【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム、COI拠点「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」委託研究開発、および平成26年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構委託研究事業「次世代がん医療創生研究事業(P−CREATE)における、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の態様]
<ポリマー>
本実施形態のポリマーは、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)、及び
下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)
を有する。
【0017】
【化5】
[式中、mは1又は2を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0018】
前記一般式(I)及び(II)中、mは1又は2であり、1が好ましい。
前記一般式(I)中、Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。
Lの2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ベンジレン基等が挙げられる。
Lの2価の芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ニトロ基、ハロゲン化物等が挙げられる。
Lの2価の脂肪族炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。Lの2価の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ハロゲン化物等が挙げられる。
中でも、Lとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ベンジレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基又はベンジレン基がより好ましい。
【0019】
前記一般式(I)中、R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
R
1の脂肪族炭化水素基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。R
1の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、シクロヘキシル基、トリハロメチル基等が挙げられる。
R
1の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ニトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
なかでも、R
1としては、水素原子又は脂肪族炭化水素基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0020】
前記一般式(I)中、XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。
前記一般式(I)中、R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
xの脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
R
xの芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ニトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
R
x1及びR
x2の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、シクロヘキシル基、トリハロメチル基挙げられる。
R
x1及びR
x2の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ヒトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
中でも、XとしてはOR
xが好ましく、OH(ヒドロキシ基)がより好ましい。
【0021】
本実施形態のポリマーは、前記繰り返し単位(I)及び(II)以外の他の繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(III)」という場合がある)を有していてもよい。
繰り返し単位(III)としては、親水性の繰り返し単位が好ましく、例えば、ポリエチレングリコールから誘導される繰り返し単位、ポリ(エチルエチレンホスフェート)から誘導される繰り返し単位、ポリビニルアルコールから誘導される繰り返し単位、ポリビニルピロリドンから誘導される繰り返し単位、ポリ(オキサゾリン)から誘導される繰り返し単位、ポリ(N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)(PHPMA)から誘導される繰り返し単位等が挙げられる。中でも、繰り返し単位(III)としては、ポリエチレングリコールから誘導される繰り返し単位が好ましい。
【0022】
本実施形態において、繰り返し単位(I)〜(III)の含有量は特に限定されない。
繰り返し単位(I)の含有量は、ポリマーを構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、5〜100モル%が好ましく、10〜80モル%がより好ましく、20〜50モル%が更に好ましい。
繰り返し単位(II)の含有量は、ポリマーを構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、0〜80モル%が好ましく、10〜60モル%がより好ましく、20〜40モル%が更に好ましい。
繰り返し単位(III)の含有量は、ポリマーを構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、0〜95モル%が好ましく、20〜90モル%がより好ましく、50〜80モル%が更に好ましい。
【0023】
本実施形態のポリマーの分子量は、2000〜1000000Dが好ましく、5000〜100000Dがより好ましく、10000〜40000Dがさらに好ましい。
【0024】
<ポリマーの製造方法(1)>
本実施形態のポリマーの製造方法(以下、「製造方法(1)」という場合がある)は、下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と下記一般式(1a)で表される化合物(1a)とを反応させて、下記一般式(I’)で表される繰り返し単位及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、前記ポリマー(P2)を弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)及び下記一般式(II−1)で表される繰り返し単位(II−1)を有するポリマーを得る工程(2)と、を含む。
【0025】
【化6】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0026】
前記式一般式(I’)、(II’)、(I)及び(II−1)中、m、L、R
1及びR
xは前記一般式(I)及び(II)中のm、L、R
1及びR
xと同様である。
前記一般式(1a)及び(I’)中、Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Ra
11及びRa
12が相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す場合、化合物(1a)は環状アセタール又は環状ケタールとなる。
前記一般式(1a)中、n1及びn2はそれぞれ独立に0又は1であり、1が好ましい。
【0027】
(工程(1))
製造方法(1)の工程(1)は、ポリマー(P1)と化合物(1a)とのアミノリシス反応である。工程(1)により、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a)のアセタール構造又はケタール構造が導入される。
工程(1)の反応温度は、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a)のアセタール構造又はケタール構造が導入される条件であれば特に限定されないが、通常4℃〜100℃であり、室温〜40℃が好ましい。
工程(1)の反応時間は、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a)のアセタール構造又はケタール構造が導入される条件であれば特に限定されず、反応時間、化合物(1a)の種類や量によって選択できるが、通常4時間〜5日間である。
【0028】
(工程(2))
製造方法(1)の工程(2)において、ポリマー(P2)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解し、ポリマー(P2)の繰り返し単位(I’)のアセタール構造をアルデヒド、又はケタール構造をケトンに変換する。
加水分解は、ポリマー(P2)の繰り返し単位(I’)のアセタール構造をアルデヒド、又はケタール構造をケトンに変換できる条件であれば特に限定されない。例えば、(i)0.1N塩酸で30分程度処理する方法、(ii)アセトン及びインジウム(III)トリフルオロメタンスルホネート(触媒)の存在下で処理する方法、(iii)30℃の水中で触媒量のテトラキス(3,5−トリフルオロメチルフェニル)ホウ酸ナトリウムを用いる方法、(iv)室温でウェットニトロメタン中、1〜5モル%のEr(OTf)
3を用いる方法、(v)ほぼ中性のpH条件下、室温でウェットニトロメタン中、触媒量のセリウム(III)トリフレートを用いる方法等、公知の方法が挙げられる。
【0029】
<ポリマーの製造方法(2)>
本実施形態のポリマーの製造方法(以下、「製造方法(2)」という場合がある)は、下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と下記一般式(1a)で表される化合物(1a)とを反応させて、下記一般式(I’)で表される繰り返し単位及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、
前記ポリマー(P2)をアルカリ条件下の加水分解、エステル交換反応、アミノリシス、並びにアルカリ条件下の加水分解及びアミドカップリングからなる群より選ばれる少なくとも1種の処理に付し、下記一般式(I’)で表される繰り返し単位(I’)及び下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P3)を得る工程(2a)と、
前記ポリマー(P3)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマーを得る工程(2b)と、
を含む。
【0030】
【化7】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0031】
前記一般式(I’)、(II’)、(I)及び(II)中、m、L,X、R
x、R
x1及びR
x2は、前記一般式(I)及び(II)中のm、L,X、R
x、R
x1及びR
x2と同様である。
前記一般式(1a)及び(I’)中、R
1、Ra
11、Ra
12は前記と同様である。
【0032】
(工程(1))
製造方法(2)の工程(1)は、製造方法(1)の工程(1)と同様である。
【0033】
(工程(2a))
製造方法(2)の工程(2a)では、ポリマー(P2)を所定の処理に付すことにより、繰り返し単位(I’)がアセタール構造で保護された状態で、繰り返し単位(II’)の側鎖に所望の官能基を導入することができる。
アルカリ条件下の加水分解は、例えば、0.5NのNaOH溶液とDMSOとの混合物(体積比:50/50)中、室温で30分処理する方法、DMSO中トリエチルアミンで室温にて1時間処理する方法、DMSO中ジイソプロピルエチルアミンで室温にて1時間処理する方法等が挙げられる。アルカリ条件下の加水分解により得られるカルボン酸残基は、後述するミセルのコア中のプロトンを引き寄せ、ヒドラゾン結合の加水分解を容易にし、低pH条件下において生体材料の放出を可能とする。
アミノリシスは、例えば、エチレンジアミン又はジアミノプロパンによりエステルを開裂してアミノ官能基を導入することができる。アミノ基導入により、蛍光色素と結合させることができる。また、他のカルボン酸基を有する画像診断剤と、公知のアミノカップリングに付すこともできる。アセタール構造及びケタール構造は、このようなアミノ基導入条件下では安定なので、ポリマーの多官能ナノキャリアデザインに供することができる。
アルカリ条件下の加水分解及びアミドカップリングは、例えば、アルカリ条件下の加水分解によりエステル残基を処理後、生成したカルボン酸をエステル交換反応もしくは公知のカップリング剤を用いたアミドカップリングに付すことができる。ヒドロキシ/アミン官能基による適切な構造モチーフにより、ポリマーの親水性/疎水性のバランスを所望のものとすることができ、極性又は非極性溶媒中での自己組織化に寄与する。
【0034】
(工程(2b))
製造方法(2)の工程(2b)において、ポリマー(P3)を弱酸性条件下で加水分解し、ポリマー(P3)の繰り返し単位(I’)のアセタール構造をアルデヒドに変換する。加水分解の条件は、製造方法(1)の工程(2)と同様である。
【0035】
<薬物複合体>
本実施形態の薬物複合体は、前記ポリマー、及び前記ポリマーに結合した少なくとも1種の薬物を含有する。
前記薬物は、特に限定されず、所望の活性を有する薬物を結合させることができる。なお、本明細書において、前記薬物は、「活性分子」と表記されることもある。ここで、活性分子とは、何らかの生理学的又は化学的活性を有する分子をいう。活性分子が有する生理学的活性又は化学的活性の種類は特に限定されず、医薬品の有効成分として公知の化合物が有する生理活性や、体内に投与されて使用される診断薬が有する化学的又は生理学的活性を含み得る。前記薬物(活性分子)の例としては、例えば、抗癌剤、シグナル伝達阻害剤、代謝拮抗剤、鎮痛剤、抗炎症剤、造影剤等が挙げられるが、これらに限定されない。抗癌剤としては、例えば、ビンブラスチンなどのビンカアルカロイド、OSU−03012などのCOX−2選択的非ステロイド性抗炎症剤、(+)−JQ1などのBETブロモドメイン阻害剤、K252Aなどのスタウロスポリン類縁体、ヒドララジンなどの脱メチル化剤、ベンダムスチン及びクロラムブシルなどのアルキル化剤、AZD39などのファシネルトランスフェラーゼ阻害剤、フルルビプロフェンなどの非ステロイド系抗炎症剤等を挙げることができる。前記ポリマーとの薬物複合体とすることにより、副作用により用量が制限される抗癌剤のような薬物であっても、副作用の緩和が期待できる。そのため、そのような薬物は、前記ポリマーと結合させる薬物の好適な例である。そのような薬物の例としては、例えば、ビンブラスチンなどのビンカアルカロイド系化合物を挙げることができる。
なかでも、前記薬物としては、ビンブラスチンなどのビンカアルカロイド、K252Aなどのスタウロスポリン類縁体、(+)−JQ1などのBETブロモドメイン阻害剤が好ましい。
【0036】
前記ポリマーと前記薬物との結合は、前記薬物にアルデヒド基とシッフ塩基を形成し得る窒素原子含有基(以下、「シッフ塩基形成基」という場合がある)がある場合には、当該シッフ塩基形成基と、前記ポリマーの繰り返し単位(I)に含まれるアルデヒド基とを反応させることにより行うことができる。そのようなシッフ塩基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジド基等が挙げられる。また。前記薬物がシッフ塩基形成基を有しない場合には、シッフ塩基形成基を当該薬物に導入すればよい。シッフ塩基形成基の導入は、公知の方法により行うことができる。
【0037】
例えば、ビンブラスチンにはシッフ塩基形成基が存在しないため、ヒドラジド基を導入してデスアセチルビンブラスチン・ヒドラジド(DAVBNH)とすることにより、前記ポリマーに結合させることができる。また、K252Aなどのスタウロスポリン類縁体、BETブロモドメインインヒビター(+)−JQ1についても、同様の方法によりシッフ塩基形成基を導入することが出来る。
【0038】
本実施形態の薬物複合体は、下記一般式(Ia)で表される繰り返し単位(Ia)、及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマーであることが好ましい。
【0039】
【化8】
[式中、mは1又は2を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。BMは活性分子を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0040】
前記一般式(Ia)及び(II)中、m、L、R
1、X、R
x、R
x1及びR
x2は、前記一般式(I)及び(II)中のm、L、R
1、X、R
x、R
x1及びR
x2と同様である。
前記一般式(Ia)中、BMは活性分子を表す。活性分子としては、前記薬物において例示した化合物等が挙げられる。
【0041】
本実施形態の薬物複合体によれば、種々の薬物をポリマーに担持して生体内に搬送できる。前記ポリマーでは、導入するアルデヒド基又はケトン基の量を制御することができ、アルデヒド基又はケトン基に結合させる薬物の量も制御することができる。そのため、薬剤投与量を適切に制御することができる。
また、前記ポリマーにおいては、導入するアルデヒド基又はケトン基を、芳香族アルデヒド基、脂肪族アルデヒド基、芳香族ケトン基、脂肪族ケトン基から選択することができる。
芳香族アルデヒド基又は芳香族ケトン基のシッフ塩基は、脂肪族アルデヒド基又は脂肪族ケトン基のシッフ塩基よりも安定であるため、芳香族アルデヒド基を導入した場合には、薬物がより安定に保持される。そのため、疾患の状態や薬物の種類により、導入するアルデヒド基又はケトン基の種類を選択することにより、薬物の徐放性を制御することができる。さらに、本実施形態の薬物複合体では、薬物が前記ポリマーに保持されている間、薬物は安定に維持され、毒性も緩和されるため、副作用を軽減して治療効果を高めることができる。
【0042】
前記薬物複合体は、そのまま生体に投与することもできるが、公知の手法により、適宜他の成分と混合して製剤化されてもよい。したがって、本発明はまた、前記薬物複合体を含む医薬組成物も提供する。前記薬物複合体が製剤化される場合、剤型は特に限定されず、乳剤、エマルション剤、液剤、ゲル状剤、カプセル剤、軟膏剤、貼付剤、バップ剤、顆粒剤、錠剤、造影剤等とすることができる。また、前記薬物複合体は、ミセルの形態としてもよい。前記薬物複合体を含有するミセルは、公知の手法により調製することができる。例えば、前記薬物複合体を親油性又は親水性の溶媒に溶解又は懸濁し、当該溶解液又は懸濁液を親水性又は親油性の溶媒に滴下して撹拌することにより、前記薬物複合体を含有するミセルを調製することができる。
前記薬物複合体を含む医薬組成物は、任意に前記薬物複合体の他の成分を含んでもよい。他の成分は、医薬品分野において一般的に使用される成分を特に制限なく使用することができる。例えば、前記医薬組成物は、前記薬物複合体を薬学的に許容される担体に溶解又は懸濁したものであってもよい。薬学的に許容される担体としては、医薬分野において常用されるものを特に制限なく使用することができ、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、DMSO、ジメチルアセトアミド、エタノール、グリセロール、ミネラルオイル等を挙げることができる。また、他の成分としては、その他に、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤、賦形剤、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、防腐剤、着色剤、香料等が挙げられる。
【0043】
前記医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口又は非経口経路で投与することができる。なお、非経口経路は、経口以外の全ての投与経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、腟内及び腹腔内等への投与を包含する。また、投与は、局所投与であっても全身投与であってもよい。
前記医薬組成物は、単回投与又は複数回投与を行うことが可能であり、その投与期間及び間隔は、薬物の種類、疾患の種類及び状態等、投与経路、投与対象の年齢、体重及び性別等によって、適宜選択することができる。
前記医薬組成物の投与量は、その投与期間及び間隔は、薬物の種類、疾患の種類及び状態等、投与経路、投与対象の年齢、体重及び性別等によって、適宜選択することができる。前記医薬組成物の投与量は、治療的有効量とすることができ、例えば、1回につき体重1kgあたり0.01〜1000mg程度とすることができる。
【0044】
また、本実施形態の薬物複合体は、特にミセルの形態とした場合、pH感受性薬剤リリースの特性を示す。特に、生体内の環境を考えると、酸性化しているがんの周辺環境(pH6.6)および細胞質内に取り込まれた後エンドソーム(pH5)での薬剤リリースは、脂肪族アルデヒド基又は脂肪族ケトン基を導入した薬物複合体が優れている。
したがって、ビンブラスチン等の毒性の高い薬剤を用いる場合、pH5〜6.6での薬剤リリースが緩やかな芳香族アルデヒド基又は芳香族ケトン基を導入した薬物複合体が好ましい。一方、K252aやJQ−1等の比較的毒性の低い薬剤を用いる場合、pH5〜6.6での薬剤リリースが速い脂肪族アルデヒド基又は脂肪族ケトン基を導入した薬物複合体が好ましい。
【0045】
また、本実施形態の薬物複合体は、特にミセルの形態とした場合、薬物が前記ポリマーに保持されている間、薬物は安定に維持され、毒性も緩和されるため、副作用を軽減できる。そのため、本実施形態の薬物複合体のミセルは、薬剤単体よりも最大耐性用量(MTD)が伸びる。
【0046】
[第2の態様]
<化合物>
本発明の第2の態様にかかる化合物(以下、「化合物(K)」という場合がある。)は、下記一般式(k1)で表される化合物である。
【0047】
【化9】
[式中、Rk
1及びRk
2は同じまたは異なる残基であり、
(a)水素、ハロゲン、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、アシル、ニトロ、カルバモイル、低級アルキルアミノカルボニル、−NR
5R
6[ここで、R
5およびR
6は、水素、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換の低級アルキルアミノカルボニル、置換もしくは非置換の低級アリールアミノカルボニル、アルコキシカルボニル、カルバモイル、アシルからそれぞれ独立に選択されるか、またはR5およびR6は、ヘテロ環式基由来の窒素原子と結合している]、
(b)−CO(CH
2)
jR
4[ここで、jは1から6であり、R
4は、
(i)水素、ハロゲン、−N
3、
(ii)−NR
5R
6(ここで、R
5およびR
6は上記に定義されたとおりである)、
(iii)−SR
7(ここで、R
7は、水素、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のアラルキル、−(CH
2)
aCO
2R
10(ここで、aは、1または2であり、R
10は、水素および置換もしくは非置換の低級アルキルからなる群から選択される)および−(CH
2)
aCO
2NR
5R
6、
(iv)−OR
8、−OCOR
8(ここで、R
8は、水素、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリールから選択される)
からなる群から選択される]、
(c)−CH(OH)(CH
2)
jR
4(ここで、jおよびR
4は、上記に定義したとおりである);
(d)−(CH
2)
dCHR
11CO
2R
12または−(CH
2)
dCHR
11CONR
5R
6(ここで、dは、0から5であり、R
11は、水素、−CONR
5R
6、または−CO
2R
13であり、R
13は、水素または置換もしくは非置換の低級アルキルであり、R
12は、水素または置換もしくは非置換の低級アルキルである);
(e)−(CH
2)
kR
14[ここで、kは2から6であり、R
14は、ハロゲン、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、−COOR
15、−OR
15(ここで、R
15は、水素、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリールまたはアシルである)、−SR
7(ここで、R
7は、上記に定義したとおりである)、−CONR
5R
6、−NR
5R
6(ここで、R
5およびR
6は、上記に定義したとおりである)または−N
3である];
(f)−CH=CH(CH
2)
m1R
16[ここで、m1は、0から4であり、R
16は、水素、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換の低級アルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、−COOR
15、−OR
15(ここで、R
15は上記に定義したとおりである)、−CONR
5R
6または−NR
5R
6(ここで、R
5およびR
6は上記に定義したとおりである)];
(g)−CH=C(CO
2R
12)
2(ここで、R
12は、上記に定義したとおりである);
(h)−C≡C(CH
2)
nR
16(ここで、nは0から4であり、R
16は、上記に定義したとおりである);
(i)−CH
2OR
22(ここで、R
22は、3個の低級アルキル基が同じかもしくは異なっているトリ−低級アルキルシリルであるか、またはR
22は、R
8と同じ意味を有する);
(j)−CH(SR
23)
2および−CH
2−SR
7(ここで、R
23は、低級アルキル、低級アルケニルまたは低級アルキニルであり、R
7は、上記に定義したとおりである)
からなる群から、それぞれ独立して、選択され;
Rk
3は、水素、ハロゲン、アシル、カルバモイル、置換もしくは非置換の低級アルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換の低級アルキニルまたはアミノであり;
Wk
1およびWk
2は、独立して、水素、ヒドロキシであるか、またはWk
1およびWk
2は一緒に酸素を表す。]
【0048】
用語「低級アルキル」は、単独で用いられるかまたは他の基と合わせて用いられる場合、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜4個、特に好ましくは1〜3個または1〜2個の炭素原子を含む直鎖または分岐の低級アルキル基を意味する。これらの基には、特に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、アミル、イソアミル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシルなどがある。「低級アルコキシ」、「低級アルコキシカルボニル」、「低級アルキルアミノカルボニル」、「低級ヒドロキシアルキル」および「トリ−低級アルキルシリル」の低級アルキル部分は、上記に定義した「低級アルキル」と同じ意味を有する。
【0049】
「低級アルケニル」基は、直鎖または分岐であってもよく、Z型またはE型であってもよいC
2〜C
6アルケニル基として定義する。このような基には、ビニル、プロペニル、1−ブテニル、イソブテニル、2−ブテニル、1−ペンテニル、(Z)−2−ペンテニル、(E)−2−ペンテニル、(Z)−4−メチル−2−ペンテニル、(E)−4−メチル−2−ペンテニル、ペンタジエニル、例えば、1,3または2,4−ペンタジエニルなどがある。より好ましいC2〜C6−アルケニル基は、C
2〜C
5−、C
2〜C
4−アルケニル基、さらにより好ましくはC
2〜C
3−アルケニル基である。
【0050】
用語「低級アルキニル」基は、直鎖または分岐であってもよいC
2〜C
6−アルキニル基を意味し、エチニル、プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−メチル−1−ペンチニル、3−ペンチニル、1−ヘキシニル、2−ヘキシニル、3−ヘキシニルなどがある。より好ましいC
2〜C
6−アルキニル基は、C
2〜C
5−、C
2〜C
4−アルキニル基、さらにより好ましくはC
2〜C
3−アルキニル基である。
【0051】
用語「アリール」基は、6から14個までの環状炭素原子を含むC
6〜C
14−アリール基を意味する。これらの基は、単環式、二環式、または三環式であってもよく、縮合環である。好ましいアリール基には、フェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナンスレニルなどがある。「アリールカルボニル」基および「アリールアミノカルボニル」基のアリール部分は、上記定義と同じ意味を有する。
【0052】
用語「ヘテロアリール」基は、窒素、硫黄または酸素から独立して選択される1から3個のヘテロ原子を含み得、C
3〜C
13−ヘテロアリール基をいう。これらの基は、単環式、二環式または三環式であってもよい。本発明のC
3〜C
13ヘテロアリール基には、ヘテロ芳香族、ならびに飽和および部分飽和ヘテロ環基などがある。これらのヘテロ環は、単環式、二環式、三環式であってもよい。好ましい5または6員ヘテロ環基は、チエニル、フリル、ピロリル、ピリジル、ピラニル、モノホリニル、ピラジニル、メチルピロリル、およびピリダジニルである。C
3〜C
13−ヘテロアリールは、二環式ヘテロ環基であってもよい。好ましい二環式ヘテロ環基は、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、インドリル、イミダゾリル、およびピリミジニルである。最も好ましいC
3〜C
13−ヘテロアリールは、フリルおよびピリジルである。
【0053】
用語「低級アルコキシ」には、1から6個の炭素原子、好ましくは1から5個、より好ましくは1から4個、特に好ましくは1から3個または1から2個の炭素原子を含むアルコキシ基が含まれ、直鎖または分岐であってもよい。これらの基には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、イソプロポキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシなどがある。
【0054】
用語「アシル」には、1から6個の炭素原子、好ましくは1から5個、1から4個、1から3個または1から2個の炭素原子を含む低級アルカノイルが含まれ、直鎖または分岐であってもよい。これらの基には、好ましくは、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、tert−ブチリル、ペンタノイルおよびヘキサノイルなどがある。「アシルオキシ」基のアシル部分は、上記定義と同じ意味を有する。
【0055】
用語「ハロゲン」には、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードなどがある。
【0056】
用語「アラルキル」基は、アルキル基がアリールによって置換されているC
7〜C
15−アラルキルをいう。該アルキル基およびアリールは、上記に定義したC
1〜C
6−アルキル基およびC
6〜C
14−アリール基から選択することができ、ここで、炭素原子の総数は7から15個である。好ましいC
7〜C
15−アラルキル基は、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、フェニルイソプロピル、フェニルブチル、ジフェニルメチル、1,1−ジフェニルエチル、1,2−ジフェニルエチルである。「アラルキルオキシ」基のアラルキル部分は、上記定義と同じ意味を有する。
【0057】
置換低級アルキル基、置換低級アルケニル基、および置換低級アルキニル基は、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、カルボキシル、低級アルコキシカルボニル、ニトロ、ハロゲン、アミノ、モノまたはジ低級アルキルアミノ、ジオキソラン、ジオキサン、ジチオラン、およびジチオンなどの独立して選択される1から3個の置換基を有する。置換低級アルキル基、置換低級アルケニル基および置換低級アルキニル基の低級アルキル置換部分、ならびに置換低級アルキル基、置換低級アルケニル基および置換低級アルキニル基の低級アルコキシ置換基、低級アルコキシカルボニル置換基、モノまたはジ低級アルキルアミノ置換基の低級アルキル部分は、上記に定義した「低級アルキル」と同じ意味を有する。
【0058】
置換アリール基、置換ヘテロアリール基および置換アラルキル基はそれぞれ、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、ニトロ、アミノ、モノまたはジ低級アルキルアミノ、およびハロゲンなどの独立して選択される1から3個の置換基を有する。
【0059】
窒素原子と結合したR
5およびR
6によって形成されるヘテロ環基には、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペリジノ、モルホリニル、モルホリノ、チオモルホリノ、N−メチルピペラジニル、インドリル、およびイソインドリルなどがある。
【0060】
α−アミノ酸基には、グリシン、アラニン、プロリン、グルタミン酸およびリジンなどがあり、L−型、D−型またはラセミ体の型であってもよい。
【0061】
好ましくは、Rk
1およびRk
2は、水素、ハロゲン、ニトロ、−CH
2OH、−(CH
2)
kR
14、−CH=CH(CH
2)
mR
16、−C≡C(CH
2)
nR
15、−CO(CH
2)
jR
4(ここで、R
4は−SR
7である)、CH
2O−(置換または非置換の)低級アルキル(ここで、置換低級アルキルは、好ましくは、メトキシメチル、メトキシエチルまたはエトキシメチルである)、−NR
5R
6からなる群から独立して選択される。より好ましくは、Rk
1およびRk
2は、水素である。
【0062】
Rk
1およびRk
2の上記好ましい意味において、残基R
14は、好ましくは、フェニル、ピリジル、イミダゾリル、チアゾリル、テトラゾリル、−COOR
15、−OR
15(ここで、R
15は、好ましくは、水素、メチル、エチル、フェニルまたはアシルから選択される)、−SR
7(ここで、R
7は、好ましくは、置換または非置換の低級アルキル、2−チアゾリンおよびピリジルから選択される)および−NR
5R
6(ここで、R
5およびR
6は、好ましくは、水素、メチル、エチル、フェニル、カルバモイルおよび低級アルキルアミノカルボニルから選択される)から選択される。さらに、残基R
16は、好ましくは、水素、メチル、エチル、フェニル、イミダゾール、チアゾール、テトラゾール、−COOR
15、−OR
15および−NR
5R
6(ここで、残基R
15、R
5およびR
6は、上記した好ましい意味を有する)から選択される。Rk
1およびRk
2の上記好ましい意味において、残基R
7は、好ましくは、置換または非置換の低級アルキル、置換または非置換のフェニル、ピリジル、ピリミジニル、チアゾールおよびテトラゾールからなる群から選択される。さらに、kは、好ましくは2、3または4であり、jは、好ましくは1または2であり、m1およびnは、独立して、好ましくは0または1である。
【0063】
好ましくは、Rk
3は、水素またはアセチル、最も好ましくは水素である。
【0064】
好ましくは、それぞれのWk
1およびWk
2は水素である。
【0065】
前記化合物(K)は、下記式(k1−1)で表されることが好ましい。
【0067】
<化合物(K)の製造方法>
化合物(K)は、例えば、下記一般式(k0)で表される化合物を、無水ヒドラジン又はヒドラジン水和物の存在下、無溶媒で還流して製造することができる。また、例えば、下記一般式(k0)で表される化合物をメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、アセトニトリル、トルエン等の溶媒に溶解し、無水ヒドラジンに添加して反応させることにより製造することができる。反応温度及び反応時間は特に限定されないが、例えば室温〜50℃で30分〜15時間反応させることができる。
【0069】
<薬物複合体>
本発明の第二の態様は、下記一般式(ka)で表される繰り返し単位(ka)、及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマーを含有する薬物複合体(以下、「薬物複合体(K)」という場合がある。)である。
【0070】
【化12】
[式(ka)中、m、L及びR
1は、前記一般式(I)中のm、L及びR
1と同様である。Rk
1、Rk
2、Rk
3、Wk
1及びWk
2は、前記一般式(k1)中のRk
1、Rk
2、Rk
3、Wk
1及びWk
2と同様である。式(II)中、X及びmは、前記一般式(II)のX及びmと同様である。]
【0071】
前記一般式(ka)中、mは1が好ましい。
前記一般式(ka)中、Lはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ベンジレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基又はベンジレン基がより好ましい。
前記一般式(ka)中、R
1は水素原子又は脂肪族炭化水素基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
前記一般式(ka)中、Rk
1およびRk
2はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、ニトロ、−CH
2OH、−(CH
2)
kR
14、−CH=CH(CH
2)
mR
16、−C≡C(CH
2)
nR
15、−CO(CH
2)
jR
4(ここで、R
4は−SR
7である)、CH
2O−(置換または非置換の)低級アルキル(ここで、置換低級アルキルは、好ましくは、メトキシメチル、メトキシエチルまたはエトキシメチルである)又は−NR
5R
6であることが好ましく、水素であることがより好ましい。
前記一般式(ka)中、Rk
3は、水素またはアセチルであることが好ましく、水素であることがより好ましい。
前記一般式(ka)中、Wk
1およびWk
2は水素であることが好ましい。
前記一般式(II)中、mは1が好ましい。
前記一般式(II)中、XはOR
xが好ましく、OH(ヒドロキシ基)がより好ましい。
【0072】
前記薬物複合体(K)は、下記一般式(ka−1)で表される繰り返し単位(ka−1)、及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマーを含有することが好ましい。
【0073】
【化13】
[式(ka−1)中、m、L及びR
1は、前記一般式(I)中のm、L及びR
1と同様である。式(II)中、X及びmは、前記一般式(II)のX及びmと同様である。]
【0074】
前記一般式(ka−1)中、mは1が好ましい。
前記一般式(ka−1)中、Lはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ベンジレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基又はベンジレン基がより好ましい。
前記一般式(ka−1)中、R
1は水素原子又は脂肪族炭化水素基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
前記一般式(II)中、XはOR
xが好ましく、OH(ヒドロキシ基)がより好ましい。
【0075】
化合物(K)又は薬物複合体(K)は、既存の癌治療薬が有効性を示さない悪性癌や転移癌に対して、有効性を示す。そのため、化合物(K)及び薬物複合体(K)は、既存の癌治療薬に対して耐性である癌の治療薬として有用である。
【0076】
化合物(K)は、薬物複合体(K)とすることにより、第1の態様の薬物複合体と同様に、化合物(K)の徐放性を制御することができる。化合物(K)がポリマーに保持されている間、化合物(K)は安定に維持され、毒性も緩和されるため、副作用を軽減して治療効果を高めることができる。
また、薬物複合体(K)を含有するミセルを調製することにより、第1の態様のミセルと同様に、生体内のpH環境に依存して、薬物複合体(K)からの化合物(K)のリリースを制御することができる。薬物複合体(K)を含有するミセルの調製は、第1の態様の薬物複合体のミセルと同様に、公知の方法により調製することができる。例えば、薬物複合体(K)を親油性又は親水性の溶媒に溶解又は懸濁し、当該溶解液又は懸濁液を親水性又は親油性の溶媒に滴下して撹拌することにより、薬物複合体(K)を含有するミセルを調製することができる。
なお、薬物複合体(K)は、第1の態様の薬物複合体において、薬物が化合物(K)である態様であり、第1の態様の薬物複合体に包含される。また、薬物複合体(K)は、第1の態様における一般式(Ia)において、BMが化合物(K)である態様であるということもできる。
【0077】
<医薬組成物>
化合物(K)又は薬物複合体(K)は、そのまま生体に投与することもできるが、公知の手法により、適宜他の成分と混合して製剤化されてもよい。したがって、本発明はまた、化合物(K)又は薬物複合体(K)を含む医薬組成物も提供する。化合物(K)又は薬物複合体(K)が製剤化される場合、剤型は特に限定されず、乳剤、エマルション剤、液剤、ゲル状剤、カプセル剤、軟膏剤、貼付剤、バップ剤、顆粒剤、錠剤、造影剤等とすることができる。また、薬物複合体(K)は、ミセルの形態としてもよい。
化合物(K)又は薬物複合体(K)を含む医薬組成物は、任意に化合物(K)又は薬物複合体(K)の他の成分を含んでもよい。他の成分は、医薬品分野において一般的に使用される成分を特に制限なく使用することができる。例えば、前記医薬組成物は、化合物(K)又は薬物複合体(K)を薬学的に許容される担体に溶解又は懸濁したものであってもよい。薬学的に許容される担体としては、医薬分野において常用されるものを特に制限なく使用することができ、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、DMSO、ジメチルアセトアミド、エタノール、グリセロール、ミネラルオイル等を挙げることができる。また、他の成分としては、その他に、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤、賦形剤、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、防腐剤、着色剤、香料等が挙げられる。
【0078】
前記医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口又は非経口経路で投与することができる。なお、非経口経路は、経口以外の全ての投与経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、腟内及び腹腔内等への投与を包含する。また、投与は、局所投与であっても全身投与であってもよい。
前記医薬組成物は、単回投与又は複数回投与を行うことが可能であり、その投与期間及び間隔は、薬物の種類、疾患の種類及び状態等、投与経路、投与対象の年齢、体重及び性別等によって、適宜選択することができる。
前記医薬組成物の投与量は、その投与期間及び間隔は、薬物の種類、疾患の種類及び状態等、投与経路、投与対象の年齢、体重及び性別等によって、適宜選択することができる。前記医薬組成物の投与量は、治療的有効量とすることができ、例えば、1回につき体重1kgあたり0.01〜1000mg程度とすることができる。
【0079】
前記医薬組成物は、K252a又はその類縁体が適用可能な疾患に対して、特に制限なく適用することができる。前記医薬組成物は、特に、腫瘍を治療又は予防するための医薬組成物として、好適に用いることができる。前記医薬組成物が適用可能な腫瘍は、特に限定されないが、肺癌、膵癌、頭頸部癌、中皮腫等を好適に挙げることができる。
また、化合物(K)、薬物複合体(K)、又は薬物複合体(K)のミセルは、EGFRのゲートキーパー変異(d746−750/T790M、d746−750/T790M/C797S、L858R,T790Mなど)有する腫瘍細胞、及びc−Kit、FLT3、若しくはRETに変異を有する腫瘍細胞に対して、高い細胞傷害活性を示す。そのため、前記医薬組成物は、これらの変異を有する腫瘍を治療又は予防するための医薬組成物として、特に好適に用いることができる。例えば、前記医薬組成物は、
図42に示す変異を有する腫瘍を治療又は予防するための医薬組成物として好適に用いることができる。これらの変異を有する癌は、既存の腫瘍治療薬に対して耐性であることが多いため、前記医薬組成物は極めて有用性が高い。そのため、本発明は、既存の腫瘍治療薬に対して耐性である腫瘍治療又は予防するための前記医薬組成物もまた提供する。既存の腫瘍治療薬としては、特に限定されないが、ゲフェチニブ、アファチニブ、オシメチニブ、ミドスタウリン、エルロチニブ、AG1478、ゲムシタビン、シスラプチン、ペメトレキセド等が挙げられる。また、前記医薬組成物の好適な使用態様として、既存の腫瘍治療薬との併用が挙げられる。そのため、本発明は、化合物(K)又は薬物複合体(K)と、少なくとも1種の他の腫瘍治療薬と、を含む、腫瘍を治療又は予防するための医薬組成物もまた提供する。
【0080】
また、他の態様において、本発明は、1)腫瘍を治療又は予防するための医薬組成物の製造における、化合物(K)又は薬物複合体(K)若しくはそのミセルの使用、2)化合物(K)又は薬物複合体(K)若しくはそのミセルを対象(例、
図42に示す変異を有する腫瘍に罹患した感謝)に投与することを含む、腫瘍を治療又は予防する方法、3)腫瘍の治療又は予防に使用するための化合物(K)又は薬物複合体(K)若しくはそのミセル、4)腫瘍を治療又は予防するための化合物(K)又は薬物複合体(K)若しくはそのミセルの使用、を提供する。
【実施例】
【0081】
本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明の実施態様は、これら実施例の記載に限定されるものではない。
【0082】
[合成例1]メトキシ−ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(β−ベンジル−アスパルタミド)の合成
α−メトキシ−ω−アミノ ポリ(エチレングリコール)の末端第一級アミノ基によって開始される、β−ベンジルアスパラギン酸 N−カルボキシアルデヒドの開環重合により、メトキシ−ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(β−ベンジル−アスパルタミド)(MeO−PEG−PBLA;PEG分子量=12kDa;PBLAの重合度=40)コポリマーを合成した。ω−アミン基は、アセチル化によりブロックした。
【0083】
[合成例2]芳香族アセタール基導入ポリマーの合成
PEG−PBLAポリマー(220mg、0.011mmol)をDMF(2mL)で溶解し、{〔4−(ジメトキシメチル)フェニル〕メタンアミン}(100μL、0.58mmol)を添加して、徐々に温度を上げて40℃で4日間撹拌した。特性分析のために、反応混合物の一部をエーテル沈殿し、芳香族アセタール基導入ポリマーを回収した。
反応スキームを
図1に示す。また、得られた芳香族アセタール基導入ポリマーの
1H−NMR解析結果を
図2に示す。
1H−NMR解析により25個のベンジルエステルユニットのアミドへの置換が、確認された。残りのベンジルエステル(40−25=15)は、おそらくエーテル沈殿操作中に、加水分解された。
【0084】
[合成例3]芳香族アルデヒド基含有ポリマーの合成
アミノリシス反応後、反応混合物を酸性化し(0.1N HCl、100μL、30分)、その後、水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、透析袋からアルデヒド基導入ポリマーを回収した。反応スキームを
図1に示す。また、得られた芳香族アルデヒド基含有ポリマーの
1H−NMR解析結果を
図3に示す。27個のアルデヒドユニットが
1H−NMRスペクトラムで確認された。
【0085】
[合成例4]脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの合成
脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの合成は、{〔4−(ジメトキシメチル)フェニル〕メタンアミン}に替えて、1−アミノ−3,3−ジエトキシプロパンを使用した以外は、芳香族アルデヒド基含有ポリマーの合成と同様の方法で行った。反応スキームを
図1に示す。また、中間体である脂肪族アセタール基含有ポリマーの
1H−NMR解析結果を
図4に示す。また、得られた芳香族アルデヒド基含有ポリマーの
1H−NMR解析結果を
図5に示す。23個のアルデヒドユニットが
1H−NMRスペクトラムで確認された。
【0086】
[実施例1]薬物複合体の調製(1)
<DAVBNHの合成>
硫酸ビンブラスチンは、BOC Science(US)から購入した。硫酸ビンブラスチンはアルカリ処理によりビンブラスチンに変換した。硫酸ビンブラスチン(200mg)を水(3mL)に溶解し、水酸化ナトリウム溶液(5N)を滴下しながら添加した。
これにより、白い懸濁液を得た。ジクロロメタン(DCM)により、この懸濁液からフリーのビンブラスチンを抽出した。DCM相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、エバポレートして約150mgのフリーのビンブラスチンを得た。
ビンブラスチン(150mg)を無水メタノール(1mL)に溶解し、無水ヒドラジン(1mL)に添加した。反応混合物を55℃で22時間撹拌した。反応混合物をエバポレートして乾燥体を得た。エバポレーションでは、トルエンを共エバポレーション溶媒として用いた。得られた生成物を、さらなる精製を行うことなく、薬物複合体とミセルの調製に使用した。当該生成物をHPLCで分析した。分析結果を
図6A及び
図6Bに示す。HPLC解析の条件は以下の通りである。
GE’s IncrtSustain C18カラム 4.6×250mm
溶媒A:0.1%トリフルオロ酢酸 pH2.0
溶媒B:アセトニトリル
5%B〜80B%の勾配
流速:1mL/分、30分
UV検出:波長220nm
なお、ビンブラスチンからのDAVBNHの合成スキームを以下に示す。
【0087】
【化14】
【0088】
<薬物複合体の調製>
上記のように得られた生成物(DAVLBH)と芳香族アルデヒド基含有ポリマーとの反応をDMSO溶液中で35〜40℃で72時間行い、その後、透析により溶媒をジメチルアセトアミド(DMAc)に交換した(4時間透析、透析溶媒は1度交換)。この溶媒交換により透明なDMAc溶液が生成された。なお、芳香族アルデヒド基導入ポリマーとDAVBNHとの結合反応スキームを
図7に示す
【0089】
<DAVBNH結合ポリマーミセルの調製>
上記のように得られたDMAc溶液をミセルの調製に使用した。薬物複合体のDMAc溶液を、容量比で水10に対して1の割合で、水に滴下してボルテックスし、ミセルを調製した。この溶液を、分画分子量(MWCO)3500Daの透析バッグで24時間、水で透析した。透析媒体は、透析中に5回交換した。透析バッグ中の溶液をフィルター(0.22μm)ろ過し、100kDa MWCOのフィルターメンブランを用いた限外濾過により濃縮した。
上記方法に従って、DAVBNHの負荷量(14%、25%、33%)が異なる3種類のミセルを調製した。なお、薬物結合反応において、ポリマーに添加されたDAVLBHのポリマーに対する質量比を、DAVBNHの負荷量とした。薬物結合反応の結果と薬物負荷量の違いを
1H NMR解析により確認した。ミセル水溶液は、凍結乾燥し、NMR解析のためにd
6DMSOに再溶解した。
1H NMR解析の結果を
図8A、
図8B及び
図8Cに示す。
図8A、
図8B及び
図8Cは、DAVBNHの負荷量がそれぞれ14%、25%、33%であるミセルの解析結果である。
1H NMR解析により、薬物結合反応中のDAVBNHの負荷量を変えることにより、ポリマーに結合するDAVBNHの量を制御できることが確認された。
【0090】
次に、ミセル中のDAVBNH濃度をHPLCにより測定した。ミセル溶液を0.1N HCl溶液中で2時間インキュベートし、その後、放出された薬物を波長220nmのUV検出器を用いてHPLCにより測定した。フリーのDAVBNH溶液を標準溶液として使用した。HPLCの分析結果を
図9A及び
図9Bに示す。HPLC解析の条件は以下の通りである。
TOSOH’s TSKgel ODS−80Tmカラム 4.6×150mm
20mM リン酸バッファー(pH2.5)及びメタノール(1:1)均一濃度
流速:0.6mL/分
UV検出:波長220nm
【0091】
<ミセルサイズとPDIの測定>
ミセルのサイズと多分散指数(PDI)を、動的光散乱(DLS)手法により求めた。
測定は、入射ビームとして緑色レーザー(532nm)を用い、173°の検出角度で、Zetasizer nano ZS(Malvern instruments,UK)を使用して、25℃の温度条件で行った。結果を表1及び
図10に示す。なお、
図10中の各指標の説明を表2に記載した。また、表1中、%薬物コンジュゲーションの値は以下の式により算出した。
【0092】
【数1】
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
[実施例2]薬物複合体の脳腫瘍細胞に対する細胞毒性試験(1)
硫酸ビンブラスチンと薬物複合体(実施例1のDAVBNH結合ポリマーミセル)のin vitro細胞毒性を、cell−counting kit−8を用いて、神経膠芽腫細胞株であるU87MGに対して評価した。U87MG細胞(3000細胞/ウェル)を、96ウェルプレートを用いて、10% FBSを含むDMEM培地で培養した。その後、U87MG細胞を異なる用量の硫酸ビンブラスチン又は薬物複合体に曝露した。曝露後48時間と72時間における細胞生存率を、450nmでのホルマザン吸光度450nmを測定することにより求めた。
細胞毒性試験の結果を
図11に示す。
図11中、「VBN」は硫酸ビンブラスチンを示し、「V/m」はDAVBNH結合ポリマーミセルを示す。DAVBNH結合ポリマーミセルでは、IC50の値は、硫酸ビンブラスチンよりも高かったが、細胞傷害活性の用量依存性の特性は、硫酸ビンブラスチンと同様であった。この結果は、DAVBNHがミセル中で活性を維持していることを示す。
【0096】
[実施例3]薬物複合体の血中動態試験
<Alexa−647標識DAVBNH結合ポリマーミセルの調製>
芳香族アルデヒド基含有ポリマー(20mg)、DAVBNH(10mg)及びAlexa−647ヒドラジド(0.5mg)をDMSO(1mL)に溶解し、35℃で72時間撹拌した。溶媒をDMAcに交換して、実施例1の<DAVBNH結合ポリマーミセルの調製>で記載したようにミセルを調製した。
【0097】
<血中動態試験>
血中動態試験は、in vivoレーザー走査顕微鏡を用いて行った。直立ECLIPASE FN1(株式会社ニコン、東京、日本)に設置した、Plan Apo VC 20x DIC N2 Nikonレンズ(開口数:0.75)を装着したNikon A1R共焦点レーザー走査顕微鏡システムを使用した。640nmのレーザーをAlexa−647の励起に使用した。Alexa−647標識DAVBNH結合ポリマーミセル(約30mg/kg:ビンブラスチンの投与量として)を、尾静脈カテーテルを用いて、マウス(BALB/c Nude、雌、6週齢)に投与した。Alexa647標識DAVBNH結合ポリマーミセルは、マウスの耳たぶ領域血管内の血流により観察し、投与後20時間血中動態をモニタリングした。得られたデータは、Nikon NIS Elements(ver.4.00.06)を用いて処理した。
血中動態試験の結果を
図12に示す。Alexa−647標識DAVBNH結合ポリマーミセルは、少なくとも20時間、血液中を循環することが確認された。
【0098】
[実施例4]薬物複合体のin vivo抗腫瘍試験(IC50)−(1)
DMEM培地中の5x10
6個のU87MG細胞を、マウス(BALB/c Nude、雌、6週齢)の皮下に接種した。接種5日後に、薬剤による処理を開始した。薬物の静脈内注射を、4日後毎に4回行った。投与群は以下の通りとし、各群の個体数は5とした。
投与群1:PBS投与(PBS)
投与群2:硫酸ビンブラスチン 2mg/kg(VBN)
投与群3:DAVBNH 2mg/kg(DAVBNH)
投与群4:DAVBNH結合ポリマーミセル(実施例1) 2mg/kg(V/m 2)
投与群5:DAVBNH結合ポリマーミセル(実施例1) 4mg/kg(V/m 4)
投与群6:DAVBNH結合ポリマーミセル(実施例1) 8mg/kg(V/m 8)
投与群7:DAVBNH結合ポリマーミセル(実施例1) 16mg/kg(V/m 16)
in vivo抗腫瘍試験の結果を
図12に示す。なお、上記投与群の括弧内は、
図13A及び
図13Bに記載した各投与群の略語である。
図13Aは腫瘍サイズの経時変化であり、
図13Bはマウスの体重の経時変化である。DAVBNH結合ポリマーミセル投与群は、硫酸ビンブラスチン投与群及びDAVBNH投与群と同様の抗腫瘍効果を示した。また、DAVBN結合ポリマーミセル投与群は、いずれの投与量においても顕著な体重減少は観察されなかった。ビンブラスチンは、毒性が強く、マウスに対する最大耐性用量は2mg/kgである。一方、本試験において、DAVBNH結合ポリマーミセルは16mg/kgを投与しても顕著な毒性は確認されなかった。この結果は、DAVBNH結合ポリマーミセルの形態とすることにより、抗腫瘍活性を維持しつつ、ビンブラスチンの毒性を緩和できることを示している。
【0099】
[合成例5]脂肪族ケトン基含有ポリマーの合成
PEG−PBLAポリマー(318mg、0.016mmol)をDMF(3mL)で溶解し、得られた溶液に3,3−ジメトキシブタン(200μL)を添加した。反応液を40℃で72時間撹拌し、HCl溶液(100μL、0.1N)添加して1時間撹拌した。水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、側鎖に脂肪族ケトンが導入されたポリマーを回収した。
反応スキームを
図14に示す。また、得られた脂肪族ケトン基含有ポリマーの
1H−NMR解析結果を
図15に示す。35個の脂肪族ケトンユニットがポリマーに導入されていることが確認された。
【0100】
[実施例5]薬物複合体の調製(2)
実施例1で得られたDAVLBHと合成例5で得た脂肪族ケトン含有ポリマーとの反応をDMSO溶液中で35〜40℃で72時間行い、その後、透析により溶媒をジメチルアセトアミド(DMAc)に交換した(4時間透析、透析溶媒は1度交換)。この溶媒交換により透明なDMAc溶液が生成された。
【0101】
<DAVBNH結合ポリマーミセルの調製>
上記のように得られたDMAc溶液をミセルの調製に使用した。薬物複合体のDMAc溶液を、容量比で水10に対して1の割合で、水に滴下してボルテックスし、ミセルを調製した。この溶液を、分画分子量(MWCO)3500Daの透析バッグで24時間、水で透析した。透析媒体は、透析中に5回交換した。透析バッグ中の溶液をフィルター(0.22μm)ろ過し、100kDa MWCOのフィルターメンブランを用いた限外濾過により濃縮した。DAVBNHの負荷量は33%であった。
【0102】
<ミセルサイズとPDIの測定>
実施例1と同様にして、ミセルのサイズと多分散指数(PDI)を、動的光散乱(DLS)手法により求めた。結果を
図16に示す。
【0103】
<pH感受性リリースの評価>
実施例1及び5のポリマーミセルDMAc溶液をそれぞれリン酸バッファー975μLで異なるpHで希釈し、37℃で48時間培養した。逆相クロマトグラフィ−(RPLC)により、所定の時間におけるポリマーミセルDMAc溶液からの薬剤リリースを測定した。HPLC解析の条件は以下の通りである。
HPLC (東ソー製TSKgel ODS−80Tm C18 カラム 4.6×150mm)
溶媒:20mMリン酸バッファー(pH2.5)とメタノールとの1:1混合均一溶媒
流速:0.6mL/分
UV検出:波長220nm
【0104】
pH感受性リリースの評価の結果を
図17及び18に示す。
図17は、実施例1のポリマーミセル溶液のpH感受性薬剤リリースプロファイルを示すグラフである。
図18は、のポリマーミセル溶液のpH感受性薬剤リリースプロファイルを示すグラフである。
図17及び18に示される結果から、本願発明を適用した実施例1及び5のポリマーミセル溶液は、pH感受性薬剤リリースが確認された。特に、生体内の環境を考えると、酸性化しているがんの周辺環境(pH6.6)および細胞質内に取り込まれた後エンドソーム(pH5)での薬剤リリースは、実施例5の脂肪族ケトン含有ポリマーの方が優れていることが確認された。
【0105】
[実施例6]薬物複合体の脳腫瘍細胞に対する細胞毒性試験(2)
実施例5のDAVBNH結合ポリマーミセルのin vitro細胞毒性を、実施例2と同様にcell−counting kit−8を用いて、神経膠芽腫細胞株であるU87MGに対して評価した。結果を表3に示す。なお、表3中、参考までに、
図11の結果も併記する。
【0106】
【表3】
【0107】
[参考例1]DAVBNHの最大耐性用量(MTD)の評価
DAVBNHをマウス(BALB/c Nude、雌、6週齢)に4日後毎に4回(0日、3日、6日、9日)投与し、最大耐性用量(MTD)を評価した。投与群は以下の通りとし、各群の個体数は3とした。結果を
図19に示す。
投与群1:DAVBNH 3mg/kg
投与群2:DAVBNH 4mg/kg
投与群3:DAVBNH 6mg/kg
【0108】
図19は、DAVBNHを投与した場合のマウスの体重の経時変化を示すグラフである。
図19に示されるように、DAVBNHは、投与量6mg/kgが致死量であることが確認された。また、投与量3mg/kgで、治療スケジュールのわずか25%経過後に顕著な体重減少が観察された。
【0109】
[実施例7]薬物複合体の最大耐性用量(MTD)の評価
薬剤をマウス(BALB/c Nude、雌、6週齢)に4日後毎に4回(0日、3日、6日、9日)投与し、最大耐性用量(MTD)を評価した。投与群は以下の通りとし、各群の個体数は5とした。結果を
図20に示す。
投与群1:PBS(対照)
投与群2:DAVBNH(VinHyd) 2mg/kg
投与群3:DAVBNH結合ポリマーミセル(実施例1) 2mg/kg
投与群4:DAVBNH結合ポリマーミセル(実施例1) 4mg/kg
投与群5:DAVBNH結合ポリマーミセル(実施例1) 16mg/kg
【0110】
図20は、実施例7におけるマウスの体重の経時変化を示すグラフである。
図20に示されるように、DAVBNHは、投与量2mg/kgであっても、体重減少が生じる。一方、DAVBNH結合ポリマーミセルは、投与量16mg/kgでも体重減少が生じない。したがって、DAVBNH結合ポリマーミセルは、DAVBNHに比べて最大耐性用量(MTD)が8倍以上伸びたことが確認された。
【0111】
[実施例8]脳腫瘍同所モデル
U87MG−Luc2(2μL中1.0×10 5個の細胞)をブレグマの1.0mm前部および2.0mmに頭蓋内に移植し、Balb/cヌードマウスの脳表面に3.0mmの深さに移植した。
腫瘍を5〜6日間増殖させ、BALB/cヌードマウスの3群(n=6)において抗腫瘍活性アッセイを開始した。
投与群は以下の通りとした。
投与群1:対照としてのPBS
投与群2:DAVBNH 2mg/kg(MTD)
投与群3:DAVBNH結合ポリマーミセル(実施例1) 16mg/kg(安全耐性用量)
治療スケジュールは、以下の通りとした。
第1フェーズ:2日間隔(0日、3日、6日及び9日)で4回の注射に設定。
第2フェーズ:毎週7回の注射。合計治療期間約1.5ヶ月。
IVISスペクトル(Xenogen Corporation)を用いてインビボイメージングを行い、D−ルシフェリンカリウム塩溶液をルシフェラーゼの基質として使用した。
【0112】
図21Aは実施例8における生存率の経時変化を示すグラフで、
図21Bは実施例8における体重の経時変化を示すグラフである。
図22は実施例8の各投与群における25日目の腫瘍増殖の対比グラフである。
図23は、実施例8の各投与群における腫瘍増殖曲線を示すグラフである。
図21A、
図21B、
図22及び
図23に示される結果から、DAVBNH結合ポリマーミセルは脳腫瘍同所移植モデルにおいて尾静脈注射で有意に脳腫瘍を縮小させ、有意に生存を延長させることが確認された。
また、実施例8においては、最大耐性用量(MTD)のDAVBNH(2mg/kg)と安全耐性用量のDAVBNH結合ポリマーミセル(16mg/kg)を用いている。したがって、DAVBNHによる治療については改善の余地はないが、DAVBNH結合ポリマーミセルによる治療は更なる改善の余地があることも確認された。
【0113】
[実施例9]K252a−ヒドラジド(K252a−H)との薬物複合体の調製
<K252a−Hの合成>
K252aは、BOC Science(US)から購入した。K252a(20mg)を無水メタノール(200μL)に溶解し、無水ヒドラジン(300μL)に添加した。反応混合物を40℃で15時間撹拌した。反応混合物をエバポレートして乾燥体を得た。エバポレーションでは、トルエンを共エバポレーション溶媒として用いた。得られた生成物を、さらなる精製を行うことなく、薬物複合体とミセルの調製に使用した。得られた生成物の
1H−NMR解析結果を
図24に示す。得られた生成物では、K252aのメチル基が消失し、ヒドラジド基プロトンのピークが確認されたことから、K252a−Hが得られたことが確認できた。また、K252a−HをHPLCで分析した。分析結果を
図25に示す。K252a−HとK252aとは、リテンションタイムが異なっていることから、両者は異なる構造であることが確認された。なお、HPLC解析の条件は以下の通りである。
TSK−GEL ODS−100Vカラム 4.6×150mm、粒子径5μm(東ソー株式会社)
カラム圧:10.7MPa
カラム温度:40℃付近の一定の温度
移動相:メタノール/ギ酸緩衝液(pH3.0)混液(3:2)
流速:1.2mL/分、20〜30分
UV検出:波長290nm
K252aからのK252a−Hの合成スキームを以下に示す。
【0114】
【化15】
【0115】
<薬物複合体の調製>
上記のように得られた生成物(K252a−H)と芳香族アルデヒド基含有ポリマー又は脂肪族ケトン含有ポリマーとの反応をDMSO溶液中で35〜40℃で72時間行い、その後、透析により溶媒をジメチルアセトアミド(DMAc)に交換した(4時間透析、透析溶媒は1度交換)。この溶媒交換により透明なDMAc溶液が生成された。
【0116】
<K252a−H結合ポリマーミセルの調製>
上記のように得られたDMAc溶液をミセルの調製に使用した。薬物複合体のDMAc溶液を、容量比で水10に対して1の割合で、水に滴下してボルテックスし、ミセルを調製した。この溶液を、分画分子量(MWCO)3500Daの透析バッグで24時間、水で透析した。透析媒体は、透析中に5回交換した。透析バッグ中の溶液をフィルター(0.22μm)ろ過し、100kDa MWCOのフィルターメンブランを用いた限外濾過により濃縮した。
【0117】
<ミセルサイズとPDIの測定>
ミセルのサイズと多分散指数(PDI)を、動的光散乱(DLS)手法により求めた。測定は、入射ビームとして緑色レーザー(532nm)を用い、173°の検出角度で、Zetasizer nano ZS(Malvern instruments,UK)を使用して、25℃の温度条件で行った。結果を
図26A及び
図26Bに示す。
図26Aは、芳香族アルデヒド基含有ポリマーとK252a−Hとの薬物複合体のミセル(以下、「K252a−H結合芳香族ポリマーミセル」という。)であり、
図26Bは、脂肪族ケトン基含有ポリマーとK252a−Hとの薬物複合体のミセル(以下、「K252a−H結合脂肪族ポリマーミセル」という。)である。
【0118】
[実施例10]K252a−Hと薬物複合体ミセルの水に対する可溶化試験
K252a−H粉末を、蒸留水又はメタノールに1mg/mLで溶解し、よく混合した。その後、孔径22μmのフィルターでろ過した。前記のように調製したろ液について、分光光度計(ジャスコ V670)を用いて紫外吸収スペクトルを測定した。結果を
図27に示す。
図27の結果から、K252a−Hは、水には1μg/mL以下でしか溶解しないことが確認された。
一方、K252a−H結合芳香族ポリマーミセル及びK252a−H結合脂肪族ポリマーミセルを、水に溶解し、HPLCでK252a−Hの濃度測定を行ったところ、水に対して2mg/mL以上の溶解性を示すことが確認された(図示せず)。以上の結果より、K252a−Hのような水に難溶の化合物であっても、ミセル化することによって、水に対する溶解性を増大できることが示された。
【0119】
[実施例11]K252a−H結合ポリマーミセルからのK252a−Hの放出
K252a−H結合脂肪族ポリマーミセルを、pH1の水性緩衝液(メタノール:ギ酸緩衝液(pH3)=3:2)中で、37℃で1時間インキュベートした。その後、HPLC解析を行った。HPLC条件は、実施例9と同様である。結果を
図28に示す。pH1水性緩衝液処理後のサンプルで、K252a−Hと同一のピークが確認されたことから、酸性条件下で、K252a−H結合脂肪族ポリマーミセルからK252a−Hが放出されることが示された。
【0120】
[実施例12]K252a−H結合ポリマーミセルの肺癌細胞に対する細胞毒性試験
表4に示す肺癌細胞株を用いて、K252a−H結合芳香族ポリマーミセル及びK252a−H結合脂肪族ポリマーミセルの細胞毒性試験を行った。
なお、以下の実施例において、使用した細胞株はアメリカン・タイプ・. カルチャー・コレクション(American Type Culture. Collection, ATCC)もしくはJCRB(医薬基盤研)の細胞バンクより購入した。PC14 PE6は、法正先生(鳥取大学)より分与してもらった。培地は、特に記載していない限り、DMEM、RPMI又はE−MEMを使用した。Gefetinib、Afatinib、Erlotinib、Cisplatin、Pemetrexed、Gemicitabineは、フナコシ株式会社より購入した。Osimertinib は Selleck Chemicals社より購入した。
【0121】
【表4】
【0122】
2000細胞/50μLの細胞溶液を適量調整し、96ウェルプレートの列2から2まで50μLずつ播種した。列1に培地(10% FBSを含むDMEM培地)のみを加えた。播種後、24時間インキュベートした。
24ウェルプレートの10個の各ウェルに、300μLの培地を加えた。ミセル溶液100μLを24ウェルプレートのウェル1Aに加え、ピペッティング(10回程度)で撹拌した後、そこから100μLをウェル2Bへ移し、同様に撹拌した。同様の操作を10回繰り返し、10種類の濃度のミセル溶液を調整した。
上記で調整したミセル溶液を、癌細胞を播種した96ウェルプレートの列3から列12までミセル濃度の高い順に50μLずつ加えた。列1と2には、培地のみを50μL加えた。その後、3時間インキュベートした。インキュベート後、細胞を残してウェル内の溶液を除去し、200μLの培地で各ウェル内の細胞を洗浄した。最後に、100μLの培地を各ウェルに加えて48時間インキュベートした。
48時間後に、cell−counting kit−8溶液(DOJINDO)を各ウェルに10μLずつ添加した。再びインキュベーターし、30分後、1時間後、及び2時間後に、450nmの吸光度を測定した。
【0123】
結果を
図29に示す。Gefenitib、Afatinib、及びOsimetinibは、現在FDAに認可されている肺癌の分子標的治療薬である。
図29の結果から、K252a−H、及びK252a−H結合ポリマーミセルは、既存の肺癌治療薬耐性の肺癌に対して、高い細胞傷害活性を示すことが示された。
【0124】
図29のPC14株とPC14・PE6株とを抽出したものを
図30に示す。PC14・PE6株は、PC14株をマウスの尾静脈に投与し、胸腔内に転移した癌細胞を樹立する作業を6回行った癌細胞株である(Yano et al., Oncology Research 9:573-579 (1997))。そのため、PC14・PE6株は、極めて転移能が高く、悪性化した癌細胞株である。
図29及び
図30に示すように、PC14株に対しては、Gefenitib、Afatinib、及びOsimetinibは高い細胞傷害活性を示した。しかし、悪性化したPC14・PE6株に対しては、これらの既存の分子標的薬は、細胞傷害活性が著しく低下した。一方、K252a−H及びK252a−H結合ポリマーミセルでは、PC14・PE6株に対する細胞傷害活性の方が高くなった。これらの結果は、K252a−H及びK252a−H結合ポリマーミセルは、悪性化した転移癌に対して、より有効であることが示している。なお、K252a−H結合芳香族ポリマーミセルとK252a−H結合脂肪族ポリマーミセルとでは、K252a−H結合脂肪族ポリマーミセルの方が癌細胞に対する細胞傷害活性が高い傾向にあった。
【0125】
[実施例13]K252a−H結合ポリマーミセルの膵癌細胞に対する細胞毒性試験
各種膵癌細胞株を用いて、上記と同様に、K252a−H結合芳香族ポリマーミセル及びK252a−H結合脂肪族ポリマーミセルの細胞毒性試験を行った。結果を
図31に示す。BXPC3−F3株は、マウスへの同所移植後、肝転移した癌細胞株を樹立することを3回繰り返して悪性化させた転移株である。また、KP−3Lは、ヒト肝転移膵臓癌をヌードマウスの脾臓に移植後、肝転移した癌細胞株を樹立した転移株である(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンクより入手)。また、Gemcitabine及びErlotinibは、現在認可されている膵癌治療薬である。
図31に示すように、K252a−H及びK252a−H結合ポリマーミセルは、Gemcitabine及びErlotinibの効果が低いK−ras変異株及び悪性化転移株に対して、有効であることが確認された。なお、K252a−H結合芳香族ポリマーミセルとK252a−H結合脂肪族ポリマーミセルとでは、K252a−H結合脂肪族ポリマーミセルの方が癌細胞に対する細胞傷害活性が高い傾向にあった。
【0126】
[実施例14]K252a−H結合ポリマーミセルの頭頸部癌細胞に対する細胞毒性試験
各種頭頚部癌細胞株を用いて、上記と同様に、K252a−H結合芳香族ポリマーミセル及びK252a−H結合脂肪族ポリマーミセルの細胞毒性試験を行った。結果を
図32に示す。なお、CDDPは、頭頸部癌の標準治療薬であるシスラプチンを示す。
図32に示すように、K252a−H及びK252a−H結合脂肪族ポリマーミセルは、いずれの頭頸部癌細胞株に対しても、シスラプチンよりも高い細胞傷害活性を示した。特に、Fradu株では、K252a−H結合脂肪族ポリマーミセルの細胞傷害活性が高かった。
【0127】
[実施例15]K252a−H結合ポリマーミセルの中皮腫細胞に対する細胞毒性試験
中皮腫細胞株MSTO−211Hを用いて、上記と同様に、K252a−H結合芳香族ポリマーミセル及びK252a−H結合脂肪族ポリマーミセルの細胞毒性試験を行った。結果を
図33に示す。なお、CDDPはシスラプチンを示し、中皮腫の標準治療薬である。Pemetrexedも中皮腫の標準治療薬である。
図33に示すように、K252a−H及びK252a−H結合脂肪族ポリマーミセルは、シスラプチン及びPemetrexedよりも高い細胞傷害活性を示した。K252a−H結合芳香族ポリマーミセルは、シスラプチンと同程度の細胞傷害活性を示した。
【0128】
[実施例16]JQ−1−ヒドラジド(JQ−1−H)との薬物複合体の調製
<JQ−1−Hの合成>
JQ−1は、BOC Science(US)から購入した。JQ−1(20mg)を無水メタノール(500μL)に溶解し、無水ヒドラジン(500μL)に添加した。反応混合物を40℃で一晩撹拌した。反応混合物をエバポレートして乾燥体を得た。エバポレーションでは、トルエンを共エバポレーション溶媒として用いた。得られた生成物を、さらなる精製を行うことなく、薬物複合体とミセルの調製に使用した。得られたJQ−1−Hの
1H−NMR解析結果を
図34に示す。
なお、JQ−1からのJQ−1−Hの合成スキームを以下に示す。
【0129】
【化16】
【0130】
<薬物複合体の調製>
上記のように得られた生成物(JQ−1−H)と芳香族アルデヒド基含有ポリマーとの反応をDMSO溶液中で35〜40℃で72時間行い、その後、透析により溶媒をジメチルアセトアミド(DMAc)に交換した(4時間透析、透析溶媒は1度交換)。この溶媒交換により透明なDMAc溶液が生成された。
【0131】
<JQ−1−H結合ポリマーミセルの調製>
上記のように得られたDMAc溶液をミセルの調製に使用した。薬物複合体のDMAc溶液を、容量比で水10に対して1の割合で、水に滴下してボルテックスし、ミセルを調製した。この溶液を、分画分子量(MWCO)3500Daの透析バッグで24時間、水で透析した。透析媒体は、透析中に5回交換した。透析バッグ中の溶液をフィルター(0.22μm)ろ過し、100kDa MWCOのフィルターメンブランを用いた限外濾過により濃縮した。得られたJQ−1−H結合ポリマーミセルの
1H−NMR解析結果を
図35に示す。
【0132】
<ミセルサイズとPDIの測定>
ミセルのサイズと多分散指数(PDI)を、動的光散乱(DLS)手法により求めた。測定は、入射ビームとして緑色レーザー(532nm)を用い、173°の検出角度で、Zetasizer nano ZS(Malvern instruments,UK)を使用して、25℃の温度条件で行った。結果を
図36及び
図37に示す。
図36は、芳香族アルデヒド基含有ポリマーとJQ−1−Hとの薬物複合体のミセル(以下、「JQ−1−H結合芳香族ポリマーミセル」という。)であり、
図37は、脂肪族アルデヒド基含有ポリマーとJQ−1−Hとの薬物複合体のミセル(以下、「JQ−1−H結合脂肪族ポリマーミセル」という。)である。
【0133】
[実施例17]JQ−1−H結合ポリマーミセルの肺癌細胞に対する細胞毒性試験
実施例12と同様の方法で、肺癌細胞株H1975及び肺癌細胞A549に対するJQ−1−H結合芳香族ポリマーミセルの細胞毒性試験を行った。なお、添加濃度は、H1975が5μg/ml、A549が30μg/mlとし、72時間インキュベート後の生存%を確認した。
【0134】
結果を
図38に示す。
図38の結果から、JQ−1−H結合芳香族ポリマーミセルは、5μg/mLの濃度では、JQ−1及びJQ1−Hと同等の細胞傷害活性を示すことが確認された。
【0135】
[実施例18]K252a−Hのホットスポットキナーゼプロファイリング
Rection Biology社に委託して、Monthly 202 mutant kinase panelを用いて、K252a−Hのキナーゼプロファイリングを行った。キナーゼアッセイの条件は、以下の通りである。K252aは、DMSOに溶解し、100nMでアッセイを行った。
バッファー条件:20mM HEPES、pH7.5、10mM MgCl
2、1mM EGTA、(適用可能であれば、2mM MnCl
2)
ATP濃度:10μM
反応時間:2時間
【0136】
参考として、第1世代、第2世代、及び第3世代のチロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor:TKI)と、その耐性変異を
図39A及び
図39Bに示す。
図39A及び
図39Bに示されるように、第1〜第3世代TKIは、C797S変異に有効ではないため、C797S変異に有効なTKIが求められている。
【0137】
EGFR変異に対するK252a−Hのキナーゼアッセイ結果を
図40に示す。
図40に示すように、K252a−Hは、多くのTKIが有効性を示さないゲートキーパー変異(d746−750/T790M、d746−750/T790M/C797S、L858R,T790Mなど)に対して、特異的に高い活性を示す。
図41A〜Cに、キナーゼプロファイリングの結果を示す。
図42に、K252a−Hに対するキナーゼプロファイリングの結果、キナーゼ活性が30%以下に抑制された突然変異キナーゼの一覧を示す。K252a−Hは、癌遺伝子であるc−kit/Flt3/RETの強力な阻害剤であることが確認された。