(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本願の開示する苗移植機の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
<苗移植機1の概略構成>
図1および
図2を参照して苗移植機1の概略構成について説明する。
図1は、実施形態に係る苗移植機1の一例を示す概略左側面図である。
図2は、実施形態に係る苗移植機1の一例を示す概略平面図である。
【0015】
以下の説明において、前後方向とは、苗移植機1の直進時における進行方向であり、進行方向の前方側を「前」、後方側を「後」と規定する。苗移植機1の進行方向とは、直進時において、後述する操縦席28から操舵用のハンドル32に向かう方向である(
図1参照)。
【0016】
左右方向とは、前後方向に対して水平に直交する方向である。以下では、「前」側へ向けて左右を規定する。すなわち、作業者(操縦者ともいう)が操縦席28に着席して前方を向いた状態で、左手側が「左」、右手側が「右」である。
【0017】
上下方向とは、鉛直方向である。前後方向、左右方向および上下方向は互いに直交する。なお、これらの方向は説明の便宜上定義したものであり、これらの方向によって本発明が限定されるものではない。また、以下では、苗移植機1を指して「機体」という場合がある。
【0018】
また、以下では、機体を、前方から見た場合を「正面」、後方から見た場合を「背面」、上方から見た場合を「平面(上面)」、下方から見た場合を「底面」、左側方から見た場合を「左側面」、右側方から見た場合を「右側面」とする。
【0019】
苗移植機1は、圃場を走行しながら、圃場の表土面(圃場面)に苗を植え付ける。
図1および
図2に示すように、苗移植機1は、走行車体2と、苗植付部昇降機構40と、苗植付部50とを備える。走行車体2は、それぞれ左右一対の前輪4と、後輪5とを備える。なお、走行車体2は、走行時には各車輪(左右一対の前輪4および左右一対の後輪5)が駆動する四輪駆動となる。
【0020】
走行車体2は、メインフレーム7と、エンジン10と、動力伝達装置15とを備える。メインフレーム7は、走行車体2の上下および左右方向の中央部に設けられ、走行車体2の上部を支持する。エンジン10は、メインフレーム7上に搭載される。エンジン10は、ディーゼル機関やガソリン機関などの熱機関である。なお、エンジン10からの駆動力は、走行車体2を前後進させるために用いられるとともに、後述する苗植付部50を駆動するためにも用いられる。
【0021】
エンジン10は、走行車体2の左右方向の中央部に設けられ、かつ、作業者が乗車時に足を載せるフロアステップ26よりも上方に突出させた状態で設けられる。なお、フロアステップ26は、メインフレーム7に取り付けられ、一部が格子状に形成されることで、作業者の靴に付いた泥などを圃場に落とすことができる。また、フロアステップ26の後方には後輪5のフェンダを兼ねたリヤステップ27が設けられる。
【0022】
フロアステップ26およびリヤステップ27上にはエンジン10を覆うエンジンカバー11が設けられる。エンジンカバー11の上方には操縦席28が設けられる。また、操縦席28の前方には操縦部30(
図2参照)が設けられる。操縦部30の前部には、フロントカバー31が設けられる。操縦部30の上部には、各種操作レバーや計器類、さらには、操舵用のハンドル32が設けられる。
【0023】
また、操作レバーとしては、走行レバー35や副変速レバー38などがある。走行レバー35は、走行車体2の前後進および走行速度を変更する場合に操作される。また、副変速レバー38は、走行車体2の走行速度を、走行する場所(圃場や路上)に応じた速度に切り替える場合に操作される。
【0024】
フロアステップ26の前部における左右の側方には、予備苗載置台65が設けられる。予備苗載置台65は、補給用の苗を載せておく台であり、フロアステップ26のステップ面から突出した支持軸によって回転自在に支持される。予備苗載置台65は、作業者の手動による回動の他、電動モータなどの駆動部によって回動させることもできる。
【0025】
動力伝達装置15は、油圧式無段変速機16と、ベルト式動力伝達機構17とを備える。油圧式無段変速機16は、主変速機であり、静油圧式の無段変速装置(HST:Hydro Static Transmission)である。ベルト式動力伝達機構17は、エンジン10からの動力を油圧式無段変速機16に伝達する。ベルト式動力伝達機構17は、ベルトと、プーリとを備え、エンジン10からの動力をベルトを介して油圧式無段変速機16に伝達する。
【0026】
また、動力伝達装置15は、ミッションケース18を備える。ミッションケース18には、ベルト式動力伝達機構17および油圧式無段変速機16を介してエンジン10からの動力が伝達される。ミッションケース18は、メインフレーム7の前部に取り付けられる。ミッションケース18は、、副変速機構を備える。副変速機構は、走行車体2の路上走行時や植付走行時における走行速度や作業速度を切り替える。
【0027】
ミッションケース18は、副変速機構で変速された動力を、走行用動力および苗植付部の駆動用動力に分ける。走行用動力は、一部が左右のファイナルケース21を介して前輪4に伝達可能であり、残りが左右の後輪ギヤケース22を介して後輪5に伝達可能である。一方、駆動用動力は、走行車体2の後部に設けられた植付クラッチに伝達され、植付クラッチによる動力接続時に植付伝動軸によって苗植付部50に伝達される。
【0028】
苗植付部昇降機構40は、苗植付部50を昇降させる。苗植付部昇降機構40は、昇降リンク装置41を備える。昇降リンク装置41は、平行リンク機構42を備える。平行リンク機構42は、上リンクと、下リンクとを備え、各リンクがリンクベースフレーム43にそれぞれ回動自在に連結されることで、走行車体2に対して苗植付部50を昇降可能に連結する。
【0029】
また、苗植付部昇降機構40は、昇降シリンダ44を備える。昇降シリンダ44は、油圧によって伸縮する。苗植付部昇降機構40は、昇降シリンダ44の伸縮による苗植付部50の昇降動作により、苗植付部50を非作業位置まで上昇させる。また、苗植付部昇降機構40は、昇降シリンダ44による苗植付部50の昇降動作により、苗植付部50を対地作業位置(植付位置)まで下降させる。
【0030】
苗植付部50は、苗載置台51と、苗植付装置60と、フロート47とを備える。苗載置台51は、苗載せ面52を備える。苗載せ面52は、左右方向において仕切られ、植付条数分設けられる。複数の苗載せ面52にはそれぞれ土付きのマット状の苗が積載される。苗植付装置60は、苗植付装置60は、2条ごとに1つずつ設けられる。苗植付装置60は、植込杆61と、ロータリケース63と、植付伝動ケース64とを備える。
【0031】
植込杆61は、苗載置台51に積載された苗を圃場に植え付ける。ロータリケース63は、苗植付装置60に動力を伝達する植付伝動ケース64に対して回転可能に取り付けられる。植付伝動ケース64は、エンジン10から苗植付部50に伝達された動力を苗植付装置60に伝達する。
【0032】
フロート47は、走行車体2の前進に伴い圃場面上を滑走して圃場を整地する。フロート47は、センタフロート48と、サイドフロート49とを備える。センタフロート48は、左右方向における中央部に設けられ、サイドフロート49は、左右方向における左右両側部に設けられる。フロート47の前方には、同じく圃場を整地する整地ロータ67が設けられる。
【0033】
また、苗植付部50の左右両側部には、線引マーカ68が設けられる。線引マーカ68は、圃場面上における次の植付条に進行方向の目安になる線を形成する。線引マーカ68は、たとえば、マーカモータによって出退駆動され、走行車体2が旋回するごとに左右の線引マーカ68が切り替わる。
【0034】
また、苗移植機1は、施肥装置70を備える。施肥装置70は、走行車体2の後部、操縦席28の後方に設けられる。施肥装置70は、肥料貯留ホッパ71と、繰出装置72と、施肥ホース74と、ブロア73とを備える。肥料貯留ホッパ71は、肥料を貯留する。繰出装置72は、肥料貯留ホッパ71から供給された肥料を設定量ずつ繰り出す。施肥ホース74は、繰出装置72によって繰り出された肥料の流路である。ブロア73は、肥料を移送するために、施肥ホース74内に空気を送る。
【0035】
また、施肥装置70は、施肥ガイド75と、作溝器76とを備える。施肥ガイド75は、苗植付部50の下方に設けられ、施肥ホース74をガイドする。作溝器76は、施肥ガイド75の前方に設けられる。作溝器76は、圃場面に施肥溝を形成するとともに、施肥ホース74によって移送された肥料を施肥溝内に落とし込む。
【0036】
また、苗移植機1は、薬剤散布装置80を備える。薬剤散布装置80は、苗植付部50から延びたメインステー81に支持され、苗植付部50の後方に設置される。薬剤散布装置80は、薬剤貯留ホッパ82に貯留された除草剤などの粒状の薬剤を、本体部83に形成された散布口80aから走行車体2の後方に向けて散布する。すなわち、薬剤散布装置80は、薬剤を苗が植え付けられた後の圃場に散布する。
【0037】
<薬剤散布装置80>
次に、
図3〜
図8を参照して薬剤散布装置80について説明する。
図3は、実施形態に係る苗移植機1に取り付けられた薬剤散布装置80を示す概略背面図である。
図4は、薬剤散布装置80の本体部83の説明図であり、(a)本体部83の正面図、(b)本体部83の平面図、(c)本体部83の側面図である。
図5は、
図4と同じく薬剤散布装置80の本体部83の説明図であり、(a)本体部83の上方からの斜視図、(b)本体部83の下方からの斜視図である。
【0038】
なお、以下の説明では、機体における6面とは別に、薬剤散布装置80(本体部83や拡散部材85についても同様)の正投影図(6面図)を設定している。たとえば、機体の背面は、薬剤散布装置80の正面となる。
【0039】
図3に示すように、薬剤散布装置80は、メインステー81にボルトなどによって取り付けられる。このように、薬剤散布装置80は、メインステー81に支持されることで、上記したように、苗植付部50の後方に設置される。薬剤散布装置80は、薬剤貯留ホッパ82と、本体部83とを備える。薬剤貯留ホッパ82は、薬剤を貯留する。本体部83は、上部に設けられた薬剤貯留ホッパ82から供給された薬剤を、散布口80aから圃場に散布する。
【0040】
図4および
図5に示すように、本体部83は、ケーシング84と、拡散部材85と、散布範囲規制部材86と、散布量調節部87とを備える。ケーシング84は、矩形箱状であり、上面に薬剤貯留ホッパ82(
図3参照)を取り付けるためのホッパ取付部841が設けられる。拡散部材85は、本体部83の正面に形成された開口に設けられ、散布口80aから散布される薬剤が広い範囲に飛散するように、散布される薬剤を拡散させる。
【0041】
拡散部材85は、回転体であり、本体部83において左右方向(機体の左右方向でもある)に延びた回転軸88に取り付けられ、たとえば、電動モータによって回転軸88を中心に回転することで、薬剤を上下および左右方向に拡散させる。なお、拡散部材85の形状については、
図6および
図7を用いて後述する。
【0042】
散布範囲規制部材86は、本体部83の正面において拡散部材85を覆うように設けられる。散布範囲規制部材86は、拡散部材85によって拡散されながら散布される薬剤の散布範囲が所定の範囲内に収まるように、薬剤の散布範囲を規制する。具体的には、
図3に示すように、散布範囲規制部材86は、薬剤の散布範囲を、苗植付部50の左右方向の幅(苗の植付幅)内に規制する。
【0043】
図4および
図5に示すように、散布範囲規制部材86は、天板部861と、一対の側板部862とを備える。
図4(a)に示すように、天板部861は、矩形板状であり、拡散部材85の上部において機体後方に突出し、拡散部材85の上側を覆う。
【0044】
図4(a)、(b)および(c)に示すように、一対の側板部862は、それぞれ円弧状の端縁を有する板状であり、拡散部材85の左右の両側部において機体後方に突出し、拡散部材85の左右両側を覆う。
図4(a)および(b)に示すように、一対の側板部862は、ケーシング84から機体左右方向の外側に広がるようにそれぞれ突出する。
【0045】
また、
図4(a)に示すように、一対の側板部862は、機体下方に向かって機体左右方向の外側に広がる形状をそれぞれ有する。さらに、一対の側板部862は、下端部が、機体左右方向の内側に向かう形状となるように湾曲形成される。
【0046】
図4(a)に示すように、散布範囲規制部材86は、機体背面視(本体部83の正面視)において拡散部材85を視認できる形状を有する。すなわち、散布範囲規制部材86は、機体背面視(本体部83の正面視)において拡散部材85を開放する。
【0047】
このように、散布範囲規制部材86が機体背面視(本体部83の正面視)において拡散部材85を視認できる形状であるため、前後方向において散布範囲規制部材86に遮られることなく、たとえば作業者は、拡散部材85を視認して拡散部材85による薬剤の拡散状況や拡散部材85の動作状況を容易に確認することができる。
【0048】
また、上記したような薬剤散布装置80によれば、散布範囲規制部材86の一対の側板部862がそれぞれ機体左右方向の外側に広がる形状を有するため、薬剤の散布範囲を苗植付部50の左右幅内に確実に収めることができる。これにより、薬剤が散布されない無散布領域や、薬剤が重複して散布される重複散布領域の発生を防止することができる。
【0049】
また、一対の側板部862の下端部が左右方向の内側に向かう形状であるため、薬剤の散布範囲が規制され、苗植付部50(
図3参照)の左右幅以上に薬剤が散布されるのを抑えることができる。
【0050】
また、
図3に示すように、散布範囲規制部材86の左右幅D1は、苗植付部50による苗の植付条間D2よりも狭い。このように、散布範囲規制部材の左右幅が苗の植付条間D2よりも狭いため、植付作業後の苗植付部50に対する種々の作業を散布範囲規制部材86が妨げない。これにより、植付作業後の苗の取り出しや苗植付部50のメンテナンスが容易となる。
【0051】
なお、散布範囲規制部材86は、ケーシング84との接続部分を軸に左右方向に揺動可能に構成されてもよい。これにより、薬剤の散布範囲や散布方向を、変更または調節することができる。また、散布範囲規制部材86が左右方向に揺動することで、苗植付部の植付条数(すなわち、苗植付部50の左右幅)にあわせて薬剤の散布範囲を設定することができる。
【0052】
図6および
図7は、拡散部材85の説明図である。なお、
図6は、(a)拡散部材85の正面図、(b)拡散部材85の平面図、(c)拡散部材85の側面図である。また、
図7は、拡散部材85の斜視図である。なお、拡散部材85は、2つの同形状の構成部材が背中合わせで配置されることで構成される。
図6および
図7には、拡散部材85の1つの構成部材(85a)のみを示している。
【0053】
図6および
図7に示すように、拡散部材85(85a)は、本体851と、挿通穴852と、羽根853とを備える。なお、拡散部材85aは、全体的に板状であり、本体851に対して羽根853が屈曲形成されたものである。本体851は、端縁部に回転中心に対して回転対称に配置された一対の延出部851aを備える。
【0054】
挿通穴852は、本体851(拡散部材85)の回転中心に形成され、回転軸88(
図4および
図5参照)が挿通される円形の穴である。羽根853は、本体851の一対の延出部851aに形成される。すなわち、羽根853は、一対で構成される。一対の羽根853は、本体851に対してそれぞれ所定の屈曲角度を有する。また、
図6(b)に示すように、一対の羽根853は、平面視において交差する。
【0055】
また、
図8は、散布量調節部87の説明図である。なお、
図8には、散布量調節部87の正面図を示している。
図4および
図5に示すように、散布量調節部87は、ケーシング84の正面上部に設けられる。
図8に示すように、散布量調節部87は、散布量調節ダイヤル871と、2つの表示ランプ872,873とを備える。
【0056】
散布量調節ダイヤル871は、散布量調節部87の中央部に設けられる。散布量調節ダイヤル871の周囲には目盛り874が設けられる。散布量調節ダイヤル871は、目盛り874の範囲内で回転可能に設けられる。なお、目盛り874は、散布量調節ダイヤルの左右の領域においてそれぞれ「1」〜「6.5」まで0.5刻みで表示される。
【0057】
2つの表示ランプ872,873は共に、たとえば、LEDランプである。2つの表示ランプ872,873のうち、
図8中左側の表示ランプ872は、薬剤(除草剤)が「1kg剤」の場合に点灯する。この場合、散布量調節ダイヤル871の指針871aは、左側の領域の目盛り874のいずれかを指している。たとえば、散布量調節ダイヤル871が「1kg剤」の6.5を指している場合、2回の植付動作に対してシャッタが1回動作する。
【0058】
また、2つの表示ランプ872,873のうち、
図8中右側の表示ランプ873は、薬剤(除草剤)が「3kg剤」の場合に点灯する。この場合、散布量調節ダイヤル871の指針871aは、右側の領域の目盛り874のいずれかを指している。たとえば、散布量調節ダイヤル871が「3kg剤」の6.5を指している場合、1回の植付動作に対してシャッタが1回動作する。
【0059】
このように、散布量調節ダイヤルの操作方向(回転方向)に応じて異なる薬剤(除草剤)の選択および調節が可能となる。これにより、従来のように薬剤が変わるたびに目皿を交換する必要がなくなるため、目皿を交換する手間を省略することができる。また、1つの散布量調節ダイヤル871で異なる種類の薬剤の調節が可能となる。これらのことから、薬剤散布作業(薬剤の選択および調節作業)の簡略化が可能となる。
【0060】
なお、たとえば、薬剤散布装置80の近傍にブロア装置を別途設け、ブロア装置による送風で散布される薬剤に勢いを付けることで、散布口80aから散布される薬剤が外の風の影響を受けるのを抑えることができる。
【0061】
また、たとえば、薬剤散布装置80において苗植付部50の上昇時(非作業時)に薬剤の散布を停止を停止するが、このとき、ブロア装置を停止しないことで、薬剤の詰まりを防止することができる。
【0062】
また、たとえば、圃場の窒素濃度を検出する濃度検出装置を設け、圃場の窒素濃度が高い(所定値以上の)場合に薬剤(除草剤)の散布量を増やし、窒素濃度が低き(所定値以下の)場合に薬剤の散布量を減らすことで、圃場の状態に応じた適切な薬剤散布が可能となる。
【0063】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。