特許第6965364号(P6965364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6965364析出硬化型コバルト−ニッケル基超合金およびそれから製造された物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965364
(24)【登録日】2021年10月22日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】析出硬化型コバルト−ニッケル基超合金およびそれから製造された物品
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/07 20060101AFI20211028BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20211028BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20211028BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20211028BHJP
【FI】
   C22C19/07 H
   C22C30/00
   !C22F1/10 J
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 640B
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-556791(P2019-556791)
(86)(22)【出願日】2018年4月20日
(65)【公表番号】特表2020-517821(P2020-517821A)
(43)【公表日】2020年6月18日
(86)【国際出願番号】US2018028567
(87)【国際公開番号】WO2019018038
(87)【国際公開日】20190124
【審査請求日】2019年12月17日
(31)【優先権主張番号】62/488,294
(32)【優先日】2017年4月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595012659
【氏名又は名称】シーアールエス ホールディングス,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CRS HOLDINGS, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・フォーシック
(72)【発明者】
【氏名】アルベルト・ポーラー−ロサス
(72)【発明者】
【氏名】タオ・ワン
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・カーニオン
(72)【発明者】
【氏名】マリオ・エプラー
(72)【発明者】
【氏名】ニン・ジョウ
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0168662(US,A1)
【文献】 特開平07−278721(JP,A)
【文献】 特開2009−228024(JP,A)
【文献】 特開2012−041627(JP,A)
【文献】 特表2013−531739(JP,A)
【文献】 特開平06−212325(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/158705(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00 − 19/07
C22F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセントで、
.01〜.15、
Cr .00〜5.00、
Ni 34.005.00、
.00〜5.00、
Ti .50〜.00、
Al .00〜.00
Ta 最大1.18、
Zr 最大0.06
B 最大0.011、
Si 最大0.03、を含み、
残部がコバルトおよび通常の不純物である、析出硬化型コバルト−ニッケル基超合金。
【請求項2】
少なくとも0.50%のタンタルを含む、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
.8%以下のクロムを含む、請求項1に記載の合金。
【請求項4】
少なくとも7.00%のクロムを含む、請求項3に記載の合金。
【請求項5】
2.00%以下のタングステンを含む、請求項1に記載の合金。
【請求項6】
重量パーセントで、
.01〜.15、
Cr .00〜5.00、
Ni 34.005.00、
.00〜5.00、
Ti .50〜.00、
Ta .50〜1.18
Al .00〜.00
Zr 最大0.06
B 最大0.011、
Si 最大0.03、を含み、
残部がコバルトおよび通常の不純物である、析出硬化型コバルト−ニッケル基超合金。
【請求項7】
.8%以下のクロムを含む、請求項に記載の合金。
【請求項8】
少なくとも7.00%のクロムを含む、請求項に記載の合金。
【請求項9】
2.00%以下のタングステンを含む、請求項に記載の合金。
【請求項10】
重量パーセントで、
.02〜.10、
Cr .00〜.80、
Ni 4.00〜1.00、
.00〜2.00、
Ti .60〜.00、
Al .00〜.00、
Ta .50〜1.18、
Zr 最大0.06
B 最大0.011、
Si 最大0.03を含み、
残部がコバルトおよび通常の不純物である、析出硬化型コバルト−ニッケル基超合金。
【請求項11】
請求項1に記載の合金から製造された物品であって、前記合金の粒度は、ASTM粒度番号が6以下である、物品。
【請求項12】
前記合金の粒度は、ASTM粒度番号が8以下である、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
AlおよびCrを含む連続保護表面層を有する、請求項1に記載の合金から製造される物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に高温用途の超合金と、既知のニッケル基および既知のコバルト基超合金よりも著しく高い温度で、酸化に対する良好な耐性、非常に良好な強度、および微細構造安定性を提供する析出硬化型コバルト−ニッケル基超合金に関する。本発明はまた、本合金から製造された微粒物品に関する。
【背景技術】
【0002】
[関連技術の説明]
ガスタービン発電機とジェットエンジンにおいて、現在利用できるよりも優れた燃料効率と性能を得るために、そのような機器の製造業者は、現在使用されているものよりもかなり高い温度で動作する次世代のガスタービンを設計している。INCONEL(登録商標)718、INCONEL(登録商標)706、およびWASPALOYなどのニッケル基超合金は、ガスタービンのローターやその他のコンポーネントの製造に使用されている。既知のニッケル基超合金は、最高約750℃(1380°F)の温度で非常に優れた強度とクリープ抵抗を提供する。しかしながら、より新しいガスタービンの設計には、800℃(1472°F)以上の温度で高強度を提供し得る超合金が必要になると予想される。
【0003】
既知のニッケル基析出硬化型超合金は、主に合金マトリックス材料中の金属間相ガンマプライム(γ′)の析出を通じて高温強度が得られる。WASPALOYのニッケル基γ′のソルバス温度(solvus temperature)は、約1020℃(1870°F)である。その結果、既知のニッケル基超合金は、使用中の動作温度がその温度に近づくと、強度と耐クリープ性が急速に低下する。ガスタービンとジェットエンジンのより高い動作温度への移行が予想されるため、630MPa(91.4ksi)での1000時間のテストにおいて、675℃(1250°F)を超える温度で非常に高い強度と非常に優れた耐クリープ性を提供する析出硬化型超合金が必要になっている。
【0004】
AlとWを含むコバルト−ニッケル合金は、既知のニッケル基超合金で発見された、L1規則相の析出、γ′析出物(Co(Al、W))およびNi(Al、Ti)γ′析出物の析出により強化されることが知られている。しかしながら、実際には、三元系Co−W−Al相だけでは、特に長期の高温暴露中に、既存のNi基合金に比べて特性が十分に改善されないことがわかっている。また、三元系Co−W−Al相は、高温暴露中に酸化が加速されるため、合金の質量が失われ、その結果、そのような温度での寿命が短くなる。
【0005】
したがって、非常に高温用途の特性、すなわち強度、耐クリープ性、耐酸化性、および長期安定性の組み合わせを有する超合金が必要である。
【発明の概要】
【0006】
上記のような既知のニッケルおよびコバルト基超合金の欠点は、次世代のガスタービンおよびジェットエンジンに機械的特性と耐酸化性の望ましい組み合わせを提供するように設計された新規化学物質を有するコバルト基超合金によって大幅に解決される。本発明によれば、重量パーセントで以下の広く好ましい組成を有する析出硬化型コバルト基超合金が提供される。
【0007】
【表1】
【0008】
合金組成の残部は、コバルトおよび、同一または類似のサービスまたは使用を目的とする析出硬化型超合金に見られる通常の不純物である。
【0009】
溶体化処理および時効硬化状態では、本発明に係る合金は、650〜815℃(1200〜1500°F)の温度で約700〜1380MPa(100〜200ksi)の降伏強度を提供するように設計されている。本合金は、合金が約700〜1050℃(1300〜1920°F)の温度に1000時間以上さらされたときに、γ′強化析出物の安定性を確保するようにも設計されている。
【0010】
前述の表は、便利な要約として提供されており、それにより、互いに組み合わせて使用するための本発明の合金の個々の元素の範囲の下限値および上限値を制限すること、または、互いに組み合わせてのみ使用するために元素の範囲を制限することを意図していない。したがって、広い組成の1つ以上の元素範囲が、好ましい組成の残りの元素の1つ以上の他の範囲とともに使用されてもよい。また、広い範囲の元素の最小値または最大値を、好ましい範囲のその元素の最大値または最小値とともに使用してもよい。
【0011】
本出願の明細書および特許請求の範囲を通して、特に明記しない限り、用語「パーセント」および記号「%」は、重量パーセントまたは質量パーセントを意味する。また、シンボルγはマトリックス材料を示し、γ′およびγ″は溶体化焼鈍および時効硬化ステップを含む2ステップの熱処理後に合金に存在する金属間析出物を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
前述の概要および以下の詳細な説明は、図面と併せて読むとよりよく理解されるであろう。
図1A図1Aは、704℃(1300°F)の温度に100時間暴露した後の1000倍の倍率での本発明に係る合金のサンプルの光学顕微鏡写真である。
図1B図1Bは、760℃(1400°F)の温度に100時間暴露した後の1000倍の倍率での合金の第2のサンプルの光学顕微鏡写真である。
図1C図1Cは、815.5℃(1500°F)の温度に100時間暴露した後の1000倍の倍率での合金の第3のサンプルの光学顕微鏡写真である。
図2図2は、熱機械処理後の500倍の倍率での本発明の合金のサンプルの光学顕微鏡写真である。
図3図3は、50677倍の倍率での合金サンプルからの材料のFEG−SEM画像である。
図4図4は、本発明の合金およびWaspaloyのサンプルの温度の関数としての降伏強度のグラフを示す。
図5A図5Aは、エージングされた状態で、704℃(1300°F)の温度で1000時間暴露した後の合金サンプルの降伏強度の棒グラフである。
図5B図5Bは、エージングされた状態で、815.5℃(1500°F)の温度で1000時間暴露した後の合金の第2のサンプルの降伏強度の棒グラフである。
図6図6は、本発明に係る合金のサンプルからのNi、Co、O、Al、Cr、TiおよびWのBS画像およびEDSマップを示す。
図7図7は、本発明の合金のサンプルおよびWaspaloyのサンプルについて、1000℃での時間の関数としての酸化速度(比重変化)のグラフを示す。
図8図8は、THERMO−CALC(登録商標)合金モデリングソフトウェアを使用して準備された本発明に係る合金の合金相図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本合金には、少なくとも約0.01%、好ましくは少なくとも約0.02%の炭素が存在する。炭素は、他の元素と結合して炭化物を形成することにより、高温で合金が提供する高強度と優れた耐クリープ性に有益である。本合金に存在する有益な炭化物には、MC、M23、MCおよびM炭化物があり、Mはクロム、モリブデン、タングステン、チタン、タンタルおよびハフニウムの1つ以上の元素である。炭素が多すぎると、強度に追加の利点がもたらされず、本合金が提供する高温耐酸化性に悪影響を及ぼす。そのため、本合金では、炭素は、約0.15%以下、好ましくは約0.10%以下に制限される。
【0014】
本合金は、少なくとも約3.00%のタングステンと少なくとも約3.00%のアルミニウムを含む。タングステンとアルミニウムは、本合金のコバルトと結合して、溶体化焼鈍および時効硬化熱処理後に、コバルト基γ′析出物(Co(Al、W))を形成する。三元系Co−Al−W合金系のコバルト基γ′相は、約900℃(1650°F)の温度に長時間さらされると、γ、B2およびD019相に分解するため、準安定である。コバルト基γ′相を安定化させるために、以下にさらに説明するように、制御された量のニッケルとチタンが合金に含まれている。Co−Al−W−Ni−Ti系のコバルト基γ′のソルバス温度は、約1050℃(1922°F)を超えると予想される。次世代のガスタービンおよびジェットエンジンの予想される動作温度で本合金にかなりの量のγ′相が保持されると、合金によって提供される強度と耐クリープ性が大幅に保持される。アルミニウムは、本合金が提供する優れた高温耐酸化性と耐食性にも貢献する。これに関して、アルミニウムは利用可能な酸素と結合して、合金から製造された製品の表面にAl酸化物層を形成し、連続層として形成されると、合金をさらなる酸化から保護する。Al層は、酸素が容易に浸透できる開口または不連続部が実質的にない場合、連続している。この特許で請求されている合金の化学バランスは、800℃(1472°F)を超える温度で連続的なAl層の形成を促進する。アルミニウムおよび/またはタングステンが多すぎると、B2およびD019などの有害な相の析出が促進される。そのため、本発明の合金では、アルミニウムは、約7.00%以下、好ましくは約5.00%以下に制限される。タングステンは、本合金では約15.00%以下、好ましくは約12.00%以下に制限される。
【0015】
チタンは、本合金で形成されるコバルト基γ′強化析出物中のアルミニウムの一部を置換し、ガスタービンおよびジェットエンジンの動作中に経験される高温で安定なγ′析出物を提供する化学的性質(chemistries)の範囲を広げる。チタンは、γ′強化析出物のソルバス温度を上げることにより、合金が提供する強度にも有益である。したがって、合金は、少なくとも約0.50%、好ましくは少なくとも約0.60%のチタンを含む。チタンが多すぎると、例えばB2などの望ましくない二次相が形成される。そのため、合金は、約4.00%以下、好ましくは2.00%以下のチタンを含む。
【0016】
本合金には、チタンと同じ利点があるため、最大約6.00%のタンタルが存在してもよい。タンタルは、本合金が提供する固溶体強度にも寄与する。好ましくは、合金は、少なくとも約0.50%、より好ましくは少なくとも約2.00%のタンタルを含む。チタンと同様に、タンタルが多すぎると、Mu(μ)相およびラーベス相(Laves phases)などの望ましくない二次相が形成される場合がある。そのため、本合金中のタンタルの量は、約6.00%以下、好ましくは約5.00%以下に制限される。
【0017】
少なくとも約6.00%、より良い少なくとも約7.00%、好ましくは少なくとも約8.00%のクロムが本合金に存在し、ガスタービンおよびジェットエンジンで発生する高温で、合金の耐酸化性と耐食性(一般的な耐食性と局所腐食耐性を含む)に有益である。8%以上の量で存在する場合、クロムは酸素ゲッターとして機能し、Alのより内部の保護的で連続的な接着層の形成に寄与する保護的で緻密なCr相の形成を促進する。クロムが多すぎると、μおよびB2などの望ましくない二次相が形成される可能性がある。μ相は、粒間および粒内で析出し得る、本合金では望ましくないTCP相であると考えられている。10%を超えるクロムを含む以下に説明する実施例の1つは、かなりの量のそれらの析出物を示した(図1参照)。μ相はまた、長期暴露中に本合金の高温機械特性に悪影響を及ぼす。μ相はまた、本発明に係る合金によって提供される耐食性および耐酸化性に悪影響を及ぼす。
【0018】
さらに、クロムの量が約9.8%を超えると、γ′のソルバス温度が低下することが観察される。この効果により、1000℃(1832°F)を超える温度で本合金の強化能力が低下する。前述のすべての理由により、クロムは、本合金において、約15.00%または12.00%以下、好ましくは約9.8%以下、例えば9.5%または9.0%以下に制限される。
【0019】
ニッケルは、利用可能なアルミニウムおよびチタンと結合して、合金の熱処理中にニッケル基γ′強化相を形成する。ニッケルはまた、コバルト基γ′相を安定化し、γ/γ′ミスマッチをより有益な範囲に調整する。γ/γ′ミスマッチは、当業者に知られているパラメーターであり、次の関係によって定義される。((析出物の格子パラメーター−合金マトリックスの格子パラメーター)÷(合金マトリックスの格子パラメーター))×100%。安定した微細構造を得るためには、γマトリックス材料とγ′析出物の間のコヒーレントな界面が必要であり、γ/γ′ミスマッチパラメーターの絶対値が可能な限り小さいときに生成される。上述の理由により、本発明の合金は少なくとも約30.00%、好ましくは少なくとも約34.00%のニッケルを含む。ニッケルを添加すると合金残部中のコバルトの量が少なくなるため、ニッケルが多すぎると、本合金の主要な合金元素としてコバルトを使用する利点が減少する。したがって、合金は、約45.00%以下、好ましくは約41.00%以下のニッケルを含む。
【0020】
合金は、合金の高温腐食耐性に有益な最大約1.50%のジルコニウムを含でもよい。少なくとも約0.02%のジルコニウムが合金内に存在して、所望の利点が得られる。好ましくは、合金は約1.00%以下のジルコニウムを含む。また、本発明の合金は、合金によって提供される粒界強度および耐酸化性に寄与する約0.20%までのホウ素を含んでもよい。これらの目的のために、少なくとも約0.02%のホウ素が存在する。好ましくは、合金は約0.10%以下のホウ素を含む。合金は、必要に応じて約2.50%までのニオブを含んでもよく、これは固溶強化によっておよびγ″強化相を形成するニッケルと組み合わせることによって、合金によってもたらされる高温強度に利益をもたらす。しかしながら、ニオブが多すぎると、μ相およびラーベス相などの望ましくない二次相が形成される可能性がある。そのため、合金は、約2.00%以下のニオブを含むことが好ましい。
【0021】
ハフニウムは、強力なMCタイプの炭化物形成剤である。存在する場合、それは微細なHfCを形成し、MC炭化物を形成することからタングステンとチタンを解放して、これらの元素を主な強化相ガンマプライムに利用できるようにする。少量のハフニウムは、鋸歯状(回旋状)の粒界の形成も促進し、合金によって提供される応力破断(stress rupture)と滞留疲労寿命(dwell fatigue life)の特性を改善する。少量ではあるが効果的な量のHfは、本合金の高温腐食と耐硫化性を向上させる。ハフニウムが多すぎると、固相線温度が著しく低下し、合金が熱間加工されたときに初期溶融につながることがわかっている。したがって、合金は、約1.50%以下、好ましくは約0.50%以下のハフニウムを含む。
【0022】
最大約2.50%のモリブデンがタングステンの一部を置換して本合金に存在して、合金の密度を下げてもよい。モリブデンは、合金によって提供される耐クリープ性にも有益である。しかしながら、好ましくは、合金は、μおよびD019などの望ましくない相の形成を避けるために、約2.00%以下のモリブデンを含む。本合金は、合金の高温酸化中に保護表面層の形成を促進するために、最大約1.50%のシリコンをさらに含んでもよい。シリコンが多すぎると、酸化保護層が剥離する可能性がある。そのため、合金は、約1.00%以下のシリコンを含むことが好ましい。
【0023】
合金の残部は、コバルトおよび同様のサービスを目的とした商用グレードの超合金に見られる通常の不純物である。好ましくは、合金は約35.00〜43.00%のコバルトを含む。
【0024】
前述の元素とそれらの重量パーセント範囲は、特性の新規な組み合わせを提供するために選択される。前述したように、合金は約1050℃(1922°F)を超えるγ′ソルバス温度を提供するように設計されているため、現在、ガスタービンとジェットエンジンで使用されている温度よりも高い動作温度で使用したときに、高い強度とクリープに対する優れた耐性を提供できる。合金組成は、D019、B2、μおよびラーベス相などの望ましくない二次相が、γ′強化相よりも大幅に低い温度で溶解するように選択されている。高温で高強度を実現するために、合金は、溶体化処理および時効硬化状態で約45体積パーセント以上のγ′強化相を提供するように設計されている。合金組成はさらに、約110℃(200°F)を超える熱間加工性のウィンドウ(window)を提供するように設計されている。熱間加工性のウィンドウは、γ′ソルバス温度と固相線温度の差として定義される。これは、合金が容易に熱間加工できる温度範囲を表す。
【0025】
本発明の合金を製造するのに特別な溶融技術は必要とされない。好ましくは、合金は、真空誘導溶解(VIM)によって溶解され、エレクトロスラグ再溶解(ESR)および/または真空アーク再溶解(VAR)などの消耗電極の再溶解によって精製される。重要な用途には、VIM+ESR+VARを含むトリプルメルトプロセスを使用してもよい。再溶解されたインゴットは通常、中間の形状とサイズに熱間加工される。最適な機械的特性と高温での長期安定性を得るために、本合金は熱機械処理されることが好ましい。より具体的には、鋳造インゴットは、インゴット内の合金化学(alloy chemistry)の均質化を提供するように選択された温度で加熱される。均質化温度は、主に合金インゴットの化学組成に基づいて選択され、約1120℃(2050°F)以上であることが好ましい。各ステップの温度での時間は、インゴットのサイズに基づいて選択される。
【0026】
均質化サイクルが完了した後、材料は、約1205℃(2200°F)以下の温度から熱間加工されることが好ましい。後続の熱成形プロセスは、追加の変形のために合金材料に適用されてもよい。プレス、鍛造、熱間圧延、ロール成形または同様の熱間加工技術の1つ以上を含んでもよい追加の熱成形ステップは、γ′ソルバス温度またはその付近の開始温度から行われる。追加の熱成形ステップは、適切なひずみ速度で十分な量のひずみを与えて、所望の微細構造を実現する。好ましくは、ビレット材料の熱間成形温度は約1120℃(2050°F)以下である。本発明者らは、新規な化学(chemistry)と熱機械処理の組み合わせにより、ASTM粒度番号が6〜12の細粒構造を提供することを見出した。好ましくは、合金は、8より大きい粒度番号を特徴とする。また、合金は、熱機械的処理の後、ある程度まで冷間加工されてもよい。
【0027】
棒(bars)、ビレット(billets)、ストリップ(strip)、ワイヤ、ロッドなどの合金の製品形態は、合金を特徴付ける非常に高い強度を開発するために熱処理される。この点に関して、合金は、871〜1260℃(1600〜2300°F)の温度で0.1〜100時間溶体化処理され、その後482〜871℃(900〜1600°F)の温度で0.1〜100時間単一または複数のステップで時効硬化される。溶体化処理および時効硬化処理の温度、時間および冷却パラメーターは、合金材料の断面サイズ、および、合金の用途に必要な強度、応力破断(stress rupture)およびクリープ抵抗の組み合わせによって異なる。
【0028】
本発明の合金により提供される機械的特性は、650℃(1200°F)より高い温度で、Waspaloy、INCONEL(登録商標)718などの既知のNi基超合金により提供される典型的な特性を超える。そのような温度での機械的特性の優れた組み合わせにより、本発明の合金は次世代のガスタービンおよびジェットエンジンでの使用に適したものになる。
【0029】
主にγ′の強化微視的成分の良好な安定性は、815℃(1500°F)以上の温度で少なくとも1000時間暴露した後の安定した機械的特性に反映される。本合金のこの特定の特性により、合金から製造された部品(parts)およびコンポーネントの寿命が長くなる。さらに、本発明の耐高温酸化性は、既知の市販のNi基超合金よりも優れている。1472°F(800℃)、1832°F(1000℃)および2012°F(1100℃)で600時間のサイクル試験を行った後、本発明に係る合金は、酸化に対する耐性が向上し、結果として質量損失が少なくなり、したがって高温使用での寿命が長くなる。
【実施例】
【0030】
本発明の合金により提供される特性の新規かつ有利な組み合わせを実証するために、6つの40ポンドの金属が真空溶解された。金属の重量パーセント化学(weight percent chemistries)は、次の表に示されている。
【0031】
【表2】
【0032】
実施例のインゴットは、24時間均質化された。そして、熱間鍛造で1.0インチの角棒まで鍛造された。引張試験用の標準試料は、バーから切断されたブランク(blank)から機械加工された。各実施例の引張試験片は、2000°Fで1時間溶体化焼鈍し、油中で急冷し、その後、試験を行う前に1450°Fで24時間エージングした。
【0033】
実施例 EX−3121
EX−3121からの材料の金属組織試料を棒材から準備し、熱間加工後の熱処理状態の材料の微細構造を特定するために検査した。図2は、EX−3121からの材料の細粒構造(ASTM粒度番号11)を示している。
【0034】
実施例 EX−3015およびEX−3031
実施例EX−3015の棒からの材料の試料は、微細構造の分析のために得られた。図3は、エージング状態の実施例EX−3015からの材料の微細構造の電界放出銃−走査型電子顕微鏡(FEG−SEM)画像である。図3から、材料は、マトリックス材料内に均一に分散されたサブミクロンサイズのγ′粒子のかなりの量を持つγ相のマトリックスからなる微細構造を有していることがわかる。
【0035】
実施例EX−3015、EX−3031およびEX−3121のサンプルの引張試験は、24℃(76°F)、593℃(1100°F)、704℃(1300°F)、760℃(1400°F)、815℃(1500°F)および870℃(1600°F)で行われた。各試験温度での実施例EX−3015、EX−3031およびEX−3121によって提供される降伏強度のグラフを図4に示す。比較のために、同様に調製したWaspaloy合金のサンプルの降伏強度のグラフも図4に示す。図4から、600℃(1112°F)を超える温度で、実施例EX−3015、EX−3031およびEX−3121の降伏強度がWaspaloy材料の降伏強度よりも著しく高いことが明らかである。
【0036】
EX−3015のサンプルは、同様に準備されたWaspaloyのサンプルと比較して、酸化速度が試験された。図7は、実施例EX−3015からのサンプル材料とWaspaloyのサンプルの酸化速度を示す。
【0037】
実施例EX−3033
EX−3033のエージングされた試験サンプルは、704℃(1300°F)および815℃(1500°F)で引張試験され、最初の温度で791MPa(114.7ksi)の降伏強度と、2番目の温度で720.5MPa(104.5ksi)の降伏強度を提供した。さらに、テストクーポン(test coupons)のセットを1300°F(704℃)で稼働する炉に配置し、1000時間等温条件で保持した。テストクーポンの第2のセットは、1500°F(815℃)で稼働する炉に配置され、1000時間等温条件で保持した。記載された温度への1000時間の暴露後、引張試験片がテストクーポンから機械加工され、それらが暴露されたのと同じ温度、公称1300°Fおよび1500°Fで引張試験を行った。試験された1300°Fのサンプルは、789.5MPa(114.5ksi)の降伏強度を提供し、1500°Fのサンプルは、738MPa(107.0ksi)の降伏強度を提供した。これらの結果は、本発明に係る合金が高温での長期暴露中に非常に安定であり、使用中の非常に信頼できる性能を確保することを示している。高温引張試験の結果を図5Aおよび5Bにグラフで示す。
【0038】
実施例EX−2969
実施例EX−2969は、高温酸化耐性に対する耐性について試験された。高さ0.5インチ(12.65mm)および直径0.5インチ(12.65mm)の円柱サンプルを1.0インチの棒から準備し、400グリットの研磨剤で表面を仕上げた。熱処理されたままの状態の追加のサンプルも、市販のWaspaloyから準備した。すべてのサンプルを開いたるつぼに入れ、600℃、800℃、1000℃および1100℃で合計600時間、周期的な酸化(cyclic oxidation)にさらした。各50時間のサイクルの後、剥離材料の損失を防ぐために、サンプルをセラミック蓋で覆って冷却した。周期的な暴露の後、すべてのサンプルは、ベース金属に結合され、他の金属酸化物の下にあるAlの連続層を示した。コランダム構造のAlは、金属への酸素イオンのさらなる拡散に対する保護バリアを提供し、それにより高温での金属の酸化速度を低下させることが知られている。コランダム構造を持つ他の酸化物であるCrの保護作用は1800°F以上で停止し、それは、この温度かつ酸素の存在下でCrが反応して、保護性が低く揮発性が高いCrOを生成し得るためである。
【0039】
連続した保護酸化アルミニウム層は、すべてのAl含有合金(Al-bearing alloy)で自然に形成されるわけではない。そのため、酸素陰イオンの移動度を制御し、連続層を形成するために、構成元素のバランスをとる必要がある。さもなければ、粒界をさらなる酸化にさらす不連続な酸化アルミニウム層が形成される。図6は、実施例EX−2969からの材料のEDSマップを示しており、ベース合金と他の酸化物(例えば、Cr酸化物、Ti酸化物、W酸化物)に結合した酸化アルミニウムの連続層の存在を示している。
【0040】
実施例EX−3078
実施例EX−3078は、8.5%から8.98%の範囲にある他の例と比較して、より高いCr(13.82%)を有している。THERMO−CALC(登録商標)ソフトウェアで予測され、図8に示すように、実施例EX−3078においてより多量のCrが、熱処理温度範囲内で有害なμ相を安定させることが分かった。図8は、本発明に係る合金の好ましい化学組成におけるCrの最大溶解は約9.8%であり、940℃の温度で生じることを示している。本合金中にガンマプライム相を析出させる時効熱処理は、850℃未満の温度で実施され、μ相の析出を誘発する。その発見は、図1A−1Cに示すように光学顕微鏡で確認され、704℃(1300°F)(図1A)、760℃(1400°F)(図1B)および815.5℃(1500°F)(図1C)の温度にさらされた後、合金マトリックス中および粒界においてμ相の実質的な析出を示している。それらの発見の結果として、合金は好ましくは9%未満のクロムを含む。
【0041】
前述の開示を考慮して、本発明に係るコバルト−ニッケル基超合金は、ガスタービンおよびジェットエンジンの現在知られている動作温度よりも高い温度で良好な強度および延性を含む特性の新規な組み合わせを提供することがわかる。さらに、合金の微細構造は、そのような温度(例えば、1500°F)への長期間の暴露が合金によって提供される強度と延性を低下させないように、そのような温度で安定している。これに関して、合金の組成は、μ相などの望ましくないTCP相の形成を抑制するためにバランスがとられている。本発明に係る合金は、その表面にAlおよびCrを含む連続保護層を形成するので、そのような温度での酸化に対する良好な耐性も提供する。さらに、合金を熱機械的に処理して、細粒の微細構造を提供し、本合金の特徴である強度と延性の望ましい組み合わせを達成することができる。
【0042】
本明細書で使用されている用語および表現は、説明の用語として使用されており、限定の用語ではない。そのような用語および表現の使用には、示され、説明された特徴またはその一部の同等物を除外する意図はない。本明細書で説明および請求される本発明の範囲内で種々の変更が可能であることが認識される。
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
重量パーセントで、
C 約0.01〜約0.15、
Cr 約6.00〜約15.00、
Ni 約30.00〜約45.00、
W 約3.00〜約15.00、
Ti 約0.50〜約4.00、
Al 約3.00〜約7.00、
Nb 最大約2.50、
Ta 最大約6.00、
Hf 最大約1.50、
Zr 最大約1.50、
B 最大約0.20、
Mo 最大約2.50、
Si 最大約1.50、を含み、
残部がコバルトおよび通常の不純物である、析出硬化型コバルト−ニッケル基超合金。
(態様2)
少なくとも約0.50%のタンタルを含む、態様1に記載の合金。
(態様3)
約9.8%以下のクロムを含む、態様1に記載の合金。
(態様4)
少なくとも約7.00%のクロムを含む、態様3に記載の合金。
(態様5)
少なくとも約34.00%のニッケルを含む、態様1に記載の合金。
(態様6)
約12.00%以下のタングステンを含む、態様1に記載の合金。
(態様7)
重量パーセントで、
C 約0.01〜約0.15、
Cr 約6.00〜約15.00、
Ni 約30.00〜約45.00、
W 約3.00〜約15.00、
Ti 約0.50〜約4.00、
Ta 約0.50〜約6.00、
Al 約3.00〜約7.00、
Nb 最大約2.50、
Zr 最大約1.50、
B 最大約0.20、
Mo 最大約2.50、
Si 最大約1.50、を含み、
残部がコバルトおよび通常の不純物である、析出硬化型コバルト−ニッケル基超合金。
(態様8)
約9.8%以下のクロムを含む、態様7に記載の合金。
(態様9)
少なくとも約7.00%のクロムを含む、態様8に記載の合金。
(態様10)
少なくとも約34.00%のニッケルを含む、態様7に記載の合金。
(態様11)
約12.00%以下のタングステンを含む、態様7に記載の合金。
(態様12)
重量パーセントで、
C 約0.02〜約0.10、
Cr 約7.00〜約9.80、
Ni 約34.00〜約41.00、
W 約3.00〜約12.00、
Ti 約0.60〜約2.00、
Al 約3.00〜約7.00、
Ta 約0.50〜約5.00、
Nb 最大約2.00、
Hf 最大約0.50、
Zr 最大約1.00、
B 最大約0.10、
Mo 最大約2.00、
Si 最大約1.00、
残部がコバルトおよび通常の不純物から本質的になる、析出硬化型コバルト−ニッケル基超合金。
(態様13)
重量パーセントで、
C 約0.02〜約0.10、
Cr 約8.00〜約12.00、
Ni 約34.00〜約41.00、
W 約3.00〜約12.00、
Ti 約0.60〜約2.00、
Ta 約2.00〜約5.00、
Al 約3.00〜約5.00、
Nb 最大約2.00、
Zr 最大約1.00、
B 最大約0.10、
Mo 最大約2.00、
Si 最大約1.00、
残部がコバルトおよび通常の不純物から本質的になる、析出硬化型コバルト−ニッケル基超合金。
(態様14)
態様1に記載の合金から製造された物品であって、前記合金の粒度は、ASTM粒度番号が約6以下である、物品。
(態様15)
前記合金の粒度は、ASTM粒度番号が約8以下である、態様14に記載の物品。
(態様16)
AlおよびCrを含む連続保護表面層を有する、態様1に記載の合金から製造される物品。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8