(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965600
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】扉構造
(51)【国際特許分類】
E05D 7/081 20060101AFI20211028BHJP
E05D 7/04 20060101ALI20211028BHJP
E06B 5/16 20060101ALI20211028BHJP
E06B 3/36 20060101ALI20211028BHJP
E06B 3/82 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
E05D7/081
E05D7/04
E06B5/16
E06B3/36
E06B3/82
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-130092(P2017-130092)
(22)【出願日】2017年7月3日
(65)【公開番号】特開2019-11658(P2019-11658A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】村岡 宏
(72)【発明者】
【氏名】山口 純一
(72)【発明者】
【氏名】岸上 昌史
【審査官】
鳥井 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−117597(JP,A)
【文献】
特開平08−135313(JP,A)
【文献】
実開昭57−124590(JP,U)
【文献】
特開2004−044317(JP,A)
【文献】
実開昭51−091938(JP,U)
【文献】
特開平07−082962(JP,A)
【文献】
米国特許第04238908(US,A)
【文献】
独国特許発明第102008028756(DE,B3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05D 7/00−7/14
E05D 11/00
E06B 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を閉止可能な扉、及び、
前記扉の上端及び下端にて、前記開口を形成している開口形成部に当該扉を回動自在に支持する支持部材、
を有し、
前記支持部材は、
前記扉側に設けられる扉側部材と、
前記開口形成部側に設けられる開口側部材と、
前記扉側部材及び前記開口側部材のうちのいずれか一方から鉛直方向に沿って突出されて他方に挿通される回動軸と、
前記開口側部材と前記扉側部材との間に設けられる熱可塑性樹脂のスペーサーと、
を有し、
前記スペーサーの高さは、火災熱による前記扉の熱膨張により想定される前記扉の鉛直方向の熱延び量より高いことを特徴とする扉構造。
【請求項2】
開口を閉止可能な扉、及び、
前記扉の上端及び下端にて、前記開口を形成している開口形成部に当該扉を回動自在に支持する支持部材、
を有し、
前記支持部材は、
前記扉側に設けられる扉側部材と、
前記開口形成部側に設けられる開口側部材と、
前記扉側部材及び前記開口側部材のうちのいずれか一方から鉛直方向に沿って突出されて他方に挿通される回動軸と、
前記開口側部材と前記扉側部材との間に設けられる熱可塑性樹脂のスペーサーと、
を有し、
前記扉は、厚さが0.8mm未満の鋼製の表面材を備えた不燃扉であることを特徴とする扉構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の扉構造であって、
前記スペーサーは、前記扉の上端及び下端の前記支持部材のうちの、少なくともいずれか一方に設けられていることを特徴とする扉構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回動自在に支持された扉を備えた扉構造に関する。
【背景技術】
【0002】
回動自在に支持された扉を備えた扉構造としては、例えば、扉本体(扉)がピボットヒンジにより扉取り付け枠に回動自在に取り付けられている扉構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。上記のピボットヒンジは、扉側のヒンジ本体から突出させたピボットを、扉取付け枠側のヒンジ本体に設けられた円穴に嵌入させており、扉側のヒンジ本体と扉取付け枠側のヒンジ本体とは近接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−210014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにピボットヒンジにより支持された扉の表面が金属板により覆われている場合には、例えば火災等により加熱されると熱延びが生じる一方で、ピボットヒンジにより扉の上端部と下端部とが規制されているので、上下方向の中央部分が面外方向に膨らむように扉に反りが生じる。このとき、火炎により扉の一方の面側から加熱されていると、一方の面側の方が他方の面側より熱延び量が大きいため一方の面側により膨らみ易く、扉取付け枠との間が他方の面側の空間と連通してしまう虞がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、熱延びによる反りが生じ難い扉構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明の扉構造は、
開口を閉止可能な扉、及び、
前記扉の上端及び下端にて、前記開口を形成している開口形成部に当該扉を回動自在に支持する支持部材、
を有し、
前記支持部材は、
前記扉側に設けられる扉側部材と、
前記開口形成部側に設けられる開口側部材と、
前記扉側部材及び前記開口側部材のうちのいずれか一方から鉛直方向に沿って突出されて他方に挿通される回動軸と、
前記開口側部材と前記扉側部材との間に設けられる熱可塑性樹脂のスペーサーと、
を
有し、
前記スペーサーの高さは、火災熱による前記扉の熱膨張により想定される前記扉の鉛直方向の熱延び量より高いことを特徴とする扉構造である。
【0007】
このような扉構造によれば、扉を開口形成部に回動自在に支持する支持部材の開口側部材と扉側部材との間に熱可塑性樹脂のスペーサーが介在されているので、火災等により加熱された際には、スペーサーが溶融して開口側部材と扉側部材との間に隙間が生じる。このため、火炎により扉に熱延びが生じる場合であっても扉の熱延びは開口形成部に規制されないので、扉に反りが生じることを抑制することが可能である。このため、熱延びによる反りが生じ難い扉構造を提供することが可能である。また、火災が発生しない場合には、開口側部材と扉側部材との間がスペーサーにより狭められているので、扉の回動が安定すると共に意匠性にも優れている。
また、スペーサーは、想定される扉の熱膨張による鉛直方向の熱延び量より高い高さを有しているので、熱膨張による扉の熱延びが開口形成部に規制される可能性は低い。このため、より確実に熱延びによる扉の反りを抑制することが可能である。
【0008】
また、開口を閉止可能な扉、及び、
前記扉の上端及び下端にて、前記開口を形成している開口形成部に当該扉を回動自在に支持する支持部材、
を有し、
前記支持部材は、
前記扉側に設けられる扉側部材と、
前記開口形成部側に設けられる開口側部材と、
前記扉側部材及び前記開口側部材のうちのいずれか一方から鉛直方向に沿って突出されて他方に挿通される回動軸と、
前記開口側部材と前記扉側部材との間に設けられる熱可塑性樹脂のスペーサーと、
を有し、
前記扉は、厚さが0.8mm未満の鋼製の表面材を備えた不燃扉であることを特徴とする扉構造である。
【0009】
このような扉構造によれば、扉が不燃扉であったとしても、より高い防火性を備えることが可能である。
【0010】
かかる扉構造であって、
前記スペーサーは、前記扉の上端及び下端の前記支持部材のうちの、少なくともいずれか一方に設けられていることが望ましい。
【0011】
このような扉構造によれば、
スペーサーは、扉の上端及び下端の支持部材のうちの少なくともいずれか一方に設けられていれば、熱延びによる扉の反りを抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱延びによる反りが生じ難い扉構造を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る扉構造を示す正面図である。
【
図2】本実施形態に係る扉構造を示す縦断面図である。
【
図3】本実施形態に係る扉構造を示す横断面図である。
【
図5】
図5(a)は、上側のピボットヒンジの通常時の状態を示す模式図であり、
図5(b)は、上側のピボットヒンジが火災により加熱されている状態を示す模式図であり、
図5(c)は、火災により扉が熱延びしたときの上側のピボットヒンジの状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、扉構造の実施形態について図を用いて詳細に説明する。
【0017】
本実施形態の扉構造は、
図1に示すように、金属製の枠体1と、枠体1と床4とにより形成される開口5に開閉自在に設けられた扉2とを有し、扉2は支持部材としてのピボットヒンジ3により回動自在に支持されている。
【0018】
枠体1は、例えば、
図2、
図3に示すように、断面がL字状をなし鋼等の金属製の枠部材により形成され、水平方向において互いに間隔を隔てて床4に立設された2本の縦枠材と、2本の縦枠材の上端部間に架け渡された横枠材とが接合されて形成されている。枠体1が床4とともに形成する矩形状の開口5は、回動可能に支持された扉2により閉止可能である。
【0019】
枠体1は、閉じた扉2の上端面及び両側端面と対向する外周部分6と、外周部分6から扉2が設けられる内側に突出して、閉じた扉2における一方の面の周端部が当接される内側突出部7とを有している。
図2、
図3においては、構成を明確にするために、扉2を枠体の内側突出部7から離して示しているが、扉2は閉止している状態で扉2の一方の面が内側突出部7に当接する。ここで、枠体1及び床4が開口5を形成する開口形成部に相当する。
【0020】
図4に示すように、扉2は、矩形のパネル状をなすペーパーハニカム等の芯材8と、芯材8の両面にそれぞれ接着される鋼製の表面材9と、を有している。本実施形態の扉2は、防火区画などの開口部に設ける防火扉ではなく、不燃材で形成された所謂不燃扉であり、両面に接着される表面材9の厚さは、0.8mm未満である。
【0021】
2枚の表面材9は、周端部が互いに対向する側に折り曲げられ、周方向に繋がっている。2枚の表面材9の折り曲げられた周端部は、互いの縁部10が突き合わされ、芯材8は全周が2枚の表面材9により覆われている。
【0022】
ピボットヒンジ3は、扉2の幅方向における一方の端部側(吊り元側)において、扉2の上端を枠体1との間で、また、扉2の下端を床4との間でそれぞれ支持している。ピボットヒンジ3は、扉2側にそれぞれ設けられる金属製の扉側部材11、12と、枠体1側または床4側に設けられる金属製の開口側部材13、14とを有している。扉側部材11、12と開口側部材13、14とは、いずれも扉2の面外方向において同じ側に突出させて取り付けられている。
【0023】
床4に取り付けられる開口側部材(以下、下開口側部材とする)13は、例えば、床4に固定されて上面が平坦に形成された下台座部15と、下台座部15のほぼ中央に設けられ鉛直方向に沿って上方に突出する下軸部16と、下軸部16に挿通されて下台座部15上に載置されたスラストベアリング17と、を有している。スラストベアリング17は、下台座部15の上面に当接されているハウジング軌道板が下軸部16に嵌合され、ハウジング軌道板の上に位置する軸軌道板が、下軸部16周りに回動自在に設けられている。
【0024】
扉2の下端に取り付けられる扉側部材(以下、下扉側部材とする)11は、扉2に固定され下面が平坦に形成され、ほぼ中央に下軸部16が挿入される下挿通孔18が設けられている。扉2は、下扉側部材11の下挿通孔18に下開口側部材13の下軸部16が挿通されてスラストベアリング17上に載置されている。
【0025】
図5(a)に示すように、扉2の上端に取り付けられる扉側部材(以下、上扉側部材とする)12は、扉2に固定され上面が平坦に形成された上台座部19と、上台座部19のほぼ中央に設けられ鉛直方向に沿って上方に突出する、回動軸としての上軸部20と、を有している。
【0026】
枠体1の上側の部位に取り付けられる開口側部材(以下、上開口側部材とする)14は、枠体1に固定されて下面が平坦に形成されている。上開口側部材14には、扉2が枠体1に取り付けられたときに上開口側部材14と上扉側部材12との間に配置される熱可塑性樹脂製のスペーサー22が上開口側部材14と一体に設けられている。上開口側部材14及びスペーサー22には、上軸部20が挿入される上挿通孔23、24が設けられている。上開口側部材14の上挿通孔23には、内周に例えば上軸部20が挿通される軸受けスリーブ(不図示)が嵌入されており、スペーサー22の上挿通孔24は、上軸部20の外径より僅かに大きく形成されている。
【0027】
スペーサー22は、上扉側部材12と僅かな隙間を介して対向しており、その高さHは、例えば、火災等により扉2が熱延びするときの想定される熱延び量Lより高く形成されている。想定される熱延び量Lは、例えば、下記式1により求められる。ここでは、扉高さ2mの扉2の場合について、鉄の線膨張係数αを11.7[μm/(m・K)]、火災時の上昇温度800[K]として説明する。
【0028】
L=11.7×10
−6×800×2 ・・・(式1)
=18.72
想定される熱延び量Lが式1により18.72mmと求められるので、スペーサー22の高さは、この想定される熱延び量Lより高く設定し、例えば、20mmにしておく。
【0029】
枠体1及び床4に取り付けられた扉2は、下開口側部材13にスラストベアリング17を介して支持され、下軸部16及び上軸部20とスラストベアリング17及び軸受けスリーブとにより回動自在に支持されている。
【0030】
本実施形態の扉構造によれば、扉2を枠体1及び床4に回動自在に支持するピボットヒンジ3の上開口側部材14と上扉側部材12との間に熱可塑性樹脂のスペーサー22が介在されているので、火災等により加熱された際には、
図5(b)に示すように、スペーサー22が溶融して上開口側部材14と上扉側部材12との間に隙間Sが生じる。このため、火炎により扉2に熱延びが生じる場合であっても扉2の熱延びは枠体1の上開口側部材14及び床4の下開口側部材13に規制されないので、
図5(c)に示すように、扉2に反りが生じることを抑制することが可能である。このため、熱延びによる反りが生じ難い扉構造を提供することが可能である。また、火災が発生しない場合には、上開口側部材14と上扉側部材12との間がスペーサー22により狭められているので、扉2の回動が安定すると共に意匠性も優れている。
【0031】
また、スペーサー22は、火災時に想定される、扉2の熱膨張による鉛直方向の熱延び量Lより高い高さHを有しているので、熱膨張による扉2の熱延びが枠体1の上開口側部材14及び床4の下開口側部材13に規制されない。このため、より確実に熱延びによる扉2の反りを抑制することが可能である。
【0032】
また、扉2が、厚さが0.8mm未満の鋼製の表面材9を備えた不燃扉であっても、より高い防火性を備えることが可能である。また、熱延びは、厚い鋼板を備えた防火扉より板厚が薄い不燃扉の方が生じやすいので、本実施形態のような表面材9の厚さが0.8mm未満の不燃扉を支持するピボットヒンジ3の上開口側部材14と上扉側部材12との間に熱可塑性樹脂のスペーサー22を備えることがより有効である。
【0033】
本実施形態においては、スペーサー22が上開口側部材14に一体に設けられている例について説明したが、これに限らず、例えば、スペーサー22は上扉側部材12に一体に設けられている、或いは、上開口側部材14と上扉側部材12とのいずれとも一体に設けられておらず上開口側部材14と上扉側部材12との間に介在されていても構わない。また、上記実施形態においては、スペーサー22が、上側のピボットヒンジ3に設けられている例について説明したが、下側のピボットヒンジ3に設けられていても、また、上側及び下側のピボットヒンジ3にそれぞれ設けられていても構わない。上側及び下側のピボットヒンジ3にそれぞれスペーサーが設けられている場合には、各々のスペーサーの高さの和が、火災による扉2の想定される熱延び量Lより高くなるように設定されていることが望ましい。
【0034】
上記実施形態においては、スペーサー22の高さHが想定される熱延び量Lより高く設定されている例について説明したが、これに限らず、スペーサー22の高さが想定される熱延び量より低い場合であっても、火災によりスペーザーが溶融した場合には、設けられているスペーサーの高さ分の隙間が生じるので、扉2に反りが生じることを抑制することは可能であり、火災が発生しない場合には、扉2の回動を安定させると共に優れた意匠性を備えることが可能である。
【0035】
上記実施形態においては、スペーサー22に上軸部20が挿通されている例について説明したが、開口側部材と扉側部材との間に設けられていれば上軸部20が挿通されていなくとも構わない。
【0036】
上記実施形態においては、下開口側部材13の下台座部15に下軸部16が上方に突出し、上扉側部材12の上台座部19に上軸部20が上方に突出している例について説明したが、これに限らず、例えば、下扉側部材に下軸部が下方に突出し、上開口部材に上軸部が下方に突出していても構わない。
【0037】
上記実施形態においては、ピボットヒンジが設けられる開口形成部を枠体1及び床4としたが、例えば枠体が矩形状の場合には上端及び下端共に枠体であっても、また、建物等の梁、まぐさ、天井などであっても構わない。
【0038】
上記実施形態においては、扉2を回動自在に支持する支持部材としてピボットヒンジ3の一例を挙げて説明したが、これに限らず、扉の上端及び下端にて、当該扉を回動自在に支持する支持部材であれば構わない。
【0039】
以上、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0040】
1 枠体(開口形成部)、2 扉、3 ピボットヒンジ(支持部材)、
4 床(開口形成部)、5 開口、6 外周部分、
7 内側突出部、8 芯材、9 表面材、10 縁部、
11 下扉側部材(扉側部材)、12 上扉側部材(扉側部材)、
13 下開口側部材(開口側部材)、14 上開口側部材(開口側部材)、
15 下台座部、16 下軸部、17 スラストベアリング、18 下挿通孔、
19 上台座部、20 上軸部(回動軸)、22 スペーサー、
23 上開口側部材の上挿通孔、24 スペーサーの上挿通孔、
H スペーサーの高さ、L 想定される熱延び量、S 隙間、