相整列した変調されたアップコンバートされた信号を所定の電力レベルまで増幅するスイッチモード電力増幅器(SMPA)と、ノイズキャンセル信号を所定の電力レベルまで増幅する線形電力増幅器(線形PA)と、増幅された位相整列した変調されたアップコンバートされた信号と増幅されたノイズキャンセル信号とを結合することにより送信信号を生成するように結合する電力結合器と、送信信号を送信するアンテナとを備える、デジタル送信機を提供し、ノイズキャンセラは、第1の入力ポート及び第2の入力ポートを有する比較器であって、第1の入力ポートは第1の量子化器の入力信号を受信し、第2の入力ポートは第1の量子化器の出力信号を受信し、第1の量子化器の入力信号及び出力信号は、第1の量子化器の入力信号のノイズ成分を抽出するように減算される、比較器と、入力信号のノイズ成分にノイズ伝達関数を適用してノイズ伝達関数(NTF)ノイズ信号を生成するNTFブロックと、NTFノイズ信号の極性を反対の極性に反転させる極性変換器と、反転されたNTFノイズ信号をNビットで量子化することにより、Nビット量子化ノイズ信号を生成する第2の量子化器とを備え、Nは自然数である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態による帯域外ノイズキャンセラ機能を備える全デジタル送信機のブロック図を例示する一例の図である。
図2】関連技術の帯域外ノイズキャンセラのブロック図である。
図3】本開示の実施形態による帯域外NCのブロック図を例示する一例の図である。
図4】本開示の実施形態によるデュアルバンドΔΣMアーキテクチャのブロック図を例示する一例の図である。
図5】本開示の実施形態による、1バンドにつき21.5MHzで、16−QAMに対してNCあり及びNCなしでシミュレーションされた出力スペクトルを例示する一例の図である。
図6】本開示の実施形態による、異なるレベルの量子化誤差信号E(z)に対してシミュレーションされた出力スペクトルを例示する一例の図である。
図7】本開示の実施形態による、1バンドにつき21.5MHzで、16−直交振幅変調(QAM)に対してNCあり及びNCなしの場合に対するシミュレーションされた帯域内FoM(性能指数)及び帯域外FoMを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記で明らかにされた図面は、ここに開示されている実施形態を記載しているが、この論述において言及されるように、他の実施形態も意図されている。この開示は、限定ではなく代表例として例示の実施形態を提示している。ここに開示されている実施形態の原理の範囲及び趣旨に含まれる非常に多くの他の変更及び実施形態を当業者は考案することができる。
【0010】
本発明の様々な実施形態は、図面を参照して以下で説明される。図面は縮尺どおり描かれておらず、類似の構造又は機能の要素は、図面全体にわたって同様の参照符号によって表されることに留意されたい。図面は、本発明の特定の実施形態の説明を容易にすることのみを意図することにも留意されたい。図面は、本発明の網羅的な説明として意図されるものでもなければ、本発明の範囲を限定するものとして意図されるものでもない。
【0011】
以下の説明は、例示的な実施形態のみを提供し、本開示の範囲も、適用範囲も、構成も限定することを意図していない。むしろ、例示的な実施形態の以下の説明は1つ以上の例示的な実施形態を実施することを可能にする説明を当業者に提供する。添付の特許請求の範囲に開示された主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく要素の機能及び配置に行うことができる様々な変更が意図されている。
【0012】
以下の説明では、実施形態の十分な理解を提供するために、具体的な詳細が与えられる。しかしながら、当業者は、これらの具体的な詳細がなくても実施形態を実施することができることを理解することができる。例えば、開示された主題におけるシステム、プロセス、及び他の要素は、実施形態を不必要な詳細で不明瞭にしないように、ブロック図形式の構成要素として示される場合がある。それ以外の場合において、よく知られたプロセス、構造、及び技法は、実施形態を不明瞭にしないように不必要な詳細なしで示される場合がある。
【0013】
また、個々の実施形態は、フローチャート、フロー図、データフロー図、構造図、又はブロック図として描かれるプロセスとして説明される場合がある。フローチャートは、動作を逐次的なプロセスとして説明することができるが、これらの動作の多くは、並列又は同時に実行することができる。加えて、これらの動作の順序は、再配列することができる。プロセスは、その動作が完了したときに終了することができるが、論述されない又は図に含まれない追加のステップを有する場合がある。さらに、特に説明される任意のプロセスにおける全ての動作が全ての実施形態において行われ得るとは限らない。プロセスは、方法、関数、手順、サブルーチン、サブプログラム等に対応することができる。プロセスが関数に対応するとき、その関数の終了は、呼び出し側関数又はメイン関数へのその機能の復帰に対応することができる。
【0014】
以下、ΔΣMの量子化ノイズのデジタル推定を通して帯域外NCの複雑度を低減させる、量子化ノイズを低減させる新たな最適化技法について説明する。本開示は、この低複雑度技法が、バンドの数に関わらず、主要なFoMに関する著しい改善を論証すると同時に、アナログフィルタのないADTをもたらすことができることを論証するシミュレーションを提供する。
【0015】
本開示のいくつかの実施形態は、デジタル送信機は、ベースバンド周波数でデジタルベースバンド信号を生成するベースバンドインターフェースと、ベースバンド周波数を所定の周波数範囲を有する第1の無線周波数(RF)にアップコンバートするデジタルアップコンバート段と、ノイズシェーピング及びノイズ量子化プロセスに基づきアップコンバートされた信号を変調するMバンドΔΣ変調器と、変調されたアップコンバートされた信号の位相を整列させる遅延レジスタと、極性が変換されたノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセラと、位相整列した変調されたアップコンバートされた信号を所定の電力レベルまで増幅するスイッチモード電力増幅器(SMPA)と、ノイズキャンセル信号を所定の電力レベルまで増幅する線形電力増幅器(線形PA)と、増幅された位相整列した変調されたアップコンバートされた信号と増幅されたノイズキャンセル信号とを結合することにより送信信号を生成するように結合する電力結合器と、送信信号を送信するアンテナとを備え、ノイズキャンセラは、第1の入力ポート及び第2の入力ポートを有する比較器であって、第1の入力ポートは第1の量子化器の入力信号を受信し、第2の入力ポートは第1の量子化器の出力信号を受信し、第1の量子化器の入力信号及び出力信号は、第1の量子化器の入力信号のノイズ成分を抽出するように減算される、比較器と、入力信号のノイズ成分にノイズ伝達関数を適用してノイズ伝達関数(NTF)ノイズ信号を生成するNTFブロックと、NTFノイズ信号の極性を反対の極性に反転させる極性変換器と、反転されたNTFノイズ信号をNビットで量子化することにより、Nビット量子化ノイズ信号を生成する第2の量子化器とを備え、Nは自然数である、という認識に基づく。
【0016】
図1は、本開示のいくつかの実施形態による全デジタル送信機(ADT)100のアーキテクチャを例示する一例である。ADT100は、ベースバンドインターフェース10(ベースバンドの数を示す#1〜#M)、デジタルアップコンバート段20(#1〜#M)、MバンドΔΣ(デルタシグマ)変調器30、遅延レジスタ40、帯域外ノイズキャンセラ50、スイッチモード電力増幅器(SMPA)60、線形電力増幅器61(線形PA)、電力結合器70及びアンテナ80を備えることができる。ベースバンドインターフェース10の信号I(同相)及びQ(直交位相)は、それぞれデジタルアップコンバート段20に入力される。デジタルアップコンバート段20におけるアップコンバートされた信号は、MバンドΔΣ変調器30によって受信され、MバンドΔΣ変調器30は、ノイズシェーピングを含む信号Y(Y(z))とパルス波形Y(量子化ノイズを含むΔΣMのパルス波形Y(z))とを生成する。さらに、MバンドΔΣ変調器30は、信号Yを帯域外ノイズキャンセラ50に送信し、パルス波形Yを遅延レジスタ40及び帯域外ノイズキャンセラ50にそれぞれ送信する。帯域外ノイズキャンセラ50は、信号Yとパルス波形Yとを利用することにより、信号Yから量子化ノイズを抽出することによって第2の信号E(z)を生成し、第2の信号E(z)を線形PA61に送信する。この場合、本開示の実施形態により、線形PA61に第2の信号E(z)を送信する前に、帯域外ノイズキャンセラ50に含まれる極性変換器(図示せず)によって、極性変換が実施されることが留意されるべきである。電力結合器70において、SMPA60からの増幅されたデジタル信号Pと、線形PA61からの増幅された第2の信号E(z)とが、信号Yから量子化ノイズが実質的に低減し、低ノイズ出力信号がアンテナ80を介して送信されるように、結合される。
【0017】
図に見られるように、SMPA60は、到来デジタル信号(パルス波形Y)を、高信頼性ワイヤレス通信のために或る特定の振幅を有するデジタル信号Pに効率的に増幅するために使用される。デジタル信号Pは、設計の詳細に基づいて2レベル又はマルチレベルのいずれかとすることができる。デジタル信号Pは、制御信号としてSMPA60をオン及びオフに切り替える矩形波形である。これらのデジタル信号は、電力符号化段(図示せず)を通して生成され、ベースバンドインターフェース10のベースバンドI(同相)/Q(直交)信号から無線周波数(RF)信号に変調される。SMPA60の入力次第で、電力符号化及びデジタル変調の両方をデジタル領域において、高い柔軟性で実施することができる。
【0018】
(量子化ノイズキャンセレーションアーキテクチャ)
本開示のいくつかの実施形態に従って、以下、量子化ノイズキャンセレーションアーキテクチャについてより詳細に説明する。図2は、関連技術による帯域外ノイズキャンセラ200のブロック図である。帯域外ノイズキャンセラ200は、デジタルダウンコンバータ210、減算器220及び221、電力増幅器230及び231、並びにNビットMバンドΔΣ変調器240を備える。
【0019】
図3は、本開示のいくつかの実施形態による帯域外NC300のブロック図を例示する一例である。本開示の帯域外NC300の回路構成は、関連技術の帯域外ノイズキャンセラ200の回路構成よりはるかに単純であることが留意されるべきである。これは、よりコストの低い製造と、送信機回路における電力消費量の低減とに対して多大な利点であり得る。
【0020】
帯域外NC300は、比較器310、MバンドΔΣノイズ伝達関数(NTF)モジュール320、極性変換器モジュール330及びNビット量子化器モジュール350を備える。MバンドΔΣノイズ伝達関数(NTF)モジュール320の前に配置されている比較器310は、MバンドΔΣ変調器30から信号Y及びパルス波形Yを受信し、データ処理を実施して、信号Yに含まれるノイズ成分を抽出する。MバンドΔΣモジュール320は、抽出したノイズ成分にMバンドΔΣノイズ伝達関数を適用する。これにより、量子化ノイズを表す変数を計算することが可能になる。極性変換器モジュール330では、MバンドΔΣNTFモジュール320によって生成された変数の極性が、反対の極性に変換される。さらに、Nビット量子化器モジュール350は、変換された変数のレベルの数をNビットまで低減させ、Nビット量子化された変数は、帯域外NC300の出力信号Sncとして帯域外NC300から出力される。場合によっては、極性変換器330は、回路設計計画に従ってNビット量子化器350の後に配置することができる。図1に例示するように、パルス波形Yは、遅延レジスタ40を介して遅延され、SMPA60によって増幅され、電力結合器70に送信される。さらに、出力信号Sncは、線形PA61及び電力結合器70に送信され、電力結合器70は、SMPA60からの信号と線形PA61からの信号とを結合する。そして、電力結合器70からの結合信号は、アンテナ80を介して送信される。
【0021】
したがって、本開示のいくつかの実施形態は、ベースバンド周波数でデジタルベースバンド信号を生成するベースバンドインターフェース10と、ベースバンド周波数を所定の周波数範囲を有する無線周波数(RF)にアップコンバートするデジタルアップコンバート段20と、ノイズシェーピング及びノイズ量子化プロセスに基づきアップ段信号を変調するMバンドΔΣ変調器30と、変調されたアップ段信号の位相を整列させる遅延レジスタ40と、極性が変換されたノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセラ50(帯域外NC300)と、位相整列した変調されたアップ段信号を所定の電力レベルまで増幅するスイッチモード電力増幅器60(SMPA60)と、ノイズキャンセル信号を所定の電力レベルまで増幅する線形電力増幅器61(線形PA61)と、増幅された位相整列した変調されたアップ段信号と増幅されたノイズキャンセル信号とを結合することにより送信信号を生成するように結合する電力結合器70と、送信信号を送信するアンテナ80とを備える、デジタル送信機100を提供する。
【0022】
電力結合器70は、結合器回路、若しくはアンテナインターフェースを用いる空中での空間的結合を使用することによって実装することができ、又は、電力増幅器アーキテクチャが、Hブリッジトポロジー等、増幅及び結合の両方を有することができる。例えば、電力結合器70は、SMPA60又はアンテナ80に組み込むことができる。これにより、キャンセラのレベルの数を低減させるという利点が提供される。さらに、電力結合器70は、アンテナ80と統合することができる。上記構成を使用することにより、キャンセラのレベルの数が低くなる。その結果、線形PA61及び電力結合器70を除去することができ、より単純な回路構成が可能となり、電力消費量が低減する。さらに、2つの波形の間の結合は、SMPAにおいて(拡張Hブリッジ等により)行うことができる。これもまた、より単純な回路を設計し、回路における電力消費量を低減させるために有効である。
【0023】
場合によっては、ノイズキャンセラ50は、第1の入力ポート及び第2の入力ポートを有する比較器310を含む帯域外NC300とすることができ、ここで、第1の入力ポートは、第1の量子化器の入力信号を受信し、第2の入力ポートは、第1の量子化器の出力信号を受信する。さらに、第1の量子化器は、MバンドΔΣ変調器30とすることができる。第1の量子化器の入力信号及び出力信号は、第1の量子化器の入力信号のノイズ成分を抽出するように減算される。帯域外NC300は、入力信号のノイズ成分にノイズ伝達関数を適用してノイズ伝達関数(NTF)ノイズ信号を生成する、NTFブロック(又はモジュール)320を更に備える。帯域外NC300は、NTFノイズ信号の極性を反対の極性に反転させる極性変換器330と、変換されたNTFノイズ信号をNビット(Nは自然数)で量子化することによりNビット量子化ノイズ信号を生成する第2の量子化器350とを更に備える。第2の量子化器350は、Nビット量子化器350と呼ぶことができる。
【0024】
包絡線変動信号を低分解能等価信号に変換するために、ΔΣMは、信号オーバーサンプリングと、量子化と、量子化誤差をシェーピングするためのフィードバックループとを採用することができる。特に、量子化器は、(固有に量子化ノイズを追加する)出力レベルの数を低減させ、オーバーサンプラは、全てのスペクトルに対して量子化ノイズを分散させ、フィードバックループは、帯域内ノイズを最小限にするために、誤差のシェーピングを担当する。これを達成するために、量子化ノイズに適用されるノイズの伝達関数(NTF(z))は、帯域内完全性を維持しなければならない。この種の変調器をモデル化する正式な方法は、以下のようにノイズ源(Eq(z))による非線形量子化器のモデル化に基づき、
【数1】
式中、X(z)は包絡線変動到来信号であり、STF(z)は入力信号に適用される伝達関数である。このため、この一般方程式に基づき、以下のように、ΔΣMの出力波形に提示された量子化ノイズを表す第2の信号(E(z))を定義することができる。
【数2】
【0025】
したがって、量子化処置の間、E(z)がΔΣMの量子化器に導入されることを考慮すると、図3に例示するように、単に量子化器の入力と出力との比較をデジタルフィルタリングすることにより、この変数を計算することができる。
【0026】
推定後、ADT(図1)を使用することができ、すなわち、粗Nビット量子化器がレベルの数を低減させ、線形増幅器が、増幅されたパルス波形と結合される前に信号電力レベルを増大させる。その後、帯域外ノイズは著しく低減することになり、したがって、固定のフィルタリング機構は不要である。この技法のいくつかの利点について示す。
【0027】
第1に、この提案する技法の複雑度は、関連技術によるもの(図2)と比較すると著しく低い。第2に、1(シングル)バンドからMバンドに移ることは単にデジタルFIR/無限インパルス応答(IIR)フィルタの複雑度に影響を与えるのみであるという意味で、これはスケーラブルな技法である。第3に、変調器のサンプリングレートに対する悪影響がない。言い換えれば、2つの分岐の間の適切な同時性を確保するためにパルス波形信号をデジタルで遅延させるとすれば、ロジックを高速化するために、デジタルフィルタにパイプラインレジスタを含めることができる。最後に、余分なΔΣMは不要であり、これは、スペクトルの帯域外ノイズシェーピングの予測を不正確にする余分な量子化ノイズが生成されないため、主要な利点である。
【0028】
(シミュレーション結果)
(実施態様)
図4は、本開示の実施形態によるデュアルバンドΔΣMアーキテクチャ400のブロック図を例示する一例である。マルチバンドシナリオにおける量子化ノイズ低減技法を検証するために、アーキテクチャ例としての出発点としてΔΣMのアーキテクチャ400を使用した。デュアルバンドΔΣMアーキテクチャ400は、比較器410及び411、ループ伝達モジュール420及び421、加算器モジュール430、1ビット量子化器440を備える。アーキテクチャ400は、バンドの各々を独立して配置することができるため選択することができる。
【0029】
ランダムノイズ信号(Eq(z))によって量子化ノイズをモデル化することにより、デュアルバンド変調器に対して、以下の伝達関数を導出することができる。
【数3】
ここで、
【数4】
及び、N=2である。
【0030】
しかしながら、ループ伝達関数(L(z))は、オンラインベースのADTにおいて後の積分を危うくする非常に大きい固有のクリティカルパスに起因して、既知の共振器のカスケードフィードバックフォーム(CRFB:Cascade of Resonators Feedback Form)にならなかった。したがって、変調器のサンプリングレートを高速化するために、ノッチ周波数を定義するために2つの複素零点を用いるとともに、併せてノイズ伝達関数(NTF)の最大利得を制御するために2つの複素極を用いて、低複雑度ループフィルタを設計した。
【0031】
このため、1バンドあたりのNTFは以下のように容易に導出することができる。
【数5】
ここで、
【数6】
である。rは、各零点とその対応する極との間の距離、最終的に、NTFの利得を制御する。同じ理論に従い、ループフィルタは以下のように定義することができる。
【数7】
【0032】
最後に、グローバルNTFもまた、以下のように直接的に導出することができる。
【数8】
ここで、
【数9】
及び
【数10】
である。
【0033】
提案した技法を評価するために、6.25GSpsのサンプリングレートで、856MHz及び1450MHzで40MHz総計帯域幅デュアルバンド伝送においてシミュレーションを行った。
【0034】
図5は、信号E(z)が、パルス波形(P(z))に提示された量子化ノイズを正確に推定し予測することができることを論証している。さらに、帯域外スペクトル及び性能指数(FoM)(ACPR:隣接チャネル電力比等)の改善を可能にする。
【0035】
E(z)は、残留帯域内量子化ノイズも推定するため、帯域内スペクトル(NMSE、信号対雑音比(SNR))もまたわずかに向上させることができ、したがって、より高い帯域幅の信号がもたらされる。
【0036】
図6は、異なる出力の結合の後に、帯域外ノイズを正しく推定することができることを論証している。さらに、拡大図に見ることができるように、誤差信号におけるレベルの数は、システムのノイズフロアを規定し、最終的に、レベルの数が多いほど、全体的なFoMが向上する。
【0037】
図7は、異なる量子化レベルに対する得られたNMSE及びACPR FoMを要約し、シミュレーションにより、1バンドにつき21.5MHzで、16−直交振幅変調(QAM)に対してNCあり及びNCなしで本発明の技法の帯域内FoM及び帯域外FoMがもたらされることを示す。予期されたように、システムの性能は著しく向上する。5ビットNCでは、NMSEはNCなしのシナリオよりわずかに低い(粗量子化によって加えられるノイズフロアがより高いことに起因する)が、出力スペクトルは略明瞭であり、これによって、フィルタリング要件、干渉問題が著しく低減するとともに、より高い帯域幅の適応が可能になる。
【0038】
本開示のいくつかの実施形態によれば、ΔΣMの量子化ノイズのデジタル推定を通して、帯域外NCの複雑度を低減させるという目的のために、新たな最適化を論証することができる。行ったシミュレーションにより、この低複雑度技法が、周波数バンドの数に関わらず、主要なFoMに関する著しい改善を論証すると同時に、アナログフィルタのないADTをもたらすことができることが論証される。
【0039】
さらに、開示された主題の実施形態は、少なくとも一部は手動又は自動のいずれかで実施することができる。手動実施又は自動実施は、マシン、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェア、マイクロコード、ハードウェア記述言語、又はそれらの任意の組み合わせを用いて実行することもできるし、少なくとも援助することができる。ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェア又はマイクロコードで実施されるとき、必要なタスクを実行するプログラムコード又はプログラムコードセグメントは、マシン可読媒体に記憶することができる。プロセッサが、それらの必要なタスクを実行することができる。
【0040】
回路はシステムと称される場合があり、PWM(パルス幅変調)搬送波信号はPWM参照信号と称される場合があり、PWM搬送波周波数はPWM参照周波数と称される場合があり、PWM閾値は定PWM参照信号と称され得ることに留意されたい。
【0041】
本発明の上記の実施形態は数多くの方法のいずれかにおいて実現することができる。例えば、それらの実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア又はその組み合わせを用いて実現することができる。ソフトウェアにおいて実現されるとき、そのソフトウェアコードは、単一のコンピュータ内に設けられるにしても、複数のコンピュータ間に分散されるにしても、任意の適切なプロセッサ、又はプロセッサの集合体において実行することができる。そのようなプロセッサは集積回路として実現することができ、集積回路コンポーネント内に1つ以上のプロセッサが含まれる。しかしながら、プロセッサは、任意の適切な構成の回路を用いて実現することができる。
【0042】
また、本発明の実施形態は方法として具現することができ、その一例が提供されてきた。その方法の一部として実行される動作は、任意の適切な方法において順序化することができる。したがって、例示的な実施形態において順次の動作として示される場合であっても、例示されるのとは異なる順序において動作が実行される実施形態を構成することもでき、異なる順序は、いくつかの動作を同時に実行することを含むことができる。
【0043】
請求項要素を修飾するために特許請求の範囲において「第1の」、「第2の」のような序数の用語を使用することは、それだけで、或る請求項要素が別の請求項要素よりも優先度が高いこと、優位であること、若しくは上位にあることを暗示するのでも、又は方法の動作が実行される時間的な順序を暗示するのでもなく、請求項要素を区別するために、或る特定の名称を有する1つの請求項要素を(序数用語を使用しなければ)同じ名称を有する別の要素から区別するラベルとして単に使用される。
【0044】
本発明について、好ましい実施形態の例を用いて説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で他の様々な適合及び変更を行うことができることが理解されるべきである。
【0045】
したがって、添付の特許請求の範囲の目的は、本発明の真の趣旨及び範囲内にあるこうした変形及び変更の全てを包含することである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7