(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1〜
図7に示す眼球装着管1(カニューレ、トロカール)(以下、単に装着管という場合がある)は、白内障手術、緑内障手術等の眼科手術の際の一時的に眼球の強角膜に装着させて前房内と眼球の外側とを導通させるための管である。装着管1は、直線状の管状に形成された管状部2と、管状部2の基端側に位置して、管状部2の外径よりも大きい外径を有する大径部3とを備える。
【0011】
管状部2の中心軸線L1は直線状に延びている。管状部2は、中心軸線L1が直交する平面視(
図2の方向)から見て、円形の外周線及び内周線を有した形状(つまり円管状)に形成されるが、他の形の外周線及び内周線を有した管状に形成されてもよい。管状部2の内側には、中心軸線L1が延びた方向における一端から他端までを貫通する貫通穴21が形成されている(
図6、
図7参照)。管状部2の、大径部3から露出した部分の長さd(
図1参照)は、強角膜の厚みより大きく、かつ、管状部2が強角膜に刺さった状態で管状部2の先端22が前房内からはみ出ない長さに設定されており、具体的には例えば2mm以上10mm以下に設定されている。また、管状部2を強角膜に刺した際に眼球の形状が変形しないようにするという観点、又は管状部2を強角膜から抜いた際に強角膜に形成された穴が自然に塞がるようにするという観点では、管状部2の外径は小さいほうが好ましく、例えば1mm以下とすることができる。
【0012】
大径部3は、管状部2の外径よりも大きい外径の管状に形成されている。本実施形態では、大径部3は、管状部2の中心軸線L1が直交する平面視(
図2の方向)から見て、管状部2の外周線と同心の円形の外周線を有した形状(つまり円管状)に形成されるが、他の形の管状に形成されてもよい。大径部3は、例えば、管状部2の基端側の一部が大径部3の内側に嵌めこまれる形態で、管状部2の基端側に接続されている。大径部3の中心軸線は管状部2の中心軸線L1に一致している。大径部3の内側には、管状部2の、大径部3から露出した部分における内側の通路21に導通した通路33が形成されている(
図6参照)。この通路33は、管状部2の通路21と同軸に形成される。通路33は、管状部2の、大径部3内に嵌めこまれた部分における通路によって構成されてもよいし、管状部2とは別の素材により構成されてもよい。
【0013】
大径部3は、例えば円筒部材の軸線方向における一端側が斜めに切り落とされた形状に形成されている。具体的には、大径部3の、軸線L1方向における管状部2の先端22側(管状部2の大径部3から露出した部分)側の端部31は中心軸線L1に対して斜めの平面に形成されている。言い換えれば、端部31は、中心軸線L1に直角な仮想平面100(
図6参照)に対して角度が付けられている。さらに言い換えれば、端部31は、
図1の側面視で見て、中心軸線L1に直角な方向における一端31b側と他端31a側との間で、中心軸線L1に平行な方向に高低差xを有した形状に形成されている。具体的には、端部31は、一端31b側から他端31a側に向かうにしたがって徐々に管状部2の先端22の方に変位する(近づく)形状に形成されている。
【0014】
より具体的には、
図1の側面視で見て、端部31は、中心軸線L1に対して斜めの外形線(直線)を描くように形成される。端部31は、先端22側に最も寄った部位31a(最先端側部位という)と、大径部3の基端32側に最も寄った部位31b(最基端側部位という)とを有する(
図1〜
図6参照)。これら部位31a、31bは、
図2の方向から見て、管状部2の中心O(中心軸線L1上の点)を中心とした円における180°反対側に位置している。端部31は、最先端側部位31aから、管状部2の中心Oをとした円における径方向D(
図2参照)に沿って最基端側部位31bの方に近づくにしたがって徐々に基端32側に変位するように形成される。また、端部31は、最先端側部位31aから、上記円における周方向E(
図2参照)に沿って最基端側部位31bの方に近づくにしたがって徐々に基端32側に変位するように形成される。
【0015】
なお、
図6の断面は、中心軸線L1、最先端側部位31a及び最基端側部位31bを面内に含む平面(
図2のVI−VI線で示される平面)で装着管1を切った断面である。
図7は、
図6の断面に直角な平面(
図2のVII−VII線で示される平面)で装着管1を切った断面である。
図7において、端部31の断面線31cは中心軸線L1に直角な線である。中心軸線L1を面内に含む任意の平面で装着管1を切ることにより形成される端部31の断面線は、
図3の断面線31cを除いて、中心軸線L1に対して斜めの直線を描く。
【0016】
図6に示すように、最先端側部位31aと最基端側部位31bとを通る直線L2と中心軸線L1との成す角度のうち鋭角側の角度θを、中心軸線L1に対する端部31の傾斜角と定義する。傾斜角θは、0°より大きく、90°より小さい角度である。具体的には、傾斜角θは、強角膜の外面の傾きに合った角度に設定され、例えば20°以上70°以下に設定される。より具体的には、前眼部における角膜頂点側を前側、網膜の中心側を後側として前後方向を定め、この前後方向に直角な方向を水平方向と定めたとき、水平方向に対する強角膜の傾斜角は例えば40〜50°である。装着管1を水平方向に装着する場合には、傾斜角θは、強角膜の傾斜角と同程度の角度(40〜50°)に設定される。また、例えば、装着管1を、水平方向に対して5°程度前側に向けた状態に装着する場合には、傾斜角θは、強角膜の傾斜角(40〜50°)から、前側への傾き角度(5°)を引いた角度(35〜45°)に設定される。なお、端部31は、装着管1が眼球の外膜に装着されたときに、外膜外面に接触する部位として機能する。
【0017】
大径部3の、軸線L1に平行な方向における端部31の反対側の端部である基端32は、中心軸線L1に直角な面に形成されている。基端32には、大径部3の通路33の開口34が形成されている。
【0018】
また、大径部3は通路21、33を介して開口34から液体が流出するのを抑制する弁35(バルブ)を有する。弁35は、通路33の開口34の位置又は開口34の手前の位置に設けられる。また、例えばゴム等の弾性素材にスリットが形成された部材が弁35として大径部3内の通路33を塞ぐように設けられる。装着管1に手術器具等を挿入すると上記スリットが弾性変形することで弁35が開く。装着管1から器具を抜くと、上記スリットが元の状態に戻ることで弁35が閉鎖する。
【0019】
装着管1は、
図8に示すように、眼科手術の際に、被手術者の眼球の角膜101と強膜102との境界部103(強角膜)に装着される。装着管1を強角膜103に装着するための器具4として特許文献1、2と同様の器具が用いられる。器具4は、棒状の把持部41と、把持部41の先端41aに接続された針部42とを備える。先端41aは、把持部41の軸線L3及び針部42に対して直角な面に形成される。
【0020】
装着管1を強角膜103に装着させる手順として、先ず、針部42を装着管1内の穴21に通して、装着管1を器具4に装着させる。このとき、装着管1の大径部3の基端32を、把持部41の先端41aに接触させることで、装着管1を先端41a及び針部42で保持させつつ、針部42の先端からの一部を装着管1から突出させる。なお、
図8では、器具4の構造を分かりやすく示すために、把持部41の先端41aと大径部3の基端32との間に隙間を有しているが、実際は先端41aと基端32とは接触している。
【0021】
その後、施術者(医師)は、把持部41を持って、針部42を強角膜103に刺す。このとき、針部42で虹彩104や水晶体105を傷つけないようにするために、針部42を略水平方向(具体的には水平方向に対して若干前側(角膜頂点側))に向ける。
【0022】
施術者は、針部42を強角膜103に刺して強角膜103に穴をあけつつ、装着管1の管状部2を強角膜103に挿入する。このとき、管状部2を虹彩104よりも前側に位置させつつ、大径部3が強角膜103の外面103aに接触するまで、管状部2の挿入操作を行う。そして、大径部3の最先端側部位31aを角膜101側(前側)で外面103aに接触させ、最基端側部位31bを強膜102側(後側)で外面103aに接触させる。施術者は、器具4を針部42の軸線回りに回転操作することで、装着管1の軸線L1回りの向きを調整してもよい。
【0023】
その後、器具4(針部42)を強角膜103から退避させる(引き抜く)ことで、装着管1のみを強角膜103に留置させる(
図9参照)。器具4を退避させる際には、装着管1が強角膜103から抜けないように、装着管1の大径部3を鑷子等で押さえてもよい。
【0024】
図9に示すように、装着管1が強角膜103に装着された状態では、管状部2が強角膜103に刺さった状態となり、大径部3が強角膜103の外側に露出した状態となる。また大径部3の端部31が強角膜103の外面103aに接触した状態となる。また、管状部2の先端22が前房内106(
図9参照)に位置した状態となる。なお、前房内106は、角膜101と水晶体105の間の領域であり、虹彩104よりも前側の領域である。
【0025】
その後の手術中は、装着管1を介して、手術器具(眼内の組織を切除するための器具など)が前房内106に挿入されたり、前房内106の圧力(眼圧)を一定に保持させるために装着管1を介して前房内106に液体(水)が注入されたりする。なお、緑内障手術として、例えば房水の流れをよくして、異常に高くなった眼圧を下げるために線維柱体切除術が行われる。この場合、例えば、繊維柱帯切除用の器具(刃物)が装着管1を介して前房内106に挿入される。
【0026】
手術を終了するときには、装着管1の大径部3を鑷子等で挟持して引き抜くことで、眼球から装着管1を取り外す。その後、必要に応じて、強角膜103に形成された穴を塞ぐ縫合を行う。
【0027】
このように、本実施形態では、大径部3の管状部2側の端部31が、管状部2の中心軸線L1に対して傾斜した面に形成されるので、装着管1を強角膜103に略水平方向に装着した場合に、端部31の全体を強角膜103の外面103aに接触させることができる。これにより、例えば装着管1を通して前房内106に挿入された手術器具を動かすときに、装着管1がぐらついてしまうのを抑制でき、装着管1が強角膜103から外れてしまうのを抑制できる。
【0028】
また、大径部3の基端32は中心軸線L1に対して直角な面に形成されるので、器具4(
図8参照)で装着管1を装着するときに、把持部41の先端41aと大径部3の基端32との接触面積を大きくでき、器具4を用いた装着管1の装着操作が容易となる。
【0029】
これに対して、
図14に示す従来の装着管200では、大径部202の端部203が管状部201の中心軸線L6に直角に形成されるので、強角膜103に装着したときに強角膜103の外面と大径部202との間に隙間aが形成されてしまい、装着管200がぐらついて強角膜103から抜けやすい。なお、
図14では、強角膜103の外面の外形線を点線で図示している。
【0030】
なお、本開示は上記実施形態に限定されず種々の変更が可能である。上記実施形態では大径部の端部が傾斜面の例を示したが、側面視で見て、中心軸線に直角な方向における大径部端部の一端側と他端側との間で中心軸線に平行な方向に高低差を有するのであれば、傾斜面に形成されなくてもよい。
図10は、大径部端部が傾斜面以外の形状に形成された例を示している。
図10の装着管5の大径部7の端部71は、管状部6の中心軸線L4に直角な方向における一端71aから他端71cに向かうにしたがって階段状(換言すれば段階的に)に管状部6の先端の方に変位する形状に形成されている。具体的には、端部71の、管状部6の中心軸線L4に直角な方向における一端71a側の部位71bは、中心軸線L4に直角な面に形成される。また、端部71の、中心軸線L4に直角な方向における他端71c側の部位71dは、中心軸線L4に直角な面に形成される。これら部位71b、71dの間には中心軸線L4に平行な段差71eが形成される。段差71eの位置は例えば
図10の側面視で見て、中心軸線L1に重なる位置としてよい。段差71eは強角膜103の外面の傾きに合った大きさに設定される。具体的には、段差71eの大きさは、装着管5を強角膜103に装着したときに、端部71の、管状部6の先端側に寄った部位71dの少なくとも一部が、角膜側で強角膜103の外面に接触し、端部71の、大径部7の基端側に寄った部位71bの少なくとも一部が、強膜側で強角膜103の外面に接触するように、設定される。
【0031】
これによっても、装着管5を強角膜103に装着したときに、先端側の部位71dを角膜側で強角膜103に接触させ、基端側の部位71bを強膜側で強角膜103に接触させることで、
図14の従来例に比べて、大径部7と強角膜103との間の隙間を小さくできる。なお、
図10では、強角膜103の外面の外形線を点線で図示している。
【0032】
また、上記実施形態(
図1〜
図7の例)では大径部の端部が中心軸線に対して傾斜した平面である例を示したが、
図11、
図12に示すように、大径部の端部が中心軸線に対して傾斜した凹曲面であってもよい。
図11、
図12の装着管8の大径部10の端部11は、管状部9の中心軸線L5に対して傾斜した凹曲面に形成されている。具体的には、
図11の断面でみて、端部11は、中心軸線L5に直角な方向における一端11b側から他端11a側に向かうにつれて徐々に管状部9の先端の方に変位するとともに、中心軸線L5に対して斜めの曲線を描くように形成される。なお、
図11は、
図2のVI−VI線と同じ位置で装着管8を切った断面である。
【0033】
また、
図12は、
図2のVII−VII線と同じ位置で装着管8を切った断面を示しており、言い換えれば、中心軸線L5を面内に含んだ
図11に紙面に直角な面で装着管8を切った断面を示している。
図12の断面で見ても、端部11が描く断面線11cは曲線である。具体的には、断面線11cは、断面線11cにおける一方の端部11dから中心軸線L5の方に近づくにしたがって徐々に大径部10の基端12側に曲線状に変位し、中心軸線L5の側から断面線11cの他方の端部11eの方に近づくにしたがって徐々に管状部9の先端側に曲線状に変位する。断面線11cの両端部11d、11eは、中心軸線L5が延びた方向における同じ位置(同じ軸方向位置)に設けられる。
【0034】
端部11が形成する曲面の曲率は、眼球外膜(例えば強角膜)の曲率と同様に定められる。また、端部11が形成する曲面の曲率中心は、端部11よりも管状部9が位置する側の領域に定められる。
【0035】
図11、
図12の装着管8によれば、大径部10の端部11が中心軸線L5に対して傾斜した凹曲面に形成されるので、曲面状の眼球外面と端部11とをより良好に接触させることができる。
【0036】
また、上記実施形態では強角膜に装着管を装着させる例を示したが、強角膜よりも若干角膜中央側に寄った角膜周辺部107(
図9参照)に本開示の装着管を装着させてもよい。また、硝子体手術の際に、硝子体領域と眼球の外側とを導通させるために、本開示の装着管を強膜に装着してもよい。
図13は、
図1と同様の装着管1を強膜102に装着させた例を示している。
図13では、管状部2が網膜の方に向くように装着管1が強膜102に装着されている。この場合、大径部3の端部31の最先端側部位31aを後側(角膜に遠い側)で強膜102の外面に接触させ、最基端側部位31bを前側(角膜に近い側)で強膜102の外面に接触させればよい。これによれば、大径部3と強膜102とを良好に接触させることができるので、装着管1のぐらつきを抑制できる。
【課題】眼科手術の際の一時的に眼球の外膜に装着させて眼球の内外を導通させるための眼球装着管において、眼球外面に直角な方向に対してずれた方向に装着する場合に、眼球装着管のぐらつきを抑制する。
【解決手段】眼球装着管1は、外膜への装着時に外膜に刺さった状態となる管状部2と、管状部2の基端側に位置して、管状部2よりも大きい外径を有し、外膜への装着時には外膜の外側に露出した状態となる大径部3とを備える。大径部3の、管状部2側の端部31は、管状部2の中心軸線L1に直角な方向における一端31a側と他端31b側との間に中心軸線L1に平行な方向に高低差を有した形状に形成され、具体的には、管状部2の中心軸線L1に対して傾斜した面に形成される。大径部3の基端32は中心軸線L1に直角な面に形成される。