(54)【発明の名称】天然の構造のバイオモルフィック変換によって得られる活性ハイドロキシアパタイトから作られる大きな三次元多孔性足場材料、およびこれを得るためのプロセス
【文献】
Journal of Materials Chemistry,2009年,Vol. 19,pp. 4973-4980
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
階層的に組織化された孔構造が、全孔隙率の30〜80%含まれ、孔は直径が150μm未満であり、全孔隙率の100%に対する残りが、直径が150μmより大きな孔である、
請求項1〜5のいずれかに記載のバイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料。
前記ハイドロキシアパタイトが、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、ケイ素イオン、チタンイオン、炭酸イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオン、ガリウムイオン、銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、ユーロピウムイオンおよびガドリニウムイオンを含む群から選択される1つ以上のイオンで部分的に置換されている、
請求項1〜10のいずれか一項に記載のバイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料。
熱分解工程(1)の前に、このプロセスは、天然木材の選択および調製の工程(i)を含み、前記天然木材は、木材の寸法が最大である方向に沿って測定すると、2cm以上の長さを有する木片に切断される、
請求項20〜22のいずれかに記載のプロセス。
天然木材の選択および調製の工程(i)は、骨欠損の三次元モデルを提供する工程と、得られた三次元モデルに基づき、天然木材を骨欠損の形状に対応する形状に分ける工程とを含む、
請求項23に記載のプロセス。
リン酸化工程(6)において、炭酸カルシウムテンプレートを、少なくとも1つのリン酸塩を含む水系溶液に浸し、前記溶液は、リン酸塩濃度が0.1〜5Mの濃度である、
請求項20〜29のいずれかに記載のプロセス。
リン酸化工程(6)が、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、ケイ素イオン、チタンイオン、炭酸イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオン、ガリウムイオン、銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、ユーロピウムイオンまたはガドリニウムイオンの存在下で行われる、
請求項20〜31のいずれかに記載のプロセス。
【背景技術】
【0002】
現行のセラミックの処理および工学技術は、大きな三次元物体を製造することができる十分に確立された一連のプロセスに基づいている。さらに特定的には、革新的なセラミック相は、粉末として合成することができ、化学量論量/イオン置換、ナノサイズおよび表面活性のような具体的な特徴が、具体的な機能の一因となる。十分な形状および孔隙率を有する巨視的な三次元セラミック物体を得るために現在使用されているセラミック処理は、合成されたセラミック粉末を熱処理(焼結)し、三次元物体を適切に作成する(固めて三次元物体にする)ことを伴う。これらの工程は全て、十分な物理化学特性および機械特性を有する三次元セラミックを得ることを必要とするが、上述のセラミックプロセス(特に焼結処理)の間に、そのほとんどが分解してしまう。機能性セラミック材料の開発におけるこの重大な制限は、現行のセラミックプロセスと関連して、この分野でのさらなる進化を妨害する。近年、現代科学の発展に伴い、工業製品は、人々の生命および生産性における役割がどんどん増してきているのは当然であり、その結果、様々な技術分野(例えば、健康、環境、エネルギー)の用途において、複雑で個別化された要求に対する解決策を与えることができる高性能なツールが強く必要とされている。したがって、マクロスケールで複雑な構造的な組織化がなされているが、同時に、ナノスケールで、さらには結晶スケールで、規定される複雑な構造を有する、巨視的なデバイスを繰り返し大量生産するための新しい手法が必要であるという共通認識が広がっている。このような巨視的な構造およびナノ構造は、重要で優れた機能効果を誘発するのに関係がある。
【0003】
セラミック材料に関連する上述の課題の観点で、複雑な微細構造および巨視的な構造を有する大きな非常に活性の高いセラミックを開発するために、系統的な変化が必要である。
【0004】
特に、負荷がかかる大きな骨の欠損の再生に注目した骨足場材料は、細胞によってコロニー形成し、最終的には、大きな骨欠損として再生させることができるように、高い生体活性を有する多孔性三次元セラミックでなければならないため、代表的な例であると考えることができる。実際に、今日まで、この臨床需要を解決する十分な解決策はない。
【0005】
数十年にわたって、ハイドロキシアパタイト(Ca
10(PO
4)
6(OH)
2)は、骨の鉱物組成と非常によく似ており、優れた生体適合性および骨伝導性を示すため、骨の足場材料のための主要な材料であると認識されてきた。しかし、ハイドロキシアパタイトの生体模倣性は、そのナノサイズと、アパタイト格子中のカルシウムおよびリンと部分的に置き換わった複数のイオンの存在と関係があり、これらは新しい組織の生成、リモデリングおよび吸収の間の骨の生体活性源である。
【0006】
ハイドロキシアパタイト足場材料に焼結処理を適用すると、隣接するハイドロキシアパタイト粒子との界面で表面反応およびバルク反応が活性化し、結晶が規則的に並び、アパタイト格子から外来イオンが除外され、数μmまで粒子の凝集が起こり、特定の表面の親水性と、タンパク質および細胞との親和性が低下する。
【0007】
焼結プロセスによって活性化される広範囲にわたる粒子の凝集によって、粒間の孔隙率が小さくなり、ひいては全体積が小さくなることによって、ハイドロキシアパタイト全体が強化される。これにより残存応力も発生し、この応力は、セラミック材料の構造的な欠陥の主な原因である。実際に、セラミック材料中の残存応力の調節は、その高い剛性(金属およびポリマーと比較して)に起因して困難であり、特に、複雑な形状と多孔性構造を特徴とする大きなセラミック片の場合には、セラミック材料の機械性能を悪化させる最も顕著な因子であり、加熱/冷却サイクルの後の体積の変動は、重大な構造的損傷を容易に引き起こす。
【0008】
上の理由から、伝統的なセラミック合成プロセスは、生体を模倣する組成および構造、高い生体活性および吸収性を有する特定のハイドロキシアパタイトにおいて、セラミックを製造することができない。これは、重大な大きさの骨欠損(すなわち2cm以上)の再生のための大きな多孔性三次元セラミックが合成される場合に特にあてはまる。
【0009】
生体を模倣する組成および構造は、in vivoで再生カスケードを誘発するのに重要な関係があり、四肢の長骨のような負荷がかかる大きな骨の要素の再生を比類なく決定し、促進することができる。これらの現象は、その機能を全て有する骨の再生を活性化し、維持するための相乗効果に密接に相互に関係があり、起こらなければならないものであるが、(i)迅速な骨形成、骨伝導および骨一体化、(ii)広範囲にわたる血管生成、(iii)徐々に生体吸収を進ませる能力である。
【0010】
迅速な骨形成および骨伝導は、広範囲にわたる骨の生成および足場材料への侵入を可能にし、そのため、密な骨/足場材料界面および最適な骨一体化が生じる。これらの効果を達成するために、骨に似た化学組成および開口部が広く、相互に接続した多孔性が必要であり、その結果、新しい骨組織の広範囲にわたる侵入、同時にこの生成を助ける血管網の生成、新しい骨の成熟を達成することができる。足場材料のコロニー形成が不十分だと、空隙、繊維組織または壊死領域が生成する場合があり、骨/足場材料構築物の全体的な強度および生物機械的性能が低下するだろう。
【0011】
新しい骨生成に対応する時間内に、足場材料は、損傷または疾患の後の骨の最適な再生を達成するために、徐々に吸収されなければならない。今までに開発された三次元骨足場材料は全て、焼結したリン酸カルシウムに由来しており、この材料は、ナノ結晶、ナノサイズのイオンが置換されたアパタイトと比較して、破骨細胞の活性を妨げる結晶性材料である。したがって、多孔性骨ハイドロキシアパタイト足場材料は、表面接着によって周囲の骨と十分に一体化させることができるが、生体吸収がないため、完全なリモデリングプロセス、すなわち、足場材料と新しい骨との置き換わりが不可能である。これにより、患部の骨は、特に、非常に長く、負荷がかかる骨部分の場合には、機能的な能力の回復が不完全になる。
【0012】
特に、長く、負荷がかかる骨の場合には、足場材料は、開口部が広い大きな孔隙を維持しつつ、十分な機械性能も示さなければならず、これらの特徴は、通常は逆比例すると考えられ、問題であり(すなわち、孔隙率が大きいほど、機械的な耐性が低くなり)、十分な足場材料のコロニー形成および骨一体化を与えるために高い孔隙度が必要である。このことは、長く、負荷がかかる骨の広範囲にわたる部分の再生において、現行の足場材料の適用を制限してしまう、最も関係がある因子の1つである。この観点で、階層的に組織化された多孔性構造を有する足場材料は、類似材料であるが、不規則に組織化された孔隙を有する材料と比較して、優れた機械性能を示すことができる。この観点で、このような組織化された構造を有する足場材料のみが、細胞レベルでの機械的変換プロセスを効果的に活性化することができ、そのため、成熟し、組織化され、機械的な要望にかなう骨の再生のきっかけとなる。
【0013】
提案されている革新技術は、伝統的なセラミック合成プロセスから、階層的に組織化された天然構造から出発し、所定の科学組成を有し、複雑な形状、階層構造を有し、同時に、最適化された機械性能を有する大きな三次元体へと組織化されるセラミック相を作成することが可能な新しい態様の反応性焼結への系統的な変化に基づく。この観点で、
バイオモルフィック変換は、この革新的な手法の中心となるものであり、階層的に組織化された天然構造(例えば、木材、植物、外骨格)に適用することができる。
【0014】
木質構造から、骨を模倣するセラミックへの
バイオモルフィック変換は、マツおよびトウのような多孔性構造を有する木材と、アカカシおよびシポのようなもっと密度の高い木材を、それぞれ海綿質骨と皮質骨の構造および機械性能を再現するために用い、首尾よく試みられる。生体模倣性のハイドロキシアパタイト足場材料の生成への木材の使用は、Anna Tampieriら、Journal of Material Chemistry、2009、19、4973−4980に報告されている。この刊行物において、Tampieriらは、トウ木材およびマツ木材の長さ1cmの木片(したがって、小さな木片であり、重要な大きさの欠陥の再生には十分ではない)からハイドロキシアパタイトに変換するプロセスを記載している。このプロセスは、ゆっくりとした加熱速度を用い、温度1000℃での木材標本の熱分解、次いで、炭素テンプレートを炭化カルシウムに変換する炭化を伴っていた。炭化は、液体相の浸入または蒸気相の浸入のいずれかによって達成された。蒸気の浸入は、カルシウムの沸点(1484℃)より高い温度で行われた。炭化プロセスは、まず、熱分解された木材を800℃まで加熱し、その後、1100℃まで加熱し、最後に1650℃で3時間加熱することを伴っていた。反応を確実に終了させるために、熱分解された木材を3時間かけてこの温度まで加熱することが必要であった。炭化の後、三次元炭化カルシウム足場材料を酸化し、天然木材の形態を保存しつつ、炭化カルシウムを酸化カルシウムに変換した。酸化の後、三次元酸化カルシウム足場材料を炭酸化し、酸化カルシウム足場材料を炭酸カルシウム足場材料に変換した。高い圧力値(2.2MPa)を使用し、生成するCaCO
3スケールの中に、CaO構造のコアまでCO
2を浸透させた。最後に、リン酸化工程を行い、炭酸カルシウム足場材料を、天然木材の
バイオモルフィックな階層的に組織化された異方性形態を有するハイドロキシアパタイト足場材料に変換した。この工程の間、木材から誘導されるCaCO
3テンプレートは、温度200℃、圧力1.2MPaでKH
2PO
4水溶液に24時間浸漬された。
【0015】
上述のプロセスによって、天然木材の階層的に組織化された異方性形態を有するハイドロキシアパタイトセラミック足場材料が得られた。マツ材料から誘導される足場材料の圧縮強度は、長手方向に測定されると、2.5〜4MPaであり、横断方向に測定されると、0.5〜1MPaの範囲であった。したがって、制限された寸法(典型的には1cm未満)の足場材料しか、上述のプロセスによって得ることができない。この低い圧縮強度値も、大きさが1cm以下であることと関係があり、これらの足場材料は、特に、負荷がかかる骨の場合には、骨の再生に関連しない。実際に、骨欠損が、罹患した骨の直径の2〜3倍の長さを有することが重要であることを認めている。したがって、大きさが1cmの足場材料は、この観点で有用であると考えることはできない。
【0016】
木材からハイドロキシアパタイトへの変換において上に述べたリン酸化工程は、Ruffiniら、Chemical Engineering Journal 217(2013)150−158にさらに詳細に報告されている。この刊行物において、直径が8mm、長さが10mmのトウから誘導される炭酸カルシウムの円柱形テンプレートを開始物質として使用した。リン酸化プロセスは、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムおよびアンモニアの水溶液を用いて行われた。
【0017】
2012年5月18日に公開された国際公開第2012/063201号は、少なくとも1つの多孔性木材から得られたハイドロキシアパタイトに由来するコアと、コアの少なくとも1つの木材よりも孔隙率が小さい少なくとも1つの木材から得られるハイドロキシアパタイトまたは炭化ケイ素に由来するシェルとを含む代替骨を記載している。シェルは、コアを収容するのに適した中空の円筒形状に調製され、コアは、シェルの空洞に挿入される中実の円柱として調製することができる。木材から代替骨を得るためのプロセスも、この出願に記載されている。第1の工程は、800〜2000℃の温度まで加熱することによる、トウまたはマツのような天然木材の熱分解である。このプロセスから、炭素材料が得られる。第2の工程において、1500〜1700℃の温度で、炭素材料が炭化カルシウムに変換される。次に、900〜1000℃の温度で炭化カルシウムが酸化される。酸化カルシウム材料を炭酸カルシウムに変換するために、オートクレーブ中、温度400℃、CO
2圧2.2MPaで24時間、炭酸化が行われる。次いで、炭酸カルシウム材料が、リン酸化によって炭酸イオンで部分的に置換されたハイドロキシアパタイトに変換される。トウから誘導され、得られたハイドロキシアパタイト足場材料は、長手方向での圧縮強度が4〜5MPaであり、横断方向での圧縮強度が1MPaである。
【0018】
上述の刊行物は、木材の三次元形態をある程度再現しつつ、トウおよびマツのような木材からハイドロキシアパタイトへの首尾よい変換を記載しているが、負荷がかかる骨の長い部分の再生に十分な特徴を示す足場材料は得ることができなかった。
【0019】
実際に、上述の刊行物は全て、木材から得られ、実際の臨床用途、特に、負荷がかかる大きな骨要素の再生のための用途をもつことができない小さな寸法(すなわち、1cm
3未満の体積)のハイドロキシアパタイト足場材料に言及している。従来技術に記載されるプロセスは、臨床用途にとって、例えば、大きな(すなわち、少なくとも2cmに等しい大きさの)足場材料が必要な、負荷がかかる重要な大きさの骨欠損の再生にとって便利な寸法を有するハイドロキシアパタイト足場材料を製造するのに適していない。
【0020】
したがって、
バイオモルフィック足場材料のための分野において、特定の多孔性三次元足場材料において、細胞のコロニー形成および血管の成長に望ましい十分な機械性能、形態を示し、同時に、臨床用途に適した寸法を有する、生体を模倣する化学組成を有する必要性が依然として存在する。このような
バイオモルフィック足場材料は、骨の再生、特に、負荷のかかる骨欠損、例えば、四肢の長骨(例えば、大腿骨、脛骨、上腕骨、腓骨、橈骨)の移植だけではなく、脊椎骨(例えば、椎体、椎間板)、頭蓋骨の骨要素または顎顔面骨の要素の代替および再生に特に適しているだろう。
【0021】
本開示は、
バイオモルフィック足場材料、好ましくは、特に骨の代替および再生、特に負荷がかかる長い骨の代替および再生に適したハイドロキシアパタイト足場材料を提供するという上述の必要性を満たす。
【0022】
本開示は、
バイオモルフィック足場材料、好ましくは、三次元の
バイオモルフィック足場材料を製造するためのプロセスを提供することによっても、上述の必要性を満たす。特に、
バイオモルフィック足場材料は、ハイドロキシアパタイト足場材料である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本記載および添付の特許請求の範囲で使用される場合、「階層的な孔構造」または「階層的に組織化された孔構造」は、導路状の孔が、横断方向の導路によって相互に接続しており、マイクロサイズおよびナノサイズの孔が、導路状の孔の周囲の領域に存在する、異方性の三次元孔構造を有する材料を示す。
【0040】
本記載および添付の特許請求の範囲で使用される場合、「圧縮強度」の値は、導路状の孔に対して長手方向および横断方向に沿った機械的な力を働かせることによって、以下の記載に示される方法を用いて得られる。
【0041】
本記載および添付の特許請求の範囲で使用される場合、「骨欠損」は、骨の欠けた要素、または本開示の足場材料によって全体的に置き換えることが必要な欠けた骨の一部または骨全体を指す。
【0042】
本記載で使用される場合、「
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト」は、(1)ハイドロキシアパタイトからなるか、または(2)ハイドロキシアパタイトを含むか、または(3)ハイドロキシアパタイトおよびリン酸三カルシウムを含むか、またはこれらからなる材料である材料を指す。材料が、ハイドロキシアパタイトおよびリン酸三カルシウムからなる場合には、この材料は、二相材料である。本発明の実施形態において、「
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト」が、ハイドロキシアパタイトおよびリン酸三カルシウムを含むか、またはこれらからなる場合には、ハイドロキシアパタイトは、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、ケイ素イオン、チタンイオン、炭酸イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、銀イオン、ガリウムイオン、銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、ユーロピウムイオン、ガドリニウムイオンおよびこれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のイオンがドープされている。
【0043】
本特許出願の発明者らは、驚くべきことに、木材から、細胞のコロニー形成および血管の成長に望ましい生体模倣性の化学組成、十分な機械性能、形態を示し、同時に、臨床用途に適した、
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料を得ることができることがわかった。
【0044】
第1の態様において、本開示は、
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料であって、全孔隙率が少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは60%〜95%の木材から得られ、前記孔隙率が、木材に対して熱分解工程を行った後に測定され、前記足場材料が、足場材料の寸法が最大の方向に沿って測定すると、2cm以上の長さを有する、
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料を記載する。
【0045】
本開示のプロセスの後に得られた
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料の全孔隙率は、木材に対して熱分解工程を行った後に測定されると、出発物質の木材の全孔隙率と同じである。特に、本開示のプロセスの後に得られた
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料の全孔隙率は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは60%〜95%である。
【0046】
好ましくは、足場材料は、足場材料の寸法が最大の方向に沿って測定すると、2cm以上であり、臨床用途に従って決定される最終的な値に達する長さを有する。例えば、脛骨、大腿骨、腓骨、上腕骨、橈骨のような長骨の骨代替の場合には、足場材料の長さは、足場材料の寸法が最大の方向に沿って測定すると、2〜20cmであってもよい。
【0047】
好ましくは、本開示の足場材料は、長手方向で測定すると、圧縮強度が、5MPaより大きく、好ましくは10MPa〜20MPaである。
【0048】
好ましくは、本開示の足場材料は、10MPaまでの横断方向に沿った圧縮強度を示す。
【0049】
好ましくは、
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料は、階層的に組織化された孔構造を特徴とする。
【0050】
本開示のハイドロキシアパタイト足場材料の「階層的な孔構造」または「階層的に組織化された孔構造」は、足場材料が得られる出発物質の木材の複雑な三次元階層構造から誘導され、したがって、異なる範囲の大きさの孔を有する。階層構造において孔の大きさが異なることで、代替骨として使用するのに望ましいものとなる。
【0051】
例えば、直径が200μm以上、好ましくは150〜300μm、さらに好ましくは200〜300μmの孔は、細胞のコロニー形成および増殖、木の形状の適切な血管新生を可能にするだろう。導路状の孔と部分的に相互に接続する、直径が10μm以下、好ましくは1μm未満、さらに好ましくは0.01〜0.1μmの孔(マイクロサイズおよびナノサイズの孔)は、栄養液の交換、細胞代謝の廃棄産物の放出を可能にする。
【0052】
ハイドロキシアパタイトにおいて、木材の階層的な孔構造を保護すると、最適な機械特徴を有する足場材料を提供し、機械的な負荷を効果的に放出することができる。
【0053】
木材から得られるハイドロキシアパタイトは、天然材料の構造を詳細に再現し、そのため、
バイオモルフィックと呼ばれる。
【0054】
特に、本開示の足場材料の階層的に組織化された孔構造は、直径が150μm未満の(全孔隙率の)30%〜80%の孔を含み、全孔隙率の100%に対する残りは、直径が150μmより大きい孔を含む。
【0055】
一実施形態において、好ましくは、出発物質の木材がトウである場合、足場材料の全孔隙率の30%〜60%は、直径が10μm以下の孔に起因するものである。
【0056】
一実施形態において、好ましくは、出発物質の木材がトウである場合、ハイドロキシアパタイト足場材料の全孔隙率の少なくとも25%、好ましくは全孔隙率の25%〜50%は、直径が1μm以下、好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.01〜0.1μmの孔に起因するものである。
【0057】
一実施形態において、好ましくは、出発物質の木材がトウである場合、ハイドロキシアパタイト足場材料の全孔隙率の少なくとも20%は、直径が150μm以上の孔に起因するものである。
【0058】
好ましくは、ハイドロキシアパタイト足場材料は、比表面積(SSA)が9m
2/gより大きく、好ましくは9〜20m
2/gである。
【0059】
ハイドロキシアパタイト足場材料を得るために使用される木材は、全孔隙率が少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは60%〜95%、さらになお好ましくは、孔隙率が65%〜85%である木材であってもよい(前記孔隙率が、木材に対して熱分解工程を行った後に測定される)。
【0060】
ハイドロキシアパタイトを得るために使用される適切な木材の例としては、トウ、マツ、アバチ、バルサ、シポ、オーク、ローズウッド、ケンパスおよびクルミ木材が挙げられ、好ましくは、使用される木材は、トウ木材である。
【0061】
木材から得られるハイドロキシアパタイト足場材料は、1つ以上のイオンで部分的に置換されたハイドロキシアパタイトを含んでいてもよい。このようなイオンの例は、炭酸イオン、マグネシウム、ストロンチウム、ケイ素、チタン、ナトリウム、カリウム、銀、ガリウム、銅、鉄、亜鉛、マンガン、ユーロピウムおよびガドリニウムのイオンである。リン酸部位に炭酸イオンを導入すると、生体可溶性が上がり、骨芽細胞に対する表面親和性が向上する。
【0062】
マグネシウムを導入すると、新しい骨の石灰化および生成の能力が上がる。ストロンチウムを導入すると、骨粗鬆症のような代謝疾患によって影響を受けた骨の再生を再び確立するのに役立ち、その結果、その存在によって、骨の再生が向上するだろう。
【0063】
銀、ガリウム、銅および亜鉛を導入すると、抗菌特性を与える。
【0064】
木材から得られるハイドロキシアパタイト足場材料が、1つ以上のイオンで部分的に置換されたハイドロキシアパタイトを含む場合、足場材料は、ドープされたハイドロキシアパタイトおよびリン酸三カルシウムを含むか、またはこれらからなる。さらなる実施形態によれば、本開示の
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料は、以下のものを含んでいてもよい。
【0065】
0〜15重量%のマグネシウム、好ましくは1〜10重量%;および/または
0〜15重量%の炭酸イオン、好ましくは1〜10重量%;および/または
0〜15重量%のストロンチウム、好ましくは1〜10重量%;および/または
0〜20重量%のチタン、好ましくは1〜10重量%;および/または
0〜15重量%のカリウム、好ましくは1〜10重量%;および/または
0〜15重量%のナトリウム、好ましくは1〜10重量%;および/または
0〜15重量%のケイ素、好ましくは1〜10重量%、および/または;
0〜15重量%の銀、好ましくは1〜10重量%、および/または;
0〜15重量%のガリウム、好ましくは1〜10重量%、および/または;
0〜15重量%の銅、好ましくは1〜10重量%、および/または;
0〜30重量%の鉄、好ましくは1〜10重量%;および/または
0〜15重量%の亜鉛、好ましくは1〜10重量%、および/または;
0〜15重量%のマンガン、好ましくは1〜10重量%、および/または;
0〜15重量%のユーロピウム、好ましくは1〜10重量%、および/または;
0〜15重量%のガドリニウム、好ましくは1〜10重量%。
【0066】
本開示の木材から得られる
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料は、特に、ヒトおよび動物の骨において、代替骨としての臨床的な使用に適した機械強度特徴および寸法と合わせ、生体活性および生体吸収特徴を有する。このような代替骨を使用し、骨、骨の一部または骨欠損を置換し、および/または再構築し、および/または再生することができた。例えば、代替骨を使用し、機械的な負荷を受ける骨または骨の一部を置換または再生することができた。例えば、代替骨を使用し、腕および脚の長骨を置換または再生することができた。このような長骨には、脛骨、大腿骨、腓骨、上腕骨、橈骨などが含まれるだろう。
【0067】
代替骨を、頭蓋骨の骨要素、顎顔面骨の要素および脊椎骨(例えば、椎体、椎間板)代替および/または再構築、および脊椎固定手技に使用してもよい。
【0068】
代替骨として使用される場合、
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料は、骨のギャップを実質的に満たすような様式で再構築する必要がある骨欠損の形状に合わせた形状を有していてもよい。したがって、本開示の足場材料および代替骨は、骨欠損の再構築および再生の目的または骨の欠けた要素を置換する目的に適した任意の形状を有していてもよい。
【0069】
例えば、本開示の足場材料または代替骨は、円柱形、直角柱または立方形、またはくさび形の形態をしていてもよい。一実施形態において、足場材料または代替骨は、直径が足場材料または大腿骨の直径の約20%〜約60%の中央の導路を含む。特に、足場材料または代替骨は、管状の形状を有する。
【0070】
一実施形態において、本開示は、さらに、円柱形、直角柱または立方形、またはくさび形の形状を有し、高さが2cm以上の足場材料または代替骨に言及する。
【0071】
本開示の実施形態において、足場材料または代替骨は、細胞接着および増殖を高め、そのため、周囲の骨組織における骨一体化を高めるために、ハイドロキシアパタイトおよび/またはコラーゲンに由来する薄層でコーティングされていてもよい。この層は、さらに、骨再生の刺激に関連する1つ以上のイオン、例えば、炭酸イオン、マグネシウムイオン、ケイ素イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオンおよびストロンチウムイオン、または抗菌効果を有する1つ以上のイオン、例えば、ガリウムイオン、銀イオン、銅イオンまたは亜鉛イオンで置換されたハイドロキシアパタイトを含んでいてもよい。
【0072】
本開示のさらなる実施形態において、足場材料または代替骨は、機械特性をさらに高め、細胞接着をさらに促進するために、(ゼラチン、コラーゲン、アルギネート、キトサン、ゲラン、セルロースを含む群から選択される)天然ポリマーに浸漬されてもよい。
【0073】
足場材料または代替骨の細胞に、細胞接着を助けるために、血小板を豊富に含む血漿、抗体、成長因子、タンパク質、DNAフラグメント、miRNA、siRNaを加えてもよい。
【0074】
抗生物質または抗癌薬のような薬物も、足場材料または代替骨に添加されてもよい。
【0075】
本開示は、骨欠損を有するヒトまたは動物の骨の再構築および/または再生の方法であって、この方法が、
−骨欠損の形状に対応する形状を有する本開示の
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料を含むか、またはこれからなる代替骨を提供する工程と、
−患者の骨欠損に代替骨を移植する工程とを含む、方法も言及する。
【0076】
好ましくは、再構築および/または再生の方法は、骨欠損の三次元モデルを提供する工程と、得られた三次元モデルに基づき、骨欠損の形状に対応する形状を有する足場材料に移植する工程とを含む。足場材料に対して形状に分ける工程は、開始時の木材片、または本開示の変換プロセス終了時に得られるハイドロキシアパタイト足場材料、またはこのプロセスのそれぞれの工程の後(例えば、炭酸化工程の後)に得られる足場材料に適用される。好ましくは、形状に分ける工程は、開始時の木材片に適用される。
【0077】
本開示の
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料と、1つ以上のイオンで部分的に置換された
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料は、
(1)熱分解工程:不活性雰囲気下、天然木材を600℃〜1000℃の範囲の温度で加熱し、炭素テンプレートを得て;
(2)炭化工程:900〜1200℃の範囲の温度、1000mbar未満、好ましくは600mbar未満、さらに好ましくは0.05〜100mbarの範囲の圧力で、炭素テンプレートに蒸気状態でカルシウムを侵入させ、炭化カルシウムテンプレートを得て;
(3)酸化工程:炭化カルシウムテンプレートを空気中、750〜1300℃、好ましくは1000〜1200℃の温度で加熱し、炭化カルシウムを酸化カルシウム(CaO)に変換し;
(4)水和工程:酸化カルシウムテンプレートを水にさらすことによって、1〜25モル%、好ましくは5〜15モル%の量の水の取り込みを可能にし;
(5)炭酸化工程:4〜20MPaの範囲のCO
2の、又はCO
2と不活性ガス(例えば、アルゴン、窒素)の混合物の圧力下、500〜900℃の範囲の温度、好ましくは750〜850℃の範囲の温度で加熱することによって、酸化カルシウムテンプレートを炭酸カルシウムに変換し;
(6)リン酸化工程:炭酸カルシウムテンプレートを少なくとも1つのリン酸塩で処理する。
【0078】
複数工程プロセスの熱分解工程(1)において、天然木材は、好ましくは、トウ、マツ、アバチ、バルサ、シポ、オーク、ローズウッド、ケンパスおよびクルミ木材の中から選択される。さらに好ましくは、天然木材は、トウ木材である。
【0079】
天然木材は、全孔隙率が少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは60%〜95%であり、前記孔隙率が、木材に対して熱分解工程を行った後に測定される。
【0080】
熱分解工程(1)の前に、開始原料の天然木材を、場合により、50℃〜90℃の温度、好ましくは60℃〜80℃の温度、さらに好ましくは65℃〜75℃の温度で乾燥させてもよい。天然木材を、6時間より長い時間、好ましくは12時間より長い時間、好ましくは18時間より長い時間、好ましくは20〜30時間加熱させてもよい。
【0081】
複数工程プロセスの熱分解工程において、不活性雰囲気は、窒素およびアルゴンを含む群から選択される気体の雰囲気であってもよい。
【0082】
複数工程プロセスの熱分解工程において、天然木材を、600℃〜1000℃の温度、好ましくは800℃〜1000℃の温度で加熱してもよい。熱分解工程は、6時間より長い時間、好ましくは12時間より長い時間、さらに好ましくは18時間より長い時間続いてもよく、好ましくは、前記工程は、20〜30時間続いてもよい。
【0083】
熱分解工程(1)の熱サイクルは、材料のクラック生成および内部破壊を防ぐために、5℃/分を超えない速度、好ましくは3℃/分を超えない速度で天然木材を加熱し、3℃/分を超えない速度、好ましくは2℃/分を超えない速度で冷却することによって行われてもよい。
【0084】
熱分解工程(1)の前に、複数工程方法は、さらに、天然木材の選択および調製の工程(i)を含んでいてもよく、前記天然木材は、再構築されるべき骨欠陥の形状に対応する形状を有する木材片に切断することができる。特に、天然木材は、木材の寸法が最大である方向に沿って測定すると、2cm以上の長さを有する木片に切断される。好ましくは、木材の寸法は、臨床用途に従って決定される最終的な値に達する。
【0085】
例えば、天然木材は、円柱形、直角柱または立方形の形状であってもよい。天然木材は、直径が足場材料または大腿骨の直径の約20%〜約60%の中央の導路を含むような様式の形状であってもよい。特に、天然木材は、管状の形状に切断することができる。
【0086】
好ましくは、天然木材の選択および調製の工程(i)は、骨欠損の三次元モデルを提供する工程と、得られた三次元モデルに基づき、天然木材を骨欠損の形状に対応する形状に分ける工程とを含む。足場材料に対して形状に分ける工程は、開始時の天然木材、または複数工程変更プロセス終了時に得られるハイドロキシアパタイト足場材料に適用されてもよい。好ましくは、形状に分ける工程は、足場材料の内部および外部の損傷(破壊)を避けるために適用される。
【0087】
複数工程プロセスの炭化工程(2)において、反応は、好ましくは、Ca/Cモル比が、反応開始時に、1.10〜2.50の範囲、好ましくは1.50〜2.00の範囲にある状態で行われる。Ca/Cモル比は、重要である。この範囲を下回る比率だと、不完全な反応となり、この範囲を上回る比率だと、Ca残渣による孔の閉塞が起こる。
【0088】
複数工程プロセスの炭化工程において、炭素テンプレートを1〜10℃/分の範囲の加熱速度、好ましくは1〜7℃/分の範囲の加熱速度で加熱する。
【0089】
本特許出願の発明者らは、驚くべきことに、上に記載したような減圧状態で炭化工程を行うと、特に、多い
バイオモルフィック足場材料を製造することが必要な場合に、その後の処理工程の首尾よい適用に有利である。
【0090】
実際に、上述の圧力条件を使用することによって、カルシウムの沸点(すなわち、1484℃)よりも約400〜500℃低い温度で、カルシウムの蒸発が起こり、予想されないことだが、当該技術分野で知られている任意の他のプロセスよりもかなり低い温度で、熱分解された木材から炭化カルシウムへと完全に変換される。特に、0.5〜600mbar、または好ましくは0.05〜100mbarの圧力を使用し、熱分解された木材から炭化カルシウムへと実質的に完全に変換される。
【0091】
熱分解された木材から炭化カルシウムへと実質的に完全に変換は、その後の変換工程の収率にとって利点を与えるだろう。
【0092】
本開示の炭化条件は、炭化後の足場材料および最終的な
バイオモルフィック足場材料の両方において、既知のプロセスを用いて木材から得られる既知の足場材料に対し、天然木材の直径が1μm以下(好ましくは0.01〜0.1μm)のマイクロサイズおよびナノサイズの孔の保護も向上する。
【0093】
炭化段階は、このプロセスにおいて重要な工程である。この工程の後のマイクロサイズおよびナノサイズの孔隙率の良好な保護によって、最終的な
バイオモルフィック足場材料が、同様のナノ/マイクロサイズの孔隙率を確実に示すだろう。最終的な
バイオモルフィック足場材料において、高い割合の十分に相互に接続したマイクロサイズおよびナノサイズの孔の存在は、栄養液の交換、細胞代謝の廃棄産物の放出を可能にする。
【0094】
直径が1μm以下のマイクロサイズおよびナノサイズの孔の保護を向上させる以外に、ここに記載される炭化条件は、比表面積(SSA)が9〜20m
2/gの炭化後の足場材料(と、最終的な
バイオモルフィック足場材料も)得られる。このような比表面積は、当該技術分野で知られるプロセスを用いて得られる足場材料のSSA(約5〜6m
2/gである)より約2倍大きい。(比較例4および
図10〜13を参照)。
【0095】
本開示の炭化条件は、既知のプロセスを用いて得られる足場材料の粒よりも小さな炭化カルシウム粒を含む多孔性炭化カルシウム足場材料も与える(比較例4および
図13の下側の図を参照)。
【0096】
比較例は、本開示の炭化後の足場材料中の炭化カルシウム粒の寸法が約5〜15μm(好ましくは約10μm)であり、一方、既知のプロセスを用いて得られた炭化後の足場材料の結晶の寸法は、約100μmである。
【0097】
本特許出願の発明者らは、驚くべきことに、上述の炭化条件を用いて得られた粒の比表面積(SSA)が大きく、寸法が小さく、以前に開示された方法によって得ることはできず、プロセスのそれぞれの工程の後の天然木材の高い変換率を確実にするのに重要であることを発見した。
【0098】
比較例4および
図14は、本開示の炭化後の足場材料が、正方晶および立方晶の混合物と共に炭化カルシウムを含有することも示し、一方、既知のプロセスを用いて得られる足場材料は、正方晶結晶格子のみを有する炭化カルシウムを含む。酸化カルシウムが、立方晶構造のみを有する場合、部分的に立方形態の炭化カルシウムからの変換は、足場材料の微細な破壊を生じる危険性が低い状態で起こり得る。このことは、最終的な
バイオモルフィック足場材料の品質にとってきわめて有利である。
【0099】
したがって、炭化工程で使用される条件は、炭化カルシウムの階層的な孔構造の中に観察され得る欠陥の数を大きく減らす。
【0100】
これに加え、本開示で使用される低い温度(すなわち、1500℃より十分に低い)は、出発物質の木材の元々の微細構造からの構造的なゆがみおよび変動を引き起こし、そのため、以下の処理工程の結果を悪化させるような炭化カルシウムの粒の凝集および過剰な強化を防ぐ。
【0101】
複数工程プロセスの酸化工程(3)において、炭化カルシウムテンプレートを、800〜1300℃の範囲の最終温度、好ましくは1000〜1200℃の範囲の最終温度まで加熱してもよい。
【0102】
酸化工程において、炭化カルシウムテンプレートを、1〜15℃/分の範囲の加熱速度、好ましくは1〜7℃/分の範囲の加熱速度で加熱してもよい。
【0103】
上述の炭化工程にしたがって加圧状態で得られた炭化カルシウムの酸化によって、既知のプロセスを用いて得られる足場材料に対し、比表面積(SSA)が大きく、マイクロサイズおよびナノサイズの孔の割合が多い孔隙率を有する酸化カルシウムの足場材料が得られる(比較例4および
図16を参照)。比較実験は、マイクロサイズおよびナノサイズの孔隙率が、酸化工程の後にも保存されていることを示す。
【0104】
複数工程プロセスの水和工程(4)において、酸化カルシウムテンプレートを水にさらすことによって、1〜25モル%、好ましくは5〜15モル%の量の水の取り込みを可能にする。この工程によって、三次元構造の50重量%以下の量の水酸化カルシウムを含む、水和された酸化カルシウムが生成し、これは、その後のCaOの炭酸化を触媒する。中間生成物としての水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)の量は、三次元構造の崩壊を避けるために厳格に制御されなければならない。ここに記載される水和条件によって、水酸化カルシウムの量を50%以下に保つことができる。
【0105】
好ましい実施形態において、水和工程は、炭酸化工程と同時に、例えば、水を豊富に含むCO
2を用いることによって行われる。
【0106】
複数工程プロセスの炭酸化工程(5)において、系中のCO
2圧を上述の値まで徐々に上げつつ、高温を使用すると、驚くべきことに、水和された酸化カルシウムから炭酸カルシウムテンプレートへの実質的に完全な変換が可能になり、驚くべきことに、高い凝集と機械強度を示す。
【0107】
複数工程プロセスの炭酸化工程は、
約10〜15MPaの一定のCO
2圧力で、温度を約750〜850℃の範囲の値、好ましくは約800℃の温度までゆっくりと上げる;
約750〜850℃(または約700〜800℃)、好ましくは約800℃の一定の温度で、圧力を約10〜15MPaまで上げる;
温度を約750〜850℃(または約700〜800℃)まで、好ましくは約800℃まで上げつつ、圧力を約4〜6MPaに保ち、その後、圧力を約10〜15MPaまで上げる、という熱サイクルの1つに従って行われてもよい。
【0108】
炭酸化プロセスは、反応性中間体(例えば、水酸化カルシウム)によって起こる。これにより、三次元構造の構造的一体性を犠牲にし得る炭酸カルシウムの大きな立方晶(10μmを超える)を実質的に含まない微粒子構造を特徴とする最終的な炭酸カルシウムが得られる。比較例4および
図17〜18は、水和工程を適用したおかげで、炭酸化工程の後、当該技術分野で既知のプロセスを用いて得られる中間体の三次元構造よりも微粒子の構造が得られる。
【0109】
上述の条件で行われる炭酸化工程によって、炭酸化工程が高温定圧または高圧低温で行われる当該技術分野で既知の同様のプロセスと比較したとき、本開示のプロセスによって得ることができる
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料の優れた機械特性が得られる。
【0110】
本特許出願の発明者らは、驚くべきことに、上に報告された炭酸カルシウムの特徴の達成は、大きな材料片(すなわち、2cm以上)を、望ましい組成および元々の木材の微細構造が維持された最終的な
バイオモルフィック足場材料へと完全に変換することができるために重要な条件であることを発見した。
【0111】
複数工程プロセスのリン酸化工程(6)において、少なくとも1つのリン酸塩は、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウムおよびリン酸カリウムからなる群から選択されてもよい。リン酸アンモニウムの使用によって、pHをもっと良好に制御することができ、そのため、変換プロセスがさらに効率的になり、得られた物体は、望ましい機械特性および物理的な凝集を有する。
【0112】
複数工程プロセスのリン酸化工程において、炭酸カルシウムテンプレートは、前述のリン酸塩の少なくとも1つを含む溶液に浸漬されてもよい。この溶液は、濃度が0.1〜5M、好ましくは濃度が0.5〜2.0Mであってもよい。
【0113】
複数工程プロセスのリン酸化工程において、開始時のPO
4/CO
3の比率は、好ましくは、理論化学量論値の1.5〜5倍、好ましくは、理論化学量論値の2〜4倍である。
【0114】
複数工程プロセスのリン酸化工程において、リン酸塩を豊富に含む溶液に浸漬された炭酸カルシウムテンプレートを、0.1〜2.5MPaの範囲の蒸気圧で、25℃から300℃まで加熱してもよい(水熱条件)。
【0115】
リン酸化工程は、約12〜約180時間、好ましくは約48〜約120時間、さらに好ましくは24〜72時間続いてもよい。
【0116】
複数工程プロセスのリン酸化工程において、リン酸塩を豊富に含む溶液の開始時のpHは、好ましくは、pH7〜12である。
【0117】
他のイオンを用いたハイドロキシアパタイトの置換は、このプロセスの間またはプロセス終了後に、好ましくは、リン酸プロセスの間に、目的のイオンを含有する適切な可溶性塩を導入することによって達成することができる。適切なイオンとしては、ストロンチウムイオン、マグネシウムイオン、ケイ素イオン、チタンイオン、炭酸イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ガリウムイオン、銀イオン、銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、ユーロピウムイオン、ガドリニウムイオン、およびこれらの混合物が上げられるだろう。マグネシウムイオンを含有する溶液の一例は、MgCl
2*6H
2Oであり、ストロンチウムイオンを含有する溶液の一例は、SrCl
2*6H
2Oである。
【0118】
イオンのドーピングの結果として、最終的な
バイオモルフィック足場材料は、ドープされたハイドロキシアパタイトおよびリン酸三カルシウムを含むか、またはこれらからなる材料を含むか、またはこの材料からなる。
【0119】
あまり好ましくない実施形態によれば、天然木材が、代替骨として使用するのに適した形態および寸法に成形されない場合(すなわち、工程(i)を行わない場合)、複数工程プロセスから得られる
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料は、簡便には、既知の技術によって望ましい形態および形状を有する足場材料へと成形されてもよい。
【0120】
本開示は、当該技術分野で既知の同様のプロセスによって得られる階層的な構造のハイドロキシアパタイトと比較した場合、優れた物理特性および機械特性を有する、上述のプロセスから得られる(または得ることができる)
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料にも関する。
【0121】
特に、本開示のプロセスから得られる(または得ることができる)
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料は、本開示の足場材料または代替骨について上に記載した特徴を全て有する。
【0122】
特に、従来技術に対し、ここに記載するプロセスを用いて得られる最終的な
バイオモルフィック足場材料は、当該技術分野で既知の同様のプロセスによって得られる足場材料よりも多くの割合のマイクロサイズおよびナノサイズの孔によって構成される孔隙率を有する。特に、本開示のハイドロキシアパタイト足場材料の全孔隙率の少なくとも25%、好ましくは全孔隙率の25%〜50%は、直径が1μm以下、好ましくは0.1μm以下、特に、0.01〜0.1μmの孔に起因するものである。
【0123】
この高い割合のマイクロサイズおよびナノサイズの孔隙率は、マイクロサイズおよびナノサイズの孔が、栄養液の交換、細胞代謝の廃棄産物の放出を可能にし、そのため、骨の再生を向上させるため、臨床的な観点からきわめて有利である。
【0124】
さらに、本開示の
バイオモルフィック足場材料は、当該技術分野で既知のプロセスを用いて得られる足場材料よりも高い比表面積(9〜20m
2/g 対 5〜6m
2/g)を有する。高い表面積は、表面の生体活性の向上と、足場材料または代替骨の濡れ能力の向上を決定づけ、そのため、骨の一体化および生体吸収プロセスを向上させる。
【0125】
また、本開示の
バイオモルフィック足場材料は、焼結したハイドロキシアパタイト中に存在するもの(すなわち、典型的には、1μmを超える)よりもかなり小さな約100〜200nm(すなわち、ナノサイズの粒)のハイドロキシアパタイト粒を含む。小さな粒は、細胞によってもっと容易に吸収することができ、当該技術分野で既知の足場材料よりも良好な骨の再生を可能にするため、骨再生にとって臨床的な利点を示す。
【0126】
これに加え、本開示の
バイオモルフィック足場材料は、導路状の孔に沿った方向(長手方向)で測定すると、5MPaより大きく、好ましくは10MPa〜20MPaの圧縮強度を示し、10MPaまでの横断方向の導路の方向(横断方向)に沿った圧縮強度を示す。本開示の発明者らは、驚くべきことに、これらの機械特徴は、最終的なハイドロキシアパタイト足場材料を自立型の材料にし、したがって、シェルまたはバーのような任意の強化構造または支持構造を使用することなく、負荷がかかる骨の要素の再生手順に適用することができることを発見した。
【0127】
本質的に、ナノ結晶のイオン置換されたハイドロキシアパタイトは、固い体組織中に存在する主な構成要素である。実際に、骨の鉱物相は、寸法が100nm未満であり、全骨組織を表す三次元の階層的に組織化された多孔性構造を組織化する微細に分散したハイドロキシアパタイト平板で構成されるナノ構造の相である。
【0128】
この観点で、本開示の発明者らは、驚くべきことに、以前から知られている技術と比較すると、上述のプロセスによって得られる天然木材構造の
バイオモルフィック変換が、最終的なハイドロキシアパタイト骨足場材料を固有に与えることができ、骨を模倣する組成、開口部が大きく、負荷がかかる部位での適用に関連する大きさと関連して、特に、四肢の長い骨部分または顎顔面領域または脊椎において、相互に接続したマクロ/マイクロ/ナノサイズの孔隙率および優れた機械強度を示すことを発見した。
【0129】
これら全ての特徴は、決して同時に起こることを示しているわけではないが、負荷のかかる部位での広範囲にわたる骨の再生を可能にするのに最も重要である。本開示のプロセスを用いて得ることができる
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料の構造の違いは、比較例6に示される重要な臨床的な利点を与える。特に、本発明の足場材料は、骨形成に関連する遺伝子の発現に対し、従来技術の足場材料よりも高い誘発力を示し、骨の再生という観点でより良い臨床的な性能に翻訳される。
【0130】
本開示を以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
(実施例)
(測定方法)
熱分解工程を受けた木材(熱分解された木材)の全孔隙率:
角柱形または円柱形として成形された熱分解された木材片を計量し、次いで、直径と高さを測定することによって体積を得る。熱分解された木材の絶対密度(A.D.)は、重量/体積の比率によって得られる。相対密度(R.D.)は、熱分解された木材のA.D.を、炭素の理論密度で割ることによって得られる(すなわち、R.D.=A.D./2.25)。全孔隙率(%)は、(1−R.D.)*100によって得られる。
【0131】
プロセスのそれぞれの工程の後に得られた足場材料およびプロセス終了時に得られた
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料の全孔隙率:
孔隙率は、それぞれの工程の後に得られたそれぞれの材料の理論密度について適切な値(すなわち、CaC
2、CaO、CaCO
3、HAの理論密度)を用い、上と同じ方法を適用することによって計算される。
【0132】
圧縮強度:
角柱形または円柱形として成形された最終的な足場材料または代替骨は、一般的なスクリュー型試験機によって荷重がかけられ、応力−歪み曲線と破壊荷重を得る。圧縮強度は、破壊荷重と、圧縮される面積との比率によって与えられる。
【0133】
孔径:
最終的な足場材料またはプロセスのそれぞれの工程の後の孔径分布および孔の形態は、それぞれ、水銀圧入ポロシメトリーおよび走査型電子顕微鏡(SEM)を用いることによって評価される。水銀圧入ポロシメトリー分析は、種々の圧力で、サンプルの孔に水銀を圧入する測定値に基づく。
【0134】
結晶相:同定および定量化:
足場材料の結晶相の同定および定量化を、X線粉末回折技術(XRD)によって行い、異なる連続した角度でのサンプルに対するX線入射の結果を評価する。
【0135】
比表面積:
嵩容積1単位あたりの材料の全表面積(m
2/g)は、BET法を用いて評価され、吸着した気体の圧力と関連する吸着した気体の量から概算される。
【0136】
(実施例1)
複数工程プロセスを用いる、木材から誘導されるハイドロキシアパタイトの調製
(i)天然トウ木材片を、直径=2cm、高さ=3cmの寸法を有する円柱形態に成形する。
【0137】
(1)天然木材の熱分解
出発物質の木片を70℃で24時間乾燥させ、次いで、窒素を流しつつ、800℃で30分より長い時間処理することによって、純粋な炭素テンプレートへと変換する。熱サイクル:1℃/分で350℃まで加熱、2℃/分で350℃から800℃まで加熱。サンプルを温度800℃に少なくとも約30分間維持し、その後、テンプレートを1℃/分で冷却する。
【0138】
(2)炭化
炭素テンプレートを、アルゴン下、0.5mbarのカルシウムの雰囲気下、1000℃で加熱し、これにより炭化カルシウムに変換する。1000℃での持続時間=30分。
【0139】
(3)酸化
炭化カルシウムテンプレートを、空気中、1〜7℃/分の範囲の加熱速度に従って1100℃まで加熱し、それにより、酸化カルシウムへの完全な変換を可能にする。
【0140】
(4)水和
酸化カルシウム体を水にさらすことによって活性化し、それにより、約10モル%の量の水の取り込みを可能にする。
【0141】
(5)炭酸化
あらかじめ平衡状態にしておいた水和体を、CO
2圧を0.5MPaから10MPaまで徐々に上げつつ、800℃まで加熱する。これにより、酸化カルシウムを炭酸カルシウムに変換する。
【0142】
(6)リン酸化
炭酸カルシウム体を、水蒸気圧力2MPa、温度200℃で、0.5Mリン酸アンモニウム溶液に浸漬し、開始時のCO
3に対するPO
4の比率は、理論化学量論値の2倍である。
【0143】
足場材料の圧縮強度は、導路状の孔の向きに対して垂直方向および横断方向に沿って機械的な力を働かせることによって評価された。
【0144】
孔の方向に沿って荷重を加えることによって(長い部分に分かれた骨の場合には、in vivoでの生物機械的な刺激を模倣するような、最も臨床的に反映された構造である)、足場材料(外径=15mm、内径=6mm、高さ=20mm、孔隙度が60〜65体積%の中空円筒形として開発された)は、16MPaまでの圧縮強度を示した(すなわち、極限荷重250Kg(
図1および3)。横断方向において、足場材料は、4MPaまでの圧縮強度を示した。
【0145】
足場材料に対し、足場材料の機械強度をさらに上げるために、制御された雰囲気下、最大温度1300℃での熱処理も行うことができた。
【0146】
バイオモルフィック足場材料の骨状の微細構造の特徴は、細胞に形態の情報を運び、組織化された構造を有する新しい骨組織を構築することができる。このことは、足場材料をウサギの大腿骨およびマウスの頭蓋冠に移植したin vivo試験によって確認された。
【0147】
足場材料は、手術後に、毒性のある有害な反応も、壊死または感染も誘発しなかった。足場材料は、市販の多孔性アパタイト足場材料EngiPore(Finceramica S.p.A.、イタリア)であったコントロールと同様に、1ヶ月後に、新しく生成した骨によって広範囲にわたるコロニーを形成した。
【0148】
マウスの頭蓋冠から外植された組織は、足場材料が単独で移植された場合、移植された足場材料に骨形成性間質細胞を添加した場合の両方で、広範囲にわたる骨生成および足場材料の孔への侵入を示した(
図2a〜d)。足場材料の導路状の孔隙率は、ハバース系を模倣する骨構造の生成を誘発した(
図2fで矢印によって示されるように)。さらに、足場材料の導路状の孔は、新しい骨の生成および侵入を助けるように、迅速な血管形成を誘発した。この結果は、内因性血管網の向きに関連する多孔性の適切な向きが、広範囲にわたる血管形成の初期からの進行を促進するのに有効な場合があることを確認する。
【0149】
(実施例2)
本開示の
バイオモルフィックハイドロキシアパタイトと、当該技術分野で既知の階層的な構造のハイドロキシアパタイトの比較
トウ天然木材から得られた本開示の
バイオモルフィックハイドロキシアパタイトの孔径分布と、Anna Tampieriら、the Journal of Material Chemistry、2009、19、4973−4980の教示に従って、リン酸化工程だけはRuffiniら、Chemical Engineering Journal 217(2013)150−158の教示を用い(NH
4H
2PO
4−(NH
4)
2HPO
4の混合物、pH=9、Tmax=60℃、時間=80h)、同じ天然木材から得られた階層的な構造のハイドロキシアパタイトの孔径分布について、比較試験を行った。
【0150】
結果を
図4に示し、ここで、黒い棒グラフは、本開示の
バイオモルフィックハイドロキシアパタイトを差し、濃い灰色の棒グラフは、当該技術分野で既知のハイドロキシアパタイトを指す。
【0151】
本開示の
バイオモルフィックハイドロキシアパタイトにおいて、既知の階層的に組織化されたハイドロキシアパタイトと比較して、200〜300μmの範囲の直径を有する孔の数が多いことは明らかであり、これらの孔は、代替骨として移植された場合に、
バイオモルフィックハイドロキシアパタイトの生理学的血管形成を促進するのに最も適した寸法を有する孔である。
【0152】
さらに、同じ
図4は、0.01〜0.1ミクロンの範囲の直径を有する孔の数が多いことも示しており、天然木材の微細構造が最終製品でも保存されていることを明確に示している。
【0153】
(実施例3)
Mg
2+および/またはSr
2+がドープされた木材から誘導されるハイドロキシアパタイトの調製
実施例1に記載した複数工程プロセスの工程1〜5に従い、炭酸カルシウムの物体を得た。Mg
2+イオンおよび/またはSr
2+イオンのドーピングは、以下のそれぞれの方法に従って達成された。
【0154】
方法1
Sr
2+(SrCl形態での)溶液を、1.0Mのリン酸塩を豊富に含む溶液に添加する。次いで、複数工程の方法に従って調製された炭酸カルシウムの物体を、上の合わせた溶液に浸し、水蒸気圧2MPa下、温度200℃まで加熱する。これにより、出発物質の木片の形態を有する、Sr
2ドープハイドロキシアパタイトを得る。
【0155】
方法2
炭酸カルシウムの物体を、1.0Mのリン酸塩を豊富に含む溶液に添加する。水蒸気圧0.1MPa下、温度25〜90℃まで加熱する一方で、Sr
2+溶液を少しずつ加える。これにより、出発物質の木片の形態を有する、Sr
2ドープハイドロキシアパタイトを得る。
【0156】
方法3
純粋な炭酸カルシウムの物体(または1.5Mのリン酸塩を豊富に含む溶液に室温以上の温度で24時間浸すことによって部分的にハイドロキシアパタイトに変換されたもの)を、Sr
2+イオンを含有する水溶液または有機溶液に24時間浸す。次いで、この溶液から取り出し、1.5Mのリン酸塩を豊富に含む溶液に浸す。一方で0.5〜1.5MPaの水蒸気圧下、温度200℃まで加熱する。これにより、出発物質の木片の形態を有する、Sr
2ドープハイドロキシアパタイトを得る。
【0157】
ストロンチウムで置換された足場材料の特性
ストロンチウムで置換されたハイドロキシアパタイト足場材料を開発し、ストロンチウムを含まない足場材料と比較すると、間葉系幹細胞(MSC)の生存率の向上を示すことがわかった(
図5)。
【0158】
ストロンチウム足場材料は、十分に広がった形態と、骨形成に関連する遺伝子、例えば、RUNX2およびALPの発現の増加も示し(
図6)、これにより造骨細胞への分化の促進剤として作用する。特に、Srを含まない足場材料と比較した場合、両遺伝子のmRNAレベルの有意な増加(p<0.05)が検出された。この増加は、2モル%のSrを含む足場材料で特に高かった。
【0159】
Sr置換されたハイドロキシアパタイト足場材料を使用したとき、観察14日間にわたる前骨芽細胞の増殖の向上が観察された(
図7)。実際に、足場材料中のストロンチウムが増加すると、長期間にわたって、かなり高い細胞生存率が得られた。これらの結果は、新しい骨の生成が首尾よく誘発され、維持されていることを暗示している。
【0160】
この足場材料は、2週間の観察期間中に、造血細胞の表現型を維持する可能性も示した(
図8)。
【0161】
ストロンチウム置換された足場材料と接触した細胞の挙動も、破骨細胞の挙動を観察することによって観察した。予備的な形態分析を行い、破骨細胞生成モデルを確認し、検証した。この足場表面で成長した破骨細胞は、その細胞の典型的な形態を示す。
【0162】
破骨細胞の活性および生成に関与する主なマーカー(Oscar、Integrin β3およびCatepsinK)の相対的な遺伝子発現を評価した(
図9)。この分析は、破骨細胞の主な分子経路に関与する全ての遺伝子について、時間経過に伴う遺伝子発現の有意な減少を示し、これにより、足場材料中のSr
2+イオンの存在が、破骨細胞の生成および活性を阻害することを示している。
【0163】
結論として、ハイドロキシアパタイトをSr
2+イオンで置換すると、骨細胞に対して生物学的な影響が生じ、具体的には、(i)MCSの骨形成に関連する遺伝子に対し、有意な誘発効果、(ii)破骨細胞の増殖に対する誘発効果、(iii)破骨細胞の活性に対する阻害効果を引き起こす。
【0164】
区域性の骨欠損に移植する場合には、新しい骨髄が成長するための道筋として骨断端に露出するように、主要な単一方向の多孔性に対して平行な方向に延びる中央の導路が存在するように、新しい足場材料が設計される(
図1)。導路の大きさは、具体的な欠損に基づいて規定される。しかし、十分な強度を維持するために、導路は、足場材料全体の幅に対して20〜60%の範囲の直径を有する。
【0165】
(実施例4−本開示の
バイオモルフィックハイドロキシアパタイトと、当該技術分野で既知の階層的な構造のハイドロキシアパタイトの比較)
天然木材(トウ)から得られた、本開示のプロセスを用いて製造された
バイオモルフィックハイドロキシアパタイトと、Anna Tampieriら、the Journal of Material Chemistry、2009、19、4973−4980の教示に従って得られたハイドロキシアパタイト足場材料について、比較試験を行った。本開示のプロセスで使用したトウ木材は、足場材料の寸法が最大の方向に沿って測定すると、長さが2cmに等しい。従来技術のプロセスで使用されるトウ木材は、足場材料の寸法が最大の方向に沿って測定すると、長さが1cmに等しい。
【0166】
この2つのプロセスのそれぞれの工程の後、中間体の足場材料および最終的な足場材料の比表面積(SSA)および孔分布を分析し、比較した(
図10、16、19および20を参照)。これに加え、炭化工程の後、この2つの中間体足場材料の炭化カルシウム結晶の寸法を比較した(
図13の下側の写真を参照)。
【0167】
炭化工程の後に、この2つの炭化カルシウム足場材料の結晶格子の構造を比較した。この比較を
図14に示す。
【0168】
図10は、それぞれの炭化工程の後に得られた2つの炭化カルシウム足場材料の孔分布の比較を示し、開始時の熱分解された木材の孔分布とさらに比較した。この2つの炭化カルシウム足場材料の比表面積もこの図に報告している。この結果は、本開示の炭化工程の後で得られた炭化カルシウム足場材料のみが、トウ木材のマイクロサイズおよびナノサイズの孔分布を保存していることを示す(孔の寸法は1μm未満)。また、この2つの比表面積の比較は、本開示の足場材料について、向上を示す。
【0169】
図11、12および13の上側の2つの写真は、この2つの炭化カルシウム足場材料のSEM画像を示しており、この写真から、天然木材のマイクロサイズおよびナノサイズの多孔性の良好な保存を明確に見ることができる。
【0170】
図13の下側の2つの写真は、炭化カルシウム結晶の寸法の比較を示す。本開示に従って得られた炭化カルシウムは、平均粒径が約10μmの粒子を示し、一方、従来技術のプロセスを用いて得られた粒子は、平均粒径が約100μmである。
【0171】
図14は、x線XRDを用いて測定された、この2つの炭化カルシウム足場材料の結晶相の比較を示す。結果は、本開示に従って得られた炭化カルシウムが、正方晶および立方晶の両方の結晶格子を有し、一方、従来技術の炭化カルシウムが、正方晶の結晶格子のみを有することを示す。本開示の炭化カルシウム足場材料は、従来技術の足場技術と比較して、多くの量のCa(OH)
2を含む。
【0172】
図15は、それぞれの酸化工程の後に得られた酸化カルシウム足場材料のSEM画像を示す。本開示に従って得られた足場材料に対応する写真は、CaO粒子の間の微細な孔を保存しており、一方、従来技術の足場材料は、微細な孔が完全に失われている。
【0173】
図16は、この2つの酸化カルシウム足場材料の孔分布を示す。この比較は、酸化工程の後に得られるミクロサイズおよびナノサイズの孔隙率の割合が、比表面積と共に、本開示の足場材料では多いことを明確に示している。
【0174】
図17および
図18は、それぞれの炭酸化の後で得られた炭酸カルシウムのSEM画像を示す。本開示の材料は、方解石の大きな結晶(約50μmまで)が構造全体を特徴付けている従来技術と比較して、細く伸びた微細な構造を示す。大きな結晶は、リン酸化工程の間に構造が破壊されるか、または崩壊する。
【0175】
図19は、炭酸化工程の後で得られた2つの炭酸カルシウム足場材料の孔分布を示す。孔分布および比表面積の比較は、酸化カルシウムについて上に記載したのと同様の結果を示す。本開示のプロセスを用いると、マイクロサイズおよびナノサイズの1um未満の孔構造が維持されており、従来技術よりも大きなSSAが得られる。
【0176】
図20は、本開示のプロセスを用いて得られた最終的な
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料(リン酸化後)と、従来技術の最終的な
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料の孔分布間の比較を示す。それぞれのSSAの比較も示される。
【0177】
この結果は、本開示の
バイオモルフィック足場材料が、高い比表面積と共に、従来技術の足場材料よりも大きなミクロサイズおよびナノサイズの孔隙率の割合を有することを示す。
【0178】
(
比較例5−足場材料の寸法が最大の方向に沿って測定すると、長さが2cmに等しいトウ木片に適用される従来技術のプロセス)
従来技術のプロセス(Anna Tampieriら、the Journal of Material Chemistry、2009、19、4973−4980)が、足場材料の寸法が最大の方向に沿って測定すると、長さが2cm以上である足場材料(すなわち、骨再生の臨床目的の足場材料)を製造することができないことを示すために、試験を行った。
【0179】
この目的のために、トウ木片に対し、Tampieriらに記載される条件に従って処理工程を行った。
【0180】
図21は、リン酸化工程の前でさえ、足場材料が破壊し得ることを示す。
図22は、足場材料が、リン酸化までの処理工程に耐えたとしても、リン酸化の後、足場材料が壊れることを示す。
【0181】
この試験は、セラミック製品のスケールアップが、簡単な操作ではないことが多く、むしろ、小さなセラミック製品を製造するプロセスが当該技術分野で知られている場合であっても、大きな製品を調製するために処理条件を変更する(時には大きく変更する)必要があることを明確に示す。
【0182】
(実施例6−比較試験)
マウス間葉系幹細胞(mMSC)を用い、in vitro試験を行った。本開示のプロセスを用いて得られた
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料と、従来技術を用いて得られた
バイオモルフィックハイドロキシアパタイト足場材料によって誘発される骨形成性の分化に関与する特定の遺伝子の過剰発現を試験するために、遺伝子発現プロファイリングを分析した。
【0183】
(サンプルの記載)
2つの試験した足場材料は、以下のように定義される。
【0185】
(結果)
試験した遺伝子は、両方とも骨形成性の分化の初期段階の参加(Runx2およびALP)および後期段階の参加(OPN)に関連しており、本開示の全ての足場材料の中で成長した細胞において、従来技術の足場材料と比較して、上方制御されているようであり、Runx2およびOPNについて、有意な差がある(p≦0.0001)。BMP2およびCol15の遺伝子発現において、試験した全てのサンプルで、差は観察されなかった。これはおそらく、BMP2は、分化経路の上流の制御因子であり、動的な培養14日後、Runx2、AlpおよびOPNの上方制御によって示唆されるように、その生体機能がすでに行われているからであろう[1]。対照的に、Col15は、石灰化された骨マトリックスの生成に関連する非常に後期のマーカーであり[2]、おそらく、培養時間は、その発現を誘発するほど十分ではなかった。ドープされた本開示の足場材料と、ドープされていない本開示の足場材料の誘発効果には、差は観察されなかった(
図23を参照)。
【0186】
図23は、全ての試験サンプルを用いた動的条件でmMSC三次元培養して14日後の、キャリブレータとして使用されるドープされていない従来技術の足場材料の発現に対する、遺伝子発現の相対量(2
−ΔΔCt)を示す。3サンプルの平均および標準偏差を示した。統計分析は、両側ANOVA、その後、Bonferroniのpost−hoc検定によって行われ、有意差がグラフに示されている。
****p≦0.0001。
【0187】
上の試験から、本開示の足場材料が、骨形成に関連する遺伝子の発現に対し、従来技術の足場材料よりも高い誘発力を示すと断言することができる。