特許第6965245号(P6965245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サビック・イノベーティブ・プラスチックス・アイピー・ベスローテン・フェンノートシャップの特許一覧

特許6965245蒸気分解処理のための高品質フィードストックを作り出すための方法
<>
  • 特許6965245-蒸気分解処理のための高品質フィードストックを作り出すための方法 図000005
  • 特許6965245-蒸気分解処理のための高品質フィードストックを作り出すための方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965245
(24)【登録日】2021年10月22日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】蒸気分解処理のための高品質フィードストックを作り出すための方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 53/06 20060101AFI20211028BHJP
   C10G 55/04 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   C10G53/06
   C10G55/04
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-527921(P2018-527921)
(86)(22)【出願日】2016年11月21日
(65)【公表番号】特表2019-500447(P2019-500447A)
(43)【公表日】2019年1月10日
(86)【国際出願番号】EP2016078300
(87)【国際公開番号】WO2017093059
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2019年11月18日
(31)【優先権主張番号】15196944.1
(32)【優先日】2015年11月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508171804
【氏名又は名称】サビック グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】オプリンズ,アルノ,ヨハネス,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラスコ・ペレーズ,ラウル
(72)【発明者】
【氏名】シャエルラエケンズ,エジディウス,ヤコバ,マリア
【審査官】 上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/000846(WO,A1)
【文献】 英国特許出願公開第02040306(GB,A)
【文献】 国際公開第2015/000843(WO,A1)
【文献】 英国特許出願公告第01248814(GB,A)
【文献】 特開2010−275550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気分解処理のための高品質フィードストックを製造するための方法であって、以下の工程、
i)芳香族化合物およびナフテンを含む炭化水素フィードストックを提供する工程;および、
ii)前記炭化水素フィードストックを、当該フィードストックから芳香族化合物およびナフテンを除去するのに有効な投与量の溶媒と接触させて、精製フィードストックと、芳香族含有流と、ナフテン含有流と、を形成する工程であって、前記溶媒は、共溶媒存在下で、n−メチル−2−ピロリドン、フルフラールおよびフェノール、およびこれらの混合物からなる群から選択される工程;を含み、
工程ii)は、二つの副工程、即ち、
工程i)の前記炭化水素フィードストックから芳香族化合物を分離し、それによってナフテン含有中間体流と前記芳香族含有流とを形成することを含む工程iia)、および、
前記ナフテン含有中間体流からナフテンを分離し、それによって前記ナフテン含有流と前記精製フィードストックとを形成することを含む工程iib)、を含み、
前記炭化水素フィードストックはパラフィン系原油に由来し、工程iia)は、50〜125℃の温度範囲、および50〜450%の範囲内の溶媒投与量、を含み、または、
前記炭化水素フィードストックはナフテン系原油に由来し、工程iia)は、10〜95℃の温度範囲、および50〜300%の範囲内の溶媒投与量を含む方法。
【請求項2】
前記炭化水素フィードストックは、300〜550℃の範囲の沸点範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蒸気分解処理において前記精製フィードストックを処理する前に前記精製フィードストックから痕跡量の溶媒を除去する工程を適用することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
更に、前記芳香族含有流および前記ナフテン含有流から溶媒を回収し、回収溶媒流と、芳香族に富む流れおよびナフテンに富む流れとを形成する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記芳香族とナフテンとに富む一つ以上の流れは、水素化分解処理またはカーボンブラック製造処理のための精製処理装置において更に処理されるか、あるいは液体蒸気分解装置におけるクエンチ油物質として処理される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程iib)は、更に、膜抽出処理を含み、前記膜抽出処理において、フィード流は、多孔質の非選択的な仕切り隔膜の片面に沿って通過される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記仕切り隔膜は、セラミック、焼結ガラス、もしくは金属、または高分子材料からなる限外濾過膜である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記高分子材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、セルロース、またはナイロンである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記仕切り隔膜の孔径は、100〜5000オングストロームの範囲である請求項7または8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気分解処理のための高品質フィードストックを作り出すための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソンモービル社の抽出処理EXOLは、所望のパラフィン成分およびナフテン成分から潤滑油フィードストックの不要な芳香族成分および極性成分を除去する処理に関する。真空留分又は脱アスファルト油であるオイル供給物が処理装置の底部に入り、他方、注意深く制御された量の水を含むNMP(n−メチル−2−ピロリドン)溶媒が処理装置の頂部に入り、上昇するラフィネート(抽残液)溶液と対向流的に接触する。処理装置の頂部を出る油成分に富む相は、溶媒で飽和したラフィネート生成物を含有している。より重い抽出溶液相は、抽出された芳香族成分および極性成分を運ぶ処理装置の底部から出る。溶媒は、ガス又は蒸気ストリッピングによって回収される。
【0003】
Korean J.Chem.Eng.,30(9),1700−1709(2013)のMohsen Nouriの記事、「軽オレフィンへの重フィードストック熱分解における溶媒脱芳香族化効果の評価:最適化研究」において、熱分解における重フィードストックにおける芳香族抽出の効果が研究された。フィードストックの脱芳香化を行う溶媒としてのN−メチルピロリドンが様々な温度と溶媒対油モル比で使用された。エチレンとプロピレンの収率は10%以上増加したのに対して、5つ以上の炭素原子を有する液体生成物は脱芳香化によって平均で13%減少した。これは、ラフィネート中の、軽オレフィンを作り出すために分解することがより容易なナフテンの含有率が高いことによるものである。未処理供給物中の芳香族の含有率が高いと、重液体生成物の形成と、より多くのコークスの形成とが生じる。
【0004】
欧州特許第0697455号明細書は、低級オレフィン、特にエチレンを製造するための蒸気分解法におけるフィードストックとして好適に適用可能な、フラッシュ蒸留物よりも重質の炭化水素油留分からのハイドロワックス(hydrowax)の製造方法に関する。より詳細には、欧州特許第0697455号明細書によるハイドロワックス(hydrowax)の製造方法は、少なくとも1つの留出物画分と脱アスファルト油(DAO)とをブレンドして得られたブレンドを水素化分解する工程と、水素化分解剤流出物から、その内の少なくとも90重量%が370℃以上の沸点を有する画分(370+画分)を分離する工程と、トップ画分の前記370+画分とボトム画分とを600℃未満の有効カットポイントで分離し、それによって前記トップ画分として前記hydrowaxを得る工程、とを有する。
【0005】
米国特許第5107056号明細書は、ナフテンとパラフィンとの混合物を含む脂肪族炭化水素に富むフィードストリームからナフテンを分離する方法に関し、この方法は、脂肪族炭化水素に富むフィードストリームを、非選択的な多孔質隔壁膜の片面に接触させ、同時に、この膜を介して圧力差が存在しない場合には、前記隔壁膜の他面を極性溶媒と接触させて、それによって、前記膜の透過側に前記極性溶媒が存在することに応答して、前記多孔質隔壁を介してナフテン系炭化水素を選択的に透過させる工程を含む。
【0006】
本出願人名義の国際公開第2015/000846号は、炭化水素フィードストックから軽質オレフィン炭化水素化合物の生成を増加させるための方法に関し、この方法は、前記炭化水素フィードストックを溶媒抽出装置で溶媒抽出プロセスにかける工程と、得られた溶媒抽出炭化水素フィードストックから、パラフィンを含むラフィネート留分と芳香族化合物およびナフテンを含む留分とを分離する工程と、水素化分解ユニット中で芳香族化合物およびナフテンを含む前記留分を転化して、高含量芳香族留分と軽質パラフィンが多い流れとに分離する工程と、蒸気分解装置中で、前記ラフィネート留分を軽質オレフィンに転化する工程、とを有する。
【0007】
本出願人名義の国際公開第2015/000843号は、炭化水素フィードストックからの軽質オレフィン炭化水素化合物の生成を増加させる方法に関し、この方法は以下の工程、炭化水素フィードストックを300〜500℃の温度範囲と2〜10MpPaの圧力範囲での開環のための反応領域に供給する工程と、前記反応領域から発生した反応生成物を塔頂流と側流に分離する工程と、前記側流を300〜580℃の温度範囲と0.3〜5MPaの圧力範囲で作動するガソリン水素分解装置(GHC)に供給する工程とを有し、ここで、前記ガソリン水素分解装置(GHC)は前記開環反応領域よりも高い温度で作動され、かつ、前記ガソリン水素分解装置(GHC)は前記開環反応領域よりも低い圧力で作動される、更に、前記GHCの反応生成物を、C−Cパラフィンと、水素とメタンとを含むオーバーヘッドガス流と、芳香族炭化水素化合物および非芳香族炭化水素化合物を含む流れに分離する工程と、前記ガソリン水素分解装置(GHC)装置からの前記オーバーヘッドガス流を蒸気分解装置に供給する工程と、を有する。
【0008】
英国特許第2040306号明細書は、軽油(gas oil)から芳香族成分を抽出する方法に関し、この方法は、液−液接触装置に、軽油の流れを導入して、この流れを、軽油の芳香族成分のための選択的溶媒を含む実質的に不混和性の流れと接触させる工程と、前記接触装置から、溶媒と前記軽油から抽出された前記芳香族成分とを含む液体流と、その芳香族成分の少なくとも一部から遊離された軽油を含む液体流とを回収する工程とを有する。前記溶媒は、前記軽油の有機硫黄成分に対しても選択的であり、芳香族成分の少なくとも一部から遊離された軽油を含む前記液体流もまた、有機硫黄成分の少なくとも一部から遊離される。
【0009】
英国特許第1248814号明細書は、軽油範囲で沸騰する芳香族含有炭化水素原料用のオレフィンの改良された生産を得る方法に関し、この方法は、芳香族化合物を選択的に除去するために前記原料を処理する工程と、処理された原料、すなわちラフィネートを炭化水素分解領域に供給する工程とを有する。この英国の文献は、芳香族化合物を、その留出物中にパラフィン系およびナフテン系化合物を保持しながら軽油範囲で沸騰する石油留出物から除去、すなわち分離することが溶媒抽出によって達成できることを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第0697455号明細書
【特許文献2】米国特許第5107056号明細書
【特許文献3】国際公開第2015/000846号
【特許文献4】国際公開第2015/000843号
【特許文献5】英国特許第2040306号明細書
【特許文献6】英国特許第1248814号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Korean J.Chem.Eng.,30(9),1700−1709(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
熱蒸気分解は、低級オレフィン、特にエテンおよびプロペンを製造するための公知の方法である。これは強吸熱処理であり、基本的には、炭化水素油原料を分解反応が起こるのに十分な高温に加熱し、次いで反応器流出物を急速に冷却し、この流出物を異なる生成物に分別するものである。一般にエテンクラッカーとも呼ばれる蒸気分解装置は、通常、高温セクションと低温セクションからなる。高温セクションは、分解炉、冷却セクション、および流出物を分離するための第1の分留塔からなる。原料を希釈するために蒸気が分解炉に導入される。これは最終的なオレフィン収率に有利であるが、添加された蒸気は炉内でのコークスの析出も抑制する。低温セクションでは、分解されたガスはさらに純粋なエテンおよびプロペンが含まれる様々な最終生成物に分離される。
【0013】
熱蒸気分解処理において、重質留分を主原料原料フィードストックまたは代替原料(それ自体または共供給される)としてそのまま使用することは下流側の装置および回収装置においては制限されている。より重質な液体供給物は、低級エチレンおよびプロピレンを生成するが、あまり望ましくない副生成物収率、例えばこれらの供給物を分解することによって燃料油の増加を生じる。蒸気分解の前の前処理を使用することが重量留分の質の改善のために不可欠であって、ここで、芳香族成分抽出、ビスブレーキング、水素処理、水素分解、二段階分解等を含むいくつかの処理によって重質留分を品質向上することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、その供給原料を蒸気分解処理によってさらに処理する前の供給原料の前処理に関する。
【0015】
従って、本発明は、蒸気分解処理のための高品質フィードストックを製造するための方法に関し、当該方法は、以下の工程、
i)芳香族化合物およびナフテンを含む炭化水素フィードストックを提供する工程;
ii)前記炭化水素フィードストックを、当該フィードストックから芳香族化合物およびナフテンを除去するのに有効な投与量の溶媒と接触させて、精製フィードストックと、芳香族化合物およびナフテンを含む一つ以上の流れとを形成する工程;
iii)前記精製フィードストックを蒸気分解処理で処理する工程、を含む。
【0016】
そのような方法によれば、溶媒抽出処理によって、パラフィンに富む流れが生成され、これは、未処理の炭化水素フィードストックが使用される処理と比較して蒸気分解装置において高められたオレフィン収率を提供する。好ましい実施形態では、前記精製フィードストック、すなわちラフィネート、又は、蒸気分解処理において処理される供給原料は、特定の組成、即ち、その供給原料の総重量に対して、芳香族含有量が0〜5重量%の範囲であり、ナフテン含有量が0〜25重量%の範囲である組成を有する。前記抽出物の組成、すなわち芳香族化合物およびナフテンを含む流れは、工程ii)において溶媒抽出ユニットに供給されるフィードストックの組成、基本的には、それはラフィネートとしては回収されず、抽出物として回収される、前記フィードストックの部分、に依存したものとなる。
【0017】
本発明者らは、本発明の一実施形態によれば、ラフィネートは芳香族化合物中で完全に枯渇しているが、長いパラフィン分枝を有するいくつかのモノ芳香族化合物分子は抽出されず、芳香族含量(5重量%)の範囲の上方値をもたらすものであると推定している。VGO中のモノ芳香族化合物含量は通常10%以下であるので、少なくとも50%の抽出効率が妥当な推定である。上記のナフテンレベルは、一連の基油(その大部分はある程度水素化処理されている)に関して粘度指数とNMR分光法によって得られた組成との相関関係に基づいている。本明細書で後述する溶媒抽出条件(溶媒/油比および抽出温度)の範囲内では、ラフィネート中のナフテンの15〜25重量%の範囲が期待できる。前述の0%のより低い範囲は、水素化処理された試料(本発明の一部である未処理のVGOよりもナフテン性である)と相関関係においてはカバーされることのなかったかもしれない非常にパラフィン性の高いフィードストックをカバーするための実施例に関する。
【0018】
芳香族/ナフテンのレベルが上記の値よりも高い実施形態は、液体蒸気分解収率における利益の程度がより小さくなるので、より少ないエチレン+プロピレンとより多くのピヨイルが生成されることになる。異なるラフィネート組成物/蒸気分解フィードストックに関する効果の程度は、本明細書中の後述の実施例に示されている。
【0019】
好ましい実施態様において、工程ii)は、二つの工程、即ち、工程iia):工程i)の前記炭化水素フィードストックから芳香族化合物を分離し、それによってナフテン含有中間体流と芳香族含有流とを形成する工程、そして、工程iib):前記中間流からナフテンを分離し、それによってナフテン含有流と前記精製フィードストックとを形成する工程、を有する。
【0020】
このような実施形態によれば、前記精製フィードストック、すなわち、ラフィネートまたは蒸気分解処理で処理される供給原料は、特定の組成を有する。すなわち、芳香族含有量は、0〜2重量%の範囲であり、ナフテン含量は、0〜10重量%の範囲である。ナフテン含有流は特定の組成を有する。すなわち、芳香族含有量は0〜10重量%の範囲であり、ナフテン含有量は50〜100重量%の範囲であり、パラフィン含有量は0〜40重量%の範囲である。前記芳香族含有流は、特定の組成を有する。即ち、芳香族含有量は60〜100重量%の範囲であり、ナフテン含有量は0〜40重量%の範囲であり、パラフィン含有量は0〜20重量%の範囲である。前記ナフテン含有中間流の組成は、芳香族含有量が0〜25重量%の範囲であり、ナフテン含有量が10〜50重量%の範囲であり、パラフィン含有量が40〜100重量%の範囲である。すべての百分率は、関係する関連流の総重量に基づく。
【0021】
別の好ましい実施形態によれば、工程ii)は、芳香族化合物およびナフテンを前記フィードストックから同時に除去して、精製フィードストックを形成する工程を含む。
【0022】
前記好適な炭化水素フィードストックは、300〜550℃の範囲の沸点範囲を有する。好ましくは、前記フィードストックは蒸気分解装置への収率を最大にするためにパラフィンが豊富である。そのような好ましいフィードストックの例は、パラフィン系原油に由来する炭化水素フィードストックである。
【0023】
パラフィン系原油由来の炭化水素フィードストックを使用する場合、工程ii)は、好ましくは85〜125℃の温度範囲内で、250〜450%の範囲内の溶媒投与量で実施される。また、工程iia)は、好ましくは50〜125℃の温度範囲、より好ましくは60〜85℃の範囲内、および50〜450%、好ましくは100〜340%の範囲の溶媒投与量を含む。蒸気分解装置への導入前に、追加の溶媒回収装置を用いて、炉に入る溶媒の量を最小限にし、溶媒損失を最小限に抑えることができる。
【0024】
そのような好ましいフィードストックの例は、ナフテン系原油に由来する炭化水素フィードストック、特に沸点範囲が300〜550℃の範囲の炭化水素フィードストックである。パラフィン系フィードストックは、1トンの供給原料当たり最も高いエチレン収率を提供するのでより好ましい。
【0025】
ナフテン系原油由来の炭化水素フィードストックを使用する場合、工程ii)は、好ましくは65〜95℃の温度範囲内で、150〜300%の範囲内の溶媒投与量で実施される。そして、工程iia)は、好ましくは10〜95℃、より好ましくは20〜65℃の温度範囲および50〜300%、好ましくは75〜200%の範囲内の溶媒投与量を含む。
【0026】
好ましい実施形態では、本工程iib)は、膜抽出処理を含む。このような膜抽出処理では、フィード流は、多孔質の非選択的な仕切り隔膜、例えば、セラミック、焼結ガラスまたは金属、または、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、セルロース、ナイロンなどの高分子材料、からなる限外濾過膜の片面に沿って通過される。その孔径は、好ましくは100〜5000オングストロームの範囲である。
【0027】
蒸気分解処理のための高品質フィードストックを製造するための本発明の方法の別の実施態様によれば、ステップiii)は、蒸気分解処理において前記精製フィードストックを処理する前に前記精製フィードストックから痕跡量(微量)の溶媒を除去するステップをさらに含む。
【0028】
本方法は、更に、芳香族およびナフテンを含む一つ以上の流れから溶媒を回収し、回収溶媒流と、芳香族とナフテンとに富む一つ以上の流れを形成する工程を有し、ここで、前記芳香族とナフテンとに富む一つ以上の流れは、水素化分解処理、カーボンブラック製造処理、または燃料への直接混合などの、精製処理装置において更に処理される。前記芳香族とナフテンとに富む一つ以上の流れのもう一つの好適な利用法は、液体蒸気分解装置におけるクエンチ油物質としての利用である。
【0029】
蒸気分解処理のための高品質フィードストックを製造するための本方法で使用される前記溶媒は、共溶媒、例えば水の存在を含んで、好ましくはn−メチル−2−ピロリドン、フルフラール、フェノールおよびこれらの混合物のグループから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、蒸気分解処理のための高品質フィードストックを製造するための本方法の実施形態を示す。
図2図2は、蒸気分解処理のための高品質フィードストックを製造するための本方法の別の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施例及び図面により説明する。
図1は、蒸気分解処理のための高品質フィードストックを製造するための方法10を示す。炭化水素フィードストック1は、溶媒抽出装置5に通され、そこで溶媒は底部流2と頂部流4に分離される。底部流2は芳香族、ナフテンおよび溶媒を含み、頂部流4はパラフィンを含む。底部流2は溶媒回収装置6に通され、芳香族およびナフテンに富む流れ7に分離される。このようにして回収された溶媒3は、溶媒抽出装置5に再循環される。頂部流4は、オレフィンおよびBTX(ベンゼン、トルエンおよびキシレン)を含む流れ9を生成するために蒸気分解装置8に通される。図1は、ワンステップ処理、すなわち、供給原料1から芳香族化合物およびナフテンを同時に除去することに関する。一実施形態では、流れ4(ラフィネート)の芳香族含有量は0〜5重量%の範囲であり、ナフテンは0〜25重量%の範囲である。流れ7(抽出物)の組成は、溶媒抽出ユニットに供給されるフィードストックの組成に依存するが、基本的には、それが抽出物として回収されるラフィネートとして回収されないフィードストックの部分である。
【0032】
図2は、蒸気分解処理のための高品質フィードストックを製造するための処理20を示す。炭化水素フィードストック21は、第1の溶媒抽出ユニット15に送られ、そこで、それは、底部流12と頂部流11に分離される。底部流12は芳香族化合物および溶媒を含み、頂部流11はナフテンおよびパラフィンを含む。底部流12は、第1の溶媒回収装置16に送られ、芳香族に富む流れ17に分離される。このようにして回収された溶媒13は、第1の溶媒抽出装置15にリサイクルされる。頂部流11は第2溶媒抽出装置23に通され、そこで、それは底部流22と頂部流27とに分離される。底部流22はナフテンと溶媒を含み、頂部流27はパラフィンを含む。底部流22は第2溶媒回収装置24に通され、そこで、それはナフテンに富む流れ25へと分離される。
このようにして回収された溶媒26は、第2溶媒抽出装置23に再循環される。頂部流27は、オレフィンおよびBTX(ベンゼン、トルエンおよびキシレン)を含む流れ19を生成するために、蒸気分解装置18に通される。流れ25を含有するナフテン系化合物は、蒸気分解装置炉、蒸気分解装置クエンチシステムなどのいくつかの処理ユニットに送られ、ナフテン系潤滑油ストックとして販売される。一実施形態では、流れ27(蒸気分解装置フィードストック)の芳香族含有量は0〜2重量%の範囲であり、ナフテンは0〜10重量%の範囲である。流れ25(ナフテンに富む流れ)の芳香族含有量は、0〜10重量%の範囲、ナフテンは50〜100重量%の範囲、パラフィンは0〜40重量%の範囲である。流れ17(芳香族に富む流れ)については、芳香族化合物の含量は60〜100重量%の範囲であり、ナフテンは0〜40重量%の範囲であり、パラフィンは0〜20%の範囲である。流れ11(第2の溶媒抽出処理への供給原料)では、芳香族化合物含量は0〜25重量%の範囲であり、ナフテンは10〜50重量%の範囲であり、パラフィンは40〜100%の範囲である。
【0033】
図2は、二工程処理、すなわち炭化水素フィードストックから芳香族化合物を分離して中間流を形成することを含む工程と、前記中間流からナフテンを分離することを含む工程に関する。本発明者らは、図2に由来するパラフィン流の純度が図1で生成されたものよりも高いと推定する。
【0034】
さらに、図2に示す実施形態は、2つの別個の溶媒回収ユニット、すなわち第1の溶媒回収ユニット16および第2の溶媒回収ユニット24を含む。しかしながら、好ましい実施形態(図示せず)では、これらの溶媒回収ユニットを単一のユニットに統合することも可能である。
【0035】
さらに、図2による処理スキームは、パラフィンおよびナフテンの独立した生成を可能にする。蒸気分解装置炉の分解条件は、各流の最適収率のために調整することが可能である。これは、パラフィンをナフテンと共に炉に送るときには不可能である。
【0036】
本発明者らは、図1に示す処理において、前記分子、すなわち頂部流4の組成、が軽ければ軽いほど、蒸気分解装置収率が良好であることを見出した。図2に示す処理では、水素供与体として作用し、蒸気分解処理のこの部分で起きる凝縮反応を最小限に抑えるクエンチ材料としてナフテンを使用することができる。さらに、この流れの温度は約150〜200℃であるので、それは、典型的に使用される芳香族に富む流れに匹敵する、或いは、それよりも良好なクエンチ材料を構成することができる。
【0037】
このように、本方法で使用される装置は、接触を促進するための杼口列(shed rows)または他の固定装置、オリフィスミキサー、または機械的攪拌器、制限された内径のジェット、ターボミキサーなどの効率的な攪拌装置を備えた単一の抽出ゾーンまたは複数の抽出ゾーンを含むことができる。その運転はバッチ式または連続式運転として行うことができ、後者の運転が好ましい。特に好ましい運転形態は、連続的な向流抽出を含む。尚、抽出プロセスの運転に使用される装置は、抽出の全体的な効率にとって重要ではなく、回転ディスク接触器、遠心接触器、向流充填床抽出塔、向流トレイ接触器などを含み得ることを銘記することが重要である。
【実施例】
【0038】
図1に示す処理スキームに従って、溶媒抽出処理における分離の程度に応じて、異なるタイプの蒸気分解装置フィードストックが、真空軽油(VGO)から出発して製造された。Arab Light VGO(表1に示す特性)から出発して、6つの異なるフィードストックを生成することができた。
【0039】
VGO1:フルVGO
VGO2:脱芳香族VGO(芳香族を含まない)
VGO3:パラフィン系VGO(芳香族やナフテンを含まない)
VGO4:VGO中に存在するすべてのパラフィンと20%のナフテンを含む供給原料
VGO5:VGO中に存在するすべてのパラフィンおよびすべての単環ナフテンを含む供給原料
VGO6:VGOに存在するすべてのパラフィンと20%の軽質ナフテンを含む供給原料。
【0040】
【表1】
【0041】
完全VGO(VGO1として識別される)および溶媒抽出VGO(VGO2−VGO6として識別される)以外に、2つの未変換油流(UCO1およびUCO2)も比較例のフィードストックとして提供された。
【0042】
表2は、これらの2つの流れの主な違いは、それらの異なる水素含量(UCO1=14.3重量%およびUCO2=13.7重量%)にあることを示している。水素化処理/水素化分解は、蒸気分解装置内の真空留出物の処理を可能にする従来の方法である。
【0043】
【表2】
【0044】
一回通過蒸気分解装置の収率(すべての異なる供給原料において重量%)が表3に提供されている。これらの収率は、下記の特性、供給速度=30トン/時、コイル出口温度(COT)775℃、蒸気/油比=0.75w/w、コイル出口圧力(COP)=1.7baraを使用するSpyroソフトウエアを使用して推定された。
【0045】
【表3】
【0046】
上記の実施例において、VGO2は、芳香族は完全に失ったが、全てのナフテンを有するラフィネートであり、VGO3は芳香族とナフテンとを完全に失ったラフィネートであり、VGO4−6は、蒸気分解装置への供給原料にいくらかのナフテンを依然として有することの効果を示す:VGO4=8重量%ナフテン;VGO5=17重量%のナフテン;VGO6=3重量%のナフテン)。本発明者らは、ラフィネート組成物が、溶媒抽出処理の効率および経済的なトレードオフによって部分的に決定されることを見出した:即ち、より高い温度およびより高い溶媒/油比は、芳香族およびナフテン含量を低下させるが、エネルギー消費はより高くなる。これらの芳香族およびナフテン含量の範囲は、記載した先行技術文献、すなわちNouri et al.(Arom=19%およびNaph=28%)およびGB1 248 814(「ラフィネートは軽油のすべてのパラフィンおよびシクロパラフィンを含有する」および「抽出物は軽油に含まれる芳香族化合物の71%を含有する」のでかなりの量の芳香族化合物がまだラフィネートにある)によって示されるものとは異なる。
【0047】
表3から、VGOの脱芳香族化(VGO2)は、完全VGO(VGO1)を処理するのと比較してプロピレンおよびエチレンの収率を50%向上させ、同時に、C9−プラス成分の生成を88%低減することが分かる。その後、全てのナフテンを除去(VGO3)することにより、プロピレンとエチレンの収率が48.7%(VGO2よりも3.3%高い)までさらに増加し、C9プラス生成量が更に削減される。
【0048】
全ての溶媒抽出VGOは、未変換油よりも優れたエチレンおよびプロピレン収率を示し、水素または資本集約的水素化処理ユニットを必要としないという利点がある。
図1
図2