(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の超速硬セメントの早期強度発現性は、環境温度に影響を受け、寒冷地と高温地では早期強度発現性が相違するため、施工性に問題があることが判明した。また、硬化促進剤として広く用いられている炭酸リチウムの供給源は南米や中国に限られており、近年電池材料としての需要が増加し、入手が困難になるとともに価格が高騰している。
従って、本発明の課題は、炭酸リチウムの使用量を低減し、かつ環境温度に応じた最適な超速硬セメント使用モルタル又はコンクリートの施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、環境温度変化に対応した最適な早期強度発現性及び炭酸リチウムの使用量低減について種々検討した結果、
施工地(施工現場)の環境温度により炭酸リチウム及び硫酸ナトリウムの使用量を変化させれば、環境温度の変化に対応した最適な施工条件が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔5〕を提供するものである。
【0007】
〔1〕硬化促進剤を含有する超速硬セメントを用いるモルタル又はコンクリートの施工方法であって、
(1)気温13℃未満の施工地では、硬化促進剤として、(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウム単独、又は(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウムと(b)炭酸リチウムを(a)/(b)質量比1以上で併用した超速硬セメントを使用し、
(2)気温13℃超25℃以下の施工地では、硬化促進剤として、(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウムと(b)炭酸リチウムを(a)/(b)質量比0.5〜2で併用した超速硬セメントを使用し、
(3)気温25℃超の施工地では、硬化促進剤として、(b)炭酸リチウムを単独使用した超速硬セメントを使用することを特徴とする施工方法。
〔2〕硬化促進剤の合計使用量が、ポルトランドセメント100質量部に対して0.5〜2質量部である〔1〕記載の施工方法。
〔3〕超速硬セメントが、アーウィン系超速硬セメント又はカルシウムフルオロアルミネート系超速硬セメントである〔1〕又は〔2〕記載の施工方法。
〔4〕硬化促進剤として、(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウムを単独で含有、又は(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウムと(b)炭酸リチウムを(a)/(b)質量比1以上で併用したことを特徴とする気温13℃未満施工地用超速硬セメント。
〔5〕硬化促進剤として、(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウムと(b)炭酸リチウムを(a)/(b)質量比0.5〜2で併用したことを特徴とする気温13℃超25℃以下の施工地用超速硬セメント。
【発明の効果】
【0008】
本発明の施工方法によれば、施工地の気温の変化に対応した最適な超速硬性セメントを用いたモルタル又はコンクリートの施工を行うことができ、また炭酸リチウムの使用量を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の超速硬セメントを用いるモルタル又はコンクリートの施工方法は、施工環境温度によって超速硬セメント中の硬化促進剤を変化させる施工方法であり、次の条件を特徴とする。
(1)気温13℃未満の施工地では、硬化促進剤として、(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウム単独、又は(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウムと(b)炭酸リチウムを(a)/(b)質量比1以上で併用した超速硬セメントを使用する。
(2)気温13℃超25℃以下の施工地では、硬化促進剤として、(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウムと(b)炭酸リチウムを(a)/(b)質量比0.5〜2で併用した超速硬セメントを使用する。
(3)気温25℃超の施工地では、硬化促進剤として、(b)炭酸リチウムを単独使用した超速硬セメントを使用する。
【0010】
本発明の施工方法に用いるセメントは、硬化促進剤を含有する超速硬セメントである。超速硬セメントとしては、アーウィン系超速硬セメント、カルシウムフルオロアルミネート系超速硬セメント、カルシウムサルフォアルミネート系超速硬セメント、カルシウムアルミネート系超速硬セメントが挙げられる。このうち、アーウィン系超速硬セメント又はカルシウムフルオロアルミネート系超速硬セメントが好ましく、アーウィン系超速硬セメントがより好ましい。
ここで、カルシウムフルオロアルミネート系超速硬セメントは、C
11A
7・CaF
2(11CaO・7Al
2O
3・CaF
2)を主要成分とする化合物、固溶体、ガラス質性物質又はこれらの混合物を速硬性成分とするセメントである。またアーウィン系超速硬性セメントは、アーウィン(3CaO・3Al
2O
3・CaSO
4)を主要成分とする化合物、固溶体、ガラス質性物質又はこれらの混合物を速硬性成分とするセメントである。また、超速硬セメントには、さらに石膏、高性能減水剤、凝結遅延剤、消石灰、粉砕助剤を配合することができる。
【0011】
本発明で用いられるモルタルは、前記超速硬セメントに骨材を配合したものであり、コンクリートは前記超速硬セメントに骨材を配合して硬化させたものである。骨材としては、細骨材及び/又は粗骨材が用いられる。細骨材としては、川砂、海砂、山砂、砕砂又はこれらの混合物が挙げられ、粗骨材としては、川砂利、海砂利、砕石又はこれらの混合物が挙げられる。これらのモルタル又はコンクリートの施工方法は、通常通りに超速硬セメントと水と骨材を混練後、施工箇所に吹付けや充填後養生することにより行なわれる。
【0012】
本発明施工方法において、気温13℃未満の施工地、すなわち寒冷地では、硬化促進剤として、(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウムを単独で配合するか、又は(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウムと(b)炭酸リチウムを(a)/(b)質量比1以上で併用した超速硬セメントを使用する。この超速硬セメントは、気温13℃未満の施工地用超速硬セメントとして有用である。
気温13℃未満の施工地の試験は、5℃環境でモルタル、コンクリートのモルタルフロー値、スランプ値、3時間圧縮強度を測定することにより行うことができる。
【0013】
気温13℃未満の環境では、炭酸リチウムを単独で配合する場合に比べて、(a)硫酸ナトリウム又は硫酸カリウム単独で配合するか、あるいは(a)硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムと(b)炭酸リチウムとを併用し、その配合質量比〔(a)/(b)〕が1以上の場合に、早期強度発現性が顕著に向上し、炭酸リチウムの削減がより図られる。ここで、硫酸ナトリウム及び硫酸カリウムのうち、硫酸カリウムが経済的な面で好ましい。早期強度発現性は、コンクリートの材齢3時間の圧縮強さが24Mpa以上になることにより確認できる。
このうち、(a)硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムと(b)炭酸リチウムとを併用し、(a)/(b)が1以上である場合が好ましく、(a)/(b)が1〜5であるのがより好ましく、(a)/(b)が1〜2であるのがさらに好ましい。また、炭酸リチウムが最も削減されるので、硫酸ナトリウム又は硫酸カリウム単独で配合するのが特に好ましい。
炭酸リチウムを単独で使用していた場合に、硫酸ナトリウムや硫酸カリウムを置換するときの置換量は、炭酸リチウムの削減量に対して0.3倍以上の硫酸ナトリウムや硫酸カリウムを添加するのが好ましく、0.5倍以上添加するのがより好ましい。
【0014】
ここで、硬化促進剤の合計使用量は、
超速硬セメント100質量部に対して0.3〜2質量部が好ましく、0.4〜1.5質量部がより好ましく、0.5〜1質量部がさらに好ましい。
【0015】
本発明の施工方法において、気温13℃超25℃以下の施工地、すなわち普通の環境では、硬化促進剤として、(a)硫酸ナトリウムもしくは硫酸カリウムと、(b)炭酸リチウムとを(a)/(b)質量比0.5〜2で併用した超速硬セメントを使用する。この超速硬セメントは、気温13℃超25℃以下の施工地用超速硬セメントとして有用である。
【0016】
気温13℃超25℃以下の環境では、炭酸リチウムを単独で配合する場合に比べて、(a)硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムと(b)炭酸リチウムとを併用し、その配合質量比〔(a)/(b)〕が0.5〜2の場合に、早期強度発現性が顕著に向上する。配合質量比が2を超えると流動性が低下する恐れがある。配合質量比が0.5未満では炭酸リチウムの削減量が小さい。配合質量比が2を超えると流動性が低下する恐れがある。ここで、硫酸ナトリウム及び硫酸カリウムのうち、硫酸カリウムが経済的な面で好ましい。早期強度発現性は、材齢3時間の圧縮強さが24Mpa以上になることにより確認できる。
このうち、(a)硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムと(b)炭酸リチウムとを併用し、(a)/(b)が0.5〜2である場合が好ましく、(a)/(b)が0.6〜1.5であるのがより好ましく、(a)/(b)が0.8〜1.2であるのがさらに好ましい。
炭酸リチウムを単独で使用していた場合に、硫酸ナトリウムや硫酸カリウムを置換するときの置換量は、炭酸リチウムの削減量に対して1倍以上の硫酸ナトリウムや硫酸カリウムを添加するのが好ましく、1.5倍以上添加するのがより好ましい。
気温13℃超25℃以下の施工地の試験は、20℃環境でモルタル、コンクリート、モルタルフロー値、スランプ値、3時間圧縮強度を測定することにより行うことができる。
【0017】
ここで、硬化促進剤の合計使用量は、
超速硬セメント100質量部に対して0.5〜2質量部が好ましく、0.7〜1.5質量部がより好ましく、0.8〜1.2質量部がさらに好ましい。
【0018】
本発明の施工方法において、気温25℃超の施工地では、硬化促進剤として、(b)炭酸リチウムを単独使用した超速硬セメントを使用する。ここで、炭酸リチウムの配合量は、
超速硬セメント100質量部に対して0.4〜2質量部が好ましく、0.5〜1.5質量部がより好ましく、0.7〜1.2質量部がさらに好ましい。
気温25℃超の施工地の試験は、30℃環境でモルタル、コンクリート、モルタルフロー値、スランプ値、3時間圧縮強度を測定することにより行うことができる。
【0019】
本発明の施工方法においては、水/セメント比35%〜55%の範囲で混練し、施工することができる。施工箇所としては、高速道路等の床版上面増厚補強や舗装コンクリートの断面補修が挙げられる。
硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び炭酸リチウムは、速硬セメントを製造する際に原料と混合粉砕したり、速硬セメントに混合したり、コンクリートの練混ぜ時に混合したり、コンクリートの練混ぜ水に水溶しておくなど、最終的にコンクリートに混合されればよい。
【実施例】
【0020】
(1)スーパージェットセメント(太平洋セメント社)の組成
【0021】
アーウィンクリンカーの製造
II型無水石膏、ボーキサイト、および石灰石を、表1に示す化学組成になるように混合して、約1350℃で焼成して、クリンカーを製造した。
【0022】
【表1】
【0023】
アーウィン系速硬セメントの製造
アーウィンクリンカー100質量部に対し、早強ポルトランドセメントクリンカー125質量部、無水石膏25質量部、混合した後、粉砕し、ブレーン比表面積が4760cm
2/gの速硬性セメントを作製した。
【0024】
(2)ジェットセメント(住友大阪セメント社)の組成
すでに炭酸リチウムが混合された住友大阪セメント社製ジェットセメント(カルシウムフルオロアルミネート系)を使用した。
【0025】
(3)モルタル試験
水0.275kg、
超速硬セメント0.7212kg、結城産細骨材1.2838kg、高性能減水剤(商品名マイテイ150[登録商標]、花王社製)を速硬性セメント100質量部に対し、5℃試験でC×0.75%
、20℃試験でC×1.9%、および凝結遅延剤(クエン酸、試薬1級、関東化学社製、及びヘプトン酸、試薬1級、関東化学社製の等量混合)を速硬性セメント100質量部に対し、5℃試験でC×0.45%
、20℃試験でC×0.7%、さらに
表3〜5に示す硬化促進剤を、ホバートミキサ1Lで、3分間混練して、JIS−R5201(セメントの物理試験方法)に従い練り上がり直後と30分フローを測定した。
別途、φ10、高さ20cmの型枠に打設した。さらに、注水から3時間後(材齢3時間)に脱型して、脱型直後に、該供試体の圧縮強度を測定した。
【0026】
(4)コンクリート試験
配合を表2に示す
【0027】
【表2】
【0028】
(練り方、試験法)
次に、水4.5kg、
超速硬セメント12.0kg、結城産細骨材21.36kg、桜川産硬質砂岩砕石(5号、6号)各16.89kg、高性能減水剤(商品名マイテイ150[登録商標]、花王社製)、および凝結遅延剤(クエン酸、試薬1級、関東化学社製、及びヘプトン酸、試薬1級、関東化学社製の等量混合)を表6〜8に示す量、
さらに表6〜8に示す硬化促進剤を、パン型ミキサ55Lで、3分間混練して、練り上がり直後と10分、20分、30分、40分スランプをJIS−A1101(コンクリートのスランプ試験方法)に従い測定した。目標とするスランプは5℃において練り上がり直後で12cm±2.5cm、30分経過後1〜3cm、20℃および30℃においては、練り上がり直後で12cm±2.5cm、40分経過後1〜3cmとした。
別途、φ10、高さ20cmの型枠に打設した。さらに、注水から3時間後(材齢3時間)に脱型して、脱型直後に、該供試体の圧縮強度を測定した。目標とする圧縮強度は、財団法人高速道路調査会上面増厚工法設計施工マニュアル、高速道路各社の設計基準、等を安全率も含めて全て満足するよう、3時間で24N/mm
2とした。
【0029】
結果を表3〜表8に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
【表6】
【0034】
【表7】
【0035】
【表8】
【0036】
表3に示すモルタル試験により硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムを添加すると、早期強度発現性が向上し、炭酸リチウムに代わる添加剤は、硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムであり、以外の塩ではかえって強度が低下していた。表4より、カルシウムフルオロアルミネート系速硬セメントにおいても、硫酸ナトリウムを添加すると、早期強度発現性が向上することが確認された。また、表5より20℃環境においても、早期強度発現性が向上することが確認された。
【0037】
実際に構造物に使用されるコンクリートにおいては、表6より5℃環境では、炭酸リチウム単独よりも硫酸ナトリウム単独のほうが早期強度発現性に優れていた。また、炭酸リチウムの全量まで硫酸ナトリウムを置換可能であり、添加量もより少量で流動性と可使時間、強度を満足するコンクリートを得ることができた。
表7より20℃環境においても、早期強度発現性が向上することが確認された。
(b)炭酸リチウム単独に比べて(a)硫酸ナトリウムを添加すると早期強度発現性が向上した。その配合比(a)/(b)は1〜2で良好であった。また、炭酸リチウムを硫酸ナトリウムに置換する場合は、炭酸リチウムの削減量よりも同量以上の硫酸ナトリウムを添加することで流動性と強度を満足するコンクリートを得ることができた。
【0038】
表8より、30℃環境では、炭酸ナトリウム単独に比べて、硫酸ナトリウム単独の場合が早期強度発現性に優れているが、減水剤の添加量を調整しても可使時間を満足するコンクリートを得ることができなかった。