【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (公開1:研究集会における発表) : 第76回応用物理学会秋季学術講演会(13p−1D−16) 発表日時:2015年9月13日 17:15〜17:30 開催場所:名古屋国際会議場(名古屋市熱田区熱田西町1−1) 予稿発行:2015年8月31日(公開2:研究集会における発表) : 第6回III族窒化物結晶成長国際シンポジウム(The 6th International Symposium on Growth of III−Nitrides,ISGN−6,We−A12) 発表日時:2015年11月11日 10:35〜10:40(口頭) 同月10日、11日 19:00〜21:00(ポスター) 開催場所:アクトシティ浜松(浜松市中区板屋町111−1)アブストラクトブック公開:2015年11月 8日 論文公開:2015年11月30日(オンライン)(公開3:研究集会における発表) : 理研シンポジウム 第3回 「光量子工学研究」(PS−32) 発表日時:2015年11月12日 15:40〜17:10 開催場所:国立研究開発法人理化学研究所 和光地区 鈴木梅太郎記念ホール(埼玉県和光市広沢2番1号) 予稿公開:2015年11月12日(公開4:研究集会における発表) : 電子情報通信学会レーザ・量子エレクトロニクス研究 議題:窒化物半導体光・電子デバイス,材料,関連技術,及び一般 発表日時:2015年11月27日 13:30〜 開催場所:大阪市立大学・学術情報センター会議室(大阪市住吉区杉本3−3−138) 予稿発行:2015年11月19日(公開5:電気通信回線を通じた刊行物発表) ウエブサイト掲載日: 2015年11月30日 ウエブサイトURL: http://iopscience.iop.org/1347−4065/55/5S http://iopscience.iop.org/article/10.7567/JJAP.55.05FA02/pdf http://doi.org/10.7567/JJAP.55.05FA02 論文書誌:Japanese Journal of Applied Physics,55,05FA02(2016)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、紫外発光ダイオード(UVLED)を例にして、本発明に係る結晶基板および紫外発光素子ならびにそれらの製造方法に関する実施形態を図面に基づき説明する。当該説明に際し特に言及がない限り、全図にわたり共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。また各図は各部の互いの縮尺を保って示されてはいない。
【0020】
1.第1実施形態:結晶基板
本実施形態においてr−サファイア結晶板に良質なAlNバッファー層が形成されて結晶基板が提供される。r−サファイア結晶板上のa−AlN層は、a−AlN層の[0001]方向がサファイア結晶板の[1−101]方向と、またa−AlN層の[1−100]方向がサファイア結晶板の[11−20]方向とそれぞれ平行となる位置関係で成長する。a−AlN層に対する格子定数差は[0001]方向で3%の伸長歪、[1−100]方向で11.6%の圧縮歪であり、全体として圧縮歪を受けながら良質なa−AlNバッファー成長が可能となる。
【0021】
ここで、r−サファイア結晶板を使用した場合、1300℃以上においてサファイアの表面の荒れが激しくなる(上述、非特許文献2)。また、目的とするa−AlN層ではなくm−AlN結晶を同じ面方位の支持基板の上にホモエピタキシャルに形成する例において、温度の重要性が指摘されている(非特許文献3)。非特許文献3の報告によれば、m−AlN結晶の原子レベルの平坦な表面を実現するためには、比較的高温(1450℃以上)での成膜が必要とされる。本発明者はr−サファイア結晶板にa−AlNの形成を試み、成長温度やその他の条件に関する知見を得た。そしてa−AlN結晶によるAlNバッファー層を、作製条件において区別される複数の段階に分けて形成することを試行した。なお、本実施形態において特段断りがない限り、サファイア結晶板やAlN層は、r−サファイア結晶板やa−AlN層によるAlNバッファー層(a−AlNバッファー層)である。
【0022】
1−1.サファイア結晶板の温度耐性向上:2段階成膜AlNバッファー層
高温でのAlN層の成膜にとって障害となるサファイア結晶板の表面が荒れる現象を抑制することを試みた。本願の発明者は、まずサファイア結晶板の表面を保護するためのAlNの層つまり下地保護層の形成と、平坦化されたAlN層の表面を提供する層つまり平坦化層の形成という2段階成膜のエピタキシャル成長によって、AlNバッファー層を形成することとした。
図1は、サファイア結晶板10を使用し、2段階に分けて成膜した2段階成膜AlNバッファー層20Dを備える結晶基板1Dの構造を示す模式図である。
【0023】
サファイア結晶板10は(1−102)面方位、off角0.5°のものを採用した。その表面に、MOCVD法により種々の条件にて下地保護層22および平坦化層26を形成し2段階成膜AlNバッファー層20Dを得た。この際、下地保護層22は、基板温度1100℃、厚みを約30nmとした。平坦化層26は試験サンプルごとに1300〜1500℃の範囲で温度を変更して約2μmの厚みに形成した。これらの層において成膜時の圧力条件は76Torr(1.013×10
4Pa)とした。
【0024】
下地保護層22を、原料ガスのV/III比を5000:1として形成したところ、1100℃の成膜条件にて小さな島状のAlN領域が形成された。なお、V/III比は、V族元素のためのガス(アンモニア)とIII族元素のためのガス(TMAl)の供給比率であり、V族:III族を5000:1等と表現し、より簡便にV/III比5000とも記載する。
図2は、1100℃で成膜したままの条件のサンプル(
図2A)と、1500℃で追加してアニールした条件のサンプル(
図2B)とにおける下地保護層表面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図2のAFM像は1μm×1μmの領域で取得された。
図2に示されるように、形成されたAlNの下地保護層22をそのまま1500℃まで昇温しても、表面モフォロジーに顕著な変化は生じなかった。この結果から、形成された下地保護層22は、1500℃程度までの温度条件において、r−サファイアの表面の荒れを抑制する作用を発揮することを確認した。なお、1500℃の温度は、MOCVD装置を動作させることに通例問題無いため、実用上の問題は少ない。また、さらに高い温度にて下地保護層22を形成することも、AlNの分解温度以下であれば可能である。
【0025】
下地保護層22に続けて形成した平坦化層26では、成長温度とV/III比の条件を変更することにより平坦化したAlN層の表面となる条件を探った。まずV/III比を500に固定し成長温度を変更して成膜した表面を比較した。
図3は、
図3A〜3Cの順に、1300、1400、1500℃の各温度で成膜した平坦化層表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。1300〜1500℃の比較において高温であるほど平坦性が向上することが確認された。具体的には、1300℃では平坦化層26の表面に微細な凹凸が生じ、目視でも白濁したAlN層しか得られなかった。それに対し、1400℃、または1500℃においては目視においては良好な鏡面の表面が得られた。ただし、
図3Bおよび3CのSEM像に見られるように、1400℃、または1500℃ではヴォイド状の構造欠陥が観察され、欠陥密度は1×10
8cm
−2(1400℃)および3×10
7cm
−2(1500℃)と成長温度の上昇により低下した。この現象は高温においてAl原子の拡散が促進されるためと考えている。なお、サファイア結晶板10の高温での表面荒れは、下地保護層22を形成したことにより引き続き抑制されており、平坦化層26の形成の際に1300〜1500℃の温度でその荒れが問題となることはなかった。温度を高めてサファイアの荒れが問題となった報告例(非特許文献1および2)を考慮すれば、平坦化層26の形成時に問題とならないとの本実施形態の結果は下地保護層22が機能した証拠であるといえる。
【0026】
Al原子の拡散を制御してさらに良質な表面とするため、V/III比を変更して結晶基板1Dのための2段階成膜AlNバッファー層20Dの作製を試みた。
図4は、
図4A〜4Dの順に、V/III比を12.5、50、500、および5000と変更した条件で得た平坦化層表面のSEM像である。狙いはV/III比によってAl原子の表面における拡散挙動を制御することにある。平坦化層26形成のための他の条件は、成長温度を1500℃に固定し、III族元素のためのガス(TMAl)供給量を20sccmに固定した。下地保護層22の成膜条件は変更していない。
【0027】
図4に示すとおり、V/III比が5000から500、50と小さくなるに従い、平坦化層26表面ではヴォイド状の欠陥の個別のサイズが縮小し、その密度も低下した。これによりV/III比を50程度にまで低下させることにより平坦化層26の表面を平坦にできることを確認した。これは、V/III比を低下させることによりAl原子の拡散が促進されるため、と考えている。これは、成長温度を高めたことによるAl原子の拡散の促進とも対応する条件変更である。ただしV/III比を極端に低下させ12.5とした場合には、
図4Aに示すように波状構造が発現し平坦な表面とはならなかった。この波状構造は<0001>軸方向に対し凹凸を示す構造であり、+c面および−c面における成長速度の異方性という無極性面特有の現象のようである。これは、無極性面の成長においてV/III比について最適値があることを意味している。なお、下地保護層22形成時のV/III比については、表面保護の機能が発揮されれば十分であり、特段の条件には限定されない。
【0028】
さらに平坦な表面が得られたV/III比50、成長温度1500℃の条件にて平坦化層26を形成した結晶基板1Dサンプル(
図4B)の表面をAFMにより観察した。
図5は結晶基板1Dサンプル(
図4B)の表面のAFM像である。
図5のAFM像は1μm×1μmの領域で取得された。V/III比50にて得られた平坦化層26の表面は平均自乗粗さ(RMS値)が2.2nmであり、極めて平坦な表面であることを確認した。なお、RMS値は
Rq=(Σ
i(z
i−z
ave)
2)
1/2/N
により算出される。ここで、N:測定エリアに含まれる測定点の総数、z
i:インデックスiにより区別される測定エリア中の測定点の高さ値、z
ave:測定エリア中のz
i値の平均値、およびΣ
i:インッデックスiに渡る和演算記号である。このRMS値は10nm以下にすることにより例えば発光素子の量子井戸の形成は容易となる。特に3nm以下のRMS値は、量子井戸の界面が明瞭となり好ましい。
【0029】
以上のようにして、r−サファイア結晶板10の上に下地保護層22と平坦化層26とを有することにより平坦な表面の2段階成膜AlNバッファー層20Dを持つ結晶基板1Dを作製することに成功した。2.2nmという値のRMS値は、量子構造(量子井戸構造)などを持つIII族窒化物半導体結晶による素子を形成するためのテンプレートとして十分な平坦性を示すものである。
【0030】
1−2.結晶性と平坦性の両立のための改良:3段階成膜AlNバッファー層
次に、結晶成長のテンプレートとしてその後に成長させる結晶の品質をさらに改良するためにAlNバッファー層の結晶性を調査した。調査対象は、上述した良好な平坦化との両立性を調査するため、
図5のAFM像が得られた2段階成膜AlNバッファー層20Dの条件つまりV/III比50のものとし、1500℃までの範囲で成長温度を変更した。
【0031】
図6は、サファイア結晶板10に形成したAlNバッファー層において成長温度とX線回折ピークの半値全幅を示すグラフである。X線回折ピークの半値全幅は1300、1400、および1500℃の各成長温度にて作製したサンプルについてωスキャンモードのX線ロッキングカーブから算出しており、a面つまり(11−20)面のc軸およびm軸方向について、および半極性面である(10−11)面について測定した。半値全幅の各値が示すように、良好な結晶性に対応する狭いX線回折ピークが得られるAlNバッファー層は、1300〜1500℃の成長温度の範囲で、平坦性のよい条件である高温よりもむしろ低温で形成されたものである。この実験事実から、本発明者は、結晶基板1Dの2段階成膜AlNバッファー層20Dのように平坦化層26を高温(1500℃)にて形成し平坦化に成功したとしても、さらに結晶性を高める改良の余地があるものと考えた。
【0032】
上述した検討を踏まえ、本発明者は下地保護層22と平坦化層26とで挟まれる位置に追加のAlN層を配置する3段階の成膜を採用することにより結晶性と平坦性を両立させうるものと見込んだ。
図7は、r−サファイア結晶板10を使用して下地保護層22と平坦化層26の間に追加のAlN層(転位ブロック層24)を配置する本実施形態の3段階成膜AlNバッファー層20Tの構造を示す模式図である。3段階成膜AlNバッファー層20Tは、サファイア結晶板10を使用して、AlN結晶のエピタキシャル成長によって、下地保護層22、転位ブロック層24、および平坦化層26がこの順に形成されたものである。3段階成膜AlNバッファー層20Tのうちの平坦化層26の表面を結晶成長に一層適するテンプレートとするために、転位ブロック層24の作製条件を調査した。
【0033】
3段階成膜AlNバッファー層20Tにて転位ブロック層24が果たすべき役割は、その成長を通じ結晶欠陥、とりわけ転位を削減する(貫通転位をブロックする)というものである。すなわち、転位ブロック層24は、下地保護層22による島状構造(
図2)に続けて形成される。このため、下地保護層22の結晶は表面の平坦性に劣るものの、サファイア結晶板10の結晶格子に対し高いコヒーレンスを保って形成される。2段階成膜AlNバッファー層20Dのように下地保護層22に続けて高温(例えば成長温度1500℃)にて平坦化層26が形成されると、平坦化は達成されるが結晶性は、その時点で下地保護層22にて実現しているものでそのまま引き継がれる。そこで、下地保護層22の結晶性を、そこに続けて形成する転位ブロック層24を利用して一層高めることができれば、平坦化層26が十分な平坦化作用を持つため結晶性と平坦性とを両立させることが可能となる、という見立てである。
【0034】
転位ブロック層24に要請される成長条件は、端的には、高い結晶性で成膜ができ、かつ平坦化層26のような強い平坦化作用を発揮しない条件である。
図6に示した通り、1300〜1500℃の範囲では低温での成膜が望ましい。ただし、下地保護層22の成長温度(T1)は、サファイア結晶板10の表面を荒らさない温度としており、2段階成膜AlNバッファー層20Dにおいて平坦化層を高温で成膜しても問題が無かったことから、転位ブロック層24の成長温度(T2)は、下地保護層22の成長温度T1以上とすることができる。また、転位ブロック層24の成長温度T2は、平坦化層26の成長温度(T3)のように高温にしてしまうと平坦化層26と同様の平坦化作用が生じることからこれは好ましくない。これらの組合せから、好ましい温度の関係式は、
T1≦T2<T3
となる。
【0035】
上記温度の関係式にはさらに好ましい範囲があり、具体的には、
T1≦1200℃
T1≦T2≦1300℃
1400℃≦T3
である。すなわち、下地保護層22の成長温度T1はサファイア結晶板10の表面を荒らさない温度であるから好ましくは1200℃以下とする。ただし、AlNの結晶性は1100℃程度より高いほうが良好であるため、下地保護層22の成長温度T1の下限はその結晶性の観点から決定される。平坦化層26の成長温度T3は平坦化作用を発揮できるよう1400℃以上とする。そして、転位ブロック層24の成長温度T2は、平坦化作用が生じにくいように1300℃以下として、良好な結晶が成長できるように下地保護層22の成長温度T1以上にする、という関係である。転位ブロック層24の成長温度T2は、1300℃程度では平坦化の作用が生じ始めるため、より好ましくは、さらに低くして下地保護層22の成長温度T1に近付けると転位をブロックする機能を高めることができる。
【0036】
温度以外の条件も、上述した各層の機能に応じて決定される。好ましくは、下地保護層22の成膜条件では、島状構造を出現させるV/III比が採用される。転位ブロック層24のV/III比については、ある程度幅がある。
【0037】
以上の条件を満たす3段階成膜AlNバッファー層20Tの典型的な製造条件は、下地保護層22については上述した条件と同様に、成長温度1100℃、V/III比5000の条件で30nmの厚みに形成する。続けて、転位ブロック層24を、成長温度1200℃、V/III比50の条件で、1μm厚に形成する。さらに続けて、平坦化層26を、成長温度1200℃、V/III比50の条件で2μm厚に形成する。
【0038】
図8は、上記典型的な製造条件を組み合わせて形成した無極性面を持つ3段階成膜AlNバッファー層20Tのc軸に平行な面の一つである(11−20)面のc軸に関するX線ロッキングカーブをプロットしたグラフである。比較のために、転位ブロック層を採用しない2段階成膜AlNバッファー層20D(
図1)のカーブもプロットしている。半値全幅で比較すると、2段階成膜AlNバッファー層20Dのピークでは1100arcsecであったのに対し、3段階成膜のAlNバッファー層20Tでは620arcsecとなった。図示しないが他の面方位である(10−11)面についても、転位ブロック層の無い場合に2500arcsecであった半値全幅が、転位ブロック層を配置することにより1200arcsecにまで減少することを確認した。これらの結果から、転位ブロック層24を追加した3段階成膜のAlNバッファー層20Tでは結晶性が実際に大幅に改善されたことを確認した。特に、(11−20)面のc軸に関するX線ロッキングカーブで1000arcsec以下となるのは3段階成膜のAlNバッファー層20Tの場合のみであり、3段階成膜のAlNバッファー層20Tにより2段階成膜AlNバッファー層20Dに比べて良質なテンプレートが実現されることが確認できた。
【0039】
3段階成膜AlNバッファー層20Tでは、2段階成膜AlNバッファー層20Dと比較して最表面の表面粗さは同等程度であった。すなわち、転位ブロック層24を採用しても、平坦化層表面で得られる平坦性には影響は生じず、平坦化層表面でのRMS値は約2nm程度の値が計測される。
【0040】
この転位ブロック層24の成長過程の現象に関し、本発明者は次のような現象が生じているものと予測している。転位ブロック層24は、下地保護層22を通じサファイア結晶板10に対し十分なコヒーレンスを維持しながら成長する。この際、下地保護層22の表面に形成される島状構造(
図2)の凹凸が反映されるため、転位ブロック層24の成長初期において種々の面方位の微小面であるファセットが、各ファセットの成長速度の違いをそのまま反映させて成長が進行する。特に、成長しているAlN層全体の巨視的な面方位は(11−20)面であるが、この面から傾いている(10−1−2)面のファセットは早い成長速度を持つ。この(10−1−2)面のファセットが早く成長する結果、下地保護層22の島のうち小さな島を埋め込みながら転位ブロック層24の成長が進み、結晶欠陥である転位は、転位ブロック層24の巨視的な面の法線(面直方向)から斜めに延びる。ファセットは、異なる方向からのファセットと出会って集約されるため、この集約に伴い転位の数が減るために、転位ブロック層24の成長途中で転位が減少するのである。つまり、適切に条件が決められた転位ブロック層24は、ある程度の厚みに形成するだけで転位の数を十分に減らし、結晶性を良好にする作用を発揮する。なお、その過程では島状構造の凹凸がそのまま表面に現われたり増大したりすることも考えられるが、そのことは、転位をブロックするためには望ましいことであり、後に平坦化層26を設けて十分な平坦性が得られるため、特段問題となることもない。
【0041】
以上のように、サファイア結晶板を使用して、X線ロッキングカーブの(11−20)面に関するピークが半値全幅で620arcsec程度、RMS値が2nm程度という、高い結晶性と高い平坦性を兼ね備えた無極性面方位のAlNバッファー層を実現可能であることか実証された。
【0042】
転位ブロック層24の成長の際に、転位をブロックする機能の観点から重要な指標は、転位ブロック層24がどの程度の厚みD2となると目的とする程度に貫通転位の数が減少させられるか、である。この転位ブロック層24の厚みD2について好ましい値の範囲を決定するためには、表面形状の細かさを指標付ける何らかの量で長さの次元を持つものが指標とされる。例えば下地保護層の島状構造(
図2)を特徴付けるサイズがこの指標のための基準となりうる。
【0043】
そこで、転位ブロック層24の厚みD2に応じ結晶性がどのように変化するか調査した。
図9には、成長時間を変化させて得られた転位ブロック層24の各サンプルから取得したX線ロッキングカーブのピークの幅(半値全幅)をいくつかの回折ピークについて示す。X線ロッキングカーブを取得したサンプルは、転位ブロック層24を形成し、平坦化層26を形成しないものであり、このサンプルを作製した成長条件は、下地保護層22を基板温度1100℃、V/III比5000で厚み約30nmに形成し、その後に転位ブロック層24を基板温度1200℃、V/III比50の条件で、グラフの横軸に示される成長時間だけMOCVD工程によりエピタキシャル成長させた。各サンプルにおいては下地保護層22のための成膜条件および成長時間以外の転位ブロック層24のための成膜条件は共通している。このため、グラフ横軸の成長時間に対して形成される転位ブロック層24の厚みD2がほぼ比例しており、成長時間10分、30分、60分は、それぞれ約0.3μm、1μm、2μmの厚みD2に相当する。なお、「(002)c」のラベルは回折ピーク(002)のc軸回りのロッキングカーブから得られたピークであることを示す。同様に、「(002)m」は回折ピーク(002)のm軸回り、「(102)」は回折ピーク(102)のものを指す。
【0044】
この結果から、転位ブロック層24の厚みD2が0.3μmから2μmの範囲で増大するにつれ、その結晶性は概して良好となることが確認された。このため、転位ブロック層24に期待する転位をブロックする機能は、その厚みとともに万全となるといえる。より詳細には、転位ブロック層24の厚みD2が0.3μmから1μmとなると結晶性が大きく改善するのに対し、厚みD2が2μmとなっても結晶性にはさほど変化がみられない。つまり、転位ブロック層24の転位をブロックする機能は、厚みD2が1μm程度まではその厚みとともに増大し、1μm程度の厚みで飽和しそれ以降変化しない、という関係がある。良好な結晶性は下地保護層22の厚みを通じて貫通する結晶欠陥(貫通転位)の密度が低減されていることを意味することから、転位ブロック層24の転位ブロック機能が、実際に1μm程度の厚みで十分に得られることが確認された。このことは、成長時間を短くしても効果を得るためには転位ブロック層24の厚みを1μm程度の厚みに形成することが好ましいことを示すとともに、成長時間に制約を設けない場合には1μm程度を下限としてある程度の余裕をもつ厚みに転位ブロック層24を形成するのが好ましいことを示している。なお、
図2A、2BのAFM像に見出せるように、下地保護層22の表面の島状構造は、サブミクロンのサイズで特徴付けすることができるAlN領域の島が多数並んだものである。このように、下地保護層22の島状構造による凹凸の効果が、島を特徴付けるサイズの数倍程度に当たる1μm程度の厚みの転位ブロック層24により解消されること、およびその程度の厚みで転位ブロック機能が飽和することが確認された。下地保護層22上の島を特徴付けるサイズが変化した場合には、それに応じ転位ブロック層24の厚みとして好ましい範囲の下限値を1μm程度から他の値に変更することもできる。
【0045】
3段階成膜AlNバッファー層20Tをなす他の層についても、好ましい厚みを決定することができる。下地保護層22は、下地となるサファイア結晶板10の表面が荒れない温度で形成される。その下地保護層22の厚みD1は、サファイア結晶板10の表面の荒れが3段階成膜AlNバッファー層20T全体の表面の粗さを増大させてしまうことのないように決定される。この厚みは非常に薄く、上述した30nmで十分である。また平坦化層26の厚みD3は、平坦化に十分な厚みとして決定することができる。平坦化層が形成される時点においてどの程度の粗さが生じているかはこの厚みD3に依存していることから、転位ブロック層24の表面がある程度凹凸を持ち、平坦化層26を形成した後の3段階成膜AlNバッファー層20Tの表面が平坦化されているなら、平坦化層の厚みD3は適切に設定されていることとなる。
【0046】
2.第2実施形態:AlGaN層で作製される素子
次に、本願の第2実施形態である無極性面のAlGaN層の形成手法を説明する。
図10に、r−サファイア結晶板10にa面の2段階成膜AlNバッファー層20Dまたは3段階成膜AlNバッファー層20Tを形成した結晶基板1Dまたは1Tの表面上に、無極性面であるa面方位のAlGaN層30を形成した構造を模式的に示す。以下特に断りのない限りAlGaN層やAlNバッファー層はa面方位のものであり、サファイア結晶板はr面方位である。ここでのAlGaN層30は、第1実施形態の2段階成膜AlNバッファー層20Dおよび3段階成膜AlNバッファー層20Tのようなa面方位のAlNバッファー層や、他の無極性面方位のAlN結晶表面をテンプレートとして使用するものである。AlGaN層30は、AlGaN層により作製される素子(例えばLED素子)のために形成されることから、AlGaN層30では素子作製の必要な品質の結晶が形成されることだけではなく、所望のAl組成比が実現される必要がある。
【0047】
2−1.平坦性
図10に示したAlGaN層30の成膜条件を決定するため、成長温度を比較的高めである1200〜1400℃の範囲で変更し、V/III比も2.5〜250の範囲で変更して実験を行った。各サンプルは、転位ブロック層24を採用しない2段階成膜AlNバッファー層20D(
図1)を利用して形成した。なお、AlGaN層の通常の成長温度は1200℃未満である。
【0048】
図11Aおよび11Bは、それぞれ成長温度を1200℃および1300℃と変更してV/III比を25として成膜したAlGaN層30(厚み約2μm)の最表面を撮影したSEM像である。AlGaN層30を無極性面の方位で形成する場合において比較的高温(1300℃またはそれ以上、
図11B)の成長温度にて、平坦な表面が実現できることが確認された。すなわち、
図11Aのように1200℃の成長温度では、(1−101)面のファセットが多数出現し、それにより表面が荒れる現象が観察された。この荒れは、特にAl組成が小さい条件ほど甚だしいものであった。これに対し、1300℃の条件では、Al組成を高める材料供給比の全範囲で、平坦な表面を形成することができた。
【0049】
2−2.AlN混晶組成比の制御
Al組成の制御を目的に、アルミニウムとガリウムの原料ガス(トリメチルアルミニウム(TMAl)とトリメチルガリウム(TMGa))の材料供給比を変更したところ、それのみではAl組成の制御が難しいことが判明した。
図12は、成長温度を1300℃、NH
3流量を100sccmにともに固定し、TMAlとTMGaの材料供給比を変更した条件で成膜した膜にて得られたAlN混晶組成比を示すグラフである。横軸はTMAlとTMGaの合計流量に対するTMAlの流量であり、縦軸はAl混晶組成比である。流量による材料供給比を大きく変化させたにもかかわらずAl混晶組成比にはその変化が反映されない原因として、1300℃等の高温の環境では高い蒸気圧のためにGaの脱離が支配的なためではないかと本発明者は考えた。
【0050】
より具体的には、材料の離脱が無視できる低温の条件では、Al組成比xは次の式にて与えられる。
【数1】
これに対し、高温でGaの脱離が顕著となると、
【数2】
との関係式によってAl組成比xが与えられる。
図13は、材料供給比とAl組成比xの関係を、それぞれ、Ga脱離が無視できる場合(
図13A)と顕著な場合(
図13B)で示す理論計算値のグラフである。Ga脱離が無視できる場合にはAl組成比xは材料供給比に概ね比例するように変化するのに対し、Ga脱離が顕著な場合、Al組成比xは材料供給比がごく小さい値の範囲すなわち横軸が0.2程度までの範囲で急増しその後に緩慢に変化する。このため、Ga脱離が顕著な場合、材料供給比の条件変更によりAl組成比xを制御する変化は、ごく小さい材料供給比の領域では敏感すぎ、その領域を越すと鈍感すぎる。
【0051】
そこで、Gaの脱離に対応した組成比の制御を実現するため平衡論に基づいて解析をおこなった。反応に関与する分子種に対応して気相/固相界面におけるAlNの成長反応は、
Al(g)+NH
3(g)=AlN(s)+3/2H
2(g)
と表現される。同様に、GaNの成長反応も、
Ga(g)+NH
3(g)=GaN(s)+3/2H
2(g)
と表現される。質量作用の法則により反応速度が計算され、III−NつまりAlNまたはGaNに対し共通して
【数3】
の関係で表現される。ただしa
III−NはIII−NつまりAlNまたはGaNそれぞれの活量であり、Pは添え字にて示される材質の分圧である。平衡定数Kは一定に保たれるから、NH
3分圧P
NH3を高めれば成長反応における平衡が右に偏りGaは離脱しにくくなるといえる。つまり、脱離が少ないAlと脱離しやすいGaとの間での組成比を調整するためにP
NH3を制御することが有効と見込める。
【0052】
上述した解析を踏まえ、V/III比の制御によりNH
3分圧P
NH3を変化させる実験を行った。
図14は、Al組成比をNH
3供給量に対し示すグラフである。成長温度は1300℃に固定し、TMAl、TMGaの比をはじめ他の条件も一定とした。
図14のグラフに明瞭に示されるように、縦軸に示すAl混晶組成比は、横軸に示すNH
3供給量に対し明確な折れ線状の依存性を示した。具体的には、NH
3供給量が100sccm以下の低V/III比の領域においては、Gaの脱離が抑制できず高いAlN組成比のまま一定となった。これに対し、100sccmを越すNH
3供給量の高V/III比の領域では、NH
3供給量を増大させるにしたがってAl組成比が低下した。NH
3供給量を調整するのみにて所望のAl組成比に調整できる制御性は、AlGaN組成での素子を作製する工程、とりわけAl組成比を変調することにより量子井戸構造を形成する結晶成長工程において極めて有用なものとなる。
【0053】
なお、NH
3供給量によるAl組成比の制御は、TMAlとTMGaの材料供給比の制御と組み合わせることもできる。高温の場合であっても、
図13Bのような制御が難しい依存性から
図13Aのような、材料供給比による制御が容易な依存性へと変化させるためには、十分な量のNH
3を供給すればよいからである。つまり、Al組成比を変調する量子井戸構造を形成する結晶成長工程を、例えば1200℃を越す温度のMOCVD法にて平坦性を確保しつつ成長させるものとする。この条件でのMOCVD法において、原料ガスにおけるアンモニアガス分圧を十分な量に増大させれば、材料供給比に応じて成膜後のAl組成比を制御することができる。
【0054】
次に、
図11Bに示した高温成膜での平坦な表面が異なるAl組成比でも得られるかどうかを再確認する表面観察を行った。量子井戸を形成する素子で平坦な表面が成長途中に得られれば、量子井戸層の界面が平滑となって、高温成膜で形成した無極性面方位AlGaNの使用可否に対し平坦性が指標となるためである。
図15は、1300℃、V/III比100:1、Al組成比xを、バリアで0.5、ウエルで0.4に一致させる成膜条件にて、厚み1.5μmとなるよう形成したAlGaN層30の表面のAFM像である。
図15のAFM像は5μm×5μmの領域で取得された。図示するように、比較的平坦な無極性面方位AlGaNが形成され、計測されたRMS値は、7.1nmであった。
【0055】
以上のように、良好な平坦性を示すAlGaN層30が、2段階成膜AlNバッファー層20Dを利用して実際に形成された。また、3段階成膜AlNバッファー層20Tの形成条件と矛盾しない方法にて、AlGaN層30のAl組成比を制御する手法を見出した。なお、実験で確認されたAlGaN層30は転位ブロック層24を採用しない2段階成膜のAlNバッファー層20Dによるものであったが、転位ブロック層24を採用する無極性面の3段階成膜AlNバッファー層20Tをテンプレートとして無極性面AlGaNを形成しても同様の平坦性と、より良好な結晶性が実現しうるものと期待できる。
【0056】
2−3.紫外発光動作の確認および紫外発光素子の構造
本発明者は、上述した結晶成長法を利用して作製した量子井戸構造から紫外発光が実現することを実験により確認した。実験で作製した量子井戸構造を持つサンプル(発光動作確認サンプル)は、サファイア結晶板の面に形成された無極性AlNバッファー層を備える結晶基板を利用して平坦な界面を持つ無極性面AlGaNを形成し、その無極性面AlGaNの組成を変調することにより量子井戸構造を作製したものである。発光動作確認サンプルは紫外発光の特性を通じ作製した結晶や量子井戸構造の形成特性を確認する目的のものであり、発光ダイオード(LED)のための完全な構造は持たないものである。
【0057】
図16は、本実施形態で提供される紫外発光ダイオード1000の構造を示す模式図であり、
図16Aは斜視図、
図16Bは概略断面図である。紫外発光ダイオード1000では、概して平板状のα−Al
2O
3単結晶であり無極性面であるr面方位を持つサファイア結晶板110の一方の面114にAlNバッファー層120が、2段階成膜AlNバッファー層20D(
図1)または3段階成膜AlNバッファー層20T(
図7)と同様にa面方位となるようにエピタキシャル成長される。こうして結晶基板101が製造される。この結晶基板101は結晶基板1D(
図1)と同様の構造を持つ。AlGaN層30(
図10)にて確認したNH
3によるAl組成比の制御手法を適用することにより各層の組成を制御した紫外発光層130が結晶基板101の最表面のAlNバッファー層120に接して配置される。紫外発光層130の結晶もAlNバッファー層120に対しエピタキシャル成長されている。紫外発光層130の構成は、AlNバッファー層120の側から、n型導電層132、再結合層134、およびp型導電層136が順に積層し形成されている。紫外発光層130の材質は、典型的にはAlGaNまたはそれに微量元素(n型のためにはSi、p型のためにはMgなど)をドーピングした組成である。n型導電層132には第1電極140が電気的に接続されている。他方、p型導電層136には、p型コンタクト層150、さらに第2電極として作用させる反射電極160が配置される。反射電極160は反射性を示しオーミックコンタクトを確立する必要に応じ多層膜とされることがある。p型コンタクト層150を介し、p型導電層136との電気的接続が確立される。そして、サファイア結晶板110の他方の面である光取出し面112から光出力Lが放射される。
【0058】
AlNバッファー層120は、好ましくは3段階成膜AlNバッファー層20Tと同様の転位ブロック層24を含めて高い結晶性を持つものとするが、2段階成膜AlNバッファー層20Dのように転位ブロック層24を形成せずに下地保護層22と平坦化層26のみとしても紫外発光層130の良好な量子井戸構造を形成することができる。AlNバッファー層120は例えば2〜3μm程度の厚みに作製される。紫外発光層130についてn型導電層132は、例えばn型になるようSiがドーピングされたAl
0.60Ga
0.40Nの層、つまりAl
0.60Ga
0.40N;Si層である。再結合層134は、Al
0.60Ga
0.40NとAl
0.53Ga
0.47Nの組成の薄膜を超格子構造となるように積層したMQW(多重量子井戸)積層体であり、再結合層134における量子井戸の数は例えば3程度とする。p型導電層136は、AlGaN;Mg層、つまりp型となるようにMgをドープしたAlGaNの層である。本実施形態の紫外発光ダイオード1000では、p型導電層136に任意選択として電子ブロック層138が設けられていてもよい。その場合の電子ブロック層138は例えばMQBにより構成される。p型コンタクト層150は、たとえばマグネシウムをドープした窒化ガリウムであるGaN;MgやAlを含む材質、つまり、AlNとGaNとの混晶(AlGaN)の材質にMgをドープした材質である。第1電極140は、下地側からNi/Auの積層構造の金属電極である。このNiは、オーミックコンタクトを実現するためにAuとその下地の半導体層との間に挿入されている例えば25nm厚の薄い層である。本実施形態のためには以上の構造を持つ紫外発光ダイオード1000が作製される。
【0059】
紫外発光動作の確認のための発光動作確認サンプルでは、紫外発光ダイオード1000の構造のうち紫外発光層130までが作製されているものの、n型導電層132についてSiのドーピングを省略したAl
0.60Ga
0.40Nの層とした。再結合層134はMQW(多重量子井戸)積層体まで含めて上述したとおり量子井戸も含めて作製した。そして、p型導電層136、電子ブロック層138、および電極は作製を省略した。
図17は、作製した発光動作確認サンプルから得られた複数の励起光強度における室温でのフォトルミネッセンス発光スペクトルである。
図17に示されるように、発光動作確認サンプルからは、無極性面方位のAlGaN組成で作製された量子井戸構造からのUV−C領域発光が実際に観測され、ピーク波長は約287nmであった。そして、いくつかの励起光強度における発光挙動は、発光強度が励起光強度に応じ変化したものの、発光スペクトルの波長分布にも、ピーク波長にもシフトや変化は見られなかった。このようなUV−C波長域での無極性AlGaN組成の特徴が現われた発光はこれまで報告されていない。本発明者は、紫外発光ダイオード1000の特性を確認するために作製した発光動作確認サンプルでは、無極性AlGaNの量子井戸において、無極性面方位を採用する狙い通りの発光が実際に生じ、狙い通りの量子井戸構造が作製されたものと考えている。
【0060】
2−4.変形例1:AlN結晶の基板
第2実施形態の変形例1として、上述したサファイア結晶板110に代え、a面方位のAlN結晶の基板を採用することもできる。サファイア結晶板110を採用する場合におけるすべての説明は、AlN結晶の基板を採用する本変形例についても適用される。この変形例では、AlNバッファー層120が省略される場合がある。変形例1のための紫外発光層130は
図16のものと同様にAlGaNによりエピタキシャル成長により作製され、基板またはバッファー層(利用される場合)のr−AlN結晶に接して配置される。AlN結晶の基板を利用する場合であっても、NH
3供給量によりAlGaNでのAl組成比を制御することの有効性が同様に期待できる。
【0061】
3.各実施形態の変形例2:電気機器への適用
第2実施形態の紫外発光ダイオード1000の特徴を持ち効率が高められた紫外線の放出源は、それを用いる電気機器の有用性をも高める。このような電気機器は任意であり特段限定されない。そのような電気機器の非限定的な例を挙げれば、殺菌装置、浄水装置、化学物質の分解装置(排ガス浄化装置等を含む)、情報記録・再生装置、等が含まれている。これら電気機器を動作させる際には、効率が高い紫外線の放出源が得られれば、動作のための電力が抑制できて環境負荷が低下しランニングコストも抑制される。また、放出源の効率が高まれば、これら電気機器の構成において放出源自体の数を抑制できるばかりか、放熱構造や駆動電源の構成等も簡素化される。これらは、電気機器の小型化・軽量化に寄与し、機器価格も抑制される。
【0062】
4.まとめ
本発明の第1実施形態では無極性面でのAlNバッファー層関連技術が提供される。無極性面のAlNバッファー層は、r−サファイア結晶板の表面に、その表面の荒れを抑え、平坦化された表面を持つように形成した結晶基板を実現することができた。さらに必要に応じ結晶転位をブロックしうることも確認された。また、第2実施形態では、無極性AlGaN層関連技術が提供される。無極性AlGaN層は、Al組成比をNH
3流量に応じて制御できることを確認した。さらに、無極性AlGaNによる量子井戸構造の紫外発光素子を実際に作製し、UV−C領域での発光を確認した。これらの技術は紫外発光素子、とりわけ実用的な無極性DUVLEDを実現する上での重要な技術となる。
【0063】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。上述の各実施形態および構成例は、発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、各実施形態のほかの組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた特許請求の範囲に含まれるものである。