【文献】
HEIDARZADEH, Hamid et al.,A New Proposal for Simultaneous Multicolor Detection Based on Quantum Dots and Selective Energy Contacts,IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES,2015年06月01日,Vol.62, No.7,pp.2231-2237,DOI:10.1109/TED.2015.2432750
【文献】
HOFSTETTER, Daniel et al.,Quantum-cascade-laser structures as photodetectors,APPLIED PHYSICS LETTERS,2002年08月14日,Vol.81, Number 15,pp.2683-2685,DOI:10.1063/1.1512954
【文献】
PERERA, A.G.U.,Quantum Structures for multiband photon detection,OPTO-ELECTRONICS REVIEW,2006年06月01日,Vol.14, No.2,pp.99-108,doi:10.2478/s11772-006-0013-1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1共鳴トンネル構造における第1共鳴準位と前記第1量子ドットの基底準位が一致し、かつ、前記第2共鳴トンネル構造における第2共鳴準位と前記第1量子ドットの励起準位が一致することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光検出器。
前記第1共鳴トンネル構造の前記量子ドット群に接する側の前記障壁層、及び、前記第2共鳴トンネル構造の前記量子ドット群に接する側の前記障壁層は、伝導帯底のエネルギが前記第1量子ドット及び前記第2量子ドットの束縛準位から連続帯への熱励起による電子の脱出を抑制可能な高さになっていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光検出器。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面により、本発明の実施の形態にかかる光検出器及びその製造方法、撮像装置について、
図1〜
図10を参照しながら説明する。
本実施形態にかかる光検出器は、量子型光検出器であり、量子ドットを用いる光検出器(量子ドット型光検出器)である。
以下、量子ドット型光検出器の一種である量子ドット型赤外線検出器(量子型赤外線検出器)を例に挙げて説明する。なお、赤外線検出器を赤外線検知器ともいう。
【0014】
本実施形態の量子ドット型赤外線検出器は、赤外線の入射量に応じて光電流を発生する量子ドット型赤外線検出器であって、
図1に示すように、基板1上に、赤外線に対して活性な半導体材料からなる活性層2と、この活性層2を挟んで上下両側に設けられた上部電極層3及び下部電極層4とを含む赤外線検出素子5と、これに接続された外部回路6とを備える。
【0015】
ここでは、基板1は半絶縁性半導体基板である。また、上部電極層3及び下部電極層4は導電性半導体層である。また、上部電極層3上には上部電極17が設けられており、下部電極層4上には下部電極18が設けられており、上部電極17及び下部電極18に外部回路6が接続されている。
なお、活性層2を活性領域ともいう。また、活性層2は、光を吸収する層であるため、光吸収層ともいう。また、活性層2は、光電変換が行なわれる層であるため、光電変換層ともいう。また、電極層3、4を、電極形成層、コンタクト層又はコンタクト領域ともいう。また、赤外線検出素子5を、赤外線検知素子、検出器素子、検知器素子、受光素子、光半導体素子、あるいは、感知部ともいう。また、赤外線検出素子5は、入射される光(ここでは赤外線)に応じて抵抗値が変化する抵抗体と見ることができるため、光伝導体型素子ともいう。
【0016】
本実施形態では、赤外線検出素子5は、活性層2として、障壁層7、井戸層8、障壁層9、量子ドット群10、障壁層11、井戸層12、障壁層13を順に積層した構造(これらの層が互いに隣接した構造)を含む量子ドット活性層を備える。
ここで、量子ドット群10は、複数の量子ドット14からなる。ここでは、量子ドット群10は、所望の検出波長が得られる量子準位を持つ所望のサイズを有する第1量子ドット14X及び所望のサイズ以外のサイズを有する第2量子ドット14Yを含む。なお、複数の量子ドット14は層状に形成されるため、量子ドット層ともいう。また、所望のサイズを基準サイズともいう。
【0017】
また、障壁層7、9、11、13の伝導帯底のエネルギは、量子ドット群10を構成する量子ドット14及び井戸層8、12の伝導帯底のエネルギよりも大きくなっている。また、量子ドット群10を構成する量子ドット14は、バンドギャップがより大きい半導体材料からなる障壁層9、11中に埋め込まれている。
また、量子ドット群10の一方の側(ここでは下側)に設けられた障壁層7、井戸層8、障壁層9によって第1共鳴トンネル構造15が構成され、量子ドット群10の他方の側(ここでは上側)に設けられた障壁層11、井戸層12、障壁層13によって第2共鳴トンネル構造16が構成される。つまり、量子ドット群10の両側に共鳴トンネル構造15、16を備える。
【0018】
このように、赤外線検出素子5は、所望のサイズを有する第1量子ドット14X及び所望のサイズ以外のサイズを有する第2量子ドット14Yを含む量子ドット群10と、量子ドット群10の一方の側に設けられ、障壁層7、井戸層8、障壁層9からなる第1共鳴トンネル構造15と、量子ドット群10の他方の側に設けられ、障壁層11、井戸層12、障壁層13からなる第2共鳴トンネル構造16とを備える。
【0019】
そして、
図2に示すように、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位と第1量子ドット14Xの基底準位が、トンネル現象が起こる関係になっており、かつ、第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位と第1量子ドット14Xの励起準位が、トンネル現象が起こる関係になっている。
なお、第2量子ドット14Yのサイズが所望のサイズよりも大きい場合、
図3に示すように、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位と第2量子ドット14Yの基底準位は、トンネル現象が起こらない関係になり、かつ、第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位と第2量子ドット14Yの励起準位は、トンネル現象が起こらない関係になる。
【0020】
また、第2量子ドット14Yのサイズが所望のサイズよりも小さい場合、
図4に示すように、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位と第2量子ドット14Yの基底準位は、トンネル現象が起こらない関係になり、かつ、第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位と第2量子ドット14Yの基底準位は、トンネル現象が起こらない関係になる。
【0021】
このように、所望のサイズ以外のサイズを有する第2量子ドット14Yの量子準位は、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位及び第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位に対して、トンネル現象が起こらない関係になっている。
本実施形態では、
図2〜
図4に示すように、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位と第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位は互いに異なる。
【0022】
また、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位と第1量子ドット14Xの基底準位が一致し、かつ、第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位と第1量子ドット14Xの励起準位が一致するのが好ましい。
つまり、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位と第1量子ドット14Xの基底準位が一致し、かつ、第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位と第1量子ドット14Xの励起準位が一致するように、第1共鳴トンネル構造15及び第2共鳴トンネル構造16を構成する各層7〜9、11〜13の材料及び厚さを設定するのが好ましい。
【0023】
また、第1共鳴トンネル構造15の量子ドット群10に接する側の障壁層9、及び、第2共鳴トンネル構造16の量子ドット群10に接する側の障壁層11(
図1参照)は、
図2〜
図4に示すように、伝導帯底のエネルギが第1量子ドット14X及び第2量子ドット14Yの束縛準位から連続帯への熱励起による電子の脱出を抑制可能な高さになっているのが好ましい。
【0024】
このように、量子ドット近傍の障壁層9、11は、伝導帯底が十分に高いエネルギを持った材料で形成するのが好ましい。
これにより、量子ドット14の束縛準位から連続帯への熱励起が十分に抑制されるようにすることができる。
ところで、一般的な量子ドット型赤外線検出器では、
図5(A)、
図5(B)に示すように、量子ドットに束縛されている電子が光を吸収して励起され、束縛から脱して光電流を形成するようになっている。
【0025】
なお、
図5(A)では、全ての量子ドットを同一の大きさで示しているが、実際には、
図6に示すように、複数の量子ドットの大きさにはばらつきがある。
量子ドット型赤外線検出器が吸収・検出する赤外線の光子エネルギは、吸収によって電子が遷移する量子準位間のエネルギ差に相当する。
このため、所望の検出波長に対して適切な量子準位を形成する必要がある。
【0026】
一般に、量子ドットの形成には結晶格子定数の違いで生じるひずみによる自己組織化が利用される(Stranski-Krastanov成長モード)。このような量子ドットを自己組織化量子ドットという。
このようにして形成される量子ドットの大きさ(サイズ)はばらつきを持つ(
図6参照)。そして、量子ドットの大きさによって量子閉じ込めの強さが異なるため、例えば
図7(A)〜
図7(C)に示すように、大きさの異なる量子ドットによって形成される量子準位のエネルギ(量子準位の位置)は異なるものとなる。
【0027】
なお、
図7(A)は、所望の大きさの量子ドットが形成された場合の量子準位(基底準位及び励起準位)を示している。また、
図7(B)は、所望の大きさ以外の大きさの量子ドット(具体的には所望の大きさよりも大きい量子ドット)が形成された場合の量子準位(基底準位及び励起準位)を示している。また、
図7(C)は、所望の大きさ以外の大きさの量子ドット(具体的には所望の大きさよりも小さい量子ドット)が形成された場合の量子準位(基底準位)を示している。
【0028】
このため、所望の検出波長が得られるように量子準位を調整した所望の大きさの量子ドットを形成しようとしても、量子ドットの大きさのばらつきのために、条件から外れた量子準位を形成する所望の大きさ以外の大きさの量子ドットができてしまう。
このような量子ドットでは、ずれが小さい場合は検出波長ずれを生じ、ずれが大きい場合には光電流にはほぼ寄与しなくなる。つまり、吸収確率の低下、励起先準位からの脱出確率の低下、あるいは、連続帯への遷移確率の低下を招くことになる。
【0029】
また、量子ドットの束縛電子は、光吸収による励起のほか、熱的に励起されて束縛を脱することがある。このような電子は、光入射とは関係なく流れる電流(暗電流)を形成する。この暗電流は検出器の雑音源となる。
このため、所望の条件からずれた量子準位を形成する量子ドットは、光電流には寄与しない一方で、暗電流には寄与することになる。また、このような量子ドットは、光吸収での感度への寄与は小さく、光電流として流れる電子を捕獲してしまい、むしろ感度を低下させることになる。
【0030】
例えば、所望の大きさよりも大きい量子ドット(特にずれが大きく、大きすぎる量子ドット;
図7(B)参照)では、吸収確率の低下、励起準位からの脱出確率の低下などによって光電流に寄与しなくなってしまう一方、光電流として流れる電子の捕獲、熱励起による電子の脱出などによって暗電流には寄与してしまうことになる。
また、例えば、所望の大きさよりも小さい量子ドット(特にずれが大きく、小さすぎる量子ドット;
図7(C)参照)では、吸収確率の低下、連続帯への遷移確率の低下などによって光電流に寄与しなくなってしまう一方、光電流として流れる電子の捕獲、熱励起による電子の脱出などによって暗電流には寄与してしまうことになる。
【0031】
この結果、量子ドット型赤外線検出器のS/N(シグナル・ノイズ比)を低下させることになる。つまり、量子ドットを形成する際に必然的に生じる、条件からずれた量子ドットの存在が、量子ドット型赤外線検出器のS/Nを低下させることになる。
そこで、本実施形態では、上述のように量子ドット型赤外線検出器を構成している。
ここで、
図2は、所望の検出波長が得られる量子準位を持つ所望のサイズを有する第1量子ドット14Xを含むエネルギバンド構造を示している。
【0032】
上述のように構成し、所望の検出波長が得られる量子準位を持つ所望のサイズを有する第1量子ドット14Xの基底準位に共鳴準位(共鳴エネルギ)を一致させた第1共鳴トンネル構造15が陰極側(電子の流れについて上流側)となるように電圧を印加すると、
図2に示すように、電子は、第1共鳴トンネル構造15を経由し、トンネル現象が起こって、第1量子ドット14Xの基底準位に供給される。
【0033】
そして、第1量子ドット14Xで光励起された電子は、トンネル現象が起こって、他側の第2共鳴トンネル構造16、即ち、第1量子ドット14Xの励起準位に共鳴準位(共鳴エネルギ)を一致させた第2共鳴トンネル構造16を経由して、束縛を脱し、光電流を形成する。
このように、第2共鳴トンネル構造16を用いることで、光電流が減ってしまい、感度が低下してしまうのを抑制している。
【0034】
一方、所望のサイズ以外のサイズを有する第2量子ドット(条件から外れた量子ドット)14Yが形成された場合のエネルギバンド構造は、
図3、
図4に示すようになる。
なお、
図3は、所望のサイズよりも大きいサイズを有する第2量子ドット(大きすぎる量子ドット)14Yを含むエネルギバンド構造を示しており、
図4は、所望のサイズよりも小さいサイズを有する第2量子ドット(小さすぎる量子ドット)14Yを含むエネルギバンド構造を示している。
【0035】
図3、
図4に示すように、所望のサイズ以外のサイズを有する第2量子ドット14Yでは、第1共鳴トンネル構造15の共鳴準位と第2量子ドット14Yの基底準位(束縛準位)のエネルギが合わないため、トンネル現象は起こらず、第2量子ドット14Yには電子は供給されない。
つまり、共鳴しない第2量子ドット14Yの基底準位には電子は供給されない。また、光電流として流れる電子も捕獲されない。このため、感度を低下させる要因とならない。
【0036】
また、第2共鳴トンネル構造16の共鳴準位と第2量子ドット14Yの励起準位(束縛準位)のエネルギが合わないため、トンネル現象は起こらず、第2量子ドット14Yに存在する電子は外部へ脱出しない。
つまり、共鳴しない第2量子ドット14Yの励起準位に存在する電子は外部へ脱出しない。これにより、暗電流(雑音電流)を抑制し、検出器の雑音を低下させることができる。
【0037】
このように、条件からはずれた量子ドット14Yに束縛された電子は暗電流の形成に寄与せず、雑音源とならないため、条件からはずれた量子ドット14Yによる量子ドット型赤外線検出器(光検知器)のS/Nの低下を抑制することができる。
さらに、第1量子ドット14X及び第2量子ドット14Yの近傍の障壁層9、11の伝導帯底のエネルギが十分に高くなっているため、トンネル過程(トンネル現象)以外での電子の脱出、例えば熱的過程での電子の脱出を抑制することができる。このため、暗電流(雑音電流)を抑制し、検出器の雑音を低下させることができる。
【0038】
具体的には、例えば
図8に示すように、赤外線検出素子5に備えられる量子ドット活性層2は、上下両側にAlGaAs中間層19を含み、InAs量子ドット群10及びその両側に設けられた第1共鳴トンネル構造15及び第2共鳴トンネル構造16を、AlGaAs中間層19を挟んで、繰り返し積層した構造からなるものとすれば良い。
つまり、赤外線検出素子5は、半絶縁性GaAs基板1上に、n型GaAs下部電極形成層4、AlGaAs中間層19、AlGaAs障壁層7、InGaAs井戸層8、AlGaAs障壁層9、InAs量子ドット群10、AlGaAs障壁層11、GaAs井戸層12、AlGaAs障壁層13、AlGaAs中間層19、・・・、n型GaAs上部電極形成層3を順に積層した構造を備えるものとすれば良い。
【0039】
ここで、InAs量子ドット群10は、所望のサイズを有するInAs量子ドット(第1量子ドット)14X及び所望のサイズ以外のサイズを有するInAs量子ドット(第2量子ドット)14Yを含む。
また、量子ドット活性層2は、InAs量子ドット群10の一方の側(ここでは下側)に、AlGaAs障壁層7、InGaAs井戸層8、AlGaAs障壁層9からなる第1共鳴トンネル構造15を備え、InAs量子ドット群10の他方の側(ここでは上側)に、AlGaAs障壁層11、GaAs井戸層12、AlGaAs障壁層13からなる第2共鳴トンネル構造16を備える。
【0040】
そして、
図9に示すように、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位と第1量子ドット14Xの基底準位が、トンネル現象が起こる関係になっており、かつ、第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位と第1量子ドット14Xの励起準位が、トンネル現象が起こる関係になっている。
ここでは、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位と第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位は互いに異なる。また、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位と第1量子ドット14Xの基底準位が一致し、かつ、第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位と第1量子ドット14Xの励起準位が一致する(例えば
図2参照)。
【0041】
なお、第2量子ドット14Yのサイズが所望のサイズよりも大きい場合、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位と第2量子ドット14Yの基底準位は、トンネル現象が起こらない関係になり、かつ、第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位と第2量子ドット14Yの励起準位は、トンネル現象が起こらない関係になる(例えば
図3参照)。
【0042】
また、第2量子ドット14Yのサイズが所望のサイズよりも小さい場合、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位と第2量子ドット14Yの基底準位は、トンネル現象が起こらない関係になり、かつ、第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位と第2量子ドット14Yの基底準位は、トンネル現象が起こらない関係になる(例えば
図4参照)。
【0043】
このように、所望のサイズ以外のサイズを有する第2量子ドット14Yの量子準位は、第1共鳴トンネル構造15における第1共鳴準位及び第2共鳴トンネル構造16における第2共鳴準位に対して、トンネル現象が起こらない関係になっている。
また、第1共鳴トンネル構造15のInAs量子ドット群10に接する側のAlGaAs障壁層9、及び、第2共鳴トンネル構造16のInAs量子ドット群10に接する側のAlGaAs障壁層11は、伝導帯底のエネルギが所望のサイズを有するInAs量子ドット(第1量子ドット)14X及び所望のサイズ以外のサイズを有するInAs量子ドット(第2量子ドット)14Yの束縛準位から連続帯への熱励起による電子の脱出を抑制可能な高さになっている(例えば
図9、
図2〜
図4参照)。
【0044】
なお、複数の赤外線検出素子5を2次元アレイ状に配置して、赤外線検出素子アレイを構成しても良い。この場合、各赤外線検出素子5は、素子分離されて、各画素を構成することになる。
ここでは、AlGaAs中間層19は、例えばAl
0.1Ga
0.9As中間層である。
【0045】
また、AlGaAs障壁層7、9、11、13は、例えばAl
0.35Ga
0.65As障壁層である。
また、InGaAs井戸層8、12は、例えばIn
0.3Ga
0.7As井戸層である。
また、n型GaAs下部電極形成層4及びn型GaAs上部電極形成層3には、それぞれ、例えばAuGe/Auからなる上部電極(金属電極;ここでは陽極)17及び下部電極(金属電極;ここでは陰極)18が取り付けられている。
【0046】
なお、上部電極17及び下部電極18を電流引出用電極ともいう。また、上部電極17及び下部電極18は、赤外線検出素子5を駆動するとともに、活性層2に赤外線が入射し、これに応じて生じた光電流を読み出すために用いられるものであるため、駆動電極又は駆動・読出用電極ともいう。
さらに、上部電極17及び下部電極18には、赤外線検出素子5を駆動する機能と、赤外線検出素子5に流れる光電流を読み出す機能とを有する外部回路6が接続されている。
【0047】
ここで、外部回路6は、上部電極17と下部電極18との間にバイアス電圧を印加し、赤外線検出素子5を駆動する電源20と、赤外線検出素子5に流れる光電流を検出する電流検出器21とによって構成されている。ここでは、電源20は定電圧源である。
なお、電流検出器21は、光電流を検出するものであれば良く、例えば電圧によって光電流を検出するものであっても良い。また、電源20を駆動電源又は電源回路ともいう。また、電流検出器21を電流検出回路ともいう。
【0048】
そして、電源20から供給されるバイアス電圧によって、下部電極18が陰極、上部電極17が陽極となるように上部電極17と下部電極18との間に電位差を与えておき、これらの電極間に流れる光電流を電流検出器21によって検出することができるようになっている。
これにより、赤外線入射時の電流変化、即ち、活性層2に赤外線が入射し、光電流が生じることによる電流変化を検出することで、赤外線を検出することができるようになっている。
【0049】
なお、複数の赤外線検出素子5を2次元アレイ状に配置して赤外線検出素子アレイを構成する場合、赤外線検出素子アレイにバンプを介して接続される信号処理回路アレイが、外部回路6を含むことになる。
このように構成される量子ドット型赤外線検出器では、赤外線検出素子5の活性層2に赤外線が入射すると、量子ドット14に束縛されている電子が赤外線を吸収して励起され、束縛から脱し、上部電極17と下部電極18との間の電位差によって、一方の電極に集められ、光電流が生じる。この赤外線検出素子5を流れる電流の変化を読み出すことによって、光信号を検出することができる。
【0050】
つまり、赤外線検出素子5に赤外線が入射すると、活性層2において光電変換され、赤外線検出素子5に光電流が流れるため、この赤外線検出素子5を流れる電流量を電流検出器21によって検出することによって、光を検出することができる。
次に、本実施形態にかかる光検出器の製造方法について説明する。
本実施形態の光検出器の製造方法は、所望のサイズを有する第1量子ドット14X及び所望のサイズ以外のサイズを有する第2量子ドット14Yを含む量子ドット群10を形成する工程と、第1量子ドット14Xの基底準位との関係でトンネル現象が起こる第1共鳴準位を持つように、量子ドット群10の一方の側に、障壁層7、井戸層8、障壁層9からなる第1共鳴トンネル構造15を形成する工程と、第1量子ドット14Xの励起準位との関係でトンネル現象が起こる第2共鳴準位を持つように、量子ドット群10の他方の側に、障壁層11、井戸層12、障壁層13からなる第2共鳴トンネル構造16を形成する工程とを含む。
【0051】
以下、量子ドット型光検出器の一種である量子ドット型赤外線検出器の製造方法を例に挙げて説明する。
つまり、まず、例えば分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法によって、半絶縁性GaAs基板1上に、下部電極形成層4として、n型GaAs下部電極形成層を形成する(例えば
図8参照)。
【0052】
ここで、n型GaAs下部電極形成層4の厚さは例えば1000nmとし、n型ドーパントとして例えばSiを用い、その濃度は例えば約2×10
18/cm
3とする。
次に、n型GaAs下部電極形成層4上に、中間層19として、AlGaAs中間層を形成する(例えば
図8参照)。
ここで、AlGaAs中間層19は、厚さを例えば約50nmとし、Al組成を例えば約0.1とする。つまり、AlGaAs中間層19は厚さ約50nmのAl
0.1Ga
0.9As中間層とする。
【0053】
次に、AlGaAs中間層19上に、障壁層7として、AlGaAs障壁層を形成する(例えば
図8参照)。
ここで、AlGaAs障壁層7は、厚さを例えば約5nmとし、Al組成を例えば約0.35とする。つまり、AlGaAs障壁層7は厚さ約5nmのAl
0.35Ga
0.65As障壁層とする。
【0054】
次に、AlGaAs障壁層7上に、井戸層8として、InGaAs井戸層を形成する(例えば
図8参照)。
ここで、InGaAs井戸層8は、厚さを例えば約3nmとし、In組成を例えば約0.3とする。つまり、InGaAs井戸層8は厚さ約3nmのIn
0.3Ga
0.7As井戸層とする。
【0055】
次に、InGaAs井戸層8上に、障壁層9として、AlGaAs障壁層を形成する(例えば
図8参照)。
ここで、AlGaAs障壁層9は、厚さを例えば約5nmとし、Al組成を例えば約0.35とする。つまり、AlGaAs障壁層9は厚さ約5nmのAl
0.35Ga
0.65As障壁層とする。
【0056】
このようにして、後述のようにして形成されるInAs量子ドット群10の下側に、AlGaAs障壁層7、InGaAs井戸層8、AlGaAs障壁層9からなる第1共鳴トンネル構造15を形成する(例えば
図8参照)。
次に、AlGaAs障壁層9上に、量子ドット群10として、複数のInAs量子ドット14からなるInAs量子ドット群を形成する(例えば
図8参照)。
【0057】
ここでは、例えば基板温度約470℃でInAsを約2分子層成長させることで、結晶ひずみによる自己組織化によって、複数のInAs量子ドット14からなるInAs量子ドット群10が形成される。
このようにして形成されたInAs量子ドット群10には、所望のサイズを有するInAs量子ドット(第1量子ドット)14X及び所望のサイズ以外のサイズを有するInAs量子ドット(第2量子ドット)14Yが含まれる(例えば
図8参照)。
【0058】
次に、InAs量子ドット群10を覆うように、障壁層11として、AlGaAs障壁層を形成する(例えば
図8参照)。
ここで、AlGaAs障壁層11は、厚さを例えば約5nmとし、Al組成を例えば約0.35とする。つまり、AlGaAs障壁層11は厚さ約5nmのAl
0.35Ga
0.65As障壁層とする。
【0059】
次に、AlGaAs障壁層11上に、井戸層12として、GaAs井戸層を形成する(例えば
図8参照)。
ここで、GaAs井戸層12は、厚さを例えば約4nmとする。
次に、GaAs井戸層12上に、障壁層13として、AlGaAs障壁層を形成する(例えば
図8参照)。
【0060】
ここで、AlGaAs障壁層13は、厚さを例えば約5nmとし、Al組成を例えば約0.35とする。つまり、AlGaAs障壁層13は厚さ約5nmのAl
0.35Ga
0.65As障壁層とする。
このようにして、InAs量子ドット群10の上側に、AlGaAs障壁層11、InGaAs井戸層12、AlGaAs障壁層13からなる第2共鳴トンネル構造16を形成する(例えば
図8参照)。
【0061】
次に、AlGaAs障壁層13上に、中間層19として、AlGaAs中間層を形成する(例えば
図8参照)。
ここで、AlGaAs中間層19は、厚さを例えば約50nmとし、Al組成を例えば約0.1とする。つまり、AlGaAs中間層19は厚さ約50nmのAl
0.1Ga
0.9As中間層とする。
【0062】
以後、同様の工程を複数回(ここでは9回)繰り返す。つまり、AlGaAs障壁層7、InGaAs井戸層8、AlGaAs障壁層9からなる第1共鳴トンネル構造15、InAs量子ドット群10、AlGaAs障壁層11、InGaAs井戸層12、AlGaAs障壁層13からなる第2共鳴トンネル構造16、AlGaAs中間層19を順に形成する工程を複数回(ここでは9回)繰り返す(例えば
図8参照)。
【0063】
このようにして、n型GaAs下部電極形成層4上に、AlGaAs中間層19を挟んで、第1共鳴トンネル構造15、InAs量子ドット群10及び第2共鳴トンネル構造16を1組として、これを10組積層して量子ドット活性層2を形成する(例えば
図8参照)。
次に、最上層のAlGaAs中間層19上に、上部電極形成層3として、n型GaAs上部電極形成層を形成する(例えば
図8参照)。
【0064】
ここで、n型GaAs上部電極形成層3の厚さは例えば500nmとし、n型ドーパントとして例えばSiを用い、その濃度は例えば約2×10
18/cm
3とする。
その後、例えばリソグラフィ、ドライエッチング、金属蒸着法などによって、n型GaAs下部電極形成層4までの掘削、n型GaAs上部電極形成層3及びn型GaAs下部電極形成層4への上部電極17及び下部電極18(例えばAuGe/Au電極)の形成を行なう(例えば
図8参照)。
【0065】
なお、複数の赤外線検出素子5を2次元アレイ状に配置した赤外線検出素子アレイを形成する場合には、複数の赤外線検出素子(画素)5が形成されるように素子分離溝を形成することになる。
そして、上述のようにして作製した赤外線検出素子5に設けられた上部電極17及び下部電極18に、外部回路6、即ち、駆動電源20及び電流検出器21を接続する。
【0066】
これにより、量子ドット型赤外線検出器(量子ドット型光検出器)が完成する。
ここでは、下部電極18が陰極、上部電極17が陽極となるようにこれらの電極間に電位差を加えておき、その間に流れる電流を電流検出器21によって検出することで、赤外線入射時の電流変化を観測することができ、赤外線検出器として機能させることができる。
【0067】
なお、量子ドット群10を構成する量子ドット14、障壁層7、9、11、13、井戸層8、12に用いられる材料・組成は、上述の実施形態における材料・組成に限られるものではない。
例えば、量子ドット群10を構成する量子ドット14(第1量子ドット14X及び第2量子ドット14Y)は、InAs又はInGaAsからなり、第1共鳴トンネル構造15及び第2共鳴トンネル構造16は、障壁層7、9、11、13がAlGaAsからなり、井戸層8、12がInGaAs、GaAs又は障壁層7、9、11、13を構成するAlGaAsよりもAlが少ないAlGaAsからなるものとすれば良い。
【0068】
また、上述の実施形態では、各障壁層7、9、11、13は、同一の材料・組成、同一の厚さにしているが、これに限られるものではなく、障壁層7、9、11、13の伝導帯の底のエネルギが量子ドット14や井戸層8、12の伝導帯の底のエネルギよりも大きくなっていれば、材料・組成が異なっていても良いし、厚さが異なっていても良い。
ところで、上述のように構成される光検出器(具体的には赤外線検出器)を備えるものとして、撮像装置を構成することができる。
【0069】
例えば
図10に示すように、撮像装置30を、上述のように構成される光検出器(具体的には赤外線検出器)を含むセンサ部31と、これに接続された制御演算部32と、表示部33とを備えるものとし、センサ部31に入射した赤外線を基にした画像が表示部33に表示されるようにすれば良い。
この場合、撮像装置30は、上述のように構成される光検出器(具体的には赤外線検出器)を備えるセンサ部31と、センサ部31に接続された制御演算部32とを備えるものとして構成されることになる。
【0070】
したがって、本実施形態にかかる光検出器及びその製造方法、撮像装置は、量子ドットを用いる光検出器において、S/Nを向上させることができるという効果を有する。
なお、本発明は、上述した実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
以下、上述の実施形態に関し、更に、付記を開示する。
【0071】
(付記1)
基準サイズを有する第1量子ドット及び前記基準サイズ以外のサイズを有する第2量子ドットを含む量子ドット群と、
前記量子ドット群の一方の側に設けられ、障壁層、井戸層、障壁層からなる第1共鳴トンネル構造と、
前記量子ドット群の他方の側に設けられ、障壁層、井戸層、障壁層からなる第2共鳴トンネル構造とを備え、
前記第1共鳴トンネル構造における第1共鳴準位と前記第1量子ドットの基底準位が、トンネル現象が起こる関係になっており、かつ、前記第2共鳴トンネル構造における第2共鳴準位と前記第1量子ドットの励起準位が、トンネル現象が起こる関係になっていることを特徴とする光検出器。
【0072】
(付記2)
前記第1共鳴トンネル構造における第1共鳴準位と前記第2共鳴トンネル構造における第2共鳴準位は互いに異なることを特徴とする、付記1に記載の光検出器。
(付記3)
前記第1共鳴トンネル構造における第1共鳴準位と前記第1量子ドットの基底準位が一致し、かつ、前記第2共鳴トンネル構造における第2共鳴準位と前記第1量子ドットの励起準位が一致することを特徴とする、付記1又は2に記載の光検出器。
【0073】
(付記4)
前記第1量子ドット及び前記第2量子ドットは、InAs又はInGaAsからなり、
前記第1共鳴トンネル構造及び前記第2共鳴トンネル構造は、前記障壁層がAlGaAsからなり、前記井戸層がInGaAs、GaAs又は前記障壁層を構成するAlGaAsよりもAlが少ないAlGaAsからなることを特徴とする、付記1〜3のいずれか1項に記載の光検出器。
【0074】
(付記5)
前記第1共鳴トンネル構造の前記量子ドット群に接する側の前記障壁層、及び、前記第2共鳴トンネル構造の前記量子ドット群に接する側の前記障壁層は、伝導帯底のエネルギが前記第1量子ドット及び前記第2量子ドットの束縛準位から連続帯への熱励起による電子の脱出を抑制可能な高さになっていることを特徴とする、付記1〜4のいずれか1項に記載の光検出器。
【0075】
(付記6)
前記第2量子ドットの量子準位は、前記第1共鳴トンネル構造における第1共鳴準位及び前記第2共鳴トンネル構造における第2共鳴準位に対して、トンネル現象が起こらない関係になっていることを特徴とする、付記1〜5のいずれか1項に記載の光検出器。
(付記7)
光検出器を備えるセンサ部と、
前記センサ部に接続された制御演算部とを備え、
前記光検出器が、
基準サイズを有する第1量子ドット及び前記基準サイズ以外のサイズを有する第2量子ドットを含む量子ドット群と、
前記量子ドット群の一方の側に設けられ、障壁層、井戸層、障壁層からなる第1共鳴トンネル構造と、
前記量子ドット群の他方の側に設けられ、障壁層、井戸層、障壁層からなる第2共鳴トンネル構造とを備え、
前記第1共鳴トンネル構造における第1共鳴準位と前記第1量子ドットの基底準位が、トンネル現象が起こる関係になっており、かつ、前記第2共鳴トンネル構造における第2共鳴準位と前記第1量子ドットの励起準位が、トンネル現象が起こる関係になっていることを特徴とする撮像装置。
【0076】
(付記8)
基準サイズを有する第1量子ドット及び前記基準サイズ以外のサイズを有する第2量子ドットを含む量子ドット群を形成する工程と、
前記第1量子ドットの基底準位との関係でトンネル現象が起こる第1共鳴準位を持つように、前記量子ドット群の一方の側に、障壁層、井戸層、障壁層からなる第1共鳴トンネル構造を形成する工程と、
前記第1量子ドットの励起準位との関係でトンネル現象が起こる第2共鳴準位を持つように、前記量子ドット群の他方の側に、障壁層、井戸層、障壁層からなる第2共鳴トンネル構造を形成する工程とを含むことを特徴とする光検出器の製造方法。