(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965106
(24)【登録日】2021年10月22日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】真空式温水機及びその減圧蒸気室内の気密性低下判定方法
(51)【国際特許分類】
F24H 1/24 20060101AFI20211028BHJP
F22B 3/04 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
F24H1/24 Z
F22B3/04
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-213462(P2017-213462)
(22)【出願日】2017年11月6日
(65)【公開番号】特開2019-86195(P2019-86195A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】505229472
【氏名又は名称】株式会社日本サーモエナー
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100082474
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】三浦 智郎
(72)【発明者】
【氏名】正野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】八木 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】山口 慧祐
【審査官】
藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開平2−223702(JP,A)
【文献】
特開平7−218061(JP,A)
【文献】
韓国登録特許第10−1562509(KR,B1)
【文献】
特開平8−210704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24H 1/24
F22B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧蒸気室内の非凝縮性ガスを検知して抽気する機能を備えた真空式温水機の前記減圧蒸気室内の気密性低下判定方法であって、
抽気回数をカウントするステップと、
前記真空式温水機の運転時間、燃焼時間、及び停止時間を計測するステップと、
前記運転時間、燃焼時間、及び停止時間から、運転負荷及び燃焼負荷を計算するステップと、
前記抽気回数を、運転時間に対応して運転負荷及び燃焼負荷に応じて予め設定された抽気基準回数と比較することにより、前記減圧蒸気室内の気密性低下の程度を判定する、気密性判定ステップと、を含む、前記減圧蒸気室内の気密性低下判定方法。
【請求項2】
前記減圧蒸気室内での水素発生反応が終息するまでの所定の初期抽気過程が完了しているか否かを、前記抽気回数と予め設定された初期抽気完了判定回数とを比較することにより判定するステップと、
初期抽気完了の信号を発生させるステップと、を更に含む、請求項1に記載の減圧蒸気室内の気密性低下判定方法。
【請求項3】
前記減圧蒸気室内での水素発生反応が終息するまでの所定の初期抽気過程が完了しているか否かを、前記抽気回数と予め定められた初期抽気完了判定回数とを比較することにより判定するステップを更に含み、
前記気密性判定ステップは、前記初期抽気過程における気密性を判定する初期抽気気密性判定ステップと、前記初期抽気過程が完了したと判定した後の定常抽気過程において気密性を判定する定常抽気気密性判定ステップとを含み、
前記抽気基準回数は、前記初期抽気過程のために設定された所定の初期抽気基準回数と、前記定常抽気過程のために設定された所定の定常抽気基準回数と、を含み、
前記初期抽気気密性判定ステップは、予め設定された所定回数毎に、前記初期抽気過程の抽気回数と予め設定された前記初期抽気基準回数とを比較するステップを含み、
前記定常抽気気密性判定ステップは、予め設定された所定運転時間毎に、前記定常抽気過程の抽気回数と前記定常抽気基準回数とを比較するステップを含む、請求項1に記載の減圧蒸気室内の気密性低下判定方法。
【請求項4】
前記初期抽気基準回数と前記初期抽気過程の抽気回数との差の度合いに応じて気密度の低下レベルを段階表示することを特徴とする請求項3に記載の減圧蒸気室内の気密性低下判定方法。
【請求項5】
前記定常抽気基準回数と前記定常抽気過程の抽気回数との差の度合いに応じて気密度の低下レベルを段階表示することを特徴とする請求項3又は4に記載の減圧蒸気室内の気密性低下判定方法。
【請求項6】
減圧蒸気室内の非凝縮性ガスを検知する検知して抽気する制御装置を備えた真空式温水機であって、
前記制御装置は、抽気回数をカウントするとともに前記真空式温水機の運転時間、燃焼時間、及び停止時間を計測し、前記運転時間、燃焼時間、及び停止時間から、運転負荷及び燃焼負荷を計算し、前記抽気回数を、運転時間に対応して運転負荷及び燃焼負荷に応じて予め設定された抽気基準回数と比較することにより、前記減圧蒸気室内の気密性低下の程度を判定するように構成されていることを特徴とする、前記真空式温水機。
【請求項7】
前記制御装置は、前記減圧蒸気室内での水素発生反応が終息するまでの所定の初期抽気過程が完了しているか否かを、前記抽気回数と予め設定された初期抽気完了判定回数とを比較することにより判定するとともに、初期抽気完了の信号を発生させるように構成されている、請求項6に記載の真空式温水機。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記減圧蒸気室内での水素発生反応が終息するまでの所定の初期抽気過程が完了しているか否かを、前記抽気回数と予め定められた初期抽気完了判定回数とを比較することにより判定し、
前記初期抽気過程では、予め設定された所定回数毎に、前記初期抽気過程での抽気回数と予め設定された初期抽気基準回数とを比較し、
前記初期抽気過程完了後の定常抽気過程では、予め設定された所定運転時間毎に、前記定常抽気過程の抽気回数と予め設定された定常抽気基準回数とを比較することにより、
前記減圧蒸気室内の気密性低下の程度を判定するように構成されている、請求項6に真空式温水機。
【請求項9】
前記制御装置は、前記初期抽気基準回数と前記初期抽気過程の抽気回数との差の度合いに応じて気密度の低下レベルを段階表示するように構成されていることを特徴とする請求項8に真空式温水機。
【請求項10】
前記制御装置は、前記定常抽気基準回数と前記定常抽気過程の抽気回数との差の度合いに応じて気密度の低下レベルを段階表示するように構成されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の真空式温水機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧蒸気室内の非凝縮性ガスを検知して自動的に排出する抽気装置を備える真空式温水機の前記減圧蒸気室内の気密性低下を検出し、判定する方法及び該方法を実施可能な真空温水機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の真空式温水機は、例えば
図1に示すように、火炉1に設けられたバーナ2の燃焼熱により、大気圧以下に減圧された減圧蒸気室4内の熱媒水Wを加熱し、発生した減圧蒸気の凝縮熱で熱交換器5を加熱する。蒸気の凝縮熱により熱交換器5を加熱しているため、減圧蒸気室4内に非凝縮性ガスが存在すると熱交換器5への伝熱が阻害され、真空式温水機の出力(又は効率)が低下する。
図1において、Fは燃料、6は送風機、7は水管群、8は煙室を其々示す。
【0003】
減圧蒸気室4内に存在し得る非凝縮性ガスとしては、気密性の低下により外部から減圧蒸気室4内に入る空気と、減圧蒸気室4を形成する鉄と熱媒水(水)との化学反応により発生する水素ガスとがある。
【0004】
真空式温水機を運転すると減圧蒸気室4内の温度上昇により、減圧蒸気室4内で熱媒水が水素イオン(2H
+)と水酸イオン(2OH
−)に電離する反応が促進される。減圧蒸気室4を形成する鉄は鉄イオン(Fe
2+)となって熱媒水中に溶出し、残った電子(2e
−)は陽極周辺に移動して陰極を作る。陽極部より溶出した鉄イオン(Fe
2+)は水中の水酸イオン(2OH
−)と反応して水酸化鉄(Fe(OH)
2)を生成する。そして、陰極部の電子(2e
−)は水中の水素イオン(2H
+)と電気的に中和して水素(H
2)又は水(H
2O)を生成する。このような反応により、減圧蒸気室4内に水素ガスが発生する。
【0005】
減圧蒸気室4内で発生した非凝縮性ガスは、センサで検知されて自動的に抽気される(特許文献1等)。図示例では、制御装置10は、空気溜タンク11に設けられた蒸気温度センサ12の測定温度と熱媒水温度センサ13の測定温度の温度差を演算し、演算した温度差を予め設定された設定温度Kと比較して、温度差が設定温度K以上になったときに抽気ポンプ3を連続的又は断続的に所定時間作動させる指令を出す。
【0006】
例えば、減圧蒸気室4内に水素ガスが1リットル存在すると、蒸気温度センサ12と熱媒水温度センサ13の測定温度差は12℃となる。設定温度Kは例えば10℃に設定される。一度の抽気動作により、減圧蒸気室4内の1リットルの水素ガスは完全に排出されると、温度差は3℃程度となり、抽気動作は完了する。抽気完了後、時間が経過して再び水素の発生を検知したら再び抽気ポンプ3により抽気される。このようにして、抽気動作が自動的に繰り返される。
【0007】
減圧蒸気室4内で生成した水酸化鉄(Fe(OH)
2)が減圧蒸気室4の内壁面に徐々に被膜を形成し、水素発生反応を阻害するため、真空式温水機の運転開始から例えば1000〜2000時間程度(機種によって変わる)で水素の発生は終息する(微量の水素は発生し続ける。)。水素の発生反応が終息するまで、即ち初期抽気が完了するまでは、頻繁に抽気動作が繰り返されるが、初期抽気が完了した後は、抽気ポンプ3の抽気頻度は急激に低下する。
【0008】
しかしながら、減圧蒸気室4に取り付けられている部品のシール部の不調により気密性が低下し、減圧蒸気室4内に非凝縮性ガス(空気)が入り込むと、抽気ポンプ3はほぼ一定の頻度で抽気動作を繰り返す。
【0009】
そのため、従来では、機種ごとに定めた抽気回数に上限値を設定し、この上限値に達した場合に減圧蒸気室4の気密性が低下していると判断し、異常・予知警報を出すようにしていた。これは、正常であれば、初期抽気完了迄の抽気回数は機種に応じて概ね定まるため、初期抽気完了迄の抽気回数(「初期抽気回数」と言う。)に、適宜の抽気回数を加算して上限値とすることにより、気密性の低下を判断し得るという考えに基づいている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−210704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、気密性低下を抽気回数の上限値のみで判断する場合は、抽気回数が上限値に達するまでは、部品のシール部に不具合があっても分からない。
【0012】
また、シール部が正常であっても外部空気が減圧蒸気室内に僅かずつ入ってくるが、性能上の問題がないレベルであれば許容される。また、初期抽気完了後も僅かではあるが、水素が発生し続ける。そのため、初期抽気完了後において、頻度は少ないが定期的に自動抽気装置の抽気ポンプが作動する。従って、気密性低下を判断する抽気回数の上限値を低くしすぎると、気密性に問題がない場合でも早期に異常・予告警報が出てしまう。
【0013】
一方、シール部に欠陥があると、許容できないレベルで外部空気が減圧蒸気室内に入り続けるため、自動抽気装置の抽気ポンプが作動し続ける。そのため、抽気ポンプの作動時間に上限値を設定しておいて、抽気ポンプの作動時間が設定された上限値を超えた場合に、異常・予告警報を出すことも考えられる。しかしながら、作動時間が上限値に達する迄はシール部に不具合があっても分からない。作動時間の上限値を短くすると、上記と同様な理由で、シール部が正常であっても異常・予告警報が出てしまう恐れがある。
【0014】
本発明は、上記問題を解決するため、気密性の低下をより正確かつ迅速に判定することが可能な方法及び真空温水機を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の第1の手段は、減圧蒸気室内の非凝縮性ガスを検知して抽気する機能を備えた真空式温水機の前記減圧蒸気室内の気密性低下判定方法であって、抽気回数をカウントするステップと、前記真空式温水機の運転時間、燃焼時間、及び停止時間を計測するステップと、前記運転時間、前記燃焼時間、及び前記停止時間から、運転負荷及び燃焼負荷を計算するステップと、前記抽気回数を、前記運転時間に対応して前記運転負荷及び前記燃焼負荷に応じて予め設定された抽気基準回数と比較することにより、前記減圧蒸気室内の気密性低下の程度を判定する、気密性判定ステップと、を含む。
【0016】
また、本発明の第2の手段は、上記第1の手段において、前記減圧蒸気室内での水素発生反応が終息するまでの所定の初期抽気過程が完了しているか否かを、前記抽気回数と予め設定された初期抽気完了判定回数とを比較することにより判定するステップと、初期抽気完了の信号を発生させるステップと、を更に含む。
【0017】
また、本発明の第3の手段は、上記第1の手段において、前記減圧蒸気室内での水素発生反応が終息するまでの所定の初期抽気過程が完了しているか否かを、前記抽気回数と予め定められた初期抽気完了判定回数とを比較することにより判定するステップを更に含み、前記気密性判定ステップは、前記初期抽気過程における気密性を判定する初期抽気気密性判定ステップと、前記初期抽気過程が完了したと判定した後の定常抽気過程において気密性を判定する定常抽気気密性判定ステップとを含み、前記抽気基準回数は、前記初期抽気過程のために設定された所定の初期抽気基準回数と、前記定常抽気過程のために設定された所定の定常抽気基準回数と、を含み、前記初期抽気気密性判定ステップは、予め設定された所定回数毎に、前記初期抽気過程の抽気回数と予め設定された前記初期抽気基準回数とを比較するステップを含み、前記定常抽気気密性判定ステップは、予め設定された所定運転時間毎に、前記定常抽気過程の抽気回数と前記定常抽気基準回数とを比較するステップを含む。
【0018】
また、本発明の第4の手段は、上記第3の手段において、前記初期抽気基準回数と前記初期抽気過程の抽気回数との差の度合いに応じて気密度の低下レベルを段階表示する。
【0019】
また、本発明の第5の手段は、上記第3の手段又は第4の手段において、前記定常抽気基準回数と前記定常抽気過程の抽気回数との差の度合いに応じて気密度の低下レベルを段階表示する。
【0020】
また、本発明の第6の手段は、減圧蒸気室内の非凝縮性ガスを検知する検知して抽気する制御装置を備えた真空式温水機であって、前記制御装置は、抽気回数をカウントするとともに前記真空式温水機の運転時間、燃焼時間、及び停止時間を計測し、前記運転時間、前記燃焼時間、及び前記停止時間から、運転負荷及び燃焼負荷を計算し、前記抽気回数を、運転時間に対応して運転負荷及び燃焼負荷に応じて予め設定された抽気基準回数と比較することにより、前記減圧蒸気室内の気密性低下の程度を判定するように構成されている。
【0021】
また、本発明の第7の手段は、上記第6の手段において、前記制御装置が、前記減圧蒸気室内での水素発生反応が終息するまでの所定の初期抽気過程が完了しているか否かを、前記抽気回数と予め設定された初期抽気完了判定回数とを比較することにより判定するとともに、初期抽気完了の信号を発生させるように構成されている。
【0022】
また、本発明の第8の手段は、上記第6の手段において、前記制御装置が、前記減圧蒸気室内での水素発生反応が終息するまでの所定の初期抽気過程が完了しているか否かを、前記抽気回数と予め定められた初期抽気完了判定回数とを比較することにより判定し、前記初期抽気過程では、予め設定された所定回数毎に、前記初期抽気過程での抽気回数と予め設定された初期抽気基準回数とを比較し、前記初期抽気過程完了後の定常抽気過程では、予め設定された所定運転時間毎に、前記定常抽気過程の抽気回数と予め設定された定常抽気基準回数とを比較することにより、前記減圧蒸気室内の気密性低下の程度を判定するように構成されている。
【0023】
また、本発明の第9の手段は、上記第8の手段において、前記制御装置が、前記初期抽気基準回数と前記初期抽気過程の抽気回数との差の度合いに応じて気密度の低下レベルを段階表示するように構成されている。
【0024】
また、本発明の第10の手段は、上記第8の手段又は第9の手段において、前記制御装置が、前記定常抽気基準回数と前記定常抽気過程の抽気回数との差の度合いに応じて気密度の低下レベルを段階表示するように構成されている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、抽気時迄の運転時間に対応して予め設定された抽気基準回数と、抽気装置の抽気カウント数とを比較して気密性低下の程度を判定することにより、早期に気密性の低下を発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】真空式温水機の内部構造を制御系統とともに示すブロック図である。
【
図2】真空式温水機の運転時間と抽気回数との関係の一例を示すグラフである。
【
図3】真空式温水機の運転時間と抽気回数との関係の他の例を示すグラフである。
【
図4】真空式温水機の運転時間と抽気回数との関係の他の例を示すグラフである。
【
図5】真空式温水機の運転時間と抽気回数との関係の他の例を示すグラフである。
【
図6】真空式温水機の運転時間と抽気回数との関係の他の例を示すグラフである。
【
図7】真空式温水機の運転時間と抽気回数との関係の他の例を示すグラフである。
【
図8】本発明に係る気密性低下判定方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【
図9】
図8のフローチャートに続くフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る真空式温水機及びその気密性低下を判定する方法の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明に係る真空式温水機は、制御装置の制御プログラムを除き、
図1に示した従来構成を採用することができる。従って、以下の説明において、
図1を適宜参照し、従来技術を含め、同様の構成部分には同符号を付して重複説明を省略する。
【0028】
従来と同様に、制御装置10は、蒸気温度センサ12の測定温度(K1)と熱媒水温度センサ13の測定温度(K2)の測定温度差(K2−K1)を設定温度(S)と比較し、測定温度差(K2−K1)が設定温度(S)以上となった場合に、バルブ16,17を開いて抽気ポンプ3を一定時間作動させる。
【0029】
また、制御装置10は、蒸気温度(K1)と熱媒水温度(K2)との温度差(K2−K1)が設定温度(S)以上になると抽気ポンプ3を一定時間作動させる指令を出力するが、抽気ポンプ3を作動させた回数、即ち、作動指令を出力した回数をカウントする。カウントされた抽気回数(N)は、制御装置10のメモリ等の記憶装置(図示せず。)に記憶される。
【0030】
更に、制御装置10は、バーナ2の燃料量調整機構18及び風量調整機構19を制御することにより、バーナ2の燃焼量を制御する。制御装置10は、熱媒水温度センサ13の温度出力を受けて、熱媒水Wの温度が設定温度(75℃〜90℃)になるように、バーナ2の燃焼量をフィードバック制御する。本発明において、熱媒水Wを設定温度に制御する運転を行っている時間を「運転時間」と言い、「運転時間」はバーナ2を燃焼させている「燃焼時間」を含む。制御装置10は、運転時間T、燃焼時間、及び、熱媒水Wの温度制御及び抽気制御を停止させている停止時間を計測する。運転時間T、燃焼時間、及び停止時間は、制御装置10のメモリ等の記憶装置に記憶される。
【0031】
また、制御装置10は、抽気回数(N)を、抽気時までの運転時間(T)に対応して予め設定された抽気基準回数と比較することにより、減圧蒸気室4内の気密性低下の程度を判定する。
【0032】
前記抽気基準回数は運転負荷及び燃焼負荷に応じて運転時間と抽気回数との関係から設定され、この関係は真空式温水機の機種ごとに定まる。ここで、「運転負荷」とは、運転時間と停止時間の合計時間に対する運転時間の割合、即ち、(運転時間)/(運転時間+停止時間)を意味する。「停止時間」は、温水プール施設等で夜間は温水を利用しないような場合に真空式温水機を停止させている時間であり、この停止時間帯では熱媒水は温度が下がり外気温度と同等になる。「燃焼負荷」とは、「運転時間」に対する燃焼時間の割合、即ち、(燃焼時間)/(運転時間)を意味する。「燃焼時間」は、バーナ2が燃えている時間のことである。
【0033】
図2〜
図7は、運転負荷及び燃焼負荷が其々異なる場合の、正常な真空式温水機の運転時間と抽気回数との関係を示すグラフの例を示している。
図2〜
図7において、横軸は運転時間であり、縦軸は抽気回数を示している。
図2〜
図7に示す運転時間と抽気回数との関係を示すグラフを抽気基準線と呼ぶ。抽気基準線は、機種、運転負荷、及び燃焼負荷で定まる。
【0034】
抽気基準線のグラフから分かるように、減圧蒸気室4内で水素発生反応が活発に進行している間は抽気が頻繁に行われるが、水素発生反応の進行が阻害され反応速度が除々に低下して水素発生反応が終息するのに伴って時間当たりの抽気回数も徐々に減少した後、抽気する頻度が著しく減少して、運転時間と抽気回数とがほぼ比例関係となる。
【0035】
運転時間と抽気回数とがほぼ比例関係となっている状態を「定常抽気状態」と言い、この定常抽気状態の過程を「定常抽気過程」と言う。そして、定常抽気状態になる前の状態を「初期抽気状態」と言い、この初期抽気状態の過程を「初期抽気過程」と言う。
図2〜
図7のグラフに示されるように、初期抽気過程のグラフは対数関数的に表れ、対数関数で近似することができ、定常抽気過程のグラフは直線で近似することができる。
【0036】
前記抽気基準回数は、運転負荷及び燃焼負荷に応じて、運転時間(T)に対応する抽気基準線上の抽気回数として予め設定することができる。また、前記抽気基準線から、初期抽気過程が完了していると認められる時の抽気回数を、「初期抽気完了判定回数(C)」として設定することができる。初期抽気完了判定回数(C)は、運転負荷及び燃焼負荷に関係なく、真空式温水機の出力、形式等によって機種毎に決まり、予め設定される。初期抽気過程での基準曲線上での抽気基準回数を「初期抽気基準回数」(B)と言い、定常抽気過程での基準曲線上での抽気基準回数を「定常抽気基準回数」(D)と言う。
【0037】
抽気回数(N)と前記抽気基準回数との差が、予め設定された許容範囲内であるか否かを判別し、許容範囲外であるときに、減圧蒸気室4内の気密性が低下していると判断し、異常・予告警報を出す。
【0038】
このように抽気基準回数と抽気回数(N)とを比較することにより、シール不良を正確かつ早期に発見することができる。以下、
図8及び
図9に示した制御フローチャートの一例を適宜参照する。
【0039】
初期抽気が完了しているか否かを、抽気回数(N)と予め設定された初期抽気完了判定回数(C)とを比較することにより判定し(S9参照)、初期抽気が完了していると判定した場合に初期抽気完了の信号(モニター表示信号等)を発生させることができる(S10参照)。
【0040】
初期抽気完了は、自動車でいう馴らし運転完了を意味するものであり、初期抽気完了を知らせることにより、定期点検を促すことができる。
【0041】
また、気密性の判定において、初期抽気過程では、予め設定された所定回数(A回)毎に抽気回数(N)と予め設定された初期抽気基準回数(B)とを比較し(S1、S2参照)、定常抽気過程では、予め設定された所定運転時間(U時間)毎に抽気回数(N)と定常抽気基準回数(B)とを比較することができる(S12,S13参照)。
【0042】
初期抽気過程では抽気を頻繁に行うため、初期抽気過程では抽気回数(N)が所定回数(A回)毎に気密性低下を判定することにより、抽気回数で判定実施した方が早い段階で気密性低下を判定できる。所定回数(A回)が例えば15回であるとすると、15回×X回毎(X=1,2,3・・)、即ち、抽気回数(N)が15回、30回、45回・・・のときに、気密性低下を判定する。
【0043】
一方、定常抽気過程では、抽気回数が初期抽気過程に比べて極端に減る。そして、停止時間が長いほど熱媒水が冷え、減圧蒸気室4内の圧力は低い状態が続くため外部から空気が漏れ込みやすくなる。そのため、定常抽気過程では運転負荷(運転時間/(運転時間+停止時間))をパラメータとして、ある程度の運転時間(U:例えばU=1000時間)が経過した後に気密性低下を判定する。定常抽気過程では、抽気回数の積算ではなく、定常抽気過程での所定運転時間毎の抽気回数で判定するのは、回数が増えると測定誤差が影響してくるからである。
【0044】
初期抽気過程において、初期抽気基準回数(B)と抽気カウント数(N)との差の度合いに応じて気密度の低下レベルを段階表示することができる。図示例では、初期抽気基準回数(B)と抽気カウント数(N)との差の度合い(Y)を、((抽気カウント数(N)−初期抽気基準回数(B))/初期抽気基準回数(B))×100(%)とし(S2参照)、0%≦レベル0≦20%、20%<レベル1≦40%、40%<レベル2≦60%、60%<レベル3≦80%、80%<レベル4(予知レベル)≦100%、100%<レベル5(警報レベル)とする(S3〜S8参照)。
【0045】
また、定常抽気過程においても同様に、定常抽気基準回数(D)と定常抽気過程の抽気カウント数(N)との差の度合いに応じて気密度の低下レベルを段階表示することができる(S13、S14〜S19参照)。
【0046】
このように気密性の低下レベルを段階的に表示することにより、気密度低下による効率又は出力の低下の判断に利用することができる。
【0047】
また、気密性低下を段階的に判断できるため、保守点検がし易くなる。例えば、取付部品の気密シール部の劣化の場合、気密度低下レベルは順を追って徐々に大きくなる。低下レベルを監視することにより、シール性能が許容できないレベルになる前に気密シールの交換が可能となる。また、気密性低下のレベルを順に追わず、即座にレベル5(警報)を発した場合は、気密シールの劣化ではなく、缶体のパンク等の重度の故障が予測可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1 火炉
2 バーナ
3 抽気ポンプ
4 減圧蒸気室
5 熱交換器
10 制御装置
11 空気溜タンク
12 蒸気温度センサ
13 熱媒水温度センサ
W 熱媒水