特許第6964830号(P6964830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6964830
(24)【登録日】2021年10月21日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】磁気センサ装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20211028BHJP
   G01R 33/09 20060101ALN20211028BHJP
   G07D 7/00 20160101ALN20211028BHJP
   G07D 7/04 20160101ALN20211028BHJP
   H01L 43/08 20060101ALN20211028BHJP
【FI】
   G01R33/02 Q
   !G01R33/09
   !G07D7/00
   !G07D7/04
   !H01L43/08
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2021-537664(P2021-537664)
(86)(22)【出願日】2020年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2020027823
(87)【国際公開番号】WO2021024758
(87)【国際公開日】20210211
【審査請求日】2021年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2019-144767(P2019-144767)
(32)【優先日】2019年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】尾込 智和
(72)【発明者】
【氏名】山内 一輝
【審査官】 島田 保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/156793(WO,A1)
【文献】 登録実用新案第3105238(JP,U)
【文献】 特許第6316429(JP,B2)
【文献】 特許第6300908(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
G01R 33/09
G07D 7/00
G07D 7/04
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検知物に交差する磁界を生成する磁界発生部材と、
前記被検知物の搬送方向に直交する方向を長手方向として前記長手方向にライン上に配置された磁気抵抗効果素子と、を備え、
前記磁気抵抗効果素子は、第1の抵抗体と第2の抵抗体とが、前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体との前記搬送方向の間隔の中心が前記磁界発生部材の前記搬送方向における中心位置に位置するように配置された構成を有し、
前記磁界発生部材は、前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体に、前記被検知物の搬送方向の成分と前記長手方向の成分とを有する磁界を印加し、
前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体とは、前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体の一端から前記長手方向の他端に向かうにつれ、前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体の間隔が広がっていく配置であり、
少なくとも2組の前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体が、前記磁界発生部材の前記長手方向に直交する軸に線対称に配置されている、
磁気センサ装置。
【請求項2】
前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体の組が、前記磁界発生部材の前記長手方向に直交する短手方向の中心を通り前記長手方向に沿った軸に線対称に配置されている、
請求項1に記載の磁気センサ装置。
【請求項3】
前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体の対で構成される前記磁気抵抗効果素子の組は、全ての組が前記磁界発生部材の前記長手方向の中心で該長手方向に直交する軸である中心軸に線対称に配置されている、
請求項1又は2に記載の磁気センサ装置。
【請求項4】
前記磁界発生部材の前記長手方向に延在する前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体は、前記磁界発生部材の前記長手方向の中心軸に近い側の前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体が前記中心軸となす角度が、前記中心軸に遠い側の前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体が前記中心軸となす角度以下になるように配置されている、
請求項1から3の何れか1項に記載の磁気センサ装置。
【請求項5】
前記磁界発生部材の前記長手方向に延在する前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体は、前記磁界発生部材の前記長手方向の中心軸に近い側の前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体の幅が、前記中心軸に遠い側の前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体の幅よりも小さくなるように配置されている、請求項1から4の何れか1項に記載の磁気センサ装置。
【請求項6】
前記磁界発生部材の前記長手方向に延在する前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体は、前記磁界発生部材の前記長手方向の中心軸に近い側の前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体の厚みが、前記中心軸に遠い側の前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体の厚みよりも厚くなるように配置されている、請求項1から5の何れか1項に記載の磁気センサ装置。
【請求項7】
前記磁界発生部材は、その前記長手方向の中心軸を基準に、反対方向の磁界を前記第1の抵抗体と前記第2の抵抗体に印加する、
請求項1から6の何れか1項に記載の磁気センサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁束密度に対して抵抗値が変化する特性を有している磁気抵抗効果素子を複数使用した磁気センサ装置が知られている。例えば、特許文献1には、複数の磁気抵抗効果素子を使用して、紙幣等の紙葉状媒体に含まれる磁性パターンを多チャンネルで検出する磁気センサ装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の磁気センサ装置は、検出感度を向上するために、搬送方向(以下、X軸方向)に隣接した2つの磁気抵抗効果素子をブリッジ接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6316429号公報
【特許文献2】特許第6300908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気抵抗効果素子は印加磁束−抵抗値特性がヒステリシス特性を示す。従って、紙葉状媒体の読取後にブリッジを組んだ2つの磁気抵抗効果素子のヒステリシスの影響が異なると、ヒステリシスの影響の差が分圧比に影響し、安定した出力信号を得ることが困難となる。
【0006】
この問題に対処するため、特許文献1の図9に記載の技術では、磁気抵抗効果素子のペアを、読取幅方向の一端側から他端側に向かうにつれて間隔が広がるように配置している。このような構成とすることにより、永久磁石から印加されるX軸方向の磁界により、磁気抵抗効果素子の長手方向、即ち、非感磁方向に安定してバイアス磁界を印加し、ヒステリシス特性による抵抗値の変動を抑えて、安定した出力を得ることができる。
【0007】
しかし、この構成の場合、Y軸方向のバイアス磁界Byが負の領域では、磁界Byの磁気抵抗効果素子の長手方向成分と、X軸方向のバイアス磁界Bxの磁気抵抗効果素子の長手方向成分と、が打ち消し合ってしまう。このため、磁気抵抗効果素子の長手方向に印加される磁界が弱くなり、出力信号の安定性が損なわれてしまう。
【0008】
また、上記課題を解消するため、特許文献2では、磁石の長手方向の端部に微小磁石を設け、ライン方向に並べて実装された各異方性磁気抵抗効果素子の非感磁方向に強制的に同じ方向にバイアス磁界を印加する構成を開示する。しかしながら、特許文献2の構成では、バイアス磁界を与える磁石の構造が複雑になる。
【0009】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであり、簡単な構成で且つ安定した出力を取得することができる磁気センサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本開示に係る磁気センサ装置は、被検知物に交差する磁界を生成する磁界発生部材と、被検知物の搬送方向に直交する方向を長手方向として長手方向にライン上に配置された磁気抵抗効果素子と、を備える。磁気抵抗効果素子は、第1の抵抗体と第2の抵抗体とが、第1の抵抗体と第2の抵抗体との搬送方向の間隔の中心が磁界発生部材の搬送方向における中心位置に位置するように配置された構成を有する。磁界発生部材は、第1の抵抗体と第2の抵抗体に、被検知物の搬送方向の成分と長手方向の成分とを有する磁界を印加する。第1の抵抗体と第2の抵抗体とは、第1の抵抗体と第2の抵抗体の一端から長手方向の他端に向かうにつれ、第1の抵抗体と第2の抵抗体の間隔が広がっていく配置であり、少なくとも2組の第1の抵抗体と第2の抵抗体が、磁界発生部材の長手方向に直交する軸に線対称に配置されている。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、少なくとも2組の第1の抵抗体と第2の抵抗体が、磁界発生部材の長手方向に直交する軸に線対称に配置されている。このため、各抵抗体の長手方向に印加される磁界を考えたときに、磁界発生部材が印加する磁界の磁界発生部材の長手方向成分の向きによらず、磁界の搬送方向の成分と長手方向の成分とが足し合うことが可能となる。このため、簡単な構成で、抵抗体の長手方向に安定して磁界を印加し、ヒステリシスの影響を抑えて、安定した出力を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の実施の形態1に係る磁気センサ装置の被検知物の搬送方向に平行な断面図であり、図2のI−I線断面図
図2】実施の形態1に係る磁気センサ装置の、被検知物の挿排出方向から見た断面図であり、図1のII−II線断面図
図3A】実施の形態1に係るAMRチップの構成図であり、複数の磁気抵抗効果素子の対の配置図
図3B】実施の形態1に係るAMRチップの回路図
図4】実施の形態1に係る磁石が発生する磁界の分布図
図5図1における、磁気抵抗効果素子に印加されるY軸方向バイアス磁界Byの分布を示すグラフ
図6A図3Aに示す磁気抵抗効素子に印加される磁界の長手方向成分を説明する図
図6B図3Aに示す磁気抵抗効素子に印加される磁界の長手方向成分を説明する図
図6C図3Aに示す磁気抵抗効素子に印加される磁界の長手方向成分を説明する図
図7】本開示の実施の形態2に係る磁気センサ装置のAMRチップの上面図
図8図7に示すAMRチップ内の各磁気抵抗効果素子のY軸方向の位置とその長手方向に印加される磁界の強度の関係を示すグラフ
図9図7に示すAMRチップ内の各磁気抵抗効果素子のY軸方向の位置とその感度との関係を示すグラフ
図10A】本開示の実施の形態3における磁気センサ装置のAMRチップの上面図
図10B図10Aに示す磁気抵抗効果素子の向きの関係を示す図
図10C図10Aに示すAMRチップ内の各磁気抵抗効果素子のY軸方向の位置とその感度との関係を示すグラフ
図11】本開示の実施の形態4に係る磁気センサ装置のAMRチップの上面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態に係る磁気センサ装置について説明する。
なお、以下の説明において、被検知物の搬送方向、即ち、磁気センサ装置の短手方向をX軸方向、被検知物の搬送方向に直交する磁気センサ装置の長手方向、即ち読取幅方向をY軸方向、搬送面であるXY面に垂直な方向をZ方向と定義し、適宜参照する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る磁気センサ装置100の、Z−X断面図、図2は、磁気センサ装置100のY−Z断面図、図3は、磁気センサ装置100の異方性磁気抵抗効果素子チップの上面図であり、図1は、図2のI−I線断面、図2図1のII−II線断面に相当する。
【0015】
図示するように、磁気センサ装置100は、バイアス磁界を発生する磁石1と、磁気回路を形成するヨーク2a、2bと、磁界の変化を抵抗値の変化として出力する異方性磁気抵抗効果素子チップ3と、磁石1とヨーク2a、2bを収容する筐体4と、磁気をシールドする金属シールド板5と、磁気抵抗効果素子の抵抗値の変化を検出する回路基板6と、回路基板6の出力する検出信号を処理する信号処理回路基板7とを備える。
【0016】
磁石1は、Z軸方向にN極とS極の磁極を有し、Y軸方向に長く、X軸方向に短く形成された直方体状の永久磁石を含む。磁石1は、異方性磁気抵抗効果素子チップ3にバイアス磁界を印加する磁界生成部を形成する。
【0017】
ヨーク2aとヨーク2bは、それぞれ、鉄などの軟磁性体で板状に構成されている。ヨーク2aは、磁石1の上面に設置され、ヨーク2bは、磁石1の下面に、設置されている。ヨーク2aと2bは、磁石1の発生する磁束を通過させ、磁界生成部の一部を形成している。尚、ヨーク2a、2bは、必須の構成ではなく、必要に応じて配置すればよい。
【0018】
異方性磁気抵抗効果(Anisotropic MagnetoResistive effect)素子チップ3(以下、AMRチップ3)は、ヨーク2aの上面に配置され、印加された磁束の変化を抵抗値の変化として出力する。AMRチップ3の詳細については後述する。
【0019】
筐体4は、樹脂またはセラミックにより作製され、上面が開口した箱状に形成されており、磁石1とヨーク2a、2bを収容する。
【0020】
金属シールド板5は、回路基板6とAMRチップ3の被検知物50の搬送路側を被覆して、保護する。金属シールド板5は、それ自体は磁化することなく、磁力線を透過する。
【0021】
回路基板6は、AMRチップ3を囲んで、ヨーク2aの上面に載置されている。回路基板6は、AMRチップ3に、電源電圧VDDと接地電圧GNDを印加し、磁気抵抗効果素子の抵抗の変化を示す検出信号を出力する。
【0022】
信号処理回路基板7は、筐体4の下部に配置され、ケーブル8を介して回路基板6に接続され、検出信号を処理して、被検知物50を検知する。
【0023】
被検知物50は、磁気インクなどの磁性体が印字された紙幣などのシート状の被検知物である。被検知物50の搬送方向は、+X軸方向である。
【0024】
次に、AMRチップ3の詳細を図3を参照して説明する。
AMRチップ3は、そのX軸方向の中心を通って長手方向であるY軸方向に伸びる中心軸Cxを挟んで線対称に且つ仮想のライン上に配置された異方性磁気抵抗効果素子31aと31bの対を8対備える。
【0025】
異方性磁気抵抗効果素子31aと31bは、それぞれ、平面視で長辺と短辺とを有し、短辺方向が磁気感応方向、長辺方向が磁気非感応方向である。
【0026】
異方性磁気抵抗効果素子31aと31bは、第1の抵抗体と第2の抵抗体の一例である。異方性磁気抵抗効果素子31aと31bは、長手方向の中心軸Cxが磁石1とヨーク2a、2bを備える磁界発生部材のX軸方向における中心位置となるように配置される。異方性磁気抵抗効果素子31aと異方性磁気抵抗効果素子31bとは、長手方向の中心軸Cxに線対称に配置されている。
異方性磁気抵抗効果素子31aと31bは、Y軸方向に沿ってその間隔が拡大又は縮小するように配置されている。また、少なくとも2組の異方性磁気抵抗効果素子31aと31bの対は、磁石1とヨーク2a、2bを含む磁界発生部材のY軸方向の中心軸Cyに線対称に配置されている。中心軸Cyは、AMRチップ3のY軸方向の中心を通って短手方向であるX軸方向に伸びる中心軸である。
【0027】
具体的に、図3Aの例では、磁石1の長手方向に直交する仮想線Cy’よりも+Y軸側の領域には、Yが大きくなるに従って、間隔が広くなるように配置されている異方性磁気抵抗効果素子31aと31bが5対、即ち5組存在する。仮想線Cy’よりも−Y軸側の領域には、Yが大きくなるに従って、間隔が狭くなるように配置されている異方性磁気抵抗効果素子31aと31bが3対、即ち3組存在している。このため、3組の異方性磁気抵抗効果素子31aと31bずつ、計6組が、Y軸方向の中心軸Cyに線対称に配置されている。また、5つの組を含むグループAの異方性磁気抵抗効果素子31aと31bは、Yが増大するに従ってその間隔が拡大する。3つの組を含むグループBの異方性磁気抵抗効果素子31aと31bは、Yが増大するに従ってその間隔が縮小する。さらに、グループAに属す5組とグループBに属す3組の異方性磁気抵抗効果素子31aと31bと、は、Y軸方向の中心軸Cxに線対称に配置されている。
【0028】
図3Bに示すように、回路基板6により、各異方性磁気抵抗効果素子31aの一端には電源電圧VDDが印加される。各異方性磁気抵抗効果素子31bの一端には接地電圧GNDが印加される。異方性磁気抵抗効果素子31aと31bの他端は短絡され、各対の出力として出力信号線を介して回路基板6に出力される。
【0029】
このような構成において、電源電圧VDDは、異方性磁気抵抗効果素子31aと31bの抵抗値の比に応じて分圧され、出力信号線に検出信号として出力される。
【0030】
磁性体を有する被検知物50が搬送路を通過することにより、各異方性磁気抵抗効果素子31a、31bに印加される磁界が変化し、それにより、その抵抗値が変化して、分圧比が変化することで、検出信号の電圧が変化する。回路基板6は、検出信号を信号処理回路基板7に伝達し、信号処理回路基板7は、検出信号を処理することにより、被検知物50を検出することが可能となる。
【0031】
次に、上述の磁気センサ装置100において、異方性磁気抵抗効果素子31a、31bにバイアス磁界を印加する構成について説明する。
【0032】
図4は、磁石1とヨーク2a、2bを含む磁界生成部が出力する磁力線の分布を示す図である。なお、図4は磁力線の分布を説明するために必要な構成要素を記載し他は省略している。図4に示すように、XZ平面で見たとき、磁石1のN極から発した磁力線20は、ヨーク2aを通り、ヨーク2aのXY面及びYZ面から磁石1及びヨーク2aの外部へと放出される。磁石1及びヨーク2aの外部へと放出された磁力線20は、磁石1のS極側に設けられたヨーク2bのXY面及びYZ面からヨーク2bに進入する。ヨーク2bに進入した磁力線20は、ヨーク2bを通って、磁石1のS極に集約される。
【0033】
ここで、AMRチップ3のX軸方向の中心軸、即ち、長手方向の中心軸Cxは、磁石1及びヨーク2aのX軸方向の中心に配置される。同様に、AMRチップ3の長手方向に直交するY軸方向の中心軸、即ち、中心軸Cyは、磁石1及びヨーク2aのY軸方向の中心に配置される。
このため、磁力線20で示される磁界の、X軸方向の成分+Bxが異方性磁気抵抗効果素子31aのX軸方向バイアス磁界として作用している。反対に異方性磁気抵抗効果素子31b上では、−X軸方向の成分−Bxが異方性磁気抵抗効果素子31bのX軸方向バイアス磁界として作用する。この関係を図3Aおよび図4に示す。このバイアス磁界により、異方性磁気抵抗効果素子31aと31bの長手方向に安定して磁界が印加される。これにより、異方性磁気抵抗効果素子31aと31bのヒステリシス特性が抑制され、安定した出力を得ることができる。
【0034】
一方、Y軸方向については、X軸方向よりもAMRチップ3及び磁石1が長いため、おおよそ図5に示す強度分布を有する磁界が印加される。即ち、図3Aの平面図において、理論的には、中心軸Cyよりも+Y側、即ち右側のエリアでは、+Y軸方向の磁界が印加される。また、中心軸Cyよりも−Y側、即ち左側のエリアでは、−Y軸方向の磁界が印加される。しかし、中央部、即ち、図5における(a)の範囲では、Y軸方向バイアス磁界Byはほぼ”0”とみなすことができる。
【0035】
ここで、中心軸Cyよりも+Y軸側の端部である図5における(b)の範囲、即ち、図面右端部の配置について考える。図6Aに示すように、異方性磁気抵抗効果素子31aの長手方向の印加磁界は、X軸方向バイアス磁界Bxの異方性磁気抵抗効果素子31aの長手方向成分//Bxと、Y軸方向バイアス磁界Byの磁気抵抗効果素子31aの長手方向成分//Byと、の和となる。このため、異方性磁気抵抗効果素子31aの長手方向のバイアス磁界は、X軸方向バイアス磁界BxとY軸方向バイアス磁界Byの両方から安定的に供給される。
【0036】
次に、中心軸Cyよりも−Y軸側の端部である図5における(c)の範囲、即ち、図面左端部の配置について考える。図6Bに示すように、Y軸方向バイアス磁界Byは−Y軸方向を向く。一方、X軸方向バイアス磁界Bxは図6Aと同一である。領域(c)に位置する、Yが大きくなるに従って間隔が広くなるように配置されている異方性磁気抵抗効果素子31aと31bの場合を考える。この場合、異方性磁気抵抗効果素子31aの長手方向の印加磁界は、X軸方向バイアス磁界Bxの異方性磁気抵抗効果素子31aの長手方向の成分//Bxと、Y軸方向バイアス磁界Byの異方性磁気抵抗効果素子31aの長手方向の成分//Byとが逆向きとなって相殺し合う。このため、その差が長手方向のバイアス磁界となる。このため、異方性磁気抵抗効果素子31aの長手方向のバイアス磁界は、小さいものとなり、異方性磁気抵抗効果素子31aは、ヒステリシスの影響を受け易くなる。
【0037】
一方、図3Aの構成では、磁石1の長手方向に直交する仮想線Cy’よりも−Y軸側の領域には、Yが大きくなるに従って、間隔が狭くなるように配置されている異方性磁気抵抗効果素子31aと31bが3組存在している。
【0038】
この場合、図6Cに示すように、X軸方向のバイアス磁界をBx、−Y軸方向のバイアス磁界をByとすると、異方性磁気抵抗効果素子31aの長手方向の印加磁界の成分は、X軸方向バイアス磁界Bxの異方性磁気抵抗効果素子31aの長手方向の成分//Bxと、Y軸方向バイアス磁界Byの異方性磁気抵抗効果素子31bの長手方向の成分//Bxとの和となる。このため、図5における(c)の範囲で、Yが大きくなるに従って、間隔が狭くなるように配置されている異方性磁気抵抗効果素子31aと31bに関しては、異方性磁気抵抗効果素子31aの長手方向のバイアス磁界は、X軸方向バイアス磁界BxとY軸方向バイアス磁界Byにより安定的に供給される。
【0039】
以上のように、本実施の形態においては、磁石端の範囲において、Y軸方向のバイアス磁界Byの向きが正の領域でも負の領域でも、少なくとも一部の異方性磁気抵抗効果素子31aと31bの対に関しては、異方性磁気抵抗効果素子31aと31bの長手方向のバイアス磁界に関しては、X軸方向バイアス磁界BxとY軸方向バイアス磁界Byが足し合うことになる。全ての異方性磁気抵抗効果素子31aと異方性磁気抵抗効果素子31bの間隔が同方向に広がる、特許文献1の図9に記載された配置の場合と比較して、より広い領域、特に端部付近でも安定した出力を得ることができる。
【0040】
さらに、本実施の形態の磁気センサ装置100の感度分布は均一度が向上し、より均一な信号分布を取得できるようになる。
【0041】
(実施の形態2)
実施の形態1では、少なくとも2組以上である6組、即ち6対の異方性磁気抵抗効果素子31aと異方性磁気抵抗効果素子31bが中心軸Cyに線対称になる構成としている。ただしこの構成に限定されず、少なくとも2組以上が中心軸Cyに線対称に構成されていればよい。例えば、図7に示すように、中心軸CyよりもY軸方向正領域に存在する異方性磁気抵抗効果素子31aと異方性磁気抵抗効果素子31bの4つの組の全てと、中心軸CyよりもY軸方向負領域に存在する磁気抵抗効果素子31aと異方性磁気抵抗効果素子31bの4つの組の全て、計8組を中心軸Cyに対して線対称としてもよい。線対称とすることで、AMRチップ3を複数種類製造する必要がなく、AMRチップ3上に異方性磁気抵抗効果素子31a、31bを形成するための単一のパターン原版を製造するだけで済むため、コスト低減が可能となる。
この場合には、図8に示すように、各異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの長手方向のバイアス磁界B//は、Y軸方向の位置によらずほぼ均一となる。また、図9に示すように、感度もY軸方向の位置によらずほぼ均一となる。
【0042】
(実施の形態3)
実施の形態3に係る磁気センサ装置100について、図10を参照して説明する。なお、図10において、図3Aと同一もしくは同等の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
図10Aは実施の形態3における磁気センサ100のAMRチップ3の平面図である。この構成では、磁石1とヨーク2a、2bとを備える磁界発生部材の長手方向であるY軸方向の中間点に相当する中心軸Cyに近い位置ほど、異方性磁気抵抗効果素子31aと異方性磁気抵抗効果素子31bの成す角度が大きくなるように配置している。ただし、各異方性磁気抵抗効果素子31aと31bのサイズは同一である。この場合、図10Bに模式的に示すように、磁気抵抗効果素子31aに印加される磁界のY軸方向の位置による差が小さくなる。このため、図10Cに示すように感度分布の均一度が向上し、より均一な信号分布を取得できるようになる。
【0044】
(実施の形態4)
実施の形態4に係る磁気センサ装置について、図11を参照して説明する。
図11において、図3と同一もしくは同等の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0045】
図11に示すように、本実施の形態では、磁石1とヨーク2a、2bとを備える磁界発生部材の長手方向であるY軸方向の中間点に相当する中心軸Cyに近い側の異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの幅Wが、中心軸Cyに遠い側の異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの幅Wよりも小さい構造を有する。
【0046】
図11において、中心軸CyではY軸方向バイアス磁界Byの大きさは微小であるが、中心軸Cyから遠くなるに従って、Y軸方向バイアス磁界Byが大きくなり、異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの感度に影響を与え、感度が小さくなる。そこで、異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの幅Wを中心軸Cyから遠くなるに従って大きくすることにより、異方性磁気抵抗効果素子31、31bからの出力値は変化させないようにすることによって、見かけ上、磁気センサ装置100の感度分布の均一度が向上し、均一な信号分布が取得可能となる。
【0047】
(変形例)
図11に示すように異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの幅Wを位置に応じて変更する代わりに、或いは、幅Wを位置に応じて変更すると共に、異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの厚み、即ち、Z軸方向の大きさを位置に応じて変更するようにしてもよい。より具体的には、中心軸Cyに近い側の異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの厚みが、中心軸Cyに遠い側の異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの厚みよりも大きい、即ち、厚い構造とする。異方性磁気抵抗効果素子は、抵抗膜が薄い程感度が上がる特性を有する。従って、厚みを調整することにより、実施の形態4と同様の効果を得ることができる。
【0048】
実施の形態1〜4に示す構造を有する部分を磁気センサ装置の一部の領域のみとしてもよい。
【0049】
本明細書において、「対称」とは、厳密な対称を意味しない。実施の形態の磁気センサ装置100において、異方性磁気抵抗効果素子31aと31bは、中心軸Cyに対して磁気センサとして機能しうるレベルでの対称のズレ、製造上の誤差に基づく対称のズレ、他の機能を目的とする部分的な対称のズレが存在してもよい。ズレの内容も、サイズのズレ、位置のズレ、角度又は向きのズレなど、いずれでもよい。
【0050】
なお、以上の説明においては、異方性磁気抵抗効果素子31a、31bを1枚の抵抗体として作図しているが、抵抗体は特許第6316429号(特許文献1)の図10に示すようにミアンダ構造、即ち、折返しパターンを有していてもよい。また、異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの幅Wの大きさは、抵抗体の折返し回数に比例している。すなわち、異方性磁気抵抗効果素子31a,31bの幅Wが小さい場合は抵抗体の折返し回数が少ないので異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの抵抗値は小さく、異方性磁気抵抗効果素子31a、31bの幅Wが大きい場合は抵抗体の折返し回数が多いので磁気抵抗効果素子31a、31bの抵抗値は大きくなる。
【0051】
なお、本開示は、その開示の範囲内において、実施の形態を自由に組み合わせ、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。例えば、磁気抵抗効果素子を構成する抵抗体の例として、異方性磁気抵抗効果素子を使用する例を示したが、GMR(Giant MagnetoResistive effect)素子、TMR(Tunnel MagnetoResistive effect)等を使用しても同様の効果が得られる。
【0052】
磁気抵抗効果素子を8対、8組配置する例を示したが、対の数は任意である。また、線対称に配置する対、即ち組の数も、中心軸Cyより+Y側に1組、−Y側に1組の計2組以上であれば任意である。
【0053】
また、異方性磁気抵抗効果素子31aと異方性磁気抵抗効果素子31bとが、磁界発生部の長手方向の中心軸Cxに線対称に配置されている例を示したが、必ずしも線対象でなくてもよい。
装置構成、回路構成などは例示であり、適宜変更可能である。
【0054】
本開示は、本開示の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。すなわち、本開示の範囲は、実施の形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の開示の意義の範囲内で施される様々な変形が、この開示の範囲内とみなされる。
【0055】
本出願は、2019年8月6日に出願された、日本国特許出願特願2019−144767号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2019−144767号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【符号の説明】
【0056】
1 磁石、 2a、2b ヨーク、 3 異方性磁気抵抗効果素子チップ、4 筐体、5 金属シールド板、6 回路基板、7 信号処理回路基板、 8 ケーブル、31a、31b 異方性磁気抵抗効果素子。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11