特許第6965373号(P6965373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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▶ ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965373
(24)【登録日】2021年10月22日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】水性被覆剤の製造用の多成分系組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/34 20060101AFI20211028BHJP
【FI】
   C04B28/34
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-570809(P2019-570809)
(86)(22)【出願日】2018年4月18日
(65)【公表番号】特表2020-524651(P2020-524651A)
(43)【公表日】2020年8月20日
(86)【国際出願番号】EP2018059820
(87)【国際公開番号】WO2019025039
(87)【国際公開日】20190207
【審査請求日】2019年12月20日
(31)【優先権主張番号】17183916.0
(32)【優先日】2017年7月31日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】17200561.3
(32)【優先日】2017年11月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】シェイベル マルクス
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−187105(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0239784(US,A1)
【文献】 特表2017−520111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成要素、
(a)1〜30重量%の、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、コバルト及び銅のリン酸一水素塩及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン酸水素塩と、
(b)1〜40重量%の、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛及び銅の酸化物、水酸化物及び酸化物水和物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、
(c)40〜95重量%の、ガラス;マグネシウム、カルシウム、バリウム及びアルミニウムのモノリン酸塩、オリゴリン酸塩及びポリリン酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のケイ酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のアルミン酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、バリウム及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のチタン酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム及び/又はマグネシウムを含む単塩及び複塩のジルコン酸塩;二酸化ジルコニウム;二酸化チタン;酸化アルミニウム;二酸化ケイ素;炭化ケイ素;窒化アルミニウム;窒化ホウ素並びに窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の微粒子充填剤と、
(d)0〜25重量%の、構成要素(a)〜(c)とは異なる少なくとも1種の構成要素からなる組成物であって、遊離水を含まず、
構成要素(d)は、構成要素(d)の全体に対して10重量%以下の遊離水を含むことができ、
前記組成物は二成分系又は多成分系として存在し、構成要素(a)及び構成要素(b)は実質的に互いに分離されて存在するか、又は構成要素(a)がリン酸を含む場合は互いに分離されて存在する組成物。
【請求項2】
構成要素(a)が、マグネシウム、カリウム、アルミニウム及びアンモニウムのリン酸一水素塩及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン酸水素塩である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
構成要素(b)が、酸化マグネシウム、酸化鉄及び酸化カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
構成要素(c)が、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸及び石英からなる群から選択される少なくとも1種の微粒子充填剤である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記二成分系又は多成分系の前記成分が、構成要素(a)〜(d)の量比に対応する提供量で存在する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の組成物の成分を互いに及び水と混合することにより製造することができる水性の水硬性調製物。
【請求項7】
混合比が、前記組成物100重量部及び水5〜30重量部である請求項6に記載の水性の水硬性調製物。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の組成物の前記成分を互いに及び水と混合することによる請求項6又は請求項7に記載の水性の水硬性調製物の製造方法。
【請求項9】
前記二成分系又は多成分系のすべての成分が、水を加えずに最初に混合され、その後で水と混合されて前記水性の水硬性調製物が製造される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記二成分系又は多成分系の前記成分のうちの少なくとも1つが最初に水と混合されて少なくとも1種の水性中間体が製造され、その後、前記少なくとも1種の水性中間体がさらなる上記成分及び/又はさらなる上記水性中間体とさらに混合される請求項8に記載の方法。
【請求項11】
電子部品の水硬被覆材の製造方法であって、
(1)被覆する対象の電子部品を準備する工程と、
(2)請求項6若しくは請求項7に記載の水性の水硬性調製物又は請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の方法に従って製造される水性の水硬性調製物の形態の水性被覆剤を準備する工程と、
(3)工程(1)で準備された前記電子部品を工程(2)で準備された前記水性被覆剤で被覆する工程と、
(4)工程(3)の完結後に、前記電子部品を被覆する前記水性被覆剤を水硬させる工程と
を備える方法。
【請求項12】
前記被覆する対象の電子部品が、パッシブ電子部品又は半導体モジュールである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工業規模で実施される請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(2)が、以下の下位工程、
(2a)構成要素(a)を含む第1成分A及び構成要素(b)を含む第2成分Bから請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の二成分組成物を準備する工程、
(2b)前記成分A及び成分Bの各々を別個に水と混合して、2つの別個の水性中間体A’及び水性中間体B’を製造する工程、並びに
(2c)スタティックミキサーによって水性中間体A’及び水性中間体B’を混合し、前記水性の水硬性調製物の形態の水性被覆剤を製造する工程
を備える請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記2つの水性中間体A’及び水性中間体B’が、互いに20%以下しか異ならない体積を有し、かつ/又は各々0.5〜50Pa・sの範囲の粘度(回転式粘度測定、プレート−プレートの測定原理、プレート直径25mm、測定ギャップ1mm、試料温度20℃、せん断速度36/分、粘度値は2分間の測定時間の後に決定)を有する請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆剤として使用することができる水性の水硬性(hydraulisch haertbare)調製物へと、水との混合により変換することができる二成分系又は多成分系の組成物に関する。この水性被覆剤は、電子部品の水硬被覆材(hydraulisch gehaerteten Umhuellung)の製造のために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
本明細書で使用される用語「電子部品」は、パッシブ電子部品に加えて、特に半導体モジュール、その中でも特にパワーエレクトロニクス部分組立品を含む。
【0003】
半導体モジュールは、本明細書中では、少なくとも1つの基板(回路の担体として)、少なくとも1つの半導体部品(半導体)及び、適宜、少なくとも1つのパッシブ電子部品を備える電子部分組立品又はパワーエレクトロニクス部分組立品であると理解されるものとする。これに関して、この少なくとも1つの半導体部品自体は、例えばエポキシ樹脂をベースとする外装で部分的に又は完全に予め被覆されていてもよい。
【0004】
基板の例としては、IMS基板(絶縁金属基板:insulated metal−Substrate)、DCB基板(銅直接接合基板:direct copper bonded−Substrate)、AMB基板(活性金属ろう付け基板:active metal brazing−Substrate)、セラミック基板、金属セラミック基板、PCB(プリント基板:printed circuit board)、及びリードフレームが挙げられる。
【0005】
半導体部品の例としては、ダイオード、LED(発光ダイオード)、ダイ(半導体チップ)、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ:insulated−gate bipolar transistor)、IC(集積回路)及びMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ:metal−oxide−semiconductor field−effect transistor)が挙げられる。これらの半導体部品は、具体的には、それらの意図された稼働の間に電力損失に起因して著しい熱を発生する半導体、すなわち、被覆材又は封止材がなければ例えば100℃から200℃超の自己破壊する温度に到達する半導体である。
【0006】
パッシブ電子部品の例としては、センサ、フロアプレート(Bodenplatten)、放熱器、レジスタ、コンデンサ、変圧器、スロットル(絞り弁)及びコイルが挙げられる。
【0007】
本明細書で使用される用語「水硬(hydraulisches Haerten)」は、水の存在下で又は水の添加後に固まるプロセスを含む。
【0008】
英国特許出願公開第2186227A号明細書は、第1成分として、リン酸、リン酸二水素アルミニウム、及び少なくともリン酸と同程度の強さの酸のアルカリ塩、アルカリ土類塩又はアルミニウム塩を含む水溶液と、第2成分として、酸化マグネシウム等の金属酸化物硬化剤とを含む硬化性セメントの製造に使用することができる二成分系を開示する。
【0009】
米国特許出願公開第2015/239784A1号明細書は、深海の掘削孔を閉鎖するために使用することができ、酸化マグネシウムを含む液状の水性混合物とリン酸又はリン酸水素塩を含む第2の液状水性混合物とを混合することにより製造できる硬化性セメントを開示する。
【0010】
粉体組成物及びそれからリン酸セメントの形態で製造できる水性の被覆剤が、例えば国際公開第2015/193035A1号パンフレットに開示されている。この水性リン酸セメント被覆剤から製造される電子部品の被覆材は、特に、電気絶縁及び稼働中の電子部品から外部への熱放散に役立つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】英国特許出願公開第2186227A号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2015/239784A1号明細書
【特許文献3】国際公開第2015/193035A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
驚くべきことに明らかになり、そして下記の本開示から明らかなように、特に、水性リン酸セメント被覆剤の製造、及び工業規模での被覆材、特に電子部品の被覆材の製造のためのその使用に鑑み、リン酸セメント被覆剤として使用することができる水性調製物を製造するために使用することができる二成分系又は多成分系の形態の組成物を提供することが有益でありうる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の構成要素、
(a)1〜30重量%の、適宜、1〜90重量%リン酸(HPO)水溶液と組み合わせて、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、コバルト及び銅のリン酸一水素塩及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン酸水素塩と、
(b)1〜40重量%の、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛及び銅の酸化物、水酸化物及び酸化物水和物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、
(c)40〜95重量%の、ガラス;マグネシウム、カルシウム、バリウム及びアルミニウムのモノリン酸塩、オリゴリン酸塩及びポリリン酸塩;硫酸カルシウム;硫酸バリウム;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のケイ酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のアルミン酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、バリウム及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のチタン酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム及び/又はマグネシウムを含む単塩及び複塩のジルコン酸塩;二酸化ジルコニウム;二酸化チタン;酸化アルミニウム;二酸化ケイ素;炭化ケイ素;窒化アルミニウム;窒化ホウ素並びに窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の微粒子充填剤と、
(d)0〜25重量%の、構成要素(a)〜(c)とは異なる少なくとも1種の構成要素と
からなる組成物であって、
構成要素(a)は、構成要素(a)の全体に対して10重量%以下の遊離水を含むことができ、
構成要素(d)は、構成要素(d)の全体に対して10重量%以下の遊離水を含むことができ、
この組成物は、二成分系又は多成分系として存在し、構成要素(a)及び構成要素(b)は実質的に互いに分離されて存在するか、又は構成要素(a)がリン酸を含む場合は互いに分離されて存在する組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
構成要素(a)〜(c)又は構成要素(a)〜(d)からなる当該組成物は、それゆえ2以上の成分、すなわち互いに異なりかつ互いに分離されている成分(互いに分離されて保存されているか又は保存されるべき成分)の形態で存在する。
【0015】
換言すれば、本発明は、以下の構成要素以外のものを含まない2以上の異なる成分の系に関する。
(a)1〜30重量%の、適宜、1〜90重量%リン酸水溶液と組み合わせて、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、コバルト及び銅のリン酸一水素塩及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン酸水素塩、
(b)1〜40重量%の、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛及び銅の酸化物、水酸化物及び酸化物水和物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、
(c)40〜95重量%の、ガラス;マグネシウム、カルシウム、バリウム及びアルミニウムのモノリン酸塩、オリゴリン酸塩及びポリリン酸塩;硫酸カルシウム;硫酸バリウム;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のケイ酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のアルミン酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、バリウム及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のチタン酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム及び/又はマグネシウムを含む単塩及び複塩のジルコン酸塩;二酸化ジルコニウム;二酸化チタン;酸化アルミニウム;二酸化ケイ素;炭化ケイ素;窒化アルミニウム;窒化ホウ素並びに窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の微粒子充填剤、並びに
(d)0〜25重量%の、構成要素(a)〜(c)とは異なる少なくとも1種の構成要素。ただし、
構成要素(a)は、構成要素(a)の全体に対して10重量%以下の遊離水を含むことができ、
構成要素(d)は、構成要素(d)の全体に対して10重量%以下の遊離水を含むことができ、
構成要素(a)及び構成要素(b)は実質的に互いに分離されて存在するか、又は構成要素(a)がリン酸を含む場合は互いに分離されて存在する。
【0016】
従って、本発明は、上記構成要素(a)〜(c)、及び存在する場合には、加えて構成要素(d)からなる二成分系又は多成分系の組成物に関する。一般に、成分の数は5を超えない。二成分組成物が好ましい。これらの成分は、一緒になって、すべての構成要素(a)〜(c)又は場合によっては構成要素(a)〜(d)を含む。これらの成分は、すべての構成要素(a)〜(c)又は場合によっては構成要素(a)〜(d)を含む水性の水硬性調製物の製造に使用されるまで、互いに分離されて保存される。上記調製物の製造には、水の添加及び/又は水との混合を要する。
【0017】
構成要素(a)がリン酸を含む場合、上記構成要素(a)〜(c)若しくは場合によっては構成要素(a)〜(d)又はそれらの下位構成要素は、本発明に係る二成分又は多成分の組成物の成分にわたって自由に分配されてよい。ただし、これは、構成要素(a)及び構成要素(b)が異なる成分に互いに分離されて存在する、すなわち完全に互いに分離されて存在することを必要とするという、この例示的実施形態における本発明の必須条件が満たされるかぎりにおいてである。1つの実施形態では、本発明は、具体的には、リン酸含有構成要素(a)全体を含む成分、構成要素(b)の90重量%以上、好ましくは構成要素(b)のすべてを含むさらなる成分、並びに、適宜、1以上のさらなる成分からなり、上記成分のうちの少なくとも1つは、構成要素(c)及び、存在する場合、構成要素(d)又はそれらの下位構成要素を含む多成分系に関する。1つの実施形態では、本発明は、具体的には、リン酸含有構成要素(a)のすべてを含む成分及び構成要素(b)の90重量%以上、好ましくは構成要素(b)のすべてを含む第2成分からなり、上記2つの成分のうちの少なくとも1つは、構成要素(c)及び、存在する場合、構成要素(d)又はそれらの下位構成要素を含む二成分系に関する。
【0018】
構成要素(a)がリン酸を含まない場合、上記構成要素(a)〜(c)若しくは場合によっては構成要素(a)〜(d)又はそれらの下位構成要素は、本発明に係る二成分又は多成分の組成物の成分にわたって自由に分配されてよい。ただし、これは、構成要素(a)及び構成要素(b)が少なくとも実質的に互いに分離されて存在することを必要とするという、この例示的実施形態における本発明の必須条件が満たされるかぎりにおいてである。「実質的に」は、リン酸不含の構成要素(a)のすべてのうちの少なくとも90重量%、好ましくはリン酸不含の構成要素(a)のすべてが構成要素(b)から分離されているように存在すること、及び構成要素(b)のすべてのうちの少なくとも90重量%、好ましくは構成要素(b)のすべてがリン酸不含の構成要素(a)から分離されているように存在することを意味すると理解されるものとする。換言すれば、リン酸不含の構成要素(a)の最大10重量%は構成要素(b)の一部も含有する成分の中に存在してもよく、これは、構成要素(b)についても同様に当てはまる。好ましくは、構成要素(a)及び構成要素(b)は、異なる成分に、互いに分離されて存在する、すなわち完全に互いに分離されて存在する。1つの実施形態では、本発明は、具体的には、リン酸不含の構成要素(a)の90重量%以上、好ましくはリン酸不含の構成要素(a)のすべてを含む成分、構成要素(b)の90重量%以上、好ましくは構成要素(b)のすべてを含むさらなる成分、並びに、適宜、1以上のさらなる成分からなり、上記成分のうちの少なくとも1つは、構成要素(c)及び、存在する場合、構成要素(d)又はそれらの下位構成要素を含む多成分系に関する。好ましくは、これは、リン酸不含の構成要素(a)の90重量%以上、好ましくはリン酸不含の構成要素(a)のすべてを含む成分、及び構成要素(b)の90重量%以上、好ましくは構成要素(b)のすべてを含む第2成分からなり、これら2つの成分のうちの少なくとも1つは、構成要素(c)及び、存在する場合、構成要素(d)又はそれらの下位構成要素を含む二成分系に関する。
【0019】
構成要素(a)〜(d)の各々は、本明細書中でこれ以降下位構成要素と呼ばれる1以上の異なる原料を含むことができる。
【0020】
混同を避けるために、本明細書中では、本発明の二成分又は多成分組成物の構成要素(a)〜(d)、これらの構成要素の下位構成要素、及び成分は区別される。
【0021】
本発明に係る二成分又は多成分組成物の1〜30重量%、好ましくは2〜15重量%を占める構成要素(a)は、適宜、1〜90重量%リン酸水溶液(1〜90重量%のリン酸及び全体を100重量%にするために加わる割合の水からなる水溶液)と組み合わせた、リン酸一水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸一水素アンモニウム、リン酸一水素マグネシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素アルミニウム、リン酸一水素亜鉛、リン酸一水素鉄、リン酸一水素コバルト、リン酸一水素銅、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素アルミニウム、リン酸二水素亜鉛、リン酸二水素鉄、リン酸二水素コバルト及びリン酸二水素銅からなる群から選択される少なくとも1種の物質である。換言すれば、これは、適宜、1〜90重量%リン酸水溶液と組み合わせた、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、コバルト及び銅のリン酸一水素塩及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン酸水素塩に関する。具体的には、これは、マグネシウム、カリウム、アルミニウム及びアンモニウムのリン酸一水素塩及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン酸水素塩に関する。
【0022】
リン酸不含の構成要素(a)又はその下位構成要素は、好ましくは、例えば最大1mmの範囲の粒径を有する固体粒子からなる。
【0023】
構成要素(a)は、構成要素(a)の全体に対して10重量%以下の遊離水を含むことができる。構成要素(a)に関しては、遊離水は、具体的には、上記少なくとも1種のリン酸水素塩の中の結晶水として結合していない水である。この遊離水は、特に、存在してもよいリン酸水溶液に由来することができる。好ましくは、構成要素(a)は、水を含まないか、又は少なくとも遊離水を含まない。具体的には、構成要素(a)は、意図的に加えられた水もリン酸水溶液も含まない。
【0024】
本発明に係る二成分又は多成分組成物の1〜40重量%、好ましくは2〜15重量%を占める構成要素(b)は、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛及び銅の酸化物、水酸化物及び酸化物水和物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、特に酸化マグネシウム、酸化鉄及び酸化カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。酸化マグネシウムが特に好ましい。
【0025】
構成要素(b)又はその下位構成要素は、好ましくは、例えば最大0.3mmの範囲の粒径を有する固体粒子からなる。
【0026】
構成要素(b)は、遊離水を含まず、好ましくは結合水も含まない。これに関して、酸化物水和物から高温で追い出すことができる水は結合水とは考えないものとする。
【0027】
本発明に係る二成分又は多成分組成物の40〜95重量%、好ましくは65〜90重量%を占める構成要素(c)は、ガラス;マグネシウム、カルシウム、バリウム及びアルミニウムのモノリン酸塩、オリゴリン酸塩及びポリリン酸塩;硫酸カルシウム;硫酸バリウム;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のケイ酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のアルミン酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、バリウム及び/又はジルコニウムを含む単塩及び複塩のチタン酸塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム及び/又はマグネシウムを含む単塩及び複塩のジルコン酸塩;二酸化ジルコニウム;二酸化チタン;酸化アルミニウム;二酸化ケイ素、特にケイ酸及び石英の形態の二酸化ケイ素;炭化ケイ素;窒化アルミニウム;窒化ホウ素並びに窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の微粒子充填剤である。ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸及び石英が好ましい。
【0028】
先行する節でモノリン酸塩、オリゴリン酸塩及びポリリン酸塩が言及される。混同を避けるために、これらは構成要素(a)のリン酸水素塩とは異なり、水素不含のリン酸塩であると理解されるものとする。
【0029】
上記の節は、単塩及び複塩のケイ酸塩、アルミン酸塩、チタン酸塩及びジルコン酸塩を区別する。錯体化合物ではなく、その複塩の代表例は、複数種のカチオンを伴うケイ酸塩、アルミン酸塩、チタン酸塩及びジルコン酸塩であり、例えば、ケイ酸アルミニウムナトリウム、ケイ酸カルシウムアルミニウム、チタン酸ジルコン酸鉛等である。
【0030】
構成要素(c)又はその下位構成要素の粒径は、例えば20nm〜0.3mmの範囲、又はさらには20nm〜1mmの範囲にある。
【0031】
構成要素(c)は、遊離水を含まず、好ましくは結合水も含まない。
【0032】
本発明に係る二成分又は多成分組成物の0〜25重量%、好ましくは0〜15重量%又は2〜15重量%を占める構成要素(d)は、構成要素(a)〜(c)とは異なる少なくとも1種の構成要素又は下位構成要素である。例としては、特に、流動性向上剤、硬化遅延剤(ポットライフ延長剤)、消泡剤、湿潤剤及び接着促進剤等の添加剤が挙げられる。構成要素(d)は、構成要素(d)の全体に対して10重量%以下の遊離水を含むことができる。好ましくは、構成要素(d)は水を含まない、より具体的には、意図的に加えられた水を含まない。
【0033】
構成要素(d)又はその下位構成要素は、好ましくは、例えば最大0.3mm、さらには最大1mmの範囲の粒径を有する固体粒子からなる。構成要素(d)が固体ではなく、例えば、液体であるか、又は非固体、例えば液体、の下位構成要素を含むことは、好ましいわけではないが実施可能である。
【0034】
下記表は、本発明に係る二成分又は多成分組成物の好ましい実施形態のいくつかの例示的な配合物を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
本発明に係る二成分又は多成分組成物は、構成要素(a)〜(c)又は構成要素(a)〜(d)からなり、すなわちこれらの構成要素の重量%分率は、足し合わせると全体で本発明に係る二成分又は多成分組成物の100重量%になる。構成要素(d)が存在しない場合、構成要素(a)〜(c)の重量%分率は、足し合わせると本発明に係る二成分又は多成分組成物の100重量%になる。
【0037】
1つの実施形態では、本発明に係る二成分又は多成分系の上記成分は、構成要素(a)〜(c)又は(a)〜(d)の上記の量比に対応する提供量で与えられる。換言すれば、上記成分は、すでに小分けされており、それゆえ何ら秤量又は測定することなく、互いに直接混合して一成分組成物を形成し、及び/又はさらに水とも混合して水性の水硬性調製物を形成することができる。これに関して構成要素(a)がリン酸水溶液を含む場合、記載したように製造される一成分組成物又は水性の水硬性調製物は、短時間だけ、例えば2時間だけ保存することができる。
【0038】
互いに又は水と混合されて水性の水硬性調製物を形成することになる本発明に係る二成分又は多成分組成物の2以上の成分は、好ましくは粒子の形態で、例えば粉体の形態で提供される。これは、複数の、すなわち2以上の異なる構成要素及び/又は下位構成要素を含む本発明に係る二成分又は多成分系の微粒子成分又は粉体成分が完全混合物の中に、特に確率論的に均一な混合物の形態で存在することを意味し、上記微粒子成分は、好ましくは塊の形成を示さず、自由に流動することができる。
【0039】
本発明に係る二成分又は多成分組成物の微粒子成分は、当業者に公知の(良)流動性の微粒子組成物の製造のための一般的な方法に従って製造することができる。例としては、タンブラー混合(Taumelmischen)、強力混合(Intensivmischen)、乾式粉砕、及びエアブレンディング(Luftblending)の製造過程が挙げられる。
【0040】
上で触れたように、本発明に係る二成分又は多成分組成物の成分は、互いに及び水と混合されて、水性の水硬性調製物を形成することができる。
【0041】
水性の水硬性調製物、特に、水性被覆剤として使用できる、すなわち既製の水性の水硬性調製物は、本発明に係る二成分又は多成分組成物の成分を混合して1以上の予備混合物(前駆混合物)を製造し、このあと続いて水と混合することにより得ることができる。従って、例えば、本発明に係る二成分又は多成分系のすべての成分を、水を加えずに最初に混合してよく、その後で水と混合して水性の水硬性調製物を製造してもよい。
【0042】
あるいは、本発明に係る二成分又は多成分組成物の成分のうちの少なくとも1つが最初に水と混合されてもよく、こうして少なくとも1種の水性中間体へと変換されてもよい。結果として、上記少なくとも1種の水性中間体、及び水とは混合されてはいないもとの二成分系又は多成分系の残りの成分を含む、もとの二成分系又は多成分系とは異なる二成分系又は多成分系(もとの二成分系又は多成分系から誘導される二成分系又は多成分系;略して「誘導二成分系又は多成分系」)が得られる。従って、このように形成された誘導二成分系又は多成分系の成分は、直接、又は水を加えながら混合されて、水性の水硬性調製物を製造する、特に水性被覆剤として使用することができる、つまり既製の水性の水硬性調製物を製造することができる。
【0043】
誘導二成分系又は多成分系は、具体的には、以下の実施形態(i)、(ii)又は(iii)をとることができる。
【0044】
(i)構成要素(a)を含み構成要素(b)のフラクション(画分)を含まない水性中間体A’の形態の水性成分と、構成要素(b)を含み構成要素(a)のフラクションを含まない水性中間体B’の形態のさらなる水性成分を含む誘導二成分系又は多成分系。上記水性中間体A’は基本的に無制限の貯蔵時間を特徴とするのに対して、上記水性中間体B’の貯蔵時間は、一般に48時間以下である。タイプ(i)の誘導二成分系に関しては、その2つの水性で、かつ例えば液状又はペースト状の成分は、好適な二成分混合装置によって、例えばスタティックミキサー(特にKenics又はRossのISG混合機タイプのもの)によって混合して、特に工業的な連続生産、例えばそれぞれの被覆材及び/又は被覆された電子部品の連続生産の範囲で、水性の水硬性調製物を製造する、特に水性被覆剤として使用することができる、つまり既製の水性の水硬性調製物を製造することができる。タイプ(i)の誘導二成分系のこのタイプの使用は、エンドユーザー、特に水性被覆剤として使用することができる、つまり既製の水性の水硬性調製物のユーザーのところで実施されるのに特に好適である。
【0045】
(ii)構成要素(a)を含み構成要素(b)のフラクションを含まない非水性成分と、構成要素(b)を含み構成要素(a)のフラクションを含まない水性中間体の形態の水性成分とを含む誘導二成分系又は多成分系。上で触れたように、このタイプの水性中間体は、その貯蔵時間が一般に48時間以下であることを特徴とする。エンドユーザーは、構成要素(a)を含み構成要素(b)のフラクションを含まない上記非水性成分を水と混合することによりその成分を変換することにより、上記タイプ(ii)の誘導二成分系又は多成分系をタイプ(i)の誘導二成分系又は多成分系へと変換することができる。
【0046】
(iii)構成要素(a)を含み構成要素(b)のフラクションを含まない水性成分と、構成要素(b)を含み構成要素(a)のフラクションを含まない非水性成分とを含む誘導二成分系又は多成分系。エンドユーザーは、構成要素(b)を含み構成要素(a)のフラクションを含まない上記非水性成分を水と混合することによってそれを変換することにより、タイプ(iii)の上記誘導二成分系又は多成分系をタイプ(i)の誘導二成分系又は多成分系へと変換することができる。
【0047】
一般に、論じているタイプの水性の水硬性調製物は、過剰の酸を何ら含有しない。換言すれば、一般に、基本構成要素(b)の性質及び量は、構成要素(a)によってもたらされる酸当量並びに構成要素(c)及び構成要素(d)に由来する何らかのさらなる酸当量を、少なくとも完全に中和できる、好ましくは過中和できるように適切なものであることができる。
【0048】
例えば、本発明に係る二成分又は多成分組成物の全体で100重量部の上記成分、例えば好ましくは微粒子成分を、5〜30重量部、好ましくは6〜15重量部の水と混合して、当該水性の水硬性調製物を製造することができる。
【0049】
上で触れたように、水を添加せずに本発明に係る二成分又は多成分系のすべての成分を最初に混合し、その後に水と混合して当該水性の水硬性調製物を製造することが実施可能である。しかしながら、上記成分のうちの少なくとも1つを水と最初に混合して、少なくとも1種の水性中間体を製造し、このように誘導二成分系又は多成分系を生成することが好ましい。その後、これをさらなる成分及び/又は水性中間体とさらに混合することができる。
【0050】
本発明に係る二成分又は多成分組成物の使用を伴う水性の水硬性調製物の製造の間、その調製物の個々の成分及び水は、適宜小分けすることを含めて任意の順序で互いに混合されてもよい。これに関して、2以上の成分から水を加えずに上記の予備混合物のうちの1以上の形態の、及び/又は水を加えながら上記の水性中間体のうちの1つ若しくは2つの形態の中間体生成物を最初に製造することが実施可能である。水性中間体の場合には、これに、場合によっては水溶液、例えば構成要素(a)若しくは構成要素(d)又は場合によってはそれらの下位構成要素の水溶液が関与してもよい。構成要素(b)並びに構成要素(a)、構成要素(c)及び構成要素(d)から選択される少なくとも1つの酸性構成要素(水の存在下でHイオンを形成する)のフラクションを含有する水性中間体を、上記既製の水性の水硬性調製物を製造するための最終混合の例えば最長2〜24時間前までに製造することが有益である可能性がある。同じことは、構成要素(b)又は構成要素(b)の下位構成要素を含むが酸性構成要素又は下位構成要素を含まない水性中間体に当てはまる。その場合、上記水性中間体を、例えば水性の水硬性調製物を製造するための最終混合の最長48時間までに製造することが有益である。
【0051】
本発明に係る二成分又は多成分組成物の使用により水性の水硬性調製物を製造するための最終混合の際に使用することができるダイナミック混合プロセスの例としては、撹拌及び強力混合、例えばプラネタリーミキサーの使用による強力混合が挙げられる。
【0052】
一実施形態では、本発明に係る二成分又は多成分組成物が2つの成分A及び成分Bのみを含むことが、工業規模での当該組成物の使用に鑑み、特に有益である。これに関して、成分Aは構成要素(a)を含み、成分Bは構成要素(b)を含む。このように、構成要素(a)及び構成要素(b)は、本発明に係る二成分系の保存の間、互いに分離されたまま保つことができる。これに関して、構成要素(c)及び構成要素(d)は、成分A及び/又はBの中に含有されてよく、この場合、およそ等割合の少なくとも構成要素(c)を2つの成分A及び成分Bの中に存在させることが好ましい。例えば、30〜70重量%、好ましくは40〜60重量%の構成要素(c)が成分Aの中に存在することができ、残りの部分は成分Bの中に存在することができる。さらに、成分Bが含まれてもよい酸性構成要素(c)及び構成要素(d)のフラクションを含有しないことが好ましい可能性がある。そのような含まれてもよい酸性物質は、好ましくは、専ら成分Aに含有される。水性の水硬性調製物を製造するための水との混合は、上述の原則に従って実施することができる。しかしながら、成分A及び成分Bの両方を、それぞれ水を用いて水性中間体A’及び水性中間体B’を含む上記のタイプ(i)の誘導二成分系へと変換し、その後にこれらを互いに混合して水性の水硬性調製物を製造することが好ましい。これは、工業規模での使用に鑑み特定の利点をもたらす。成分A及び/又は構成要素(a)を含み構成要素(b)のフラクションを含まない水性中間体A’は、基本的に無期限に保存することができる。酸性物質を含まず成分B及び/又は構成要素(b)を含む水性中間体B’は、一般に、少なくとも48時間保存することができる。好ましくは、水性中間体A’及び水性中間体B’は、それらが、その混合比に鑑み同程度の体積、例えば互いに20%以下しか異ならない(1.2:1〜1:1.2の体積比に対応する)体積、及び/又は同程度のレオロジー特性、例えば0.5〜50Pa・sの範囲の粘度(回転式粘度測定、プレート−プレートの測定原理、プレート直径25mm、測定ギャップ1mm、試料温度20℃、せん断速度36/分、粘度値は2分間の測定時間の後に決定)を有するように、適正に配合することができる。水性中間体A’及び水性中間体B’の両方の混合物は、上記の意味の水性の水硬性調製物を表し(つまり、そのものであり)、その混合物は、成分A及び成分B、従って構成要素(a)及び構成要素(b)を互いに接触させ、そして一般に120分以下の、初期粘度が2倍になるまでの時間(本発明に係る二成分組成物及び水の最初の接触から5分後の粘度から算出される)として表現されるポットライフ(加工時間、加工可能性の時間)を有する。それゆえ、2つの水性中間体A’及び水性中間体B’を別個に準備し、相当量(これは、48時間以内に一般に加工される)を提供し、電子部品の被覆のためのそれらの使用の前に、例えば使用直前に又は使用前120分以内に、好ましくは使用前10分以内に水性中間体A’及び水性中間体B’の必要な小分け量(分割量)の混合を実施することが有益である。これに関して専用というわけではないが特に適している二成分混合装置の例は、上記のスタティックミキサーであり、それらの出口開口は、必要量の上記水性の水硬性調製物を連続的に又は小分けして水性中間体A’及び水性中間体B’の形態で吐出し、この水性中間体A’及び水性中間体B’は、所望の混合比で混合され、そして特に電子部品の被覆に向けた意図された用途のために十分に均一であるように混合される。例えば、水性中間体A’及び水性中間体B’の所望の混合比は、好都合には、本発明に係る二成分組成物と水との上記の所望の量比に対応することができ、例えば本発明に係る二成分組成物100重量部:水5〜30重量部、好ましくは6〜15重量部の上記の量比に対応することができる。
【0053】
上で触れたように、当該水性の、流動性の水硬性調製物は、電子部品用の水性被覆剤として使用することができる。略して、用語「水性被覆剤」が本明細書中でこれ以降使用される。
【0054】
当該水性被覆剤は、電子部品の水硬被覆材の製造に使用することができる。この製造方法は、
(1)被覆する対象の電子部品を準備する工程と、
(2)上で触れたように製造される水性被覆剤を準備する工程と、
(3)工程(1)で準備された電子部品を工程(2)で準備された水性被覆剤で被覆する工程と、
(4)工程(3)の完結後に、上記電子部品を被覆する水性被覆剤を水硬させる(hydraulisches Haerten)工程と
を備える。
【0055】
好ましくは、工程(1)〜(4)及び/又は工程(1)〜(4)を備える方法は、工業的な連続生産の範囲で、工業規模で実施される。
【0056】
被覆する対象の電子部品が工程(1)で準備され、電子部品としては、例えばパッシブ電子部品又は半導体モジュールが挙げられ、この半導体モジュールは、具体的には、パワーエレクトロニクス部分組立品の形態のものである。
【0057】
工程(2)に関しては、上記の説明及び/又は上記の実施形態を参照されたい。工業規模で実施される工程(2)は、好ましくは、スタティックミキサー、特にKenics又はRossのISG混合機タイプの使用による、タイプ(i)の誘導二成分系の水性中間体A’及び水性中間体B’の混合の間に起こる。これに関して、工程(2)は、以下の下位工程を備える。
(2a)構成要素(a)を含む第1成分A及び構成要素(b)を含む第2成分Bから本発明に係る二成分組成物を準備する工程、
(2b)上記成分A及び成分Bの各々を別個に水と混合して、2つの別個の水性中間体A’及び水性中間体B’を製造する工程、並びに
(2c)スタティックミキサーによって水性中間体A’及び水性中間体B’を混合し、水性の水硬性調製物の形態の水性被覆剤を製造する工程。これに関して、この2つの水性中間体A’及び水性中間体B’が、互いに20%以下しか異ならない体積を有すること、及び/又は各々、0.5〜50Pa・sの範囲の粘度(回転式粘度測定、プレート−プレートの測定原理、プレート直径25mm、測定ギャップ1mm、試料温度20℃、せん断速度36/分、粘度値は2分間の測定時間の後に決定)を有することが好ましい。
【0058】
好ましくは、工程(3)は、遅滞なく、例えば工程(2)の完結から120分以内、好ましくは10分以内に実施される。
【0059】
工程(3)は、工程(2)に従って準備された水性被覆剤による工程(1)で準備された電子部品の被覆に関する。ポッティング、浸漬及び射出成形が好ましい塗工方法である。ポッティングは、当業者に公知の一般的な方法により、例えば重力ポッティング、加圧によるポッティング又は減圧によるポッティングにより行うことができる。これに関して、被覆する対象の電子部品を半殻の金型で囲み、次にこれらを注入可能な被覆剤で満たすことが有益である可能性がある。この被覆は、部分被覆又は完全被覆として起こる。例えば、半導体モジュールの被覆は、被覆化合物が半導体部品に接続される電気接点要素、例えばボンドワイヤ、リボン(テープ心線)及び/又は基板等を部分的に又は完全に被覆するようにして実施することができる。部分被覆は、接点要素のうちの1以上が不完全に被覆されること、及び/又は接点要素のうちの1以上が被覆されないことを意味すると理解されるものとし、他方、完全被覆は、すべての接点要素が完全に被覆されることを意味すると理解されるものとする。ポッティングは、例えば、被覆化合物が当業者には公知の「グローブトップ」として形成されるように行われてよい。
【0060】
工程(3)の後に続く工程(4)では、電子部品を被覆する水性被覆剤が水硬的に(水の作用により)硬化される。より正確に言えば、水硬の本質的部分は工程(4)の間に固化プロセスの中で起こる。構成要素(a)及び構成要素(b)が水の存在下で互いに接触した瞬間から、すなわち工程(2)の間に水硬が開始することは半ば明らかである。水すなわち上記水の除去を意味する乾燥プロセスは、現実の固化プロセスの最中及びそのプロセスの後に起こりうる。固化及び乾燥は、例えば20〜300℃の温度範囲で例えば30〜300分間行うことができる。
【0061】
半殻の金型が工程(3)で使用される場合、被覆された電子部品は、工程(4)に係る水硬の後に、そして半殻が開かれると、その半殻から取り出すことができる。
【実施例】
【0062】
一般的手順:
下記表に記載した粉状固体組成物の各成分を、ねじ式の蓋付きのビーカーの中で秤量した。このビーカーを閉じ、次いで各成分を手による振とうによって個々に均一化し、次いで別のビーカーにとっておいた水に加え、これを強力な撹拌により5分間均一化し、水性中間体を製造した。各水性中間体についての混合比は、上記固体組成物100重量部:水10重量部であった。このようにして得た水性中間体をレオメータの測定用セルの中に入れ、それぞれの初期粘度を、上記説明の中に提供した情報に従って測定した。その後、両方の水性中間体を特定の質量比で合わせ、強力な撹拌により均一化し、水性被覆剤を製造した。これをレオメータの測定用セルの中に入れ、上記説明の中に提供した情報に従ってポットライフを測定した。
【0063】
【表2】