(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の動作モードは、非航空機環境において能動ヒアスルーを提供するステップを具備し、前記第3の動作モードは、航空機環境において能動ヒアスルーを提供するステップを具備することを特徴とする請求項1に記載の能動騒音低減ヘッドホン。
フィードフォワード係数の前記第2のセットは、前記第1のフィードフォワードフィルタに、右半面にゼロを有するようにすることを特徴とする請求項1に記載の能動騒音低減ヘッドホン。
フィードフォワード係数の前記第2のセットは、フィードフォワード信号経路を特徴づける伝達関数において、非最小位相ゼロを定義することを特徴とする請求項1に記載の能動騒音低減ヘッドホン。
前記第2の動作モードの間、前記第1又は第2の信号プロセッサの一方のみが、フィードフォワード係数の前記第2又は第5のセットのそれぞれを、対応する前記第1又は第2のフィードフォワードフィルタに適用することを特徴とする請求項6に記載の能動騒音低減ヘッドホン。
前記第3の動作モードの間、前記第1又は第2の信号プロセッサの一方のみが、フィードフォワード係数の前記第3又は第6のセットのそれぞれを、対応する前記第1又は第2のフィードフォワードフィルタに適用することを特徴とする請求項6に記載の能動騒音低減ヘッドホン。
前記イヤピースが前記装着者の耳に結合された場合に、前記装着者の外耳道に音響的に結合されるとともに設定可能な係数を備えたフィードバックフィルタを有するフィードバック能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードバックマイクロホン
をさらに具備し、
前記出力トランスデューサは、前記フィードバック能動騒音打ち消し信号経路にも電気的に結合されており、
前記信号プロセッサは、前記第1の動作モードの間、フィードバック係数の第1のセットを前記フィードバックフィルタに適用するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項1に記載の能動騒音低減ヘッドホン。
前記第1の動作モードの間、フィードフォワード係数の前記第1のセットは、前記第1のフィードフォワードフィルタに前記イヤピースにおける残留音を第1の周波数レンジに渡り減少させ、
前記第2の動作モードの間、フィードフォワード係数の前記第2のセットは、前記第1のフィードフォワードフィルタに前記イヤピースにおける残留音を前記第1の周波数レンジの第1のサブレンジに渡り減少させるとともに、前記第1の周波数レンジの第2のサブレンジに渡り残留音を増加させ、前記第2のサブレンジは、300Hzから始まり300Hzより少なくとも2オクターブ上に延びている
ことを特徴とする請求項1に記載の能動騒音低減ヘッドホン。
ユーザ入力をさらに具備し、前記信号プロセッサは、前記ユーザ入力に基づいて、前記第1のフィードフォワードフィルタ、前記第2のフィードフォワードフィルタ、又は第3のフィードフォワードフィルタから選択するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項6に記載の能動騒音低減ヘッドホン。
前記信号プロセッサは、前記第2のフィードフォワードフィルタ及び第3のフィードフォワードフィルタから自動的に選択されるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の能動騒音低減ヘッドホン。
前記信号プロセッサは、前記周囲の騒音のレベルの測定値の時間平均に基づいて、前記第2のフィードフォワードフィルタ及び前記第3のフィードフォワードフィルタから選択されるように構成されていることを特徴とする請求項13に記載の能動騒音低減ヘッドホン。
前記信号プロセッサは、ヒアスルーモードの起動を要求するユーザ入力の受信により、前記第2のフィードフォワードフィルタ及び前記第3のフィードフォワードフィルタの間の前記選択を行うように構成されていることを特徴とする請求項14に記載の能動騒音低減ヘッドホン。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般的に、いくつかの態様では、能動騒音低減ヘッドホンは、装着者の外耳道内の空気の体積および耳カップ内の体積を含む音響体積を画定するように、装着者の耳に結合するように構成された耳カップと、外部環境に音響的に結合され、フィードフォワード能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードフォワードマイクロホンと、音響体積に音響的に結合され、フィードバック能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードバックマイクロホンと、耳カップ内の体積を介して音響体積に音響的に結合され、フィードフォワードおよびフィードバック能動騒音打ち消し信号経路の両方に電気的に結合された出力変換器と、フィードフォワードおよびフィードバック能動騒音打ち消し信号経路の両方のフィルタを適用し、利得を制御するように構成された信号プロセッサとを含む。信号プロセッサは、周囲の音の効果的な打ち消しを提供する第1の動作モードの間、第1のフィードフォワードフィルタをフィードフォワード信号経路に適用し、第1のフィードバックフィルタをフィードバック信号経路に適用し、周囲の自然さを伴う周囲の音の能動ヒアスルーを提供する第2の動作モードの間、第2のフィードフォワードフィルタをフィードフォワード信号経路に適用するように構成される。
【0007】
実施態様は、以下の1つまたは複数を含むことができる。第2のフィードフォワードフィルタは、ヘッドホンに滑らかで区分的線形であり得る装着者の耳での全システム応答を持たせることができる。第1の動作モードと第2の動作モードとの間の音声騒音の全体的な騒音低減の差は、少なくとも12dBAであり得る。第2のフィードフォワードフィルタは、式
【0008】
【数1】
【0009】
が所定の目標値にほぼ等しくなるように選択された値K
htを有することができる。信号プロセッサは、さらに、第2の動作モードの間、第1のフィードバックフィルタと異なる第2のフィードバックフィルタをフィードバック信号経路に適用するように構成され得る。フィードバック信号経路および耳カップは、組み合わせで、100Hzと10kHzとの間のすべての周波数で少なくとも8dBまで、外耳道への入口に到達する周囲の騒音を低減することができる。フィードバック信号経路は、500Hzを超えて広がる周波数範囲にわたって動作することができる。第2のフィードフォワードフィルタは、3kHzよりも上の周波数まで広がる領域で全システム応答を滑らかで区分的線形にすることができる。第2のフィードフォワードフィルタは、300Hzよりも下の周波数まで広がる領域で全システム応答を滑らかで区分的線形にすることができる。フィードバック信号経路は、デジタル信号プロセッサで実施され得、250μs未満の待機時間を有することができる。第2のフィードフォワードフィルタは、フィードフォワード信号経路を特徴付ける伝達関数に非最小位相ゼロ(non-minimum phase zero)を規定する。
【0010】
信号プロセッサは、さらに、第2の動作モードで提供され得るのとは異なる全応答で周囲の音の能動ヒアスルーを提供する第3の動作モードの間、第3のフィードフォワードフィルタをフィードフォワード信号経路に適用するように構成され得る。ユーザ入力が設けられ得、信号プロセッサが、ユーザ入力に基づいて第1、第2、または第3のフィードフォワードフィルタの間で選択するように構成される。ユーザ入力は、音量調節を含むことができる。信号プロセッサは、第2および第3のフィードフォワードフィルタ間で自動的に選択するように構成され得る。信号プロセッサは、周囲の騒音のレベルの時間平均測定値に基づいて、第2および第3のフィードフォワードフィルタ間で選択するように構成され得る。信号プロセッサは、ヒアスルーモードのアクティブ化を要求するユーザ入力の受信時に第2および第3のフィードフォワードフィルタ間で選択するように構成され得る。信号プロセッサは、定期的に第2および第3のフィードフォワードフィルタ間で選択を行うように構成され得る。
【0011】
信号プロセッサは、第1の信号プロセッサであり得、フィードフォワード信号経路は、第1のフィードフォワード信号経路であり得、ヘッドホンは、装着者の第2の外耳道内の空気の体積および第2の耳カップ内の体積を含む第2の音響体積を画定するように、装着者の第2の耳に結合するように構成された第2の耳カップと、外部環境に音響的に結合され、第2のフィードフォワード能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合された第2のフィードフォワードマイクロホンと、第2の音響体積に音響的に結合され、第2のフィードバック能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合された第2のフィードバックマイクロホンと、第2の耳カップ内の体積を介して第2の音響体積に音響的に結合され、第2のフィードフォワードおよび第2のフィードバック能動騒音打ち消し信号経路の両方に電気的に結合された第2の出力変換器と、第2のフィードフォワードおよび第2のフィードバック能動騒音打ち消し信号経路の両方のフィルタを適用し、利得を制御するように構成された第2の信号プロセッサとを含む。第2の信号プロセッサは、第1の信号プロセッサの第1の動作モードの間、第3のフィードフォワードフィルタを第2のフィードフォワード信号経路に適用し、第1のフィードバックフィルタを第2のフィードバック信号経路に適用し、第1の信号プロセッサの第2の動作モードの間、第4のフィードフォワードフィルタを第2のフィードフォワード信号経路に適用するように構成される。第1および第2の信号プロセッサは、単一の信号処理デバイスの一部であり得る。第3のフィードフォワードフィルタは、第1のフィードフォワードフィルタと同一でなくてよい。第1または第2の信号プロセッサの一方のみが、第3の動作モードの間、対応する第1または第2のフィードフォワード信号経路にそれぞれの第2または第4のフィードフォワードフィルタを適用することができる。第3の動作モードは、ユーザ入力に応答してアクティブにされ得る。
【0012】
第1の信号プロセッサは、第2のフィードフォワードマイクロホンからクロスオーバ信号を受信し、クロスオーバ信号に第5のフィードフォワードフィルタを適用し、フィルタリングされたクロスオーバ信号を第1のフィードフォワード信号経路中に挿入するように構成され得る。信号プロセッサは、第2の動作モードの間、第1のフィードフォワード信号経路に単一チャネル騒音低減フィルタを適用するように構成され得る。信号プロセッサは、フィードフォワード信号経路内の高周波信号を検出し、検出された高周波信号の振幅を正のフィードバックループを示すしきい値と比較し、検出された高周波信号の振幅がしきい値よりも大きい場合、圧縮リミッタをアクティブにするように構成され得る。信号プロセッサは、検出された高周波信号の振幅がもはやしきい値よりも大きくないとき、リミッタによって適用される圧縮の量を徐々に減少させ、検出された高周波信号の振幅が、圧縮の量を減少した後に、しきい値よりも大きいレベルに戻った場合、検出された高周波信号の振幅がしきい値未満のままである最低レベルに圧縮の量を増加させるように構成され得る。信号プロセッサは、フィードフォワード信号経路内の信号を監視する位相ロックループを使用して高周波信号を検出するように構成され得る。
【0013】
スクリーンが、フィードフォワードマイクロホンを取り囲む体積と外部環境との間の開口部をカバーし、耳カップは、フィードフォワードマイクロホンを取り囲む体積を提供することができる。フィードフォワードマイクロホンを取り囲む体積と外部環境との間の開口部は、少なくとも10mm
2であり得る。フィードフォワードマイクロホンを取り囲む体積と外部環境との間の開口部は、少なくとも20mm
2であり得る。スクリーンおよびフィードフォワードマイクロホンは、少なくとも1.5mmの距離だけ分離され得る。
【0014】
一般的に、一態様では、能動騒音低減ヘッドホンは、装着者の外耳道内の空気の体積および耳カップ内の体積を含む音響体積を画定するように、装着者の耳に結合するように構成された耳カップと、音響体積に音響的に結合され、フィードバック能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードバックマイクロホンと、第1の体積を介して音響体積に音響的に結合され、フィードバック信号経路に電気的に結合された出力変換器と、フィードバック信号経路のフィルタを適用し、利得を制御するように構成された信号プロセッサとを含む。信号プロセッサは、第1の動作モードの間、フィードバック信号経路を周波数の関数として第1の利得レベルで動作させる第1のフィードバックフィルタをフィードバック信号経路に適用し、第2の動作モードの間、フィードバック信号経路をいくつかの周波数で第1の利得レベルよりも低い第2の利得レベルで動作させる第2のフィードバックフィルタをフィードバック信号経路に適用するように構成され、第1の利得レベルは、耳カップが装着者の耳に結合されたとき、耳カップを通ってまたは耳カップの周りを、および、ユーザの耳を通って音響体積内に伝達される音の効果的な打ち消しをもたらす利得のレベルであり、第2のレベルが、耳カップが装着者の耳に結合されたとき、装着者の頭部を通って伝達される典型的な装着者の声の音のレベルに整合された利得のレベルである。
【0015】
実施態様は、以下の1つまたは複数を含むことができる。フィードフォワードマイクロホンは、外部環境に音響的に結合され、フィードフォワード能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合され、出力変換器は、フィードフォワード信号経路に電気的に結合され、信号プロセッサは、フィードフォワード信号経路のフィルタを適用し、利得を制御するように構成される。第1の動作モードでは、信号プロセッサは、周囲の音の効果的な打ち消しを達成するために、フィードバック信号経路に第1のフィードバックフィルタを適用すると共に、フィードフォワード信号経路に第1のフィードフォワードフィルタを適用するように構成され得、第2の動作モードでは、信号プロセッサは、フィードフォワード信号経路に第2のフィードフォワードフィルタを適用するように構成され得、第2のフィルタは、周囲の自然さを伴う周囲の音の能動ヒアスルーを提供するように選択される。第2のフィードバックフィルタおよび第2のフィードフォワードフィルタは、自己の自然さを伴うユーザ自身の声の能動ヒアスルーを提供するように選択され得る。フィードフォワード経路に適用される第2のフィードフォワードフィルタは、非最小位相応答であり得る。装着者の頭部を通って受動的に伝達される第1の周波数未満の典型的な装着者の声の音は、耳カップが装着者の耳に結合されたとき、増幅され得、第1の周波数よりも高い音は、耳カップがそのように結合されたとき、第1の周波数を超えて広がる周波数範囲にわたって動作するフィードバック信号経路により、減衰され得る。
【0016】
信号プロセッサは、第1の信号プロセッサであり得、フィードバック信号経路は、第1のフィードバック信号経路であり得、ヘッドホンは、装着者の第2の外耳道内の空気の体積および第2の耳カップ内の体積を含む第2の音響体積を画定するように、装着者の第2の耳に結合するように構成された第2の耳カップと、第2の音響体積に音響的に結合され、第2のフィードバック能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合された第2のフィードバックマイクロホンと、第2の耳カップ内の体積を介して第2の音響体積に音響的に結合され、第2のフィードバック能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合された第2の出力変換器と、第2のフィードバック能動騒音打ち消し信号経路のフィルタを適用し、利得を制御するように構成された第2の信号プロセッサとを含む。第2の信号プロセッサは、第2のフィードバック信号経路に第3のフィードバックフィルタを適用するように構成され得、第2のフィードバックフィルタは、第1の信号プロセッサの第1の動作モードの間、第2のフィードバック信号経路を第1の利得レベルで動作させる。第1および第2の信号プロセッサは、単一の信号処理デバイスの一部であり得る。第3のフィードバックフィルタは、第1のフィードバックフィルタと同一でなくてよい。
【0017】
一般的に、一態様では、方法は、装着者の外耳道内の空気の体積および耳カップ内の体積を含む音響体積を画定するように、装着者の耳に結合するように構成された耳カップと、外部環境に音響的に結合され、フィードフォワード能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードフォワードマイクロホンと、音響体積に音響的に結合され、フィードバック能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードバックマイクロホンと、耳カップ内の体積を介して音響体積に音響的に結合され、フィードフォワードおよびフィードバック能動騒音打ち消し信号経路の両方に電気的に結合された出力変換器と、フィードフォワードおよびフィードバック能動騒音打ち消し信号経路の両方のフィルタを適用し、利得を制御するように構成された信号プロセッサとを含む能動騒音低減ヘッドホンを構成するために説明される。方法は、少なくとも1つの周波数について、非アクティブなヘッドホンの能動騒音低減回路で比
【0018】
【数2】
【0019】
を測定するステップであって、G
cevが、ヘッドホンが装着されているときの環境騒音に対するユーザの耳の応答であり、G
oevが、ヘッドホンが存在しないときの環境騒音に対するユーザの耳の応答である、ステップと、少なくとも1つの周波数で決定された比に等しい脱感受性(desensitivity)を有するフィードバックループをもたらす大きさを有するフィードバック経路のためのフィルタK
onを選択するステップと、周囲の自然さを提供することになるフィードフォワード信号経路のためのフィルタK
htを選択するステップと、選択的なフィルタK
onおよびK
htをフィードバック経路およびフィードフォワード経路にそれぞれ適用するステップと、少なくとも1つの周波数で、アクティブなヘッドホンの能動騒音低減回路で比
【0020】
【数3】
【0021】
を測定するステップと、1からの
【0022】
【数4】
【0023】
の測定値の偏差を最小にするために、その大きさを変更することなくK
htの位相を修正するステップとを含む。
【0024】
実施態様は、以下の1つまたは複数を含むことができる。K
onおよびK
htを選択するステップ、選択されたフィルタを適用するステップ、ならびに、比
【0025】
【数5】
【0026】
を測定するステップは、周囲応答および自己音声応答の目標バランスが達成されるまで反復され得、K
htの位相は、さらに調節され得る。フィードフォワード信号経路のためのフィルタを選択するステップは、式
【0027】
【数6】
【0028】
が所定の目標値にほぼ等しくなるようにするK
htの値を選択するステップを含むことができる。
【0029】
一般的に、一態様では、能動騒音低減ヘッドホンは、装着者の外耳道内の空気の体積および耳カップ内の体積を含む音響体積を画定するように、装着者の耳に結合するように構成された耳カップと、外部環境に音響的に結合され、フィードフォワード能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードフォワードマイクロホンと、音響体積に音響的に結合され、フィードバック能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードバックマイクロホンと、入力電子オーディオ信号を受信するための、オーディオ再生信号経路に電気的に結合された信号入力と、耳カップ内の体積を介して音響体積に音響的に結合され、フィードフォワードおよびフィードバック能動騒音打ち消し信号経路、ならびにオーディオ再生信号経路に電気的に結合された出力変換器と、フィードフォワードおよびフィードバック能動騒音打ち消し信号経路の両方のフィルタを適用し、利得を制御するように構成された信号プロセッサとを含む。信号プロセッサは、周囲の音の効果的な打ち消しを提供する第1の動作モードの間、フィードフォワード信号経路に第1のフィードフォワードフィルタを適用し、フィードバック信号経路に第1のフィードバックフィルタを適用し、周囲の自然さを伴う周囲の音の能動ヒアスルーを提供する第2の動作モードの間、フィードフォワード信号経路に第2のフィードフォワードフィルタを適用し、第1および第2の動作モードの両方の間、オーディオ再生信号経路を介して出力変換器に入力電子オーディオ信号を提供するように構成される。
【0030】
実施態様は、以下の1つまたは複数を含むことができる。第1の動作モードの間のヘッドホン内に存在する外部騒音による耳の残留音は、第2の動作モードの間のヘッドホン内に存在する同じ外部騒音による耳の残留音よりも12dBA低くあり得る。入力オーディオ信号を再生する際のヘッドホンの合計オーディオレベルは、第1および第2の動作モードの両方で同じであり得る。ヘッドホンの周波数応答は、第1および第2の動作モードの両方で同じであり得、信号プロセッサは、第1の動作モードと第2の動作モードとの間でオーディオ再生信号経路に適用される利得を変化させるように構成され得る。信号プロセッサは、第1の動作モードの間にオーディオ再生信号経路に適用される利得に対して、第2の動作モードの間にオーディオ再生信号経路に適用される利得を減少させるように構成され得る。信号プロセッサは、第1の動作モードの間にオーディオ再生信号経路に適用される利得に対して、第2の動作モードの間にオーディオ再生信号経路に適用される利得を増加させるように構成され得る。
【0031】
ヘッドホンは、ユーザ入力を含むことができ、信号プロセッサは、周囲の自然さを伴う周囲の音の能動ヒアスルーを提供する第3の動作モードの間、フィードフォワード信号経路に第2のフィードフォワードフィルタを適用し、第3の動作モードの間、オーディオ再生信号経路を介して出力変換器に入力電子オーディオ信号を提供せず、第1の動作モードの間、ユーザ入力から信号を受信することに応じて、第2の動作モードまたは第3の動作モードのうちの選択されたものに移行するように構成される。第2の動作モードまたは第3の動作モードのいずれに移行するかの選択は、信号がユーザ入力から受信された期間に基づくことができる。第2の動作モードまたは第3の動作モードのいずれに移行するかの選択は、ヘッドホンの所定の構成設定に基づくことができる。ヘッドホンの所定の構成設定は、スイッチの位置によって決定され得る。ヘッドホンの所定の構成設定は、コンピューティングデバイスからヘッドホンによって受信される命令によって決定され得る。信号プロセッサは、第3の動作モードに入るのに応じて、メディアソースの再生を一時停止するために、入力電子オーディオ信号のソースにコマンドを送信することによって、入力電子オーディオ信号を提供するのを停止するように構成され得る。
【0032】
オーディオ再生信号経路および出力変換器は、信号プロセッサに電力が印加されていないとき、動作可能であり得る。信号プロセッサは、また、信号プロセッサのアクティブ化時に、出力変換器からオーディオ再生信号経路を切断し、遅延後に、信号プロセッサによって適用されるフィルタを介して出力変換器にオーディオ再生信号経路を再接続するように構成され得る。信号プロセッサは、また、信号プロセッサのアクティブ化時に、最初に出力変換器へのオーディオ再生信号経路を維持し、遅延後に、出力変換器からオーディオ再生信号経路を切断し、同時に、信号プロセッサによって適用されるフィルタを介して出力変換器にオーディオ再生信号経路を接続するように構成され得る。信号プロセッサがアクティブではないとき、入力オーディオ信号を再生する際のヘッドホンの合計のオーディオ応答は、第1の応答によって特徴付けられ、信号プロセッサは、遅延後に、第1の応答と同じままであるように、入力オーディオ信号を再生する際のヘッドホンの合計のオーディオ応答をもたらす第1の等化フィルタを適用し、第2の遅延後に、第1の応答とは異なる合計のオーディオ応答をもたらす第2の等化フィルタを適用するように構成され得る。
【0033】
一般的に、一態様では、能動騒音低減ヘッドホンは、能動騒音打ち消しモードおよび能動ヒアスルーモードを有し、ヘッドホンは、ヘッドホンのハウジングにタッチするユーザの検出に基づいて、能動騒音打ち消しモードと能動ヒアスルーモードとの間で切り替わる。一般的に、別の態様では、能動騒音低減ヘッドホンは、能動騒音打ち消しモードおよび能動ヒアスルーモードを有し、ヘッドホンは、外部デバイスから受信されたコマンド信号に基づいて、能動騒音打ち消しモードと能動ヒアスルーモードとの間で切り替わる。
【0034】
実施態様は、以下の1つまたは複数を含むことができる。光検出器は、コマンド信号を受信するために使用され得る。無線周波数受信機は、コマンド信号を受信するために使用され得る。コマンド信号は、オーディオ信号を含むことができる。ヘッドホンは、ヘッドホンに組み込まれたマイクロホンを介してコマンド信号を受信するように構成され得る。ヘッドホンは、入力電子オーディオ信号を受信するためのヘッドホンの信号入力を介してコマンド信号を受信するように構成され得る。
【0035】
一般的に、一態様では、能動騒音低減ヘッドホンは、装着者の外耳道内の空気の体積および耳カップ内の体積を含む音響体積を画定するように、装着者の耳に結合するように構成された耳カップと、外部環境に音響的に結合され、フィードフォワード能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードフォワードマイクロホンと、音響体積に音響的に結合され、フィードバック能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードバックマイクロホンと、耳カップ内の体積を介して音響体積に音響的に結合され、フィードフォワードおよびフィードバック能動騒音打ち消し信号経路の両方に電気的に結合された出力変換器と、フィードフォワードおよびフィードバック能動騒音打ち消し信号経路の両方のフィルタを適用し、利得を制御するように構成された信号プロセッサとを含む。信号プロセッサは、ヘッドホンを、周囲の音の効果的な打ち消しを提供する第1の動作モード、および、周囲の音の能動ヒアスルーを提供する第2のモードで動作し、フィードフォワードマイクロホンおよびフィードバックマイクロホンからの信号の比較に基づいて、第1および第2の動作モードの間で切り替えるように構成され得る。
【0036】
実施態様は、以下の1つまたは複数を含むことができる。信号プロセッサは、フィードフォワードマイクロホンおよびフィードバックマイクロホンからの信号の比較が、ヘッドホンのユーザが話していることを示すとき、第1の動作モードから第2の動作モードに変更するように構成され得る。信号プロセッサは、さらに、フィードフォワードマイクロホンおよびフィードバックマイクロホンからの信号の比較が、ヘッドホンのユーザが話していることをもはや示さない所定の時間の後、第2の動作モードから第1の動作モードに変更するように構成され得る。信号プロセッサは、閉塞効果によって増幅された人間の声の一部と一致する周波数帯域内で、フィードバックマイクロホンからの信号が、フィードフォワードマイクロホンからの信号と相関し、ユーザが話していることを示すしきい値レベルよりも上であるとき、第1の動作モードから第2の動作モードに変更するように構成され得る。
【0037】
一般的に、一態様では、能動騒音低減ヘッドホンは、能動騒音打ち消しモードおよび能動ヒアスルーモードを有し、ヘッドホンが能動ヒアスルーモードにあるときにアクティブ化されるインジケータを含み、インジケータは、ヘッドホンの前面からのみ見ることができる限定された視野角にわたって可視である。一般的に、別の態様では、能動騒音低減ヘッドホンは、装着者の外耳道内の空気の体積および耳カップ内の体積を含む音響体積を画定するように、装着者の耳に結合するように構成された耳カップと、外部環境に音響的に結合され、フィードフォワード能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードフォワードマイクロホンと、音響体積に音響的に結合され、フィードバック能動騒音打ち消し信号経路に電気的に結合されたフィードバックマイクロホンと、耳カップ内の体積を介して音響体積に音響的に結合され、フィードフォワードおよびフィードバック能動騒音打ち消し信号経路の両方に電気的に結合された出力変換器と、フィードフォワードおよびフィードバック能動騒音打ち消し信号経路の両方のフィルタを適用し、利得を制御するように構成された信号プロセッサとを含む。信号プロセッサは、ヘッドホンを、周囲の音の効果的な打ち消しを提供する第1の動作モード、および、周囲の音の能動ヒアスルーを提供する第2の動作モードで動作するように構成される。第2の動作モードの間、信号プロセッサは、フィードフォワードマイクロホンへの出力変換器の異常に高い音響結合を示すしきい値を超えるフィードフォワード能動騒音打ち消し信号経路内の高周波信号を検出し、検出に応答して、フィードフォワード信号経路に圧縮リミッタを適用し、高周波信号がしきい値よりも上のレベルでもはや検出されなかったら、フィードフォワード信号経路から圧縮リミッタを除去するように構成される。
【0038】
一般的に、一態様では、能動騒音低減ヘッドホンは、能動騒音打ち消しモードおよび能動ヒアスルーモードを有し、右フィードフォワードマイクロホンと、左フィードフォワードマイクロホンと、右および左フィードフォワードマイクロホンからの信号を外部デバイスに提供するための信号出力とを含む。一般的に、別の態様では、バイノーラルテレプレゼンス(binaural telepresence)を提供するためのシステムは、第1の通信デバイスと、能動騒音打ち消しモードおよび能動ヒアスルーモードを有し、第1の通信デバイスに結合され、第1の通信デバイスに第1の左および右フィードフォワードマイクロホン信号を提供するように構成された能動騒音低減ヘッドホンの第1のセットと、第1の通信デバイスから信号を受信することができる第2の通信デバイスと、能動騒音打ち消しモードを有し、第2の通信デバイスに結合された能動騒音低減ヘッドホンの第2のセットとを含む。第1の通信デバイスは、第2の通信デバイスに第1の左および右フィードフォワードマイクロホン信号を送信するように構成される。第2の通信デバイスは、ヘッドホンの第2のセットに第1の左および右フィードフォワードマイクロホン信号を提供するように構成される。ヘッドホンの第2のセットは、ヘッドホンの第2のセットのユーザがヘッドホンの第1のセットの環境からの周囲の騒音を聞くように、第1の左および右フィードフォワードマイクロホン信号を再生している間、それらの騒音打ち消しモードをアクティブにし、ヘッドホンの第2のセットのユーザが周囲の自然さを伴ってヘッドホンの第1のセットからの周囲の騒音を聞くように、第1の左および右フィードフォワードマイクロホン信号をフィルタリングするように構成される。
【0039】
実施態様は、以下の1つまたは複数を含むことができる。ヘッドホンの第2のセットは、第1の動作モードで、ヘッドホンの第2のセットの左耳カップに第1の右フィードフォワードマイクロホン信号を提供し、ヘッドホンの第2のセットの右耳カップに第1の左フィードフォワードマイクロホン信号を提供するように構成され得る。ヘッドホンの第2のセットは、第2の動作モードで、ヘッドホンの第2のセットの右耳カップに第1の右フィードフォワードマイクロホン信号を提供し、ヘッドホンの第2のセットの左耳カップに第1の左フィードフォワードマイクロホン信号を提供するように構成され得る。第1および第2の通信デバイスは、また、それらのユーザの間の視覚的通信を提供するように構成され得、ヘッドホンの第2のセットは、視覚的通信がアクティブであるとき、第1の動作モードで動作し、視覚的通信がアクティブではないとき、第2の動作モードで動作するように構成され得る。第1の通信デバイスは、第1の左および右フィードフォワードマイクロホン信号を記録するように構成され得る。ヘッドホンの第2のセットは、能動ヒアスルーモードを有することができ、第2の通信デバイスに第2の左および右フィードフォワードマイクロホン信号を提供するように構成され得、第2の通信デバイスは、第1の通信デバイスに第2の左および右フィードフォワードマイクロホン信号を送信するように構成され、第1の通信デバイスは、ヘッドホンの第1のセットに第2の左および右フィードフォワードマイクロホン信号を提供するように構成され、ヘッドホンの第1のセットは、ヘッドホンの第1のセットのユーザがヘッドホンの第2のセットの環境の周囲の騒音を聞くように、第2の左および右フィードフォワードマイクロホン信号を再生している間、それらの騒音打ち消しモードをアクティブにし、ヘッドホンの第1のセットのユーザが周囲の自然さを伴ってヘッドホンの第2のセットからの周囲の騒音を聞くように、第2の左および右フィードフォワードマイクロホン信号をフィルタリングするように構成される。第1および第2の通信デバイスは、ヘッドホンの両方のセットのユーザが、ヘッドホンの第1および第2のセットのうちの選択された一方の環境の周囲の騒音を聞くように、ヘッドホンの選択されたセットからのフィードフォワードマイクロホン信号を再生している間、ヘッドホンの第1および第2のセットのうちの選択された一方をその能動ヒアスルーモードにし、ヘッドホンの他方のセットをその騒音打ち消しモードにすることによって、ヘッドホンの第1および第2のセットの動作モードを調整するように構成され得る。
【0040】
利点は、ヘッドホンでの周囲および自己の自然さを提供することと、ユーザが能動ヒアスルーモードの間にオーディオコンテンツを楽しむことと、ヘッドホンの閉塞効果を低減することと、バイノーラルテレプレゼンスを提供することとを含む。
【0041】
他の特徴および利点は、明細書本文および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0043】
典型的な能動騒音低減(ANR)ヘッドホンシステム10が
図1に示される。単一のイヤホン100が示され、大部分のシステムは、一対のイヤホンを含む。耳カップ102は、出力変換器またはスピーカ104と、システムマイクロホンとも呼ばれるフィードバックマイクロホン106と、フィードフォワードマイクロホン108とを含む。スピーカ104は、耳カップを前方体積110および後方体積112に分割する。システムマイクロホン106は、典型的には、前方体積110内に設置され、前方体積110は、クッション114によってユーザの耳に結合される。ANRヘッドホン内の前方体積の構成の態様は、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第6,597,792号に記載されている。いくつかの例では、後方体積112は、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第6,831,984号に記載のように、1つまたは複数のポート116によって外部環境に結合される。フィードフォワードマイクロホン108は、耳カップ102の外側に収容され、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許出願第2011/0044465号に記載のように囲まれ得る。いくつかの例では、複数のフィードフォワードマイクロホンが使用され、それらの信号は、組み合わされ、または別々に使用される。本明細書では、フィードフォワードマイクロホンへの参照は、複数のフィードフォワードマイクロホンを用いる設計を含む。
【0044】
マイクロホンおよびスピーカは、すべてANR回路118に結合される。ANR回路は、通信マイクロホン120またはオーディオソース122から追加の入力を受けることができる。例えば、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第8,073,150号に記載のデジタルANR回路の場合には、ANR回路のためのソフトウェアまたは構成パラメータは、記憶装置124から取得され得る。ANRシステムは、電源126によって給電され得、電源126は、例えば、バッテリ、オーディオソース122の一部、または通信システムであり得る。いくつかの例では、ANR回路118、記憶装置124、電源126、外部マイクロホン120、およびオーディオソース122のうちの1つまたは複数は、耳カップ102内に設置され、もしくは耳カップ102に取り付けられ、または、2つのイヤホン100が設けられているとき、2つの耳カップの間で分割される。いくつかの例では、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第7,412,070号に記載のように、ANR回路のようないくつかの構成要素は、イヤホン間で重複され、電源のような他の構成要素は、1つのイヤホンにのみ設置される。ANRヘッドホンシステムによって打ち消されるべき外部騒音は、音響騒音源128として表される。
【0045】
フィードバックANR回路およびフィードフォワードANR回路の両方が同じヘッドホンに設けられているとき、それらは、一般的に、異なるが相補的な周波数範囲にわたって動作するように調整される。フィードバックまたはフィードフォワード騒音打ち消し経路が動作する周波数範囲を説明するとき、周囲の騒音が低減される範囲を指し、この範囲外では、騒音は、変更されず、または、わずかに増幅され得る。それらの動作範囲が重なる場合、打ち消しが他の場所よりも大きい範囲を作成することを回避するために、回路の減衰は、意図的に低減され得る。すなわち、ANRヘッドセットの減衰は、すべての周波数で安定的または基本的な音響的制限内で減衰を単純に最大化することによって達成されるよりも均一な応答を適用するために、異なる周波数範囲で変更され得る。理想的には、フィードバック経路と、フィードフォワード経路と、ヘッドホンの受動的な減衰との間で、均一な量のノイズ低減が、可聴範囲全体にわたって提供される。そのようなシステムを、周囲の音の効果的な打ち消しを提供するものと呼ぶ。以下に説明する能動ヒアスルー機能を提供するために、フィードバック経路は、少なくとも500Hzよりも上の高周波クロスオーバ周波数(減衰が0dB未満に低下する)を有することが好ましい。フィードフォワードループは、一般に、フィードバック経路よりも高い周波数範囲に及んで動作することになる。
【0046】
この用途は、能動騒音低減システムの洗練された操作を通じて達成されるヒアスルーの改善に関係する。異なるヒアスルートポロジが、
図2A〜
図2Cに示されている。
図2Aに示す単純なバージョンでは、ANR回路は、オフにされ、周囲の音200が耳カップを通ってまたは耳カップの周囲を通過することを可能にし、受動的なモニタリングを提供する。
図2Bに示すバージョンでは、直接トークスルー機能は、上記で論じたように、耳カップの内側で周囲の音を直接再生するために、ANR回路またはなにか他の回路によって内部スピーカ104に結合された外部マイクロホン120を使用する。ANRシステムのフィードバック部分は、変更されないままであり、トークスルーマイクロホン信号を、再生されるべき、またはオフにされるべき通常のオーディオ信号として処理する。トークスルー信号は、一般的に、音声帯域に帯域制限される。この理由のため、直接トークスルーシステムは、ユーザが電話を介して自分の周囲の環境を聞いているかのように、人工的に聞こえる傾向がある。いくつかの例では、フィードフォワードマイクロホンは、トークスルーマイクロホンとして二重の役目を果たし、それが検出する音は、打ち消されず、再生される。
【0047】
ユーザが環境の周囲の音の一部またはすべてを聞くことができるように、ヘッドセットの能動騒音打ち消しパラメータを変化させる機能を説明するために、能動ヒアスルーを定義する。能動ヒアスルーの目標は、ユーザがヘッドセットをまったく装着していないかのように、ユーザが環境を聞くようにすることである。すなわち、
図2Bのような直接トークスルーは、人工的に聞こえる傾向があり、
図2Aのような受動的モニタリングは、周囲の音をヘッドセットの受動的な減衰によって濁らせたままにするが、能動ヒアスルーは、周囲の音が完全に自然に聞こえるようにすることを目指す。
【0048】
能動ヒアスルー(HT:hear-through)は、
図2Cに示すように、周囲の音を検出するために1つまたは複数のフィードフォワードマイクロホン108(1つのみを示す)を使用し、制御された量の周囲の音200が、さもなければ適用されることになるよりも、すなわち、通常のノイズ打ち消し(NC:noise cancelling)動作よりも少ない打ち消しで耳カップ102を通過することを可能にするために、少なくともフィードフォワード騒音打ち消しループのためのANRフィルタを調節することによって提供される。問題の周囲の音は、すべての周囲の音、ちょうど他者の声、または装着者自身の声を含むことができる。
【0049】
[周囲の音の自然なヒアスルー]
「周囲の自然さ」と呼ぶ周囲の音の自然なヒアスルーを提供することは、能動騒音打ち消しフィルタの変更によって達成される。フィードバックおよびフィードフォワード騒音打ち消し回路の両方を有するシステムでは、打ち消し回路のいずれかまたは両方は、変更され得る。本明細書に組み込まれている、米国特許第8,155,334号で説明されているように、デジタル信号プロセッサによって実現されるフィードフォワードフィルタは、周囲の騒音のすべてまたはサブセットを完全には打ち消さないことによって、トークスルーを提供するために変更され得る。その出願の例では、フィードフォワードフィルタは、人間の音声帯域内の音を、フィードフォワードフィルタがその帯域外の音を減衰するよりも少なく減衰するように変更される。その出願は、デジタルフィルタの代替として、完全な減衰のための1つ、および音声帯域の低減した減衰のための1つの並列のアナログフィルタを設けることも示唆している。
【0050】
通過を許可された音をより自然に聞こえるようにするために、受動的減衰から生じる音の変化を補償し、オーディオ周波数の全範囲にわたって自然なヒアスルーを提供し、フィードフォワードフィルタは、より洗練された方法で変更され得る。
図3は、
図2Cのような例で使用されるANR回路、および関連する構成要素のブロック図を示す。システム内の様々な地点の間を移動する音に対する様々な構成要素の効果を、応答または伝達関数と呼ぶ。対象のいくつかの応答は、以下のように定義される。
a)G
oea:ヘッドホンなしの騒音から耳への応答
b)G
pfb:ヘッドホンを介する、フィードバックANRアクティブでの騒音から耳への応答
c)G
nx:騒音から外部(フィードフォワード)マイクロホンへの応答
d)G
ffe:フィードバックフィルタの出力およびそれに加算された任意の信号の、ドライバ104を介する、耳への、フィードバックANRアクティブでの応答
【0051】
ANR回路の様々な電子信号経路は、経路の利得と呼ぶことができる以下のフィルタを適用する。
a)K
fb:フィードバック補償フィルタの利得
b)K
ff:フィードフォワード補償フィルタの利得
c)K
ht:能動ヒアスルーフィルタの利得(
図3では、K
ffおよびK
htは、交互に同じ経路に適用される)
目標ヒアスルー挿入利得、すなわち、システム全体が周囲の音をどのくらいフィルタリングすべきかを、T
htigとして定義する。T
htig=1(0dB)の場合、ユーザは、ユーザがヘッドホンを装着していない場合と同じように、ユーザの周囲の世界を聞くであろう。実際には、0dB以外の目標値が、しばしば望まれる。例えば、100Hz未満のような低い周波数での打ち消しは、そのような音が不快であり、有用な情報を含まない傾向にあるので、能動ヒアスルーモードの間、依然として有用である。しかしながら、少なくとも300Hz〜3kHzの範囲をカバーするように広がるT
htig通過帯域は、ユーザの周囲の人々の声が明瞭に理解可能であるために必要である。好ましくは、通過帯域は、自然さの感覚に近づくために、140Hzから5kHzまで広がる。通過帯域は、能動ヒアスルーモードで自然さの認識を改善するように成形され得る。例えば、穏やかな高周波ロールオフは、ヘッドホンの存在によって引き起こされる空間聴力のひずみを補償することができる。最終的に、フィルタは、滑らかで区分的線形である全システム応答を提供するように設計されるべきである。「滑らかで区分的線形」によって、dB/log周波数スケールでのシステム応答のプロットの全体的な形状を指している。
【0052】
これらの要因を組み合わせると、ヘッドホンを装着しているときの周囲の騒音に対する耳での全応答は、G
pfb+G
nx*K
ht*G
ffeである。所望の応答は、G
oea*T
htigである。すなわち、受動的なフィードバック応答G
pfbと実際のヒアスルー応答G
nx*K
ht*G
ffeとの組み合わせは、裸耳応答G
oeaに適用された目標ヒアスルー挿入利得T
htigのように聞こえるであろう。システムは、式
【0054】
に基づいて、実際のシステム応答を目標にできるだけ近づけるために、様々な実際の応答(G
xx項)を測定し、実現可能の範囲内でフィルタK
htを定義することによって、所望の応答を届けるように調整される。式(1)をK
htについて解くことは、
【0057】
所望のT
htigを最適に達成するために、フィードフォワード信号経路で実施されるフィルタK
htは、非最小位相であり得、すなわち、右半面にゼロを有することができる。これは、例えば、加熱および冷却システムにより多くの建物に存在する周囲の鳴動(rumble)を打ち消しながら、能動ヒアスルーが人間の声を通過させることを可能にすることができる。そのような組み合わせは、T
htigが能動ヒアスルー通過帯域でのみ0dBに近づくように、K
htを設計することによって提供される。能動ヒアスルー通過帯域外では、K
htは、T
htigが、著しい減衰をもたらすフィードフォワードフィルタ(すなわち、通常のK
ff)によって達成される挿入利得(実際には挿入損失である)に近づき、理想的には等しくなるように設計される。実効減衰(K
ff)および能動ヒアスルー(K
ht)のために必要なフィードフォワードフィルタの符号は、一般的には、ヒアスルー通過帯域で逆である。通過帯域の低周波数端でロールオフし、効果的なK
ff応答に遷移するK
htを設計することは、その遷移の近傍に少なくとも1つの右半面のゼロを含むことによって達成され得る。
【0058】
全体で、フィードバックループK
fbを維持しながらフィードフォワードフィルタK
ffを能動ヒアスルーフィルタK
htと交換することは、ヘッドホンが存在しなかった場合と同じに聞こえる耳での自然な体験を作成するために、ANRシステムがヘッドホンを介して能動音響経路と結合することを可能にする。K
htが外の世界の意図される音を伝えることを可能にするために、フィードバックループは、ヘッドホンを介する能動音響経路と組み合わせて、対象のすべての周波数で少なくとも8dBの減衰を提供すべきである。すなわち、フィードバックループがアクティブであるが、フィードフォワード経路がアクティブではないときに耳に聞こえる騒音レベルは、ヘッドホンがまったく装着されていないときの耳での騒音レベルよりも少なくとも8dB低くあるべきである(「8dB低い」は、レベルの比を指し、なにか外部のスケールでのデシベル数を指さないことに留意されたい)。G
pfbが-8dB以下であるとき、それが実際のヒアスルー挿入利得に対して有する効果は、所望のT
htig=0dBのとき、3dB未満の誤差である。フィードバックループがより高い利得が可能であるか、受動的減衰がより大きい場合、減衰は、非常により大きい可能性がある。いくつかの場合でこの自然さを達成するために、以下に論じるように、フィードバックループの利得K
fbをその最大能力から低下させることが望ましい可能性もある。
【0059】
通常のANRモードと能動ヒアスルーモデルとの間の耳での全体的な騒音低減における差は、少なくとも12dBAであるべきである。これは、静かな背景音楽での能動ヒアスルーモードから騒音低減への切り替えが劇的な変化をもたらす、周囲の騒音レベルの十分な変化を提供する。これは、モードを切り替えたときの音楽マスカ(masker)の存在下での周囲の騒音の知覚されるラウドネスの急速な低下のためである。ヒアスルーモードでの背景の静かである音楽は、ヒアスルーモードと騒音低減モードとの間に少なくとも12dBAの騒音低減変化が存在する限り、騒音を騒音低減モードで実質的に聞こえなくすることができる。
【0060】
いくつかの例では、参照により本明細書に含まれている、米国特許第8,184,822号に記載のもののようなデジタル信号プロセッサは、有利には、フィードバックループの出力を、フィードフォワードマイクロホンを通る経路と加算し、K
htが、典型的には数100マイクロ秒の、オーディオ品質のADC/DACの組み合わせの典型的な待機時間を有する場合、結果として生じる可能性があるコーミング(combing)(合成信号における深いヌル)を回避する。好ましくは、システムは、コーミングからの第1の潜在的ヌル(2kHzで250μsの待機時間を有することになる)が、典型的には約1kHzであるG
pfdでの典型的な最小挿入損失周波数の少なくとも1オクターブ上であるように、250μs未満の待機時間を有するDSPを使用して実施される。引用した特許に記載の構成可能プロセッサは、また、フィードフォワードフィルタK
ffに対する能動ヒアスルーフィルタK
htの容易な置換を可能にする。
【0061】
周囲の自然さが達成されると、2つ以上のフィードフォワードフィルタK
htの間で選択し、異なる全応答特性を提供することによって、追加の機能が提供され得る。例えば、1つのフィルタは、大きい低周波音が会話をマスクする傾向にあり、したがって、その周波数でのいくらかの打ち消しが維持されるべきであるが、音声帯域信号ができるだけ自然に通過されるべきである航空機でのヒアスルーを提供するために好ましい可能性がある。別のフィルタは、ユーザが、通りを歩いているときに状況認識を提供するような、環境音を正確に聞くことを望む、またはその必要がある、一般的により静かな環境で好ましい可能性がある。能動ヒアスルーモードの間で選択することは、ヘッドセットと対のスマートフォンのボタン、スイッチ、またはアプリケーションのようなユーザインターフェースを使用して行われ得る。いくつかの例では、ヒアスルーモードを選択するためのユーザインターフェースは、音量制御であり、異なるヒアスルーフィルタは、ユーザによって選択された音量設定に基づいて選択される。
【0062】
ヒアスルーフィルタの選択は、また、周囲の騒音スペクトルまたはレベルに応じて、自動であり得る。例えば、周囲の騒音が全体的に静かである、または全体的に広域スペクトルである場合、広域スペクトルヒアスルーフィルタが選択され得るが、周囲の騒音が、航空機エンジンまたは地下鉄の轟音のもののような、特定の周波数範囲で高い信号成分を有する場合、その範囲は、周囲の自然さを提供することを求めることになるよりも打ち消され得る。フィルタは、また、低減した音量レベルで広域スペクトルヒアスルーを提供するために選択され得る。例えば、T
htig=0.5を設定することは、広い周波数範囲にわたって6dBの挿入損失をもたらすことになる。ヒアスルーフィルタを自動的に選択するために使用される周囲の音の測定は、周期的または連続的に更新され得るスペクトルまたはレベルの時間平均測定であり得る。代替的に、測定は、ユーザがヒアスルーモードをアクティブにしたときに瞬時に行われてよく、または、ユーザが選択を行う直前もしくは直後のサンプル時間の時間平均が使用され得る。
【0063】
能動ヒアスルーフィルタの自動的に選択されるセットの1つの使用例は、産業用の聴覚保護である。20dBの減衰を加える、受動的な減衰に加えてフィードバックおよびフィードフォワード能動騒音低減を有するヘッドホンは、産業騒音環境の大多数をカバーする105dBAほど高い騒音レベルで、聴覚を許容される基準に保護するために使用され得る(すなわち、105dBAから85dBAまで20dBの騒音を低減する)。しかしながら、騒音レベルが時間とともに、または場所で変化する産業環境では、労働者間のコミュニケーションを妨げるので、比較的静かなとき(例えば、70dBA未満)、完全な20dBの減衰を望まない。マルチモード能動ヒアスルーヘッドホンは、動的騒音低減聴覚プロテクタとして機能することができる。そのようなデバイスは、フィードフォワードマイクロホンで周囲のレベルを監視し、レベルが70dBA未満の場合、T
htig=0dBを作成するフィードフォワード経路にフィルタK
htを適用する。騒音レベルが70dBAより上に増加すると、ヘッドホンは、これを検出し、挿入利得を徐々に減少させるために、(ルックアップテーブルからのような)K
htフィルタパラメータのいくつかのセットを通って進む。好ましくは、ヘッドホンは、適用するフィルタの多くの可能なセットを有することになり、周囲のレベルの検出は、長時定数で行われる。可聴効果は、音声および騒音の短期ダイナミクス(short-term dynamics)を通過させながら、ユーザの周囲の実際の騒音レベルでの70から105dBAへの遅い増加を、70から85dBAのみへの知覚される増加に圧縮することになる。
【0064】
上記の図面および説明は、単一の耳カップを考慮している。一般的には、能動騒音低減ヘッドホンは、2つの耳カップを有する。いくつかの例では、同じヒアスルーフィルタが、両方の耳カップに適用されるが、他の例では、異なるフィルタが適用され得、または、ヒアスルーフィルタK
htが1つの耳カップのみに適用され、フィードフォワード打ち消しフィルタK
ffが、他方の耳カップで維持される。これは、いくつかの例で有利であり得る。ヘッドホンが、他の車両またはコントロールセンタとの通信のために使用されるパイロットのヘッドセットである場合、1つの耳カップのみでヒアスルーをオンにすることは、他方の耳カップで騒音打ち消しをアクティブに保つことによって、通信信号または警告への意識を維持しながら、パイロットがヘッドセットを装着していない乗組員と話すことを可能にすることができる。
【0065】
能動ヒアスルー性能は、各耳カップのフィードフォワードマイクロホン信号が他方の耳カップと共有され、フィルタK
xoの別のセットを使用する各々の反対の耳カップの信号経路に挿入される場合、強化され得る。これは、ヒアスルー信号に方向性を提供することができ、したがって、装着者は、自分の環境での音源をよりよく決定することができる。そのような改善は、また、拡散する周囲の騒音と比較して、装着者の前で軸上の人の声の知覚される相対レベルを増加させることができる。クロスオーバフィードフォワード信号を提供することができるシステムは、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許出願公開第2010/0272280号に記載されている。
【0066】
ANRおよびヒアスルーの両方を提供するために能動騒音打ち消し技術を使用することに加えて、能動ヒアスルーシステムは、ヒアスルーモードの間、フィードフォワード信号経路に単一チャネル騒音低減フィルタを含むこともできる。そのようなフィルタは、ヒアスルー信号をクリーンアップすることができ、例えば、音声の明瞭度を改善する。そのようなチャネル内騒音低減フィルタは、通信ヘッドセットで使用するためによく知られている。最高の性能のために、そのようなフィルタは、上記で説明した待機時間制約内で実施されるべきである。
【0067】
フィードフォワードマイクロホンが周囲の音の能動ヒアスルーを提供するために使用されるとき、マイクロホンを、風騒音、すなわち、マイクロホンを通り越して急速に移動する空気によって引き起こされる騒音に対して保護することが有益であり得る。航空機でのような屋内で使用されるヘッドセットは、一般的に、風騒音保護を必要としないが、屋外で使用され得るヘッドセットは、影響を受けやすい可能性がある。
図7に抽象的に示すように、風騒音からフィードフォワードマイクロホン108を保護する効果的な方法は、マイクロホンの上にスクリーン302を設け、スクリーンとマイクロホンとの間にいくらかの距離を設けることである。具体的には、スクリーンとマイクロホンとの間の距離は、少なくとも1.5mmであるべきであり、スクリーン302によって覆われる耳カップの外殻304の開口部は、できるだけ大きくなければならない。インイヤヘッドホン内のそのような構成要素にフィットする実際的な考慮点を考えると、スクリーン面積は、少なくとも10mm
2であるべきであり、好ましくは20mm
2以上であるべきである。スクリーンと、マイクロホン108の周囲の空洞308の側壁306とによって囲まれる総容積は、重要ではなく、したがって、マイクロホンの周囲の空間は、マイクロホンを頂点とする円錐形であり得、円錐の角度は、他のパッケージングの制約が許す限り大きいスクリーン面積を提供するように選択される。スクリーンは、いくらかのかなりの音響抵抗を有するであろうが、マイクロホンの感度を無駄に低レベルに低下させるほどは大きくない。20〜260レイリー(MKS)の特定の音響抵抗を有する音響抵抗性の布は、有効であることが見出されている。そのような保護は、ヘッドホンが風の強い環境で使用される場合、風騒音がフィードフォワード打ち消し経路を飽和するのを防止することによって、一般的な騒音低減のためにも同様に価値がある可能性もある。
【0068】
[ユーザの声の自然なヒアスルー]
人が自分自身の声を自然に聞こえるように聞くとき、これを「自己の自然さ」と呼ぶ。上記のように、周囲の自然さは、フィードフォワードフィルタの変更によって達成される。自己の自然さは、フィードフォワードフィルタおよびフィードバックシステムを変更することによって、提供されるが、変更は、周囲の自然さが単独で所望されるときに使用されるものと必ずしも同じではない。一般的には、能動ヒアスルーで周囲の自然さおよび自己の自然さを同時に達成することは、フィードフォワードおよびフィードバックフィルタの両方を変更することを必要とする。
【0069】
図4に示すように、人は、一般的に、3つの音響経路を介して自分自身の声を聞く。第1の経路402は、鼓膜410に到達するために、口404から耳406までの頭部400の周囲の空気を通って、外耳道408内になる。第2の経路412では、音響エネルギーは、首および頭部の軟組織414を通って、咽頭416から外耳道408に移動する。音は、次いで、外耳道壁の振動を介して外耳道内部の空気体積に入り、鼓膜410に到達するために第1の経路に結合するが、また、外耳道開口部を通って頭部の外の空気内に逃げる。最後に、第3の経路420では、音は、咽頭416から軟組織414を通って、ならびに、咽喉を中耳422に接続する耳管を通って移動し、中耳422および内耳424に直接進み、外耳道をバイパスして、最初の2つの経路から鼓膜を通って来る音に結合する。異なるレベルの信号を提供することに加えて、3つの経路は、ユーザが自分自身の声として聞くものの異なる周波数成分に寄与する。外耳道への軟組織を通る第2の経路412は、1.5kHz未満の周波数での支配的な身体伝導経路であり、人間の声の最も低い周波数では、空気伝導回路と同じくらい重要であり得る。1.5kHzより上では、中耳および内耳に直接的な第3の経路420が支配的である。
【0070】
ヘッドホンを装着しているとき、第1の経路402は、ある程度遮断されるので、ユーザは、自分自身の声のその部分を聞くことができず、内耳に到達する信号の混合物を変化させる。第1の経路の損失のため、内耳に到達する全音エネルギーのより多くの割合を提供する第2の経路からの寄与に加えて、第2の経路自体は、耳が塞がれたとき、より効率的になる。耳が開いているとき、第2の経路を通って外耳道に入る音は、外耳道の開口部を通って外耳道を出ることができる。外耳道開口部を塞ぐことは、外耳道の空気への外耳道壁の振動の結合の効率を改善し、これは、外耳道内の気圧変動の振幅を増加させ、次いで、鼓膜への圧力を上昇させる。これは、一般的に、閉塞効果と呼ばれ、男性の声の基本周波数の音を20〜25dBも増幅させる可能性がある。これらの変化の結果として、ユーザは、自分の声を、過剰に強調されたより低い周波数と、不十分に強調されたより高い周波数とを有するように知覚する。声の音をより低くするのに加えて、人間の声からのより高い周波数の音の除去は、声をあまり明瞭でなくすることにもなる。自分自身の声のユーザの知覚のこの変化は、ユーザの声の空気伝導部分を導くようにフィードフォワードフィルタを変更し、閉塞効果を打ち消すようにフィードバックフィルタを変更することによって対処され得る。上記で論じた周囲の自然さのためのフィードフォワードフィルタへの変更は、一般的に、閉塞効果が低減され得る場合、同様に自己の自然さを提供するのに十分である。閉塞効果を低減することは、自己の自然さを超えた利益を有することができ、以下でより詳細に論じる。
【0071】
[閉塞効果の低減]
閉塞効果は、ヘッドホンがちょうど覆われているとき、すなわち、外耳道への入口を直接塞ぐが、外耳道内に大きく突き出ないヘッドホンによって特に強い。より大きい体積の耳カップは、音が外耳道を逃れて消散するためのより大きい空間を提供し、ディープカナルイヤホンは、そもそも音の一部が軟組織から外耳道内に通過するのを妨げる。ヘッドホンまたはイヤプラグが、筋肉および軟骨を過ぎて頭蓋の骨の上の皮膚が非常に薄い場所まで外耳道内に十分に大きく伸びる場合、小さい音圧が骨を通って密閉された体積に入るので、閉塞効果は、なくなるが、ヘッドホンを外耳道内に大きく伸ばすことは、困難であり、危険であり、痛みを伴う可能性がある。どんなタイプのヘッドホンに関しても、閉塞効果が生成されるどのような量も低減することは、能動ヒアスルー機能で自己の自然さを提供するため、および、閉塞効果の非音声要素を除去するために有益であり得る。
【0072】
ヘッドホンを装着する経験は、能動ヒアスルーが提供されているとき、ユーザが自分自身の声を自然に聞くように、閉塞効果を排除することによって改善される。
図6は、頭部-ヘッドホンシステム、およびそれを通る様々な信号経路の概略図を示す。
図3からの外部騒音源200および関連する信号経路は、図示されないが、ユーザの声との組み合わせで存在することができる。フィードバックシステムマイクロホン106および補償フィルタK
fbは、耳カップ102と、外耳道408と、鼓膜410とによって囲まれた体積502内の音圧を検出し、打ち消すフィードバックループを作成する。これは、閉塞効果を引き起こす経路412の端部で増幅された音圧が存在するのと同じ体積である。この圧力(すなわち、音)の振動の振幅を低減するフィードバックループの結果として、閉塞効果は、フィードバックシステムの通常の動作によって、低減または除去される。
【0073】
閉塞効果の悪影響を低減または除去さえすることは、音圧の完全な打ち消しなしで達成され得る。いくつかのフィードバックベースの騒音打ち消しヘッドホンは、閉塞効果を軽減するために必要とされるよりも多くの打ち消しを提供することができる。目標が閉塞効果を除去することのみであるとき、フィードバックフィルタまたは利得は、周囲の音をさらに打ち消すことなく、それを行うのにちょうど十分な打ち消しを提供するように調整される。これを、完全なフィードバックフィルタK
fbの代わりにフィルタK
onを適用するものとして表す。
【0074】
図5Aに示すように、閉塞効果は、低い周波数で最も顕著であり、周波数が上昇するにつれて減少し、ヘッドホンの特定の設計に依存して、約500Hzと1500Hzとの間の中間周波数範囲のどこかで知覚不能(0dB)になる。
図5Aの2つの例は、閉塞効果が500Hzで終了するアラウンドイヤヘッドホンの曲線452、および、閉塞効果が1500Hzまで延びるインイヤヘッドホンの曲線454である。フィードバックANRシステムは、
図5Bに示すように、一般的には、低〜中間周波数範囲で有効であり(すなわち、それらは、騒音を低減することができる)、閉塞効果が終了するのと同じ範囲のどこかでその有効性を失う。
図5Bの例では、ANR回路による挿入損失(すなわち、耳カップの外側から内側への音の減少)曲線456は、約10Hzで0dBを上方に交差し、約500Hzで0dBを下方に交差し戻る。所与のヘッドホンのフィードバックANRシステムが、そのヘッドホンで閉塞効果が終了する周波数よりも上の周波数で有効である場合、
図5Aの曲線452のように、フィードバックフィルタは、大きさが減少され得、依然として、閉塞効果を完全に除去することができる。他方では、フィードバックANRシステムが、そのヘッドホンで閉塞効果が終了する周波数よりも下の周波数で、有効な騒音低減の提供を停止する場合、
図5Aの曲線454のように、完全な大きさのフィードバックフィルタが必要とされることになり、いくらかの閉塞効果が残ることになる。
【0075】
フィードフォワードシステムと同様に、閉塞効果をできるだけ多く排除することによって自己の自然さを達成するフィードバックシステムのためのフィルタパラメータは、
図6に示す頭部-ヘッドホンシステム内の様々な信号経路の応答から見出され得る。
図3と同様であるものに加えて、以下の応答が考慮される。
a)G
ac:口から(
図4のようにヘッドホンによって遮られない)耳への空気伝導経路402の応答
b)G
bcc:(外耳道がヘッドホンによって塞がれていないときの)外耳道への身体伝導経路412の応答
c)G
bcm:中耳および内耳に対する身体伝導経路420の応答
身体伝導応答G
bccおよびG
bcmは、一般的には、それぞれ1.5kHzよりも下および上の異なる周波数範囲で有意である。これらの3つの経路は、ヘッドホンなしの、外耳道でのユーザの声の正味の裸耳応答、G
oev=G
ac+G
bcc+G
bcmを形成するために結合する。対照的に、ヘッドホンが存在するときの、正味の閉じられた耳の音声応答は、G
cevとして定義される。
【0076】
正味の応答G
oevまたはG
cevは、任意の再現性または精度で直接測定され得ないが、それらの比G
cev/G
oevは、外耳道内に小型マイクロホンを(外耳道を塞ぐことなく)吊るし、ヘッドホンを装着しながら対象が話すときに測定されたスペクトルの、ヘッドホンを装着せずに対象が話すときに測定されたスペクトルに対する比を見つけることによって測定され得る。一方がヘッドホンによって塞がれ、他方が開かれた両方の耳で測定を行うことは、測定間の人間の音声の変動からもたらされる誤差を防ぐ。そのような測定は、
図5Aの閉塞効果曲線のソースである。
【0077】
閉塞効果を単に打ち消すために使用するK
onの値を見つけるために、ヘッドホンおよびANRシステムがG
cevを形成するために結合するときの、それらの応答に対する影響を考える。合理的な近似は、G
acが、空気伝導する周囲の騒音と同じように影響されることであるので、G
cevへのその寄与は、G
ac*(G
pfb+G
nx*K
ht*G
ffe)である。ヘッドホンは、中耳および内耳への第3の経路420に直接ほとんど影響しないので、G
bcmは、変化しないままである。第2の経路412に関して、外耳道に入る身体伝導音は、耳カップを通り過ぎる周囲の騒音と区別がつかないので、フィードバックANRシステムは、それをフィードバックループ閉塞フィルタK
onで打ち消し、G
bcc/(1-L
fb)の応答を提供し、ここで、ループ利得L
fbは、フィードバックフィルタK
onおよびドライバ-システムマイクロホン応答G
bsの積である。全体で、そのとき、
【0082】
自己の自然さのために、G
cev/G
oev=1(0dB)を望む。自己の自然さのための前の式(1)と組み合わせると、これは、ヒアスルー体験のこれらの2つの態様のバランスをとることを可能にする。周囲の音の人間の知覚は、T
htigを近似するために選択されたK
htの値からもたらされる位相応答が有意ではないように、(位相が非常に急速には変化しないと仮定して)位相にほとんど鈍感である。式(1)をK
htについて解く際の問題は、大きさ|T
htig|を調和させることである。G
pfb+G
nx*K
ht*G
ffeの位相は、しかしながら、(K
htによって影響される)覆われた耳のG
ac経路が(K
onによって影響される)覆われた耳のG
bcc経路と合計する方法に影響を及ぼすことになる。設計プロセスは、以下のステップに入る。
a)すべてのANRをオフにしてG
cevを測定することによって閉塞効果(G
cev/
Goevでの低周波数ブースト)を測定する。
b)測定された閉塞効果を相殺するようにANRフィードバックを設計する。測定が400Hzで10dBの閉塞効果ブーストを示す場合、第1の近似のために、その周波数で10dBのフィードバックループ脱感受性(1-Lfb)を望むことになる。閉塞効果を完全に打ち消すために十分なフィードバックANR利得を持たないヘッドホンに関して、K
onは、単に、最適化されたフィードバックループのK
fbと等しくなる。フィードバックループに十分なヘッドルームを有するヘッドホンに関して、K
onは、K
fb未満のある値になる。
c)上記で論じたように周囲の自然さのためのK
htを設計する。
d)フィードフォワードループにK
htフィルタを適用し、フィードバックループにK
onを適用し、G
cev/
Goevを再び測定する。
e)G
cev/
Goevの1からの偏差を最小にするために、全域通過フィルタ段を追加するか、ゼロを右半面(または、デジタルシステムの単位円の外)に移動することによって、大きさを変更することなく、K
htの位相を調整する。
f)K
onをこのプロセスで調整することも有益であり得る。K
onおよびK
htの更新された値は、所望の周囲応答および自音声応答の最適なバランスを見つけるために反復される。
【0083】
閉塞効果を低減し、装着者が自分自身の声を自然に聞くことを可能にすることは、誰かと話しているときにユーザに通常のレベルで話すことを奨励するさらなる利点を有する。人々は、ヘッドホンで音楽または他の音を聞いているとき、他に誰もその音を聞くことができないにもかかわらず、自分が聞いている他の音に重なる自分自身を聞くために十分に大声で話すので、あまりに大声で話す傾向がある。逆に、人々は、騒音打ち消しヘッドホンを装着しているが、音楽を聞いていないとき、明らかに、この場合には、自分が聞く静かな残留周囲騒音に重なる自分自身の声を容易に聞くことができるので、騒音環境下の他者によって理解されるにはあまりに静かに話す傾向がある。人々が、自分自身の話すレベルを、どのように自分自身の声を他の環境音との関係で聞くかに応じて調節するやり方は、ロンバート(Lombard)反射と呼ばれる。ユーザが能動ヒアスルーを介して自分自身の声のレベルを正確に聞くことを可能にすることは、ユーザがそのレベルを正しく制御することを可能にする。ユーザがあまりに大声で話すことを引き起こすヘッドホンでの音楽再生の場合には、ヒアスルーモードに切り替えたときに音楽をミュートすることは、ユーザが自分自身の声を正確に聞き、そのレベルを制御することを助けることもできる。
【0084】
[能動ヒアスルーの間に娯楽用オーディオを維持する]
ANR回路をミュートし、外部音を再生するか、外部音がヘッドホンを介して受動的に移動することを可能にすることによって、直接トークスルーまたは受動的モニタリングを提供するヘッドホンは、それらが再生している場合がある音楽のような任意の入力オーディオもミュートする。上記で説明したシステムでは、能動騒音低減および能動ヒアスルーは、娯楽用オーディオの再生とは独立して提供され得る。
図8は、オーディオ入力信号経路も示すように変更された
図3および
図5のものと同様のブロック図を示す。外部の騒音および関連する音響信号は、明確にするために示されていない。
図8の例では、オーディオ入力ソース800は、信号プロセッサに接続され、等化オーディオフィルタK
eqによってフィルタリングされ、出力変換器104に送達されるべきフィードバックおよびフィードフォワード信号経路と結合される。ソース800と信号プロセッサとの間の接続は、耳カップまたは他の場所のコネクタを介するワイヤード接続であり得、または、Bluetooth(登録商標)、Wi-Fi、または専有のRFもしくはIR通信のような任意の利用可能なワイヤレスインターフェースを使用するワイヤレス接続であり得る。
【0085】
入力オーディオのための別個の経路を設けることは、ヘッドホンが、能動ヒアスルーを提供するが、同時に娯楽用オーディオを再生し続けるように能動ANRを調整するように構成されることを可能にする。入力オーディオは、いくらか低減された音量で再生され得、または、完全な音量に維持され得る。これは、ユーザが、映画の対話などの、ユーザが聞いているものはなんでも聞き逃すことなく、客室乗務員のような他者と対話することを可能にする。加えて、それがユーザの望みである場合、ユーザが、自分の環境から隔離されることなく、音楽を聞くことを可能にする。これは、ユーザが、状況認識を維持し、自分の環境に接続されたまま、背景を聞くためにヘッドホンを装着することを可能にする。状況認識は、例えば、通りを歩いている誰かが、自分の周囲の人々および交通に気づくことを望むが、例えば、自分のムードを強化するための音楽、または情報のためのポッドキャストもしくはラジオを聞くことを望む可能性がある、都市の設定で有益である。ユーザは、実際に自分の周りでなにが起こっているのかを認識することを望みながら、「邪魔をするな」という社会的合図を送るために、ヘッドホンを装着することさえできる。状況認識が、例えば、他の外乱のない家で音楽を聞いているユーザには価値がない場合でも、一部のユーザは、環境を認識し、受動的なヘッドホンでさえ典型的に備える隔離を持たないことを好む可能性がある。音楽を聞きながら能動ヒアスルーを可能に維持することは、この体験を提供する。
【0086】
フィードフォワードおよび入力オーディオ信号経路フィルタの詳細は、全システム応答を生成するために能動ヒアスルーが入力オーディオ信号の再生と相互作用する方法に影響することになる。いくつかの例では、システムは、全オーディオ応答が騒音打ち消しモードと能動ヒアスルーモードの両方で同じであるように、調製される。すなわち、入力オーディオ信号から再生される音は、両方のモードで同じに聞こえる。K
on≠K
fbの場合、K
eqは、1-G
dsK
fbから1-G
dsK
onへの脱感受性での変化によって、2つのモードで異ならなければならない。いくつかの例では、周波数応答は、同じに保たれるが、入力オーディオおよびフィードフォワード経路に適用される利得は、変更される。一例では、K
eqでの利得は、入力オーディオの出力レベルが低減されるように、能動ヒアスルーモードの間、低減される。これは、入力オーディオが唯一の聞こえるものである能動騒音打ち消しモードと、入力オーディオが周囲の騒音と組み合わされるヒアスルーモードとの間で、総出力レベルを一定に維持する効果を有することができる。
【0087】
別の例では、K
eqでの利得は、入力オーディオの出力レベルが増大されるように、能動ヒアスルーモードの間、増大される。入力オーディオ信号の音量を上昇させることは、能動ヒアスルーの間に挿入される周囲の騒音が入力オーディオ信号をマスクする程度を低下させる。これは、もちろん能動ヒアスルーモードの間に増大する背景騒音よりも大きい音に維持することによって、入力オーディオ信号の明瞭度を維持する効果を有することができる。もちろん、能動ヒアスルーモードの間、入力オーディオをミュートすることが望まれる場合、これは、単純にK
eqの利得をゼロに設定するか、入力オーディオ信号経路をオフにする(いくつかの実施態様では、同じものであり得る)ことによって達成され得る。
【0088】
ANRおよびオーディオ再生を別個の信号経路を介して提供することは、また、ユーザがオフにしているので、または、電源が利用可能でないか、枯渇されているので、ANR回路がまったく給電されていない場合であっても、オーディオ再生が維持されることを可能にする。いくつかの例では、受動回路網で実現される異なる等化フィルタK
npを有する二次オーディオ経路は、信号プロセッサをバイパスすることによって、出力変換器に入力オーディオ信号を送達するために使用される。受動フィルタK
npは、感度を過度に妥協することなく、システムが給電されたときに経験されるシステム応答をできるだけ厳密に再現するように設計され得る。そのような回路が利用可能であるとき、信号プロセッサまたは他の能動エレクトロニクスは、能動システムが給電されたとき、受動経路を遮断し、それを能動入力信号経路に置き換えることになる。いくつかの例では、システムは、能動システムが現在動作しているユーザへの合図として、入力信号経路の再接続を遅延するように構成され得る。能動システムは、また、それが動作しているユーザへの合図として、および、よりゆるやかな移行を提供するために、電源オンに応じて入力オーディオ信号をフィードインすることができる。代替的には、能動システムは、オーディオ信号を低下させることなく、できるだけ滑らかに受動から能動オーディオへの移行を行うように構成され得る。これは、能動システムが引き継ぐ準備ができるまで、受動信号経路を維持し、能動信号経路を受動経路と一致させるためにフィルタのセットを適用し、受動経路を能動経路に切り替え、次いで、好ましい能動K
eqフィルタにフィードインすることによって達成され得る。
【0089】
能動ヒアスルーおよびオーディオ再生が同時に利用可能であるとき、ユーザインターフェースは、典型的なANRヘッドホンよりも複雑になる。一例では、オーディオは、能動ヒアスルーの間、デフォルトでオンに保たれ、騒音低減とヒアスルーモードとの間で切り替えるために押下されるモーメンタリボタンは、ヒアスルーをアクティブにするとき、オーディオを追加でミュートするために中で保持される。別の例では、ヒアスルーに入るときにオーディをミュートするかどうかの選択は、ヘッドホンがユーザの好みにしたがって構成される設定である。別の例では、スマートフォンのような再生デバイスを制御するように構成されたヘッドホンは、能動ヒアスルーが有効にされたとき、ヘッドホン内でオーディオをミュートする代わりに、オーディオ再生を一時停止するようにデバイスに合図することができる。同じ例では、そのようなヘッドホンは、音楽が一時停止されたときはいつも、能動ヒアスルーモードをアクティブにするように構成され得る。
【0090】
[他のユーザインターフェースの考慮事項]
一般に、能動ヒアスルー機能を有するヘッドホンは、ボタンまたはスイッチのような、機能をアクティブにするためのいくらかのユーザ制御を含むことになる。いくつかの例では、このユーザインターフェースは、ユーザが能動ヒアスルーモードを呼び出すように解釈される特定の方法で耳カップに触れたときを検出する、耳カップ内の静電容量センサまたは加速度計のような、より洗練されたインターフェースの形態をとることができる。いくつかの場合では、追加の制御が提供される。乗客の注意を必要とする客室乗務員、または生徒の注意を必要とする教師などの、ユーザ以外の誰かがヒアスルーモードをアクティブにすることを必要とする可能性がある状況に関して、外部遠隔制御が望ましい可能性がある。これは、任意の従来の遠隔制御技術で実現され得るが、そのようなデバイスのありそうな使用事例によりいくつかの考慮事項が存在する。
【0091】
航空機では、複数の乗客は、互換性のあるヘッドホンを装着しているが、客室乗務員が、どのヘッドセットがそのヒアスルーモードをアクティブにするのかを指定するために必要な、固有デバイスIDのような情報を持たないように、互いにまたは航空会社によってそれらの製品の乗客の選択を調整していないことが仮定される。この状況では、ヘッドホンの所与のセットにそれらのヒアスルーモードをアクティブにするために直接向けられなければならない、ナロービームによる赤外線制御のような、照準線遠隔制御を提供することが望ましい可能性がある。しかしながら、飛行前のアナウンスの間、または緊急時のような別の状況では、航空機搭乗員は、すべての互換性のあるヘッドホンでヒアスルーをアクティブにする必要がある可能性がある。この状況に関して、いくつかのワイドビーム赤外線放射体が航空機全体に配置され得、各座席がカバーされていることを保証するように位置決めされ得る。航空機の使用事例に適した遠隔制御の別のソースは、オーディオ入力ライン上に制御信号をオーバレイする。そのように、航空機の娯楽用オーディオに差し込まれたヘッドホンの任意のセットは、合図され得、これは、放送と、合図の座席特定の手段の両方を提供することができる。教室、軍隊、またはビジネスの状況では、他方では、すべてのヘッドホンが単一のエンティティによって購入または少なくとも調整され、したがって固有のデバイス識別子が利用可能であり得、個別に指定されたヘッドホンで能動ヒアスルーをオンおよびオフにするために、無線のような放送タイプの遠隔制御が利用可能であり得る場合であり得る。
【0092】
能動回路網を有するヘッドホンは、一般的に、それらの状態の視覚的指標、通常は単純なオン/オフ光を含む。能動ヒアスルーが提供されるとき、追加のインジケータが有利である。最も単純なレベルでは、第2の光は、能動ヒアスルーモードがアクティブであることをユーザに示すことができる。ユーザが、航空機乗務員、またはオフィス環境の同僚のような他者と通信するために能動ヒアスルーモードを使用する可能性がある状況に関して、追加のインジケータは、価値がある可能性がある。いくつかの例では、他者に見える光は、ANRがアクティブであるが、能動ヒアスルーがアクティブではないとき、赤に照らされ、能動ヒアスルーがアクティブであるとき、光は、緑に変化し、他者に自分たちが今ヘッドホンのユーザと話すことができることを示す。いくつかの例では、実際にユーザと向き合っている誰かのみが、ユーザのヘッドホンがどの状態にあるか知ることになるように、インジケータ光は、狭い範囲の角度からのみ可視であるように構成される。これは、装着者が、自分が向き合っていない他者に「邪魔をするな」と社会的に合図するように、ヘッドホンを依然として使用することを可能にする。
【0093】
[話しているときの自動ヒアスルー]
いくつかの例では、フィードバックシステムは、能動ヒアスルーを自動的にオンにするためにも使用される。ユーザが話し始めると、ユーザの外耳道の内部の低周波圧力振動の振幅は、上記で説明したように、軟組織を通って喉頭から外耳道に移動する音圧によって増大する。フィードバックマイクロホンは、この増大を検出することになる。増大した圧力を進行中の閉塞効果補償の一部として打ち消すのに加えて、システムは、ユーザが話していることを識別するために、この圧力振幅の増大を使用することもでき、したがって、ユーザの声の自己の自然さを提供するために、完全な能動ヒアスルーモードをオンにすることができる。フィードバックマイクロホン信号、または、フィードバックおよびフィードフォワードマイクロホン信号間の相関に対するバンドパスフィルタは、能動ヒアスルーが声にのみ応答してオンに切り替えられ、血流または体動のような他の内部圧力源には応答しないことを確実にするために使用され得る。ユーザが話しているとき、フィードフォワードおよびフィードバックマイクロホンは、両方ともユーザの声を検出することになる。フィードフォワードマイクロホンは、人間の音声の周波数範囲全体をカバーすることができるユーザの声の空気伝導部分を検出することになり、フィードバックマイクロホンは、閉塞効果によって増幅されることが起こる、頭部を通って伝達される音声の部分を検出することになる。これらの信号の包絡線は、したがって、ユーザが話しているとき、閉塞効果によって増幅された帯域内で相関されることになる。別の人がユーザの近くで話している場合、フィードフォワードマイクロホンは、ユーザが話しているときのものと同様の信号を検出することができ、フィードバックマイクロホンが検出するその音声の任意の残留音は、レベルが有意に低いことになる。話しているユーザと一致する値の信号の相関およびレベルをチェックすることによって、ヘッドホンは、ユーザが話しているときを判断することができ、それに応じて能動ヒアスルーシステムをアクティブにすることができる。
【0094】
ユーザが自分自身の声を自然に聞くことを可能にすることに加えて、能動ヒアスルー機能の自動アクティブ化は、また、ユーザがユーザに話している誰かの応答を聞くことを可能にする。そのような例では、ヒアスルーモードは、ユーザが話すのをやめた後、若干の時間の間オンに保持され得る。
【0095】
自動能動ヒアスルーモードは、また、ヘッドホンが、側音、すなわち、近端出力に重なるユーザ自身の声の再生を提供しない、無線電話のような通信デバイスに接続されているとき、有利である。ユーザが話しているとき、または、ヘッドセットが、呼び出しが進行中であることを電気的に検出したときに、ヒアスルーをオンにすることによって、ユーザは、自分自身の声を自然に聞き、適切なレベルで電話に話すことになる。通信マイクロホンが同じヘッドセットの一部である場合、そのマイクロホンの信号とフィードバックマイクロホンの信号との間の相関は、ユーザが話していることをさらに確認するために使用され得る。
【0096】
[安定性の保護]
能動ヒアスルー機能は、新しい故障モードをANRヘッドセットに導入する可能性を有する。出力変換器がフィードフォワードマイクロホンに、通常の動作の下で存在すべきであるよりも大きな程度に音響的に結合された場合、正のフィードバックループが作成される可能性があり、その結果、ユーザにとって不快または気障りである可能性がある、高周波リンギングをもたらす。これは、例えば、ポートが構成された、もしくは環境に開口したバックキャビティを有するヘッドホンを使用するとき、ユーザが耳の上で手を丸めた場合、または、能動ヒアスルーシステムがアクティブにされている間に、ヘッドホンが頭部から除去された場合に発生する可能性があり、出力変換器の前面からフィードフォワードマイクロホンへの自由空間結合を可能にする。
【0097】
このリスクは、フィードフォワード信号経路内の高周波信号を検出することによって、および、これらの信号が、正のフィードバックループが存在することなどを示すレベルまたは振幅しきい値を超えた場合、圧縮リミッタをアクティブにすることによって軽減され得る。フィードバックが除去されると、リミッタは、非アクティブ化され得る。いくつかの例では、リミッタは、徐々に非アクティブ化され、フィードバックが再び検出された場合、フィードバックが検出されなかった最低レベルまで戻って上昇される。いくつかの例では、フィードフォワード補償器K
ffの出力を監視する位相ロックループは、予め定義された周波数スパンにわたって比較的純音にロックするように構成される。位相ロックループがロック状態を達成したとき、これは、不安定性を示すことになり、この不安定性は、次いで、フィードフォワード信号経路に沿って圧縮機をトリガする。圧縮機での利得は、利得が、発振状態が停止するために十分に低くなるまで、定められた割合で低減される。発振が停止すると、位相ロックループは、ロック状態を失い、圧縮機を解放し、これは、利得が通常の動作値に回復することを可能にする。発振は、圧縮機によって抑制され得る前に最初に発生しなければならないので、ユーザは、物理的条件(例えば、手の位置)が維持されている場合、繰り返されるさえずり(chirp)を聞くことになる。しかしながら、短い繰り返される静かなさえずりは、持続した大きい音のスキール(squeal)よりもそれほど不快ではない。
【0098】
[バイノーラルテレプレゼンス]
能動ヒアスルーの利用可能性によって可能になる別の機能は、共有バイノーラルテレプレゼンスである。この機能のため、ヘッドホンの第1のセットの右および左耳カップからのフィードフォワードマイクロホン信号は、ヘッドホンの第2のセットに送信され、ヘッドホンの第2のセットは、ヘッドホンの第2のセットの音響に基づくそれ自体の等化フィルタを使用してそれらを再生する。送信された信号は、フィードフォワードマイクロホンの特定の周波数応答を補償するようにフィルタリングされ得、より正規化された信号を遠隔ヘッドホンに提供する。ヘッドホンの第1のセットのフィードフォワードマイクロホン信号をヘッドホンの第2のセットで再生することは、ヘッドホンの第2のセットのユーザが、ヘッドホンの第1のセットの環境を聞くことを可能にする。そのような構成は、それらのフィードフォワードマイクロホン信号を他方に送信するヘッドホンの両方のセットで相互的であり得る。ユーザは、各々が他方の環境を聞くのか、または、それらの両方が聞くための一方の環境を選択するのかのいずれかを選択することができる。後者のモードでは、両方のユーザは、ソースユーザの耳を「共有」し、遠隔ユーザは、ソースユーザの音環境に没頭するために、完全な騒音打ち消しモードにあるように選択することができる。
【0099】
そのような機能は、2人の間のより没入型の簡単な通信を行うことができ、それは、また、ローカルの同僚またはクライアントがオーディオシステムまたは問題の設計または診断を試みている施設の環境を遠隔技術者が聞くような、産業用途を有することができる。例えば、オーディオシステムを新しい講堂に据え付けるオーディオシステムエンジニアは、オーディオシステムによって生成されている音について、自分のホームオフィスに戻って位置する別のシステムエンジニアと相談することを望む可能性がある。両者がそのようなヘッドホンを装着することによって、遠隔エンジニアは、どのようにシステムを調整するのかについて良質なアドバイスを与えるために、能動ヒアスルーによって、据付者が聞いているものを十分な明瞭さで聞くことができる。
【0100】
そのようなバイノーラルテレプレゼンスシステムは、通信するためのいくらかのシステムと、通信システムにマイクロホン信号を提供するための方法とを必要とする。一例では、スマートフォンまたはタブレットコンピュータが使用され得る。1つが遠隔オーディオ信号を提供するヘッドホンの少なくとも1つのセットは、両方の耳のフィードフォワードマイクロホン信号を出力として通信デバイスに提供するように、従来の設計から変更される。スマートフォンおよびコンピュータのためのヘッドセットオーディオ接続は、一般的に、ヘッドセットへのステレオオーディオ、および、ヘッドセットからフォンまたはコンピュータへのモノマイクロホンオーディオの3つの信号経路のみを含む。ヘッドホンからのバイノーラル出力は、任意の通信マイクロホン出力に加えて、(従来の構成とは逆に)Bluetooth(登録商標)ステレオオーディオソースおよび電話受信機として動作するヘッドホンを製作することなどによって、既存のプロトコルの非標準的な適用によって達成され得る。代替的には、追加のオーディオ信号が、通常のヘッドセットジャックよりも多くの導体によるワイヤード接続を介して提供され得、または、独自のワイヤレスもしくはワイヤードデジタルプロトコルが使用され得る。
【0101】
信号は、通信デバイスに送達されるが、通信デバイスは、次いで、オーディオ信号の対を遠隔通信デバイスに送信し、遠隔通信デバイスは、それらを第2のヘッドセットに提供する。最も単純な構成では、2つのオーディオ信号は、標準的なステレオオーディオ信号として受信ヘッドセットに送達され得るが、それらを通常のステレオオーディオ入力とは別々にヘッドホンに送達することがより効果的である可能性がある。
【0102】
このシステムに使用される通信デバイスが、ユーザが互いを見ることができるように、ビデオ会議も提供する場合、左および右フィードフォワードマイクロホン信号を反転することが望ましい可能性もある。このようにすれば、一方のユーザが自分の左側の音に反応する場合、他方のユーザは、これを自分の右耳で聞き、ビデオ会議ディスプレイ内の遠隔ユーザが見ている方向を一致させる。信号のこの反転は、システム内の任意の時点で行われ得るが、そのデバイスが、その側のユーザがビデオ会議信号を受信しているかどうかを知るように受信通信デバイスによって行われる場合、おそらく最も効果的である。
【0103】
ヘッドホンからの出力としてフィードフォワードマイクロホン信号を提供することによって可能になる別の機能は、再生時に周囲の自然さを有するバイノーラル録音である。すなわち、フィードフォワードマイクロホンからの生のまたはマイクロホンフィルタリングされた信号を使用して行われたバイノーラル録音は、記録を聞いている人が元の環境に完全に没頭していると感じるように、再生ヘッドセットのK
eqを使用して再生され得る。
【0104】
他の実施態様は、以下の特許請求の範囲および、出願人が権利を得ることができる他の請求項の範囲内にある。