特許第6966053号(P6966053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6966053医薬組成物及び自己免疫疾患の治療におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966053
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】医薬組成物及び自己免疫疾患の治療におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/64 20170101AFI20211028BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20211028BHJP
   A61K 31/4706 20060101ALN20211028BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20211028BHJP
【FI】
   A61K47/64ZNA
   A61K38/10
   A61P37/06
   A61P17/00
   A61P19/02
   A61P29/00 101
   A61P25/00
   A61P29/00
   A61P1/00
   !A61K31/4706
   !C07K7/08
【請求項の数】8
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2019-513734(P2019-513734)
(86)(22)【出願日】2017年5月18日
(65)【公表番号】特表2019-516803(P2019-516803A)
(43)【公表日】2019年6月20日
(86)【国際出願番号】SG2017050259
(87)【国際公開番号】WO2017200489
(87)【国際公開日】20171123
【審査請求日】2020年4月23日
(31)【優先権主張番号】62/338,319
(32)【優先日】2016年5月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518411280
【氏名又は名称】シンガポール ヘルス サービシズ ピーティーイー. リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SINGAPORE HEALTH SERVICES PTE. LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】アルバニ, サルヴァトーレ
【審査官】 古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/103409(WO,A2)
【文献】 特表2012−502985(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/104617(WO,A2)
【文献】 特表2009−538922(JP,A)
【文献】 特表2003−504074(JP,A)
【文献】 American College of Rheumatology,2006年,Annual Scientific Meeting,Presentation No.499, p.1
【文献】 ARTHRITIS and RHEUMATISM,2009年,Vol. 60, No. 11,p.3207-3216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00−47/69
A61K 31/00−33/44
A61K 38/00−38/58
A61P 1/00−43/00
C07K 7/00− 7/66
C07D 215/00−215/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

及び
【化10】

からなる群から選択される、いずれかの化合物。
【請求項2】
請求項に記載の化合物を含む、自己免疫疾患の治療のための医薬組成物。
【請求項3】
前記自己免疫疾患が、乾癬、乾癬性関節炎、ループス、若年性関節リウマチ、多発性硬化症、炎症性腸疾患及びクローン病を含む群から選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記自己免疫疾患が、関節リウマチ(RA)である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
(a)経口投与用又は(b)非経口投与用の医薬組成物であって、少なくとも1日に1回、又は少なくとも1日に2回投与されてもよい、請求項2〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
自己免疫疾患の治療のための医薬の製造における、請求項に記載の化合物の使用。
【請求項7】
前記自己免疫疾患が、ループス、乾癬、乾癬性関節炎、若年性関節リウマチ、多発性硬化症、炎症性腸疾患及びクローン病を含む群から選択される、請求項に記載の使用。
【請求項8】
前記自己免疫疾患が、関節リウマチ(RA)である、請求項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患、特に関節リウマチ、乾癬性関節炎、乾癬、ループス、若年性関節リウマチ、多発性硬化症、炎症性腸疾患、及び/又はクローン病の治療のための化合物並びに方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景の以下の考察は、本発明の理解を容易にすることを意図する。しかし、この考察は、記載されている物質のうちのいずれかが、公表された、既知の、又は一部の共通の一般的知識であるということを、本出願の優先日時点の任意の管轄において承認又は許可するものではないことを理解されるべきである。
【0003】
自己免疫は、体内で明白な病状を引き起こす、免疫系の細胞(リンパ球)又は産生物(抗体)の、体内の自己組織の構成物との反応である。自己免疫は、自己反応性T及びB細胞の増殖、自己抗体の産生、及び組織の損傷を含む共通した特徴を伴う、攻撃対象に応じた様々な臨床症状を引き起こし得る。ヒトにおける自己免疫の誘導機序は、多様で、複雑であり、未だ十分には解明されていない。実際、自己免疫の最も不可解で困難な課題は、反応の開始の一因となる根本原因を特定することである。年齢、性別、及び遺伝子を含む多くの内因性の因子が自己免疫に寄与するが、薬物、化学物質、微生物、及び/又は環境等の外因性の因子が自己免疫反応の開始を誘発し得ると考えられている。
【0004】
自己免疫疾患は、65歳未満の女性の主要な死因トップ10のうちの1つである。今日までに、80種もの自己免疫疾患が存在する。米国自己免疫性疾患協会(AARDA)によれば、自己免疫疾患は、年間で直接医療費の1,000億ドル以上を占める。このため、新規の治療化合物並びに自己免疫性疾患を治療及び緩和する方法の開発が、医療研究者及び医師の間で大きな関心を集め続けている。
【0005】
ヒトにおける免疫寛容の誘発機序は、多様で、複雑であり、未だ十分には解明されていない。結果として、様々な寛容原によるヒト自己免疫の新規治療が求められているが、十分には開拓されていない。
【0006】
自己免疫疾患の非限定的な例は、関節リウマチ(RA)である。RAは、関節及び周辺組織の炎症を引き起こす、慢性自己免疫疾患である。この疾患は、関節炎及び関節痛を特徴とし、通常、関節を対称的に冒す。滑膜関節は、主要に侵襲される部位であり、滑膜の炎症反応、滑膜細胞の過形成、及び滑液の過剰産生を引き起こす。RAの原因は不明であり、この疾患は、根治が不可能である。サイトカイン及びサイトカイン受容体等の特定の生物学的標的を対象とする、いくつかの治療があり、これらは、多くの患者の治療を改善させたが、未だ奏効が認められない患者例がある。したがって、代替治療又は治療の改善が必要とされ続けている。
【0007】
免疫寛容の概念をRAの治療へ臨床的に適切に橋渡しするにあたっての主な課題は、ヒトにおいて免疫寛容をもたらす機序の知識が完全でないことである。これらの機序は、複雑で、多様であり、動物モデルにおいて十分には再現できていない。したがって、ヒトにおける臨機応変な研究が必要とされている。
【0008】
上記課題のうちの少なくとも1つを寛解させる代替治療が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、自己免疫性疾患を治療するために、医薬組成物及びこの医薬組成物を使用する方法を提供することである。
【0010】
したがって、本発明の一態様は、次の一般式I:
アミノ酸配列−(L)−DMARD
[式中、アミノ酸配列はQKRAAYDQYGHAAFE−NH(配列番号1)を含み、Lはリンカー単位であり、DMARDは疾患修飾性抗リウマチ剤であり、−は共有結合であり、nは0又は1である]を有する化合物、及び/又は薬学的に許容されるその塩、並びに薬学的に許容されるその担体を含む医薬組成物の治療有効量を必要とする対象に投与するステップを含む、必要とする対象において自己免疫性疾患を治療する方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の態様は、式I:
アミノ酸配列−(L)−DMARD
[式中、アミノ酸配列はQKRAAYDQYGHAAFE−NH(配列番号1)を含み、Lはリンカー単位であり、DMARDは疾患修飾性抗リウマチ剤であり、−は共有結合であり、nは0又は1である]を有する化合物を提供する。
【0012】
本発明の別の態様は、医薬として使用するための式Iを有する化合物及びその化合物を含む医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明の別の態様は、自己免疫性疾患の治療における使用のための、式Iを有する化合物を提供する。
【0014】
本発明の別の態様は、式Iを有する化合物、及び/又は薬学的に許容されるその塩、並びに薬学的に許容されるその担体を含む医薬組成物であって、必要とする対象の自己免疫性疾患の治療における使用を意図する、医薬組成物を提供する。
【0015】
本発明の別の態様によれば、自己免疫性疾患の治療のための医薬の製造における、式Iを有する化合物、及び/又は薬学的に許容されるその塩、並びに薬学的に許容される担体の使用を提供する。
【0016】
本発明の他の態様は、添付の図と併せて本発明の特定の実施形態の以下の記述を検討すれば、当業者に明らかとなるであろう。
【0017】
これより、本発明を、例示のみの目的で、以下の添付の図を参照して説明する。以下の図のうちのいくつかに示す実験結果は、配列番号1と抗リウマチ剤との間に生じる相乗効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】化合物IIの調製のための合成スキームを示す図である。
図2A】化合物III〜Vの調製のための一般合成スキームを示す図である。
図2B】化合物VI〜VIIIの調製のための一般合成スキームを示す図である。1:1,4−ベンゼンジメタノール;CDI:カルボニルジイミダゾール(Cas番号530−62−1);2:1H−イミダゾール−1−カルボン酸、1,4−フェニレンビス(メチレン)エステル(Cas番号107845−94−3);3:4−((((2−((4−((7−クロロキノリン−4−イル)アミノ)ペンチル)(エチル)アミノ)エトキシ)カルボニル)オキシ)メチル)ベンジル1H−イミダゾール−1−カルボキシラート
図3】エフェクター及び調節性T細胞機能が、臨床応答によって異なることを示すグラフである。a.試験開始(T0)及び試験終了(Tend)時のエフェクターT細胞(Teff)(CD4+CD127+)を、配列番号1の臨床的奏効例とプラセボの臨床的非奏効例との両方におけるPD−1発現について、FACSによって比較した。b.FACSにより選別したTeffを、IL−17について、及びRORCについて分析した。TeffをIL−17Aで細胞内染色し、FACSによって分析した。c.調節性T細胞(Treg)(CD4+CD25++CD127−)の発生頻度(PBMCに対する割合(%))を、配列番号1で治療した臨床的奏効例において、FACSにより判定した。臨床的奏効例におけるT0及びTendでのPBMCにおけるTregの発生頻度は、変わらなかった(T0対Tend、7.773+/−1.432対7.610+/−1.519、n=4、t検定 p0.8537)。値は、平均値であり、s.e.mである。d.Teff増殖の%抑制(y軸)としてTendで測定した、配列番号1で治療した臨床的奏効例におけるTregの機能性は、プラセボの臨床的非奏効例よりも有意に上昇した(プラセボ臨床的非奏効例対配列番号1臨床的奏効例、−76.21+/−3.665対8.443+/−4.677、n=2対3、t検定 p0.0010)。値は、平均値であり、s.e.mである。
図4】臨床的奏効例における免疫調節に関与する遺伝子の発現を示すグラフである。調節性分子の遺伝子発現は、プラセボの臨床的非奏効例(薄灰色の棒グラフ)と比較して、臨床的奏効例(式Iの化合物で治療した)において有意に上昇した。
図5】PD−1が、Tregの機能に活発に寄与することを示す図である。a.Teffの増殖を抑制するTregの能力を、CFSE希釈法によって判定した。代表的な臨床的奏効例を示す。Treg細胞を、表に示す表現型に応じて、FACSにより選別し、10mg/mlの配列番号1の存在下でTeffと共にインキュベートした。b.臨床的奏効例のTreg細胞におけるPD−1の発現は、10mg/mlの配列番号1でインキュベートした後、T0と比較して、Tendで有意に増加した(それぞれ、全Tregの41%対13.3%はPD−1+、T(x)=14.6、p<0.01である)。c.代表的な臨床的非奏効例のTreg(CD4+CD25++CD127−)細胞におけるPD−1の発現は、10mg/mlの配列番号1でインキュベートした後、T0(15.5%)とTend(12.7%)(T(x)=0、p=0.5)との間で変わらなかった。曲線下の白い領域を有する折れ線グラフはT0を示し、灰色の領域を有する折れ線グラフはTendを示す。T(x)=ビニング確率である。%PD−1+TregをTreg母集団の割合として表す(両パネルの枠内)。d.PD1+Treg(CD4+CD25++CD127−PD1+)細胞におけるリン酸化STAT5(pSTAT5)の発現は、無処置の培養物と比較して、抗PD1抗体処置後、有意に減少した(抗PD1処置培養物中12%のpSTAT5染色、対無処置培養物中38.9%のpSTAT5染色、T(x)=46.5、p<0.01)。PD−1+Treg細胞を、抗PD1抗体の存在下、又は非存在下で、Teff及びAPCと共に5日間インキュベートした後、FACSにより染色した。詳細は方法にあるとおりである。曲線下の白い領域を有する折れ線グラフは、抗PD1処置培養物を示し、灰色の領域を有する折れ線グラフは、無処置培養物を示す。T(x)=ビニング確率である。e.pSTAT5をTregにおいて、免疫蛍光顕微鏡により検査した。細胞染色及び細胞スライドを、本発明の方法で概説された手順に従って準備した。抗PD−1処置培養物に対する、1細胞当たりのpSTAT5発現の平均は、単面積当たりの平均積算濃度によって判定する場合、ImageJ(Rasband、W.S.、ImageJ、http://rsb.info.nih.gov/ij/、1997〜2009)を使用して算出した。無処置培養物対抗PD−1処置培養物:38.79対33.07、標準偏差4.27対2.53、n=1、t検定 p<0.0001。f.リン酸化STAT3(pSTAT3)の発現は、無処置の培養物と比較して、抗PD1抗体処置後、Teffにおいて有意に上昇した(抗PD1処置培養物中12%のpSTAT5染色、対無処置培養物中38.9%のpSTAT5染色、T(x)=46.5、p<0.01)。Teffを、抗PD1抗体の存在下、又は非存在下で、5日間インキュベートした後、FACSにより染色した。詳細は方法にあるとおりである。曲線下の白い領域を有する折れ線グラフは、抗PD1処置培養物を示し、灰色の領域を有する折れ線グラフは、無処置培養物を示す。T(x)=ビニング確率である。g.Tendにおける臨床的奏効例(n=5)由来の全Treg、PD−1+Treg及びPD−1−Tregを選別し、CTLA−4、FoxP3、IL−10及びTGF−βのRNAの発現をTaqManにより測定した。データは、GAPDHの2(−dCT)×100として表す。配列番号1の臨床的奏効例において、TGF−βの遺伝子発現は、TendのPD−1−Tregよりも、TendのPD−1+Tregで有意に上昇した(18.99+/−3.412対2.693+/−1.434、n=5、p=0.0130)。逆に、CTLA−4、FoxP3及びIL−10の発現は、Tregの異なるサブセットの間で変わらなかった。
図6】PD−1+T細胞が、インビトロでヒドロキシクロロキン(HCQ)を用いてmDCを処置した場合に産生されることを示すグラフである。a〜e.健常な成人から採取した単球由来のLPS誘導樹状細胞(mDC)をインビトロで、HCQを用いて選択的に処置した。HLA−DR(MFI:100対20.8、T(x)11.2、p<0.01)、CD83(MFI:1329対991、T(x)41.4、p<0.01)、及びCD86(MFI:37983対34170、T(x)19.7、p<0.01)の発現は、mDCをHCQで処置した場合、減少したが、IL−10(MFI:453対1045、T(x)235、p<0.01)及びCD200(MFI:264対409、T(x)74.3、p<0.01)の発現は、増加した。f〜g.選別したCD4+細胞を、さらに24時間、mDC処置群と共培養した。PD−1(MFI:187対212、T(x)=26.4、p<0.01)及び細胞内PD−1(MFI:46対222、T(x)161、p<0.01)の発現は、HCQで処置したmDCと共培養した場合、T細胞において増加した。h.調節性分子CTLA−4(1.74対15.06)、FoxP3(3.06対12.27)、IL−10(3.71対7.57)、及びTGFβ(15.00対23.85)の遺伝子発現は、HCQなしのmDCと共培養したT細胞(灰色の棒グラフ)と比較して、mDC+HCQと共培養したT細胞(濃灰色の棒グラフ)において上方調節された。データは、GAPDHの2(−dCT)×100として表す。
図7】式Iの化合物の作用機序を提示する模式図である。
図8】配列番号1のペプチドアミノ酸配列による免疫療法が、関節リウマチの患者のイムノーム(immunome)を再形成することを示す図である。(A)配列番号1のペプチドアミノ酸配列による治療前の健常な対象及び関節リウマチ患者の免疫プロファイル。(B)配列番号1アミノ酸配列HCQ奏効例及びプラセボHCQ非奏効例の免疫プロファイル。(C)T細胞染色パネル1及びACCENSEクラスタリングソフトウェアによる調節性T細胞コンパートメントの分析。(D)配列番号1HCQ奏効例の濃縮したリンパ節の同定。(E)GITR、PD−1、PD−L1、CTLA−4及びHLA−DRを発現しているFoxP3+Tregの割合。
図9】配列番号1の治療効果が、調節性T細胞の表現型及び機能の変更に起因することを示すグラフである。(A)治療開始(T0)及び終了(Tend)時の配列番号1奏効例由来のTEFF細胞における炎症性遺伝子の発現。(B)T0及びTendでの配列番号1で治療した臨床的奏効例におけるTregの発生頻度。(C)配列番号1奏効例及び非奏効例から単離したTregの抑制能。
図10】TregにおけるPD−1の発現により、その抑制能を判定し、そのPD−1の発現を、STAT経路が潜在的に媒介することを示すグラフである。(A)配列番号1により刺激した場合の、臨床的非奏効例ではなく臨床的奏効例のTregにおけるPD−1発現の上方調節。(B)配列番号1による治療のTendでのPD−1+Treg及びPD−1−Tregの抑制能。(C)抗PD−1、抗PD−L1抗体又は両方の存在下での抑制能。(D)抗PD−1抗体による処置後のPD−1+TregにおけるpSTAT5の発現。(E)pSTAT5の発現について染色したTregの代表的な共焦点顕微鏡画像。(F)pSTAT5発現の定量化。(G)全Treg、PD−1+Treg及びPD−1−TregにおけるCTLA−4、FoxP3、IL−10及びTGFβの発現。(H)奏効例及び非奏効例のTeff細胞におけるPD−1の発現。(I)抗PD−1抗体で処置後、フローサイトメトリーにより測定したpSTAT3の発現。
図11】配列番号1による治療の成功例が、免疫寛容原性メモリーT細胞を誘導することを示す図である。(A)メモリーT細胞を、T細胞2染色パネル及びACCENSEクラスタリングソフトウェアにより分析した。(B)配列番号1HCQ奏効例の濃縮したリンパ節の同定。赤でハイライトしたものは、配列番号1奏効例に存在するが、非奏効例には存在しない細胞のクラスターである。(C)CD69及びTGFβを発現しているメモリーT細胞(CD4+CD45RO+)の割合。(D)配列番号1及びプラセボで処置した対象の、医師による総合評価スコア。(E)配列番号1及びプラセボで処置した対象における関節痛の評価。(F)関節腫脹のスコア評価。
図12】ヒドロキシクロロキン(HCQ)の同時投与が、DCの表現型を変え、PD−1+調節性T細胞を誘導することによって、配列番号1の治療に相乗作用をもたらすことを示すグラフである。(A)HCQの存在下で成熟させた単球由来DCにおける、活性化マーカー及び免疫寛容原性マーカーそれぞれの発現の減少及び上昇。(B)HCQで前処置したDCと共培養後の、CD4+T細胞におけるTreg関連マーカーの発現。(C)DC及びHCQの存在下で培養したT細胞における調節性分子の遺伝子発現。
図13】T細胞における表面染色パネル及び活性化マーカーである。
図14】a.試験開始(T0)及び試験終了(Tend)時のエフェクターT細胞(Teff)(CD4+CD127+)を、配列番号1臨床的奏効例とプラセボ臨床的非奏効例の両方におけるLTBP4の発現について、FACSにより比較したグラフである。b.Teff増殖の抑制における、PD−1又はTGFβ又はPD−1及びTGFβの抑制効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
別段の規定がない限り、本明細書において使用する技術的及び化学的用語はすべて、本明細書の主題が属する分野における当業者に一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書で使用する場合、以下の定義は、本発明の理解を容易にするために提供される。
【0020】
この文書では、矛盾する別段の指示がない限り、用語「を含む」、「からなる」、「を有する」等は、包括的でないもの、言い換えれば、「を含むが、これに限定されない」を意味するものとして解釈される。
【0021】
さらに、本明細書では、文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、単語「含む(include)」又は「含む(includes)」又は「含んでいる(including)」等の変化形は、記載される整数又は整数群を包含することを意味するが、他の任意の整数又は整数群を除外することを意味しないものと理解される。
【0022】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」及び「the」は、他に文脈上明白に指示しない限り、複数照応を含む。
【0023】
「加水分解性」リンカーは、アミノ酸配列及び疾患修飾性抗リウマチ剤が、未変性の形態で放出される、リンカー系を指す。加水分解性の同義語は、「分解可能な」又は「放出可能な」リンカーである。このリンカーはまた、薬物送達プロセスの間、生理活性化合物の一時的に安定な結合を確実にする役割を果たす。種々の実施形態では、リンカーは、少なくとも1つの共役系をさらに含む。
【0024】
本明細書で使用する場合、「置換された芳香環」及び「置換された芳香族複素環」は、直鎖アルキル、分枝アルキル、アリール、クロロ、ブロモ、ヨード、アミノ、カルボキシ及びヒドロキシを含む群から独立に選択される、1つ、2つ、又は3つの置換基で置換された芳香環及び芳香族複素環を指す。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「アルキル」は、炭素原子及び水素原子を含む、飽和基又は不飽和基を指す。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「共役系」は、非局在化電子と結合したp軌道の系である。共役系は、単結合によって各々分離された、いくつかの多重結合により作られる。少なくとも1つの共役系を有する化合物/部分は、環状、非環状、直鎖状又は混合であってもよい。
【0027】
本発明者は、自己免疫性疾患、特に関節リウマチに罹患しているヒトにおいて免疫寛容を同時に誘導することができ、疾患修飾性により関節炎の疼痛及び腫脹を軽減する、いくつかの新規化合物を見出した。さらに、本発明者はまた、この化合物を、関節リウマチ、乾癬性関節炎、乾癬、ループス、若年性関節リウマチ、多発性硬化症、炎症性腸疾患、及び/又はクローン病等の疾患の治療にも使用することができることを見出した。
【0028】
したがって、本発明の一態様は、次の一般式I:
アミノ酸配列−(L)−DMARD
[式中、アミノ酸配列はQKRAAYDQYGHAAFE−NH(配列番号1)を含み、Lはリンカー単位であり、DMARDは疾患修飾性抗リウマチ剤であり、−は共有結合であり、nは0又は1である]を有する化合物を含む医薬組成物の治療有効量を必要とする対象に投与するステップを含む、必要とする対象において自己免疫性疾患を治療する方法を提供する。
【0029】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、配列番号1は、QKRAAYDQYGHAAFE−NHからなるアミノ酸配列である。
【0030】
種々の実施形態では、DMARDは、次のコア構造(A)を有するキノリン誘導体を含む、疾患修飾性抗リウマチ剤である。
【化1】
【0031】
種々の実施形態では、キノリン誘導体は、次の構造(B):
【化2】

(式中、Rは、ヒドロキシ、クロロ、ブロモ、ヨード、カルボキシラート及びアルデヒドを含む群から選択される)
を有するクロロキン誘導体を含む。
【0032】
種々の実施形態では、クロロキン誘導体は、ヒドロキシクロロキンである。ヒドロキシクロロキンは、次の構造を有する化合物である。
【化3】
【0033】
種々の実施形態では、用語「治療/処置する」は、自己免疫疾患に関与する臨床徴候及び/又は臨床症状が、実施された措置の結果として緩和又は軽減されることを意味する。種々の実施形態では、用語「治療/処置する」は、PD−1、PD−L1、CTLA−4又はFoxp3のうちのいずれか1つの細胞発現の増加を指し得る。
【0034】
種々の実施形態では、用語「自己免疫性疾患」は、体内で明白な病状を引き起こす、免疫系の細胞(リンパ球)又は産生物(抗体)の、体内の自己組織の構成物との反応を指す。特には、自己免疫性疾患は、関節リウマチ、乾癬性関節炎、乾癬、ループス、若年性関節リウマチ、多発性硬化症、炎症性腸疾患、及び/又はクローン病を含む疾患のうちのいずれか1つを指す。
【0035】
種々の実施形態では、用語「対象」は、哺乳動物を指す。種々の実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。
【0036】
用語「治療有効量」又は「有用な用量」は、本明細書で使用する場合、対象における自己免疫性疾患の症状を軽減又は緩和することができる、医薬化合物又は組成物の量を指す。種々の実施形態では、式Iを有する化合物の有用な用量は、それらのインビトロ活性、又はインビボ活性を比較することによって決定することができる。治療における使用に必要とする、式Iを有する化合物及び薬学的に許容されるその担体又は活性塩又はその誘導体の量は、選択された特定の塩だけでなく、投与経路、治療する症状の性質、及び患者の年齢及び状態によって異なり、最終的には、従事する医師又は臨床医の判断による。
【0037】
種々の実施形態では、式Iの化合物の薬学的に許容される塩は、当分野で公知の標準的方法を使用して、例えば、アミン等の十分な塩基性化合物を、生理学的に許容されるアニオンを生じさせるのに適当な酸と反応させることによって、得ることができる。カルボン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム又はリチウム)又はアルカリ土類金属(例えば、カルシウム)塩もまた、生成することができる。
【0038】
種々の実施形態では、医薬組成物は、式Iを有する化合物の薬学的に許容される塩、及び/又は薬学的に許容されるその担体をさらに含む。
【0039】
種々の実施形態では、疾患修飾性抗リウマチ剤は、ヒドロキシクロロキン化合物を指す。
【0040】
種々の実施形態では、式Iを有する化合物は、
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

及び
【化13】

を含む群から選択される。
【0041】
種々の実施形態では、リンカーは、酸性条件下で配列番号1及びヒドロキシクロロキンを放出する、安定であるが、加水分解性のリンカーである。種々の実施形態では、加水分解性リンカーは、加水分解性部分を含む。種々の実施形態では、加水分解性部分は、次の構造を有するカルボニル官能基を含む。
【化14】
【0042】
種々の実施形態では、加水分解性リンカーは、少なくとも1つの共役系をさらに含む。種々の実施形態では、加水分解性リンカーは、少なくとも1つの、置換されていてもよい芳香環又は芳香族複素環をさらに含む。種々の実施形態では、芳香環は、5、6又は7員環である。種々の実施形態では、芳香族複素環は、5、6又は7員環である。
【0043】
次のスキームIは、酸で処置した場合、芳香環及び加水分解性部分を有するリンカーによって、HCQ及び配列番号1(ペプチド)を放出するのに予想される機序である。HCQ及び配列番号1は、優先順位なしに放出され、この場合、酸性溶液中の加水分解の駆動力は、ベンジルカチオンの安定性及び一連の中間体を通じた二酸化炭素(CO2)の放出である。
【0044】
【化15】
【0045】
種々の実施形態では、自己免疫性疾患は、関節リウマチ、乾癬性関節炎、乾癬、ループス、若年性関節リウマチ、多発性硬化症、炎症性腸疾患、及び/又はクローン病を含む群から選択される。
【0046】
種々の実施形態では、式Iの化合物、及び/又は薬学的に許容されるその塩、並びに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物は、静脈内、腹腔内、筋肉内、局所的、又は皮下経路によって、経口的に又は非経口的に対象に投与されるように構成される。種々の実施形態では、投与経路は、粘膜投与、経口摂取、鼻腔投与、気管支投与、及び冠動脈内投与である。種々の実施形態では、活性化合物はまた、点滴又は注射によって、局所的に、静脈内に、鼻腔内に(直接的に又はエアロゾル化して)、皮下に、又は腹腔内に投与してもよい。活性化合物又はその塩の溶液は、任意選択で非毒性界面活性剤と混合した水で調製することができる。分散液もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチン、及びこれらの混合物、並びに油で調製することができる。通常の貯蔵及び使用条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐために保存剤を含有する。局所投与では、本発明の化合物は、すなわち、これらが液体である場合、純粋な形態で適用することができる。しかし、皮膚科学的に許容される担体と共に組成物又は調合物として、これらを皮膚に投与することが一般的に望ましく、この場合の担体は、固体又は液体でもよい。医薬組成物は、対象に経口的に投与されるように構成されることが好ましい。
【0047】
種々の実施形態では、式Iの化合物の治療有効量又は有用な用量は、約1mg〜100mgの範囲である。有効量又は有用な用量は、約10mg〜50mgの範囲であることが好ましい。式Iを有する化合物の有効量は、約1、2、5、10、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、90、又は100mgの量であることが好ましい。種々の実施形態では、式Iの化合物及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物は、少なくとも1日に1回投与される。種々の実施形態では、組成物は、少なくとも1日に2回投与される。
【0048】
種々の実施形態では、本発明の方法は、治療有効量の医薬組成物を対象に投与する前に対象から採取した試料において、細胞発現プロファイルを測定するステップ、及び治療有効量の医薬組成物を対象に投与した後に対象から採取した第2の試料において、第2の細胞発現プロファイルを測定するステップをさらに含み、この場合、PD−1、PD−L1、CTLA−4又はFoxp3のうちのいずれか1つの発現の増加は、対象が治療に対して応答していることを示す。種々の実施形態では、治療前に採取した第1の試料及び治療後に採取した第2の試料は、血液試料である。種々の実施形態では、細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)である。種々の実施形態では、治療前は、治療の直前を指す。種々の実施形態では、治療後は、治療開始の1又は2日後を指す。種々の実施形態では、治療後は、1〜6ヶ月の治療過程後の、その過程における最終治療の直後又は1ヶ月後を指す。
【0049】
本発明の別の態様は、必要とする対象の自己免疫性疾患の治療における使用のための、式Iを有する有効量の化合物及び薬学的に許容されるその担体を含む医薬組成物であって、この化合物が、一般式I:
アミノ酸配列−(L)−DMARD
[式中、アミノ酸配列はQKRAAYDQYGHAAFE−NH(配列番号1)を含み、DMARDは疾患修飾性抗リウマチ剤であり、Lはリンカー単位であり、−は共有結合であり、nは0又は1である]を含む、医薬組成物を提供する。
【0050】
使用のための医薬組成物において言及する用語は、上記の類似用語と同様に定義される。
【0051】
本発明の別の態様は、式I:
アミノ酸配列−(L)−DMARD
[式中、アミノ酸配列はQKRAAYDQYGHAAFE−NH(配列番号1)を含み、Lはリンカー単位であり、−は共有結合であり、nは0又は1である]を有する化合物を提供する。
【0052】
本発明の別の態様によれば、自己免疫性疾患の治療のための医薬の製造における式Iを有する化合物、及び/又は薬学的に許容されるその塩、並びに薬学的に許容される担体の使用を提供する。
【0053】
本発明の化合物の使用において言及する用語は、上記の類似用語と同様に定義される。
【0054】
リンカーは、生理活性化合物を同時に同じ割合で標的に効果的に送達することによって、生理活性化合物の治療上のパラメータを強化するのに重要な役割を果たす。リンカーは、同じ割合で標的組織に送達される、2つの生理活性化合物の相対比を効果的に制御するのに役立つ。リンカーはまた、配列番号1及び抗リウマチ剤を別々に摂取する必要なく、投与が容易であるという利点をもたらし、したがって、必要とする患者に利便性を提供する。リンカーにより結合した2つの生理活性化合物を用いることでまた、2つの生理活性化合物を含有する薬物の用量を優良に順守する必要のある患者において役立つ。リンカーはまた、生理活性化合物を標的組織に同時に送達することにより、生理活性化合物の潜在的な有効性の向上をもたらし、これによって、2つの異なる、機能的に相補的な免疫細胞サブセットに対する生理活性化合物の相乗効果を高める。さらに、リンカーは、非毒性及び/又は合成に容易であることが好ましい。
【0055】
一方の末端にグルタミン(Q)アミノ酸を含有する配列番号1が、経口摂取時、標的組織に到達する前に分解する傾向があるため(データ非提示)、ペプチド配列番号1の必要な割合は、リンカーなしでは、抗リウマチ薬の割合より大きくなければならないことが、さらに理解される。ペプチドを生成するのに、通常、多段階合成を伴うため、このような合成は、当業者にあまり関心を持たれない。リンカーが、分解からペプチドを保護し、その結果、ペプチドの安定性を高めるので、ペプチド配列番号1及び抗リウマチ薬は、リンカーの存在下では、同じ割合で投与することができる。
【実施例】
【0056】
式Iの化合物の合成
式Iの化合物を製造するために、種々の合成スキームを計画することができる。化合物II及び化合物III〜Vの合成スキームを図1及び図2Aにそれぞれ示す。これらのスキームは、従来の固相合成、Boc保護HCQ又はp−ニトロ−フェノールエステルBoc保護HCQの調製、並びに従来の共役及び他の官能基の側鎖の脱保護等の後の、最終化合物の調製のためのこれらの使用を含む。これらの方法、又は所望により他の同様の合成プロセスを当業者が計画し、実行することができる。化合物V〜VIIIの合成スキームを、図2Bに示す。まず、リンカー1,4−ベンゼンジメタノールを1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI)によって活性化して、化合物2(1H−イミダゾール−1−カルボン酸、1,4フェニレンビス(メチレン)エステル Cas番号107845−94−3)を最初に得る。化合物2とHCQの縮合により、化合物3(4−((((2−((4−((7−クロロキノリン−4−イル)アミノ)ペンチル)(エチル)アミノ)エトキシ)カルボニル)オキシ)メチル)ベンジル1H−イミダゾール−1−カルボキシラート Cas番号未指定)を生成する。同時に、配列番号1(ペプチド)を、リジン、アスパラギン酸及びグルタミン酸のヒドラジンで除去可能な保護基を用いて調製する。化合物3と保護した配列番号1の反応により、共役した4が生じ、この複合体4を、脱保護ステップに供して最終複合体5を生成する。HCQのアミノ基及び/又はアルギニンのグアニジル基を保護/脱保護する追加ステップを、必要に応じて行って最終生成物を得る。化合物IX、X及びXIの合成は、化合物V〜VIIIの合成スキームと同様である。
【0057】
上記の特徴の変形及び組合せは、代替又は代用ではなく、本発明の意図する範囲内で、組み合わせて、またさらなる実施形態を形成することができることが、当業者にさらに理解されるべきである。
【0058】
治療の機序
これらの結果により、ヒト自己免疫疾患の治療のためのこの方法を、さらに発展させる機構原理を提供する。この試験はまた、インビボ及びインビトロで誘導性であり、免疫寛容の誘導を検出するにおいて、及び細胞免疫療法において有望なツールである、Tregのサブセットを同定する。
【0059】
本明細書で使用するモデルは、関節リウマチの患者における炎症の一因であり得る、配列番号1等のT細胞エピトープに対する免疫寛容が、検出可能な臨床効果をもたらし得るという仮説に基づく。メトトレキサート又は生物製剤の投与が許可されていなかった、合計96人の早期関節リウマチ患者を、配列番号1に対する粘膜誘導型免疫寛容によって試験した。患者が、試験中どの時点においても応答基準を満たす場合、患者を「奏効例」として定義する。これらの方法は、安全であり、メトトレキサート単独の使用と比較して臨床的有効性をもたらした。配列番号1による治療は、腫瘍壊死因子α(TNFα)産生の減少及びインターロイキン10(IL−10)産生の増加を特徴とする、末梢血単核細胞(PBMC)における免疫偏向に関与していた。
【0060】
臨床的奏効例由来のPBMCにおいて、配列番号1に対するプログラム細胞死1(PD−1)の発現が、有意に上昇する(ACR、米国リウマチ学会反応基準又は評価項目において高くなる)こと(本明細書では、臨床的奏効例と呼ぶ)が、観察された(データ非提示)。PD−1は、T細胞アネルギー並びに慢性ウイルス感染症及びがんの枯渇に対する寄与因子として初めて報告された。
【0061】
したがって、本明細書で試験する最初の仮説は、CD4+/CD127+エフェクターT(Teff)細胞アネルギーが、配列番号1による治療によって誘導されたかどうかである。PD−1を発現しているTeffの割合は、臨床的奏効例又は非奏効例において、試験開始と終了との間で有意には変わらなかった(図3a、Y軸:Teff母集団におけるPD−1+の%、奏効例:6.312+/−1.428対4.930+/−1.433、n=5、t検定 p=0.2157(平均値+/−c.(平均値の標準誤差))、非奏効例:3.230+/−1.136対3.111+/−0.8345、n=6、t検定 p=0.9248(平均値+/−s.e.m.))。さらに、Teffは、従来の多クローン性刺激に対して増殖させることができた(データ非提示)。これは、TeffにおけるPD−1の発現レベルが、アネルギーを誘導するのに不十分であり、他の機序が役割を果たす必要があったことを示唆する。
【0062】
配列番号1で治療した臨床的奏効例におけるTeffのさらなる分析は、IL−23受容体の発現の減少(非提示)と共に、インターロイキン17A(IL−17A)の発現が有意に減少したことを示した(図3b、左2つの棒グラフ)。逆に、IL−17Aの発現の上昇が、プラセボで処置した臨床的非奏効例において検出された。IL−17A発現の減少に加えて、選別したTeffは、TaqManにより測定した場合、TH−17に関連する転写因子RORCの発現の有意な減少を示した(図3b、右2つの棒グラフ)。したがって、配列番号1による治療成功例は、炎症促進性サイトカインを産生する能力の減退と共に、Teffの免疫偏向を誘導した。
【0063】
図3bでは、Y軸は、Teffが産生するIL−17A(FACSにより測定した、最初の2つの棒グラフ)とRORC発現(TaqManにより測定した)の両方の発現に関する、TendとT0との間の%純変化である。Teff細胞における細胞内IL−17Aの発現は、臨床的奏効例では、T0と比較してTendで有意に低下した(T0対Tend、8.003+/−0.07839%対4.873+/−0.6933%、n=3、t検定 p0.05)が一方、臨床的非奏効例では、IL−17Aの発現は増加した(T0対Tend、3.980+/−1.520%対8.860+/−3.309%、n=2、t検定 p0.2224)。TaqManでは、mRNA単離及びcDNA合成のために細胞ペレットを溶解し、RORCの発現を測定した。GAPDHの割合として結果を分析した。TendでのTeffにおけるRORC遺伝子発現は、臨床的奏効例では、T0よりも有意に低下した(T0対Tend、3.382+/−0.684対1.670+/−0.714、n=5、t検定 p0.0035)。逆に、臨床的非奏効例では、T0及びTendでのTeffにおけるRORC発現は、変わらなかった(T0対Tend、2.510+/−1.180対2.875+/−1.205、n=2、t検定 p0.8487)。値は、平均値であり、s.e.m.である。
【0064】
しかし、Teff免疫偏向は、臨床的制御を達成する役割における唯一の機序ではない可能性がある。いくつかの自己免疫疾患並びに関節リウマチでは、調節性T細胞(Treg)は、発生頻度及び/又は機能において不十分なものとして報告されている。
【0065】
臨床的奏効例におけるCD4+/CD25++/CD127−Tregの発生頻度の変化は、試験開始及び終了時との間で検出されなかった(図3c)。治療奏効例とプラセボ非奏効例との間の極めて有意な差が、試験終了時のTregの抑制能において見出された(図3d)。この差は、配列番号1による治療に対する臨床的奏効例において、Tregの機能性が回復したことを示す(図3d及び5a)。
【0066】
しかし、PD−1、そのリガンド、並びにFoxP3及びCTLA−4等のT細胞調節に関連する他の分子が、非奏効例と比較して臨床的奏効例、特に、式Iの組成物を摂取している臨床的奏効例のPBMCにおいて、なぜ有意に上昇したかを、Teffの免疫偏向によっても、Treg活性の回復によっても、直接説明できなかった(図4)。両方の群は、試験開始(T0)時に、ヒドロキシクロロキン(HCQ)の同等の用量を摂取していた。T0のPBMCを、10mg/mlの配列番号1と共に48時間、インビトロでインキュベートし、前述のとおりTaqManを実施した。データは、GAPDHの2(−dCT)×100として表される。PD−1、0.3595+/−0.1033対0.9310+/−0.1961、n=5、p0.0327 PD−L1、0.1400+/−0.05308対1.080+/−0.1926、n=6、p0.0005 CTLA−4、0.2667+/−0.07313対4.809+/−2.606、n=6、p0.0588 Foxp3、0.2678+/−0.1267対2.329+/−0.9527、n=6、p0.0422 P値は、t検定によって得た。
【0067】
単にT細胞アネルギーというよりも、PD−1の発現が、活性調節性T細胞機能に関与し得ると本発明者らは仮定した。最近の文献は、実際に、Treg機能におけるPD−1関連経路の活発な役割を提唱している。
【0068】
この系において、FACSにより選別したPD−1+Treg(CD4+/CD25++/PD−1+/CD127−)は、Teff増殖を明らかに抑制したが、PD−1−Tregは、匹敵する抑制能は示さなかった(図5a)。興味深いことに、PD−1+Tregの全抑制能は、試験開始と終了との間で変わらなかった(図5a)。しかし、Treg母集団中で、PD−1+Treg発生頻度の有意な増加が見られた(図5b)。これは、臨床的非奏効例のTregの場合ではなかった(図5c)。したがって、全Tregプール中で、PD−1+TregとPD−1−Tregとの割合が偏ることとなり、このことは、試験終了時の抑制能の向上を、説明している可能性がある。
【0069】
PD−1+Tregの抑制能は、抗PD−1抗体の存在下で著しく減少し(56.94%の抑制減少)、したがって、抑制機序におけるPD−1分子の機能的役割を示唆している。さらに、PD−1をブロックすると、リン酸化STAT−5を発現しているPD−1+Treg数の72%が減少した(FACSにより測定した場合、p<0.01、図5d)。これらの所見は、PD−1+Tregの培養物の抗PD−1抗体による処置に伴うpSTAT5の統計学的に有意な減少と共に(p<0.001)、共焦点顕微鏡により確認された(図5e)。これらの所見は、PD−1シグナル伝達経路をTreg機能と直接結びつける可能性がある。実際、STAT−5のリン酸化は、FoxP3の発現及び機能性Tregの発達を制御する。PD−1が関与すると、IL−2受容体結合時のSTAT−5の正準なリン酸化に代わる経路がもたらされる可能性がある。ヒトにおいてPD−1を発現しているTregは、特異的状況に対してTreg機能を精密にモジュレートするためのPD−1の関与を中心とした、高度な調節機序を有する、抗原特異的T細胞の万能な集団を代表すると考えられている。ある者は、PD−1の関与に伴う経路が、もっぱら抑制性であるのではなく、むしろ状態及び微小環境によって、Treg機能及び恒常性をモジュレートすることが可能であると仮定し得る。
【0070】
インビトロでのPD−1の抑制はまた、TeffにおけるSTAT−3のリン酸化の増加をもたらした(図5f)。STAT−3の活性化は、TeffをTH−17表現型へ誘導する(図5f)。これらの所見は、TeffにおけるPD−1+Tregの直接的な下方調節機序の可能性を強調する。実際、図3bに示すように、配列番号1に対する免疫寛容は、TeffによるIL−17産生の減少を誘導する。この効果は、効率的なPD−1+Treg機能に依存しており、PD−1+Treg機能の消失によって元に戻すことができ、その結果、TeffによるIL−17の産生を生じさせる。
【0071】
これらの複合データに基づいて、PD−1が、エピトープ特異的免疫療法に伴う適応免疫の調節に必要不可欠であると論じることができる。
【0072】
PD−1+Tregの機能をさらに特徴付けるために、FACSにより選別したCD4+/CD25++/CD127−全Treg、PD−1+Treg及びPD−1−TregからmRNAを抽出し、Treg機能に関与する種々の遺伝子の発現についてqPCRにより試験した。CTLA−4、FoxP3及びIL−10の発現は、すべてTregの特徴であるが、PD−1+TregとPD−1−Tregとの間で異なるようには思われなかった。しかし、TGF−βの発現は、PD−1−Tregと比較して、PD−1+Tregにおいて有意に上昇した(図5g)。抗TGF−β抗体を抑制アッセイに加えた場合、PD−1+Tregの抑制能の大幅な減少(84.97%)が見られた。したがって、TGF−βは、PD−1+Treg機能において重要な役割を果たし得る。
【0073】
これらのデータは、臨床的に重要な免疫寛容の発生において中心的である、Tregサブセットの誘導を、ヒト自己免疫疾患において初めて示す。これらのTregは、PD−1の発現によって、及びTGF−βの産生によって、表現型的に及び機能的に特徴付けられる。これらの所見は、単なるアネルギーとしての、PD−1を発現するT細胞の特徴を超えたものを示す、増えつつある証拠により裏付けられている。
【0074】
治療計画と関連してPD−1+Tregの発達をもたらし得る機序を検討した。次のデータが、その方法を導いた。i)第II相試験の事後評価は、配列番号1による治療と併用した場合、HCQを先行して使用することにより、臨床的制御が支持されたことを示した。ii)PD−1、PD−L1、CTLA−4、及びFoxP3は、式Iの化合物で治療した臨床的奏効例において、有意に上方調節された(図4)。
【0075】
HCQによる治療が、抗原提示細胞における機能的変化の誘導を介して、Treg細胞におけるPD−1発現の誘導に関与すると仮定した。この仮説を試験するために、健常対照の単球由来のLPS誘導樹状細胞(成熟DC、mDC)を、HCQを用いてインビトロで処置した。HCQなしの培養物と比較して、HLA−DR、CD83、及びCD86の発現の有意な減少が見られた(図6a〜c)。逆に、IL−10及びCD200の発現の有意な増加が、mDCをHCQで処置した場合に認められた(図6d及びe)。
【0076】
図6a〜eでは、濃い折れ線グラフは、mDC対照群を表し、薄灰色の領域は、HCQで処置したmDC群を表す。MFI=平均蛍光指数である。図6f〜gでは、濃い折れ線グラフは、mDC対照群と共培養したCD4+細胞を表し、薄灰色の領域は、HCQで前処置したmDC群と共培養したCD4+細胞を表す。MFI=平均蛍光指数である。
【0077】
次いで、選別したCD4+T細胞を、mDCで、さらに24時間共培養した。HCQに予め曝露したmDCと共に培養したCD4+細胞は、HCQなしのmDCと共に培養したCD4+細胞と比較して、PD−1(図6f〜g)、FoxP3、IL−10、CTLA−4及びTGF−βの発現を上方調節した(図6h)。
【0078】
これらのデータは、治療成功例によってインビボで誘導された事象のうちのいくつかを、インビトロで再現し得る。これは、免疫寛容原性環境において、本発明の配列番号1(又は他の炎症促進性エピトープ)を用いて、mDCの機能及び表現型の変化を誘導することにより、HCQが、エピトープ特異的免疫療法に対する免疫アジュバントとしてインビボで作用することを示唆し得る。この変化は、調節機能を発揮してTeffにおける免疫寛容を誘導する、PD−1+T細胞の発達を助ける。
【0079】
総じて、本明細書で述べたデータは、関節リウマチ、及び恐らくは、他のヒト自己免疫疾患において臨床的に重要な免疫寛容の誘導に必要不可欠な、交差する免疫経路の多重度及び複雑度への洞察をもたらす。このような経路の1つは、インビボ及びインビトロで誘導され得る、TregのPD−1+サブセットに依存しており、したがって、薬物療法又は細胞療法による免疫寛容の誘導に有望な新規ツールを提供する(図7)。
【0080】
配列番号1による治療が、腫瘍壊死因子α(TNFα)及びIL−10それぞれの減少及び増加を特徴とする、T細胞サブセットにおける免疫偏向に関与したということが確立される。さらに、配列番号1臨床的奏効例を起源とする末梢血単核細胞(PBMC)がまた、T細胞アネルギー並びに慢性ウイルス感染症及びがん等の病態の枯渇に寄与することがこれまでに報告されていた、プログラム細胞死1(PD−1)タンパク質を有意に高いレベルで発現することが見出された。
【0081】
健常者及び関節リウマチ患者の免疫プロファイルのクラスター分析により、種々の免疫細胞コンパートメントにおける著明な摂動が明らかになった(図8)。配列番号1の治療によって達成した免疫寛容により、リウマチ患者のイムノームが再形成された(図8B)。免疫寛容の背後にある根本的な免疫学的機序を、T細胞において表面染色パネル及び活性化マーカーを利用することにより検討した(図13)。エフェクターT細胞(Teff)の炎症促進作用のモジュレートにおける調節性T細胞(Treg)の重要な役割を前提として、配列番号1奏効例及びプラセボ非奏効例のTregコンパートメントを、任意の表現型的差異について評価した(図8C)。t−SNEクラスタリングにより、配列番号1臨床的奏効例において、より有意性を表したT細胞のサブセットが、CD25、HLA−DR及びGITRの発現を特徴とするCD4+T細胞であったことが示された(図8D)。CD4+FoxP3+Tregの手動ゲーティングにより、配列番号1奏効例におけるTregが高い割合で、グルココルチコイド誘導性TNFR関連タンパク質(GITR)、PD−1及びヒト白血球抗原−D関連抗原(HLA−DR)を発現することが明らかになった(図8E)。これは、配列番号1奏効例において見出されたT細胞が、免疫寛容の誘導に潜在的に寄与し得る、活性化Tregであることを示す。
【0082】
配列番号1奏効例由来のCD4+Teff細胞は、治療計画の終了時に、有意に低いレベルのIL−17A及びIFNγを発現した(図9A)。したがって、配列番号1による治療成功例は、炎症促進性サイトカインを産生する、これらの能力を減退させることによって、Teff細胞の免疫偏向を誘導した。Treg細胞数の増加は、この知見に対する1つの可能性のある説明となり得る。しかし、Tregの発生頻度は、試験開始と終了との間で変わらなかった(図9B)。これは、代わりに、Tregの活性への変化が、CD4+Teff細胞において観察された変化に寄与している可能性を示唆する。配列番号1奏効例及びプラセボ非奏効例から単離されたTregは、CD4+Teff細胞の増殖を抑制する、これらの能力において有意に異なり(図9C)、これは、臨床的制御の確立が、配列番号1奏効例におけるTreg機能性の回復又は強化に起因し得ることを示していた。
【0083】
前述のとおり、配列番号1奏効例由来のCD4+FoxP3+Tregは、プラセボ非奏効例と比較して、PD−1を高い割合で発現する(図8E)。この知見と一致して、Tendでの臨床的非奏効例ではなく配列番号1奏効例から単離したTregにおけるPD−1の発現は、配列番号1のペプチドでインキュベートした後、T0と比較して増加した(図10A)。これまでの研究は、Treg機能におけるPD−1関連経路の活発な役割を提唱してきており、したがって、TregにおけるPD−1の発現を強化することにより、これらの機能性が活発に影響され得るということが妥当であると思われる。Teffの増殖を抑制する、これらの能力を、配列番号1による治療終了時のPD−1+TregとPD−1−Tregとの間で比較した。PD−1−Tregではなく、PD−1+Tregが、Teff細胞の増殖を抑制することができた(図10B)。さらに、PD−L1の抑制により、Teffの増殖を制御する、これらの能力が変化しなかったため、この抑制効果は、そのリガンドであるPD−L1ではなく、PD−1に依存していた(図10C)。
【0084】
STAT−5のリン酸化は、FoxP3発現の制御による、Treg恒常性の維持及び機能性Tregの発達に関係づけられている。本発明者らの研究では、PD−1をブロックすると、PD−1+Tregにおいてリン酸化STAT−5(pSTAT−5)の発現が減少した(図10D)。PD−1+TregにおけるpSTAT−5をまた、共焦点顕微鏡により検査し、図10E及び10Fに示すように、PD−1をブロックすることにより、pSTAT−5の発現が有意に減少した。したがって、Tregの機能は、STATシグナル伝達経路を介する、PD−1の発現に複雑に関与し得る。
【0085】
定量的PCRを全Treg、PD−1+Treg及びPD−1−Tregに実施して、Treg機能の種々の遺伝情報の発現を評価した。図10Gに示すように、特徴的遺伝子であるCTLA−4、FoxP3、及びIL−10の発現は、PD−1+TregとPD−1−Tregとの間で変わらなかった。代わりに、TGFβの発現は、PD−1−Tregのそれよりも、PD−1+Tregにおいて有意に上昇した(図10G)。さらに、遺伝子アレイ解析によってまた、配列番号1奏効例のPBMCにおいて、潜在型TGFβ結合タンパク質4(LTBP−4)遺伝子がわずかに上方調節したことが明らかになった(図14A)。LTBP4は、TGFβ経路の活性化を制御するのに重要な役割を果たす、LTBPファミリーに属するタンパク質をコードする。PD−1とTGFβの両方を抑制することにより、Teffの増殖を抑制するPD−1+Tregの能力が、PD−1又はTGFβのみの抑制よりも大幅に減退したため、TGFβの発現の上昇は、PD−1+Tregによって開拓された、抑制機序のうちの1つを表している可能性がある(図14B)。
【0086】
興味深いことに、効果的な免疫寛容の媒介におけるPD−1の重要性は、Tregにおける、その発現に限定されない可能性がある。Teff細胞におけるPD−1の発現は、配列番号1による治療をした場合と変わらず、奏効例と非奏効例との間で差はなかったが(図10H)、Teff細胞におけるPD−1の発現を抑制すると、pSTAT−3の発現が有意に上昇した(図10I)。STAT−3の活性化は、TeffのTH17表現型への分極化に関与すると報告されている。
【0087】
第2のクラスター分析を、配列番号1HCQ奏効例及びプラセボHCQ非奏効例のPBMCにおいて、メモリーT細胞コンパートメントをハイライトするマーカーを用いて実施した(図11A)。配列番号1奏効例のこの細胞サブセットにおける濃縮した免疫表現型は、活性及び免疫寛容原性の特性を示すメモリーT細胞であった(図11B)。より詳細には、プラセボ非奏効例と比較して、配列番号1奏効例におけるCD4+CD45RO+メモリーT細胞は、CD69及びTGFβそれぞれの高い発現から明らかなように、高い割合で活性化され、調節性の性質であった(図11C)。配列番号1の臨床的退薬の1ヵ月後に評価された対象は、プラセボよりも優れた効果を示した(図11D)。したがって、治療中止にかかわらない、関節痛(図11E)及び関節腫脹(図11F)等のパラメータにおける持続的な改善は、活性メモリーT細胞の存続に起因し得る。
【0088】
配列番号1の投与に先行したヒドロキシクロロキン(HCQ)の使用により、配列番号1の治療活性に相乗効果がもたらされる。単球由来の樹状細胞(DC)を、健常対照から単離し、リポ多糖(LPS)で活性化した。HCQ存在下で生成した成熟DCは、HLA−DR、CD83及びCD86等の活性化マーカーの減少、並びに免疫寛容原性マーカー、IL−10及びCD200の発現の上昇を示した(図12A)。次いで、HCQで処置及び無処置の成熟DCをCD4+T細胞と共培養して、T細胞の活性化における、これらDCの潜在能力を評価した。図12Bに示すように、HCQで処置したDCの存在下で培養したCD4+T細胞は、より多くのPD−1(表面及び細胞内に)及びPDL1を発現した。
【0089】
さらに、これらのT細胞はまた、CTLA−4、FoxP3、IL−10、TGFβの発現を上方調節した(図12C)。これは、HCQが、DCの表現型を変え、このDCの表現型が、Teff細胞における調節機能を発揮できる、PD−1+Treg細胞の発達を次に助けることを示唆する。
【0090】
上記の特徴の変形及び組合せが、代替又は代用ではなく、本発明の意図する範囲内で、組み合わせて、またさらなる実施形態を形成することができることが、当業者にさらに理解されるべきである。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]