(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、実施形態を便宜上分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0029】
以降に示す実施形態に係る電磁波伝搬制御部材、電磁波伝搬制御部材付きサッシ及び窓構造体で、制御対象とする電磁波の周波数帯は、例えば
図33に示すとおりである。
図33においては電磁波の用途と、利用する周波数帯を表している。ただし、周波数帯が複数あって、且つ近接する場合にはまとめて表している。
【0030】
《第1の実施形態》
第1の実施形態では、主にUHF帯(λ=0.1m〜10m)で用いる携帯電話のセルラー通信向けの電波(電磁波)を通過させやすくすることを目的とした窓について説明する。
【0031】
図1(A)は第1の実施形態に係る電磁波伝搬制御部材付きサッシ101の正面図である、
図1(B)はこの伝搬制御部材付きサッシを備える窓の断面図である。
【0032】
本実施形態において、窓構造体111は窓ガラスが嵌め込まれたサッシ2とこのサッシ2が装着されたサッシ枠3とで構成される。サッシ2と、後に詳述する電磁波伝搬制御部材5とで電磁波伝搬制御部材付きサッシ101が構成されている。
【0033】
図1(A)は
図1(B)に示す窓構造体111のうち、サッシ2を屋内側から視た正面図である。
図1(B)に示すように、サッシ2はサッシ枠3に対してスライド自在に、又は固定状態に、装着されている。サッシ枠3は壁6に取り付けられている。
図1(B)においては、木製の窓枠4も表している。
【0034】
図2(A)、
図2(B)は、サッシ2に対する電磁波伝搬制御部材5の取り付け構造を示す正面図である。
図2(A)の例では、サッシ2の窓ガラス1が嵌め込まれた箇所(以降、「サッシ2の開口」という。)の縁である四辺に4つの電磁波伝搬制御部材5が貼付されている。
図2(B)の例では、サッシ2の開口の縁に沿って電磁波伝搬制御部材5が周回するように取り付けられている。
【0035】
次に、電磁波伝搬制御部材5の詳細な構成とその作用について説明する。
【0036】
図3は、電磁波伝搬制御部材付きサッシ101の開口(窓ガラス1)を通過する電磁波の波面を示す図である。サッシ2の屋内側の面に電磁波伝搬制御部材5が設けられている。屋外の基地局のアンテナ11と屋内の移動体通信端末のアンテナ12との間で送受信される電磁波は窓ガラス1を透過する。この状態で、
図34に示したような電磁波の回折が電磁波伝搬制御部材5によって抑制される。
【0037】
図4は上記電磁波伝搬制御部材5の正面図及びその右側面図である。この電磁波伝搬制御部材5は、導体面51と複数の導体壁52とによる、導電性の複数の溝Gを有する。これら溝Gの内部には誘電体部材53が設けられている。
【0038】
前記溝Gの、開口の面に対して垂直方向(法線方向)の深さ(
図4中に示す座標軸で−T方向)Dと、溝Gの幅Wの条件については後に述べる。また、電磁波伝搬制御部材5の材料や製造方法についても後に述べる。
【0039】
図5(A)、
図5(B)は、実在する電気導体面ECSにおける境界条件を示す図である。電界及び磁界は物性による境界条件を受けるので、電磁波についても境界条件を受ける。電気導体面における境界条件は、
電界:電気導体面ECSに平行な成分は0
磁界:電気導体面ECSに垂直な成分は0
である。
【0040】
図5(A)に示す実線矢印で示す電界Eは、電界の、電気導体面ECSに対する垂直方向の成分であり、これは存在できる。また、破線矢印で示す電界Eは、電界の、電気導体面ECSに対する平行方向の成分であり、存在できない。
【0041】
一方、
図5(B)に示す実線矢印で示す磁界Hは、磁界の、電気導体面ECSに対する平行方向の成分であり、これは存在できる。また、破線矢印で示す磁界Hは、磁界の、電気導体面ECSに対する垂直方向の成分であり、存在できない。
【0042】
図5(C)は、偏波方向(電界の振動方向)が電気導体面ECSに対して平行な電磁波を示す図である。ここでポインティングベクトルをSで表している。この電磁波の電界Eは電気導体面ECSに対して平行な方向であり、磁界Hは電気導体面ECSに対して垂直な方向であるので、この偏波方向の電磁波は伝搬できない。
【0043】
一方、
図5(D)は、偏波方向(電界の振動方向)が電気導体面ECSに対して垂直な電磁波を示す図である。ここでポインティングベクトルをSで表している。この電磁波の電界Eは電気導体面ECSに対して垂直な方向であり、磁界Hは電気導体面ECSに対して平行な方向であるので、この偏波方向の電磁波は伝搬する。
【0044】
次に、仮想的な磁気導体面を考えるため、マクスウェル方程式における双対性から、仮想の磁気導体面について以下の境界条件を与える。つまり、仮想の磁気導体面における境界条件は、
磁界:磁気導体面に平行な成分は0
電界:磁気導体面に垂直な成分は0
である。
【0045】
図6(A)に示す実線矢印で示す磁界Hは、磁界の、等価的磁気導体面MCSに対する垂直方向の成分を示す図である。この成分は存在できる。また、破線矢印で示す磁界Hは、磁界の、等価的磁気導体面MCSに対する平行方向の成分を示す図である。この成分は存在できない。
【0046】
一方、
図6(B)に示す実線矢印で示す電界Eは、電界の、等価的磁気導体面MCSに対する平行方向の成分であり、これは存在できる。また、破線矢印で示す電界Eは、電界の、等価的磁気導体面MCSに対する垂直方向の成分であり、存在できない。
【0047】
図6(C)は、偏波方向(電界の振動方向)が等価的磁気導体面MCSに対して平行な電磁波を示す図である。ここでポインティングベクトルをSで表している。この電磁波の電界Eは等価的磁気導体面MCSに対して平行な方向であり、磁界Hは等価的磁気導体面MCSに対して垂直な方向であるので、この偏波方向の電磁波は伝搬する。
【0048】
一方、
図6(D)は、偏波方向(電界の振動方向)が等価的磁気導体面MCSに対して垂直な電磁波を示す図である。ここでポインティングベクトルをSで表している。この電磁波の電界Eは等価的磁気導体面MCSに対して垂直な方向であり、磁界Hは等価的磁気導体面MCSに対して平行な方向であるので、この偏波方向の電磁波は伝搬できない。
【0049】
次に、電気導体面ECSと等価的磁気導体面MCSとが繰り返し配置された面を考える。
【0050】
図7(A)、
図7(B)は、電磁波が進行する方向に対して垂直方向に電気導体面ECSと等価的磁気導体面MCSとが繰り返し配置された面の斜視図である。
【0051】
偏波方向が電気導体面ECS及び等価的磁気導体面MCSに対して垂直な電磁波は、
図7(A)に示すように、
等価的磁気導体面MCSで伝搬を妨げられる。また、偏波方向が電気導体面ECS及び等価的磁気導体面MCSに対して平行な電磁波
は、
図7(B)に示すように、
電気導体面ECSで伝搬が妨げられる。つまり、電磁波が進行する方向に対して垂直方向に電気導体面ECSと等価的磁気導体面MCSとが繰り返し配置された面は電磁波が伝搬できない面である。以降この面を”Soft Surface” と言う。
【0052】
図8(A)、
図8(B)は、電磁波が進行する方向に対して平行方向に電気導体面ECSと等価的磁気導体面MCSとが繰り返し配置された面の斜視図である。
【0053】
偏波方向が電気導体面ECS及び等価的磁気導体面MCSに対して
平行な電磁波は、
図8(A)に示すように、電気導体面ECSで伝搬できる。また、偏波方向が電気導体面ECS及び等価的磁気導体面MCSに対して平行な電磁波
は、
図8(B)に示すように、
等価的磁気導体面MCSで伝搬できる。つまり、電磁波が進行する方向に対して平行方向に電気導体面ECSと等価的磁気導体面MCSとが繰り返し配置された面は電磁波が伝搬する面である。以降、この面を”Hard Surface” と言う。
【0054】
次に、上記等価的磁気導体面MCSを、実在する物質で構成するための構造の例を示す。
【0055】
電気導体面に垂直に入射する電磁波について、電気導体面では、電界は制約を受ける(電界0)(固定端反射)。また、磁界は制約を受けない(自由端反射)。つまり、電気導体面において、電界強度は0、磁界の振幅は最大である。電気導体面から所定距離離れた位置においては、その距離に応じて位相に差が生じるので、電気導体面から1/4波長分離れた位置においては、電界の振幅は最大、磁界強度は0である。
【0056】
図9は、電気導体面ECSによって等価的磁気導体面MCSを形成する例を示す斜視図である。電気導体面ECSでは、電界強度は0、磁界の振幅は最大である。そのため、電気導体面ECSから垂直方向に1/4波長分離れた位置では、電界の振幅は最大、磁界強度は0となる。つまり、電気導体面から垂直方向に1/4波長分離れた位置の面は等価的磁気導体面MCSである。
【0057】
図10は上記電気導体面ECSと等価的磁気導体面MCSとが繰り返し配置された電磁波伝搬制御部材5の部分斜視図である。電磁波伝搬制御部材5は、導体面51の上に複数の導体壁52が配列されたものである。導体壁52とそれに隣接する導体壁52との間に溝Gが形成されている。導体壁52の上面は電気導体面ECSとして作用する。溝Gの深さ(導体壁52の高さ)Dは、伝搬を制御しようとする電磁波の波長λの1/4である。ただし、溝Gの比誘電率εrが1以上であれば、誘電体による波長短縮効果を考慮して、溝Gの深さDはλ/4√εrであればよい。さらに、1/2波長の整数バイアスがあっても同様に作用するので、溝Gの深さDは(λ/√εr) ( 1 / 4 + N / 2 )であればよい。ここで、Nは
0または正の整数である。つまり電気長で1/4であればよい。また、さらに、±1 / 8 波長分の許容範囲を考慮すると、結局、溝Gの深さ(導体壁52の高さ)Dは、
(λ / √εr ) ( 1 / 8 + N / 2 ) 以上、
且つ(λ / √εr ) ( 3 / 8 + N / 2 ) 以下であればよい。
【0058】
言い換えると、溝Gの形状や溝G内部の物性により溝内部の電磁波の波長が変動したとしても、その変動した波長をλgとしたとき、λg( 1 / 4 + N / 2 )であればよい。つまり、溝Gの開口面において溝G内部を視たときに、電磁波の入射波と反射波の位相差が2Zπあればよい(Zは整数)。また、さらに、±π/ 2分の許容範囲を考慮すると、結局、溝Gの開口面において溝G内部を視たときに、電磁波の入射波と反射波の位相差は、
(2Z - 1 / 2)π以上、
且つ(2Z + 1 / 2)π以下であればよい。
【0059】
したがって、導体壁52の上面と、これに隣接する導体壁52の上面との間(溝Gの開口面)は等価的磁気導体面MCSとして作用する。したがって、この電磁波伝搬制御部材5は、導体壁52に沿った方向(R方向)を伝搬する電磁波に対しては”Hard Surface” として作用し、導体壁52の交差方向(S方向)を伝搬する電磁波に対しては”Soft Surface” として作用する。
【0060】
電磁波伝搬制御部材5を”Soft Surface” として使用する場合、溝Gの幅Wgは伝搬を阻止しようとする電磁波の波長λの1/2以下とする。このことによって、偏波方向が電気導体面ECS及び等価的磁気導体面MCSに対して平行な電磁波は、溝Gを電磁波の伝搬路としてみたときにカットオフ状態となって伝搬しない。このように、偏波方向が電気導体面ECS及び等価的磁気導体面MCSに対して平行な電磁波が溝G内に伝搬しないことにより、この電磁波にとっては等価的磁気導体面MCSの影響が視えなくなり、電気導体面ECSの影響のみ視えるため、この電磁波は伝搬しにくくなる。
【0061】
また、電磁波伝搬制御部材5を”Hard Surface” として使用する場合、溝Gの幅Wgは、伝搬させようとする電磁波の波長λの1/2以下とする。これは、溝Gが、偏波方向が電気導体面ECS及び等価的磁気導体面MCSに対して垂直な電磁波をカットオフさせるためである。これにより、偏波方向が電気導体面ECS及び等価的磁気導体面MCSに対して垂直な電磁波が溝G内に伝搬しないことにより、この電磁波にとっては等価的磁気導体面MCSの影響が視えなくなり、電気導体面ECSの影響のみ視えるため、この電磁波は伝搬しやすくなる。
【0062】
電磁波伝搬制御部材5を”Hard Surface” として使用する場合、導体壁52に沿って伝搬する電磁波の偏波方向が”Hard Surface” に対して垂直方向であれば、この電磁波は導体壁52の上面に沿って伝搬するので、一定の幅に占める割合で、導体壁52の幅W52が溝Gの幅Wgよりも大きい程、伝搬効率は高い。逆に、電磁波の偏波方向が”Hard Surface” に対して平行方向であれば、この電磁波は溝Gを伝搬するので、一定の幅に占める割合で、溝Gの幅Wgが導体壁52の幅W52よりも大きい程、伝搬効率は高い。したがって、電磁波伝搬制御部材5を”Hard Surface” として使用する場合において、導体壁52の幅W52と溝Gの幅Wgとの比率を定めることで、偏波方向に応じた選択性をもたせることができる。
【0063】
図4に示した電磁波伝搬制御部材5において、導体面51及び導体壁52は
図10に示した導体面51及び導体壁52にそれぞれ対応する。
図2(A)、
図2(B)に示したように、サッシ2の開口の縁に対して直交方向が”Soft Surface” となるように、電磁波伝搬制御部材5をサッシ2の開口の縁に沿って設けることによって、サッシ2の開口の縁での回折が抑制される。その分、開口を直進する電磁波の強度が高められる。
【0064】
図4に示した電磁波伝搬制御部材5の製造方法には幾つかあるが、その一つとして、Cu箔又はCuペーストの焼結体等による複数の導体層と複数の誘電体基材層とが交互に積層された積層体を形成する。この製造方法は多層基板の製造方法と基本的に同様である。例えば、比誘電率εrが100のセラミックス材料を用いる。そして、この積層体の側面に導電性ペーストを塗布し、焼成すること等によって導体面51を形成する。また、この導体面51は積層体に直接形成することなく、金属製のサッシ2の表面を導体面51として兼用してもよい。
【0065】
図4に示した電磁波伝搬制御部材5は、溝G内に誘電体部材53が充填された構造であるので、この溝Gでの波長短縮効果により、溝G内が空気である場合に比べて、溝Gの深さを浅くできる。例えば、周波数f=750MHz(λ=40cm)において特に効果を奏するように、D=λ/(4√εr) を満たすように、溝Gの深さDを10mmに設定する。また、W < λ/(2√(εr)) を満たすように溝の幅(積層方向での厚さ)Wを15mmに設定する。このことにより、この電磁波伝搬制御部材5を”Soft Surface” として使用するとき、偏波方向が”Soft Surface” に平行である電磁波が伝搬し易くなることを防げる。
【0066】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、第1の実施形態で示したものとは構造が異なる電磁波伝搬制御部材について示す。
【0067】
図11は本実施形態に係る電磁波伝搬制御部材5の部分斜視図である。電磁波伝搬制御部材5は、導体面51から垂直方向にDだけ離れた位置に、導体面51と導通する帯状導電体54が配列されたものである。帯状導電体54はビア導体Vを介して導体面51と導通している。
【0068】
帯状導電体54は電気導体面ECSとして作用する。帯状導電体54が存在しない箇所は等価的磁気導体面MCSとして作用する。したがって、この電磁波伝搬制御部材5は”Soft Surface” 又は”Hard Surface” として用いることができる。
【0069】
電磁波伝搬制御部材5を”Soft Surface” として使用する場合、隣接する帯状導電体54間(間隙)の幅Wgは伝搬を阻止しようとする電磁波の波長λの1/2以下とする。このことによって、偏波方向が電気導体面ECS及び等価的磁気導体面MCSに対して平行な電磁波は、間隙を電磁波の伝搬路としてみたときにカットオフ状態となって伝搬しない。また、電磁波伝搬制御部材5を”Hard Surface” として使用する場合、間隙の幅Wgは伝搬させようとする電磁波の波長λの1/2以下とする。間隙でその電磁波をカットオフさせるためである。
【0070】
また、
図11において、帯状導電体54の延びる方向での、ビア導体Vの配列ピッチPは電磁波の波長λの1/2以下とする。このことにより、隣接するビア導体V間の間隙は電磁波に対してカットオフ状態となるので、導体面51と帯状導電体54との間を伝搬しようとする(漏れる)電磁波が殆ど無くなる、つまり、これらビア導体Vと帯状導電体54とで、
図10に示した電磁波伝搬制御部材5の導体壁52と同等に作用する。
【0071】
図12は、より具体的な構造を示す、本実施形態の電磁波伝搬制御部材5の正面図及びその右側面図である。この電磁波伝搬制御部材5は、導体面51と複数の帯状導電体54とを有する。これら帯状導電体54と導体面51とは複数の層間接続導体(ビア導体)Vを介して接続されている。
【0072】
本実施形態の電磁波伝搬制御部材5は、Cu箔がラミネートされた誘電体基材を用い、Cu箔をパターンニングし、誘電体基材にビア導体を形成し、このCu箔パターンが形成された層を複数層積層した積層体を形成する。なお、帯状導電体54としてはCu箔パターンではなく、導電性ペーストによるパターン等であってもよい。この製造方法は多層基板の製造方法と基本的に同様である。なお、導体面51は積層体に形成することなく、金属製のサッシ2を導体面51として兼用してもよい。
【0073】
なお、
図12に示した電磁波伝搬制御部材5は、上記間隙内に誘電体部材53が充填された構造であるので、この間隙での波長短縮効果により、間隙内が空気である場合に比べて、全体の高さを低くできる。
【0074】
なお、ビア導体Vがない方が簡素に製造でき、またビア導体Vが無くても電磁波伝搬制御部材5を”Soft Surface”や”Hard Surface”に構成できる。ただし、ビア導体Vがある方が等価的磁気導体面MCSをより明確に構成できるため、この点ではビア導体Vがある方が好ましい。
【0075】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、第1の実施形態で示した電磁波伝搬制御部材付きサッシとは逆に、サッシの開口の縁で生じる回折を強化する方向に電磁波の伝搬を制御する例について示す。
【0076】
図13(A)、
図13(B)は、サッシ2に対する電磁波伝搬制御部材5の取り付け構造を示す正面図である。
図13(A)の例では、サッシ2の開口の縁である四辺に4つの電磁波伝搬制御部材5が貼付されている。
図13(B)の例では、サッシ2の開口の縁に沿って電磁波伝搬制御部材5が周回するように取り付けられている。
【0077】
図2(A)、
図2(B)に示した例とは異なり、サッシ2の開口の縁に対して直交方向が”Hard Surface” となるように、電磁波伝搬制御部材5をサッシ2の開口の縁に沿って設けている。また、本実施形態では、電磁波伝搬制御部材5をサッシ2の屋外面側に設けている。
【0078】
図14は、本実施形態に係る電磁波伝搬制御部材付きサッシ102の開口(窓ガラス1)を通過する電磁波の波面を示す図である。サッシ2の屋外側の面に電磁波伝搬制御部材5が設けられている。屋外の基地局のアンテナ11と屋内の移動体通信端末のアンテナ12との間で送受信される電磁波は窓ガラス1を透過する。この状態で、開口(窓ガラス1)の縁で電磁波が回折されるが、電磁波伝搬制御部材5は電磁波の回折方向に対して”Hard Surface” となるように作用するので、上記回折は電磁波伝搬制御部材5によって強化される。その結果、屋内の移動体通信端末のアンテナ12と屋外の基地局のアンテナ11とが窓を介して直視できない位置関係にあっても、通信が可能となる。
【0079】
なお、本実施形態で用いる電磁波伝搬制御部材5としては、
図4や、
図12に示した電磁波伝搬制御部材を用いることができる。ただし、溝の幅WはW ≦ λ/(2√(εr)) であることが好ましい。このことにより、偏波方向が”Hard Surface” に平行な方向である電磁波も伝搬させやすくなって、あらゆる偏波方向の電磁波を伝搬させることができる。
【0080】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、溝の形状に特徴を有する電磁波伝搬制御部材の例について示す。
【0081】
図15は第4の実施形態に係る電磁波伝搬制御部材5の部分斜視図である。この電磁波伝搬制御部材5は、導体面51の上に複数の導体壁52が配列されたものである。導体壁52とそれに隣接する導体壁52との間に溝Gが形成されている。導体壁52及び溝Gの断面形状は「かぎのて」状である。
【0082】
導体壁52の上面は電気導体面ECSとして作用し、溝Gの開口面は等価的磁気導体面MCSとして作用する。
【0083】
本実施形態で示すように、溝Gは”Soft Surface” 面や”Hard Surface”面に対して垂直方向に掘られた形状に限らず、その内部で方向が変化していてもよい。
【0084】
《第5の実施形態》
第5の実施形態では、平面レンズアンテナ及びそれを備える窓構造体の例について示す。
【0085】
図16は平面レンズアンテナの一つの素子である導体パターン9と、その擬似的伝送線路を示す図である。空間に電磁波が伝播する現象は、空間のインピーダンスに相当する特性インピーダンスZ0の伝送線路を信号が伝搬する現象として擬似的に考えることができる。
図16に示すように、空間における導体パターン9は、伝送線路の途中に、シャントに挿入されるLC共振回路として表現することができる。つまり、何も無い空間に配置された導体パターン(例えば線状導体)は擬似的な直列共振回路と考えられる。
【0086】
このように、伝送線路にシャントにLC共振回路が挿入される場合、そのアドミタンスYを用いて、透過係数S21は次式で表すことができる。
【0087】
S21=2/(2+Y*Z0)
上記導体パターンは大きさにより共振周波数をもち、共振するときは電磁波を反射する(180度位相反転、透過は0)。そして、導体パターンは、共振周波数以外の周波数においても、透過波(及び反射波)に位相を与える。つまり、このS21の位相が平面レンズアンテナにおける各素子に与える移相量となり、線路が長いほど、周波数が高いほど、与える移相量は大きい。つまり、電磁波が遅れて透過する。
【0088】
図17は電磁波が透過する幾つかの導体について、透過波の周波数と位相との関係を示す図である。
図17において、特性ラインCL1は小さな導体パターンについての、透過波の周波数と位相との関係を示すラインである。特性ラインCL2は大きな導体パターンについての、透過波の周波数と位相との関係を示すラインである。特性ラインCL0はその中間の大きさの導体パターンについての、透過波の周波数と位相との関係を示すラインである。透過波の位相が−180度となる周波数が共振周波数である。このように、導体パターンの大きさに応じて共振周波数は異なる。
【0089】
図18は、窓ガラス1に形成された導体パターンの例を示す斜視図である。窓ガラス1には線状の導体パターン9a,9b,9cが形成されている。導体パターン9bの長さは導体パターン9a,9cの長さより長い。導体パターン9a,9b,9cの延びる方向が、窓ガラス1を透過する電磁波の偏波方向(Y方向)である場合、各導体パターン9a,9b,9cでの透過波の位相が異なるため、透過波はX−Z面内で偏向される。
図18に示す例では、平面波(波源から十分に遠いの球面波の場合も含む)が入射し、導体パターン9bを透過する電磁波は、導体パターン9a,9cを透過する電磁波より位相が遅れるので、電磁波はセンターへ集束される。つまり、導体パターン9a,9b,9cが形成された窓ガラス1は、電磁波の平面レンズアンテナとして作用する。
【0090】
図19は、窓ガラス1に多数の導体パターンを形成した例を示す図である。線状の導体パターン9は隣接方向に繰り返すパターンである。そして、この隣接する導体パターンの繰り返しパターン間で、導体パターンの繰り返し周期での位相差が2πとなるように、導体パターンを形成している。また、同じ繰返し周期内のパターンは、電磁波を集束させたい位置から遠いほど、導体パターンの長さの変化が急になるように構成し、電磁波を集束させるのに必要な移相量を調整している。このような多数の導体パターンを配置することによって、窓ガラス1の広い領域から電磁波を集中させることができる。
【0091】
例えば
図19に示した焦点FP付近にWi−Fiルータを設置すれば、通信に寄与する電磁波が相対的に増加するので、このルータと通信装置との間で送受される電磁波の強度を高めることができ、高いS/N比のもとで通信できる。または、通信速度を増した(通信容量が大きい)通信方法での通信が可能となる。
【0092】
図20は、窓ガラス1に形成された導体パターンの例を示す斜視図である。窓ガラス1には線状の導体パターン9a,9b,9cが形成されている。導体パターン9a,9cの長さは導体パターン9bの長さより長い。導体パターン9a,9b,9cの延びる方向が、窓ガラス1を透過する電磁波の偏波方向(Y方向)である場合、各導体パターン9a,9b,9cでの透過波の位相が異なるため、透過波はX−Z面内で偏向される。
図20に示す例では、導体パターン9a,9cを透過する電磁波は、導体パターン9bを透過する電磁波より位相が遅れるので、電磁波は外方へ拡散される。
【0093】
図21は、窓ガラス1に多数の導体パターンを形成した例を示す図である。線状の導体パターン9は隣接方向に繰り返すパターンである。そして、この隣接する導体パターンの繰り返しパターン間で、導体パターンの繰り返し周期での位相差が2πとなるように、導体パターンを形成している。このような多数の導体パターンを配置することによって、窓ガラス1を透過する電磁波を拡散させることができる。これにより、屋外から屋内に向かって、または屋内から屋外に向かって、電磁波(例えば携帯電話の電波等)を効果的に拡散させることができ、そのことで、屋内で通信可能な空間を拡げることができるる。
【0094】
図18〜
図21に示した、複数の導体パターンを形成した窓ガラス1は、
図1(A)に示した電磁波伝搬制御部材付きサッシに適用することで窓構造体が構成される。
【0095】
《第6の実施形態》
第6の実施形態では、電磁波伝搬制御部材と平面レンズアンテナとを備える窓構造体の例について示す。この窓構造体は、屋外の広角度範囲から飛来する電磁波を集めて、屋内へ集束させることを目的とするものである。
【0096】
図22は、第6の実施形態に係る電磁波伝搬制御部材付きサッシ103の正面図及びその概略左側面図である。
【0097】
本実施形態において、電磁波伝搬制御部材付きサッシ103は、サッシ2、窓ガラス1、及びサッシ2に設けられた電磁波伝搬制御部材5S,5Hで構成されている。
【0098】
図22に示す例では、サッシ2の開口の縁である四辺の屋内側に電磁波伝搬制御部材5Sが設けられている。また上記四辺の屋外側には電磁波伝搬制御部材5Hが設けられている。
【0099】
電磁波伝搬制御部材5Sは、窓に対して放射方向、つまり電磁波が進行する方向、に対して垂直方向に電気導体面ECSと等価的磁気導体面MCSとが繰り返し配置された面、すなわち、既に述べた”Soft Surface” を構成する。また、電磁波伝搬制御部材5Hは、窓に対して放射方向、つまり電磁波が進行する方向、に対して平行方向に電気導体面ECSと等価的磁気導体面MCSとが繰り返し配置された面、すなわち、既に述べた”Hard Surface” を構成する。以降、第6の実施形態から第11の実施形態において、窓に対して放射方向に進もうとする電磁波に関して”Soft Surface”及び”Hard Surface”を定義する。つまり、窓に対して周方向に電気導体面ECSと等価的磁気導体面MCSとが繰り返し配置された面を” Soft Surface”と定義し、窓に対して径方向に電気導体面ECSと等価的磁気導体面MCSとが繰り返し配置された面を”Hard Surface”と定義する。
【0100】
このように、屋外側のサッシ2の開口の縁に、”Hard Surface” としての電磁波伝搬制御部材5Hが形成されていることにより、図中破線Paで示すように、サッシ2の開口の周囲に届いた電磁波が窓ガラス1側へ誘導され、窓ガラス1を透過して屋内へ伝搬される。また、屋内側のサッシの開口の縁に、”Soft Surface” としての電磁波伝搬制御部材5Sが形成されていることにより、図中破線Pbで示すように、サッシ2の開口の周囲を伝って放射方向に電磁波が広がることが抑制される。
【0101】
上記屋外側の”Hard Surface” としての電磁波伝搬制御部材5Hと、屋内側の”Soft Surface” としての電磁波伝搬制御部材5Sとによって、屋外から屋内への電磁波の集束(集光)性が向上する。
【0102】
一方、電磁波伝搬制御部材付きサッシ103の開口(窓ガラス1)には、導体パターン9による平面レンズアンテナが構成されている。この平面レンズアンテナは、電磁波が集束するように、窓の外側から内側に向かって、導体パターン9による素子のサイズが順に大きくなるパターンが繰り返し形成されている。そして、この周期での位相差が2πとなるように配置されている。
図18〜
図21に示したように、導体パターン9のサイズが順に大きくなる配列方向に電磁波が偏向されるので、窓ガラス1を透過する電磁波は、集束(集光)される。この例では、導体パターン9は矩形状であり、X方向の振動モード及びY方向の振動モードをもつ。また、X方向にもY方向にも、窓の内側から外側に向かって、導体パターン9による素子のサイズが順に大きくなるように、複数サイズの矩形状の導体パターン9が配列されているので、電磁波はX方向、Y方向共に集束(集光)される。
【0103】
また、この例では、窓ガラス1の中央部より外周部ほど、素子サイズの大きさの変化が急になっている。これにより、外周部ほど、平面レンズが電磁波に与える位相差の変化量が大きく、電磁波の中心軸方向への偏向角が大きい。その結果、電磁波の焦点への集束(集光)性が高まる。
【0104】
上記焦点位置に例えばモバイルルータを置くことによって、例えばモバイルルータを窓の近くに置かなくても、所定の利得を確保できる。
【0105】
なお、導体パターン9の形状としては、X方向成分とY方向成分を有する形状であればよく、例えば矩形状以外に、十字型、L字型、T字型、Π型、Ω型等であってもよい。
【0106】
また、平面レンズアンテナ形成用の導体パターンは、窓ガラスの表面、裏面、内部の何れに形成されてもよい。
【0107】
本実施形態によれば、サッシ2の開口の縁に形成された電磁波伝搬制御部材5S,5Hによる誘導・集束作用と平面レンズアンテナによる集束作用の相乗効果によって、焦点位置での利得が高まる。
【0108】
なお、窓ガラス1の透光性の低下を抑えるためには、上記導体パターン9は例えばITO膜等の透明電極で構成してもよい。このことは、以降に示す別の実施形態についても同様である。
【0109】
《第7の実施形態》
第7の実施形態では、電磁波伝搬制御部材と平面レンズアンテナを備える窓構造体の例について示す。この窓構造体は、屋外の広角度範囲から飛来する電磁波を集めて、かつ屋内では拡散させることを目的とするものである。
【0110】
図23は、第7の実施形態に係る電磁波伝搬制御部材付きサッシ104の正面図及びその左側面図である。
【0111】
本実施形態において、電磁波伝搬制御部材付きサッシ104は、サッシ2、窓ガラス1、及びサッシ2に設けられた電磁波伝搬制御部材5Hで構成されている。
【0112】
図23に示す例では、サッシ2の開口の縁である四辺の屋内側に電磁波伝搬制御部材5Hが設けられている。また上記四辺の屋外側にも電磁波伝搬制御部材5Hが設けられている。電磁波伝搬制御部材5Hは、既に述べた”Hard Surface” を構成する。
【0113】
このように、屋外側のサッシ2の開口の縁に、”Hard Surface” としての電磁波伝搬制御部材5Hが形成されていることにより、図中破線Paで示すように、サッシ2の開口の周囲に届いた電磁波が窓ガラス1側へ誘導され、窓ガラス1を透過して屋内へ伝搬される。また、屋内側のサッシの開口の縁に、”Hard Surface” としての電磁波伝搬制御部材5Hが形成されていることにより、図中破線Pcで示すように、屋内側へはサッシ2を伝って、電磁波が拡がる。
【0114】
一方、電磁波伝搬制御部材付きサッシ104の開口(窓ガラス1)には導体パターン9による平面レンズアンテナが構成されている。この平面レンズアンテナは、電磁波が拡散するように、窓の内側から外側に向かって、導体パターン9による素子のサイズが順に大きくなるパターンが繰り返し形成されている。そして、この周期での位相差が2πとなるように配置されている。
図18〜
図21に示したように、導体パターン9のサイズが順に大きくなる配列方向に電磁波が偏向されるので、窓ガラス1を透過する電磁波は、拡散される。この例では、導体パターン9は矩形状であり、X方向の振動モード及びY方向の振動モードをもつ。また、X方向にもY方向にも、窓の内側から外側に向かって、導体パターンによる素子のサイズが順に大きくなるように、複数サイズの矩形状の導体パターンが配列されているので、電磁波はX方向、Y方向共に拡散される。
【0115】
また、この例では、窓ガラス1の外周部より中央部ほど、素子サイズの大きさの変化が急になっている。平面レンズアンテナの中央部(内側)は直進する電磁波が発生しやすいが、上記の構成により、中央部ほど、平面レンズが電磁波に与える位相の変化量が大きく、電磁波の外周方向(放射方向)へ効果的に偏向される。その結果、電磁波の拡散性が高まる。
【0116】
なお、導体パターン9の形状としては、X方向成分とY方向成分を有する形状であればよく、例えば矩形状以外に、十字型、L字型、T字型、Π型、Ω型等であってもよい。
【0117】
また、平面レンズアンテナ形成用の導体パターンは、窓ガラスの表面、裏面、内部の何れに形成されてもよい。
【0118】
本実施形態によれば、サッシ2の開口の屋外側の縁に形成された電磁波伝搬制御部材5Hによる誘導作用によって、窓から屋内へ取り入れる電磁波の強度が高まる。また、サッシ2の開口の屋内側の縁に形成された電磁波伝搬制御部材5Hによる拡散作用と平面レンズアンテナによる拡散作用の相乗効果によって、屋内(室内)の隅々に電磁波を飛ばすことができる。
【0119】
《第8の実施形態》
第8の実施形態では、電磁波伝搬制御部材と平面レンズアンテナを備える窓構造体の例について示す。この窓構造体は、窓の高さより高い位置にあるアンテナ(例えば携帯電話の基地局アンテナ)と部屋内の携帯電話との間で垂直偏波の電磁波で通信を効果的に行うことを目的とする。
【0120】
図24は、第8の実施形態に係る電磁波伝搬制御部材付きサッシ105の、屋内側から視た正面図、その概略左側面図及び背面図(屋外側から視た図)である。
【0121】
本実施形態において、電磁波伝搬制御部材付きサッシ105は、サッシ2、窓ガラス1、及びサッシ2に設けられた電磁波伝搬制御部材5S及び電極膜5Wで構成されている。
【0122】
図24に示す例では、サッシ2の屋内側において、開口の縁の四辺に電磁波伝搬制御部材5Sが設けられている。また、屋外側において左右二辺及び上辺に電磁波伝搬制御部材5Hが設けられている。また、下辺に電磁波伝搬制御部材5Sが設けられている。
【0123】
電磁波伝搬制御部材5Sは、前述の”Soft Surface” を構成する。そして、電磁波伝搬制御部材5Hは、前述の”Hard Surface” を構成する。
【0124】
このように、屋外側のサッシの開口の縁の上部に電磁波伝搬制御部材5Hが設けられているので、図中破線Paで示すように、サッシの高い位置に届く電磁波が窓ガラス1へ誘導される。また、屋外側のサッシの開口の縁の下部に電磁波伝搬制御部材5Sが設けられているので、図中破線Pdで示すように、窓ガラス1へ入っていかない電磁波が抑えられ、窓ガラス1を透過する量が増大する。また、屋内側のサッシの開口の縁に電磁波伝搬制御部材5Sが形成されていることにより、図中破線Pbで示すように、サッシの開口の周囲を伝って放射方向に電磁波が広がることが抑制される。
【0125】
電磁波伝搬制御部材付きサッシ105の開口(窓ガラス1)には導体パターン9による平面レンズアンテナが構成されている。この平面レンズアンテナは、サッシ2の開口の縁である四辺のうち下辺から上辺へ向かって、導体パターン9による素子のサイズが順に大きくなるように、導体パターンが周期的に繰り返し形成されている。そして、この周期での位相差が2πとなるように配置されている。そのため、上側の(高さ方向での電磁波到来方向側の)電磁波の位相が遅れて、電磁波が偏向する。そして、窓ガラス1の面に平行な位置で位相面が揃うことにより、屋内へは、窓ガラス1に対して垂直方向に電磁波が伝搬する。
【0126】
なお、本実施形態では、窓ガラス1に対して、主に、高さ方向で斜めに電磁波が到来するので、上記四辺のうち屋外側の左右の電磁波伝搬制御部材5Hは無くてもよい。同様に、上記四辺のうち屋内側の左右の電磁波伝搬制御部材5Sは無くてもよい。また、窓ガラス1に対して、屋外から到来する電磁波の波源が、窓よりも高い直上だけでなく、水平方向にずれた位置から到来する場合は、上記四辺のうち屋外側の左右の電磁波伝搬制御部材は波源に近い側を”Hard Surface”、遠い側を”SoftSurface”とすることで、効率よく屋内に電磁波を誘導することができる。
【0127】
図25は第8の実施形態に係る別の電磁波伝搬制御部材付きサッシの屋内側から視た正面図及び背面図(屋外側から視た図)である。
【0128】
本実施形態では、窓の高さより高い位置にあるアンテナから到来する電磁波が垂直偏波の電磁波である場合に限定している。よって、電磁波を阻止する効果は”Soft Surface”よりも電気導体面ECS又は等価的磁気導体面MCSの方が強く、同様に電磁波を伝播させる効果は”Hard Surface”よりも電気導体面ECS又は等価的磁気導体面MCSの方が強い。よって、窓の高さより高い位置にあるアンテナから到来する電磁波の場合には、
図24に示す、屋外側の下辺の”Soft Surface”、屋内側の上辺及び下辺の”Soft Surface”を、
図25に示すようにそれぞれMCSに変更してもよい。また、
図24に示す屋外側の上辺及び左右の辺の”Hard Surface”を、
図25に示すようにECSに変更してもよい。
【0129】
図26は、面全体を等価的磁気導体面MCSとして作用させる電磁波伝搬制御部材の部分斜視図である。等価的磁気導体面MCSについては、
図10に示したECSの領域を
図26に示すように小さくすることにより、MCSの領域が大きくなり、面全体をMCSとして作用させることができる。ただし、このように構成したMCSが機能するには、電磁波の偏波方向と溝の形成方向に組み合わせがある。
図26中に(1)で示すように、面に対して垂直に偏波方向を持つ電磁波に対しては、
図26に示すように、電磁波の進行方向Sとは垂直な方向に溝を形成すればよい。また、
図26中に(2)に示すように、面に対して平行に偏波方向を持つ電磁波に対しては、
図26に示すように、電磁波の進行方向とは平行な方向に溝Gを形成すればよい。つまり、
図24に示す”Soft Surface”及び”HardSurface” を
図25に示すMCSに変更する場合は、そのまま、”Soft Surface”及び”HardSurface”におけるMCSの部分の領域を大きくすればよい。
【0130】
この例のように、屋外から到来する電磁波が垂直偏波の電磁波である場合、導体パターン9による素子は偏波方向のサイズが有効に作用する。したがって、
図25に示したように、導体パターン9は縦方向(Y方向)に延びるパターンであることが好ましい。また、このことにより、X方向の幅を細いままにできるので、窓ガラス1の全面に対する導体パターンの面積割合が抑えられ、電磁波の透過量が多くなる。
【0131】
《第9の実施形態》
第9の実施形態では、電磁波伝搬制御部材と平面レンズアンテナを備える窓構造体の例について示す。この窓構造体は、窓の高さより高い位置にあるアンテナと部屋内の携帯電話との間で水平偏波の電磁波で通信を効果的に行うことを目的とする。
【0132】
図27は、第9の実施形態に係る電磁波伝搬制御部材付きサッシ106の、屋内側から視た正面図、その概略左側面図及び背面図(屋外側から視た図)である。
【0133】
本実施形態において、電磁波伝搬制御部材付きサッシ106は、サッシ2、窓ガラス1、及びサッシ2に設けられた電磁波伝搬制御部材5S,5Hで構成されている。
【0134】
図27に示す例では、サッシ2の屋内側において、開口の縁の上辺、下辺、左辺、右辺に電磁波伝搬制御部材5Sがそれぞれ設けられている。また、屋外側において上辺、左辺、右辺に電磁波伝搬制御部材5Hがそれぞれ設けられている。下辺には電磁波伝搬制御部材5Sが設けられている。電磁波伝搬制御部材5Sは、前述の”Soft Surface” を構成する。また、電磁波伝搬制御部材5Hは、前述の”Hard Surface” を構成する。
【0135】
このように、屋外側のサッシの開口の縁の上部に、”Hard Surface” を構成する電磁波伝搬制御部材5Hが設けられているので、図中破線Paで示すように、サッシの高い位置に届く電磁波が窓ガラス1へ誘導される。屋外側のサッシの開口の縁の下部には電磁波伝搬制御部材5Sが設けられているので、図中破線Pdで示すように、窓ガラス1へ入っていかない電磁波が抑えられ、窓ガラス1を透過する量が増大する。また、屋内側のサッシの開口の縁の上部には電磁波伝搬制御部材5Sが形成されていることにより、図中破線Pbで示すように、サッシの開口の周囲を伝って放射方向に電磁波が広がることが抑制される。また、屋内側のサッシの開口の縁の下部に電磁波伝搬制御部材5Sが形成されていることにより、図中破線Pbで示すように、サッシの開口の周囲を伝って放射方向に電磁波が広がることが抑制される。
【0136】
なお、この例では、窓の高さより高い位置にあるアンテナから到来する電磁波が水平偏波の電磁波である場合に限定している。よって、電磁波を阻止する効果は”Soft Surface”よりも電気導体面ECS又は等価的磁気導体面MCSの方が強く、同様に電磁波を伝播させる効果は”Hard Surface”よりも電気導体面ECS又は等価的磁気導体面MCSの方が強い。よって、窓の高さより高い位置にあるアンテナから到来する電磁波の場合は、
図27に示す”Soft Surface”及び”Hard Surface”を
図28に示すようにECS又はMCSに変更してもよい。
【0137】
図26を参照して既に述べたとおり、
図26中に(1)で示すように、面に対して垂直に偏波方向を持つ電磁波に対しては、
図26に示すように、電磁波の進行方向Sとは垂直な方向に溝を形成すればよい。
図26中に(2)に示すように、面に対して平行に偏波方向を持つ電磁波に対しては、
図26に示すように、電磁波の進行方向とは平行な方向に溝Gを形成すればよい。つまり、
図27に示す”Soft Surface”及び”HardSurface” を
図28に示すMCSに変更する場合は、そのまま、”Soft Surface”及び”HardSurface”におけるMCSの部分の領域を大きくすればよい。
【0138】
電磁波伝搬制御部材付きサッシ106の開口(窓ガラス1)には導体パターン9による平面レンズアンテナが構成されている。この平面レンズアンテナは、サッシ2の開口の縁である四辺のうち下辺から上辺へ向かって導体パターン9の線長が長くなるように、導体パターンが繰り返し形成されている。そして、この周期での位相差が2πとなるように配置されている。そのため、上側の(電磁波到来方向側の)電磁波の位相が遅れて、電磁波が偏向する。そして、窓ガラス1の面に平行な位置で位相面が揃うことにより、屋内へは、窓ガラス1に対して垂直方向に電磁波が伝搬する。
【0139】
本実施形態では、屋外から到来する電磁波は水平偏波の電磁波であるので、導体パターン9による素子は偏波方向のサイズが有効に作用する。したがって、
図27に示したように、導体パターン9は水平方向(X方向)に延びるパターンであることが好ましい。また、このことにより、Y方向の幅を細いままにできるので、窓ガラス1の全面に対する導体パターンの面積割合が抑えられ、電磁波の透過量が多くなる。
【0140】
なお、本実施形態では、窓ガラス1に対して、主に、高さ方向で斜めに電磁波が到来するので、上記四辺のうち屋外側の左右の電磁波伝搬制御部材5Hは無くてもよい。また、窓ガラス1に対して、屋外から到来する電磁波の波源が窓よりも高い直上だけでなく、水平方向にずれた位置から到来する場合は、上記四辺のうち屋外側の左右の電磁波伝搬制御部材が波源に近い側を”Hard Surface”、遠い側を”SoftSurface”とすることで、電磁波を屋内に効率よく誘導することができる。
【0141】
《第10の実施形態》
第10の実施形態では、平面アンテナを備える電子機器の例について示す。
【0142】
図29は、第10の実施形態に係る電子機器121の平面図及びそのX−X部分での断面図である。
【0143】
本実施形態において、電子機器121は例えばいわゆるスマートフォンやタブレットPCなどの機器である。この電子機器121は、金属フレーム81及び平板部82,83で構成される筐体と、この筐体内に設けられた基板71、通信モジュール72及びフェーズドアレイアンテナ73とを備える。平板部82,83の一方はガラスや樹脂で構成され、他方はディスプレイパネルである。通信モジュール72は第5世代移動通信システム(5G)に対応した通信モジュールであり、例えば低SHF帯(3GHz〜6GHz帯)で通信を行う。
【0144】
フェーズドアレイアンテナ73は、X−Y面に配列された複数のパッチアンテナと、これらパッチアンテナに対する給電位相を制御する位相制御回路とで構成される。この位相制御回路は、X方向の位置に応じてパッチアンテナへの給電位相を制御することで、+X方向、−X方向、の所定方位にアンテナの指向方向を向ける。つまり、各パッチアンテナに対する給電位相を同相にすれば、平板部82に対する法線方向を指向し、+X方向に沿って給電位相を順次遅らせれば、指向方位が+θ方向に傾き、−X方向に沿って給電位相を順次遅らせれば、指向方位が−θ方向に傾く。ただし、フェーズドアレイアンテナは、偏向角が大きくなる程、グレーティングローブが顕著に現れるので、実質的に有効な偏向角は制限される。
【0145】
本実施形態では、平板部82に、導体パターン9による平面レンズアンテナが構成されている。この平面レンズアンテナは、平板部82の開口の+X方向と−X方向の縁である二辺に近づくほど導体パターン9による素子サイズが大きい。そのため、平板部82を透過する電磁波のうち、+X方向寄り又は−X方向寄りであるほど、そこを透過する電磁波の位相が遅れる。その結果、上記フェーズドアレイアンテナ73での偏向角が平面レンズアンテナで増大される。そのため、偏向可能な角度が拡大される。又は、フェーズドアレイアンテナでの必要な偏向角が抑えられるので、上記グレーティングローブの発生が抑えられる。
【0146】
《第11の実施形態》
第11の実施形態では、電磁波伝搬制御部材と平面レンズアンテナとで構成される電磁波伝搬制御構造体を備える電子機器の例について示す。
【0147】
図30は、第11の実施形態に係る電子機器122の平面図である。電子機器122は例えばいわゆるスマートフォンやタブレットPCなどの機器である。この電子機器122は、金属フレーム81、電磁波伝搬制御部材5S及び平板部82,83で構成される筐体と、この筐体内に設けられた基板71及びフェーズドアレイアンテナ73とを備える。平板部82,83の一方はガラスや樹脂で構成され、他方はディスプレイパネルである。平板部82には、導体パターン9による平面レンズアンテナが構成されている。
図29に示した電子機器121とは、電磁波伝搬制御部材5Sを備える点で異なる。
【0148】
電磁波伝搬制御部材5Sは”Soft Surface” を構成する。平板部82の縁に、”Soft Surface” としての電磁波伝搬制御部材5Sが形成されていることにより、電磁波伝搬制御部材5Sを伝って電磁波が広がることが抑制される。そのため、電磁波伝搬制御部材5Sが無い構造に比べて、X方向に傾く電磁波の指向性が強められる。
【0149】
図31は、第11の実施形態に係る別の電子機器123の平面図である。
図30に示した電子機器122とは、電磁波伝搬制御部材5Hを備える点で異なる。
【0150】
電磁波伝搬制御部材5Hは”Hard Surface” を構成する。平板部82の縁に、”Hard Surface” としての電磁波伝搬制御部材5Hが形成されていることにより、電磁波伝搬制御部材5Hを伝って電磁波が広がる。そのため、指向性(鋭さ)は崩れるが、横方向(X方向)や後方(−Z方向)にも利得が生じる。
【0151】
図32は、第11の実施形態に係るさらに別の電子機器124の平面図である。
図30に示した電子機器122や、
図31に示した電子機器123とは、電磁波伝搬制御部材5H及び電磁波伝搬制御部材5Sの両方を備える点で異なる。
【0152】
平板部82の縁に、”Hard Surface” としての電磁波伝搬制御部材5Hが形成されていて、側部及び底面の一部に、”Soft Surface” としての電磁波伝搬制御部材5Sが形成されている。そのため、電磁波伝搬制御部材5Hを伝って電磁波が広がるので、指向性(鋭さ)は崩れるが、横方向(X方向)の利得が高まる。また、電磁波伝搬制御部材5Sを伝って電磁波が広がることが抑制されるので、電磁波の後方への回り込みが抑制される。さらには、
図32において左側部を経由して後方に回り込む電磁波との不要な干渉が、電磁波伝搬制御部材5Sの存在によって抑制される。
【0153】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形及び変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【0154】
例えば、以上に示した実施形態のうち、
図1(A)、
図1(B)に示した例では、サッシ2に電磁波伝搬制御部材5を設けたが、サッシ枠3に電磁波伝搬制御部材5を設けてもよいし、サッシ2とサッシ枠3の両方に電磁波伝搬制御部材5を設けてもよい。
【0155】
また、
図1(A)、
図1(B)に示した例では、電磁波伝搬制御部材5を、サッシ2とは基本的に別部材で構成したものについて説明したが、サッシ2自体の金属に溝Gを形成することによって、
図10に示した導体面51及び導体壁52が構成されてもよい。その場合、必要に応じて、
図4に示したような誘電体部材53が溝Gに埋設されてもよい。