(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本実施形態を添付図面に基づいて説明する。まず、第1実施形態の位置計測装置について
図1から
図10を用いて説明する。
図1の符号1は、位置計測装置(測位システム)である。
【0010】
図1に示すように、本実施形態の位置計測装置1は、工場またはプラントに設けられる建物2の内部において、作業者3の位置を特定するために用いられる。なお、位置の特定の対象となるものは、作業者3のみならず、その他のものであっても良い。例えば、建物2の内部にある台車または車両などの位置を特定するために、本実施形態の位置計測装置1を用いても良い。
【0011】
建物2の内部は、床4と壁5と天井6に囲まれた閉鎖された空間である。天井6には、照明装置7が設けられるとともに、本実施形態の位置計測装置1に用いる複数の送信部8が設けられる。これらの送信部8は、音波信号S1〜S3(
図2および
図3照)を発するスピーカで構成される。送信部8から発せられる音波信号S1〜S3として、超音波を用いる。また、音波信号S1〜S3は、可聴音であっても良い。
【0012】
本実施形態では、建物2の天井6に少なくとも3つ以上の送信部8が設けられる。このようにすれば、建物2の内部で作業を行うときに送信部8が邪魔にならずに済む。また、送信部8から送信される音波信号S1〜S3(
図3参照)が建物2の内部の物品に遮蔽されないようになる。
【0013】
なお、複数の送信部8は、グリッド状に配置されても良いし、ランダムに配置されても良い。それぞれの送信部8の平面視における位置(座標位置)は、予め特定されている。
【0014】
作業者3は、音波信号S1〜S3を受信する受信端末9を所持している。この受信端末9が送信部8から送信された音波信号S1〜S3を受信することで、受信端末9の位置、即ち、作業者3の位置を特定することができる。受信端末9は、作業者3とともに移動可能な端末である。
【0015】
音波信号S1〜S3が送信されるときには、任意の2つの送信部8A,8Bが用いられる。任意の2つの送信部8A,8Bから送信された2つの音波信号S1,S2は、空気中で合成されて1つの合成音波信号Rとなる(
図2参照)。この合成音波信号Rが受信端末9により受信される。この合成音波信号Rには、一方の送信部8Aから送信された音波信号S1に基づく情報と、他方の送信部8Bから送信された音波信号S2に基づく情報とが含まれる。そして、この合成音波信号Rの波形W3の包絡線E(
図7参照)に基づいて、受信端末9の位置を特定することができる。
【0016】
また、任意の2つの送信部8A,8Bは、所定のタイミングで切り換るようになっている。最初に、任意の2つの送信部8A,8Bから送信された音波信号S1,S2に基づいて、受信端末9の大凡の位置が特定される。さらに任意の2つの送信部8B,8Cから送信された音波信号S2,S3に基づいて、受信端末9の位置が特定される。これら2回の位置の特定を行うことにより、受信端末9の平面視における位置(座標位置)が正確に特定される。
【0017】
本実施形態では、建物2の内部にある受信端末9の位置を特定する形態を例示しているが、その他の形態であっても良い。例えば、屋外であっても送信部8が設置された環境であれば、屋外にある受信端末9の位置を特定することができる。
【0018】
次に、位置計測装置1のシステム構成を
図2に示すブロック図を参照して説明する。位置計測装置1は、作業者3が携帯する受信端末9と、建物2の構造体に設置されて音波信号S1〜S3を送信する音波送信装置10とを備える。
【0019】
さらに、受信端末9から送信される無線信号Mを受信する無線通信装置11と、この無線通信装置11を介して受信端末9から位置情報を取得する管理コンピュータ12が設けられる。なお、無線通信装置11および管理コンピュータ12は、建物2の内部の所定の場所に設けられる。
【0020】
音波送信装置10は、複数の送信部8と、これら送信部8から送信される音波信号S1〜S3を生成する信号生成部13と、任意の2つの送信部8A,8Bから送信される音波信号S1,S2の送信タイミングを調整する送信調整部14と、音波送信装置10を制御する音波制御部15とを備える。
【0021】
受信端末9は、合成音波信号Rを受信する受信部16と、受信した合成音波信号Rの波形W3の包絡線E(
図7参照)を求める包絡線処理部17と、求められた包絡線Eに基づいて、一方の送信部8Aから受信部16までの距離d1と他方の送信部8Bから受信部16までの距離d2の差を解析する解析部18と、解析された結果に基づいて、受信部16の位置を特定する位置特定部19と、特定した位置情報を無線信号Mによって無線通信装置11に送信する無線通信部20と、受信端末9を制御する端末制御部21とを備える。
【0022】
包絡線処理部17は、受信した合成音波信号Rを処理するハイパスフィルタ22と、ハイパスフィルタ22で処理した合成音波信号Rを検波する検波部23と、検波された合成音波信号Rを処理するローパスフィルタ24とを備える。
【0023】
本実施形態のシステムは、プロセッサおよびメモリなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の位置計測方法は、プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0024】
本実施形態の信号生成部13は、音波信号S1,S2の振幅と、音波信号S1,S2の周波数と、音波信号S1,S2の位相とのうちの少なくともいずれか1つの変調を行うことができる。このようにすれば、2つの送信部8の位置の差による変化が、合成音波信号Rの波形W3の包絡線Eに現れるようになるので、2つの送信部8に対していずれの方向に受信部16の位置があるのかを特定することができる。
【0025】
本実施形態の端末制御部21は、受信部16で受信された音波信号S1〜S3が、いずれの送信部8から送信されたものであるかを特定する信号識別情報を予め記憶している。なお、音波信号S1〜S3にいずれの送信部8から送信されたものであるかを特定する信号識別情報を保持させても良い。また、位置特定部19は、複数の送信部8の平面視における位置(座標位置)を予め記憶している。
【0026】
次に、第1実施形態の位置計測方法を説明する。第1実施形態では、音波送信装置10において、信号生成部13が、振幅変調を行って正弦波に対して一定間隔で周波数が互いに異なる2つの音波信号S1,S2を生成する。つまり、信号生成部13が、第1状態の音波信号S1を生成するとともに、この第1状態に対して特定量の差(周波数の差)を設けた第2状態の音波信号S2を生成する。
【0027】
また、送信調整部14は、一方の送信部8Aから送信される音波信号S1の送信タイミングと、他方の送信部8Bから送信される音波信号S2の送信タイミングとを異ならせる。つまり、第1状態の送信タイミングの音波信号S1と、この第1状態の送信タイミングに対して特定量の差(送信タイミングのずれ)を設けた第2状態の送信タイミングの音波信号S2とが送信される。
【0028】
このように、第1状態の音波信号S1が一方の送信部8Aから送信されるとともに、第2状態の音波信号S2が他方の送信部8Bから送信される。
【0029】
また、受信端末9において、解析部18が、音波信号S1,S2が送信されるときのタイミングのずれと、一方の送信部8Aから受信部16までの距離d1と他方の送信部8Bから受信部16までの距離d2の差と、によって生じる包絡線Eの変動時間taの変化を解析する。そして、位置特定部19が、包絡線Eの変動時間taの変化に基づいて、受信部16の位置を特定する。
【0030】
なお、変動時間taとは、波形において包絡線Eが変動している部分(乱れている)部分の時間のことを示す。
【0031】
図3から
図5に示すように、第1送信部8Aと第2送信部8Bと第3送信部8Cの3つの送信部8が設けられた態様を例示する。なお、
図3から
図5は、平面視における送信部8および受信部16の位置関係をX軸とY軸の座標系で示している。
【0032】
まず、第1送信部8Aから音波信号S1が送信されるとともに、第2送信部8Bから音波信号S2が送信され、これらの音波信号S1,S2に基づいて受信部16の位置を特定する処理を説明する。ここで、第1送信部8Aと第2送信部8Bとの中間点を座標の原点とし、第1送信部8Aと第2送信部8Bとの間の中心線をX軸とし、第1送信部8Aと第2送信部8Bとの2点を通過する線(中心線に直交する線)をY軸として説明する。
【0033】
音波送信装置10の信号生成部13は、正弦波に対して一定間隔で振幅変調した2つの周波数の音波信号S1,S2を生成する。例えば、座標(0,a)に設置された第1送信部8Aが、音波信号S1を送信し、座標(0,−a)に設置された第2送信部8Bが、音波信号S2を送信する。
【0034】
受信端末9の受信部16は、所定の座標(x,y)にあるとする。ここで、受信部16は、2つの音波信号S1,S2が空気中で合成された合成音波信号Rを受信する。そして、受信端末9は、受信した合成音波信号Rに基づいて、受信部16の座標(x,y)を求める。
【0035】
第1送信部8Aから受信部16までの距離d1と、第2送信部8Bから受信部16までの距離d2とは、以下の数式(1)および数式(2)で表される。
【0036】
d1
2=x
2+(y-a)
2 (1)
d2
2=x
2+(y+a)
2 (2)
【0037】
図6(A)は、第1送信部8Aから送信される音波信号S1の波形W1である。
図6(B)は、第2送信部8Bから送信される音波信号S2の波形W2である。
図7は、合成音波信号Rの波形W3である。なお、第1実施形態では、音波信号S1,S2が間欠的に送信される。
【0038】
信号生成部13は、正弦波に対して一定間隔Tで振幅変調し、周波数(f
0+w)の音波信号S1と、周波数(f
0−w)の音波信号S2との2つの音波信号S1,S2を生成する。
【0039】
S1=2nT+C<t<2nT+T/2+Cのとき、
sin(2π(f
0+w)t) (3)
となる。
それ以外のとき、0となる。
【0040】
S2=2nT-C<t<2nT+T/2-Cのとき、
sin(2π(f
0-w)t) (4)
となる。
それ以外のとき、0となる。
【0041】
ここで、Cは、音波信号S1,S2の送信タイミングのずれ(ずらし時間)である。この送信タイミングのずれCは、送信調整部14にて調整される。つまり、送信調整部14は、一方の送信部8Aから音波信号S1が送信されるタイミングと他方の送信部8Bから音波信号S2が送信されるタイミングとを異ならせる。
【0042】
この送信タイミングのずれCは、受信部16の存在が予め想定される測位範囲Hに応じて設定される。例えば、
図4に示すように、送信タイミングのずれCを設定しておくことで、測位範囲Hにおいて、一方の送信部8Aと他方の送信部8Bの間を通過する中心線(X軸)で区分けされる一方の領域(Yがプラス値となる座標領域)と他方の領域(Yがマイナス値となる座標領域)とのうちのいずれの領域に受信部16の位置が存在するのかを特定することができる。
【0043】
なお、測位範囲Hは、一方の縁辺H1から他方の縁辺H2に亘って設定される範囲である。送信タイミングのずれCは、一方の縁辺H1を基準として設定される。この送信タイミングのずれCを設定しておくことで、受信部16の位置が座標の原点から見ていずれの方向にあるのかを把握することができる。
【0044】
図2および
図4に示すように、第1送信部8Aから音波信号S1が送信されるとともに、第2送信部8Bから音波信号S2が送信される。ここで、それぞれの送信部8A,8Bから送信された音波信号S1,S2が、受信部16に到達するまで到達時間の時間差2Δは、以下の数式(5)で表される。
【0046】
それぞれの送信部8A,8Bから送信された音波信号S1,S2が空気中で合成されて合成音波信号Rとなって受信部16で受信されるので、
図7に示すように、合成音波信号R(受信信号)は、以下の数式(6)となる。
【0047】
ここで、
R=2nT+C+Δ<t<2nT+T/2+C+Δ、かつ、2nT-(C+Δ)<t<2nT+T/2-(C+Δ)のとき、
sin(2π(f
0+w)(t+C+Δ))+sin(2π(f
0-w)(t-(C+Δ)) (6)
となる。
それ以外のとき、0となる。
【0048】
さらに数式(6)を変形すれば、
R=2nT+C+Δ<t<2nT+T/2+C+Δ、かつ、2nT-(C+Δ)<t<2nT+T/2-(C+Δ)のとき、
2cos2π(f
0(C+Δ)+wt)sin2π(f
0t+w(C+Δ)
) (7)
となる。
それ以外のとき、0となる。
【0049】
即ち、2nT+C+Δ<t<2nT+T/2-(C+Δ)の間、数式(7)に示す周波数2wの包絡線Eが得られる。
【0050】
図8に示すように、受信端末9の包絡線処理部17は、合成音波信号Rに対して、ハイパスフィルタ22を用いて処理を行う。次に、検波部23を用いて合成音波信号Rを検波する。さらに、ローパスフィルタ24を用いて処理を行い、合成音波信号Rの波形W3の包絡線Eを得る。そして、解析部18は、包絡線Eの変動時間taを求める。さらに、解析部18は、第1送信部8Aから受信部16までの距離d1と第2送信部8Bから受信部16までの距離d2の差を求める。
【0051】
測定される包絡線Eの変動時間taは、
ta=T/2−2(C+Δ) (8)
であるので、
送信部8A,8Bから受信部16までの距離に起因する時間差2Δは、
2Δ=T/2−2C−ta (9)
から求めることができる。
【0052】
数式(1)、数式(2)、数式(5)、数式(9)から、
図4に示すように、受信部16の位置は、
送信部8A,8Bからの距離差=2Δ×音速 (10)
の線L1上に位置することが分かる。
【0053】
送信タイミングのずれCは、数式(5)より、求める時間差Δの範囲により、C+Δがマイナスにならないように予め決定されている。
【0054】
周期Tは、数式(5)より、求める時間差Δの範囲により、T/2−2(C+Δ)がマイナスにならないように予め決定されている。
【0055】
図4に示すように、第1送信部8Aから送信される音波信号S1と、第2送信部8Bから送信される音波信号S2とに基づいて、受信部16の位置が存在する線L1が求められる。
【0056】
次に、
図5に示すように、第2送信部8Bから送信される音波信号S2と、第3送信部8Cから送信される音波信号S3とに基づいて、受信部16の位置が存在する線L2を求める。
【0057】
解析部18は、第2送信部8Bから受信部16までの距離d2と第3送信部8Cから受信部16までの距離d3の差を求める。そして、これら2つの線L1,L2が交わる点が、受信部16の位置として特定される。
【0058】
第1実施形態では、包絡線Eの変動時間taを求めればよいので、相互相関演算に比べて少ない計算量で受信部16の位置の計測を行うことができる。そのため、受信端末9のバッテリの消耗を抑えることができる。
【0059】
また、包絡線処理部17が、ハイパスフィルタ22と検波部23とローパスフィルタ24とを備える。このようにすれば、簡素なシステム構成で合成音波信号Rの波形W3の包絡線Eを求めることができる。
【0060】
また、第1送信部8Aから受信部16までの距離d1と第2送信部8Bから受信部16までの距離d2の差を解析する処理と、第2送信部8Bから受信部16までの距離d2と第3送信部d3から受信部16までの距離d3の差を解析する処理との少なくとも2回の処理を行って受信部16の位置を特定する。このようにすれば、受信部16の位置を正確に特定することができる。
【0061】
次に、第1実施形態の位置計測方法について
図8のフローチャートを用いて説明する。なお、
図1から
図5を適宜参照する。この処理は、一定時間毎に繰り返される処理である。
【0062】
まず、ステップS11において、音波送信装置10の信号生成部13は、正弦波に対して一定間隔で振幅変調した2つの周波数の音波信号S1,S2を生成する。なお、送信調整部14は、それぞれの音波信号S1,S2の送信タイミングを調整する。つまり、一方の送信部8Aから送信される音波信号S1の送信タイミングと、他方の送信部8Bから送信される音波信号S2の送信タイミングとを異ならせる。
【0063】
次のステップS12において、第1送信部8Aから音波信号S1が送信されるとともに、第2送信部8Bから音波信号S2が送信される。次のステップS13において、2つの音波信号S1,S2が空気中で合成される。
【0064】
次のステップS14において、受信端末9の受信部16は、合成音波信号Rを受信する。次のステップS15において、包絡線処理部17のハイパスフィルタ22は、合成音波信号Rの波形W3の処理を行う。
【0065】
次のステップS16において、包絡線処理部17の検波部23が合成音波信号Rの波形W3の処理を行う。次のステップS17において、包絡線処理部17のローパスフィルタ24は、合成音波信号Rの波形W3の処理を行い、合成音波信号Rの波形W3の包絡線Eが求められる。
【0066】
次のステップS18において、解析部18は、包絡線Eの解析を行い、包絡線Eの変動時間taを求める。次のステップS19において、解析部18は、変動時間taに基づいて、第1送信部8Aから受信部16までの距離d1と第2送信部8Bから受信部16までの距離d2の差を算出する。
【0067】
次のステップS20において、位置特定部19は、受信部16の位置が存在する線L1を求めることで、受信端末9(受信部16)の大凡の位置が特定される。そして、処理を終了する。なお、この処理を2回以上繰り返すことで、受信端末9(受信部16)の正確な位置が特定される。
【0068】
次に、音波送信装置10が実行する処理について
図9のフローチャートを用いて説明する。なお、
図1から
図5を適宜参照する。この処理は、一定時間毎に繰り返される処理である。
【0069】
まず、ステップS21において、音波制御部15は、現在時刻が1次送信タイミングであるか否かを判定する。ここで、1次送信タイミングでない場合(ステップS21がNO)は、後述のステップS23に進む。一方、1次送信タイミングである場合(ステップS21がYES)は、次のステップS22に進む。
【0070】
次のステップS22において、音波制御部15は、第1送信部8Aおよび第2送信部8Bからそれぞれ音波信号S1,S2を送信する処理を実行する。
【0071】
次のステップS23において、音波制御部15は、現在時刻が2次送信タイミングであるか否かを判定する。ここで、2次送信タイミングでない場合(ステップS23がNO)は、処理を終了する。一方、2次送信タイミングである場合(ステップS23がYES)は、次のステップS24に進む。
【0072】
次のステップS24において、音波制御部15は、第2送信部8Bおよび第3送信部8Cからそれぞれ音波信号S2,S3を送信する処理を実行する。そして、処理を終了する。
【0073】
次に、受信端末9が実行する処理について
図10のフローチャートを用いて説明する。なお、
図1から
図5を適宜参照する。この処理は、一定時間毎に繰り返される処理である。
【0074】
まず、ステップS31において、端末制御部21は、現在時刻が1次受信タイミングであるか否かを判定する。ここで、1次受信タイミングでない場合(ステップS31がNO)は、後述のステップS33に進む。一方、1次受信タイミングである場合(ステップS31がYES)は、次のステップS32に進む。
【0075】
次のステップS32において、端末制御部21は、第1送信部8Aおよび第2送信部8Bから送信されたそれぞれの音波信号S1,S2を受信する処理を実行する。この処理において、位置特定部19は、受信部16の位置が存在する線L1を求める(
図4参照)。
【0076】
次のステップS33において、端末制御部21は、現在時刻が2次受信タイミングであるか否かを判定する。ここで、2次受信タイミングでない場合(ステップS33がNO)は、後述のステップS35に進む。一方、2次受信タイミングである場合(ステップS33がYES)は、次のステップS34に進む。
【0077】
次のステップS34において、端末制御部21は、第2送信部8Bおよび第3送信部8Cから送信されたそれぞれの音波信号S2,S3を受信する処理を実行する。この処理において、位置特定部19は、受信部16の位置が存在する線L2を求める(
図5参照)。
【0078】
次のステップS35において、端末制御部21は、音波信号を受信する処理を2回以上実行したか否かを判定する。ここで、受信処理を2回以上実行していない場合(ステップS35がNO)は、処理を終了する。一方、受信処理を2回以上した場合(ステップS35がYES)は、次のステップS36に進む。
【0079】
次のステップS36において、位置特定部19は、線L1,L2が交わる点を受信部16の位置として特定する。なお、無線通信部20は、受信端末9(受信部16)の位置情報を管理コンピュータ12に向けて送信する。そして、処理を終了する。
【0080】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の位置計測装置1および位置計測方法について
図11から
図12を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。さらに、
図1から
図5を適宜参照する。
【0081】
図11(A)は、第1送信部8Aから送信される音波信号S1の波形W1である。
図11(B)は、第2送信部8Bから送信される音波信号S2の波形W2である。
図12は、合成音波信号Rの波形W3である。
【0082】
第2実施形態では、音波送信装置10において、信号生成部13が、周波数変調を行って正弦波に対して周波数が時間とともに増加または減少する2つの同一の周波数の音波信号S1,S2を生成する。なお、2つの音波信号S1,S2において、周波数および周波数の時間に応じた増減は、同一態様となっている。
図11では、周波数が時間とともに増加する波形を例示している。
【0083】
また、送信調整部14は、一方の送信部8Aから送信される音波信号S1の送信タイミングと、他方の送信部8Bから送信される音波信号S2の送信タイミングとを異ならせる。つまり、第1状態の送信タイミングの音波信号S1と、この第1状態の送信タイミングに対して特定量の差(送信タイミングのずれ)を設けた第2状態の送信タイミングの音波信号S2とが送信される。
【0084】
このように、第1状態の音波信号S1が一方の送信部8Aから送信されるとともに、第2状態の音波信号S2が他方の送信部8Bから送信される。
【0085】
また、受信端末9において、解析部18が、音波信号S1,S2が送信されるときのタイミングのずれと、一方の送信部8Aから受信部16までの距離d1と他方の送信部8Bから受信部16までの距離d2の差と、によって生じる包絡線Eの周波数fbの変化を解析する。そして、位置特定部19が、包絡線Eの周波数fbの変化に基づいて、受信部16の位置を特定する。
【0086】
図11に示すように、第2実施形態の信号生成部13は、正弦波に対して周波数が時間とともに増加(または減少)する2つの数の音波信号S1,S2を生成する。ここで、周波数増加の係数をkとすると、音波信号S1,S2は、以下の数式(11)および数式(12)で表される。
【0087】
S1=sin2π(f
0(t+C)+k/2(t+C)
2) (11)
S2=sin2π(f
0(t-C)+k/2(t-C)
2) (12)
【0088】
ここで、Cは、音波信号S1,S2の送信タイミングのずれ(ずらし時間)である。
【0089】
2つの送信部8A,8Bは、それぞれ音波信号S1,S2を送信する。これらの送信部8A,8Bからそれぞれ音波信号S1,S2が受信部16に到達するまでの時間差2Δとする。ここで、2つの送信部8A,8Bから送信された音波信号S1,S2が空気中で合成される。
【0090】
この合成音波信号Rが受信部16で受信される。
図12に示すように、合成音波信号Rは、以下の数式(13)となる。
R=sin2π(f
0(t+C+Δ)+k/2(t+C+Δ)
2)
+sin2π(f
0(t-(C+Δ))+k/2(t-(C+Δ))
2) (13)
【0091】
さらに変形すれば、数式(13)は、以下の数式(14)となる。
R=2cos2π(f
0(C+Δ)+k(C+Δ)t)sin2π(f
0t+k/2t
2+k/2(C+Δ)
2) (14)
【0092】
即ち、数式(15)に示す周波数2k(C+Δ)の合成音波信号Rの波形W3の包絡線Eが得られる。
【0093】
包絡線Eの周波数fbは、
fb=2k(C+Δ) (15)
であるので、送信部8A,8Bから受信部16までの距離に起因する時間差2Δは、
2Δ=fb/k-2C (16)
から求めることができる。
【0094】
よって、受信部16は、送信部8A,8Bからの距離差=2Δ×音速の線L1上に位置することが分かる。
【0095】
送信タイミングのずれCは、数式(15)より、求める時間差Δの範囲により、C+Δがマイナスにならないように予め決定されている。
【0096】
第2実施形態では、包絡線Eの周波数fbを求めるので、ノイズに強い位置の計測が可能になる。また、相互相関演算に比べて少ない計算量で受信部16の位置の計測を行うことができる。そのため、受信端末9のバッテリの消耗を抑えることができる。
【0097】
次に、第2実施形態の位置計測方法について説明する。前述の第1実施形態の
図8のフローチャートを用いて説明する。第2実施形態では、ステップS11、ステップS18およびステップS19の処理が、第1実施形態と異なり、それら以外のステップの処理は、前述の第1実施形態と同一である。
【0098】
ステップS11において、音波送信装置10の信号生成部13は、正弦波に対して周波数が時間とともに増加または減少する2つの音波信号S1,S2を生成する。なお、送信調整部14は、それぞれの音波信号S1,S2の送信タイミングを調整する。つまり、一方の送信部8Aから送信される音波信号S1の送信タイミングと、他方の送信部8Bから送信される音波信号S2の送信タイミングとを異ならせる。
【0099】
ステップS18において、解析部18は、包絡線Eの解析を行い、包絡線Eの周波数fbを求める。次のステップS19において、解析部18は、周波数fbに基づいて、第1送信部8Aから受信部16までの距離d1と第2送信部8Bから受信部16までの距離d2の差を算出する。
【0100】
次に、
図13を用いて第2実施形態の送信調整部の変形例を説明する。この変形例の音波送信装置10Aは、信号生成部13Aと、この信号生成部13Aに接続されるスピーカ25と、スピーカ25から音が入力される分岐部26と、分岐部26から2方向に分かれた2つの音通過管27A,27B(伝声管)と、それぞれの音通過管27A,27Bの端部に設けられたラッパ状を成す送信部8D,8Eとを備える。
【0101】
信号生成部13で生成された1つの音波信号は、スピーカ25を用いて出力される。このスピーカ25から発せられた音波信号は、分岐部26で2方向に分かれて、2つの音通過管27A,27Bを通過する。そして、それぞれの送信部8D,8Eから音波信号S1,S2として送信される。
【0102】
それぞれの音通過管27A,27Bの通過経路P1,P2は、それぞれ長さが異なっている。一方の通過経路P1よりも、他方の通過経路P2が長くなっている。そのため、一方の通過経路P1を通過して一方の送信部8Dから送信される音波信号S1は、他方の通過経路P2を通過して他方の送信部8Eから送信される音波信号S2よりも遅れて送信される。この遅れが、前述の音波信号S1,S2の送信タイミングのずれ(ずらし時間)Cと同じなるように構成されている。
【0103】
この変形例では、音通過管27A,27Bが、スピーカ25から一方の送信部8Dまでの音波信号の通過経路P1よりもスピーカ25から他方の送信部8Eまでの音波信号の通過経路P2を長くしている。これらの長さが異なる2つの音通過管27A,27Bが送信調整部を構成する。このようにすれば、長さが異なる2つの音通過管27A,27Bという簡素な構成で送信調整部を設けることができる。
【0104】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の位置計測装置1および位置計測方法について
図14から
図15を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。さらに、
図1から
図5を適宜参照する。
【0105】
図14(A)は、第1送信部8Aから送信される音波信号S1の波形W1である。
図14(B)は、第2送信部8Bから送信される音波信号S2の波形W2である。
図15は、合成音波信号Rの波形W3である。
【0106】
第3実施形態では、音波送信装置10において、信号生成部13が、位相変調を行って正弦波に対して位相が互いに異なる2つの音波信号S1,S2を生成する。つまり、信号生成部13が、第1状態の音波信号S1を生成するとともに、この第1状態に対して特定量の差(位相の差)を設けた第2状態の音波信号S2を生成する。
【0107】
なお、第3実施形態の送信調整部14は、一方の送信部8Aから送信される音波信号S1の送信タイミングと、他方の送信部8Bから送信される音波信号S2の送信タイミングとを同じにする。
【0108】
このように、第1状態の音波信号S1が一方の送信部8Aから送信されるとともに、第2状態の音波信号S2が他方の送信部8Bから送信される。
【0109】
また、受信端末9において、解析部18が、音波信号S1,S2が生成されるときの位相のずれと、一方の送信部8Aから受信部16までの距離d1と他方の送信部8Bから受信部16までの距離d2の差と、によって生じる包絡線Eの位相の変化を解析する。そして、位置特定部19が、包絡線Eの位相の変化に基づいて、受信部16の位置を特定する。
【0110】
図14に示すように、第3実施形態の信号生成部13は、正弦波に対して位相が互いに異なる2つの数の音波信号S1,S2を生成する。音波信号S1,S2は、以下の数式(17)および数式(18)で表される。
【0111】
S1=sin(2πf
0t+φ) (17)
S2=sin(2πf
0t-φ) (18)
【0112】
2つの送信部8A,8Bは、それぞれ音波信号S1,S2を送信する。これらの送信部8A,8Bからそれぞれ音波信号S1,S2が受信部16に到達するまでの時間差2Δとする。ここで、2つの送信部8A,8Bから送信された音波信号S1,S2が空気中で合成される。
【0113】
この合成音波信号Rが受信部16で受信される。
図15に示すように、合成音波信号Rは、以下の数式(19)となる。
R=sin(2πf
0(t+Δ)+φ)+sin(2πf
0(t-Δ)-φ) (19)
【0114】
さらに変形すれば、数式(19)は、以下の数式(20)となる。
R=2cos(2πf
0 Δ+φ)sin2π(f
0t) (20)
【0115】
ここで、φを−π〜πまで変化させて包絡線Eが最大値になったときに、
2πf
0Δ=φ (21)
であるから、送信部8A,8Bから受信部16までの距離に起因する時間差2Δは、
2Δ=φ/(πf
0) (22)
から求めることができる。
【0116】
ここで、Δの範囲が小さい場合に、例えば、f
0Δが±0.5の範囲の場合に高感度に測定が可能である。
【0117】
よって、受信部16は、送信部8A,8Bからの距離差=2Δ×音速の線L1上に位置することが分かる。
【0118】
第3実施形態では、包絡線Eの位相を求めるため、音波信号S1,S2の波長以下の測定が可能になるので、数十ミリ単位の狭い範囲で受信部16の位置を特定することができる。また、相互相関演算に比べて少ない計算量で受信部16の位置の計測を行うことができる。そのため、受信端末9のバッテリの消耗を抑えることができる。
【0119】
次に、第3実施形態の位置計測方法について説明する。前述の第1実施形態の
図8のフローチャートを用いて説明する。第3実施形態では、ステップS11、ステップS18およびステップS19の処理が、第1実施形態と異なり、それら以外のステップの処理は、前述の第1実施形態と同一である。
【0120】
ステップS11において、音波送信装置10の信号生成部13は、正弦波に対して位相が互いに異なる2つの音波信号S1,S2を生成する。なお、送信調整部14は、それぞれの音波信号S1,S2の送信タイミングを調整する。つまり、一方の送信部8Aから送信される音波信号S1の送信タイミングと、他方の送信部8Bから送信される音波信号S2の送信タイミングとを同じにする。
【0121】
ステップS18において、解析部18は、包絡線Eの解析を行い、包絡線Eの位相を求める。次のステップS19において、解析部18は、位相に基づいて、第1送信部8Aから受信部16までの距離d1と第2送信部8Bから受信部16までの距離d2の差を算出する。
【0122】
本実施形態に係る位置計測装置を第1実施形態から第3実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0123】
例えば、位置計測装置が、包絡線Eの変動時間taに基づいて受信部16の位置を求める第1実施形態と、包絡線Eの周波数fbに基づいて受信部16の位置を求める第2実施形態と、包絡線Eの位相に基づいて受信部16の位置を求める第3実施形態とをそれぞれ切り換えて実行しても良い。例えば、通常時には、包絡線Eの変動時間ta、または、包絡線Eの周波数fbに基づいて受信部16の位置を求めるようにし、数十ミリ単位の狭い範囲で受信部16の位置を特定したい場合には、包絡線Eの位相に基づいて受信部16の位置を求める態様に切り換えるようにしても良い。
【0124】
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0125】
本実施形態のシステムは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このシステムは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0126】
なお、本実施形態のシステムで実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD−ROM、CD−R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0127】
また、このシステムで実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0128】
本実施形態では、2つの送信部8A,8Bから送信された音波信号S1,S2をそれぞれ処理すること、つまり、音波信号S1,S2を解析するための処理を2回行う必要がない。そして、合成音波信号Rを解析するための1回の処理のみで、2つの送信部8A,8Bとの距離d1,d2の差を求めることができる。そのため、計算量を低減することができる。
【0129】
なお、本実施形態では、受信端末9の位置が特定される度に、その位置情報が管理コンピュータ12に送信されているが、その他の態様であっても良い。例えば、建物2の内部での作業開始時から作業終了時までの期間の位置情報を全て受信端末9が記憶しておき、作業終了後に記憶した位置情報を一括して管理コンピュータ12に送信しても良い。また、受信端末9を管理コンピュータ12に直に接続して位置情報を転送しても良い。
【0130】
なお、本実施形態では、2つの送信部8A,8Bから同時にそれぞれ送信された2つの音波信号S1,S2が空気中で合成されて1つの合成音波信号Rとなり、この合成音波信号Rを受信部16が受信することで、受信部16の位置を特定しているが、その他の態様であっても良い。例えば、3つ以上の送信部から同時にそれぞれ送信された3つ以上の音波信号が空気中で合成されて1つの合成音波信号となり、この合成音波信号を受信部が受信することで、受信部の位置を特定しても良い。
【0131】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも2つの送信部から音波信号が送信され、これらの音波信号が空気中で合成されて1つの合成音波信号となり、この合成音波信号を受信する受信部を備えることにより、音波信号を用いて位置の特定を行うときの計算量を低減することができる。
【0132】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。