(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の巻線組を有するモータ(80)に、各巻線組に対応して設けられる複数のインバータ(60u、60x)から電力を供給させ前記モータの通電を制御するモータ制御装置であって、
対応する前記巻線組及び前記インバータを含む一群の構成の単位を系統と定義すると、
各系統において、前記インバータに入力される直流電圧に対する出力電圧の比に基づく変調率が相対的に低い領域で、dq直交座標での電流ベクトル制御による電流フィードバック制御により、前記インバータへの出力電圧指令を生成する正弦波PWM制御を実行する正弦波PWM制御部(20u、20x)と、
各系統において、前記変調率が相対的に高い領域で、電流又はトルクのフィードバック制御により電圧ベクトルの位相、又は振幅及び位相の両方を制御して前記インバータへの出力電圧指令を生成する過変調制御を実行する過変調制御部(30u、30x)と、
各系統の制御モードについて、正弦波PWM制御又は過変調制御を選択する制御モード選択部(51)と、
を備え、
前記制御モード選択部は、全ての系統が正弦波PWM制御で動作している場合、
いずれか一つ以上の系統の変調率が所定の上昇側切替閾値(Mth_up)以上となったとき、全ての系統の制御モードを正弦波PWM制御から過変調制御に切り替えるモータ制御装置。
前記制御モード選択部は、いずれか一つ以上の系統において、dq座標における実電流ベクトルが電流指令ベクトルに対して遅角側に乖離しているとき、実電流ベクトルを電流指令ベクトルに合わせるように変調率を補正し、補正後の変調率に基づいて制御モードの切替を判定する請求項2に記載の制御装置。
前記制御モード選択部は、いずれか一つ以上の系統において、dq座標における実電流ベクトルが電流指令ベクトルに対して遅角側に、所定の超過量(ΔId_EX、Δα_EX)を超えて乖離しているとき、各系統の変調率にかかわらず、全ての系統の制御モードを過変調制御から正弦波PWM制御に切り替える請求項2または3に記載の制御装置。
前記制御モード選択部は、実d軸電流とd軸電流指令との比較により、実電流ベクトルが電流指令ベクトルに対して遅角側に乖離していることを判断する請求項3または4に記載のモータ制御装置。
前記制御モード選択部は、実電流ベクトルの位相と電流指令ベクトルの位相との比較により、実電流ベクトルが電流指令ベクトルに対して遅角側に乖離していることを判断する請求項3または4に記載のモータ制御装置。
前記制御モード選択部は、制御モードを一度切り替えた後、所定の再切替禁止期間が経過するまで、再度の制御モードの切替を禁止する請求項1〜6のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
前記制御モード選択部は、各系統の変調率に加えて、いずれか一つ以上の系統の実電流振幅、実電流位相、トルク指令又はモータ回転数のうちから一つ以上選択されるモード切替パラメータに基づいて制御モードを切り替え、
正弦波PWM制御モードから過変調制御モードに移行するときの前記モード切替パラメータの上昇側切替閾値は、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに移行するときの前記モード切替パラメータの下降側切替閾値より大きく設定されている請求項1〜7のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、モータ制御装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。また、第1〜第4実施形態を包括して「本実施形態」という。本実施形態のモータ制御装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車の主機モータ等として用いられ、複数の巻線組を有するモ―タの通電を制御する装置である。このモータ制御装置は、各巻線組に対応して設けられる複数のインバータからモータに電力を供給させる。以下、対応する巻線組及びインバータを含む一群の構成の単位を「系統」と定義する。
【0017】
最初にモータ制御システムの全体構成について、
図1〜
図4を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態のモータ制御システム600は、二つのインバータ60u、60xから、二組の三相巻線組を有するモータ80に電力を供給する。
図2に示すように、モータ80は、互いに独立した、U相、V相、W相からなる三相巻線組80uと、X相、Y相、Z相からなる三相巻線組80xとが組み合わされて構成された永久磁石式同期型三相交流モータである。二系統の冗長構成とすることで、仮に片方の系統が故障した場合でも他方の系統で駆動を続けることができ、信頼性が向上する。また、電流−トルク効率の向上が図られる。
【0018】
以下、U相、V相、W相の三相巻線組80uに電力供給する系統を「U系統」といい、X相、Y相、Z相の三相巻線組80xに電力供給する系統を「X系統」という。U系統の構成に係る符号には末尾に「u」を付し、X系統の構成に係る符号には末尾に「x」を付す。また、各系統の電流、電圧等の物理量の記号についても、末尾又は途中に「u」又は「x」を付して区別する。「u」又は「x」が付されない符号又は記号は、基本的に両系統に共通の構成や物理量を表す。
【0019】
U系統の巻線組80uとX系統の巻線組80xとは通電により協調してモータ80のトルクを発生する。巻線組80u、80xの構成は、Y結線のみ、Δ結線のみ、Y結線とΔ結線との混合のいずれでもよく、各系統の巻線組80u、80xの機械的な位置関係は問わない。各系統の巻線組80u、80xの電気的仕様は、基本的に同等であることを想定する。
【0020】
図1の構成例では、各系統のインバータ60u、60xは共通のバッテリ10に対して並列に接続され、それぞれ、バッテリ10から直流電圧Vdcの直流電力が入力される。インバータ60u、60xの入力部には、直流電圧Vdcを平滑化するコンデンサ15が設けられる。直流電圧Vdcは、例えば図示しない電圧センサにより検出される。なお、他の構成例では、二つの独立した電源から各インバータ60u、60xに個別に直流電力が入力されてもよい。また、バッテリ10とインバータ60u、60xとの間に昇圧コンバータが設けられてもよい。
【0021】
各系統のインバータ60u、60xは、それぞれ上下アームの6つのスイッチング素子がブリッジ接続されている。スイッチング素子は、例えばIGBTで構成され、低電位側から高電位側へ向かう電流を許容する還流ダイオードが並列に接続されている。インバータ60u、60xは、モータ制御装置500から出力されるスイッチングパルス(図中「SWパルス」)信号に従ってスイッチング素子が動作することでバッテリ10の直流電力を三相交流電力に変換し、モータ80に供給する。
【0022】
各系統の電流センサ70u、70xは、は、各巻線組80u、80xの二相又は三相に流れる相電流を検出する。
図1の構成例では、U系統のV相、W相電流Ivr、Iwr、及びX系統のY相、Z相電流Iyr、Izrが検出される。電流記号末尾の「r」は実電流を意味する。なお、二相の電流を検出する構成では、他の一相の電流はキルヒホッフの法則により算出される。
【0023】
回転角センサ85は、レゾルバ等の回転角センサであり、モータ80の電気角θを検出する。電気角θは時間微分され、電気角速度ωとしても用いられる。なお、第4実施形態では、電気角速度を換算して得られるモータ回転数の記号についても「ω」を共用する。
図1の構成例では、電気角θは二系統に共通の値としているが、系統毎に電気角θu、θxが検出されてもよい。また、二系統の巻線組80u、80xが例えば30degの位相差を有している場合、U系統の電気角θに対し、X系統の電気角を(θ+30)degのように処理してもよい。
【0024】
モータ制御装置500は、上位の車両制御ECU等からトルク指令τ
*が指令される。また、モータ制御装置500は、直流電圧Vdc、電気角θ、及び両系統の実電流Ivr、Iwr、Iyr、Izrを取得し、これらの情報に基づくフィードバック制御により、各系統のスイッチングパルス信号を生成し、インバータ60u、60xに出力する。
【0025】
次に
図3を参照し、モータ制御装置500の詳細な制御構成を説明する。
図3では物理量の入出力が煩雑となるため、一部の物理量について入出力の図示を省略する。例えば、三相−dq変換部29u、29xに入力される電気角θ、変調器55u、55xに入力される電気角θ、直流電圧Vdc、制御モード選択部51に入力される各パラメータ等が省略されている。また、
図3では、各系統の電圧出力部として、変調器55u、55x及びインバータ60u、60xをまとめて図示する。
【0026】
変調器55u、55xは、変調率やモータの回転数−トルク特性に応じて変調方式を切り替えつつ、電圧指令、直流電圧Vdc、電気角θ等に基づいてスイッチングパルス信号を生成し、インバータ60u、60xに出力する。一般に変調率Mは、直流電圧Vdcに対する出力電圧の比(すなわち電圧利用率)に基づき、式(1)で定義される。式(1)では、出力電圧を電圧指令ベクトルの振幅V
*ampで表す。
M=(2/√1.5)×(V
*amp/Vdc) ・・・(1)
【0027】
モータ制御装置500は、U系統及びX系統の各系統において、正弦波PWM制御部20u、20xと、過変調制御部30u、30xとを備える。正弦波PWM制御部20u、20xは、変調率Mが相対的に低い(例えば1.15未満の)領域で、dq直交座標での電流ベクトル制御による電流フィードバック制御により、インバータ60u、60xへの出力電圧指令を生成する「正弦波PWM制御」を実行する。出力電圧波形が正弦波の場合の変調率は最大1.0であり、正弦波に高調波成分を重畳させることにより最大1.15までの変調率を実現可能である。正弦波制御は、非干渉制御、PID制御、オブザーバを含むものであってもよい。
【0028】
過変調制御部30u、30xは、変調率Mが相対的に高い(例えば1.15〜1.27の)領域で、トルクフィードバック制御により電圧ベクトルの位相、又は振幅及び位相の両方を制御してインバータ60u、60xへの出力電圧指令を生成する「過変調制御」を実行する。物理的に出力可能な上限である変調率1.27のときには、電気1周期に1パルスを出力する矩形波制御が用いられる。
【0029】
また、モータ制御装置500は、各系統の制御モードについて正弦波PWM制御又は過変調制御を選択する制御モード選択部51を備える。
図3及び
図4に示すように、制御モード選択部51には、U系統のdq軸電圧指令V
*du、V
*qu及び実電流Idur、Iqur、X系統のdq軸電圧指令V
*dx、V
*qx及び実電流Idxr、Iqxr、並びに直流電圧Vdcが入力される。制御モード選択部51は、これらのパラメータに基づいて各系統の制御モードを選択し、モード信号Mode_u、Mode_xを電圧指令選択部52u、52x及び電圧位相基準値演算部37に出力する。
【0030】
各系統の電圧指令選択部52u、52xは、制御モード選択部51から出力されるモード信号Mode_u、Mode_xに従って電圧指令を選択する。つまり、電圧指令選択部52u、52xは、正弦波PWM制御モードではdq軸電圧指令V
*du、V
*qu、V
*dx、V
*qxを選択し、過変調制御モードでは電圧振幅指令V
*ampu、V
*ampx及び電圧位相指令V
*ψu、V
*ψxを選択する。特に本実施形態の制御モード選択部51は、モータ動作中の各系統の変調率Mの変化に応じて、U系統及びX系統の制御モードが常に同じになるように制御モードを切り替える。その詳細については後述する。
【0031】
続いて、正弦波PWM制御部20u、20x及び過変調制御部30u、30xの構成について順に説明する。なお、
図3では図示の都合上、各制御部の範囲を各系統の電圧指令選択部52u、52xの手前までの範囲で示しているが、変調器55u、55xの一部が各制御部に含まれると解釈してもよい。例えば正弦波PWM制御部20u、20xは、変調器55内の搬送波生成部やPWM変調部を含むと考えてよく、過変調制御部30u、30xは、変調器55内の矩形波生成部やパルスパターン生成部を含むと考えてよい。要するに、正弦波PWM制御部20u、20xと過変調制御部30u、30xとの構成の相違点が重要であって、各制御部の範囲は周知技術に基づいて柔軟に解釈すればよい。
【0032】
正弦波PWM制御部20u、20xについて、U系統及びX系統の構成は実質的に同一であるため、ここでの説明は「u」、「x」を省略し、両系統について共通に記載する。正弦波PWM制御部20は、電流指令演算部21、電流偏差算出部22d、22q、電流制御器23d、23qを含む。
【0033】
電流指令演算部21は、トルク指令τ
*に基づいて、d軸電流指令I
*d及びq軸電流指令I
*qを演算する。電流偏差算出部22d、22qは、dq軸電流指令I
*d、I
*qと、三相−dq変換部29からフィードバックされた実dq軸電流Idr、Iqrとの電流偏差を算出する。電流制御器23d、23qは、電流偏差を0に近づけるように、PI制御によりdq軸電圧指令V
*d、V
*qを演算する。dq軸電圧指令V
*d、V
*qは、各系統の電圧指令選択部52u、52xに出力される。
【0034】
過変調制御部30は、U系統の制御部30uとX系統の制御部30xとが混在して図示されており、大きく、電圧位相の制御部と、電圧振幅の制御部とに分かれる。電圧位相の制御部には、合成電流算出器31d、31q、トルク推定部32、トルク偏差算出部34、位相制御器36、電圧位相基準値演算部37、位相加算器38が含まれる。
【0035】
先に、電圧位相基準値演算部37は、両系統のモード信号Mode_u、Mode_xの入力により、制御モードが正弦波PWM制御から過変調制御に切り替わったタイミングを認識する。そして、電圧位相基準値演算部37は、各系統のdq軸電圧指令V
*du、V
*qu、V
*dx、V
*qxに基づき、過変調制御モードへの切替タイミングにおける電圧位相を基準値V
*ψu0、V
*ψx0として設定する。電圧位相基準値V
*ψu0、V
*ψx0は、正弦波PWM制御モードから過変調制御モードへの切替毎に更新される。
【0036】
合成電流算出器31d、31qは、両系統の実dq軸電流Idur、Iqur、Idxr、Iqxrを軸毎に加算し合成電流を算出する。トルク推定部32は、合成電流、逆起電圧定数φ、dq軸自己インダクタンスLd、Lq、モータ80の極対数pに基づき、式(2)を用いて実トルクτrの推定値を算出し、トルク指令τ
*にフィードバックする。なお、式(2)の算出に代えてマップが用いられてもよい。また、トルクセンサが設けられる構成では、トルク推定部32を設けず、トルクセンサにより検出されたセンサ値が実トルクτrとしてフィードバックされてもよい。
τr=p×{Iq×φ+(Ld−Lq)×Id×Iq} ・・・(2)
【0037】
トルク偏差算出部34は、トルク指令τ
*と実トルクτrとのトルク偏差を算出する。位相制御器36は、トルク偏差を0に近づけるように、PI演算により位相基準値V
*ψu0、V
*ψx0からの位相変化量Δψu、Δψxを演算する。位相加算器38は、各系統の位相基準値V
*ψu0、V
*ψx0に位相変化量Δψu、Δψxを加算し、加算後の電圧位相V
*ψu、V
*ψxを各系統の電圧指令選択部52u、52xに出力する。
【0038】
電圧振幅の制御部には、電圧振幅基準値演算部47、振幅補正量演算部46、振幅加算器48等が含まれる。電圧振幅基準値演算部47は、トルク指令τ
*、電気角速度ω、各系統の電流Iu、Ix、電圧Vu、Vxに基づいて電圧振幅を演算する。また、電圧振幅基準値演算部47は、電圧位相基準値演算部37と同様に両系統のモード信号Mode_u、Mode_xが入力され、過変調制御モードへの切替タイミングにおける電圧振幅基準値V
*ampu0、V
*ampx0を設定する。
【0039】
振幅補正量演算部46は、過変調制御でのフィードバック制御により決定される振幅補正量ΔVu、ΔVxを演算する。例えばPI制御では、U系統の振幅補正量ΔVuは積分項ΔVu_iと比例項ΔVu_pとの和として算出される。なお、U系統及びX系統の振幅補正量ΔVu、ΔVxは同じ値に設定されてもよい。振幅加算器48は、各系統の電圧振幅基準値V
*ampu0、V
*ampx0に振幅補正量ΔVu、ΔVxを加算し、加算後の電圧振幅V
*ampu、V
*ampxを各系統の電圧指令選択部52u、52xに出力する。
【0040】
ところで、特許文献1(特開2008−92739号公報)の従来技術では、複数の巻線組を有するモータ制御装置において、回転数に応じて制御を切り替えている。しかし、モータに必要な電圧は、回転数以外にも電流やインダクタンス等に依存するため、回転数のみではモータに必要な電圧を適切に把握することができない。また、複数巻線モータでは各系統に必要な出力電圧が異なるが、特許文献1の従来技術では電圧によらず制御を切り替えるため、切替時に過電流やトルクショックが発生するおそれがある。
【0041】
さらに、複数の巻線組は互いに磁気結合しており、巻線組間に相互インダクタンスが発生する。相互インダクタンスを考慮すると、二系統の電圧方程式は式(3)で表される。ここで、二系統共通の自己インダクタンスをLd、Lq、系統間の相互インダクタンスをMdux、Mquxと表す。なお、数式中の下付文字を、明細書中では通常文字で記す。式(3)において四角枠で囲った相互干渉項により、系統間の出力電圧に変動が生じる。
【0043】
そこで本実施形態は、複数系統が正弦波PWM制御モード及び過変調制御モードを切替可能なモータ制御装置において、制御モード切替時における過電流やトルクショックの発生を防止することを目的とする。続いて、この目的を達成するために本実施形態の制御モード選択部51が行う具体的な制御モード切替処理について、実施形態毎に説明する。
【0044】
(第1実施形態)
第1実施形態による制御モード切替処理について、
図5、
図6のフローチャートを参照して説明する。以下のフローチャートの説明で記号「S」はステップを意味する。また、ステップ番号が数字のみのステップは両系統に共通のステップであり、番号末尾に「u」、「x」の記号を付したステップは、それぞれU系統及びX系統のステップである。なお、第2、第3実施形態とステップ番号を共用する都合上、ステップ番号が欠番となる箇所がある。
【0045】
本実施形態では、両系統の制御モードが常に同じであるように選択されるため、一系統が正弦波PWM制御モードであり、他系統が過変調制御モードであるという場合はない。
図5には、両系統が正弦波PWM制御モードの状態からスタートする処理を示し、
図6には、両系統が過変調制御モードの状態からスタートする処理を示す。
【0046】
図5のS10では、U系統及びX系統の現在の制御モードが正弦波PWM制御モードであるか判断される。S10でYESの場合、U系統のS13u〜S15u、及びX系統のS13x〜S15xが併行して実行され、各系統の変調率Mu、Mx等が算出される。
【0047】
U系統について、S13uでは、式(4)により、dq軸電圧指令V
*du、V
*quから電圧ベクトルの振幅V
*ampuが算出される。
V
*ampu=√(V
*du
2+V
*qu
2) ・・・(4)
【0048】
S14uでは、式(5)により、直流電圧Vdcに対する電圧振幅V
*ampuの比に基づいて変調率Muが算出される。
Mu=(2/√1.5)×(V
*ampu/Vdc) ・・・(5)
【0049】
S15uでは、式(6)により、電圧ベクトルの位相V
*ψuが算出される。
V
*ψu=atan(V
*qu/V
*du) ・・・(6)
【0050】
X系統についても同様にS13x、S14x、S15xが実施される。制御モード選択部51は、各系統の電圧ベクトルの振幅V
*ampu及び位相V
*ψuを算出することで、過変調制御モードへの移行に備える。
【0051】
S18では、U系統の変調率Muが上昇側切替閾値Mth_up以上であるか、又は、X系統の変調率Mxが上昇側切替閾値Mth_up以上であるか判断される。ここで、両系統の上昇側切替閾値Mth_upは同じ値でも異なる値でもよい。また、上昇側切替閾値Mth_upは、正弦波PWM制御の電圧飽和となる変調率1.15に限らず、システム最適効率を狙って1.15より小さい値に設定されてもよい。
【0052】
S18でYESの場合、S19で、U系統、X系統共に過変調制御モードに切り替えられる。このように、制御モード選択部51は、両系統が正弦波PWM制御モードで動作している場合、いずれか一系統の変調率Mが上昇側切替閾値Mth_up以上となったとき、両系統の制御モードを正弦波PWM制御から過変調制御に切り替える。これにより、本実施形態のモータ制御装置500は、変調率Mの上昇に伴う正弦波PWM制御から過変調制御への制御モード切替時に、系統間のフィードバック制御の干渉による過電流やトルクショックの発生を防止することができる。
【0053】
次に、
図6のS20では、U系統及びX系統の現在の制御モードが過変調制御モードであるか判断される。S20でYESの場合、U系統のS23u〜S25u、及びX系統のS23x〜S25xが併行して実行され、各系統の変調率Mu、Mx等が算出される。
【0054】
U系統について、S23uでは、式(7.1)、(7.2)により、電圧振幅基準値V
*ampu0、振幅補正量ΔVu、及び位相V
*ψuからdq軸電圧指令V
*du、V
*quが算出される。
V
*du=(V
*ampu0+ΔVu)×cosψu ・・・(7.1)
V
*qu=(V
*ampu0+ΔVu)×sinψu ・・・(7.2)
【0055】
上述のように、電圧振幅基準値V
*ampu0は、正弦波PWM制御モードから過変調制御モードへの切替タイミングにおいて、トルク指令τ
*、電気角速度ω等に基づき設定される。また、振幅補正量ΔVuは、フィードバック制御により決定される電圧振幅基準値V
*ampu0に対する補正量である。
【0056】
S24uでは、式(8)により、直流電圧Vdcに対する「電圧振幅基準値V
*ampuに振幅補正量ΔVuを加えた値」の比に基づいて変調率Muが算出される。
Mu=(2/√1.5)×{(V
*ampu0+ΔVu)/Vdc} ・・・(8)
【0057】
X系統についても同様にS23x、S24xが実施される。制御モード選択部51は、各系統のdq軸電圧指令V
*du、V
*quを算出することで、正弦波PWM制御モードへの移行に備える。
【0058】
S28では、U系統の変調率Muが下降側切替閾値Mth_dn未満であり、且つ、X系統の変調率Mxが下降側切替閾値Mth_dn未満であるか判断される。ここで、両系統の下降側切替閾値Mth_dnは同じ値でも異なる値でもよい。
【0059】
また、各系統の下降側切替閾値Mth_dnは上昇側切替閾値Mth_up以下に設定される。好ましくは、切替直後の回転変動等によるチャタリング防止のため、下降側切替閾値Mth_dnは、上昇側切替閾値Mth_upに対して負側に、例えば0.05程度オフセットするように設定される。すなわち、制御モードの切替においてヒステリシスが構成される。
【0060】
S28でYESの場合、S29で、U系統、X系統共に正弦波PWM制御モードに切り替えられる。このように、制御モード選択部51は、両系統が過変調制御モードで動作している場合、両系統の変調率Mu、Mxがいずれも下降側切替閾値Mth_dnを下回ったとき、両系統の制御モードを過変調制御モードから正弦波PWM制御に切り替える。これにより、本実施形態のモータ制御装置500は、変調率Mの下降に伴う過変調制御から正弦波PWM制御への制御モード切替時においても、系統間のフィードバック制御の干渉による過電流やトルクショックの発生を防止することができる。
【0061】
(第2実施形態)
第2実施形態による過変調制御モードから正弦波PWM制御モードへの切替処理について、
図7、
図8を参照して説明する。
図7のdq軸電流ベクトル図において、破線は等トルク線を示し、一点鎖線はMTPA線(電流当たり最大トルク制御特性線)を示す。通常の制御では、電流指令ベクトルI
*は、トルク指令τ
*が大きくなるほどMTPA線に沿って原点から左上方向に移動する。したがって、電流振幅が増加すると共に、電流位相αが増加、すなわち進角する。
【0062】
また、過変調制御モードの電圧位相制御では、弱め界磁制御によりd軸電流を負方向に増大させるため、(#1)に示すように、実電流ベクトルIrが電流指令ベクトルI
*に対し進角側にずれる場合がある。一方、(#2)に示すように、実電流ベクトルIrが電流指令ベクトルI
*に対し遅角側に乖離した場合、本来、過変調制御を行う必要がなく、電流をムダに通電していることを意味する。したがって、応答の遅い過変調制御での動作時に、外乱等によって過電圧状態が継続しているとき、過変調制御から正弦波PWM制御への切替を促進し、過電流を防止することが求められる。
【0063】
そこで、制御モード選択部51は、U系統又はX系統の実電流ベクトルIrが電流指令ベクトルI
*に対して遅角側に乖離しているとき、実電流ベクトルIrを電流指令ベクトルI
*に合わせるように変調率Mを補正し、補正後の変調率Mに基づいて制御モードの切替を判定する。このように制御モード選択部51は、遅角側にある実電流ベクトルIrを電流指令ベクトルI
*に合わせるように補正することで、指令に対し実d軸電流が正方向に多く流れることを防止する。したがって、過電圧や過電流が防止される。
【0064】
ここで、実電流ベクトルIrと電流指令ベクトルI
*との位置関係は、実d軸電流Idrとd軸電流指令I
*dとの比較により、又は、実電流ベクトルの位相αと電流指令ベクトルの位相α
*との比較により判断される。特にd軸電流Idが0付近のとき、すなわち+d軸基準の電流位相αが90deg付近のときにはd軸電流Idが正確に把握できない場合があるが、位相αを比較することで、電流ベクトルを正確に把握することができる。(#2)の例では、実d軸電流Idrはd軸電流指令I
*dより大きく、実電流ベクトルの位相αは電流指令ベクトルの位相α
*より小さいため、実電流ベクトルIrが電流指令ベクトルI
*に対して遅角側に乖離していると判定される。
【0065】
また、(#3)の例では、U系統又はX系統の実電流ベクトルIrが電流指令ベクトルI
*に対して遅角側に、所定の超過量を超えて乖離している。つまり、実d軸電流Idrとd軸電流指令I
*dとの差分が超過量ΔId_EXを超えている。或いは、実電流ベクトルの位相αと電流指令ベクトルの位相α
*との差分がΔα_EXを超えている。このとき、制御モード選択部51は、各系統の変調率Mにかかわらず、両系統の制御モードを強制的に過変調制御から正弦波PWM制御に切り替える。指令に対し実d軸電流が正方向に大きく乖離している場合、即座に過変調制御から正弦波PWM制御に切り替えることで、過電圧や過電流がより早期に防止される。
【0066】
図8に示す第2実施形態のフローチャートは、スペースの都合上、U系統及びX系統の処理をまとめて記載する。
図8の制御モード切替処理は、第1実施形態の
図6に対し実質的にS22、S26、S27が追加されている。S22〜S27の処理は、U系統及びX系統でそれぞれ実行される。各式において記号中の「u」、「x」の記載を省略する。
【0067】
S22では、実電流ベクトルIrが電流指令ベクトルI
*に対して遅角側に、所定の超過量を超えて乖離しているか、すなわち、式(9.1)又は(9.2)のいずれかが成立するか判断される。S22でYESの場合、S29に移行し、制御モード選択部51は、制御モードを過変調制御から正弦波PWM制御に切り替える。
Id>I
*d+ΔId_EX ・・・(9.1)
α<α
*−Δα_EX ・・・(9.2)
【0068】
S22でNOの場合、
図6のS23u、S24u及びS23x、S24xと同様に、S23、S24でdq軸電流指令V
*d、V
*q及び変調率Mが算出される。その後、S26では、実電流ベクトルIrが電流指令ベクトルI
*に対して遅角側に乖離しているか、すなわち、式(9.3)又は(9.4)のいずれかが成立するか判断される。
Id>I
*d ・・・(9.3)
α<α
* ・・・(9.4)
【0069】
S26でYESの場合、S27で変調率Mが補正され、S26でNOの場合、S27がスキップされる。S28では、
図6と同様に、補正後の両系統の変調率Mu、Mxに基づいて制御モードの切替が判定される。
【0070】
以上のように第2実施形態では、両系統が過変調制御モードで動作している場合、電流指令ベクトルI
*に対する実電流ベクトルIrの乖離を監視し、実電流ベクトルIrが電流指令ベクトルI
*に対して遅角側に乖離しているとき、変調率Mの補正、又は、制御モードの強制切替を実施する。これにより、本来、必要でない過変調制御モードを継続することによる過電圧や過電流を防止することができる。
【0071】
(第3実施形態)
第3実施形態による制御モード切替処理について、
図9を参照して説明する。第3実施形態では、制御モード選択部51は、制御モードを一度切り替えた後、所定の再切替禁止期間が経過するまで、再度の制御モードの切替を禁止することで、制御モードの切替時に状態量が変動し制御モードのチャタリングが起きることを防止する。
【0072】
図9は、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードへの切替処理を示し、第1実施形態の
図6に対しS21が追加されている。S21では、制御モード切替から再切替禁止期間が経過したか判断され、NOの場合、処理を終了する。YESの場合、
図6と同様の処理が実施される。つまり、再切替禁止期間が経過している場合には、再度の制御モード切替が許容される。なお、正弦波PWM制御モードから過変調制御モードへの切替についても同様の処理が適用可能である。
【0073】
(第4実施形態)
第4実施形態による制御モード切替処理について、
図10を参照して説明する。第4実施形態では、制御モード選択部51は、第3実施形態によるモード再切替の制限に代えて、或いは加えて、時間以外のモード切替パラメータのヒステリシスを用いて制御モードの再切替を制限する。このモード切替パラメータは、U系統又はX系統のいずれかの実電流振幅Iamp、実電流位相α、トルク指令τ
*、モータ回転数ωのうちから一つ以上選択される。制御モード選択部51は、各系統の変調率Mに加えて、モード切替パラメータに基づいて制御モードを切り替える。つまり、各系統の変調率Mu、Mxが第1実施形態の条件を満たしている場合であっても、選択されたモード切替パラメータが条件を満たさない場合、制御モードを切り替えない。
【0074】
実電流振幅Iamp、実電流位相α、トルク指令τ
*及びモータ回転数ωのモード切替パラメータは、いずれも過変調制御モードにおける値が正弦波PWM制御モードにおける値より大きい。
図10において、各モード切替パラメータに共通して上昇側切替閾値Th_upは、正弦波PWM制御モードから過変調制御モードに移行するときの閾値であり、下降側切替閾値Th_dnは、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードに移行するときの閾値である。上昇側切替閾値Th_upは下降側切替閾値Th_dnより大きく設定されており、モード切替のヒステリシスが構成されている。
【0075】
例えば実電流振幅Iampが上昇側切替閾値Th_up以上となり、正弦波PWM制御モードから過変調制御モードに移行した後、実電流振幅Iampが下降側切替閾値Th_dnまで下がらない限り、過変調制御モードから正弦波PWM制御モードへの再切替は禁止される。すなわち、下降側切替閾値Th_dnと上昇側切替閾値Th_upとの間の領域は不感帯として機能する。これにより、第4実施形態では、第3実施形態と同様に制御モードのチャタリングを防止することができる。
【0076】
(その他の実施形態)
(a)本発明は、上記実施形態で例示した二系統の構成に限らず、三系統以上のモータ制御装置に適用されてもよい。その場合、二系統での説明における「両系統」を「全ての系統」に、「一系統」を「いずれか一つ以上の系統」に読み替えて解釈すればよい。
【0077】
(b)本発明のモータ制御装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車の主機モータに限らず、正弦波PWM制御モード及び過変調制御モードを切り替えて動作可能なあらゆるモータに適用可能である。また、モータの相の数は、三相に限らず何相でもよい。
【0078】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。