(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
図1は、雨量推定装置1及び流入量推定装置2を有するシステムの一例を示す図である。
図1の例においてシステムは、雨量推定装置1、流入量推定装置2、ネットワーク3、雨量計Ra、Rb、Rc、放流量算出部D、流量計Fを有している。なお、システムの構成は
図1に限定されるものではない。
【0015】
雨量推定装置1は、異常状態の雨量計を検出した場合、異常状態の雨量計が過去に正常状態のときに計測した第一の雨量情報と、異常状態の雨量計以外の雨量計が過去に正常状態のときに計測した第二の雨量情報とを用いて、異常状態の雨量計の雨量を推定する。
【0016】
流入量推定装置2は、例えば、ダムなどの貯水設備より上流の水系から、対象の貯水設備(対象貯水設備)へ流入する水の流入量を算出する装置である。
ネットワーク3は、有線(光ファイバを含む)や無線を用いた通信網である。
【0017】
雨量計Ra、Rb、Rcは、雨量(又は降水量)を計測し、計測した雨量を示す情報又は信号を、ネットワーク3を介して雨量推定装置1又は流入量推定装置2に送信する。なお、雨量計Ra、Rb、Rcは、例えば、貯水型雨量計や転倒ます型雨量計などである。以降、雨量を示す情報又は信号を雨量と呼ぶことがある。
【0018】
放流量算出部Dは、対象貯水設備より上流に設けられた貯水設備(上流貯水設備)を管理する施設などに設けられ、上流貯水設備が下流の河川へ向けて水を放流した放流量を算出し、算出した放流量を示す情報又は信号を、ネットワーク3を介して流入量推定装置2に送信する。
【0019】
流量計Fは、対象貯水設備より上流の河川の流量を計測する。流量計Fは、例えば、プロペラ式流量計、スクリュー式流量計、超音波流量計、超音波ドップラー多層流向流速計などである。また、流量計Fは、計測した流量を示す情報又は信号を、ネットワーク3を介して流入量推定装置2に送信する。
【0020】
雨量推定装置1の説明をする。
図2は、雨量推定装置1の一例を示す図である。雨量推定装置1は、計算部20、記憶部21、通信部22を有する。また、計算部20は、雨量計異常検出部23、雨量計選択部24、係数算出部25、雨量推定部26を有する。
【0021】
計算部20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、マルチコアCPU、プログラマブルなデバイス(FPGA(Field Programmable Gate Array)やPLD(Programmable Logic Device)など)を用いて構成される回路である。また、計算部20は、その内部又は外部に記憶部を備え、記憶部に記憶されている雨量推定プログラムを読み出して実行する。
【0022】
記憶部21は、例えば、
図1に示す雨量計Ra、Rb、Rcごとに、雨量計Ra、Rb、Rcそれぞれが過去に計測した雨量と、雨量を計測した日時とを関連付けて雨量情報として記憶する。また、記憶部21は、雨量計Ra、Rb、Rcごとに、雨量計の設置位置を示す位置情報を記憶する。なお、記憶部21は、雨量計それぞれとの距離を示す距離情報を記憶してもよい。更に、記憶部21は、天気、気温、積雪量、降雪量、融雪量、雨量計の異常状態を示す情報と、日時とを関連付けて記憶してもよい。
【0023】
通信部22は、流入量推定装置2や雨量計Ra、Rb、Rcなどの雨量推定装置1の外部に設けられた装置や計測機器などと、ネットワーク3を介して通信をする。
【0024】
雨量計異常検出部23は、例えば、以下に示す(検出1)(検出2)(検出3)の方法などを用いて、異常状態の雨量計を検出する。
【0025】
(検出1):雨量計異常検出部23は、例えば、
図1において雨量計Raから雨量計自体が機器故障をしていることを示す情報又は信号を取得した場合、雨量計Raを異常状態の雨量計として検出する。また、雨量計異常検出部23は、例えば、雨量計Raと雨量推定装置1との間で通信遮断が発生していることを示す情報又は信号を取得した場合、雨量計Raを異常状態の雨量計として検出する。
【0026】
(検出2):雨量計異常検出部23は、記憶部21に記憶されている雨量情報を取得し、雨量情報に異常があるか否かを判定し、雨量情報に異常がある場合、異常がある雨量情報に対応する雨量計を、異常状態の雨量計として検出する。例えば、
図1において雨量計Raの雨量情報に異常がある場合、雨量計異常検出部23は雨量計Raを異常状態の雨量計として検出する。雨量情報に異常があるか否かの判定は、例えば、同じ雨量が一定期間(例えば、一日以上)継続した場合や、記憶部21に記憶された雨量の最大値を超えた場合(過去の雨量の最大値を大きく上回る場合)や、周辺の雨量計が計測した雨量とかけ離れた雨量である場合などに、雨量情報が異常であるとする。なお、同じ雨量が一定期間継続する原因は、例えば、雨量計自体の機器故障や、雨量計と雨量推定装置1との間の通信遮断や、積雪や凍結により雨量計が正常に機能しないことなどが考えられる。
【0027】
(検出3):雨量計異常検出部23は、ネットワーク3を介して天気を示す情報を取得し、雨量計が設置されている地域の天気を特定し、特定した天気とその雨量計の雨量とを比較し、雨量計が異常であるか否かを判定してもよい。例えば、
図1において雨量計Raが設置されている地域に雨が降っているにもかかわらず、雨量計Raが雨量を計測していない場合、雨量計Raを異常状態の雨量計として検出する。
【0028】
雨量計選択部24は、例えば、以下に示す(選択1)(選択2)(選択3)の方法などを用いて、異常状態の雨量計の雨量を推定する際に用いる異常状態の雨量計以外の雨量計を選択する。
【0029】
(選択1):雨量計選択部24は、異常状態の雨量計と相関が高い雨量計を、異常状態の雨量計以外の雨量計として選択する。異常状態の雨量計と相関が高い雨量計とは、例えば、異常状態の雨量計が過去に正常状態であるときに計測した第一の雨量情報と、異常状態の雨量計以外の正常状態の雨量計が過去に計測した第二の雨量情報との相関が高い雨量計である。第一の雨量情報と第二の雨量情報との相関が高いとは、第一の雨量情報と第二の雨量情報とを用いて算出した相関係数が、予め記憶した所定の相関係数より高いことである。所定の相関係数は、過去の雨量情報や実験やシミュレーションにより決定する。
【0030】
図3は、雨量計の選択を説明するための図である。雨量計Raは山1に設置された異常状態の雨量計である。雨量計Rb、Rcは雨量計Raが設置されている山1の斜面と同じ斜面に設置され、雨量計Rd、Reは雨量計Raが設置されている山1の斜面と異なる斜面に設置され、雨量計Rfは山1と異なる山2に設置され、雨量計Rgは山1と異なる山3に設置されている。(選択1)では、例えば、異常状態の雨量計Raの第一の雨量情報と、雨量計Rb、Rc、Rd、Re、Rf、Rgそれぞれの第二の雨量情報との相関係数を用いて算出し、相関係数が所定の相関係数より高い雨量計を、異常状態の雨量計以外の雨量計として選択する。
【0031】
(選択2):雨量計選択部24は、異常状態の雨量計に近い雨量計を、異常状態の雨量計以外の雨量計として選択する。異常状態の雨量計に近い雨量計とは、例えば、異常状態の雨量計と異常状態の雨量計以外の雨量計との距離が、予め記憶された所定の距離内にある雨量計を、異常状態の雨量計以外の雨量計として選択する。(選択2)の手法を用いる理由は、異常状態の雨量計と異常状態の雨量計以外の雨量計との相関は、異常状態の雨量計との距離が遠くなるほど低くなる傾向があるため、所定の距離Lthにある雨量計を使用する。
【0032】
例えば、
図3に示す異常状態の雨量計Raと、雨量計Rb、Rc、Rd、Re、Rf、Rgそれぞれとの距離Lab、Lac、Lad、Lae、Laf、Lagを、記憶部21に記憶されている雨量計Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、Rgそれぞれの位置情報Pa、Pb、Pc、Pd、Pe、Pf、Pgに基づいて算出する。続いて、算出した距離Lab、Lac、Lad、Lae、Laf、Lagそれぞれと所定の距離Lthとを比較し、所定の距離Lthより短い距離に設置されている雨量計がある場合、その雨量計を異常状態の雨量計以外の雨量計として選択する。所定の距離Lthは、過去の雨量情報や実験やシミュレーションにより決定する。なお、上記では位置情報を用いて距離を算出したが、記憶部21に距離情報が記憶されている場合には、距離情報を距離として用いてもよい。
【0033】
また、雨量計Raを中心に所定の距離Lth内に雨量計が設置されている場合でも、その雨量計が標高の高い山の山頂を挟んだ逆側に設置されている場合、例えば、
図3に示す雨量計Raと雨量計Rd、Reとの位置関係にあるような場合は、雨の降り方が変わるため、その雨量計を選択しなくてもよい。
【0034】
また、雨量計それぞれが設置されている環境により、所定の距離Lthは変更してもよい。例えば、標高差や季節風の影響などにより変更することが望ましい。
【0035】
(選択3):雨量計選択部24は、異常状態の雨量計と相関が高く、かつ異常状態の雨量計に近い雨量計を、異常状態の雨量計以外の雨量計として選択してもよい。
【0036】
なお、(選択1)(選択2)(選択3)において選択する雨量計は一つ以上あればよいが、局所的に雨が降る場合もあるため、雨量計は複数使用することが望ましい。
【0037】
図2の係数算出部25は、異常状態の雨量計と相関が高い雨量計がある場合、すなわち(選択1)(選択3)で相関が高い雨量計を選択した場合、回帰式の係数又は重み付け平均の重みを算出する。また、係数算出部25は、異常状態の雨量計と相関が高い雨量計がない場合、すなわち(選択1)で相関が高い雨量計が選択できなかった場合、異常状態の雨量計と(選択2)で選択した異常状態の雨量計以外の雨量計との距離を用いて、距離係数を算出する。なお、係数算出部25の詳細については後述する。
【0038】
図2の雨量推定部26は、異常状態の雨量計と相関が高い雨量計がある場合、すなわち(選択1)(選択3)で相関が高い雨量計を選択した場合、係数算出部25で算出した回帰式の係数又は重み付け平均の重みと、異常状態の雨量計以外の雨量計が計測した雨量とを用いて異常状態の雨量計の雨量を推定する。また、雨量推定部26は、異常状態の雨量計と相関が高い雨量計がない場合、すなわち(選択1)で相関が高い雨量計が選択できなかった場合、係数算出部25で算出した距離係数と、異常状態の雨量計以外の雨量計が計測した雨量とを用いて異常状態の雨量計の雨量を推定する。なお、雨量推定部26の詳細については後述する。
【0039】
異常状態の雨量計の雨量推定について説明をする。
図4は、雨量推定装置1の動作の一例を示す図である。ステップS1において、雨量推定装置1(雨量計異常検出部23)は異常状態の雨量計を検出する。異常状態の雨量計を検出した場合(S1:Yes)にはステップS2の処理に移行し、異常状態の雨量計を検出しない場合(S1:No)にはステップS2からS4に示す処理をせずに終了する(
図4に示す処理をしない)。
【0040】
ステップS2において、雨量推定装置1(雨量計選択部24)は、異常状態の雨量計と相関が高い雨量計がある場合(S2:Yes)にはステップS3に移行する(上記(選択1)(選択3))。なお、異常状態の雨量計と相関が高い雨量計がない場合(S2:No)にはステップS4に移行する(上記(選択2))。なお、上記(選択1)(選択2)(選択3)の選択は手動で行ってもよい。
【0041】
ステップS3において、雨量推定装置1(係数算出部25)は、異常状態の雨量計の第一の雨量情報と、選択した雨量計の第二の雨量情報との相関係数を用いて、回帰式の係数または重み付け平均の重みを算出する。続いて、雨量推定装置1(雨量推定部26)は、回帰式の係数または重み付け平均の重みと選択した雨量計が計測した雨量とを用いて異常状態の雨量計の雨量を推定する。
【0042】
ステップS4において、雨量推定装置1(係数算出部25)は、異常状態の雨量計と選択した雨量計の距離とを用いて距離係数を算出する。続いて、雨量推定装置1(雨量推定部26)は、距離係数と選択した雨量計が計測した雨量とを用いて異常状態の雨量計の雨量を推定する。
【0043】
ステップS3について説明をする。係数算出部25は、以下に示す(相関1)〜(相関5)の方法を用いて、異常状態の雨量計の雨量を推定する際に用いる係数(回帰式の係数又は重み付け平均の重み)を算出する。
【0044】
(相関1):雨量推定装置1(係数算出部25)は、異常状態の雨量計と相関が高い選択した雨量計が一つの場合、相関が高い雨量計の雨量を異常状態の雨量計の雨量(推定値)とする。また、推定値には係数α1を乗算してもよいものとする。係数α1は、異常状態の雨量計の第一の雨量情報と、選択した雨量計の第二の雨量情報とで回帰分析を行い、回帰式の係数A1を係数α1とする。例えば、
図3に示す雨量計Raと相関が高い雨量計が雨量計Rbしかない場合、雨量計Raと雨量計Rbの回帰式の係数がA1であれば、回帰式の係数A1を係数α1とする。
【0045】
続いて、雨量推定装置1(雨量推定部26)は、係数α1と選択した雨量計が計測した雨量とを用いて異常状態の雨量計の雨量を推定する。式1を参照。
【0046】
ERa=α1×Rbm 式1
ERa:雨量計Raの推定雨量[mm/h]
【0047】
なお、式1では、係数として回帰式の係数α1を用いて雨量を推定したが、式1に更に回帰式の切片を足してもよい。
【0048】
(相関2):雨量推定装置1(係数算出部25)は、異常状態の雨量計と相関が高い選択した雨量計が複数ある場合、異常状態の雨量計の第一の雨量情報と、選択した雨量計それぞれの第二の雨量情報との相関係数を用いて、選択した雨量計ごとに相関推定係数を算出する。すなわち、雨量推定装置1(係数算出部25)は、選択した雨量計ごとに算出した相関係数それぞれを、算出した相関係数の総和で除算し、選択した雨量計ごとに相関推定係数(重み付け平均の重み)を算出する。
【0049】
続いて、雨量推定装置1(雨量推定部26)は、選択した雨量計ごとに算出した相関推定係数と、選択した雨量計が計測した雨量とを用いて、異常状態の雨量計の雨量を推定する。すなわち、選択した雨量計ごとに、相関推定係数とその相関推定係数に対応する雨量計が計測した雨量とを乗算し、乗算した値すべてを加算し、加算した値を異常状態の雨量計が計測したと見做せる雨量(推定雨量)とする。
【0050】
例えば、
図3に示す雨量計Raと相関が高い雨量計が雨量計Rb、Rcの場合、雨量計Raと雨量計Rbの相関係数がAで、雨量計Raと雨量計Rcの相関係数がBであれば、雨量推定装置1(係数算出部25)は、相関係数A、Bを用いて相関推定係数α、βを算出する。式2を参照。
【0051】
α=A/(A+B) 式2
β=B/(A+B)
【0052】
続いて、雨量推定装置1(雨量推定部26)は、相関推定係数α、βと、相関推定係数αに対応する雨量計Rbが計測した雨量Rbmと、相関推定係数βに対応する選択した雨量計Rcが計測したRcmとを用いて、異常状態の雨量計Raの雨量を推定する。式3を参照。
【0053】
ERa=α×Rbm+β×Rcm 式3
ERa:雨量計Raの推定雨量[mm/h]
Rbm:雨量計Rbが計測した雨量[mm/h]
Rcm:雨量計Rcが計測した雨量[mm/h]
【0054】
なお、選択した雨量計が三つ以上の場合も同様の方法で算出することができる。
【0055】
(相関3):(相関2)では、式3を用いて雨量計Raの雨量を推定したが、異常状態の雨量計と相関が高い雨量計Rb、Rcがある場合、所定時間1に雨量計Rbが計測した複数の雨量の平均又は重み付け平均と、所定時間2に雨量計Rcが計測した複数の雨量の平均又は重み付け平均とを加算して、異常状態の雨量計Raの雨量を推定してもよい。所定時間1は、異常状態の雨量計Raと選択した雨量計Rbとの距離、標高差及び周辺環境により決まり、所定時間2は、異常状態の雨量計Raと選択した雨量計Rcとの距離、標高差及び周辺環境により決まる。
【0056】
なお、選択した雨量計が三つ以上の場合も同様の方法で算出することができる。
【0057】
(相関4):雨量推定装置1(係数算出部25)は、異常状態の雨量計の第一の雨量情報と、選択した雨量計の第二の雨量情報との間に時間に依存する相関がある場合、時間に依存する影響を考慮して相関推定係数を算出する。言い換えると、雨量推定装置1(係数算出部25)は、第一の雨量情報と第二の雨量情報との相関が時間に依存する場合、第一の雨量情報と、第一の雨量情報に対して時間ズレのある第二の雨量情報それぞれに対して相関推定係数を算出する。なお、時間に依存する原因は、例えば、異常状態の雨量計との距離が遠いことなどが考えられる。
【0058】
図5は、雨量計情報51のデータ構造の一例を示す図である。雨量計情報51は、識別番号、雨量情報、位置情報を有する。識別情報は、雨量計を識別する情報で、例えば、雨量計を識別する「Ra」「Rb」「Rc」「Rd」「Re」「Rf」などを示す情報が記憶されている。雨量情報は、雨量を計測した日時と計測した雨量とが関連付けられた情報である。例えば、識別番号「Ra」に対応する雨量情報には、「日時1」と「日時1」に計測した雨量「Da1」、「日時2」と「日時2」に計測した雨量「Da2」、「日時3」と「日時3」に計測した雨量「Da3」、「日時4」と「日時4」に計測した雨量「Da4」、「日時5」と「日時5」に計測した雨量「Da5」、「日時6」と「日時6」に計測した雨量「Da6」が関連付けられている。なお、識別番号「Rb」から「Rf」についても、同じように雨量を計測した日時と、その日時に計測した雨量とが関連付けられている。また、
図5において日時は、「日時1」が最新の日時を示し、新しい日時順に「日時2」、「日時3」、「日時4」、「日時5」、「日時6」を示している。
【0059】
例えば、
図5において、雨量計Raの雨量情報「Da1」「Da2」「Da3」「Da4」(日時1から日時4まで第一の雨量情報)と、雨量計Rdの雨量情報「Dd2」「Dd3」「Dd4」「Dd5」(「日時2」から「日時5」までの第二の雨量情報)とに、所定時間3の時間ズレがある時間に依存する相関があるとする。その場合、雨量推定装置1(係数算出部25)は、第一の雨量情報「Da1」「Da2」「Da3」「Da4」と、雨量計Rfの第二の雨量情報「Dd2」「Dd3」「Dd4」「Dd5」との相関係数Atを算出する。
【0060】
また、
図5において、雨量計Raの雨量情報「Da1」「Da2」「Da3」「Da4」(「日時1」から「日時4」まで第一の雨量情報)と、雨量計Reの雨量情報「De3」「De4」「De5」「De6」(「日時3」から「日時6」までの第二の雨量情報)とに、所定時間4の時間ズレがある時間に依存する相関があるとする。その場合、雨量推定装置1(係数算出部25)は、第一の雨量情報「Da1」「Da2」「Da3」「Da4」と、雨量計Reの第二の雨量情報「De3」「De4」「De5」「De6」との相関係数Btを算出する。
【0061】
なお、所定時間3は、異常状態の雨量計Raと選択した雨量計Rbとの距離、標高差など周辺環境により決まり、所定時間4は、異常状態の雨量計Raと選択した雨量計Rcとの距離、標高差などの周辺環境により決まる。
【0062】
続いて、雨量推定装置1(係数算出部25)は、雨量計Raと雨量計Rdとの相関係数Atと、雨量計Raと雨量計Reとの相関係数Btとを用いて、相関推定係数αt、βtを算出する。式4を参照。
【0063】
αt=At/(At+Bt) 式4
βt=Bt/(At+Bt)
【0064】
続いて、雨量推定装置1(雨量推定部26)は、相関推定係数αt、βtと、相関推定係数αtに対応する雨量計Rfが「日時2」に計測した雨量Rfmt(現在の時刻より所定時間3前の時刻に計測した雨量)と、相関推定係数βtに対応する選択した雨量計Rcが「日時3」に計測したRgmt(現在の時刻t0より所定時間4前の時刻に計測した雨量)とを用いて、異常状態の雨量計Raの雨量を推定する。式5を参照。
【0065】
ERa=αt×Rfmt+βt×Rgmt 式5
ERa:雨量計Raの推定雨量[mm/h]
Rfmt:雨量計Rfが計測した雨量[mm/h]
Rgmt:雨量計Rgが計測した雨量[mm/h]
【0066】
なお、選択した雨量計が三つ以上の場合も同様の方法で算出することができる。
【0067】
(相関5):(相関4)では、式5を用いて雨量計Raの雨量を推定したが、異常状態の雨量計と時間に依存する相関が高い雨量計Rf、Rgがある場合、所定時間3に雨量計Rfが計測した複数の雨量の平均又は重み付け平均と、所定時間4に雨量計Rgが計測した複数の雨量の平均又は重み付け平均とを加算して、異常状態の雨量計Raの雨量を推定してもよい。
【0068】
なお、選択した雨量計が三つ以上の場合も同様の方法で算出することができる。
【0069】
ステップS4について説明をする。
(距離):雨量推定装置1(係数算出部25)は、異常状態の雨量計と相関が高い雨量計がない場合((選択1)で相関が高い雨量計が選択できなかった場合)、異常状態の雨量計と(選択2)で選択した雨量計との距離を用いて、距離係数を算出する。
【0070】
続いて、雨量推定装置1(雨量推定部26)は、選択した雨量計ごとに算出した距離係数と、選択した雨量計が計測した雨量とを用いて、異常状態の雨量計の雨量を推定する。すなわち、選択した雨量計ごとに、距離係数とその距離係数に対応する雨量計が計測した雨量とを乗算し、乗算した値すべてを加算し、加算した値を異常状態の雨量計が計測したと見做せる雨量(推定雨量)とする。
【0071】
例えば、雨量推定装置1(係数算出部25)は、異常状態の雨量計Ra以外の雨量計として雨量計Rb、Rcが選択された場合、雨量計Raと雨量計Rbとの距離Labと、雨量計Raと雨量計Rcとの距離Lacとを用いて、距離係数αL、βLを算出する。式6を参照。距離係数は、推定したい雨量計までの距離が小さいほど、大きな値となるように設定すればよい。
【0072】
αL=Lac/(Lab+Lac) 式6
βL=Lab/(Lab+Lac)
(Lab+Lac):距離の総和
【0073】
続いて、雨量推定装置1(雨量推定部26)は、距離係数αL、βLと、距離係数αLに対応する雨量計Rbが計測した雨量Rbmと、距離係数βLに対応する選択した雨量計Rcが計測したRcmとを用いて、異常状態の雨量計Raの雨量を推定する。式7を参照。
【0074】
ERa=αL×Rbm+βL×Rcm 式7
ERa:雨量計Raの推定雨量[mm/h]
Rbm:雨量計Rbが計測した雨量[mm/h]
Rcm:雨量計Rcが計測した雨量[mm/h]
【0075】
なお、選択した雨量計が三つ以上の場合も同様の方法で算出することができる。
【0076】
このように上記雨量推定装置1を用いることにより、異常状態の雨量計を検出した場合、異常状態の雨量計が過去に正常状態のときに計測した第一の雨量情報と、異常状態の雨量計以外の雨量計が過去に計測した第二の雨量情報とを用いて、異常状態の雨量計の雨量を推定することができる。
【0077】
流入量推定装置2について説明をする。
【0078】
図6は、流入量の推定を説明するための図である。
図6には、河川60(本川)と、河川60に合流する支川61と、流入量を推定するシステムが示されている。対象貯水設備62は、河川60と支川61とが合流する位置より下流に設けられている。対象貯水設備62を管理・制御するための施設63には、雨量推定装置1と流入量推定装置2が設けられている。また、合流する位置より上流に上流貯水設備64が設けられ、上流貯水設備64を管理・制御するための施設65には放流量算出部Dが設けられている。また、合流する位置と上流貯水設備64との間に雨量計Raが設けられ、支川61には流量計Fと雨量計Rbとが設けられている。なお、施設63と施設65とは、通信線66(ネットワーク3)などを介して通信をする。なお、システムの構成は
図6に限定されるものではない。
【0079】
図7は、流入量推定装置2の一例を示す図である。流入量推定装置2は、記憶部71、通信部72、流入量推定部73を有する。また、流入量推定装置2は、貯水設備へ流入する水の流入量を推定する。ただし、流入量の推定は貯水設備に限らず、例えば水力発電設備、水処理設備、下水処理設備などに流入する水の流入量を推定してもよい。
【0080】
記憶部71は、例えば、
図6に示す雨量計Ra、Rbごとに、雨量計Ra、Rbそれぞれが過去に計測した雨量と、雨量を計測した日時とを関連付けて雨量情報として記憶する。また、記憶部71は、例えば、
図6に示す放流量算出部Dが過去に算出した上流貯水設備64が放流した放流量と、放流した日時とを関連付けて放流量情報として記憶する。また、記憶部71は、例えば、
図6に示す流量計Fが過去に計測した流量と、流量を算出した日時とを関連付けて流量情報として記憶する。
【0081】
通信部72は、例えば、
図6に示す雨量推定装置1、放流量算出部D、雨量計Ra、流量計F、雨量計Rbなどの装置や計測機器と、通信線66を含むネットワーク3などを介して通信をする。
【0082】
流入量推定部73は、対象貯水設備62へ流入する現在又は所定時間先の流入量を推定する。例えば、
図6に示す放流量算出部Dが過去に算出した放流量情報、流量計Fが過去に計測した流量情報、雨量計Ra、Rbが過去に計測した雨量情報を用いて、対象貯水設備62へ流入する現在又は所定時間先の流入量を推定する。
【0083】
なお、流入量推定部73は、例えば、CPU、マルチコアCPU、プログラマブルなデバイス(FPGAやPLDなど)を用いて構成される回路である。また、流入量推定部73は、その内部又は外部に記憶部を備え、記憶部に記憶されている流入量推定プログラムを読み出して実行する。
【0084】
流入量の推定について説明をする。
例えば、
図6において、対象貯水設備62への流入量IFaは、放流量算出部Dが過去に算出した放流量と、流量計Fが過去に計測した流量と、雨量計Ra、Rbが過去に計測した雨量とを用いて算出をする。式8を参照。
【0085】
IFa= kt×Dmt+lt×Ramt+mt×Fmt+nt×Rbmt 式8
IFa:対象貯水設備62への流入量[m
3/s]
kt:放流量を補正する係数
Dmt:上流貯水設備64の放流量[m
3/s]
lt:雨量から流量を算出するための係数
Ramt:雨量計Raの雨量[mm/h]
mt:流量を補正する係数
Fmt:流量計Fの流量[m
3/s]
nt:雨量から流量を算出するための係数
Rbmt:雨量計Rbの雨量[mm/h]
【0086】
放流量Dmtは、例えば、上流貯水設備64から放流した水が対象貯水設備62に到達するまでにかかる時間を所定時間5とした場合、所定時間5前から現在の時刻までに算出した放流量を用いて算出する。例えば、所定時間5が5.0[h]で、算出周期が1.0[h]である場合、所定時間5に算出した放流量Dmt(Dmt1、Dmt2、Dmt3、Dmt4、Dmt5)それぞれに係数ktを乗算し、乗算した値の総和を放流量とする(kt×Dmt)。所定時間5は、上流貯水設備64から対象貯水設備62までの距離、標高差などの周辺環境により決まる。係数ktは、放流量を補正する係数で、過去の放流量を用いて算出する。
【0087】
雨量計Raの計測した雨量Ramtは、雨量計Ra付近に降った雨が河川60から対象貯水設備62に流れ出る流量と関係があるので、例えば、雨量計Ra付近に降った雨が対象貯水設備62に到達するまでにかかる時間を所定時間6とした場合、所定時間6前から現在の時刻までに雨量計Raが計測した雨量を用いて、対象貯水設備62に流れる雨の流量を算出する。例えば、所定時間6が6.0[h]で、算出周期が1.0[h]である場合、所定時間6に算出した放流量Ramt(Ramt1、Ramt2、Ramt3、Ramt4、Ramt5、Ramt6)それぞれに係数ltを乗算し、乗算した値の総和を流量とする(lt×Ramt)。所定時間6は、雨量計Raの設置位置と河川60までの距離、標高差などの周辺環境により決まる。係数ltは、雨量計Raの計測した雨量を、雨量計Ra付近に降った雨が河川60から対象貯水設備62に流れ出る流量に変換する。係数ltは、過去に雨量計Raが計測した雨量を用いて算出する。
【0088】
放流量Fmtは、例えば、流量計Fが計測して流量が対象貯水設備62に到達するまでにかかる時間を所定時間7とした場合、所定時間7前から現在の時刻までに計測した放流量を用いて算出する。例えば、所定時間7が7.0[h]で、算出周期が1.0[h]である場合、所定時間7に算出した放流量Fmt(Fmt1、Fmt2、Fmt3、Fmt4、Fmt5、Fmt6、Fmt7)それぞれに係数mtを乗算し、乗算した値の総和を流量とする(mt×Fmt)。所定時間7は、流量計Fの設置位置と支川61までの距離、標高差などの周辺環境により決まる。係数mtは、流量を補正する係数で、過去の流量を用いて算出する。
【0089】
雨量計Rbの計測した雨量は、雨量計Rb付近に降った雨が支川61から対象貯水設備62に流れ出る流量と関係があるので、例えば、雨量計Rb付近に降った雨が対象貯水設備62に到達するまでにかかる時間を所定時間8とした場合、所定時間8前から現在の時刻までに雨量計Rbが計測した雨量を用いて、対象貯水設備62に流れる雨の流量を算出する。例えば、所定時間8が8.0[h]で、算出周期が1.0[h]である場合、所定時間8に算出した放流量Rbmt(Rbmt1、Rbmt2、Rbmt3、Rbmt4、Rbmt5、Rbmt6、Rbmt7、Rbmt8)それぞれに係数ntを乗算し、乗算した値の総和を流量とする(nt×Rbmt)。所定時間8は、雨量計Rbの設置位置と支川61までの距離、標高差などの周辺環境により決まる。係数ntは、雨量計Rbの計測した雨量を、雨量計Rb付近に降った雨が支川61から対象貯水設備62に流れ出る流量に変換する。係数ntは、過去に雨量計Rbが計測した雨量を用いて回帰分析により算出する。
【0090】
また、係数kt、lt、mt、ntは、ニューラルネットワークなどの機械学習により適宜実績値に合うように学習させて算出してもよい。
【0091】
なお、対象貯水設備の上流に、上流貯水設備、流量計、雨量計が複数ある場合は、式8の各項数を増やして対応する。
【0092】
雨量計が異常状態である場合における流入量の推定について説明をする。
流入量推定部73は、異常状態の雨量計がある場合でも、雨量推定装置1が異常状態の雨量計に対して推定した雨量を用いて、対象貯水設備62へ流入する水の流入量を推定する。
【0093】
図6の例では、雨量計Raが異常状態である場合には、雨量推定装置1で推定した雨量計Raの推定雨量を用いて流入量IFaを推定する。また、雨量計Rbが異常状態である場合には、雨量推定装置1で推定した雨量計Rbの推定雨量を用いて流入量IFaを推定する。
【0094】
このように、異常状態の雨量計がある場合でも、異常状態の雨量計の推定雨量を用いることで、対象貯水設備62への流入量IFaを推定できる。
【0095】
なお、流入量推定装置2に雨量推定装置1の機能を設けてもよい。
【0096】
また、上記と異なる流入量推定方法(例えば、特許第3693089号など)において、異常状態の雨量計がある場合でも、雨量推定装置1が推定した異常状態の雨量計の推定雨量を用いることで、現在又は所定時間先の対象貯水設備への総流入量を推定できる。
【0097】
このように、対象貯水設備への現在又は数時間先の流入量の推定をすることで、対象貯水設備の運用の安全性を向上させることができる。例えば、降雨時の対象貯水設備の放流量を適切に設定して流域の安全性確保に役立てることができる。
【0098】
また、対象貯水設備の数時間先から数日先の流入量の推定をすることで、発電計画における水力エネルギーの有効利用やコスト削減ができる。
【0099】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0100】
また、上述した
図2に示した計算部20で実行される雨量推定プログラム、又は、
図6に示した流入量推定部73で実行される流入量算出プログラムをシミュレーションモデルとして記憶媒体に記憶し、
図8に示すコンピュータで実行させてもよい。
【0101】
図8は、コンピュータのハードウェアの一例を示す図である。
図8の例ではコンピュータには、バス80に対して、CPU81、RAM82(Random Access Memory)、ROM83(Read Only Memory)、記録媒体84、通信インタフェース85、入出力インタフェース86が接続される。CPU81は、RAM82に記憶されたプログラムを実行する。ROM83は、RAM82に記憶されるプログラムを記憶する不揮発性の記憶装置である。記録媒体84は、例えば、可搬型記録媒体で可搬型のメモリ(例えば、半導体メモリ)や光学式ディスク(例えば、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc))などである。また、記録媒体84には、上述した雨量推定プログラム及び流入量算出プログラムをシミュレーションモデルとして記録する。通信インタフェース85は、外部装置との通信を行うインタフェースであって、例えば、ホストコンピュータなどと通信を行う。入出力インタフェース86は、入力装置(例えば、キーボードやマウスなど)や出力装置(例えば、モニタやプリンタなど)である。なお、RAM82、ROM83、記録媒体84は、いずれもコンピュータが読み取り可能な有形の記憶媒体の一例である。これらの有形な記憶媒体は、信号搬送波のような一時的な媒体ではない。