(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0018】
<A.近接センサの構成>
まず、本実施の形態に係る近接センサ1の構成について説明する。本実施の形態に係る近接センサ1は、検出体Wの有無または位置を検出結果として出力する。検出体Wとしては、金属などの導電性の物体が想定される。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る近接センサ1の斜視図である。
図2は、
図1に示す近接センサ1のA−A線矢視断面図である。
【0020】
図1を参照して、近接センサ1は、本体部2と、本体部2に接続されたリード線4とを有する。近接センサ1には、ナット12,14、および、ナット12とナット14との間に配置された座金10がさらに装着されてもよい。
【0021】
本体部2は、筒状の筐体6と、筐体6の一端に配置された円形の検出面8とを有する。検出面8は、筐体6に嵌め込まれるキャップの一部分として構成されてもよい。筐体6の表面には、ナット12,14用のネジ溝が形成されている。さらに、本体部2には、図示しない動作表示灯などが配置されていてもよい。
【0022】
ナット12,14および座金10は、本体部2を装置等の支持部材に取り付けるために用いられる。例えば、ナット12とナット14との間に取付金具(たとえば、L字状の金具)の一部を挟み込むことによって、本体部2を支持部材に固定することができる。
【0023】
図2を参照して、本体部2の筐体6内には、検出コイル16と、フィライトコア18と、基板上に素子が配置された処理回路20とを有する。筐体6内には、樹脂が充填されて、外部から封止される。
【0024】
検出コイル16は、環状または略環状のコイルが用いられる。筐体6の中心軸M上に検出コイル16の実質的な中心が位置するように構成される。検出コイル16は、処理回路20と電気的に接続されている。処理回路20は、リード線4を介して、電力の供給を受けるとともに、検出結果などを外部出力する。
【0025】
検出コイル16の近傍には、外部温度センサ44が配置されてもよい。外部温度センサ44により検出された温度は、処理回路20へ出力される。
【0026】
なお、
図1には、リード線4が本体部2に直接接続されている構成を示すが、両者の間を着脱可能なコネクタ接続としてもよい。また、本体部2を所定位置に配置するための構成としては、
図1に示すようなナット12,14および座金10を用いた構成だけではなく、任意の支持部材を用いることができる。本実施の形態に従う近接センサ1は、主として、本体部2に従来技術とは異なる構成を有しており、支持部材への取付形態などは任意の構造を採用できる。
【0027】
<B.処理回路の構成>
次に、近接センサ1を構成する処理回路20の構成例について説明する。
図3は、本実施の形態に係る近接センサ1を構成する処理回路20の構成例を示すブロック図である。
【0028】
図3を参照して、処理回路20は、主回路30と、インターフェイス回路62と、保護回路60とを含む。主回路30は、検出コイル16およびキャパシタ17を含む検出部22に接続されている。
【0029】
主回路30は、検出コイル16を発振させるとともに、検出コイル16の発振状態を監視する。より具体的には、主回路30は、制御演算回路32と、発振回路34と、アナログ/デジタル変換回路(以下、「A/D(Analog to Digital)変換回路」とも記す。)36と、内部温度センサ38と、記憶部40と、電源回路50とを含む。
【0030】
制御演算回路32は、処理回路20において主要な処理を実行する回路である。より具体的には、制御演算回路32は、発振回路34に対して発振制御信号を出力するとともに、A/D変換回路36からの検出信号(デジタル信号)の入力を受けて、検出体Wの有無を検出する処理、および/または、検出体Wまでの距離を検出する処理を実行する。このとき、制御演算回路32は、内部温度センサ38および/または外部温度センサ44により検出された温度、および、記憶部40に格納されている特性パラメータ42を参照して、検出部22の電気的特性の温度依存性を補償する。
【0031】
本実施の形態においては、特性パラメータ42として、近接センサ1の各々の固有値が格納される。すなわち、記憶部40には、近接センサ1に固有の特性パラメータ42が予め格納される。このような特性パラメータ42の決定処理および特性パラメータ42を用いた補償処理については後述する。
【0032】
このように、制御演算回路32は、A/D変換回路36からのデジタル信号を処理することで、検出体Wまでの距離を示す信号を算出するとともに、当該算出した信号を記憶部40に格納されている特性パラメータ42を用いて補償した上で、検出結果として出力する。
【0033】
発振回路34は、制御演算回路32からの発振制御信号に従って、高周波の励振電流を生成し、検出部22を励振する。発振回路34からの励振電流の周波数は、検出部22の共振周波数などを考慮して決定される。
【0034】
検出部22は、検出コイル16および検出コイル16と並列接続されたキャパシタ17を含む。検出コイル16のL成分およびキャパシタ17のC成分によって、検出部22は、LC並列共振回路(LCタンク回路)を構成する。発振回路34が励振することで、検出体Wが存在しなければ、検出部22のLC並列共振回路は共振状態になる。なお、
図3には、説明の便宜上、検出コイル16およびキャパシタ17の並列回路を示すが、これに限らず、検出コイル16を含む共振回路であれば、どのような回路を採用してもよい。
【0035】
A/D変換回路36は、検出部22の両端に生じる電圧(アナログ信号)に対してA/D変換を行って、デジタル信号を出力する。A/D変換回路36から出力されるデジタル信号は、制御演算回路32へ与えられる。すなわち、A/D変換回路36は、検出部22に生じる信号変化を検出し、検出した信号変化を示すデジタル信号を出力する。
【0036】
記憶部40は、再書込可能な不揮発性記憶装置であり、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)などが用いられる。記憶部40には、特性パラメータ42に加えて、制御演算回路32において処理を実行するのに必要なプログラムおよびデータが格納される。
【0037】
近接センサ1には、近接センサ1の筐体6内の温度を検出する温度検出部が設けられる。
【0038】
より具体的には、温度検出部の一例である内部温度センサ38は、制御演算回路32と同一基板上に配置される(第1の温度センサ)。内部温度センサ38を制御演算回路32とともに主回路30の一部として実装することで、温度検出部の配置に係るコストを低減できる。
【0039】
また、温度検出部の別の一例である外部温度センサ44は、内部温度センサ38に比較してより検出部22に近い位置に配置される。すなわち、外部温度センサ44は、近接センサ1の筐体6内であって、処理回路20とは異なる位置に配置される。外部温度センサ44は、電源回路50などの発熱源から離れた位置であって、かつ、検出部22の近傍に配置されることが好ましい。外部温度センサ44は、処理回路20に含まれる電源回路50などによる発熱の影響を低減しつつ、検出部22の温度をより高い精度で測定するために配置されてもよい。
【0040】
内部温度センサ38および/または外部温度センサ44としては、例えば、サーミスタ、白金などからなる測温抵抗体、または熱電対を用いることができる。
【0041】
なお、内部温度センサ38および外部温度センサ44の両方を実装する必要はなく、いずれか一方の温度センサのみを実装するようにしてもよい。
【0042】
以下では、温度検出部(内部温度センサ38および/または外部温度センサ44)により検出される温度を「筐体内温度」と総称する。
【0043】
電源回路50は、外部電源から電力供給を受けて、主回路30および周辺回路を駆動するための電力を発生する。電源回路50は、例えば、スイッチングレギュレータを含む回路が採用される。
【0044】
インターフェイス回路62は、主回路30と外部装置との間でデータの遣り取りを仲介するための回路であり、例えば、制御演算回路32において算出された検出結果を外部装置へ出力するとともに、外部装置からの制御信号を制御演算回路32へ与える。
【0045】
また、インターフェイス回路62は、温度検出部(内部温度センサ38および外部温度センサ44)により検出された温度を示す信号を外部出力する。さらに、インターフェイス回路62は、記憶部40に書込まれる特性パラメータ42を受付ける。すなわち、記憶部40には、インターフェイス回路62により受付けられた特性パラメータが書込まれる。これらの温度を示す信号および特性パラメータ42の遣り取りについては、後述する。
【0046】
保護回路60は、リード線4を構成する各信号線を介して伝送される信号に侵入し得るサージやノイズなどを抑制する。
【0047】
なお、図示しない表示装置などが近接センサ1と接続されていてもよい。この場合には、処理回路20から表示装置に対して制御信号が与えられてもよい。
【0048】
例えば、主回路30は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを用いてパッケージ化されてもよい。処理回路20の実装形態については、特に限定されることなく、任意の実装形態を採用できる。
【0049】
<C.動作原理>
次に、本実施の形態に係る近接センサ1の動作原理について説明する。
【0050】
動作状態において、近接センサ1の処理回路20の発振回路により検出コイル16が励振される。発振回路の励振により検出コイル16に対して高周波の励振電流が供給されることで、検出コイル16から高周波磁界が発生する。一方、検出コイル16が発生する高周波磁界中に金属物体である検出体Wが接近すると、電磁誘導現象により検出体W中に誘導電流が流れ、検出体W内に熱損失(抵抗損失)が発生する。
【0051】
検出体Wに生じる熱損失が大きくなることで、発振回路による検出コイル16の発振状態への影響が大きくなり、発振振幅が減衰し、あるいは、発振自体を維持できなくなる。このような発振状態の変化に基づいて、検出体Wの有無、または、検出体Wまでの距離を検出できる。
【0052】
図4は、本実施の形態に係る近接センサ1の動作原理を説明するための図である。
図4(A)は、近接センサ1の検出可能範囲内に検出体Wが存在しない場合に、主回路30のA/D変換回路36により検出される検出信号の時間波形の一例である。
図4(A)に示すように、近接センサ1の検出可能範囲内に検出体Wが存在しない場合には、検出部22が発振状態にある。
【0053】
図4(B)および(C)は、近接センサ1の検出可能範囲内に検出体Wが存在する場合に、主回路30のA/D変換回路36により検出される検出信号の時間波形の一例である。
図4(B)に示す時間波形は、発振状態が維持されているものの、その振幅は、
図4(A)に示す発振波形に比較して振幅が小さくなっていることが分かる。
図4(C)に示す時間波形は、検出体Wが近接センサ1により近付いた状態に対応する。
図4(C)に示す時間波形は、発振状態が維持されていないことを示す。
【0054】
図4(A)〜
図4(C)に示すように、近接センサ1に対して検出体Wが接近することで、検出部22の発振状態が変化する。すなわち、検出部22の発振状態の変化に基づいて、検出体Wの有無または検出体Wまでの距離を検出できる。
【0055】
<D.検出処理および温度補償>
次に、本実施の形態に係る近接センサ1における検出処理および温度補償について説明する。
【0056】
図5は、本実施の形態に係る近接センサ1の主回路30の機能構成を示す模式図である。
図5を参照して、A/D変換回路36により、検出部22(検出コイル16およびキャパシタ17を含む:
図3参照)の両端に生じる電圧値をデジタル値として出力する。
【0057】
主回路30は、数値演算が可能なモジュールとして、コンダクタンス演算処理部82と、補償部84と、しきい値処理部86とを含む。
【0058】
コンダクタンス演算処理部82は、A/D変換回路36から出力される電圧値の時間変化に基づいて、検出コイル16のコンダクタンスの大きさを算出する。すなわち、コンダクタンス演算処理部82は、検出コイル16の両端に生じる電圧波形に基づいて、検出コイル16のコンダクタンスの大きさに相当する値を算出する。このコンダクタンスの大きさは、検出コイル16についての電流の流れやすさを示す。検出体Wが検出部22に接近することで、検出部22に流れる誘導電流が相対的に大きくなると、検出コイル16自体には電流が流れにくくなり、その結果、検出コイル16のコンダクタンスは小さくなる。すなわち、検出コイル16への電流の流れにくさを示すようになる。
【0059】
コンダクタンスの算出方法としては、例えば、検出部22の両端に生じる振幅と基準の振幅との比などを用いて算出できる。あるいは、検出部22の両端に生じる電圧の時間変化(振幅および位相)に基づいて算出することもできる。
【0060】
コンダクタンス演算処理部82から出力されるコンダクタンスの算出結果を、以下では、距離(distance)を意味する「DIST」と記載する。距離出力DISTの大きさは、コンダクタンスの算出結果と比例することになる。すなわち、距離出力DISTは、検出部22と検出体Wとの距離の大きさを示す。
【0061】
補償部84は、検出部22に生じる温度に依存した検出特性の変化を補償する。より具体的には、補償部84は、記憶部40に格納されている特性パラメータ42に基づいて、距離出力DISTを補償する。補償部84から出力される補償距離を「DISTcomp」とも記載する。
【0062】
例えば、特性パラメータ42を1次の係数kとし、α,βを予め定められた定数として、補償距離出力DISTcompは、以下のような(1)式に従って算出できる。
【0063】
DISTcomp=k(DIST+α)+β ・・・(1)
なお、温度補償処理は、上述の数式に限らず、任意の数式を採用できる。また、特性パラメータ42についても、1次元の定数に限らず、複数次元の定数を採用してもよい。さらに、内部温度センサ38により検出された温度を反映して補償量を算出してもよい。
【0064】
本実施の形態に係る近接センサ1においては、記憶部40には、特性パラメータ42として、近接センサ1の各々の固有値が格納される。近接センサ1の各々に固有の特性パラメータ42を採用することで、検出部22間において検出特性変化にバラツキがある場合であっても、近接センサ1の各々に適した補償を実現できる。
【0065】
補償距離出力DISTcompは、そのまま検出体Wまでの距離(位置)を示す検出結果として出力されてもよいし、しきい値処理部86に入力されて、2値化処理された結果を、検出体Wの有無を示す検出結果として出力されてもよい。
【0066】
しきい値処理部86は、補償部84からの補償距離出力DISTcompと、予め定められたしきい値とを比較して、補償距離出力DISTcompがしきい値を下回ると、検出体Wが存在していることを示す検出結果を出力する。
【0067】
図6は、検出特性の変化に生じる検出特性の温度変化およびそれに対する補償を説明するための図である。
図6には、温度に対する検出距離の変化率の一例を示す。検出距離の変化率が温度によらずゼロであることが理想的である。
【0068】
図6(a)には、例えば、ある近接センサ1の検出コイル16(コイル1)に生じる検出特性の温度変化、および、別の近接センサ1の検出コイル16(コイル2)に生じる検出特性の温度変化の一例を示す。
図6(a)に示すように、製造条件などを同一にしたとしても、電磁気的な特性を完全に揃えることは難しい。
【0069】
そのため、同一の補償パラメータを用いたとしても、補償後の検出特性を揃えることはできない。そのため、このような検出特性のバラツキは、検出精度の向上や検出可能範囲の拡大を妨げる要因となっていた。すなわち、検出特性のバラツキが存在していることを前提として検出処理を行う必要があり、必然的に、精度を下げざるを得なかった。
【0070】
これに対して、本実施の形態に係る近接センサ1においては、近接センサ1の各々に固有の特性パラメータ42を用いて補償する。このような近接センサ1の各々に固有の特性パラメータ42を用いることで、
図6(b)に示すように、例えば、コイル1に対しては、コイル1に固有の特性パラメータ1により補償が行なわれ、コイル2に対しては、コイル2に固有の特性パラメータ2により補償が行なわれる。
【0071】
図6(b)に示すように、近接センサ1の各々に固有の特性パラメータ42を採用することで、補償後のそれぞれの検出特性は、略同一のものとなっている。この結果、温度補償後の検出特性を揃えることができるため、検出特性のバラツキによるマージンを削減して、より検出精度および検出感度を高めることができる。この結果、検出精度の向上や検出可能範囲の拡大を実現できる。
【0072】
<E.特性パラメータの決定(製造方法)>
次に、本実施の形態に係る近接センサ1に格納される特性パラメータ42を決定するためのシステム構成および処理手順などについて説明する。このような処理は、近接センサ1の製造工程の一部として実施されてもよい。
【0073】
本実施の形態においては、近接センサ1の周囲温度を実際に変化させるとともに、周囲温度の変化によって生じる近接センサ1の距離出力DISTを測定し、その測定値に基づいて、特性パラメータ42の値を決定する。基本的に、近接センサ1は工業製品であり、同一種類の製品が多数製造される。そのため、近接センサ1を個々に測定することは現実的に無理であり、複数の近接センサ1について同時に測定を行って、個々の近接センサ1に対する特性パラメータ42の値を決定する。
【0074】
(e1:特性パラメータ決定システム)
図7は、本実施の形態に係る近接センサ1の特性パラメータを決定する方法を説明するための模式図である。
図7を参照して、近接センサ1の製造システム100は、1または複数の近接センサ1の特性パラメータを決定する。
【0075】
具体的には、製造システム100は、設定装置200と、恒温槽300と、槽内温度センサ302と、信号変換装置304と、端子台310と、集線装置312と、制御装置314とを含む。
【0076】
設定装置200は、1または複数の近接センサ1からの測定結果(筐体内温度および検出値)と、槽内温度とに基づいて、近接センサ1の各々の特性パラメータを算出するとともに、算出した設定パラメータを近接センサ1の各々に設定する。
【0077】
図8は、
図7に示す設定装置200のハードウェア構成の一例を示す模式図である。本実施の形態に係る設定装置200は、一例として、汎用的なアーキテクチャに従うハードウェア(例えば、汎用パソコン)を用いてプログラムを実行することで実現される。
【0078】
図8を参照して、設定装置200は、CPUやMPUなどのプロセッサ202と、光学ドライブ204と、主記憶装置206と、ネットワークコントローラ208と、通信コントローラ212,214と、入力部216と、表示部218と、二次記憶装置220とを含む。これらのコンポーネントはバス210を介して接続される。
【0079】
プロセッサ202は、二次記憶装置220に格納された各種プログラムを読み出して、主記憶装置206に展開して実行することで、後述するような各種処理を実現する。
【0080】
二次記憶装置220は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などで構成される。二次記憶装置220には、1または複数の近接センサ1からのデータ収集を行うためのデータ収集プログラム222と、収集したデータに基づいて近接センサ1に対する特性パラメータを決定するための特性パラメータ決定プログラム224と、決定した特性パラメータを近接センサ1に設定するための特性パラメータ設定プログラム226とが格納されている。二次記憶装置220には、OSおよび他の必要なプログラムがさらに格納されてもよい。さらに、二次記憶装置220には、特性パラメータ42を決定する際に、収集データ228も格納される。
【0081】
設定装置200は、光学ドライブ204を有しており、コンピュータ読取可能なプログラムを非一過的に格納する記録媒体205(例えば、DVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体)から、その中に格納されたプログラムが読取られて二次記憶装置220などにインストールされる。
【0082】
設定装置200で実行される各種プログラムは、コンピュータ読取可能な記録媒体205を介してインストールされてもよいが、ネットワーク上のサーバ装置などからダウンロードする形でインストールするようにしてもよい。また、本実施の形態に係る設定装置200が提供する機能は、OSが提供するモジュールの一部を利用する形で実現される場合もある。
【0083】
入力部216は、キーボードやマウスなどで構成され、ユーザ操作を受付ける。表示部218は、ディスプレイ、各種インジケータ、プリンタなどで構成され、プロセッサ202からの処理結果などを出力する。
【0084】
ネットワークコントローラ208は、任意のネットワークを介した他の装置との間のデータの遣り取りを制御する。
【0085】
通信コントローラ212は、制御装置314および集線装置312(
図7参照)を介して、1または複数の近接センサ1との間でデータを遣り取りする。通信コントローラ214は、信号変換装置304を介して、槽内温度センサ302による槽内温度を取得する。
【0086】
図8には、プロセッサ202がプログラムを実行することで必要な機能が提供される構成例を示したが、これらの提供される機能の一部または全部を、専用のハードウェア回路(例えば、ASICまたはFPGAなど)を用いて実装してもよい。
【0087】
再度
図7を参照して、恒温槽300は、1または複数の近接センサ1を槽内に収容するとともに、槽内の温度を変化させることができる。すなわち、恒温槽300は、温度変化可能な環境を提供する装置の一例である。恒温槽300の槽内温度は、予め設定されたパターンに従って変化するようにしてもよいし、設定装置200からの指令に従って変化させてもよい。
【0088】
槽内温度センサ302は、恒温槽300の槽内に1または複数配置され、槽内温度を検出する。槽内温度センサ302による検出結果は、信号変換装置304へ出力される。信号変換装置304は、槽内温度センサ302からの検出結果を設定装置200へ送信するために所定のデータフォーマットに変換する。なお、槽内温度センサ302が通信機能を有している場合には、信号変換装置304を省略してもよい。
【0089】
恒温槽300の槽内において、1または複数の近接センサ1は、図示しないラックまたは固定部材により支持される。なお、周囲温度を均一に変化させるために、近接センサ1は、予め定められた間隔で均等に配置することが好ましい。
【0090】
1または複数の近接センサ1から延びる信号線は、端子台310に接続されている。端子台310には、集線装置312も接続されており、近接センサ1と集線装置312との間は、電気的に接続される。集線装置312は、複数の近接センサ1との信号の遣り取りを集中して実施する装置であり、通信モジュールおよびマルチプレクサなどにより構成される。
【0091】
制御装置314は、集線装置312と設定装置200との間に配置され、設定装置200からの要求に応じて、集線装置312を介して収集される信号を設定装置200へ出力するとともに、設定装置200からの設定値などを、集線装置312を介して近接センサ1などへ与える。
【0092】
なお、集線装置312が設定装置200と直接通信できる場合には、制御装置314を必ずしも配置する必要はない。
【0093】
図7に示す製造システム100においては、一例として、汎用的な産業用コントローラを利用しており、例えば、制御装置314としてはPLC(プログラマブルコントローラ)を採用してもよい。この場合には、PLCに接続されるフィールドネットワークを介して集線装置312を接続してもよい。さらに、集線装置312と近接センサ1の各々との間についても、フィールドネットワークを介して接続してもよい。
【0094】
このようなフィールドネットワークとしては、IO−Link、CC−Link、DeviceNet、EtherCAT(登録商標)、EtherNet/IPなどを用いることができる。
【0095】
近接センサ1と集線装置312との間は、アナログ信号が流れる信号線を介して接続してもよいが、フィールドネットワークを用いることで、双方向の通信をより容易化できる。
【0096】
(e2:特性パラメータ決定および設定手順)
次に、本実施の形態に係る近接センサ1に格納される特性パラメータ42を決定および設定するための処理手順について説明する。
【0097】
図9は、本実施の形態に係る近接センサ1の特性パラメータの決定および設定を含む製造方法の処理手順を示すフローチャートである。
図9に示すステップの一部は、設定装置200のプロセッサ202がプログラムを実行することで実現される。
【0098】
図9を参照して、恒温槽300の槽内に1または複数の近接センサ1を配置するとともに、端子台310を介して集線装置312と電気的に接続する(ステップS100)。すなわち、近接センサ1が温度変化可能な環境に配置される。
【0099】
測定開始のトリガを受けて(ステップS102)、恒温槽300の槽内を予め定められた温度まで変化させる(ステップS104)。恒温槽300の槽内温度が予め定められた温度で安定すると(ステップS106においてYES)、設定装置200は、恒温槽300の槽内に配置された1または複数の近接センサ1の各々から筐体内温度および検出値を取得して格納する(ステップS108)。
【0100】
予め指定された回数の測定が実施されたか否かが判断され(ステップS110)、予め指定された回数の測定が実施されていなければ(ステップS110においてNO)、ステップS104以下の処理が繰返される。
【0101】
このように、近接センサ1の環境を複数の異なる温度にそれぞれ設定するとともに、各温度において、近接センサ1の温度検出部(内部温度センサ38および/または外部温度センサ44)により検出される筐体内温度と、制御演算回路32により出力される検出結果とが関連付けて格納される。
【0102】
一方、予め指定された回数の測定が実施済であれば(ステップS110においてYES)、設定装置200は、格納した筐体内温度および検出値に基づいて、1または複数の近接センサ1の各々についての特性パラメータ42を決定する(ステップS112)。すなわち、格納された温度および検出結果に基づいて、対象の近接センサ1に固有の特性パラメータ42が決定される。
【0103】
最終的に、決定した特性パラメータ42を対応する近接センサ1へ設定する(ステップS114)。すなわち、決定した特性パラメータ42を対象の近接センサ1に設定する処理が実行される。
【0104】
以上のような処理手順によって、特性パラメータ42の決定および近接センサ1への設定が完了する。
【0105】
近接センサ1から取得する筐体内温度および検出値の組合せの数は、後述するような、特性パラメータの近似式の次数に応じて決定される。
【0106】
(e3:特性パラメータ決定処理)
次に、本実施の形態に係る近接センサ1に格納される特性パラメータ42を決定するための処理について説明する。
【0107】
特性パラメータ42は、個々の近接センサ1が示す検出特性の温度依存性を低減するためのものであり、上述の
図6(b)に示すように、特性パラメータ42は、検出距離変化率を温度に依存せずに一定に維持するように決定される。
【0108】
より具体的には、層内温度T
nと、基準温度T
0と、周囲温度と内部温度センサ38により検出される筐体内温度との温度差をΔTとして、以下のような(2)式が成立するように、変数A
2,A
1,A
0がフィッティングされる。
【0109】
f(T
n)=A
2(T
n−T
0+ΔT)
2+A
1(T
n−T
0+ΔT)+A
0=k(一定)
すなわち、対象の近接センサ1から取得された筐体内温度と検出値(例えば、距離出力DISTそのもの、または、距離出力DISTの変動量)との複数の組合せを用いて、上述の(2)式をフィッティングすることで、変数A
2,A
1,A
0を決定でき、それぞれ決定された変数A
2,A
1,A
0により算出される係数kを特性パラメータ42として決定できる。
【0110】
なお、温度差ΔTに用いられる周囲温度は、槽内温度センサ302により検出される槽内温度を用いることができる。なお、槽内温度センサ302が複数配置されている場合には、注目位置と周囲にある複数の槽内温度センサ302のそれぞれで検出された温度と、注目位置とそれぞれとの間の距離とのに基づいて、注目位置の周囲温度を推定するようにしてもよい。
【0111】
また、上述の(2)式は、あくまでも一例であり、検出部22(検出コイル16)の検出特性の温度依存性をどのような関数で近似してもよい。また、近似関数の変数値としては、少なくとも、近接センサ1の内部温度センサ38および/または外部温度センサ44により検出される筐体内温度、ならびに、槽内温度センサ302により検出される槽内温度のいずれかが関与するものであればよい。但し、近接センサ1の内部温度センサ38により検出される筐体内温度単独ではなく、槽内温度センサ302により検出される槽内温度、または、外部温度センサ44により検出される筐体内温度を情報として与える方が、より精度を高めることができる。
【0112】
(e4:収集データ)
次に、本実施の形態に係る近接センサ1に格納される特性パラメータ42を決定するために収集される収集データ228の一例について説明する。
【0113】
図10は、本実施の形態に係る製造システム100の設定装置200に格納される収集データ228のデータ構造の一例を示す図である。
【0114】
図10を参照して、例えば、収集データ228は、近接センサ1の各々から収集されたデータを各々のシート2280の形で格納してもよい。シート2280の各々には、対象の近接センサ1が集線装置312のいずれのチャネルに接続されているのかを示すチャネル番号2281と、対象の近接センサ1から収集された識別番号2282とを含んでもよい。
【0115】
シート2280には、槽内温度を異ならせてそれぞれ測定された結果が順次格納される。より具体的には、シート2280は、槽内温度2283と、筐体内温度2284と、検出値2285との3つのコラムを有している。恒温槽300の槽内温度が予め定められた温度となり、データ収集条件が成立すると、そのときの槽内温度、筐体内温度、検出値が1つのレコードに取り込まれる。このような槽内温度、筐体内温度、検出値の組(レコード)が複数収集されると、データ収集の処理は完了する。シート2280は、対象の近接センサ1の数と同数生成されることになる。
【0116】
このような収集データ228に基づいて、近接センサ1の各々についての特性パラメータ42が決定される。決定された特性パラメータ42の値を対応するシート2280に格納してもよい。
【0117】
シート2280の内容は、図示しない製造管理システムに送信され、近接センサ1の各々の製造状況(トレーサビリティ)を管理するための情報として用いられてもよい。
【0118】
<F.まとめ>
本実施の形態に係る近接センサ1は、個々に固有の特性パラメータ42を用いて、デジタル処理により温度補正を実施することで、より安定化したセンシング性能を提供する。従来の近接センサにおいては、固定のパラメータを用いて一律に温度補正が行なわれており、製造工程や部品特性のバラツキ(特に、検出特性の温度変化のバラツキ)により、検出コイル16に生じるコンダクタンスの大きさに変化を生じさせ、これによって、製品状態において出力される検出距離に変動を引き起こしていた。このような検出距離の変動は、検出可能範囲の長距離化を妨げるものとなっていた。
【0119】
上述したように、本実施の形態に係る近接センサ1は、固有の特性パラメータ42およびデジタル処理を採用することで、検出距離に生じる変動要因を最小化することができ、検出可能範囲の長距離化をより容易に実現できる。
【0120】
本実施の形態に係る近接センサ1においては、製造工程内において、個々に温度特性を測定し、その測定結果に基づいて、固有の特性パラメータ42が個々に決定される。さらに、個々に決定された特性パラメータ42は、対応する近接センサ1へ書込まれる。
【0121】
本実施の形態に係る近接センサ1においては、本体部2の一部として内部温度センサ38および/または外部温度センサ44が実装されてもよい。このような内部温度センサ38または外部温度センサ44を用いることで、近接センサ1に対する特性パラメータを決定する際に、温度情報をより容易に収集できる。
【0122】
外部温度センサ44を用いて外部温度を測定することで、本体部2内の熱源(例えば、電源回路50など)からの熱を受けて温度測定値が変化するような事態を回避できる。すなわち、外部温度センサ44を用いることで、熱源からの影響を低減して、測定対象物である検出コイル16の温度をより正確に測定できる。
【0123】
このように、本実施の形態に係る近接センサ1は、外部の装置との間で、内部温度センサ38および/または外部温度センサ44により検出された温度などの情報を通信することができる。
【0124】
本実施の形態に係る近接センサ1においては、EEPROMなどの再書込可能な不揮発性記憶装置に特性パラメータ42を保持するので、特性パラメータ42の書き換えなども容易に行うことができる。
【0125】
本実施の形態に係る近接センサ1を製造する工程においては、特性パラメータ42を決定する際に、決定に用いた測定値などを対象の近接センサ1を特定する情報と関連付けて格納することができるので、近接センサ1の各々について、トレーサビリティを確保することができる。
【0126】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。