(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965260
(24)【登録日】2021年10月22日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】ドナー基板への注入のための適切なエネルギーの決定方法、およびセミコンダクタ・オン・インシュレータ(Semiconductor−on−insulator)構造体の組立方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20211028BHJP
H01L 27/12 20060101ALI20211028BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/02 B
H01L21/265 Q
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-545988(P2018-545988)
(86)(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公表番号】特表2019-511112(P2019-511112A)
(43)【公表日】2019年4月18日
(86)【国際出願番号】FR2017050471
(87)【国際公開番号】WO2017149253
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2019年11月8日
(31)【優先権主張番号】1651747
(32)【優先日】2016年3月2日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500361216
【氏名又は名称】ソワテク
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】ルドビク、エカルノ
(72)【発明者】
【氏名】ナディア、ベン、モハメド
(72)【発明者】
【氏名】カリーヌ、デュレ
【審査官】
宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−072071(JP,A)
【文献】
特開2002−305292(JP,A)
【文献】
特表2005−516392(JP,A)
【文献】
特表2008−513989(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0148917(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0199956(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシーバー基板(10)へ転写される単結晶半導体層(32)を画定する脆化領域(31)を形成するために、ドナー基板(30)に少なくとも2種の原子種を注入する適切なエネルギーを決定する方法であって、
(i)前記ドナー基板(30)および前記レシーバー基板(10)のいずれか一方に誘電体層を形成し、
(ii)所定のエネルギーを有する前記ドナー基板(30)に、前記原子種を共注入して、前記脆化領域(31)を形成し、
(iii)前記誘電体層が結合境界面に存在するように、前記レシーバー基板(10)上に前記ドナー基板(30)を結合させ、
(iv)前記脆化領域(31)に沿って前記ドナー基板(30)を切り離して前記単結晶半導体層(32)を転写し、前記ドナー基板の残部(34)を回収し、
(v)前記ドナー基板(10)の前記残部(34)の周縁部クラウン、または前記工程(iv)において前記単結晶半導体層(32)が転写された前記レシーバー基板(10)の外縁部クラウンを観察し、
(vi)前記クラウンが前記レシーバー基板へ転写された領域を示す場合、前記工程(ii)における注入エネルギーが高すぎると決定し、
(vii)前記クラウンが前記レシーバー基板へ転写された領域を示さない場合、前記工程(ii)における注入エネルギーが適切であると決定する、
ことを含む、方法。
【請求項2】
前記工程(ii)は、それぞれ異なる注入エネルギーで、いくつかのドナー基板において実施され、前記ドナー基板の残部(34)の、または前記単結晶半導体層(32)が転写された前記レシーバー基板(10)の観察後に、前記注入エネルギーのそれぞれについて、注入エネルギーの適切な範囲を決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記適切な注入エネルギーの範囲内の最大注入エネルギーを決定して、前記最大注入エネルギーから前記レシーバー基板上へ転写される前記単結晶半導体層(32)の最大厚さを推測する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
単結晶半導体層の、ドナー基板(30)からレシーバー基板(10)への転写により、セミコンダクタ・オン・インシュレータ型の構造体を製造する方法であって、
(a)請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法により適切な注入エネルギーを決定し、
(b)前記レシーバー基板(10)および前記ドナー基板(30)の少なくとも一方の上に、誘電体層を形成し、
(c)前記工程(a)で決定された前記注入エネルギーを用いて、少なくとも二つの原子種を共注入して、転写される単結晶半導体層(32)を画定するようにドナー基板中に脆化領域(31)を形成し、
(d)前記レシーバー基板(10)上に、前記ドナー基板(30)を分子結合する工程であって、前記誘電体層は結合境界面に存在し、
(e)前記脆化領域(31)に沿って、前記ドナー基板(3)を切り離して、前記レシーバー基板上に、前記単結晶半導体層(32)を転写する、
ことを含む、方法。
【請求項5】
前記工程(a)において決定される前記適切な注入エネルギーは、前記セミコンダクタ・オン・インシュレータ構造体が最終的に有する単結晶半導体層(33)についての所望の厚さ(E2)よりも薄い前記工程(e)において転写された層の厚さ(E1)に相当し、前記工程(e)の後に、更に、前記所望の厚さ(E2)が得られるまで、前記レシーバー基板(10)へ転写される前記層(32)上にエピタキシーする工程(f)を含む、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層転写(layer transfer)による構造体の組み立て方法に関する。この方法は、より具体的には、SmartCut(登録商標)型の技法を用いて、「セミコンダクタ・オン・インシュレータ」(SeOI)型の構造体を製造するために、特に実施される。
【背景技術】
【0002】
SmartCut(登録商標)法は、薄い半導体層を、ドナー基板からレシーバー基板へ転写することを可能にし、以下の工程が用いられる。
a)ドナー基板に原子種を注入して脆化領域を形成し、前記脆化領域の深さは、転写することが所望される前記薄層の厚さに相当し、
b)前記基板と結合部を、分子結合を介して接触させ、ウエハーはエッジロールオフ(ERO)を有し、従って
図1に見られるように、その周縁部では接触していないため、前記結合部は、前記基板の周縁部を除き表面全体にわたって生じ、
c)前記ドナー基板の脆化領域に沿って切り離して、前記薄層を前記レシーバー基板へ転写させる。
【0003】
基板は、一般的に円形状のウエハーであり、例えば、300mmのウエハーが一般に用いられる。
【0004】
そのような薄層の転写が生じない周縁部領域は、クラウンとして知られている。SeOIウエハーにおける、四つの周縁部領域の上面図を示す
図2を参照すると、前記クラウンCPは、外側はレシーバー基板の端部100により区切られ、内側は転写された層の端部200により区切られる。
図2のウエハーは、均一なクラウンCPを有し、言い換えるとSeOIの端部は均一である。
【0005】
しかしながら、いくつかの場合において、ギザギザの端部が、最終製品、すなわち、分離後に得られるSeOIに見られる。分離後、クラウンはまた、小さな分離された転写された領域を含むことがある。
【0006】
クラウンの幅は、したがって、数百マイクロメートルを超える、レシーバー基板の端部へ向けて転写された領域の、局所的で制御不能な伸長によって、ギザギザになる。転写された領域の伸長は、最も明るい領域が転写された層に相当し、最も暗い領域がクラウンである、
図3の写真に見られる。
【0007】
ギザギザのクラウンが観察される一つの場合は、例えば、プラズマ活性化などによる分子結合の前に、基板の少なくとも一部の表面が活性化される場合である。この活性化により、結合エネルギーの顕著な強化が可能になる。結合エネルギーの強化はまた、例えば、SC1が50℃未満の温度で行われる一連のO
3/SC1/SC2型の結合の前における、適した洗浄によっても得られる。
【0008】
出願人による国際出願公開第WO2009/034113号パンフレットは、ドナー基板およびレシーバー基板の間の結合エネルギーの上昇が、これらの基板の周縁部領域において、前記基板の中心領域における結合エネルギーの増加よりも低くなるように、基板表面の活性を制御することにより、この不利益を克服することを提案している。
【0009】
しかしながら、例え上記の制御を適用した場合であっても、ギザギザな端部現象が依然として観察される場合がある。これらは、転写された半導体層が、厚い場合、すなわち、典型的には、370nm以上の場合、および脆化領域が、二つの異なる原子種、一般的には水素およびヘリウムの共注入により形成される場合の、特別な場合である。
【0010】
さらに、この所望ではないクラウンへの転写は、転写された半導体層が、レシーバー基板との境界面を介して化学攻撃を受けやすい脆化領域を作り(「アンダー・エッチング」として知られる現象)、剥離する。
【0011】
この種類の欠点を克服するための一つの解決策は、機械的または化学的作用により、クラウンへ転写された領域を取り除くことである。
【0012】
しかしながら、そのような補正操作の実施は、工業規模で実行するには複雑であり、SeOI構造体の製造コストに影響を及ぼし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際出願公開第WO2009/034113号パンフレット
【発明の概要】
【0014】
したがって、本発明の目的の一つは、局所的な伸展を生じさせずに、転写された層の均質な端部を保証するように、層転写により構造体を組み立てる方法を改善することである。
【0015】
この目的のために、本発明は、レシーバー基板上に転写される単結晶半導体層を画定する脆化領域を形成するために、ドナー基板への少なくとも二つの原子種の適切な注入エネルギーを決定する方法に関し、該方法は、以下の工程を含む。
(i)前記ドナー基板および前記レシーバー基板の少なくとも一方に誘電体層を形成し、
(ii)所定のエネルギーを有する前記ドナー基板に、前記原子種を共注入して、前記脆化領域を形成し、
(iii)前記誘電体層が前記結合境界面に存在するように、前記レシーバー基板上に前記ドナー基板を結合させ、
(iv)前記脆化領域に沿って前記ドナー基板を切り離して前記単結晶半導体層を転写し、前記ドナー基板の残部を回収し、
(v)前記ドナー基板の残部の周縁部クラウン、または前記工程(iv)において前記単結晶半導体層が転写された前記レシーバー基板の外縁部クラウンを観察し、
(vi)前記クラウンが前記レシーバー基板へ転写された領域を示す場合、前記工程(ii)における注入エネルギーが高すぎると決定し、
(vii)前記クラウンが前記レシーバー基板へ転写された領域を示さない場合、前記工程(ii)における注入エネルギーが適切であると決定する。
【0016】
有利には、工程(ii)を、異なる代表的な注入エネルギーを有する複数のドナー基板へ実施し、その上に単結晶半導体層が転写される、ドナー基板の残部またはレシーバー基板の残部の調査の際に、適切な範囲の注入エネルギーを、前記それぞれの注入エネルギーについて決定する。
【0017】
したがって、注入エネルギーの前記適切な範囲内の最大注入エネルギーを決定して、そこから、レシーバー基板上に転写される単結晶半導体層の最大厚さを推測することができる。
【0018】
本発明の更なる目的は、ドナー基板からレシーバー基板への単結晶半導体層の転写により、セミコンダクタ・オン・インシュレータ型の構造体を製造する方法に関し、該方法は以下の工程を含む。
(a)上記の方法により適切な注入エネルギーを決定し、
(b)レシーバー基板およびドナー基板の少なくとも一方の上に、誘電体層を形成し、
(c)工程(a)で決定された前記注入エネルギーを用いて、水素およびヘリウムなどの原子種を共注入して、転写される単結晶半導体層を画定するようにドナー基板中に脆化領域を形成し、
(d)レシーバー基板上に、前記ドナー基板を分子結合する工程であって、前記誘電体層は前記結合境界面に存在し、
(e)前記脆化領域に沿って、前記ドナー基板を切り離して、前記レシーバー基板上に、前記単結晶半導体層を転写する。
【0019】
本発明の一実施形態によると、工程(a)で決定される適切な注入エネルギーは、セミコンダクタ・オン・インシュレータ構造体の単結晶半導体層についての所望の厚さよりも薄い、工程(e)で転写される層の厚さに相当し、該方法は、更に、工程(e)の後に、所望の厚さに達するまで、レシーバー基板上に転写される層へのエピタキシー工程(f)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の他の特性および利点を、さらに、以下の添付の図面を参照しながら、以下に記載の説明により明らかにする。
【0021】
【
図1】
図1は、SeOIクラウンが生じているウエハーのエッジロールオフを示す、二つが結合されたウエハーの断面写真である。
【
図2】
図2は、標準的なクラウンを有するSeOIウエハーの端部の上面写真である。
【
図3】
図3は、ギザギザな端部現象を示すウエハーのクラウンの写真である。
【
図4】
図4は、SeOIを製造するために、レシーバー基板へドナー基板を結合した後の、構造体の断面図である。
【
図5】
図5は、単結晶半導体層の分離および転写後の前述の構造体の断面図である。
【
図6】
図6は、転写された層上のエピタキシャル成長後の、
図5における構造体の断面図である。
【
図7】
図7A〜7Cは、転写された層の異なる厚さ(それぞれ、350nm、420nm、および600nm)に相当する、異なる注入エネルギーを有する残余ドナー基板の周縁部クラウンの検査画像である。
【0022】
図4は、レシーバー基板10上にドナー基板30を結合した後に得られる構造体を示す。
【0023】
SmartCut(登録商標)処理を実施する場合、ドナー基板30(および/またはレシーバー基板)は、特に酸化層において、例えば、誘電体層20でコーティングされていてもよい。当業者に公知であるように、酸化物は、ドナー基板の熱酸化により堆積または形成することができる。
【0024】
ドナー基板30を、次に、少なくとも二つの原子種、例えば、水素およびヘリウムの共注入へ供するが、その注入量およびエネルギーは、転写されるのに望ましい、ドナー基板の層厚に相当する深度で注入ピークが得られるように適合させる。その中に原子種が注入される領域31は脆化領域と呼ばれる。この共注入により、ヘリウム原子は、水素原子の閉じ込めに寄与し、その後の脆化領域に沿った分離により、品質の改善が可能となる。これらの二つの原子種の注入は、タイミングを合わせて交互に行われる。また、二つの原子種の注入エネルギー(各種の質量に依存する)は、必ずしも一致していなくてもよい。この二つの原子種についての注入量およびエネルギーパラメータを、形成される脆化領域の深度の関数として画定することは、当業者が実施できる範囲のものである。
【0025】
ドナー基板30および/またはレシーバー基板10の表面のプラズマによる任意の活性化の後に、これらの基板は、接触した状態で、かつ分子結合した状態で配置される。プラズマ活性化の効果は、これらの二つの基板の間の結合エネルギーを増加させることである。この結合エネルギーの増加はまた、50℃未満の温度でSC1が行われる、O
3/RCAクリーンタイプの結合の前の、洗浄によっても得られる。この洗浄は、当業者によく知られており、したがって、詳細に記載しない。これは、単に、RCAが一連のいわゆるSC1およびSC2浴を含むことを想起しているに過ぎない。SC1は、H
2O、H
2O
2およびNH
4OHの混合物である。SC2は、H
2O、H
2O
2、およびHClの混合物である。H
2Oによる濯ぎは、これらのSC1およびSC2の間に行われる。O3洗浄は、オゾンガスが溶解されている第一のH
2O浴に相当する。
【0026】
図4に見られるように、この二つの基板のウエハーは、表面に垂直な端部を有していないが、矢印Cで示されるエッジロールオフを有する。したがって、基板10および30は、それらの端部には結合されていないが、エッジロールオフには結合されている。
【0027】
ドナー基板30を次に、脆化領域31に沿って分離する。この目的のために、分離を、機械力を用いるか、または温度上昇により開始することができ、分離波の形態で、表面全体にわたって分離が伝わる。そのようにして得たSeOI構造体は、
図5に示される。ウエハーのエッジロールオフの割合によって、ドナー基板30の転写された部分は、通常、レシーバー基板10の表面全体にわたって伸長しないが、周縁部クラウンCPの限りにおいては伸長する。
【0028】
300mmのウエハーについて、周縁部クラウンCPは、典型的に、ウエハーの縁部に対して1mmの幅を有する。
【0029】
上記に記載した端部がギザギザになる現象は、周縁部クラウンCPの内側の転写された領域(すなわち、酸化層20および薄層32)の存在によるものと解釈される。
【0030】
上記の端部がギザギザになる現象は、水素およびヘリウムの注入エネルギーが高すぎることによるものと考えられる。
【0031】
また、そのようなエネルギーは、十分に厚い半導体層を転写するために、十分に深い脆化領域を形成するために必要であろう。
【0032】
本発明者らは、酸化層が厚い場合(0.7〜3μmのオーダー)、注入および結合処理により転写されたシリコン表面は、非常に粗いことを観察した。これは、注入の欠陥を取り除くために、転写された薄層の表面が平滑になるよう、大量の材料を除去しなければならないことを意味するため、研磨後に所望の厚さを得るためには、十分な厚さの層を転写する必要があり、したがって可能な限り深く注入を実行する必要がある。
【0033】
さらに、本発明者らは、転写される層の臨界厚さが存在し、それよりも厚いと、裂開するために適用される分離波は、レシーバー基板の周縁部クラウンに対して、ドナー基板の周縁部クラウン(最初から結合されている必要はない)を圧迫する傾向があり、それにより、ドナー基板材料のレシーバー基板の周縁部クラウンへの転写を生成することを確認した。この臨界厚さは、分離が行われる構造体に依存し、特に、転写される層の厚さに依存する。
【0034】
一般に、本発明を用いて、各原子種の注入エネルギー範囲(または、少なくとも注入エネルギー値)を最初に確認することにより、端部がギザギザになる現象を防ぐか、または少なくとも低減することができ、これは、レシーバー基板の周縁部クラウンへ転写される領域をなくし(この適切なエネルギーは、分離後に残っているドナー基板の周縁部クラウンを調査することにより決定される)、そして、上記範囲内(または、確認した値以下の値)の注入エネルギーを用いて、単結晶半導体層をドナー基板から、レシーバー基板へ転写する。所望により、使用される注入エネルギーが、最終的なSeOI構造体の薄い半導体層についての所望の厚さよりも薄い転写された層の厚さに相当する場合、エピタキシー工程を、所望の厚さが得られるまで転写された層に実施する。
【0035】
本発明によれば、製造されるSeOI構造体について、先ず、脆化領域を形成するために注入される二つの原子種についての適切な注入エネルギーを決定することができる。
【0036】
ギザギザな端部の形成を制限しさらには防止できる注入プロセスのための手段を決定する観点から、当該決定法は、異なる注入エネルギーに相当するいくつかの試験SeOI構造体を作製することを意味する。
【0037】
より具体的には、試験SeOI構造体の製造は、以下の工程を含む(
図5を参照)。
(i)ドナー基板30およびレシーバー基板10の少なくとも一方に、誘電体層(典型的には酸化層)を形成し、
(ii)所定のエネルギーを有するドナー基板30に、原子種を共注入して、脆化領域31を形成し、
(iii)前記誘電体層が結合境界面に存在するように、レシーバー基板10へドナー基板30を結合させ、
(iv)脆化領域31に沿って、ドナー基板30を分離し、単結晶半導体層32を転写し、ドナー基板の残部34を回収する。
【0038】
基板の残部34を使用して、工程(ii)の共注入条件が、周縁部がギザギザになる現象につながるか否かを決定する。
【0039】
この目的のために、ドナー基板の残部34の周縁部クラウンCPは、基板の周縁部における欠陥を観察することができる、Edgescan(登録商標)装置を用いて観察する。当該装置は、SeOI構造体の製造ラインで広く使用されており、本明細書には詳細に記載しない。
【0040】
この観察によって、以下の結論に到達し得る。
−ドナー基板の残部のクラウンが、(ギザギザ縁部を示す)レシーバー基板へ転写された領域を示す場合、工程(ii)における注入エネルギーが高すぎること、
−前記クラウンは、レシーバー基板上に転写された領域を有さない場合(これは、ギザギザな端部が全く生成されていないことを意味する)、工程(ii)における注入エネルギーは適切であること。
【0041】
所望により、ドナー基板の残部の負のインプリントに相当するSeOI構造体について調査を行うことができる。しかしながら、残部の調査は、SeOI構造体の連続的製造方法に並行して行うことができるという利点を有している。
【0042】
異なる注入エネルギーについてこの試験を行うことにより、ギザギザな周縁部の形成を防ぐことができる注入エネルギーの範囲を決定できる。
【0043】
したがって、SeOI構造体のその後の製造のために、該範囲内の注入エネルギーを使用する。
【0044】
これらのSeOI構造体の製造は、SmartCut(登録商標)プロセスに従って実施され、実質的にギザギザな周縁部を生じない
図5に示されるようなSeOI構造体を得ることができるようにする。ドナー基板の残部を、廃棄または他の用途のために再利用することができる。
【0045】
図5に見られるように、レシーバー基板上に転写された層32の厚さは、E1と示す。
【0046】
厚さE2が、SeOI構造体の薄層に所望される厚さE1よりも大きい場合、この追加の厚さは、所望の厚さE2が得られるまで(
図6に示される最終層33)、転写された層32上にエピタキシー工程を実施することにより得られる。
【0047】
適切な注入エネルギーの範囲は、埋設された酸化層の厚さにより変化し得る。したがって、上記の決定方法は、(酸化層の材料、厚さなどの意味における)異なる特性を有するSeOI構造体について、調査することができる。
【0048】
ヘリウムおよび水素は、一般的に同じエネルギーで注入されないが、ヘリウムについての注入エネルギーは、水素についての注入エネルギーの関数として定義され、水素の注入エネルギーは、所定の深さの脆化領域を得られるように決定され、また、ヘリウムの注入エネルギーは、ヘリウムの注入ピークが、水素の注入ピークと近接するように決定される。結果として、本発明においては、水素についての適切な注入エネルギーを決定するのに十分であり、当業者は、その後、使用されるヘリウムの注入エネルギーを決定することができる。
【0049】
図7A〜7Cは、32keV〜68keVの間の、異なる水素注入エネルギーのための、1μm厚の酸化層を有するSeOI構造体における、ドナーシリコン基板の残部の周縁部クラウンのEdgescan(登録商標)調査の図である。
図7Aは、350nmの注入深度に相当し、
図7Bは420nmの深度に相当し、
図7Cは600nmの深度に相当する。ドナー基板は円形であるが、Edgescan(登録商標)で得られる画像は、直線としての基板の輪郭を示す。
【0050】
図7Aにおいて、(レシーバー基板へ転写していないシリコンの厚さに相当する)周縁部クラウンCPの境界線は、基板の中心部分に対して、厚さの矢印により示され、実質的に均一である。このクラウンは、注入のために気泡のできた外観を有している。
【0051】
図7Bにおいて、周縁部クラウンは、あまり均一ではない。特に、厚さ矢印により示された領域は、ドナー基板からレシーバー基板へのシリコンの転写に相当する。
【0052】
図7Cにおいて、厚さ矢印により示された2〜3の領域を除き、周縁部クラウンのシリコンは、レシーバー基板へ転写されていることが分かる(周縁部クラウンの外観は、基板の中心部の外観に類似している)。この外観は、転写された層は、相当に硬く、エッジロールオフ領域においてレシーバー基板へ最初に結合されていなかったドナー基板が、エッジロールオフで有る限り、レシーバー基板へ圧迫され、殆ど全体のドナー基板がレシーバー基板へ転写される程度に分離は激しい。
【0053】
これらの図面から、420および600nmの注入深度につながる注入エネルギーは、端部がギザギザになる現象を誘発し、したがって注入エネルギーは高すぎると推測される、一方、350nmの注入深度につながる注入エネルギーは、適切である。
【0054】
結果として、1μm厚の酸化層を有するSOIの製造のために、有利には、水素およびヘリウム共注入を実施して、370nm未満の注入深度に到達する。所望により、SOIのシリコン層は、転写される層の厚さよりも大きな厚さを有していなければならず、エピタキシー工程を用いて所望の厚さを使用する。