(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ヨーク部材は、前記電機子側の周面において、前記永久磁石の側面に接続されるヨーク端部に対して周方向中間部分が径方向に凹んだ形状となっている請求項1又は2に記載の回転電機。
前記ヨーク部材には、周方向に隣り合う前記永久磁石の間に前記電機子とは反対側に延びるヨーク支持部(35)が接続されており、前記ヨーク部材ごとの前記ヨーク支持部が連結部(33)により一体的に連結されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の回転電機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、表面磁石型モータは、永久磁石が回転子表面に貼り付けられた界磁子を有し、電機子側から見た磁気抵抗が空気と同程度の大きなものとなっている。そのため、一般に、界磁子を電機子側から定格レベルの電流でコントロールすることは困難であり、これまでには実用技術視点で研究された例も見当たらない。ゆえに、既存の表面磁石型モータでは、誘起電圧が高くなる高速にて出力低下が生じたり、電機子の鉄損が増加したりするなどの問題を抱えるものとなっている。なお、上述したハルバッハ配列を採用した回転電機も、界磁磁界を可変とすることを実現できるものでないと考えられる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、表面磁石型の回転電機において、回転子により生じる界磁磁束を好適に変化させて可変界磁磁束を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について説明する。なお以下においては、理解の容易のため、発明の実施の形態において対応する構成の符号を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0008】
第1の手段は、
回転自在に支持された回転子(12)と、
前記回転子と同軸配置され、多相交流電流が通電される電機子巻線(23)が巻装された電機子(13)と、
を備えた永久磁石側の回転電機(10)であって、
前記回転子は、
磁化方向を径方向とし、かつ前記電機子に対向する極が交互にN極、S極となるようにして周方向に互いに離間された位置に設けられた複数の永久磁石(32)と、
鉄心材よりなり、周方向に隣り合う前記永久磁石の間においてそれら永久磁石の周方向側面どうしを繋ぎ、かつ前記複数の永久磁石を環状に連結するヨーク部材(34)と、
を有しており、
前記電機子巻線における通電の位相制御により、前記永久磁石から前記電機子へ向かう界磁磁束の強さを変更することが可能になっている。
【0009】
上記構成の回転電機において、回転子は、磁化方向(磁極の向き)を径方向とし、かつ電機子に対向する極が交互にN極、S極となるようにして周方向に互いに離間された位置に設けられた複数の永久磁石を有している。そして、その複数の永久磁石は、鉄心であるヨーク部材により、永久磁石の周方向側面どうしが繋がれ(橋絡され)、かつ環状に連結されている。ここで、永久磁石では、電機子側の径方向端面とヨーク部材側の周方向側面とを通じて界磁磁束が流れる構成となっており、電機子巻線の通電により起磁力が生じる場合に、その起磁力の向きと永久磁石ごとの磁極とに応じて、永久磁石にて生じる界磁磁束の分布が異なるものとなる。この場合、隣り合う永久磁石の周方向側面を通じて流れる界磁磁束を好適に変化させることができる。これにより、表面磁石型の回転電機において、回転子により生じる界磁磁束を好適に変化させて可変界磁磁束を実現することができる。
【0010】
上述した第1の手段について、
図12を用いて補足説明をする。
図12では、回転子において永久磁石101とヨーク部材102(鉄心)とを直線状に展開して示しており、上側が電機子側、下側が電機子の反対側である。電機子巻線に電流を流すと、破線で示すようにループ状に起磁力が生じる。なお、回転子の周方向における起磁力発生の位置、すなわち各永久磁石101に対する起磁力の向きは、電機子巻線の通電位相に依存したものとなっている。ここで、永久磁石101では、
図12(a)に示すように、磁石磁束の向き(磁石のN→Sの向き)と電機子巻線の起磁力の向きとが同じになる場合と、(b)に示すように、磁石磁束の向きと電機子巻線の起磁力の向きとが逆になる場合とがあり、そのうち(b)の場合には界磁磁束が弱められる。また、ヨーク部材102では、その両隣となる2つの永久磁石101の磁束の向きに応じて、径方向において電機子に近い側と遠い側とで内部磁束の向きが相違している。かかる場合、
図12の(a)、(b)に示すように、電機子巻線の起磁力、すなわち電機子巻線の通電位相に応じて、界磁磁束の強さが相違することになる。これにより、可変界磁回転電機を実現することができる。
【0011】
ここで、ハルバッハ配列により磁石配置した技術との違いについて述べておく。なお、ハルバッハ配列は、1980年代に米国ローレンス・バークレー研の物理学者のKlaus Halbachが粒子加速器のビームを収束する目的で考案した、磁束集中効果のための永久磁石の特殊配列である。近年では、永久磁石式MRIや電動機、リニアモータ、磁気浮上式鉄道、自由電子レーザ発生用のアンジュレータなどの分野において利用が増えつつある技術である。
【0012】
ハルバッハ配列の有名な特徴の一つに
図13に示す磁束の片面集中現象がある。
図13では、極磁石111とヨーク磁石112とが互いの磁化方向が直交する関係に交互配列されており、かかる構成においては、ヨーク磁石112とその当接する極磁石111の向きとの相互の方向の関係で磁束が配列の上下のいずれかの側に集中する。このとき、
図13(a)、(b)に示すようにヨーク磁石112の磁化の向きを逆転すると、磁束の集中する側が反転する。このように永久磁石の配列のさせ方のみで磁束を集中させることができ、鉄片やコイルを用いることない磁界の集中方法として知られている。
【0013】
図12の構成(第1の手段での回転電機)は、
図13における極間の磁石(ヨーク磁石112)を、鉄心であるヨーク部材102に変更したものである。ハルバッハ配列ではヨークが磁石であり、自身が起磁力(磁化)を保有しているが、鉄心の場合はそれがない。したがって、このままだと極磁石を側面短絡する手段にしかなっていない。この点、
図12の構成では、隣り合う2つの永久磁石101がヨーク部材102(鉄心)により側面短絡されており、かかる構成では、上記のとおり電機子巻線における通電の位相制御により界磁磁束の強さを変更することが可能になっている。
【0014】
第2の手段では、前記ヨーク部材は、周方向に隣り合う前記永久磁石の間において径方向に複数設けられている。
【0015】
ヨーク部材を、周方向に隣り合う永久磁石の間において径方向に複数設ける構成とした。ここで、永久磁石の周方向側面にヨーク部材を連結する構成では、その磁石側面の付近において磁束が周回して磁束の常時漏れが生じる。ただし、ヨーク部材を径方向に複数に分けて設けることにより、磁石側面での磁束漏れを抑制することができる。
【0016】
なお、複数設けられたヨーク部材は、少なくとも周方向側面又はその付近にて複数に分離されていればよく、例えばヨーク部材において隣り合う永久磁石間の中間部分に橋渡し部が設けられていてもよい。
【0017】
第3の手段では、前記ヨーク部材は、前記電機子側の周面において、前記永久磁石の側面に接続されるヨーク端部に対して周方向中間部分が径方向に凹んだ形状となっている。
【0018】
ヨーク部材を、電機子側の周面において周方向中間部分が径方向に凹んだ形状とした。そのため、周方向に並ぶ永久磁石とヨーク部材との間で磁束の流れを促進するとともに、ヨーク部材から電機子への漏れ磁束を減らすことができる。これにより、エネルギ効率の改善を図ることができる。
【0019】
第4の手段では、前記ヨーク部材には、周方向に隣り合う前記永久磁石の間に前記電機子とは反対側に延びるヨーク支持部(35)が接続されており、前記ヨーク部材ごとの前記ヨーク支持部が連結部(33)により一体的に連結されている。
【0020】
ヨーク部材に、周方向に隣り合う永久磁石の間に電機子とは反対側に延びるヨーク支持部を接続し、ヨーク部材ごとのヨーク支持部を連結部により一体的に連結する構成とした。これにより、周方向に隣り合う永久磁石の間にそれぞれヨーク部材を設ける構成において、複数の永久磁石と複数のヨーク部材とを環状に配置しつつ好適に結合させることができる。この場合、ヨーク支持部は、隣り合う永久磁石の間において電機子の反対側に接続されているため、ヨーク支持部を介しての磁束漏れが抑制されるものとなっている。
【0021】
第5の手段では、回転電機と、前記電機子巻線における通電の位相制御を実施する制御部(42)と、を備える回転電機システムであって、前記制御部は、電機子電流の位相を前記回転子のq軸に対して回転方向に進めることにより界磁磁束を弱め、電機子電流の位相を前記回転子のq軸に対して回転方向に遅らせることにより界磁磁束を強める制御を実施する。
【0022】
制御部により、電機子電流の位相を回転子のq軸に対して回転方向に進める又は遅らせることにより、界磁磁束を弱めたり強めたりするようにした。これにより、所望のとおりにトルク等を制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態における回転電機は、例えば車両動力源として用いられるものとなっている。ただし、回転電機は、産業用、車両用、家電用、OA機器用、遊技機用などとして広く用いられることが可能となっている。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0025】
本実施形態に係る回転電機10は、表面磁石型の同期式多相交流モータであり、インナロータ構造(内転構造)のものとなっている。回転電機10の概要を
図1及び
図2に示す。
図1は、回転電機10の回転軸11に沿う方向での縦断面図であり、
図2は、回転軸11に直交する方向での回転子12及び電機子13の横断面図である。以下の記載では、回転軸11が延びる方向を軸方向とし、回転軸11を中心として放射状に延びる方向を径方向とし、回転軸11を中心として円周状に延びる方向を周方向としている。
【0026】
回転電機10は、回転軸11に固定された回転子12と、回転子12を包囲する位置に設けられる電機子13と、これら回転子12及び電機子13を収容するハウジング14とを備えている。回転子12及び電機子13は同軸に配置されている。ハウジング14は、有底筒状の一対のハウジング部材14a,14bを有し、ハウジング部材14a,14bが開口部同士で接合された状態でボルト15の締結により一体化されている。ハウジング14には軸受け16,17が設けられ、この軸受け16,17により回転軸11及び回転子12が回転自在に支持されている。
【0027】
図2に示すように、電機子13は、周方向に複数のスロット21を有する円環状の電機子コア22と、電機子コア22の各スロット21に巻装された3相(U相、V相、W相)の電機子巻線23とを備えている。電機子コア22は、円環状の複数の電磁鋼板を軸方向に積層し、カシメ等により固定することで構成されている。電機子コア22は、円環状のヨーク24と、ヨーク24から径方向内側へ突出し周方向に所定距離を隔てて配列された複数のティース25とを有し、隣り合うティース25の間にスロット21が形成されている。各ティース25は、周方向に等間隔でそれぞれ設けられている。
【0028】
各スロット21は、電機子巻線23の1相あたり2個ずつ隣り合わせにして設けられている。つまり、電機子コア22には、周方向に繰り返し2個ずつ配置されたU相スロット、V相スロット及びW相スロットが形成されている。各スロット21には、ティース25に巻回されるようにして電機子巻線23が巻装されている。電機子巻線23は、例えば複数の導体セグメントが互いに接合されることで構成されている。
【0029】
回転子12は、回転軸11に固定される回転子コア31と、その回転子コア31に保持された複数の永久磁石32とを有している。回転子コア31は、回転軸11に対して固定される筒状の中央固定部33と、周方向に隣り合う永久磁石32の間においてそれら永久磁石32の周方向側面どうしを繋ぎ(橋絡し)、かつ複数の永久磁石32を環状に連結するロータヨーク34と、回転軸11を中心にして径方向に延び、中央固定部33及びロータヨーク34を繋ぐ複数のヨーク支持部35とを有している。ロータヨーク34は鉄心材よりなり、これが「ヨーク部材」に相当する。本実施形態では、中央固定部33とロータヨーク34とヨーク支持部35とを電磁鋼板にて一体に形成しており、複数の電磁鋼板を軸方向に積層し、カシメ等により固定することで、回転子コア31が構成されている。
【0030】
ロータヨーク34には、複数の永久磁石32が所定間隔で組み付けられている。詳しくは、複数の永久磁石32は、ロータヨーク34により、電機子13において同相の電機子巻線23が巻装されるピッチと同じ間隔で、周方向にそれぞれ配置されている。また、各永久磁石32は、磁化方向(磁極の向き)を径方向とし、かつ電機子13に対向する極が交互にN極、S極となるように周方向に互いに離間された位置に設けられている。
【0031】
また、
図3に示すように、ロータヨーク34は、径方向において内外2つに分けて設けられており、外周側が外周側ヨーク34a、内周側が内周側ヨーク34bとなっている。外周側ヨーク34a及び内周側ヨーク34bは、いずれも永久磁石32の周方向側面から周方向に延びるように設けられており、それらの間には空間部が設けられている。なお、外周側ヨーク34aと内周側ヨーク34bとの間の空間部には、両ヨーク34a,34bを繋ぐ橋渡し部が設けられていてもよい。外周側ヨーク34aは、径方向において電機子13に近い側に設けられ、内周側ヨーク34bは、径方向において電機子13から遠い側に設けられている。外周側ヨーク34a及び内周側ヨーク34bにより、径方向に分かれた2つの磁気回路が形成されるようになっている。外周側ヨーク34aの径方向の幅L1と内周側ヨーク34bの径方向の幅L2とは、L1>L2である。ただし、L1=L2、又はL1<L2であってもよい。
【0032】
外周側ヨーク34aは、電機子13側(図の上側)の外周面において、永久磁石32の側面に接続されるヨーク端部に対して周方向中間部分が径方向に凹んでおり、凹部36となっている。この場合、外周側ヨーク34aは、周方向に隣り合う永久磁石32の間において、周方向中間部分が径方向に縮小され、かつ両端部分が拡大された形状(ブーツ形状)となっている。
【0033】
また、内周側ヨーク34bは、電機子13の反対側(図の下側)の内周面において、永久磁石32の側面に接続されるヨーク端部に対して周方向中間部分が径方向に凹んでおり、凹部37となっている。この場合、内周側ヨーク34bは、周方向に隣り合う永久磁石32の間において、周方向中間部分が径方向に縮小され、かつ両端部分が拡大された形状(ブーツ形状)となっている。
【0034】
各内周側ヨーク34bには、周方向に隣り合う永久磁石32の間に電機子13とは反対側に延びるヨーク支持部35が接続されており、内周側ヨーク34bごとのヨーク支持部35が、連結部としての中央固定部33により一体的に連結されている。各内周側ヨーク34bには、隣り合う永久磁石間にヨーク支持部35が接続されていることから、永久磁石32の内側(反電機子側)の径方向端面には電磁鋼板等の軟磁性体が存在しない、仮に存在しても永久磁石32の表面を覆う程度のものとなっている。
【0035】
図1に示すように、回転電機システムは、インバータ41と制御部42とを備えている。インバータ41は、回転電機10において各相の電機子巻線23に接続され、相ごとに通電電流を調整する。インバータ41は、周知のとおり相巻線の相数と同数の上下アームを有するブリッジ回路であり、各アームにはスイッチ(半導体スイッチング素子)がそれぞれ設けられている。制御部42は、CPUや各種メモリを有するマイクロコンピュータよりなり、例えば力行トルク指令値や発電電圧指令値に基づいて、所定のスイッチング周波数(キャリア周波数)でインバータ41の各スイッチをオンオフし、これにより回転電機10の各相電流についてフィードバック制御を実施する。また、制御部42は、電機子巻線23の各相の電流(相電流)について位相を制御することが可能になっている。
【0036】
上記構成の回転電機10での特徴的な作用は、
図12において説明したとおりであるが、
図4を用いて、回転電機10での特徴的な作用を再度説明しておく。
【0037】
電機子巻線23に電流を流すと、電機子巻線23の通電位相に応じて、破線で示すようにループ状に起磁力が生じる。ここで、永久磁石32では、
図4(a)に示すように、磁石磁束の向き(磁石のN→Sの向き)と電機子巻線23の起磁力の向きとが同じになる場合と、(b)に示すように、磁石磁束の向きと電機子巻線23の起磁力の向きとが逆になる場合とがある。(a)の場合には、図の
時計回り方向の向きで起磁力が生じており、電機子13に対して遠い側の内周側ヨーク34bを介して磁束が流れる。また、(b)の場合には、図の
反時計回り方向の向きで起磁力が生じており、電機子13に対して近い側の外周側ヨーク34aを介して磁束が流れる。(a)の場合には界磁磁束が強められることになり、(b)の場合には界磁磁束が弱められることになる。かかる場合、電機子巻線の起磁力、すなわち電機子巻線の通電位相に応じて、界磁磁束の変更が可能になっている。
【0038】
上記構成では、永久磁石32の側面にロータヨーク34が連結されており、換言すれば、永久磁石32の磁化方向に対して略垂直にロータヨーク34が密着する構成となっている。また、磁石側面の略全面にロータヨーク34が連結されている。そのため、磁束の流れを変えやすいものとなっている。
【0039】
また、
図5及び
図6は、等価回路を用いた考察の説明図である。
図5には、本実施形態の回転電機10を想定した等価回路を示し、
図6には、本実施形態と磁石配置と量とを揃えた一般的な表面磁石型モータを想定した等価回路を示す。Rgは電機子13と回転子12との間のエアギャップに相当し、Ryは外周側ヨーク34a及び内周側ヨーク34bにそれぞれ相当し、Rcは一般的な表面磁石型モータのロータコアCに相当する。
図5及び
図6では(b)に電機子通電時を示し、(c)に無通電時を示す。なお、
図5(b)の状態は
図4(a)の状態に相当する。
【0040】
図5において、(b)の電機子通電時には、磁石磁束は極間で殆ど漏れることなく電機子13へ到達すると考えられる。より詳しくは、極間での漏れが生じても、それを上回る逆方向の磁束が電機子13から供給され、差し引きの差分は低くなり、結局は外周側ヨーク34a(電機子側ヨーク)の通過磁束量(漏れ磁束量)が減ることとなる。
【0041】
また、(c)の無通電時には、ロータヨーク34(34a,34b)が永久磁石32の側面に当接していることから、磁束がショートカットする。つまり換言すれば、永久磁石32の起磁力がフルに使われない自己循環漏洩となると考えられる。
【0042】
この場合、電機子通電時には永久磁石32の磁束がフルに使われるのに対し、無通電時には磁束がショートカットする。したがって、上記構成の回転電機10では、電機子通電時に永久磁石32の作用範囲が磁化方向に比較的長くなり、無通電時に永久磁石32の作用範囲が磁化方向に比較的短くなる構成を有することになる。この点において、回転電機10は、可変磁束磁気回路とでもいえる要素を持つものとなっている。
【0043】
なお、
図6に示すように、一般的な表面磁石型モータでは、電機子とは逆側(図の下側)で永久磁石32が軟磁性体のロータコアCに結合されており、電機子通電時及び無通電時のいずれにおいても、磁束経路は同じになる。そのため、界磁磁束を変えることが困難なものとなっている。
【0044】
ここで、ロータヨーク34を内周側及び外周側で2つに分けて設けていることの優位点を
図7を用いて補足する。
図7(a)は、ロータヨーク34を径方向の内外に分けずに単層で設けた構成を示し、(b)は、ロータヨーク34を径方向の内外に分けて二層に設けた構成を示す。
【0045】
本実施形態では、永久磁石32の側面にロータヨーク34を連結する構成であるため、その磁石側面の付近において磁束が周回して磁束の常時漏れが生じる。ここで、
図7(a)の場合には、磁石側面での磁束の常時漏れが大きいため、効率の低下が懸念される。これに対して、(b)の場合には、ロータヨーク34を径方向に分割することで、磁束の周回範囲が狭められるため、磁石側面での磁束漏れが軽減される。
【0046】
図8には、回転電機10における磁束の流れをFEA(有限要素法)シミュレーションにて解析した結果を示す。これはトルク出力時の解析結果を示すものである。
図8によれば、永久磁石32の磁束は、外周側ヨーク34aを通って戻ってくるような漏れ方でなく、電機子13に有効にわたっていることが分かる。なお、弱め界磁磁束を生じさせる場合には、磁石磁束が外周側ヨーク34aを介して多く漏洩することとなる。
【0047】
また、
図9は、本実施形態の回転電機10と一般的な表面磁石型モータとについて電機子電流に対する磁束の弱まり度合いを比較したものである。本実施形態の回転電機10では、一般的な表面磁石型モータに対して約半分の電流で同等の磁束に抑制できることが分かる。すなわち、省電流で磁束を大きく変更できるものであることが分かる。
【0048】
また、
図10には、有限要素法磁場解析シミュレーションによるトルク最大時と磁束最小時との磁束密度分布を示す。(a)は、本実施形態の回転電機10についてトルク最大時のシミュレーション結果を示し、(b)は、本実施形態の回転電機10について磁束最小時のシミュレーション結果を示し、(c)は、一般的な表面磁石型モータについてトルク最大時のシミュレーション結果を示し、(d)は、一般的な表面磁石型モータについて磁束最小時のシミュレーション結果を示す。
【0049】
本実施形態の回転電機10では、
図10(a)の場合に磁石磁束が電機子13にフルで到達し、(b)の場合に磁石磁束がロータヨーク34によりショートカットされている(自己循環漏洩が生じている)ことが分かる。また、一般的な表面磁石型モータでは、(d)の場合に、(b)に示す回転電機10に比べて電機子側への漏れ磁束が多くなっていることが分かる。
【0050】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0051】
回転電機10の回転子12において、複数の永久磁石32を、磁化方向を径方向とし、かつ電機子13に対向する極が交互にN極、S極となるようにして周方向に互いに離間された位置に設けるとともに、その複数の永久磁石32を、鉄心であるロータヨーク34により、磁石側面どうしを繋ぎ、かつ環状に連結する構成とした。ここで、永久磁石32では、電機子13側の径方向端面とロータヨーク34側の周方向側面とを通じて界磁磁束が流れる構成となっており、電機子巻線23の通電により起磁力が生じる場合に、その起磁力の向きと永久磁石32ごとの磁極とに応じて、永久磁石32にて生じる界磁磁束の分布が異なるものとなる。この場合、隣り合う永久磁石32の周方向側面を通じて流れる界磁磁束を好適に変化させることができる。これにより、表面磁石型の回転電機10において、回転子12により生じる界磁磁束を好適に変化させて可変界磁磁束を実現することができる。
【0052】
ロータヨーク34を、周方向に隣り合う永久磁石32の間において径方向に複数に分けて設ける構成とした。ここで、永久磁石32の側面にロータヨーク34を連結する構成では、その磁石側面の付近において磁束が周回して磁束の常時漏れが生じる。ただし、ロータヨーク34を径方向に複数に分けて設けることにより、磁石側面での磁束漏れを抑制することができる。
【0053】
ロータヨーク34を、電機子13側の周面において周方向中間部分が径方向に凹んだ形状とした。そのため、周方向に並ぶ永久磁石32とロータヨーク34との間で磁束の流れを促進するとともに、ロータヨーク34から電機子13への漏れ磁束を減らすことができる。これにより、エネルギ効率の改善を図ることができる。
【0054】
ロータヨーク34に、周方向に隣り合う永久磁石32の間に電機子13とは反対側に延びるヨーク支持部35を接続し、複数のヨーク支持部35を中央固定部33(連結部)により一体的に連結する構成とした。これにより、周方向に隣り合う永久磁石32の間にそれぞれロータヨーク34を設ける構成において、複数の永久磁石32と複数のロータヨーク34とを環状に配置しつつ好適に結合させることができる。この場合、ヨーク支持部35は、隣り合う永久磁石32の間において電機子13の反対側に接続されているため、ヨーク支持部35を介しての磁束漏れを抑制できるものとなっている。
【0055】
制御部42により、電機子電流の位相を回転子12のq軸に対して回転方向に進める又は遅らせることにより、界磁磁束を弱めたり強めたりするようにした。これにより、所望のとおりにトルク等を制御することができる。
【0056】
(他の実施形態)
上記実施形態を例えば次のように変更してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、ロータヨーク34を径方向の内外に2つに分けて、それぞれを外周側ヨーク34a、内周側ヨーク34bとしたが、この構成を変更してもよい。ロータヨーク34を径方向の内外に3つ以上に分ける構成としてもよい。又は、ロータヨーク34を径方向に分けずに設ける構成であってもよい。
【0058】
・回転子12を
図11のように構成することも可能である。
図11では、回転軸11に固定された略円板状の絶縁プレート51を有し、その絶縁プレート51の外周側に、所定間隔で永久磁石32が取り付けられるとともに、各永久磁石32の間にそれぞれロータヨーク34が取り付けられている。絶縁プレート51は、合成樹脂等の絶縁材料よりなる。本構成では、絶縁プレート51が永久磁石32及びロータヨーク34を保持する保持部材となっている。
【0059】
・上記実施形態では、インナロータ式の回転電機での適用例を説明したが、これ以外にアウタロータ式の回転電機に適用することも可能である。