(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966069
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】体育館用床材
(51)【国際特許分類】
E04F 15/16 20060101AFI20211028BHJP
E04F 15/04 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
E04F15/16 A
E04F15/04 601Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-198354(P2017-198354)
(22)【出願日】2017年10月12日
(65)【公開番号】特開2019-73858(P2019-73858A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2019年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】505079095
【氏名又は名称】矢島木材乾燥株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184767
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100137501
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 百合子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁明
【審査官】
河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−045139(JP,A)
【文献】
特開2006−142662(JP,A)
【文献】
特開2015−052262(JP,A)
【文献】
特開2007−245373(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0281986(US,A1)
【文献】
特開2004−082383(JP,A)
【文献】
特開2015−040374(JP,A)
【文献】
特開2017−002626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/16
E04F 15/04
E04F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に合成樹脂接着剤により透明なポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂シートが積層されてなる体育館用床材。
【請求項2】
ポリエチレンテレフタレート樹脂シート層の厚さが0.3〜1.0mmである請求項1の床材。
【請求項3】
接着剤がウレタン樹脂接着剤である請求項1又は2の床材。
【請求項4】
その表面に合成樹脂接着剤により透明なポリエチレンテレフタレート樹脂シートを積層することを特徴とする体育館用床材の剥離防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体育館用床材に関する。さらに詳しくは、ささくれなどの木片の剥離等が生じにくい体育館用床材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体育館の床から剥離した床板やささくれによる負傷事故が問題となっている(非特許文献1)。例えば、体育館の床から剥離した木片が腹部に突き刺さり重傷を負うという事例が報告されている。
床板用の床材は、フローリングと称され、木質系床材が用いられる。フローリングには一枚板の単層フローリングと合板製の複合フローリングがある。これらの木質床材は、吸湿・乾燥等により反り、割れ、収縮等が生じる。これらの問題は特に単層フローリングの場合に顕著であるが、複合フローリングにおいても、特に基材に貼り付けた表面材においてしばしば生じる。反り、割れ、収縮等は木片の剥離につながり、そのままでは危険で、特に体育館の床材に用いる場合は重大事故につながりかねない。これら、反り、割れ、収縮等は使用による劣化の他に、濡れ雑巾やモップで拭くことによる吸湿やその後の乾燥による寸法変化、管理の不適切等種々あげられる。
これらの木質系床材は多くの場合表面塗装がなされているが、塗装は上記の問題を必ずしも十分に解決しない。
【0003】
このような剥離を防止する手段として、例えば特許文献1には捨板とフローリング板とを直交させかつ1枚のフローリング板が1枚の捨板を跨ぐように敷設する床構造が開示されている。しかしながら、このような技術では、施工法の自由度が少なくなるという不都合を生じる
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−45139号公報
【非特許文献1】http://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_010/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、床板の床構造や施工法による剥離防止ではなく、剥離や割れ生じにくい体育館用の床材自体に関する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、床材表面にプラスチックシートを積層することにより上記目的を達成することができることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は以下のとおりである。
1.表面に合成樹脂接着剤によりポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂シートが積層されてなる体育館用床材。
2.ポリエチレンテレフタレート樹脂シート層の厚さが0.3〜1.0mmである前記1の床材。
3.接着剤がウレタン樹脂接着剤である前期1又は2の床材。
4.その表面にポリエチレンテレフタレート樹脂シートを積層することを特徴とする床材の剥離防止方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の床材は、乾湿の変化による寸法安定性に優れており、その結果、反り、割れ、木片の剥離等が顕著に防止される。さらに、表面がPETシートで覆われるので、ささくれや剥離が極めて生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】床材の含水率1%あたりの寸法変化を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明の床材の積層構造を表した図である。1はベースとなる基材、2はその表面材で、基材1と表面材2で従来の床材を構成する。3は接着剤、層4はPET樹脂シートである。
ベースとなる床材としては、フローリングとして用いられている木質系床材が用いられ、単層フローリングと合板製の複合フローリングのいずれも用いることができる。複合フローリングは合板製の基材に表面材である単板を貼りつけたものである。単板は1枚でもよいが、通常は複数枚を密に並べて貼り付ける。
【0010】
本発明においてはPETシートを表面に積層することが特徴である。PET樹脂は耐久性や透明性に優れており、得られる床材もこれらの性質が向上する。PET樹脂シートは厚さが0.3〜1.0mmが好ましい。0.3mm未満では、床面を再生するための再研磨(ポリッシャー)が一回につき、約0.1〜0.15mm削られることから2回の研磨しかできない。また、1.0mmを超えると、足への負担やボールの弾みなどのスポーツ用床材が必要とする性能が失われることが予想される。PETシートの表面は滑り防止のためのサンディング処理や塗装を施してもよい。
【0011】
PET樹脂シートは接着剤で基材に積層される。接着剤としては、例えばアクリル樹脂系、ウレタン系樹脂接着剤、酢酸ビニル系接着剤等が挙げられ、ウレタン樹脂系接着剤が好ましく用いられる。ウレタン樹脂は接着剤自体が硬化後透明となるため、木目をしっかり映し出す効果がある。
【0012】
本発明の床材は、例えば通常のラミネーターを用いて、ベースとなる床材の片面に接着剤をコーティングし、PET樹脂シートをラミネートすることにより製造することができる。あるいはプレスを用いて接着することできる。
【0013】
本発明の床材は、PETシートを貼り付けたことにより、特に長さ及び幅方向の寸法安定性に優れる。そのため、例えば、従来の木質系床材では、経時とともに反ったり、縮んで目隙が生じたり、クラックが発生するが、本発明の床材はこのような反り、目隙、クラック等の発生が少ない。その結果、木片のささくれ等の剥離を生じにくく、安全性の面でも優れている。したがって、通常の建築物の床材として用いることは可能であるが、特に体育館の床材として好適である。
【実施例】
【0014】
以下に本発明を実施例で説明する。
実施例1
矢島木材乾燥株式会社製のフローリング材「バリューフローリング」(7層ラワン材12mm厚に表面材として6mm厚の雑カバ材単板7枚を貼り付けた床材、寸法18mm厚×202mm幅×1800mm長)に0.5mm厚のPETシートをウレタン接着剤で積層し、
図1に示すような構造の本発明の床材を製造した。この床材から長手方向に150mm裁断して含水率測定用の試験片とした。また全乾燥用の試験片を含水率測定用試験片の隣から採取した。この試験片を用いて試験を行った。
比較のために、PETを積層しない元の床材、及び元の床材にウレタン塗装を施したサンプルについても同様に試験片を採取し、試験に供した。
【0015】
〔試験方法〕
105°Cで重量が一定となるまで処理し、これを全乾重量とする。次に熱水より生ずる蒸気に3時間暴露後、70°Cで放置する工程を1サイクルとし、3サイクル繰り返し、重量及び厚さ、幅、長さの寸法変化を測定する。寸法測定は基準となる基準線を設けて測定する。厚さと長さはそれぞれ1箇所、幅は3箇所測定した。
また、目視により反り(長さ方向の反り)、カップ(幅方向のU字状の反りで、反りの高さを測定する)、クラックを観察する。
目隙は目視観察及び表面材同士の間隔を測定箇所12箇所を定めて測定した。
含水率は次の式による。
含水率(%)=(初期若しくは試験後重量−全乾重量)×100/全乾重量
【0016】
〔試験結果〕
〇クラック
いずれのサンプルもクラックは発生しなかった。
〇反り
いずれのサンプルも反りは発生しなかった。
〇カップ
塗装ありのサンプルとPETを積層したサンプルには発生しなかったが、元の床材に関しては上に最大5mmのカップが生じたものもあった。
【0017】
〇含水率の変化
図2にサイクルに対する含水率の変化を示した。
元の床材(塗装無)は含水率の変動が大きいが、それに比べると他の2者(塗装有、PET0.5)は小さく、特に本発明のサンプル(PET0.5)はサイクルごとの変化量が安定している。
〇寸法変化
図3にサイクルに伴う寸法変動推移を示した。
塗装無の元の床材はサイクルを経るととともに厚さと幅は減少し、長さは増加する。他の2つ(塗装有、PET0.5)は比較的安定した傾向にあり、特に本発明のPETを積層したサンプル(PET0.5)は各サイクルにおける幅方向の極大、極小の差が少ない。
〇含水率1%当たりの寸法変化
図4に3サイクル終了時の含水率1%当りの寸法変化を示した。
塗装もPET貼付もない元の床材(塗装無)は、吸湿後の幅と長さ方向の変化、乾燥(放湿)後の幅の変化が大きい。塗装したサンプル(塗装有)は吸湿後の幅の変化が大きく、乾燥(放湿)後の幅の変化もやや大きい。
これに対して、PETをラミネートした本発明のサンプル(PET0.5)は、吸湿(放湿)後の厚さ方向の寸法変化は大きいものの、それ以外は変化量は小さく、特に吸湿(放湿)後の幅と長さ、乾燥(放湿)後の幅の変化は前2者に比べて小さい。
〇目隙
表1に3サイクル後の目隙の寸法を示す。本発明のサンプルが最も目隙が小さい。
【0018】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0019】
上記のごとく、本発明の床材は、寸法安定性に優れており、その結果、反り、割れ、木片の剥離等が顕著に防止され、体育館の床材として最適である。