特許第6965871号(P6965871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965871
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】樹脂部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/27 20060101AFI20211028BHJP
   B29C 45/38 20060101ALI20211028BHJP
   B29C 45/56 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   B29C45/27
   B29C45/38 C
   B29C45/56
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-242746(P2018-242746)
(22)【出願日】2018年12月26日
(65)【公開番号】特開2020-104301(P2020-104301A)
(43)【公開日】2020年7月9日
【審査請求日】2020年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】草野 健
(72)【発明者】
【氏名】福田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 光宏
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−221907(JP,A)
【文献】 特開平9−225947(JP,A)
【文献】 特開平10−309724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/27
B29C 45/38
B29C 45/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形品からなる板状の成形品本体(1)を含む樹脂部品であって、
前記成形品本体(1)の板面のうち、面精度が必要な面とは反対側の面が、加圧用の可動入子による加圧面とされていると共に、
当該加圧面において前記可動入子により形成される分割線は、前記成形品本体(1)の端縁部からの距離寸法xが、該成形品本体(1)の厚み寸法tに対し、
(t/4)≦x≦(3t/2)
の関係とされている樹脂部品。
【請求項2】
前記成形品本体は、前記ゲート部中心からの放射線上の複屈折が、該ゲート部にかけて平坦、もしくは直線的に増加傾向を示す請求項1記載の樹脂部品。
【請求項3】
射出成形品からなる板状の成形品本体(1)を含む樹脂部品を製造するための方法であって、
成形装置により前記成形品本体(1)を射出成形する射出成形工程を含み、
前記成形装置は、前記成形品本体(1)に対応したキャビティを構成する金型に加圧用の可動入子を備え、
前記射出成形工程において、前記可動入子を移動させて成形品本体(1)の加圧面を加圧する動作が実行されると共に、
前記可動入子は、成形品本体(1)の加圧面において当該可動入子により形成される分割線の、前記成形品本体(1)の端縁部からの距離寸法xが、該成形品本体(1)の厚み寸法tに対し、
(t/4)≦x≦(3t/2)
の関係となるように設けられている樹脂部品の製造方法。
【請求項4】
前記射出成形工程においては、前記金型内への樹脂の注入の完了直後の、内部の樹脂の粘性の低い状態で、前記注入口を閉鎖するゲートカット動作が行われる請求項3記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項5】
前記射出成形工程においては、前記ゲートカット動作が行われた直後に、前記可動入子を動作させる加圧動作が行われる請求項4記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項6】
前記加圧動作は、前記可動入子を、設定されたストロークで前記金型の内方に移動することにより行われる請求項5記載の樹脂部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品からなる板状の成形品本体を含む樹脂部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車載用のヘッドアップディスプレイユニットには、LCDやレーザスキャンモジュールから投射された光線の結像機能を有するレンズやミラー等の光学素子が用いられている。また、車両に搭載されるレーザ方式の画像検出・測距ユニットには、レーザビームの結像及び各種補正機能を有するレンズやミラー等の光学素子が用いられている。これら光学素子は、近年、軽量化やコストダウンの要求から、従来のガラス製からプラスチック製に変更されてきており、また、複数の機能を最小限の素子でまかなうように、その転写面形状も球面のみならず複雑な非球面形状や多面体など特異な形状を有するものに変化してきている。
【0003】
上記のような光学部品を製造する場合、射出成形法、或いは、射出圧縮成形法を用いることが一般的である(例えば特許文献1参照)。そのうち射出圧縮成形法は、金型内の転写面の一部を構成する入子を移動可能な可動入子とし、金型内に充填された樹脂の冷却に伴う体積収縮に対して可動入子が前進して圧力を補うことにより、いわゆるひけの発生を抑制し、形状精度を確保する方法である。この場合、上記特許文献1には、転写精度が低くて良い部分に可動入子を配置し、樹脂の冷却が進んだ時点で、可動入子を樹脂との間に空隙を形成する方向に移動させることにより、その部分にひけを発生させて他の部分の転写精度を高める方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−58335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような射出成形法或いは射出圧縮成形法で光学部品を成形する際には、加熱溶融された樹脂材料を金型内に射出充填し、冷却固化させる工程において、金型内の樹脂圧力や樹脂温度が全体で均一になることが、成形品の所望の形状精度を確保するために望ましいことである。しかしながら、成形品は、各部位の単位体積当りの金型接触面積が異なり、樹脂の冷却温度が均一にならない部分が発生してしまう。例えば成形品の外周部分は、上下面に加えて端面からの冷却が加えられることにより、製品の中央部に比べて冷却が早く進んでしまい、製品の端部全周に望まない微小なひけが発生してしまう虞がある。その結果、ヘッドアップディスプレイにおいては投射画像に歪が発生する問題があり、またレーザ方式の画像検出ユニットにおいては障害物検出での誤認識などの虞がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、射出成型品からなる板状の成形品本体を含むものにあって、成形品本体の転写面にひけが発生することを抑制し、高い転写精度を得ることができる樹脂部品及びその製造方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の樹脂部品は、射出成形品からなる板状の成形品本体(1)を含むものであって、前記成形品本体(1)の板面のうち、面精度が必要な面とは反対側の面が、加圧用の可動入子による加圧面とされていると共に、当該加圧面において前記可動入子により形成される分割線は、前記成形品本体(1)の端縁部からの距離寸法xが、該成形品本体(1)の厚み寸法tに対し、
(t/4)≦x≦(3t/2)
の関係とされている。
【0008】
また、本発明の樹脂部品の製造方法は、射出成形品からなる板状の成形品本体(1)を含む樹脂部品を製造するための方法であって、成形装置により前記成形品本体(1)を射出成形する射出成形工程を含み、前記成形装置は、前記成形品本体(1)に対応したキャビティを構成する金型に加圧用の可動入子を備え、前記射出成形工程において、前記可動入子を移動させて成形品本体(1)の加圧面を加圧する動作が実行されると共に、前記可動入子は、成形品本体(1)の加圧面において当該可動入子により形成される分割線の、前記成形品本体(1)の端縁部からの距離寸法xが、該成形品本体(1)の厚み寸法tに対し、
(t/4)≦x≦(3t/2)
の関係となるように設けられている。
【0009】
本発明者らは、例えばミラー、レンズといった光学部品として用いられる射出成形品を成形するにあたり、成形品本体の転写面に微小なひけが発生することを抑制し、転写面の高い転写精度を得ることを目的とし、様々な試作、研究を重ねた。その結果、成形品本体の板面のうち、面精度が必要な面とは反対側の面を加圧用の可動入子による加圧面とすると共に、当該加圧面において前記可動入子により形成される分割線を、成形品本体の端縁部からの距離寸法xが、該成形品本体の厚み寸法tに対し、(t/4)≦x≦(3t/2)の関係とすることにより、優れた結果を得ることができることを見出したのである。この場合、距離寸法xの値が、上記範囲の上方に外れていても、下方に外れていても、いずれも成形品本体の端部における微小なひけが多く発生した。
【0010】
上記構成によれば、可動入子による加圧がなされることにより、溶融樹脂のうち他の部分より先に硬化が進んだ部分における部分的な圧力低下を抑制し、金型内全体の樹脂の圧力変動の均等性を確保することができる。このとき、可動入子による直接的な加圧が、金型の外周端部部分を除いた部分で行われる。ここで、金型の外周端部部分では、溶融樹脂の冷却が他の部分よりも先に進んで部分的に圧力低下する事情がある。ところが、その外周端部部分を除いて可動入子による加圧が行われることにより、加圧による外周端部部分の内部歪みが生じにくくなり、端部におけるひけの発生を抑制することができるものと考えられる。この結果、射出成型品からなる板状の成形品本体を含むものにあって、成形品本体の転写面にひけが発生することを抑制し、高い転写精度を得ることができるという優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態を示すもので、光学部品の斜視図
図2】光学部品の裏面側からの斜視図
図3】光学部品の正面図(a)及び平面図(b)
図4】実施例品と従来品との形状精度及び外周ひけの関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、ミラー、レンズといった光学部品に適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1図3は、本実施形態に係る樹脂部品としての光学部品を構成する成形品本体1の外観を示している。この成形品本体1から構成される光学部品は、例えば車載用のヘッドアップディスプレイユニットに用いられるミラー(凹面鏡)として使用される。成形品本体1は、熱可塑性樹脂による射出成型品からなり、後述のように、本実施形態に係る製造方法により製造される。樹脂材料としては、例えば環状オレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂などが採用される。
【0013】
前記成形品本体1は、図で左右方向に長い、つまり長辺方向を有した矩形板状をなすと共に、上面が凹状となるような、長手方向に緩やかな曲面状に構成されている。この場合、成形品本体1は、画像を投射するフロントガラスの面の形状(曲率)に応じて、左右部において非対称な曲率に構成され、図で上側を向く面が、高精度転写面であるミラー面とされている。また、成形品本体1の左右の辺部には、タブ2、2を一体に有している。即ち、成形品本体1の上面(凹面)が、面精度が必要な面とされ、下面(裏面)側がそれとは反対の面とされている。
【0014】
さて、本実施形態では、成形品本体1は、樹脂の注入口の跡であるゲート部1a(便宜上、図1にハッチングを付して示す)が、成形品本体1の長辺方向に延びる端面部であって、該成形品本体1の重心Gに対応した位置を跨ぐ位置に配置されている。具体的には、成形品本体1の長辺の一方の縁部である図1で手前側(前面側)の端面部に、中央やや左寄りに位置して、比較的広い幅寸法Wgで設けられている。このとき、図3に示すように、成形品本体1の重心Gは、成形品本体1の長手方向中心線C(図3(b)参照)から図で左側にややずれて位置される。
【0015】
この場合、成形品本体1の重心Gに対応した位置とは、端面部のうち、成形品本体1の重心Gを通り該成形品本体1の長手方向に対して直交する重心線Lが通る位置であり、重心線Lが浮いている場合には、重心線Lから成形品本体1の上面に向けて法線を下した位置である。ゲート部1aは、重心線Lを中心として、左右両側に同じ幅(Wg/2)となるように設けられている。本実施形態では、ゲート部1aの幅寸法Wgは、成形品本体1の長手方向最大長さ寸法Wに対し、1/2以下とされ、より具体的には、(W/4)≦Wg≦(W/3)の範囲とされている。
【0016】
ここで、図示は省略するが、上記成形品本体1を製造するために用いられる成形装置について述べる。この成形装置は、成形品本体1に対応したキャビティを有する金型、この金型を開閉する開閉機構、前記キャビティ内に溶融樹脂を注入する樹脂注入機構、冷却固化後の製品(成形品本体1)を取出す製品取出機構を備えている。更に、キャビティの各部の温度を検出する温度センサ、キャビティの各部の圧力を検出する圧力センサ、金型の温度を調整する温度調整装置、全体を制御する制御装置等を備えている。この場合、樹脂注入機構における、前記金型のキャビティに対する溶融樹脂の注入口が、前記ゲート部1aの位置に対応している。また、成形装置には、前記注入口を任意のタイミングで開閉することが可能なゲート開閉機構が設けられている。
【0017】
そして、図示はしないが、前記金型のうちキャビティ形成部分には、可動入子が設けられ、その可動入子を駆動する可動入子駆動機構が設けられている。可動入子は、金型のうち、成形品本体1の面精度が必要な面とは反対の面、この場合成形品本体1の下面側(裏面側)を形成する部分に、成形品本体1の下面のうち外周部を除くほぼ全体を形成するように設けられ、キャビティ内に前進、後退する方向に移動される。
【0018】
このとき、本実施形態では、図2図3(b)に示すように、成形品本体1の加圧面において前記可動入子により形成される分割線P(パーティングラインに相当する位置を破線で示す)が、前記成形品本体1の端縁部からの距離寸法xが、該成形品本体1の厚み寸法tに対し、(t/4)≦x≦(3t/2)の関係となるように設けられている。本実施形態では、例えばx=t/2とされている。ちなみに、成形品本体1の厚み寸法t(平均厚み寸法)は、例えば2mmであり、従って、xの値は、例えば1mmとされる。
【0019】
次に、上記構成の成形装置を用いた、成形品本体1の製造手順について述べる。上記成形装置により成形品本体1を成形するにあたっては、金型の型締め状態で、樹脂注入機構によってキャビティ内に溶融した樹脂を注入し、冷却固化させて成形品本体1を射出成形する射出成形工程が実行される。この射出成形工程における金型の温度は、比較的低い温度、例えば樹脂材料のガラス転移点より20〜30度低い温度に維持されている。また、射出成型工程の初期の状態では、金型の可動入子は、金型の他のキャビティ部分と連続した状態の初期位置に位置している。
【0020】
射出成形工程においては、金型の注入口からキャビティ内に溶融樹脂が注入されるのであるが、このとき、金型の樹脂の注入口(ひいてはゲート部1a)が、成形品本体1の重心Gに対応した位置を跨ぐ位置に設けられている。これにより、溶融樹脂をキャビティ内の長手方向の両側に向けて均等に充填していくことができ、キャビティ内の圧力分布や温度分布を良好に、つまりばらつきを少なく均等にすることができる。
【0021】
しかも、注入口(ゲート部1a)が、重心Gに対応した位置を跨ぐような比較的長い幅で設けられていることによっても、溶融樹脂が注入口を通る際の摩擦抵抗を少なくして、キャビティ内における溶融樹脂の流れを均一で良好とすることができる。特に、注入口の幅寸法Wgが、成形品本体1の長手方向最大長さ寸法Wの1/2以下とされていることにより、溶融樹脂の流れを極めて良好とすることができた。より好ましくは、(W/4)≦Wg≦(W/3)の範囲である。
【0022】
また、本実施形態では、射出成形工程において、樹脂注入機構による金型のキャビティ内への樹脂の注入、即ちキャビティ全体への樹脂の充填が完了すると、ゲート開閉機構により注入口を閉鎖するゲートカット動作が行われる。これにより、溶融樹脂の注入直後の樹脂の粘性の低い状態、つまり硬化収縮の始まらない状態で、注入口が閉鎖されるので、キャビティ内部全体の圧力をほぼ均等にすることができ、その状態で溶融樹脂の冷却硬化が進行されるようになる。
【0023】
そして、本実施形態では、前記ゲートカット動作が行われた直後に、キャビティ内の樹脂に加圧力を付与する方向に可動入子を動作させる加圧動作が行われる。この加圧動作は、可動入子駆動機構により、可動入子を初期位置から前進する方向に設定されたストロークで移動することにより行われる。これにより、キャビティ内の樹脂を高圧状態に制御して樹脂の収縮率を小さく抑えることができ、キャビティ内の樹脂のうち一部硬化が進んだ部分が部分的に圧力低下してしまうことを抑制して全体的な圧力変動の均等性を確保し、いわゆるひけの発生を抑えることができる。
【0024】
ここで、本実施形態では、成形品本体1の板面のうち、面精度が必要な面とは反対側の下面側を加圧用の可動入子による加圧面とすると共に、当該加圧面において前記可動入子により形成される分割線Pを、成形品本体1の端縁部からの距離寸法xが、該成形品本体1の厚み寸法tに対し、(t/4)≦x≦(3t/2)の関係とした。本発明者らの試作、研究によれば、(t/4)≦x≦(3t/2)の関係とすることにより、外周端部におけるひけの発生を抑えることができ、高い形状精度を得ることができるという優れた結果を得ることができた。その理由は、次の点にあると推測される。
【0025】
即ち、上記構成においては、可動入子による直接的な加圧が、金型の外周端部部分を除いた部分で行われるのであるが、ここで、金型の外周端部部分では、溶融樹脂の冷却が他の部分よりも先に進んで部分的に圧力低下する事情がある。ところが、その外周端部部分を除いて可動入子による加圧が行われることにより、加圧による外周端部部分の内部歪みが生じにくくなり、成形品本体1の端部におけるひけの発生を抑制することができるものと考えられる。本発明者らの研究では、特に、x=t/2としたときにお、最も優れた効果が得られた。この場合、距離寸法xの値が、上記範囲の上方に外れていても、下方に外れていても、いずれも成形品本体1の端部における微小なひけが多く発生した。
【0026】
尚、上記のように可動入子により設定されたストロークで加圧動作が行われることにより、キャビティ内の樹脂の圧力が過剰に高くなったり、全体的に十分に加圧できなかったりすることを未然に防止することができ、適切な圧力を付与することができる。この後、キャビティ内の樹脂の冷却硬化が進み、固化後、金型の型開きが行われて、成形品本体1が取出される。この場合、成形品本体1には、可動入子による跡が形成されることになるが、その跡は成形品本体1の面精度が必要な面とは反対の面である下面側に設けられるので、光学部品としての高精度な形状が得られ、物性面での要求に応えることができる。
【0027】
ちなみに、図4は、本発明者等が、実施例品及び従来品の樹脂部品に関して、全体の形状精度、及び、外周端部のひけ(形状精度)を調べた試験結果を示している。横軸は、全体的な形状精度(PV(Peak-Valley)値)を示し、縦軸は、製品の外周端部領域における形状精度(「外周ひけ」と記載)を示している。ヘッドアップディスプレイユニット用の光学部品として、全体の形状精度の目標値を100μm以下、外周ひけの目標値を500nm以下としている。外周ひけの許容値は、1000nm以下である。実施例品は、従来品に比べて形状精度を大幅に高めることができ、全体の形状精度及び外周ひけの双方に関して目標値をクリアすることができた。図4には、2種類の他社品A、Bについての結果も併せて示しており、これらは、全体の形状精度は比較的優れていたが、外周ひけについては、目標値に至らないものとなっていた。
【0028】
このように本実施形態によれば、成形品本体1の板面のうち、面精度が必要な面とは反対側の下面側を加圧用の可動入子による加圧面とすると共に、当該加圧面において前記可動入子により形成される分割線Pを、成形品本体1の端縁部からの距離寸法xが、該成形品本体1の厚み寸法tに対し、(t/4)≦x≦(3t/2)の関係とした。これにより、射出成型品からなる板状の成形品本体1を含むものにあって、成形品本体の転写面にひけが発生することを抑制し、高い転写精度を得ることができるという優れた効果を得ることができる。また、本実施形態の製造方法によれば、サイクルタイムを短縮化でき、生産性に優れたものとすることができる。
【0029】
ところで、本発明者等の更なる研究によれば、上記実施形態の成形品本体1にあっては、内部の樹脂材料の残留歪みを極めて小さくできることが明らかとなった。これにより、成形品本体1における、前記ゲート部1a中心からの放射線上の複屈折が、該ゲート部1aにかけて平坦、もしくは直線的に増加傾向を示すものとなり、複屈折性を良好なものとすることができる。従来の製造方法による樹脂部品では、複屈折がゲート部にかけて二次関数的に増加する傾向を呈するものとなる。
【0030】
尚、上記した実施形態では、車載用のヘッドアップディスプレイユニットのミラーに適用するようにしたが、レーザ方式の画像検出・測距ユニットのレンズ等の他の車載用機器に使用される光学部品、更には車載用以外の各種用途の樹脂部品に適用することができる。また、上記実施形態では、成形品本体の形状を、矩形板状で凹面状の曲面(自由曲面形状)を有したものとしたが、成形品本体の形状としては、四角台形、五角台形、円形や楕円形などであっても良く、曲面の形状としても、凸面、凹凸面であっても良い。タブ2を備えないものであっても良い。樹脂部品(光学部品)は、成形品本体1に一定の加工を施したり、成形品本体1に別の部品を付加的に取付けて構成したりすることもできる。
【0031】
その他、成形装置の構成や、製造方法についても様々な変更が可能である。本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0032】
図面中、1は成形品本体、1aはゲート部を示す。
図1
図2
図3
図4