【文献】
JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 291, NO. 32, pp. 16508 -16518
【文献】
高島晶, 他,均一糖鎖を持つ糖鎖改変トラスツズマブ(5)EndoS2変異体の糖転移活性,第34回日本糖質学会年会要旨集,2015年07月01日,p. 171, P-015
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記1以上の変異は、T138D、T138E、T138F、T138H、T138K、T138L、T138M、T138N、T138Q、T138R、T138V、T138W、D226Q、T227Q及びT228Qからなる群より選択される、請求項1に記載のEndoS2の変異体。
前記変異体は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号3、配列番号4又は配列番号5に示される配列を含む、請求項1に記載のEndoS2の変異体。
活性化オリゴ糖を糖タンパク質アクセプターに結合することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のEndoS2の変異体を用いた工学的に改造された糖タンパク質の製造方法。
前記GlcNAC−IgGアクセプターは、セツキシマブ、リツキシマブ、ムロモナブ−CD3、アブシキシマブ、ダクリズマブ、バシリキシマブ、パリビズマブ、インフリキシマブ、トラスツズマブ、ゲムツズマブオゾガミシン、アレムツズマブ、イブリツモマブチウキセタン、アダリムマブ、オマリズマブ、トシツモマブ、1−131トシツモマブ、エファリズマブ、ベバシズマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、ナタリズマブ、エタネルセプト、IGN101、ボロシキシマブ、抗CD80 mAb、抗CD23 mAb、CAT−3888、CDP−791、エラプトズマブ、MDX−010、MDX−060、MDX−070、マツズマブ、CP−675,206、CAL、SGN−30、ザノリムマブ、アデカツムマブ、オレゴボマブ、ニモツズマブ、ABT−874、デノスマブ、AM 108、AMG 714、フォントリズマブ、ダクリズマブ、ゴリムマブ、CNTO 1275、オクレリズマブ、HuMax−CD20、ベリムマブ、エプラツズマブ、MLN1202、ビジリズマブ、トシリズマブ、オクレリズマブ、セルトリズマブペゴル、エクリズマブ、ペキセリズマブ、アブシキシマブ、ラニビジムマブからなる群より選択されるモノクローナル抗体に由来する、請求項10に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態は、高マンノース型、ハイブリット型又は複合型の広範囲のN−グリカンを活性化オリゴ糖オキサゾリンからフコシル化又は非フコシル化GlcNAc−ペプチド、タンパク質又はIgGに転移する顕著なトランスグリコシル化活性を示しながら、加水分解生成物の発生が非常に少ない選択されたEndoS2変異体に関する。上記新型EndoS2変異体は、効率的に作用して、様々な明確に定義されたグライコフォームを有する均質なグリコシル化糖ペプチド、糖タンパク質、治療用抗体及びそのFc断片を提供する。さらに、本発明の実施形態によれば、エフェクター機能(FcγlllA結合及び抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)など)及び薬理学的特性が改善された糖鎖改変抗体が提供される。さらに、本発明の実施形態によれば、多様な治療用抗体のFcグリコシル化のそのエフェクター機能に対する影響を迅速に調査することができる。
【0026】
以下の説明では、本明細書の一部を構成する添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を実施可能な特定の例として示す。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施できるように詳細に説明されており、本発明の範囲から逸脱することなく他の実施形態が考案され、構造的、論理的及び電気的変更が行われ得ることを理解されたい。したがって、例示的な実施形態の以下の説明は限定的な意味で解釈されるべきではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0027】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似又は同等の任意の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用することができるが、ここには好ましい方法及び材料を記載する。本明細書に具体的に記載された全ての刊行物及び特許は、本発明に関連して使用され得る刊行物に報告されている化学物質、細胞系、ベクター、動物、機器、統計分析及び方法論を記載及び開示することを含むあらゆる目的のために参照により組み込まれる。本明細書中に引用された全ての参考文献は、当業者の技術水準を示すものとして解釈されるべきである。 本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明のためにそのような開示に先行する権利がないことの承認として解釈されるべきではない。
【0028】
本発明の材料及び方法を説明する前に、本発明は記載された特定の方法論、プロトコル、材料、及び試薬に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明することのみを目的としており、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0030】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の言及を含むことに留意されたい。
【0031】
本明細書では、用語「グリカン」は、多糖、オリゴ糖又は単糖をいう。グリカンは、糖残基のモノマー又はポリマーであり得、直鎖状又は本鎖状であり得る。グリカンは、天然糖残基(例えば、グルコース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルノイラミン酸、ガラクトース、マンノース、フコース、ヘキソース、アラビノース、リボース、キシロースなど)及び/又は修飾糖(例えば、2'−フルオロリボース、2'−デオキシリボース、ホスホマンノース、6'スルホN−アセチルグルコサミンなど)を含み得る。
【0032】
本明細書では、用語「フコース」、「コアフコース」及び「コアフコース残基」は互換的に使用され、N−アセチルグルコサミンに結合したα−l,6−位置におけるフコースを指す。
【0033】
本明細書では、用語「N−グリカン」、「N−結合グリカン」、「N−結合グリコシル化」、「Fcグリカン」及び「Fcグリコシル化」は、互換的に使用され、Fc含有ポリペプチドのアスパラギン残基のアミド窒素に結合したN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を介して付着したN−結合オリゴ糖を指す。用語「Fc含有ポリペプチド」(Fc−containing polypeptide)は、Fc領域を含むポリペプチド(例えば、抗体)を指す。
【0034】
本明細書では、用語「グリコシル化パターン」及び「グリコシル化プロファイル」は互換的に使用され、N−グリカン種の特徴的な「指紋」を指す。上記N−グリカンは、糖タンパク質又は抗体から酵素的に又は化学的に放出され、さらに、例えば、LC−HPLC又はMALDI−TOF MSなどにより糖質構造が分析されたものである。例えば、Current Analytical Chemistry, Vol. 1, No. 1(2005), pp. 28−57におけるレビュー(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0035】
本明細書では、用語「糖鎖改変Fc」は、酵素的又は化学的に改変又は改造されたFc領域上のN−グリカンをいう。本明細書で用いられる用語「Fc糖鎖工学」は、糖鎖改変Fcを調製するために用いられる酵素又は化学プロセスである。
【0036】
Fc領域のグリコシル化プロファイルの記載では、用語「均質」、「同質」、「同質的」及び「均質的」は、互換的に使用され、痕跡量の前駆体N−グリカンを含まない、1つの所望のN−グリカン種によって表される単一のグリコシル化パターンを意味することを意図している。
【0037】
本明細書では、用語「IgG」、「IgG分子」、「モノクローナル抗体」、「免疫グロブリン」、及び「免疫グロブリン分子」は、互換的に使用される。
【0038】
本明細書では、用語「Fc受容体」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体をいう。好ましいFcRは、ヒトFcRの天然配列である。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体(γ受容体)を結合する受容体であり、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIサブクラスの受容体を含む(これらの受容体の対立遺伝子変異体及び選択的スプライシング型を含む)FcγRII受容体は、類似するアミノ酸配列を有するが細胞質ドメインが異なるFcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「阻害受容体」)を含む。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAM)を含む。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含む(review M. in Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15:203−234(1997))。FcRは、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457−92(1991)、Capel et al, Immunomethods 4:25−34(1994)、及びde Haas et al, J. Lab. Clin. Med. 126:330−41(1995)に記載されている。本明細書で用いられる用語「FcR」には、将来同定されるものを含む他のFcRも含まれる。この用語は、胎児への母体IgGの伝達に関与する新生児受容体であるFcRnも含む(Guyer et al, J. Immunol. 117:587(1976)and Kim et al, J. Immunol. 24:249(1994))。
【0039】
用語「エフェクター機能」は、抗体のFc領域とFc受容体又はリガンドとの相互作用によって生じる生化学的事象を指す。例示的な「エフェクター機能」は、Clq結合、補体依存性細胞傷害、Fc受容体結合、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、食作用、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体BCR)の下方制御などを含む。このようなエフェクター機能は、当該分野で公知の種々のアッセイを用いて評価され得る。
【0040】
本明細書では、用語「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」又は「ADCC」は、細胞傷害性の一形態を指す。分泌されたIgが特定の細胞傷害性細胞(例えば、天然キラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)に存在するFc受容体(FcR)に結合した後、これらの細胞傷害性エフェクター細胞を抗原保有標的細胞に特異的に結合させ、細胞毒素で標的細胞を殺すことができる。抗体は細胞傷害性細胞を「武装」させ、このような殺傷に絶対に必要とされる。ADCCを媒介する一次細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現し、単球は、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞におけるFcR発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457−92(1991)の第464頁の表3に要約される。目的分子のADCC活性を評価するためには、U.S. Pat. No. 5,500,362又はU.S. Pat. No. 5,821,337に記載されているインビトロADCCアッセイを実施することができる。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞は、末梢血単核球(PBMC)及び天然キラー(NK)細胞を含む。或いは、目的分子のADCC活性はインビボで評価されてもよい(例えば、Clynes et al. PNAS(USA)95:652−656(1998)に開示された動物モデル)。
【0041】
市場から入手可能及び/又は現在臨床試験の各段階で利用可能な治療用タンパク質の約3分の2はモノクローナル抗体である。このようなモノクローナル抗体のうち、30種類の抗体及びその誘導体は、主に腫瘍性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患などのさまざまな症状の治療に承認されている。しかし、天然及び組換え糖タンパク質のグリカンの微小不均一性は、糖タンパク質に基づく薬物の開発の大きな障害となる。タンパク質又は抗体の発現中にグリコシル化状態を制御することは非常に困難である。それは、タンパク質又は抗体の発現では、典型的には、ペンダントオリゴ糖の構造のみが異なるグリライフォームの混合物を生成し、且つこの混合物は異なる生物学的活性を有する可能性があるためである。最近、治療用抗体の糖鎖工学に対する大きな注目を引き起こす2つの酵素は、ヒト病原体化膿レンサ球菌に由来するEndoSとEndoS2である(Collin and Olsen 2001 ;Sjogren et al. 2013)。この酵素は、抗体上のN結合型グリカンを加水分解することによって免疫グロブリンG(IgG)のエフェクター機能を無効にする細菌性免疫回避因子として最初に発見された。
【0042】
IgGの各CH2ドメイン上の複合N結合型オリゴ糖は、Fc領域の構造、さらにFc受容体との相互作用にとって極めて重要である(Krapp et al. 2003;Woof and Burton 2004)。IgG−Fcドメインのオリゴ糖鎖は、いくつかのN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)、マンノース(Man)残基、最終的にガラクトース(Gal)及びフコース(Fuc)残基、並びにシアル酸(Sia又はNANA(N−アセチルノイラミン酸))を含む。GlcNAcは、αl-6Fucを有するか否かにも関わらず、Asn297に結合している。GlcNAcβ1−4は、上記最初のGlcNAcに結合している。次いで、Manα1−6及びManα1−3の2つのアームが結合しているmanβ1−4が見出される。両方のアームは、共にさらなるGlcNAcβ1−2を含み、GlcNAcβ1−2にGaiβ1−4が結合していてもよいが、結合していなくてもよい。したがって、糖鎖は、0、1又は2個のガラクトース残基(それぞれG0、G1、及びG2グライコフォームとして定義される)を含み得る。バイセクティングGlcNAcβ1−4の存在及び末端ガラクトース残基の一方若しくは両方のシアル酸又はGalα1-3残基によるキャッピングを含むさらなる変形が生じる。エンドグリコシダーゼを用いたFc-グリカンの酵素的切断は、Fc領域を変形させ、Fcγ受容体に結合するIgGを劇的に減少させる(Allhorn et al. 2008)。それらの37%の配列同一性にもかかわらず、EndoS及びEndoS2の両方は、ヒトIgGのN-結合グリカンのコアにおける2つのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)間のβ-1,4結合の加水分解を触媒する。しかし、複合型グリカンに加えて、EndoS2は、ハイブリッド及びオリゴマンノース構造に対する加水分解がEndoSよりも強い(Sjogren et al. 2015)。
【0043】
1980年代に最初の抗体療法が導入されて以来、臨床試験で240を超える治療用抗体があり、この分野は着実に拡大している(Chan and Carter 2010)。抗体機能に対するIgG−Fcグリカンの役割は、モノクローナル治療用抗体の成長分野で大きな注目を集めている。したがって、治療用抗体の効力を向上させるために、選択されたFcγ受容体と特異的に相互作用するFc-グリカンの糖鎖工学は主な焦点となっている(Sondermann et al. 2013; Bournazos et al. 2014; Monnet et al. 2014; Quast and Liinemann 2014)。エフェクター機能に対するいくつかの重要なグリカン修飾の影響は、以下の通りである。i)還元末端GlcNAc残基に結合したコアフコース残基の欠如がFcγRIIIaに対する親和性の増加、したがって抗体依存性細胞傷害性の増加をもたらす(Iidaet al. 2006)。ii)IgG上のシアル酸リッチグリカンは、樹状細胞及びマクロファージ上のDC−SIGN受容体との相互作用の増大を通じてIgGの抗炎症反応を増大させることが報告されている(Anthony et al. 2008;Anthony and Ravetch 2010; Pincetic et al. 2014)。iii)バイセクティングGlcNAcは、そのホモローグ対応物と比較して強いADCCを誘導する。近年、IgGのFcグリコシル化状態を制御するためのバイオテクノロジーツールに対する改良は、所定のグライコフォームを有する治療用抗体の開発を容易にする。したがって、機能的及び構造的研究のために、目的ペプチド、タンパク質及び抗体を高マンノース型、ハイブリッド型及び複合型の広範囲のN−グリカンに結合する糖鎖工学の分野において、本発明のEndoS2変異体は、大きな進歩を遂げた。
【0044】
本発明の特徴及び利点は、以下の非限定的な実施例によってさらに十分に示される。当業者であれば、これらの実施例は説明のためだけのものであり、本発明の範囲から逸脱することなく他の修正及び変形が可能であることを理解するであろう。
【0045】
実施例
ペプチド、治療用タンパク質及びインタクトIgG又はそのFc断片の糖鎖工学のためのEndoS2変異体の調製
【0046】
これまで、グライコシンターゼは、加水分解中のオキサゾリニウムイオン中間体形成の促進に関与する重要なアスパラギン(Asn)残基の部位特異的変異の誘発によって、いくつかのGH85エンドグリコシダーゼ(ENGases)(例えば、EndoA、EndoM、EndoDなど)から調製されている。
【0047】
化膿レンサ球菌由来のEndoSは、グリコシドヒドロラーゼファミリー18(GH18)に属する。このファミリーには、EndoFl、EndoF2及びEndoF3も含まれる。これらのGH18酵素は、ヒトIgG上のアスパラギン結合二本鎖グリカンを切断してモノGlcNAc抗体を産生するそれらの効率的な加水分解活性により知られている。EndoSは、グリカンオキサゾリンを基質として用いてキトビオース結合を合成するためのグライコシンターゼとしても機能することができるが、これらの酵素の固有の加水分解活性が大きな障害となるため、合成糖タンパク質の収率の大幅な低下をもたらす恐れがある。酵素活性のさらなる改善により、EndoS D233Qを含むエンドグリコシダーゼ変異体が開発される。これにより、ENGaseの活性部位に重要なモチーフ(GH18のD−X−E)が提供される。このモチーフは、隣接基が関与して二重置換反応を行うENGaseの触媒メカニズムをサポートする。このメカニズムにおいて、GlcNAcの2−アセトアミド基は、Aspのカルボン酸塩によって促進されるオキサゾリニウムイオン中間体の形成を伴って、アノマー中心における脱離基を置換するための求核剤として作用する。触媒残基(グルタメート)は、脱離アグリカン基をプロトン化し、求核性Η
20を脱プロトン化する一般的な酸/塩基として作用することで、オキサゾリニウムイオン中間体を加水分解して加水分解生成物を形成する。アスパラギン酸のカルボキシレート(EのN末端側の2つの残基)は、オキサゾリニウムイオン中間体の形成を促進及び安定化することが報告されている。EndoSのDからQへの変異は、トランスグリコシル化を改善しながら、加水分解活性を低減させることができることが実証された。
【0048】
変異体EndoS D233Q及びD233Aは均質な抗体を合成する大きな可能性を示しているが、効率的な反応を達成するために大量の酵素の添加が必要とされる。酵素の調製及び反応後の酵素除去工程は、面倒で労力が掛かる。最近、EndoS2は、新型な酵素として化膿レンサ球菌の別の血清型から同定された。EndoS触媒所有物において、複合型N−グリカンに対するEndo−P−N−アセチルグルコサミニダーゼ活性に加えて、EndoS2はEndoSと比較してハイブリッド型及びオリゴマンノース型構造を大きい程度で切断することができる(Jonathan et al, 2013 and 2015)。
【0049】
EndoS2は、EndoSと37%の配列同一性のみ有する。EndoS構造は、触媒ドメインにおいて共通の(β/α)
8バレル立体配座を採用する。これら2つの酵素のアラインメントに基づくと、EndoS2の4番目のβ−シートに位置する残基El86は、EndoSの一般的な酸/塩基D235に対応する。
【0050】
EndoS2のトランスグリコシル化の触媒効率を調べるために、触媒部位近傍のアミノ酸の変換がトランスグリコシル化を調節するか否かを調べた。触媒ドメイン近傍のいくつかの残基を選択し、部位特異的変異誘発によって変異させた。変異した残基は、3番目のβ−シート上のT138、4番目のβ−シート上のD182、5番目のβ−シート上のD226、T227及びT228を含む(
図3A)。テストしたEndoS2変異体は、T138D(配列番号6)、T138E(配列番号7)、T138F(配列番号8)、T138H(配列番号9)、T138K(配列番号10)、T138L(配列番号1 1)、T138M(配列番号12)、T138N(配列番号13)、T138Q(配列番号14)、T138R(配列番号15)、T138V(配列番号16)、T138W(配列番号17)、D182Q(配列番号2)、D226Q(配列番号3)、T227Q(配列番号4)及びT228Q(配列番号5)を含む(
図2及び表1)。これらの変異体は、大腸菌内でHis−タグ融合タンパク質として高収率で発現され、Ni−NTA親和性カラムで精製することができる。活性部位近傍の変異がトランスグリコシル化活性を劇的に改善しながらエンドグリコシダーゼ活性を低下させ、顕著なグライコシンターゼ効率をもたらすことが観察されている。また、これらの変異体は、ごくわずかな加水分解生成物で複合型N-グリカンを活性化グリカンオキサゾリンから脱グリコシル化されたインタクト抗体に転移することができる。
【0051】
以下の表1には、種々のEndoS2変異体の配列を示す。
【0053】
本発明の実施形態によれば、新型のEndoS2変異体は、配列番号2−17に示される配列からなる群より選択される配列を含む。これらの変異体は、改善されたトランスグリコシル化活性及び低下した加水分解活性を示すため、活性化オリゴ糖供与体をコアGlcNAc−アクセプター(フコシル化又は非フコシル化)に転移することを効率的に触媒することができる。
【0054】
いくつかの好ましい実施形態によれば、EndoS2変異体は、配列番号2−17の配列と少なくとも80%(例えば、80%、85%、90%、95%又は98%)の配列同一性を有することができ、所望のトランスグリコシル化活性有するか、又はトランスグリコシル化活性を有するその断片を含む。
【0055】
他の好ましい実施形態では、本発明のEndoS2変異体の変異部位は、残基133−143、残基177−187、残基221−233からなる群より選択される領域に位置する。
【0056】
さらに他の好ましい実施形態では、本発明のEndoS2変異体は、T138D(配列番号6)、T138E(配列番号7)、T138F(配列番号8)、T138H(配列番号9)、T138K(配列番号10)、T138L(配列番号11)、T138M(配列番号12)、T138N(配列番号13)、T138Q(配列番号14)、T138R(配列番号15)、T138V(配列番号16)、T138W(配列番号17)、D182Q(配列番号2)、D226Q(配列番号3)、T227Q(配列番号4)及びT228Q(配列番号5)を含む。
【0057】
EndoS2及びその変異体のグリカン加水分解活性
【0058】
市販のリツキシマブを基質としてEndoS2変異体のグリカン加水分解活性を測定した。リツキシマブは、治療用抗CD20モノクローナル抗体であり、モデルmAbとしてEndoS2変異体の加水分解活性及び潜在トランスグリコシル化活性の検出に用いられた。市販のリツキシマブの主なFcグリカンは、0−2個のガラクトース部分(G0F、GIF及びG2Fグライコフォームと呼ばれる)を有するコアフコシル化二本鎖複合型オリゴ糖である。リツキシマブを野生型EndoS2及びEndoS2変異体で1:1000のモル比(酵素:リツキシマブ)で処理した。グリカン加水分解過程は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にモニターされた。
【0059】
野生型EndoS2による処理は、迅速な脱グリコシル化を引き起こし、これにより、グリコシル化部位(N297)に対応するGlcNAc−Fc N−グリカンが生成される。これらの結果は、インタクトIgGに対する野生型EndoS2の顕著なFcグリカン−加水分解活性を確認し、mAbのグリコシル化再構築のための第一段階(加水分解)における有用性を示唆している。しかし、野生型(WT)EndoS2と比較して、EndoS2変異体による処理は、低下した加水分解活性を示した。特に、T138及びD226での変異体は、2時間のインキュベーション期間中、極めて低い又はほとんどないN−グリカン加水分解能力を示し、D182Qでの変異は、WT EndoS2と比較して、反応速度が60倍以上減少したことを示した。これらの結果は、残基D182、T138及びD226は、グリコシドヒドロラーゼ活性に重要であることを示している(
図3)。
【0060】
2,6−シアル化二本鎖複合型(SCT)オキサゾリンを供与体基質として用いたEndoS2及びその変異体のトランスグリコシル化能力の調査
【0061】
次いで、
図4に示すように、GlcNAc−リツキシマブをアクセプター、α−2,6−シアル化二本鎖複合型(SCT)オキサゾリンを供与体基質として用いて、EndoS2及びその変異体のトランスグリコシル化能力を調べた。グリコシル化再構築過程は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によりモニターされた。GlcNAc−リツキシマブ及びSCT−オキサゾリン(供与体/アクセプター、1:1、重量比)と野生型EndoS2及びその変異体(酵素/抗体、1:1000、モル比)とのインキュベーションをSDS−PAGEによりモニターしたところ、野生型EndoS2に対応するトランスグリコシル化生成物の一過性形成を示している。これは、野生型酵素による生成物の迅速なその場での加水分解のためであると考えられる。加水分解能力の喪失にもかかわらず、全ての選択された変異体(T138Q、D182Q、D226Q、T227Q及びT228Q)は、顕著なトランスグリコシル化活性を有する。これらの結果は、EndoS2変異体が新型な効率的なグライコシンターゼであり、生成物の加水分解がなく、複合型N−グリカンを用いて脱グリコシル化インタクトIgGをグリコシル化することを可能にすることを示している。
【0062】
トランスグリコシル化活性に対するT138での様々なアミノ酸残基の影響
【0063】
部位T138での強力なトランスグリコシル化活性のみを示すが加水分解活性を欠く最適アミノ酸残基を同定するために、この部位で様々な変異を行った。次いで、GlcNAc−リツキシマブをアクセプター、α−2,6−シアル化二本鎖複合型(SCT)オキサゾリンを供与体基質として用いてこれらの変異体のトランスグリコシル化能力を調べた(
図5)。T138(67.5nM)での種々の変異体を67.5μΜ GlcNAc−リツキシマブ及び2.5mM SCT−オキサゾリンと2時間インキュベートした。生成物をSDS−PAGEにより分析し、GlcNAc−リツキシマブ(IgG)及びリツキシマブ−SCT(IgG −グリカン)の相対百分率を
図5に示す。試験した変異体のうち、T138E、T138R、T138W、T138M及びT138Qが最大のトランスグリコシル化能を示した。
【0064】
高マンノース型、ハイブリッド型、及び複合型の広範囲のN−グリカンを用いたEndoS2変異体のトランスグリコシル化効率
【0065】
ヒトIgG分子は、そのそれぞれのFc CH2ドメインにN−グリカンを含む。これらのグリカンは、高マンノース型、ハイブリッド型、及び複合型を含む。Fc N−グリカンの組成は、抗体の炎症促進活性及び抗炎症活性の重要な決定因子であることが実証されている。例えば、コアフコースの欠如及びバイセクティングGlcNAc部分の結合は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)の原因である受容体(FcγRIIIa)に対する抗体の親和性を劇的に高める。高マンノース型グリカンを含む組換えIgG分子は、ヒトの血液中でより早く除去され、低下した熱安定性を示した。また、高マンノース型及びハイブリッド型グリカンを含むIgG分子は、CH2ドメインにおいてより高い立体配座柔軟性を示した。異なる高マンノース型、ハイブリッド型及び複合型のFc-グリカンを有するIgGを産生するための最も一般的な方法は、哺乳動物、植物、及び酵母宿主細胞を含む様々な発現系を使用することである。しかし、このような発現系は、通常、単一のグリカン構造ではなく、グライコフォームの混合物を提供する。したがって、生物物理学的及び構造的研究のための治療用抗体の純粋なグライコフォームを得ることは、グリカン工学分野において非常に興味深い。したがって、ペプチド、タンパク質、及びIgGのGlcNAcアクセプターへの異なる高マンノース型、ハイブリッド型及び複合型グリカンの効率的な転移を可能にするグライコシンターゼが必要とされている。
9
【0066】
次いで、一連の高マンノース型、ハイブリッド型、及び複合型グリカンオキサゾリンを用いて本発明のEndoS2変異体のトランスグリコシル化能力を調査した(表2)。その結果、シアル化複合型N−グリカンオキサゾリンに加えて、EndoS2変異体は、抗体糖鎖工学のために高マンノース型Man
5GlcNAc−オキサゾリン(Gl)、Man
9GlcNAc−オキサゾリン(G2)、ハイブリッド型グリカンG3及びG4、二本鎖及び三本鎖複合型グリカンG5−G16を転移して対応する均質なグライコフォームを形成するのに同等に効率的であることを示している。この研究において、リツキシマブをモデル抗体として用いた。しかし、当業者に理解できるように、他の糖タンパク質も同様に修飾することができる。これらの結果は、シアル化複合型N−グリカンオキサゾリンに加えて、EndoS2変異体は、高マンノース型、ハイブリット型、及び三本鎖複合型グリカンの転移において同等に効率的であることを示している。
【0067】
表2には、選択されたEndoS2変異体のトランスグリコシル化活性の調査に用いられた種々のグリカンオキサゾリンの構造を示す。
【0069】
複合型グリカンは、Man−GlcNAc−GlcNAcコアに存在する本鎖の数によって二本鎖、三本鎖、四本鎖型に分けられる。三本鎖又は四本鎖型グリカンが嵩高いが、一般的には、二本鎖グリカンオキサゾリンを受容するグライコシンターゼであれば、三本鎖又は四本鎖型グリカンオキサゾリンも受容することができる。これらの新規EndoS2変異体の有効性を証明するために、一連の複合型グリカンオキサゾリン(表2)をトランスグリコシル化に使用した。ここでリツキシマブをモデル抗体として使用した。結果を
図7−8に示す。これらの結果は、EndoS2グライコシンターゼ変異体が多様な高マンノース型、ハイブリッド型及び複合型グリカンをIgG−Fc領域に転移する顕著なトランスグリコシル化効率を有することを示している。したがって、本発明のEndoS2グライコシンターゼ変異体は、生成物加水分解活性を欠いている(又は最小限にしている)ため、異なる治療用抗体を効率的及び完全にトランスグリコシル化することでそれらのエフェクター機能を増強させることができる。
【0070】
本発明は、広範囲のN−グリカン(高マンノース型、ハイブリッド型及び複合型を含む)に対して優れたトランスグリコシル化活性を示す選択されたEndoS2変異体を開示する。
【0071】
好ましい実施形態において、高マンノース型、ハイブリッド型及び複合型のN−グリカンは、表2の一般式によって示されるように、活性化オキサゾリンの形態である。
9
【0072】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の高マンノース型N−グリカンは、Man
3GlcNAc, Man
5GlcNAc, Man
6GlcNAc, Man
7GlcNAc, Man
8GlcNAc及びMan
9GlcNAcからなる群より選択される。好ましい実施形態において、高マンノース型N−グリカンは、Man
5GlcNAcである。
【0073】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のハイブリッド型N−グリカンは、α−1,3アームに少なくとも1つのα−2,6−又はα−2,3末端シアル酸を含み、ここで、α−1,6アームは、トリマンノース残基を含む。
【0074】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のハイブリッド型N−グリカンは、α−1,3アームに少なくとも1つの末端ガラクトースを含み、ここで、α−1,6アームは、トリマンノース残基を含む。
【0075】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のハイブリッド型N−グリカンは、α−1,3アームに少なくとも1つの末端GlcNAcを含み、ここで、α−1,6アームは、トリマンノース残基を含む。
【0076】
いくつかの実施形態において、上記複合型グリカンは、二本鎖、三本鎖、及び四本鎖複合型である。
【0077】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つのα−2,6又はα−2,3末端シアル酸を含む。好ましい実施形態において、N−グリカンは、2つのα−2,6及び/又は α−2,3末端シアル酸を含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つの末端ガラクトース又はGlcNAcを含む。好ましい実施形態において、N−グリカンは、2つの末端ガラクトース及び/又はGlcNAcを含む。
【0079】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つのα−l,2−フコースを含む。好ましい実施形態において、N−グリカンは、2つのα−1,2−フコースを含む。
【0080】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つのα−l,3−フコースを含む。好ましい実施形態において、N−グリカンは、2つのα−l,3−フコースを含む。
【0081】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、二等分GlcNAcを含む。
【0082】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つのLacNAc繰り返し単位を含む。好ましい実施形態において、N−グリカンは、2つのLacNAc繰り返し単位を含む。
【0083】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の三本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つのα−2,6又はα−2,3末端シアル酸を含む。好ましい実施形態において、N−グリカンは、3つのα−2−6及び/又はα−2,3末端シアル酸を含む。
【0084】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の三本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つの末端ガラクトース又はGlcNAcを含む。好ましい実施形態において、N−グリカンは、3つの末端ガラクトース及び/又はGlcNAcを含む。
【0085】
いくつかの実施形態において、上記複合型グリカンは、α−1,3又はα−1,6アームのいずれかに非対称本鎖を含む二本鎖及び三本鎖複合型である。
【0086】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のハイブリッド型、二本鎖及び三本鎖複合型N−グリカンは、α−2,6又はα−2,3末端シアル酸を含む。好ましい実施形態において、ハイブリッド型、二本鎖及び三本鎖複合型N−グリカンは、α−2,6末端シアル酸を含む。
【0087】
エフェクター機能を改善できる多様な非フコシル化グライコフォームを提供するためのリツキシマブの糖鎖工学
【0088】
リツキシマブは、主にB細胞リンパ腫の95%の表面に見られるCD20タンパク質を標的とするモノクローナル抗体である。リツキシマブは、B細胞を破壊することで、過剰な数のB細胞、過活動B細胞、又は機能不全B細胞を特徴とする疾患を治療するために使用される。リツキシマブは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で産生され、通常、グリコシル化パターンの異質な混合物(類似の生物学的特性を示さない)を含む。抗体内のFcグリコシル化の多様性は、Fcエフェクター機能の多様性をもたらし得る。したがって、Fcグリカンにおけるこの不均一性は、IgG分子のFc受容体及びC1qへの結合に影響を与えることで抗体エフェクター機能に影響を与えるような機能的な結果をもたらす。これにより、患者に望ましくない影響を与える可能性があり、安全上の懸念となる。
【0089】
したがって、改善された抗CD20抗体を用いてモノクローナル抗体療法を改善する必要がある。グリコシル化パターンの異質な混合物中のいくつかの特定のグライコフォームは、所望の生物学的機能を付与できることが知られている。さらに、複合型グライコフォームの場合、コアフコース及びバイセクティングGlcNAcのような修飾物以外に、くつかの天然の修飾物(外側GlcNAc上のα−1,2フコース、ガラクトース上のα−1,3フコース、ポリLacNAcモチーフ、三本鎖及び四本鎖)の、生物学的活性に対する効果についてまだ探求されていない。したがって、治療目的のために、明確に定義されたグリカン構造及び配列を含む所望のグライコフォームの治療用抗体を作製することは非常に興味深い。
【0090】
本明細書に記載されているのは、治療用モノクローナル抗体と比較してより強力な生物学的活性を示す最適化されたグライコフォームを有する機能的に活性な糖鎖改変抗CD20抗体である。
【0091】
本開示は、Fc糖鎖工学によって抗CD20モノクローナル抗体から調製される新型なクラスの抗CD20抗体を特徴とする。個々の糖鎖改変抗CD20抗体は、均質な集団、並びに明確なグリカン構造及び配列を有する同じFcグリカンを含む。本発明に係る糖鎖改変抗CD20は、その親抗体のように、細胞膜上のヒトCD20抗原の同一のエピトープに特異的に結合する。また、同じ抗体の均質な集団はすべて同じエフェクター結合部位を有する。
【0092】
本明細書で用いられる用語「親抗体」は、糖鎖改変抗CD20抗体の調製に用いられる抗CD20モノクローナル抗体を指す。親抗体は、細胞培養(哺乳動物細胞培養、ピキア酵母(Pichia pastoris)又は昆虫細胞株など)によって得ることができる。好ましくは、親抗体は、哺乳動物細胞培養によって製造される。例示的な親抗体は、リツキシマブ、オファツムマブ、トシツモマブ、オクレリズマブ、11B8又は7D8(WO2004/035607に開示)を含むが、これらに限定されない。
【0093】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の例示的な糖鎖改変抗CD20抗体は、配列番号18に示されるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号19に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖を有する。好ましい実施形態において、糖鎖改変抗CD20抗体は、それぞれリツキシマブの軽鎖配列及び重鎖配列を含む。
【0094】
表3には、リツキシマブの重鎖配列及び軽鎖配列を示す。
【0096】
いくつかの実施形態において、N−グリカンは、リツキシマブのFc領域のAsn−297に結合される。
【0097】
本発明に係るN−グリカンは、高マンノース型、ハイブリット型、二本鎖及び三本鎖複合型構造を有することができ、ここで、上記N−グリカン構造は、以下の一般式を有する。
式中、R
1は、β−1,4結合を介して結合した−H又はN−アセチルグルコサミンであり、R
2及びR
3は、同一又は異なり、それぞれ独立して
からなる群より選択される。
【0098】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のN−グリカンは、追加の鎖内置換基(「バイセクティング」GlcNAc、α−1,2フコース、α−1,3フコース(α−2,3及び/又はα−2,6シアル酸の有無にも関わらず)を含む)を有してもよく、伸長ポリLacNAcモチーフであり得る。
【0099】
いくつかの実施形態において、本発明に記載の高マンノース型N−グリカンは、Man
3GlcNAc、Man
5GlcNAc、Man
6GlcNAc、Man
7GlcNAc、Man
8GlcNAc、and Man
9GlcNAcからなる群より選択される。好ましい実施形態において、上記高マンノース型N−グリカンは、Man
5GlcNAcである。
【0100】
いくつかの実施形態において、本発明に記載のハイブリッド型N−グリカンは、少なくとも1つのα−2,6若しくはα−2,3末端シアル酸、少なくとも1つの末端ガラクトース又はα− 1,3アーム上の少なくとも1つの末端GlcNAcを含み、α−1,6アームはトリマンノース残基を含む。
【0101】
いくつかの実施形態において、複合型グリカンは、二本鎖、三本鎖又は四本鎖複合型である。
【0102】
いくつかの実施形態において、本発明に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つのα−2,6又はα−2,3末端シアル酸を含む。好ましい実施形態において、上記N−グリカンは、2つのα−2,6及び/又はα−2,3末端シアル酸を含む。
【0103】
いくつかの実施形態において、本発明に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つの末端ガラクトース又はGlcNAcを含む。好ましい実施形態において、上記N−グリカンは、2つの末端ガラクトース及び/又はGlcNAcを含む。
【0104】
いくつかの実施形態において、本発明に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つのα−1,2フコースを含む。好ましい実施形態において、上記N−グリカンは、2つのα−1,2フコースを含む。
【0105】
いくつかの実施形態において、本発明に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つのα−1,3フコースを含む。好ましい実施形態において、上記N−グリカンは、2つのα−1,3フコースを含む。
【0106】
いくつかの実施形態において、本発明に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、バイセクティングGlcNAcを含む。
【0107】
いくつかの実施形態において、本発明に記載の二本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つのLacNAc繰り返し単位を含む。好ましい実施形態において、上記N−グリカンは、2つのLacNAc繰り返し単位を含む。
【0108】
いくつかの実施形態において、本発明に記載の三本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つのα−2,6又はα−2,3末端シアル酸を含む。好ましい実施形態において、上記N−グリカンは、3つのα−2,6及び/又はα−2,3末端シアル酸を含む。
【0109】
いくつかの実施形態において、本発明に記載の三本鎖複合型N−グリカンは、少なくとも1つの末端ガラクトース又はGlcNAcを含む。好ましい実施形態において、上記N−グリカンは、3つの末端ガラクトース及び/又はGlcNAcを含む。
【0110】
いくつかの実施形態において、上記複合型グリカンは、α−1,3又はα−1,6アームのいずれかにおける非対称本鎖を含む二本鎖、三本鎖又は四本鎖複合型である。
【0111】
いくつかの実施形態において、本発明に記載のハイブリッド型及び二本鎖若しくは三本鎖複合型N−グリカンは、α−2,6又はα−2,3末端シアル酸を含む。好ましい実施形態において、上記ハイブリッド型、二本鎖、三本鎖及び四本鎖N−グリカンは、α−2,6末端シアル酸を含む。
【0112】
好ましくは、本発明の実施形態に係るN−グリカンは、コアフコースを含まない。
【0113】
表4には、糖鎖改変抗CD20抗体の例示的なN−グリカンを示す。本開示の実施形態は、 本明細書に列挙されたN−グリカンのうちのいずれかを含み得るか又は除外し得る。
【0116】
様々な抗体のFcグリコシル化は、ADCC、CDC、及び循環半減期を含むエフェクター媒介機能に大きく影響する。ADCC増強は、治療用抗体薬効力を改善するための重要な戦略であり、有効な薬用量を下げることができるため、薬剤費を削減することができる。本発明に記載の糖鎖改変抗CD20抗体は、ヒトCD20発現細胞に対するアポトーシスを含む細胞増殖阻害活性を有する。いくつかの実施形態において、糖鎖改変抗CD20抗体は、その親抗体と比較して、より強力な細胞増殖阻害活性を示す。
FcγRIIIAと糖鎖改変リツキシマブとの結合
【0117】
表5には、糖鎖改変抗CD20抗体及びリツキシマブの例示的なFcγRIIIA結合を示す。
【0119】
FcγRIIIA結合は、当該分野で公知のアッセイにより測定することができる。例示的なアッセイは実施例に記載される。Fc受容体結合は、糖鎖改変抗CD20抗体とリツキシマブとの相対比として決定することができる。例示的な実施形態におけるFc受容体結合は、少なくとも2.5倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、11倍、20倍、30倍又はそれ以上増加する。高マンノース型Man
9GlcNAc
2グライコフォームは、所望の結合を提供することができない。しかし、Man
5GlcNAc
2グライコフォームは、非修飾リツキシマブよりも優れている。両方のハイブリッド型グライコフォームは、FcγRIIIAへの結合を2〜3倍のみ増強することができた。興味深いことに、二本鎖型及び三本鎖型を含むすべての複合型グライコフォームは、元のリツキシマブと比較して、FcγRIIIAへの結合を30倍以上増強した。α−1,3フコースにGlcNAcを有することは、FcγRIIIA結合に大きな影響を示さなかった。しかし、1,2フコースは、結合能力をわずかに低下させた。さらに、三本鎖グライコフォームのような複数の本鎖を有するグライコフォームは、結合に対する大きな影響を示さなかった。しかしながら、シアル酸含有量が増加したグリカンは抗炎症活性を得る可能性があると考えられている。
【0120】
リツキシマブと比較して、結合データは、糖鎖改変抗CD20抗体、特に複雑なグライコフォームを有するものがFcγRIIIAに対してより強い結合親和性を示すことを示した。
糖鎖改変リツキシマブのADCC活性
【0121】
本発明の糖鎖改変リツキシマブのADCC活性は、親抗体のADCC活性と比較して、少なくとも3倍、好ましくは、少なくとも9倍、より好ましくは少なくとも10倍、さらに好ましくは少なくとも12倍、さらにより好ましくは少なくとも20倍、最も好ましくは少なくとも30倍増加した。
【0122】
表6には、選択された糖鎖改変抗CD20抗体及び市販リツキシマブの例示的な増強されたADCC活性を示す。例示的なアッセイは実施例に記載される。
【0124】
本発明に開示された一連の糖鎖改変抗CD20抗体、特に複合グライコフォームを有する抗体は、親抗体(リツキシマブ)と比較して増強されたADCC活性を示す。本発明の糖鎖改変抗体は、B細胞又はB細胞によって産生される抗体が関与するB細胞媒介悪性腫瘍及び免疫学的疾患のための治療薬として優れた効果を示す。本発明の目的は、糖鎖改変抗CD20抗体を用いて治療薬を開発することである。
【0125】
まとめると、糖鎖改変抗CD20抗体は、リツキシマブと比較して、増強されたADCC活性及びより強いFcγRIIIA結合親和性を示す。本発明のグライコ抗体(glycoantibody)は、単独で使用する場合、又は2つ以上のそのような抗体を含む組成物として必要に応じて化学療法などの他の治療と組み合わせる場合のいずれにも、優れた臨床応答を提供することができる。ADCC増強された糖鎖改変抗CD20抗体は、B細胞リンパ腫及び他の疾患に対する代替治療法を提供することができる。本発明の糖鎖改変抗体は、増強されたエフェクター機能を有することで、より低い濃度、より少ない頻度で投与され得ることにより、抗体毒性及び/又は抗体耐性の発生の可能性を減少させるため、現在の投与経路及び現在の治療計画を変更するために有利に使用することができる。さらに、改善されたエフェクター機能は、組み換え宿主系で産生された対応する抗CD20モノクローナル抗体による治療に対して以前は抵抗性又は難治性であった臨床的適応症の治療のために新しいアプローチを提供する。
抗CD20抗体の糖鎖工学の方法
【0126】
本発明の糖鎖改変抗CD20抗体は、Fc糖鎖工学により市販又は前臨床若しくは臨床開発中の任意の抗CD20モノクローナル抗体(「親抗体」)から調製することができる。Fc糖鎖工学は、酵素的又は化学酵素的に処理され得る。好ましい実施形態において、上記親抗体は、リツキシマブである。
【0127】
糖鎖改変抗体中のN−グリカンは、好ましくは脱フコシル化されている。
【0128】
本明細書に開示されるのは、糖鎖改変抗CD20抗体などの糖鎖改変抗体を調製するための改良された方法を含む。本発明の方法は、抗CD20モノクローナル抗体をα−フコシダーゼ及びエンドグリコシダーゼに接触することで、単一のN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する脱フコシル化抗体を生成するステップ(a)と、適切な条件下で糖質部分をGlcNAcに付加するステップ(b)とを含む。
【0129】
いくつかの実施形態において、本発明の方法に係る抗CD20モノクローナル抗体は、リツキシマブである。
【0130】
N−グリカン中のオリゴ糖の可変部分を切り取るために、任意の適切なエンドグリコシダーゼを使用することができる。本明細書で使用されるエンドグリコシダーゼの例には、EndoS2が含まれる。
【0131】
上記ステップ(a)によれば、単一のN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有するフコシル化抗体が形成される。その後、EndoS2変異体はトランスグリコシル化を媒介し、広範囲の選択された糖質部分をGlcNAcに付加して糖鎖を延長させる。これにより、グライコ抗体の均質な集団は製造される。本明細書に記載のトランスグリコシラーゼの例には、配列番号2−17に示される配列を有する選択されたEndoS2変異体が含まれる。
【0132】
いくつかの実施形態において、本発明の実施形態に係る糖質部分は、高マンノース型, ハイブリッド型、及び複合型の多様なN−グリカンを含み、以下の一般式を有する。
ここで、R
1は、β−1,4結合を介して結合した−H又はN−アセチルグルコサミンであり、R
2及びR
3は、同一又は異なり、それぞれ独立して
からなる群より選択される。
【0133】
いくつかの実施形態において、上記糖質部分は、糖オキサゾリンである。
【0134】
適切な反応条件は、反応混合物を少なくとも20分間、30分間、40分間、50分間、60分間、70分間、80分間、90分間又は100分間、好ましくは60分間未満反応させることを含む。反応は、好ましくは室温で、より好ましくは約20°C、25°C、30°C、35°C、40°C又は45°C、最も好ましくは約37°Cで行われる。
医薬製剤
【0135】
本発明の抗体を含む治療用製剤は、所望の純度を有する抗体を、1つ以上の任意の生理学的に許容される担体、賦形剤又は安定剤と混合することにより、水溶液、凍結乾燥製剤又は他の乾燥製剤として調製され、保存され得る(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed.(1980))。許容される担体、賦形剤、又は安定化剤は、使用される用量及び濃度でレシピエントに無毒である必要があり、緩衝液(例えば、リン酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン及び他の有機酸)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸及びメチオニン)、防腐剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチル又はベンジルアルコール、アルキルパラベン(例えば、メチル又はプロピルパラベン)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3−ペンタノール及びm−クレゾール)、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン)親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン)、アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジン)、単糖、二糖類及び他の糖質(例えば、グルコース、マンノース又はデキストリン)、キレート剤(例えば、EDTA)、糖(例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール)、塩形成対イオン(例えば、ナトリウム)、金属複合体(例えば、Zn−タンパク質複合体)、及び/又は非イオン性界面活性剤(例えば、TWEEN
TM、PLURONICS
TM又はポリエチレングリコール(PEG))を含む。
【0136】
本開示の製剤は、治療される特定の適応症に応じて、2つ以上の活性化合物を含み得る。上記活性化合物は、互いに悪影響を及ぼさない相補活性を有する化合物を含むが、これに限定されない。このような分子は、意図する目的に有効な量の組み合わせとして適切に存在する。
【0137】
特に、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子とナノカプセル)又はマクロエマルジョンにおいて、活性成分をそれぞれコアセルベーション技術又は界面重合により調製されたマイクロカプセル(例えば、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリメタクリル酸メチルマイクロカプセル)に封入してもよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed.(1980)に開示されている。
【0138】
インビボ投与に使用される製剤は無菌でなければならない。滅菌は、滅菌濾過膜を通して濾過することにより容易に達成される。
【0139】
徐放性製剤を調製することができる。徐放性製剤の適切な例としては、本発明の免疫グロブリンを含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、このマトリックスは成形品、例えばフィルム、又はマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、又はポリビニルアルコール))、ポリラクチド(U.S. Pat. No. 3,773,919)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタメートとの共重合体、非分解性エチレン−酢酸ビニル、LUPRON DEPOT
TM(乳酸−グリコール酸共重合体及び酢酸ロイプロリド(leuprolide acetate)からなる注射用ミクロスフェア)などの分解性乳酸−グリコール酸共重合体、及びポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン−酢酸ビニル及び乳酸−グリコール酸のようなポリマーは100日を超える分子の放出を可能にするが、特定のヒドロゲルは短い期間でタンパク質を放出する。カプセル化された免疫グロブリンは、体内において、37℃の湿気に長期間さらされると、変性又は凝集し、生物学的活性が失われたり、免疫原性が変化したりする恐れがある。関与するメカニズムに応じて、免疫グロブリンの安定化のために合理的な戦略を設計することができます。例えば、凝集メカニズムがチオ−ジスルフィド交換による分子間S - S結合形成であることが発見された場合、安定化は、スルフヒドリル残基の修飾、酸性溶液からの凍結乾燥、含水率の制御、適切な添加剤の使用、及び特定のポリマーマトリックス組成物の開発によって達成することができる。
【0140】
凍結乾燥前製剤中の抗体の量は、所望の投与量、投与形態などを考慮して決定される。選択されたタンパク質がインタクト抗体(全長抗体)である場合、例示的な出発タンパク質濃度は、約2mg/mL〜約50mg/mL、好ましくは約5mg/mL〜約40mg/mL、最も好ましくは約20mg/mL〜30mg/mLである。タンパク質は一般に溶液中に存在する。例えば、タンパク質は、pHが約4〜8、好ましくは約5〜7のpH緩衝溶液中に存在してもよい。例示的な緩衝剤としては、ヒスチジン、リン酸、トリス、クエン酸、コハク酸及び他の有機酸が挙げられる。緩衝液濃度は、例えば緩衝液及び製剤(例えば再構成製剤)の所望の等張性に応じて、約1mM〜約20mM、又は約3mM〜約15mMであってもよい。以下に示すように、好ましい緩衝剤は凍結保護特性を有するヒスチジンである。コハク酸も有用な緩衝剤である。
【0141】
凍結保護剤は、凍結乾燥前製剤に添加される。好ましい実施形態において、凍結保護剤は、スクロース又はトレハロースなどの非還元糖である。凍結乾燥前製剤中の凍結保護剤の量は、一般に、再構成時に得られる製剤が等張になるような量である。しかし、高張再構成製剤にも適用である。また、凍結乾燥時に許容できない量のタンパク質の分解/凝集が起こらないように、凍結保護剤の量は少なすぎてはならない。凍結保護剤が糖(スクロース又はトレハロースなど)であり、タンパク質が抗体である場合、例示的な凍結乾燥前製剤中の凍結保護剤濃度は、約10mM〜約400mM、好ましくは約30mM〜約300mM、最も好ましくは約50mM〜約100mMである。
【0142】
タンパク質と凍結保護剤との比は、各タンパク質と凍結保護剤との組み合わせについて選択される。選択されたタンパク質を抗体、糖(例えば、スクロース又はトレハロース)を凍結保護剤として及び高タンパク質濃度の等張再構成製剤を生成する場合、抗体に対する凍結防止剤のモル比は、抗体1モルに対して凍結防止剤が約100〜約1500モルであり、好ましくは抗体1モルに対して凍結防止剤が約200〜約1000モルであってもよい。例えば、抗体1モルに対して凍結防止剤は約200〜約600モルである。
【0143】
本発明の好ましい実施形態では、凍結乾燥前製剤に界面活性剤を添加することが望ましい。あるいは、又はさらに、凍結乾燥製剤及び/又は再構成製剤に界面活性剤を添加することができる。例示的な界面活性剤としては、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20又は80)、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)、トリトン、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸ナトリウム、ナトリウムオクチルグリコシド、ラウリルスルホベタイン、ミリスチルスルホベタイン、リノレイルスルホベタイン又はステアリルスルホベタイン、ラウリルサルコシン、ミリスチルサルコシン、リノレイルサルコシン又はステアリルサルコシン、リノレイルベタイン、ミリスチルベタイン又はセチルベタイン、ラウロアミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、リノールアミドプロピルベタイン、ミリスタミドプロピルベタイン、パルミドプロピルベタイン、又はイソステアルアミドプロピルベタイン(例えば、ラウラミドプロピルベタイン)、リスタミドプロピルジメチルアミン、パルミドプロピルジメチルアミン、又はイソステアルアミドプロピルジメチルアミン、メチルココイルタウリン酸ナトリウム又はメチルオレイルタウリン酸二ナトリウム、MONAQUAT
TMシリーズ(Mona Industries, Inc., Paterson, N.J.)、ポリエチルグリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンとプロピレングリコールの共重合体(例えばPluronics、PF68など)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。添加される界面活性剤の量は、再構成タンパク質の凝集を減少させ、再構成後の粒子の形成を最小にするような量である。例えば、界面活性剤は、凍結乾燥前製剤中に約0.01〜0.5%、好ましくは約0.005〜0.05%の量で存在してもよい。
【0144】
本発明の特定の実施形態では、凍結乾燥保護剤(スクロース又はトリハロースなど)と増量剤(例えば、マンニトール又はグリシン)との混合物が凍結乾燥前製剤の調製に使用される。増量剤は、過度のポケットが形成されることなく、均一な凍結乾燥ケーキを製造することができる。
【0145】
Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed.(1980)に記載されている他の薬学的に許容される担体、賦形剤又は安定剤は、製剤の所望の特性に悪影響を及ぼさない限り、凍結乾燥前製剤(及び/又は凍結乾燥製剤及び/又は再構成製剤)に含まれてもよい。許容できる担体、賦形剤又は安定剤は、その投与量及び濃度がレシピエントに対して無毒であり、緩衝剤、防腐剤、共溶媒、抗酸化剤(アスコルビン酸及びメチオニン)、EDTAなどのキレート剤、金属複合体(例えば、亜鉛−タンパク質複合体)、ポリエステルなどの生分解性ポリマー、及び/又はナトリウムなどの塩形成対イオンを含む。
【0146】
本明細書に記載の医薬組成物及び製剤は、安定であることが好ましい。「安定な」製剤/組成物は、その中の抗体が貯蔵時にその物理的及び化学的安定性、完全性を本質的に保持できるものである。タンパク質の安定性を測定するための様々な分析技術は、当該分野で利用可能であり、Peptide and Protein Drug Delivery, 247−301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs.(1991)and Jones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29−90(1993)に開示されている。安定性は、選択された温度で選択された期間測定することができる。
【0147】
インビボ投与に使用される製剤は無菌でなければならない。滅菌は、凍結乾燥及び再構成の前後に、滅菌濾過膜を通して濾過することによって容易に達成される。混合物全体の滅菌は、例えば、オートクレーブを用いてタンパク質を除く成分を約120℃で約30分間処理することによって達成することができる。
【0148】
タンパク質、凍結保護剤及び必要に応じて他の成分を混合した後、製剤を凍結乾燥する。Hull 50(登録商標)(Hull、米国)又はGT 20(登録商標)(Leybold-Heraeus、ドイツ)などの多くの異なる凍結乾燥機がこの目的のために利用可能である。凍結乾燥は、製剤を凍結させ、続いて一次乾燥に適した温度で凍結内容物から氷を昇華させることによって達成される。この条件下では、生成物温度は製剤の共融点又は崩壊温度より低い。典型的には、一次乾燥のための棚温度は約−30〜25℃の範囲である(生成物が一次乾燥の間に凍結状態に維持される)。適切な圧力は、一般に約50〜250mTorrである。乾燥に必要な時間は、主に製剤、試料を収容する容器の大きさ及び種類(例えば、ガラスバイアル)、並びに液体の体積によって決定され、数時間から数日(例えば40〜60時間)である。二次乾燥段階は、主に容器の種類及び大きさ、ならびに使用されるタンパク質の種類に応じて、約0〜40℃で実施され得る。なお、本発明において、二次乾燥工程は省略されてもよい。例えば、凍結乾燥の水分除去段階全体にわたる棚温度は、約15〜30℃(例えば、約20°C)であり得る。二次乾燥に必要な時間及び圧力は、例えば、温度及び他のパラメーターに応じて、適切な凍結乾燥ケーキを製造するものである。二次乾燥時間は、生成物中の所望の残留水分レベルによって決定されるが、典型的には少なくとも約5時間(例えば10〜15時間)かかる。圧力は、一次乾燥工程の圧力と同じであってもよい。凍結乾燥条件は、製剤及びバイアルの大きさに応じて変わってもよい。
【0149】
いくつかの例において、容器内でタンパク質製剤を凍結乾燥することが望ましい。これにより、容器内でタンパク質を再構成することができるため、移転ステップの必要がない。この例における容器は、例えば、3、5、10、20、50又は100ccのバイアルである。一般的には、凍結乾燥により、凍結乾燥製剤中の水分含量が約5%未満、好ましくは約3%未満に減少される。
【0150】
所望の段階で、典型的にはタンパク質を患者に投与する必要があるときに、凍結乾燥製剤は、再構成製剤中のタンパク質濃度が少なくとも50mg/mL(例えば、約50mg/mL〜約400mg/mL、より好ましくは約80mg/mL〜約300mg/mL、最も好ましくは約90mg/mL〜約150mg/mL)となるように希釈剤で再構成することができる。再構成製剤中の高タンパク質濃度は、再構成製剤の皮下投与に特に有利である。しかし、静脈内投与などの他の投与経路では、再構成製剤中のタンパク質濃度を低くすることが望ましい場合がある(例えば、再構成製剤中のタンパク質濃度は約5〜約50mg/mL、約10〜約40mg/mLである)。特定の実施形態では、再構成製剤中のタンパク質濃度は、凍結乾燥前製剤中のものよりも顕著に高い。例えば、再構成製剤中のタンパク質濃度は、凍結乾燥前製剤の約2〜40倍、好ましくは3〜10倍、最も好ましくは3〜6倍(例えば、少なくとも3倍又は少なくとも4倍)であってもよい。
【0151】
再構成は一般に、完全な水和を確実にするために約25℃の温度で行われるが、所望に応じて他の温度を使用してもよい。再構成に必要な時間は、例えば希釈剤の種類、賦形剤及びタンパク質の量に依存する。例示的な希釈剤としては、滅菌水、注射用静菌水(BWFI)、pH緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)、滅菌食塩水、リンゲル液又はブドウ糖溶液が挙げられる。希釈剤には、必要に応じて防腐剤を含んでもよい。例示的な防腐剤は上に記載されているが、好ましい防腐剤は、ベンジル又はフェノールアルコールなどの芳香族アルコールである。使用される防腐剤の量は、異なる防腐剤濃度についてタンパク質との適合性及び防腐剤の有効性を測定することによって決定される。例えば、芳香族アルコール(ベンジルアルコールなど)である場合、防腐剤は、約0.1〜2.0%、好ましくは約0.5〜1.5%、最も好ましくは約1.0〜1.2%の量で存在することができる。好ましくは、再構成製剤は、1バイアルあたりサイズ>10μmの粒子が6000個未満である。
治療への使用
【0152】
本明細書に記載の糖鎖改変抗体は、がんを有する患者の治療に適用できる。治療方法は、患者に有効量の本発明の糖鎖改変抗体又は医薬組成物を投与することを含む。がんの例には、B細胞リンパ腫、NHL、前駆B細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫及び成熟B細胞腫瘍、B細胞性慢性リンパ性白血病(CLL)/小リンパ球性リンパ腫(SLL)、B細胞性前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、低悪性度,中悪性度及び高悪性度(FL)、皮膚濾胞中心リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫、MALT型辺縁帯B細胞リンパ腫、リンパ節辺縁帯B細胞リンパ腫、脾臓型辺縁帯B細胞リンパ腫、有毛細胞白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、形質細胞腫、形質細胞性骨髄腫、移植後リンパ増殖性疾患、ワルデンストロームのマクログロブリン血症、及び未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)が含まれるが、これらに限定されない。
【0153】
特定の実施形態において、上記がんは、非ホジキンリンパ腫などのB細胞リンパ腫である。
【0154】
さらに、本明細書に記載の糖鎖改変抗体は、自己免疫疾患又は炎症性疾患を有する患者の治療に適用できる。治療方法は、患者に有効量の本発明の糖鎖改変抗体又は医薬組成物を投与することを含む。自己免疫又は炎症性疾患の例には、慢性関節リウマチ、若年性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、ウェゲナー病、炎症性腸疾患、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、自己免疫性血小板減少症、多発性硬化症、乾癬、IgA腎症、IgM多発性神経障害、重症筋無力症、血管炎、糖尿病、レイノー症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎、胃炎、橋本甲状腺炎、強直性脊椎炎、C型肝炎関連クリオグロブリン血症性血管炎、慢性局所脳炎、水疱性類天疱瘡、血友病A、膜増殖性糸球体腎炎、成人及び若年性皮膚筋炎、成人多発性筋炎、慢性じんましん、原発性胆汁性肝硬変、視神経脊髄炎、グレイブス甲状腺機能亢進症、水疱性類天疱瘡、膜増殖性糸球体腎炎、チャーグシュトラウス症候群、喘息、乾癬性関節炎、皮膚炎、呼吸窮迫症候群、髄膜炎、脳炎、ブドウ膜炎、湿疹、アテローム性動脈硬化症、白血球接着不全、若年発症糖尿病、ライター病、ベーチェット病、溶血性貧血、アトピー性皮膚炎、ウェゲナー肉芽腫症、オーメン症候群、慢性腎不全、急性感染性単核球症、HIV及びヘルペス関連疾患、全身性硬化症、シェーグレン症候群と糸球体腎炎、皮膚筋炎、ANCA、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、第VIII因子欠乏症、血友病A、自己免疫性好中球減少症、キャッスルマン症候群、グッドパスチャー症候群、固形臓器移植拒絶反応、移植片対宿主病(GVHD)、自己免疫性肝炎、リンパ性間質性肺炎(HIV)、閉塞性細気管支炎(非移植)、ギランバレー症候群、大血管血管炎、巨細胞(タカヤス)動脈炎、中型血管炎、川崎病、結節性多発動脈炎が含まれるが、これらに限定されない。
【0155】
特定の実施形態では、自己免疫疾患又は炎症性疾患は慢性関節リウマチである。
【0156】
これらの治療方法において、糖鎖改変抗CD20抗体は、単独で、又は二次抗体などの二次治療剤、あるいは化学療法剤又は免疫抑制剤と組み合わせて投与することができる。二次抗体は、CD20もしくは異なるB細胞抗原、又はNKもしくはT細胞抗原に結合することができる。
【0157】
以下の特定の実施例を用いて本発明の実施形態をさらに説明する。当業者に理解できるように、以下の実施例は説明のものに過ぎず、本発明の範囲から逸脱することなく他の修正及び変形が可能であることを理解するであろう。例えば、本発明のEndoS2変異体は、抗体を含む如何なる糖タンパク質又は糖ペプチドの糖鎖工学処理に使用され得る。本明細書に記載の具体例は抗CD20抗体を使用する。しかし、当業者であれば、他の糖タンパク質又は抗体も同様に使用できることを理解すべきである。
材料及び方法
【0158】
モノクローナル抗体リツキシマブは、商業的供給源から購入されるか又は自主製造される。高マンノース型、ハイブリッド型及び複合型のN−グリカンは、以前に報告された手順に従って合成された(20、21)。
【0159】
EndoS2及び変異体のクローン構築、過剰発現及び精製
【0160】
化膿レンサ球菌GAS NZ131由来のEndoS2コード遺伝子であるndoS2を合成し、pET28a発現ベクターにサブクローニングした。ndoS2のシグナルペプチド配列(アミノ酸1〜36)のN末端は、His6タグによって置き換えられた。製造業者の説明書(Agilent Technologies)(ndoS2発現ベクターをテンプレート、所望の変異を含むオリゴヌクレオチド対をプライマーとして用いてPCR反応を実施した)に従って部位特異的変異誘発によりndoS2の変異体を生成させる。次に、増幅したDNAをDpnIで処理し、DH5αコンピテントセルに形質転換した。変異配列をDNA配列決定(Genomics)によって確認した。発現のためにBL21(DE3)コンピテントセルに形質転換した後、細胞を0.1mMイソプロピル−P−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導し、His6タグを有する組換えEndoS2変異タンパク質を20℃で16時間発現させ、6500rpmで30分間の遠心分離によりペレット化した。細胞を溶解緩衝液(30mM HEPES、pH8.0、300mM NaCl)中に再懸濁し、そして超音波処理装置を用いて破砕した(10分間、4秒オン/5秒オフ、Chrom Tech)。全細胞溶解物を10000rpmで45分間遠心分離し、可溶性組換えEndoS2及び変異体タンパク質を、Ni - NTAカラム(GE Healthcare)を用いた固定化金属イオンクロマトグラフィーによって精製した。アミコン超遠心フィルター10kDaにより溶出したタンパク質を収集し、貯蔵緩衝液(30mM HEPES、pH8.0、100mM NaCl)において濃縮した。濃縮タンパク質サンプルをSDS−PAGEによって分析し、タンパク質濃度をNano−Drop 2000c分光光度計を使用して定量した。野生型EndoS2の過剰発現の収率は約35mg/Lであり、変異体の収率は約25 mg / Lであった。
市販のリツキシマブを用いたGlcNAc-リツキシマブの調製。
【0161】
リツキシマブ(2.5mg、商業的供給源)を1.25ml 50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解し、37°CでEndoS2(125μg)及びフコシダーゼ(2.5mg)と共に22時間インキュベートした。SDS−PAGE分析により重鎖上のN−グリカンが完全に切り取られたと確認された後、反応混合物を、20mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)で予め平衡化した1mlのプロテインA−アガロース樹脂カラム上のアフィニティークロマトグラフィーにかけた。洗浄後、結合したIgGを10mlの50mMグリシンHCl pH3.0で溶出した。溶出画分を直ちに1M Tris−Cl(pH8.3)で中和し、遠心濾過(Amicon Ultra centrifugal filter)により濃縮してGlcNAc−リツキシマブ(1.93mg)を得た。生成物をトリプシン処理し、糖ペプチド(TKPREEQYNSTYR及びEEQYNSTYR)をナノスプレーLC/MSを用いて分析して、GlcNAc−リツキシマブのグリコシル化パターンを確認した。
グリカン−オキサゾリンの調製
【0162】
それぞれのグリカン(3〜5mg)の溶液、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)(6〜10mg)、及びEt
3N(10〜20uL)を水(300〜500uL)に溶解し、4°Cで1時間撹拌した。反応混合物をSephadex G−25カラムに通過させ、ゲル濾過クロマトグラフィーにより0.05%EtN水溶液で溶出する。生成物G1〜G16(グリカンオキサゾリン)を含有する画分を合わせ、凍結乾燥して白色粉末(2.5〜4mg、収率約80〜90%)を得た。
EndoS2及びその変異体の加水分解活性のアッセイ
【0163】
52μΜリツキシマブ(400μg)及び52nM EndoS2(又はその選択された変異タンパク質)を含む溶液を100mM HEPES緩衝液(pH7.0)に溶解し、700rpmで振盪しながら37℃でインキュベートした。所定の時点で、2μgの試料を採取し、10%SDS−PAGEにより分析した。加水分解したグリカンを有するリツキシマブは、PAGE上での移動がより速い。SDS-PAGE上のバンドの強度に基づいて、Image Jソフトウェアを用いて加水分解生成物の相対百分率を計算した(
図3)。
SCT−オキサゾリンを供与体基質として用いたEndoS2及びその変異体のトランスグリコシル化活性のアッセイ
【0164】
67.5μΜモノGlcNAc−リツキシマブ(400μg)及び2.5mMシアル化複合型グリカン(SCT)−オキサゾリン(200μg)を100mM HEPES緩衝液(pH7.0)に溶解し、67.5nM EndoS2(又はその選択された変異タンパク質)と共に700rpmで振盪しながら37℃でインキュベートした。所定の時点で、2μgの試料を採取し、10%SDS−PAGEにより分析した。グリコシル化リツキシマブは、PAGE上での移動がより遅い。SDS-PAGE上のバンドの強度に基づいて、Image Jソフトウェアを用いてリツキシマブ−SCTの相対百分率を計算した。
EndoS2変異体を用いた種々のグリカンオキサゾリンを含むGlcNAc−リツキシマブに対するトランスグリコシル化
【0165】
一般手順:EndoS2変異体(16.8μΜ)とGlcNAc−リツキシマブ(2 mg、0.337mM)との混合物を溶解した100mM HEPES緩衝液(pH7.0)にグリカンオキサゾリン(2〜3mg)を加え、37°C、700rpmで振盪しながら1〜2時間インキュベートした。0.1mMのEDTA溶液を加えて反応を停止した。プロテインAアフィニティーカラムにより反応混合物を精製し、次いで、陰イオン交換カラムcapto Qにより所望の生成物である糖鎖改変抗CD20リツキシマブを収集した。生成物をトリプシン処理し、糖ペプチド(TKPREEQYNSTYR及びEEQYNSTYR)をナノスプレーLC/MSを用いて分析して所望のグリコシル化パターンを確認した。
【0166】
表7には、リツキシマブグライコフォームのそれぞれの調製について最適化された反応条件を示す。
【0168】
FcγRIIIAに対する糖鎖改変抗CD20抗体の結合親和性
ELISAによりFcγIIA受容体に対するリツキシマブの再構築グライコフォームの親和性を調べた。
【0169】
マイクロタイタープレート(Corning(登録商標)96ウェル透明平底ポリスチレンハイバインド、#9018)を、50mM重炭酸塩/炭酸塩コーティング緩衝液(pH10)で希釈した50ng/ウェルの組換え可溶性FcγRIIIAで4℃でコーティングし、一夜放置した。次いでプレートをPBST(PBS中0.05%Tween20)で3回洗浄し、5%BSAを含むPBSTで室温で反応を1時間ブロックした。糖鎖改変抗体(Rtx G1−G16)の結合活性を出発濃度100μg/ml(2%のBSA/PBST)で連続8倍希釈することで測定した。プレートを室温で1時間インキュベートし、PBSTで3回洗浄した。次いで、各ウェルに西洋ワサビペルオキシダーゼに結合した100μlのヤギ抗ヒトIgG(2% BSA/PBST)(Jackson immune、#109-035-088)を加え、室温で30分間インキュベートした。プレートをPBSTで5回洗浄し、各ウェルに100μlのTMB基質(eBioscience, #00−4201−56)を加え、得られたプレートを室温で暗所で15分間インキュベートした。ELISAリーダーを用いて450nmで吸光度の値を測定した(Molecular Devices Corporation, Sunnyvale, CA, USA)。
糖鎖改変抗CD20抗体のADCC活性
【0170】
カルセイン放出アッセイにより抗体媒介ADCCを評価した。標的細胞として、BCRCからRaji細胞(ヒトバーキットリンパ腫細胞株)を入手した。Ficoll−Paque(GE healthcare)を使用して健康なボランティアの血液から末梢血単核球(PBMC)をエフェクター細胞として分離した。10μMカルセイン−アセトキシメチルエステル(Thermo Fisher Scientific)で標的細胞(1×10
6/ml)を37°Cで30分間標識した。洗浄した後、標識した標的細胞を1×10
4細胞/ウェル(50μl)の密度で96ウェルプレートに分布した。様々な濃度の抗体及び25:1のE / T比のエフェクター細胞(2.5×10
5/ウェル)を加えた。37°Cで4時間インキュベートした後、細胞を遠心分離によって沈降させ、150μlの上清を回収し、蛍光マイクロプレートリーダーにより分析してカルセインの放出を測定した。最大放出のために、細胞を1%Triton X−100で溶解した。実験結果の蛍光値から培地バックグラウンドの蛍光値を差し引いた。
【0171】
本発明を限られた数の実施形態に関して説明してきたが、当業者であれば、本明細書に開示した本発明の範囲から逸脱しない他の実施形態を想到できることを理解するであろう。 したがって、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【0172】
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