特許第6965111号(P6965111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6965111-髪質改善用組成物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965111
(24)【登録日】2021年10月22日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】髪質改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20211028BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20211028BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   A61K8/9789
   A61Q5/00
   A61Q5/12
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-216390(P2017-216390)
(22)【出願日】2017年11月9日
(65)【公開番号】特開2019-85379(P2019-85379A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】水 雅美
【審査官】 松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−170894(JP,A)
【文献】 特開2009−067711(JP,A)
【文献】 特開2003−026581(JP,A)
【文献】 特開2002−370963(JP,A)
【文献】 特開2002−205913(JP,A)
【文献】 特開2008−260701(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/123093(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/094905(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/9789
A61Q 5/00
A61Q 5/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘蔗由来の蒸留物を有効成分として含有する髪質改善用組成物。
【請求項2】
前記蒸留物が、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の原料を蒸留して得られる蒸留物である、請求項1に記載の髪質改善用組成物。
【請求項3】
前記蒸留物が、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の原料を蒸留して得られた蒸留物を、固定担体を用いたカラムクロマトグラフィーで処理することにより得られる画分である、請求項1に記載の髪質改善用組成物。
【請求項4】
前記カラムクロマトグラフィーでの処理が、固定担体としての合成吸着剤を充填したカラムに、甘蔗汁および甘蔗の溶媒抽出物から選ばれる原料を蒸留して得られた蒸留物を通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、水、メタノール、エタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒で溶出する処理である、請求項3に記載の髪質改善用組成物。
【請求項5】
髪質改善用毛髪化粧料である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の髪質改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、髪質改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヘアカラー剤やパーマネント処理剤等の化学品による処理、又はブロー等の加熱による処理等により毛髪がダメージを受け、毛髪のごわつき、指通りの悪化といった症状が生じやすくなっている。そこで、ダメージを受けた毛髪の髪質を改善させる髪質改善剤として、特許文献1には、システアミンと、アミノ変性シリコーンと、所定の油剤とを含有する髪質改善剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-232791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、近年、環境への配慮及び安全性の確保といった観点から、ヒトに直接接触する毛髪化粧料には天然物由来の成分を用いることが求められつつある。
【0005】
そこで本発明は、ダメージを受けた毛髪のすべりを改善し、柔らかい質感を与えることを可能とする、髪質改善用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、ダメージを受けた毛髪のすべりを改善し、柔らかい質感を与えることによる、髪質を改善する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、甘蔗由来の蒸留物を有効成分として含有する髪質改善用組成物を提供する。
【0007】
蒸留物は、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の原料を蒸留して得られる蒸留物であってよい。
【0008】
蒸留物は、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の原料を蒸留して得られた蒸留物を、固定担体を用いたカラムクロマトグラフィーで処理することにより得られる画分であってもよい。
【0009】
カラムクロマトグラフィーでの処理は、好ましくは、固定担体としての合成吸着剤を充填したカラムに、甘蔗汁および甘蔗の溶媒抽出物から選ばれる原料を蒸留して得られた蒸留物を通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、水、メタノール、エタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒で溶出する処理であってもよい。
【0010】
髪質改善用組成物は、髪質改善用毛髪化粧料であってよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ダメージを受けた毛髪のすべりを改善し、柔らかい質感を与えることを可能とする、髪質改善用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1〜3、比較例1のサンプル(毛髪)及びダメージ処理を行っていない毛髪の表面状態を示す顕微鏡画像である。
図2】実施例4、比較例2のサンプル(毛髪)及びダメージ処理を行っていない毛髪の表面状態を示す顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
一実施形態に係る髪質改善用組成物は、甘蔗由来の蒸留物を有効成分として含有する。甘蔗由来の蒸留物は、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の原料を蒸留して得られる蒸留物であってよい。
【0015】
本明細書における「髪質の改善」とは、第一に、毛髪のすべり感を改善して、滑らかな手触りを与えることである。毛髪のすべり感の改善は、毛髪表面のすべり感を向上させること、又は、毛髪表面のざらつきを軽減させることでもある。「髪質の改善」とは、第二に、毛髪に柔らかい質感を与えることである。毛髪に柔らかい質感を与えることとは、毛髪を曲げたときの硬さが少なく、曲げた後には元の状態に戻りにくいことでもある。髪質を改善する対象となる毛髪は、ダメージを受ける前の毛髪であってもよいし、ダメージを受けた後の毛髪であってもよい。
【0016】
甘蔗汁は、甘蔗(サトウキビ)を圧搾して得られる圧搾汁、甘蔗を水で浸出して得られる浸出汁、又は原糖製造工場における石灰処理した清浄汁及び濃縮汁を包含する。甘蔗の溶媒抽出物とは、甘蔗を汎用の有機溶媒で抽出した抽出液を意味する。
【0017】
甘蔗の溶媒抽出物を得るための有機溶媒は、メタノール、エタノール等のアルコール類であってよく、これらの2種以上を組み合わせて使用されてよい。さらに、これらの有機溶媒と水とを組み合わせて使用してもよい。
【0018】
甘蔗由来の蒸留物は、一実施形態において、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の原料を以下の条件で蒸留することによって得ることができる。
【0019】
蒸留は、例えば、50℃〜120℃において、原料である液体が沸騰する圧力で行うことができる。蒸留は、好ましくは、70℃〜120℃において、原料である液体が沸騰する圧力で行うことができる。圧力は、抽出に用いる溶媒、及び蒸留工程で用いる装置等に応じて適宜調整されてよい。例えば、抽出溶媒に水を用いて、遠心式薄膜真空蒸発装置、冷却管を接続したフラスコ、又は蒸留機を用いて蒸留する場合には、圧力は、70℃〜105℃において、240mmHg〜常圧であってよい。蒸留温度は、例えば、130℃以下であってよい。上記の範囲よりも低い温度で蒸留が行われてもよいが、コストを抑える観点から、上記の温度範囲で蒸留を行うことが好ましい。蒸留装置は、例えば、実験室内においては冷却管などに接続したフラスコが用いられてよく、工場においては濃縮缶、結晶缶、効用缶等が用いられてよい。
【0020】
上記のようにして得られた甘蔗由来の蒸留物の有効成分をさらに濃縮する目的で、蒸留物を、固定担体を用いたカラムクロマトグラフィーで処理(通液)してもよい。カラムクロマトグラフィーでの処理をする際には、蒸留物を水により任意の濃度に調整してから通液してもよい。蒸留物がアルコールを含む場合には、水で希釈してからカラムクロマトグラフィーに通液してもよい。
【0021】
固定担体は、好ましくは合成吸着剤である。合成吸着剤は、好ましくは有機系樹脂であり、例えば、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、アクリロニトリル脂肪族系樹脂等であってよい。このような合成吸着剤として市販品を用いてもよく、例えば、ダイアイオン(商標)系としてHP−10、HP−20、HP−21、HP−30、HP−40、HP−50(以上、無置換基型の芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);SP−825、SP−800、SP−850、SP−875、SP−70、SP−700(以上、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);SP−900(芳香族系樹脂、商品名、三菱化学株式会社製);アンバーライト(商標)として、XAD−2、XAD−4、XAD−16、XAD−2000(以上、芳香族系樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイアイオン(商標)系として、SP−205、SP−206、SP−207(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);HP−2MG、EX−0021(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);アンバーライト(商標)系として、XAD−7HP、XAD−8(以上、アクリル酸系エステル樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイアイオン(商標)系として、HP1MG、HP2MG(以上、アクリル酸系メタクリル樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);セファデックス(商標)系としてLH20、LH60(以上、架橋デキストランの誘導体、いずれも商品名、ファルマシア バイオテク株式会社製)等を用いてもよい。合成吸着剤は、通液対象物の濃度、溶媒、抽出法、共存物などにより適宜選択することができる。
【0022】
固定担体の量は、カラムの大きさ、溶媒の種類、固定担体の種類等によって適宜設定してよい。例えば、固定担体の1.5〜20,000倍の蒸留物を通液し、有効成分を固定担体に吸着させることができ、すなわち、通液しようとする蒸留物の1.5〜20,000分の1の湿潤体積量の固定担体を使用することができる。
【0023】
カラムクロマトグラフィー処理における通液量及び通液速度は、甘蔗由来の蒸留物の蒸留方法、又は、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物から選ばれる原料のうち、何を原料とするかによって適宜調整してよい。蒸留物をカラムに通液した後、不純物除去のためカラムを水洗し、樹脂に吸着されずにカラム内に残存している成分を除去してもよい。
【0024】
蒸留物を上記カラムに通すことにより、蒸留物中における、髪質改善効果を有する成分が固定担体に吸着される。すなわち、本実施形態に係る甘蔗由来の蒸留物は、甘蔗汁及び甘蔗の溶媒抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種の原料を蒸留して得られた蒸留物を、固定担体を用いたカラムクロマトグラフィーで処理することにより得られる画分であってもよい。
【0025】
固定担体に吸着された画分は、溶媒により溶出させることができる。溶出のための溶媒は、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物から選ばれる少なくとも1種であってよく、好ましくは、水とアルコールの混合溶媒であり、更に好ましくは、エタノール−水混合溶媒である。室温において効率よく目的の効果を有する成分を溶出するためには、溶媒は、特に好ましくは、50/50〜99.5/0.5(体積/体積)のエタノール−水混合溶媒である。溶出速度はカラムの大きさ、溶媒の種類、固定担体の種類等によって変化するため特に限定されないが、SV=0.1〜10で溶出し、樹脂の6倍湿潤体積量以内に溶出する溶出液を回収するのが好ましい。なお、SV(Space Velocity、空間速度)は、1時間あたり樹脂容積の何倍量の液体を通液するかという単位である。
【0026】
カラムクロマトグラフィー処理は、より具体的には、例えば次のようにして行うことができる。すなわち、無置換基型の芳香族系樹脂あるいはアクリル酸系エステル樹脂を充填したカラムに、カラム温度60〜97℃にて蒸留物を通液した後、カラム内を水洗し、次いでカラムに吸着されている成分を、カラム温度20〜40℃にて50/50〜99.5/0.5(体積/体積)エタノール−水混合溶媒で溶出させ、エタノール−水混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が前記樹脂の6倍湿潤体積量以内に溶出する溶出液を回収する。この溶出液を、甘蔗由来の蒸留物として髪質改善用組成物に用いることができる。
【0027】
甘蔗由来の蒸留物は、他の実施形態において、甘蔗汁および甘蔗の溶媒抽出物から選ばれる少なくとも1種の原料をカラムクロマトグラフィーで処理してから、蒸留することにより得ることもできる。
【0028】
甘蔗汁および甘蔗の溶媒抽出物から選ばれる少なくとも1種の原料をカラムクロマトグラフィーで処理する場合、固定担体及び通液条件は、上述したカラムクロマトグラフィーでの処理における固定担体及び条件と同様であってよい。固定担体としては、原料の固形分に対して、0.01〜5倍湿潤体積量の固定担体を使用することが好ましい。
【0029】
甘蔗汁および甘蔗の溶媒抽出物から選ばれる原料は、異物除去のために、カラムで処理する前に、ろ過してもよい。ろ過の手法は特に限定されず、食品工業で広く使用されているスクリーンろ過、ケイソウ土ろ過、精密ろ過、限外ろ過等の手段を好ましく使用できる。
【0030】
甘蔗由来の蒸留物は、更なる他の実施形態において、原料を蒸留した後、気体のままカラムクロマトグラフィーで処理し、冷却することにより得ることもできる。
【0031】
蒸留後の気体をカラムクロマトグラフィー処理する場合、固定担体は、ゼオライト系吸着剤、活性炭、カーボンブラック、アルミナ、シリカゲル等の多孔質吸着材、高分子吸着剤の多孔質状または繊維状吸着剤、セラミック系多孔質吸着剤などであってよい。
【0032】
本実施形態におけるカラムクロマトグラフィー処理の方法としては、例えば、まず、固定担体を有するカラムを蒸留装置の蒸気出口に接続し、蒸気をカラム内に通過させる。その後、カラムに蒸留時の温度より高い温度をかけ、又はカラム内圧を減少させることにより脱着回収することにより、吸着した成分を回収する。この温度と圧力は、選択した固定担体の種類により適宜調整してよい。カラムクロマトグラフィー処理により得られた成分は気体でカラムから出てくるが、トラップで冷却し、液体にすることができる。カラムに吸着した成分は、エタノールやメタノールのようなアルコール類やその他の有機溶媒をカラム内に通すことにより、溶出液中に脱着回収することもできる。このようにして得られた画分又は溶出液を、甘蔗由来の蒸留物として髪質改善用組成物に用いることができる。
【0033】
本実施形態に係る髪質改善用組成物は、毛髪化粧料(髪質改善用毛髪化粧料)として好適に用いられる。毛髪化粧料は、例えば、ムース、クリーム、ジェル、フォーム、スプレー、ミスト等のスタイリング剤、シャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメント、染毛剤等であってよい。
【0034】
髪質改善用組成物に含まれる甘蔗由来の蒸留物の含有量は、髪質を改善するための有効量であればよく、毛髪化粧料の種類により適宜設定されてよい。
【0035】
毛髪のすべり感を改善する観点からは、一実施形態における甘蔗由来の蒸留物の含有量は、髪質改善用組成物全量を基準として、好ましくは0.003質量%以上であってよく、より好ましくは0.005質量%であってよく、更に好ましくは0.01質量%以上であってよく、また、好ましくは1質量%以下であってよく、より好ましくは0.5質量%以下であってよく、更に好ましくは0.1質量%以下であってよい。
【0036】
毛髪に柔らかい質感を与える観点からは、一実施形態における甘蔗由来の蒸留物の含有量は、髪質改善用組成物全量を基準として、好ましくは0.0005質量%以上であってよく、より好ましくは0.0007質量%以上であってよく、更に好ましくは0.001質量%以上であってよく、また、好ましくは0.7質量%以下であってよく、より好ましくは0.5質量%以下であってよく、更に好ましくは0.1質量%以下であってよい。
【0037】
髪質改善用組成物は、甘蔗由来の蒸留物以外に、毛髪化粧料に一般的に用いられる他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば油性成分、界面活性剤(合成系、天然物系)、保湿剤、増粘剤、防腐・殺菌剤、粉体成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤、色素、香料等が挙げられる。
【0038】
本実施形態に係る髪質改善用組成物(毛髪化粧料)を用いて髪質を改善する方法は、上述した髪質改善用組成物を毛髪に施用する方法であってよい。具体的には、当該組成物を毛髪(又はダメージを受けた毛髪)に塗布、噴霧等により付着させる方法であってよく、場合により当該組成物を毛髪に付着させてから洗い流す方法であってよい。これにより、毛髪のすべり感を改善して、滑らかな手触りを与えたり、毛髪に柔らかい質感を与えることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。下記において、気体の濃度ppmは、通常の気体の濃度の表示法に従い(モル/モル)ppmである。
【0040】
<製造例>
原糖工場の製造工程にて得られた甘蔗の圧搾汁(Bx.12.2)2800リットルを250リットル/時の速度で遠心式薄膜真空蒸発装置(商品名:エバポールCEP−1、大川原製作所株式会社)に供給し、500〜630mmHgの減圧下で、温度90〜95℃で留出する成分を、冷却水温25℃、冷却水量15m/時間、コンデンサ面積2mの条件でコンデンサにて冷却し、連続して集めた。原料圧搾汁が約2400リットル、Bx.13.9になったとき、蒸留を終了した。得られた蒸留液は約400リットルであった。
【0041】
得られた約400リットルの蒸留液を、アンバーライトXAD7HP(商品名、オルガノ株式会社)40mlを充填したカラム(カラムサイズ:内径2.6cm、高さ20cm)に、SV=75の流速で通液した。通液終了後、約5分間、同じ流速で水洗した。吸着された成分を、80%エタノール水溶液(エタノール/水=80/20(体積/体積))で溶出した。SV=2の流速で通液し、初めの25mlの溶出液は捨て、溶出液の回収を開始した。80%エタノール水溶液80mlを通液した後は、成分の押し出しのため蒸留水を同じ速度で通液し、回収溶出液の量が100mlになった時点で溶出を終了した。得られた溶出液(固形分0.02質量%)の約20リットルをエバポレータ(ROTARY VACUUM EVAPORATOR N−11 EYELA、東京理化器械株式会社)を用い、90mmHg、40℃以下の条件で濃縮させ、その後、凍結乾燥機(凍結乾燥機、FDU−1100 EYELA、東京理化器械株式会社)を用いて凍結乾燥させて、粉末状の蒸留物を約4g得た。
【0042】
<ダメージ処理毛髪の作製>
同一人黒髪直毛(株式会社ビューラックス)を用いて、一定量(20cm、3g)の毛束を作製した。この毛束を、表1に示す組成を有するコントロールシャンプーを用いて洗浄し、冷風にて乾燥させた。その後、湿らせた毛束を、6%過酸化水素水/アンモニア水(過酸化水素水:アンモニア水=50:2、pH9.2)に3時間浸漬させ、ブリーチ処理を行った。回収した毛束をよくすすぎ、冷風にて乾燥させてから200回コーミングしたものをダメージ処理毛髪(毛束)とした。なお、表1に記載された原料の詳細は以下のものである。
タイポールNLES−227:ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、泰光油脂化学工業株式会社製
タイポールNLT−42:ラウリル硫酸トリエタノールアンモニウム、泰光油脂化学工業株式会社製
AM−301:ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン水溶液、日本サーファクタント工業株式会社製
アミゾールCDE:ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、川研ファインケミカル株式会社製
防腐剤:メチルパラベン
【0043】
【表1】
【0044】
<実施例1〜3、比較例1>
上述した製造例により得られた粉末状の蒸留物を水に分散させて、0.01質量%(実施例1)、0.1質量%(実施例2)及び1質量%(実施例3)の分散液をそれぞれ調製した。比較例1としては、水を用いた。実施例1〜3及び比較例1の各液に、ダメージ処理毛髪を5分間浸漬させた。その後、風乾により乾燥させて、評価用毛髪とした。
【0045】
<すべり特性値の測定>
毛髪すべり感の評価方法として、すべり特性値(平均摩擦係数:MIU)を測定した。実施例1〜3及び比較例1の各液により処理した評価用毛髪の毛束より無作為に選んだ15本の毛髪について、摩擦感テスター(カトーテック株式会社)を用いて、SENS:H、速度:1mm/sec、荷重:50gの条件で5回測定し、得られたすべり特性値の平均値を得た。すべり測定値が小さいほど、すべり感が高いといえる。測定の結果、比較例1の毛髪では0.113であったのに対して、実施例1の毛髪では0.100、実施例2の毛髪では0.093、実施例3の毛髪では0.107であった。なお、ダメージ処理を行っていない毛髪のすべり特性値は0.109であった。
【0046】
<ざらつき特性値の測定>
毛髪すべり感の他の評価方法として、ざらつき特性値(摩擦係数の変動:MMD)を測定した。実施例1〜2及び比較例1の各液により処理した評価用毛髪の毛束より無作為に選んだ15本の毛髪について、すべり特性値と同様の方法により、ざらつき測定値を得た。ざらつき特性値が小さいほど、ざらつきが少ないといえる。測定の結果、比較例1の毛髪では0.0034であったのに対して、実施例1の毛髪では0.0029、実施例2の毛髪では0.0033であった。なお、ダメージ処理を行っていない毛髪のざらつき特性値は0.0030であった。
【0047】
<曲げ硬さの測定>
毛髪の柔らかさの評価方法として、曲げ硬さ(B)を測定した。実施例1〜2及び比較例1の各液により処理した評価用毛髪の毛束を10cmずつ0.26gになるように切り分け、2cm幅に広げ、ハリコシ評価用の支持体に固定した(測定部位の毛髪長さは1.5cm)。各評価用毛髪についてこの測定用サンプルを3つずつ作製し、室温23℃、湿度45%の条件で1時間以上静置した。なお、以下の測定は、この環境条件にて行った。測定用のサンプルをこし感テスター(KWS−FB2、カトーテック株式会社)に固定し、曲げ硬さを測定した。曲げ硬さが小さいほど、毛髪が柔らかいといえる。ダメージ処理を行っていない毛髪の曲げ硬さを100.0%としたときに、比較例1の毛髪では118.0%であったのに対して、実施例1の毛髪では83.2%、実施例2の毛髪では50.2%であった。
【0048】
<曲げ回復性の評価>
毛髪の柔らかさの他の評価方法として、曲げ回復性(2HB)を評価した。実施例1〜2及び比較例1の各液により処理した評価用サンプルについて、曲げ硬さと同様の方法により、曲げ回復性の測定値を得た。曲げ回復性が小さいほど、曲げた後の毛髪が戻りにくく、より柔らかいといえる。ダメージ処理を行っていない毛髪の曲げ回復性を100.0%としたときに、比較例1の毛髪では294.1%であったのに対して、実施例1の毛髪では202.2%、実施例2の毛髪では127.5%であった。
【0049】
<走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた毛髪表面状態の観察>
実施例1〜3及び比較例1の各液により処理した評価用毛髪の毛束から無作為に毛髪を採取し、表面を金蒸着した。その後、走査型電子顕微鏡3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡(VE−9800、KEYENCE)を用いて毛髪表面状態の撮影を行った(倍率:300倍)。併せて、ダメージ処理を行っていない毛髪の表面状態も撮影した。結果を図1に示す。
【0050】
<実施例4、比較例2>
製造例により得られた溶出液(固形分0.02質量%)を45%エタノール水溶液に5質量%の濃度になるように溶解させて、実施例4に係る溶解液を得た。比較例2としては、45%エタノール水溶液を用いた。実施例4及び比較例2の各液に、上述の方法により得られたダメージ処理毛髪を5分間浸漬させた。その後、風乾により乾燥させて、評価用毛髪とした。
【0051】
<曲げ硬さの測定>
実施例1〜2及び比較例1における方法と同様の方法により、実施例4及び比較例2の各液により処理した評価用毛髪の曲げ硬さを測定した。ダメージ処理を行っていない毛髪の曲げ硬さを100.0%としたときに、比較例2の毛髪では111.6%であったのに対して、実施例4の毛髪では68.0%であった。
【0052】
<曲げ回復性の測定>
実施例1〜2及び比較例1における方法と同様の方法により、実施例4及び比較例2の各液により処理した評価用毛髪の曲げ回復性を評価した。ダメージ処理を行っていない毛髪の曲げ回復性を100.0%としたときに、比較例2の毛髪では152.9%であったのに対して、実施例4の毛髪では123.1%であった。
【0053】
<走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた毛髪表面状態の観察>
実施例1〜3及び比較例1における方法と同様の方法により、実施例4及び比較例2の毛髪表面状態の撮影を行った。併せて、ダメージ処理を行っていない毛髪の表面状態も撮影した。結果を図2に示す。
図1
図2