(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966035
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】デュアル遊星/一体化差動動力伝達装置と共に使用するトルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
F16D 43/26 20060101AFI20211028BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20211028BHJP
H02K 7/108 20060101ALI20211028BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
F16D43/26 B
H02K7/116
H02K7/108
F16D13/52 Z
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-184667(P2019-184667)
(22)【出願日】2019年10月7日
(65)【公開番号】特開2020-67182(P2020-67182A)
(43)【公開日】2020年4月30日
【審査請求日】2019年11月25日
(31)【優先権主張番号】62/766,523
(32)【優先日】2018年10月23日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】16/181,612
(32)【優先日】2018年11月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】16/182,755
(32)【優先日】2018年11月7日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】16/195,320
(32)【優先日】2018年11月19日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515301041
【氏名又は名称】アティエヴァ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】バラズス パルファイ
(72)【発明者】
【氏名】パブロ ラマスワミー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル テッベ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ジェイ. ビスカップ
【審査官】
前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−130146(JP,A)
【文献】
特開2009−133365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D7/02
F16D43/21
H02K7/00
F16H1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク制限クラッチアセンブリであって、トルク制限クラッチアセンブリは、クラッチプレートアセンブリであって、
複数の第1のクラッチプレートと、
複数の第2のクラッチプレートであって、前記複数の第1のクラッチプレートと前記複数の第2のクラッチプレートとが前記複数の第1のクラッチプレートと前記複数の第2のクラッチプレートとの交互パターンを形成するように交差している、複数の第2のクラッチプレートとを有する、クラッチプレートアセンブリと、
遊星ギアアセンブリであって、前記クラッチプレートアセンブリは、前記遊星ギアアセンブリを取り囲み、前記遊星ギアアセンブリのリングギアと、前記複数の第1のクラッチプレートの各第1のクラッチプレートとの間の結合部は、各第1のクラッチプレートを前記リングギアに噛み合わせる、遊星ギアアセンブリと、
電気モータハウジング部材であって、前記電気モータハウジング部材の内部に前記クラッチプレートアセンブリが取り付けられ、前記電気モータハウジング部材と前記複数の第2のクラッチプレートの各第2のクラッチプレートとの間の結合部は、各第2のクラッチプレートの外縁を前記電気モータハウジング部材の内面に噛み合わせる、電気モータハウジング部材と、
前記クラッチプレートアセンブリに予負荷力を加えるように構成されるバネ部材であって、前記バネ部材は、円錐バネを有し、前記円錐バネは、前記トルク制限クラッチアセンブリと前記遊星ギアアセンブリとが前記電気モータハウジング部材に取り付けられる場合に圧縮され、前記予負荷力は第1の動作条件の下で前記電気モータハウジング部材に対して前記リングギアが回転するのを防ぎ、かつ、前記予負荷力は、第2の動作条件の下で前記電気モータハウジング部材に対して前記リングギアが回転するのを防ぐには不十分である、バネ部材と、
前記クラッチプレートアセンブリに追加の予負荷力を加えるように構成される2次的な要素であって、
前記クラッチプレートアセンブリのエンドクラッチプレートの近傍のリング部材であって、前記エンドクラッチプレートは、前記複数の第1のクラッチプレートの第1のエンドクラッチプレートである、リング部材と、
前記リング部材の面内に形成される複数のスロットであって、前記リング部材の前記面は、前記クラッチプレートアセンブリの前記エンドクラッチプレートの近傍にあり、前記複数のスロットの各スロットは均一な深さを有する第1のスロット領域及びスロット壁が傾斜して不均一な深さを有する第2のスロット領域を含む、複数のスロットと、
複数のボールであって、前記複数のボールの各ボールは、前記複数のスロットの対応するスロット内に保持され、前記複数のボールの各ボールに対応する直径は、前記複数のスロットの各スロットに対応する最大深さを超え、前記エンドクラッチプレートが前記リング部材に対して回転している間は、前記複数のボールの各ボールは、前記第1のスロット領域から前記第2のスロット領域に向かって移動し、前記第2のスロット領域は、前記第1のスロット領域より浅く、かつ、前記第1のスロット領域から前記第2のスロット領域に向かう、前記複数のボールの各ボールの動きにより前記クラッチプレートアセンブリが圧縮される、複数のボールと、を有する前記2次的な要素と、
を備える、トルク制限クラッチアセンブリ。
【請求項2】
前記トルク制限クラッチアセンブリは、車両動力伝達装置に一体化され、前記第1の動作条件は、通常の車両動作条件として規定され、前記第2の動作条件は、車両動力伝達装置が重度の負荷状態にあるように規定され、前記車両動力伝達装置が重度の負荷状態にある間は、前記トルク制限クラッチアセンブリに前記予負荷力を超えるトルクレベルが加えられて、前記複数の第1のクラッチプレートと前記複数の第2のクラッチプレートとの間のスリップを許容する、
請求項1に記載のトルク制限クラッチアセンブリ。
【請求項3】
前記遊星ギアアセンブリの前記リングギアと前記複数の第1のクラッチプレートの各第1のクラッチプレートとの間の前記結合部は、さらに、前記リングギアの外面に形成された第1の複数の要素と前記複数の第1のクラッチプレートの各第1のクラッチプレートに対応する第2の複数の要素とを含み、前記第1の複数の要素は前記第2の複数の要素と相補的である、
請求項1に記載のトルク制限クラッチアセンブリ。
【請求項4】
前記第1の複数の要素は、前記リングギアの前記外面に形成された第1の複数の歯を含み、前記第2の複数の要素は、前記複数の第1のクラッチプレートの各第1のクラッチプレートの円筒状内面に形成された第2の複数の歯を含み、前記第1の複数の歯と前記第2の複数の歯とは、前記クラッチプレートアセンブリが前記遊星ギアアセンブリを取り囲む場合に噛み合うように構成される、
請求項3に記載のトルク制限クラッチアセンブリ。
【請求項5】
前記電気モータハウジング部材と前記複数の第2のクラッチプレートの各第2のクラッチプレートとの間の前記結合部は、さらに、前記電気モータハウジング部材の内面に形成された第1の複数の要素と、前記複数の第2のクラッチプレートの各第2のクラッチプレートに対応する第2の複数の要素とを含み、前記第1の複数の要素は前記第2の複数の要素と相補的である、
請求項1に記載のトルク制限クラッチアセンブリ。
【請求項6】
前記第1の複数の要素は、前記電気モータハウジング部材の前記内面に形成された第1の複数の歯を含み、前記第2の複数の要素は、前記複数の第2のクラッチプレートの各第2のクラッチプレートの円筒状外面に形成された第2の複数の歯を含み、前記第1の複数の歯と前記第2の複数の歯とは、前記クラッチプレートアセンブリが前記電気モータハウジング部材の内部に取り付けられる場合に、噛み合うように構成される、
請求項5に記載のトルク制限クラッチアセンブリ。
【請求項7】
前記複数の第1のクラッチプレートの各第1のクラッチプレートおよび前記複数の第2のクラッチプレートの各第2のクラッチプレートは、高摩擦材料から製造される、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のトルク制限クラッチアセンブリ。
【請求項8】
前記複数の第1のクラッチプレートの各第1のクラッチプレートおよび前記複数の第2のクラッチプレートの各第2のクラッチプレートは、高摩擦材料で被覆される、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のトルク制限クラッチアセンブリ。
【請求項9】
前記リング部材は、前記電気モータハウジング部材と一体化される、
請求項1から8のいずれか一項に記載のトルク制限クラッチアセンブリ。
【請求項10】
前記複数のボールは、複数のボールベアリングをそれぞれ構成する、
請求項1から9のいずれか一項に記載のトルク制限クラッチアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して電気モータ、より具体的には、電気車両動力伝達装置において過負荷保護を提供するトルク制限デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
絶えず高騰する燃料価格と地球温暖化の悲惨な結果の双方によって駆り立てられる消費者の要求に応えて、自動車産業は、超低排出で効率の高い自動車の必要性を徐々に受け入れ始めている。産業内では、より効率の高い内燃機関を設計してこれらの目的を実現しようとする試みるものもある一方、ハイブリッドまたは全電気式動力伝達装置をその車両のラインアップに組み込むものもある。しかしながら、消費者の期待を満たすように、自動車産業はより環境にやさしい動力伝達装置を実現するのみならず、その一方で、性能、範囲、信頼性、安全性およびコストを妥当なレベルに維持しなければならない。
【0003】
低排出で効率の高い自動車を実現する最も一般的なアプローチは、内燃機関(ICE)に1または複数の電気モータを組み合わせているハイブリッド動力伝達装置の使用を通してである。ハイブリッド車両は、従来のICEベースの車両よりも燃料効率の向上と、車両排出量の減少を提供する一方、ハイブリッド車両は内燃機関を含んでいるために、従来の車両と比べると低いレベルではあるものの依然として有害な汚染を排出する。さらに、ハイブリッド車両の動力伝達装置は、内燃機関とそのバッテリーパックを伴う電気モータとの双方を含むために、従来のICEベースの車両または全電気自動車のいずれか一方よりも、通常はより複雑であり、結果としてコストおよび重量が増加する。したがって、いくつかの車両製造業者は、電気モータのみを利用する車両を設計し、それにより、汚染源の1つを除去する一方、動力伝達装置の複雑性を著しく低減させている。
【0004】
電気自動車(EV)において、所望のレベルのホイールトルクを実現すべく、パワートレインは、通常適切なギア削減アセンブリを使用してホイールに連結されている。このアプローチにより、通常の駆動条件下では、非常に高効率の動力伝達装置が提供される。残念なことに、損失および続くトラクションの回復をもたらす一定の異常駆動条件下では、このアプローチは、動力伝達装置に過度の負荷をかけることにつながる可能性がある。この負荷は、ホイールがトラクションを回復するときに生じるモータ速度の急激な減少に起因する。トラクションが回復したときに、トラクションが失われた間の時間の長さに応じて、減速に関連する慣性力トルクが、様々な動力伝達装置の構成要素を損傷する可能性がある過度に大きなトルク負荷を生成することがある。これらのトルク負荷に耐えるように動力伝達装置を設計できるが、このアプローチは、必要以上に大幅に頑丈な設計となる、高コストで重い動力伝達装置につながる。したがって、必要なのは、動力伝達装置の負荷を有用な範囲に限定できるシステムである。本発明は、そのようなシステムを提供する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、クラッチプレートアセンブリと、遊星ギアアセンブリと、電気モータハウジング部材と、バネ部材とを備えるトルク制限クラッチアセンブリを提供する。クラッチプレートアセンブリは、複数の第1のクラッチプレートおよび複数の第2のクラッチプレートで構成され、第1および第2のクラッチプレートは、第1および第2のクラッチプレートの交互パターンを形成するように交差される。クラッチプレートアセンブリは、遊星ギアアセンブリを取り囲むように構成され、遊星ギアアセンブリのリングギアと複数の第1のクラッチプレートとの間の結合部により、各第1のクラッチプレートがリングギアと連結される結果となる。クラッチプレートアセンブリは、さらに電気モータハウジング部材の内部に取り付けるよう構成され、電気モータハウジング部材と複数の第2のクラッチプレートとの間の結合部により、各第2のクラッチプレートが電気モータハウジング部材と連結される結果となる。バネ部材は、クラッチプレートアセンブリに予負荷力を加えるように構成されている。予負荷力は、第1の動作条件の下で電気モータハウジングに対してリングギアが回転するのを防ぐ一方、予負荷力は、第2の動作条件の下で電気モータハウジングに対してリングギアが回転するのを防ぐには不十分である。トルク制限クラッチアセンブリは、車両の動力伝達装置に一体化されてよく、その場合、第1の動作条件は、通常の車両動作条件と規定され、第2の動作条件は、車両動力伝達装置が重度の負荷状態にあると規定される。車両動力伝達装置が重度の負荷状態にある間は、トルク制限クラッチアセンブリに加えられるトルクレベルは予負荷力を超え、複数の第1のクラッチプレートと複数の前記第2のクラッチプレートとの間でスリップすることを許容する。第1および第2のクラッチプレートは、高い摩擦係数を呈し、過度の発熱を処理するのに適する材料から製造され得る。同様に、第1および第2のクラッチプレートは、高い摩擦係数を呈し、過度の発熱を処理するのに適する材料で被覆され得る。
【0006】
1つの態様において、リングギアと第1のクラッチプレートの各々との間の結合部は、リングギアの外面に形成された第1の複数の要素、および、第1のクラッチプレートの各々に形成された、第1の複数の要素と相補的である第2の複数の要素を含んでよい。第1の複数の要素は、好ましくは、リングギアの外面に形成された第1の複数の歯であり、第2の複数の要素は、好ましくは、第1のクラッチプレートの各々の円筒状内面に形成された第2の複数の歯であり、第1の複数の歯と第2の複数の歯が、クラッチプレートアセンブリが遊星ギアアセンブリを取り囲んだ場合に噛み合うように構成されている。
【0007】
他の態様において、電気モータハウジング部材と第2のクラッチプレートの各々との間の結合部は、電気モータハウジング部材の内面に形成された第1の複数の要素、および、第2のクラッチプレートの各々に形成され、第1の複数の要素と相補的である第2の複数の要素を含んでよい。第1の複数の要素は、好ましくは、電気モータハウジング部材の内面に形成された第1の複数の歯であり、第2の複数の要素は、好ましくは、第2のクラッチプレートの各々の円筒状外面に形成された第2の複数の歯であり、第1の複数の歯と第2の複数の歯が、クラッチプレートアセンブリが電気モータハウジング部材の内部に取り付けられる場合に噛み合うように構成されている。
【0008】
他の態様において、バネ部材は、円錐バネであり得、トルク制限クラッチアセンブリおよび遊星ギアアセンブリが電気モータハウジングに取り付けられる場合に圧縮される。
【0009】
他の態様において、トルク制限クラッチアセンブリはさらに、クラッチプレートアセンブリに追加の予負荷力を加えるように構成される2次的な要素を有し得る。2次的な要素は、(i)複数の第1のクラッチプレートのうちの1つであるエンドクラッチプレートの近傍のリング部材と、(ii)スロットの各々が不均一な深さであるリング部材の面内に形成される複数のスロットと、(iii)複数のスロット内に保持される、ボールの直径が各スロットの最大深さを超える複数のボール(例えば、ボールベアリング)とを含み、エンドクラッチプレートがリング部材に対して回転する間に、各ボールは、第1のスロット領域から、第1のスロット領域より浅い第2のスロット領域に向かって移動し、それによりクラッチプレートアセンブリを圧縮する。リング部材は電気モータハウジング部材と一体であってよい。
【0010】
本発明の本質および利点のさらなる理解は、明細書の以下の部分および図面を参照することで、実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
添付の図面は、本発明の範囲を例示することのみを意図し、限定的にするものではなく、かつ、縮尺通りであると見なされるべきではないことを理解されたい。さらに、異なる図面における同一の参照符号は、同一の構成要素、または、同様の機能を有する構成要素を指すと理解されるべきである。
【0012】
【
図1】先行技術による電気自動車のパワートレインの簡易化された側面図を提供する。
【0013】
【
図2】本発明のトルクリミッタを組み込んだパワートレインアセンブリの断面図を提供する。
【0014】
【
図3】
図2に示したリングギアの斜視図を提供する。
【0015】
【
図4】
図2および
図3に示したリングギアの平面図を提供する。
【0016】
【
図5】
図2に示したトルク制限クラッチアセンブリの斜視図を提供する。
【0017】
【
図6】
図2および
図5に示したトルク制限クラッチアセンブリの平面図を提供する。
【0018】
【
図7】本発明のトルク制限クラッチアセンブリを含むプレートのうちの1つの斜視図を提供する。
【0019】
【
図8】本発明のトルク制限クラッチアセンブリを含むプレートのうちの他方の斜視図を提供する。
【0020】
【
図9】モータハウジングの端、および、本発明のトルク制限クラッチアセンブリと対になるように設計されたモータハウジングに一体化されている要素の斜視図を提供する。
【0021】
【
図10】本発明のトルク制限クラッチアセンブリの斜視図を提供する。この図は、
図5に示したものと同様であるが、円錐バネ部材が追加されている。
【0022】
【0023】
【
図12】トルク制限クラッチアセンブリに予負荷を与えるのに用いる円錐バネ部材の斜視図を提供する。
【0024】
【
図13】本発明の好ましい実施形態のトルク制限クラッチアセンブリに組み込まれるリング部材の平面図を提供する。この部材は、クラッチアセンブリに予負荷を与えるのに用いる2次的な要素が組み込まれている。
【0025】
【
図14】
図13に示したクラッチアセンブリリング部材の一部分の断面図を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書で使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上、そうでないことが明確に示されている場合を除いて、複数形も含むことを意図している。本明細書で使用される「含む」、「有する」、および/または「備える」という用語は、述べられている特徴、整数、段階、動作、要素、および/または、構成要素の存在を、特定しているが、1または複数の他の特徴、整数、段階、動作、要素、構成要素、および/または、そのグループの存在または追加することを除外しない。本明細書で使用されるように、「および/または」という用語と符号「/」とは、1または複数の関連列挙事項のありとあらゆる組み合わせを含むことを意図している。さらに、本明細書で様々な段階または計算を説明するのに第1、第2等の用語が用いられ得る一方で、これらの段階または計算は、これらの用語に限定されるべきではなく、むしろ、これらの用語は1つの段階または計算を他のものから区別するためのみに用いられている。例えば、第1の計算は第2の計算と称されることがあり、同様に、第1の段階は第2の段階と称されることがあり、同様に、第1の構成要素は第2の構成要素と称されることがあり、全ては本開示の範囲から逸脱することはない。
【0027】
図1は、一般的に使用される電気自動車のパワートレイン100の側面図を提供する。明確になるように、この図はギア歯を示していない。示されるように、入力ギア101は、アイドラギアアセンブリ105を介して差動ギア103に連結される。この構成は、設計および製造が比較的容易である一方、かなりの体積を必要とする。
【0028】
図2に示す構成で示されるように、好ましい構成では、
図1に示す設計の欠点を克服するためにトラクションモータを駆動ホイール軸と同軸に整列させる。パワートレインアセンブリ200は、中空のロータシャフト203内に差動ギアアセンブリ201を組み込む。パワートレインアセンブリ200は、アクティブコア構成を利用して、遊星アセンブリ205、差動ギアアセンブリ201および遊星アセンブリ207が同軸に整列されるように配置され、それにより、比較的狭い幅209を有するパワートレインが作製される。ここで、幅209は、2つの等速(すなわち、CV)継ぎ手ハウジング部材の底部面211間で測定される幅である。
【0029】
本発明では必要ではないが、例示したアセンブリでは、中空のロータシャフト203は、ロータラミネーションスタックに直接接続され、それにより、電気自動車(EV)での使用に適切な高速モータ比率構成を実現する。説明した実施形態においては、ラミネーションスタックは、4つのラミネーションパック層213A〜213Dで構成される。このラミネーションスタック構成は本発明では必要ではないことを理解されたい。ロータラミネーションスタックは、ステータ215に囲まれている。この図から、ステータの両方の端から延伸するステータ巻き線217が見える。
【0030】
本発明は、以下に詳細を説明するように、遊星ギアアセンブリ207のモータハウジング221とリングギア223との間に取り付けられるトルク制限クラッチアセンブリ219を提供する。例示した構成では、クラッチアセンブリ219は、遊星ギアアセンブリのうちの1つのみに、具体的にはアセンブリ207に組み込まれている。好ましく、かつ例示した、2つの遊星アセンブリの間に差動装置を介在させた構成によると、必要なのは単一のトルク制限クラッチアセンブリを利用することのみであり、これによりコストが削減される。この構成により、ホイールのいずれにおいてもトラクションの損失がある場合は、モータの迅速な高速化につながり、単一のトルク制限クラッチアセンブリにより、重度の負荷状態下、すなわち、トラクションが回復した場合の動力伝達装置全体の損傷が防げるであろう。しかしながら、所望あるいは必要な場合には、本発明のトルク制限クラッチアセンブリは、双方の遊星駆動システムに組み込まれてもよいことを理解されたい。例えば、差動装置をモータのロータシャフトへ組み込まない動力伝達装置においてである。
【0031】
通常動作中は、クラッチアセンブリ219は、リングギア223がハウジング221に対して回転することを防ぐ。以下に説明するように、クラッチアセンブリは交互プレートで構成され、プレート毎にハウジングまたはリングギアのいずれかにロックされている。典型的なクラッチアセンブリと同様に、プレートは、高摩擦材料から製造されるか、または、高摩擦材料により被覆されているかのいずれかである。クラッチアセンブリは、好ましは、バネ部材を使用して予負荷を与えられ、それにより、交互プレートが互いに対して自由に回転することを防ぐ。例えば、モータによる、または、ホイールトラクションが失われた後に回復するときの急速に過度のトルクが加えられる重度の負荷の条件の間には、バネ部材により加えられる予負荷力は、一時的に克服され、それにより、クラッチアセンブリ219内のプレートはスリップすることが可能になる。次に、車両の動力伝達装置に加えられるトルクを制限することで、このスリップによって潜在的な車両の損傷を防ぐ。
【0032】
バネ部材によって加えられ、次に、スリップが可能になる前にトルク制限クラッチアセンブリが耐え得る過負荷の量を定義する予負荷力は、具体的な動力伝達装置(すなわち、利用可能なモータトルク、アクセル強度、ギア歯等)に対して選択される特定の設計要件に基づくことを理解されるであろう。1つの好ましい構成においては、発明者は、クラッチのスリップが、モータの最大利用可能トルクのおよそ1.2〜1.4倍で生じるようにクラッチアセンブリに加える予負荷力を設定する。
【0033】
図3は、リングギア223の斜視図を提供する。
図4は、同一のリングギアの平面図を提供する。リングギア223の内面は、遊星ギアと噛み合うように構成されるギア歯301を含む。リングギア223の外面は、複数の歯のような要素303を含む。
【0034】
図5および
図6は、本発明のトルク制限クラッチアセンブリ219の斜視図および平面図をそれぞれ提供する。クラッチアセンブリ219は、
図7および
図8にそれぞれ示される交互プレート700および800で構成される。プレート700は、リングギア223の外面に配置される要素303の相補的な複数の要素701を含む。クラッチアセンブリ219がリングギア223の周りに配置されたとき、相補的な要素303および701は噛み合い、それにより、リングギアに対してプレート700が回転するのを防ぐ。相補的な要素303および701は、好ましくは、例示した歯を含み、それにより、リングギア223とプレート700との間に強固な機械的結合部を提供する。
【0035】
クラッチアセンブリ219においてプレート700と交互になっているプレート800は、示されるように、好ましくは歯である外部の要素801を有し、それは、ハウジング221において相補的な要素901と整列し、かつ、対になるように構成される(
図9参照)。クラッチアセンブリ219がハウジング221内に配置される場合、歯801は、ハウジング内の相補的な溝901へとスライドする。その結果、プレート800は、適切な位置にロックされ、回転できない。
【0036】
図10は、クラッチアセンブリ219の斜視図を提供する。この図は、
図5に示すものと同様であるが、円錐バネ部材1001が追加されている。
図11は、この同一のアセンブリの側面図を提供する。
図12は、円錐バネ部材1001の単独の斜視図を提供する。
【0037】
既に説明した通り、トルク制限クラッチアセンブリ219は予負荷を与えられ、それにより、加えられるトルクが予負荷力を克服するほどに大きい時間以外では、モータハウジング221に対するリング223の回転を防ぐ。クラッチアセンブリに予負荷を与えるために、バネ部材1001をクラッチアセンブリ内、好ましくは、示されるようにクラッチアセンブリの一端に配置する。クラッチアセンブリ219がハウジング221内に取り付けられており、かつ、遊星アセンブリ207が適切な位置にロックされている(例えば、ボルト留めされている)場合に、バネ部材1001は圧縮されている。バネ部材1001を圧縮することにより、クラッチアセンブリのプレート800/900のスタックに圧力が加えられ、それにより、通常動作条件の下での遊星アセンブリのリング部材のハウジングに対する回転が防止され、動力伝達装置にモータトルクが加えられることが可能となる。
【0038】
好ましい実施形態において、クラッチアセンブリの2次的な要素は、クラッチにさらに予負荷を与えるように用いられる。以下詳細に説明するように、2次的な要素は、モータ/ホイールが回転している場合のみクラッチアセンブリに予負荷力を追加する。2次的な要素の結果、モータ/ホイールが回転している場合には、2次的な要素がクラッチアセンブリに予負荷力を追加するので、バネ部材1001によって加えられる予負荷力の量を低減できる。本実施形態において、クラッチアセンブリに対して加えられる予負荷力は、バネ部材と2次的な要素との組み合わせにより所望のレベルが実現される。
【0039】
図13および
図14に示されるように、2次的な要素によりクラッチアセンブリに別のリング部材1301が追加される。リング部材1301は、ハウジングに堅く連結され、好ましい場合には、クラッチアセンブリが支えられているハウジングの壁の面内に直接形成され得る。クラッチプレートスタックに隣接するリング部材1301の面は、複数のスロット1303を含む。スロット1303は、リング部材の周りに均一に離間される。示されるように、好ましくは、4つのスロット1303を使用するが、より少ないまたはより多い数のスロットを使用し得ることは理解されるであろう。
図14の断面図に示されるように、各スロット1303の部分1401は、均一の深さを有する一方、第2の部分1403は、スロット壁1407が傾斜していることにより不均一な深さを有する。各スロット1303内には、ボール1305、例えば、ステンレス鋼、クロム鋼、セラミックまたは他の材料から製造されたボールベアリングがある。ボール1305は、リング部材1301の面からわずかに外向きに離れて広がるような大きさである。したがって、各ボール1305は、クラッチアセンブリに直接隣接するプレートと常に接触している。
【0040】
クラッチアセンブリがスリップすると仮定した場合、示されるように、クラッチアセンブリは方向1307に回転し、スロット1303は各スロットの傾斜部分1403がスロットの終端になるように方向付けられる。その結果、クラッチアセンブリがスリップし始める場合、各スロット1303内のボール1305は、スロットの均一部分1401からスロットの傾斜部分1403へと移動するように強いられる。ボール1305が方向1409に移動すると、壁1407の傾斜に起因して、ボールは、壁1407によって方向1411の外側へと移動するように強いられる。次に、これにより、クラッチアセンブリに加えられる予負荷力は着実に増加する。説明されるように2次的負荷要素を機能させるためには、ボール1305およびリング部材1301に直接隣接しているクラッチアセンブリプレートは、クラッチアセンブリがスリップするときにハウジングに対して回転するクラッチプレートのうちの1つ、すなわち、プレート700、でなければならないことを理解されたい。
【0041】
本発明の詳細な内容を理解する助けとして、一般的な用語を用いてシステムおよび方法を説明してきた。いくつかの例において、本発明の態様を不明瞭にするのを避けるために、公知の構造、材料、および/または、動作が、詳細については、具体的に示されておらず、説明されていない。他の例において、本発明の十分な理解を提供するために、具体的な詳細が与えられている。当業者であれば、本発明が、例えば、特定のシステム、または装置、または状況、または材料、または構成要素に適応するために、本発明の精神または本質的な特徴から逸脱することなく、他の具体的な形態で具現化され得ることを認識するであろう。したがって、本明細書の開示および説明は、本発明の範囲を例示することを意図しており、限定的にするものではない。