(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965113
(24)【登録日】2021年10月22日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】乗物用シートパッド
(51)【国際特許分類】
A47C 27/15 20060101AFI20211028BHJP
A47C 7/18 20060101ALI20211028BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20211028BHJP
【FI】
A47C27/15 A
A47C7/18
B60N2/90
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-218243(P2017-218243)
(22)【出願日】2017年11月13日
(65)【公開番号】特開2019-88385(P2019-88385A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2020年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592048431
【氏名又は名称】株式会社中外
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉秀
(72)【発明者】
【氏名】下里 武司
【審査官】
宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−035916(JP,A)
【文献】
特開2010−125138(JP,A)
【文献】
特開2015−231494(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0181796(US,A1)
【文献】
特開2013−233825(JP,A)
【文献】
特開2012−206403(JP,A)
【文献】
特開2018−790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 27/15
A47C 7/18
B60N 2/70
B60N 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用シートパッドであって、
着座面の側の表層パッドと、該表層パッドの成形時に前記着座面の反対側に層状に一体化される前記表層パッドより硬質かつ低密度な裏層パッドと、を備えており、
該裏層パッドにおける少なくとも着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向に延びるとともに前記表層パッドと当接する面には、横断面が前記表層パッドの側に向かって開口する略U字状で着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向に延びる複数の溝が設けられ、
該溝の中に前記表層パッドの一部が侵入した状態で前記表層パッドと前記裏層パッドとが一体化されており、
前記溝の横断面はその溝幅が開口部より開口部と反対側の溝底側において拡がった拡開部を有して形成されている乗物用シートパッド。
【請求項2】
請求項1において、前記裏層パッドにおける着座乗員の座圧が印加される方向に略垂直な方向に延びるとともに前記表層パッドと当接する面には、横断面が前記表層パッドの側に向かって開口する略U字状で着座乗員の座圧が印加される方向に略垂直な方向に延びる複数の横溝が設けられ、
該横溝の中に前記表層パッドの一部が侵入した状態で前記表層パッドと前記裏層パッドとが一体化されている乗物用シートパッド。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、前記裏層パッドには、着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向に延びる筒状の貫通孔又は筒状の有底孔が設けられ、
前記貫通孔又は前記有底孔の中に前記表層パッドの一部が侵入した状態で前記表層パッドと前記裏層パッドとが一体化されている乗物用シートパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からクッション材として2層構造のシートパッドを有する乗物用シートが知られている。下記特許文献1には、ポリウレタン樹脂の発泡体である表層パッドの着座面と反対側にAS樹脂(アクリロニトリル、スチレンのコポリマー)の発泡体である裏層パッドが一体成形された乗物用シートパッドが開示されている。裏層パッドは、表層パッドに比べて硬質で密度が小さいため乗物用シートパッドの軽量化を図りながら部分的に硬さを異ならせることができる。また、特許文献2には、ポリウレタン樹脂の発泡体の中に貫通孔が設けられたポリプロピレン樹脂の発泡体が埋設されたパッド体を有する乗物用シートが開示されている。ポリプロピレン樹脂の発泡体はポリウレタン樹脂の発泡体より硬質で密度が小さいため乗物用シートパッドの軽量化を図りながら部分的に硬さを異ならせることができるとともに、貫通孔が設けられているのでポリウレタン樹脂の発泡体から離脱しにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−125138号公報
【特許文献2】特開2012−206403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載される乗物用シートパッドにおいて、軽量化をさらに図るために裏層パッドをポリプロピレン樹脂の発泡体に置き換えたい場合がある。かかる場合に、ポリプロピレン樹脂の発泡体はAS樹脂の発泡体に比べてポリウレタン樹脂の発泡体に対する密着性が劣るので、ポリプロピレン樹脂の発泡体の表面にシボ加工を施していた。かかるシボ加工において、ポリウレタン樹脂の発泡体との密着性とポリプロピレン樹脂の発泡体を成形する際の金型からの脱型性とを両立させる加工条件を見出すのに多くの工数が必要となるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものである。硬軟2層構造の乗物用シートパッドにおいて、各層が剥がれにくい乗物用シートパッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1発明は、乗物用シートパッドであって、着座面の側の表層パッドと、該表層パッドの前記着座面の反対側に層状に一体化される前記表層パッドより硬質かつ低密度な裏層パッドと、を備えており、該裏層パッドにおける少なくとも着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向に延びるとともに前記表層パッドと当接する面には、横断面が前記表層パッドの側に向かって開口する略U字状で着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向に延びる複数の溝が設けられ、該溝の中に前記表層パッドの一部が侵入した状態で前記表層パッドと前記裏層パッドとが一体化されていることを特徴とする。
【0007】
第1発明によれば、表層パッドと裏層パッドの界面のうち、特に剥離力が印加されやすい着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向に延びる界面において、裏層パッドに複数の溝が形成されそこに表層パッドの一部が侵入した状態で表層パッドと裏層パッドとが一体化されている。これによって、着座乗員の座圧が印加される方向に延びる界面において、表層パッドと裏層パッドの当接面積が増し両者が剥がれにくくなる。
【0008】
本発明の第2発明は、上記第1発明において、前記溝の横断面はその溝幅が開口部より開口部と反対側の溝底側において拡がった拡開部を有して形成されていることを特徴とする。
【0009】
第2発明によれば、溝の中に侵入した表層パッドの一部は、溝からより抜けにくくなるので表層パッドと裏層パッドがより剥がれにくくなる。
【0010】
本発明の第3発明は、上記第1発明又は上記第2発明において、前記裏層パッドにおける着座乗員の座圧が印加される方向に略垂直な方向に延びるとともに前記表層パッドと当接する面には、横断面が前記表層パッドの側に向かって開口する略U字状で着座乗員の座圧が印加される方向に略垂直な方向に延びる複数の横溝が設けられ、該横溝の中に前記表層パッドの一部が侵入した状態で前記表層パッドと前記裏層パッドとが一体化されていることを特徴とする。
【0011】
第3発明によれば、表層パッドと裏層パッドの界面のうち、着座乗員の座圧が印加される方向に略垂直な方向に延びる界面においても、裏層パッドに複数の横溝が形成されそこに表層パッドの一部が侵入した状態で表層パッドと裏層パッドとが一体化されている。これによって、着座乗員の座圧が印加される方向に略垂直な方向に延びる界面においても、表層パッドと裏層パッドの当接面積が増し両者が剥がれにくくなる。
【0012】
本発明の第4発明は、上記第1発明ないし上記第3発明のいずれかにおいて、前記裏層パッドには、着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向に延びる筒状の貫通孔又は筒状の有底孔が設けられ、前記貫通孔又は前記有底孔の中に前記表層パッドの一部が侵入した状態で前記表層パッドと前記裏層パッドとが一体化されていることを特徴とする。
【0013】
第4発明によれば、表層パッドと裏層パッドは、裏層パッドの貫通孔又は有底孔の外周壁面においても当接しているので当接面積が増し両者がさらに剥がれにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるクッションパッドが適用された自動車用シートの斜視図である。
【
図3】クッションパッドの裏層パッドの平面図である。
【
図4】
図3のIV−IV線で切断して示す断面図である。
【
図5】
図3のV−V線で切断して示す断面図である。
【
図6】
図3のVI−VI線で切断して示す断面図である。
【
図7】クッションパッドの裏層パッドの部分的な斜視図である。
【
図8】
図7のVIII部分を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜
図9に本発明の一実施形態であるクッションパッドが適用された自動車用シート1を示す。各図中、矢印により自動車用シート1が自動車のフロアFに取付けられた時の自動車及び自動車用シート1の各方向を示す。以下の説明において、方向に関する記述は、この方向を基準として行うものとする。
【0016】
図1に示すように、自動車用シート1は、3人掛けベンチシートであり、車室の幅と略同じ左右方向長さを有している。自動車用シート1は、着座乗員の臀部及び大腿部を支持するシートクッション2と、着座乗員の背部を支持するシートバック3と、を備えている。シートクッション2とシートバック3は、シートクッション2の後端部に対してシートバック3の下端部が当接されるとともに、シートクッション2に対してシートバック3が立設された状態でフロアFに対して取付けられて自動車用シート1が構成されている。シートバック3は、通常のもので、ポリウレタン樹脂の発泡体であるバックパッドを表皮材であるバックカバーで被覆した構造とされている。シートクッション2の上側の面及びシートバック3の前側の面が、着座乗員の身体が当接する着座面である。
【0017】
図1に示すように、シートクッション2は、左右一対の左右座席部2Sと、左右座席部2Sの間に配置される中央座席部2Cと、を有している。また、シートクッション2は、クッション材であるクッションパッド10と、クッションパッド10の着座乗員側の表面を覆う表皮材であるクッションカバー20と、を有している。ここで、クッションパッド10が、特許請求の範囲の「乗物用シートパッド」に相当する。
【0018】
図2〜
図6に示すように、クッションパッド10は、着座乗員側である表側に配置される表層パッド11と、表層パッド11の着座乗員と反対側である裏側に配置された裏層パッド12と、を有する。表層パッド11は、ポリウレタン樹脂を発泡成形したウレタンフォームから形成されており、その密度は例えば0.045±0.005g/cm
3程度に設定されている。表層パッド11は、クッションパッド10の着座面側全面を占める形状及び面積を有する表面部11aと、着座面と反対側の面を形成する裏面部11bと、を有する。
【0019】
図2〜
図9に示すように、裏層パッド12は、ポリプロピレンやポリエチレン等のオレフィン系樹脂のビーズ発泡成形体であり、その密度は0.03g/cm
3程度に設定されている。裏層パッド12は、表層パッド11より密度が小さく、弾性率が高い硬質なものとして形成されている。
【0020】
裏層パッド12は、表層パッド11の裏面部11bの一部に当接する表側部12aと、着座面と反対側の面を形成する裏側部12bと、を有する。裏層パッド12には、上面視で左右前後の中央部分において上下方向に貫通した貫通開孔12cが設けられている。貫通開孔12cの前後方向の長さは、左右座席部2Sに対応する部分の方が中央座席部2Cに対応する部分より長く形成されている。すなわち、裏層パッド12は、上面視でクッションパッド10の外周縁部に沿った略枠形状に形成されている。これによって、裏層パッド12に対して表層パッド11を一体発泡成形した際、裏層パッド12の貫通開孔12cには表層パッド11の一部が侵入して成形硬化され表層パッド11の裏面部11bの一部がクッションパッド10の裏面を形成する。
【0021】
図2〜
図7に示すように、裏層パッド12は、前後方向に延びる左右一対の側部12dと、左右の側部12dの前端部間を連結する前部12eと、左右の側部12dの後端部間を連結する後部12fと、を有する。側部12dは、上面視でクッションパッド10の左右側部の外形に沿った形状の外壁面部12d1と、上面視で貫通開孔12cの左右の周縁部に相当する内壁面部12d2と、を有する。内壁面部12d2は、後方側においては外壁面部12d1と平行に前後方向に延び、前方側においては前方に向かうにつれてシート幅方向内側に曲がって延びてさらに前方に向かうにつれてシート幅方向外側に曲がって延びるように形成されている。すなわち、側部12dは、上面視で前端部から若干後方に寄った部位において左右方向の幅が大きくなってシート幅方向内側に突出する側突出部12d3が形成されている。これは、左右座席部2Sにおいて、着座圧が大きく印加される臀部支持部11cは表層パッド11のみで着座乗員を弾性的に支持し、着座圧が大きくは印加されない大腿部支持部11dは裏層パッド12を加えて支持しクッションパッド10の軽量化を図ろうとするものである。ここで、外壁面部12d1と内壁面部12d2が、それぞれ、特許請求の範囲の「着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向に延びるとともに表層パッドと当接する面」に相当する。また、外壁面部12d1と内壁面部12d2は、上下方向に延びて形成されている。ここで、上下方向が、特許請求の範囲における「着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向」に相当する。
【0022】
図3、
図7及び
図8に示すように、側部12dの外壁面部12d1には、横断面が開口をシート幅方向外側に有する略Ω(オメガ)状で上下方向に延びる嵌合溝12d11が、外壁面部12d1に沿ってほぼ等ピッチで5つ設けられている。詳述すると、嵌合溝12d11の横断面は、
図8に示すように、対向して平行に左右方向に延びる直線部12d111のそれぞれの左端部(シート幅方向内側端部)を円弧部12d112で連結した形状をしており、直線部12d111の前後方向の間隔は円弧部12d112の直径より短く形成されている。裏層パッド12に対して表層パッド11を一体成形したとき、表層パッド11の一部が嵌合溝12d11の中に侵入して硬化し、円弧部12d112に対応する部分の表層パッド11部分が直線部12d111に対応する部分の裏層パッド12から抜けにくくなる。これによって、外壁面部12d1において裏層パッド12に対して表層パッド11を強固に連結することができる。側部12dの内壁面部12d2には、後方側の外壁面部12d1と平行に前後方向に延びた部位において、横断面が開口をシート幅方向内側に有する略Ω(オメガ)状で上下方向に延びる嵌合溝12d21が、2つ設けられている。嵌合溝12d21は、実質的に嵌合溝12d11と同じ横断面を有する溝である。嵌合溝12d11と同じメカニズムで内壁面部12d2において裏層パッド12に対して表層パッド11を強固に連結することができる。さらに、側部12dには、左右方向ほぼ中央部に上下方向に貫通する円筒状の貫通孔12d4が、前後方向に等ピッチで直線状に並んで配設されている。貫通孔12d4の直径は円弧部12d112の直径と同程度である。これによって、裏層パッド12に対して表層パッド11を一体成形したとき、表層パッド11の一部が貫通孔12d4の中に侵入して硬化し、表層パッド11の裏面部11bと裏層パッド12の表側部12aの面外方向及び面内方向への力に対する連結強度を高めることができる。ここで、嵌合溝12d11と嵌合溝12d21が、特許請求の範囲の「溝」に相当する。また、直線部12d111が、特許請求の範囲の「開口部」に相当し、円弧部12d112が、特許請求の範囲の「拡開部」に相当する。
【0023】
図2〜
図7に示すように、前部12eは、上面視でクッションパッド10の前部の外形に沿って左右方向にほぼ直線状に延びる前壁面部12e1と、上面視で貫通開孔12cの前側の周縁部に相当する後壁面部12e2と、を有する。後壁面部12e2は、左右座席部2Sに対応する部位において前壁面部12e1とほぼ平行に左右方向に延び、中央座席部2Cに対応する部位において上面視で等脚台形状に後方に向かって突出して延びるように形成されている。すなわち、前部12eは、上面視で左右両端部側において前後方向の長さが短く、中央部において前後方向の長さが大きくなって後方に向かって突出する前突出部12e3が形成されている。これは、中央座席部2Cにおいて、着座圧が大きく印加される臀部支持部11eは表層パッド11のみで着座乗員を弾性的に支持し、着座圧が大きくは印加されない大腿部支持部11fは裏層パッド12を加えて支持しクッションパッド10の軽量化を図ろうとするものである。前部12eの表側部12aは、前後方向に延びて形成されている。ここで、前後方向が、特許請求の範囲における「着座乗員の座圧が印加される方向に略垂直な方向」に相当する。
【0024】
図3、
図7及び
図9に示すように、前部12eの表側部12aには、横断面が開口を上方に有する略Ω(オメガ)状で前後方向に延びる嵌合溝12e4が、左右座席部2Sに対応する部位において2つ、中央座席部2Cに対応する部位において3つ設けられている。嵌合溝12e4は、実質的に嵌合溝12d11と同じ横断面を有する溝である。嵌合溝12d11と同じメカニズムで前部12eの表側部12aにおいて裏層パッド12に対して表層パッド11を強固に連結することができる。なお、裏層パッド12をビーズ発泡成形して脱型する際、脱型の方向は上下方向なので嵌合溝12e4の円弧部12e42に対応する型の部分を直線部12e41に対応する部分の裏層パッド12から抜きとりにくくなって脱型が困難になる場合がある。かかる場合には、円弧部12e42の直径を小さくしたり嵌合溝12e4の横断面形状を略U字状にしてもよい。このようにすると、前部12eの表側部12aに対する表層パッド11の裏面部11bの上下方向(面外方向)の剥離方向の強度は多少低下するが、面内方向への力に対する連結強度は嵌合溝12e4と同等に維持される。ここで、嵌合溝12e4が、特許請求の範囲の「横溝」に相当する。
【0025】
図2〜
図7に示すように、後部12fは、上面視でクッションパッド10の後部の外形に沿って左右方向に延びる後壁面部12f1と、上面視で貫通開孔12cの後側の周縁部に相当する前壁面部12f2と、を有する。後壁面部12f1と前壁面部12f2は、左右座席部2Sに対応する部位と中央座席部2Cに対応する部位において左右方向に平行に延びるとともに、左右座席部2Sに対応する部位と中央座席部2Cに対応する部位の間において前方に向けて平行して湾曲して延びている。すなわち、後部12fは、上面視で左右座席部2Sに対応する部位と中央座席部2Cに対応する部位の間において前方に向かって湾曲して突出する湾曲部12f3が形成されている。湾曲部12f3は、図示しないシートベルトのバックルを配置する窪みを形成するためのものである。後壁面部12f1と前壁面部12f2は、上下方向に延びて形成されている。ここで、後壁面部12f1と前壁面部12f2が、それぞれ、特許請求の範囲の「着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向に延びるとともに表層パッドと当接する面」に相当する。
【0026】
図3及び
図7に示すように、後部12fの後壁面部12f1には、横断面が開口を後方に有する略Ω(オメガ)状で上下方向に延びる嵌合溝12f11が、左右座席部2Sに対応する部位において3つ設けられている。嵌合溝12f11は、実質的に嵌合溝12d11と同じ横断面を有する溝である。嵌合溝12d11と同じメカニズムで後部12fの後壁面部12f1において裏層パッド12に対して表層パッド11を強固に連結することができる。また、後部12fの前壁面部12f2には、横断面が開口を前方に有する略Ω(オメガ)状で上下方向に延びる嵌合溝12f21が、左右座席部2Sに対応する部位において2つ設けられている。嵌合溝12f21は、実質的に嵌合溝12d11と同じ横断面を有する溝である。嵌合溝12d11と同じメカニズムで後部12fの前壁面部12f2において裏層パッド12に対して表層パッド11を強固に連結することができる。ここで、嵌合溝12f11と嵌合溝12f21が、特許請求の範囲の「溝」に相当する。
【0027】
図2〜
図6に示すように、裏層パッド12の前後左右の外周縁部の内側には鉄ワイヤ製のフレーム13が取付けられている。取付け方は、裏層パッド12の裏側部12bの所定か所に複数設けられた下方に向かって開口する横断面が略U字状の溝部12gの中に、フレーム13の対応する部分を挿入することにより行われる。この状態で、表層パッド11が一体発泡成形されることでフレーム13は裏層パッド12とともに表層パッド11と一体化されクッションパッド10が形成される。フレーム13は、上面視で外形をなす枠部位13aと、左右一対の橋渡部13bと、複数の係止部13cと、を有する。枠部位13aは、複数のワイヤ材を無端状に組み付けて固定することにより、上面視で裏層パッド12の形状に沿った略矩形状に形成されている。枠部位13aの左右方向に延びる前部と左右方向に延びる後部との間において、枠部位13aの概ね左右対称となる位置に左右一対の橋渡部13bが架け渡されて固定されフレーム13の剛性を確保している。係止部13cは、フロアFにフレーム13を固定するための部位であり、枠部位13aの前部に2つ、後部に2つ設けられている。
【0028】
以上のように構成される上記実施形態は、以下のような作用効果を奏する。表層パッド11と裏層パッド12の界面のうち、特に剥離力が印加されやすいのは、着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向である上下方向に延びる界面である外壁面部12d1、内壁面部12d2、後壁面部12f1、前壁面部12f2等である。かかる壁面部において、それぞれ、嵌合溝12d11、嵌合溝12d21、嵌合溝12f11、嵌合溝12f21が複数設けられている。それぞれの嵌合溝は、上下方向に延びて形成されており、そこに表層パッド11の一部が侵入した状態で表層パッド11と裏層パッド12とが一体化されている。これによって、着座乗員の座圧が印加される方向に延びる界面において、表層パッド11と裏層パッド12の当接面積が増し両者が剥がれにくくなる。
【0029】
また、嵌合溝12d11、嵌合溝12d21、嵌合溝12f11、嵌合溝12f21の横断面は、略Ω(オメガ)状でその溝幅が開口部である直線部12d111より開口部と反対側の溝底側の拡開部である円弧部12d112において拡がって形成されている。これによって、嵌合溝12d11、嵌合溝12d21、嵌合溝12f11、嵌合溝12f21の中に侵入した表層パッド11の一部は、溝からより抜けにくくなるので表層パッド11と裏層パッド12がより剥がれにくくなる。
【0030】
さらに、表層パッド11と裏層パッド12の界面のうち、着座乗員の座圧が印加される方向に略垂直な方向である前後方向に延びる界面である前部12eの表側部12aにおいても横断面が開口を上方に有する略Ω(オメガ)状で前後方向に延びる嵌合溝12e4が設けられている。そして、そこに表層パッド11の一部が侵入した状態で表層パッド11と裏層パッド12とが一体化されている。これによって、前部12eの表側部12aにおいても、表層パッド11と裏層パッド12の当接面積が増すとともに抜けにくくなり両者が剥がれにくくなる。加えて、裏層パッド12の側部12dには、着座乗員の座圧が印加される方向に略平行な方向である上下方向に円筒状の貫通孔12d4が複数設けられている。そして、そこに表層パッド11の一部が侵入した状態で表層パッド11と裏層パッド12とが一体化されている。これによって、側部12dにおいて、表層パッド11と裏層パッド12の当接面積が増すとともに界面の面外方向及び面内方向に相対移動しにくくなり両者がさらに剥がれにくくなる。
【0031】
以上、特定の実施形態について説明したが、本発明は、それらの構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、次のようなものが挙げられる。
【0032】
1.上記実施形態においては、自動車用シート1のクッションパッド10に本発明を適用したが、シートバック3のバックパッドを表層パッドと裏層パッドの2層構造として本発明を適用することもできる。さらに、飛行機、船、電車等に搭載の乗物用シートパッドに適用してもよい。
【0033】
2.上記実施形態においては、裏層パッド12としてポリプロピレンやポリエチレン等のオレフィン系のビーズ発泡樹脂製としたが、これに限らず、スチレン系樹脂やスチレン系樹脂とオレフィン系樹脂との複合樹脂のビーズ発泡樹脂製とすることもできる。
【0034】
3.上記実施形態においては、嵌合溝12d11、嵌合溝12d21、嵌合溝12f11、嵌合溝12f21の横断面をすべて略Ω(オメガ)状に形成したが、一部を略U字状に形成してもよいし、全部を略U字状に形成してもよい。
【0035】
4.上記実施形態においては、嵌合溝12e4の横断面を略Ω(オメガ)状に形成したが略U字状に形成してもよい。また、嵌合溝12e4を側部12dや後部12fの表側部12aに設けてもよい。また、嵌合溝12e4の延びる向きは前後方向に限らず左右方向であってもよいし、着座乗員の座圧が印加される方向に略垂直な方向であればいずれの方向であってもよい。
【0036】
5.上記実施形態においては、貫通孔12d4を側部12dに設けたが前部12eや後部12fに設けてもよい。また、貫通孔12d4は円筒状に限らず横断面が多角形の筒状であってもよい。さらに、上下に貫通していなくても有底筒状であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 自動車用シート
2 シートクッション
10 クッションパッド(乗物用シートパッド)
11 表層パッド
12 裏層パッド
12d1 外壁面部
12d11 嵌合溝(溝)
12d111 直線部(開口部)
12d112 円弧部(拡開部)
12d2 内壁面部
12d21 嵌合溝(溝)
12e4 嵌合溝(横溝)
12f1 後壁面部
12f11 嵌合溝(溝)
12f2 前壁面部
12f21 嵌合溝(溝)