(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記皮膜層又は前記第1の皮膜層を形成する工程で用いられる前記塗料には、当該塗料中に含まれる前記樹脂に存在する、前記ブロックイソシアネートと反応する官能基の量に対して、1.2〜2.0当量の前記ブロックイソシアネートが含有されており、
前記皮膜層又は前記第1の皮膜層を形成する工程の終了後、次工程を実施するまでの時間を、相対湿度40%以下の環境下で12時間以下とする、請求項7又は8に記載の金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
前記皮膜層又は前記第1の皮膜層を形成する工程で用いられる前記塗料には、前記ブロックイソシアネートとして、第1のブロックイソシアネートと、当該第1のブロックイソシアネートよりも解離温度が高い第2のブロックイソシアネートと、が含有されており、
前記第1のブロックイソシアネートの含有量は、前記塗料中に含まれる前記樹脂に存在する、前記第1のブロックイソシアネートと反応する官能基の量に対して、1.0〜1.2当量であり、
前記第2のブロックイソシアネートの含有量は、前記塗料中に含まれる前記樹脂に存在する、前記第1のブロックイソシアネートと反応する官能基の量に対して、0.2〜0.5当量であり、
前記皮膜層又は前記第1の皮膜層を形成する工程では、前記第1のブロックイソシアネートの解離温度をα1とし、前記第2のブロックイソシアネートの解離温度をα2とし、前記熱圧着により接着する工程における前記熱圧着温度をγとしたときに、前記最高到達温度βは、α1≦β<α2<γを満足するように設定される、請求項7又は8に記載の金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
前記皮膜層が1層で構成される場合、及び、前記皮膜層が2層で構成される場合の前記第1の皮膜層を形成する工程における最高到達温度β[℃]を、80℃≦β≦250℃、かつ、α≦β<(α+30℃)を満足する温度とする、請求項7〜9の何れか1項に記載の金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
前記皮膜層が1層で構成される場合、及び、前記皮膜層が2層で構成される場合の前記第1の皮膜層を形成する工程における最高到達温度β[℃]を、80℃≦β≦250℃、α1≦β、かつ、(β+10℃)<α2<γを満足する温度とする、請求項10に記載の金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
前記熱圧着により接着する工程に先立ち、前記炭素繊維強化樹脂材料の接着面に対し、表面粗化処理、又は、表面活性化処理の少なくとも何れかを実施する、請求項7〜17の何れか1項に記載の金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
また、異なる実施形態の類似する構成要素については、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素等の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。また、説明の容易化のために各図は適宜拡大、縮小しており、図は各部の実際の大きさ及び比率を示すものではない。
【0021】
≪第1の実施形態≫
<1.金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体>
[1.1.金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体の構成]
まず、
図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体の一例としての金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体1の積層方向における断面構造を示す模式図である。
【0022】
図1に示すように、金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体1は、予め金属板の表面上に皮膜層13が形成された金属板11、又は、金属板11をプレス成型等で加工した金属部材11Aに対して皮膜層13が形成されたものの少なくとも一部に、熱圧着により、炭素繊維強化樹脂材料の一例としてのCFRP層12を接着して一体化させた複合体(複合部材)である。ここで、「一体化」とは、金属板11又は金属部材11Aと、CFRP層12と、皮膜層13とが、加工や変形の際、一体として動くことを意味する。
以下、かかる積層構造を有する金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体(以下、「金属−CFRP複合体」と略記する。)の各構成について詳述する。
【0023】
(金属板11、金属部材11A)
金属板11、及び、金属部材11Aの材質、形状及び厚みなどは、プレス等による成形加工が可能であれば特に限定されるものではないが、形状は薄板状が好ましい。金属板11及び金属部材11Aの材質としては、例えば、鉄、チタン、アルミニウム、マグネシウム及びこれらの合金などが挙げられる。ここで、合金の例としては、例えば、鉄系合金(ステンレス鋼含む)、Ti系合金、Al系合金、Mg合金などが挙げられる。金属板11、及び、金属部材11Aの材質は、鉄鋼材料、鉄系合金、チタン及びアルミニウムであることが好ましく、他の金属種に比べて引張強度が高い鉄鋼材料であることがより好ましい。そのような鉄鋼材料としては、例えば、自動車に用いられる薄板状の鋼板として日本工業規格(JIS)等で規格された一般用、絞り用あるいは超深絞り用の冷間圧延鋼板、自動車用加工性冷間圧延高張力鋼板、一般用や加工用の熱間圧延鋼板、自動車構造用熱間圧延鋼板、自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板をはじめとする鉄鋼材料があり、一般構造用や機械構造用として使用される炭素鋼、合金鋼、高張力鋼等も薄板状に限らない鉄鋼材料として挙げることができる。
【0024】
鉄鋼材料には、任意の表面処理が施されていてもよい。ここで、表面処理とは、例えば、亜鉛めっき(溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき等)及びアルミニウムめっきなどの各種めっき処理、クロメート処理及びノンクロメート処理などの化成処理、並びに、サンドブラストのような物理的もしくはケミカルエッチングのような化学的な表面粗化処理が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、めっきの合金化や複数種の表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、少なくとも防錆性の付与を目的とした処理が行われていることが好ましい。
【0025】
金属板11として特に好ましいめっき鋼材としては、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板もしくはこれらを熱処理して亜鉛めっき中にFeを拡散させることで合金化させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Niめっき鋼板、溶融Zn−5%Al合金めっき鋼板や溶融55%Al−Zn合金めっき鋼板に代表される溶融Zn−Al合金めっき鋼板、溶融Zn−1〜12%Al−1〜4%Mg合金めっき鋼板や溶融55%Al−Zn−0.1〜3%Mg合金めっき鋼板に代表される溶融Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、Niめっき鋼板もしくはこれらを熱処理してNiめっき中にFeを拡散させることで合金化させた合金化Niめっき鋼板、Alめっき鋼板、スズめっき鋼板、クロムめっき鋼板、等が挙げられる。亜鉛系めっき鋼板は、耐食性に優れ好適である。更に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、他の金属部材と比べ表面粗度が大きく、かつ、ミクロな凹凸も多数存在することから、後述する皮膜層13との密着性に優れるため、より好適である。
【0026】
(CFRP層12)
CFRP層12は、マトリックス樹脂122と、当該マトリックス樹脂122で構成される層の内部に含有され、複合化された炭素繊維材料121と、を有している。なお、炭素繊維材料121の一部は、マトリックス樹脂122で構成される層の内部に留まっておらずに層の外部に突出していることも考えられるが、このような場合についても本実施形態に含まれる。
【0027】
炭素繊維材料121としては、特に制限はないが、例えば、PAN系、ピッチ系のいずれの炭素繊維材料も使用でき、目的や用途に応じて選択すればよい。また、炭素繊維材料121として、上述した炭素繊維材料を1種類単独で使用してもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0028】
CFRP層12に用いられるCFRPにおいて、炭素繊維材料121の基材となる強化繊維基材としては、例えば、チョップドファイバーを使用した不織布基材や連続繊維を使用したクロス材、一方向強化繊維基材(UD材)などを使用することができる。補強効果の面からは、強化繊維基材としてクロス材やUD材を使用することが好ましい。
【0029】
マトリックス樹脂122は、樹脂組成物(又は架橋性樹脂組成物)の固化物もしくは硬化物である。ここで、単に「固化物」というときは、樹脂成分自体が固化したものを意味し、「硬化物」というときは、樹脂成分に対して各種の硬化剤を含有させて、硬化させたものを意味する。なお、硬化物に含有されうる硬化剤には、後述するような架橋剤も含まれ、上記の「硬化物」は、架橋形成された架橋硬化物を含むものとする。
【0030】
◇樹脂組成物
マトリックス樹脂122を構成する樹脂組成物は、フェノキシ樹脂を主成分とし、かつ、エポキシ基を含むものを使用する。ここで、「主成分」とは、全樹脂成分100質量部のうち、50質量部以上含まれる成分を意味する。フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂と分子構造が酷似しているため、エポキシ樹脂と同程度の耐熱性を有し、また、金属板11又は金属部材11A上に形成される皮膜層や炭素繊維材料121との接着性が良好となる。
【0031】
本実施形態において、マトリックス樹脂122を構成する樹脂組成物は、フェノキシ樹脂を主成分とし、かつ、エポキシ樹脂を含有するものであってもよい。また、フェノキシ樹脂に、エポキシ樹脂のような硬化成分を添加して共重合させることで、いわゆる部分硬化型樹脂とすることができる。このような部分硬化型樹脂をマトリックス樹脂122として使用することにより、炭素繊維材料121への含浸性に優れるマトリックス樹脂とすることができる。更には、この部分硬化型樹脂中の硬化成分を熱硬化させることで、通常の熱可塑性樹脂のようにCFRP層12中のマトリックス樹脂122が高温に曝された際にマトリックス樹脂が溶融又は軟化することを、抑制できる。フェノキシ樹脂への硬化成分の添加量は、炭素繊維材料121への含浸性と、CFRP層12の脆性、タクトタイム及び加工性等とを考慮し、適宜決めればよい。このように、フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂122として使用することで、自由度の高い硬化成分の添加と制御を行うことが可能となる。
【0032】
なお、例えば、炭素繊維材料121の表面には、エポキシ樹脂と馴染みのよいサイジング剤が施されていることが多い。フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂の構造と酷似していることから、マトリックス樹脂122としてフェノキシ樹脂を使用することにより、エポキシ樹脂用のサイジング剤をそのまま使用することができる。そのため、コスト競争力を高めることができる。
【0033】
また、熱可塑性樹脂の中でもフェノキシ樹脂は、良成形性を備え、炭素繊維材料121、又は、金属板11もしくは金属部材11Aとの接着性に優れる他、酸無水物やイソシアネート化合物、カプロラクタム等を架橋剤として使用することで、成形後に高耐熱性の熱硬化性樹脂と同様の性質を持たせることもできる。よって、本実施形態では、マトリックス樹脂122の樹脂成分として、樹脂成分100質量部に対してフェノキシ樹脂を50質量部以上含む樹脂組成物の固化物又は硬化物を用いることが好ましい。このような樹脂組成物を使用することによって、金属板11又は金属部材11AとCFRP層12とを強固に接合することが可能になる。樹脂組成物は、樹脂成分100質量部のうちフェノキシ樹脂を55質量部以上含むことがより好ましい。接着樹脂組成物の形態は、例えば、粉体、ワニスなどの液体、フィルムなどの固体とすることができる。
【0034】
なお、フェノキシ樹脂の含有量は、以下のように、赤外分光法(IR:InfraRed spectroscopy)を用いて測定可能である。IRで対象とする樹脂組成物からフェノキシ樹脂の含有量を分析する場合、透過法やATR反射法など、IR分析の一般的な方法を使うことで、フェノキシ樹脂の含有量を測定することができる。
【0035】
鋭利な刃物等でCFRP層12を削り出し、可能な限り繊維をピンセットなどで除去して、CFRP層12から分析対象となる樹脂組成物をサンプリングする。透過法の場合は、KBr粉末と分析対象となる樹脂組成物の粉末とを乳鉢などで均一に混合しながら潰すことで薄膜を作製して、試料とする。ATR反射法の場合は、透過法同様に粉末を乳鉢で均一に混合しながら潰すことで錠剤を作製して、試料を作製しても良いし、単結晶KBr錠剤(例えば直径2mm×厚み1.8mm)の表面にヤスリなどで傷をつけ、分析対象となる樹脂組成物の粉末をまぶして付着させて試料としても良い。いずれの方法においても、分析対象となる樹脂と混合する前のKBr単体におけるバックグラウンドを測定しておくことが重要である。IR測定装置は、市販されている一般的なものを用いることができるIR測定装置は、吸収(Absorbance)については1%単位、波数(Wavenumber)については1cm
−1単位で区別が可能な分析精度をもつ装置を使用することが好ましい。このようなIR測定装置として、例えば、日本分光株式会社製のFT/IR−6300などが挙げられる。
【0036】
フェノキシ樹脂の含有量を調査する場合、フェノキシ樹脂の吸収ピークは、例えば1450〜1480cm
−1、1500cm
−1近傍、1600cm
−1近傍などに存在することから、同吸収ピークの強度に基づいて、含有量を計算することが可能である。なお、これらの測定に関しては、後述する顕微IRでの測定も可能である。
【0037】
「フェノキシ樹脂」とは、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、又は2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる線形の高分子であり、非晶質の熱可塑性樹脂である。フェノキシ樹脂は、溶液中又は無溶媒下で従来公知の方法で得ることができ、粉体、ワニス及びフィルムのいずれの形態でも使用することができる。フェノキシ樹脂の平均分子量は、質量平均分子量(Mw)として、例えば、10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることが更に好ましい。フェノキシ樹脂(A)のMwを10,000以上の範囲内とすることで、成形体の強度をより高めることができ、この効果は、Mwを20,000以上、更には30,000以上とすることで、更に高まる。一方、フェノキシ樹脂のMwは、200,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、80,000以下であることが更に好ましい。フェノキシ樹脂のMwを200,000以下とすることで、作業性や加工性に優れるものとすることができ、この効果は、Mwを100,000以下、更には80,000以下とすることで、更に高まる。なお、本明細書におけるMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値とする。
【0038】
本実施形態で用いるフェノキシ樹脂の水酸基当量(g/eq)は、例えば、50以上1000以下の範囲内であることが好ましい。フェノキシ樹脂の水酸基当量を50以上とすることで、水酸基が減ることで吸水率が下がるため、硬化物の機械物性を向上させることができる。一方、フェノキシ樹脂の水酸基当量を1,000以下とすることで、水酸基が少なくなるのを抑制できるため、被着体との親和性を向上させて、金属−CFRP複合体1の機械物性を向上させることができる。この効果は、水酸基当量を750以下、更には500以下とすることで、更に高まる。そのため、フェノキシ樹脂の水酸基当量は、750以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。
【0039】
また、フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、65℃以上であることが好ましい。フェノキシ樹脂のTgが65℃以上であることで、成形性を確保しつつ、樹脂の流動性が大きくなりすぎることを抑制できるため、皮膜層13の厚みを十分に確保できる。フェノキシ樹脂のTgは、より好ましくは70℃以上である。一方、フェノキシ樹脂のTgは、150℃以下であることが好ましい。フェノキシ樹脂のTgが150℃以下であると、溶融粘度が低くなるため、炭素強化繊維基材にボイドなどの欠陥なく含浸させることが容易となり、より低温の接合プロセスとすることができる。なお、本明細書における樹脂のTgは、示差走査熱量測定装置を用い、10℃/分の昇温条件で、20〜280℃の範囲内の温度で測定し、セカンドスキャンのピーク値より計算された数値である。
【0040】
フェノキシ樹脂としては、上記の物性を満足するものであれば特に限定されないが、好ましいものとして、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートYP−50、フェノトートYP−50S、フェノトートYP−55Uとして入手可能)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートFX−316として入手可能)、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YP−70として入手可能)、上記に挙げたフェノキシ樹脂以外の臭素化フェノキシ樹脂やリン含有フェノキシ樹脂、スルホン基含有フェノキシ樹脂などの特殊フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートYPB−43C、フェノトートFX293、YPS−007等として入手可能)などを挙げることができる。これらの樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。
【0041】
マトリックス樹脂122の樹脂成分として用いる熱可塑性樹脂は、160〜250℃の範囲内の温度域のいずれかで、溶融粘度が3,000Pa・s以下になるものが好ましく、2,900Pa・s以下になるものがより好ましく、2,800Pa・s以下になるものが更に好ましい。160〜250℃の範囲内の温度域における溶融粘度が3,000Pa・s以下となることにより、溶融時の流動性が良くなり、CFRP層12にボイド等の欠陥が生じにくくなる。この効果は、160〜250℃の範囲内の温度域における溶融粘度が2,900Pa・s以下、更には2,800Pa・s以下となることで、更に高まる。一方、160〜250℃の範囲内の温度域における溶融粘度は、90Pa・s以上となることがより好ましく、100Pa・s以上となることが更に好ましい。溶融粘度が90Pa・s以下である場合には、樹脂組成物としての分子量が小さ過ぎるために樹脂組成物が脆化して、金属−CFRP複合体1の機械的強度が低下してしまう可能性がある。しかしながら、このような機械的強度の低下は、160〜250℃の範囲内の温度域における溶融粘度が90Pa・sとなることで、確実に抑制することが可能となり、100Pa・s以上となることで、より確実に抑制することが可能となる。
【0042】
◇架橋性樹脂組成物
フェノキシ樹脂(以下、「フェノキシ樹脂(A)」ともいう。)を含有する樹脂組成物に、例えば、酸無水物、イソシアネート、カプロラクタムなどを架橋剤として配合することにより、架橋性樹脂組成物(すなわち、樹脂組成物の硬化物)とすることもできる。架橋性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)に含まれる2級水酸基を利用して架橋反応させることにより、樹脂組成物の耐熱性が向上するため、より高温環境下で使用される部材への適用に有利となる。フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基を利用した架橋形成には、架橋硬化性樹脂(B)と架橋剤(C)を配合した架橋性樹脂組成物を用いることが好ましい。架橋硬化性樹脂(B)としては、例えばエポキシ樹脂等を使用できるが、特に限定するものではない。このような架橋性樹脂組成物を用いることによって、樹脂組成物のTgがフェノキシ樹脂(A)単独の場合よりも大きく向上した第2の硬化状態の硬化物(架橋硬化物)が得られる。架橋性樹脂組成物の架橋硬化物のTgは、例えば、160℃以上であり、170℃以上220℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0043】
架橋性樹脂組成物において、フェノキシ樹脂(A)に配合する架橋硬化性樹脂(B)としては、2官能性以上のエポキシ樹脂が好ましい。2官能性以上のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールAタイプエポキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製エポトートYD−011、エポトートYD−7011、エポトートYD−900として入手可能)、ビスフェノールFタイプエポキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製エポトートYDF−2001として入手可能)、ジフェニルエーテルタイプエポキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YSLV−80DEとして入手可能)、テトラメチルビスフェノールFタイプエポキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YSLV−80XYとして入手可能)、ビスフェノールスルフィドタイプエポキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YSLV−120TEとして入手可能)、ハイドロキノンタイプエポキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製エポトートYDC−1312として入手可能)、フェノールノボラックタイプエポキシ樹脂、(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製エポトートYDPN−638として入手可能)、オルソクレゾールノボラックタイプエポキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製エポトートYDCN−701、エポトートYDCN−702、エポトートYDCN−703、エポトートYDCN−704として入手可能)、アラルキルナフタレンジオールノボラックタイプエポキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製ESN−355として入手可能)、トリフェニルメタンタイプエポキシ樹脂(例えば、日本化薬株式会社製EPPN−502Hとして入手可能)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。また、これらのエポキシ樹脂は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0044】
また、架橋硬化性樹脂(B)としては、特に限定する意味ではないが、結晶性エポキシ樹脂が好ましく、融点が70℃以上145℃以下の範囲内であり、150℃における溶融粘度が2.0Pa・s以下である結晶性エポキシ樹脂がより好ましい。このような溶融特性を示す結晶性エポキシ樹脂を使用することにより、樹脂組成物としての架橋性樹脂組成物の溶融粘度を低下させることができ、CFRP層12の接着性を向上させることができる。溶融粘度が2.0Pa・sを超えると、架橋性樹脂組成物の成形性が低下し、金属−CFRP複合体1の均質性が低下することがある。
【0045】
架橋硬化性樹脂(B)として好適な結晶性エポキシ樹脂としては、例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製エポトートYSLV−80XY、YSLV−70XY、YSLV−120TE、YDC−1312、三菱化学株式会社製YX−4000、YX−4000H、YX−8800、YL−6121H、YL−6640等、DIC株式会社製HP−4032、HP−4032D、HP−4700等、日本化薬株式会社製NC−3000等が挙げられる。
【0046】
架橋剤(C)は、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基とエステル結合を形成することにより、フェノキシ樹脂(A)を3次元的に架橋させる。そのため、熱硬化性樹脂の硬化のような強固な架橋とは異なり、加水分解反応により架橋を解くことができるので、金属板11又は金属部材11AとCFRP層12とを容易に剥離することが可能となる。これにより、金属板11や金属部材11Aをリサイクルすることができる。
【0047】
架橋剤(C)としては、酸無水物が好ましい。酸無水物は、常温で固体であり、昇華性があまり無いものであれば特に限定されるものではないが、金属−CFRP複合体1への耐熱性付与や反応性の点から、フェノキシ樹脂(A)の水酸基と反応する酸無水物を2つ以上有する芳香族酸無水物が好ましい。特に、ピロメリット酸無水物のように2つの酸無水物基を有する芳香族化合物は、トリメリット酸無水物と水酸基の組み合わせと比べて架橋密度が高くなり、耐熱性が向上するので好適に使用される。芳香族酸二無水物でも、例えば、4,4’―オキシジフタル酸、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物といったフェノキシ樹脂及びエポキシ樹脂に対して相溶性を有する芳香族酸二無水物は、Tgを向上させる効果が大きくより好ましい。特に、ピロメリット酸無水物のように2つの酸無水物基を有する芳香族酸二無水物は、例えば、酸無水物基を1つしか有しない無水フタル酸に比べて架橋密度が向上し、耐熱性が向上するので好適に使用される。すなわち、芳香族酸二無水物は、酸無水物基を2つ有するために反応性が良好で、短い成形時間で脱型に十分な強度の架橋硬化物が得られるとともに、フェノキシ樹脂(A)中の2級水酸基とのエステル化反応により、4つのカルボキシル基を生成させるため、最終的な架橋密度を高くできる。
【0048】
フェノキシ樹脂(A)、架橋硬化性樹脂(B)としてのエポキシ樹脂、及び架橋剤(C)の反応は、フェノキシ樹脂(A)中の2級水酸基と架橋剤(C)の酸無水物基とのエステル化反応、更にはこのエステル化反応により生成したカルボキシル基とエポキシ樹脂のエポキシ基との反応によって架橋及び硬化される。フェノキシ樹脂(A)と架橋剤(C)との反応によってフェノキシ樹脂架橋体を得ることができるが、エポキシ樹脂が共存することで樹脂組成物の溶融粘度を低下させられるため、被着体(皮膜層13)との含浸性の向上、架橋反応の促進、架橋密度の向上、及び機械強度の向上などの優れた特性を示す。
【0049】
なお、架橋性樹脂組成物においては、架橋硬化性樹脂(B)としてのエポキシ樹脂が共存してはいるが、熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂(A)を主成分としており、その2級水酸基と架橋剤(C)の酸無水物基とのエステル化反応が優先していると考えられる。すなわち、架橋剤(C)として使用される酸無水物と、架橋硬化性樹脂(B)として使用されるエポキシ樹脂との反応は時間がかかる(反応速度が遅い)ため、架橋剤(C)とフェノキシ樹脂(A)の2級水酸基との反応が先に起こり、次いで、先の反応で残留した架橋剤(C)や、架橋剤(C)に由来する残存カルボキシル基とエポキシ樹脂とが反応することで更に架橋密度が高まる。そのため、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物とは異なり、架橋性樹脂組成物によって得られる架橋硬化物は熱可塑性樹脂であり、貯蔵安定性にも優れる。
【0050】
フェノキシ樹脂(A)の架橋を利用する架橋性樹脂組成物においては、フェノキシ樹脂(A)100質量部に対して、架橋硬化性樹脂(B)が5質量部以上となるように含有されることが好ましい。架橋硬化性樹脂(B)の含有量が5質量部以上となることで、架橋硬化性樹脂(B)の添加による架橋密度の向上効果を得やすくなり、架橋性樹脂組成物の架橋硬化物が160℃以上のTgを発現しやすくなり、また、流動性がより良好になる。この効果は、架橋硬化性樹脂(B)の含有量が9質量部以上、更には10質量部以下とすることにより、更に高まる。そのため、架橋硬化性樹脂(B)の含有量は、9質量部以上となることがより好ましく、10質量部以上となることが更に好ましい。一方、架橋硬化性樹脂(B)の含有量は、85質量部以下となるように含有されることが好ましい。架橋硬化性樹脂(B)の含有量が85質量部以下となることにより、架橋硬化性樹脂(B)の硬化時間を短縮できるため、脱型に必要な強度を短時間で得やすくなる他、FRP層12のリサイクル性が向上する。この効果は、架橋硬化性樹脂(B)の含有量を83質量部以下、更には80質量部以下とすることにより、更に高まる。そのため、架橋硬化性樹脂(B)の含有量は、83質量部以下となることがより好ましく、80質量部以下となることが更に好ましい。なお、架橋硬化性樹脂(B)の含有量は、上述したようなIRを用いた方法によって、エポキシ樹脂由来のピークについて同様に測定することで、測定できる。
【0051】
架橋剤(C)の配合量は、通常、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基1モルに対して酸無水物基0.6モル以上となる量であることが好ましい。架橋剤(C)における酸無水物基の量が0.6モル以上であると、架橋密度が高くなるため、機械物性や耐熱性により優れる。この効果は、酸無水物基の量を0.7モル以上、更には1.1モル以上とすることにより、更に高まる。そのため、架橋剤(C)の配合量は、酸無水物基の量が0.7モル以上となる量であることがより好ましく、酸無水物基の量が1.1モル以上となる量であることが更に好ましい。一方、架橋剤(C)の配合量は、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基1モルに対して酸無水物基1.3モル以下となる量であることが好ましい。酸無水物基の量が1.3モル以下であると、未反応の酸無水物やカルボキシル基が硬化特性や架橋密度に悪影響を与えることを抑制できる。このため、架橋剤(C)の配合量に応じて、架橋硬化性樹脂(B)の配合量を調整することが好ましい。具体的には、例えば、架橋硬化性樹脂(B)として用いるエポキシ樹脂により、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基と架橋剤(C)の酸無水物基との反応により生じるカルボキシル基を反応させることを目的に、エポキシ樹脂の配合量を架橋剤(C)との当量比で0.5モル以上1.2モル以下の範囲内となるようにするとよい。好ましくは、架橋剤(C)とエポキシ樹脂の当量比が、0.7モル以上1.0モル以下の範囲内である。
【0052】
架橋剤(C)をフェノキシ樹脂(A)、架橋硬化性樹脂(B)と共に配合すれば、架橋性樹脂組成物を得ることができるが、架橋反応が確実に行われるように触媒としての促進剤(D)をさらに添加してもよい。促進剤(D)は、常温で固体であり、昇華性が無いものであれば特に限定はされるものではなく、例えば、トリエチレンジアミン等の3級アミン、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニルー4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルフォスフィン等の有機フォスフィン類、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらの促進剤(D)は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。なお、架橋性樹脂組成物を微粉末とし、静電場による粉体塗装法を用いて強化繊維基材に付着させてマトリックス樹脂122を形成する場合は、促進剤(D)として、触媒活性温度が130℃以上である常温で固体のイミダゾール系の潜在性触媒を用いることが好ましい。促進剤(D)を使用する場合、促進剤(D)の配合量は、フェノキシ樹脂(A)、架橋硬化性樹脂(B)及び架橋剤(C)の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上5重量部以下の範囲内とすることが好ましい。
【0053】
架橋性樹脂組成物は、常温で固形であり、その溶融粘度は、160〜250℃の範囲内の温度域における溶融粘度の下限値である最低溶融粘度が3,000Pa・s以下であることが好ましく、2,900Pa・s以下であることがより好ましく、2,800Pa・s以下であることがさらに好ましい。160〜250℃の範囲内の温度域における最低溶融粘度が3,000Pa・s以下とすることにより、熱プレスなどによる加熱圧着時に架橋性樹脂組成物を被着体へ十分に含浸させることができ、CFRP層12にボイド等の欠陥を生じることを抑制できるため、金属−CFRP複合体1の機械物性が向上する。この効果は、160〜250℃の範囲内の温度域における最低溶融粘度を2,900Pa・s以下、更には2,800Pa・s以下とすることにより、更に高まる。
【0054】
マトリックス樹脂122を形成するための樹脂組成物(架橋性樹脂組成物を含む。)には、その接着性や物性を損なわない範囲において、例えば、天然ゴム、合成ゴム、エラストマー等や、種々の無機フィラー、溶剤、体質顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、難燃剤、難燃助剤等その他添加物を配合してもよい。
【0055】
金属−CFRP複合体1において、CFRP層12のマトリックス樹脂122と、皮膜層13を構成する樹脂とは、同一の樹脂であってもよく、異なる樹脂であってもよい。ただし、CFRP層12と皮膜層13との接着性を十分に確保する観点からは、マトリックス樹脂122として、皮膜層13を構成する樹脂を形成する樹脂と同一又は同種の樹脂や、ポリマー中に含まれる極性基の比率等が近似した樹脂種を選択することが好ましい。ここで、「同一の樹脂」とは、同じ成分によって構成され、組成比率まで同じであることを意味し、「同種の樹脂」とは、主成分が同じであれば、組成比率は異なっていてもよいことを意味する。「同種の樹脂」の中には、「同一の樹脂」が含まれる。なお、「樹脂成分」には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が含まれるが、架橋剤などの非樹脂成分は含まれない。
【0056】
金属−CFRP複合体1において、CFRP層12は、少なくとも1枚以上のCFRP成形用プリプレグを用いて形成されたものである。所望されるCFRP層12の厚さに応じて、積層するCFRP成形用プリプレグの数を選択することができる。
【0057】
(皮膜層13)
皮膜層13は、金属−CFRP複合体1における金属板11又は金属部材11Aと、CFRP層12と、の間に配置され、これらを接合する層である。この皮膜層13は、金属板11又は金属部材11Aの少なくとも一部の表面に存在し、所定の樹脂を主成分とし、かつ、イソシアネート基を含有する。本実施形態では、金属−CFRP複合体1の製造時に、CFRP層12のマトリックス樹脂であるフェノキシ樹脂中のエポキシ基と、皮膜層13中に存在する未反応のイソシアネートとが化学結合し、CFRP層12と皮膜層13との界面近傍に、以下の(構造式1)に示したような結合(一次結合)が形成されることで、強固な密着性が発現する。なお、上記未反応のイソシアネートは、イソシアネート基がブロック剤で保護された状態となっているイソシアネートであるブロックイソシアネートである。皮膜層13に上記のようなブロックイソシアネートが存在することで、皮膜層13の形成過程、及び、皮膜層13とCFRP層12との接合過程(換言すれば、未反応のイソシアネートとエポキシ基との反応過程)のそれぞれにおいて、ブロックイソシアネートのイソシアネート基が適切に活性化される。その結果、本実施形態に係る金属−CFRP複合体1は、皮膜層13中にイソシアネート基を有するようになる。また、本実施形態に係る金属−CFRP複合体1は、下記のような化学結合を皮膜層13とCFRP層12との界面近傍に有することで、界面の密着性に加え、水や水蒸気を介した劣化環境下での界面の密着耐久性に優れる。特に、界面密着性への向上効果は、大きい。ここで、下記(構造式1)において、R
1は、エポキシ側鎖を表し、R
2は、イソシアネート側鎖を表す。
【0059】
水及び水蒸気を介した劣化環境下における密着性低下、並びに、化学結合が形成されることでの密着性・密着耐久性の向上メカニズムについて説明する。一般に、樹脂同士の相溶化を除き、樹脂界面では、界面でそれぞれの皮膜層の樹脂末端基が互いに水素結合をすることで、密着性を発現している。この水素結合は、ファンデルワールス力と同様の静電気的な相互作用である二次結合に分類されるが、ファンデルワールス力よりも相互作用が高く、強固な密着性を発現することが可能である。一方で、水及び水蒸気を介した劣化環境下では、界面近傍に水が浸入することで、樹脂同士の水素結合が水と樹脂との結合に切り替わり、結果として界面の密着性が低下する。そのような環境下であっても、界面で上記のような化学結合が形成されることで、水、水蒸気を介した劣化環境下でも結合が切断されることがないため、密着性を損なうことなく、良好な密着性を保持することが可能となる。
【0060】
上記のような化学結合を発現させるためには、CFRP層12に関しては、上述のマトリックス樹脂122として、エポキシ基を有する熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂を使用する。また、皮膜層13に関しては、少なくともCFRPを熱圧着する前に、皮膜層13中にバインダ樹脂131と未架橋のイソシアネートとが存在する必要がある。未架橋のイソシアネートが存在することで、フェノキシ樹脂を熱圧着する際に、熱によりブロックイソシアネートのブロック剤が外れ、皮膜層13と接しているフェノキシ樹脂中のエポキシ基と、皮膜層13中のイソシアネート基とが化学結合をすることが可能となる。皮膜層13中のブロックイソシアネートとCFRP層12中のエポキシ基とが化学結合することで、CFRP界面近傍に、上記(構造式1)で表される化学結合が存在するようになる。
【0061】
一般に、イソシアネートは反応性が高いために、皮膜形成前の塗料段階では、ブロック剤でブロックされたブロックイソシアネートという形で存在する。ブロック剤は、その種類により解離温度が異なっており、所定の温度に加温するとブロック剤が解離して、イソシアネートが樹脂の末端官能基と反応し架橋することが可能となる。その際、樹脂官能基と当量のブロックイソシアネートを含有させると、未反応のイソシアネートが無い皮膜層が形成される。
【0062】
未反応のイソシアネートを皮膜層中に残存させるためには、以下の二つの方法が考えられる。第1の方法としては、樹脂の官能基に対して、当量
超のブロックイソシアネートを含有させる方法である。第2の方法としては、皮膜層形成時にブロック剤が解離する温度以下で皮膜層を形成する方法である。第1の方法と第2の方法のいずれの方法を用いて皮膜層13中に未反応のイソシアネートを残存させてもよい。ただし、第1の方法では、皮膜形成時にブロック剤が解離されてしまい、皮膜形成時の加熱温度によっては、未反応のイソシアネートが揮発してしまう可能性がある。また、第2の方法では、皮膜層自体が架橋反応できずに良好な皮膜形成ができない可能性があるが、解離温度の異なるブロックイソシアネートをブレンドし、乖離温度の低いブロック剤のみが解離する温度で焼き付けすることで、効率よく未反応のイソシアネートを残存させることが可能となる。第1の方法及び第2の方法の詳細については、以下で改めて説明する。
【0063】
ブロックイソシアネートの種類としては、特に指定はない。ただし、皮膜層13のバインダ樹脂131として、溶剤系の樹脂を用いる場合には、溶剤可溶型のブロックイソシアネートが好ましく、水分散型の樹脂を用いる場合には、水系のブロックイソシアネートを用いることが好ましい。
【0064】
皮膜層13中における未反応のブロックイソシアネートの量については、以下で詳述するように、CFRP層12と皮膜層13との界面近傍において所望の密着力を得るために必要な上記(構造式1)に示した結合の結合量を確保可能な量とする。
【0065】
上記のような、必要な結合量を確保可能な量の目安としては、フーリエ変換式赤外分光法を用いた測定結果に基づく、以下のような条件が満足されることを挙げることができる。
【0066】
すなわち、
図2に模式的に示したように、CFRP層12と皮膜層13との界面IFから、CFRP層12側に向かって厚み方向にd
A=20μmまでの領域を、界面近傍の領域R
IFとし、CFRP層12の厚み方向の中心部(1/2深さに対応する位置)を基準としてそれぞれd
B=10μmまでの領域を、中心部近傍の領域R
Cとする。この場合に、界面近傍の領域R
IF及び中心部近傍の領域R
Cを、フーリエ変換式赤外分光法によりそれぞれ観察する。
【0067】
この場合に、得られる赤外吸収スペクトルにおける以下の波数帯域に、ピークP1〜P3が存在し、かつ、各波数帯域におけるピークP1〜P3のピーク強度I1〜I3が、以下の式(1)及び式(2)で表される関係を満足することが好ましい。以下の波数帯域にピークP1〜P3が存在することが、界面近傍の領域R
IFに、上記(構造式1)で表される化学結合が存在していることを示している。また、以下の式(1)及び式(2)で表される関係が満たされることが、界面近傍の領域R
IFに、所望の密着力を得るために必要な上記(構造式1)に示した化学結合の結合量が実現されていることを示している。
【0068】
P1:3660cm
−1〜3570cm
−1 P2:1200cm
−1〜1050cm
−1 P3:1750cm
−1〜1715cm
−1 (I2
IF/I1
IF) ≧ 1.5×(I2
C/I1
C)・・・式(1)
(I3
IF/I1
IF) ≧ 1.5×(I3
C/I1
C)・・・式(2)
【0069】
上記式(1)及び式(2)において、添字IFは、界面近傍を観察したときのピークを表し、添字Cは、中心部近傍を観察したときのピークを表す。また、上記式(1)及び式(2)において、ピークP1〜P3のピーク強度I1〜I3は、ピーク以外の部分から規定されるベースラインからのピーク高さとすることが好ましい。
【0070】
ここで、上記ピークP1は、一般的なエポキシ−アミン結合(R
a−CH(OH)−CH
2−NH−R
b,R
a:エポキシ側鎖、R
b:アミン側鎖)が存在する場合に特徴的に観測される、O−H伸縮振動のピークである。また、上記ピークP2は、上記(構造式1)に示した化学結合で特徴的に観測される、C−O−C伸縮振動のピークであり、上記ピークP3は、上記(構造式1)に示した化学結合で特徴的に観測される、C=O伸縮振動のピークである。CFRP層12の測定に際しては、炭素繊維材料の部分を測定することで得られるピーク強度が小さくなるため、マトリックス樹脂の部分を選択して測定することが好ましい。
【0071】
なお、上記式(1)において、(I2
IF/I1
IF)の値は、(I2
C/I1
C)の値に対して大きければ大きいほどよく、(I2
C/I1
C)の値の2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることが更に好ましい。このような関係が満たされることで、上記(構造式1)に示した化学結合の結合量がより確実に所望の状態となる。
【0072】
また、上記式(2)において、(I3
IF/I1
IF)の値は、(I3
C/I1
C)の値に対して大きければ大きいほどよく、(I3
C/I1
C)の値の2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることが更に好ましい。このような関係が満たされることで、上記(構造式1)に示した化学結合の結合量がより確実に所望の状態となる。
【0073】
一方、界面近傍に上記(構造式1)に示した化学結合が多く存在したとしても、上記式(1)において、(I2
IF/I1
IF)の値は、(I2
C/I1
C)の値の5倍を超えることはない。従って、上記式(1)において、(I2
IF/I1
IF)の値は、実質的には、(I2
C/I1
C)の値の5倍以下である。
【0074】
また、界面近傍に上記(構造式1)に示した化学結合が多く存在したとしても、上記式(2)において、(I3
IF/I1
IF)の値は、(I3
C/I1
C)の値の5倍を超えることはない。従って、上記式(2)において、(I3
IF/I1
IF)の値は、実質的には、(I3
C/I1
C)の値の5倍以下である。
【0075】
なお、フーリエ変換式赤外分光法での測定においては、上記のような測定範囲を考慮して、微小領域が測定可能な顕微ATR法で測定を行うことが好ましい。
【0076】
皮膜層13の厚みは、例えば、0.2μm以上であることが好ましい。皮膜層13の厚みを0.2μm以上とすることで、皮膜層13に存在する未反応のイソシアネートの絶対量をより確実に確保して、界面でエポキシ基との十分な量の結合をより確実に生じさせることが可能となる。皮膜層13の厚みは、より好ましくは0.4μm以上である。一方、皮膜層13の厚みは、10μm以下であることが好ましい。皮膜層13の厚みを10μm以下とすることで、未反応のイソシアネート量を容易にコントロールしながら、コスト及び加工性をより良好なものとすることができる。皮膜層13の厚みは、より好ましくは5μm以下である。
【0077】
皮膜層13のバインダ樹脂131としては、例えば、水分散樹脂を用いることが好ましい。水分散型樹脂は、溶媒の主成分が水であるため、溶剤系樹脂と比べ、焼付時の温度を低くすることが可能であり、解離温度の異なるブロックイソシアネート用いる際に好適である。
【0078】
水分散樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及び、これら2種以上の樹脂の混合樹脂等の水溶性又は水分散性の樹脂が挙げられる。特に好ましい水分散樹脂は、ポリエステル樹脂、又は、ウレタン樹脂の少なくとも何れかである。
【0079】
ポリエステル樹脂を用いる場合には、その平均分子量は、質量平均分子量(Mw)として、10,000〜30,000の範囲内であることが好ましい。平均分子量がMwで10,000以上であることで、十分な加工性をより確実に確保することが可能となる。ポリエステル樹脂のMwは、より好ましくは12,000以上である。また、平均分子量がMwで30,000以下であることで、樹脂自体の官能基数の低下を抑制し、塗装膜の優れた密着性をより確実に確保することが可能となる。ポリエステル樹脂のMwは、より好ましくは20,000以下である。
【0080】
ウレタン樹脂を用いる場合には、好ましいウレタン樹脂の形態は、エマルション平均粒子径が10nm以上であるエマルションの形態である。エマルションの平均粒子径が10nm以上であることで、コストの増加をより確実に抑制することができる。エマルションの平均粒子径は、より好ましくは20nm以上である。一方、好ましいウレタン樹脂の形態は、エマルションの平均粒子径が100nm以下であるエマルションの形態である。エマルションの平均粒子径が100nm以下となることで、塗膜化した際にエマルション同士の隙間が大きくなることをより確実に抑制して、樹脂塗膜としてのバリア性の低下をより確実に抑制することが可能となる。エマルションの平均粒子径は、より好ましくは60nm以下である。ウレタン樹脂のタイプとしては、例えば、エーテル系、ポリカーボネート系、エステル系、アクリルグラファイトタイプ等が挙げられる。これら各種のウレタン樹脂は、単独で使用してもよいし、併用してもよい。
【0081】
ここで、皮膜層13のバインダ樹脂131とは、皮膜層13中に存在する皮膜骨格をなす樹脂成分を意味し、顔料等が含まれていない場合であっても、バインダ樹脂と記載する。
【0082】
本実施形態では、更に、金属板11又は金属部材11Aとの密着性を向上させるために、皮膜層13中にシランカップリング剤等の密着性付与剤が含有されていてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、エポキシ系、アミノ系、ビニル系、クロル系、メタクリロキシ系、メルカプト系、カチオン系のいずれかの有機官能基を含有するものが挙げられる。そのようなシランカップリング剤の具体例としては、ビニルエトキシシラン、ビニルメトキシシラン、N−(2−アミノメチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノメチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランが挙げられるが、これらに限られるものではない。特に好ましいシランカップリング剤は、金属板11又は金属部材11Aとの密着性により一層優れる、エポキシ基を有するシランカップリング剤である。
【0083】
本実施形態では、更に、皮膜層13中に、各種の顔料等を含有させてもよい。例えば、皮膜層13中に防錆顔料を含有させることで、耐食性を向上させることが可能である。例えば、皮膜層13中に導電顔料を含有させることで、スポット溶接性及び電着塗装性を付与することが可能である。例えば、皮膜層13中に体質顔料を含有させることで、皮膜層13の弾性率を向上することが可能となるとともに、バインダ樹脂比率を低減することが可能となって皮膜層13のコストを低減することが可能である。例えば、皮膜層13中に疎水性顔料を含有させることで、皮膜層13中への水や電解質水溶液の浸入を抑制することが可能となる。
【0084】
防錆顔料としては、特に限定されるものではなく、一般的に用いられている金属板の腐食に効果がある防錆顔料であれば、どのような顔料であってもよい。ただし、このような防錆顔料として、例えば、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸及び亜リン酸のZn、Mg、Al、Ti、Zr及びCe塩、ハイドロカルマイト処理されたリン酸化合物(例として、リン酸亜鉛のハイドロカルマイト処理である東邦顔料製EXPERT NP−530
N5)、Caイオン交換シリカ、並びに、吸油量100〜1000ml/100g、比表面積200〜1000m
2/g、平均粒径2〜30μmの非晶質シリカよりなる群から選択される少なくとも1種の防錆顔料を用いることが好ましい。
【0085】
導電顔料としては、例えば、非酸化物セラミクス粒子、ドープ型金属酸化物粒子、鉄合金粒子、ステンレス粒子、鉄合金以外の粒子(金属粒子、金属合金粒子等)などの周知の導電性粒子が挙げられる。中でも、ホウ化バナジウム、窒化バナジウム等のバナジウム系の非酸化物セラミクス粒子や、酸化亜鉛にアルミをドープしたドープ型酸化亜鉛粒子は、導電性付与に加え、耐食性向上にも寄与するため、より好ましい。
【0086】
体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等が挙げられる。
【0087】
疎水性顔料としては、例えば、疎水性シリカ、疎水性チタニア、疎水性アルミナ等が挙げられる。
【0088】
上記のような各種顔料の含有量は、皮膜層13の全固形分に対して、それぞれ5質量%以上であることが好ましい。各種顔料の含有量を皮膜層13の全固形分に対して5質量%以上とすることで、顔料の含有効果をより確実に発現させることが可能となる。一方、各種顔料の含有量は、皮膜層13の全固形分に対して、それぞれ60質量%未満とすることが好ましい。各種顔料の含有量を皮膜層13の全固形分に対して60質量%未満とすることで、皮膜層13が脆くなって皮膜層13内で凝集破壊が発生することを、より確実に抑制することが可能となる。また、異なるタイプの顔料を含有させてもよいが、トータルの添加量が60質量%以上となると、皮膜層13が脆くなり皮膜層13内で凝集破壊が発生する可能性がある。
【0089】
各種顔料の平均粒径としては、皮膜層13の厚み相当の範囲内であることが好ましい。皮膜層13の厚みに対して、各種顔料の平均粒径が極端に大きい場合には、加工時にこれら顔料が欠落して皮膜層13に欠陥が生じるとともに、欠落した顔料が金型に堆積して金型損耗する可能性がある。なお、各種顔料の平均粒径の下限については、特に規定するものではないが、平均粒径が10nm未満である場合には、顔料のコストが高まるとともに、皮膜層13の形成の際の塗料粘度が高くなる可能性がある。
【0090】
なお、皮膜層13の厚み、顔料組成、及び、平均粒径については、塗料作製、皮膜作製の段階であれば種々の方法で求めることができるが、得られた複合体1から求める場合には、断面埋め込みサンプルを作製し、SEM・EDS(走査型電子顕微鏡・エネルギー分散型X線分光法)で測定することで、求めることができる。
【0091】
例えば、皮膜層13の厚みは、作製した断面埋め込みサンプルの任意の断面をSEM・EDSにより分析し、画像解析することで測定することができる。この際、1視野につき10点の解析を行い、合計5視野から得られた50点の解析結果の平均値を、皮膜層13の厚みとする。
【0092】
また、顔料組成に関して、作製した断面埋め込みサンプルの任意の断面の皮膜部分をSEM・EDSにより元素分析し、顔料組成とする。なお、SEM・EDSによる測定の際、1視野につき10点の分析を行い、合計5視野から得られた50点の分析結果の平均値を、各元素の含有量とする。
【0093】
更に、顔料の平均粒径は、作製した断面埋め込みサンプルの任意の断面の皮膜部分をSEM・EDSにより元素分析し、顔料に含まれる成分の面分布写真を作成し、得られた面分布写真から測定することができる。この際、1視野につき10点の分析を行い、合計5視野から得られた50点の分析結果の平均値を、顔料の平均粒径とする。
【0094】
以上、本発明の第1の実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体1について、詳細に説明した。
【0095】
≪第2の実施形態≫
以下に、
図3を参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体2について、簡単に説明する。なお、以下では、本発明の第1の実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体1との相違点を中心に説明を行うこととし、第1の実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体1と共通する点については、詳細な説明は省略する。
【0096】
本実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体2は、
図3に示すように、予め金属板の表面上に皮膜層13が形成された金属板11、又は、金属板11をプレス成型等で加工した金属部材11Aに対して皮膜層13が形成されたものの少なくとも一部に、第2皮膜層14を介して、CFRP層12Aを接着焼付した、複合部材である。
【0097】
ここで、金属板11、金属部材11A、及び、皮膜層13については、第1の実施形態と同様であるため、以下では詳細な説明は省略する。
【0098】
(CFRP層12A)
CFRP層12Aは、マトリックス樹脂122Aと、当該マトリックス樹脂122A中に含有され、複合化された炭素繊維材料121と、を有している。炭素繊維材料121については、第1の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0099】
マトリックス樹脂122Aを構成する樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂のいずれも使用することができるが、熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましい。マトリックス樹脂122Aに用いることができる熱可塑性樹脂の種類は、例えば、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、並びにナイロン等から選ばれる1種以上が挙げられる。なお、「熱可塑性樹脂」には、後述する第2の硬化状態である架橋硬化物となり得る樹脂も含まれる。また、マトリックス樹脂122に用いることができる熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、及び、ウレタン樹脂から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0100】
ここで、マトリックス樹脂122Aが熱可塑性樹脂を含有した場合、上述したCFRP層12Aのマトリックス樹脂122Aに熱硬化性樹脂を用いたときの問題点(すなわち、CFRP層12Aが脆性を有すること、タクトタイムが長いこと、曲げ加工ができないことなどの問題点)を解消できる。ただし、通常、熱可塑性樹脂は、溶融したときの粘度が高く、熱硬化前のエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂のように低粘度の状態で炭素繊維材料121に含浸させることができないことから、炭素繊維材料121に対する含浸性に劣る。そのため、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂122Aとして用いた場合のようにCFRP層12A中の強化繊維密度(VF:Volume Fraction)を上げることができない。例えば、エポキシ樹脂をマトリックス樹脂122Aとして用いた場合には、VFを60%程度とすることができるが、ポリプロピレンやナイロン等の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂122Aとして用いた場合には、VFが50%程度となってしまう。また、ポリプロピレンやナイロン等の熱可塑性樹脂を用いると、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いたときのようにCFRP層12Aが高い耐熱性を有することができない。
【0101】
マトリックス樹脂122Aとして特に好ましいのは、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂であり、熱可塑性樹脂としては、フェノキシ樹脂である。これら樹脂は、耐熱性に優れるとともに、エポキシ基を有しており、後述する第2皮膜層14との密着性に優れるためである。
【0102】
(第2皮膜層14)
第2皮膜層14は、バインダ樹脂141として、熱硬化型のエポキシ樹脂を主成分とするバインダ樹脂を含有する。熱硬化型のエポキシ樹脂は、密着性に優れるエポキシ基を有することで、金属板11又は金属部材11Aの上層に形成された皮膜層13中に存在する未架橋のイソシアネートと化学結合して、上記(構造式1)に示した結合を生成することができるため、優れた密着性を発現することが可能となるからである。かかる第2皮膜層14についても、皮膜層13と同様に、各種の密着性付与剤や、各種の顔料を含有させてもよい。
【0103】
かかる第2皮膜層14と、皮膜層13との間の界面においても、第1の実施形態と同様に、界面近傍の領域R
IFと、中心部近傍の領域R
Cとを考える。これら界面近傍の領域R
IF及び中心部近傍の領域R
Cを、フーリエ変換式赤外分光法によりそれぞれ観察したときに、得られる赤外吸収スペクトルにおける以下の波数帯域に、ピークP1〜P3が存在し、かつ、各波数帯域におけるピークP1〜P3のピーク強度I1〜I3が、以下の式(1)及び式(2)で表される関係を満足することが好ましい。なお、本実施形態における界面近傍の領域R
IF及び中心部近傍の領域R
Cは、第1の実施形態に係る該当部分の説明、及び、
図2において、「CFRP層12」を「第2皮膜層14」と読み替えることで、同様に規定することができる。また、赤外吸収スペクトルの測定方法についても、第1の実施形態と同様である。
【0104】
P1:3660cm
−1〜3570cm
−1 P2:1200cm
−1〜1050cm
−1 P3:1750cm
−1〜1715cm
−1 (I2
IF/I1
IF) ≧ 1.5×(I2
C/I1
C)・・・式(1)
(I3
IF/I1
IF) ≧ 1.5×(I3
C/I1
C)・・・式(2)
【0105】
なお、上記式(1)において、(I2
IF/I1
IF)の値は、(I2
C/I1
C)の値に対して大きければ大きいほどよく、(I2
C/I1
C)の値の2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることが更に好ましい。このような関係が満たされることで、上記(構造式1)に示した化学結合の結合量がより確実に所望の状態となる。
【0106】
また、上記式(2)において、(I3
IF/I1
IF)の値は、(I3
C/I1
C)の値に対して大きければ大きいほどよく、(I3
C/I1
C)の値の2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることが更に好ましい。このような関係が満たされることで、上記(構造式1)に示した化学結合の結合量がより確実に所望の状態となる。
【0107】
一方、界面近傍に上記(構造式1)に示した化学結合が多く存在したとしても、上記式(1)において、(I2
IF/I1
IF)の値は、(I2
C/I1
C)の値の5倍を超えることはない。従って、上記式(1)において、(I2
IF/I1
IF)の値は、実質的には、(I2
C/I1
C)の値の5倍以下である。
【0108】
また、界面近傍に上記(構造式1)に示した化学結合が多く存在したとしても、上記式(2)において、(I3
IF/I1
IF)の値は、(I3
C/I1
C)の値の5倍を超えることはない。従って、上記式(2)において、(I3
IF/I1
IF)の値は、実質的には、(I3
C/I1
C)の値の5倍以下である。
【0109】
第2皮膜層14の厚みは、100μm以上であることが好ましい。第2皮膜層14は、金属部材11Aを成型後に塗布・形成されるものであるが、第2皮膜層14の厚みを100μm以上とすることで、成型後の金属部材11の表面状態によらずに、第2皮膜層14を厚みのバラつきなく好ましい状態に形成することが可能となる。第2皮膜層14の厚みは、200μm以上であることがより好ましい。一方、第2皮膜層14の厚みは、1000μm以下であることが好ましい。第2皮膜層14の厚みを1000μm以下とすることで、水や水蒸気に触れる第2皮膜層14の面積が大きくなりすぎず、耐久性の低下をより確実に抑制することが可能となる。第2皮膜層14の厚みは、750μm以下であることが好ましい。
【0110】
なお、第2皮膜層14の厚みは、皮膜作製の段階であれば種々の方法で求めることができるが、得られた複合体2から求める場合には、断面埋め込みサンプルを作製し、SEM・EDS(走査型電子顕微鏡・エネルギー分散型X線分光法)で測定することで、求めることができる。SEM・EDSによる第2皮膜層14の厚みの測定方法については、第1の実施形態におけるSEM・EDSによる皮膜層13の厚みの測定方法と同様であるため、以下では詳細な説明は省略する。
【0111】
なお、
図3に示した本実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体2において、第2皮膜層14とCFRP層12Aとの間に、1又は複数の皮膜層が更に存在していてもよい。
【0112】
≪その他の変形例≫
<塗装下地処理>
皮膜層13を形成するにあたり、金属板11又は金属部材11Aに対して、必要に応じて一般に公知の塗装下地処理を行うことが好ましい。この塗装下地処理は、一般には化成処理により行われ、その前に、Ni等の鉄族金属イオンを含む酸性もしくはアルカリ水溶液による表面調整処理を施すことが多い。また、表面調整処理以前に、基材鋼板を清浄化するため、アルカリ脱脂などが行われる。化成処理は、クロムフリーの塗装鋼板とするために、クロメート処理ではなく、クロムを実質的に含有しない化成処理液を用いて行う。そのような化成処理液の代表例は、液相シリカ、気相シリカ及び/又はケイ酸塩などのケイ素化合物を主皮膜成分とし、場合により樹脂を共存させたシリカ化成処理液である。
【0113】
化成処理は、シリカ系化成処理に限られるものではない。シリカ系以外にも、塗装下地処理に使用するための各種のクロムフリー化成処理液が提案されており、また今後も提案されることが予想される。そのようなクロムフリー化成処理液を使用することもできる。化成処理により形成される化成処理皮膜の付着量は、使用する化成処理に応じて、適当な付着量を選択すればよい。シリカ系化成処理液の場合、通常の付着量は、Si換算で1〜20mg/m
2の範囲内であろう。上述の塗装下地処理をおこなうことで金属板と皮膜層との密着性が向上する。
【0114】
以上、本発明の第2の実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体2について、簡単に説明した。
【0115】
<金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法>
次に、本発明の各実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法について説明する。
【0116】
(金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体1の製造方法)
本発明の第1の実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体1の製造方法は、金属板11又は金属部材11Aに対し、皮膜層13を形成するための塗料を塗布して乾燥又は焼き付けを行い、皮膜層13を形成する工程と、皮膜層13の形成された金属板11又は金属部材11Aを成型加工するとともに、皮膜層13の更に上層に熱可塑性マトリクス樹脂からなる炭素繊維強化樹脂(CFRP層)12を熱圧着により接着する工程と、を有する。なお、金属板11又は金属部材11Aに皮膜層13を形成するに先立ち、金属板11又は金属部材11Aに対して塗装下地処理を実施することが好ましい。
【0117】
皮膜層13を形成するための塗料において、溶媒の主成分は水である。かかる溶媒に対して、先だって言及したような樹脂及びブロックイソシアネートを所定の含有量となるように含有させたものを、塗料として用いる。また、かかる塗料には、先だって言及したような各種の添加剤が含有されていてもよい。
【0118】
皮膜層13を形成するための塗料を塗布する工程としては、特に限定されず、粘性液体の場合、スリットノズルや円形状のノズルからの吐出方式での塗工、刷毛塗り、ブレート塗り、ヘラ塗りなど一般に公知の方法で塗布することができる。溶剤に溶解したものでは、一般に公知の塗布方法、例えば、刷毛塗り、スプレー塗工、バーコーター、各種形状のノズルからの吐出塗布、ダイコーター塗布、カーテンコーター塗布、ロールコーター塗布、インクジェット塗布などを用いることができる。バーコーター、ロールコーター、スクリーン印刷、粉体塗装等公知の方法を採用することができる。
【0119】
また、皮膜層13を形成するための乾燥・焼付は、例えば、加熱処理等により行うことができる。前提となる加熱条件としては、最高到達温度が80℃以上250℃以下の範囲内とすることが好ましく、10秒以上30分以下の保持時間とすることが好ましい。なお、かかる保持時間は、(最高到達温度βの目標値−10℃)〜(最高到達温度βの目標値+10℃)の範囲内に温度が保持されている時間を意味している。
【0120】
最高到達温度が80℃未満である場合には、皮膜層13を十分に乾燥・焼付することができず、皮膜層13の密着性が低下する可能性がある。最高到達温度は、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることが更に好ましい。一方、最高到達温度が250℃を超える場合には、皮膜層13が熱劣化を起こしてしまう可能性がある。最高到達温度は、200℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることが更に好ましい。
【0121】
また、保持時間が10秒未満である場合には、皮膜層13を十分に乾燥・焼付することができず、皮膜層13の密着性が低下する可能性がある。保持時間は、15秒以上であることが好ましく、20秒以上であることがより好ましい。一方、保持時間が30分を超える場合には、皮膜層13が熱劣化を起こしてしまったり、生産性が低下したりする可能性がある。保持温度は、10分以下であることがより好ましく、1分以下であることが更に好ましい。
【0122】
上記のような前提条件を踏まえた上で、皮膜層13の形成反応(換言すれば、皮膜層13を形成するための塗料中に含まれる所定の樹脂と、ブロックイソシアネートとの架橋反応)を適切に生じさせるために、最高到達温度は、用いるブロックイソシアネートの解離温度以上とする。
【0123】
ここで、かかる乾燥・焼付の際に、先程から言及しているように、上記の第1の方法又は第2の方法に即して、皮膜層13を形成するための架橋反応が終了した後において未反応のイソシアネートが存在するように、処理条件を適切に設定することが重要である。
【0124】
[第1の方法を用いる場合]
第1の方法により皮膜層13に未反応のイソシアネートを生じさせる場合について、詳細に説明する。この場合、皮膜層13をより確実に形成させ、かつ、皮膜層13中により適切な量の未反応のイソシアネートを残存させるために、皮膜層13を形成するための塗料中には、当該塗料中に含まれる所定の樹脂に存在する、イソシアネート基と反応しうる官能基の量に対して、例えば1.2〜2.0当量のブロックイソシアネートを含有させることが好ましい。ブロックイソシアネートをこのような関係を満足するように含有させることで、上記(構造式1)に示した化学結合をより確実に生成させることが可能となる。
【0125】
ここで、用いるブロックイソシアネートの解離温度をα[℃]とし、皮膜層13を形成するための乾燥・焼付における、金属板11又は金属部材11A(より詳細には、塗料の塗布された金属板11又は金属部材11A)の最高到達温度をβ[℃]とし、次工程のCFRP層12との熱圧着工程における熱圧着温度をγ[℃]とする。この場合に、α<γの関係が成立していることが重要である。また、最高到達温度βは、上記前提条件に示した範囲内において、α≦βの関係を満足するように設定される。また、最高到達温度βは、上記前提条件に示した範囲内において、α≦β<(α+30℃)の関係を満足するように設定されることが好ましい。最高到達温度βがα≦β<(α+30℃)の関係を満足することで、未反応のイソシアネートをより確実に残存させることが可能となる。また、保持時間は、15秒以上60秒以下とすることが更に好ましい。
【0126】
第1の方法により未反応のイソシアネートを生じさせる場合、形成された皮膜層13中に残存している未反応のイソシアネートについても、ブロック剤がイソシアネート基から離脱して、イソシアネート基が活性化された状態となっている。かかる状態のイソシアネートは、処理雰囲気中の水分と徐々に反応していくため、残存させた未反応のイソシアネートが揮発してしまう可能性がある。そのため、乾燥・焼付後の金属板11又は金属部材11Aを、次工程のCFRP層12との熱圧着工程に供するまでの時間は、相対湿度40%以下の環境下で12時間以下とすることが好ましい。熱圧着工程に供するまでの時間が、相対湿度40%を超える場合、又は、相対湿度が40%以下であっても、かかる環境下で12時間を超える場合には、上記(構造式1)に示した化学結合が十分に形成されない可能性がある。
【0127】
[第2の方法を用いる場合]
第2の方法により皮膜層13に未反応のイソシアネートを生じさせる場合について、詳細に説明する。この場合には、皮膜層13を形成するための塗料中に、解離温度の異なるブロックイソシアネートを適切に組み合わせて含有させることが重要である。ここで、皮膜層13の形成時に架橋反応を生じさせるブロックイソシアネートを、第1ブロックイソシアネートと称することとし、皮膜層13中に残存して未反応のイソシアネートとなるブロックイソシアネートを、第2ブロックイソシアネートと称することとする。第2の方法を用いる場合、第1ブロックイソシアネートは、皮膜層13を形成するための塗料中に含まれる、所定の樹脂に存在するイソシアネート基と反応しうる官能基の量に対して、1.0〜1.2当量含有されることが好ましく、第2ブロックイソシアネートは、皮膜層13を形成するための塗料中に含まれる、所定の樹脂に存在するイソシアネート基と反応しうる官能基の量に対して、0.2〜0.5当量含有されることが好ましい。ブロックイソシアネートをこのような関係を満足するように含有させることで、上記(構造式1)に示した化学結合をより確実に生成させることが可能となる。
【0128】
ここで、第1ブロックイソシアネートの解離温度をα1[℃]とし、第2ブロックイソシアネートの解離温度をα2[℃]とし、最高到達温度をβ[℃]とし、次工程のCFRP層12との熱圧着工程における熱圧着温度をγ[℃]とする。この場合に、α1<α2<γの関係が成立していることが重要である。また、最高到達温度βは、上記前提条件に示した範囲内において、α1≦β<α2の関係を満足するように設定される。これにより、皮膜層13が形成される際、第1ブロックイソシアネートのみが活性化して、塗料中の樹脂と第1ブロックイソシアネートとの架橋反応が進行する一方で、第2ブロックイソシアネートは活性化しない。これにより、形成される皮膜層13中には、第2ブロックイソシアネートが活性化されていない状態で残存する。なお、最高到達温度βは、上記前提条件に示した範囲内において、α1≦β、かつ、(β+10℃)<α2の関係を満足するように設定されることが好ましく、α1≦β<(α1+30℃)、かつ、(β+10℃)<α2の関係を満足するように設定されることがより好ましい。最高到達温度βが(β+10℃)<α2の関係を満足することで、皮膜層13の乾燥・焼付時に第2ブロックイソシアネートが活性化してしまう可能性をより確実に抑制しつつ、未反応のイソシアネートをより一層確実に残存させることが可能となる。これにより、後段の第2ブロックイソシアネートの反応時に、上記(構造式1)に示した化学結合をより好ましい状態に生成させることが可能となる。また、最高到達温度βがα1≦β<(α1+30℃)の関係を満足することで、第1ブロックイソシアネートの劣化を抑制しながら反応効率をより好ましい状態とすることが可能となる。また、保持時間は、15秒以上60秒以下とすることが更に好ましい。
【0129】
上記のように、第2の方法の場合、形成後の皮膜層13中には活性化されていないブロックイソシアネートが残存しているため、皮膜層13中に残存している未反応のイソシアネートが消失していくことはなく、乾燥・焼付後の金属板11又は金属部材11Aの取り扱いは、第1の方法よりも簡便となる。そのため、第2の方法は、第1の方法と比較して、より好ましい方法であるといえる。
【0130】
なお、塗装下地処理の方法としては、一般に公知の処理方法、例えば、浸漬乾燥方式、浸漬・水洗・乾燥方式、スプレー・水洗・乾燥方式、塗布・乾燥方式、塗布・乾燥硬化方式などを用いることができる。塗布方法は、浸漬、刷毛塗り、スプレー、ロールコーター、バーコーター、ブレードコーターなど一般に公知方法で塗布することができる。
【0131】
次に、CFRP層12を熱圧着する工程について、詳細に説明する。
具体的には、まず、未反応のイソシアネートが残存する皮膜層13の形成された金属板11又は金属部材11Aと、CFRP成形用プリプレグ又はCFRPを配置し、積層体を得る。なお、CFRPを用いる場合、CFRPの接着面は、例えば、ブラスト処理等による粗化や、プラズマ処理、コロナ処理などによる活性化がなされていることが好ましい。次に、この積層体を、加熱及び加圧(熱圧着)することによって、CFRP層12を得ることができる。
【0132】
ここで、本工程における熱圧着条件は、以下の通りである。
熱圧着温度γ[℃]は、ブロックイソシアネートの解離温度α,α1,α2[℃]との間で上記のような関係を満足した上で、100℃以上とする。熱圧着温度が100℃未満である場合には、皮膜層13を構成する樹脂の溶融粘度が高いために、CFRPへの付着性及びCFRP基材への含浸性が悪くなる。熱圧着温度γ[℃]は、150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることが更に好ましい。このような温度範囲内において、熱圧着温度γ[℃]は、マトリックス樹脂が結晶性樹脂であれば融点以上の温度がより好ましく、マトリックス樹脂が非結晶性樹脂であればTg+150℃以上の温度がより好ましい。
【0133】
一方、熱圧着温度γ[℃]は、400℃以下とする。熱圧着温度γ[℃]が400℃を超える場合には、過剰な熱を加えてしまうために、皮膜層13を構成する樹脂の分解が生じる可能性がある。熱圧着温度γ[℃]は、300℃以下であることが好ましく、270℃以下であることがより好ましく、250℃以下であることが更に好ましい。
【0134】
ただし、上記のような熱圧着温度の範囲内においても、熱圧着温度γ[℃]は、ブロックイソシアネートの沸点未満とすることが重要である。
【0135】
熱圧着する際の圧力は、3MPa以上とする。熱圧着する際の圧力が3MPa未満である場合には、CFRP基材への含浸性が悪くなる。一方、熱圧着する際の圧力は、特に限定するものではないが、過剰な圧力を加えてしまうと変形や損傷が発生する可能性があるため、例えば5MPa以下とすることが好ましい。
【0136】
熱圧着時間については、3分以上とする。熱圧着時間が3分未満である場合には、皮膜層13中の未反応のイソシアネート基と、CFRP成形用プリプレグ又はCFRP中のエポキシ基と、を十分に反応させることができず、所望の密着性を実現することができない。一方、熱圧着時間の上限値は、特に規定するものではない。ただし、熱圧着時間が長すぎる場合には、皮膜層13やCFRP層12のマトリックス樹脂が熱劣化する可能性や、CFRP層12のマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合に、溶融した熱可塑性樹脂が流出する可能性がある。そのため、熱圧着時間は、30分以下とすることが好ましく、20分以下とすることがより好ましく、10分以下とすることが更に好ましい。
【0137】
なお、上記のような一括成形は、ホットプレスで行われることが好ましいが、予め所定の温度まで余熱した材料を速やかに低温の加圧成形機に設置して加工することもできる。
【0138】
(後工程)
金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体に対する後工程では、必要に応じて、塗装の他、ボルトやリベット留めなどによる他の部材との機械的な接合のため、穴あけ加工、接着接合のための接着剤の塗布などが行われる。
【0139】
(金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体2の製造方法)
本発明の第2の実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体2の製造方法は、金属板11又は金属部材11Aに対し、皮膜層13を形成するため塗料を塗布して乾燥又は焼き付けを行い、未反応のイソシアネートが残存する皮膜層13を形成する工程と、未反応のイソシアネートが残存する皮膜層13の表面の少なくとも一部に第2皮膜層14を形成するため塗料を塗布する工程と、第2皮膜層14の表面の少なくとも一部に、CFRP層12Aを熱圧着する工程と、を有する。なお、金属板11又は金属部材11Aに皮膜層13を形成するに先立ち、金属板11又は金属部材11Aに対して塗装下地処理を実施することが好ましい。
【0140】
ここで、皮膜層13を形成する工程については、第1の実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体1の製造方法と同様であるため、詳細な説明は省略する。また、CFRP層12Aを熱圧着する工程についても、第1の実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体1の製造方法と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0141】
第2皮膜層14を形成する工程において、第2皮膜層14を形成するための塗料は、エポキシ樹脂を主成分とする塗料とする。かかる塗料には、第1の実施形態において皮膜層13を形成するための塗料が含有しうるような、各種の添加剤が含有されていてもよい。
【0142】
第2皮膜層14を形成するための塗料を塗布する工程としては、特に限定されず、粘性液体の場合、スリットノズルや円形状のノズルからの吐出方式での塗工、刷毛塗り、ブレート塗り、ヘラ塗りなど一般に公知の方法で塗布することができる。溶剤に溶解したものでは、一般に公知の塗布方法、例えば、刷毛塗り、スプレー塗工、バーコーター、各種形状のノズルからの吐出塗布、ダイコーター塗布、カーテンコーター塗布、ロールコーター塗布、インクジェット塗布などを用いることができる。バーコーター、ロールコーター、スクリーン印刷、粉体塗装等公知の方法を採用することができる。
【0143】
第2皮膜層14を形成するための塗料が塗布された状態で、乾燥又は焼き付けを行うことで、第2皮膜層14が形成されるとともに、皮膜層13と第2皮膜層14との界面近傍に、上記(構造式1)に示した化学結合が形成される。この際、乾燥又は焼き付け時における最高到達温度を、皮膜層13中に残存しているブロックイソシアネートの解離温度以上、熱圧着工程における熱圧着温度未満とする。これにより、皮膜層13中に残存しているブロックイソシアネートが活性化され、第2皮膜層14を形成するための塗料中に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基と、活性化したイソシアネート基と、が反応するようになる。
【0144】
ここで、皮膜層13において、上記第1の方法に即して未反応のイソシアネートを生成させている場合、皮膜層13の形成後、第2皮膜層14の形成工程を実施するまでの時間は、第1の実施形態と同様の理由から、相対湿度40%以下の環境下で12時間以下とすることが好ましい。
【0145】
なお、以上の説明では、第2皮膜層14を形成するための乾燥又は焼き付け処理を実施した後、CFRP層12Aを熱圧着する場合について言及した。しかしながら、第2皮膜層14を形成するための塗料を塗布した後に乾燥又は焼き付け処理を実施せずにおいた上で、CFRP層12Aを熱圧着することで、第2皮膜層14の形成とCFRP層12Aの熱圧着とを同時に実施してもよい。この場合、第2皮膜層14を形成するための塗料が、熱圧着処理の際に第2皮膜層14となり、塗料中のエポキシ基と皮膜層13中の未反応のイソシアネート基とが反応して上記(構造式1)に示した化学結合が生成されるとともに、CFRP層12Aと第2皮膜層14とが熱圧着される。
【0146】
以上、本発明の各実施形態に係る金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法の一例について、詳細に説明した。
【実施例】
【0147】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、あくまでも本発明の一例であって、本発明を限定するものではない。
【0148】
≪試験例1≫
<1.金属−CFRP複合体の製造>
(金属板の準備)
成分が、C:0.131質量%、Si:1.19質量%、Mn:1.92%、P:0.009質量%、S:0.0025質量%、Al:0.027質量%、N:0.0032質量%、残部:Fe及び不純物からなる鋼を熱間圧延した後、酸洗し、更に冷間圧延を行って、厚さ1.0mmの冷延鋼板を得た。次に、作製した冷延鋼板を、連続焼鈍装置で最高到達板温が820℃となる条件で焼鈍した。焼鈍工程の焼鈍炉内のガス雰囲気は、1.0体積%のH
2を含むN
2雰囲気とした。作成した冷延鋼板を「CR」と称する。
【0149】
また、作製した冷延鋼板を、焼鈍工程を有する連続溶融めっき装置の焼鈍工程で最高到達板温が820℃となる条件で焼鈍した後に、めっき工程で溶融亜鉛めっきしたものも準備した。焼鈍工程の焼鈍炉内のガス雰囲気は、1.0体積%のH
2を含むN
2雰囲気とした。めっき工程でのめっき浴の成分は、Zn−0.2%Al(「GI」と称する。)、Zn−0.09%Al(「GA」と称する。)の2種を用いた。なお、Zn−0.09%Alめっき(GA)の溶融めっき浴を用いたものは、溶融めっき浴に鋼板を浸漬して、めっき浴から鋼板を引き抜きながら、スリットノズルからN
2ガスを吹き付けてガスワイピングし、付着量を調整した後に、インダクションヒーターにて板温480℃で加熱することで合金化させて、めっき層中へ鋼板中のFeを拡散させた。ここで、各めっき鋼板におけるめっきの付着量は、GIは、片面当たり60g/m
2とし、GAは、片面当たり45g/m
2とした。
【0150】
なお、作製した3種類の金属板の引張強度を測定したところ、いずれも980MPaであった。
【0151】
また、上述の3種類の鋼板に加え、市販のアルミニウム板(6000系、厚み:1mm)を準備した(「AL」と称する。)。
【0152】
(前処理工程)
上記4種類の金属板の一部を、日本パーカライジング社製アルカリ脱脂剤「ファインクリーナーE6404」で脱脂後に、各金属板上にγ−アミノプロピルトリエトキシシランを2.5g/L、水分散シリカ(日産化学社製「スノーテックN」を1g/L、水溶性アクリル樹脂(試薬のポリアクリル酸)を3g/L添加した水溶液をバーコーターで塗布し、熱風オーブンで到達板温が150℃となる条件で乾燥させた。また、処理の付着量は、Si換算で10mg/m
2とした。付着量の測定方法としては、蛍光X線を用いて測定し、得られた検出強度と算出した付着量との関係から検量線を引き、これを用いて付着量を求めた。
【0153】
(皮膜層形成工程)
以下に示す各塗料を作製した。なお、以下の説明において、平均分子量、解離温度、平均粒径等の各種物性値は、いずれもカタログ値である。
【0154】
[塗料A]
水分散ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロナールバイロンMD1480:平均分子量15,000)に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−11:解離温度150℃)を水分散樹脂の水酸基と当量となるように添加し、必要に応じて水を添加して、塗料Aを作製した。
【0155】
[塗料B]
水分散ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロナールバイロンMD1480:平均分子量15,000)に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−11:解離温度150℃)を水分散樹脂の水酸基と1.2倍当量となるように添加し、必要に応じて水を添加して、塗料Bを作製した。
【0156】
[塗料C]
水分散ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロナールバイロンMD1480:平均分子量15,000)に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−11:解離温度150℃)を水分散樹脂の水酸基と1.5倍当量となるように添加し、必要に応じて水を添加して、塗料Cを作製した。
【0157】
[塗料D]
水分散ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロナールバイロンMD1480:平均分子量15,000)に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−11:解離温度150℃)を水分散樹脂の水酸基と2倍当量となるように添加し、必要に応じて水を添加して、塗料Dを作製した。
【0158】
[塗料E]
水分散ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロナールバイロンMD1480:平均分子量15,000)に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−11:解離温度150℃)を水分散樹脂の水酸基と当量となるように添加し、更に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−27:解離温度180℃)を水分散樹脂の水酸基と0.5倍当量となるように添加し、必要に応じて水を添加して、塗料Eを作製した。
【0159】
[塗料F]
水分散ウレタン樹脂(第一工業製薬社製スーパーフレックス620:ディスパーション平均粒径20nm)に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−11:解離温度150℃)を水分散樹脂の水酸基と当量となるように添加し、更に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−27:解離温度180℃)を水分散樹脂の水酸基と0.5倍当量となるように添加し、必要に応じて水を添加して、塗料Fを作製した。
【0160】
[塗料G]
水分散ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロナールバイロンMD1480:平均分子量15,000)に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−11:解離温度150℃)を水分散樹脂の水酸基と当量となるように添加し、更に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−27:解離温度180℃)を水分散樹脂の水酸基と0.5倍当量となるように添加して、バインダ樹脂を作製した。このバインダ樹脂に対し、トリポリリン酸二水素アルミニウム(テイカ社製K−WHITE 450H、平均粒径1μm〜3μm)を固形分あたりの質量比85:15で添加し、必要に応じて水を添加して、塗料Gを作製した。
【0161】
[塗料H]
水分散ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロナールバイロンMD1480:平均分子量15,000)に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−11:解離温度150℃)を水分散樹脂の水酸基と当量となるように添加し、更に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−27:解離温度180℃)を水分散樹脂の水酸基と0.5倍当量となるように添加して、バインダ樹脂を作製した。このバインダ樹脂に対し、ホウ化バナジウム(日本新金属社製、平均粒径1〜3μm)、ドープ型酸化亜鉛(ハクスイテック社製23−kt、平均粒径0.5μm)のそれぞれを固形分あたりの質量比80:2.5:17.5で添加し、必要に応じて水を添加して、塗料Hを作製した。
【0162】
[塗料I]
水分散ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロナールバイロンMD1480:平均分子量15,000)に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−11:解離温度150℃)を水分散樹脂の水酸基と当量となるように添加し、更に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−27:解離温度180℃)を水分散樹脂の水酸基と0.5倍当量となるように添加して、バインダ樹脂を作製した。このバインダ樹脂に対し、エポキシ系のシランカップリング剤(日美商事社製サイラエースS510)を固形分あたりの質量比90:10で添加し、必要に応じて水を添加して、塗料Iを作製した。
【0163】
[塗料J]
水分散ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロナールバイロンMD1480:平均分子量15,000)に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−11:解離温度150℃)を水分散樹脂の水酸基と当量となるように添加し、更に、水系イソシアネート(第一工業製薬社製エラストロンBN−27:解離温度180℃)を水分散樹脂の水酸基と0.5倍当量となるように添加して、バインダ樹脂を作製した。このバインダ樹脂に対し、トリポリリン酸二水素アルミニウム(テイカ社製K−WHITE 450H、平均粒径1μm〜3μm)、ホウ化バナジウム(日本新金属社製、平均粒径1〜3μm)、ドープ型酸化亜鉛(ハクスイテック社製23−kt、平均粒径0.5μm)、エポキシ系のシランカップリング剤(日美商事社製サイラエースS510)のそれぞれを固形分あたりの質量比40:20:2:15:8で添加し、必要に応じて水を添加して、塗料Jを作製した。
【0164】
[塗料K]
エポキシ樹脂(DIC社製EPICLON 850−S)に対し、ポリアミン(DIC社製ラッカマイドTD−993)を固形分あたりの質量比70:30で添加し、塗料Kを作製した。最後に、塗料Kに対し、膜厚調整用のスペーサー(ガラスビーズ)を99.5:0.5の質量比で添加した。
【0165】
[塗料L]
一液エポキシ系加熱硬化型接着剤(ダウケミカル社製Betamate1496S)を、塗料Hとした。最後に、塗料Lに対し、膜厚調整用のスペーサー(ガラスビーズ)を99.5:0.5の質量比で添加した。
【0166】
[塗料M]
エポキシ樹脂(DIC社製EPICLON 850−S)に対し、ポリアミン(DIC社製ラッカマイドTD−993)を固形分あたりの質量比80:20で添加し、塗料Mを作製した。最後に、塗料Mに対し、膜厚調整用のスペーサー(ガラスビーズ)を99.5:0.5の質量比で添加した。
【0167】
[塗料N]
エポキシ樹脂(DIC社製EPICLON 850−S)に対し、ポリアミン(DIC社製ラッカマイドTD−993)を固形分あたりの質量比80:20で添加し、バインダ樹脂を作製した。このバインダ樹脂に対し、疎水性シリカ(AEROSIL社製AEROSIL RY50)を固形分あたりの質量比95:5で添加し、塗料Nを作製した。最後に膜厚調整用のスペーサー(ガラスビーズ)を塗料Nに対し、99.5:0.5の質量比で添加した。
【0168】
[塗料O]
エポキシ樹脂(DIC社製EPICLON 850−S)に対し、ポリアミン(DIC社製ラッカマイドTD−993)を固形分あたり80:20で添加し塗料Oのバインダ樹脂を作製した。このバインダ樹脂Oに、トリポリリン酸二水素アルミニウム(テイカ社製K−WHITE G105、平均粒径1〜3μm)、炭酸カルシウム(一般試薬、平均粒径2μm)、疎水性シリカ(AEROSIL社製AEROSIL RY50)、エポキシ系のシランカップリング剤(日美商事社製サイラエースS510)のそれぞれを固形分あたりの質量比84:5:5:5:1で添加し、塗料Oを作製した。最後に膜厚調整用のスペーサー(ガラスビーズ)を塗料Oに対し、99.5:0.5の質量比で添加した。
【0169】
作製した上記塗料のうち、塗料A〜塗料Jについては、前述の前処理を行った金属板上に塗布し、最高到達点が160℃となるようにオーブンで焼き付けを行い、皮膜層13を作製した。作製した皮膜層13を、以下の表1に示す。なお、所定の膜厚となるようにバーコーターの番手、希釈条件を変更して、塗布工程を行った。
【0170】
作製した上記塗料のうち、塗料K〜塗料Oについては、皮膜層13が形成された金属板11上に塗布し、その後、後述のCFRP層を接着後、設定温度180℃のオーブンに30分入れて加熱硬化させた。これにより、皮膜層13とCFRP層との間に、第2皮膜層14を形成した。
【0171】
なお、皮膜層13を形成した後、ただちに、後述のCFRP層を接着する工程、又は、第2皮膜層14を形成する工程を実施した。
【0172】
(CFRPプリプレグの作製)
[CFRPプリプレグ1]
日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製ビスフェノールA型フェノキシ樹脂「フェノトートYP−50S」(Mw=40,000、水酸基当量=284g/eq、250℃における溶融粘度=90Pa・s、Tg=83℃)を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.65mm、弾性率75[GPa]、引張荷重13500[N]、Vf(繊維体積含有率)60%のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグ1を作成した。
【0173】
なお、粉砕、分級したフェノキシ樹脂の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX、日機装社製)により、体積基準で累積体積が50%となるときの粒子径を測定した。
【0174】
[CFRPプリプレグ2]
一般試薬のナイロン6を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.65mm、弾性率75[GPa]、引張荷重13500[N]、Vf(繊維体積含有率)50%のナイロン6樹脂CFRPプリプレグ2を作成した。
【0175】
なお、粉砕、分級したナイロン6樹脂の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX、日機装社製)により、体積基準で累積体積が50%となるときの粒子径を測定した。
【0176】
(CFRP層の形成)
上述のCFRPプリプレグを所定の厚み及び所定の構成となるように組み合わせて、積層体とした。得られた積層体を、250℃に加熱した平金型を有するプレス機で、3MPaで3分間プレスすることで、CFRP層とした。
【0177】
なお、作製条件によっては、皮膜層13を積層した金属板11上に対し、作成した巾20mm×長さ80mmサイズのプリプレグを重ねて積層体とし、得られた積層体を、250℃に加熱した平金型を有するプレス機で、3MPaで3分間プレスすることで、CFRP層とした。
【0178】
以下に、上述の方法で作製したCFRPの構成を、まとめて示した。
[CFRP1]
CFRPプリプレグ1を4層重ね、熱圧着を行い、CFRP1を作製した。
【0179】
[CFRP2]
CFRPプリプレグ2を4層重ね、熱圧着を行い、CFRP2を作製した。
【0180】
[CFRP3]
更に、熱硬化型CFRPとして、日鉄住金マテリアルズ社製のエポキシパン系CFRP3(VF60%、厚み1mm)を用いた。
【0181】
(複合体サンプル)
以下の表1に記載の組み合わせで積層体を構成し、金属−炭素繊維強化樹脂材料複合体のサンプルを作製した。
【0182】
(皮膜層/第2皮膜層の厚み測定)
得られた複合体サンプルを切断し、樹脂に埋め込み、研磨後、蒸着を行うことで、断面埋め込みサンプルを作製した。作製した断面埋め込みサンプルを、走査型顕微鏡(日立ハイテクフィールディングス社製S−3400N)で観察し、先だって説明した測定方法に即して、皮膜層/第2皮膜層の厚み測定を実施した。
【0183】
(界面結合調査)
得られた複合体サンプルを切断し、樹脂に埋め込んだ後に研磨を行って、断面埋め込みサンプルを作製した。作製した断面埋め込みサンプルについて、まず、光学顕微鏡が設けられたフーリエ変換式赤外分光装置(顕微IR、アジレント・テクノロジー社製610FTIR顕微鏡)を用い、先だって説明した方法に即して測定箇所を特定した。すなわち、皮膜層13に相当する皮膜とCFRP層12との界面近傍の領域R
IF、及び、CFRP層12の中心部近傍の領域R
C、又は、皮膜層13に相当する皮膜と第2皮膜層14に相当する皮膜との界面近傍の領域R
IF、及び、第2皮膜層14の中心部近傍の領域R
Cを、それぞれ特定した。その後、同一の顕微IRを用い、顕微ATR法によりそれぞれの領域の赤外吸収スペクトル測定を実施して、P1:3660cm
−1〜3570cm
−1、P2:1200cm
−1〜1050cm
−1、P3:1750cm
−1〜1715cm
−1のそれぞれの波数帯域について、ピーク高さを測定した。なお、CFRP層12の測定に際しては、炭素繊維材料の少ないマトリックス樹脂の部分を中心に測定を実施した。なお、顕微IRにおける測定視野は、30μm×40μmの大きさとした。各5点ピーク強度を測定し、平均ピーク強度を算出して、ピーク強度I1〜I3とした。その後、得られたそれぞれのピーク強度I1〜I3を用いて、4種類のピーク強度比(I2
IF/I1
IF)、(I3
IF/I1
IF)、(I2
C/I1
C)、(I3
C/I1
C)を算出した。
【0184】
なお、顕微ATR法による赤外吸収スペクトルの測定では、測定分解能を10μmに設定し、界面近傍の領域R
IF、及び、中心部近傍の領域R
Cの測定を行った。
【0185】
得られたピーク強度比について、(I2
IF/I1
IF)及び(I3
IF/I1
IF)が、それぞれ(I2
C/I1
C)及び(I3
C/I1
C)の3倍以上であったものを「A」と評価し、何れか一方又は両方が2倍以上3倍未満であったものを「B」と評価し、何れか一方又は両方が1.5倍以上2倍未満であったものを「C」と評価し、両方が1.5倍未満であったものを「D」と評価し、評点「A」、「B」、「C」を合格とした。
【0186】
(引張せん断試験1)
図4に示した複合体引張試験片を作製した。得られた複合体引張試験片と、引張試験機とを用いて、引張せん断試験を実施した。得られたせん断応力1が25MPa以上のものを「A」と評価し、20MPa以上25MPa未満のものを「B」と評価し、15MPa以上20MPa未満のものを「C」と評価し、20MPa未満のものを「D」と評価して、評点「A」、「B」を合格とした。
【0187】
(引張せん断試験2)
図4に示した複合体引張試験片を、80℃相対湿度95%の環境下で20日間静置後、40℃環境下で1日静置して、耐水劣化試験を行った。耐水劣化した複合体引張試験片と引張試験機とを用い、引張せん断試験を実施し、せん断応力2を得た。(せん断応力2)/(せん断応力1)が70%以上であり、かつ、剥離面において皮膜層を含む界面破壊の面積率が0%のものを「A」と評価し、(せん断応力2)/(せん断応力1)が70%以上であり、かつ、剥離面において皮膜層を含む界面破壊の面積率が0%超10%以下のものを「B」と評価し、(せん断応力2)/(せん断応力1)が70%以上であり、かつ、剥離面において皮膜層を含む界面破壊の面積率が10%超15%以下のものを「C」と評価し、(せん断応力2)/(せん断応力1)が70%以上であり、かつ、剥離面において皮膜層を含む界面破壊の面積率が15%超20%以下のものを「D」と評価し、(せん断応力2)/(せん断応力1)が70%未満、又は、(せん断応力2)/(せん断応力1)が70%以上であり、かつ、剥離面において皮膜層を含む界面破壊の面積率が20%超のものを「E」として、評点「A」、「B」、「C」を合格とした。
【0188】
得られた評価結果を、以下の表1にまとめて示した。
【0189】
【表1】
【0190】
上記表1から明らかなように、本発明の実施例に該当する複合体サンプルは、優れた密着性及び密着耐久性を示す一方で、本発明の比較例に該当する複合体サンプルは、密着性又は密着耐久性の少なくとも何れか一方が劣っていることがわかる。
【0191】
≪試験例2≫
上記試験例1と同様にして、冷延鋼板「CR」を準備し、試験例1と同様の前処理を実施したものと、前処理を実施していないものと、を作製した。これらの冷延鋼板「CR」に対し、上記試験例1と同様にして準備した「塗料C」を乾燥後の膜厚が3μmとなるように塗布し、種々の温度で焼き付けを行った。また、上記試験例1と同様にして、「塗料A」及び「塗料B」を準備した上で、得られた「塗料A」と「塗料B」とを1:1混合して、ブロックイソシアネートの当量が水分散樹脂の水酸基に対して1.1となる塗料を別途準備した。得られた混合塗料を、乾燥後の膜厚が3μmとなるように冷延鋼板「CR」に塗布し、焼き付けを行ったものも準備した。焼付後、相対湿度38%に制御された環境下で8時間保持したもの、相対湿度40%に制御された環境下で12時間保持したもの、及び、相対湿度45%に制御された環境下で12時間保持したもの、を準備し、CFRPの熱圧着処理を実施した。以下の表2に示したNo.61のサンプルについては、皮膜層13中の未反応のイソシアネートを完全に消失させるために、相対湿度60%に制御された環境下で24時間放置した後、CFRPの熱圧着処理を実施した。用いたCFRPは、試験例1の「CFRP1」と同様のものとし、熱圧着の条件は、熱圧着温度γ[℃]を種々変更し、圧力は3MPaとし、保持時間は3分とした。なお、以下の表2に示したNo.68のサンプルについては、皮膜層13を形成した後、上記試験例1と同様にして準備した「塗料L」を用いて、第2皮膜層14を乾燥後の膜厚が200μmとなるように形成した。その後、上記試験例1と同様にして準備した「CFRP3」の熱圧着処理を実施した。
【0192】
表2に、本試験例における諸条件をまとめて示した。なお、以下の表2における「次工程までの環境制御」の欄において、条件「A」は、相対湿度38%、8時間保持の条件に対応しており、条件「B」は、相対湿度40%、12時間保持の条件に対応しており、条件「C」は、相対湿度45%、12時間保持の条件に対応しており、条件「D」は、相対湿度60%、24時間保持の条件に対応している。表2に示した複合体サンプルについて、試験例1と同様にして界面結合調査、引張せん断試験1、及び、引張せん断試験2を実施して、各複合体サンプルの評価を行った。得られた結果を、以下の表2にあわせて示した。
【0193】
【表2】
【0194】
上記表2から明らかなように、本発明の実施例に該当する製造方法で製造された複合体サンプルは、良好な界面結合状態が得られ、優れた密着性及び密着耐久性を示す一方で、本発明の比較例に該当する製造方法で製造された複合体サンプルは、良好な界面結合状態が得られず、また、密着性、密着耐久性が劣っていることがわかる。
【0195】
≪試験例3≫
上記試験例1と同様にして、冷延鋼板「CR」を準備し、試験例1と同様の前処理を実施したものと、前処理を実施していないものと、を作製した。これらの冷延鋼板「CR」に対し、上記試験例1と同様にして準備した「塗料E」を乾燥後の膜厚が3μmとなるように塗布し、種々の温度で焼き付けを行った。また、上記試験例1と同様にして、「塗料C」を準備した上で、得られた「塗料C」と「塗料E」とを1:1混合して、第1ブロックイソシアネートの当量が水分散樹脂の水酸基に対して1.25となり、第2ブロックイソシアネートの当量が水分散樹脂の水酸基に対して0.25となる塗料を別途準備した。得られた混合塗料を、乾燥後の膜厚が3μmとなるように冷延鋼板「CR」に塗布し、焼き付けを行ったものも準備した。焼付後、室内(平均の相対湿度60%)に24時間放置した後、CFRPの熱圧着処理を実施した。用いたCFRPは、試験例1の「CFRP1」と同様のものとし、熱圧着の条件は、熱圧着温度γ[℃]を種々変更し、圧力は3MPaとし、保持時間は3分とした。なお、以下の表3に示したNo.76のサンプルについては、皮膜層13を形成した後、上記試験例1と同様にして準備した「塗料L」を用いて、第2皮膜層14を乾燥後の膜厚が200μmとなるように形成した。その後、上記試験例1と同様にして準備した「CFRP3」の熱圧着処理を実施した。
【0196】
表3に、本試験例における諸条件をまとめて示した。表3に示した複合体サンプルについて、試験例1と同様にして界面結合調査、引張せん断試験1、及び、引張せん断試験2を実施して、各複合体サンプルの評価を行った。得られた結果を、以下の表3にあわせて示した。
【0197】
【表3】
【0198】
上記表3から明らかなように、本発明の実施例に該当する製造方法で製造された複合体サンプルは、良好な界面結合状態が得られ、優れた密着性及び密着耐久性を示す一方で、本発明の比較例に該当する製造方法で製造された複合体サンプルは、良好な界面結合状態が得られず、また、密着性、密着耐久性が劣っていることがわかる。
【0199】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。