特許第6965001号(P6965001)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6965001スラッジブランケット型凝集沈澱装置、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法、および整流装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965001
(24)【登録日】2021年10月22日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】スラッジブランケット型凝集沈澱装置、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法、および整流装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/08 20060101AFI20211028BHJP
   B01D 21/02 20060101ALI20211028BHJP
   B01D 21/24 20060101ALI20211028BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   B01D21/08 C
   B01D21/02 R
   B01D21/02 S
   B01D21/24 D
   C02F1/52 Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-54365(P2017-54365)
(22)【出願日】2017年3月21日
(65)【公開番号】特開2018-153775(P2018-153775A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國東 俊朗
【審査官】 目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−076771(JP,A)
【文献】 特開昭52−097475(JP,A)
【文献】 特開平11−028312(JP,A)
【文献】 特開2010−023008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D21/00−21/34
C02F1/52−1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水へ凝集剤を添加し、懸濁物質を凝集してフロックを形成し、前記フロックを含んでなるスラッジブランケット層に前記原水を通過させて処理水を得るスラッジブランケット型凝集沈澱装置であって、
前記スラッジブランケット層を形成するための槽と、
前記槽の下部に横設された、前記原水を流出するための少なくとも1つの原水分配管と、
前記原水分配管の直上に設置された、前記原水を通水させる複数の整流孔が形成された複数の山型の整流板と、
を備え
前記複数の山型の整流板が、水面方向に対して各整流板の間隔がなく敷き詰められて設置されていることを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスラッジブランケット型凝集沈澱装置であって、
前記整流板は、前記スラッジブランケット層の内部に設置されていることを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスラッジブランケット型凝集沈澱装置であって、
前記整流板の開口率が、3〜30%の範囲であることを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置。
【請求項4】
原水へ凝集剤を添加し、懸濁物質を凝集してフロックを形成し、前記フロックを含んでなるスラッジブランケット層に前記原水を通過させて処理水を得るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法であって、
前記スラッジブランケット層を形成するための槽と、前記槽の下部に横設された、前記原水を流出するための少なくとも1つの原水分配管と、を備える装置における前記原水分配管の直上に、前記原水を通水させる複数の整流孔が形成された複数の山型の整流板を水面方向に対して各整流板の間隔がなく敷き詰めて設置することを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法。
【請求項5】
請求項に記載のスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法であって、
前記整流板を、前記スラッジブランケット層の内部に設置することを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法であって、
前記整流板の開口率が、3〜30%の範囲であることを特徴とするスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法。
【請求項7】
原水へ凝集剤を添加し、懸濁物質を凝集してフロックを形成し、前記フロックを含んでなるスラッジブランケット層に前記原水を通過させて処理水を得るスラッジブランケット型凝集沈澱装置用の整流装置であって、
前記スラッジブランケット層を形成するための槽と、前記槽の下部に横設された、前記原水を流出するための少なくとも1つの原水分配管と、を備える装置における前記原水分配管の直上に水面方向に対して各整流板の間隔がなく敷き詰めて設置するための、前記原水を通水させる複数の整流孔が形成された山型の整流板であることを特徴とする整流装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水、用水、各種排水等の処理に用いられるスラッジブランケット型凝集沈澱装置、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法、およびスラッジブランケット型凝集沈澱装置用の整流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
河川水、湖沼水等の原水より懸濁物質を除去する場合、原水に凝集剤を添加し、懸濁物質を凝集させてフロックを形成し、このフロックを沈降分離により水中から除去して処理水(除濁水)を得ることは、凝集沈澱法としてよく知られた方法であり、この方法を実施するための凝集沈澱装置は多種多様のものが実用化されている。
【0003】
このような凝集沈澱装置のうち、フロック形成過程と沈降分離過程を同一の槽に組み込んだ高速凝集沈澱装置は、その設置面積の有利性により広く用いられている。その高速凝集沈澱装置の一種としてスラッジブランケット型凝集沈澱装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
スラッジブランケット型凝集沈澱装置は、原水中の懸濁物質を凝集させてフロックを形成し、当該フロック群を含んでなるスラッジブランケット層を凝集沈澱槽内の水面下に浮遊状態にさせて原水をこのスラッジブランケット層を通過させ、処理水を得る装置である。このようなスラッジブランケット型凝集沈澱装置では、一般的に原水の水温、水質、水量等の変動時にスラッジブランケット層の巻上げが起こり、処理水へフロックが流出してしまうことがある。また、装置立上げ初期においてスラッジブランケット層形成が充分でない場合は、処理性能が低いという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するために、例えば特許文献1のように、沈澱槽(分離槽)の内部に流入水受槽、ロート状整流板、第2室整流板、ろ材、ろ材流出防止スクリーン、ろ材受けスクリーン、ドラフトチューブ等を設置する方法が考案されている。しかし、特許文献1のような方法では沈澱槽の内部が非常に複雑な構造となるため、メンテナンス作業が煩雑となり、建設コストも増加してしまう可能性がある。また、沈澱槽の内部に汚泥掻き寄せ機を設置し、排泥操作が必要となるためランニングコストも増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平4−66601号公報
【特許文献2】特許3856314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来型のスラッジブランケット型凝集沈澱装置と比較して、原水が変動しても安定運転が可能となり、運転管理が大幅に簡易化される、スラッジブランケット型凝集沈澱装置、その運転方法、および整流装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、原水へ凝集剤を添加し、懸濁物質を凝集してフロックを形成し、前記フロックを含んでなるスラッジブランケット層に前記原水を通過させて処理水を得るスラッジブランケット型凝集沈澱装置であって、前記スラッジブランケット層を形成するための槽と、前記槽の下部に横設された、前記原水を流出するための少なくとも1つの原水分配管と、前記原水分配管の直上に設置された、前記原水を通水させる複数の整流孔が形成された複数の山型の整流板と、を備え、前記複数の山型の整流板が、水面方向に対して各整流板の間隔がなく敷き詰められて設置されている、スラッジブランケット型凝集沈澱装置である。
【0009】
前記スラッジブランケット型凝集沈澱装置において、前記整流板は、前記スラッジブランケット層の内部に設置されていることが好ましい。
【0011】
前記スラッジブランケット型凝集沈澱装置において、前記整流板の開口率が、3〜30%の範囲であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、原水へ凝集剤を添加し、懸濁物質を凝集してフロックを形成し、前記フロックを含んでなるスラッジブランケット層に前記原水を通過させて処理水を得るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法であって、前記スラッジブランケット層を形成するための槽と、前記槽の下部に横設された、前記原水を流出するための少なくとも1つの原水分配管と、を備える装置における前記原水分配管の直上に、前記原水を通水させる複数の整流孔が形成された複数の山型の整流板を水面方向に対して各整流板の間隔がなく敷き詰めて設置する、スラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法である。
【0013】
前記スラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法において、前記整流板を、前記スラッジブランケット層の内部に設置することが好ましい。
【0015】
前記スラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法において、前記整流板の開口率が、3〜30%の範囲であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、原水へ凝集剤を添加し、懸濁物質を凝集してフロックを形成し、前記フロックを含んでなるスラッジブランケット層に前記原水を通過させて処理水を得るスラッジブランケット型凝集沈澱装置用の整流装置であって、前記スラッジブランケット層を形成するための槽と、前記槽の下部に横設された、前記原水を流出するための少なくとも1つの原水分配管と、を備える装置における前記原水分配管の直上に水面方向に対して各整流板の間隔がなく敷き詰めて設置するための、前記原水を通水させる複数の整流孔が形成された山型の整流板である、整流装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来型のスラッジブランケット型凝集沈澱装置と比較して、原水が変動しても安定運転が可能となり、運転管理が大幅に簡易化される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の他の例を示す概略構成図である。
図3】本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の他の例を示す概略構成図である。
図4】(a)従来の整流板を示し、(b)〜(d)本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置用の整流装置の一例を示す概略構成図である。
図5】比較例1で用いたスラッジブランケット型凝集沈澱装置の概略構成を示す図である。
図6】実施例1で用いたスラッジブランケット型凝集沈澱装置の概略構成を示す図である。
図7】実施例1および比較例1における水温変動実験の結果を示すグラフである。
図8】実施例1および比較例1における濁度変動実験の結果を示すグラフである。
図9】実施例2で用いたスラッジブランケット型凝集沈澱装置の概略構成を示す図である。
図10】実施例2における水温変動実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明の実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。スラッジブランケット型の凝集沈澱装置1は、例えば、上端が水面下に位置する仕切り板18により、フロックの凝集および沈澱用の凝集沈澱室14とフロックの貯留、濃縮および排出用の濃縮室16とに仕切ってなる槽10を備える。凝集沈澱装置1は、槽10内の原水に脈動を与える脈動発生手段として脈動発生装置12を備えてもよい。脈動発生装置12は、真空塔として塔20と、塔20の頂部に真空発生手段として真空ポンプ46と、脱真空手段としてバキュームブレーカ48とを備える。凝集沈澱装置1の前段に、撹拌翼を有する急速撹拌槽50を備えてもよい。
【0021】
図1の凝集沈澱装置1において、急速撹拌槽50の出口と、脈動発生装置12の塔20の入口とは、原水導入管22により接続されている。槽10の凝集沈澱室14の底部の汚泥出口には、汚泥排出管24が接続され、濃縮室16の汚泥出口には、汚泥排出管26が接続され、槽10の上部の水面部には、少なくとも1つの処理水排出管28が設けられている。塔20には水位測定手段として水位計44が設置されている。凝集沈澱室14の中央下方部には少なくとも1つの原水分配管30が横設され、原水分配管30は塔20の下部と給水ダクト32により連通されている。原水分配管30の下部には原水を流出するためのスリットまたは孔からなる少なくとも1つの流出口が下向きに1列以上設けられている。例えば、複数の流出口が原水分配管30の真下方向に対して30°程度の各斜め方向に、原水分配管30の長軸方向に沿って2列設けられ、一方の列の流出口の間のピッチの略半分の位置に、他方の列の流出口が配置されるようになっている。原水分配管30の上方はスラッジブランケット層34が形成されるスラッジブランケットゾーン、整流板42の下方は撹拌ゾーン36となっている。原水分配管30の上方には、例えば山型の少なくとも1つの整流板42が設置されており、整流板42には原水を通水させる複数の整流孔60が形成されている。この位置に整流板42を設置することにより、槽内に流入された原水が撹拌され、フロックが形成されやすくなる効果がある。スラッジブランケット層34の上方には、沈降面積を増加させるための傾斜装置40が設置されてもよい。
【0022】
仕切り板18によって仕切られた凝集沈澱室14は、フロックの凝集および沈澱を行うものであり、濃縮室16は、スラッジブランケット層34より仕切り板18を越流してきたフロックを貯留、濃縮するものである。
【0023】
脈動発生装置12は、凝集沈澱室14に設けられた少なくとも1つの流出口を有する原水分配管30と下方で接続され、原水を貯留する塔20を有し、塔20内の原水の落水および水位上昇を繰り返すことにより、流出口から原水が流出される際の脈動により凝集沈澱室14内の原水を撹拌するものである。
【0024】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法およびスラッジブランケット型凝集沈澱装置1の動作について説明する。
【0025】
凝集沈澱装置1の前段に急速撹拌槽50を設ける場合は、急速撹拌槽50において懸濁物質を含む原水にポリ塩化アルミニウム(PAC)等の無機凝集剤等の凝集剤が添加されて、急速撹拌が行われた後、原水は原水導入管22を通して塔20に送液される。凝集剤は、原水導入管22において原水に添加されてもよい。真空ポンプ46の駆動およびバキュームブレーカ48の開閉によって、塔20内の真空と脱真空とを繰り返すことにより、塔20内の原水の落水および水位上昇が繰り返されて、水位が上下されて原水に脈動が与えられる(脈動発生工程)。脈動が与えられた原水は、給水ダクト32、原水分配管30を通して流出口から凝集沈澱室14の撹拌ゾーン36に下方向に流出される。この原水分配管30の流出口から原水が流出される際の脈動により凝集沈澱室14の水は撹拌を受け、原水中の懸濁物質は凝集しフロックが形成される。凝集沈澱室14のスラッジブランケットゾーンには、フロック群が高濃度に懸濁平衡されて、スラッジブランケット層34が形成されている。スラッジブランケット層34は次第に高さを増してくるが、仕切り板18は、スラッジブランケット層34の上面高さを規定するものであり、すなわち、スラッジブランケット層34の上面高さは、仕切り板18の高さによって決定される。原水はこのスラッジブランケット層34内を上向流で通過する際、下部で形成されたフロックがスラッジブランケット層34中の既存のフロックと接触、吸合することにより、フロックが除去された除濁水が傾斜装置40を上向流で通過して、処理水として少なくとも1つの処理水排出管28から排出される。
【0026】
仕切り板18によって仕切られた濃縮室16内および濃縮室16の上部は上昇流がほとんど起こらないので、スラッジブランケット層34の上面の余剰のフロックは仕切り板18の上端を越流して濃縮室16内に貯留、濃縮され、スラッジブランケット層34の高さはほぼ一定に保たれる。余剰の濃縮されたフロックは、汚泥として汚泥排出管26を通して適切な間隔で、例えば定期的に系外に排出される。凝集沈澱室14の底部にフロックが堆積した場合には、汚泥として汚泥排出管24を通して適切な間隔で、例えば定期的に系外に排出されてもよい。
【0027】
本実施形態では、原水に凝集剤を加えて原水中の懸濁物質を凝集させフロックを形成し、当該フロック群を含んでなるスラッジブランケット層34を槽10内の水面下に浮遊状態にさせて原水をこのスラッジブランケット層34を通過させて処理水を得るようにしたスラッジブランケット型凝集沈澱装置1において、装置内部に原水を通水させる複数の整流孔60が形成された整流板42が設置されている。これにより、従来型のスラッジブランケット型凝集沈澱装置と比較して、原水の水温、水質、水量等が変動しても安定運転が可能となり、運転管理が大幅に簡易化される。
【0028】
例えば図4(b),(c)に示すような複数の整流孔60が形成された山型の整流板42を設置することにより、図4(a)に示すような整流孔のない山型の阻流板62を有する従来型のスラッジブランケット型凝集沈澱装置より、原水の水温、水質、水量等が変動したときでも、処理水質が向上する。また、従来型のスラッジブランケット型凝集沈澱装置と同程度の処理水質を得ることを考えた場合、さらに高流速(高LV)での通水が可能となる。これは複数の整流孔60が形成された整流板42を設置することにより整流板42上部での流れが略均等となり、例えば水温変動等による熱対流が槽10内で起きても、スラッジブランケット層34の乱れが抑制されるためであると考えられる。このような整流作用によるスラッジブランケット層34の乱れの抑制効果は水温変動時だけでなく、濁度等の水質変動時、水量変動時も同様の効果が得られる。
【0029】
整流板42は、図4(b),(c)に示すような複数の整流孔60が形成された山型(縦断面形状がV字状)の整流板であってもよいし、図4(d)に示すような複数の整流孔60が形成された平型の整流板であってもよい。スラッジブランケット層34全体をより有効に使うことができる等の点から、原水を通水させる複数の整流孔60が形成された山型の整流板であることが好ましい。山型の整流板を構成する2枚の板がなす角度は、例えば30〜150度である。
【0030】
整流板42は、スラッジブランケット層34の上部に設置しても、スラッジブランケット層34の内部に設置しても構わないが、スラッジブランケット層34の内部に設置することが好ましい。スラッジブランケット層34の内部に設置することにより、スラッジブランケット層34内を略均等に原水が流れ、マイクロフロックとブランケットの接触効率が上がるため、処理水質の改善効果が得られると考えられる。
【0031】
整流板42はマイクロフロック形成を促進するために、スラッジブランケット層34の上部または内部に、水面方向に対して隙間なく敷き詰められて設置されていることが好ましい。ここで、整流板42が「隙間なく敷き詰められて設置されている」とは、各整流板42の間隔がない(間隔が0mm)場合の他に、整流孔60の大きさ未満の間隔(例えば、0mm超〜30mm以下)とする場合も含む。通水を長時間継続すると、原水水質、通水流量等によっては、整流板42の上部に整流板42を通過したフロックが堆積することがある。このような場合に備えて、複数の整流孔60を有する山型の整流板42を水面方向に対して隙間なく敷き詰めることにより、整流板の42上部への汚泥の蓄積を抑制することができるため、整流板42のメンテナンスはほぼ不要となる。また、整流孔60が、上部開口部と、上部開口部の面積より小さい下部開口部と、上部開口部から下部開口部に至るスロープ部とを有するスロープ構造となっている整流板42を用いてもよく、この場合は、平型の整流板とした場合でも、汚泥蓄積を抑制することができ、同様に長期安定運転が可能となる。
【0032】
整流板42の開口率は、3〜30%の範囲であることが好ましく、5〜20%の範囲であることがより好ましい。整流板42の開口率が3%未満であると、原水が通水しにくくなったり、汚泥が堆積しやすくなる場合があり、30%を超えると、整流効果が低下する場合がある。なお、開口率は、整流板42の面積に対する整流孔60の開口面積の割合である。
【0033】
整流孔60の開け方は、装置内を原水ができるだけ均等に流れるような開け方であればどのようの方法でもよく、特に制限はない。整流孔60の形状は、円形、四角形、多角形等、任意のものが選択可能である。整流孔60の大きさは、原水が通水し、フロックが詰まりにくい程度の大きさとすればよく、特に制限はない。整流孔60の形状を円形とした場合は、整流孔60の大きさを例えばφ10mm以上とすることにより、スラッジブランケット層34の内部に整流板42を設置した場合でも、既存フロックによる閉塞を抑制することができる。整流孔60の設置の仕方も任意であるが、格子状配列や、正三角形配列等、規則的な設置とすることにより、設計が容易となり、確実な整流効果も期待できる。
【0034】
また、整流孔60を開けた整流板42を隙間なく敷き詰める場合は、図4(c)に記載しているような山型の整流板42の下部に半円の整流孔60を開ける構造とすると、この部分への汚泥の溜りを抑制することができ、より長期安定運転が可能となる。
【0035】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法およびスラッジブランケット型凝集沈澱装置において処理対象となる原水は、例えば、上水、用水、河川水、湖沼水、各種排水等である。
【0036】
処理対象となる原水の濁度は、例えば、1度〜5000度の範囲であり、本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法およびスラッジブランケット型凝集沈澱装置によって、処理水の濁度を例えば1度未満に低減することができる。
【0037】
脈動の強度は例えば、下記の式で算出される脈動G値(s−1)により決定すればよい。
【0038】
脈動G値には、例えば、塔20で発生する脈動における落水時間、上昇時間、落水幅等を変更することにより調整することができる。例えば、真空ポンプの出力を上げ、脈動における上昇時間を短くすることにより、脈動G値を容易に高めることができる。また、落水水位を高くすること、または、バキュームブレーカ48の開度を上げることによって落水時間を短くすることにより、脈動G値を容易に高めることができる。例えば、脈動G値(s−1)を2(s−1)以上50(s−1)以下の範囲として、原水に脈動を与えればよい。なお、脈動G値をどのくらい高くすればよいかについては、原水の温度と処理水の温度との差や、原水濁度の上昇率、目的とする処理水水質等、装置の運転条件に基づいて実験や試運転等により決定することができる。
【0039】
脈動G値=(落水G値×落水時間+上昇G値×上昇時間)÷(落水時間+上昇時間)
G=√{(A・v)/(2ν・V)}
A:噴出面積(流出口面積)(m
v:噴出流速(m/s)
ν:動粘性係数(原水)(m/s)
V:混和部(整流板42より下部)容量(m
【0040】
脈動発生手段としては、原水に脈動を付与することができるものであればよく、特に制限はない。脈動発生手段としては、図1に示す真空ポンプを用いる方式の他に、図2に示す凝集沈澱装置3のようにサイフォンを用いる方式、図3に示す凝集沈澱装置5のように回転弁58を用いる方式のものであってもよい。
【0041】
図2に示す凝集沈澱装置3では、塔20の頂部にサイフォンを備えるサイフォン装置52が設置され、原水導入管54はサイフォン装置52に接続されている。凝集剤が添加された原水は、原水導入管54を通してサイフォン装置52に送液される。サイフォン装置52においてサイフォンの作用によって、サイフォン装置52内の水位が上下されて原水に脈動が与えられる(脈動発生工程)。脈動が与えられた原水は、給水ダクト32、原水分配管30を通して流出口から凝集沈澱室14の撹拌ゾーン36に下方向に流出される。この場合、ダンパー弁56の開度を変えることによって、脈動強度を変えることができる。
【0042】
図3に示す凝集沈澱装置5では、原水導入管22の途中に回転弁58が接続されている。凝集剤が添加された原水は、原水導入管22を通して塔20に送液される。回転弁58の作用によって、塔20内の水位が上下されて原水に脈動が与えられる(脈動発生工程)。脈動が与えられた原水は、給水ダクト32、原水分配管30を通して流出口から凝集沈澱室14の撹拌ゾーン36に下方向に流出される。この場合、回転弁58の回転速度を変えることによって、脈動強度を変えることができる。
【0043】
これらのうち、脈動発生手段としては、脈動の制御がしやすい、装置高さを抑えることができる等の点で、真空ポンプを用いる方式が好ましい。
【0044】
本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置として、脈動発生装置を備える凝集沈澱装置を例として説明したが、これらに限定されるものではなく、スラッジブランケット型の凝集沈澱装置であれば本実施形態に係るスラッジブランケット型凝集沈澱装置の運転方法および整流板が適用される。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1および比較例1>
図5,6に示す2種類のパイロットスケールの実験装置を作製し、実原水を用いて水温変動に対する処理性、濁度変動に対する処理性を確認した。比較例1では、図5に示すように、図4(a)のような整流孔のない通常の阻流板62を原水分配管30の上方に設置した。実施例1では、図6に示すように、図4(c)のような複数の整流孔60が形成された山型の整流板42をスラッジブランケット層34の内部における原水分配管30の上方に水面方向に対して隙間なく敷き詰めて設置した(各山型整流板の間隔0mm)。通水条件は以下の通りである。
【0047】
[装置仕様]
高速凝集沈澱槽 :800mm×900mm×4000mm
凝集沈澱槽滞留時間 :96min
通水流量 :1.8m/h
通水LV :3m/h
濃縮室高さ :1000mm
整流装置 :山型整流板(開口率18%、各整流孔の大きさ36mm)
【0048】
[水温変動実験条件]
原水:湖沼水(原水槽に予め氷を投入し、水温変化が0.7℃/hとなるように調整)
凝集剤:ポリ塩化アルミニウム(PAC)
凝集剤添加量:30mg/L
凝集pH:7
原水濁度:11度
原水水温:12.5〜13.6℃
【0049】
[濁度変動実験条件]
原水:湖沼水(原水槽に懸濁物質としてベントナイトを添加し、濁度500度程度となるように調整)
凝集剤:ポリ塩化アルミニウム(PAC)
凝集剤添加量:25〜200mg/L(原水濁度に比例注入)
凝集pH:7
原水濁度:15〜520度
原水水温:12℃
【0050】
水温変動実験の結果を図7に、濁度変動実験の結果を図8に示す。水温変動に対しても、濁度変動に対しても、複数の整流孔が形成された整流板を設置することにより処理水の濁度の悪化を顕著に抑制できる結果となった。水温変動や濁度変動が生じた際は、凝集沈澱室内で流れの乱れが生じ、スラッジブランケット層から微フロックが逸脱する様子が観察されたが、複数の整流孔が形成された山型の整流板をスラッジブランケット層の内部に隙間なく敷き詰めて設置した場合はこの乱れを明らかに抑制することができ、処理水質もほとんど悪化することなく、良好な処理が可能であった。
【0051】
<実施例2>
図9に示す同様のパイロットスケール実験機を用い、複数の整流孔が形成された整流板の設置位置、形状の効果を確認した。実施例2−1では、図9(a)に示すように、複数の整流孔が形成された図4(d)の平型の整流板42を用い、整流板42をスラッジブランケット層34の上部に設置した。実施例2−2では、図9(b)に示すように、複数の整流孔が形成された図4(d)の平型の整流板42を用い、整流板42をスラッジブランケット層34の内部に設置した。なお、実施例2−1、実施例2−2では、整流板42とは別に図4(a)のような整流孔のない通常の阻流板62を原水分配管30の上方に設置した。実施例2−3では、図9(c)に示すように、複数の整流孔が形成された図4(c)の山型の整流板42を用い、整流板42をスラッジブランケット層34の内部における原水分配管30の上方に隙間なく敷き詰めて設置した(各山型整流板の間隔0mm)。通水条件は以下の通り。
【0052】
[装置仕様]
高速凝集沈澱槽 :800mm×900mm×4000mm
凝集沈澱槽滞留時間 :96min
通水流量 :1.8m/h
通水LV :3m/h
濃縮室高さ :1000mm
整流装置 :山型、平型(いずれも開口率18%、各整流孔の大きさ30mm)
【0053】
[実験条件]
原水:河川水
凝集剤:ポリ塩化アルミニウム(PAC)
凝集剤添加量:20mg/L
凝集pH:7
原水濁度:4度
原水水温:10℃
【0054】
実験結果を比較例1(整流板なし)の結果と共に図10に示す。実施例2のいずれの条件でも複数の整流孔が形成された整流板を設置することにより比較例1に比べて処理水質が改善した。整流板は上部に設置するよりも下部(スラッジブランケット層の内部)に設置する方が処理水質の改善効果が見られた。スラッジブランケット層の内部に整流板を設置することにより、スラッジブランケット層内を略均等に原水が流れた影響と考えられる。また、整流板は、平型よりも、従来の阻流板を敷き詰めて、整流孔を開けた山型タイプの方が、より効果的であった。平型の場合より、スラッジブランケット層全体をより有効に使うことができた影響と考えられる。
【0055】
以上の通り、実施例の方法により、比較例と比較して、原水が変動しても安定運転が可能となり、運転管理が大幅に簡易化された。
【符号の説明】
【0056】
1,3,5 凝集沈澱装置、10 槽、12 脈動発生装置、14 凝集沈澱室、16 濃縮室、18 仕切り板、20 真空塔、22,54 原水導入管、24,26 汚泥排出管、28 処理水排出管、30 原水分配管、32 給水ダクト、34 スラッジブランケット層、36 撹拌ゾーン、40 傾斜装置、42 整流板、44 水位計、46 真空ポンプ、48 バキュームブレーカ、50 急速撹拌槽、52 サイフォン装置、56 ダンパー弁、58 回転弁、60 整流孔、62 阻流板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10