(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項4〜6のいずれか1項に記載の半導体層の製造方法であって、請求項11〜15のいずれか1項に記載の製造方法により前記半導体材料を製造し、前記表面として前記固体支持体を提供する工程を含む、半導体層の製造方法。
【背景技術】
【0002】
少なくとも一部が有機化学によって得られる材料に基づく電子デバイスの中でも、有機発光ダイオード(OLED)は卓越した地位にある。1987年、Tang et al.が高効率のOLEDを実証して以降(C.W. Tang et al., Appl. Phys. Lett. 51 (12), 913 (1987))、OLEDは有望な候補物から、高級商用ディスプレイへと発展した。OLEDは、概ね有機材料からできた薄い層が連なっている。通常、前記層の厚さは1nm〜5μmである。通常は、真空蒸着か、又は溶液から(例えば、スピンコーティング又はジェット印刷によって)のいずれかによって、前記の層を形成する。
【0003】
カソードに由来する電子の形態、及びアノードに由来する正孔の形態である電荷キャリアが、両極間に配置された有機層へと注入された後に、OLEDは発光する。電荷キャリアの注入は、印加された外部電圧を受けて発生し、それに続いて発光部中に励起子が形成され、これらの励起子が再結合して発光が生じる。1つ以上の電極は透明又は半透明であり、多くの場合、透明酸化物(酸化インジウムスズ(ITO)等)の形態、又は薄い金属層の形態である。
【0004】
OLEDの発光層(LEL)又は電子輸送層(ETL)で使用されるマトリクス化合物の中でも、非局在電子の共役系を有する1つ以上の構造部分を有している化合物、及び/又は、自由電子対を有する原子を含んでいる化合物は、重要な地位にある。ここ10年間で、以下の二つの機能的特徴を様々な組み合わせで有しているマトリクス化合物に、特に注目が集まった。一つは、例えば周期表の15〜16族の原子上に局在化している自由電子対の存在である。もう一つは、不飽和有機化合物の形態で最もよくみられる、非局在電子の共役系の存在である。現在、広汎な電子輸送マトリクスが入手可能である。この範囲には、同素環芳香系、及び/又は、炭素−炭素二重結合及び三重結合のみを有している炭化水素マトリクスのものから、ホスフィンオキシド及びジアゾールから選択される強い極性基を有しているマトリクスのものまでが包含される。
【0005】
電気的特性(特に導電性)を改良するために、電荷輸送半導体材料に電気的ドーピングを施すことが、1990年代より知られている(例えば、US5093698A)。現在最もよく利用されており(例えば、ディスプレイの工業的製造に)、標準的な方法である熱蒸着によって製造されるETLをn型ドープする、特に単純な方法とは、以下のものである。すなわち、(i)1つの蒸着源からマトリクス化合物を気化させ、(ii)別の蒸着源から強い陽性金属を気化させ、(iii)冷却した表面にこれらを共堆積させる方法である。より強いn型ドーパントの必要性と、当該ドーパントの環境条件における高い反応性及び高い敏感性との間には内在的な齟齬がある。そのため、それらの産業利用一般、そして特に、最新の品質保証(QA)の要求を満たすことが困難となっている。
【0006】
WO2015/097232として公開された先行出願には、最新の技術水準が簡潔にまとめられており、同出願では前述した問題点のいくつかに対処することに成功している。この分野における進歩が続いているにもかかわらず、穏やかで高い再現性のある製造条件下において、広範な種類のマトリクス化合物に対して高性能の半導体材料を提供できる強力なn型ドーパントに対する要求は、未だ満たされていない。
【0007】
本発明の目的は、従来技術の欠点を克服し、性能が改良された半導体材料を提供することにある。
【0008】
本発明の第二の目的は、前記の改良された半導体材料からなる、半導体層を提供することにある。
【0009】
本発明の第三の目的は、前記の改良された半導体材料からなる半導体層を利用している、電子デバイスを提供することにある。
【0010】
本発明の第四の目的は、(i)本発明の半導体材料の改良された製造方法と、(ii)前記の改良された半導体材料を含んでいる金属ドープされた半導体層、及び、当該層を備えている電子デバイスの製造方法と、を提供することにある。
【0011】
本発明の第五の目的は、(i)前記の改良された半導体材料の製造を容易にする、及び/又は、(ii)前記の改良された半導体材料を含んでいる半導体層及び電子デバイスの製造において好都合な中間物として利用できる、空気安定性のある金属組成物を提供することにある。
【発明の概要】
【0012】
前記の目的は、以下によって達成される:
(i)1種類以上の実質的に共有結合性のマトリクス化合物からなる、実質的に共有結合性のマトリクス材料と、
(ii)Li、Na、K、Rb、及びCsからなる群より選択される、1種類以上の第1金属と、
(iii)Zn、Cd、Hg及びTeからなる群より選択される、1種類以上の第2金属と、
を含んでいる、半導体材料。
【0013】
「実質的に共有結合性」とは、主に共有結合によって互いに結合されている元素を含む、化合物を意味すると理解されたい。実質的に共有結合性のマトリクス材料は、1種類以上の実質的に共有結合性の化合物からなる。実質的に共有結合性の材料は、低分子量化合物を含んでよい。この低分子量化合物は、好ましくは、真空蒸着(VTE)による処理が可能な程度に安定でありうる。あるいは、実質的に共有結合性の材料は、高分子化合物を含んでいてもよい(好ましくは、溶剤に溶解し、それゆえ溶液の形態による処理が可能である化合物)。実質的に共有結合性である高分子材料は、無限に不規則な網目を形成するように架橋されている場合もあると理解されたい。しかし、このように架橋されている実質的に共有結合性の高分子マトリクス化合物であっても、周辺原子及び骨格原子の両方を有していると見做される。実質的に共有結合性の化合物における骨格原子は、隣接する2つ以上の原子と共有結合している。実質的に共有結合性の化合物における他の原子は、周辺原子である。周辺原子は、隣接する1つの原子と共有結合している。部分的に共有結合を有しているが、実質的には周辺原子を欠いている、無機無限結晶又は完全に架橋されている網目構造は、本願の意味では実質的に共有結合性のマトリクスとは見做さない(ケイ素、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、硫化亜鉛、ケイ酸塩ガラス等)。なぜならば、このような完全に架橋されている共有結合性の物質は、当該物質が形成する相の、表面にのみにしか周辺原子を有していないからである。カチオン及びアニオンを含んでいる化合物は、カチオン又はアニオンの少なくとも一方が10個以上の共有結合している原子を有しているならば、実質的に共有結合性と見做される。
【0014】
実質的に共有結合性のマトリクス化合物の好適な例は、共有結合しているC、H、O、N、Sから主に構成されている有機化合物である。この有機化合物はまた、任意構成で、共有結合しているB、P、As、Seを有していてもよい。有機マトリクス化合物の機能を果たしうる有機化合物の更なる例としては、炭素−金属共有結合を有している有機金属化合物、有機リガンドを含んでいる金属複合体、及び有機酸の金属塩が挙げられる。
【0015】
一実施形態において、有機マトリクス化合物は金属原子を有しておらず、当該化合物の骨格原子のほとんどは、C、O、S、Nより選択される。
【0016】
半導体材料が電子輸送材料又は電子注入材料として好適である好ましい一実施形態においては、同じ標準化条件にてサイクリックボルタンメトリーで測定する場合、実質的に共有結合性のマトリクス材料における任意の実質的に共有結合性のマトリクス化合物の還元電位の値は、テトラキス(キノキサリン―5−イルオキシ)ジルコニウムから得られる値よりも負であることが有利になりうる。また、任意の実質的に共有結合性のマトリクス化合物の還元電位の値は、好ましくは4,4’−ビス(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−1,1’−ビフェニルよりも負であり、より好ましくは2,4,6−トリ(ビフェニル−4−イル)−1,3,5−トリアジンよりも負であり、より一層好ましくは2,4,6−トリフェニルトリアジンよりも負であり、より一層好ましくは2,4,7,9−テトラフェニル−1,10−フェナントロリンよりも負であり、非常に好ましくは4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンよりも負であり、より一層好ましくは1,3,5−トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)ベンゼンよりも負であり、最も好ましくはピレンよりも負であり、更に好ましくは[1,1’−ビナフタレン]−2,2’−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)よりも負である。
【0017】
一方で、好ましくは、実質的に共有結合性の化合物からなる実質的に共有結合性のマトリクス材料の酸化還元電位は、個々の化合物について、標準化条件下にて測定する場合、N2,N2,N2’,N2’,N7,N7,N7’,N7’−オクタフェニル−9,9’−スピロビ[フルオレン]−2,2’,7,7’−テトラアミンよりも正であり、好ましくはトリフェニレンよりも正であり、より好ましくはN4,N4’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N4,N4’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミンよりも正であり、より一層好ましくはビス(4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)(フェニル)ホスフィンオキシドよりも正であり、最も好ましくは3−([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−5−(4−(tert−ブチル)フェニル)−4−フェニル−4H−1,2,4−トリアゾールよりも正である。
【0018】
別の実施形態において、実質的に共有結合性のマトリクス化合物は、6個以上、より好ましくは10個以上、より一層好ましくは14個以上の非局在化電子の共役系を有している。
【0019】
非局在化電子の共役系の例としては、π結合とσ結合とが交互に並んでいる系が挙げられる。任意で、原子間にπ結合を有する2原子単位の1つ以上を、1つ以上の孤立原子対を有している原子によって置き換えることができる(通常は、O、S、Se、Teから選択される2価の原子によって。あるいは、N、P、As、Sb、Biから選択される3価の原子によって)。好ましくは、非局在電子の共役系は、ヒュッケル則に従う1つ以上の芳香環又は芳香族複素環を有している。また好ましくは、実質的に共有結合性のマトリクス化合物は、互いに共有結合で連結されているか、又は縮合している2個以上の芳香環又は芳香族複素環を有してもよい。
【0020】
特定の一実施形態において、実質的に共有結合性のマトリクス化合物は、共有結合している原子からなる環を有しており、当該環の1つ以上の原子はリンである。
【0021】
より好ましい実施形態において、共有結合している原子からなるリンを有している環は、ホスフェピン環である。
【0022】
別の一実施形態において、実質的に共有結合性のマトリクス化合物は、ホスフィンオキシド基を有している。また好ましくは、実質的に共有結合性のマトリクス化合物は、1つ以上の窒素原子を有する複素環を有している。本発明の半導体材料のための有機マトリクス化合物として特に有用である、窒素を有している複素環化合物の例としては、ピリジン構造部分、ジアジン構造部分、トリアジン構造部分、キノリン構造部分、ベンゾキノリン構造部分、キナゾリン構造部分、アクリジン構造部分、ベンゾアクリジン構造部分、ジベンゾアクリジン構造部分、ジアゾール構造部分及びベンゾジアゾール構造部分を、1つ又は組み合わせで有しているマトリクスが挙げられる。
【0023】
前記半導体材料において、1種類以上の第1金属及び1種類以上の第2金属は、それぞれ独立に、少なくとも部分的には実質的に元素形態で存在している。
【0024】
実質的に元素形態については、電子状態及びエネルギー、並びに含まれている金属原子の化学結合の観点において、金属塩、有機金属化合物、金属−非金属間の共有結合を有している他の化合物、又は配位金属化合物の形態よりも、単体金属、自由金属原子又は金属原子のクラスターの形態に近い形態のことであると理解されたい。
【0025】
金属合金とは、純粋な単体金属、原子化した金属、金属分子及び金属クラスター、実質的に元素形態である金属の他の例、以外のものを表すと理解されたい。
【0026】
ドープされた物質中に実質的に元素形態で堆積されている金属は全て、実質的に共有結合性のマトリクス材料中に埋入されている場合であっても、実質的な元素形態を少なくとも部分的には保っていると考えられる。
【0027】
一実施形態において、(i)第1金属はLi及びNaより選択されるか、及び/又は、(ii)第2金属はZn及びTeより選択される。好ましい実施形態において、第1金属はNaであり、第2金属はZnである。
【0028】
一実施形態において、第1金属及び第2金属の合計は、半導体材料の50重量%未満であり、好ましくは25重量%未満であり、より好ましくは15重量%未満であり、より一層好ましくは10重量%未満であり、最も好ましくは7重量%未満であり、更に好ましくは5重量%未満である。
【0029】
好ましくは、第1金属及び第2金属の合計量は、半導体材料の合計量に対して0.01重量%超であり、好ましくは0.1重量%超であり、より好ましくは0.5重量%超であり、より一層好ましくは1重量%超であり、最も好ましくは2重量%超であり、更に好ましくは5重量%超である。
【0030】
別の実施形態において、第1金属の量は、半導体材料に含まれている第1金属及び第2金属全ての合計量に対して95重量%未満であり、好ましくは90重量%未満であり、より好ましくは50重量%未満であり、より一層好ましくは20重量%未満であり、最も好ましくは10重量%未満であり、更に好ましくは5重量%未満である。
【0031】
好ましくは、第1金属の量は、半導体材料に含まれている第1金属及び第2金属の合計量に対して0.01重量%超であり、好ましくは0.1重量%超であり、より好ましくは0.5重量%超であり、より一層好ましくは1重量%超であり、最も好ましくは2重量%超であり、更に好ましくは5重量%超である。
【0032】
好ましくは、半導体材料に含まれている金属は、分子状に分散している。「分子状に分散している」とは、半導体材料中に存在しうる金属原子クラスターの大きさが、1nm未満であることを意味すると理解されたい。
【0033】
本発明の第二の目的は、以下によって達成される:
固体支持体に隣接している半導体層であって、本発明の半導体材料からなる半導体層。
【0034】
好ましくは、半導体層は、電子デバイスの一部である。この実施形態において、半導体層の厚さは、通常は150nm未満であり、好ましくは100nm未満であり、より好ましくは70nm未満であり、より一層好ましくは50nm未満であり、最も好ましくは40nm未満であり、更に好ましくは30nm未満である。
【0035】
電子デバイスの使用に関してまた好ましくは、半導体層の厚さの下限値は、好ましくは1nmであり、より好ましくは2nmであり、より一層好ましくは3nmであり、最も好ましくは5nmであり、更に好ましくは10nmである。
【0036】
可能な一実施形態において、半導体層は実質的に均一である。「実質的に均一な層」とは、(i)化学組成及び/又は物理化学的特性の点において、互いに区別されうる空間領域を含んでいないか、又は、(ii)このような領域が、任意の方向において1μmの大きさを超えないものである、と理解されたい。
【0037】
別の可能な一実施形態において、半導体層は実質的に等方的である。実質的に等方的な層では、任意の選択された方向において、当該層の任意の成分又は物理化学的特性が規則的に変化しない、と理解されたい。
【0038】
本発明の第三の目的は、以下によって達成される:
第1電極及び第2電極の間に位置している、2つ以上の区別される層と、
任意構成で、前記電極間の外部空間に配置されている、他のデバイス部品と、
を備えている電子デバイスであって、
前記間に位置している層の1つ以上は、前記の段落に記載の半導体層である、電子デバイス。
【0039】
好ましくは、前記デバイスは、有機発光ダイオード又は光起電力素子である。
【0040】
一実施形態において、前記半導体層は、電極に隣接している。より好ましくは、前記半導体層に隣接している電極は、カソードである。
【0041】
好ましい一実施形態において、カソードは金属性である。「金属性/金属(metallic)」という用語は、90原子%以上が金属元素からなる材料又は層を表すと理解されたい。金属元素が占める割合は、好ましくは95原子%以上であり、より好ましくは98原子%以上であり、より一層好ましくは99原子%以上であり、最も好ましくは99.9原子%以上である。水素、ホウ素、炭素、ケイ素、窒素、リン、ヒ素、酸素、硫黄、セレン、ハロゲン及び希ガスを除くすべての元素を、本願においては金属性と見做す。金属性カソードは、純粋な金属からなっていてもよいし、金属合金からなっていてもよい。また、金属性の導電性を示してもよいし、半導性を示してもよい。
【0042】
任意構成で、電子デバイスは、金属層を備えていてもよい。この金属層は、(i)Li、Na、K、Rb及びCsより選択される1種類以上の第1金属と、(ii)Zn、Cd、Hg及びTeより選択される1種類以上の第2金属と、を含んでいる金属合金からなる。好ましくは、前記金属層中の第1金属及び第2金属の合計は、90重量%以上であり、より好ましくは95重量%以上であり、より一層好ましくは93重量%以上であり、より一層好ましくは99重量%以上であり、最も好ましくは99.5重量%以上である。
【0043】
更に好ましくは、前記金属層に含まれているすべての第1金属及び第2金属の合計中、第1金属は、95重量%未満であり、好ましくは90重量%未満であり、より好ましくは50重量%未満であり、より一層好ましくは20重量%未満であり、最も好ましくは10重量%未満であり、更に好ましくは5重量%未満である。
【0044】
更に好ましくは、前記金属層に含まれているすべての第1金属及び第2金属の合計中、第1金属は、0.01重量%超であり、好ましくは0.1重量%超であり、より好ましくは0.5重量%超であり、より一層好ましくは1重量%超であり、最も好ましくは2重量%超であり、更に好ましくは5重量%超である。
【0045】
好ましくは、前記金属層の厚さは1〜100nmであり、より好ましくは2〜50nmであり、より一層好ましくは3〜30nmであり、最も好ましくは5〜20nmである。
【0046】
一実施形態において、前記金属層は、カソードに隣接している。別の一実施形態において、前記金属層は、電荷発生層の一部として(好ましくは電荷発生層の電子輸送部の一部として)与えられていてもよい。
【0047】
その代わりに(又はそれに加えて)、(i)カソードは、前述の本発明の半導体層に直接隣接していてもよく、及び/又は、(ii)前述の半導体層は、電荷発生層の一部として(好ましくは電荷発生層の電子輸送部の一部として)与えられていてもよい。
【0048】
本発明の第四の目的は、以下によって達成される:
本発明の半導体材料の製造方法であって、
(i)10
−2Pa未満(好ましくは5×10
−3Pa未満、より好ましくは10−
3Pa未満、より一層好ましくは5×10
−4Pa未満、最も好ましくは10−
4Pa未満)の圧力下にて、第1金属、第2金属及び1種類以上の実質的に共有結合性のマトリクス化合物を共蒸着させる、1つ以上の共蒸着工程であって、
(a)Li、Na、K、Rb及びCsより選択される1種類以上の第1金属、及び、(b)Zn、Cd、Hg及びTeより選択される1種類以上の第2金属、を含んでいる組成物が、100℃〜600℃(好ましくは150℃〜550℃、より好ましくは200℃〜500℃、より一層好ましくは250℃〜450℃、最も好ましくは300℃〜400℃)に加熱された第1蒸着源中に含まれており、
1種類以上の実質的に共有結合性のマトリクス化合物からなる実質的に共有結合性のマトリクス材料が、100℃〜600℃(好ましくは150℃〜550℃、より好ましくは200℃〜500℃、より一層好ましくは250℃〜450℃、最も好ましくは300℃〜400℃)に加熱された第2蒸着源中に含まれている、共蒸着工程と、
(ii)前記第1金属、前記第2金属、及び前記実質的に共有結合性のマトリクス化合物を、前記第1蒸着源及び前記第2蒸着源よりも温度が低い表面上に堆積させる、(i)に引き続く1つ以上の共堆積工程と、
を含む、製造方法。
【0049】
一実施形態において、第1蒸着源に含まれている組成物は、実質的に金属性である。「実質的に金属性の組成物」という用語は、1種類以上の第1金属及び1種類以上の第2金属を、それぞれ少なくとも部分的には、実質的に元素形態で含んでいる組成物として理解されたい。実質的に金属性の組成物の好適な形態は金属合金であり、より好ましくは均一な金属合金である。
【0050】
金属合金について、実質的に金属性の組成物は、金属元素を90原子%以上、好ましくは95原子%以上、より好ましくは98原子%以上、より一層好ましくは99原子%以上、最も好ましくは99.9原子%以上含んでいるものと理解されたい。前述したように、水素、ホウ素、炭素、ケイ素、窒素、リン、ヒ素、酸素、硫黄、セレン、ハロゲン及び希ガスを除くすべての元素を、金属性と見做す。均一な金属合金について、合金は、単一の固相又は液相からなるものと理解されたい。好ましくは、この単一相は固体である。
【0051】
第1蒸着源に含まれている組成物中の、好ましい第1金属はナトリウムである。第1蒸着源に含まれている組成物中の、好ましい第2金属は亜鉛である。
【0052】
更に好ましくは、第1蒸着源に含まれている金属合金における、第1金属及び第2金属の合計量は10重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上であり、より一層好ましくは90重量%以上であり、より一層好ましくは95重量%以上であり、最も好ましくは99重量%以上である。
【0053】
最も好ましくは、第1蒸着源の温度は、金属合金の融点未満である。
【0054】
本発明の第四の目的は、以下によって更に達成される:
前述した本発明の半導体層を製造するための本発明の製造方法であって、表面として固体支持体を提供する工程を更に含む、製造方法。
【0055】
本発明の第四の目的は、以下によって最終的に達成される:
電子デバイスを製造するための製造方法であって、
(i)前記第1電極、及び(前記デバイスに存在するならば)前記第1電極と前記半導体層との間に配置されている層を、順次提供する(providing subsequently)工程と、
(ii)本発明の製造方法によって前記半導体層を提供する工程であって、前記第1電極、又は前記半導体層に隣接している層を、前記固体支持体として機能させる工程と、
(iii)(前記デバイスに存在するならば)前記半導体層と前記第2電極との間にある残余の層、前記第2電極、及び、(存在するならば)前記電極間の外部空間にある任意の他のデバイス部品を提供する工程と、
を含む、製造方法。
【0056】
本発明の第五の目的は、以下によって達成される:
本発明に係る半導体材料、層、又はデバイスを製造するための、金属合金の使用であって、
前記合金は、
Li、Na、K、Rb及びCsより選択される、1種類以上の第1金属と、
Zn、Cd、Hg及びTeより選択される、1種類以上の第2金属と、
を含む1つ以上の均一相を有している、使用。
【0057】
一実施形態において、(i)前記第1金属はナトリウムであるか、及び/又は、(ii)第2金属は亜鉛である。別の一実施形態において、第1金属の合計量は、合金中の第1金属及び第2金属の全重量に対して95重量%未満であり、好ましくは90重量%未満であり、より好ましくは50重量%未満であり、より一層好ましくは20重量%未満であり、最も好ましくは10重量%未満であり、更に好ましくは5重量%未満である。
【0058】
一実施形態において、合金中の第1金属の合計量は0.01重量%超であり、好ましくは0.1重量%超であり、より好ましくは0.5重量%超であり、より一層好ましくは1重量%超であり、最も好ましくは2重量%超であり、更に好ましくは5重量%超である。
【0059】
本発明に係る電子デバイスの好ましい実施形態は、前述した本発明の半導体材料の好ましい実施形態を含んでいる。より好ましくは、本発明に係る電子デバイスの好ましい実施形態は、前記に特徴づけられる本発明の製造方法のいずれかの実施形態によって製造される、本発明の半導体材料を含んでいる。好ましくは、デバイスは、アノードとカソードとの間に、1つ以上の発光層を更に備えている。
【0060】
本発明に係る電子デバイスの可能な一実施形態において、前述した本発明の半導体材料を含んでいる電子輸送層又は電子注入層は、化合物を含んでいる層と隣接している。この層に含まれている化合物の還元電位は、同じ条件下にてサイクリックボルタンメトリーで測定する場合、電子輸送層又は電子注入層の実質的に共有結合性のマトリクス化合物よりも負である。可能な一実施形態において、本発明の半導体材料からなる層に隣接している層は、発光層である。
【0061】
更に好ましくは、発光層は、青色光又は白色光を発光する。可能な一実施形態において、発光層は、1種類以上の高分子を含んでいる。より好ましくは、前記高分子は、青色発光性高分子である。
【0062】
提供される電子デバイスの別の一実施形態において、電子輸送層又は電子注入層は、半導性金属酸化物からなるカソードに隣接している。好ましくは、半導性金属酸化物は、酸化インジウムスズである。また好ましくは、半導性酸化物のカソードは、スパッタリングによって製造される。
【発明を実施するための形態】
【0064】
[デバイスの構造]
図1はアノード(10)、発光層を含んでいる有機半導体層(11)、電子輸送層(ETL)(12)、及びカソード(13)の積層体を表す。その他の層も、本明細書において説明するように、これら描かれている層の間に挿入されてよい。
【0065】
図2はアノード(20)、正孔注入・輸送層(21)、正孔輸送層(電子遮断機能が一体化されていてもよい)(22)、発光層(23)、ETL(24)、及びカソード(25)の積層体を表す。その他の層も、本明細書において説明するように、これら描かれている層の間に挿入されてよい。
【0066】
「デバイス」という表現には、有機発光ダイオードが含まれる。
【0067】
[材質の特性 エネルギー準位]
イオン化ポテンシャル(IP)を測定する方法には、紫外線光電子分光法(UPS)がある。固体状態の物質のイオン化ポテンシャルを測定することが通例であるが、気体におけるIPを測定することも可能である。両者の値は、固体効果の分だけ異なる。固体効果とは、例えば、光イオン化過程において生じる、正孔の分極エネルギーである。通常、分極エネルギーの値は、約1eVである。しかし、より大きな値の乖離が生じる場合もある。IPは、光電子の大きな運動エネルギー(すなわち、最も弱く結合している電子のエネルギー)近傍にある、光電子放出スペクトルの立ち上がりと関連している。UPSに関連する方法として、逆光電分光法(IPES)を用いて、電子親和力(EA)を測定することができる。しかし、この方法は一般的ではない。その代わり、固体の酸化電位(E
ox)及び還元電位(E
red)を測定するのではなく、溶液中における電気化学的測定が成される。適切な方法としては、例えば、サイクリックボルタンメトリーがある。混乱を避けるため、請求項に記載のエネルギー準位は、レファレンス化合物との比較によって定義する。標準的な手順で測定した場合、レファレンス化合物のサイクリックボルタンメトリーにおける酸化還元電位は明確である。酸化還元電位を電子親和力及びイオン化ポテンシャルに変換するための、簡単な規則が頻繁に使用されている。すなわち、それぞれ、IP(eV)=4.8eV+e
*E
ox(E
oxは、Vvs.フェロセニウム/フェロセン(Fc
+/Fc)で与えられる)EA(eV)=4.8eV+e
*E
red(E
redは、Vvs.Fc
+/Fcで与えられる)である([B.W. D'Andrade, Org. Electron. 6, 11-20 (2005)]を参照。e
*は電気素量)。他の参照電極又は他の参照酸化還元対の場合における、電気化学ポテンシャルを再計算するための変換因子も知られている([A.J. Bard, L.R. Faulkner, "Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications", Wiley, 2. Ausgabe 2000]を参照)。使用する溶液の影響に関する情報は、[N.G. Connelly et al., Chem. Rev. 96, 877 (1996)]に見られる。完全に正しい訳ではないが、イオン化エネルギー及び電子親和力の同義語として、用語「HOMOのエネルギー(E
(HOMO))」及び「LUMOのエネルギー(E
(LUMO))」を、それぞれ用いるのが一般的である(Koopmans Theorem)。考慮に入れねばならないことには、イオン化ポテンシャル及び電子親和力は、通常、「これらの値が大きいほど、放出電子又は吸収電子の結合がより強いことをそれぞれ意味する」と言われている。フロンティア軌道(HOMO、LUMO)のエネルギー規模は、これとは反対である。したがって、粗い近似としては、以下の方程式が成立する:IP=−E
(HOMO)、EA=E
(LUMO)(真空をエネルギー0とする)。
【0068】
選択したレファレンス化合物に関して、本発明者らは、以下の還元電位の値を得た。この還元電位は、テトラヒドロフラン(THF)溶液中、vs.Fc
+/Fcでの、標準化サイクリックボルタンメトリーによるものである。
【0070】
標準化された手法は、実施例中に記載する。酸化還元電位の値は、実験的に用意に測定可能である。また、種々の化合物についての酸化還元電位の値が、既に知られている。そのため、これら参照例で表されている各クラスの化合物から、あるいは、特定のクラス又はサブクラスの化合物における既知のドーピング例(例えば、トリアリールトリアジン化合物)から、「あるドーパントを、同一又は類似したタイプのマトリクスに属する他の化合物に対して応用できるか否か」に関する、有益なヒントが得られる(置換のパターンによって同等の酸化還元電位となるならば)。マトリクス化合物の定義がより広くなるほど、測定される酸化還元電位の範囲もより大きくなる。例えば、他の極性基を有していないトリアジン系マトリクスの標準的な酸化還元電位は、Fc
+/Fc標準に対して、約1.9V〜2.3Vである。芳香族炭化水素は、約2.2V〜3.1Vである。リン原子上に芳香族置換基を有するホスフィンオキシドの酸化還元電位は、約1.8V〜3.1Vの、極端に広い範囲に調節されうる。この値は、選択されたアリール基又はヘテロアリール基次第である。
【0071】
[基板]
基板は、柔らかいものであってもよく、硬いものであってもよい。また、基板は、透明であっても、不透明であっても、反射性であっても、半透明であってもよい。OLEDによって生成した光を、基板を通して透過させる場合(ボトム・エミッション)、基板は透明又は半透明であらねばらない。OLEDによって生成した光が基板と反対方向に出射される場合(いわゆるトップ・エミッション型)、基板は不透明のものであってもよい。OLEDもまた、透明であってもよい。基板は、カソード又はアノードのどちらの隣に配置されていてもよい。
【0072】
[電極]
電極とは、アノード及びカソードである。これらは、ある程度の伝導性を有していなければならず、好ましくは、金属性の高い導電性を有している導電体である。好ましくは、「第1電極」は、アノードである。光をデバイスの外部へ透過させるために、少なくとも1つの電極は、半透明又は透明なものである必要がある。典型的な電極は、金属及び/又は透明導電性酸化物を含んでいる、複数の層又は積層体である。他の可能な電極としては、薄いバスバー(例えば、薄い金属格子)から作られていて、ある程度の導電性を有している透明物質(例えばグラフェン、カーボンナノチューブ、ドープされた有機半導体等)で当該バスバーの隙間が満たされている(被覆されている)ものがある。
【0073】
一実施形態においては、アノードが、基板に最も近い電極である。これを順構造と呼ぶ。他の形態では、カソードが、基板に最も近い電極である。これを逆構造と呼ぶ。
【0074】
アノード用の典型的な材料は、ITO及びAgである。カソード用の典型的な材料は、Mg:Ag(Mgが10体積%)、Ag、ITO、Alである。混合物を材料としてもよいし、多層構造のカソードであってもよい。
【0075】
カソードは、好ましくはAg、Al、Mg、Ba、Ca、Yb、In、Zn、Sn、Sm、Bi、Eu、Liから選択される金属を含んでおり、より好ましくはAl、Mg、Ca、Baから選択される金属を含んでおり、より一層好ましくはAl又はMgから選択される金属を含んでいる。MgとAgとの合金を含んでいるカソードも、また好ましい。
【0076】
本発明の利点の一つに、カソード材料の選択範囲を拡張できたことがある。ほとんどの場合において、仕事関数が小さい金属(現在の技術水準において、n型ドープされたETL材料を含んでいるデバイスが良い性能を発揮するために、多くの場合必要とされる)に加えて、他の金属又は導電性金属酸化物もまた、カソード材料として使用できる。金属銀製のカソードの使用は、有用な実施形態である。純銀は最良の反射性を有し、それゆえ、最高の効率を示すからである(特に、例えば、透明な基板上に積層され、透明な導電性酸化物製のアノードを備えているボトム・エミッション型デバイスにおいて)。純銀製カソードは、ドープされていないETL又は金属塩添加物でドープされたETLを備えているデバイスには、組み込まれない。このようなデバイスは、電子の注入が不充分であるため、駆動電圧が高く、効率性が低いためである。
【0077】
同様に、カソードを基板上に事前に形成することもできるし(このとき、デバイスは逆造型デバイスである)、順構造型デバイス中のカソードを金属の真空蒸着又はスパッタリングにより形成することもできる。
【0078】
[正孔輸送層]
HTLは、ワイドギャップ半導体を含んでいる層であり、アノードから発光層(LEL)への、又はCGLから発光層への、正孔の輸送を担っている。HTLは、アノードとLELとの間、又は、CGLの正孔を発生させる側とLELとの間、に備えられている。HTLは、他の物質(例えばp型ドーパント)と混合することができる。この場合、HTLはp型ドープされていると言われる。複数の層がHTLに含まれていてもよく、これら複数の層は組成が異なっていてもよい。HTLをp型ドープすることにより、抵抗率が低減され、ドープしていない半導体の高い抵抗率に起因する出力の損失を避けられる。また、ドープしたHTLを、光学スペーサとして用いることもできる。というのも、HLTは、抵抗率を大幅に上昇させることなく、非常に肉厚に成形することができるからである(最大1000nm以上)。
【0079】
好適な正孔伝達マトリクス(HTM)としては、例えば、ジアミン類由来の化合物が挙げられる。このような化合物では、窒素原子上の孤立電子対と共役している非局在化π電子系が、少なくとも、ジアミン分子の2個の窒素原子の間に存在する。この例としては、N4,N4’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N4,N4’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(HTM1)、N4,N4,N4'',N4''−テトラ([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−[1,1’:4’,1''−テルフェニル]−4,4''−ジアミン(HTM2)が挙げられる。ジアミンの合成については、各種文献に詳細に記載されている。また、多くのジアミンHTMが市販されており、容易に入手することができる。
【0080】
[正孔注入層(HIL)]
HILは、アノード又はCGLの正孔を発生させる側から、隣接するHTL中へと、正孔の注入を促進する層である。通常、HTLは非常に薄い層である(10nm未満)。正孔注入層は、厚さ1nm程度の、p型ドーパントの純粋な層でありうる。HTLがドープされている場合は、HILは必要でない場合もある。注入の機能が、HTLによって既に与えられているためである。
【0081】
[発光層(LEL)]
発光層は、少なくとも1種類の発光物質を含んでいなければならない。また、任意構成で、追加の層を備えていてもよい。LELが2種類以上の物質の混合物を含んでいる場合、電荷キャリアの注入は、異なる物質間において生じてもよい(例えば、発光物質ではない物質において)。あるいは、発光物質に対して直接、電荷キャリアの注入が生じてもよい。LELの内部又は近傍では、多くの異なるエネルギー遷移過程が生じうる。その結果、異なる種類の発光が生じる。例えば、ホスト物質中で励起子が形成され、次に、一重項励起子又は三重項励起子として発光物質に遷移することがある。すると、この発光物質は、一重項状態又は三重項状態の発光物質となり、光を放射することができる。異なる種類の発光物質を混合することにより、効率を向上させることができる。発光ホスト及び発光ドーパントからの発光を利用することにより、白色光を実現することができる。可能な一実施形態において、発光層は、1種類以上の高分子を含んでいる。多くの蛍光性高分子が知られている。その代わりに(又はそれに加えて)、高分子に燐光性発光物質のホストの役割を担わせてもよい。別の実施形態において、発光物質は、真空蒸着処理が可能な低分子化合物であってもよい。金属を含まない有機化合物(例えば、多環芳香族炭化水素、多環複素環式化合物、多環芳香族アミン、及び、このようなビルディングブロックの多様な組み合わせとして設計される化合物)は、蛍光性発光物質として通常使用される。一方で、金属複合体又は有機金属化合物は、燐光性発光物質として通常利用される。
【0082】
[電子遮断層(EBL)及び正孔遮断層(HBL)]
遮断層は、LEL中の電荷キャリアの拘束を促進するために使用できる。これらの遮断層は、US7,074,500B2において、より詳細に説明されている。
【0083】
[電子輸送層(ETL)]
ETLは、ワイドギャップ半導体を含んでいる層であり、カソードからLELへの、又はCGLもしくはEIL(後述)からLELへの、電子の輸送を担っている。ETLは、カソードとLELの間、又は、CGLの電子を発生させる側とLELとの間、に備えられている。ETLは、電気的n型ドーパントと混合することができる。この場合、ETLは、n型ドープされていると言われる。複数の層がETLに含まれていてもよく、これら複数の層は組成が異なっていてもよい。ETLを電気的n型ドープすることにより、抵抗率が低減され、及び/又は、隣接する層への電子注入能が向上する。更に、ドープしていない半導体の高い抵抗率(及び/又は低い注入能)に起因する、出力の損失を避けられる。電気的ドープすることによって、ドープされていないETMと比較してドープされた半導体材料の導電率を実質的に増加させる程度の新たな電荷キャリアが発生するならば、このドープされたETLを光学スペーサとして用いることもできる。というのも、このドープされたETLを備えるデバイスの駆動電圧を顕著に上昇させることなく、ETLを非常に肉厚に成形することができるからである(最大1000nm以上)。新たな電荷キャリアを発生させると考えられている、多くの場合に好適な電気的ドーピングの一形態に、いわゆる酸化還元ドーピングがある。n型ドーピングの場合の酸化還元ドーピングは、ドーパントからマトリクス分子への電子の移動に相当する。
【0084】
実質的に元素形態である金属をドーパントとして用いる電気的n型ドーピングの場合、金属原子からマトリクス分子への電子の移動の結果、金属カチオン及びマトリクス分子のアニオンラジカルが生じると考えられている。アニオンラジカルから近傍にある通常のマトリクス分子へと1つの電子が遷移することが、n型酸化還元ドープ半導体における電荷移動のメカニズムであると、昨今では考えられている。
【0085】
本発明の半導体材料の、電子輸送材料としての使用は、本発明の好ましい形態の一つである。発明の概要欄に記載の通り、実質的に共有結合性のマトリクス材料の化学的組成は、特に限定されない。極性基を有しているマトリクス化合物(例えば、窒素複素環若しくはリン複素環を有している有機化合物、又はホスフィンオキシド基を有している化合物)が有用である。リン複素環を有しているマトリクスの中でも、ホスフェピン化合物は非常に良いマトリクス化合物であることが判っている。
【0086】
上述した酸化還元電気的ドーピングの観点から、金属でn型ドープされた半導体の全ての特性を厳密に説明することは、依然として困難である。特に、本発明の半導体材料において観察されるような、第1金属と第2金属との間の未知の相乗効果からは、次のようなヒントがもたらされる。すなわち、実質的に共有結合性のマトリクス材料を金属ドーピングすることによって、酸化還元ドーピングと、マトリクス材料と金属原子及び/又はそのクラスターとの混合とが有利に組み合わされるのかもしれない。しかしながら、観察された効果は全て、「金属でドープされた半導体材料は、添加された金属性元素の少なくとも一部を実質的に元素状態で含んでいる」という、広く受け入れられている仮定と整合している。
【0087】
異なる機能を持った他の層を設けてもよく、当業者に知られているようにデバイス設計を変更してもよい。例えば、カソードとETLとの間に、金属製、金属複合体製又は金属塩製の電子注入層(EIL)を用いてもよい。
【0088】
[電荷発生層(CGL)]
OLEDは、CGLを備えていてもよい。CGLを電極と結合させて逆接合点(inversion contact)として用いることもできるし、積層OLEDにおいては接合ユニットとして用いることもできる。CGLは、多くの異なる構成及び名称を有しうる(例としては、pn接合、接合ユニット、トンネル接合等)。US2009/0045728A1、US2010/0288362A1に開示されているpn接合が、その例である。
【0089】
[積層OLED]
OLEDが、CGLによって隔てられている2つ以上のLELを備えている場合、当該OLEDを積層型OLEDと呼ぶ(そうでないものは、シングルユニット型OLEDと呼ぶ)。(i)最も近い2つのCGLの間にある層の群、又は(ii)電極の一方と最も近いCGLとの間にある層の群、のことを「エレクトロルミネッセント単位(ELU)」と呼ぶ。したがって、積層型OLEDは次のように表すことができる:アノード/ELU
1/{CGL
X/ELU
1+X}
X/カソード(xは正の整数である。それぞれのCGL
X又はELU
1+Xは、同じであっても異なっていてもよい)。また、US2009/0009072A1に開示されているように、2つのELUの互いに隣接している層によって、CGLを形成させることもできる。積層型OLEDについては、例えば、US2009/0045728A1、US2010/0288362A1及びこれらが援用する文献にて、更に説明されている。
【0090】
[有機層の堆積]
電子デバイス中の任意の有機層は、公知の技術により積層することができる(例えば、真空蒸着(VTE)、有機気相蒸着、レーザ熱転写、スピンコーティング、ブレードコーティング、スロットダイコーティング、インクジェット印刷等)。本発明に係るOLEDを作製するための好適な方法は、真空蒸着である。重合性の材料は、適当な溶媒中の溶液から、コーティング技術によって、好適に処理される。
【0091】
[金属の堆積]
本発明の半導体材料は、1種類以上の第1金属の少なくとも一部と、1種類以上の第2金属の少なくとも一部とを、実質的に元素形態で含んでいる。それゆえ、本発明の製造方法においては、1種類以上の第1金属及び1種類以上の第2金属を、それらの元素形態又は実質的な元素形態から気化させることが有利である。これに関して、「実質的に金属性組成物」という用語は、1種類以上の第1金属及び1種類以上の第2金属を、それぞれ少なくとも部分的には、実質的な元素形態で含んでいる組成物のことであると理解されたい。つまり、電子状態及びエネルギーの観点、並びに化学結合の観点から、金属塩、共有結合性金属化合物、又は金属の配位化合物の形態よりも単体金属、自由金属原子、又は金属原子のクラスターの形態により近い。
【0092】
金属合金について、「実質的に金属性の組成物」は、90原子%以上、好ましくは95原子%以上、より好ましくは98原子%以上、より一層好ましくは99原子%以上、最も好ましくは99.9原子%以上の金属元素からなっていると理解されたい。水素、ホウ素、炭素、ケイ素、窒素、リン、ヒ素、酸素、硫黄、セレン、ハロゲン及び希ガスを除くすべての元素は、本願において金属性であると見做す。
【0093】
好ましくは、前述した本発明の半導体材料の製造方法において、第1蒸着源に含ませるために使用する金属合金中の、第1金属及び第2金属の合計は10重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上であり、より一層好ましくは90重量%以上であり、より一層好ましくは95重量%以上であり、最も好ましくは99重量%以上である。
【0094】
金属合金は、主として金属元素を含んでいる。そのため、金属合金中における元素は、定義上は実質的に元素形態において存在しており、これは純粋な金属元素中におけるものと同じであることを理解されたい。
【0095】
したがって、金属及び/又は金属合金のみを含んでいる組成物から放出される場合、金属蒸気は、必然的に、金属を実質的に元素形態で含んでいるものとみなす。EP1648042B1又はWO2007/109815に記載のガリウム合金又はビスマス合金から放出されるセシウム蒸気は、通常、実質的に金属性の組成物に由来する、1種類の金属成分の気化であると理解される。それゆえ、これによって実質的に元素形態のセシウム金属蒸気が提供されると理解される。
【0096】
これに対してより一般的に、金属を含んでいる任意の実質的に金属性の組成物は、真空下で加熱された場合、少なくとも部分的には、実質的に元素状態の金属蒸気を放出しうると合理的に期待されうる。とりわけ、(i)実質的に金属性の組成物に任意構成として含まれている非金属成分が、化学的に不活性及び/又は不揮発性であるとき、又は(ii)任意構成として含まれている非金属成分が、組成物の小部分しか占めない(好ましくは20原子%未満、より好ましくは10原子%未満、より一層好ましくは5原子%未満、より一層好ましくは2原子%未満、最も好ましくは1%未満)ときには、特に期待されうる。
【0097】
本発明の半導体材料は、常法によって入手可能であることについて言及する必要がある。つまり、第1蒸着源より第1金属を蒸着させ、第2蒸着源よりマトリクス化合物を蒸着させ、第3蒸着源から第2金属を蒸着させる方法である。
【0098】
従来の製造方法の利点は、第1蒸着源、第2蒸着源、第3蒸着源のそれぞれの温度を、別個に調節できることにある。そのため、第1金属、第2金属及びマトリクス化合物の蒸着速度を、これらの異なる揮発性に対して、容易に調節できる。欠点としては、設備が複雑となり、広い表面積上においてすべての成分の堆積速度に再現性を持たせることが困難であることが挙げられる。
【0099】
これらの周知の欠点によって、制御可能な蒸着源の数に、実用上の制限が生じてしまう。研究室スケールにおいては、3つの別個の蒸着源から、3種類の異なる材料を共蒸着させることは可能である。大量生産の際は大型の基板に堆積させる必要があるため、蒸着源の数の実用上の制限は3つであるが、しかし、この条件における品質保証は非常に困難であり、製造効率に大きな制限を課さなければ達成できない。
【0100】
しかし驚くべきことに、本発明者らが見出したところによると、10
−2Pa未満の圧力下においては、Li、Na、K、Rb及びCsより選択される第1金属の揮発性と、Zn、Cd、Hg及びTeより選択される第2金属の揮発性は、充分に近い。そのため、単一の蒸着源(第1蒸着源)から、第1金属及び第2金属を蒸着させることが可能となりうる。とりわけ、実質的に金属性の組成物として第1蒸着源に含まれている組成物を設計することによって、両方の金属の揮発性が互いにより適切に調節されている場合には、特にそうである(このとき、第1金属及び第2金属は、少なくとも部分的には、相互作用が可能なように互いに接触している)。
【0101】
蒸着源中に特定の金属を実質的に純粋な形態で含むのではなく、第1金属及び第2金属を含んでいる合金の形態で金属組成物を設計することが、有利であることが示された。この合金が、第1金属及び第2金属を、少なくとも部分的には1つの均一相中に含んでいる場合、特に有利であることが更に示された。
【0102】
第1金属及び第2金属を含んでいる均一相が十分に高い融点を有する場合(好ましくは、第1金属の融点及び第2金属の融点よりも高い場合)、特に有利であることも更に判った。十分に低い操作圧力下においては(通常は10
−2Pa未満)、融点が十分に高ければ、本発明の製造方法の最も好ましい実施形態が実現できる。この実施形態では、第1金属及び第2金属の組成物は定組成で昇華し、第1金属と第2金属との割合は変化することがない。この実施形態において、第1金属の蒸着速度及び第2金属の蒸着速度の割合は、組成物を与える第1蒸着源の温度とは独立である。第1蒸着源の温度は、組成物の設計によって決定された原子の割合にて、第1金属及び第2金属の全体の気化を併せて制御している。
【0103】
[電気的ドーピング]
最も信頼性が高いとともに、最も効率的であるOLEDとは、電気的にドープされた層を備えているOLEDである。一般的に、電気的ドーピングとは、電気特性を向上させること(とりわけ、ドーパントを含んでいない純粋な電荷発生マトリクスと比較して、ドープされた層の導電性及び/又は注入能を向上させること)を意味する。狭義には、正孔輸送層が適切なアクセプター物質でドープされているか(p型ドーピング)、あるいは、電子輸送層が適切なドナー物質でドープされている(n型ドーピング)。このようなドーピングは、通常、酸化還元ドーピング又は電荷輸送ドーピングと呼ばれている。酸化還元ドーピングによって、有機固相中の電荷キャリア密度を(したがって導電率を)、実質的に増加させることができる。換言すれば、酸化還元ドーピングによって、半導体マトリクスの電荷キャリア密度を、ドープされていないマトリクスの電荷キャリア密度と比較して増加させることができる。有機発光ダイオードにおけるドープされた電荷輸送層の使用(アクセプター様分子の混合による正孔輸送層のp型ドーピング、ドナー様分子の混合による電子輸送層のn型ドーピング)については、例えば、US2008/203406及びUS5,093,698に記載されている。
【0104】
US2008227979は、無機ドーパント及び有機ドーパントを用いた有機輸送材料の電荷輸送ドーピングについて、詳細に開示している。基本的に、ドーパントからマトリクスへと効率的に電子輸送されると、マトリクスのフェルミ準位が増加する。p型ドーピングの場合の効率的な輸送に関しては、ドーパントのLUMOエネルギーが、(i)マトリクスのHOMOエネルギーよりも負であるか、(ii)少なくとも僅かに正である値以下である(好ましくは、マトリクスのHOMOエネルギーよりも0.5eV未満だけ正である)、ことが好ましい。n型ドーピングの場合は、ドーパントのHOMOエネルギーが、(i)マトリクスのLUMOエネルギーよりも正であるか、(ii)少なくとも僅かに負である値以上である(好ましくは、マトリクスのLUMOエネルギーと比べて0.5eV未満だけ負である)、ことが好ましい。更に望ましくは、ドーパントからマトリクスへとエネルギー移動させる際のエネルギー準位の差は、+0.3eV未満である。
【0105】
酸化還元ドープされた正孔輸送材料の公知の典型例としては、以下が挙げられる:テトラフルオロ−テトラシアノキノンジメタン(F4TCNQ、LUMO準位:約−5.2eV)でドープした、銅フタロシアニン(CuPc、HOMO準位:約−5.2eV);F4TCNQでドープした、亜鉛フタロシアニン(ZnPc、HOMO:−5.2eV);F4TCNQでドープした、α−NPD(N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン);2,2’−(ペルフルオロナフタレン−2,6−ジイリデン)ジマロノニトリル(PD1)でドープした、α−NPD;2,2’,2’’−(シクロプロパン−1,2,3−トリイリデン)トリス(2−(p−シアノテトラフルオロフェニル)アセトニトリル)(PD2)でドープした、α−NPD。本願のデバイス例においては、p型ドーピングは全て、8mol%のPD2によって行った。
【0106】
酸化還元ドープされた電子輸送材料の公知の典型例としては、以下が挙げられる:アクリジンオレンジベース(AOB)でドープされた、フラーレンC60;ロイコクリスタルバイオレットでドープされた、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸−3,4,9,10−二無水物(PTCDA);テトラキス(1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−2H−ピリミドロ[1,2−a]ピリジアミナト)ジタングステン(II)(W
2(hpp)
4)でドープされた、2,9−ジ(フェナントレン−9−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン;3,6−ビス−(ジメチルアミノ)−アクリジンでドープされた、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA);ビス(エチレン−ジチオ)テトラチアフルバレン(BEDT−TTF)でドープされた、NTCDA。
【0107】
酸化還元ドーパント以外に、特定の金属塩を代わりに用いて電気的n型ドープすることができる。その結果として、ドープされた層を備えているデバイスの駆動電圧を、金属塩を用いていない同じデバイスと比較して低減させることができる。電子デバイス中で、これらの金属塩(「電気的ドーピング添加物」と呼ばれることもある)が電圧の低下に寄与する真のメカニズムは、未だ解明されていない。これらの金属塩は、ドープされた層の導電率というよりも、隣接する層との間の界面におけるポテンシャル障壁を変化させると考えられている。というのも、この駆動電圧に関する有利な効果は、これらの添加物でドープされた層が非常に薄い場合に限って得られるからである。上述の電気的ドープされていない層又は添加物でドープされている層は、通常は50nmよりも薄く、好ましくは40nmよりも薄く、より好ましくは30nmよりも薄く、より一層好ましくは20nmよりも薄く、最も好ましくは15nmよりも薄い。製造工程が充分に緻密であるならば、添加物でドープされている層を10nmよりも薄く(又は5nmよりも薄く)作製することができ、これは有用である。
【0108】
電気的ドーパントとして有用な金属塩の典型的な代表例としては、1価又は2価の金属カチオンを含んでいる塩がある。好ましくは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩が使用される。塩のアニオンは、好ましくは、十分な揮発性を有している塩を与えるアニオンである。十分な揮発性があれば、高真空条件下における堆積が可能になる(特に、電子輸送マトリクスの堆積に適した温度及び圧力の範囲と同等の、温度及び圧力の範囲において)。
【0109】
このようなアニオンの例として、8−ヒドロキシキノリノラートアニオンが挙げられる。このアニオンの金属塩(例えば、式D1に表されるリチウム8ヒドロキシキノリノラート(LiQ))は、周知の電気的ドーピング添加物である。
【0111】
電子輸送マトリクスにおける電気的ドーパントとして有用な、別の金属塩の種類には、PCT/EP2012/074127(WO2013/079678)に開示されている化合物がある。この化合物は、一般式(II)で示される。
【0113】
式中、A
1は、C
6〜C
20アリーレンである。A
2及びA
3のそれぞれは、独立に、C
6〜C
20アリールより選択される。ここで、前記アリール又はアリーレンは、未置換であってもよく、C及びHを有している基で置換されていてもよく、LiO基で更に置換されていてもよい(ただし、アリール基又はアリーレン基中の所与のC数には、当該アリール基又はアリーレン基上に存在する全ての置換基のCも含まれる)。「置換又は未置換のアリーレン」という用語は、置換又は未置換のアレーンに由来する、2価のラジカルを表すと理解されたい。このとき、隣接している構造部分(化学式(I)中のOLi基及びジアリールホスフィンオキシド基)はいずれも、アリーレン基の芳香環に直接結合している。この種類のドーパントは、化合物D2に表される(式中のPhはフェニルを表す)。
【0115】
電子輸送マトリクスにおける電気的ドーパントとして有用な、また別の金属塩の種類には、PCT/EP2012/074125(WO2013/079676)で開示される化合物がある。この化合物は、一般式(III)で示される。
【0117】
式中、Mは金属イオンである。A
4〜A
7のそれぞれは、独立に、H、置換又は未置換のC
6〜C
20アリール、及び置換又は未置換のC
2〜C
20ヘテロアリールから選択される。nは、金属イオンの価数である。この種類のドーパントは、化合物D3に表される。
【0119】
本発明に係るデバイスにおいては、例えば、電子注入層又は電子輸送層に添加物を利用できる。その一方で、本発明の半導体材料は、電荷発生層において使用される。その代わりに(又はそれに加えて)、本発明に係る半導体材料は電子注入層及び/又は電子輸送層として使用可能であり、一方、添加物は電荷発生層に使用可能である。
【0120】
〔本発明の有利な効果〕
有機半導体における電気的ドーピングの実用上の重要性にもかかわらず、金属でドープした半導体材料の研究は、これまで滞ってきた。これは、研究室における実験上の障害、及び、工業的生産における技術上の障害(そして対応するQAの問題)が原因であった。このため、実用されているものは、1種類の金属と1種類のマトリクス化合物とからなる最も単純な系に専ら限定されていた。
【0121】
より複雑なシステムを技術的に利用可能にする予期せぬ発展により、本発明者らが見出したところによると、アルカリ金属の亜鉛合金は、広汎な組成及び堆積速度において、10
−2Pa未満の高真空で、昇華及び分取が可能である。
【0122】
更なる実験によって示されたところによると、1つの蒸着源から金属合金及び実質的に金属性の組成物を蒸着させることは、幅広く応用可能であり、2種類の金属を含んでいる複雑な半導体材料の製造に再現性を与える技術的に単純な方法である。この系を詳細に研究することによって、本発明者らは、もう1つの予期せぬ発見にたどり着いた。この発見は、表1にまとめられている実験結果(下記実施例1に詳述する実験デバイスによるもの)に示されている。
【0123】
電流密度10mA/cm
2にて測定された電圧、量子効率、及び国際照明委員会(CIE)による色空間中のy座標を、表1に示す。
【0125】
驚くべきことに、第1金属と第2金属との比率を変化させることにより、第1金属と第2金属との合計量を一定に保ったままでも、実験デバイスの性能を有効に調節することができた。Teは非常に劣ったドーパントであり、Znはそれ自体として実用的には不活性である(デバイスが発光しなかったため、Znのみの結果は示していない)にもかかわらず、これらがアルカリ金属と相互作用することによって、注目に値する相乗効果が表れることは明白である。これによって、性能を落とすことなく(又は、場合によっては性能を向上させながら)、第1金属の一部を第2金属で置き換えることができる。
【0126】
本発明の更なる利点は、アルカリ金属が前述した第2金属との合金の形態を取ることによって、扱いが容易になったことである。著者らが見出したところによると、特にアルカリ金属の含有率が20重量%未満(より好ましくは10重量%未満)である合金は、環境条件下で、特別な事前対応をすることなく扱うことができる。
【0127】
アルカリ金属より選択される第1金属と、Zn、Cd、Hg及びTeより選択される第2金属(電気的により一層負である)とを、本発明に係る1種類の半導体材料中で組み合わせることによって、電気的な影響が及ぼされるだけでなく、当該材料のその他の物理的特性へも影響があるように思われる。特に、本発明者らが提供する半導体材料及び層は、同等な量の純粋な金属を含んでいる材料と比較すると、光学的透明性が向上している。
【0128】
これらの発見によって、半導体材料及びデバイスの設計及び製造、並びにこれらの工業スケールでの製造における新たな選択肢が広がることになる。
【実施例】
【0129】
[補助材料]
【0130】
【化7】
【0131】
[補助手法]
(サイクリックボルタンメトリー)
特定の化合物の酸化還元電位は、試験物質の0.1M THF(アルゴンにより脱気し、乾燥させてある)溶液中で、アルゴン雰囲気下にて測定した。支持電解質として、0.1M テトラブチルアンモニウム・ヘキサフルオロホスフェートを使用した。白金製作用電極間にて、塩化銀で被覆されている銀ワイヤーからなるAg/AgCl疑似標準電極を用いて測定した。電極を測定溶液に直接浸漬し、スキャン速度は100mV/sとした。1回目の測定は、作用電極間に最も大きな範囲の電位差を設定して行い、その後の測定においては、当該範囲を適宜調整した。最後の3回の測定は、標準としてフェロセンを添加して行った(濃度:0.1M)。試験化合物の陰極ピーク及び陽極ピークに対応する電位の平均は、Fc
+/Fc標準酸化還元対について測定した陰極電位及び陽極電位の平均を差し引いた後で、上述した最終的な値を得た。試験した全てのホスフィンオキシド化合物は、既報の比較化合物と同様に、明確に可逆的な電子化学的ふるまいを示した。
【0132】
〔合成例〕
金属合金の合成は、標準的な冶金学的手法に沿って行った。密封したタンタル製又はセラミック製の坩堝内で、アルゴン雰囲気化において元素を融解させることにより、合成を行った。
【0133】
製造した合金を、半導体材料及び金属層の製造のための気化可能なドーパントとして試験した。試験は、製造したままと、真空下での昇華及び分取によって精製した後との、両方で行った。
【0134】
第1金属及び第2金属の重量比について、製造した合金の例を表1に示す。より具体的には、例えばマトリクスを表1の3行目に記載のK−Zn合金によってドープした場合、ドーピングに使用したK−Zn合金中の、KのZnに対する重量比は、1.10:23.9である。換言すると、前記合金は4.40重量%のK及び95.60重量%のZnからなる。
【0135】
〔デバイスの実施例〕
[実施例1 青色OLED]
以下の手順により、第1の青色発光デバイスを作製した。まず、ITOガラス基板上に、PD2でドープしたA1の層(10nm、マトリクスのドーパントに対する重量比は92重量%:8重量%)を堆積させた。続いて、ドープされていないA2の層(125nm)を堆積させた。次に、NUBD370(Sun Fine Chemicals)でドープしたABH113(Sun Fine Chemicals)を、青色蛍光を発する発光層として堆積させた(厚さ:20nm、97重量%:3重量%)。次に、化合物A3の中間層(4nm)と、試験する半導体材料(35nm)とを、発光層の上に堆積させた。試験する半導体層は、化合物A4をマトリクスに用い、第1金属及び第2金属の含有率を表1に示した値として、作製した。作製方法は、3成分を3つの異なる蒸着源から共蒸着させるか、あるいは、合金(元素組成は、表から容易に算出できる)を使用する本発明の製造方法を用いるかの、いずれかとした。最後に、試験する半導体層の上に、カソードとしてアルミニウム層(厚さ:100nm)を堆積させた。
【0136】
電流密度10mA/cm
2にて測定した電圧及び量子効率を、表1にまとめた。
【0137】
〔使用されている略語〕
at% 原子パーセント
CGL 電荷発生層
CV サイクリックボルタンメトリー
DCM ジクロロメタン
DSC 示差走査熱量測定
EIL 電子注入層
EQE エレクトロルミネセンスの外部量子効率
ETL 電子輸送層
ETM 電子輸送マトリクス
EtOAc 酢酸エチル
Fc
+/Fc フォロセニウム/フェロセン参照系
h 時間
HIL 正孔注入層
HOMO 最高被占分子軌道
HTL 正孔輸送層
HTM 正孔輸送マトリクス
ITO 酸化インジウムスズ
LUMO 最低空分子軌道
LEL 発光層
LiQ リチウム8−ヒドロキシキノリノラート
MeOH メタノール
mol% モルパーセント
OLED 有機発光ダイオード
QA 品質保証
RT 室温
THF テトラヒドロフラン
UV 紫外線(紫外光)
vol% 体積パーセント
v/v 体積/体積(割合)
VTE 熱蒸着
wt% 重量(質量)パーセント