特許第6965203号(P6965203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6965203聴覚機器のための閉塞制御システムおよび聴覚機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965203
(24)【登録日】2021年10月22日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】聴覚機器のための閉塞制御システムおよび聴覚機器
(51)【国際特許分類】
   H04R 25/00 20060101AFI20211028BHJP
   H04R 25/02 20060101ALI20211028BHJP
   H04R 1/10 20060101ALI20211028BHJP
   A61F 11/10 20060101ALI20211028BHJP
   A61F 11/08 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   H04R25/00 G
   H04R25/02 B
   H04R25/02 C
   H04R1/10 104B
   A61F11/10
   A61F11/08 100
【請求項の数】18
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-79968(P2018-79968)
(22)【出願日】2018年4月18日
(65)【公開番号】特開2019-17060(P2019-17060A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2021年4月16日
(31)【優先権主張番号】15/618,996
(32)【優先日】2017年6月9日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】PA2017 70606
(32)【優先日】2017年8月14日
(33)【優先権主張国】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503021401
【氏名又は名称】ジーエヌ ヒアリング エー/エス
【氏名又は名称原語表記】GN Hearing A/S
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン ボーリー
【審査官】 辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102009010603(DE,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0277825(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0019852(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/014852(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/054589(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 25/00
H04R 25/02
H04R 1/10
A61F 11/10
A61F 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に聴覚機器の装着者の外耳道内に配置されるように構成された前記聴覚機器のための装置であって、前記装置は
前記装置を備えた前記聴覚機器が少なくとも部分的に前記外耳道内に配置されたときに、前記外耳道を密閉するように構成された密閉要素を備え、
前記密閉要素の動作は電気制御信号によって制御され、
前記密閉要素は少なくとも部分的に電気活性材料から作られ、
前記密閉要素の前記電気活性材料の音響インピーダンスは、印加電界の関数として変化し、
前記印加電界は、前記電気制御信号の特性に基づき、
前記電気活性材料は、膜として形成される、装置。
【請求項2】
前記電気活性材料は、エラストマーを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記膜形状の電気活性材料と少なくとも部分的に重なるポリマー層をさらに備える、請求項に記載の装置。
【請求項4】
前記ポリマー層はシリコーンで作られる、請求項に記載の装置。
【請求項5】
前記聴覚機器が少なくとも部分的に前記外耳道内に配置されるとき、前記ポリマー層は前記外耳道に面するように配置される、請求項に記載の装置。
【請求項6】
前記膜形状の電気活性材料および前記ポリマー層のうちの少なくとも一方は、少なくとも1つの穿孔を有する、請求項に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの穿孔の総音響質量は5000kg/m4を超える、請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記電気活性材料は、カーボンナノチューブを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記印加電界の電圧は、0Vから1.5Vの範囲である、請求項に記載の装置。
【請求項10】
前記電気活性材料は、第1の状態において、第1の音響インピーダンスを有し、第2の状態において、第2の音響インピーダンスを有し、
前記第1の音響インピーダンスは、前記第2の音響インピーダンスよりも大きい、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記電気活性材料の前記音響インピーダンスを調整するために前記密閉要素の動作を制御する前記電気制御信号は、外部音声に関する情報を含む第1の電気信号に基づく、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記電気活性材料の前記音響インピーダンスを調整するために前記密閉要素の動作を制御する前記電気制御信号は、前記外耳道の密閉された部分で生成される音声に関する情報を含む第2の電気信号に基づく、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記聴覚機器の前記装着者が話しているかどうかを検出するように構成された検出器をさらに備え、
前記検出器は、検出された音声に応答して検出器電気信号を出力するように構成され、
前記電気活性材料の前記音響インピーダンスを調整するために前記密閉要素の動作を制御する前記電気制御信号は、前記検出器電気信号に基づく、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
請求項1に記載の装置を備えた聴覚機器。
【請求項15】
前記電気制御信号を提供するように構成された信号プロセッサをさらに備える、請求項14に記載の聴覚機器。
【請求項16】
イヤピースを備え、
前記密閉要素は前記イヤピースの一部である、請求項14に記載の聴覚機器。
【請求項17】
前記イヤピースは1つまたは複数の開口部を備え、
前記密閉要素は前記1つまたは複数の開口部を覆う、請求項16に記載の聴覚機器。
【請求項18】
前記電気制御信号を提供するように構成された信号プロセッサをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、主として、聴覚機器のための閉塞制御システムおよびこのようなシステムを備えた聴覚機器に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの異なる種類の耳装着型デバイスが、当技術分野において既知である。本出願の目的のために、従来の補聴器、耳鳴りマスカ、ヒアラブル、処方箋なしで購入できる補聴器、小型イヤホン、聴力保護具等はすべて、用いられる包括的用語である「聴覚機器」によって包含される。
【0003】
従来の補聴器は、聴覚機器の類全体の構造および機能を総括して表す代表である。これに関連して、いくつかの異なる種類の補聴器が知られている。耳穴型補聴器(ITE)または完全外耳道挿入型補聴器(CIC)等の完全に耳の中に装着可能な小型補聴器は軽度の聴覚障害の対処に適している。より重度の聴覚障害に対処するには、耳掛け型補聴器(BTE)または外耳道内レシーバ型補聴器(RIE)等の耳の後ろに装着されるより大型のデバイスが通常必要とされる。これらのデバイスは、聴覚障害者の耳に配置されたベル形の補聴器ドームに、音波または有線電気信号のいずれかとして、音声データを送達する。
【0004】
使用される聴覚機器の種類に関わらず、外耳道は、聴覚機器が使用されているときに、少なくとも部分的に外部環境から閉塞されるようになる。結果として、閉塞効果が現れる。閉塞効果は、聴覚機器の装着者が自分自身の声がこもっている、かつ/または不自然に増幅されていると感じることによって現れる。
【0005】
従来、外耳道腔と外部環境との間の流体連通を確立する通気管(通気口)を導入することにより、上記の望ましくない影響が低減される。当業者に周知であるように、この解決策は依然としてかなりの欠点を伴う。これらを是正する試みとして、欧州特許第2405674号は共振器を有する通気口を開示している。その共振周波数範囲はかなり狭く(10から100HZ)、工場で恒久的に事前設定される。
【0006】
結果として、当該技術分野で利用可能な解決策に関連するいくつかの問題が依然として存続する。これは、特に複雑かつ/または急速に変化する聴音状況に当てはまる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
目的の1つは、現在の技術に関連する欠点を少なくとも軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、主に、独立請求項に係る補聴器のための閉塞制御システム、および従属請求項に係る実施形態によって達成される。
【0009】
より具体的には、本開示は、聴覚機器のための閉塞制御システムを提供し、このシステムは、聴覚機器の装着者の外耳道内に配置されるように構成される。前記システムは、前記システムが外耳道内に配置されているとき、外耳道を物理的に密閉する密閉要素を備える。密閉要素の動作は電気制御信号によって制御され、前記密閉要素は少なくとも部分的に電気活性材料で作られる。電気活性材料の音響インピーダンスは、電気制御信号の内容によって決定される印加電界の関数として変化する。
【0010】
以下、1つまたは複数の実施形態の好ましい効果および利点が提示される。
【0011】
達成されるのは、常時、外耳道腔を物理的に密閉する密閉要素の音響特性を動的に調整する方法である。音響特性は、聴覚周波数帯域全体にわたって調整される。これは、密閉要素を構成する電気活性材料上に電界を印加することによって達成される。印加される力は、電気活性材料のコンプライアンスを変化させる、すなわち、その弾性特性が変化する。一例として、電気活性材料は、加えられた力にさらされたとき、軟質から完全に硬質になることができる。硬質状態の電気活性材料は音響的に閉塞され、すなわち、音波は通過できないが、軟質状態の同材料は音響的に閉塞されず、音波の通過を可能にする。その結果、電気活性材料のコンプライアンスを変化させることによって、密閉要素の音響インピーダンス、すなわち、音波形状の音響流に対するその抵抗が変化する。したがって、密閉要素の電気活性材料のコンプライアンスに応じて、さまざまな量の音声エネルギーが密閉要素によって表されるバリアを通過し得る。密閉要素の電気活性材料のコンプライアンスは、電気制御信号を生成するように構成された信号プロセッサによって制御することができる。電気制御信号の内容、したがって電気活性材料の弾性特性は、装着者の外部環境、例えば、騒々しい、静か、音楽コンサート、および/または装着者の話している、食べている、歩いている等の状態によって課される要件に対応する。結論として、最小限の閉塞効果で外耳道を最大限機能的に密閉できるように、外耳道腔に向かってまたは外耳道腔から遠ざかるように伝播する音波の能動的な制御が可能になる。
【0012】
ここで、外部環境とは、外部から聴覚機器に至るすべての音を含むものと解釈されるべきである。例として、そのような音響環境の特徴の1つは、環境雑音のエネルギーのスペクトル分布である。
【0013】
膜が軟質である場合、低周波音波が通過する。したがって、外耳道内の低周波エネルギーは、膜の音響インピーダンスを調整することによって制御される。硬質の膜は、より大きな音響インピーダンスを提供し、耳内の低周波数エネルギーを増加させるが、軟質/可撓性の膜は、(エネルギーを消散させることによって)より少ない音響インピーダンスを提供し、低周波エネルギーを低減する。可撓性の膜は低周波エネルギーを消散させられるため、閉塞効果を最小限にできる。このようにして、使用者の声(および噛む音、足音等)は低周波で増幅されない。同じ状況で、装着者は、音楽を聴くとき、または低周波聴力損失に対処するための音声信号増幅において、改善された低音応答の恩恵を享受することができる。
【0014】
同時に、硬質状態の膜は、外耳道への環境雑音の漏れを防ぎ、信号対雑音比を改善する信号処理機会を提供する(例えば、雑音低減、ビーム形成等)。
【0015】
少なくとも部分的に聴覚機器の装着者の外耳道内に配置されるように構成された聴覚機器のための装置であって、装置は、装置を備えた聴覚機器が少なくとも部分的に外耳道内に配置されたときに、外耳道を密閉するように構成された密閉要素を備え、密閉要素の動作は電気制御信号によって制御され、密閉要素は少なくとも部分的に電気活性材料から作られ、密閉要素の電気活性材料の音響インピーダンスは、印加電界の関数として変化し、印加電界は、電気制御信号の特性に基づく。
【0016】
所望により、電気活性材料は、エラストマーを含む。
【0017】
所望により、電気活性材料は、膜として形成される。
【0018】
所望により、装置は、膜形状の電気活性材料と少なくとも部分的に重なるポリマー層をさらに備える。
【0019】
所望により、ポリマー層はシリコーンで作られる。
【0020】
所望により、聴覚機器が少なくとも部分的に外耳道内に配置されるとき、ポリマー層は外耳道に面するように配置される。
【0021】
所望により、膜形状の電気活性材料およびポリマー層のうちの少なくとも一方は、少なくとも1つの穿孔を有する。
【0022】
所望により、少なくとも1つの穿孔の総音響質量は5000kg/mを超える。
【0023】
所望により、電気活性材料はカーボンナノチューブを含む。
【0024】
所望により、印加電界の電圧は、0Vから1.5Vの範囲である。
【0025】
所望により、電気活性材料は、第1の状態において第1の音響インピーダンスを有し、第2の状態において第2の音響インピーダンスを有し、第1の音響インピーダンスは第2の音響インピーダンスよりも大きい。
【0026】
所望により、電気活性材料の音響インピーダンスを調整するために密閉要素の動作を制御する電気制御信号は、外部音に関する情報を含む第1の電気信号に基づく。
【0027】
所望により、電気活性材料の音響インピーダンスを調整するために密閉要素の動作を制御する電気制御信号は、外耳道の密閉された部分で生成される音声に関する情報を含む第2の電気信号に基づく。
【0028】
所望により、装置は、聴覚機器の装着者が話しているかどうかを検出するように構成された検出器をさらに備え、検出器は、検出された音声に応答して検出器電気信号を出力するように構成され、電気活性材料の音響インピーダンスを調整するために密閉要素の動作を制御する電気制御信号は、検出器電気信号に基づく。
【0029】
聴覚機器は、装置を備える。
【0030】
所望により、聴覚機器は、電気制御信号を提供するように構成された信号プロセッサを備える。
【0031】
所望により、聴覚機器はイヤピースを備え、密閉要素はイヤピースの一部である。
【0032】
所望により、イヤピースは1つまたは複数の開口部を備え、密閉要素は1つまたは複数の開口部を覆う。
【0033】
所望により、装置は、電気制御信号を提供するように構成された信号プロセッサをさらに備える。
【0034】
実施形態のさらなる利点および特徴は、図面と併せて以下の発明を実施するための形態を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】一実施形態による閉塞制御システムを備えるBTE型の補聴器の斜視図である。
【0036】
図2図1に示す閉塞制御システムの実施形態の拡大図である。
【0037】
図3】別の実施形態による閉塞制御システム4を備えるITE型の補聴器2の斜視図である。
【0038】
図4】補聴器が装着者の耳に挿入されたときの、図3に示すITE型の補聴器の状況図である。
【0039】
図5】一実施形態による閉塞制御システムを備える聴力保護デバイスの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
ここで、添付の図面を参照して実施形態について詳細に説明する。しかし、特許請求の範囲に記載された発明は多くの異なる形態で実施することができ、また本明細書で記載される実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。図面において、同じ参照番号は同じ要素を指し示す。
【0041】
図1は、一実施形態による閉塞制御システム4を備えるBTE型の補聴器2の斜視図である。
【0042】
BTEデバイスは、構成部品のほとんどを含み、かつ補聴器の使用時に耳の後ろに配置される本体6と、装着者の外耳道内に挿入されるイヤピース8とを有する。したがって、ドーム構造体体10を含むBTEデバイスのイヤピースは、補聴器の本体から分離され、装着者の外耳道内にぴったりと嵌まる。この実施形態では、閉塞制御システムは、ドーム構造体の一部である。この実施形態を図2に関連してより詳細に説明する。
【0043】
図2は、図1に示す閉塞制御システム4の拡大図である。ここで、閉塞制御システムは、ドーム構造体10の一部である。ドーム構造体は、ドーム底部12と、ドーム頂部14とを備える。これらは、湾曲した外縁に沿って延びるリブ16によって物理的に接続されている。ドーム構造体内の開口部は、閉塞制御システムの密閉要素18によって覆われている。これにより、システムが外耳道内に配置されたときに、外耳道が物理的に密閉される。密閉要素は電気活性材料を含む。見て分かるように、電気活性材料は膜として形成される。好ましい実施形態では、電気活性材料は、ポリマー、より正確にはエラストマーである。代替的には(図示せず)、外縁リブは、電気活性材料がドーム構造体の全周に沿ってドーム底部とドーム頂部との間に延びるように分配され得る。密閉要素の動作は電気制御信号によって制御される。電気制御信号は、典型的には図1に示された本体部に収容された信号プロセッサによって通常生成される。密閉要素の動作は、電気活性材料の音響インピーダンスが印加電界の関数として変化することを示唆する。いくつかの実施形態では、電気制御信号を生成する信号プロセッサ内の回路および/またはモジュールは、閉塞制御システム4の一部であると考えてもよい。その他の実施形態では、電気制御信号を生成する信号プロセッサ内の回路および/またはモジュールは、閉塞制御システム4の一部ではないと考えてもよい。
【0044】
これにより、常時、外耳道腔を物理的に密閉する密閉要素の音響特性を動的に調整することができる。これは、密閉要素を構成する電気活性材料上に電界を印加することによって達成される。印加電界の大きさは、所定の基準または適切なアルゴリズムに従って、典型的には制御データを含む電気制御信号の内容によって決定される。印加される力は、電気活性材料のコンプライアンスを変化させ、すなわち、その弾性特性が変化する。一例として、電気活性材料は、印加された力にさらされたとき、軟質、すなわち、低音響インピーダンスを持つ状態から完全に硬質、すなわち、高音響インピーダンスを持つ状態になることができる。硬質状態の電気活性材料は音響的に閉塞されている、すなわち、音波は通過できないが、軟質状態の同材料は音響的に閉塞されず、音波の通過を可能にする。その結果、電気活性材料のコンプライアンスを変化させることによって、密閉要素の音響インピーダンス、すなわち、音波の形状における音響流に対するその抵抗が変化する。したがって、密閉要素の電気活性材料のコンプライアンスに応じて、さまざまな量の音響エネルギーが密閉要素によって表されるバリアを通過し得る。密閉要素の電気活性材料のコンプライアンスは、電気制御信号を生成するように構成された信号プロセッサによって制御することができる。
【0045】
上述したように、上述のシステムは、RIEデバイス、すなわち、レシーバ/スピーカユニットがドーム構造体の一部であるデバイスに統合するのにも適している。システムをダブルドーム構造体に統合することも同様に考えられる。
【0046】
システムは、膜形状の電気活性材料と少なくとも部分的に重なるように配置されたシリコーン製ポリマー層(図示せず)をさらに備えることができる。好ましくは、ポリマー層は、システムが外耳道内に配置されるとき、外耳道に面するように配置され、すなわち、ポリマー層は電気活性ポリマーを覆う。
【0047】
一実施形態(図示せず)では、膜形状の電気活性材料およびポリマー層のうちの少なくとも一方は、通気効果を与える少なくとも1つの穿孔を備える。作られた穿孔の数にかかわらず、総音響質量は好ましくは5000kg/mを超える。
【0048】
さらなる実施形態では、電気活性材料はカーボンナノチューブを含む。その場合、印加電界の電圧は0Vから1.5Vとの間の範囲にあることができ、すなわち、システムの満足できる動作を保証するためにかなり低い電圧が必要とされる。
【0049】
図3は、別の実施形態による閉塞制御システム4を備えるITE型の補聴器2の斜視図である。見て分かるように、閉塞制御システムは、耳の中に完全に収まり得る聴覚機器に組み込まれる。閉塞制御システム4は、ITEデバイス(耳穴型)またはBTEデバイスの用途に限定されないことに留意すべきである。例えば、その他の実施形態では、閉塞制御システム4は、CICデバイス(完全外耳道挿入型)、または他のタイプの聴覚機器に使用することができる。図示された閉塞制御システムの密閉要素18は、聴覚機器を横切って外耳道腔26と外部環境28とを接続する通気管24の入口部分に配置された平面構造体である。典型的には、電気活性材料は、周方向に沿って延びる支持構造(図では見えない)に懸架され、その形状は通気管の断面形状と一致する。密閉要素のさらなる特性および動作は、図2に関連して論じたものと同様である。
【0050】
図4は、聴覚機器が装着者の耳30に挿入されたときの、図3に示すITE型の補聴器2の状況図である。補聴器、耳の組織、および鼓膜32によって画定された、外耳道内の残っている容積/空洞26が見てとれる。閉塞制御システム4の密閉要素18の動作に関して、図2に関連して述べたことに加えて、密閉要素18を音響的に閉鎖または開放する、すなわち、その状態を変える動的な時変制御は、そのときの音響状況によって必要に応じて提供することができる。総括すると、このことは装着者にとって改善された聴覚快適性をもたらす。この状況依存性の非限定的な例をいくつか以下に示す:
自身の声の存在に関連して密閉要素を音響的に開放する(低い音響インピーダンスを生成する)こと;
低周波数の音楽を聴くときに、密閉要素を音響的に閉鎖する(高い音響インピーダンスを生成する)こと;および
静かな環境において密閉要素を音響的に開放する(低い音響インピーダンスを生成する)こと。
【0051】
非限定的な一実施形態(図示せず)において、閉塞制御システムは、外部音声を拾い、第1の電気信号を出力するように構成されたマイクロホンを備えることができ、電気活性材料の音響インピーダンスを調整するために密閉要素の動作を制御する電気制御信号を生成するとき、信号プロセッサは第1の電気信号を使用する。マイクロホンは、閉塞制御システムの一部であってもよいが、補聴器のマイクロホンいずれかを使用することもできる。
【0052】
図示されていない別の非限定的な実施形態では、閉塞制御システムは、外耳道の物理的に密閉された部分で生成された音声を拾うように配置されたマイクロホンをさらに備え、すなわち、マイクロホンは外耳道腔に面する。音声の収集に応じて、マイクロホンは第2の電気信号を出力し、信号プロセッサは、電気活性材料の音響インピーダンスを調整するために密閉要素の動作を制御する電気制御信号を生成するときに第2の電気信号を使用する。ここでも、マイクロホンは、閉塞制御システムの一部であることができるが、補聴器に属するマイクロホンも使用することができる。
【0053】
関連する実施形態では、システムは、外部音声を拾うためのものと、腔内で生じた音声を拾うためのものとの、一対のマイクロホンを有することができる。これは、非常に複雑な音響状況においても、電気活性材料の動作をさらに改善し、閉塞効果を最小限にすることができる。
【0054】
別の関連する実施形態では、腔内で生じた音声を拾うために振動センサを使用することができる。これは、非常に雑音の多い音響状況においてでさえも、電気活性材料の動作をさらに改善し、閉塞効果を最小限にすることができる。
【0055】
さらに別の実施形態では、閉塞制御システムまたは補聴器それ自体は、補聴器の装着者が話しているかどうかを検出する検出器をさらに備えることができ、前記検出器は、検出された音声に応答して検出器電気信号を出力するように構成され、信号プロセッサは、電気活性材料の音響インピーダンスを調整するために密閉要素の動作を制御する電気制御信号を生成するときに検出器電気信号を使用する。その基本的な実施態様では、密閉要素は、装着者に起因する検出された音声に応答して、有害な閉塞効果を最大限に減衰させるために、最大限に音響的に透過的(最小音響インピーダンスの状態)になる。
【0056】
図5は、一実施形態による密閉要素18を有する閉塞制御システム4を備えた聴覚保護デバイス34の斜視図である。明らかに見てとれるように、閉塞制御システムは、聴覚保護デバイスに組み込まれた場合、ITE型の補聴器(図3および図4に示されている)のために展開された解決策に著しい構造的類似点を有する。さらに、その機能的特性は、前記ITEデバイスの機能的特性と実質的に同一である。
【0057】
以下の項目のいずれかによる装置および聴覚機器がさらに開示される。
(項目1)
少なくとも部分的に聴覚機器の装着者の外耳道内に配置されるように構成された聴覚機器のための装置であって、装置は、
装置を備えた聴覚機器が少なくとも部分的に外耳道内に配置されたときに、外耳道を密閉するように構成された密閉要素を備え、
密閉要素の動作は電気制御信号によって制御され、
密閉要素は少なくとも部分的に電気活性材料から作られ、
密閉要素の電気活性材料の音響インピーダンスは、印加電界の関数として変化し、
印加電界は、電気制御信号の特性に基づく、装置。
(項目2)
電気活性材料は、エラストマーを含む、項目1に記載の装置。
(項目3)
電気活性材料は、膜として形成される、項目1または2に記載の装置。
(項目4)
膜形状の電気活性材料と少なくとも部分的に重なるポリマー層をさらに備える、項目3に記載の装置。
(項目5)
ポリマー層はシリコーンで作られる、項目4に記載の装置。
(項目6)
聴覚機器が少なくとも部分的に外耳道内に配置されるとき、ポリマー層は外耳道に面するように配置される、項目4または5に記載の装置。
(項目7)
膜形状の電気活性材料およびポリマー層のうちの少なくとも一方は、少なくとも1つの穿孔を有する、項目4から6のいずれか一項に記載の装置。
(項目8)
少なくとも1つの穿孔の総音響質量は5000kg/mを超える、項目7に記載の装置。
(項目9)
電気活性材料は、カーボンナノチューブを含む、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
印加電界の電圧は、0Vから1.5Vの範囲である、項目9に記載の装置。
(項目11)
電気活性材料は、第1の状態において第1の音響インピーダンスを有し、第2の状態において第2の音響インピーダンスを有し、
第1の音響インピーダンスは、第2の音響インピーダンスよりも大きい、項目1から10のいずれか一項に記載の装置。
(項目12)
電気活性材料の音響インピーダンスを調整するために密閉要素の動作を制御する電気制御信号は、外部音声に関する情報を含む第1の電気信号に基づく、項目1から11のいずれか一項に記載の装置。
(項目13)
電気活性材料の音響インピーダンスを調整するために密閉要素の動作を制御する電気制御信号は、外耳道の密閉された部分で生成される音声に関する情報を含む第2の電気信号に基づく、項目1から12のいずれか一項に記載の装置。
(項目14)
聴覚機器の装着者が話しているかどうかを検出するように構成された検出器をさらに備え、
検出器は、検出された音声に応答して検出器電気信号を出力するように構成され、
電気活性材料の音響インピーダンスを調整するために密閉要素の動作を制御する電気制御信号は、検出器電気信号に基づく、項目1から13のいずれか一項に記載の装置。
(項目15)
項目1から14のいずれか一項に記載の装置を備えた聴覚機器。
(項目16)
電気制御信号を提供するように構成された信号プロセッサをさらに備える、項目15に記載の聴覚機器。
(項目17)
イヤピースを備え、
密閉要素はイヤピースの一部である、項目15または16に記載の聴覚機器。
(項目18)
イヤピースは1つまたは複数の開口部を備え、
密閉要素は1つまたは複数の開口部を覆う、項目17に記載の聴覚機器。
(項目19)
電気制御信号を提供するように構成された信号プロセッサをさらに備える、項目1から14のいずれか一項に記載の装置。
【0058】
図面および明細書において、典型的な好ましい実施形態が開示され、特定の用語が用いられるが、それらの用語は、一般的かつ記述的意味であるに過ぎず、限定することを目的としておらず、特許請求の範囲に記載された発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により規定される。
図1
図2
図3
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図5