特許第6966066号(P6966066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966066
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】筋痙攣閾値増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/194 20060101AFI20211028BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20211028BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20211028BHJP
   A23L 21/10 20160101ALI20211028BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20211028BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20211028BHJP
   A61K 31/7004 20060101ALI20211028BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20211028BHJP
   A61K 33/14 20060101ALI20211028BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20211028BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   A61K31/194
   A23L2/00 F
   A23L2/38 B
   A23L21/10
   A23L33/125
   A23L33/16
   A61K31/7004
   A61K33/06
   A61K33/14
   A61K33/42
   A61P21/00
   A61P43/00 121
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-141035(P2017-141035)
(22)【出願日】2017年7月20日
(65)【公開番号】特開2019-19105(P2019-19105A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年4月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年3月20日に第90回日本整形外科学会学術総会予稿集にて公表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年5月21日に第90回日本整形外科学会学術総会ランチョンセミナー36にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年6月14日にEUROPEAN COLLEGE of SPORT SCIENCE2017要旨集にて公表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年7月8日にEUROPEAN COLLEGE of SPORT SCIENCE2017にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年7月13日に平成29年度埼玉マラソングランドスラム連絡協議会研修会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野坂 和則
(72)【発明者】
【氏名】ロウ,イェン,ウィン
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晴康
(72)【発明者】
【氏名】三木 新也
(72)【発明者】
【氏名】山岡 一平
(72)【発明者】
【氏名】阪下 雅基
【審査官】 藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−125639(JP,A)
【文献】 マラソンランナーに対する救護での経口補水液(OS−1)の可能性,THE ANNUAL REPORTS OF HEALTH, PHYSICAL EDUCATION AND SPORT SCIENCE,2011年,VOL. 30,PAGES 61-65
【文献】 脱水症に対する経口補水液OS−1,新薬と臨床 J. New Rem. & Clin.,2009年,Vol. 58, No. 6,Pages 43-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
A61K 31/194
A23L 2/52
A23L 2/38
A23L 21/10
A23L 33/125
A23L 33/16
A61K 31/7004
A61K 33/06
A61K 33/14
A61K 33/42
A61P 21/00
A61P 43/00
・DB
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオンとブドウ糖とを、ナトリウムイオンとブドウ糖のモル比が1:1.5〜3.0であるように含有し、下記組成の成分を含有していることを特徴とする、筋痙攣閾値増強剤。
Na 40〜60mEq/L
16〜24mEq/L
Mg2+ 1.6〜2.4mEq/L
リン 1.6〜2.4mmol/L
クエン酸 18〜60mEq/L
【請求項2】
飲料又はゼリーである、請求項1に記載の筋痙攣閾値増強剤。
【請求項3】
筋痙攣発生前に摂取されるものである、請求項1または2に記載の筋痙攣閾値増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋痙攣の抑制および/または防止に優れた効果を発揮する筋痙攣閾値増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
筋痙攣は、突然起こる、短時間の筋肉または筋肉群の収縮であり、通常は痛みを伴う。筋痙攣は安静時においても起こるとともに、特に激しい運動をしている最中や運動後に起こり易い。筋痙攣の原因としては、例えば、血流不足、脱水、マグネシウム不足、カリウム不足、カルシウム不足、脊髄神経圧迫、アルコール中毒、妊娠、腎不全、甲状腺障害、薬の副作用、疲労および運動等が挙げられる。筋痙攣の発生頻度は年齢とともに増加し、高齢者を苦しめる疾患の一つである。また、妊娠に関連して、週数が進むに連れて、症状が悪化する傾向にある。
【0003】
筋痙攣は肉体的および精神的に支障をきたすものであるが病態機序の詳細が明らかではないため根本的な解決が困難であるのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記課題に鑑み、本発明は、日常的に手軽に飲食品等として摂取することにより、筋痙攣を抑制および/または防止することのできる剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ナトリウムイオンとブドウ糖とを特定のモル比の範囲で含有し、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、リンおよび有機酸を特定範囲で含有する剤を摂取することにより、筋痙攣の閾値が増強されることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は下記に関する。
(1)ナトリウムイオンとブドウ糖とを、ナトリウムイオンとブドウ糖のモル比が1:1.5〜3.0であるように含有し、下記組成の成分を含有していることを特徴とする、筋痙攣閾値増強剤。
Na 40〜60mEq/L
16〜24mEq/L
Mg2+ 1.6〜2.4mEq/L
リン 1.6〜2.4mmol/L
有機酸 18〜60mEq/L
(2)有機酸が、クエン酸および乳酸の少なくともいずれか一方である、上記(1)に記載の筋痙攣閾値増強剤。
(3)飲料又はゼリーである、上記(1)または(2)に記載の筋痙攣閾値増強剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の筋痙攣閾値増強剤は、特定の組成を有することにより、経口摂取または投与により腸管よりすばやく吸収され、筋痙攣閾値を向上する。これにより、平常時において筋痙攣を生じさせる刺激以上の刺激を与えても、向上した閾値以下の刺激であれば筋痙攣を生じさせず、筋痙攣の抑制および/または防止に有効である。
【0008】
本発明の筋痙攣閾値増強剤は、日常的に手軽に飲料またはゼリー等の飲食品として摂取することができ、調製時の希釈率の誤りという危険性を回避できるだけでなく、用事調製の必要がないので、小児や高齢者でも手軽に摂取することができ、または激しいスポーツ時や労働時でもすばやく摂取できる。これらの優れた利点から、本発明の筋痙攣閾値増強剤は、筋痙攣の抑制および/または防止を目的として広く一般に普及し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、試験例1の実験プロトコールを示す図である。
図2図2は、試験例1において筋痙攣閾値を測定した結果を示す図である。
図3図3A図3Cは、試験例1において筋痙攣閾値を測定した結果を示す図である。図3A図3Cにおいて、※はOS−1摂取群とミネラルウォーター摂取群の間で有意差がある(p<0.05、t検定)ことを、#は運動開始時(Pre)との間で有意差がある(p<0.05、t検定)ことを示す。
図4図4A図4Cは、それぞれ、試験例1における血清中のナトリウム、カリウムおよびマグネシウムの濃度変化を示す図である。図4A図4Cにおいて、※はOS−1摂取群とミネラルウォーター摂取群の間で有意差がある(p<0.05、t検定)ことを、#は運動開始時(Pre)との間で有意差がある(p<0.05、t検定)ことを示す。
図5図5は、試験例2の実験プロトコールを示す図である。
図6図6は、試験例2において筋痙攣閾値を測定した結果を示す図である。
図7図7A図7Cは、試験例2において筋痙攣閾値を測定した結果を示す図である。図7A図7Cにおいて、※はOS−1摂取群とミネラルウォーター摂取群の間で有意差がある(p<0.05、t検定)ことを、#は運動開始時(Pre)との間で有意差がある(p<0.05、t検定)こと示す。
図8図8A図8Cは、それぞれ、試験例2における血清中のナトリウム、カリウムおよびマグネシウムの濃度変化を示す図である。図8A図8Cにおいて、#は運動開始時(Pre)との間で有意差がある(p<0.05、t検定)ことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の筋痙攣閾値増強剤は、ナトリウムイオンとブドウ糖とを、ナトリウムイオンとブドウ糖のモル比が1:1.5〜3.0であるように含有し、下記組成の成分を含有していることを特徴とする。
Na 40〜60mEq/L
16〜24mEq/L
Mg2+ 1.6〜2.4mEq/L
リン 1.6〜2.4mmol/L
有機酸 18〜60mEq/L
【0011】
本発明において、Na、K、Mg2+、リンまたは有機酸の供給源としては、自体公知のものを用いてよい。かかる電解質成分は、無機電解質成分であってもよいし、有機電解質成分であってもよい。無機電解質成分としては、例えば、塩化物、硫酸化物、炭酸化物、リン酸化物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩類などが挙げられる。また、有機電解質成分としては、例えば、クエン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。
【0012】
本発明の筋痙攣閾値増強剤におけるナトリウムイオンの濃度は、40〜60mEq/Lであり、好ましくは45〜55mEq/Lであり、より好ましくは47〜53mEq/Lであり、最も好ましくは50mEq/Lである。ナトリウムイオンの供給源としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウムまたはリン酸二水素ナトリウムなどが挙げられる。中でも、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウムもしくはリン酸二水素ナトリウム、またはこれら任意の2種以上の混合物が好ましい。
【0013】
本発明の筋痙攣閾値増強剤におけるカリウムイオンの濃度は、16〜24mEq/Lであり、好ましくは18〜22mEq/Lであり、より好ましくは19〜21mEq/Lであり、最も好ましくは20mEq/Lである。カリウムイオンの供給源としては、例えば、塩化カリウム、硫酸カリウム、グリセロリン酸カリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウムまたはリン酸2水素カリウムなどが挙げられる。中でも塩化カリウムが好ましい。
【0014】
本発明の筋痙攣閾値増強剤においては、カルシウムを添加してもよい。カルシウムを添加する場合、カルシウムイオンの濃度は、0〜3mEq/Lであり、好ましくは1.9〜2.1mEq/Lである。カルシウムイオンの供給源としては、例えば、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウムまたは酢酸カルシウムなどが挙げられる。中でもグルコン酸カルシウムまたはグリセロリン酸カルシウムが好ましく、グリセロリン酸カルシウムがより好ましい。
【0015】
本発明の筋痙攣閾値増強剤におけるマグネシウムイオンの濃度は、1.6〜2.4mEq/Lであり、好ましくは1.8〜2.2mEq/Lであり、より好ましくは1.9〜2.1mEq/Lであり、最も好ましくは2.0mEq/Lである。マグネシウムイオンの供給源としては、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、グリセロリン酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなどが挙げられる。中でも硫酸マグネシウムが好ましい。
【0016】
本発明の筋痙攣閾値増強剤におけるリンの濃度は、1.6〜2.4mmol/Lであり、好ましくは1.8〜2.2mmol/Lであり、より好ましくは1.9〜2.1mmol/Lであり、最も好ましくは2.0mmol/Lである。ここで、リン酸は水溶液中で一部解離して、HPO、HPO2−またはPO3−を生じる。したがって、本発明においては、これらのリンの総和を「mmol/L」として表す。
【0017】
リンの供給源としては、例えば、リン酸、またはリン酸とアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属との塩などが挙げられる。中でもリン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸カルシウムまたはリン酸水素カルシウムが好ましく、リン酸二水素ナトリウムがより好ましい。
【0018】
本発明の筋痙攣閾値増強剤における有機酸の濃度は、18〜60mEq/Lであり、好ましくは28〜56mEq/L、より好ましくは38〜52mEq/Lであり、最も好ましくは41〜49mEq/Lである。
【0019】
有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、アミノ酸(例えば、グルタミン酸またはアスパラギン酸など)、アルギン酸、リンゴ酸およびグルコン酸が挙げられ、クエン酸または乳酸が好ましく、クエン酸がより好ましい。これらは単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0020】
クエン酸と乳酸とを併用する場合は、クエン酸と乳酸の含有量の合計が60mEq/Lを、最も好ましくは50mEq/Lを超えないものとする。
【0021】
有機酸としてクエン酸を用いる場合、その濃度は、18〜60mEq/Lであり、好ましくは28〜56mEq/L、より好ましくは38〜52mEq/Lであり、最も好ましくは41〜49mEq/Lである。クエン酸の供給源としては、クエン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類などが挙げられる。前記塩類としては、例えば、クエン酸三ナトリウムが挙げられる。
【0022】
他の有機酸の供給源としては、例えば、乳酸、アミノ酸(例えば、グルタミン酸またはアスパラギン酸など)、アルギン酸、リンゴ酸またはグルコン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類などが挙げられる。これらは2種以上混合してもよい。中でも、乳酸若しくは乳酸ナトリウムまたはこれらの混合物が好ましい。
【0023】
本発明の筋痙攣閾値増強剤におけるナトリウムイオンとブドウ糖のモル比は、1:1.5〜3.0であり、好ましくは1:1.8〜2.5である。本発明の筋痙攣閾値増強剤におけるブドウ糖の含有量は上記より直ちに決定できる。
【0024】
本発明の筋痙攣閾値増強剤は、その浸透圧が200〜300mOsm/Lであることが好ましく、より好ましくは240〜260mOsm/Lである。浸透圧を前記範囲とすることにより、体液の浸透圧に近い浸透圧となり、筋痙攣閾値増強剤の体内における吸収を向上することができる。
【0025】
本発明の筋痙攣閾値増強剤の形態としては飲食品が挙げられる。飲食品の形態としては、例えば、液体状、ペースト状、ゲル状、または水を添加して飲料とするための粉末状に任意に成形することができる。飲食品としては、飲料またはゼリーが好ましい。
【0026】
飲料としては、例えば、ドリンク類、スープ類、非アルコール飲料、ゼリー状飲料または機能性飲料等が挙げられる。非アルコール飲料としては、例えば、スポーツドリンク、茶飲料、乳飲料、清涼飲料水、コーヒー飲料、果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁及び野菜汁飲料、炭酸飲料またはアルコールを含まないビールテイスト飲料などが挙げられるが、これらに限定はされない。ノンアルコールビール等、アルコール含有量が1%未満のビール飲料であってもよい。
【0027】
飲料には、所望により上記成分以外にも各種の栄養素、ビタミン類、合成香料もしくは天然香料などの香料、着色料、チーズやチョコレートなどの風味物質または合成甘味料などの添加物を配合してもよい。
【0028】
ビタミン類としては、水溶性であっても脂溶性であってもよく、例えば、パルミチン酸レチノール、トコフェロール、ビスベンチアミン、リボフラビン、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン、アスコルビン酸ナトリウム、コレカルシフェロール、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、葉酸、ビオチンまたは重酒石酸コリンなどが挙げられる。また、飲料を果汁入り飲料、野菜汁入り飲料または果汁および野菜汁入り飲料などとするため、天然果汁や果肉などを添加してもよい。
【0029】
上記添加物は、単独で用いてもよいし、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記添加物の配合割合は特に限定されるものではないが、例えば、飲料100重量部に対して通常0〜20重量部の範囲から選択することができる。
【0030】
また、ゼリーの形態とする場合、さらにゲル化剤として、例えば、寒天、ゼラチン、カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、その他通常使用し得る増粘多糖類の一種以上を用いることができる。好ましくは、寒天、カラギナン、キサンタンガム、ローカストビーンガムのうち1種以上を用いる。これらゲル化剤の配合割合は、ゼリー100重量部に対して2重量部以下の割合が好ましい。
【0031】
本発明に係る飲料またはゼリーとして上記成分全てを調製する場合、その調製方法は特に制限されるものではなく、全ての成分を同時に混合してもよく、またいずれかの成分を別個に混合して調製された混合物に他の成分または他の成分の混合物を添加混合して調製してもよい。上記各成分の混合操作は、常温下に実施することもでき、また若干の加温下に実施することもできる。
【0032】
本発明の筋痙攣閾値増強剤は、筋痙攣閾値の増強作用を発揮するため、安静時、運動前、運動中、運動後等において摂取することにより、筋痙攣を抑制および/または防止する効果が得られる。本発明の筋痙攣閾値増強剤は、好ましくは運動中および運動後の少なくとも一方において、より好ましくは運動中において摂取すると、よりその効果を発揮しやすい。
【0033】
本発明の筋痙攣閾値増強剤の摂取量は、摂取する人の年齢、体重、運動の度合いなどにより異なるので一概には言えず、また、毒性はきわめて低いので、摂取する人が欲するだけ摂取してもよい。具体的には、例えば、本発明に係る飲料を1〜50mL/kg/時または1〜100mL/kg/日の割合で摂取することが好ましい。
【0034】
典型的な摂取量の例としては、学童から成人(高齢者を含む)であれば、500〜1000ml/日を、乳児であれば300〜600ml/日または体重1kgあたり30〜50ml/日を挙げることができる。
【実施例】
【0035】
〔実施例1〕
表1に示す組成で、各成分を蒸留水800mLに溶解し、攪拌後さらに蒸留水を加え全量を1Lとした。該溶液を115℃で30秒間滅菌し、93℃まで冷却後ペットボトルに充填し、本発明に係る飲料を得た。得られた飲料を以下の試験例では、OS−1と称する。
【0036】
【表1】
【0037】
〔実施例2〕
粉末寒天、および表2に示した電解質、ブドウ糖等を、蒸留水800mLに溶解し、攪拌後さらに蒸留水を加え全量を1Lとした。該溶液を80℃で5分間かけ粉末寒天を溶かした後スパウト付パウチに充填し95℃で33分滅菌して本発明にかかるOS−1様の水電解質ゼリーを得た。
【0038】
【表2】
【0039】
〔実施例3〕
表3に示す組成の混合物に適量のバインダーを添加し、流動層造粒の方法にて、造粒することにより、本発明に係る粉末状の組成物を得た。本組成物を蒸留水800mLに溶解し、撹拌後さらに蒸留水を加え全量を1LとすることでOS−1様の液体組成物を得ることが出来た。
【0040】
【表3】
【0041】
〔試験例1〕運動後における飲料の摂取による筋痙攣閾値への影響
図1に示す実験プロトコールにより、10人の被験者(アジア系、平均年齢25歳、平均身長173.8cm、平均体重74.0kg)を室温にて、被験者の体重の2重量%の水分を発汗により失うまでダウンヒル・ランニング(Downhill Running)をさせて、運動終了後10分、15分、20分の時点でOS−1またはミネラルウォーターを摂取させて、各評価項目への影響を調べた。
【0042】
図1に示す実験プロトコール中の用語の意味および評価方法を下記に示す。
・BM(Blood Measures、血液測定):7mlの静脈血を3000rpmにて10分間遠心分離後、3mlの血清を採取し−60℃にて冷凍保存後、ナトリウム、カリウムおよびマグネシウムの濃度を測定した。
・BP(Blood Pressure、血圧):上腕血圧計にて血圧を測定した。
・ETS(Electrical train stimulation):膝裏と足首に電極を貼り付け、周波数を10Hzから44Hzまでの2Hz毎に上昇させた。18−60mAの電流を3秒間(30秒毎)に流した、ふくらはぎに筋痙攣が見られ元に戻らない状態となったときの周波数をTF(Treshold frequency、筋痙攣閾値)とした。
・Hb(Haemoglobin、ヘモグロビン):1ml静脈血よりHemoCue(Sweden社製)を用いて測定した。
・HR(Heart Rate、心拍数):POLAR社製スポーツウォッチにて測定した。
・Ht(Hematocrit、ヘマトクリット):1ml静脈血よりHemoCue(Sweden社製)を用いて測定した。
・RPE(Rating of Perceived Exertion、自覚的運動強度):Borg scaleから運動強度を調べた。
・TS(Thermal Sensation、温度感覚):0〜8℃まで0.5℃刻みの温度感覚を調べた。
・TT(Tympanic Temp、耳内温度):運動後耳温計にて鼓膜温(℃)を測定した。
【0043】
表4に被験者の特性と試験デザインについて示す。
【0044】
【表4】
【0045】
図2および図3A図3Cに筋痙攣閾値を測定した結果を、図4A図4Cに血清中のナトリウム、カリウムおよびマグネシウムの濃度変化をそれぞれ測定した結果を示す。図3Cの縦軸は、運動終了後0分、50分、80分における各筋痙攣閾値から、運動開始時(Pre)における各筋痙攣閾値をそれぞれ引いた値を示す。図4A図4Cにおいて、縦軸は運動終了後0分、80分における各イオン濃度から運動開始時(Pre)における各イオン濃度をそれぞれ引いたイオン濃度を示す。
【0046】
図1に示す各項目を評価した結果、図2および図3A図3Cに示すようにミネラルウォーター摂取群とOS−1摂取群とで筋痙攣閾値に有意差があり、運動後にOS−1を摂取することにより、筋痙攣閾値が増強されて筋痙攣が抑制されることがわかった。一方、運動後におけるミネラルウォーターの摂取により、筋痙攣閾値が低下し、筋痙攣が生じ易くなることがわかった。また、図4Aに示すように、ミネラルウォーター摂取群とOS−1摂取群とで血清中のナトリウム濃度について有意差が見られた。
【0047】
なお、図4Bおよび図4Cに示すように、ミネラルウォーター摂取群とOS−1摂取群とでカリウムおよびマグネシウムの濃度変化について有意差は見られなかった。また、ミネラルウォーター摂取群とOS−1摂取群とで心拍数、RPE、温度感覚、血圧、鼓膜温、ヘモグロビン量、ヘマトクリット量、血清浸透圧および塩素量について有意差は見られなかった。
【0048】
〔試験例2〕
図5に示す実験プロトコールにより、試験例1と同様の被験者を室温にてダウンヒル・ランニング(Downhill Running)をさせた。運動開始後20分、以降10分毎に体重計測を行い減少量と等量のOS−1またはミネラルウォーターを摂取させ、累積減少量が体重の2重量%に達するまで継続した。並びに運動終了後30〜35分の時点で体重減少量と等量のOS−1またはミネラルウォーターを摂取させて、各評価項目への影響を調べた。図5に示す実験プロトコール中の用語の意味および評価方法は試験例1と同様である。
【0049】
表5に試験デザインおよび摂取量について示す。
【0050】
【表5】
【0051】
図6および図7A図7Cに筋痙攣閾値を測定した結果を、図8A図8Cに血清中のナトリウム、カリウムおよびマグネシウムの濃度変化をそれぞれ測定した結果を示す。図7Cの縦軸は、運動終了後0分、30分、65分における各筋痙攣閾値から、運動開始時(Pre)における各筋痙攣閾値をそれぞれ引いた値を示す。図8A図8Cにおいて、縦軸は運動終了後0分、65分における各イオン濃度から運動開始時(Pre)における各イオン濃度をそれぞれ引いたイオン濃度を示す。
【0052】
図5に示す各項目を評価した結果、図6および図7A図7Cに示すようにミネラルウォーター摂取群とOS−1摂取群とで、筋痙攣閾値に有意差があり、OS−1を運動中に摂取することにより筋痙攣閾値が増強され、筋痙攣が抑制されることがわかった。一方、運動中におけるミネラルウォーターの摂取により、筋痙攣閾値が低下し、筋痙攣が生じ易くなることがわかった。
【0053】
なお、図8A図8Cに示すように、ミネラルウォーター摂取群とOS−1摂取群とで血清中のナトリウム、カリウムおよびマグネシウムの濃度変化について有意差は見られなかった。また、ミネラルウォーター摂取群とOS−1摂取群とで心拍数、RPE、温度感覚、血圧、鼓膜温、ヘモグロビン量、ヘマトクリット量、血清浸透圧および塩素量について有意差は見られなかった。
【0054】
以上の結果から、本発明の筋痙攣閾値増強剤を運動中または運動後に摂取することにより筋痙攣閾値が向上することがわかった。また、図2図3A図3C図6および図7A図7Cの結果から、運動後の摂取と比較して、運動中の摂取により本発明の筋痙攣閾値増強剤による筋痙攣閾値の向上効果がより高まることがわかった。
【0055】
本発明の筋痙攣閾値増強剤の摂取により筋痙攣閾値が向上する理由は、ナトリウム濃度変化について運動後のOS−1の摂取によりミネラルウォーター摂取群との有意差が見られたが、運動中のOS−1の摂取によりミネラルウォーター摂取群との有意差がみられなかったことから、血液中の電解質濃度の変化だけでは説明できない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8