特許第6965689号(P6965689)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6965689蓄電デバイスの製造方法および蓄電デバイスのプレドープ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965689
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの製造方法および蓄電デバイスのプレドープ方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/06 20130101AFI20211028BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20211028BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20211028BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20211028BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   H01G11/06
   H01G11/30
   H01G11/50
   H01G11/86
   H01M4/60
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-206536(P2017-206536)
(22)【出願日】2017年10月25日
(65)【公開番号】特開2019-79962(P2019-79962A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
【審査官】 小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−022186(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/179457(WO,A1)
【文献】 特開2015−043310(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0256782(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/06
H01G 11/30
H01G 11/50
H01G 11/86
H01M 4/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を含む電極を備えた蓄電デバイスの製造方法であって、
金属イオンを前記電極へプレドープする処理時間に関する時間因子と前記電極への前記金属イオンのプレドープ量に関するドープ量因子との対応関係を用いて前記電極をプレドープする処理時間を設定する設定工程と、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液に、前記設定された処理時間に亘って前記電極を入れることにより前記金属イオンを前記電極へプレドープする処理工程と、をみ、
前記設定工程では、前記時間因子としての前記プレドープする処理時間の平方根と、前記ドープ量因子としての前記層状構造体への前記金属イオンのドープ率との直線対応関係を用いて前記処理時間を設定する、蓄電デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記処理工程では、次式(1)及び式(2)のうち1以上である前記芳香族炭化水素化合物を含む前記ドープ溶液を用いる、請求項1に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【化1】
【請求項3】
前記処理工程では、ナフタレン、ビフェニル、オルトターフェニル、アントラセン及びパラターフェニルのうち1以上である前記芳香族炭化水素化合物を含む前記ドープ溶液を用いる、請求項1又は2に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記処理工程では、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンのうち1以上である前記金属イオンを含む前記ドープ溶液を用いる、請求項1〜のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記処理工程では、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキソラン及びジオキサンのうち1以上の溶媒を含む前記ドープ溶液を用いる、請求項1〜のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記処理工程では、次式(3)及び式(4)のうち1以上の処理を行う、請求項1〜のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【化2】
【請求項7】
前記蓄電デバイスは、2,6−ナフタレンジカルボン酸アルカリ金属塩、4,4’−ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩及びテレフタル酸アルカリ金属塩のうち1以上の前記層状構造体を活物質として含む前記電極を備えている、請求項1〜のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記電極は、導電材を1質量%以上20質量%以下の範囲で含む電極合材を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法であって、
前記プレドープ後の電極を負極とし該負極と正極との間に、前記金属イオンを伝導するイオン伝導媒体を入れるセル作製工程、を含む蓄電デバイスの製造方法。
【請求項10】
芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を含む電極を備えた蓄電デバイスのプレドープ方法であって、
金属イオンを前記電極へプレドープする処理時間に関する時間因子と前記電極への前記金属イオンのプレドープ量に関するドープ量因子との対応関係であって、前記時間因子としての前記プレドープする処理時間の平方根と、前記ドープ量因子としての前記層状構造体への前記金属イオンのドープ率との直線対応関係を用いて前記電極をプレドープする処理時間を設定し、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液に、前記設定された処理時間に亘って前記電極を入れることにより前記金属イオンを前記電極へプレドープする、蓄電デバイスのプレドープ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、蓄電デバイスの製造方法および蓄電デバイスのプレドープ方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の蓄電デバイスとしては、正極及び負極の集電体に複数の貫通孔が形成されたものが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。このような蓄電デバイスは、例えば、リチウムイオンキャパシタなどであり、負極にリチウムイオンをプレドープすることによって大きな電圧を得ることができるとしている。このプレドープでは、負極とLi金属対向電極とを短絡させ、Li金属対向電極から負極へと集電体の貫通孔などを通じてLiを負極に吸蔵させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−258422号公報
【特許文献2】特開2013−206705号公報
【特許文献3】特開2012−174959号公報
【特許文献4】特開2009−200302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1〜4の蓄電デバイスでは、リチウムイオンを通すためのプレドープに必要な貫通孔や切り込みなどを集電体に形成する必要があった。また、プレドープに数日要する場合などもあり、新たな蓄電デバイスの製造方法、プレドープ方法が求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、電極のプレドープ処理をより簡素化することができる蓄電デバイスの製造方法および蓄電デバイスのプレドープ方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を含む電極において、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液を用いるものとすると、処理をより簡素化した新規な製造方法およびプレドープ方法を提供することができることを見いだし、本開示を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する蓄電デバイスの製造方法は、
芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を含む電極を備えた蓄電デバイスの製造方法であって、
金属イオンを前記電極へプレドープする処理時間に関する時間因子と前記電極への前記金属イオンのプレドープ量に関するドープ量因子との対応関係を用いて前記電極をプレドープする処理時間を設定する設定工程と、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液に、前記設定された処理時間に亘って前記電極を入れることにより前記金属イオンを前記電極へプレドープする処理工程と、を含むものである。
【0008】
また、本明細書で開示する蓄電デバイスのプレドープ方法は、
芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を含む電極を備えた蓄電デバイスのプレドープ方法であって、
金属イオンを前記電極へプレドープする処理時間に関する時間因子と前記電極への前記金属イオンのプレドープ量に関するドープ量因子との対応関係を用いて前記電極をプレドープする処理時間を設定し、
還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液に、前記設定された処理時間に亘って前記電極を入れることにより前記金属イオンを前記電極へプレドープするものである。
【発明の効果】
【0009】
本明細書で開示する蓄電デバイスの製造方法およびプレドープ方法では、電極のプレドープ処理をより簡素化することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液によれば、芳香族ジカルボン酸金属塩を含む電極を接触させるだけで、ドープ溶液が直接作用することによって、芳香族ジカルボン酸金属塩に金属イオンを直接プレドープすることができる。このため、例えば、集電体に貫通孔などを形成しなくても、電極をプレドープすることができる。また、本開示では、金属イオンを電極へプレドープする処理時間に関する時間因子と、電極への金属イオンのプレドープ量に関するドープ量因子との対応関係を予め求めておき、この対応関係を用いて処理時間を設定するため、処理時間を簡単に設定することができ、精度よくプレドープ量を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電極に含まれる層状構造体の構造の一例を示す説明図。
図2】蓄電デバイスへプレドープした効果の一例を示す概要図。
図3】時間因子とドープ量因子との対応関係の一例を表す説明図。
図4】蓄電デバイス20の一例を示す模式図。
図5】組電池30の一例を示す模式図。
図6】実施例1〜4のプレドープ前後の電極のXRD測定結果。
図7】実施例5、6のプレドープ前後の電極のXRD測定結果。
図8】比較例1、2のプレドープ前後の電極のXRD測定結果。
図9】実施例1〜3の蓄電デバイスの充放電曲線。
図10】実施例4の蓄電デバイスの充放電曲線。
図11】実施例5、6の蓄電デバイスの充放電曲線。
図12】比較例1、2の蓄電デバイスの充放電曲線。
図13】Liプレドープ処理時間に対する処理後のLiのモル比の測定結果。
図14】プレドープ処理時間の平方根に対するLiのモル比の対応関係図。
図15】プレドープ処理時間の平方根に対するLiのプレドープ率の対応関係図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で開示する蓄電デバイスの製造方法は、例えば、電極を作製する電極作製工程と、電極(特に負極)に金属イオンをプレドープする処理時間を設定する設定工程と、電極に金属イオンをプレドープする処理工程と、プレドープした負極と正極との間に金属イオンを伝導するイオン伝導媒体を入れるセル作製工程と、を含むものとしてもよい。なお、設定工程及び処理工程以外を省略するものとしてもよい。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、イオン伝導媒体とを備えている。正極は、正極活物質を含むものとしてもよい。負極は、キャリアである金属イオンを吸蔵放出する層状構造体を負極活物質として含む。イオン伝導媒体は、正極と負極との間に介在し金属イオンを伝導するものである。この蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムイオン電池などとしてもよい。キャリアである金属イオンとしては、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上のアルカリ金属イオンであるものとしてもよい。ここでは、説明の便宜のため、充放電により層状構造体に吸蔵・放出される金属イオンをLiイオンとし、層状構造体を負極活物質とする負極を備えたリチウムイオンキャパシタについて、以下主として説明する。
【0012】
(電極作製工程)
この工程では、正極と負極とを作製する。この工程で作製する負極は、層状構造体を負極活物質として含むものとしてもよい。図1は、本発明の層状構造体の構造の一例を示す説明図である。この層状構造体は、1又は2以上の芳香環構造が接続した有機骨格層と、有機骨格層に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有するものとしてもよい。この層状構造体は、芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、空間群P21/cに帰属される単斜晶型の結晶構造を有するものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。また、層状構造体は、異なるジカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素とが4配位を形成する次式(1)の構造を備えているものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。但し、この式(1)において、Rは1又は2以上の芳香環構造を有し、複数あるRのうち2以上が同じであってもよいし、1以上が異なっていてもよい。また、Aはアルカリ金属元素である。このように、アルカリ金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有することが好ましい。
【0013】
【化1】
【0014】
この層状構造体において、有機骨格層は、2以上の芳香環構造を有する場合、例えば、ビフェニルなど2以上の芳香環が結合した芳香族多環化合物としてもよいし、ナフタレンやアントラセン、ピレンなど2以上の芳香環が縮合した縮合多環化合物としてもよい。この芳香環は、五員環や六員環、八員環としてもよく、六員環が好ましい。また、芳香環は、2以上5以下とするのが好ましい。芳香環が2以上では層状構造を形成しやすく、芳香環が5以下ではエネルギー密度をより高めることができる。この有機骨格層は、芳香環に1又は2以上のカルボキシアニオンが結合した構造を有するものとしてもよい。有機骨格層は、ジカルボン酸アニオンのうちカルボン酸アニオンの一方と他方とが芳香環構造の対角位置に結合されている芳香族化合物を含むものとするのが好ましい。カルボン酸が結合されている対角位置とは、一方のカルボン酸の結合位置から他方のカルボン酸の結合位置までが最も遠い位置としてもよく、例えば芳香環構造がナフタレンであれば2,6位が挙げられる。この有機骨格層は、一般式(2)で示される構造を含む芳香族化合物により構成されているものとしてもよい。具体的には、この有機骨格層は、次式(3)〜(5)のうちいずれか1以上の芳香族化合物を備えているものとしてもよい。但し、式(3)〜(5)において、aは1以上5以下の整数、bは0以上3以下の整数であることが好ましい。この範囲では、有機骨格層の大きさが好適であり、より充放電容量を高めることができる。この式(3)〜(5)において、これらの芳香族化合物は、その構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、芳香族化合物の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、芳香族化合物の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。
【0015】
【化2】
【0016】
【化3】
【0017】
アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。なお、イオン伝導媒体に含まれ、充放電により層状構造体に吸蔵・放出される金属イオンは、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素と異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、層状構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないもの、すなわち、充放電時に吸蔵放出されないものと推察される。エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、層状構造体の有機骨格層はレドックス(e-)サイトとして機能する一方、アルカリ金属元素層はキャリアである金属イオンの吸蔵サイト(アルカリ金属イオン吸蔵サイト)として機能するものと考えられる。この層状構造体は、例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸アルカリ金属塩、4,4’−ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩及びテレフタル酸アルカリ金属塩のうち1以上が好ましい。
【0018】
この工程では、例えば、負極活物質である層状構造体と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して負極を形成してもよい。導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。導電材は、負極合材の固形分全体に対して1質量%以上20質量%以下の範囲で含むことが好ましく、5質量%以上15質量%以下の範囲で含むことがより好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、水系バインダーであるセルロース系のカルボキシメチルセルロース(CMC)やスチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリビニルアルコールなどの水分散体等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることが好ましい。また、結着材は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。この負極合材は、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールのうち少なくとも一方である水溶性ポリマーを、負極合材の固形分全体に対して1質量%以上10質量%以下の範囲で含むことが好ましく、2質量%以上8質量%以下の範囲で含むことがより好ましい。また、負極合材は、スチレンブタジエン共重合体を、負極合材の固形分全体に対して8質量%以下の範囲で含むことが好ましい。負極合材の塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0019】
また、負極は、負極合材を集電体上に形成したあと、不活性雰囲気中で250℃以上450℃以下の温度範囲で焼成処理されるものとしてもよい。こうすれば、結晶構造をより好適なものとすることができ、芳香族化合物のπ電子相互作用が高まり、電子の授受が容易となるなどして、充放電特性をより高めることができる。
【0020】
この工程で作製する正極は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている公知の正極としてもよい。正極は、例えば、正極活物質として炭素材料を含むものとしてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着・脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入・脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0021】
あるいは、作製する正極は、一般的なリチウムイオン電池に用いられる正極としてもよい。この場合、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0≦x≦1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)、Li(1-x)NiaCobMnc4(0≦a≦1、0≦b≦1、0<c≦2、a+b+c=2)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV23などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素(例えば、AlやMgなど)を含んでもよい趣旨である。
【0022】
この工程では、例えば上述した正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して正極を形成してもよい。なお、正極活物質が炭素材料である場合、正極は、導電材を含まないものとしてもよい。正極に用いられる導電材、結着材などは、それぞれ負極で例示したものを用いることができる。
【0023】
(設定工程)
この工程では、金属イオンを電極へプレドープする処理時間に関する時間因子と、電極への金属イオンのプレドープ量に関するドープ量因子との対応関係を用いて電極をプレドープする処理時間を設定する。図2は、蓄電デバイスへ金属イオンをプレドープした効果の一例を示す概要図である。図2では、活性炭を正極活物質とする正極と、芳香族ジカルボン酸ジリチウムを負極活物質とする負極とを備えた蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ)の各電極の充放電電位を示している。リチウムイオンキャパシタでは,Liプレドープにより負極に予めリチウムを吸蔵(充電)させるものとすれば、図2に示すように、プレドープを行わないものに比して使用可能な容量領域を増やすことができる。したがって、ここでは、負極にプレドープ処理を行うことにより、容量領域を拡大させるのである。このプレドープ処理において、電極への金属イオンのプレドープ量は、例えば、電極のサイズ、活物質の量などに応じて、ドープ溶液の濃度、プレドープ温度、プレドープ時間などを適宜変更することにより調整することができる。このうち、プレドープ量は、ドープ溶液へ電極を浸漬する時間を調整することにより比較的容易に調整することができる。
【0024】
この設定工程では、例えば、時間因子とドープ量因子との対応関係を予め求めておき、その対応関係を用いて所望のドープ量になるように、プレドープの処理時間を設定するものとする。時間因子としては、例えば、プレドープする処理時間自体や、プレドープする処理時間の平方根の値などが挙げられる。また、ドープ量因子としては、層状構造体に含まれる金属イオンのモル数(ドープ量)や、芳香族ジカルボン酸金属塩に対する金属イオンのモル比、層状構造体への金属イオンのドープ率θなどが挙げられる。ドープ率θとは、最大ドープ量Dmaxに対する所定のドープ量D1の比率(D1/Dmax)と定義する。図3は、時間因子とドープ量因子との対応関係の一例を表す説明図であり、図3(a)がプレドープ処理時間に対する金属イオンAのモル比との対応関係であり、図3(b)がプレドープ処理時間の平方根に対するドープ率θの対応関係である。プレドープ処理は、詳しくは後述するが、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンと含むドープ溶液に負極を浸漬させることにより行う。この対応関係は、例えば、プレドープに用いる芳香族炭化水素化合物の濃度、プレドープ処理温度を所定値とし、プレドープ処理時間及びプレドープされた芳香族ジカルボン酸金属塩に含まれる金属イオンの量を測定し、図3のような対応関係を予め求める。そして、所望のドープ量に対応する処理時間をこの対応関係を用いて求めるのである。この工程において、プレドープする処理時間の平方根とドープ量因子との対応関係を用いることが好ましい。この対応関係は、図3(b)に示すように直線関係となるため、処理時間を求めやすい。例えば、蓄電デバイスの製造時のドープ率θを0.6(60%)としたい場合は、図3(b)の対応関係より、芳香族炭化水素化合物の濃度Aで処理するとすると、処理時間の平方根が0.6であり、0.6×0.6×60=21.6分がプレドープの処理時間であると求めることができる。
【0025】
(処理工程)
この工程では、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液に、芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を含む電極(負極)を入れることにより、金属イオンを負極へプレドープする。この工程では、上記設定工程で設定した条件でプレドープ処理を実行する。この工程で用いるドープ溶液は、次式(6)及び式(7)のうち1以上である芳香族炭化水素化合物を含むものとしてもよい。具体的には、芳香族炭化水素化合物は、ナフタレン、ビフェニル、オルトターフェニル、アントラセン及びパラターフェニルのうち1以上であることが好ましい。ドープ溶液に含まれる芳香族炭化水素化合物は、電極に含まれる芳香族ジカルボン酸金属塩の芳香族と異なる構造であるものとしてもよいし、同じ構造であるものとしてもよいが、同じ構造であることが親和性の面からみて好ましい。
【0026】
【化4】
【0027】
また、このドープ溶液に含まれる金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンなどのアルカリ金属イオンのうち1以上であることが好ましい。この金属イオンは、蓄電デバイスの充放電のキャリアのイオンである。また、このドープ溶液は、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン、ジオキソラン及びジオキサンのうち1以上の溶媒を含むものとしてもよい。このドープ溶液は、次式(8)及び式(9)のうち1以上により得られたものとしてもよい。即ち、溶媒中に芳香族炭化水素化合物と、金属状態のアルカリ金属とを投入するものとしてもよい。より具体的には、次式(10)〜(12)のように、THF溶媒中で、ナフタレン、ジフェニル、ターフェニルとLi金属とを反応させるものとしてもよい。このように、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液を作製することができる。そしてこの工程では、次式(13)及び式(14)のように、芳香族ジカルボン酸金属塩に金属イオンMをプレドープすることができる。
【0028】
【化5】
【0029】
【化6】
【0030】
【化7】
【0031】
ドープ溶液における還元状態の芳香族炭化水素化合物又は金属イオンの濃度は、例えば、0.05mol/L以上3mol/L以下の範囲であることが好ましい。この工程で、プレドープ処理する温度は、例えば、0℃以上80℃以下の範囲などとしてもよく、室温近傍(20℃〜25℃)が好ましい。電極をドープ溶液に浸漬する時間は、例えば、48時間以下や、24時間以下などが好ましい。またこの浸漬時間は、1時間以上が好ましく、4時間以上としてもよい。そして、プレドープが終了した電極をドープ液から引き出し、乾燥させてもよい。この工程では、芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を含む電極と、プレドープ溶液とを作用するだけで、ドープ溶液と層状構造体との間で化学反応が起こり、簡便に電極に金属イオンをプレドープする、即ち、層状構造体を選択的に充電することができる。この工程では、従来行われていた貫通孔を有する集電体に合材を塗布した電極と金属リチウム電極とを使うことなく、簡便にこの電極のみを充電することができ、その後、充放電反応を可能とすることができる。これにより、プレドープ工程の短時間化を図ることができ、貫通孔ありの集電体など特殊部材を使わずに蓄電デバイスを組むことができ、生産性をより向上することができる。
【0032】
(セル作製工程)
この工程では、プレドープ後の電極を負極とし、この負極と正極との間に、金属イオンを伝導するイオン伝導媒体を入れる。正極及び負極は、セルケース内に配設するものとしてもよい。このとき、正極と負極との間にセパレータを配置してもよい。イオン伝導媒体は、例えば、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩としては、アルカリ金属塩などの公知の支持塩を用いることができる。アルカリ金属塩としては、例えば、LiPF6,LiClO4,LiAsF6,LiBF4,Li(CF3SO22N,LiN(C25SO22などのリチウム塩や、これらに対応するナトリウム塩やカリウム塩などが挙げられる。これらの支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.2Mであることがより好ましい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水系電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。あるいは、イオン伝導媒体としては、固体のイオン伝導性ポリマーや、ポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲル、無機固体電解質、有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することもできる。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であればよく、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0033】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図4は、上述した実施形態の蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この蓄電デバイス20は、正極22と負極23との間の空間にアルカリ金属塩(リチウム塩)を溶解したイオン伝導媒体27が満たされている。この負極23は、芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を含んでいる。
【0034】
以上詳述した蓄電デバイスの製造方法では、プレドープの処理をより簡素化することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液によれば、芳香族ジカルボン酸金属塩を含む電極を接触させるだけで、ドープ溶液が直接作用することによって、芳香族ジカルボン酸金属塩に金属イオンを直接プレドープすることができる。このため、例えば、集電体に貫通孔などを形成しなくても、電極をプレドープすることができる。また、この蓄電デバイスの製造方法では、金属イオンを電極へプレドープする処理時間に関する時間因子と、電極への金属イオンのプレドープ量に関するドープ量因子との対応関係を予め求めておき、この対応関係を用いて処理時間を設定するため、処理時間を簡単に設定することができ、精度よくプレドープ量を調整することができる。
【0035】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0036】
上述した実施形態では、正極活物質を含む正極合材が正極の集電体に形成され、負極活物質を含む負極合材が負極の集電体に形成された電極を一例として説明したが、正極活物質を含む正極合材が集電体の一方の面に形成され、負極活物質を含む負極合材が集電体の他方の面に形成された双極型電極としてもよい。即ち、蓄電デバイスは、アルカリ金属を吸蔵及び放出する正極活物質を含む正極合材と、このアルカリ金属を吸蔵及び放出する上述の層状構造体を負極活物質として含む負極合材と、一方の面に正極合材が形成され且つ他方の面に負極合材が形成されており、負極活物質の酸化還元電位よりも上記アルカリ金属との合金化反応電位が低い集電体金属で形成された集電体と、を備えたものとしてもよい。こうすれば、正極及び負極の集電体を別の材料とする必要が無く、材料調達や正極、負極の造り分けなど製造工程における煩雑さをより低減することができ、集電体の占める体積をより低減することができる。この集電体は、正極活物質の酸化還元電位よりも溶出電位が高いものとしてもよい。また、この双極型電極をイオン伝導媒体を介して複数積層させることにより、蓄電デバイスを効率よく複数接続することができる。この双極型電極の具体例について、吸蔵及び放出されるアルカリ金属がLiである場合を1例として以下説明する。この双極型電極において、集電体は、集電体金属がアルミニウム金属であることが好ましい。アルミニウムとリチウムとの合金化反応は、リチウム金属基準で0.27Vにて起きる。層状構造体は、リチウム金属基準で0.7V以上0.85V以下の範囲で主として充放電反応する。したがって、負極活物質の酸化還元電位よりもアルカリ金属との合金化反応電位が低い集電体金属としてアルミニウム金属を用いることができる。
【0037】
図5は、組電池30の一例を示す模式図である。図5に示すように、組電池30は、一端に負極集電端子35を有し、他端に正極集電端子36を有し、双極型電極38とイオン伝導媒体34とを複数積層した構造を有している。双極型電極38は、集電体31と、正極合材層32と、負極合材層33と、を備え、集電体31には、一方の面に正極合材層32が形成され、他方の面に負極合材層33が形成されている。そして、隣り合う双極型電極38の集電体31と集電体31との間には、正極合材層32、イオン伝導媒体34、負極合材層33が順に配置されており、この配置により単電池37が形成されている。このようにして、組電池30は、集電体31を共有した複数の単電池37が複数積層した構造を有している。こうすれば、双極型電極38を用いて、より効率的に複数の単電池37を積層することができる。
【0038】
この組電池において、イオン伝導媒体は、液体でも構わないが、ポリマーゲル電解質や全固体電解質など、固形状又は固形状に近いものとすることがより好ましい。こうすれば、双極型電極とイオン伝導媒体とをより容易に積層することができる。全固体電解質としては、無機化合物では、例えば、ガーネット型酸化物Li7La3Zr212、ガラスセラミックスLi1.5Al0.5Ge1.5(PO43、ガラスセラミックスLi1+bTi2Sib3-b12・AlPO4(但し0≦b≦3である)などが挙げられる。ガーネット型酸化物としては、例えば一般式Li5+zLa3(Zrz,A2-z)O12(但し1.4≦z<2であり、AはSc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,Ga及びGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素)とするのがより好ましい。電位窓が広く、リチウム伝導度がより高いからである。また、組電池において、集電体は、上述したように、アルミニウムとすることが好ましい。また、充放電により吸蔵放出されるアルカリ金属は、リチウムであることがより好ましい。従来のリチウムイオンキャパシタでは、プレドープ処理で貫通孔を有する集電体を用いる必要があり、双極型電極を作製した場合、集電体の穴の部分を介して短絡してしまうため、原理上、バイポーラセルの設計が不可能であった。このプレドープ工程では、貫通孔を有する集電体を使わずに、負極のみを選択的に充電するプレドープ処理ができるため、蓄電デバイスにおいて双極型セルの設計が可能になる。
【0039】
また、上述した実施形態では、金属イオンのプレドープ処理の条件を設定する設定工程とプレドープ処理する処理工程を含む蓄電デバイスの製造方法として説明したが、蓄電デバイスの電極のプレドープ方法としてもよい。即ち、この蓄電デバイスのプレドープ方法は、芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を含む電極を備えた蓄電デバイスのプレドープ方法であって、金属イオンを電極へプレドープする処理時間に関する時間因子と電極への金属イオンのプレドープ量に関するドープ量因子との対応関係に基づいて電極をプレドープする処理時間を設定し、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液に設定された処理時間に亘って電極を入れることにより金属イオンを電極へプレドープする。このプレドープ方法においても、上述した実施形態で説明した態様を採用すれば、それと同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下には、蓄電デバイスの製造方法を具体的に実施した例を実施例として説明する。実施例では、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの層状構造体を含有した負極、あるいは4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体を含有した負極と、高比表面積を有する活性炭を含有した正極と、LiPF6を含むカーボネート系溶媒からなる電解液とを用いた非水系蓄電デバイスを一例として説明する。なお、本開示は以下の実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0041】
[実施例1]
(2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの合成)
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの合成には、出発原料として2,6−ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。水酸化リチウム1水和物(0.556g)にメタノール(100mL)を加え撹拌した。水酸化リチウム1水和物を溶解したあとに2,6−ナフタレンジカルボン酸(1.0g)を加え1時間撹拌した。撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより、図1に示すような白色の粉末試料の2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムを得た(下記式(15))。
【0042】
【化8】
【0043】
(2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極の作製)
得られた2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムを73.9質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン製TB5500)を13.0質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)(ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)を5.2質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR)(日本ゼオン製BM−400B)を7.8質量%を混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に単位面積当たりの2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム活物質が3mg/cm2となるように均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2cm2の面積に打ち抜いて円盤状の電極を準備した。
【0044】
(プレドープ溶液の調整およびプレドープ)
溶媒としてのテトラヒドロフラン(THF)に対して、0.1mol/Lになるようにナフタレンを溶解させ、その後、0.1mol/L相当のリチウム金属を加えて撹拌し、上記式(10)に示すような反応により、濃緑色のLiプレドープ溶液を調製した。得られたLiプレドープ溶液に、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極を一晩浸漬し、その後、溶液から電極を取出し、THFで洗浄を行い乾燥した。
【0045】
[実施例2〜4]
Liプレドープ溶液において、ナフタレンの代わりにビフェニルを用いて、上記式(11)に示すような反応により、Liプレドープ溶液を調製した以外は実施例1と同じとするものを実施例2とした。また、Liプレドープ溶液にナフタレンの代わりにオルトターフェニルを用いて、上記式(12)に示すような反応により、Liプレドープ溶液を調整した以外は、実施例1と同じとするものを実施例3とした。また、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極において、銅箔集電体の代わりにアルミ箔集電体を用いた以外は、実施例1と同じとするものを実施例4とした。
【0046】
[実施例5、6]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極の代わりに、下記式(16)に示すような4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウム負極を用いた以外は、実施例1と同じとするものを実施例5とした。2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極の代わりに、下式(16)に示すような4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウム電極を用いた以外は、実施例2と同じとするものを実施例6とした。
【0047】
【化9】
【0048】
[比較例1、2]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極の代わりに、d002=0.388nm以下の黒鉛に40質量%のd002=0.34nm以上の易黒鉛化炭素を混合し、バインダにポリフッ化ビニリデン(PVdF)(クレハ製KFポリマ)を用い、負極活物質とバインダとをそれぞれ95/5質量%で混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)で分散させた負極合材のペーストを使って作製した電極とした以外は、実施例1と同じとするものを比較例1とした。また、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極の代わりに、d002=0.388nm以下の黒鉛に40質量%のd002=0.34nm以上の易黒鉛化炭素を混合し、この活物質と、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)(ダイセルファインケム製CMCダイセル1120)と、スチレンブタジエン共重合体(SBR)(日本ゼオン製BM−400B)とを質量比で95:2:3で混合、分散させた負極合材のペーストを使って作製した電極とした以外は、実施例1と同じとするものを比較例2とした。
【0049】
(X線回折測定)
Liプレドープ処理を行った2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム電極のX線回折測定を行った。測定は放射線としてCuKα線(波長1.54051Å)を使用したX線回折装置(リガク製UltimaIV)を用いて行った。X線の単色化にはグラファイトの単結晶モノクロメーターを用い、印加電圧を40kV、電流30mAに設定して測定を行った。また、測定は5°/分の走査速度で2θ=15°〜35°の角度範囲で行った。
【0050】
(二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記の手法にてLiプレドープ処理を行った電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。この評価セルを20℃の温度環境下、0.3mAで1.5Vまで酸化した容量を充電容量とした。また、その後、0.3mAで0.5Vまで還元した容量を放電容量とした。なお、比較例1、2は、0.05Vまで還元した容量を放電容量とした。実施例1〜6、比較例1、2の内容を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
(結果と考察)
図6は、実施例1〜4のプレドープ前後の電極のXRD測定結果であり、図6(a)が未処理、図6(b)が実施例1、図6(c)が実施例2、図6(d)が実施例3、図6(e)が実施例4である。図7は、実施例5、6のプレドープ前後の電極のXRD測定結果であり、図7(a)が未処理、図7(b)が実施例5、図7(c)が実施例6である。図8は、比較例1、2のプレドープ前後の電極のXRD測定結果であり、図8(a)が未処理、図8(b)が比較例1、図8(c)が比較例2である。図9は、実施例1〜3の蓄電デバイスの充放電曲線であり、図9(a)が実施例1、図9(b)が実施例2、図9(c)が実施例3である。図10は、実施例4の蓄電デバイスの充放電曲線である。図11は、実施例5、6の蓄電デバイスの充放電曲線であり、図11(a)が実施例5、図11(b)が実施例6である。図12は、比較例1、2の蓄電デバイスの充放電曲線であり、図12(a)が比較例1、図12(b)が比較例2である。
【0053】
図6、7に示すように、実施例1〜6のドープ溶液を用いてプレドープ処理を行うことで結晶構造が変化し、Liが吸蔵された2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム、およびLiが吸蔵された4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの結晶構造を形成することが分かった。また、実施例1と実施例4との比較から、負極集電体は銅箔においてもアルミ箔においても、Liプレドープ溶液に腐食されることがなく、芳香族ジカルボン酸金属塩はLiがプレドープされた結晶構造を形成することが分かった。このため、このプレドープの処理工程によれば、双極型電極を作製できることがわかった。図9、10に示すように、実施例1〜6のプレドープした電極を用いて充放電を行うと、プレドープ処理でLiが充電されることにより増加した充放電容量を確認することができた。このため、このLiプレドープ工程を行うことで、芳香族ジカルボン酸金属塩の負極を予め充電できることが分かった。図8および図12に示すように、黒鉛負極に対してドープ溶液を用いると電極が劣化することがわかった。特に、黒鉛では、結着剤の種類にかかわらず劣化した。また、比較例1,2の結果から、黒鉛電極では、このドープ溶液を作用することで、電極が剥離することが分かった。すなわち、このドープ溶液は、黒鉛に対して反応性を示し、構造を破壊するものと推察された。黒鉛と芳香族ジカルボン酸金属塩との違いは、例えば、後者は骨格内部に酸素を含むが黒鉛では基本構造として酸素を含まないことに起因していると推察された。実施例で用いたプレドープ溶液は、溶媒中の酸素がLiを取り囲むように存在するものと推察される。Liが活物質内に挿入される際、芳香族ジカルボン酸金属塩では、骨格内部に存在する酸素部分を経由してLiを取り込むことができるが、黒鉛等の骨格内に酸素を含まない材料では溶媒和したままの状態でLiが挿入されるために構造が破壊されるものと推察された。このように、芳香族ジカルボン酸金属塩を活物質とする電極では、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含むドープ溶液に電極を浸漬するという簡便な処理で電極をプレドープすることができることがわかった。また、集電体に貫通孔などを形成することなく、電極をプレドープすることができることがわかった。
【0054】
(実験例1〜10)
次に、プレドープ処理の処理時間と、プレドープ量との関係について考察した。プレドープ溶液やプレドープを行う2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極は、実施例1と同様のものを用いた。この負極に対してプレドープを行わずに誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−OES)を用いて電極に含まれるLi量を定量化した結果を実験例1とした。ICP−OES測定は、リガク社製CIROS120EOPを用いて行った。また、上記2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極をプレドープ溶液に1分間浸漬させ、その後、負極を取り出し、THFで洗浄、乾燥後、ICP−OESを用いて電極に含まれるLi量を定量化した結果を実験例2とした。同様に、浸漬時間を5分、30分、1時間、3時間、6時間、12時間、15時間及び24時間としたものをそれぞれ実験例3〜10とした。
【0055】
(結果と考察)
表2に実験例1〜10の浸漬時間、時間の平方根、活物質質量、活物質のモル数、ICP−OESでのLiの分析値(質量及びモル数)、芳香族ジカルボン酸金属塩のモル数に対するLiモル数の比、ドープ率θをまとめて示した。図13は、Liプレドープ処理時間に対する処理後のLiのモル比の測定結果である。図14は、プレドープ処理時間の平方根に対するLiのモル比の対応関係図である。図15は、プレドープ処理時間の平方根に対するLiのプレドープ率の対応関係図である。実験例1に示すように、プレドープ未処理のサンプルでは、芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩の1モルに対し、Liは2モル存在する。そして、図13に示すように、ドープ溶液への浸漬時間が1時間に至るまで、浸漬時間が長くなるにつれてLiのドープ量が増加し、その後はほぼ一定の値(Li=4)となった。これは、図13に示したスキームのように、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの充電に相当するLi吸蔵が負極で起きたものと推察された。即ち、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム1分子に対し、2分子のLi+が取り込まれたものと推察された。今回の条件では、浸漬時間をこれ以上長くしても、これ以上のLi吸蔵は、負極では起きないものと見込まれた。
【0056】
【表2】
【0057】
図14に示すように、横軸にプレドープ処理の平方根をとると、Liプレドープの処理時間が1時間以下の処理領域において、ドープ量が直線的な関係を示すことがわかった。更に、図15に示すように、理論的なLi吸蔵量(Li=2)を用いて、充放電に寄与するLi量の割合(ドープ率)を検討したところ、これも線形性を示した。即ち、本検討で行ったLiプレドープ溶液を用いた2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極の充電容量のドープ率θは、処理時間の平方根に比例することがわかった。これについて考察すると、ドープ速度定数をkと定義した際に、ドープ速度(dθ/dt)は、ドープ率の逆数に比例する数学的な理論モデル(数式1)の微分方程式を解くことで説明することができる。数式1の左辺及び右辺は独立して積分することができ、数式2となる。これを変数微分法で解くと、数式3の関係が得られる。数式3は、ドープ率はLiプレドープ処理時間の平方根に比例する関係式である。本検討のLiプレドープ処理技術は、数式3を満たす関係性を有しており、数式3を用いることにより、ドープ率、即ち充電割合を自由に制御可能であることを意味している。例えば、層状構造体を活物質とする電極をリチウムイオンキャパシタの負極として用いる場合、セルを構築する前に負極を予めLiドープすることを要するため、本検討で見いだしたモデル式をLiドープの制御技術として活用できるものと推察された。例えば、処理時間の平方根に対するLiドープ率の線形関係式から、目的とするLiドープ量を逆算することにより、必要な処理時間を得ることができると推察された。また、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムとリチウムナフタレニドの反応式は、下記式(17)となる。ここで、Liプレドープ処理速度に対応する反応速度(k)は、上述した式(17)と、化学ポテンシャルμの式(18)と、自由エネルギー△G0の式(19)とを用いて、下記式(20)で示されると考えられる。よって、kは、リチウムナフタレニドの濃度に依存することから、濃度を変えることによっても反応速度を制御することができると推察される。以上より、本検討のLiプレドープ制御技術は、Liプレドープ溶液の濃度と、得られた関係式から試算される処理時間の制御により、所望のドープ率に制御することが可能であることがわかった。
【0058】
【数1】
【0059】
【化10】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、電池産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
20 蓄電デバイス、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体、30 組電池、31 集電体、32 正極合材層、33 負極合材層、34 イオン伝導媒体、35 負極集電端子、36 正極集電端子、37 単電池、38 双極型電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15