特許第6965392号(P6965392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6965392亜鉛‐臭素電池用正極およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965392
(24)【登録日】2021年10月22日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】亜鉛‐臭素電池用正極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20211028BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20211028BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20211028BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20211028BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20211028BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20211028BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   H01M12/08 C
   H01M4/42
   H01M4/02 Z
   H01M4/90 X
   H01M4/86 M
   H01M4/96 B
   H01M4/88 C
   H01M4/88 K
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-67221(P2020-67221)
(22)【出願日】2020年4月3日
(65)【公開番号】特開2021-39935(P2021-39935A)
(43)【公開日】2021年3月11日
【審査請求日】2020年5月1日
(31)【優先権主張番号】10-2019-0106976
(32)【優先日】2019年8月30日
(33)【優先権主張国】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 適用を認める。
(73)【特許権者】
【識別番号】514260642
【氏名又は名称】コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヒ−タク
(72)【発明者】
【氏名】キム, サン ウク
(72)【発明者】
【氏名】リー, ジュヒョク
(72)【発明者】
【氏名】ビュン, イヤー イン
【審査官】 原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第109841852(CN,A)
【文献】 特開平06−283157(JP,A)
【文献】 特開昭59−146171(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/222785(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/172878(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第106694007(CN,A)
【文献】 特開平11−242954(JP,A)
【文献】 蓮覚寺聖一,外4名,“無隔膜型亜鉛-臭素二次電池に関する研究−電池性能へ及ぼすスルファミン酸塩およびでんぷん添加の影響−”,富山大学工学部紀要,日本,富山大学工学部,1992年,第43巻,p.83−91
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/08
H01M 4/00−4/96
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピリジン系窒素でドープされた炭素体を含み、
前記ピリジン系窒素は、窒素ドープされた炭素体の総窒素含量に対して30原子%以上である、
亜鉛‐臭素電池用正極。
【請求項2】
前記亜鉛‐臭素電池は、無隔膜‐無フロー型亜鉛‐臭素電池である、請求項1に記載の亜鉛‐臭素電池用正極。
【請求項3】
前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体は、微細気孔を含む微多孔性炭素体である、請求項1に記載の亜鉛‐臭素電池用正極。
【請求項4】
前記微細気孔の平均気孔径は、0.2〜3nmである、請求項3に記載の亜鉛‐臭素電池用正極。
【請求項5】
前記ピリジン系窒素は、正に荷電したピリジン系窒素である、請求項1に記載の亜鉛‐臭素電池用正極。
【請求項6】
前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体は、多孔性炭素体基材をさらに含み、前記多孔性炭素体基材とピリジン系窒素でドープされた炭素体は一体化している、請求項1に記載の亜鉛‐臭素電池用正極。
【請求項7】
前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体と臭素系アニオンの吸着エネルギーは、下記式1を満たす、請求項1に記載の亜鉛‐臭素電池用正極。
【数1】

(前記式1中、EAd−CNは、ピリジン系窒素でドープされた炭素体と臭素系アニオンの吸着エネルギーを意味し、EAd−Cは、炭素体と臭素系アニオンの吸着エネルギーを意味する。)
【請求項8】
亜鉛がコーティングされた遷移金属を含む負極と、請求項1からのいずれか一項に記載の正極と、電解質とを含み、前記電解質のpHは1.5〜5である、亜鉛‐臭素電池。
【請求項9】
前記亜鉛‐臭素電池は、開回路電圧の降下が40時間以上で発生する、請求項に記載の亜鉛‐臭素電池。
【請求項10】
前記亜鉛‐臭素電池は、1000充放電サイクルの際、エネルギー効率が70%以上である、請求項に記載の亜鉛‐臭素電池。
【請求項11】
(S1)多孔性炭素体基材を親水化表面処理するステップと、
(S2)金属前駆体および有機リガンド前駆体を含む溶液に前記親水化された多孔性炭素体基材を浸漬するステップと、
(S3)前記浸漬された多孔性炭素体基材を乾燥し、多孔性炭素体基材上に金属‐有機骨格体(MOF)を含むナノ結晶性多面体をコーティングするステップと、
(S4)前記ナノ結晶性多面体がコーティングされた多孔性炭素体基材を炭化するステップとを含み、
前記金属‐有機骨格体は、ゼオライトイミダゾレート骨格体(ZIF)である、
亜鉛‐臭素電池用正極の製造方法。
【請求項12】
前記(S4)ステップの炭化過程は、500〜1200℃で行われる、請求項11に記載の亜鉛‐臭素電池用正極の製造方法。
【請求項13】
前記(S1)ステップの親水化表面処理過程は、400〜800℃の酸化雰囲気で行われる、請求項11に記載の亜鉛‐臭素電池用正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛‐臭素電池用正極、これを含む亜鉛‐臭素電池、および前記亜鉛‐臭素電池用正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、地球温暖化ガスの発生抑制に関心が集まるにつれて、太陽光、風力など、再生可能エネルギーを用いる発電システムに関する研究および普及が世界的に活発に行われている。しかし太陽光、風力などによる再生可能エネルギーは、変動性が高い自然エネルギーに依存するため、電力の変動性に対応することが難しく、電力供給の安定性を確保することが困難である。したがって、再生可能エネルギーの変動性を受け入れ、電力のスムーズな供給および発電設備の効率的な活用のための安定したエネルギー貯蔵技術が必要である。
【0003】
安定したエネルギー貯蔵技術として、電気化学的方法であるレドックスフロー電池が多く研究されており、価格競争力および高い放電電圧などの利点により、特に、亜鉛‐臭素電池が注目を浴びている。しかし、亜鉛‐臭素電池の場合、臭素系アニオンが正極から負極にクロスオーバ(Crossover)する問題が深刻で、低い電流効率を発生するだけでなく、充放電を長時間行う際、電圧効率も低下し、性能が劣化するという問題がある。それだけでなく、前記クロスオーバなどの問題によって、亜鉛‐臭素電池の放電容量も迅速に減少するという問題がある。
【0004】
最近、電解質ポンピング過程で発生するエネルギー損失および隔膜による高コストと短い寿命など要素を解消するために、亜鉛‐臭素電池において電解質ポンピングシステムおよび隔膜を使用しない無隔膜‐無フロー型亜鉛‐臭素電池について研究されている。この場合、電解質の流れおよび隔膜を用いる一般的な亜鉛‐臭素電池よりも深刻なクロスオーバの問題が発生し、性能および放電容量の減少がより速く進むという問題がある。
【0005】
したがって、臭素系イオンおよび臭素系化合物のクロスオーバの問題を解決し、高い電流効率および電圧効率を示す高性能の亜鉛‐臭素電池だけでなく、無隔膜‐無フロー型亜鉛‐臭素電池にも適用が可能な正極の開発が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許第10−2019−0072124号公報(KR10−2019−0072124 A)
【特許文献2】韓国登録特許第10−1862368号公報(KR10−1862368 B1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、臭素系アニオンの正極から負極へのクロスオーバの問題を解決し、亜鉛‐臭素電池の電流効率および電圧効率を向上させるだけでなく、優れた充放電サイクル安定性を示す亜鉛‐臭素電池用正極およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、亜鉛‐臭素電池用正極を提供し、ピリジン系窒素でドープされた炭素体を含む。
【0009】
本発明による一実施形態において、前記亜鉛‐臭素電池は、無隔膜‐無フロー型亜鉛‐臭素電池であってもよい。
【0010】
本発明による一実施形態において、前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体は、微細気孔を含む微多孔性炭素体であってもよい。
【0011】
本発明による一実施形態において、前記微細気孔の平均気孔径は、0.2〜3nmであってもよい。
【0012】
本発明による一実施形態において、前記ピリジン系窒素は、窒素ドープされた炭素体の総窒素含量に対して30原子%以上であってもよい。
【0013】
本発明による一実施形態において、前記ピリジン系窒素は、正に荷電したピリジン系窒素であってもよい。
【0014】
本発明による一実施形態において、前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体は、多孔性炭素体基材をさらに含み、前記多孔性炭素体基材とピリジン系窒素でドープされた炭素体は一体化していてもよい。
【0015】
本発明による一実施形態において、前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体と臭素系アニオンの吸着エネルギーは、下記式1を満たしてもよい。
【数1】
(前記式1中、EAd−CNは、ピリジン系窒素でドープされた炭素体と臭素系アニオンの吸着エネルギーを意味し、EAd−Cは、炭素体と臭素系アニオンの吸着エネルギーを意味する。)
【0016】
本発明は、また、亜鉛‐臭素電池を提供し、亜鉛がコーティングされた遷移金属を含む負極と、本発明の一実施形態による正極と、電解質とを含み、前記電解質のpHは1.5〜5である。
【0017】
本発明による一実施形態において、前記亜鉛‐臭素電池は、開回路電圧の降下が40時間以上で発生してもよい。
【0018】
本発明による一実施形態において、前記亜鉛‐臭素電池は、1000充放電サイクルの際、エネルギー効率が70%以上であってもよい。
【0019】
本発明は、また、亜鉛‐臭素電池用正極の製造方法を提供し、
(S1)多孔性炭素体基材を親水化表面処理するステップと、
(S2)金属前駆体および有機リガンド前駆体を含む溶液に前記親水化された多孔性炭素体基材を浸漬するステップと、
(S3)前記浸漬された多孔性炭素体基材を乾燥し、多孔性炭素体基材上に金属‐有機骨格体(MOF)を含むナノ結晶性多面体をコーティングするステップと、
(S4)前記ナノ結晶性多面体がコーティングされた多孔性炭素体基材を炭化するステップとを含む。
【0020】
本発明による一実施形態において、前記金属‐有機骨格体は、ゼオライトイミダゾレート骨格体(ZIF)であってもよい。
【0021】
本発明による一実施形態において、前記(S4)ステップの炭化過程は、500〜1200℃で行われてもよい。
【0022】
本発明による一実施形態において、前記(S1)ステップの親水化表面処理過程は、400〜800℃の酸化雰囲気で行われてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明による亜鉛‐臭素電池用正極は、臭素系アニオンを高い効率で吸着することで、亜鉛臭素電池の電流効率および電圧効率を著しく増加させることができるという利点がある。
【0024】
また、本発明による亜鉛‐臭素電池用正極を含む亜鉛‐臭素電池は、1000サイクル充放電の後にも80%以上のエネルギー効率を示すことで、安定性を著しく増加させることができるという利点がある。
【0025】
本発明で明示的に言及されていない効果であっても、本発明の技術的特徴によって期待される明細書に記載の効果およびその内在的な効果は、本発明の明細書に記載のものと同様に取り扱われる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明による亜鉛‐臭素電池用正極が臭素系化合物および臭素系アニオンを吸着するメカニズムを示す図である。
図2】水素化したピリジン系窒素を含むか否かによるグラフェンと臭素系化合物および臭素系アニオンの吸着エネルギー理論値を示した図である。
図3】本発明の一実施形態によって製造されたNGF(nitrogen-doped graphite felt;窒素ドープされたグラファイトフェルト)の製造過程を簡略に示した図である。
図4】本発明の一実施形態によって製造されたNGFの走査電子顕微鏡画像および前記製造されたNGFから分離した炭化されたZIF‐8粒子の透過電子顕微鏡画像、走査電子顕微鏡画像およびEDS(Energy Dispersive Spectrometry)分析結果を示した図である。
図5】本発明の実施例によって製造されたNGFの走査電子顕微鏡画像およびEDS(Energy Dispersive Spectrometry)分析結果を示した図である。
図6】本発明の一実施形態によって製造されたNGFのXPS(X‐ray photoelectron spectroscopy)分析結果を示した図である。
図7】本発明の実施例によって製造されたNGFのBET(Brunauer Emmett Teller)比表面積分析結果を示した図である。
図8】本発明の一実施形態によって製造されたNGFのAr吸着等温線(adsorption isotherm)分析結果を示した図である。
図9】本発明の実施例によって製造されたNGFおよびPristine GFを正極として使用して構成した無隔膜‐無フロー型亜鉛‐臭素電池(Membraneless flowless Zn‐Br Battery、MLFL‐ZBB)の構造を示した図である。
図10】本発明の実施例によって製造されたNGFおよびPristine GFを正極として使用して構成したMLFL‐ZBBの充電時間による電解液の色相変化画像、紫外・可視分光分析およびラマン分光分析結果を示した図である。
図11】本発明の実施例によって製造されたNGFに対する電気化学インピーダンス分光(Electrochemical Impedance Spectroscopy;EIS)分析結果を示した図である。
図12】本発明の実施例によって製造されたNGFを正極として使用して構成したMLFL‐ZBBの電気化学的分析結果を示した図である。
図13】本発明の実施例によって製造されたNGFを含むMLFL‐ZBBの長時間充放電テスト後の電極および電解液の変化画像を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書で使用される技術用語および科学用語において他の定義がない限り、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が通常理解している意味を有しており、下記の説明および添付の図面で本発明の要旨を不明瞭にし得る公知の機能および構成に関する説明は省略する。
【0028】
また、本明細書で使用される、単数型は、文章で特に断らない限り、複数型をも含むことを意図し得る。
【0029】
また、本明細書で特に断らず使用された単位は、重量を基準とし、一例として、%または比の単位は、重量%または重量比を意味し、重量%は、他に定義されない限り、全組成物のいずれか一つの成分が組成物の中で占める重量%を意味する。
【0030】
また、本明細書で使用される数値範囲は、下限値と上限値とその範囲内でのすべての値、定義される範囲の形態と幅で論理的に誘導される増分、このうち限定されたすべての値および互いに異なる形態に限定された数値範囲の上限および下限のすべての可能な組み合わせを含む。本発明の明細書で特に定義されない限り、実験誤差または値の四捨五入によって発生する可能性がある数値範囲以外の値も定義された数値範囲に含まれる。
【0031】
本明細書における「含む」という用語は、「備える」、「含有する」、「有する」または「特徴とする」などの表現と等価の意味を有する開放型記載であり、さらに列挙されていない要素、材料または工程を排除しない。
【0032】
また、本明細書における「実質的に」という用語は、特定された要素、材料または工程とともに列挙されていない他の要素、材料または工程が発明の少なくとも一つの基本的且つ新規の技術的思想に許容できないほどの著しい影響を及ぼさない量または程度で存在し得ることを意味する。
【0033】
本発明は、ピリジン系窒素でドープされた炭素体を含む亜鉛‐臭素電池用正極を提供する。
【0034】
既存の亜鉛‐臭素電池は、臭素系化合物および臭素系アニオンの正極から負極へのクロスオーバ問題によって、深刻な自己放電を起こし、結果、低い電流効率を示すだけでなく、電圧効率も低くなり、電池容量および性能が著しく低下するという問題がある。一方、本発明による亜鉛‐臭素電池用正極は、高いエネルギー効率を示すだけでなく、長時間充放電する時にも前記エネルギー効率を安定的に維持できるという利点がある。
【0035】
具体的には、本発明による亜鉛‐臭素電池用正極は、前記自己放電を起こす臭素系化合物および臭素系アニオンを高い効率で吸着することで、正極から負極へのクロスオーバを効率的に防ぐことができる。これにより、前記クロスオーバによる自己放電を効果的に減少させることができ、高い電流効率を示すことができる。具体的には、図1に図示されているように、本発明による亜鉛‐臭素電池用正極は、亜鉛‐臭素電池においてナノサイズの臭素系化合物および臭素系アニオンを吸着することで、電極の内部に「貯蔵」することができ、充電過程中に正極から負極へのクロスオーバを著しく防ぐことができる。ここで、「貯蔵」は、充電過程中に生成される正極生成物を一時的に正極電極で吸着することを指称し、負極でのクロスオーバを防ぐ概念での「貯蔵」を意味し得る。前記臭素系化合物は、Brであってもよく、前記臭素系アニオンは、臭素イオン(Br)およびポリ臭素イオンから選択される一つ以上であってもよい。具体的には、前記ポリ臭素イオンは、Br、Br、Br、BrおよびBrから選択される一つ以上であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0036】
また、本発明による亜鉛‐臭素電池用正極は、著しく減少された抵抗により、優れた正極キネティックス(Kinetics)を示すことができ、結果、高い電圧効率を示すことができる。
【0037】
本発明による前記亜鉛‐臭素電池は、無隔膜‐無フロー型亜鉛‐臭素電池であってもよい。具体的には、前記無隔膜‐無フロー型亜鉛‐臭素電池は、ポンピングシステムによる電解質の流れおよび正極と負極との間に位置し、セパレータの役割をする隔膜を使用しない亜鉛‐臭素電池を指す。前記無隔膜‐無フロー型亜鉛‐臭素電池は隔膜および電解質の流れが存在する一般的な亜鉛‐臭素電池よりずっとひどいクロスオーバによって、低い電流効率だけでなく、電圧効率も低くなって電池容量および性能が相対的にさらに早い速度で減少するという問題がある。しかし、本発明によるピリジン系窒素でドープされた炭素体を含む正極を前記無隔膜‐無フロー型亜鉛‐臭素電池の正極で使用時にも高いエネルギー効率および安定的な充放電性能と放電容量を維持できるという利点がある。
【0038】
本発明による前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体と臭素系アニオンの吸着エネルギーは、下記式1を満たすことができる。
【0039】
【数1】
(前記式1中、EAd−CNは、ピリジン系窒素でドープされた炭素体と臭素系アニオンの吸着エネルギーを意味し、EAd−Cは、炭素体と臭素系アニオンの吸着エネルギーを意味する。)
【0040】
具体的には、前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体と臭素系アニオンの吸着エネルギー値は、窒素がドープされていない炭素体と臭素系アニオンの吸着エネルギー値の5〜100倍を示すことができる。より具体的には、前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体は、臭素イオン(Br)に対して窒素がドープされていない炭素体に比べ50〜100倍の比で強く吸着することができる。すなわち、高い吸着エネルギー値により、相対的にはるかに強い吸着力で臭素系アニオンをピリジン系窒素でドープされた炭素体に吸着することができ、充電過程中に前記臭素系アニオンが正極から負極へクロスオーバすることを著しく減少させることができるだけでなく、さらには、正極活物質の正極での利用率を高めることができ、長時間の充放電の過程中でも高い電池容量を示すことができる。
【0041】
前記ピリジン系窒素は、窒素ドープされた炭素体の総窒素含量の中に30原子%以上であってもよい。さらに具体的には、前記炭素体にドープされた窒素は、ピリジン系窒素の他に、ニトリル窒素、ピロール系窒素、4価窒素(Quaternary N)および酸化された窒素(Oxidized N)から選択される一つまたは二つ以上の組み合わせをさらに含んでもよいが、総窒素含量の中に30原子%以上、好ましくは40原子%以上のピリジン系窒素を優先して含むことで、上述の臭素系化合物および臭素系アニオンを高い吸着力および効率で吸着することができ、前記臭素系化合物および臭素系アニオンのクロスオーバによる自己放電を効率的に減少させることができる。非限定的に、ピリジン系窒素の含量は80原子%以下であってもよい。
【0042】
具体的には、前記ピリジン系窒素は、正に荷電したピリジン系窒素であってもよい。亜鉛‐臭素電池用電解質は、pHが1.5〜5である酸性を帯びるが、酸性条件で前記ピリジン系窒素は、水素化された形態になり、正に荷電した形態で存在し得る。前記水素化したピリジン系窒素は、ピリジン系窒素よりはるかに高い臭素系アニオンとの吸着エネルギーを示す。具体的には、水素化したピリジン系窒素を含んでいない一般のグラフェンおよび前記水素化したピリジン系窒素がドープされたグラフェンに対して、吸着エネルギーを理論的に計算し、臭素系化合物および臭素系アニオン種類による吸着エネルギー値を図2に図示した。図2に図示されているように、一般のグラフェンよりも水素化したピリジン系窒素がドープされたグラフェンが、臭素系アニオンに対してはるかに高い吸着エネルギー値を示していることが分かる。それだけでなく、長時間の充放電過程中でも前記水素化したピリジン系窒素が安定的に前記炭素体に結合されていることが可能で、長時間の充放電サイクルによる性能安定性を向上させることができる。前記図2の結果は、本発明による水素化したピリジン系窒素がドープされた炭素体が、臭素系アニオンに対して非常に高い吸着特性を有することを意味する。
【0043】
前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体は、微細気孔を含む微多孔性炭素体であり、前記微細気孔の平均気孔径は、0.2〜3nm、好ましくは0.5〜2nmであってもよい。本発明による亜鉛‐臭素電池用正極は、平均気孔径が前記範囲である微細気孔を含むことで、充電過程中に正極から生成される臭素系化合物および臭素系アニオンを前記微細気孔の内部に物理的に吸着させることができ、負極へのクロスオーバを減少させることができる。
【0044】
前記微細気孔を含む微多孔性炭素体は、比表面積が10〜2500m/g、好ましくは15〜2000m/gを有し得るが、これに制限されない。微多孔性炭素体が高い比表面積を有することにより、正極に十分な反応サイトを提供することができ、臭素系化合物および臭素系アニオンの酸化還元反応活性を著しく増加させることができる。
【0045】
また前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体は、多孔性炭素体基材をさらに含み、前記多孔性炭素体基材とピリジン系窒素でドープされた炭素体は、一体化していてもよい。具体的には、前記多孔性炭素体基材は、微多孔性またはマクロ多孔性であってもよい。前記多孔性炭素体基材がマクロ多孔性の場合、カーボンフェルト、カーボンペーパまたはカーボンクロスであってもよいが、これに制限されるものではない。また、前記マクロ多孔性炭素体基材は、比表面積が10m/g〜1000m/gであってもよく、平均電気伝導度が100S/cm〜2000S/cm、好ましくは300S/cm〜2000S/cmであってもよいが、これに制限されるものではない。前記多孔性炭素体基材が微多孔性の場合、平均気孔径50nm以下のマイクロ多孔性またはメソ多孔性炭素体であってもよく、具体的な例として、活性炭、カーボンナノチューブまたはメソ多孔性炭素体であってもよいが、これに制限されるものではない。前記微多孔性炭素体基材は、比表面積が500m/g以上、好ましくは600〜2500m/gであってもよく、平均電気伝導度が100S/cm〜2000S/cm、好ましくは300S/cm〜2000S/cmであってもよい。前記範囲であるときに、正極にさらに十分な反応空間を提供するだけでなく、ピリジン系窒素でドープされた炭素体との抵抗を減少させることができ、前記一体化した構造を形成するときに、低い抵抗を維持することができる。前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体は、前記多孔性炭素体基材の表面にコーティングされた形態、すなわち、コーティング層形態で存在することができ、平均厚さが10nm〜1mm、好ましくは100nm〜0.5mm、さらに好ましくは500nm〜0.1mmであってもよい。前記コーティング層は、多孔性炭素体基材と一体化していてもよく、これは、多孔性炭素体基材とピリジン系窒素でドープされた炭素体が、化学的に一体化しており、物理的に分離または剥離されていない状態を意味し得る。
【0046】
さらに具体的には、前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体は、多面体形状を有することができ、多面体形状をなす単位粒子の平均粒子径が5〜100nm、好ましくは20〜90nmであってもよい。前記範囲であるときに、ピリジン系窒素でドープされた炭素体および多孔性炭素体基材が一体化した状態を安定的に維持することができ、且つ前記ピリジン系窒素でドープされた炭素体による臭素系化合物および臭素系アニオンの高い吸着力を維持することができる。
【0047】
本発明は、また、亜鉛がコーティングされた遷移金属を含む負極、本発明の一実施形態による正極および電解質を含み、前記電解質のpHが1.5〜5である亜鉛‐臭素電池を提供する。
【0048】
本発明による亜鉛‐臭素電池は、開回路電圧(OCV)の降下が40時間以上で発生し、1000サイクル充放電時にエネルギー効率が70%以上であってもよい。
【0049】
具体的には、前記亜鉛‐臭素電池は、正極、負極および電解質から構成され得、隔膜を選択的にさらに含んでもよい。前記負極材料として亜鉛がコーティングされた遷移金属を使用することができ、非限定的な例として、前記遷移金属は、白金(Pt)であってもよく、前記白金に亜鉛を電気化学的に蒸着して使用することができる。また、前記電解質としては、pHが1.5〜5、好ましくは2〜4であるZnBr溶液を使用することができ、具体的には、臭素酸(HBr)を用いてpHを調節することができるが、これに制限されるものではない。前記亜鉛‐臭素電池が隔膜を含む場合、前記隔膜は、ポリオレフィン、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むフィルムやセルロース、ポリエステルまたはポリプロピレンを含む繊維不織布であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0050】
本発明は、また、(S1)多孔性炭素体基材を親水化表面処理するステップと、(S2)金属前駆体および有機リガンド前駆体を含む溶液に前記親水化された多孔性炭素体基材を浸漬するステップと、(S3)前記浸漬された多孔性炭素体基材を乾燥し、多孔性炭素体基材上に金属‐有機骨格体(MOF)を含むナノ結晶性多面体をコーティングするステップと、(S4)前記ナノ結晶性多面体がコーティングされた多孔性炭素体基材を炭化するステップとを含む亜鉛‐臭素電池用正極の製造方法を提供する。前記のように、本発明による製造方法がそれぞれの経時的ステップを含むことで、微細気孔を含み、臭素系アニオンに対して高い吸着特性を示す亜鉛‐臭素電池用正極を得ることができる。
【0051】
前記(S1)ステップは、多孔性炭素体基材の表面を親水化処理するステップであり、400〜800℃、好ましくは400〜700℃の酸化雰囲気で行われ得、5〜15時間、好ましくは8〜12時間酸化雰囲気で熱処理により行われ得るが、これに制限されない。熱処理の際、酸化雰囲気は、酸素またはオゾン雰囲気であってもよいが、炭素体の表面を酸化させることができる気体雰囲気であれば、これに制限されない。
【0052】
前記条件で親水化処理された多孔性炭素体基材の表面にナノ結晶性多面体が容易にコーティングされ得るだけでなく、多孔性炭素体とナノ結晶性多面体が一体化され得る。ナノ結晶性多面体が多孔性炭素体と一体化されることで、多孔性炭素体基材上でナノ結晶性多面体が剥離または分離されず、安定的にコーティング層を形成することができ、機械的強度を維持することができ、高強度の亜鉛‐臭素電池用正極が製造され得る。具体的には、前記多孔性炭素体基材は、カーボンフェルト、カーボンペーパまたはカーボンクロスであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0053】
前記(S2)および(S3)ステップは、前記(S1)ステップで得られた親水化された多孔性炭素体基材上に金属‐有機骨格体を含むナノ結晶性多面体をコーティングするステップであり、前記親水化された多孔性炭素体を金属前駆体および有機リガンド前駆体を含む溶液に浸漬させた後、乾燥する過程からなる。
【0054】
具体的には、前記金属前駆体は、第3族から第16族に属する金属イオンを含む金属塩形態であってもよく、好ましくは、前記金属イオンは、第4族から第12族に属する金属イオンであってもよい。前記金属塩で前記金属イオンと結合するアニオンは、溶媒に溶解され得る形態であれば制限されず、具体的には、水に溶解され得るアニオンであってもよい。非限定的な例として、前記金属前駆体は、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属リン酸塩または金属塩酸塩などの金属無機酸塩が挙げられる。また、前記有機リガンド前駆体は、ピリジン系、イミダゾール系およびニトリル系化合物から選択される一つ以上であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0055】
具体的には、前記(S2)ステップは、上述の金属前駆体、有機リガンド前駆体および溶媒を混合した溶液に、(S1)ステップで製造された親水化された多孔性炭素体を浸漬して行われ得る。前記金属前駆体および有機リガンド前駆体のモル比は、1:1〜1:50、好ましくは1:4〜1:20であってもよく、前記金属前駆体および溶媒の重量比は、1:5〜1:100、好ましくは1:10〜1:80であってもよい。この際、溶媒は、極性溶媒であってもよく、具体的には、アセトン、メタノール、エタノールおよび水からなる群から選択される一つ以上であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0056】
また、前記(S3)ステップでの乾燥過程は、30〜80℃の条件で2〜20時間行われ得、非限定的には、真空状態で行われ得る。前記乾燥過程により高い比表面積を有する金属‐有機骨格体(Metal organic framework、MOF)を含むナノ結晶性多面体が多孔性炭素体基材の表面に均一にコーティングされ得る。前記ナノ結晶性多面体は、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜150nmであってもよい。具体的には、前記金属‐有機骨格体は、ゼオライトイミダゾレート骨格体(Zeolitic‐imidazolate frameworks、ZIF)であってもよく、さらに具体的には、ZIF‐8であってもよい。
【0057】
前記(S4)ステップは、多孔性炭素体基材を炭化するステップであり、前記ナノ結晶性多面体がコーティングされた多孔性炭素体基材を500〜1200℃、好ましくは600〜1000℃で熱処理により行われ得る。最も好ましくは、650〜750℃で熱処理するものであってもよく、前記条件で熱処理することで、炭素体の中でピリジン系窒素の含量を最大化し、グラファイト状窒素の含量を低減できる点で好ましい。
【0058】
具体的には、5℃/minの昇温速度で温度を上昇させながらAr条件で2〜10時間、好ましくは3〜8時間熱処理を行った後、また常温に冷却することができる。前記炭化過程を経た多孔性炭素体基材は、1〜3Mの塩酸溶液で10時間以上攪拌してから、蒸留水、エタノールおよびアセトンでそれぞれ洗浄した後、60〜120℃で乾燥するステップをさらに行うことができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、これらは、本発明をより詳細に説明するためのものであって、本発明の権利範囲は下記の実施例によって限定されない。
【0060】
[実施例1]
ZIF‐8‐GF(Graphite felt、GF)の製造:
a)20×30×4mmの黒鉛フェルト(Graphite felt)(GFD 4.6、SGL Group)を酸素条件の下で、520℃、9時間熱処理を行った後、常温まで冷却させた。
【0061】
b)硝酸亜鉛六水和物(Zinc nitrate hexahydrate)5.95gおよび2‐メチルイミダゾール13.14gをそれぞれメタノール100mlに十分に溶解させた後、各溶液を15mlずつ取り、1分間攪拌して十分に混合した後、前記熱処理されたグラファイトフェルトが入っているビーカに追加し、6時間放置した後、混合溶液内のグラファイトフェルトを取り出し、メタノールで十分に洗浄した。
【0062】
前記b)ステップを3回繰り返してZIF‐8‐GFを取得し、最後に、50℃で十分に乾燥した。
【0063】
NGF(Pyridinic nitrogen‐doped microporous carbon decorated on graphite felt)の製造:
前記得られたZIF‐8‐GFをAr条件および5℃/minの昇温速度で700℃で5時間炭化した後、常温まで冷却した。次に、2Mの塩酸が入っているビーカに入れて60℃で12時間攪拌してNGFを取得し、最後に、蒸留水100mL、エタノール100mLおよびアセトン100mLの順にそれぞれ洗浄した後、100℃で12時間乾燥し、NGF‐700を得た。
【0064】
前記ZIF‐8‐GFおよびNGFの製造過程は、図3に例示的に簡略に図示されている。図3に図示されているように、グラファイトフェルトの表面を酸化するステップと、前記酸化されたグラファイトフェルトの表面にZIF‐8を形成するステップと、前記グラファイトフェルト上に形成されたZIF‐8を炭化するステップとを含み、前記一連の経時的なステップを経て多孔性炭素体基材上に一体化されたピリジン系窒素でドープされた炭素体(NGF)が製造される。
【0065】
前記得られたNGF‐700に対して走査電子顕微鏡画像を分析し、その結果を図4の(a)に図示した。
【0066】
次に、前記NGF‐700をエタノールで10分間超音波処理(Sonication)して炭化されたZIF‐8粒子を分離し、分離した前記粒子を透過電子顕微鏡分析し、その結果を図4の(b)および(c)に図示した。
【0067】
最後に、分離した前記粒子に対して走査電子顕微鏡およびEDS(Energy Dispersive Spectrometry)分析し、その結果を図4の(d)〜(f)に図示した。
【0068】
図4の(a)に示されているように、炭化されたZIF‐8層がGF表面に均一に形成されたことが分かる。
【0069】
図4の(b)に示されているように、ZIF‐8粒子が炭化された後にも多面体形状を示し、平均粒子径は90nm未満であることが分かり、図4の(c)に示されているように、前記炭化されたZIF‐8粒子に平均気孔径2nm以下のマイクロ気孔が形成されたことが分かる。
【0070】
また、図4の(e)および(f)に示されているように、炭素と窒素が前記粒子に均一に分布されたことが分かる。
【0071】
[実施例2]
前記実施例1で炭化温度を700℃の代わりに、600℃にした以外は、同様に実施し、得られたNGFをNGF‐600と名付けた。
【0072】
[実施例3]
前記実施例1で炭化温度を700℃の代わりに、800℃にした以外は、同様に実施し、得られたNGFをNGF‐800と名付けた。
【0073】
[実施例4]
前記実施例1で炭化温度を700℃の代わりに、900℃にした以外は、同様に実施し、得られたNGFをNGF‐900と名付けた。
【0074】
[実施例5]
前記実施例1で炭化温度を700℃の代わりに、1000℃にした以外は、同様に実施し、得られたNGFをNGF‐1000と名付けた。
【0075】
(比較例)
20×30×4mmのPristineグラファイトフェルト(GFD 4.6、SGL Group)を使用し、GFと名付けた。
【0076】
試験例1:走査電子顕微鏡画像分析
前記実施例1〜実施例5で製造されたNGFに対して走査電子顕微鏡画像およびEDSを分析し、その結果を図5に図示した。
【0077】
具体的には、図5の(a)はNGF‐600、(b)はNGF‐700、(c)はNGF‐800、(d)はNGF‐900、および(e)はNGF‐1000に対する走査電子顕微鏡画像およびEDS分析結果を示し、炭化温度が増加するほど、NGFの表面が滑らかであることが分かる。
【0078】
試験例2:XPS分析
前記実施例1〜実施例5で製造されたNGFに対してXPS分析を行い、その結果を図6に図示した。
【0079】
図6に示されているように、炭化温度の増加に伴い、NGFの全窒素含量(原子%)は減少する傾向を示し、具体的には、全窒素含量のNGF‐600〜NGF‐1000の順に、それぞれ16.7%、9.8%、7.1%、3.1%および2.3%を示したが、全窒素含量のうち、ピリジン系窒素(Pyridinic N)の原子%はNGF‐700で50.14%と、最も高く示されたことが分かる。具体的には、炭化温度が600℃から700℃に増加するに伴い、ピロール系窒素(Pyrrolic N)がピリジン系窒素に転換されてピロール系窒素の含量が急激に減少し、ピリジン系窒素の含量が急激に増加した。しかし、炭化温度800℃以上ではピリジン系窒素が4価窒素(Quaternary N)に転換されて、ピリジン系窒素の含量がまた減少し、4価窒素の含量が増加し、酸化された窒素(Oxidized N)およびピロール系窒素の含量も増加したことが分かる。
【0080】
試験例3:BET分析
前記実施例1〜実施例5で製造されたNGFに対してBET比表面積分析を行い、その結果を図7に図示した。
【0081】
図7に示されているように、炭化温度が増加するに伴い、比表面積が増加することが分かる。具体的には、NFG‐600は14.8、NFG‐700は16.1、NFG‐800は17.0、NFG‐900は17.7、NFG‐1000は18.5m/gであり、NFG‐1000が最も高い比表面積を示したことが分かる。
【0082】
また、炭化温度が増加するに伴い、マイクロ気孔の表面積も増加したが、ほとんどの場合、NGF‐1000ではむしろ減少したことが分かる。これは、マイクロ気孔が1000℃以上で分解されたためであると推定される。
【0083】
試験例4:Ar吸着等温線(Ar adsorption isotherm)分析
前記実施例1〜実施例5で製造されたNGFに対してAr吸着等温線分析を行い、その結果を図8に図示した。
【0084】
図8に示されているように、本発明により製造されたNGFに導入されたマイクロ気孔の平均気孔径は0.6〜1.9nmであり、炭化温度が600℃から900℃に増加する時にはマイクロ気孔のサイズが減少し、1000℃ではまた増加する傾向を示した。
【0085】
試験例5:分光(Spectroscopic)分析
前記実施例1〜実施例5のうち、ピリジン系窒素含量(原子%)が最も高いNGF‐700(実施例1);比表面積が最も高いNGF‐1000(実施例5);およびGF(比較例)に対して臭素系イオンおよび臭素化合物の吸着能を評価した。
【0086】
具体的には、図9に図示されているように、前記GF、NGF‐1000およびNGF‐700をそれぞれ正極として使用し、シールされたガラス容器の下側に配置し、上側にはZn電極を配置し、電解液は2.25M ZnBrを使用してMLFL‐ZBBを構成した。次に、5mA/cmの電流密度で1時間充電しながら、充電過程中に10分おきに画像を撮影し、その結果を図10の(a)に図示した。
【0087】
図10の(a)に示されているように、充電過程が進むにつれて、正極側電解質が徐々に黄色を変わることが分かり、これは、正極から臭素系イオンまたは臭素化合物が放出されたことを意味する。特に、GFを正極として使用した場合、充電して10分後に色の変化を示し、60分後には電解質全体の色が変化したことが分かる。逆に、NGF‐1000およびNGF‐700を正極として使用した場合、充電過程中に色の変化がひどくなかったため、臭素系イオンまたは臭素化合物が前記正極に効率的に吸着したことが分かる。特に、NGF‐700の場合、はるかに効率的な吸着効果を示した。
【0088】
また、前記各MLFL‐ZBB充電過程中に、正極近くの電解液を充電時間10分、30分および60分おきにそれぞれサンプリングしてUV分析を行い、その結果を図10の(a)に図示した。
【0089】
図10の(a)に示されているように、Brおよびポリブロミド(Polybromide)イオンの最大の吸光波長である270nmでの吸光度がGF>NGF‐1000>NGF‐700の順に示されたことが分かる。特に、NGF‐700の場合、充電時間60分後にも非常に低い吸光度を示し、これにより、前記Brおよびポリブロミドイオンのクロスオーバを効果的に抑制したことが分かる。
【0090】
すなわち、NGF‐1000の高い比表面積影響よりも、NGF‐700の高いピリジン系窒素含量の影響が、臭素系イオンおよび臭素化合物の吸着効果にさらに大きく作用するということが分かる。
【0091】
また、前記MLFL‐ZBBの充電過程中に、正極でのBr→Br→ポリブロミドアニオン転換効率を確認するために、前記各正極に含まれた電解液を充電時間10分、30分および60分おきにそれぞれサンプリングし、ラマン分析を行い、その結果を図10の(b)に図示した。
【0092】
図10の(b)に示されているように、GFの場合、充電時間30分内には主にBrピークが示され、30分後にはポリブロミドイオンのピークが示されたことが分かる。
【0093】
一方、NGF‐1000およびNGF‐700の場合、充電初期からポリブロミドイオンのピークを示し、BrからBrへの転換およびポリブロミドアニオンの生成がGFに比べ、はるかに迅速に行われることが分かる。
【0094】
試験例6:電気化学的分析
前記実施例1により製造されたNGF‐700;実施例5により製造されたNGF‐1000;および比較例によるGFをそれぞれ1×1cmサイズで切断した後、作業電極として使用し、相対電極を白金電極、基準電極としてAg/AgCl電極、また、電解液として2.25M ZnBrを使用して、周波数範囲1000kHz〜0.01Hzおよび振幅10mVの条件でEIS分析を行い、その結果を図11に図示した。
【0095】
図11に示されているように、NGF‐700およびNGF‐1000のいずれもGFよりはるかに低い抵抗を示したことを確認することができる。具体的には、インピーダンスグラフで、半円の直径が電荷移動抵抗を示すため、直径が小さいほど抵抗が小さく、電気化学特性に優れる。図11に示されているように、NGF‐700およびNGF‐1000の場合、GFよりもはるかに小さい半円直径を示したため、著しく減少した電荷移動抵抗を示したことが分かる。さらに、NGF‐1000の場合、NGF‐700よりも小さい抵抗値を示したことも分かる。
【0096】
試験例7:MLFL‐ZBB充放電テスト
前記実施例1により製造されたNGF‐700;実施例5により製造されたNGF‐1000;および比較例によるGFをそれぞれ正極として使用し、2×2×2cmサイズの長方形石英管(Rectangular quartz tube)に配置し、Znコーティングされた白金電極を負極として使用し、電解液は、pH3.8の2.25M ZnBrを使用して、MLFL‐ZBBセル(Cell)を構成した。
【0097】
次に、20mAの充電電流で20mAhの容量で充電を行った後、放電電流別に放電を行い、その結果を図12の(a)〜(c)に図示した。具体的には、図12の(a)は放電電流による電流効率;(b)は電圧効率;(c)はエネルギー効率を示したものである。
【0098】
図12の(a)に示されているように、低い放電電流では放電時間が増加するに伴い、自己放電がひどくなり低い電流効率を示し、放電電流が高くなるにつれて、電流効率は増加し、55mA以上ではまた減少する傾向を示した。前記GF、NGF‐700およびNGF‐1000はいずれも類似した傾向を示したが、NGF‐700およびNGF‐1000がGFよりも高い電流効率値を示し、NGF‐700がNGF‐1000より若干高い電流効率を示した。
【0099】
また、図12の(b)に示されているように、放電電流が増加するに伴い、電圧効率が減少する傾向を示し、NGF‐700およびNGF‐1000のいずれもGFよりも高い電圧効率を示したが、NGF‐1000がNGF‐700より若干高い電圧効率を示した。
【0100】
したがって、図12の(c)に示されているように、GFの場合、7〜15mAの放電電流で60%以下のエネルギー効率を示した一方、NGF‐700およびNGF‐1000は、80%程度の高いエネルギー効率を示した。
【0101】
次に、各MLFL‐ZBBの自己放電位を判断するために、OCV(Open circuit voltage、開回路電圧)維持試験(Retention Test)を行った。具体的には、充電された状態のMLFL‐ZBBセルの時間経過によるOCV減少速度を測定することで、自己放電程度を評価し、その結果を図12の(d)に図示した。
【0102】
図12の(d)に示されているように、GFの場合、OCVが0Vまで落ちるのにかかる時間が16.4時間である一方、NGF‐1000は21.3時間であり、NGF‐700は53.2時間を示すことから、NGF‐700が自己放電を著しく減少させたことが分かる。この結果は、上述の図10の(a)に対する結果と一致し、さらに、NGF‐1000の高い比表面積およびマイクロ気孔構造の影響よりも、NGF‐700の高いピリジン型窒素の含量の影響が臭素系イオンおよび臭素化合物の吸着効果にさらに大きく作用し、クロスオーバによる自己放電の影響を著しく低減できることが分かる。
【0103】
次に、各MLFL‐ZBBの長時間の充放電実験を行い、その結果を図12の(e)および(f)に図示した。
【0104】
図12の(e)に示されているように、充放電サイクルが増加するに伴い、GFの場合、エネルギー効率が速い速度で減少し、414サイクル後にはエネルギー効率が30%以下に落ちたことを確認することができ、NGF‐1000の場合、GFよりは減少速度が遅かったが、587サイクルでエネルギー効率が30%以下に落ちたことを確認することができる。一方、NGF‐700の場合、1000サイクル後にも80%程度のエネルギー効率を維持したことを確認することができる。
【0105】
図12の(f)から確認することができるように、充放電サイクルによる電流効率も前記エネルギー効率変化に類似した傾向を示し、NGF‐700の場合、1000サイクル後にも90%程度の電流効率を示したことを確認することができる。
【0106】
試験例8:MLFL‐ZBB長時間充放電テスト後の電極および電解液の劣化(Degradation)分析
前記1000サイクル充放電を行った後、正極および負極の劣化程度を分析するために、正極、負極および電解液をそれぞれ観察し、その画像を図13に図示した。
【0107】
図13の(a)はGF、(b)はNGF‐1000、(c)はNGF‐700を含むMLFL‐ZBBの1000サイクル充放電後の電極および電解液に対する画像を示した図である。
【0108】
図13に示されているように、GFを含むMLFL‐ZBBの場合、長時間の充放電過程の後、電解液および電極に深刻な変化が生じたことを確認することができる。具体的には、電解液は、放電が終了した状態であるにもかかわらず、濃い褐色を示し、これは、Brおよびポリブロミドイオンが電解液に大量含まれていることを意味する。また、負極は、大量のZn残渣が生成されたことを確認することができ、正極の場合、負極から脱離されたZn層が正極の表面に形成されたことを確認することができる。NGF‐1000を含むMLFL‐ZBBの場合、電極および電解液の変化がGFほどに深刻ではなかったが、劣化したことを確認することができる。
【0109】
一方、NGF‐700を含むMLFL‐ZBBの場合、1000サイクルの充放電過程の後にも電解液の色の変化が非常に小さく、負極にZn残渣が生成されず、正極の場合にも、Zn層が形成される現象なしに非常にきれいな状態を維持したことを確認することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13