(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.実施形態:
A−1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1のII−IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1のIII−IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図4以降についても同様である。
【0018】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。なお、燃料電池スタック100は、特許請求の範囲における電気化学反応セルスタックに相当し、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0019】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0020】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、
図2および
図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0021】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。
図1および
図2に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0022】
また、
図1および
図3に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0023】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、
図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、
図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0024】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0025】
(発電単位102の構成)
図4は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0026】
図4および
図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0027】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(
図2および
図3参照)。
【0028】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112の上下方向の一方側(下側)に配置された燃料極(アノード)116と、電解質層112の上下方向の他方側(上側)に配置された空気極(カソード)114と、電解質層112と空気極114との間に配置された中間層180とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、中間層180)を支持する燃料極支持形の単セルである。単セル110は、特許請求の範囲における電気化学反応単セルに相当する。
【0029】
電解質層112は、略矩形の平板形状部材であり、固体酸化物であるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)を含むように形成されている。空気極114は、略矩形の平板形状部材である。空気極114の構成については、後に詳述する。燃料極116は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。このように、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0030】
中間層180は、略矩形の平板形状部材であり、GDC(ガドリニウムドープセリア)を含むように形成されている。中間層180は、空気極114から拡散したSrが電解質層112に含まれるZrと反応して高抵抗なSZOが生成されることを抑制する。
【0031】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0032】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0033】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0034】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0035】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。なお、空気極側集電体134とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されているとしてもよい。また、空気極側集電体134は、導電性のコートによって覆われていてもよく、空気極114と空気極側集電体134との間には、両者を接合する導電性の接合層が介在していてもよい。
【0036】
A−2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0037】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0038】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、
図3および
図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0039】
A−3.空気極114の詳細構成:
図6は、単セル110の詳細構成を示す説明図である。
図6には、
図4の領域X1における単セル110のXZ断面構成が示されている。また、
図7は、
図6のVII−VIIの位置における単セル110のXY断面構成を示す説明図である。
【0040】
本実施形態では、空気極114は、集電層210と、集電層210と電解質層112(および中間層180)との間に配置された活性層220とから構成されている。集電層210と活性層220とは隣接している。空気極114の活性層220は、主として、酸化剤ガスOGに含まれる酸素のイオン化反応の場として機能する層であり、主に電子を伝導するLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)と主に酸素イオンを伝導するGDC(ガドリニウムドープセリア)とを含むように形成されている。活性層220がGDCを含んでいると、活性層220とGDCを含む中間層180との接合性を高めることができると共に、活性層220における反応性を向上させることができる。また、空気極114の集電層210は、主として、空気室166から供給された酸化剤ガスOGを拡散させると共に、発電反応により得られた電気を集電する場として機能する層であり、LSCFを含むように形成されている。集電層210は、特許請求の範囲における第1の空気極層に相当し、活性層220は、特許請求の範囲における第2の空気極層に相当する。
【0041】
図6および
図7に示すように、活性層220の上下方向の厚さ(以下、「活性層厚さΔD2」という)は、集電層210の上下方向の厚さ(以下、「集電層厚さΔD1」という)より薄い。例えば、活性層厚さΔD2は、7(μm)以上、17(μm)以下であり、集電層厚さΔD1は、60(μm)以上、180(μm)以下である。なお、集電層210の厚さが一様ではない場合には、集電層厚さΔD1は、集電層210の上下方向の平均厚さとする。同様に、活性層220の厚さが一様ではない場合には、活性層厚さΔD2は、活性層220の上下方向の平均厚さとする。平均厚さは、例えば次の方法で求める。中間層180と活性層220との境界線に対して垂直な仮想線を等間隔で10本引き、各仮想線について複数の境界線との交点同士の間の距離を該仮想線上における層の厚さとし、10本の仮想線上における層の厚さの平均値を算出し、その算出値を平均厚さとする。具体的には、集電層厚さΔD1は、各仮想線上における集電層210と活性層220との境界線との交点と、集電層210と活性層220との境界線との交点との間の距離について、10本の仮想線の平均値である。活性層厚さΔD2は、各仮想線上における集電層210と活性層220との境界線との交点と、活性層220と中間層180との境界線との交点との間の距離について、10本の仮想線の平均値である。
【0042】
また、集電層210の上下方向回りの全周にわたって、上下方向に直交する仮想平面S(XY平面)に対する、集電層210の第1の外周面210Aの傾斜角度βは50度以上である。具体的には、集電層210の第1の外周面210Aは、電解質層112とは反対側(空気極側集電体134側 Z軸正方向)に向かうに連れて集電層210の上面(電解質層112とは反対側の表面)における中央部(上下方向に平行な集電層210の中心軸線)に近づくように傾斜している。また、
図7に示すように、集電層210の上下方向視の外形(外周線)は、略矩形であり、該矩形が有する4つの角部C1のそれぞれについても、第1の外周面210Aの傾斜角度βは50度以上である。なお、第1の外周面210Aの傾斜角度βは、第1の外周面210Aの近似直線と上記仮想平面Sとがなす鋭角である。
【0043】
また、活性層220の上下方向回りの全周にわたって、上記仮想平面Sに対する、活性層220の第2の外周面220Aの傾斜角度αは50度未満である。具体的には、活性層220の第2の外周面220Aは、電解質層112とは反対側(集電層210側 Z軸正方向)に向かうに連れて活性層220と集電層210との界面における中央部(上下方向に平行な活性層220の中心軸線)に近づくように傾斜している。また、
図7に示すように、活性層220の上下方向視の外形(外周線)は、略矩形であり、該矩形が有する4つの角部C2のそれぞれについても、第2の外周面220Aの傾斜角度αは50度未満である。なお、第2の外周面220Aの傾斜角度αは、第2の外周面220Aの近似直線と上記仮想平面Sとがなす鋭角である。活性層220の第2の外周面220Aの傾斜角度αは20度未満であることがより好ましい。
【0044】
集電層210の第1の外周面210Aと活性層220の第2の外周面220Aとは、全周にわたって、集電層210と活性層220との界面において連続している。また、活性層220の下端のX軸方向の幅L1と、集電層210と活性層220との界面のX軸方向の幅L2と、集電層210の上端のX軸方向の幅L3との間の大小関係は、次の通りである。なお、Y軸方向においても同様の大小関係になっている(
図7参照)。
L1 > L2 > L3
また、集電体要素135のX軸方向の幅L4は、集電層210の上端のX軸方向の幅L3と略同一である。なお、Y軸方向の一方の端に位置する集電体要素135の一方の端面とY軸方向の他方の端に位置する集電体要素135の他方の端面との距離は、集電層210の上端のX軸方向の幅L3と略同一である。
【0045】
集電層210における酸化剤ガスOGの拡散性向上のため、集電層210の平均気孔率は、活性層220の平均気孔率より高い。例えば、集電層210の平均気孔率は略40%であり、活性層220の平均気孔率は略30%である。また、上述したように、第1の外周面210Aの傾斜角度βは、第2の外周面220Aの傾斜角度αより大きい。このため、活性層220に向けて流れ込んだ酸化剤ガスOGは、活性層220の第2の外周面220Aに沿って集電層210の第1の外周面210A側に案内されることによって、空気室166から供給された酸化剤ガスOGが、活性層220より、ガスの拡散性が高い集電層210に多く供給される。これにより、空気極114内における酸化剤ガスOGの拡散性をさらに向上させることができる。
【0046】
また、集電層210の形成材料(LSCF)の平均粒径は、活性層220の形成材料(LSCF,GDC)の平均粒径より大きい。例えば、集電層210の形成材料の平均粒径は、0.85(μm)以上、1.18(μm)以下であり、活性層220の形成材料の平均粒径は、0.2(μm)以上、0.7(μm)以下である。
【0047】
なお、集電層210および活性層220の平均粒径および平均気孔率は、空気極114のSEM断面写真を用い、インターセプト法(例えば、水谷惟恭著、「セラミックプロセシング」、技報堂出版、1985年3月、p.193−p.195参照)によって算出することができる。また、集電層210と活性層220との界面は、両者の材料、平均粒径および平均気孔率の少なくとも1つの相違(変曲点)に基づき決定することができる。
【0048】
A−4.燃料電池スタック100の製造方法:
上述した構成の燃料電池スタック100の製造方法は、例えば以下の通りである。
図8は、燃料電池スタック100の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0049】
(電解質層112と燃料極116との積層体の形成)
はじめに、電解質層112と燃料極116との積層体を形成する(S110)。具体的には、YSZ粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるジオクチルフタレート(DOP)と、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、電解質層用グリーンシートを得る。また、NiOの粉末とYSZの粉末との混合粉末に対して、造孔材である有機ビーズと、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、燃料極用グリーンシートを得る。電解質層用グリーンシートと燃料極用グリーンシートとを貼り付けて乾燥させ、例えば1400℃にて焼成を行うことによって、電解質層112と燃料極116との第1の積層体を得る。
【0050】
(中間層180の形成)
次に、中間層180を形成する(S120)。具体的には、GDC粉末に、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを加えて混合し、粘度を調整して中間層用ペーストを調製する。得られた中間層用ペーストを、上述した第1の積層体における電解質層112側の表面に例えばスクリーン印刷によって塗布し、例えば1180℃にて焼成を行う。これにより、中間層180が形成され、燃料極116と電解質層112と中間層180との第2の積層体が作製される。
【0051】
(空気極114の形成)
次に、空気極114を形成する。はじめに、LSCF粉末と、GDC粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、活性層220を形成するための材料である活性層用ペーストを調製(準備)する(S130)。また、LSCF粉末と、アルミナ粉末と、可塑剤としてのDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを混合し、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化する。薄膜化したシートを、例えば金型やレーザ等により所定の寸法に打ち抜くことにより、集電層用グリーンシートを得る(S140)。なお、この打ち抜きにより、集電層用グリーンシートの外周面は上下方向に略平行になっている。外周面の角度は、シートの打ち抜き時の金型のクリアランスの調整などによって調整可能である。また、レーザによる打ち抜きの場合、外周面の角度は、レーザの入射角度を変えることによって調整可能である。また、シートの加工性は、グリーンシートの密度、すなわち、バインダの重合度や添加量、可塑剤の添加量などを変更することによって調整することができる。
【0052】
次に、準備された活性層用ペーストを、第2の積層体における中間層180側の表面に例えばスクリーン印刷によって塗布する。スクリーン印刷を用いることによって、活性層220の外周部に、中間層180の表面に向かって緩やかに傾斜する面を形成することができる。次に、塗布された活性層用ペーストが乾燥する前に、該活性層用ペーストの表面上に集電層用グリーンシートを重ね合わせて、温度60℃、0.5(kgf)×60(sec)の加圧条件で、集電層用グリーンシートを加圧して活性層用ペースト上に貼り合わせる(S150)。これにより、集電層用グリーンシートと活性層用ペーストと第2の積層体との第3の積層体が作製される。
【0053】
次に、第3の積層体を、所定の焼成温度(例えば1100℃)で焼成する(S160)。これにより、活性層用ペーストから活性層220が形成され、集電層用グリーンシートから集電層210が形成される。すなわち、この焼成により、燃料極116と電解質層112と中間層180と活性層220と集電層210との積層体、すなわち、単セル110が作製される。このように、活性層用ペーストから活性層220を形成することにより、比較的簡単に、活性層220の第2の外周面220Aの傾斜角度αを50度未満することができる。また、外周面が上下方向に略平行な集電層用グリーンシートから集電層210を形成することにより、比較的簡単に、集電層210の第1の外周面210Aの傾斜角度βを50度以上にすることができる。
【0054】
なお、集電層用ペーストをスクリーン印刷することにより、集電層210の外周面210Aの傾斜角度βを50度以上とすることができる。この場合、活性層用ペーストを塗布、乾燥した上に、粘度2000Pa・s以上の高粘度の集電層ペーストを、メタルマスクで印刷する。メタルマスクの内周面の傾斜角度は50度以上である。塗布された集電層用ペーストを乾燥させると、集電層210の外周面210Aの傾斜角度βが50度以上である集電層210が形成される。
【0055】
上述の方法により複数の単セル110を作製し、複数の単セル110を、空気極側集電体134や燃料極側集電体144、インターコネクタ150等の集電部材を間に介してZ軸方向に並べて配置し、ボルト22により締結することにより、上述した燃料電池スタック100が製造される(S170)。
【0056】
A−5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の単セル110では、活性層220の第2の外周面220Aの傾斜角度αは50度未満である。このため、第2の外周面220Aの傾斜角度αが50度以上である構成に比べて、空気極114(集電層210)の周縁部の上下方向の厚さが薄くなり、空気極114と接触層(本実施形態では中間層180)との周縁部同士の界面への応力集中を抑制することができる。具体的には、単セル110の発電動作の実行と停止とが繰り返されることによって単セル110の温度が変化する際、空気極114(活性層220)と中間層180との熱膨張係数の差に起因して、活性層220と中間層180との体積変動量の差が生じる。活性層220が収縮する際、活性層220全体に、該活性層220の表面側から内部側に向かう収縮力が発生する。また、活性層220と中間層180との接合力や摩擦力によって、活性層220における中間層180との接触部分に、上記収縮力に抗して活性層220の原形を維持しようとする拘束力が発生する。一方、活性層220における中間層180とは反対側(上側)の部分には、上記拘束力が発生しないため、中間層180側(下側)の接触部分に比べて大きな収縮力が発生する。この活性層220の上側と下側とにおける収縮力の差により、活性層220の周縁部には、活性層220を中間層180から離間させる応力(以下、「離間応力」という)が作用する。活性層220の厚さが厚いほど、活性層220の上側と下側とにおける収縮力の差が大きくなるため、離間応力が大きくなる。このため、本実施形態の単セル110のように活性層220の厚さが薄ければ、離間応力を抑制することができる。
【0057】
しかも、本実施形態の単セル110では、活性層220の上下方向回りの全周にわたって、活性層220の第2の外周面220Aの傾斜角度αは50度未満である。したがって、集電層210の上下方向回りの全周にわたって、空気極114と中間層180との周縁部同士の界面への応力集中を抑制することができる。また、特に応力が集中し易い角部C2付近において、空気極114と中間層180との周縁部同士の界面への応力集中を抑制することができる。さらに、本実施形態の単セル110では、活性層220の第2の外周面220Aの傾斜角度αは20度未満である。したがって、第2の外周面220Aの傾斜角度αが20度以上である構成に比べて、集電層210の周縁部の厚さがさらに薄くなるため、空気極114と中間層180との周縁部同士の界面への応力集中をより効果的に抑制することができる。
【0058】
ここで、例えば、本実施形態の単セル110に対して、集電層210の周縁部まで覆うように形成された比較例の単セルについて性能評価をした。この比較例の単セルでは、集電層210の周縁部が活性層220の周縁部に被さっており、活性層220の第2の外周面220Aの傾斜角度αは外部から確認できず、集電層210の第1の外周面210Aは、傾斜角度βが50度以上の状態で中間層180に接触している。この比較例の単セルの性能評価結果では、中間層180におけるクラックの発生や空気極114の剥離が確認された。これに対して、本実施形態の単セル110では、集電層210の周縁部が活性層220の周縁部に被さっていない状態、すなわち、上下方向視で、活性層220の面積が集電層210の面積より小さい状態である。本実施形態の単セル110の性能評価結果では、中間層180におけるクラックの発生や空気極114の剥離が確認されなかった。なお、このとき、本実施形態の単セル110における活性層220の傾斜角度αは20度であった。
【0059】
また、本実施形態の単セル110では、集電層210の第1の外周面210Aの傾斜角度βは50度以上である。このため、集電層210における空気極114側の断面(集電層210と活性層220との界面)の面積が同じである前提において、第1の外周面210Aの傾斜角度βは50度未満である構成に比べて、集電層210の上面(集電体要素135との対向面)の表面積が大きい。したがって、集電層210と集電体要素135との接触面積を広く確保することができるため、集電層210(空気極114)と集電体要素135との集電面積の減少を抑制することができる。以上のように、本実施形態の単セル110によれば、空気極114と中間層180との周縁部同士の界面への応力集中を抑制しつつ、集電体要素135と空気極114との集電面積の減少を抑制することができる。
【0060】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0061】
上記実施形態では、集電層210の上下方向回りの全周にわたって集電層210の第1の外周面210Aの傾斜角度βは50度以上であるとしたが、集電層210の上下方向回りの一部(例えば角部C1)だけについて集電層210の第1の外周面210Aの傾斜角度βが50度以上であるとしてもよい。また、上記実施形態では、集電層210の上下方向視の外形(外周線)は、略矩形であるとしたが、矩形以外の角部を有する形状(例えば八角形)でもよく、また、角部を有しない形状(例えば角部がR面取りされた形状)でもよい。
【0062】
上記実施形態では、活性層220の上下方向回りの全周にわたって活性層220の第2の外周面220Aの傾斜角度αは50度未満であるとしたが、活性層220上下方向回りの一部(例えば角部C2)だけについて活性層220の第2の外周面220Aの傾斜角度αが50度未満であるとしてもよい。また、活性層220の第2の外周面220Aの傾斜角度αは、40度未満でもよいし、30度未満でもよいし、10度未満でもよい。ただし、傾斜角度αが3度未満であると、活性層220と集電層210との熱膨張の差が過度に大きくなる可能性があるため、好ましくない。また、活性層220の厚さが過度に薄くなる部分が増えるため、活性層220の厚さのバラツキが大きくなり、空気極114としての性能が低下するおそれがある。また、上記実施形態では、活性層220の上下方向視の外形(外周線)は、略矩形であるとしたが、矩形以外の角部を有する形状(例えば八角形)でもよく、また、角部を有しない形状(例えば角部がR面取りされた形状)でもよい。
【0063】
上記実施形態において、集電層210の第1の外周面210Aと活性層220の第2の外周面220Aとは、全周にわたって、集電層210と活性層220との界面において連続しているとした。すなわち、上下方向視で、集電層210における活性層220側の端面の第1の周縁は、活性層220における集電層210側の端面の第2の周縁と一致するとしたが、第1の周縁が第2の周縁より内側に位置するとしてもよい。すなわち、集電層210の第1の外周面210Aと活性層220の第2の外周面220Aとの間に、例えば活性層220の平坦面(上面)や、集電層210や活性層220とは異なる別の層の外周面が介在する構成でもよい。
【0064】
上記実施形態における単セル110または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、空気極114は、活性層220と集電層210との二層構成であるとしているが、空気極114が活性層220および集電層210以外の他の層を含むとしてもよい。また、上記実施形態では、単セル110は中間層180を備えているが、単セル110は必ずしも中間層180を備える必要は無い。
【0065】
また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。
【0066】
また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。例えば、上記実施形態では、電解質層112がYSZを含むとしているが、電解質層112は、YSZに代えて、あるいはYSZに加えて、例えばScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)やCaSZ(酸化カルシウム安定化ジルコニア)等の他の材料を含むとしてもよい。また、上記実施形態では、空気極114(活性層220および集電層210)がLSCFを含むとしているが、空気極114は、LSCFに代えて、あるいはLSCFに加えて、例えばLSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)やLSC(ランタンストロンチウムコバルト酸化物)等の他の材料を含むとしてもよい。また、上記実施形態では、活性層220や中間層180がGDCを含むとしているが、活性層220や中間層180が、GDCに代えて、あるいはGDCに加えて、例えばSDC(サマリウムドープセリア)等の他の材料を含むとしてもよい。また、集電層210と活性層220とは同じ材料(組成)により形成されているとしてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルや、複数の電解単セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016−81813号公報に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解単セルにも、本発明を適用すれば、空気極と接触層との周縁部同士の界面への応力集中を抑制しつつ、集電体と空気極との集電面積の減少を抑制することができる。