特許第6965893号(P6965893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965893
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】土壌の固結防止剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/50 20060101AFI20211028BHJP
   A01G 24/27 20180101ALI20211028BHJP
【FI】
   C09K17/50 H
   A01G24/27
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-555300(P2018-555300)
(86)(22)【出願日】2018年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2018035591
(87)【国際公開番号】WO2019065691
(87)【国際公開日】20190404
【審査請求日】2021年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2017-185910(P2017-185910)
(32)【優先日】2017年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】舩田 茂行
(72)【発明者】
【氏名】荒井 喬広
(72)【発明者】
【氏名】栗原 宏征
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−046385(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第106544035(CN,A)
【文献】 特開昭54−035064(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第107347916(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00− 17/52
A01G 2/00 − 2/38
A01G 5/00 − 7/06
A01G 9/28
A01G 17/00 − 17/02
A01G 17/18
A01G 20/00 − 22/67
A01G 24/00 − 24/60
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST5874/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
UV検出器を用いたGPC分子量分析において、波長254nmにおける分子量ピークを、分子量10,000〜40,000の範囲に有するリグニンおよび珪藻土を有効成分とする、土壌の固結防止剤。
【請求項2】
前記リグニンがバガスのアルカリ抽出物である、請求項1に記載の土壌の固結防止剤。
【請求項3】
乾燥重量比として前記リグニン:前記珪藻土=1:1〜3である、請求項1または2に記載の土壌の固結防止剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の土壌の固結防止剤を用いて、土壌の固結を防止する方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の土壌の固結防止剤を用いた、植物の成長改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリグニンを有効成分とする土壌の固結防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンはフェニルプロパン単位からなる3次元網状構造の複雑な天然高分子である。また、リグニンは、植物に20〜30%程度含有されることから、最も豊富に存在する天然の芳香族ポリマーとして知られ、再生可能な資源として注目されている。リグニンには、天然に存在するものの他に、パルプの製造工程などでも調製され、中でもリグノスルホン酸は、パルプの製造廃液から大量に得られることが知られている。リグノスルホン酸は、様々な用途への利用が検討されており、非特許文献1では、土壌改良剤としての用途が期待されている。
【0003】
土壌改良剤とは、土壌に施用し、土壌の物理的性質を変化させて農業生産に役に立たせる資材であり、土壌の膨軟化、保水性の改善、保肥力の改善、透水性の改善、団粒形成促進効果などを有する。一般的には、泥炭、バーク堆肥、腐植酸質資材、木炭、珪藻土、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、ベントナイト、VA菌根菌資材、ポリエチレンイミン系資材、ポリビニルアルコール系資材などが、土壌改良剤に用いられている。
【0004】
リグノスルホン酸は、親水基であるスルホン基を有しているため、土壌改良剤に用いた場合、土壌に結合しながらも、その高分子量の為に団粒を作る効果があり、有機分が少なく団粒性能が低い土壌に対して土壌改良効果を示す(非特許文献1)。一方で、粘土質土壌など、土壌が固結して植物の根の成長を阻害しているような土壌に対して、リグノスルホン酸が、土壌の固結防止効果を有する報告は無い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lignocellulose Biorefinery Engineering : Principles and applications P.82 (Hongzhang Chen)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リグニンを有効成分とする土壌の固結防止剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、UV検出器を用いたGPC分子量分析において、波長254nmにおける分子量ピークを、分子量10,000〜40,000の範囲に有するリグニンおよび珪藻土が、土壌の固結防止剤としての高い効果を有することを発見し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の(1)〜(5)の構成を有する。
(1)UV検出器を用いたGPC分子量分析において、波長254nmにおける分子量ピークを、分子量10,000〜40,000の範囲に有するリグニンおよび珪藻土を有効成分とする、土壌の固結防止剤。
(2)前記リグニンがバガスのアルカリ抽出物である、(1)に記載の土壌の固結防止剤。
(3)乾燥重量比として、前記リグニン:前記珪藻土=1:1〜3である、(1)または(2)に記載の土壌の固結防止剤。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の土壌の固結防止剤を用いて、土壌の固結を防止する方法。
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載の土壌の固結防止剤を用いた、植物の成長改善方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の土壌の固結防止剤は、土壌の固結を改善し、植物の成長不良を改善する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明で用いるリグニンを含む場合のUV検出器を用いたGPC分子量分析の具体例
図2】リグノスルホン酸を含む場合のUV検出器を用いたGPC分子量分析の具体例
図3】バガスアルカリ熱水抽出物をフィルタープレスで固液分離した液体を含む場合のGPC分子量分析の具体例
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態に関し、詳細に説明する。
【0012】
リグニンは植物由来の高分子フェノール性化合物である。リグニンは、複雑かつ多様な構造を有しているため、詳細な構造は明らかになっていない。また、バイオマスの種類、抽出方法、分析方法によって分子量が異なるが、報告されている一般的な数平均分子量は、2,400〜9,700である(Biofuels Bioproducts & Biorefinering, Volume8, Issue6, 836−856(2014))。
【0013】
本発明の土壌の固結防止剤は、波長254nmにおけるGPC分子量分析において、分子量10,000〜40,000の範囲に分子量ピークを有するリグニンを有効成分とする。
【0014】
前記リグニンは、前記分子量範囲内であれば分子量ピークは複数あってもよく、また、本分子量範囲外に分子量ピークを有していてもよいが、その場合は、分子量ピークのうち、最大の高さを持つピークが、分子量10,000〜40,000の範囲内であることが好ましい。本発明で用いるリグニンの、UV検出器を用いたGPC分子量分析の具体例を図1に示す。GPC分析において、最大の高さを持つ分子量ピークが分子量10,000より小さいリグニンは、植物が育つ土壌のpH条件(pH=5〜8)では液体として存在することが多い。液状のリグニンは、土壌の固結防止効果が十分得られる前に土壌から流出してしまうので好ましくない。
【0015】
図2には、一般的な工業用リグニンであるリグノスルホン酸を含む場合のUV検出器を用いたGPC分子量分析の具体例を示す。一般的な工業用リグニンであるリグノスルホン酸は、亜硫酸法によるパルプ製造工程で副産物として木材中のリグニンから生成し、廃液である黒液に多量に含まれる物質で、CAS登録番号は、8062−15−5である。亜硫酸で処理することにより、リグニンにスルホン基が導入されリグノスルホン酸が生じる。図2からリグノスルホン酸は、波長254nmにおける最大の高さを持つ分子量のピークが、40,000よりも高い値に位置しており、本発明で用いるリグニンは、一般的なリグノスルホン酸より分子量が小さい特徴がある。
【0016】
リグニンは、分子量が大きいほど疎水性が高い傾向がある。疎水性が高いリグニンはリグニン同士で固まる力が強いため、土壌に団粒を作る効果はあるが、粘土の割合が高い固結しやすい土壌に対し有効な改良効果を有しない。本発明で用いるリグニンは、分子量10,000〜40,000の範囲に分子量ピークを有するため、土壌と混合した際に、土壌に分散され土壌混合時に土壌粒子間の密着を防止する効果があると推測される。土壌粒子間の密着を防止することにより、土壌の固結が防止され、植物の根の通気性や透水性を高めることで根の伸長を回復させ、植物の成長を改善させる効果を有する。
【0017】
本発明で用いるリグニンが有する分子量ピークの好ましい分子量の範囲は、10,200〜37,000であり、さらに好ましくは11,000〜35,000である。
【0018】
また、リグニンの分子量は、数平均分子量でも判断することができる。本発明で用いるリグニンの好ましい平均分子量は、UV検出器を用いたGPC分子量分析における数平均分子量として、4,000〜40,000が好ましく、さらに好ましくは8,000〜20,000である。
【0019】
GPC分子量分析は、Gel Permeation chromatography(ゲル浸透クロマトグラフィー)の略であり、測定試料中の化合物を、分子サイズごとに分離することができる。また、分離したポリマーの相対量を検出器により検出することで、分子量も計算することができる。GPC分子量分析では、標準ポリマーを用いて溶出時間と分子量との関係を予め求め、これに基づいて測定試料の分子量を換算する。本発明で用いるリグニンの分子量は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドを標準ポリマーとして用いて測定した値である。また、数平均分子量は、測定した分子量の値から以下の式(1)により算出する。式(1)中のMnは数平均分子量、Mは分子量、Nはポリマーの数、Cは試料濃度を示す。
【0020】
Mn=Σ(Mi・Ni)/Σ(Ni)=ΣCi/Σ(Ci/Mi)・・・式(1)。
【0021】
GPC分析の検出器はリグニンの吸収波長領域である250〜300nmを検出できる検出器を利用する。GPC分析に用いる波長としては、芳香族化合物の吸収を持つ範囲であれば測定可能であり、代表的な波長として254nm、280nm、300nm等があるが、本発明では254nmで分析した値を用いている。GPC分析の検出器としては、株式会社島津製作所製の多波長紫外−可視吸収検出器(SPD−M20A)で検出した値を用いる。
【0022】
GPC分子量分析に用いるカラムとしては、特に制限はないが、本願発明の分子量はTSKgelGMPWXLとG2500PWXLを使用して測定した値である。
【0023】
本発明で用いるリグニンは、スルホン基を含まないことが好ましい。スルホン基が含まれると、硫黄分子が土壌に過剰供給され、植物の成長を阻害する場合がある。また、スルホン基中の硫黄分子は、悪臭の原因にもなりやすいためである。
【0024】
本発明で用いるリグニンの原料となる植物としては、イネ科の植物が好ましく、さらに好ましくは、稲わら、麦わら、さとうきびの搾りかすであるバガス、さとうきび先端、さとうきびの葉であり、最も好ましくはバガスである。
【0025】
前記植物から本発明で用いるリグニンを抽出する方法としては、有機溶媒(エタノール、酢酸エチル等)による抽出、酸抽出、アルカリ抽出等の方法があり、好ましくはアルカリ抽出方法である。さらにアルカリ抽出のうち、アルカリ熱水抽出が好ましい。
【0026】
アルカリ抽出方法に用いるアルカリ化合物は特に制限されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アンモニアなどが挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムであり、さらに好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0027】
アルカリ熱水抽出方法の条件は、pH10以上13.5以下、温度80℃以上120℃以下、0.5時間以上が好ましく、さらに好ましくはpH10.5以上13.0以下、温度90℃以上120℃以下、1時間以上反応させることが好ましい。アルカリ濃度の上限は、本発明で用いるリグニンを得られれば特に制限はないが、バイオマスに対してアルカリ濃度が高すぎる場合はリグニンが低分子化するため、本発明の土壌の固結防止剤として有効な成分が得られないことや、残存する塩が多量になり塩とリグニンとを分離するのに手間がかかるなどの問題が生じるため、例えば水酸化ナトリウムであればバガス乾燥重量1kgに対し180g以下で処理すること好ましい。
【0028】
アルカリ熱水抽出方法の具体例としては、例えばバガス50g/L(乾燥重量)濃度の溶液に対し、90℃、0.45(wt/wt)%の水酸化ナトリウム水溶液で2時間反応させることによって本発明で用いるリグニンを抽出することができる。本明細書中で乾燥重量とはバイオマスを105℃で重量が一定になるまで乾燥させた後の重量である。
【0029】
本発明で用いるリグニンは、アルカリ熱水抽出方法などで植物より抽出した後、pH5以下に中和して固液分離することで、固形分側に回収することができる。pH5の条件で不溶化した高分子リグニンはpHを再度pH5よりアルカリ側に、例えばpH10以上にすることで水に再溶解させることができる。本発明の土壌の固結防止剤には、本発明で用いるリグニンを固形分の状態で利用する。
【0030】
本発明で用いる珪藻土は、藻類の一種である珪藻の殻の化石よりなる堆積物である。珪藻の殻は、二酸化珪素で構成されており、珪藻土も二酸化珪素を主成分とする。珪藻土の種類としては焼成珪藻土が好ましい。
【0031】
なお、珪素を含む土壌改良材として珪酸塩白土があるが、珪酸塩白土はソフトシリカとも呼ばれ、モンモリロナイト(化学式(Na,Ca)0.33(Al,Mg)Si10(OH)・nHO)というケイ酸塩鉱物を主成分としており、本発明で用いる珪藻土とは異なる物質である。
【0032】
本発明の土壌の固結防止剤は、土壌の固結防止剤の混合量が少ない場合は土壌の固結防止効果が少なく、多すぎる場合は土壌が本来持つ保肥力や保持微生物による植物への効果など全体的な環境バランスが崩れ、相対的に植物の成長力の向上は弱くなる。
【0033】
本発明で用いるリグニンの土壌に対する混合比は、土壌の固結防止効果が現れれば特に限定されないが、土壌100重量部に対してリグニンの乾燥重量として2〜20重量部混合することが好ましく、3〜10重量部混合することがより好ましい。本発明で用いるリグニンは、固形分の状態であれば、乾燥した状態でも、水分を含んでいる状態でも好ましく用いることができる。また、耕作地の土壌の固結防止では、耕作地10a当たり、リグニンを乾燥重量で8〜80トンを混合することが好ましい。
【0034】
珪藻土の土壌に対する混合比は、土壌の固結防止効果が現れれば特に限定されないが、土壌100重量部に対して珪藻土を3〜20重量部混合することが好ましく、5〜20重量部混合することがより好ましい。また、耕作地の土壌の固結防止では、耕作地10a当たり、珪藻土を乾燥重量で12〜80トン混合することが好ましい。
【0035】
本発明で用いる固結防止剤において、本発明で用いるリグニンと珪藻土の好ましい割合は、土壌の固結防止効果が現れれば特に限定されないが、乾燥重量としてリグニン重量比1に対して珪藻土を重量比で1〜3の割合で混合することが好ましい。
【0036】
本発明の固結防止剤の土壌に対する混合比は、土壌の固結防止効果が現れれば特に限定されないが、土壌100重量部に対して本発明で用いるリグニンおよび珪藻土の総量の乾燥重量として5〜25重量部混合することが好ましい。また、耕作地の土壌の固結防止では、耕作地10a当たり、本発明の固結防止剤を20〜92トン散布して混合することが好ましい。
【0037】
ここで、本発明で用いるリグニン、珪藻土、土壌の乾燥重量は、前述のバイオマスの乾燥重量の算出方法と同様に、対象物を105℃で重量が一定になるまで乾燥させた後の重量として算出する。また、土壌の乾燥重量比を計算する場合には、地表から30cmの耕作土の重量として算出する。また、プランター等を利用して植物を栽培する場合には、プランター内の土壌の重量として算出する。
【0038】
本発明の土壌の固結防止剤は、本発明で用いるリグニンと珪藻土以外にも他の土壌の固結防止剤を含んでもよく、他の土壌改良剤との併用により土壌の固結防止効果を向上させることもできる。他の土壌改良剤としては、泥炭、バーク堆肥、腐植酸質資材、木炭、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、ベントナイト、VA菌根菌資材、ポリエチレンイミン系資材、ポリビニルアルコール系資材などが挙げられる。
【0039】
本発明の土壌の固結防止剤と他の土壌改良剤との混合比は効果が現れれば特に制限はないが、乾燥重量として本発明の土壌の固結防止剤1に対して他の土壌改良剤を乾燥重量比で1〜3の割合で混合することが好ましい。
【0040】
土壌の固結防止剤を土壌と混合させる方法としては、農業用機械による混合、手動による混合のどちらでも良く、土壌の固結抑制が見られる程度に均一に混合できれば程度は問わない。
【0041】
本発明で用いるリグニンと珪藻土は、あらかじめ混合してから土壌と混合してもよいし、別々に混合してもよい。また、上記の本発明で用いるリグニンと珪藻土以外の、他の土壌の固結防止剤を用いる場合にも、各土壌の固結防止剤を別々に土壌と混合してもよいし、固結合防止剤をあらかじめ混合してから、土壌と混合してもよい。別々に混合する場合、混合の順序は問わない。
【0042】
土壌の固結防止効果が発揮される土壌としては、土が固まり易く固結することによって物理的に根が伸長できない土壌、また固結の為に空気が土壌深くに入っていかず酸素不足になるような土壌であり、具体的には、土壌の粒度組成において粘土が20重量%以上の土壌が挙げられる。特に本発明の土壌の固結防止効果が期待できる土壌として粘度が20〜40重量%の土壌が挙げられる。土壌には粘度の他に、砂やシルトなどが含まれる。本明細書中で粘土とは、粒径が2μm以下の砕屑物の総称であり、砂とは粒径が2〜0.02mmの砕屑物、シルトとは粒径が0.02〜0.002mmの砕屑物の総称である。
【0043】
土壌の固結防止効果としては、土壌の固結によって根の伸長が阻害されている土壌に対し、固結を防止することで、植物の根の張りが改善される。根の伸長が改善されることにより、根からより多くの養分を吸収することができ、地上部の生育が改善される。具体的には、本発明の土壌の固結防止剤を利用した場合、利用しなかった場合に比べて、植物の地上部新鮮重量または地下部乾燥重量が増加することで、植物の生育改善を評価できる。好ましく地上部新鮮重量と、地下部乾燥重量の両方が増加していることが好ましい。本明細書で地上部とは地上に現れている植物体部分をさす。本明細書で地下部とは地下に存在する植物体部分をさし、地上部と地下部とは地表面を境に分けられる。また、新鮮重量とは収穫時の植物体内の水分を含んだ植物体そのものの重量である。
【0044】
本発明の土壌の固結防止剤を用いて、成長改善が期待できる植物は、特に限定はされないが、イネ科植物、根菜類、セリ科の植物が好ましい。イネ科の植物としてはイネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、さとうきび、ソルガム、エリアンサスが好ましく、さらに好ましくはさとうきびである。根菜類としてはイモ、ダイコン、ゴボウ、ニンジン、カブであり、さらに好ましくはイモまたはダイコンである。イモとしては、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカが好ましく、さらに好ましくはタピオカである。ダイコンとしては、ハツカダイコンが好ましい。セリ科の植物としては、アシタバ、セロリ、ミツバ、ニンジン、コリアンダー、セリ、パセリが好ましく、さらに好ましくはコリアンダーである。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。比較例1〜10および実施例1〜5は、それぞれの条件で5回同時に試験を行った。表1、表2、表3のそれぞれの値は、5回の試験の平均値である。
【0046】
(参考例1)GPC分子量分布測定
GPC分子量分析は以下の条件で実施した。
検出器:多波長紫外−可視吸収検出器 UV(島津製作所製SPD−M20A、波長254nm)
カラム:TSKgelGMPWXL、G2500PWXL直列に各1本(φ7.8mm×30cm、東ソー)
溶媒:アンモニア緩衝液(pH11)/メタノール(1/1=v/v)
流速:0.7mL/min
カラム温度:23℃
注入量:0.2mL
標準試料:東ソー製、Polymer Laboratories製単分散ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール
数平均分子量は、式(1)により算出した。
【0047】
標準試料であらかじめ溶出時間と分子量の対数との関係を取得し、LogM(Mは分子量)あたりの重量分率dW/dlogM(Wは重量)で変換し、横軸を分子量の対数、縦軸をピーク面積が1になるようにプロットして解析した。
【0048】
(参考例2)地上部新鮮重量の測定方法
地際で植物体を切断し、地上部を収穫し、重量を測定した。
【0049】
(参考例3)地下部乾燥重量の測定方法
地際で植物体を切断し、ポットに残った地下部と土からなるべく根が切断されないように流水中で土を除去し、105℃で乾燥後に乾燥重量を測定した。
【0050】
(参考例4)硫黄分析
リグニン中に含まれるスルホン基を測定するために、以下の方法で硫黄分析を行った。試料を秤量し、以下記載の装置、条件で分析装置の燃焼管内で燃焼させ、発生したガスを溶液に吸収後、吸収液の一部をイオンクロマトグラフィーにより分析した(繰り返し2回)。
【0051】
<燃焼・吸収条件>
システム:AQF−100、GA−100(三菱化学製)
電気炉温度:Inlet1000℃ Outlet1100℃
ガス:Air/O2 200mL/min.
O2 400mL/min.
吸収液:H2O2 0.1%、内標Br 2μg/mL
吸収液量:10mL
<イオンクロマトグラフィー・アニオン分析条件>
システム:ICS1500(DIONEX製)
移動相:2.7mmol/L Na2CO3 / 0.3mmol/L NaHCO3
流速:1.50mL/min.
検出器:電気伝導度検出器
注入量:100μL。
【0052】
(比較例1)さとうきびポット試験(土壌の固結防止剤添加なし)
6号ポットに赤土(関東ローム層由来であり、粘土を25重量%含む):川砂を重量比8:2で混合したものを1kg入れ、さとうきび苗(沖縄産 茎高さ7〜8cm)を定植した。元肥として化成肥料(窒素−リン−カリウム=8−8−8)を窒素で5kg/10a施肥し、1カ月後に追肥として更に2kg10a施肥した。表層の土が乾いたら適宜ポットのそこから水が出るまで灌水した。80日後に地上部新鮮重量、地下部乾燥重量を測定した結果を表1に示す。
【0053】
(比較例2)さとうきびポット試験(リグノスルホン酸)
リグノスルホン酸(日本製紙ケミカル社製 バニレックスHWを10N水酸化ナトリウムでpH7に中和したもの。参考例4で分析した硫黄含量は2.8%であった)を土壌の固結防止剤として、比較例1の赤土(関東ローム層由来であり、粘土を25%含む):川砂を重量比8:2で混合した土100重量部に対して10重量部混合させること以外は、比較例1と同様とした。80日後に地上部新鮮重量、地下部乾燥重量を測定した結果を表1に示す。
【0054】
(比較例3)さとうきびポット試験(焼成珪藻土)
焼成珪藻土を土壌の固結防止剤として、比較例1の赤土(関東ローム層由来であり、粘土を25%含む):川砂を重量比8:2で混合した土100重量部に対して10重量部で混合させること以外は、比較例1と同様とした。80日後に地上部新鮮重量、地下部乾燥重量を測定した結果を表1に示す。
【0055】
(比較例4)さとうきびポット試験(本発明で用いるリグニン)
バガス1kg(台糖農産株式会社より購入、ベトナム製)を0.45重量%水酸化ナトリウム水溶液に乾燥重量で5重量%添加・混合し、90℃、2時間反応させ、リグニンをアルカリ熱水液に抽出した。アルカリ熱水液を、6N塩酸を用いてpHを5に調整し、本発明で用いるリグニンを沈殿物として発生させた。本発明で用いるリグニンを含む液を、フィルタープレス(薮田機械社製YTO型)を用いて固液分離を行い、本発明で用いるリグニン固形分を回収した。回収したリグニンを40℃で乾燥させ、含水率を重量比20%とした。本発明で用いるリグニンを土壌の固結防止剤として、比較例1の赤土:川砂を8:2で混合した土100重量部に対して、10重量部(乾燥重量として8重量部)で混合させること以外は、比較例1と同様とした。80日後に地上部新鮮重量、地下部乾燥重量を測定した結果を表1に示す。
【0056】
また、本発明で用いるリグニン固形分を、NaOHでpH12以上にした溶液に溶解させ、参考例1の条件で分子量分布を測定したところ、図1に示すように、分子量21,000に分子量ピークを有し、数平均分子量は13,800であった。また、参考例4の条件で分析したところ、硫黄含量は検出できなかった。
【0057】
(比較例5)GPC分子量分析において、波長254nmにおける分子量ピークが、分子量10,000より小さいリグニン
比較例4で作製したバガスアルカリ熱水抽出物をフィルタープレスで固液分離した液体分画を参考例1の条件でGPC分子量分析したところ、図3に示すように、分子量7,000にピークを有し、数平均分子量は4,000であった。このように分子量10,000より小さい値にピークを有するリグニンは、植物が生育する領域のpHでは液体になっており、土壌の固結防止剤として使用することができないと判断した。
【0058】
(実施例1)さとうきびポット試験(本発明で用いるリグニンと焼成珪藻土の併用)
比較例4で作製した本発明で用いるリグニン1に対し、焼成珪藻土を乾燥重量比で2の割合で混合し、本発明で用いるリグニンと焼成珪藻土が混合した土壌の固結防止剤を作製した(含水率10%)。混合した土壌の固結防止剤を、比較例1の赤土:川砂を重量比8:2で混合した土100重量部に対して、10重量部混合(乾燥重量で重量比を換算すると土100重量部に対して本発明で用いるリグニンが3重量部、珪藻土6重量部)させること以外は比較例1と同様とした。80日後に地上部新鮮重量、地下部乾燥重量を測定した結果を表1に示す。
【0059】
表1の結果から、さとうきびに対し、本発明で用いるリグニンおよび珪藻土を土壌の固結防止剤として用いた実施例1では、比較例1〜4に比べて、地上部新鮮重量と地下部乾燥重量の両方が増加した。特に地下部乾燥重量が増加したことから、根の伸長を改善することで地上部の生育も改善されたと考える。すなわち、本発明で用いられるリグニンは、UV検出器を用いたGPC分子量分析において、波長254nmにおける分子量ピークを、分子量10,000〜40,000の範囲に有し、当該リグニンと珪藻土とを土壌の固結防止剤として土壌と混合させることにより土壌の固結を防止し、根の生育を改善することでさとうきび地上部の成長を改善させたと考える。一方で、比較例2,3では、比較例1と比べて地上部新鮮重量、地下部乾燥重量とも増加がほとんど確認できなかった。従って、分子量ピークが40,000よりも高い値を有するリグノスルホン酸には土壌の固結防止効果がほとんど確認できなかった。また、土壌の固結防止剤として、珪藻土を用いた比較例3および、本発明で用いるリグニンを用いた比較例4では、比較例1と比べて地上部新鮮重量、地下部乾燥重量ともに増加する結果となったが、実施例1に比べてその効果は低かった。これらの結果から、本発明で用いるリグニンおよび珪藻土を土壌の固結防止剤として用いた場合、それぞれ単独で用いる場合よりも、地上部新鮮重量、地下部乾燥重量の増加量が高くなる効果があることがわかった。
【0060】
【表1】
【0061】
(比較例6)コリアンダーポット試験(土壌の固結防止剤添加なし)
比較例1でさとうきび苗の代わりにコリアンダー苗を用いること以外は比較例1と同様の操作を行った。80日後に地上部新鮮重量を測定した結果を表2に示す。
【0062】
(比較例7)コリアンダーポット試験(リグノスルホン酸)
比較例2でさとうきび苗の代わりにコリアンダー苗を用いること以外は比較例2と同様の操作を行った。80日後の地上部新鮮重量を測定した結果を表2に示す。
【0063】
(比較例8)コリアンダーポット試験(焼成珪藻土)
比較例3でさとうきび苗の代わりにコリアンダー苗を用いること以外は比較例3と同様の操作を行った。80日後の地上部新鮮重量を測定した結果を表2に示す。
【0064】
(比較例9)コリアンダーポット試験(本発明で用いるリグニン)
比較例4でさとうきび苗の代わりにコリアンダー苗を用いること以外は比較例4と同様の操作を行った。80日後の地上部新鮮重量を測定した結果を表2に示す。
【0065】
(実施例2)コリアンダーポット試験(本発明で用いるリグニンと焼成珪藻土の併用)
実施例1でさとうきび苗の代わりにコリアンダー苗を用いること以外は実施例1と同様の操作を行った。80日後の地上部新鮮重量を測定した結果を表2に示す。
【0066】
表2の結果から、コリアンダーに対し、本発明で用いるリグニンおよび珪藻土を土壌の固結防止剤として用いた実施例2では、比較例6〜9に比べて、地上部新鮮重量が増加した。一方で、比較例7、8では、比較例5と比べて地上部新鮮重量の増加がほとんど確認できなかった。
【0067】
【表2】
【0068】
(比較例10)ハツカダイコンポット試験(土壌の固結防止剤添加なし)
6号ポットに赤土(関東ローム層由来であり、粘土を25重量%含む):川砂を重量比8:2で混合したものを1kg入れ、ハツカダイコン(サカタのタネ スピーディーベジタブル)の種を播種し、発芽後、間引きにより1ポットあたり3株とした。元肥として化成肥料(窒素−リン−カリウム=8−8−8)を窒素で5kg/10a施肥した。表層の土が乾いたら適宜ポットの底から水が出るまで灌水した。播種から16日後の地上部新鮮重量を測定した結果を表3に示す。
【0069】
(実施例3)ハツカダイコンポット試験(本発明で用いるリグニンと焼成珪藻土の併用)
比較例4で作製した本発明で用いるリグニン1に対し、焼成珪藻土を乾燥重量比で1の割合で混合し、本発明で用いるリグニンと焼成珪藻土が混合した土壌の固結防止剤を作製した(含水率10%)。混合した土壌の固結防止剤を、比較例1の赤土:川砂を重量比8:2で混合した土100重量部に対して、10重量部混合(乾燥重量で重量比を換算すると土100重量部に対して本発明で用いるリグニンが4.5重量部、珪藻土4.5重量部)させること以外は比較例10と同様とした。播種から16日後の地上部新鮮重量を測定した結果を表3に示す。
【0070】
(実施例4)ハツカダイコンポット試験(本発明で用いるリグニンと焼成珪藻土の併用)
比較例4で作製した本発明で用いるリグニン1に対し、焼成珪藻土を乾燥重量比で2の割合で混合し、本発明で用いるリグニンと焼成珪藻土が混合した土壌の固結防止剤を作製した(含水率10%)。混合した土壌の固結防止剤を、比較例1の赤土:川砂を重量比8:2で混合した土100重量部に対して、10重量部混合(乾燥重量で重量比を換算すると土100重量部に対して本発明で用いるリグニンが3重量部、珪藻土6重量部)させること以外は比較例10と同様とした。播種から16日後の地上部新鮮重量を測定した結果を表3に示す。
【0071】
(実施例5)ハツカダイコンポット試験(本発明で用いるリグニンと焼成珪藻土の併用)
比較例4で作製した本発明で用いるリグニン1に対し、焼成珪藻土を乾燥重量比で2の割合で混合し、本発明で用いるリグニンと焼成珪藻土が混合した土壌の固結防止剤を作製した(含水率10%)。混合した土壌の固結防止剤を、比較例1の赤土:川砂を重量比8:2で混合した土100重量部に対して、10重量部混合(乾燥重量で重量比を換算すると土100重量部に対して本発明で用いるリグニンが2.25重量部、珪藻土6.75重量部)させること以外は比較例10と同様とした。播種から16日後の地上部新鮮重量を測定した結果を表3に示す。
【0072】
比較例10と実施例3〜5の結果より、本発明で用いるリグニンと珪藻土を乾燥重量比で1:1〜1:3で混合し、土壌の固結防止剤として用いた場合、土壌の固結防止剤を添加しない場合と比べて、ハツカダイコンの地上部新鮮重量が増加すること効果が確認できた。
【0073】
【表3】
図1
図2
図3