(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
大きな減速比を有する小型の波動歯車減速機は、ロボットや産業機械などのアクチュエータの減速機として近年採用されている。波動歯車減速機は、真円の環状部材で内側に内歯を備えた剛性内歯車と、剛性内歯車の内側に配置され外歯を備えた可撓性外歯車と、可撓性外歯車の内側に嵌められた楕円形状の波動発生器と、を備える。剛性内歯車は、回転しないように固定されている。可撓性外歯車は、撓み変形可能な薄肉の円筒状部材であり、アクチュエータの制御軸に接続されている。波動発生器は、モータ等の駆動源によって回転する。剛性内歯車の歯数は、可撓性外歯車の歯数よりも多い。
【0003】
波動発生器が回転すると、可撓性外歯車は、波動発生器によって剛性内歯車の内側で楕円形状に変形する。可撓性外歯車は、変形しながら剛性内歯車と互いの歯が噛み合うことで、剛性内歯車との歯数差に応じて、剛性内歯車に対して相対的に回転する。以上のようなメカニズムにより、入力側(波動発生器)の回転は、剛性内歯車と可撓性外歯車との歯数差に応じて減速される。
【0004】
波動歯車減速機をアクチュエータに用いる場合,要求される動作に対する高い制御性が要求される。この課題に対し、特開平10−318338号公報(特許文献1)の波動歯車減速機では、波動発生器の波動発生プラグ(ハブ部分及び剛性カム板)をアルミニウム合金により形成することで慣性重量を低減し、制御性を改善している(要約参照)。
【0005】
特開2011−169152号公報(特許文献2)には、ピストンのピストンピンとクランクシャフトのクランクピンとを機械的に連係する複数のリンクと、機関本体に回転可能に取り付けられた第1制御軸及び第2制御軸と、一端が複数のリンクの一つに回転可能に連結されると共に他端が第1制御軸に偏心して設けられた制御偏心軸部に回転可能に連結された制御リンクと、一端が第1制御軸に偏心して設けられた第1偏心軸部に回転可能に連結されると共に他端が第2制御軸に偏心して設けられた第2偏心軸部に回転可能に連結された連結リンクと、機関圧縮比を変更及び保持するアクチュエータと、を備えた、内燃機関用リンク機構のアクチュエータの例が記載されている(特許請求の範囲参照)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による波動歯車減速機は、円環状であり、内周面に複数の歯27aを備える剛性内歯車27と、円筒状であり、外周面に複数の歯36aを備え、剛性内歯車27の内部に配置されている可撓性外歯車36と、外周が楕円形の環状であり、可撓性外歯車36の内部に配置され、可撓性外歯車36を楕円形に保持する波動発生器37と、可撓性外歯車36と波動発生器37との相対回転を可能とする転がり軸受372と、を備える。転がり軸受372は、可撓性外歯車36と接触する外輪372aを備える。可撓性外歯車36の平均半径をR、外輪372aの厚さをt、外輪372aの外周の長軸半径R1と平均半径R0との差をδとしたとき、外輪372aの厚さtは、下記(1)式の範囲を満たす。
【0016】
本発明の実施例による波動歯車減速機と、この波動歯車減速機を備える内燃機関用リンク機構のアクチュエータを、図面を用いて説明する。各図において、共通する構成要素には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明に係るアクチュエータが設けられる内燃機関用リンク機構の概略図である。このリンク機構の基本的な構成は、例えば特許文献2(特に
図1とその説明)に記載されているので、ここでは簡単に説明する。
【0018】
内燃機関のシリンダブロックのシリンダ内を往復運動するピストン1には、ピストンピン2を介してアッパリンク3の上端が回転自在に連結されている。アッパリンク3の下端には、連結ピン6を介してロアリンク5が回転自在に連結されている。ロアリンク5には、クランクピン4aを介してクランクシャフト4が回転自在に連結されている。また、ロアリンク5には、連結ピン8を介して第1制御リンク7の上端部が回転自在に連結されている。第1制御リンク7の下端部は、複数のリンク部材を有するリンク機構9と連結されている。リンク機構9は、内燃機関のリンク機構であり、第1制御軸10、第2制御軸(アクチュエータの制御軸)11、及び第2制御リンク12を備える。
【0019】
第1制御軸10は、内燃機関の内部の気筒列方向に延在するクランクシャフト4と平行に延在する。第1制御軸10は、第1ジャーナル部10a、制御偏心軸部10b、偏心軸部10c、第1アーム部10d、及び第2アーム部10eを有する。第1ジャーナル部10aは、内燃機関本体に回転自在に支持される。制御偏心軸部10bは、第1制御リンク7の下端部が回転自在に連結され、第1ジャーナル部10aに対して所定量偏心した位置に設けられている。偏心軸部10cは、第2制御リンク12の一端部12aが回転自在に連結され、第1ジャーナル部10aに対して所定量偏心した位置に設けられている。第1アーム部10dは、一端が第1ジャーナル部10aと連結され、他端が第1制御リンク7の下端部と連結されている。第2アーム部10eは、一端が第1ジャーナル部10aと連結され、他端が第2制御リンク12の一端部12aと連結されている。
【0020】
第2制御リンク12の他端部12bは、アームリンク13の一端が回転自在に連結されている。アームリンク13の他端には、第2制御軸11が相対移動不能に連結されている。アームリンク13は、第2制御軸11とは別体の部材である。
【0021】
本実施例の内燃機関のリンク機構では、第1制御軸10及び第2制御軸11は、位置が固定された状態で回転可能に支持されている。
【0022】
第2制御軸11は、後述するハウジング20内に、複数のジャーナル部を介して回転自在に支持されている。
【0023】
第2制御リンク12は、第1制御軸10と第2制御軸11とを連結する。第2制御リンク12は、レバー形状であり、偏心軸部10cに連結された一端部12aが略直線形状で、アームリンク13に連結された他端部12bが湾曲形状である。一端部12aの先端部には、偏心軸部10cが回動自在に挿通されている挿通孔を備える。
【0024】
第2制御軸11は、内燃機関用リンク機構のアクチュエータが備える波動歯車減速機21(
図2参照)を介して電動モータ22(
図2参照)から伝達されたトルクにより回転する。第2制御軸11が回転すると、アームリンク13が第2制御軸11を中心に回転し、第2制御リンク12を介して第1制御軸10がその位置で回転し、第1制御リンク7の下端部(制御偏心軸部10b側の端部)の位置が変更される。これにより、ロアリンク5の姿勢が変化し、ピストン1のシリンダ内におけるストローク位置やストローク量が変化し、これに伴って機関圧縮比が変更される。
【0025】
次に、本発明の実施例1による、内燃機関用リンク機構のアクチュエータの構成を、
図2を用いて説明する。
【0026】
図2は、本発明の一実施例に係る内燃機関用リンク機構のアクチュエータ100の断面図である。内燃機関用リンク機構のアクチュエータ100は、電動モータ22、波動歯車減速機21、ハウジング20、及び第2制御軸11を備える。
【0027】
電動モータ22は、例えばブラシレスモータであり、モータケーシング45、コイル46、ロータ47、及びモータ出力軸48を備える。モータケーシング45は、有底の円筒状部材である。コイル46は、モータケーシング45の内周面に固定されている。ロータ47は、コイル46の内側に回転自在に設けられている。モータ出力軸48は、ロータ47の中心に固定されており、一端部がモータケーシング45の底部に設けられたボールベアリング52Aにより回転可能に支持され、他端部が波動生成プラグ371を介してハウジング20に設けられたボールベアリング52Bにより回転可能に支持されている。
【0028】
波動歯車減速機21は、モータ出力軸48の回転速度を減速して、モータ出力軸48のトルクを第2制御軸11に伝達する。
【0029】
第2制御軸11は、ハウジング20に回転自在に支持されており、制御軸23及び係合部24を有する。制御軸23は、アクチュエータ100の軸方向に延在する。係合部24は、制御軸23の一端部に位置する。制御軸23及び係合部24は、一体になって、鉄系金属材料で形成された第2制御軸11を構成する。第2制御軸11の係合部24は、波動歯車減速機21の可撓性外歯車36のフランジ部36bと係合される。本実施例では、係合部24の外周に外歯24aが形成され、フランジ部36bの内周に内歯36dが形成され、係合部24の外歯24aとフランジ部36bの内歯36dとが噛み合うことで、第2制御軸11と可撓性外歯車36とが結合されている。
【0030】
次に、本実施例による波動歯車減速機21の構成を、
図2と
図3を用いて説明する。
図3は、本発明の一実施例に係る波動歯車減速機21の分解等角図である。
【0031】
波動歯車減速機21は、電動モータ22の一端部に取り付けられ、ハウジング20の内部に設けられている。波動歯車減速機21は、ハウジング20の一端面20aにボルトで固定されている。本実施例では図示していないが、波動歯車減速機21の重力方向上方には、油圧源から潤滑油を供給する供給孔が設けられ、供給された潤滑油は、下方の波動歯車減速機21に滴下し、波動歯車減速機21の各回転要素間を潤滑する。
【0032】
波動歯車減速機21は、剛性内歯車27、剛性内歯車27の内部に配置された可撓性外歯車36、可撓性外歯車36の内部に配置された波動発生器37、及び波動発生器37の中央部に接続された入力軸を備える。この入力軸は、電動モータ22のモータ出力軸48である。また、可撓性外歯車36には、出力軸が接続される。この出力軸は、アクチュエータ100の第2制御軸11である。すなわち、波動歯車減速機21またはアクチュエータ100の出力軸は、可撓性外歯車36に連結される第2制御軸11により構成される。
【0033】
剛性内歯車27は、剛体の円環状部材であり、内周面に複数の歯27aを備える。剛性内歯車27は、ハウジング20に固定されている。
【0034】
可撓性外歯車36は、剛性内歯車27の径方向内側に配置されており、外周面に複数の歯36aを備える。歯36aは、剛性内歯車27の歯27aと噛み合うことができる。可撓性外歯車36は、金属材料によって形成され、底面部36bを有する薄肉の円筒状部材であり、撓み変形が可能である。可撓性外歯車36の歯36aの歯数は、剛性内歯車27の歯27aの歯数より2つ少ない。可撓性外歯車36の底面部は、フランジ部36bである。フランジ部36bは、径方向内側に、第2制御軸11が貫通する挿通孔36cを備える。挿通孔36cには、係合部24の外歯24aと噛み合う内歯36dが形成されている。
【0035】
可撓性外歯車36は、アクチュエータ100の第2制御軸11に接続されている。第2制御軸11は、可撓性外歯車36の挿通孔36cを貫通する。可撓性外歯車36のフランジ部36bは、内歯36dが第2制御軸11の係合部24に形成された外歯24aと噛み合うことで、第2制御軸11と結合されている。このため、可撓性外歯車36は、挿通孔36cで第2制御軸11を支持することができるとともに、底部の剛性を確保できる。
【0036】
波動発生器37は、外周37oが楕円形の環状部材であり、可撓性外歯車36の径方向内側に配置されており、外周面37oが可撓性外歯車36の内周面36iに沿って摺動可能である。波動発生器37は、波動生成プラグ371及び転がり軸受372を備え、中央部に入力軸(モータ出力軸48)が接続される。波動生成プラグ371は、外周が楕円形であり、その中央部にモータ出力軸48が圧入によって固定されている。深溝玉軸受372は、波動生成プラグ371の外周と可撓性外歯車36の内周との間に位置する可撓性の薄肉内外輪372b,372a(
図4参照)を備え、この薄肉内外輪372b,372aが波動生成プラグ371と可撓性外歯車36との間の相対回転を許容する。
【0037】
電動モータ22のモータ出力軸48が回転すると、波動生成プラグ371が回転する。波動生成プラグ371の回転により、可撓性外歯車36が回転し、アクチュエータ100の第2制御軸11が回転する。このように、モータ出力軸48のトルクは、波動歯車減速機21を介して第2制御軸11に伝達される。第2制御軸11が波動歯車減速機21を介して電動モータ22から伝達されたトルクにより回転すると、アームリンク13は、第2制御軸11を中心に回転する(
図1参照)。
【0038】
次に、本実施例の波動歯車減速機21に備わる転がり軸受372の外輪372aについて、
図4ないし
図6を用いて説明する。
【0039】
図4は、本発明の一実施例における波動発生器37及びモータ出力軸48の軸方向断面図である。
図5は、本発明の一実施例における転がり軸受外輪372aの外周形状を軸方向から見た図である。
図6は、本発明に係るアクチュエータ100の動作に要するトルクを示すグラフである。なお、軸方向とは、アクチュエータ100の軸方向、すなわち、モータ出力軸48や第2制御軸11の軸方向のことである。上述したように、波動発生器37の波動生成プラグ371は、外周が楕円形であり、その中央部にモータ出力軸48が固定されている。
【0040】
図4に示すように、転がり軸受372は、外輪372aと、内輪372bと、外輪372aと内輪372bとの間に配置された転動体372cと、を備えている。モータ出力軸48は波動生成プラグ371と接続されており、波動生成プラグ371の外周には転がり軸受372が取り付けられている。転がり軸受372は、取り付け前は真円であるが、楕円形状の波動生成プラグ371に合うように、弾性変形させている。この変形により、転がり軸受372の外輪372aも楕円に変形している。
図5に示すように、外輪372aの外周の平均半径はRであり、平均半径R0と長軸半径R1もしくは短軸半径R2との差はδとなっている。なお、
図4には示されていないが、転がり軸受372の外周に接するように可撓性外歯車36が楕円形状に弾性変形した状態で取り付けられている。
【0041】
ここで、モータ出力軸48が回転すると、可撓性外歯車36は楕円の長軸において剛性内歯車27とかみ合いながら、モータ出力軸48の回転方向と逆方向に、減速比に応じて減速された速度で回転する。このとき、モータ出力軸48の回転に合わせ、転がり軸受372の外輪372aは長軸の位相位置が回転する。外輪372aを変形させるための力は、抗力となり、モータ出力軸48に掛かるトルクの一部が外輪372aの変形のために費やされる。
【0042】
逆に、可撓性外歯車36に外部からトルクが掛かり回転する場合には、モータ出力軸48は減速比に応じて増速され、可撓性外歯車36とは反対の方向に回転する。このときも、モータ出力軸48の回転に合わせ、転がり軸受372の外輪372aは長軸の位相位置が回転するため、可撓性外歯車36に掛かるトルクの一部が外輪372aの変形のために費やされることになる。つまり、外部からのトルクに対し、可撓性外歯車36は回転しにくいということになる。内燃機関用アクチュエータなどの用途においては、波動歯車減速機21の可撓性外歯車36側の軸の位相姿勢を一定に保つような制御が要求される。このような場合は、外部からのトルクに対し、可撓性外歯車36が回転しにくいほうが、位相姿勢制御が容易となる。
【0043】
外輪372aの厚さ(径方向の厚さ)tが厚いほど、変形に要する力は強くなるため、外輪372aの変形のために費やされるトルクも増加する。この関係を
図6に示す。
図6の横軸は、外輪の厚さを無次元化した(t/R)(δ/R)
1/3である。縦軸は外輪372aの変形のために費やされるトルクであるが、横軸が0.04のときの値を100とした相対値で示している。この図に示すように、横軸の値が0.013を越えると、相対トルク値が急激に増加する。したがって、本実施例においては外輪372aの厚さtを次式の範囲としている。
【0045】
このように構成することにより、外部からのトルクに対し、位相姿勢制御が容易となる。現状の外輪372aの厚さtは、組み立て時の弾性変形の容易性などの観点から,式(2)で示される厚さよりも薄くなっている。
【0046】
本実施例による波動歯車減速機21は、外部からのトルクに対し、回転を抑制することができるため、位相姿勢を保持する制御が容易となるアクチュエータ100を提供することができる。
【0047】
さらに波動歯車減速機21について、
図7を用いて説明する。
図7は、本発明の一実施例における(t/R)と(δ/R)との関係を示すグラフである。
【0048】
外輪372aの外周表面には、弾性変形により応力が生じる。この応力は、楕円の長軸上では引張り応力であるが、楕円の短軸では圧縮応力となる。したがって、波形生成プラグ371が回転するとともに、外輪372aの外周表面には引張り応力と圧縮応力とが掛かるため、疲労破壊の可能性がある。そこで、発生する応力を計算により求めたところ、次式の範囲内であれば、疲労限界に対して十分な余裕があることがわかった。
【0050】
図7は、式(2)および式(3)で示された範囲を図示したものである。
図7では、横軸に(δ/R)をとり、縦軸に(t/R)をとっている。外輪371aの厚さtを、図中に斜線で示した領域とすることで、信頼性の高い波動歯車減速機21を実現することができる。
【0051】
本実施例による波動歯車減速機21は、信頼性が高く、外部からのトルクに対し、回転を抑制することができるため、位相姿勢を保持する制御が容易となるアクチュエータ100を提供することができる。
【0052】
次に、波動歯車減速機21の変更例について、
図8を用いて説明する。
図8は、本発明に係る波動発生器の変更例の軸方向断面図である。
【0053】
本変更例においては、外輪372aの外周には、軸方向の一端部において外輪372aの外周径が最小となるように、軸方向に傾斜したテーパ373が設けられており、外輪372aの他方の端部と、転動体372cが配置される軸方向位置P1との間に、テーパの開始点373aが設けられている。
【0054】
テーパ373がない場合、可撓性外歯車36と外輪372aとの接触は、外輪372aの軸方向端部において局部的に強くなるため、この部分においてフレッチングが生じるなど信頼性を低下させる懸念がある。特に、本実施例のように外輪372aの厚さtを定めた場合には、外輪372aのたわみ量が小さくなるため、局部的に接触面圧が高まる。本実施例によれば、接触面圧は平均化されるため、フレッチングなどによる損傷を回避でき、信頼性の高い信頼性の高い波動歯車減速機21を実現することができる。
【0055】
本実施例による波動歯車減速機21は、信頼性が高く、外部からのトルクに対し、回転を抑制することができるため、位相姿勢を保持する制御が容易となるアクチュエータ100を提供することができる。
【0056】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能である。また、実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加したりすることが可能である。